【表紙】 令和元年7月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第503号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2019 8 No.503 職場ルポ 物流倉庫を舞台に「働く意識」が向上 SBフレームワークス株式会社 柏事業所(千葉県) グラビア 「退職者を出さない」取組み 生活協同組合コープかごしま 産直センター(鹿児島県) 編集委員が行く 障害のある大学生の修学およびキャリア支援の取組み 法政大学、早稲田大学(東京都) 私のひとこと 発達障害のある人の雇用と職場定着は、社内全体で仕事として取り組もう 就労移行支援事業所さら就労塾@ぽれぽれ 職業指導員 對馬陽一郎さん 「ゆめは水族館の飼育員」大阪府・辻内(つじうち)裕哉(ゆうや)さん 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています 8月号 【前頁】 心のアート 潜水艦 藍野雄琉 (特定非営利活動法人アートキャンプ新潟) 画材:画用紙、マーカー、デジタル彩色/サイズ:210×297mm  潜水艦の絵を描きました。僕の好きな人たちが乗っています。運転しているのが僕で、まんなかにいるのが大好きなヒカキンさんです。潜水艦にはキッチンもあって、コックさんもいます。この絵はペンで描いた線を、パソコンに取り込んでもらって色塗りしました。最初は背景を赤にしましたが、海のなかなので水色に変えました。隣の色と同じにならないように工夫しました。色塗りのとき、間違ったところをクリックすると全部に色がついてしまうので、むずかしいけど面白かったです。 藍野雄琉(あいの ゆうり)  2007(平成19)年8月12日生まれ。新潟市在住。ダウン症があり、特別支援学校に通う6年生です。  現在は、放課後等デイサービス「みいむ」で、工作をしたり、スケッチに出かけたりして、アート活動を楽しんでいます。 文:代筆 中村友香(特定非営利活動法人アートキャンプ新潟) 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2019年8月号 NO.503 心のアート−−前頁 潜水艦 作者:藍野雄琉(特定非営利活動法人アートキャンプ新潟) 私のひとこと−−2 発達障害のある人の雇用と職場定着は、社内全体で仕事として取り組もう 就労移行支援事業所さら就労塾@ぽれぽれ 職業指導員 對馬陽一郎さん 職場ルポ−−4 物流倉庫を舞台に「働く意識」が向上 SBフレームワークス株式会社 柏事業所(千葉県) 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 NOTE−−10 働く障害者の高齢化 Vol.2 雇用継続への取組み事例(身体障害編@) インフォメーション−−12 「合理的配慮の提供」に関する事例「障害者雇用事例リファレンスサービス」/「障害者の職場定着と戦力化」〜障害者雇用があまり進んでいない業種における雇用事例〜/2019(令和元)年度 就業支援課題別セミナー「 高次脳機能障害者の就労支援」のご案内 グラビア−−15 「退職者を出さない」取組み 生活協同組合コープかごしま 産直センター(鹿児島県) 写真:小山博孝・官野 貴/文:小山博孝 エッセイ−−19 第1回「やればできる」から「やれることを活かす」へ 神田東クリニック副院長 佐藤恵美 編集委員が行く−−20 障害のある大学生の修学およびキャリア支援の取組み 法政大学、早稲田大学(東京都) 編集委員 箕輪優子 霞が関だより−−26 平成31年度 障害保健福祉部予算案の概要(2) 厚生労働省 障害保健福祉部 研究開発レポート−−28 −地域ネットワークにおける支援の困難さに対する地域障害者職業センターの役割− 調査研究報告書144「支援困難と判断された精神障害者及び発達障害者に対する支援の実態に関する調査」 障害者職業総合センター研究部門 社会的支援部門 ニュースファイル−−30 掲示板−−32 表紙絵の説明 「テレビで水族館の飼育員の様子を見て、将来『ぼくもやりたい』と思い、描きました。あまり困ったり苦労した点はなく、思い通りにスッと描けました。先生もほめてくれました。受賞したことで、自分の自信になりました」 (平成30年度障害者雇用支援月間ポスター原画募集 小学校の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。(http://www.jeed.or.jp) 【P2-3】 私のひとこと 発達障害のある人の雇用と職場定着は、社内全体で仕事として取り組もう 就労移行支援事業所さら就労塾@ぽれぽれ 職業指導員對馬陽一郎 戦力化するための工夫が大切  障害者雇用を取り巻く環境は、ここ十年ほどの間でも大きく変化してきた感がある。  制度上の変化も大きいが、雇用する企業側の姿勢もだいぶ変わってきた。コンサルタントを入れて環境を整え、福祉の経験者を採用して現場での指導に充(あ)てるなど、障害者枠で採用した社員の定着と戦力化に力を注ぐ企業が目立ってきた。以前はほとんどなかった正社員の待遇としての募集や、フルタイムで新卒初任給程度の給与額を提示する企業も見受けられるようになった。障害者枠を満たすことを急ぐばかりでなく、きちんと戦力化を考え採用する企業が増えてきたことを感じさせる。  この変化のひとつとして、発達障害への注目がある。メディアでも「大人の発達障害」の話題は、一時期トレンドになった。障害者雇用においても、これは同様だ。雇用の対象として発達障害のある人に着目し、環境を整えることで戦力化を図る企業も出てきている。なかには、発達障害のある人を中心に採用し、戦力化するための強力なノウハウを構築して成果を出している企業もある。  これらの企業ではどのような採用活動を行い、また採用した人を戦力化していくためにどのような工夫を行っているのか。企業の担当者にお話をうかがって気づいたのは、採用したい人物への明確なイメージを持っていることだ。発達障害は、人によってさまざまな特徴が見られる。そのなかで、自社内で対応可能なタイプの方であるか、用意した仕事に馴染(なじ)めそうかを確認して採用を決めている。  例えば、コミュニケーションが苦手でも、インターネットによる検索が得意な人を集め、インターネットによる営業先情報などの調査業務を任せる。必要な報告・連絡・相談はすべて社内チャットで行い、彼らの苦手なことをフォローする。  こうした企業の基本的な方針は、彼らの苦手なことを努力で克服させようとするのではなく、またフォローのためにほかの社員を四苦八苦させるわけでもなく、はじめからその苦手なことが問題にならないシステムをつくることにある。もちろん、あらゆる特性への対応は不可能だ。だからこそ初めから採用したい人物像を想定し、慎重に応募者を選定していくのである。 社内全体で環境を整備  しかしもちろん、こうした準備を行える企業ばかりではない。もともと障害者採用枠が少なく、2〜3人しか採用の予定がない企業では、前述のような専門のチームをつくるといった採用はむずかしい。すでに雇用をしているという職場もあるだろう。  しかし、こうした企業でも、前述の企業のような取組みは参考になる。少人数しか採用しない場合であっても、特性を想定して環境と仕事を準備しておくことは有効だ。ただ、同じ職場で当人にだけ特別なルールやシステムを適用することは、当事者の孤立を招きやすい。できればその部署だけでも、あらかじめ想定する特性をもとに、受け入れやすい仕事のシステムや環境を構築しておきたい。それは例えば、社内チャットや机を仕切るパーティション、業務手順の明文化だったりする。こうした環境をつくりやすい部署を選定し、システムをつくっていくのはたしかに手間はかかるが、できあがった職場はいまいる社員にとっても決してマイナスになるものではない。  また、すでに障害のある人を雇用している場合には、採用した人物をしっかりと観察する必要がある。どのようなことが苦手で、どういう場合にギャップが生じやすいのか。例えば「言い訳が多い」といった性格の問題に見える部分も、いったん特徴のひとつとして並べて検討する。特徴がわかったら、今度はこれに対応できる環境を考える。環境を考えるためには、専門家の助力を仰ぐ必要もあるかもしれない。特性にもよるが、簡単な道具ひとつ、指示の工夫ひとつで解決に至る場合もある。  障害者雇用を成功させている企業に共通していることは、障害者雇用を社内全体の取組みとして考えていることだ。これは、発達障害にかぎらない。例えば、車いすを利用する人を雇用する場合でも、通路を確保し床に物を置かないなどの配慮を周知させる必要がある。採用前から現場の人を巻き込んでいければ、こうした準備もむずかしくなくなる。  例えば、必要に応じて教え方や手順を変え、仕事を切り出して整理する。これらを実行する場合に、現場の人の事前の理解がなくては、摩擦が生じてくる。新卒採用が社内全体の取組みであるのと同様に、障害者雇用も社内全体で考える必要がある。 採用にあたり知っておきたいこと  採用に際しては、地元の就労支援センターや地域障害者職業センターに相談してみてもよい。これらの機関に採用前から相談しておけば、障害についての知識も得ることができる。採用時に人を見るべきポイントも、障害という観点も含めて、示してもらえるだろう。  支援機関としては、応募してきた個人を指して「この人はどうですか」と質問を受けても答えにくい。一方で、これから求人を行う段階で「どんな人がよいと思いますか」、「どんな仕事が合いますか」という質問であれば答えやすくなる。「こういう仕事ができる人を求めている」、「こういう性格の人を求めている」と情報を共有しておけば、支援機関側でも登録者から適した人を選びやすい。支援機関と直接話ができる関係性をつくっておくことで、得られるメリットは大きいはずだ。  大きな企業グループであれば、グループ内に特例子会社を持つ場合もある。特例子会社には、障害者雇用のノウハウが豊富にある。自社で障害者雇用を考えていくとき、同じグループに特例子会社があるならば、積極的に頼りにしたい。  さて、せっかく採用をして、本人が順調に業務をこなしていたとしても、一年も経たずに調子を崩して離職してしまうこともある。  離職の理由としては、環境には適応していても、業務内容が希望と合っていないという場合がある。採用の際に慎重に検討することももちろんだが、できれば見学だけではなく、実習を採用前に組み入れたい。  仕事に慣れてから目標を見失い、次第にやる気が落ちて離職してしまうというケースもある。対策としては障害のある従業員のための評価テーブルをつくり、昇給の制度などを整えていくことが考えられる。また、契約の更新ごとに不安になって不調に陥り、出勤が不安定になってしまうというパターンもある。実績に応じて徐々に更新頻度を減らす、限定正社員制度を取り入れるなど、処遇を見直すことも検討していきたい。 對馬陽一郎 (つしま よういちろう)  弘前大学人文学部卒業。IT系企業を経て2009(平成21)年5月、特定非営利活動法人さらプロジェクトに入職。発達障害のほか、精神・知的・身体障害など、さまざまな障害のある人に向けた職業訓練と就労支援を行っている就労移行支援事業所「さら就労塾@ぽれぽれ」で、働くうえで必要となるパソコン操作や事務業務を中心とした職業訓練にたずさわる職業指導員。著書に『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が上手に働くための本』、『ちょっとしたことでうまくいく 発達障害の人が会社の人間関係で困らないための本』(翔泳社)がある。 【P4-9】 職場ルポ 物流倉庫を舞台に「働く意識」が向上 ―SBフレームワークス株式会社 柏事業所(千葉県)― 物流倉庫でイキイキ働く障害者チームがあるSBフレームワークス。 一人ひとりが「働くこと」の意識・意欲を高め、戦力化を図っている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ SBフレームワークス株式会社 柏事業所 〒277-0804 千葉県柏市新十余二(しんとよふた)3番地1 GLP柏物流センター1F TEL 04-7134-9121 FAX 04-7134-9101 Keyword:物流、知的障害、精神障害、身体障害、就労移行支援、特別支援学校 POINT 1 障害特性にとらわれず、意欲があれば新しい業務に挑戦 2 一般従業員もかかわるなかで、ナチュラルサポートを自然に形成 3 実習生を頻繁に受け入れ、職場を刺激しメンバーの成長をうながす 社長自ら旗振り役に  ソフトバンクグループの物流部門が独立した「SBフレームワークス株式会社」は、青海(あおみ)本社(東京都江東区)をはじめ3事業所(柏市・千葉市・大阪市)に物流拠点を持つ。このうち柏事業所を中心に、2009(平成21)年から本格的な障害者雇用が始まった。きっかけは障害者雇用率未達成の解消だった。2000年から社長を務めた現会長の中本(なかもと)浩(こう)さんが、自ら地元の就労移行支援事業所に電話をかけるなどして、旗振り役となった。障害者6人(知的障害3人、精神障害3人)からスタートしたが、いまでは社内全体で計12人(身体障害1人、知的障害8人、精神障害3人)となり、そのうち柏事業所には10人が配属されている。常用雇用労働者400人弱に占める障害者雇用率は3・6%(2019年5月現在)だ。  柏事業所に所属する障害のある従業員が主に担当している業務は、通信機器(モデム)などの発送・返品処理業務。具体的には部材の仕分け、梱包部材の事前準備、返品の仕分け、梱包作業などとなっている。繁忙期にはどうしても人手が不足するため、臨時の派遣・アルバイト従業員や他部署の社員らも業務をサポートするなど、人員が流動的な職場だ。 巨大な物流倉庫  つくばエクスプレス線 柏たなか駅から徒歩約15分。柏事業所は、GLP柏物流センターの1階部分7千坪におよび、毎日70人ほどの従業員が勤務している。現場は巨大な物流倉庫。山積みの段ボール箱やベルトコンベアーに囲まれた場所で、朝9時から障害のある従業員のチーム「はつらつ」の朝礼が始まる。  「今日は、ぼくらの様子を文章で書いて雑誌で紹介してくれるということで、取材に来てもらっています。いつも通りにやってくださいね」と従業員に呼びかけていたのは、経営戦略本部人事・総務部の伍嶋(ごしま)善雄(よしお)さん。ソフトバンクグループで勤続34年、出版・営業・総務人事部などを経験し、2013年からこの現場で、障害者雇用担当として障害のあるメンバー(以下、「メンバー」)たちのコーチ役を務めている。  さっそく倉庫内の一角で、モデム機器などにつなげるケーブルの仕分け作業が始まった。袋入りの未使用のものと使用済みのものが、次々に大きな箱に種類別に仕分けられていく。この日は、千葉県立柏特別支援学校流山(ながれやま)分教室から実習生が1人来ていた。1年次に職場見学に訪れ、2年次には週に1回、計5日間の日程で実習に通ってくるのだそうだ。  伍嶋さんが作業手順の確認などをしていると、伍嶋さんに笑顔でハイタッチを求めてきた男性がいた。大島(おおしま)啓(けい)さん(30歳)だ。6年前の入社時は数を数えることが苦手だったが、枠のなかに数字を書いたボードを使うなどして、10以上の数にも対応できるようになった。また、業務報告やミスが発生したときの対処方法も身につけたそうだ。  この作業現場の班長を務める坂田(さかた)慶介(けいすけ)さん(45歳)は、柏事業所で障害者雇用が始まった2009年に入社してきた。「以前勤めていた会社は、福利厚生が整っていなかったので、転職してきました」と教えてくれた。いまでは現場の業務全般をこなせるベテランだ。  「ここはいい仲間がいて、みんなで協力して作業ができます。伍嶋さんは明るくて、たまにちょっと厳しいですが、頼りがいがあります」  ちなみに坂田さんは今年、インセンティブ制度(※)で金一封をもらった第1号だ。出退勤や職能、伸びしろなどを部署のリーダーが評価した結果だという。  そばで黙々と作業していた市島(いちじま)孝洋(たかひろ)さん(28歳)は、以前は現場で感情が高ぶることもあったそうだが、伍嶋さんいわく「少しずつ努力して、感情をコントロールすることができるようになってきた」そうだ。市島さんに話しかけると「仕事はむずかしくないです。働くことが好きです。家族も喜んでいます。いっぱい働いて、お給料をたくさんもらうことが目標です」と話してくれた。  別の一角では、使用済みのACアダプターが無造作に詰め込まれた段ボールが積み上がっていた。さまざまな機種が混じっているため、ここで分別し、リサイクルするため工場に戻すのだという。この日は、地元の多機能型事業所(NPO法人あじさいの会が運営)から、施設外就労として週1回通ってきている6人が担当していた。箱に囲まれた狭い通路を忙しそうに動いていたのは、成島(なるしま)高文(たかふみ)さん(28歳)。伍嶋さんは「彼はアダプターの仕分け梱包がとても速いんですよ。9時から15時までの勤務ですが、多いときは1日に70箱(2800個)分を処理します。派遣社員がフルタイムでこなす量の倍以上のスピードで作業をします」と太鼓判を押す。ここでの経験を活かして、ほかの企業に就職していく人たちも少なくないそうだ。  メンバーのなかには現在、サポーターと呼ばれる従業員が2人いる。その1人である中村(なかむら)恵美(えみ)さんは、足に障害があるため膝に補助器具をつけている。伍嶋さんからのすすめで2014年に障害者職業生活相談員の資格を取り「サポーター」になったそうだ。  「現場を見まわりながら、毎日必ずメンバー全員と一人ずつ会話をするよう心がけています。仕事や日常生活のことも含めて普段と変わったところがないか、悩んでいるようなことはないか、様子を確認します。私自身は笑顔を大切にしています。メンバー同士にはライバル意識もあり、たまに意見のいいあいもありますが、仲裁したあと、それぞれから話を聞いています」  気苦労も少なくない役目のようだが、「作業だけをやっていたときよりも、やりがいを感じるようになりました。最近も伍嶋さんがいない日にメンバーから『どうすればいい?』と聞かれ『少しは頼られているのかな』と感じています」と笑顔で話してくれた。  中村さんは、季節によって足の痛みが悪化することがあり、1時間遅い出社のシフトにする時期もある。「勤務時間を柔軟に設定できて、本当にありがたいです」と中村さん。  もう一人のサポーターである大森あゆみさんは、2017年に一般雇用枠で入社。チームメンバーと一緒に働く様子から「なにごとにも動じない姿勢を有する」と伍嶋さんから評価されての抜てきだった。大森さん自身、それまで障害のある人とかかわったことは一度もなく「障害にはもっと働くことがたいへんそうなイメージがあったのですが、逆に『こんなことも得意なんだな』と驚かされることが多いです」と話してくれた。いまは、自分が手を出さずにメンバー自身で作業をやり通せる方法を模索中だ。 トラブルは日常茶飯事  職場は和気あいあいとした雰囲気だが「トラブルは日常茶飯事です」という伍嶋さん。派遣社員やアルバイトなども多く、従業員の出入りが激しいため、周囲とのトラブルが発生しないよう工夫をしているという。  「例えば、障害のある従業員にふだん通り呼びかける場面を見てもらうことで、入社したばかりのほかの従業員に、障害のある従業員が社内で一緒に勤務していることや、それぞれの特性などを認識してもらいます」  こうして周りの理解が進み、ほかの場所で何かトラブルがあったときもすぐに知らせてくれることが増えた。「本人の行動パターンのようなものを覚えてもらうと、それがナチュラルサポート(※)にもつながります」と伍嶋さん。  注意だけでは解決しないこともある。手洗いに毎回15分かかるメンバーがいて、昼食時間にほかのメンバーがトイレに入れないなどの支障が出ていたケースでは、手洗いの時間を短くできないか指導してみたもののむずかしそうだとわかり、いまは本人だけ休憩時間を15分ずらすことで対処している。  「本人に悪気はなくとも、周囲との予期せぬトラブルはたくさんあります。結果的に本人も周囲も納得できるような着地点を見い出すようにしています」  伍嶋さんは、やみくもに試行錯誤をしているわけではない。もともと大学で心理学を専攻しており、福祉系の職場に進んだ同窓生も少なくない。「当時学んだ基礎的な知識の掘り起こしに加え、大学時代の友人たちにも相談し、学び直しています。最近は講演会への参加をきっかけに、大学の研究発表会にも足を運んで参考にしています」  3カ月に1回ほど、地域の意見交換会にも参加している。障害者就業・生活支援センター「ビック・ハート柏」が主催で、障害者雇用を進める企業や就労移行支援事業所、特別支援学校の先生たち60人ほどが集まり、事例発表やグループワークなどを行っている。「顔の見える横のつながりができ、実習や職場見学などで連携しやすい環境になっています」と語る。  それでも伍嶋さんは、年に何回か、中本会長のところに行って悩みを相談するそうだ。「どのような仕事であっても、悩みや疲労は少しずつ蓄積します。会長はとても理解のある人なので、すべて聞いてくれて『それはたいへんだったね』と慰労してくれる。ただ『その分、やりがいもあるでしょう』といわれ『はい、そうです』と返すのですが」と苦笑する。トラブルが頻繁にあっても、「やりがいがある」と断言できるのは、たくさんの成長があることと、メンバーたちが「ここで働くのが好き」といってくれるからだという。 社員旅行も成長のチャンス  メンバーたちにとっては、年1回の1泊社員旅行も大きな楽しみの一つだ。ここでも新しいチャレンジと成長がある。例えば、風船工場の見学に行くことになったとき、ある保護者から「風船を見ただけでパニックになる」という相談があった。伍嶋さんは前もって工場から風船を送ってもらい、一緒にふくらませて触れさせたりした。その結果、本人は工場でも同僚と一緒に風船でボール遊びを楽しむことができた。また、ボーリング大会のときには「騒音に敏感なので欠席します」と保護者にいわれたが、本人は行きたがっていたため、「自分で『行きたい』と話してごらん」とうながした。当日はみんなと楽しくプレーできたそうだ。  「保護者のみなさんは、昔のままだと思いがちですが、メンバーたちは働きながら、どんどん成長していますからね」  新たな職域拡大にも挑戦中だ。その一つが仕分け作業の第一段階である「バラシ作業」だ。返送されてきた使用済みモデム機器を箱から出し、リサイクルするもの、廃棄するものなど、それぞれに分けてコンベアーに載せていく重要な作業だ。メンバーのうち坂田さんら2人が研修を受けており、様子を見て本格的に担当してもらうつもりだという。  「最近は職場全体が人手不足に向かっていることなどから、今後、一般の作業現場にも、障害のある従業員を配置していきたいと考えています」 実習生と親と先生  柏事業所は年間を通して、県内外の数多くの特別支援学校や就労移行支援事業所などから実習生を受け入れている。期間は1週間から10日間。「来るもの拒まず大歓迎です。実習生が来てくれると現場がリフレッシュしますから。メンバーたちは教える経験ができ、緊張感を持って取り組むようになる。精神的な成長につながります」と伍嶋さんは話す。  一方で、特別支援学校からの実習生に対しては「会社で働くこと」についての指導に力を入れている。実習に入る際には、必ず事前面談を行う。そこでは「四つの約束」をはじめ、テーマ別に、働くための心構えなどを説明する。  「四つの約束の2番目の『わからないことはわからないという』ことは、決して恥ずかしいことではなく、むしろそういわなければ仕事にも支障が出ることを何度も伝えます」と伍嶋さん。  また、実習の際は「指示を、きちんと聞くことができるか」、「目を、合わせられるか」、「ルール、時間を守れるか」といった点を確認することをあらかじめ示している。  こうした数々の「働くこと」について考えるための提示は、保護者や学校の先生たちにも向けられている。  「学校や就労移行支援事業所では、作業のテクニックばかり教え込もうとしているケースが少なくない。作業内容はぼくらがいくらでも教えます。それよりもまず、社会人になるための基礎を身につけておいてほしいのです」と伍嶋さんは話す。  例えば、ある実習生が交通系ICカードを使って通ってきていたが、売店で買い物に使いすぎて残高がなくなってしまったという。  「すぐに親に電話して迎えに来てもらったそうですが、現金は持っていたそうです。ICカードにチャージする方法、切符を買う方法を知らなかった。こういう基本的な生活スキルこそ家庭や学校で教えておいてほしいと実感しました」  一方で、本人に任せず教え過ぎる先生にも注意をうながしているそうだ。「教室で移動した机の配置を元に戻すときも、毎回場所を教えるのではなく、『◯◯時までに元通りにして』という指示をすれば、生徒たち自身で試行錯誤しながら達成できる場合がある。できるかもしれないことをトライさせないのは一番よくない。“指示待ち人間”をつくっているのは大人たちです」  実習の最終日には、保護者や先生を交えた事後面談も行う。伍嶋さんは実習中に気づいたことを細かくメモにまとめておき、本人の伸ばすべき「よいところ」、「注意すべきところ」などを伝えながら、就職活動に向けたアドバイスをする。  伍嶋さんは、いまでは特別支援学校などに呼ばれて生徒や保護者向けに話をすることも多いそうだ。そこで話すのは「就労の可否は、障害の程度によるのではなく、本人がどこまで働くことに意欲を持っているかということです。『うちの子は重度だから就職できない』という保護者の方もいますが、そういう大人たちの意識を変えたい。子どもたちは変わっていけるということを、もっと知ってほしいですね」 ※インセンティブ制度:業務の成果や実績に応じて給料や賞与などを変化させる制度のこと ※ナチュラルサポート:職場の従業員による、障害のある従業員へのサポート 働くための心構え 資料提供:SBフレームワークス株式会社 通信機器(モデム)の発送業務で、説明書などを箱に封入する渡辺(わたなべ)翼(つばさ)(31歳)さん 朝礼で、当日の作業内容、各自の目標などを確認する 柏事業所は、通信機器の発送・返品処理業務を行っている メンバーから慕われている伍嶋さん。笑顔で仕事への集中をうながす 経営戦略本部人事・総務部の伍嶋善雄さん 数字の上に対象物を置くことで、数を数えることが苦手な従業員でも計数作業ができる 返送用伝票を封入する大島啓さん 返品物を材料ごとにリサイクルするため、仕分けを行う坂田慶介さん アダプターが収められたコンテナを運ぶ成島高文さん 箱のテープ止めを行う市島孝洋さん。発送業務ではていねいさも求められる お昼休憩に向かう中村さんを、率先してサポートする渡辺さん 「笑顔を大切にしている」と話すサポーターの中村恵美さん サポーターに抜擢された大森あゆみさん バラシ作業では、カッターなどの刃物も使うため、注意力が求められる 【P10-11】 NOTE 働く障害者の高齢化Vol.2 雇用継続への取組み事例(身体障害編@)  本テーマの第2回から第4回までは、障害のある高齢従業員への対応を進める企業を取り上げていきます。  今回は、「雇用継続への取組み事例(身体障害編@)」として、本田技研工業株式会社の特例子会社「ホンダ太陽株式会社」(大分県)の事例をご紹介します。 数年前から高齢化が課題に  ホンダ太陽株式会社は、本田技研工業株式会社の創業者である本田(ほんだ)宗一郎(そういちろう)氏と、社会福祉法人太陽の家の創設者である中村(なかむら)裕(ゆたか)博士の「障害のある人達の社会的自立の促進」という理念のもと、1981(昭和56)年に設立された、本田技研工業株式会社の特例子会社です。製造業における障害者雇用のパイオニアであり、特例子会社としては全国で9番目に認定されました。  設立から38年を迎える同社は、特例子会社として歴史ある企業ゆえの課題も抱えています。同社総務部部長の廣瀬(ひろせ)正明(まさあき)さんにお話をうかがいました。  「設立当初の従業員の平均年齢は30代前半でしたが、会社の歩みとともに従業員も年齢を重ねて、現在の平均年齢は40歳です。障害のある従業員の加齢化は、数年前から当社の課題となっています。当社の業務は、基本的に流れ作業で行っていますので、障害のある従業員の加齢化により、既存の組立て業務での対応がむずかしくなり、仕事ができなくなるという状況があります。対応策として、流れ作業の『作業分解』や、治具(じぐ)(※)を製作して、できないことをカバーし活躍してもらう場をつくっています」 「作業分解」で高齢化への対応  「作業分解」とは、流れ作業において作業工程を部分的に抽出することです。製造部製造課第1製造係係長の成久(なりひさ)智彦(ともひこ)さんにうかがいました。  「重度障害のある高齢従業員の場合、流れ作業の一部をになってもらうことがむずかしくなる場合があります。女性従業員(57歳)の事例では、以前はドライバーで円盤を押す作業を行っていましたが、年齢を重ねるにつれ、手が震えてねらいが定まらなくなりました。このままだと事故や機械の故障にもつながりかねないため、早めの対処として、その業務をほかの従業員に移行して、女性従業員には『作業分解』によってワッシャー分け作業などにシフトしてもらいました。そのほかにも、シールやパッキン貼りなど、作業分解で得られた作業があります。『この作業ならできそうだ』と現場が判断して、個人の能力に合わせて作業の振分けをしています。作業分解により、以前と変わらないスピードで業務が遂行できるように、改善を心がけています」 治具と車いすの活用で業務の安定化  続いて、比較的重度の障害のある男性従業員(57歳)の作業状況を紹介します。この男性従業員は、車いすに乗りながら、ホースにクリップをつける作業を行っています。  製造部生産管理課係長の加藤(かとう)和徳(かずのり)さんが状況を話してくれました。  「彼が車いすに乗り始めたのは、5〜6年ほど前です。加齢による筋力低下により何度か転倒したため、事故につながらないよう早めに対処し、車いすに乗って作業を行ってもらうことになりました。当社では加齢により、車いすに乗りながら作業する従業員が増えています」  さらに加齢化に対応するうえで、治具の活用も重要になります。同社は、治具で特許を取得するなど、治具づくりにも定評があります。  「治具を使用することで、障害のある従業員も作業スピードを速めることができます」と加藤さん。  また、廣瀬さんは「現場で意見を交わしながら、作業がしやすくなる治具を製作したり、もともとあった治具を使いやすくカスタマイズしています。作業上の困りごとは治具を使って改善し、ユニバーサルデザインという観点から配慮した対応を行っています」と話してくれました。 今後の対策、留意すべき点  加齢という課題に対して、今後はどのような取組みを考えているのでしょうか。  「当社はもともと製造業が中心でしたが、パソコンで行うスキャナー業務などへシフトすることも進めています。しかし、そういった業務に対応するのがむずかしい高齢従業員もいます。そのため、いろいろ模索しながら、業務のバリエーションを増やしていかなければと考えています」と廣瀬さん。  また、製造部製造課第2製造係2班班長の渡邉(わたなべ)昭次(しょうじ)さんは、作業現場の状況について、「『製造ラインのメインではなくサブに回してほしい』という従業員もいます。自分が作業についていけず、周りにも迷惑がかかるから、という理由です。そういう場合も、状況を見ながら工夫してなるべく残ってもらうようにしています。加齢によりできなくなることが増えたとしても、『チャレンジしながらレベルアップしてほしい』という気持ちでいます」と話してくれました。  加齢化への取組みは、現状ではまだ模索段階だそうです。今後は、特例子会社として親会社の理解と協力を得ながら、加齢化が進んでも効率的に作業できる環境づくりが、さらに求められてくると考えます。 ※治具:作業を行ううえで、部品や工具を固定するとともに誘導してくれる器具 総務部部長の廣瀬正明さん 左から、製造現場のリーダーを務める渡邉昭次さん、加藤和徳さん、成久智彦さん ワッシャーの表裏を分ける女性従業員 治具を使い、ホースにクリップをつける作業を行う 車いすに乗った従業員が多く働く製造ライン 【P12-14】 インフォメーション ホームページで紹介しています! 「合理的配慮の提供」に関する事例 「障害者雇用事例リファレンスサービス」 https://www.ref.jeed.or.jp/  2016年4月から、事業主に、障害者が職場で働くにあたっての支障を改善するための措置を講ずる「合理的配慮の提供」が義務づけられています。  しかし、「どのような配慮をすればいいのかわからない」という企業の方や、「企業から相談されたが、どのように助言すればよいか迷う」という支援者の方もいらっしゃるのではないでしょうか。  「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、障害者の雇用に取り組んでいる企業の取組みを紹介し、「合理的配慮の提供」に関する事例(合理的配慮事例)を掲載しています。  今後、企業や支援機関のみなさまに役立つ事例を追加掲載していきますので、ぜひご利用ください。 業種や従業員規模、障害種別などの条件を設定して事例を検索することができます。 参考:発達障害者の事務職における合理的配慮事例 みなさまのお役に立てるホームページにしたいと考えていますので、「障害者雇用事例リファレンスサービス」のホームページからアンケートへのご協力をお願いします。 ホームページで紹介しています! 「障害者の職場定着と戦力化」 〜障害者雇用があまり進んでいない業種における雇用事例〜 http://www.jeed.or.jp/disability/data/handbook/employment_casebook.html  障害者雇用があまり進んでいない業種に着目し、主に中小企業において障害者の職場定着と戦力化に取り組んでいる14事例を掲載。  取組みを通じて得られた障害者雇用のメリット、職場定着のポイントなども紹介しています。  当機構ホームページに掲載していますので、ぜひご覧ください。 掲載内容の一部をご紹介します 株式会社杢目金屋(もくめがねや) 【製造業・東京都渋谷区】 <職場定着のための取組み>  1.指導担当者の配置  2.健康状態のきめ細かな把握  3.スキルとモチベーションの向上 ○障害のある社員の従事業務  地金の切り出し、加工、仕込み、磨き作業  業務の分業化に加え、障害者個人のスキルの上達度がわかるスキルマップシートを活用し、障害者の戦力化を図っています。  また、作業日報を活用して体調の変化や指導内容の習得具合を確認するほか、体調の変化に自分で気づけるよう、セルフケアシートを活用して睡眠時間や気分などを記入するなどの実践をしています。 株式会社I.S.コンサルティング 【サービス業・兵庫県神戸市】 <職場定着のための取組み>  勤務時間の配慮 <社内の理解促進のための取組み>  社内説明会の実施 ○障害のある社員の従事業務  Webページの企画や作成編集、Facebookページと社内共有サイトの管理など  障害者を雇用するにあたって、社内には受入れに不安の声がありましたが、同社の理念である「頑張る人を応援する会社」を伝え、社員と話し合いを重ねるなかで理解を得ました。体力や家庭の状況などによりフルタイムで働くことがむずかしい社員には、勤務日数・労働時間の配慮をし、職場定着を図っています。 〈上記の雇用事例集と「障害者雇用事例リファレンスサービス」に関するお問合せ先〉 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用開発推進部 雇用開発課 TEL:043-297-9513 FAX:043-297-9547 2019(令和元)年度 就業支援課題別セミナー 「高次脳機能障害者の就労支援」のご案内 受講料無料  当機構では、労働、福祉、医療、教育などの分野で障害のある方の就業支援を担当している方のうち、実務経験がある方を対象として、新たな課題やニーズに対応した知識・技術の向上を図るための「就業支援課題別セミナー」を実施しています。みなさまの受講を心よりお待ちしています。 2019年度のテーマ:高次脳機能障害者の就労支援 内容 ■精神科医療と高次脳機能障害 ■高次脳機能障害者に対するアセスメント ■医療、生活支援、就労支援の各機関の連携 ■社会的行動障害のある高次脳機能障害者への支援 ■ケーススタディ 対象者 労働、福祉、医療、教育などの支援機関の職員で、障害者の就労や雇用に関する支援を担当しており、高次脳機能障害者に対する就業支援の実務経験のある方など ※高次脳機能障害者に対する就業支援の実務経験があり、基礎的な知識があることを前提とした内容となっておりますので、 ご留意ください。 日程 2019年10月3日(木)〜10月4日(金) 会場 障害者職業総合センター(千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3) 定員 50名 お申込み ◎申込方法:「就業支援課題別セミナー受講申込書」に必要事項を記入し、申込受付期間内にメールでお申し込みください。 ◎受講申込書・カリキュラム:当機構ホームページからダウンロードできます。 ◎申込受付期間:2019年7月24日(水)〜8月28日(水) ◎受講決定の通知:申込受付期間終了後、受講の可否についてメールにて通知します。定員を超えた場合は、複数名の申込みをされた法人などに対して人数の調整をさせていただくことがあります。また、やむを得ずお断りをすることがあります。あらかじめご了承ください。 お問合せ 職業リハビリテーション部 研修課 TEL:043-297-9095 E-mail:stgrp@jeed.or.jp URL:http://www.jeed.or.jp/ 就業支援課題別セミナー 検索 講義 演習 【P15-18】 グラビア 「退職者を出さない」取組み 生活協同組合コープかごしま 産直センター(鹿児島県) 取材先データ 生活協同組合コープかごしま産直センター 〒891-0115 鹿児島県鹿児島市東開町(とうかいちょう)15-6 TEL 099-284-5950  FAX 099-266-6601 写真:小山博孝・官野 貴/文:小山博孝  鹿児島市にある「生活協同組合コープかごしま」は、「退職者を出さない」を目標に、障がい者雇用に取り組んでいる。かつては法定雇用率が未達成だったが、障がい者雇用を進めるため、2011(平成23)年6月に「障がい者雇用推進プロジェクト」を立ち上げ、障がい者雇用について他社の事例などを調査・研究し、各事業所の仕事の洗い出しを行いながら取り組んできた。そうしたなか、現場の障がい者雇用の担当者として崎(さき)正志(まさし)さんが配属され、2012年に産直センターで、障がいのある3人を採用した。現在では35人(身体5人、知的20人、精神10人)が活躍しており、コープかごしま全体では70人が雇用され、障がい者雇用率は5・0%となっている。  「退職者を出さない」ために、どんな工夫や努力をしているのか崎さんにたずねると、「入社して最初の1カ月は、毎日30分ほどの振り返りを、私と本人との個人面談で行います」とのこと。そして、1カ月後から3年目までは月1回、3年以上勤務している人は年2回、対象者が集まって「振り返りミーティング」を行います。「こうしてコミュニケーションをとることが、いちばん大切なことだと思っています」  また、ともに働く社員のみなさんが障がいのある人への理解を深められるように、鹿児島障害者職業センターなどの専門機関を招いて、年1回「障がい特性学習会」を、年2回「家族の会」や「懇親会」などを開催して、支援体制を整えている。外部の支援機関との協力や連携も大切だという。  「現場では、仕事を教えるときは速さを求めません。“3年で一人前にしていく”という方針でやっています。いままで病気による退職者はいましたが、みなさん、がんばって働いています」と崎さんは話す。 ※本誌では通常「障害」と表記しますが、生活協同組合コープかごしま様の要望により「障がい」としています 朝礼時、従業員が互いに服装チェック 入社したばかりの平田(ひらた)真也(しんや)さん(21歳・右)と、毎日30分の振り返り。崎さんとともに、就労サポートセンターラシーネの職場適応援助者、孝志(たかし)ゆまさん(左)も立ち会う 常に声かけをする崎 正志さん(左) ミートセンター フライ商品のパン粉つけ作業をする樋渡(ひわたし)優也(ゆうや)さん(26歳・右)たち ハンバーグの製造を担当する足立(あだち)直輝(なおき)さん(22歳) 加工指示書にしたがって作業を進める平田さん 商品の大きさ、量によって異なる容器を選び、作業する有村(ありむら)拓也(たくや)さん(22歳) 鶏肉の加工作業をする大石(おおいし)健斗(けんと)さん(23歳) フィッシュセンター フィッシュセンターで作業中の淵之上(ふちのうえ)章太(しょうた)さん(30歳) 鮭を計量して袋詰めする浜田(はまだ)健一(けんいち)さん(46歳) ベジタブルセンター パイナップルの皮むきをする竹元(たけもと)幸一(こういち)さん(46歳) ネギの仕分け作業をする大山(おおやま)起政(かずまさ)さん(41歳) トマトの検品、計量作業をする柳原(やなぎはら)拓弥(たくや)さん(22歳) 事務 事務部門で活躍する仁禮(にれい)彩(あ)やさん 伝票の入力作業を行う川崎(かわさき)旭裕(あきひろ)さん(31歳) 学習会・ミーティング 年1回開催する「障がい特性学習会」の様子(写真提供:コープかごしま) 月1回の「振り返りミーティング」の様子(写真提供:コープかごしま) 【P19】 エッセイ第1回 「やればできる」から「やれることを活かす」へ 佐藤恵美(さとう えみ)  神田東クリニック副院長、MPSセンター副センター長。  1970(昭和45)年生まれ、東京都出身、北里大学院医療系研究科産業精神保健学修了。  精神保健福祉士・公認心理師。病院勤務などを経て現職。医療現場および社内のカウンセラーとして多くの労働者の悩みに向き合い、職場に対して健やかな職場づくりのための助言をしている。著書に『ストレスマネジメント入門』(日本経済新聞出版社)、『もし部下が発達障害だったら』(ディスカバー21)などがある。  わが子が小学生のころのこと。忘れものが多く、特に頻繁に制帽を学校に忘れていた。そのため翌朝に帽子がなく、朝の校門チェックで先生に叱られる。「また忘れたの? 毎朝、かぶってくるように」。おっしゃる通り。しかし、それでも忘れてしまう息子が、次第に元気を失っていくことに気づいた。そこで、もし忘れてしまってもカバーできるよう、スペアの帽子を家に用意することにした。これで下校時に持ち帰ることを忘れても、翌朝スペアをかぶって登校できる、というわけである。  さて、こういうやり方には賛否があるだろう。「できないことをごまかす方法を覚えさせてはいけない」とか、「無駄にモノを与えることになる」、「できるようにさせることが大事」などである。それらもたしかに一理あるに違いない。これらの考えの根底にあるのは「やればできるはず」であり、本人の持っている「できる可能性」を強調して、やる気を出させ、問題を克服させようという教育的な働きかけである。しかし一方で、「やればできる」には、「みんなができていることはあなたもできるはず」や、「努力や真剣さが足りないからできない」というメッセージが暗に隠れていて、ときに周囲の想像以上に本人を追い詰めてしまうこともある。 ◆「自責」という呪縛(じゅばく)  私は、職場のメンタルヘルスが専門であるため、悩みや不調を抱えた多くのビジネスパーソンにお会いする。職場では、高度でマルチな能力が求められる。「先を見通す」、「複雑なコミュニケーションをこなす」、「新奇的なアイデアを出す」、「集中して作業を続ける」などなどである。しかし、それらは、その人が持っている脳の得意不得意の分野によっては、「ちょっと苦手」の域を超えて、かなり努力をしてもむずかしかったり、他者の何十倍も労力を費やさねばならない場合もある。しかし、「やればできる」論だけで押され続けてしまうと、努力や反省を通り越して、最後に行きつくのは「自責」となる。自責は次第に「自分は何をやってもだめ」という呪縛へと変化していく。この呪縛には魔力があり、本来はできることさえもできなくさせ、どんな業務に対しても不安や恐怖がつきまとうようになってしまう。もちろん、初めからできないことを前提に働いてもらうわけにはいかないし、成長のチャンスが与えられることは必要である。しかし、「人には得手不得手の域を超えてどうしてもできなかったり、他者とは違うやり方でしかできなかったり、膨大な労力がかかることもある」と知っておくことも大事である。 ◆やれることをどう活かすか  昨今は、大人の発達障害が産業保健においても重要なトピックとなっている。大人の発達障害とは、生まれつき脳に発達のアンバランスさがあり、子どものころに診断や支援を受けていた人が成人に達した場合や、診断や支援は受けずになんとかやってきたが、大人になって何らかの問題として顕在化(けんざいか)し、診断された場合などである。職場は前述のような、さまざまな能力を必要とされ、業務や人間関係をえり好みもできない。「やればできるはず」、「努力が足りない」、「みんなができることがなぜできない」と自分自身を呪縛し、次第に自責と不安と恐怖が増大し、メンタルヘルス不調に陥ることもある。  子どもの教育も、大人の成長も、「できないことをできるようにする」ことは、もちろん重要だが、できない要因を「本人の努力」だけにせず、「できなくても困らないような工夫」や、「できることを最大限に活用する発想」も同じくらい大事にしたい。これからの職場の在り方のひとつとしては、「できないこと」や「不得意」を改善することに躍起(やっき)になるのではなく、むしろ「得意」な潜在能力を見つけ、伸ばし、どう結集させて生産性に結びつけるのか、「やれることをどう活かすか」が、最も重要になってくるであろうと考えている。 【P20-25】 編集委員が行く 障害のある大学生の修学およびキャリア支援の取組み 法政大学、早稲田大学(東京都) 横河電機株式会社 箕輪優子 取材先データ 法政大学 多摩キャンパス 障がい学生支援室 〒194-0298 東京都町田市相原町4342 TEL 042-783-4038 FAX 042-783-2028 早稲田大学 スチューデントダイバーシティーセンター 障がい学生支援室 〒169-8050 東京都新宿区西早稲田1-6-1 早稲田キャンパス25号館1階 TEL 03-3208-0587 FAX 03-3208-0960 Keyword:大学、発達障害、障害理解、障がい学生支援室 編集委員から  今回は、障害のある大学生の修学およびキャリア支援の取組みと、支援を受けている学生にお話をうかがうため、法政大学と早稲田大学をたずねました。 写真:小山博孝 POINT 1 法政大学は「障がい学生支援室」と「キャリアセンター」、また、現代福祉学部の眞保智子教授と外部団体「BeU」の連携により、多角的にサポート 2 障害のある学生と、支援する学生の双方が成長できるコミュニティづくりを目ざす 3 早稲田大学は、障がい学生支援関連部署がそれぞれ特徴を活かして支援にあたり、連携して対応  独立行政法人日本学生支援機構の「平成30年度(2018年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書」によると、現在、国内の大学に在籍している学生は302万539人で、そのうち障害のある学生は3万190人。障害種別は表1の通りで「精神障害」は前年度より381人増の8,261人、「発達障害」は前年度より605人増の5,063人である。  学科(専攻)別に見ると表2の通りで、多い順に「社会科学」7,198人、「人文科学」5,963人、「工学」4,655人である。  障害のある学生が在籍している大学678校のうち、障害のある学生支援に関する専門の委員会を設置しているのは336校、専門部署を設置しているのは192校で、授業の支援のほか、「学生生活支援」、「社会的スキル指導」、「進路・就職指導」など、多様な支援をしている。 法政大学での取組み  はじめに、法政大学現代福祉学部の眞保(しんぼ)智子(さとこ)教授にお話をうかがった。  「法政大学には現在、障害のある学生が112人[2019(令和元)年5月末時点、表3]在籍しています。『障がい学生支援室』では、こうした障害のある学生が、そのほかの学生と同じように講義を受講できるようにするための『講義保障』をはじめ、『学生生活支援』や『進路・就職支援』など、障害のある学生が社会へ出て自立することを目ざしてサポートしています。『講義保障』を中心とした支援室の活動は、その多くが学生ボランティア(障がい学生サポートスタッフ)によって支えられており、障害のある学生と支援をする学生の双方が成長できるコミュニティづくりを目ざしています」と話していただいた。 大学生発達障害コミュニティ「BeU」  また同大学は、外部団体である「大学生発達障害コミュニティBeU(ビーユー)」とも連携をしている。  「BeU」は、「(発達障害の)特性が個性になる機会と環境を作る」をミッションとして、2017年の2月に発足した。その活動の一つに、法政大学をはじめ首都圏のさまざまな大学で行っている、発達障害のある大学生の「当事者会」がある。大学生活における日々のできごと、悩み、就職活動など、大学生ならではの情報交換の場になっている。二つめの活動として、発達障害の傾向がある学生が直面するW就職の困難さWを解消するため、企業と連携した「キャリア見学会」を行っている。自分が将来働く姿を具体的にイメージできるよう、説明会形式ではなく、実際に働く現場を見学し、業務体験などを行うことで、「キャリア」に対する視野を広げてもらうことを目的としている。そこから発展し、学生と企業の両想いマッチングを目ざす企画も準備中である。三つめに「啓発活動」がある。これは、発達障害についての理解を深めてもらうことを目的として、発達障害の当事者の学生が自身の経験を話す、というものだ。  同大学現代福祉学部の「若者支援論」と「障害者福祉論」の授業では、同大学の卒業生であり「BeU」の共同代表である小林(こばやし)暉(めぐる)さんが、発達障害の理解促進のための講座を開催しているという。  「だれにでもW物をなくすWことや、W道を間違えるWなどのミス、Wコミュニケーションが苦手Wなどといった、不得意なことはあります。ただ、その頻度や程度が極端なために、生活するうえで困る回数が多いと『障害』と診断されます。運動が不得意だとW運動神経がないWといわれ、歌が下手だとW音痴Wといわれますが、私は、発達障害もそれと同じようなものだと思っています。それに、自分の弱みがわかっているということは、改善すべき点がわかっていることでもあるので、社会に出るときに役立ちます。悩みと、その解決手段を知っているということは、人をサポートできる力になると思っています」と小林さんは語った。  法政大学では、大学内の組織である「障がい学生支援室」、「キャリアセンター」との連携や、相談機能の充実をはかり、障害のある学生が社会へ出て自立するためのサポートに力を入れている。また、現代福祉学部の「若者支援論」、「障害者福祉論」の講義では、担当している眞保智子教授と「BeU」、そして企業との連携によるインターンシップの実施なども行われている。 早稲田大学での取組み  次に、早稲田大学の「障がい学生支援室」を訪問した。障がい学生支援室担当課長の西出(にしで)稔行(としゆき)さん、発達障がい学生支援部門の黒田(くろだ)泰(たい)さん、障がい学生支援コーディネーターの吉野(よしの)智子(ともこ)さんにお話をうかがった。  同大学の「発達障がい学生支援部門」は、発達障害のある学生の修学支援(合理的配慮の提供)を担当業務として2014年6月に開設された(支援体制は図の通り)。2017年度「障がい学生支援室」の利用者は102人、うち発達障害のある学生は71人である。利用者数・相談件数ともに開設当初より年々増加している。利用学生の学年が上がり、就職活動でつまずく場面が増えてきたため、最近では修学支援だけでなくキャリア支援についても強化している。  早稲田大学では、「キャリアセンター」、保健センターの「診療部門」と「学生相談部門」、「障がい学生支援室」の4部門がそれぞれの特徴を活かし障害のある学生の支援にあたり、学生が最初にどの部署を訪ねても、適切な支援につなげられるよう各部署で連携し対応している。「キャリアセンター」では、障害の有無にかかわらず進路相談や就職活動に関する指導を行っている。保健センターの「診療部門」では、精神科医が常駐して継続的なサポートを行い、「学生相談部門」では、カウンセリングを通じて自己理解を深めることができる。「障がい学生支援室」では、修学支援を通じて自身の困り感について手立てを考える実践を行っている。  次に、発達障害のある学生の就職に関する支援の課題と、今後の取組みについてもお話をうかがった。  「障害者枠求人の場合、実質的に高卒求人と同等の雇用水準・キャリアパスとなるケースが多いため、新卒の段階では障害者枠の求人に対して二の足をふむ学生が多いようです。また、障害者枠での就職を目ざす学生は、卒業へのモチベーションが下がってしまう場合もあります。ただ、身体障害のある学生は、自身の特性をオープンにして一般枠の求人にチャレンジする場合も多いので、発達障害のある学生も一般枠の求人にチャレンジできるよう、今後、企業にも発達障害に関するさらなる理解や活躍の場の提供を求めていきたいと思います」と黒田さんは語った。 支援室を利用する学生の声  「障がい学生支援室」を利用している在学生お二人にもお話をうかがうことができた。  まず初めに、「障がい学生支援室」の利用がご自身の学生生活に与えた影響について聞いた。  発達障害のあるAさんは、自分の特性や傾向を見つめ直すことができ、それに合わせた履修計画、卒業までの見通しを立てることができたという。  「面談担当の先生が、自分のこれまでの失敗や、ダメだと思っていた部分も否定せずに受け止めてくれて、味方になってくれました。苦しいときに寄り添ってくれたり、諦(あきら)めそうなときに手助けをしてくれます。支援室を利用し始めたことで、到底無理だと思い込んでいた卒業が現実的なものとなり、自信がつきました」と話してくれた。  また、同じく発達障害のあるBさんは、「自分の内にある、理解や共感が得られないかもしれないことを気軽に相談できたことや、進路の情報が入手でき、社会に出る準備ができてよかった」と話してくれた。  次に、今後の期待や要望などを含め「障がい学生支援室」に伝えたいことを聞いた。  Aさんは、「大学では、自分を気にかけたり管理したり導いてくれる人はいないと思っていたのですが、支援室に通い始めて、見守ってくれる存在を得ることができました。とても感謝しています。私を担当してくださっている吉野さんには特に、私の卒業を見届けてほしいと思います。去年、私を受け入れてくださったように、これからもどんな人でも受け入れる場所、開かれた場所であってほしいです」と話す。発達障害のある人の支援は、支援する人とされる人の相性のよさが重要なため、Aさんのケースのように、同じ人が継続してサポートしてくれることはとても心強い。  Bさんも、支援に対して満足していると感謝を述べた。  「いろいろな学生が来て、支援室にノウハウが蓄積し、今後も困っている学生の助けになっていくことを期待します。また、当事者同士で会う機会が増えることは、僕自身はうれしいことです。支援室に来ていない発達障害の学生や、普段あまりカウンセリングを受けていないような学生とも話せたらいいなと思う」という。  卒業後の進路選択で重点を置いていることについて聞くと、Aさんは「自分らしく無理をせずに活躍できる場所に就職したい」、Bさんは「いかに幅広い実務的、感情的経験と知識が積めるか。いかに社会、人間というものに対し豊かな価値観が育めるかが重要です」と話してくれた。  また、卒業後の進路についての不安も聞いてみた。  Aさんは、「書類選考や面接のみで、私を採用しようと思う会社があるのか不安に思う。また就職後も、正社員として体調を崩さずに毎日勤務できるのか不安」という。  Bさんは、「大学を卒業し、自分で考え判断する比率と、その重みが上がったときに、外部や自分の内面に対する認知が一方向に過度に偏っていかないか不安に思います。責任を背負うに足る人間になれるだろうか」と話してくれた。  自分にとって「働きやすさ」とは、という質問について、Aさんは「自分らしくいられる、居心地のよい場所だと働きやすいですね。仕事の内容よりも、対人関係がスムーズであることが自分にとっては大切ですから」という。またBさんも「自分と周囲、双方向で理解しあい、自分のステージにあった幅広い物事を経験できる場所」と話してくれた。  最後に、企業の人事担当者に伝えたいことを聞いた。  Aさんは、「どのような人材を求めているのか明確だとわかりやすい」と、Bさんは、「お互いに行動に表れにくい心意気、物事への向き合い方を尊重することが大切だと思う」という。  またBさんは、「世間には、障害を『ギフト』とみなす論調もあると、個人的に思っている。しかし、それは人より優れている面が強調されたときに、主にそう見えるのであって、表からは見えない葛藤に、深刻に苦しむ当事者がいる。当事者は新しい環境に順応することが、とてもたいへんだと思う。新しい環境のもとでは、自分自身の感情をうまくコントロールできず、上手にアウトプットできない場合が多々ある。そのために、当事者と企業が互いに内面を理解し、ともにゆっくり歩んでいくことが重要なのかもしれない」と話してくれた。  今回は、障害のある学生(卒業生)と、学生を支援する大学側の双方にお話をうかがったが、私自身、企業の人事担当者としても気づかされることが多かった。今後、私自身も大学ともさまざまな観点から連携をはかり、障害のある学生に直接お話をうかがう機会を増やし、社員が互いに個性を尊重しあい、だれもが安心して自分らしく働ける環境となるよう、さらに整えていきたい。 表1 障害学生数[障害種別](大学) (人) 計 30,190(28,430) 視覚障害 808(784) 聴覚・言語障害 1,837(1,819) 肢体不自由 2,357(2,438) 病弱・虚弱 9,594(9,302) 重複 468(435) 発達障害 5,063(4,458) 精神障害 8,261(7,880) その他の障害 1,802(1,314) ( )内は前年度数値 表2 障害学生数[学科(専攻)別](大学) (人) 計 30,190 人文科学 5,963 社会科学 7,198 理学 1,226 工学 4,655 農学 1,178 保健(医・歯学) 537 保健(医・歯学を除く) 2,954 商船 4 家政 634 教育 1,960 芸術 1,803 その他 2,078 独立行政法人日本学生支援機構「平成30年度(2018年度)大学、短期大学及び高等専門学校における障害のある学生の修学支援に関する実態調査結果報告書」より 表3 障がい学生在籍状況 障がいの種類 在籍者数(人) 市ヶ谷キャンバス 多摩キャンバス 小金井キャンバス 通信教育部 大学院 計 視覚障がい 1 0 0 0 0 1 聴覚障がい 4 1 0 7 0 12 肢体不自由 3 2 0 15 2 22 発達障がい 21 6 7 2 0 36 精神障がい 16 2 0 13 0 31 その他 5 2 0 3 0 10 計 50 13 7 40 2 112 法政大学ホームページより(2019年5月末現在) 図 発達障がい学生への支援システム 学部・大学院 (教務主任・職員) 問題への解決方法・具体的支援の検討 各教員 本人・保証人 各箇所との連携・調整・支援会議の招集 保健センター 学生相談室 医療部門 障がい学生支援室 身体障がい学生支援部門 発達障がい学生支援部門 緊密に連携 ライティング・センター 教務部 ポータルオフィス キャリアセンター奨学課など 企画・建設課 外部医療機関 外部就労支援機関 資料提供:早稲田大学「障がい学生支援室」 法政大学多摩キャンパス 法政大学現代福祉学部教授の眞保智子さん 学生たちに講義するBeUの小林暉さん 小林さんたちに話を聞く箕輪編集委員 早稲田大学キャンパス 障がい学生支援コーディネーターの吉野智子さん 発達障がい学生支援部門の黒田泰さん 障がい学生支援室担当課長の西出稔行さん 発達障害のある学生にインタビュー 【P26-27】 霞が関だより 平成31年度 障害保健福祉部予算案の概要(2) 厚生労働省 障害保健福祉部 ※「1 障害福祉サービス等の確保、地域生活支援などの障害児・障害者支援の推進」「2 地域移行・地域定着支援などの精神障害者施策の推進」は、本誌6月号の「平成31年度 障害保健福祉部予算案の概要(1)」で掲載しました 3 発達障害児・発達障害者の支援施策の推進 3・8億円(4・1億円) (※地域生活支援事業計上分を除く) 1 発達障害児・発達障害者とその家族に対する支援地域生活支援事業等のうち1・3億円(1・3億円)  発達障害児者及びその家族の支援を推進するため、同じ悩みを持つ本人同士や発達障害児者の家族に対するピアサポートや発達障害児者の家族に対するペアレントトレーニング等を市町村において実施することを推進する。 2 発達障害の初診待機解消【一部新規】地域生活支援事業等のうち81百万円(1・0億円)  発達障害児者の診断に係る初診待機の解消を進めるため、発達障害の医療ネットワークを構築し、発達障害の診療・支援ができる医師の養成を行うための実地研修等の実施に加え、発達障害のアセスメントの実施や、医療機関におけるアセスメントに対応できる職員の配置などにより、診断を行う医療機関の負担を軽減することで、医療機関での診療にかかる時間の短縮を図るとともに、その成果について効果検証を行う。 3 発達障害に関する理解促進及び支援手法の普及 1・4億円(1・4億円)  全国の発達障害者支援センターの中核拠点としての役割を担う、国立障害者リハビリテーションセンターに設置されている「発達障害情報・支援センター」で、発達障害に関する各種情報を発信するとともに、困難事例に係る支援をはじめとする支援手法の普及や国民の理解の促進を図る。  また、「世界自閉症啓発デー」(毎年4月2日)などを通じて、自閉症をはじめとする発達障害に関する正しい理解と知識の普及啓発等を行う。 4 障害者に対する就労支援の推進 14億円(12億円) (※地域生活支援事業計上分を除く) 1 工賃向上等のための取組の推進地域生活支援事業等のうち2・9億円(90百万円)  一般就労が困難な障害者の自立した生活を支援する観点から、就労継続支援事業所などに対し、経営改善、商品開発、市場開拓や販路開拓等に対する支援を行うとともに、在宅障害者に対するICTを活用した就業支援体制の構築に向けたモデル事業を実施する。  また、共同受注窓口における関係者による協議体を設置し、企業等と障害者就労施設等との受発注のマッチングを促進することにより、障害者就労施設等に対する官公需や民需の増進を図る。 2 障害者就業・生活支援センター事業の推進地域生活支援事業等のうち8・1億円(8・2億円)  就業に伴う日常生活の支援を必要とする障害者に対し、窓口での相談や職場・家庭訪問等による生活面の支援などを実施する。  また、就労継続支援事業の利用から一般就労への移行や、加齢や重度化による一般就労から就労継続支援事業の利用への移行など障害者の能力に応じた就労の場に移行できるようにするための支援を行う。 3 農福連携による障害者の就農促進地域生活支援事業等のうち2・7億円(2・7億円)  農業分野での障害者の就労支援に向け、障害者就労施設等への農業の専門家の派遣による農業技術に係る指導・助言や6次産業化支援、農業に取り組む障害者就労施設等によるマルシェの開催等の支援を実施する。 4 工賃等向上に向けた全国的支援体制の構築 12百万円(12百万円)  全国の工賃・賃金向上の実事例を収集し周知するとともに、工賃・賃金の一層の向上を目指す就労継続支援事業所を支援するモデル事業を実施する。 5 アルコール健康障害対策・薬物依存症対策・ギャンブル等依存症対策の推進 8・2億円(6・3億円) ●依存症対策の推進 8・1億円(6・1億円) 1 全国拠点機関における依存症医療・支援体制の整備 77百万円(69百万円)  依存症者やその家族等が適切な治療や必要な支援を受けられるよう、アルコール・薬物・ギャンブル等の依存症対策の全国拠点機関において都道府県等の指導者の養成研修を実施するとともに、依存症の情報センターにおいてEーラーニングによる情報発信等の強化を図り、依存症の医療・支援体制の整備を推進する。 2 地域における依存症の支援体制の整備【一部新規】(一部再掲) 7・0億円(5・2億円)  依存症者やその家族等が地域で適切な治療や必要な支援も受けられるよう、引き続き都道府県等の人材養成や医療体制・相談体制の整備を推進するとともに、受診後の患者支援に係るモデル事業について、民間団体の支援員を招いた院内ミーティングの開催等の支援を拡充する。  また、依存症患者が救急医療を受けた後に適切な専門医療や支援等を継続して受けられるよう、依存症専門医療機関等と精神科救急医療施設等との連携体制を構築する。  これらの他、依存症の実態解明や地域での現状・課題に関する調査を実施するとともに、依存症者やその家族等が地域の治療や支援につながるよう、依存症に関する正しい知識と理解を広めるための普及啓発を実施する。 3 依存症問題に取り組む民間団体の支援 29百万円(18百万円)及び地域生活支援事業等の内数 @民間団体支援事業(全国規模で取り組む団体)  アルコール・薬物・ギャンブル等の依存症者やその家族等の支援について、全国規模で実施している自助グループ等民間団体における支援ネットワークの構築や相談支援体制の強化を図る。 A民間団体支援事業(地域で取り組む団体)  アルコール・薬物・ギャンブル等の依存症者やその家族等の支援について、地域で実施している自助グループ等民間団体の活動(ミーティング活動や相談支援、普及啓発活動等)に関する支援を行う。 ●アルコール健康障害対策の推進 17百万円(17百万円) 1 アルコール健康障害対策理解促進事業 11百万円(11百万円)  アルコール関連問題啓発週間関係事業の開催やポスターの作成等により、アルコール健康障害に関する正しい理解の普及啓発を行う。 2 アルコール健康障害対策連携推進事業 3百万円(3百万円)  都道府県のアルコール健康障害対策推進計画の策定を促すため、有識者(アドバイザー)等派遣や担当者会議を開催し、都道府県のアルコール健康障害対策を推進する。 6 東日本大震災等の災害からの復旧・復興への支援 1 障害福祉サービス事業所等の災害復旧に対する支援(復興) 6・5億円(55百万円)  東日本大震災で被災した障害福祉サービス事業所等のうち、各自治体の復興計画で、平成31年度に復旧が予定されている事業所等の復旧に必要な経費について、財政支援を行う。 2 障害福祉サービスの再構築支援(復興) 2・1億円(2・1億円)  被災地の障害者就労支援事業所の業務受注の確保、流通経路の再建の取組や障害福祉サービス事業所等の事業再開に向けた体制整備等に必要な経費について、財政支援を行う。 3 帰還困難区域等での障害福祉制度の特別措置(復興) 15百万円(15百万円)  東京電力福島第一原発の事故により設定された帰還困難区域等及び上位所得層を除く旧緊急時避難準備区域等・旧避難指示解除準備区域等の住民について、障害福祉サービス等の利用者負担の免除の措置を延長する場合には、引き続き市町村等の負担を軽減するための財政支援を行う。 4 被災地心のケア支援体制の整備(一部復興) 3・9億円及び被災者支援総合交付金(177億円)の内数(19億円)  東日本大震災による被災者の精神保健面の支援のため、専門職による相談支援等を実施するとともに、自主避難者等への支援などを通じて、引き続き専門的な心のケア支援を図る。また、被災地の様々な心のケア活動に係る調査研究等を実施する。  さらに、熊本地震による被災者の専門的な心のケア支援を引き続き実施するとともに、平成30年7月豪雨及び平成30年北海道胆振(いぶり)東部地震による被災者の心のケアに対応するため、市町村等が行う被災者の専門的な心のケア支援を引き続き実施する。 (参考)【平成30年度一次補正予算】 ○障害者支援施設等の災害復旧 17億円  平成30年7月豪雨や北海道胆振東部地震等により被災した障害者支援施設等の復旧に要する費用に対して補助を行う。 ○障害福祉サービス等の利用者負担軽減措置 14百万円  平成30年7月豪雨により被災した住民について、障害福祉サービス等を利用した際の利用者負担の免除等を実施した場合に、市町村の負担を軽減するための財政支援を行う。 ○被災者の心のケア支援 12百万円  北海道胆振東部地震による被災者等に対する心のケアを行うため、専門職種(精神保健福祉士等)による相談支援等、精神保健活動を行うための体制を確保する費用を補助する。 【P28-29】 研究開発レポート −地域ネットワークにおける支援の困難さに対する地域障害者職業センターの役割− 調査研究報告書bP44「支援困難と判断された精神障害者及び発達障害者に対する支援の実態に関する調査」 障害者職業総合センター研究部門 社会的支援部門 1 はじめに  職業リハビリテーション分野のなかで、精神障害者及び発達障害者の就職や職場定着に関する支援の困難さの認識は、地域のさまざまな支援機関によって大きく異なっており、いわば「玉虫色(※1)」であるといえます。  本研究では、地域における職業リハビリテーションの中核機関と位置づけられている地域障害者職業センター(以下、「地域センター」)に対して、地域の関係機関から要請のあった「支援困難な事例」の量的な把握に加えて、精神障害者及び発達障害者がもつ特性などのうち、支援困難につながる要因や課題の実態を把握することを目的としました。 2 地域センターへの支援要請の特徴  2017(平成29)年に実施したアンケート調査の結果、地域の関係機関において、自らの機関では支援困難であったために地域センターへの支援の要請につながった要因は、大きく分類すると三つのタイプがありました。一つめは、それぞれの機関を利用している障害者本人の状況に由来するもの(例:障害のとらえ方が曖昧、重複障害、離転職が多い、障害を開示し支援を得つつ就職することへの整理がついていないなど)、二つめは、支援要請のあった機関の状況に由来するもの(例:設立後間もない、マンパワー不足や適した支援プログラムがない、支援経験や支援スキルの不足など)、三つめは、地域センター業務への直接的なニーズがあること(例:アセスメント、ナビゲーションブックの作成、作業能力の把握、支援計画の策定、職業準備支援・リワーク支援・ジョブコーチ支援の利用、事業所訪問への同行)でした。特に就労移行支援事業所からの支援の要請に対しては、当該事業所から地域センターへ支援をバトンタッチするのではなく、ともに支援を進める「協同支援」を行う割合が約3割と、ほかの機関と比べて多いことが確認できました。  また、支援困難と判断された具体的な事例から、障害別に障害者本人がかかえる困難要因を整理したのが左記の図になります。  障害別に困難要因は異なりますが、「自信のなさ(自己肯定感の低さ)」については、共通した困難要因であったことが確認できました。 3 支援困難事例への支援例  アンケート調査に続き2018年には、地域センターと障害者就業・生活支援センターの職員、合計10名に対してヒアリング調査を行いました。その結果、障害者就業・生活支援センターにおける支援の困難さの特徴として、「健康管理」や「生活面の課題への支援」について取り上げている回答が多く、地域センターからは、「職場の環境調整の限界」や「求人種類の選択に関して労働条件面で折り合いをつけていくことの困難さ」を取りあげている回答がありました。このヒアリングでは、それぞれの支援の困難さに対して、具体的な支援策についても聞き取っています。実践知(※2)ともいえる、それぞれの機関のヒアリング結果をあわせた支援例をいくつかご紹介します。 (1)障害などの理解に関する支援について ・支援が成果につながりにくいときには、まず本人のことをきちんと理解しているか振り返る。そのためには、常に支援を組み直していくなど、PDCAをくり返すことが大事ととらえている。 ・障害者が自分の状態を客観視できるようコンディショングラフを活用して、本人、職場、医療機関と共有し、不安定な予兆を捉(とら)えて介入している。 ・障害者が「現在従事している仕事」のアウトプットに課題があっても、職場から本人にうまくフィードバックできないなど、コミュニケーション上の課題もある。まずは仕事の正確性やスピードを高めていく取組みからはじめる。その取組み内容は個別性が高い。 (2)多様な課題を有する者に対する支援について ・在職者の場合、会社との関係による課題の多さが困難性に影響する。期限の問題などで時間的な猶予がない場合は、さらに困難さが高まる。 ・医療機関とのかかわりがある障害者の場合、受診同行が基本である。生活面に課題がある場合は相談窓口にできるだけ同行している。相談の主体がほかの機関となっても、つないで終了ではなく、その後も連絡をとることを心がけている。 ・短期で離職をくり返している場合には、一人の利用者に対して複数名の担当者が対応して多面的に状況を把握する。 ・就職の準備性に課題がある場合、福祉施設の利用の検討だけではなく、本人の希望などをふまえ、職業訓練の可能性も探っている。 ・経済面や自己理解など複数の課題のある利用者は、支援のコスト・手間はかかるが、一つひとつ解決していく過程が利用者と支援者の信頼関係の醸成につながる。小さなことでも「こうすればうまくいった」という経験を共有すると、別の課題に対しても支援を受けようというモチベーションにつながる。 ・支援において課題が多いことで、ケース会議の開催など、ほかの機関との連携支援のための関係者の調整などが煩雑(はんざつ)になり負担感が増えるが、そのことを困難さと捉えないようにする。 (3)利用者へのかかわり方について ・本人が攻撃的な態度の場合、本人と支援者の間での課題の共有の阻害要因になるため、かかわり方の工夫が必要になる。例えば、「ホワイトボードや紙に支援者が理解した内容について書きながら相談し、整理したものを渡す」「音声情報のみとなる電話は、ゆっくり、声のトーンを落として短い文節で話し、わかりやすく伝えることを心がける」などしている。 ・思っていることがいえない、話す内容が相談ごとに異なる、課題解決よりも相談自体が目的となっている者に対しては、具体的な提案をせず、他者の意見を聞いてみることをうながしつつ、自ら選択肢を増やして考えられるように気をつけている。 ・本人との関係性の影響が顕著なため支援が困難な場合、担当者の変更も検討する。 4 おわりに  報告書では考察として、アンケート調査及びヒアリング調査の結果をふまえて、支援の困難さについて、@「障害などの理解に対する支援の困難さ」、A「重複障害や疾病などの多様性に対する支援の困難さ」及びB「利用者と支援者との関係性に由来する支援の困難さ」の3点に整理して、先行研究やほかの領域での知見により補強しています。本研究を第一歩として、地域の多様な関係機関が就労支援において感じている困難性と支援策に関する研究が、さらに進展することを期待しています。まず、多様な支援機関や職種がそれぞれの専門性をふまえて、現在、自らの機関がどのような役割を果たせるか、どのような支援をほかの関係機関に要請し連携していく必要があるのかを検討し、「どのような就労支援上の困難さを抱えているか」を議論してみること、一人ひとりが捉えている困難さを共有してみることをおすすめしたいと思います。 ※1 玉虫色…あいまいであるということではなく、困難さのとらえ方はさまざまな視点があることを表しています ※2 実践知…本文では、実践現場で生み出された、実際の支援にあたって適切な判断につながる知識としています ◇調査研究報告書No.144は、http://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/houkoku/houkoku144.htmlからダウンロードしていただけます。  お問合せ先:研究企画部企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.or.jp) 図:障害別の困難要因(2割以上の地域センターで確認されたもの) 精神障害者事例 【心身機能】 ・新たな環境への不安感、緊張感の強さ ・人間関係への不安感、緊張感の強さ ・対人面でのストレスの感じやすさ ・自信のなさ(自己肯定感の低さ) 発達障害者事例 【心身機能】 ・自分の特性や病状についての理解の乏しさ ・自信のなさ(自己肯定感の低さ) ・感情抑制の難しさ 【活動・参加】 ・職場での指摘や注意を受け入れることの難しさ ・口頭のみの指示を理解することの難しさ ・複数作業を同時並行することの難しさ ・臨機応変な対応の難しさ ・相手の意図・気持ちを汲み取ることの難しさ ・生活のリズムの乱れ 【P30-31】 ニュースファイル 行政 消費者庁 障害者の消費者トラブル 4コマ漫画で事例集  障害者の消費者トラブルについて消費者庁が4コマ漫画などを使い事例集にまとめた。障害のある本人や支援者を想定し、事例ごとに、精神・発達・知的・身体などの障害種別に「普段の生活の様子」、「どのような消費者トラブルに遭ったか」、「解決策」などを漫画やチェックリストで説明している。徳島県と岡山県の計26団体・施設を調査した計120件の事例をまとめた。冊子は消費者庁のサイトで公開されている。https://www.caa.go.jp/future/project/project_009/ 気象庁 緊急記者会見「手話通訳」始まる  気象庁が、緊急記者会見での手話通訳を始めた。緊急記者会見はテレビ中継されることが多く、聴覚障害者に迅速(じんそく)に防災情報を伝えるのが狙い。緊急記者会見が開かれるのは、国内で震度5弱以上の地震が発生▽気象庁が気象に関する特別警報、大津波警報・津波警報・津波注意報を発表▽台風接近や大雨で災害発生が予想される場合など。当分は9時〜18時の会見に手話通訳者を同席させ、将来的に24時間体制を目ざす。 開発 障害のある子どもが運動を楽しめる「歩行器」  地方独立行政法人東京都立産業技術研究センターは、2020年オリンピック・パラリンピック東京大会を機に、障害のある子どもが日本の生活環境に合わせて、散歩やレクリエーションなどを楽しむことができるような「子ども用歩行器」を試作開発した。  全国800以上の発達支援センター、特別支援学校などの施設や利用する保護者への実態調査で現状の歩行器の問題点を分析し、小回りの利く6輪歩行器を試作した(特許出願中)。2019年度末の商品化を目ざし、共同研究・開発に参加できるような福祉機器製造・販売の実績企業を募集している。 地方の動き 栃木 「農福連携」でイチゴの商品化  栃木県は、食品企業とイチゴの生産団体、障害者福祉施設の「農福連携」を進めるマッチングに乗り出した。「とちぎセルプセンター」(宇都宮市)を仲介役に、宇都宮市内の食品メーカー「フタバ食品株式会社」と「JAアグリうつのみや」、「一般社団法人無邪気 ポラリス」(大田原市)、「NPO法人ひとつの花」(宇都宮市)で契約を結び、試験的にイチゴの収穫や買い取りなどで連携を進めている。今後こうした取組みを県内各地に拡大していく方針。 生活情報 新潟 軽度障害者向けシェアハウス開業  介護サービスを手がける「株式会社あんしん」(湯沢町)が南魚沼市内に「シェアハウス南魚沼」を開業した。入居対象は18歳以上の男女で軽度の身体・精神障害者。JR六日町駅から徒歩7分の場所にあり、定員2人の寝室が15室で最大収容人数は60人。共同の食堂や居間もあり賃料は月額3万円(食費除く)。職員のサポートを受けながら掃除や洗濯、金銭管理などを経験し社会性を身につけ、地元企業への就職も支援する。8月30日までの期間中に3泊4日の無料宿泊体験を実施。 TEL:025−788−1470 千葉 成田空港が外国人・障害者向けに新ツール  「成田国際空港株式会社(NAA)」(成田市)は外国人や障害者など意思疎通がむずかしい利用者を対象に、筆記具や簡単な絵を用意して意思表示をうながす取組みを始めた。これまでに3種類のツールを導入。パンフレット型の「問い合わせシート」と据え置き型の「保安検査場コミュニケーション支援ボード」は、困りごとや空港内施設、検査項目などについて簡単な言葉とわかりやすい絵(ピクトグラム)を載せている。いずれも日・英・中・韓の4カ国語に対応。問い合わせシートは、空港内の案内カウンターや成田空港ウェブサイトからも入手できる。 働く 石川 就労支援施設が水田保全事業  「社会福祉法人弘和(こうわ)会」(輪島市)が運営する就労継続支援B型事業所「ライフサポート村友」(羽咋(はくい)市)が、農地保全事業に乗り出した。障害者の社会参画を後押しするとともに遊休農地の解消を目ざす取組みで、同県内の就労支援施設として初めて国の「多面的機能支払交付金」を受ける。農福連携のモデルケースとして、農業のにない手不足解消も期待されている。 千葉 粗大ごみのリユース工房オープン  粗大ごみリユース実証事業に取り組む松戸市では、市内の障害者就労施設から公募した「まつかぜの会」と「松里福祉会」が連携し、実証事業の一環として常設店「リユース工房 みらいず」をオープンさせた。もともと両法人が運営する就労継続支援B型事業所が市から粗大ごみなどを譲り受けて修理・清掃・販売しているが、イベントなどでリユース品の販売が好評なことから常設店設置につながった。営業時間は平日9時〜17時、第2・第4土曜日の10時〜16時。問合せは「リユース工房 みらいず」へ。 TEL:047ー710ー7201 本紹介 『精神障害のある人の就労定着支援−当事者の希望からうまれた技法』  東京都国立市の「社会福祉法人 多摩棕櫚亭(たましゅろってい)協会」の元理事長である天野(あまの)聖子(せいこ)さんが、『精神障害のある人の就労定着支援−当事者の希望からうまれた技法』(多摩棕櫚亭協会編著、中央法規出版刊)を出版した。精神科病院のケースワーカーとして15年勤務後、1987(昭和62)年に友人らと共同作業所を立ち上げ精神障害者の就労支援の体制づくりを進めてきた。現在は職員研修など後進の育成にかかわる天野さんが、30年以上にわたる精神障害者の就労・生活支援の蓄積をもとに組織づくりの極意などを綴る。A5判248ページ、2376円(税込)。 2019年度 地方アビリンピック開催予定 9月〜10月 北海道、青森県、神奈川県、新潟県、石川県、山梨県、滋賀県、山口県、徳島県 *部門ごとに開催地・日時が分かれている県もあります *  の県は開催終了 ※全国アビリンピックが11月15日(金)〜11月17日(日)に、愛知県で開催されます。 地方アビリンピック 検索 北海道 青森県 神奈川県 新潟県 石川県 山梨県 滋賀県 山口県 徳島県 事業者の皆様!準備はお済みですか? 本年(2019年)10月1日から消費税の軽減税率制度が実施されます。 仕入税額控除の方式が変わります! 標準税率10%と、 ・飲食料品(酒類・外食を除く) ・新聞(定期購読契約された週2回以上発行されるもの) に係る軽減税率8%について 帳簿・請求書・レシート等の記載を複数税率に対応させる必要があります。 CHECK 全ての事業者の方に関係があります! 飲食料品等の販売がない場合も、例えば、飲食料品等の仕入がある場合は、帳簿上、軽減税率対象である旨を明記する必要があります。 レジや受発注・請求書管理システムの導入・改修が必要となることがあります。 CHECK 軽減税率対策補助金が拡充されました! 中小企業・小規模事業者等の方向けに複数税率対応レジの導入等を支援します。ぜひご活用ください。 軽減税率制度説明会にぜひご参加ください。 全国で開催されています。日程・場所等の情報は下記よりご確認いただけます。 軽減税率制度説明会 検索 軽減税率制度についてはこちら 軽減税率 国税庁 検索 軽減税率対策補助金についてはこちら 軽減税率対策補助金 検索 財務省 www.mof.go.jp 【P32】 掲示板 「働く広場」広告募集のお知らせ 広告掲載を希望される企業の方は、栢A済堂までご連絡ください。 広告の掲載位置・規格 掲載料金(円、税抜) 表3 (裏表紙の裏) カラー A4フルサイズ 150,000 A4の2分の1 75,000 本文 (P.31) 2色 A4フルサイズ 100,000 A4の2分の1 50,000 【判型】A4判、中綴  【頁数】カラー8頁(表紙含む)、2色28頁 【定価】本体価格129円+税  【発行部数】5万2千部  【発行形態】月刊(毎月25日発行) 【問合せ】株式会社 廣済堂 「働く広場」編集担当 (TEL:03-5484-8821 FAX:03-5484-8822 E-mail:hatarakuhiroba@kosaido.co.jp) 雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える人事労務担当の方 ぜひご覧ください! メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttp://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 次号予告 ● 私のひとこと  フリーランスナース&ソーシャルワーカーであり、現在は主にSST・生活技能訓練に関する研修を行っているOffi ce夢風舎の土屋徹さんに、ご執筆いただきます。 ● 職場ルポ  「ビジネスホン」など、情報通信のトータルコーディネートを提供している株式会社コスモネット(京都府)を訪問。「障害者雇用拡大プロジェクト」を立ち上げ、障害理解を基盤とした、積極的な障害者雇用に取り組む現場を取材します。 ● グラビア  令和元年度「障害者雇用支援月間ポスター原画 入賞作品」をご紹介します。 ● 編集委員が行く  三鴨岐子編集委員が、ATUホールディングス株式会社(福岡県)を訪問。精神障害者の雇用と就労の現場、その支援の様子を取材します。 本誌購入方法  定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。  1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申し込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAX でのお申し込み 株式会社廣済堂までご連絡ください。 TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 編集委員 (五十音順) 埼玉県立大学教授 朝日雅也 株式会社FVP代表取締役 大塚由紀子 山陽新聞社会事業団専務理事 阪本文雄 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 相談支援事業所 Serecosu 新宿 武田牧子 あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすく センター長 原 智彦 株式会社ダイナン 経営補佐 樋口克己 東京通信大学教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 横河電機株式会社 箕輪優子 あなたの原稿をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 発行人−−企画部長 片淵仁文 編集人−−企画部次長 中村雅子 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6216(企画部情報公開広報課) ホームページ http://www.jeed.or.jp メールアドレス hiroba@jeed.or.jp ●発売所−−株式会社 廣済堂 〒105−8318 港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03−5484−8821  FAX 03−5484−8822 8月号 定価(本体価格129円+税)送料別 令和元年7月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 【P33】 第27回 職業リハビリテーション研究・実践発表会 入場無料 令和元年11月18日(月)・19日(火) 東京ビッグサイト で開催!みなさまのご参加をお待ちしています。  「職業リハビリテーション研究・実践発表会」は、職業リハビリテーションに関する研究成果の発表をはじめ、就労支援に関する実践事例や企業における障害者の雇用事例を紹介し、参加者相互の意見交換や情報共有を図るものです。昨年は1,229人の方が参加されました。  今年は以下の日程で開催します。 11月18日(月) ● 基礎講座  職業リハビリテーションに関する基礎的事項に関する講義  「精神障害」「発達障害」  「トータルパッケージの活用」 ● 支援技法普及講習  職業センターで開発した支援技法の普及講習 ● 特別講演  「中小企業だからこそ実現できる障害者雇用を考える〜障害者のキャリアラダーを検討する〜」  松原 未知 氏(ビルド神保町 社会福祉士/精神保健福祉士/キャリアコンサルタント) ● パネルディスカッションT  「障害のある社員が働き続けるために〜障害の多様性と多様な働き方に向き合う中小企業〜」 特別講演の様子 11月19日(火) ● 研究発表(口頭発表)  テーマごとに分科会を設定 ● 研究発表(ポスター発表)  発表者による説明・参加者との討議 ● パネルディスカッションU  「精神障害のある社員の職場定着を進めるための 情報共有ツールの有効活用について」 ポスター発表の様子 研究発表の内容  障害者職業総合センターの研究成果の発表に加え、企業や教育、福祉、医療、研究機関など、さまざまな分野の方々が発表をします。昨年は「採用後に障害者となった人に対する職場復帰支援について−事例調査結果から−」、「障害者手帳制度の対象でない難病のある人への雇用支援の課題」など、124題の発表が行われました。  過去の論文集は、 職リハ発表会 検索 でご覧いただけます。 参加者の募集などについて  参加者の募集とプログラムの詳細は、8月下旬ごろ下記ホームページなどでご案内する予定です。 事務局 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 研究企画部企画調整室(千葉市美浜区若葉3-1-3) TEL:043-297-9067 FAX:043-297-9057 E-Mail:vrsr@jeed.or.jp HP:http://www.nivr.jeed.or.jp 【裏表紙】 8月号 令和元年7月25日発行 通巻503号 毎月1回25日発行 定価(本体価格129円+税)