【表紙】 平成30年7月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第491号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2018 8 No.491 職場ルポ 「多能工化」で生産性・やりがいが大幅アップ 株式会社サン・シング東海(岐阜県) グラビア 仕事が生きがいで、毎日が楽しい 株式会社タナベ刺繍(香川県) 編集委員が行く A型せとうちサミットin倉敷 NPO法人 就労継続支援A型事業所全国協議会(東京都)、NPO法人 ホープ就労・生活支援センター(岡山県)、NPO法人 広島自立支援センターともに(広島県) 私のひとこと 精神障害者の職場定着のためには、キャリア形成支援と柔軟な職場環境を 精神保健福祉ジャーナリスト 里中高志さん 「虫博士になりたい」鹿児島県・久保(くぼ) 希(のぞむ)さん 誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています 8月号 【前頁】 心のアート 四季2 YT 特定非営利活動法人ドアドアらうんど・青森 画材:色鉛筆、水性カラーペン、紙/サイズ:ポストカード YT  1975(昭和50)年生まれ。青森市在住。20代のころ、統合失調症と診断される。  2006(平成18)年、アート工房「ほ・だあちゃ」との出会いにより、絵画の世界に飛び込んだ。  彼は歴史ゲームが大好きで、いつも嬉しそうに話してくれる。  作品は、ゲーム画面のような構図に、子どものころの体験があふれ出るような風景が、モチーフや季節を少しずつ変えて、連続して描かれる世界だ。  そこには必ず、彼の分身であるユーモラスなカエルが、のんびりと横たわり姿を現す。  これらのポストカードに描くシリーズの作品数は、いまや100枚をゆうに超えた。彼の集中力には、いつも驚かされている。  彼は、仕事と生活、そしてその生活の一部である「絵を描くこと」を楽しみながら、しっかりと意思を持って暮らしている。 文:特定非営利活動法人ドアドアらうんど・青森 佐藤智子 【もくじ】 障害者と雇用 2018 8月号 No.491 心のアート−−前頁 四季2 作者:YT(特定非営利活動法人ドアドアらうんど・青森) 私のひとこと−−2 精神障害者の職場定着のためには、キャリア形成支援と柔軟な職場環境を 精神保健福祉ジャーナリスト 里中高志さん 職場ルポ−−4 「多能工化」で生産性・やりがいが大幅アップ 株式会社サン・シング東海(岐阜県)文:豊浦美紀/写真:小山博孝・官野貴 NOTE−−10 精神障害者の体調管理と習慣づくり Vol.1 医療機関から 〜ご本人へのアドバイス〜 インフォメーション−−12 「合理的配慮の提供」に関する事例「障害者雇用事例リファレンスサービス」 中小企業での先駆的な取組みがわかる事例集「障害者雇用があまり進んでいない業種における雇用事例」 平成30年度 就業支援課題別セミナー「精神障害者の職場定着に向けた支援」のご案内 グラビア−−15 仕事が生きがいで、毎日が楽しい 株式会社タナベ刺繍(香川県) 写真:小山博孝・官野貴/文:小山博孝 コミックエッセイ−−19 発達障害があっても大丈夫? うちの子はたらく体験記 第2回 「初めてのアルバイト!」 漫画家 かなしろにゃんこ。 編集委員が行く−−20 A型せとうちサミットin倉敷 NPO法人 就労継続支援A型事業所全国協議会(東京都)、NPO法人 ホープ就労・生活支援センター (岡山県)、NPO法人 広島自立支援センターともに(広島県) 編集委員 阪本文雄 霞が関だより−−26 「地方公共団体による農福連携の支援体制の構築に関する研究」の紹介 農林水産政策研究所 小柴 有理江 研究開発レポート−−28 職業リハビリテーション場面における自己理解を促進するための支援に関する研究 障害者職業総合センター障害者支援部門 ニュースファイル−−30 掲示板−−32 読者の声/次号予告 表紙の説明 「とにかく虫が大好きで、いつも虫に囲まれて生活し、虫のことをいろいろ調べたいなあと思っています。大きくなって、いろいろな虫を探している自分を想像して描きました。カブトムシやクワガタが本物そっくりに描けて、よかったです」 (平成29年度障害者雇用支援月間ポスター原画募集 小学校の部高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。(http://www.jeed.or.jp) 【P2-3】 私のひとこと 精神障害者の職場定着のためには、キャリア形成支援と柔軟な職場環境を 精神保健福祉ジャーナリスト 里中高志 大きく変化する障害者雇用の世界  2018(平成30)年4月、民間企業における障害者の法定雇用率が2・2%に引き上げられた。2013年に1・8%から2・0%に引き上げられて以来の改定であり、さらに2021年までには2・3%にアップすることも決定している。この流れを受けて、企業は新たに障害者を雇用し、一緒に働いていくための対応を迫られている。  私が『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)という本を刊行して、精神障害者を雇用している企業の取組みを紹介したのは2014年のことだが、それから4年の間にも、精神障害者の雇用をめぐる状況は大きく進化しているのを感じる。特に、就労移行支援事業所や、障害者向けの人材紹介サービスには新たな業者が次々と参入し、格段に選択肢が増えた。いまではリクルートなどの大手企業も障害者向け人材紹介サービスを手がけている。  就労移行支援に関しては、私が地域活動支援センターで勤務していた2010年ころは、まだ従来の「作業所」のイメージを引きずっていた。駅から離れた建物で、「作業」と呼ばれる仕事を通じて、働くための基礎体力をつけるという感じであった。  ところが、最近取材で訪れた就労移行支援事業所は、駅前にお洒落なオフィスのような事業所を構え、一人一台のパソコンを使い、さまざまなビジネススキルを教えている。そのプログラムの様子は、最先端のビジネスセミナーを見ているようだ。このような就労移行支援事業所には、さまざまな会社からの求人票が届く。プログラムで履歴書の書き方や面接の練習を受けた利用者は、スタッフのアドバイスのもと応募し、会社との面接に臨む。なかには専門的な技能を要する、かなり高給の求人もある。 新たな職場環境としての障害者雇用  企業の側に目を転じると、いまはどこでも精神障害者の雇用に取り組まなくてはならない土壌が形成されつつある。従来、多く雇用されていた車椅子などの身体障害者は、みなよい条件で雇用され、「新たに探すのは困難になっている」と、企業の人事担当者は声をそろえる。そして、障害者の法定雇用率を満たしていない企業は企業名を公表される場合や、公共事業に入札できなくなることもある。また、障害者が地域の一員としてともに生活できる「共生社会」実現の理念のもと、法定雇用率を満たすことは、企業の課題になっている。そのため、いま大いに注目されているのが「精神障害者の雇用」というわけだ。  従来は精神障害者に偏見を持つ人事担当者も多く、また、実際に体調が安定せず、離職率がほかの障害より高いため、精神障害者の雇用は敬遠される傾向にあった。だが、この4、5年で精神障害者に対する理解は企業の間でもかなり進み、特性を理解したうえで積極的に雇用しようという流れができている。  人事担当者に話を聞くと、採用の際に重視するのは、本人が自分の障害や特性をきちんと把握し、さらにそれを他人に伝えることができるかどうかだという。「バリバリ働けます」といって、実際に働くと体調を崩してしまう人より、「自分はこういうことが苦手なので配慮してください」と最初から伝えてくれる人のほうが、安心して雇用できるという。  いま、企業に雇用されている精神障害者を取材すると、一見どこに障害があるかわからない人がほとんどである。少ししゃべり方がたどたどしい場合はあるが、そういった人は従来どこの会社にもいただろう。パソコンのスキルも、私よりよほど長(た)けていると感じることが多い。  もちろん、短い時間話しただけではわからない障害特性が、それぞれあるのだろう。これまでの人生について聞いてみると、一般枠で就職していたときに、さまざまな不適応を起こしていた人も多いことがわかる。こういった人は、障害があることを前提に、一度に複数の仕事を並行させない、原則として残業はさせないなど一定の配慮をすることで、それぞれのパフォーマンスを発揮してくれるのだ。  最近、注目されている発達障害者に関しても、従来一つのことに打ちこむ職人の世界などでは、高い職人技を発揮していたのではないだろうか。しかし、経済のグローバル化やIT化にともない、労働環境において、あらゆる人がマルチタスクをこなす“オールマイティーな人間”であることを課せられるようになっている。とはいえ、すべての人が高度なコミュニケーションスキルを会得(えとく)できるわけではない。そのようななか、障害者雇用というフィールドは、一定の配慮をすればきちんと就労できる人のための、新たな職場環境として定着しつつある。 息抜きできるオフィスを  企業側の精神障害者を迎えるスタンスも、だいぶ温かくなってきた。とはいえ、「できれば採用したくない。法定雇用率の数字を達成するために仕方なく雇っている」という企業も少なからずあるのではないか。こういった企業にとっては、数字合わせだけが目的なので、一人離職すればまた一人、新たに雇用すればいいのかもしれない。だが、そのようなおざなりな雇用は、企業と障害者双方に対して、よい結果を生まないだろう。  これから雇用した精神障害者を職場に定着させていくには、長期間のキャリア形成を考えていくことが大事だ。障害者雇用の場合、切り出された一部分の仕事だけを課され、障害のある従業員は会社全体どころか、部署内の仕事の動きすら把握できていないケースがある。「働くとはどういうことか」を模索できるよう、ときには仕事のステージを上げたり、別の部署への転属も視野に入れた人事配置を考えていく必要があるだろう。  また、長く仕事を続けていくうえでは、多少の息抜きも不可欠である。疲れたらオフィスの外の空気を吸いにいったり、机にお気に入りの私物を置く程度の自由を、できれば認めてほしいと私は考える。健常者は一人一つの大きな机を構えているのに、障害者は長机に並んでひしめいているようなオフィスは、あまり好ましくない。また、ときには社外に出る業務があってもいい。出張の機会などもあれば、なおよいと思うのだが、むずかしいだろうか。  もはや、「障害者は働かなくてもいい」という時代は過去のものとなった。それは障害者にとっても、ある意味たいへんなことかもしれない。だが、一般枠での就労はむずかしくても、障害者雇用というフィールドであれば働ける人は、ぜひ持っている能力を活かしてほしいと考える。いまや新しい時代が来ているのだから。 里中高志 (さとなか たかし)  1977(昭和52)年埼玉県生まれ。早稲田大学第一文学部卒。大正大学大学院宗教学専攻修了。精神保健福祉士。フリージャーナリスト・精神保健福祉ジャーナリストとして「サイゾー」、「新潮45」などで執筆。メンタルヘルスと宗教を得意分野とする。著書に『精神障害者枠で働く』(中央法規出版)がある。 【P4-9】 職場ルポ 「多能工化」で生産性・やりがいが大幅アップ ―株式会社サン・シング東海(岐阜県)― (文)豊浦美紀 (写真)小山博孝・官野 貴 取材先データ 株式会社サン・シング東海 〒501-0514 岐阜県揖斐(いび)郡大野町西方732-1 TEL 0585-32-4166 FAX 0585-32-4167 Keyword:第三セクター、特例子会社、製造ライン、多能工、ジョブコーチ、障害者職業生活相談員、定着支援 ※本誌では通常「障害」と表記しますが、株式会社サン・シング東海様の要望により「障がい」としています POINT @障がいのある全従業員が2〜4種類の業務を習得する「多能工化」で活性化 Aジョブコーチ・職業生活相談員が一人ひとり細やかにサポート B「社員旅行」や「ES向上委員会」で従業員満足度もアップ 第三セクターの特例子会社  1993(平成5)年に設立された「株式会社サン・シング東海」は、寝具を中心にした病院・介護用品のリース事業などを展開する「株式会社トーカイ(本社・岐阜市)」と、岐阜県と同県の大野町による第三セクター(※)方式の特例子会社だ。資本金1億円の割合は、県44%、大野町5%、株式会社トーカイ51%で、現在はトーカイの連結子会社となっている。  サン・シング東海の業務内容は、主にリース用寝具の製造加工・洗濯・リフォーム。扱う布団は年間27万枚超。北海道から九州まで、病院・警察・ホテル・合宿所などに幅広く提供している。 全従業員52人のうち障がい者は28人で、  内訳は身体障がい2人、知的障がい23人、身体・知的の重複障がい2人、精神障がい1人となっている。年齢も18歳から定年後再雇用の62歳までと幅広く、平均年齢は36・4歳だ。  設立当時から障がい者の就労支援をになってきた、前常務取締役の今井正聰(まさとし)さんは、「当社の自慢は『勤続年数の長さ』と『生産性の高さ』だ」と胸を張る。  「障がいのある従業員の平均勤続年数が16・9年で、全国平均(平成25年度障害者雇用実態調査結果報告書:身体10年、知的7・9年、精神4・3年)よりも大幅に長いのです。また、社内独自の改善活動によって、生産性が5年間で35%もアップし、営業利益は黒字を維持し続けています」 障がいのある従業員の「多能工化」を目ざす  サン・シング東海の布団製造ラインは、@回収した布団から中綿を取り出す解体、A中綿を細かくほぐして洗浄し新たに成型、B中綿を布団側地(がわじ)に詰め込む、C工業用ミシンで袋とじをする、D綿がずれないよう数カ所に糸を打ち込む(和綴じ)、E布団についた糸くずなどを除去、F異物などが混入していないか検査・確認、Gきれいに積み重ねて運び出す、という一連の作業を行っている。さらに布団の洗濯・乾燥や羽毛布団のリフォーム、枕製造などを合わせると、全部で10種類以上の業務がある。  もともとは、このうち2種類(工業用ミシンの作業と羽毛布団のリフォーム)を除く業務を障がいのある従業員らが、一般従業員とともに一人1業務ずつ担当していた。  こうしたなか、工場内の生産性が大きく向上した理由の一つが、障がいのある従業員の「多能工化」だったという。  きっかけは、約10年前。本社から出向してきた製造課長(工場長)の嵯峨崎(さがさき)泰輔(たいすけ)さんは、職場の雰囲気が気になっていた。だれもがそれぞれの作業を黙々とこなしているが、何となく活気が感じられない。一方で、だれかが病気などで休んでしまうとラインに穴が空き、すぐに生産が追いつかなくなってしまう。不安定な業績は、営業利益の赤字へとつながっていった。  ちょうどそのころ、親会社のトーカイが全社的な「改善活動」を推進していた。  「この工場でも何か活性化できることはないか」と、一般従業員だけでなく障がいのある従業員からも意見を聞いたところ、「ずっと同じラインの仕事をしていると面白くない」という声があった。  「それでは、業務内容を固定させず、ほかの業務にもチャレンジしてもらったらどうだろうか」  そして一人ひとりの「できること」、「やってみたいこと」などを考慮しながら、まずは一緒に働いている一般従業員に手本を見せてもらい、研修期間をつくって業務内容の習得を図っていった。機械の操作が少し複雑だと思われるときは、大きな紙に手順を書いて貼ったり、ラミネート加工した手順書をぶらさげたりして毎回確認できるよう工夫した。すると1週間から数カ月かけ、障がいのある従業員それぞれが、2種類から4種類の業務を習得していったという。こうしたチャレンジを機に、職場全体が一気に変わったと嵯峨崎さんは振り返る。  「新たな業務を習得できたことで自信がつき、ほかの仲間に『業務を教える立場』にもなって、仕事に対する新たな意欲が出てきたようでした。職場内で互いに切磋琢磨する雰囲気が生まれたのも予想外の効果でした。その後は、最重度の知的障がいのある従業員が生産ラインに入るようになったり、一般従業員の仕事の代わりができる従業員も出てきました。一人ひとりが予想以上にスキルアップしてくれたのです。私自身、それまで『この人は、この作業だけしっかりやってくれたら十分』と思い込んでいたことを大いに反省させられました」  その後は、だれかが急に休んでも、柔軟に配置換えができるようになり、ラインが滞ることはなくなった。その結果、営業利益の黒字化へとつながったのである。 にぎやかでアットホームな工場内  柿の木畑に囲まれた、のどかな場所に建つサン・シング東海の工場。1階の作業フロアに足をふみ入れると、一転してにぎやかな雰囲気になる。「ガチャン、ガチャン」と音をたてて稼働する大型機械や、せわしなく働く従業員の人たちだ。なかには、取材陣と目が合うと軽く会釈をする人や、「こんにちは」と自ら大きな声で挨拶する人もいた。  布団の中綿を取り出す作業をしていた宮崎佳美(よしみ)さん(43歳)は、設立当初から働く勤続25年になる大ベテラン。専用のヘラを使って生地を切り、取り出した中綿を三つ折りにして台車にきれいに積み上げていく。取材に答えながらも手を休めないほどの熱心な作業ぶりだ。一般従業員の作業量が1日約150枚なのに対し、宮崎さんは約270枚もこなすという。この会社で楽しいことを聞いてみると「そうですね。社員旅行が楽しいですね」と答えてくれた。  古い中綿は大型機械のなかで打ち直されて新しい中綿として成型され、コンベア上に出てくる。そのまま流れ作業のように中綿を布団側地に入れ込む作業は2人のチームワークが重要だ。その1人の野原(のはら)和俊(かずとし)さん(40歳)は、取材に笑顔で答えてくれた。  「仕事は慣れるまでむずかしかったけれども、毎日みんなと話をして、一緒に働けることが楽しいです」  すぐ脇で、布団側地内の中綿を固定する和綴じ作業を1人で行っていた服部(はっとり)美紀(みき)さん(45歳)は、機械の動きを見すえながら手際よく布団を移動させていた。ほかにも枕製造や布団の形を整える2業務ができるという。  和綴じ後の布団をコンベア式の大きな機械に通して、ごみや塵(ちり)などをきれいに取り除いていた安居(やすい)孝治(こうじ)さん(43歳)は、重度の知的障がいがあるが、しっかりと生産ラインを任されている。いつもニコニコと笑顔を絶やさず、職場のムードメーカー的な存在だそうだ。  こうしたベテランの先輩方に混ざって若い従業員も何人かいた。その1人、若原(わかはら)里奈(りな)さん(20歳)は地元の特別支援学校にいたときに、ここで実習を経験。工業用ミシンに触れて「いつか習得したい」という強い希望を持って入社してきたのだという。すでに2種類の業務を習得済みだが、家庭用ミシンよりもスピードが速い工業用ミシンは、障がいのある従業員の習得者がまだいない。その第1号となるべく、目下練習に励んでいる。  工場内をひと通り見て回ったが、その先々で今井さんたちと従業員が、冗談を交えながら話すアットホームな様子も印象的だった。 社員旅行と研修旅行  工場内の雰囲気が明るくなったのは、「多能工化」のほかにも、2000年から毎年行っている「社員旅行」が大きな役割を果たしているようだ。  改善活動の一環で社内での要望をアンケート調査したときに、いちばん多かったのが「みんなで旅行」だった。そこで今井さんは決断したという。  「正直、ハードルは高いと感じていましたが、一般従業員のみなさんも『協力するから一度行ってみよう』といってくれたので、思い切って日帰りのバス旅行からチャレンジすることにしたのです」  初めての旅行先は県内の飛騨高山。当日は迷子になったり、お金を払わず飲食しそうになったりした人もいて、たいへんだったのは事実だ。しかしそれ以上に、従業員同士の絆のようなものが確実に強くなったと実感した。  「職場では旅行の約3カ月前からと、そして帰って来てからもずっと、その話題で盛り上がっていました。普段は見せないような従業員の素顔や、いろんな場面での会話が、職場での連帯感を深めてくれたようでした。もちろん、従業員たちの仕事への意欲も高まっていくのがわかりました」  それから毎年、社員旅行は欠かしていない。2002年には初めて1泊2日で大阪府にあるユニバーサル・スタジオ・ジャパンに行き、それから数年に1度は宿泊旅行となった。飛行機で行った長崎県のハウステンボスや、新幹線で行った横浜中華街めぐり、三重県にある伊勢神宮に足を延ばした年などもある。  4年前からは「ほかの会社の障がい者の働き方も見てみたい」という要望に応え、研修旅行を企画。トヨタや中部電力、JR東海の関連会社や同業者である丸八真綿も快く見学を受け入れてくれた。今井さんは、今後も研修旅行を続けたいと話す。  「私たち障がい者雇用を進める立場にとって、先を行く企業の取組みはたいへん勉強になります。そして、一緒に見学した障がいのある従業員にとっても『僕たちと同じ障がいを持った人たちが、こんなにがんばっている』という励みになり、さらなる向上心のきっかけにもなっているようです」 ジョブコーチ・職業生活相談員による定着支援  2016年には係長の中林(なかばやし)里絵子(りえこ)さんが社内初のジョブコーチになり、従業員への定着支援も一層細やかになった。  中林さんは11年前に事務担当として入社。それまで接したことのなかった知的障がいのある従業員と話し「まっすぐな性格や屈託のなさが好きになった」という。母親のような気持ちで見守りながら仕事のサポートをする機会も増えていったが、一方で悩みもあった。  「基本的には単なる同僚ですから、本人のプライベートなことや障がいの内容についてどこまで聞いてもいいのかわかりませんでした。ちょっと元気がなさそうだと思っても、どう声掛けすればいいか迷ったり、仕事のことでどこまでふみ込んで指導すべきか戸惑っていました」  そのようななか、社長のすすめで臨んだジョブコーチ養成研修。障がいのある従業員をサポートしていくための専門的な知識や心構えなどを学んでいくうちに、中林さんは従業員との接し方が大きく変わったという。  「まず、会話のなかでの過剰な遠慮がなくなりました。以前は躊躇(ちゅうちょ)していた趣味や休日の過ごし方などを少し聞くことで、積極的に話してくれるようになりました。『本当は話したいことがたくさんあったのだなあ』とわかり、私もうれしくなりました。調子の悪そうなときに話しかけると、ためこんでいた愚痴をこぼし、本人が元気になることもあります」  一方、仕事内容についてはしっかり指導することの大切さも知った。これまでは何かミスがあっても「ここはこうしてくださいね」と注意するだけだったが、「これはどうしてダメだったか考えてください。ほかのみなさんはどうしていましたか?」などと、ふみ込んで改善をうながすようになった。  「こちらが真剣に向き合って伝えると、しっかり応えてくれます。その積重ねによって、互いに信頼する気持ちも強くなっているように思います」  中林さんは、従業員が職場でがんばっている様子を、折に触れて親御さんに伝えている。「〇〇さんは今日こんなことをしてくれました」などと書いて渡した小さなメモを「すべて大事にとってあります」といってくれた親御さんもいるという。  ジョブコーチによる支援効果を実感し、昨年は製造課長の嵯峨崎さんも養成研修を受けて2人目のジョブコーチになった。さらに12人が障害者職業生活相談員の資格を取得。障がいのある従業員の状況に応じて、個別面談なども担当している。  いまも、毎日10分ほどの個別面談を行っている男性従業員がいる。手先が器用で仕事ぶりも真面目。しかし入社して間もなくすると無断欠勤が増え、たまにパニックを起こすこともあった。「何とか長く働いてもらいたい」と悩んだ今井さんたちが、障害者就業・生活支援センターなどに相談していくうちに、本人が情緒不安定になるのは、家庭内での兄弟不和が原因になっているとわかった。そこで「少しでも気持ちよく帰宅できるように」と毎日、個別に話をすることにした。最初は家のことや自分のことなどでたまっていた思いをぶつけることもあったが、話をしながら気持ちが落ち着くようになり、パニックや無断欠勤が急激に減っていったという。担当する嵯峨崎さんは「油断は禁物ですが、当時から比べると情緒がとても安定していると感じます。面談で話す内容も、いまは相撲のことなど趣味や雑談が多いですね」と語る。 ES向上委員会の立ち上げと、5色カード  社内の改善活動を経て、サン・シング東海では2009年に「ES(※)向上委員会」も立ち上げた。もちろん障がいのある従業員もメンバーに入っている。  その活動の一つが「5色カード」。2階の社員食堂に設置された掲示板に、メッセージなどが書かれたB5サイズの紙がいくつも貼られている。5色に分けられた内容はそれぞれ@面と向かっていえない感謝の気持ちを伝える「ありがとうカード(ピンク色)」、A仕事上の危険な作業や環境を報告して改善をうながす「危険予知カード(黄色)」、B業務やプライベート問わず困ったことについての「相談カード(緑色)」、C業務の進め方や職場環境などを向上させるための「改善提案カード(青色)」、D気になっていることで聞いてみたい・いってみたいことを伝える「レッドカード(赤色)」となっている。  始めた当初はいろんな色のカードが並んでいたが、最近は「ありがとうカード」がほとんどだという。この日のコーナーの真ん中には、きれいな字で「シルバーさんへ」と書かれた紙が何枚も重ねて貼ってあった。中林さんが説明してくれた。  「これは若い男性従業員が一緒に外回りをしているシルバー人材センターの人たちに宛てた“ありがとうカード”です。文章は私と一緒に考えました。いつも外出するときに『水筒、忘れないで持ってくるんだよ』、『今日は寒いからジャンパー着ておいで』などと声をかけられ、孫のようにかわいがってもらっています」  「5色カード」コーナーの隣には、大きな壁新聞が何枚もあった。切り抜き写真や色紙を使ったにぎやかな紙面は、一般従業員と障がいのある従業員が混合でチームをつくり「私たちの会社」をテーマに仕上げたもの。昨年末のお楽しみ会で披露しあい盛り上がったそうだ。  このほかにも、親会社主催のスポーツ大会への参加や「カレーの日」など、イベントも積極的に企画している。あるときは従業員の親から「自分たちが倒れたときに110番通報できるようになってほしい」という声を聞き、地元消防署の協力を得て研修会も開いた。通報訓練のほか心肺蘇生術やAED使用実習なども行い、好評だったという。 発信していける会社に  サン・シング東海は現在、ハローワークを通じてのみ採用を行っている。最近は障がい者向け合同面接会でも長蛇の列ができるほど人気だ。なるべく公正に採用判断するため、20項目のチェックシートを独自につくった。  「特別支援学校の先生たちと相談して作成しましたが、それほど特別な内容ではありません。一人で通勤できるか、1日8時間勤務する体力があるか、数字を20まで数えることができるか、紐をちょうちょう結びできるかといったものです。20項目のうちおおむね13項目クリアすることが必要です」  「一人で通勤する」ことについては徒歩・自転車・自動車・公共交通機関を問わないが、保護者に送迎してもらわないことが条件だ。そのかわり、最寄りの2駅を経由する専用マイクロバスを朝夕に運行している。  採用から定着支援、生産性向上までさまざまな努力と工夫を重ねてきた結果、トーカイグループ全体(従業員数約9800人)での障害者雇用率は2・43%となっている(2018年4月1日時点)。今春は、トーカイ羽島本部の工場内に事業所を設立し、親会社からの新たな業務受託も計画中だ。今井さんも期待をかけている。  「昨年まで当社に出向していた社員がそこに異動し、ここでつちかったさまざまなノウハウを活かしながら準備をしているところです。新事業所を拠点にした、新たな障がい者雇用を進めていく予定です」  最後に、今後の課題や抱負について今井さんに聞いてみた。  「近年は、精神障がい者の方々を採用する機会も出てきていますが、これまでとは違う定着支援が必要だと痛感しています。さまざまな障がい種別の方が一緒に働いていくための職場環境のあり方を考えていかなければいけません。今後の抱負は、これまで積み重ねてきたものを少しでも社会に還元できるよう、積極的に発信していくことです。昨年は36団体の見学を受け入れ、特別支援学校の新任教師のみなさんも研修にいらっしゃいました。また、当社のホームページを開設し、私たちの活動や従業員の奮闘ぶりを紹介しています。ぜひ、多くの人に見ていただけたらと思っています」 ※第三セクター:国や地方公共団体と民間の共同出資による事業体 ※ES:Employee Satisfaction、従業員満足度 パワーポイントを使って説明する今井正聰さん 製造課長の嵯峨崎泰輔さん 勤続25年のベテラン社員、宮崎佳美さん。専用ヘラで布団の解体作業を進める ジョブコーチの中林里絵子さん(右)と話す野原和俊さん(左) 布団集塵機に布団を通す安居孝治さん 和綴じミシンを操作して布団を仕上げる服部美紀さん ジョブコーチで係長の中林里絵子さん 枕づくりをする、聴覚障がいのある北村順一さん(左) 「ありがとうカード」 ES向上委員会の活動を紹介した「ES新聞」 【P10-11】 NOTE 精神障害者の体調管理と習慣づくりVol.1 医療機関から 〜ご本人へのアドバイス〜 近年、働く障害者のなかで精神障害者の比率が増えています。精神障害のある人が就労し、仕事を続けるために、体調管理や生活習慣としてどのようなことに気をつければよいのか、就労支援にかかわる医療機関にお話をうかがいました。 第1回は障害のあるご本人に向けたアドバイスをご紹介します。 取材協力:社会福祉法人 桜ヶ丘社会事業協会 桜ヶ丘記念病院 体調管理の重要性  精神障害のある人が、働くうえで課題と感じていることに、「体調や気分に波があり、勤務が不安定になる」という点があります。疲労やストレスが溜(た)まると、体調不良として現れることがあるためです。自身の仕事の能力に問題はなくても、不調から休みがちになり、長期欠勤が続き、退職に至ってしまう、というケースもあります。そうならないよう、自身の疲労やストレスの原因を把握し、管理しておくことが大切です。早期に適切なケアをするためにも、自身の体調管理と、それを含めた習慣づくりを、日ごろから意識できるといいでしょう。  そのためにも、「キャリアプロフィール」(図表1)や「私らしさを保つために」(図表2)などを使って、自己理解を深めていきましょう。自分の障害特性や病状、ストレスのサインを理解し、日ごろから職場の上司や支援者と情報共有できていると、周囲の人も早めにサインに気づくことができ、配慮してもらえるなど、働きやすい職場環境づくりに役立てることができます。  こうした状況を共有することで、「気になることを書きとめておく」、「人に話して伝える」といった習慣づくりにも役立てることができます。 ストレスのサインを把握  自分がどのようなことにストレスを感じるのか、原因を考えてみましょう。例えば、精神障害のある人は、安定しているときは仕事もスムーズに問題なくこなせますが、疲労やストレスが溜まると「緊張してイライラする」、「混乱して集中できない」といった状態に陥ることがあります。このような不調を引き起こす前には「ストレス・サイン(黄色信号)」が出ることがあります。このサインは人それぞれですが、「部屋が汚くなる」、「お酒の量が増える」、「外出が億劫(おっくう)になる」、「視線が下がる」、「悩みごとをずっと考えてしまう」、「メールの返信をしなくなる」などといったことが見られるときがありますので、自分のサインを把握しておくことが重要です。このほかにも、作業手順や、仕事にとりかかる前の決まった作業(ルーティン)など、自分なりの習慣を気にしてみるのもよいでしょう。体調によって「同じ作業を行っているが負担に感じる」、「やり忘れる」、「手順を間違える」など、いつもと何かが違うと感じる場合、自身の変化に気づくための、ひとつの「目安」にすることができます。  このようなことを参考に、いままでの経験を振り返り、家族や医師、支援者などのアドバイスを聞いて、自分のサインを知りましょう。もしサインが見られたら、ストレスが溜まっている可能性を考え、原因や対応について早めに医師や職場に相談しましょう。 通院と服薬について  体調管理のうえで、通院・服薬はとても大切です。通院の間隔は人それぞれですが、「仕事内容が変わった」、「部署を異動した」など、職場環境が変わったときや、新しいことにチャレンジするようなときは、こまめに通院するとよいでしょう。その際は、職場の些細なことでもよいので、医師に伝えるようにしましょう。医師は、職場での患者の様子を見る機会がありません。「どのように仕事をしているのか」、「どんな気分か」、「何が気になっているのか」などが細かくわかると、支援の指針に役立ちます。  また、就業中に、薬の副作用によって「頭がボーっとする」という人がいます。自己判断で薬の量を減らしたり、中断する人がいますが、病気の再発につながる恐れがあるので絶対にやめましょう。その場合、そうした症状を我慢するのではなく、遠慮せずに医師に相談し、眠気やだるさが出にくい薬に変えてもらう方法もあります。また、薬のせいではなく、精神症状として頭がボーっとしたり、意欲が出なかったり、動作が鈍くなったりする場合もあります。体調や仕事中の気分で困っていることがあれば、自分で判断せずに、きちんと医師に相談するようにしましょう。 上手くできないことは、挫折じゃない  精神障害のある人は日常生活や仕事において、自分の頭のなかで「私には無理なのではないか」と最初から結論を出してしまうことがあります。それによって「状態がよくなるチャンス」を失うこともあります。現実は本人が思っているほど、怖いことはありません。もしも仕事で失敗したとしても、取り返しのつかないような失敗というのは現実には少ないものです。それよりも、失敗を含めた「働く経験」からはたくさんの学びや今後のためのヒントが得られます。職場で少しずつ工夫ができるようになるきっかけもそこから探すことができます。  当院では患者さんの意志を尊重し、長所や強みを活かすIPS(※)モデルによる就労支援を行っていますが、IPSでは「働きたい」という本人のモチベーションの高まる時期を逃さずに、就労に向かって一緒に動き、就労後も実際に働く職場の状況に合わせて支援を行っています。本人の自主性を重視し、働くことを通じて社会性を獲得することは、患者さんのよい状態につながるケースが多いと感じています。医療機関がかかわりながら就労することで、高い就職率・定着率につなげていきたいと考えています。 (社福)桜ヶ丘社会事業協会 桜ヶ丘記念病院 リハビリ部長 精神科医長 産業医 加藤健徳(たけのり)先生 ※ IPS(Individual Placement and Support):精神障害のある人の科学的根拠に基づく援助付き雇用モデル。本人の興味、関心などのストレングスに着目し、多職種チームアプローチなどを特徴としている 図表1 【キャリアプロフィール】 自己理解を深め、面談などで職場にうまく伝えられるよう、以下の項目について自分で書き出してみることを、おすすめしています。 ●仕事に対する希望  仕事に対してどんな希望がありますか? ●働きたい動機  なぜ働きたいと思いますか? ●仕事でのプラスの体験  仕事でよくできたことはありますか? ●薬による副作用  薬の副作用はどんなことがありますか? ●身体の健康  身体は健康だと思いますか? ●能力・適性  ほかの人はあなたが得意なことは何だといいますか? ●興味  何が得意でしたか?どのようなことをするのが好きですか? (桜ヶ丘記念病院「キャリアプロフィール」より抜粋) 図表2 【私らしさを保つために】 以下の項目について書き出しておきましょう。サイン(信号)については、周囲の人と共有しておくことで、早めに気づいてもらうことにも役立ちます。 私の夢・大切にしていること 私のサポーター 私の元気が出る「道具箱」 (例:好きな音楽を聴く、おいしいものを食べる、など) ストレスとなりうるもの ストレスとなりうるものへの対処法 私の青信号 私の黄色信号 私の赤信号 青信号のめやす (例:スムーズに作業をこなせている、など) 黄色信号のめやす (例:落ち着きがなくなる、整理整頓ができなくなる、など) 対処法 赤信号のめやす (例:遅刻や欠勤をする、など) 対処法 (桜ヶ丘記念病院の資料より) 医療機関から 「体調管理と習慣づくり」のためのアドバイス 1.自分の病状などを職場にうまく伝えられるよう、キャリアプロフィールなどを活用し自己理解を深める 2.体調の波やストレスのサインを認識し、原因と対処法を把握する 3.体調に変化が出た場合、自己判断せず、些細(ささい)なことでも医療機関に相談する 【P12-14】 インフォメーション ホームページで紹介しています! 「合理的配慮の提供」に関する事例 「障害者雇用事例リファレンスサービス」 http://www.ref.jeed.or.jp/  2016年4月から、事業主に、障害者が職場で働くにあたっての支障を改善するための措置を講ずること(合理的配慮の提供)が義務づけられています。  しかし、「どのような配慮をすればいいのかわからない」という企業の方や、「企業から相談されたが、どのように助言すればよいか迷う」という支援者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。  「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、障害者の雇用に取り組んでいる企業の取組みを紹介し、「合理的配慮の提供」に関する事例(合理的配慮事例)についても掲載しています。  今後、企業や支援機関のみなさまに役立つ事例を追加掲載していきますので、ぜひご利用ください。 合理的配慮事例を検索する場合は、こちらのチェック欄を選択してください。 業種や従業員規模、障害種類などの条件を設定して事例を検索することができます。 参考:難病患者の事務職における合理的配慮事例 みなさまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、ホームページからアンケートへのご協力をお願いします。 ホームページで紹介しています! 中小企業での先駆的な取組みがわかる事例集 「障害者雇用があまり進んでいない業種における雇用事例」 http://www.jeed.or.jp/disability/data/handbook/amarisusunndeinai.html  障害者雇用があまり進んでいない業種に着目し、300人未満規模の中小企業において障害者雇用に取り組んでいる15事例を掲載。  また、事例をふまえた、有識者による分析やコラムを加えています。  機構ホームページに掲載していますので、ぜひご覧ください。 掲載内容の一部をご紹介します 事例2.神町(じんまち)電子株式会社 【山形県東根市】  職場定着のために、社内で使えるツールを作成しています。仕事を覚える際に写真や図解を多用したAさん専用のマニュアル、目標個数を明確にできる早見表、安定した勤務を目ざすための体調管理表を用いた生活リズムの確認といった取組みを行っています。 事例5.有限会社奥進システム 【大阪府大阪市】  障害者の担当職務を選定する際は、障害特性にこだわらず、その方にできそうなものがあれば試行するという方針で進めています。障害者の働きやすさを考慮し、職場のバリアフリー化、体調や通院のことを考えた在宅勤務への対応などの体制づくりを行っています。 〈上記の雇用事例集と「障害者雇用事例リファレンスサービス」に関するお問合せ〉 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用開発推進部 雇用開発課 TEL:043-297-9513 FAX:043-297-9547  平成30年度 就業支援課題別セミナー 「精神障害者の職場定着に向けた支援」のご案内  当機構では、労働、福祉、医療、教育などの分野で障害のある方の就業支援を担当している方のうち、実務経験がある方を対象として、新たな課題やニーズに対応した知識・技術の向上を図るための「就業支援課題別セミナー」を実施しています。みなさまの受講を心よりお待ちしています。 受講料 無 料 平成30年度のテーマ:精神障害者の職場定着に向けた支援 内容 ■ 体調の自己管理をうながす支援 ■ 医療機関との連携 ■ 事業主支援 ■ 支援の現状と課題 ■ グループワーク 対象者 現在、障害者の就労や雇用に関する支援を担当している方 ・労働、福祉、医療、教育などの支援機関の職員であって、障害者の就労や雇用に関する支援を担当しており、精神障害者に対する就業支援の実務経験のある方など ※精神障害者に対する就労支援の実務経験があり、基礎的な知識があることを前提とした内容となっておりますので、 ご留意ください。 日程 平成30年11月21日(水)〜11月22日(木) 会場 障害者職業総合センター(千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3) 定員 100名 お申込み ◎申込方法:「就業支援課題別セミナー受講申込書」に必要事項を記入し、申込受付期間内にメールでお申込みください。 ◎受講申込書・カリキュラム:当機構ホームページからダウンロードできます。 ◎申込受付期間:平成30年9月11日(火)〜10月16日(火) ◎受講決定の通知:申込受付期間終了後、受講の可否についてメールにて通知します。 定員を超えた場合は、複数名の申込みをされた法人などに対して人数の調整をさせていただくことがあります。また、やむをえずお断りをすることがあります。 あらかじめご了承ください。 お問合せ 職業リハビリテーション部 研修課 TEL:043-297-9095 E-mail:stgrp@jeed.or.jp URL:http://www.jeed.or.jp/ 【P15-18】 グラビア 仕事が生きがいで、毎日が楽しい 株式会社タナベ刺繍(香川県) 田中有香利さん 取材先データ 株式会社タナベ刺繍 〒769-2604 香川県東かがわ市西村1023 TEL 0879-25-5108 FAX 0879-25-1919 写真:小山博孝・官野貴/ 文:小山博孝  午前9時。株式会社タナベ刺繍(ししゅう)の朝礼が始まった。毎日、ある書籍から一つのテーマを社員が交代で読み上げ、みんなで感想を述べあう。この日の担当は、知的障害者の田中有香利(ゆかり)さん(35歳)だ。大きな声で、一生懸命に読み上げた。  田中さんは、香川東部養護学校の高等部を卒業後、スーパーや介護施設などで働いてきたが、職場でのコミュニケーションがうまくとれず、長く続かなかった。タナベ刺繍に入社以来、上司として田中さんを見守ってきた岡崎愛撮子(あさこ)さんは「入社したころは、人前で話すことは、とても苦手なようでした。できる仕事から順次お願いし、周囲のサポートを受けながら仕事の幅を広げてきました。できる仕事が増えるにつれ、私たちとのコミュニケーションも次第にとれるようになり、表現の仕方も豊富になっています。仕事の自信が彼女を成長させたのだと思います」と話す。  入社して6年になる田中さんは、「香川障害者職業センター」や「障害者就業・生活支援センター共生」の支援を受けながら作業の幅を広げていき、いまでは、自動刺繍機の下糸巻き、資材の準備や使用備品のメンテナンス、生地の折畳みなど約30種類の作業に従事し活躍している。こうした田中さんの姿に、社長の田部(たなべ)智章(ともあき)さんは、「以前、他県で障害者を雇用している企業を見学し、適性や仕事内容、役割分担を工夫することで、当社でも障害者雇用ができると思い、始めました。仕事を一つひとつ覚え、社員たちから期待される田中さんの姿を見て、適性があえば、今後も障害者雇用に挑戦したい」と話す。 「会社で友だちもでき、仕事は楽しい」と田中有香利さん(左)。指定された色の下糸を巻き、担当者に届ける 「障害者雇用は会社にとってプラスになる」と語る社長の田部智章さん 社員数は26人 朝礼後、上司の岡崎愛撮子さん(右)と一日の仕事のスケジュールなどを打合せする タナベ刺繍の朝礼の様子 刺繍する生地を張る枠を掃除する 下糸巻き作業。色、数量を確認して作業を進める 岡崎さんの指導を受けながら、刺繍する生地を折り、準備する 自動刺繍機が動く工場内 田中さんの支援にあたってきた「障害者就業・生活支援センター共生」主任就業支援ワーカーの植村久美子さん(右) 「香川障害者職業センター」所長の稲田憲弘さん(右)と相談する田部さん 植村さんは、「毎年、目標を決めてやってきました。今年は、メモを取ることを目標にがんばっています」と話す 「いま、スマートフォンのゲームにはまっています。休み時間が楽しみです」という 上司の岡崎さんとおしゃべりしながら、お母さんの手づくり弁当で昼食 【P19】 発達障害があっても大丈夫? うちの子はたらく体験記 コミックエッセイ●第2回● 初めてのアルバイト! かなしろにゃんこ。千葉県在住の漫画家。 著書に、発達障害のわが子の育児を綴ったコミックエッセイ「漫画家ママの うちの子はADHD」や、発達障害のある子の進学、就活、就労、自助会を取材したコミックルポ「発達障害 うちの子、将来どーなるの!?」などあり。『LITALICO 発達ナビ』でもマンガコラム連載中。猫アレルギーですが、猫を3匹飼っています。 以前、障害者の人材紹介会社の方に出会って 発達障害のある子は社会性やスキルの習得には時間がかかるので 就労の前に早くからアルバイトで社会勉強する機会をつくるといいですよ こうアドバイスを受けて よし!うちも 息子が高1になってすぐ バイトやだ〜 友人が営む人気ラーメン店で雇ってもらいました は〜 ADHDの特性で短期記憶が苦手 えーと……肉ラーメン3つとみそ2つだっけ? 忘れないため念仏を唱えるように注文内容をささやき乗り切る 塩1 ワカメ1 肉2 キムチ2 ミスしてどえらく怒られても息子の場合はわりとくじけなかった アレ……うちの親父ほど恐くないな〜 給料日 オレが稼いだ金だこんな大金触るのはじめて 勤労の喜びを知ってバイトを続けられたのでした 【P20-25】 編集委員が行く A型せとうちサミットin倉敷 NPO法人 就労継続支援A型事業所全国協議会(東京都)、NPO法人 ホープ就労・生活支援センター(岡山県)、NPO法人 広島自立支援センターともに(広島県) 山陽新聞社会事業団専務理事 阪本文雄 取材先データ NPO法人 就労継続支援A型事業所全国協議会(全Aネット) 〒170-0004 東京都豊島区北大塚3-34-7 TEL 03-3915-8111 FAX 03-3915-8112 NPO法人 ホープ就労・生活支援センター 〒700-0941 岡山県岡山市北区青江5-1-7 TEL 086-224-7677 FAX 086-232-1556 NPO法人 広島自立支援センターともに 〒731-5151 広島県広島市佐伯区五日市町大字上河内白ヶ瀬1544 TEL 082-929-0185 FAX 082-928-6578 資料出所:山陽新聞 編集委員から  就労継続支援A型事業所の問題点は、3〜4年前から指摘されていたが、この1年各地で大量解雇、閉鎖が相次ぎ表面化した。これを「A型せとうちサミット」では、よい機会と前向きにとらえ、反省点や見直し、改善策など多くの人が立場を超えて意見を述べ、話し合った。障害者雇用は年々、雇用数、障害の種別が拡大し記録更新しているが、実はいろいろな問題がある。いち早く対策に取り組んだA型事業所の軌跡をたどる。 写真:小山博孝 Keyword:就労継続支援A型事業所、障害者就業・生活支援センター、全Aネット POINT @ 解雇予告段階から行政が動き、働く障害者の保護へ強い姿勢。A型事業所も一体となって支援 A 危機感を持った事業者が全国組織設立。反省、改善へ向けてサミットを開催 B 労働プラス福祉のA型事業は、賃金の財源確保など経営力と福祉マインドが必要 A型事業所の閉鎖、大量解雇  2017(平成29)年7月21日、山陽新聞朝刊に「障害者220人解雇へ」社会面4段の大見出し。「倉敷(くらしき)・支援5事業所 『経営悪化』で月末閉鎖」と脇見出し。記事は「障害者の一斉解雇としては全国的にも異例の規模。倉敷市とハローワーク倉敷中央が就労継続支援A型事業所(以下「A型事業所」)など42施設とマッチングをはかる説明会を開催、解雇予告された68人が参加した」という内容である。福祉関係者が指摘する「悪しきA型事業所」の問題が表面化した朝だった。  結局、この倉敷市の一般社団法人が倉敷市、高松市で運営していた6事業所は昨年7月末に閉鎖、ダイレクトメールの封入などの軽作業で働く283人が解雇された。  その後も埼玉県、愛知県、広島県などでA型事業所の閉鎖、大量解雇があり、今年になって再び岡山県、広島県で発生した。補助金目当てで参入してくる「悪しきA型事業所」が露呈(ろてい)した経営力の弱さ、ずさんな事業内容。それらが大きな要因となって運営が行き詰まり閉鎖、解雇という負の連鎖が各地で表面化した。そのたびに新聞、テレビで「障害者解雇」、「経営不振で閉鎖」、「破綻(はたん)相次ぐA型」、「公金頼みで行き詰まり」、「障害者ビジネス横行」などの報道がされた。  岡山県は、企業の2016年度の障害者雇用率は全国4位。特別支援学校の就職率は、一般就労とA型事業所を足すと、2015年度は49・7%で全国トップクラス。いわば、障害者雇用では先進県だ。  その岡山県で、A型事業所はこの4年間で急増した。2012年度は66事業所で利用者1240人だったが、4年後の2016年度は164事業所、3283人で2倍強。利用者数は全国平均の4倍、人口比率では全国1位になった。A型事業所の設置主体は福祉以外からの参入が相次ぐようになった。障害者をターゲットにした求人広告も登場した。「補助金は障害者の数で決まる。とはいえ、求人広告は初めて見たよ」と福祉施設関係者の声が聞こえてきた。  そんななか、倉敷市での突然の大量解雇、事業所閉鎖だった。  行政は解雇予告の段階から動いた。倉敷市と岡山労働局が核になり、岡山県、ハローワーク倉敷中央とともに一般社団法人を立ち入り調査。同時に障害者職業センター、国立吉備高原リハビリテーションセンター、障害者就業・生活支援センター、保健所、NPO法人A型事業所協議会などを結集して、解雇予告された人たちに対し、再就職へ向けた説明会、面接会を開いた。立ち入り調査の結果、倉敷市は障害者総合支援法に基づき、法人に対し「主体的に再就職先を探す」、「障害者の要望を聞く」などの勧告をした。さらに、厚生労働省も立ち入り調査を実施、「すべての再就職希望者の受入れが決まるまで支援を続ける」よう勧告した。  2017年11月、広島県福山市、府中市でA型事業所2カ所を運営する一般社団法人が経営不振を理由に112人を解雇、賃金の不払いが発生した。広島県と福山市は再就職支援、賃金の支払いを求める利用者保護の命令を出した。  2018年3月、倉敷市はA型事業所3カ所を閉鎖、約170人を解雇した株式会社を事業所指定取り消し処分にした。岡山県では初めてだ。  行政の対応、処分は、立ち入り調査、監査、勧告、命令、指定取消しなど段階的に設けられており、賃金不払い、再就職先確保の責務を果たさない、勧告や命令に従わないなど悪質なケースには厳しい対応をとっている。  岡山県、倉敷市は2018年3月下旬、機構改革を行い岡山県は保健福祉課に指導監査室、倉敷市は障がい福祉課に事業所指導室を新設した。岡山県内で相次いだA型事業所の閉鎖、破綻をふまえ社会福祉法人、障害福祉サービス事業者に対する指導監査を一元化。また、健全な事業運営を目ざし、事業所開設の際に提出される申請書も、仕事は十分確保できるか、採算はとれそうかなど十分チェック。さらに、開設後、事業収益で利用者の賃金が支払われているかなど、適切な指導により、再発防止へ体制を強化した。 「A型せとうちサミットin倉敷」開催  岡山県のA型事業者は解雇への動きが発覚したときから、萩原(はぎはら)義文(よしふみ)さんを代表に県組織の就労継続支援A型事業所協議会を挙げて、再就職のための説明会、面接会、相談会に参加。積極的にA型事業所利用者の再就職支援に乗り出した。連日の報道で、ほかの事業所利用者の不安、地域住民から懸念の声も届いた。危機感を持ったA型事業者から「反省すべきは反省し、問題点を改善し、平成30年度から出直しをしよう」という声が上がり、就労継続支援A型事業所全国協議会(以下「全Aネット」)の主催で今年3月、倉敷市で就労支援フォーラムNIPPON特別企画「A型せとうちサミットin倉敷」が開かれた。  全Aネット理事長の久保寺(くぼでら)一男(かずお)さんが「昨年より事業所の閉鎖、大量解雇が社会問題に発展、関係者の憤(いきどお)り、利用者の不安が出てきている。必要な制度であるA型事業所を再認識する契機にしたい」とあいさつして始まった。  厚生労働省障害福祉課課長補佐の寺岡(てらおか)潤(じゅん)さんがA型事業所の現状と課題で「利用者数、費用額、事業所数が毎年大きく増加。一方、生産活動の内容が適切でない事業所や利用者の意向にかかわらず労働時間を一律に短くするなど不適切な事例が増えているとの指摘があり、支援内容の適正化と就労の質の向上が求められている」として、運営基準の改正により「賃金を自立支援給付金から支払うことは原則禁止」と説明、事業収益を増やし、そのなかから賃金を支払うよう経営力の向上をうながした。  基調講演「経済学からのA型事業所」は、慶応大学商学部教授の中島(なかじま)隆信(たかのぶ)さんが行った。「自立支援給付金が給与を上回る状態の改善」、「A型事業に参入する営利法人のガバナンス強化の必要性」を求め、行政の責任の重さを指摘。「障害者労働市場の質の向上、障害をつくり出しているのは私たちの社会であるとの発想に立ち、働き方を人間に合わせるという意味での真の働き方改革が浸透することによって、はじめて障害者は潜在的な能力を労働市場で発揮することができる」と話した。  日本財団公益事業部のチームリーダー、竹村(たけむら)利道(としみち)さんは「ソーシャルイノベーションの取組み」と題し、高知市のNPO法人でA型事業所を経営した経験を述べ「高知には制度を悪用するケースはなかった。行政、事業所関係者にそういうものを許す土壌もなかった。日本財団は悪しきA型事業所、低額なB型事業所の賃金などという問題に対し、ソーシャルイノベーション(社会変革)の取組みを展開している。私の経験から、障害者の働く場の確立には福祉とともに経営の視点が大事であり、持続的に雇用を継続していくことが求められる」と話した。  「全Aネットが目指すもの」と題して、久保寺一男さんが主催者を代表して登壇した。  「昨年6月の実態調査で、作業で得た事業収入が賃金総額に達しない事業所が5割弱あった。この現実は就労移行支援事業所と同じ一般就労を目的に運営している事業所、高賃金で生涯就労にこだわっている事業所、作業性は低いが重度障害者の受入れに使命を感じている事業所などがあり、同じ事業性、収益性だけで評価していいのか、という思いを持つ」と現状認識を示した。再発防止のため、行政には「認可と監査の具体的基準」を求めた。「今回、倉敷市から始まった問題は、A型事業の具体的なあるべき姿を明確にしないと教訓として活かされない。今後、よきA型事業所を増やすため、優良認定制度を導入し、全国各地でフォーラムを開催して啓発運動を行う」と決意を述べた。  全Aネットが設立されたのは2015年2月だ。「悪しきA型事業所」への危機感がきっかけだった。設立趣意書に、その経緯が書かれている。「一部の事業者は利用者の処遇に問題があり、儲(もう)け主義が見られるなどと、メディアなどに報道されました。一部A型事業所のあり方への危惧の声が寄せられている現状があります。そこでA型事業所の健全な発展や一部の状況に危機感を持った有志が全国組織のNPO法人の立上げを呼びかけました。今後は、障がい者の所得保障とその支援、事業者間の情報共有と連携ネットワーク化、自主的な研究事業などをとおしてA型事業所の質的向上を図っていきたい」と明記してある。  まさに、全Aネットの取組みが注目され自浄能力が問われている。  有限会社Cネットサービスの元代表で、旧福祉工場研究班元事務局長の、松永(まつなが)正昭(まさあき)さんは「障がい者雇用・就労の変化と進展」という演題で、2006年に施行された障害者自立支援法でスタートしたA型事業所の歴史を語った。早くから親の会活動に参加、全国組織の役員になり、地元の福井県では社会福祉法人専務理事として重度障害者を雇用する福祉工場8カ所を運営、障害者自立支援法案を審議する衆議院厚生労働委員会で参考人として意見陳述するなど、A型事業所の制度設計の段階から国に対し、積極的に経験をもとにした持論を展開していた。  「A型事業所は福祉工場がモデルになって制度設計された。福祉から雇用へ、雇用契約を結び、国民としての義務を負担して働きたい障害者を受け入れる。これをA型事業所の使命にした」と話した。  施行にともない、福井県内で手掛けたA型事業所は19カ所。そのうち、有限会社Cネットサービスは、障害者の働く能力を高め、職場の班長は障害者。さらに、職業指導員として昇格するなど、障害者中心の運営を実践している。この10年間は民間企業の経営を参考に、改革・改善の連続で高効率的なA型事業所の経営に心血を注ぎ、働く障害者に会社への出資を勧め利益を配当するなど、障害者の理想とする就労・雇用事業所を目ざしてきた。それだけに今回の閉鎖、解雇は納得がいかない。  「基本は、働きたい障害者を能力にあわせて雇用すること。国が示す最低賃金以上の雇用条件義務は、職業能力評価が最低賃金基準以下の者の雇用機会と労働権の剥奪(はくだつ)につながり、最低賃金減額特例制度無視と合わせて裁判をする覚悟がある。制度の見直し点はいろいろあり、制度の充実を」と訴えた。  次に司会者が「倉敷で起きたA型事業所の閉鎖、大量解雇で解雇された人たちです」と紹介して4人の利用者が登壇した。  「解雇予告されたとき、頭が真っ白になり立ちすくんだ。面接会で次の職場が見つかり、一安心しています」  「まだ決まっていない人もいる。そっとしておくしかない」  「給料は生活費になっています」  “働く意味は”という会場からの質問に対し、  「生きる活力」  「社会に貢献」  「役に立っていると思うと心の柱になる」  “A型事業所と一般就労”について聞かれると、「A型事業所は作業がしやすい」  「A型事業所から一般就労を目ざしていたが仕事内容に無理があった」  「A型事業所で定年まで働きたい」  「今日はA型事業所がよい方向へ行ってほしいと思い、出てきました」と答えた。短い言葉のなかに、4人の思いがこもっていた。  最後に大阪府、兵庫県、岡山県、広島県、山口県、愛媛県でA型事業所を運営している7人でシンポジウムを行った。  「今回の騒ぎは経営者の問題だ。私たちは本気になって働く障害者を背負っている。多くの公金も投入され、責任がある。今後、岡山県のA型協議会で勉強会を開き、質的向上を図っていく」  「A型事業所の制度は障害者にとってよいシステムであり、悪用されないよう見直し、さらによい制度にして行くことが必要である」  「営利的と指摘される株式会社、ITのシステム会社ですが、障害者にとっては職種が増え選択の幅が広がり、よかったといわれている」  「私も株式会社の代表です。触法障害者(※)も受け入れています。障害者がよりよく働ける職場にしていきたい」  座長で、全国シルバー人材センター事業協会専務理事の村木太郎さんは「大事、むずかしい、楽しい」と3つのキーワードを挙げた。「障害者が就労する場、お金を稼いで自立する、社会とつながることからいえば、A型事業所は大事である。支えてもらうだけでなく、障害者も含めみんなで支え合う共生社会が大事である」と意義を話し「むずかしいのは労働と福祉の両立、施設からいえば事業と福祉の両立。社会に価値あるものを産みだして事業として成り立つことが障害者に寄り添うことになる。だから面白い、楽しい。工夫のしようがある。全国のA型事業所を見ると、いろんな事業を展開し、魅力的な事業を進めている所は困っていない。みなさんがんばってください。楽しみながらよくしてください」とまとめた。  全Aネット副理事長の萩原義文さんが大会宣言を読み上げた。  「A型事業所で働くことは労働者としての権利と義務を有します。障害者がその能力を発揮し、自らの意思で幸せになるための制度です。われわれ、A型事業所を運営する者には、経営力と福祉的支援が課せられ、一般就労を後押ししなければならないのです。営利目的には適さない事業であり、適正規模での運営が不可欠だということを、今回の解雇に学ぶべきではないでしょうか。今日、多くの人たちの話を聞いて、A型事業所で働くすべての人が元気になると、再確認しました」と締めくくり、大きな拍手で閉幕した。  このサミットで、A型事業所は労働プラス福祉の位置づけにあることが再確認された。労働は雇用契約であり、事業で賃金の財源を確保することであり、それを継続していくのが経営力である。福祉は一般就労には向かない人たちへの保護の面があり、働きたい人たちを受け入れる福祉マインドがいる。  A型事業所が内包する問題が浮き彫りにされ、再発防止へ、行政、大学、経営者、障害者が意見交換した意義は大きい。 ホープ就労・生活支援センター  本当に元気になったのか、改めて、A型事業所を訪ねた。  「いらっしゃいませー」若い男女の声が迎えてくれた。岡山市役所近くのうどん店「しょうが屋」。かきあげ、ゆでたまご、わかめ、あげの入ったスペシャルを頼むと「おまたせしました」と湯気の立つどんぶりが運ばれてきた。19歳から54歳まで、発達障害、知的障害の11人が働くA型事業所だ。接客、調理、手打ちのうどんづくりに分かれ、1日6時間以上勤務、月8日休み、月給は平均9万円前後。  この事業所を運営する「NPO法人 ホープ就労・生活支援センター」は、理事長の永田昇さんが1973(昭和48)年にクリーニング業の企業内作業所として、10人ほどの精神障害の人たちを雇用したのが始まりだ。障害者自立支援法とともにA型事業所に特化して、理美容店向けレンタルタオル、おしぼりなどのリネンサプライ、うどん店、カフェなど、この10年間で5事業所とグループホームを開設、96人の障害者が働いている。特定相談支援・障害児相談支援も行っている。  「今回の一連の解雇、閉鎖で障害者、地域の方々に波紋が広がり、心配をかけた。事業者としてこの制度を維持し質的に向上させます」。障害者雇用45年の実績があり「A型事業所のよさを一層磨きたい」という。 広島自立支援センターともに  こちらは実績38年、「NPO法人 広島自立支援センターともに」の理事長、橋本正治(まさはる)さん。1973年にクリーニング、タオル販売の「山陽タオル」を創業、1980年に株式会社にし、翌年ハローワークの紹介で知的障害のある3人を雇用したのが始まりだ。2009年にA型事業所を開設、現在3事業所で72人が就労している。  2011年、タオル工場が全焼した。保護者から「解雇しないでほしい」と申入れがあった。さらに取引き先も「障害者を解雇しない方がいいよ。あの子たちは丁寧なよい仕事をしている」と、わざわざいってきてくれた。洗ったおしぼりのなかから、汚れ、破れた物は取り除いて出荷する指示を出していたが、彼らはそれをきちんと守っていた。お客さんはそこを評価して「辞めさせるな」と。保護者全員に集まってもらい「『絶対、全員解雇しません。半年か1年、ワークシェアリングで待ってください』といいました」。  いろいろたいへんだったが、10カ月でフル出勤に戻った。「簡単に閉鎖だ、解雇だといってはダメです。会社の浮き沈みはある。正念場で働く人のことをいちばんに考えないと」。今回の一連の問題を聞いて「事業主の責任を人のせいにしている」と憤りを見せた。  これまで10人ほどが一般就労した。「月給が20万円になりましたと報告に来た子がいた。うれしかった。うちは定着率が高いので、もちろん定年までいてくれてもいい。働く喜びを知ってくれれば、生きがいにつながる。能力に合わせて働けるのがA型事業所です」と話す。 (メモ1)障害者自立支援法  2006年4月施行。身体、知的、精神の障害種別に分かれていた福祉サービス体系を一元化した。障害者が施設を出て地域で自立した生活をするために、働きたい障害者が賃金を得られるように訓練、指導、福祉的就労から一般就労への移行、職場定着のサポートなどの就労支援を大きな柱にした。サービスは原則、障害者にも一割負担にした。2013年、障害者総合支援法になり障害者の定義に難病などを追加、重度訪問介護の対象者の拡大、ケアホームをグループホームに一元化した。 (メモ2)就労継続支援A型事業所  障害者自立支援法の就労支援の柱の一つ。一般企業への就労がむずかしい障害者に対し、生産活動の知識、能力の向上を図り一般就労への移行に向けた支援を行う事業。A型事業所は雇用契約を結び、最低賃金を保障、雇用保険、厚生年金がある。働きたい障害者を後押しし、最近は企業への一般就労へステップアップするケースが増えている。B型事業所は障害が重く企業への就労が困難な障害者に雇用契約を結ばず、仕事量に対して工賃が支払われる。 (メモ3)全Aネット  NPO法人就労継続支援A型事業所全国協議会。2015年2月設立。全国35都道府県の事業所が加盟。事業計画ではA型事業所の実態調査、都道府県支部の活動支援、健全運営の基準づくり、シンポジウム開催などを行っている。 ※触法障害者:法律に触れる行為をした障害者 厚生労働省障害福祉課課長補佐の寺岡潤さんによる行政説明「全国的なA型事業所の状況について」 「A型せとうちサミットin倉敷」の開会式。あいさつをする全Aネット理事長の久保寺一男さん 慶応大学商学部教授の中島隆信さんによる基調講演「経済学からのA型事業所」 日本財団の竹村利道さんによる「ソーシャルイノベーションの取組み」 旧福祉工場研究班元事務局長の松永正昭さんによる講演「障がい者雇用・就労の変化と進展」 ホープ就労・生活支援センターが運営するうどん店「しょうが屋」 ホープ就労・生活支援センターが運営するあたり饅頭「えすぺらんと」 大阪府、兵庫県、岡山県、広島県、山口県、愛媛県でA型事業所を運営する事業主たち7人によるシンポジウム。司会は村木太郎さん 理事長の永田昇さん(右) 大会宣言を読み上げる全Aネット副理事長の萩原義文さん 広島自立支援センターともにを設立した、株式会社山陽タオル。リース用タオル、ユニフォーム、ガウン、マットなどのクリーニングを行う。72人が就労している 株式会社山陽タオルの社長であり、「NPO法人 広島自立支援センターともに」の理事長、橋本正治さん 【P26-27】 霞が関だより 「地方公共団体による農福連携の支援体制の構築に関する研究」の紹介 農林水産政策研究所 小柴(こしば) 有理江(ゆりえ)  農林水産省に所属する当研究所は、「農業分野における障害者就労」(通称:農福連携)をテーマとした研究を継続して行っています。今回は、当研究所が平成26年度および平成28年度に実施した地方公共団体による農福連携の支援策に関する研究成果の概要をご紹介します。 T 農福連携への支援の広がり  農福連携への関心が高まるなか、県や市町村といった地方公共団体においてもその動きを支援しようという気運が高まっています。例えば、厚生労働省によると同省の「農福連携による障害者の就農促進プロジェクト」事業の補助を受ける都道府県数は平成29年度で40であり、そのうち約半数にあたる19都道府県において「農業生産者と障害者就労施設による施設外就労とのマッチング支援」を実施しています。  当研究所でもこうした取組みについて全国での先進事例調査を行い、研究成果としてとりまとめています。今回はそれらの結果をご紹介します。なお、調査結果はそれぞれの調査時点のものです。 U 地域農業の特徴に応じた支援内容  調査の結果、地方公共団体で行われている農福連携への支援は、主に@農家等での施設外就労をマッチングするもの、A障害者が農家等で雇用される等して働くための就労支援を行うもの、B企業や障害者福祉施設が農業に参入することを支援するものがありました。  第1表では、各地域の農業の特徴と支援内容を対比しています。その特徴をみると、野菜や果樹等の生産が盛んな畑作地帯では、定植(ていしょく)、収穫、選別、運搬等といったマンパワーを必要とする農作業が多く存在しています。そのため、人手不足に悩む農家等と施設外就労での就労機会を求めている社会福祉法人等をマッチングするという支援が行われる傾向にあります。  他方、水田作が中心の地域では、田植えや稲刈りといった農作業の大半は機械化されており、畑作地帯に比べてマンパワーを必要とする農作業が少なくなっています。そのため多くの障害者が一度に働ける農作業を確保することは困難です。そうした理由から施設外就労等のマッチングという支援ではなく、農家等に障害者の就労機会を求めたり、社会福祉法人等自らが農業を始めるための支援を行うケースが目立ちます。  また、立地という点からみると、都市近郊の都市的地域は消費地に近いという利点はありますが、それ以外の地域に比べて担い手となる農家等が少ない傾向にあります。そのため農業の担い手を確保するという観点から、障害者の働く場を求めている社会福祉法人や特例子会社等の農業分野への進出を推進しようとする動きがみられ、必要な農地の斡旋(あっせん)など農業への参入を円滑に進められるような支援策が行われる傾向にあります。 V 効果的な支援のために  以上のような先進事例における地域農業の形態と農福連携の支援内容の関係を整理したのが第1図です。農福連携を通じて地域の課題に効果的にアプローチしていくためには、こうした地域の特徴を十分にふまえた継続的な支援がますます重要となっています。 ※「働く広場」では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 第1図 地域農業の特徴と支援内容の傾向 地域農業の形態 畑作中心 (野菜、果樹等) 水田作中心 都市的地域 農作業支援へのニーズ 大 小 作業を頼みたい畑作農家が多く、マッチングしやすい 水田作農家が畑作農家よりも多く、マッチングでは福祉施設が十分な作業量を確保できない 農家そのものが少なく、マッチングでは福祉施設が十分な作業量を確保できない 農地確保のしやすさ 農家の高齢化で農地の確保は比較的しやすい 農業参入に必要な農地の確保が難しい 農福連携の支援内容 施設外就労等のマッチング 障害者の農家等への就労支援 企業・福祉分野等からの農業参入支援 資料:農林水産政策研究所(2017)『農業と福祉の連携による農業・農村の活性化に関する研究』p66を一部修正して掲載 第1表 地方公共団体等による主な支援と地域農業の特徴 都道府県 実施主体名 主な支援内容 地域農業の特徴 農業産出額から見た主な土地利用 農業地域類型 大阪府 (一財)大阪府みどり公社(農政チーム) 福祉施設等への支援 野菜 都市 埼玉県 埼玉県(福祉部障害者支援課) 福祉施設等への支援 野菜 都市・平地 静岡県・浜松市 NPO 法人しずおかユニバーサル園芸ネットワーク マッチング 野菜 都市・平地 群馬県 群馬県(健康福祉部障害政策課) マッチング 野菜 都市・平地・中間 栃木県 栃木県(農政部農政課) マッチング 野菜 平地 香川県 NPO 法人香川県社会就労センター協議会 マッチング 野菜 平地 長野県 NPO 法人長野県セルプセンター協議会 マッチング 野菜・果実 平地・中間 鳥取県 鳥取県(農福連携推進プロジェクトチーム) マッチング 野菜 平地・中間 青森県 青森県(農林水産部農林水産政策課) マッチング 野菜・果実 平地・中間 奈良県 奈良県(農林部・健康福祉部) 農家等への就労支援、福祉施設等への支援 米・野菜・果実 都市・中間 三重県 三重県(農林水産部担い手育成課) 農家等への就労支援、福祉施設等への支援 米 都市・平地 名張市(三重県) 名張市障害者アグリ雇用推進協議会 農家等への就労支援 米 都市・中間 兵庫県 障害者農業訓練・就労支援ネットワーク会議 農家等への就労支援 米・野菜 平地・中間 島根県 (公財)しまね農業振興公社 マッチング、農家等への就労支援、福祉施設等への支援 米 中間・山間 資料:農林水産政策研究所(2017)『農業と福祉の連携による農業・農村の活性化に関する研究』p57を一部修正して掲載 註:1)大阪府、静岡県・浜松市、香川県、鳥取県、奈良県、名張市(三重県)、兵庫県、島根県は平成26年度、それ以外は平成28年度の調査結果。 2)農業産出額は「平成26年生産農業所得統計」による。農業産出額構成比に基づき分類。 3)農業地域類型は「2015年農林業センサス」による。「都市」は「都市的地域」、「平地」は「平地農業地域」、「中間」は「中間農業地域」、「山間」は「山間農業地域」の略。経営耕地総面積の割合で分類。 ※この研究成果の詳細は、農林水産政策研究所のウェブ・サイトからご覧いただけます。http://www.maff.go.jp/primaff/kanko/project/28nofuku1.html 【P28-29】 研究開発 レポート 職業リハビリテーション場面における自己理解を促進するための支援に関する研究 障害者職業総合センター障害者支援部門 1 はじめに  職業リハビリテーション(以下、「職リハ」)において、重要とされる支援の一つとして「自己理解の支援」があります。支援対象者の自己理解の促進を考慮しつつ支援を提供することは、支援の順調な進行や支援対象者の自己決定につながるといわれています。しかし、「そもそも自己理解の支援とはどのような支援か?」や「重要なことはわかるが、自己理解を促進させるためにどうすればいいのかわからない」といった疑問を持たれる支援者の方々も多いのではないでしょうか。本研究では、支援対象者の自己理解を促進するための支援のあり方を整理することを目的に調査を行いました。  具体的には、@職リハにおける文献調査、A支援者の支援実態を把握する質問紙調査およびインタビュー調査、B自己理解の支援の事例調査、C支援対象者にとっての意味を明らかにするインタビュー調査、の四つの調査を実施しました。  本稿では、@職リハにおける文献調査ならびにA支援者の支援実態を把握する質問紙調査およびインタビュー調査の結果を中心に、職リハにおける自己理解を促進するための支援の具体的な行動について概要を報告します。 2 自己理解を促進するための支援行動  当機構が開催する職業リハビリテーション研究・実践発表会で発表された論文のうち、一度でも「自己理解」という言葉が用いられた論文を分析しました。結果、職リハにたずさわる支援者は、表1のような自己理解の支援行動をとっていることが明らかになりました。  次に、この明らかになった支援者が自己理解を促進するために実施している支援行動に基づいて質問紙を作成し、全国の職リハ機関(地域障害者職業センターおよび障害者就業・生活支援センター)に所属する支援者を対象とした質問紙調査を実施しました。そして、統合失調症、気分障害、発達障害のそれぞれの障害に対する支援行動の実施程度を統計的に分析し、自己理解の支援の内容について検討を行いました。  この分析の結果、支援者が提供する支援行動は、統合失調症や気分障害のある精神障害者の間で類似し、精神障害者と発達障害者の間で異なる特徴に整理することができました。 (1)精神障害者(統合失調症と気分障害)に対する支援行動  統合失調症や気分障害のある精神障害者に対する支援行動は、類似した四つの特徴に整理することができました。@支援対象者の現状認識の促進を図るために支援者から現状を伝える際に対象者の障害特性や理解の仕方などに配慮しながら支援を行う「現状認識の促進」、Aさまざまな作業課題や職場実習・具体的就職活動に直結する活動などの実体験の機会を提供する支援を行う「実体験の提供」、B自分自身の現状を整理してもらうために支援対象者に過去と現在の比較や課題整理などの対応を求める支援を行う「現状整理の依頼」、C働くことや働き方について考えてもらうために情報収集の機会である講習やグループワークを設定するなどの支援を行う「情報収集機会の設定」。これらを支援者は、自己理解を促進するための支援として実施していることを見いだしました。 (2)発達障害者に対する支援行動  発達障害者に対する支援行動は、精神障害者(統合失調症者と気分障害)と異なる特徴として三つに整理することができました。@支援対象者が自らの現状を整理することができるよう、安心できる環境設定、障害特性に配慮した伝え方、支援の見通しを持ってもらえるように支援を行うなど「現状整理のための工夫」、A支援対象者がこれまでの就業経験のなかで生じた困難な状況の振返りの実施、強みや長所を引き出す現状認識を促進するための支援を行う「現状認識の促進」、B働くうえで必要な知識を得るための講習や他者との意見交換を通して得られた知識、他者が取っている対処を参考にして、支援対象者が自分自身を振り返ってもらうための支援を行う「情報収集に基づく振り返り」。これらを支援者は、自己理解を促進するための支援として実施していることを見いだしました。  そのうえで、職リハにたずさわる支援者に対するインタビュー調査からは、これらの支援行動を提供する際の支援者としてのかかわりの視点が明らかになりました。  まず、「支援行動」は類似している内容としてまとめることができましたが、支援者のかかわりの視点は、統合失調症と気分障害の間で異なっていました。統合失調症に対して「本人の持つ就業のイメージと現状の間にあるズレに気づいてもらう」という実体験をベースとした認識変更を視点として持っている一方で、気分障害に対しては「睡眠リズムや波に気づき体調をマネージメントしていく」という自己管理の確立という視点を持っていました。また、発達障害者に対しては「自分自身の現状の把握に加え、整理の仕方についても支援する」、「対処法を検討するまでの過程を支援する」という視点を持っていました。 3 おわりに  以上のように、職リハの支援者に対する調査から、支援対象者の自己理解を促進する際の支援のポイントが明らかになりました。今後支援対象者の自己理解を促進するための支援を提供したいと考える支援者は、インタビュー調査から得られた障害ごとのかかわりの視点を支援対象者の障害種別に応じて持ちつつ、自己理解を促進するために本研究で明らかになった支援行動を意識したり、支援プログラムを実施する際の工夫として取り込むことで、有効な支援が提供できると考えられます。  本研究をまとめた調査研究報告書では、より十分な支援の提供が可能となるよう、事例および支援対象者へのインタビュー調査の結果を掲載しています。あわせて参考にしていただければ幸いです。  研究部門ホームページでは報告書をPDF化して掲載しておりますので、ご一読ください。http://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/houkoku/houkoku140.html 表1 自己理解の支援行動 把握された行動 ・実体験を通した自らの特徴の把握 ・行動の結果ではなく、そのプロセスに対する振返り ・過去の経験の振返りと整理 ・強みに着目したフィードバック ・支援場面などでの具体的な助言 ・他者の意見を参考にした特徴整理 ・同じ障害のある仲間からの気づき ・過去と現在の状況の比較 ・現状の記録 ・内省の実施 ・スキルの有無の確認 ・課題の整理 ・働くために必要な知識の習得 ・障害特性に応じた現状の示し方 ・失敗できる環境の構築 ・活動の見通しを持たせる ・タイムリーなフィードバック ・変容を目ざすのではなくうながす ・個別面談でのフィードバック ・文字や図などでの視覚的提示 【P30-31】 ニュースファイル 地方の動き 群馬 障害者との「心をつなぐハンドブック」を作成  群馬県は、障害のある人とない人が交流し、ともに支え合う共生社会を実現するために、障害者差別解消法の主旨や内容、障害の特性や日々の活動のなかでどのような配慮が必要かをわかりやすくまとめた、「心をつなぐハンドブック」を作成した。  視覚、聴覚、発達障害、てんかんなどさまざまな障害を取り上げ、その障害ごとに必要な配慮と、日常生活でのあらゆる場面における配慮を、具体例をあげて説明している。 千葉 障害者らに防災支援用具を配布  南房総(ぼうそう)市は、災害の発生時、自ら避難することが困難な障害者らが支援が必要であることを知らせる防災用具「ポンダナ」を作製した。  自分に必要な支援を書き込める90p四方の布で、色は視覚障害者の要望で黄色。身体の不自由な人でも頭からかぶりやすいよう、中央部分に40pの切れ目を入れた。背中に羽織ったり、バンダナのように首や腰に巻いたり、包帯としても使用できる。ポンチョ、バンダナとして使うことができることから、「ポンダナ」と名づけた。 神奈川 障害者施設の自主製品紹介ガイドを配布  横浜市磯子(いそご)区役所は、区内の障害者施設の自主製品を区民に紹介するためのガイドブック「いそごでさがそ」を製作した。  障害者施設がつくったパン、クッキー、アクセサリーなどの製品、施設が運営する喫茶店の営業時間などをカラー写真を交えて紹介。地図も掲載している。A5サイズ18ページ。区役所、磯子区内地域ケアプラザなどで配布。 愛知 避難所で障害に応じた支援を  豊川市障害者地域自立支援協議会「地域生活部会」は、災害時などの場面で障害者を支援するとき、障害の特性に応じた支援方法を理解してもらうため、支援者向けのガイドブック「障害者と避難所で過ごすために…〜あなたの力が必要です〜」を作成した。  あわせて、障害者が自分の情報を記載でき、周囲の人に支援を求めるきっかけをつくるヘルプカードも一緒に配布する。 大分 「職場指導員」配置企業に奨励金  大分県は、精神・知的障害者の就労をサポートする「職場指導員」を配置した県内企業に奨励金を支給する。  対象は、障害者法定雇用率算定企業(従業員数45・5人以上)で県内に本社があり、精神・知的障害者を2018年4月以降に新規雇用した企業(雇用予定を含む)で、特例子会社、就労継続支援A型事業所でないこと。  県が実施する「職場指導員養成研修」の受講が必要。奨励金は月額2万円。受講の翌月、または研修受講後に雇用する場合は、雇用した翌月から支給する。期間は2年間。 生活情報 神奈川 ダウン症の子どもたちをスタンプで支援  ダウン症の子をもつ横浜DeNAベイスターズのアレックス・ラミレス監督は、同じ境遇の子どもたちをサポートしたいという思いから、LINE公式スタンプ「ラミちゃん ボイススタンプ」計24種類の販売を始めた。  ユニフォームやスーツ、私服姿のラミレス監督が「VICTORY!!」、「ファイト!」など野球に関連した文字と現れ、本人の声を聞くことができる。売上収益は、ダウン症など知的障害のある若者たちに輝く場所を提供することを目的にビューティーコンテストを行っている「スペシャルビューティージャパン」の活動に寄付する。 富山 市役所に障害者ショップ、オープン  氷見(ひみ)市内の福祉事業所が連携して発足した「氷見市福祉事業所物品販売等促進連絡会」が、氷見市役所1階に売店「Connect Shopタブの木」をオープンした。  お弁当、おにぎり、お菓子、手芸品などを販売。営業時間は月曜日から金曜日の午前11時から午後1時30分。障害者らが交代で接客をする。 働く 埼玉 特例子会社に認定  「武蔵野銀行」(さいたま市)が、障害者雇用促進を目的として設立した子会社、「むさしのハーモニー株式会社」が、県内の金融機関として初めて特例子会社に認定された。  設立は2017年5月。従業員7人、うち障害者は5人。名刺印刷、ゴム版などの事務用品・販促品の作成、パソコン入力などの事務作業を受託し、業務を行っている。 本紹介 『新版 障害者の経済学』  慶応義塾大学商学部教授の中島(なかじま)隆信(たかのぶ)さんが『新版 障害者の経済学』(東洋経済新報社)を出版した。  障害者本人のニーズに合わない障害者福祉制度でいいのか?障害者だからと特別視するのではなく、問題の根底にあるものを深く考えれば、障害者雇用の本質が見えてくる。脳性まひの子どもをもつ経済学者が、経済学の視点から、障害者を含めたすべての人が生きやすい社会のあり方を提言している。四六判236ページ、1728円。 『大丈夫、働けます。』  働きづらさを抱える人たちやその家族からの相談にのり、就労につなげる取組みを行っている「NPO法人 FDA」理事長の成澤(なりさわ)俊輔(しゅんすけ)さんが、『大丈夫、働けます。』(ポプラ社)を出版した。  視覚障害・てんかんと引きこもりの経験を持つ著者が、自身の生い立ちから就労支援のNPO法人立ち上げまでを綴り、再出発した人たちの事例も紹介。これまでの経験からあらゆる人材が戦力になるとまとめている。四六判230ページ、1512円。 平成30年度地方アビリンピック開催予定 9月〜10月 青森県、新潟県、山梨県、石川県、山口県、大分県 *部門ごとに開催地・日時が分かれている県もあります *  の県は開催終了 地方アビリンピック 検索 青森県 新潟県 山梨県 石川県 山口県 大分県 【P32】 掲示板 読者の声 黙々と競技課題に取り組む姿に感動 合志(こうし)工業団地協同組合 中小企業診断士 吉良山(きらやま)健三  アビリンピック熊本大会が6月3日(日)に熊本県立技術短期大学校で開催され、私は縫製とDTPの競技を見学しました。  縫製の競技会場に入ると、3人の選手が電動ミシンのスピードを早めたり、遅くしたりをくり返しながら、黙々と課題(エプロン制作)に取り組んでいる姿がありました。ピーンと張りつめた会場には、ミシンの音と選手を見守る関係者の温かい視線があるのみでした。  次に、DTPの会場へ向かいました。静まりかえった会場には6人の選手が。まず飛び込んで来たのは、モニターと睨(にら)めっこしているのではないかと思うような光景でした。瞬(まばた)きする時間さえ惜しむように、課題に取り組んでいる真剣な顔・顔・顔。いずれの選手からも凄(すご)みのある集中力を感じ、その源泉は何だろうと思いました。  会場を出て、スタッフの方に「選手が課題に黙々と取り組む姿、その集中力にただただ感動している」と話しかけると、「競技開始からすでに2時間が経過しようとしているが、一言も発せず、ひたすら競技に打ち込んでいる」との言葉が返ってきました。  5年前にアビリンピックを知り、そのたびごとの競技選手のひたむきな姿が浮かんできます。今回も、かけがえのない出会いとなりました。 ※31ページに地方アビリンピック開催予定を紹介しています。 次号予告 ● 私のひとこと  聴覚に障害のある方のキャリアアップを目ざすため、勉強会などの場を提供している「聴覚障がい者キャリアアップ研究会」の代表を務める宮本治之さんに、ご執筆いただきます。 ● 職場ルポ  株式会社ミツバの特例子会社、株式会社アムコ(群馬県)を取材。障害者が活躍する職場の取組みと、設立当時の様子などをお伝えします。 ● グラビア  平成30年度「障害者雇用支援月間ポスター原画 入賞作品」をご紹介します。 ● 編集委員が行く  箕輪優子編集委員が、東京都立光明学園と日本マイクロソフト株式会社(東京都)を訪問。ITトレーニングの様子や、障害者のキャリアアップに向けた取組みなどを取材します。 <働く広場の読者のみなさまへ> 2018年9月号は、「平成30年度障害者雇用支援月間ポスター原画 入賞作品」の公表日の関係から、お手元に届く日程が通常よりも数日遅れることが見込まれています。ご不便をおかけしますが、よろしくお願いします。ご不明の点は、当機構企画部情報公開広報課(電話043-213-6216)までおたずねください。 本誌を購入するには―― ●定期購読は、インターネットからのお申し込みが便利です。バックナンバーも購入できます。 インターネットから定期購読 富士山マガジンサービス 検索 ●(株)廣済堂にお申し込みいただいても購入できます。1冊からの購入も可能です。  TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 編集委員 (五十音順) 埼玉県立大学教授 朝日雅也 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 山陽新聞社会事業団専務理事 阪本文雄 枚方総合発達医療センター 事務部 地域支援準備室 諏訪田克彦 一般社団法人Shanti 武田牧子 あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすく センター長 原 智彦 株式会社ダイナン 経営補佐 樋口克己 東京通信大学教授 松爲信雄 有限会社まるみ代表取締役社長 三鴨岐子 横河電機株式会社 箕輪優子 あなたの原稿をお待ちしています ■声−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発 行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 発行人−−企画部長 小林 淳 編集人−−企画部次長 中村雅子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 電話 043-213-6216(企画部情報公開広報課) ホームページ http://www.jeed.or.jp メールアドレス hiroba@jeed.or.jp ●発売所−−株式会社 廣済堂 〒105-8318 港区芝浦1-2-3 シーバンスS館13階 電話 03-5484-8821  FAX 03-5484-8822 8月号 定価(本体価格129円+税) 送料別 平成30年7月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 【P33】 第26回 職業リハビリテーション研究・実践発表会 入場 無料 平成30年11月8日(木)・9日(金) 東京ビッグサイトで開催! みなさまのご参加をお待ちしています。  「職業リハビリテーション研究・実践発表会」は、職業リハビリテーションに関する研究成果の発表をはじめ、就労支援に関する実践事例や企業における障害者の雇用事例を紹介し、参加者相互の意見交換や情報共有を図るものです。昨年は1,156人の方が参加されました。  今年は以下の日程で開催します。 11月8日(木) 基礎講座  職業リハビリテーションに関する基礎的事項に関する講義「精神障害」「発達障害」「高次脳機能障害」 ●支援技法普及講習  職業センターで開発した支援技法の普及講習 ●特別講演  「障害者雇用は『働き方改革』の決め手になる」小島 健一氏(鳥飼総合法律事務所 弁護士) ●パネルディスカッションT  テーマ「実雇用率の低い業種における障害者雇用の取組について」 11月9日(金) ●研究発表(口頭発表)  テーマごとに分科会を設定 ●研究発表(ポスター発表)  発表者による説明・参加者との討議 ●パネルディスカッションU  テーマ「障害者のキャリアアップについて考える」 研究発表の内容  障害者職業総合センターの研究成果の発表に加え、企業や教育、福祉、医療、研究機関など、さまざまな分野の方々が発表をします。昨年は「就労支援機関と精神科医療機関の効果的な情報交換のあり方に関する研究」、「就職した求人種類と離職理由からみた障害者の職場定着支援−『障害者の就業状況等に関する調査研究』から−」など123題の発表が行われました。  過去の論文集は、 職リハ発表会 検索 でご覧いただけます。 参加者の募集などについて  参加者の募集とプログラムの詳細は、8月下旬ごろ下記ホームページなどでご案内する予定です。 事務局 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 研究企画部企画調整室(千葉市美浜区若葉3-1-3) TEL:043- 297- 9067 E-Mail:vrsr@jeed.or.jp  HP:http://www.nivr.jeed.or.jp 特別講演の様子 ポスター発表の様子 【裏表紙】 8月号 平成30年7月25日発行 通巻491号 毎月1回25日発行 定価(本体価格129円+税)