クローズアップ はじめての障害者雇用 〜職場定着のための取組み〜 第1回 職場定着のための基本的支援とその留意点@  障害のある人をはじめて雇用する企業にとって、雇用そのものの実現は大きな一歩です。しかし、障害のある人が「継続して安心して働き続けられる」職場づくりこそが、雇用の真の成功につながることはいうまでもありません。  そこで今号から連載で、はじめて障害のある人を雇用した場合にどのような取組みをすれば職場定着につながるのかについて解説していきます。  第1回は、「職場定着のための基本的支援とその留意点について」の前編です。 はじめに〜職場定着に取り組むときの基本的な考え方〜  障害者の雇用については、2022(令和4)年の障害者雇用促進法の改正において、事業主の責務として雇用の質の向上が明確化されました(※1)。  これには、適当な雇用の場の提供、適正な雇用管理等に加え、職業能力の開発および向上に関する措置が含まれており、障害のある人が活躍し続けることができる職場づくりに向けて、定着支援の重要性がますます高まっているといえます。  そのようななか、事業主のみなさまが適切なサポートを行うために、今回は、業務を教えるときの伝え方やかかわり方について紹介します。 業務習得の支援における基本的な留意点  障害のある人が業務を習得するためには、本人へのわかりやすい説明と本人の理解、計画的なサポートが必要です。  また、特に初期段階では、職場に対する緊張や不安も大きく、無理なくスムーズに業務を覚えてもらうための工夫が欠かせません。以下の点をポイントに対応するとよいでしょう。 ○説明を行う際の注意点  説明をするときは、できるだけ簡潔でわかりやすい言葉を用いるようにし、伝える内容が長くならないように意識します。  重要な点については、くり返し伝えたり、メモや図表で示したりして、本人に理解してもらうようにしましょう。話し方は、感情的になったり高圧的な口調になったりしないよう注意が必要です。  また、説明した内容でも、相手が理解できていない場合には、「前にも言いましたよね」ですませず、ていねいにくり返して説明することが大切です。 ○伝え方の工夫  状況に応じて、段階的に業務内容を分解し、マニュアルや図表を使って一つずつ確認しながら学べる仕組みを整えることが有効です。図や写真などの視覚的な資料を活用することで、理解しやすくなります。作業のイメージが湧くように、いっしょに作業したり、あらかじめ完成品や仕上がりを見せたうえで作業の内容を説明すると、より効果的です。さらに、その作業を終えるとどのような結果が得られるのかをあわせて伝えることで、本人の納得感や意欲の向上につながります。 ○ほめる・注意する際の配慮  ほめるときには、抽象的な言い方ではなく、「〇〇がよくできていた」、「△△のときの行動がすばらしかった」といったように、実際の行動や成果、改善点などを具体的に伝えることが大切です。注意をする際には、ただ指摘するのではなく、「なぜそれがよくないのか」といった理由を説明し、あわせてどのようにすれば改善できるかを明確に伝えるようにします。 ○コミュニケーションに関する配慮  障害の有無にかかわらず、コミュニケーションのスタイルは人それぞれです。「自分の話は積極的にできるが、人の話をうまく聞けない」、「言葉で伝えるのは苦手だが、相手の話はしっかりと理解できる」など、多様な特性があるものです。  そのため、一部の特徴や印象だけで本人のコミュニケーション力全体を判断せず、本人や支援機関からの情報などを参考にしながら、それぞれの特性に配慮したコミュニケーション方法をとることが大切です。例えば、聞くことが苦手な人にはメールで伝えたり、言葉が出にくい人には紙に書いてもらったりするなど、工夫しましょう。 ○定期的なふり返り  定期的な面談などにより、本人の気持ちを聞いたり、作業日誌や健康チェック表の内容などを確認しながら、ふり返りを行うようにしましょう(※2)。進捗は作業日誌やチェックリストで「見える化」し、本人の自己評価にもつなげていきます。また、本人の感想や希望、目標、企業から伝えたことなどを記録しておくことが大事です。 作業手順をわかりやすく説明するためには?  障害のある人が業務を習得するために、作業を行う目的等を説明することや、本人にとってわかりやすい方法で説明をすることはとても大切です。特に、作業手順を説明する場合、図のように、説明する人のかかわる度合いには段階があります。本人の特性をふまえながら、本人が習得しやすい方法で行うことが大事です。 おわりに  職場適応のために実施したさまざまな配慮や工夫について、それらが実際に効果を発揮しているかどうかは、本人が「これなら理解できる」、「自分にもできそうだ」と感じているかどうかという観点から見ていくことも大切です。  また、作業や環境に慣れるまでに時間がかかることもありますので、本人に対してすぐに成果を求めるのではなく、長い目で見てくり返し指導を重ねるようにしましょう。  次回は「職場定着のための基本的支援とその留意点について」の後編をお届けします。 ※1「令和4年障害者雇用促進法の改正等について」は、以下ホームページをご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000077386_00019.html ※2 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q&a/#page=57 参考! 合理的配慮の好事例集  障害のある人と職場でともに働くにあたり、「合理的配慮」の提供は事業主の義務であり、職場定着のためにも欠かせません。例えば、「合理的配慮」の具体例として、車いすユーザーに対し、机の高さを調整することがあげられますが、「合理的配慮」といっても、さまざまな視点や方向性、方法があります。以下は、障害のある人が活き活きと働ける取組みを推進している民間企業などの好事例集です。ぜひ参考にして、自社と雇用した障害のある人の特性にマッチした職場をつくっていきましょう。 「障害者への合理的配慮好事例集」厚生労働省、2024年 https://www.mhlw.go.jp/content/11600000/001234010.pdf 参考! 「障害者雇用事例リファレンスサービス」の活用  障害者雇用について創意工夫を行い積極的に取り組んでいる企業の事例や、合理的配慮の提供に関する事例を紹介しているJEEDのサイトです。業種や障害種別、従業員規模など、知りたい項目を選んで検索することもできます。事例は随時追加されていますので、ぜひご活用ください。 「障害者雇用事例リファレンスサービス」JEED https://www.ref.jeed.go.jp 図 作業手順を説明する場合の段階(説明者のかかわる度合い) 度合いが低い 度合いが高い 〇言語指示 ・直接的言語指示:指示する内容を具体的な言葉で表す ・間接的言語指示:「次は何?」、「さあ次は?」などとうながして、自発的に行動するための間をとる 〇ジェスチャー ・指導者が対象となる物や方向を指差し、行動を想起させる部分的な身振りをするなどの方法でヒントを与える 〇見本の提示 ・指導者が先に見本をみせて、そのあとに作業してもらう ・指導者が本人のとなりで同じ仕事のやり方を見せながら同時に行う 〇手添え ・手添え:直接体に触れて動作を教える(触れられることを嫌がる人もいることに留意する) ・シャドーイング:直接体に触れず動作を教える(触れそうで触れない距離感) 出典:「はじめての障害者雇用〜事業主のためのQ&A〜」JEED、2025年 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003lweg.html