エッセイ 障害のある人の地域生活支援について 最終回 知的障害のある人の「当事者参加」を進めよう 日本社会事業大学社会事業研究所 客員教授 曽根(そね)直樹(なおき) 知的障害のある人の入所施設、障害児の通園施設、レスパイトサービス、障害者グループホームの職員を経験した後、障害者相談支援事業の相談員などを経て厚生労働省障害福祉課虐待防止専門官として5年間勤務。日本社会事業大学専門職大学院教授を経て定年退職後、現職。 障害当事者の参加  障害のある当事者が、公的な会議に参加して発言することはあたり前になりました。特に、障害者関係の会議メンバーに当事者が入っていない場合、おかしいなと感じるようになりましたし、主催者は、障害当事者をメンバーに選ぶようになってきていると思います。  国連で2006(平成18)年に採択された障害者権利条約の起草に関する会議では、政府関係者に加えて障害者団体も同席し発言する機会が設けられました。「“Nothing About Us Without Us”(私たちのことを、私たち抜きに決めないで)」は、障害当事者が主体的に参加してこの条約が起草されたことを表すスローガンでした。障害当事者と一言でいっても、身体障害、知的障害、精神障害などさまざまでニーズも異なることから、会議には多様な障害当事者が参加することが必要です。 当事者参加の実態  障害のある人にかかわりが深い会議として、都道府県・市町村の(自立支援)協議会があります。(自立支援)協議会は、障害者総合支援法に基づいて自治体が開く会議で、障害福祉を進めていくために地域の関係者が集まり、課題を共有し、地域の障害福祉サービスの基盤整備を進め、関係者や関係機関が連携を図るための役割をになっています。まさに、当事者抜きには進めることはできない会議です。  知的障害当事者も委員として参加している「東京都自立支援協議会」では、毎年、都内全区市町村を対象として、(自立支援)協議会の動向について調査し、報告書を取りまとめています。調査項目には、「地域自立支援協議会における当事者の参画状況」として、障害種別に当事者委員の人数を公表しています。2023(令和5)年度の結果は、表の通りでした。  3障害といわれる身体障害、知的障害、精神障害のある人が委員として参加している区市町村の割合は、身体障害85%に対して、精神障害40%、知的障害27%と、知的障害当事者の参加が最も少ない結果でした。  知的障害のある人は知的発達の遅れがあるため、会議内容の理解がむずかしく、話合いの内容を理解できるように伝えるための工夫がむずかしい、参加しても発言できないのではないか、などの理由から、知的障害者の親の会の代表が当事者の立場も兼ねて委員として参加する、という方法がとられてきました。しかし、親が本人のニーズを理解できるとはかぎりませんし、ときには親と本人のニーズが相反することもあります。 厚生労働省の会議への参加  厚生労働省は、2025年5月から、「障害者の地域生活支援も踏まえた障害者支援施設の在り方に係る検討会」を開催していますが、厚生労働省としては初めて、知的障害の当事者委員3名が参加しています。  会議では、次のような発言がありました。「施設では4人一部屋で、布団を敷いたら部屋いっぱい状態で狭かったし、プライバシーがなかった。泣きたいときは布団の中で泣くことにしていた。だから、入所施設の居室は個室であるべきだと思う」、「欲しいものがあったけれども、お小遣いのくり越しは認められなかった。『規則だから』の一言で片づけられてしまったこと、そのことがいまでも悔しく悲しい思い出として残っています」、「これからは町に近いところに施設があったほうが僕はよいと思います」、「職場でも住む場所でも同じ人と過ごすのは自分的には少し嫌だなと感じました」、「自分みたいに地域に出たい、生活したいと思っている人には積極的に体験させてあげたり、地域で暮らせるようにしてあげたほうがよいと僕は思います」  体験を元にした発言の重さを実感します。あらゆる機会を通じて、知的障害当事者の参加をもっともっと進めていきましょう。 表 地域自立支援協議会における当事者の参画状況(回答49/62自治体) 全体会及び専門部会等の当事者委員障害等 身体障害 知的障害 精神障害 難病等対象者 発達障害 高次脳機能障害 合計 合計 130 22 36 7 0 4 199 出典:東京都自立支援協議会「令和6年度版 東京都内の自立支援協議会の動向」