【表紙1】 令和2年8月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第515号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2020 9 No.515 職場ルポ 知的障害者を事務職で直接雇用 株式会社テセック(東京都) 編集委員が行く 精神・発達障がいのある社員も、かかわる社員も「だれもが、楽しく、誇りをもって」 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社(東京都、大阪府) 私のひとこと 人間の尊厳を最大限守る支援を広げたい 株式会社キズキ代表取締役社長、NPO法人キズキ理事長 安田祐輔さん グラビア 令和2年度 障害者雇用支援月間ポスター原画(絵画・写真)コンテスト 「働くすがた〜今そして未来〜」入賞作品 「野球の勝負」大阪府・渡邊(わたなべ)陽人(あきと)さん 9月は「障害者雇用支援月間」です 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています 9月号 【表紙2】 職業訓練を受けている障害者の採用をお考えの事業主のみなさまへ 国立職業リハビリテーションセンター(中央障害者職業能力開発校)および国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(吉備高原障害者職業能力開発校)では、障害のある方々の就職に必要な職業訓練や職業指導を実施しており、訓練生の採用をお考えの事業主のみなさまに次のような取組みを行っています。 詳細についてはホームページをご覧ください。 訓練生情報の公開 *訓練生(訓練修了者と修了予定者のうち掲載希望者のみ)の情報をホームページで公開しています。 国立職業リハビリテーションセンター(毎月1日、15日に情報更新) http://www.nvrcd.ac.jp/employer/trainee/index.html 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(毎月15日に情報更新) http://www.kibireha.jeed.or.jp/kyushoku/info.html 企業連携職業訓練の実施 *障害者の雇入れを検討している企業との密接な連携により、特注型の訓練メニューによるセンター内での訓練と企業内での訓練を組み合わせた採用・職場定着のための支援(企業連携職業訓練)を実施しています。 国立職業リハビリテーションセンター http://www.nvrcd.ac.jp/employer/support/index.html 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター http://www.kibireha.jeed.or.jp/business/company.html このほかにも疾病、事故等により受障した休職者の方が、職場復帰するにあたり必要な技術を身につけるための職業訓練も実施しています。 お問合せ先 国立職業リハビリテーションセンター 職業指導部 職業指導課 〒359-0042 埼玉県所沢市並木4-2 Tel:04-2995-1207 Fax:04-2995-1277 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 職業評価指導部 職業指導課 〒716-1241 岡山県加賀郡吉備中央町吉川7520 Tel:0866-56-9002 Fax:0866-56-7636 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2020年9月号 NO.515 私のひとこと−−2 人間の尊厳を最大限守る支援を広げたい 株式会社キズキ代表取締役社長、NPO法人キズキ理事長 安田祐輔さん 職場ルポ−−4 知的障害者を事務職で直接雇用 株式会社テセック(東京都) 文:豊浦美紀/写真:官野貴 クローズアップ−−10 はじめての障害者雇用 第5回 JEEDインフォメーション−−12 令和2年度 就業支援課題別セミナー「事業主支援」のご案内/障害者職業訓練推進交流プラザのご案内/ご活用ください!障害者の職業訓練実践マニュアルなど グラビア−−15 33 令和2年度 障害者雇用支援月間ポスター原画(絵画・写真)コンテスト「働くすがた〜今そして未来〜」入賞作品 エッセイ−−19 最終回 重度障害とともに〜さらにできることに挑戦してみたい!子育て支援活動への取組み〜 『ママの足は車イス』著者/元幼稚園教諭・保育士 又野亜希子 編集委員が行く−−20 精神・発達障がいのある社員も、かかわる社員も「だれもが、楽しく、誇りをもって」 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社(東京都、大阪府) 編集委員 大塚由紀子 省庁だより−−26 特別支援教育における就労支援の取組み 文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課 研究開発レポート−−28 高次脳機能障害者の職場適応促進を目的とした職場のコミュニケーションへの介入―コミュニケーションパートナートレーニング― 研究企画部研究部門 社会的支援部門 ニュースファイル−−30 掲示板・次号予告−−32 読者の声 ※「心のアート」は休載します 表紙絵の説明 「将来の夢を考えて、野球が好きだから描きました。ボールを打つところがうまく描けてよかったです。たくさんの観客を描くのがむずかしかったけど、がんばりました。賞をもらうのは初めてなので、とてもうれしかったです。6年生になり、はりきって学校生活を送っています」 (令和元年度 障害者雇用支援月間ポスター原画募集 小学校の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。(https://www.jeed.or.jp/) 【P2-3】 私のひとこと 人間の尊厳を最大限守る支援を広げたい 株式会社キズキ代表取締役社長、NPO法人キズキ理事長 安田祐輔  株式会社キズキは「何度でもやり直せる社会」の実現を目ざし、さまざまな生きづらさに寄り添う事業を展開しています。不登校や引きこもり経験者、中退者の学び直しや受験への個別指導を行う「キズキ共育塾」を運営し、全国に7校舎を構えています。また、全国で13の自治体からは生活困窮者などへの支援事業を委託されています。そして2019(平成31)年4月には、うつや発達障害による離職者のための就労移行支援を行う「キズキビジネスカレッジ」を立ち上げました。  今回はキズキビジネスカレッジに焦点を当て、設立した背景や支援する立場として伝えたいことをお話しします。 うつ病で休職した当時の自分が求めていた場所  私は軽度の発達障害があり、幼少期から多くの症状が現れていたように思います。運動やその場の空気を読むことが苦手で、それを理由にクラスではいじめられていました。ほかにも人間関係を中心に生きづらさを抱え、持って生まれたものに絶望する日々を過ごしました。  しかし、大学進学を転機に新たな友人や先輩の優しさに触れ、「人間の尊厳」を取り戻していきました。  充実した大学生活を過ごし、卒業後には総 合商社に入社しました。ですが、4カ月後にうつ病を発症し、休職。自分が思い描いていた仕事と、実際の業務内容がかけ離れていたことが大きな理由です。  休職中は家に引きこもり「二度と社会には出られないのではないか、『失敗者』になってしまったのではないか」と自分を責めました。同時に「それでもやはり、ビジネスパーソンとして社会で活躍できる仕事に就きたい」という思いもありました。ですが、当時はそういった思いをサポートしてくれる就労移行支援を見つけることができませんでした。  その後、私は起業して「株式会社キズキ」を設立。2019年に「キズキビジネスカレッジ」(以下、「KBC」)を立ち上げます。 離職者の「もう一度働きたい」に応える  KBCは、専門スキルの習得と就職を支援するビジネススクールです。「就労移行支援」という障害福祉サービスの枠組みを利用して、サービスを提供しています。  KBCの特徴としては、「多様な進路への就職を支援できる」ことが挙げられます。就労移行支援では、軽作業や一般事務への就職を想定していることがほとんどですが、世の中にはさまざまな職種や働き方があります。利用者の方との「個別面談」を行い、本人が望む働き方についてヒアリングをすることで、メンタル面のサポートからていねいに取り組んでいます。  また、習得できる分野は多岐にわたるので、一人ひとりに合ったスキルを探すことができます。具体的には、会計・ファイナンス、マーケティング、プログラミング、ビジネス英語などの、高度で専門的なスキルを学べる講座やプログラムを用意しています。  2019年4月に立ち上げると同時に入校の問合せが殺到し、現在は二つめの事業所を開所しています。また、オンラインで参加できる「オンライン校」も運営しています。 発達障害の当事者もビジネスで活躍できる  約1年半の運営を通して、伝えたいことが二つあります。  一つめは「発達障害の当事者も、ビジネスの現場で活躍できる可能性がある」ということです。  先述した通り、私は発達障害の当事者です。ですが、現在はアルバイトを含め約300人が働く会社を運営することができています。また、KBCの事業責任者である女性社員も、発達障害の当事者として本事業の立ち上げから活躍しています。  私と彼女の共通点は、「自分の強み・弱みを理解し、強みを活かす場所を見つけた」という点です。苦手なことは周囲の人に補ってもらいながら、得意なことは存分に力を発揮できるように努める。そのためには、まずは自己理解が重要です。KBCの利用者さんに対しても、自己理解のサポートからたずさわっています。 一人ひとりの尊厳に寄り添う支援を広げる  二つめは「『当事者の可能性に蓋(ふた)をしてしまう支援』ではなく、『当事者の思いに寄り添う支援』を広げたい」ということです。  生きづらさを抱えた人を支援する会社の代表として私が実現したいことは、「人間の尊厳を最大限守る」ことです。働くうえで困難がある人、挫折した経験がある人でも、やりたい仕事があれば、その仕事ができるための専門的なスキルを身につけられる支援をすることです。  「どんな仕事でも甘えずにやれよ」と思う人もいるかもしれません。それでも、当事者の複雑な事情と願いに寄り添い、尊厳を守る他者の存在があってもいいのではないでしょうか。  私は福祉の側でさえ、「人間の尊厳を最大限に守る」ということを、実践できていないのではないかと思うときがあります。  就労移行支援をするのであれば、さまざまな職種や産業にも精通している必要があります。けれども時に、うつや発達障害を理由に「〇〇しかできないだろう」と、当事者を「福祉の側のできること」に押し込めている場面に遭遇します。  当事者の尊厳を可能なかぎり守ろうとするのであれば、その当事者が「どのような仕事に就きたいのか」という意思、一方で「どのような仕事に就くことができるのか」という現実性、その妥協点がどこにあるのかを探り続けなければいけません。可能性を広げるサポートは、当事者はもちろん、福祉の関係者や雇用する企業の方々にとってもよい結果をもたらすと考えています。  私は休職し引きこもっている状態から一念発起して「がんばりたい」と思ったときに、多くの方から「引きこもっているような君に起業ができるわけがない」といわれました。いまも当時の悔しさを覚えているからこそ、支援機関は一人ひとりの尊厳に寄り添い続けなければならないと強く思っています。  そうした支援のあり方が広がっていくことを、一人の発達障害の当事者として、また、当事者を支援する企業の経営者として願っています。 安田祐輔 (やすだゆうすけ)  1983(昭和58)年横浜市生まれ。  「株式会社キズキ」代表取締役社長、「NPO法人キズキ」理事長。  国際基督教大学を卒業後、大手商社へ入社、うつ病になり退職。その後、ひきこもり生活を経て2011(平成23)年に、中退・不登校者向けの学習塾「キズキ共育塾」を創業。  2019年に、うつや発達障害による離職からの復帰を支援する「キズキビジネスカレッジ」を開校。  ほか、全国13の自治体と協働した貧困家庭の子ども支援などにたずさわる。  著書に『暗闇でも走る』(講談社)。 【P4-9】 職場ルポ 知的障害者を事務職で直接雇用 ―株式会社テセック(東京都)― 従業員200人規模の機器メーカーでは、知的障害のある2人を事務職で通常雇用し、自然体の対応と支援機関のサポートで戦力化を図っている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野貴 取材先データ 株式会社テセック 〒207-0023 東京都東大和市上北台3-391-1 TEL 042-566-1111 FAX 042-562-6161 Keyword:知的障害、障害者就業・生活支援センター、特別支援学校、職場実習、事務職、メーカー POINT 1 直接雇用で知的障害者を事務系部署に配属 2 障害の有無にかかわらず、雇用形態・条件は同じ 3 就労支援機関との連携で就労定着と戦力化を図る 総務人事部の直接雇用から  1969(昭和44)年創業の「株式会社テセック」(以下、「テセック」)は、おもに半導体の検査装置を手がけるメーカーだ。米国など3カ国に現地法人を持ち、国内外の多くの企業における半導体製品の品質維持を支えている。  従業員数は、212人(2020〈令和2〉年6月現在)。うち障害者が6人(身体障害3人、知的障害2人、精神障害1人)で、法定雇用率は3・3%となっている。  もともと身体に障害のある従業員はいたが、法定雇用率が未達成であることを機に、2011(平成23)年から新たに障害者雇用を進めてきた。ハローワークや地域障害者職業センターなどに相談に行き、特別支援学校から職場実習生も受け入れながら、採用活動を行ってきたという。  現在、テセックに直接雇用されている知的障害・精神障害(発達障害)のある従業員3人は、本社の総務人事部と経理部で事務職として勤務している。今回は知的障害のある2人の働きぶりを中心に、職場の様子を紹介していきたい。 データ入力や仕分け作業  菊池(きくち)純矢(じゅんや)さん(27歳)は、特別支援学校の都立永福(えいふく)学園に在籍中、テセックでの職場実習をきっかけに、2011年に入社した。毎朝6時ごろに起床し、電車とモノレールを乗り継いで通勤しているそうだ。  配属先の総務人事部総務グループでは、データ入力や名刺印刷などの事務作業と、発送・受取荷物の仕分けや後処理作業を担当している。  さっそく仕事場の一つである1階の配送フロアを見学させてもらった。菊池さんは毎朝、ここに運ばれてくる大小の荷物を台車に載せ、部署別に仕分けている。各部署から集められた空き箱の処理作業も1人でこなす。配送用の緩衝材(かんしょうざい)などを素材ごとに仕分け、段ボールを解体して整理している。「むずかしいことはないです。自分で工夫しながら仕分けボックスもつくりました」と話す。  その後、4階の総務グループのフロアに移ると、今度はパソコンに向かって入力作業にとりかかる。菊池さんは「学校のクラブ活動でパソコンに触れていたし、もともとゲームをするのが好きなので、この仕事も合っていると思います。もっとスキルアップできるようにがんばりたいです」と笑顔で語ってくれた。 株主総会の会場づくりも担当  2012年に入社した平野(ひらの)佑樹(ゆうき)さん(26歳)は、特別支援学校の都立青峰(せいほう)学園在学中に、テセックで職場実習を2回経験した。パソコンでデータ入力をしたり、各部署の事務用品を補充したりする作業をやってみて、就労への意欲が高まったという。  「学校の授業でパソコンを学び、就職に向けて積極的にワードやエクセルの資格を取得したので、いまの仕事にも活かすことができました」とふり返る平野さんだが、入社後に配属された総務人事部総務グループでは当初、悩みもあったようだ。  「だれでもそうかもしれないですが、最初は仕事に慣れないなか、もともと人見知りなので、周囲に気軽に話しかけることができず、距離感があったことを覚えています。でも一緒に仕事をするにしたがって、少しずつ信頼を得ながらなじんでいけたように思います」  業務の幅も広がり、定年退職するベテラン社員から新しい仕事も引き継いできた。今年度は株主総会の会場づくりの主導役になった。「以前に受けた人事評価でプラスをもらったことが、やっぱりうれしかったですね。モチベーションも上がりました」とふり返る。その時期から「社内での自分の居場所ができたという安心感が出てきたのか、余裕をもって仕事に取り組めるようになりました」とも明かしてくれた。  いまは社内の各種イベント運営や勤怠システムの変更作業などを任されているほか、中途入社の社員の指導役も務めている。  今後の抱負について聞いてみると、少し考えたあと、こう答えてくれた。  「もっと自分から積極的に周囲に声をかけて、仕事をもらえるようにしていくことでしょうか。事務系のオールラウンダーとして、ほかのみなさんの仕事のカバーもしていけるようになりたいですね」 正しいマニュアルはない  総務グループの井塚(いづか)千恵子(ちえこ)さんは、菊池さんや平野さんを入社時から知る同僚だ。当初は、漠然とした不安があったという。  「彼らが、仕事上でどこまで何ができるのか。できなかったことについてどう注意すべきか。本人ができないといっていることについて、実はもう少し努力すればできるかもしれないのか、それとも無理をするべきではないのか。その線引きや対応の仕方については本当に手探りでした」  障害特性についてほとんど知識もなく、特別に研修を受けたわけでもなかったため、自分なりに試行錯誤していったそうだ。  例えば菊池さんは、たまに作業の優先順位や、やり方を変えたほうがいいことがあっても自分で判断できないため、周りの人が軌道修正する必要があるとわかった。  「ただし、作業の修正にもなかなか応じられない頑固な性格のところもあり、『とにかくやってみて』と強めに誘導し、結果を見せて『ほらできたでしょ』と納得してもらうようにすることもあります。日々のやり取りを重ねていきながら遠慮なくいい合えるようになり、菊池さんにとっては、お母さん的な存在になっているかもしれません」と、井塚さんは笑いを交えながら話してくれた。  平野さんについては、作業の目標やルールを決めておけばしっかり維持管理できるので、その長所を活かして仕事を担当してもらうようにしている。  井塚さんは2013年半ばに他部署へ異動し、2019年に総務グループに戻ってきたが、「その間に、平野さんはずいぶん仕事の幅が広がりましたね」と成長ぶりを語る。  井塚さんに、これから障害者雇用を始める職場の人へのアドバイスを聞いたところ、こう話してくれた。  「私の経験からいうと、深く考えないことかもしれません。一人ひとりの人間が相手ですから正しいマニュアルなんてありませんし、自然体で向き合いながら、その場その場で、対応を考えていけばいいと思います。また、自分の気持ちが煮詰まるようなら、いったん離れて冷静になる時間をつくることも必要ですね。知らない間にストレスがたまっていくのもよくないですから」  井塚さんは、障害者向けにバスケットボールをボランティアで教えている人や看護師の友人に時折話を聞いてもらい、アドバイスももらっているそうだ。 電話もかけてもらう  同僚として平野さんや菊池さんと一緒に仕事をすることが多いという法師(ほうし)清康(きよやす)さんは、3年前に総務グループに配属された。  「2人ともすでに仕事に慣れていて、私のほうが業務を教えられることはあっても、こちらから新たに教えることは特にありません」と話す。  菊池さんについては、「毎日のルーティンワークのなかに、違う業務を依頼すると納得してくれないことがあります。そうすると、やっぱりその業務をやっていなかったということもあるので、折を見て確認し、場合によってはくり返し念を押すこともありますね」という。  作業上で入力ミスなどが生じたときは、菊池さん本人から「なにかいつもと違う」といった形で申告があるそうだ。  「伝票のミスの原因が取引先にありそうなときは、電話をかけて確認してもらうところまでやってもらいます。発注も含めて電話をかける作業は、実は本人はやりたがらないのですが、それも仕事だからといって、なるべくやってもらいますし、実際にできます。10回のうち2回ぐらいは通話の途中でむずかしくなってくることがあり、そのときは交代するようにしています。取引先にも菊池さんのことは理解してもらっています」  日ごろ菊池さんとは、自分の子どもがやっているゲームについての雑談をしたり、平野さんとはお互い好きな車の話をしているそうだ。 支援機関との連携  本社の障害者雇用を実質的に担当し、今回の取材を調整してくれたのは、総務人事部で総務グループマネージャーと人事グループマネージャーを兼務する斉藤(さいとう)直之(なおゆき)さんだ。他部署から異動してきたのは2014年だが、前任者から障害者雇用について特段の引継ぎはなかったという。ただ本社内でたまに顔を合わせたり、なんとなく話を聞いていたりしたので、「最低限の知識だけは、本などで勉強しました」と明かす。  それからは、現場でのトライアンドエラーをくり返しながら、仕事の任せ方やトラブル回避の方法などを見つけてきた。「実感しているのは、それぞれ一人の人間として真剣に向き合い、対応することが一番だということです」とふり返る。  一方で、かぎられた会社組織では、当事者たちのフォローをはじめ、さまざまな対応が斉藤さんに集中しやすいのも事実だ。そんな斉藤さんが頼りにしている相談先の一つが「あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすく」(以下、「あすく」)(東京都)だという。平野さんらが登録しており、就労定着支援を行っている。「あすく」について、斉藤さんは次のように話す。  「職場で私がよかれと思って対応したことに、本当に問題はなかったのかと自問自答することも少なくありません。そのまま一人で抱え込むと孤独感にもさいなまれてしまいます。少し困ったなと感じたときは『あすく』に連絡をして、本人と面談してもらったり、私がアドバイスをもらったりしています。いつでも頼れる先があるというのは、心強いですよね」  「あすく」のセンター長は、本誌の編集委員も務める原(はら)智彦(ともひこ)さん。平野さんの通っていた青峰学園でも2009年の開校時から4年前まで進路指導を担当し、平野さんとはいまも定期的にプライベートで会食など交流を続けているそうだ。「在学中の平野さんは、会話でいいよどんだり考え込んでしまったりすることも少なくなかったのですが、テセックに就職してから自信をつけたのか、飛躍的にコミュニケーション能力が高まったという印象があります。本人の努力とともに、職場のみなさんのフォローのおかげだと感じます」  あらためて、特別支援学校での職業訓練についても説明してもらった。  「例えば青峰学園では、ロジスティクスコース・食品コース・福祉コース・エコロジーサービスコースに分かれ、校内実習や企業での職場実習を経て就職していきます。平野さんが在籍していたロジスティクスコースでは、物流・事務に関する仕事を念頭に、資料の印刷・データ入力や物品管理、納品などを含め、一般事業所などから仕事をもらっているので実践的に学ぶことができます」  「あすく」では、平野さんのような登録者に対し就労後も連絡を取り合いながら、必要に応じて面談や職場訪問などを行っている。本人の就労に関する不安や悩みを聞いて解決を図るだけでなく、雇用側の就労規定や働き方について正しく理解し、実践できるよう導くといったフォローもしている。  就労定着支援における企業と支援機関との連携のあり方について、原さんが話す。  「私たち就労支援機関は、当事者の就労とは直接関係のない生活・家庭事情など、雇用者側がふみ込めないプライベートな部分にも多少かかわることができます。お互いにうまく役割分担しながら多面的に支援していくことが大切です」  「あすく」は現在250人ほどの登録者を抱え、平時から一人ひとりの様子に目が届きにくくなるため、雇用者側から積極的に相談してもらいたいともいう。  「斉藤さんは、ふだんから定期的にメールや電話で連絡をくれるので、私たちとしてはむしろ状況を把握しやすくなり助かっています。少しの異変でも早目に声をかけ合えるような関係を維持しておけば、大きな問題になる前に、スムーズな支援へとつなげていけます」 キャリア形成も  最後に、障害者雇用におけるキャリア形成について斉藤さんに聞いた。  テセックでは、障害の有無にかかわらず、雇用形態・雇用条件は同じだ。いい換えれば、ほかの社員と同じ土俵で人事評価を受けていることにもなる。  「評価については、本人たちの課題や目標についてしっかり説明するようにしています。障害のある社員も3人が8〜9年間勤務して中堅社員になり、実際に戦力となっていると感じています。障害の特性や業務能力、本人の意欲なども考慮しながら、それぞれのキャリア形成を図っていきたいと考えています」  今後は、身体に障害のある社員らが定年に近づいていくこともあり、次の採用を視野に入れながら、特別支援学校などとも職場実習を通じて協力関係を維持していきたいとのことである。 写真のキャプション 菊池純矢さんは、荷物の仕分けや段ボールの整理なども担当している 総務グループで、さまざまな事務作業をこなす平野佑樹さん 菊池さんや平野さんが働く総務人事部のオフィス 平野さんにアドバイスする井塚千恵子さん(右) 総務人事部総務グループの法師清康さん 総務人事部総務グループマネージャー兼人事グループマネージャーの斉藤直之さん あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすくセンター長の原智彦さん 【P10-11】 クローズアップ はじめての障害者雇用 第5回  第5回目のテーマは、職場の受入れ体制です。一緒に働く同僚や上司が、障害者雇用について理解不足のままでは、せっかく採用しても長続きしません。また、担当部署だけに負担をかけてしまうようなことも避けるべきです。今号では、スムーズな職場定着につながる社内サポートと連携のあり方についてご紹介していきます。 (協力)中央障害者雇用情報センター 障害者雇用支援ネットワークコーディネーター 礒邉豊司さん、内田博之さん Q1 社内の関心が薄く、障害者雇用を進められる自信がありません。 A 社内会議などで現状や課題を周知し、経営陣からトップダウンで関心を広げましょう。  障害者雇用は、経営者(経営陣)や人事担当者、受入れ部署はもちろん、社員全員が共通認識を持つことで、一部の当事者だけに負担がかかったり孤立したりすることを防ぎ、業務内容や配属先も拡大しやすくなります(図)。  「とにかく採用」と先を急ぐ前に、会社として「なぜ障害者雇用に取り組むのか」、「目的や理念は何か」といった方針を明確に打ち出すことで、社員の理解が広がりやすく、結果として採用から定着までスムーズに進みます。  具体的には、社内会議などで障害者雇用の必要性を周知し、取組みを進める提案をして、社内の合意形成(コンセンサス)を図っていくとよいでしょう。 ◆提案のための資料例 ・自社の障害者雇用状況(常時雇用している労働者数、雇用障害者数) ・障害者雇用を進めなければならない理由(法律に定める雇用義務、ハローワークからの指導、納付金の納付義務、企業の社会的責任(CSR)) ・具体的な障害者雇用計画(本社で〇人、A・B工場で〇人ずつ) ・障害者雇用にあたって利用できる支援機関や支援内容、助成制度 ・他社の雇用事例 など  また、社内理解を広げるには、経営者の姿勢が最も重要です。ある会社での例です。障害者雇用が始まってから経営者がその職場を見に来ました。現場の仕事ぶりに感心した経営者が役員会議でその話をしたところ、相次いで役員たちも見学に訪れ、障害者雇用の社内の関心が一気に高まったそうです。  そして、社内理解には「社員研修」も有効です。受入れ部署の社員だけでなく、管理職や新入社員向けの研修にも障害者雇用に関するプログラムを取り入れるとよいでしょう。地域障害者職業センター(以下、「地域センター」)(注1)に依頼すれば、企画内容や講師派遣について協力を得られます。当機構で貸し出している啓発用DVD(注2)も活用すれば、社員に障害者雇用の具体的なイメージを持ってもらうことができるでしょう。  なお、採用者が決定した場合は、ご本人が登録していた就労支援機関の担当者に来てもらい、各個人の特性や配慮事項について具体的なアドバイスをもらうことも効果的です。 Q2 採用後、職場のサポート体制はどうするべきでしょうか。 A  現場の支援担当者と管理職、人事担当者が連携した「社内サポート体制」が必須です。 ◆支援担当者(指導員)と管理者  障害者雇用の現場では、一般社員と同様、業務を習得するための支援担当者(指導員)がいるとよいでしょう。配属先の部署の職員が担当するほか、社内公募によって選定するという方法もあります。公募によって、もともと関心がある、または身近に障害者がいるといった意欲のある人が手を挙げてくれるケースもあります。シニア社員なら、社内事情に詳しく豊かな人生経験も活かしてくれるでしょう。  また、配属部署の管理者は、社内サポートの窓口となって職場定着にあたっての必要な相談や調整などをすることが望ましいでしょう。本人が職場で十分に能力を発揮できるよう、職場への適応状況を把握し、必要に応じて職場環境の改善や人間関係形成のサポートを行います。 ◆人事担当者  障害者雇用が始まると、どうしても現場に負担がかかりやすくなります。人事担当者は、採用後しばらくは配属部署の管理者や社員のサポートを行います。人事担当者と管理者、支援担当者の三者が常に連携できる体制をつくっておきましょう。 「障害者職業生活相談員」の配置  障害者を5人以上雇用している事業所においては「障害者職業生活相談員」を選任しなければならないとされています。  相談員の役割は、障害者の能力開発向上といった職務内容や、人間関係など職業生活に関することの相談・指導など多岐にわたります。相談員のみで解決することがむずかしい場合は、人事担当者や配属先の上長などと組織的に問題解決に向け検討することが必要です。  相談員の資格は、当機構の各都道府県支部で開催している講習(全2日間)を受講・修了することにより得られます。この講習では、法制度や雇用管理の方法など幅広い基礎知識を学べます。 障害者職業生活相談員 検索 Q3 社内のサポートだけでは対応できない課題やトラブルがあるのですが、どうしたらよいでしょうか。 A 日ごろから外部の支援機関と連携しておくことが大切です。  例えば、家庭や交友関係のトラブル、生活習慣の乱れなど「職場以外のこと」が就労に影響をおよぼすことがあったり、体調の安定を維持するために継続的な通院を必要としたりするケースなどもあります。こうしたプライベートな部分は、雇用側として立ち入ることが躊躇(ちゅうちょ)されるケースもありますので、本人とつながりのある支援機関に間に入ってもらうとよいでしょう。そのためには支援機関と定期的に情報交換の場を設けたり、何かあったときに迅速に協力し合えたりする関係を、日ごろからつくっておくことが大事です。  また、障害者が円滑に職場に適応できるよう、ジョブコーチ(職場適応援助者)が事業所に出向き、職場内においてさまざまな支援を行う制度があります。障害者の課題に応じた支援のほか、事業主や職場の社員に対しても支援や助言を行います。地域センターの配置型ジョブコーチのほか、社会福祉法人などの訪問型ジョブコーチ、事業主自らが職場内に配置する企業在籍型ジョブコーチがあります。詳しくは、各都道府県の地域センターまでお問い合わせください。 (注1) JEED地域センター 検索 (注2) JEED DVD 検索 【図】全社的に連携した社内サポート体制(例) 経営者 ●障害者雇用の方針の決定 ●全社員への方針の浸透 (社員へのメッセージの発信) 理解を求める方針の伝達 受入れ部署社員 ●仕事に関する教育・指導や悩みの解消 ●障害者の労務管理 ●人間関係、職場環境の改善 サポート 理解・協力 支援機関 ●生活面の支援や悩みの解消 (生活習慣、家族・交友関係) ●医療機関との調整 サポート 相談・報告 人事担当者 ●障害者雇用計画策定 ●経営者、受入れ部署との調整 ●採用活動 ●労働条件(就業時間・休日)の配慮 ●医療機関や支援機関との連絡調整 理解を求める方針の伝達 受入れ部署以外の社員 ●障害者への理解 ●受入れ部署への協力 理解を求める方針の伝達 サポート 相談・報告 理解を求める方針の伝達 経営者への働きかけ 理解を求める方針の伝達、計画の承認 【P12-14】 JEED インフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 令和2年度 就業支援課題別セミナー「事業主支援」のご案内 受講料無料  当機構では、労働、福祉、医療、教育などの分野で障害のある方の就業支援を担当している方を対象として、新たな課題やニーズに対応した知識・技術の向上を図るための「就業支援課題別セミナー」を実施しています。令和2年度のテーマは、「事業主支援」です。  みなさまの受講を心よりお待ちしています。 内容 ■精神障害者や発達障害者等の雇用における職務創出、キャリアアップなどの支援 ■雇用上の合理的配慮事例に学ぶ支援 ■事業所との相談の進め方 ■企業における雇用管理の課題と取組み(就労支援機関との連携事例) 対象者 労働、福祉、医療、教育などの関係機関において就業支援を担当する方 日程 令和2年11月5日(木)〜11月6日(金) 会場 障害者職業総合センター(千葉市美浜区若葉3-1-3) 定員 50名 お申込み ◎申込方法:「就業支援課題別セミナー受講申込書」に必要事項を記入し、申込受付期間内にメールでお申し込みください。 ◎受講申込書・カリキュラム:当機構ホームページからダウンロードできます。 ◎申込受付期間:令和2年8月26日(水)〜9月30日(水) ◎受講決定の通知:申込受付期間終了後、受講の可否についてメールにて通知します。 定員を超えた場合は、複数名の申込みをされた法人などに対して人数の調整をさせていただくことがあります。あらかじめご了承ください。 ◎お問合せ先 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 職業リハビリテーション部 研修課 TEL:043-297-9095 E-mail:stgrp@jeed.or.jp URL:https://www.jeed.or.jp/ 就業支援課題別セミナー 検索 障害者職業訓練推進交流プラザのご案内  厚生労働省および当機構では、障害のある方の職業訓練を実施している、または、障害のある方の受入れを検討している施設などの方を対象に、精神障害や発達障害、高次脳機能障害のある方などに対する職業訓練技法の普及を行っています。  その一環として、厚生労働省主催の「障害者職業訓練指導員経験交流会」と当機構主催の「障害者能力開発指導者交流集会」をあわせて「障害者職業訓練推進交流プラザ」として共同開催するものです。  みなさまのご参加を心よりお待ちしています! ※新型コロナウイルス感染症防止策を講じたうえで開催を予定しておりますが、状況により開催等に変更が生じる場合もございます。変更が生じた場合には、当機構ホームページ(https://www.jeed.or.jp/disability/supporter/intellectual/plaza_guide.html)にてお知らせする予定です。 開催日時・会場 開催日時 令和2年10月22日(木)10:00〜16:30 会場 障害者職業総合センター(千葉市美浜区若葉3-1-3) 参加対象者 障害のある方の職業訓練を実施している、または、障害のある方の受入れを検討している施設など(障害者職業能力開発校、一般の職業能力開発校、民間の障害者職業能力開発施設、障害者委託訓練受託施設、都道府県人材開発主管課)の方 写真のキャプション 訓練教材などの紹介 グループ別検討会の風景 内容(予定) 【行政説明】 「障害者人材開発施策の現状と今後の課題について」 【事例発表・訓練技法等の紹介】 *精神障害者等の職業訓練における支援力向上に係る取り組み 〜職業訓練指導員等の研修・事例共有等の取り組みについて〜 *障害者委託訓練に係る取り組み 〜委託先開拓、受講者確保、就職に向けた取り組みについて〜 *職業能力開発校等に対する指導技法等の普及について 〜専門訓練コース以外での精神障害者等の受入れに係る支援について〜 *精神障害・発達障害者に対する導入期の職業訓練について 〜対応法の習得に向けた具体的な取り組み〜 *精神障害・発達障害者に対する職業訓練における医療機関との連携について 【グループ別検討会】 次のテーマごとにグループに分かれて討議を行います。 *精神障害者の職業訓練 *発達障害者の職業訓練 *障害者委託訓練 写真のキャプション 事例発表の風景 〜参加者の声〜 ●障害者雇用の現状が把握できた ●障害者職業訓練の具体的な成功事例がたいへん参考になった ●他の都道府県の方と意見交換をして、課題や工夫を共有できてよかった ●今後、導入期の訓練教材を参考にしていきたい お申込み・締切り ◎申込方法:当機構ホームページ(https://www.jeed.or.jp/disability/supporter/intellectual/plaza_guide.html)から申込用紙をダウンロードし、申込用紙に入力のうえ、当機構職業リハビリテーション部指導課 広域・職業訓練係あてに、メールまたはFAX、郵送でお申し込みください。 ◎締切り:令和2年9月16日(水)必着 ★参加費は無料です。事前申込みが必要です。 ★障害特性に応じた訓練カリキュラムや訓練教材、支援ツールなどの展示を行います。 ★昼食は各自ご準備ください。 障害者職業訓練推進交流プラザ 検索 ◎お問合せ先 厚生労働省 人材開発統括官付参事官(人材開発政策担当)付 特別支援室 障害者企画係 〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2 TEL:03-5253-1111(内線5962) 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 職業リハビリテーション部 指導課 広域・職業訓練係 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9030 FAX:043-297-9056 E-mail:ssgrp@jeed.or.jp ご活用ください!障害者の職業訓練実践マニュアルなど 職業訓練実践マニュアル 導入期の訓練編 ◆精神障害・発達障害者への職業訓練における導入期の訓練編T〜特性に応じた対応と訓練の進め方〜(平成30年度発行) ◆精神障害・発達障害者への職業訓練における 導入期の訓練編U〜対応法の習得に向けた具体的な取り組み〜(令和元年度発行) 高次脳機能障害者編 ◆高次脳機能障害者編T〜施設内訓練〜(平成28年度発行) ◆高次脳機能障害者編U〜企業との協力による職業訓練等〜(平成29年度発行) 精神障害者編 ◆精神障害者編T〜施設内訓練〜(平成24年度発行) ◆精神障害者編U〜企業との協力による職業訓練等〜(平成25年度発行) 発達障害者編 ◆発達障害者編T〜知的障害を伴う人の施設内訓練〜(平成22年度発行) ◆発達障害者編U〜施設内訓練〜(平成23年度発行) ◆発達障害者編V〜企業との協力による職業訓練等〜(平成24年度発行) 重度視覚障害者編 ◆重度視覚障害者編T〜施設内訓練〜(平成22年度発行) ◆重度視覚障害者編U〜企業との協力による職業訓練等〜(平成23年度発行)  「導入期の訓練」編では、入校直後の導入期に訓練生活への適応の促進を図るための職業訓練の実施方法などをまとめています。  「施設内訓練」編では、おもに訓練環境や指導体制の整備、訓練カリキュラム、訓練教材の作成方法、実践的な職業訓練の実施方法などをまとめています。  「企業との協力による職業訓練等」編では、おもに企業ニーズをふまえた職場実習や、就職活動における支援技法などをまとめています。 精神障害者等向け委託訓練参考マニュアル 精神障害や発達障害のある方への円滑な委託訓練実施のために 〜精神障害者等向け委託訓練参考マニュアル〜(平成27年度発行)  委託訓練先機関の方、または委託訓練の実施を検討されている機関の方に向けて、精神障害、発達障害のある方を受け入れるための、訓練環境におけるポイント、具体的な取組み内容などについてまとめました。 令和2年度末 発刊予定! ☆令和2年度は、「導入期の訓練編V」をとりまとめる予定です。 職業訓練実践マニュアルなどは当機構のホームページからダウンロードしてご利用ください。 障害者職業訓練に関する指導技法等の提供 検索 https://www.jeed.or.jp/ 上記のほか、平成21年度までに発刊した『職業訓練の実践研究報告書』などもございますので、あわせてご活用ください。 ◎お問合せ先 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 職業リハビリテーション部 指導課 TEL:043-297-9030 【P15-18】 令和2年度 障害者雇用支援月間ポスター原画(絵画・写真)コンテスト 「働くすがた〜今そして未来〜」入賞作品  高齢・障害・求職者雇用支援機構では、広く障害者雇用への理解と関心を深めていただくため、9月の「障害者雇用支援月間」にあわせてポスターを制作しています。今年度も、障害のある方々などからポスターの原画となる絵画と写真を募集しました。 募集は絵画3部門と写真の部に分けて行い、全国から寄せられた1,206点(絵画1,039点、写真167点)の応募作品のなかから、審査の結果、ポスターに採用する厚生労働大臣賞4点のほか当機構理事長賞4点、同理事長奨励賞72点、また、応募いただいた学校等のなかから、当機構理事長団体奨励賞に1団体が、それぞれ選ばれました。厚生労働大臣賞を受賞した4作品をもとに作成したポスターは、障害者雇用支援月間中、全国のハローワークなどに掲示されます。 厚生労働大臣賞 ◆絵画の部 小学校◆  「チーターのけがを治すじゅういさん」  清水菜々子(しみず ななこ 岡山県) ◆絵画の部 中学校◆  「スポーツ用品店での実習」  宮下晴多(みやした はるた 長野県) ◆絵画の部 高校・一般◆  「日本の庭師」  田中瑠菜(たなか るな 北海道) ◆写真の部◆  「確認する目」  水島芳彦(みずしま よしひこ 大阪府) 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞 ◆絵画の部 小学校◆  「ぼくは白バイ隊員」  大澤津來斗(おおさわつ らいと 鹿児島県) ◆絵画の部 中学校◆  「ずーっと車屋さんではたらく」  翁長光舞(おなが こう 沖縄県) ◆絵画の部 高校・一般◆  「伝えていきたい技」  井上浩之(いのうえ ひろゆき 神奈川県) ◆写真の部◆  「えーと あと幾つだっけ」  小仲邦生(こなか くにお 熊本県) 絵画の部 小学校 「お母さんの病気をなおすお医者さん」 末廣悠仁(すえひろ ゆうと 鹿児島県) 「ぞうのしいくいんになりたいな」 福元弘(ふくもと ひろむ 鹿児島県) 「目指せ!パンダの飼育員」 田中遥姫(たなか はるひ 和歌山県) 「ふねにのって大きなさかなをつりたいな」 根岸虎輝(ねぎし たいが 東京都) 「子どもが喜ぶケーキ屋さん」 宮ヶ迫愛莉(みやがさこ あいり 鹿児島県) 「町工場で働きたい!」 馬場旺次朗(ばば おうじろう 鹿児島県) 「おいしい料理を作るシェフ」 駐玲生(はしま れお 鹿児島県) 「ペットショップで働きたいな」 中馬望花(ちゅうまん ののか 鹿児島県) 「きょうりゅうはかせ」 大澤津楓斗(おおさわつ ふうと 鹿児島県 「スーパーモデル」 中野華純(なかの かすみ 鹿児島県) 今年度も力作がそろいました シンボルキャラクター ピクチャノサウルス 絵画の部 中学校 「災害からの復興」 服部幹(はっとり かん 長野県) 「シェフ」 中嶋香月(なかじま かづき 秋田県) 「駅で働く人」 佐藤海翔(さとう かいと 秋田県) 「木工職人」 松山楓茉(まつやま ふうま 秋田県) 「寿司職人の仕事」 英山拓未(えいやま たくみ 兵庫県) 「助産師さんの仕事」 山本ほのか(やまもと ほのか 兵庫県) 「スーパーマーケットで働く人」 羽田美月(はだ みづき 兵庫県) 「学校の先生」 笠原彩乃(かさはら あやの 愛知県) 「笑顔が素敵なウエイトレス」 薬師神千華(やくしじん ちか 鹿児島県) 「こん虫館で働きたい」 井翔冴(たかい しょうご 香川県) 入賞作品展示会のお知らせ 全国5カ所で入賞作品展示会を開催します。 【東京】9/14(月)〜9/18(金) 丸の内MY PLAZA 【大阪】9/28(月)〜9/30(水) 大阪市役所 【福岡】10/5(月)〜10/8(木) 福岡市役所 【札幌】10/23(金)〜10/25(日) 札幌駅前通地下広場 【愛知】11/6(金)〜11/9(月) SMBCパーク栄 詳しくは当機構ホームページをご覧ください。 絵画の部 高校・一般 「拾い昆布の御爺」 内海雅充(うつみ まさみつ 北海道) 「立ち向かう者」 下斗米一行 (しもとまい かずゆき 青森県) 「犬好きなトリマーさん」 宮ア百夏(みやざき ももか 秋田県) 「一つ一つ丁寧に」 伊藤遥弥(いとう はるや 秋田県) 「丁寧な薬剤師さん」 落合里穂(おちあい りほ 茨城県) 「NZ2127 組み立て生産」 中井美之(なかい みゆき 群馬県) 「今日もピカピカに」 番場平(ばんば たいら 埼玉県) 「えがくひと」 松山ゆきの(まつやま ゆきの 千葉県) 「幸せそうに働いている姿」 佐々木亮介(ささき りょうすけ 東京都) 「信頼」 小島幸吉(こじま こうきち 神奈川県) 「美容師さん、可愛くしてね」 渡邉桃子(わたなべ ももこ 神奈川県)「醤油蔵で真剣になって働く未来の僕」 渋谷健治朗(しぶや けんじろう 新潟県) 「SF小説家」 木津晴貴(きつ はるき 新潟県) 「一生懸命な私」 山本沙采(やまもと さあや 石川県) 「楽しい端子分解」 沖津恵梨香(おきつ えりか 石川県) 「ぼくたち はりきって売っています」 加藤利和(かとう としかず 岐阜県) 「草取り」 赤堀竜太郎(あかほり りゅうたろう 静岡県) 「車を手洗い」 戸苅宏二(とがり こうじ 愛知県) 「ふわふわ煌めく楽しさの形」 大村綾子(おおむら あやこ 愛知県) 「ハリネズミカフェのおもてなし」 大村麻子(おおむら あさこ 愛知県) 「盛り付けをする調理師」 岡本邦裕(おかもと くにひろ 愛知県) 「自動車の組み立てをする作業者」 堀江裕貴(ほりえ ゆうき 愛知県) 「「喜び」を添えて」 音城志保(おとしろ しほ 大阪府) 「漫画家は紙に命を吹き込みます」 小林弘典(こばやし ひろのり 奈良県) 「料理人の背中」 益成和雄(ますなり かずお 島根県) 「水族館に見える サメと魚がみんないる」 徳原望(とくはら のぞみ 山口県) 「ぶどうをたくさんあるおじさん」 藤村義孝(ふじむら よしたか 山口県) 「木工加工をする私」 真鍋智也(まなべ ともや 愛媛県) 「西鉄バス運転手」 宗金竜三(むねかね たつみ 福岡県) 「看護師になるには・仕事内容と本音・全国の求人」 平井英樹(ひらい ひでき 福岡県) 「硝子球・樹脂カバー製造の町工場で働く人々」 松尾英昭(まつお ひであき 熊本県) 「おいしいコーヒーをどうぞ」 宮村光(みやむら ひかる 熊本県) 「シェフ」 渕啓造(ふち けいぞう 大分県) 「つくしいっぱい都会の人に届けたい」 茂谷夏代(もたに なつよ 鹿児島県) 「調理をする私」 ♀広海(ぎき こうみ 鹿児島県) 「商品の品出し」 宮里真生(みやざと まお 沖縄県) 【P19】 エッセイ*【最終回】 重度障害とともに 〜さらにできることに挑戦してみたい! 子育て支援活動への取組み〜 又野(またの)亜希子(あきこ) 『ママの足は車イス』著者/元幼稚園教諭・保育士  結婚2年目、28歳のときに保育園へと向かう通勤途中の交通事故により頸髄を損傷し、重い障害が残った。  生きる希望を失いかけたなか、2006年に新しい命を授かり、無事に第1子を出産。車いすで家事や子育てをしながら、全国で実体験に基づいた講演活動や、「埼玉県家庭教育アドバイザー」として子育て支援活動をしている。  著書に、『ママの足は車イス』、『ちいさなおばけちゃんとくるまいすのななちゃん』(ともに、あけび書房)がある。 埼玉県家庭教育アドバイザー資格取得  ある講演での出会いから、「埼玉県家庭教育アドバイザー」という資格の存在を知りました。保育士の資格があり、幼稚園教諭をしていた私にとって、子育て支援活動はたいへん興味深いものです。「私にできることがあるのなら、資格取得に挑戦してみたい」と思いました。  ところが、ひとことで「資格取得に挑戦」といっても、この資格を得るためには研修を受けなければなりません。身体に障害のある私にとって、研修会場への移動など容易なことではありません。いまでは電動車いすも使用していますが、当時は手動車いすだけでした。研修会場は駅から徒歩10分。手動車いすではたいへんな道のりです。悩んだ挙句、資格取得を諦めかけていました。そんなとき、それを知った埼玉県庁職員の方から温かなご配慮をいただきました。それは、「チームぴかぴか」のスタッフによる、駅から研修会場までの介助です。  「チームぴかぴか」とは、埼玉県の特別支援教育課が行っている障害者雇用促進に向けたモデル推進事業で、県教育委員会が特別支援学校卒業生を雇用し、職業スキルの向上を図り、一般企業への就職を目ざす取組みです。身体障害のある私を、知的障害や発達障害のある若者がサポートしてくれたでのす。彼らは、初めての車いす介助に戸惑いつつも、一生懸命介助してくれました。私は、彼らのおかげで無事、研修を受講し、2015(平成27)年、資格を取得することができました。 「私だからこそ」の子育て支援活動  そして現在「埼玉県家庭教育アドバイザー」として、子育て支援活動をしています。月に1度、加須(かぞ)市との共催でアドバイザーが集い、子育てサロンの運営や簡易通園母子訓練施設(発達に遅れが見られる乳幼児が親子で通園する施設)で親への支援活動を行っています。私にとって、子育て支援という形で子どもたちの成長にかかわれることは、とても幸せなことです。  車いす姿の私を見た子どもたちのなかには、戸惑う子もいます。初めのころは、その子たちの反応に動揺しました。私自身、障害者として社会に出ることにだいぶ慣れていたために、自分でもその動揺が意外でした。しかし、次第に子どもたちも保護者も障害者の私に慣れてきてくれていることに気づきました。私のもとに「これ読んで」と何冊も絵本を持ってくる女の子、車いすのブレーキやタイヤが触りたくて集まってくる男の子、子育ての喜びや悩みをこぼす保護者、それらの触れ合いを通して、自分の存在が認められているように感じ、嬉しくなりました。また、この活動から私のような障害者の存在を知り、慣れてもらうことに大きな意味があると思うようになりました。今後も、「私だからこそ」できる子育て支援活動を続けていきたいです。 おわりに  「私もがんばらなきゃ!」、「あれもこれもできるようにならなきゃ!」と、見えない先を考えては不安になったり焦(あせ)ったりしている時期がありました。やがてそんな自分に苦しくなり、「できないことは周囲に助けてもらい、私は私にできることを精一杯やればいい」と思うようになりました。それからは、目の前にあることを一生懸命にこなしてきました。それが、いまにつながっています。つい、他人と比較しては落ち込んでしまう自分。今後は、さらに自分を深く見つめ、「私だからこその良さ」を探しながら生きていこうと思っています。 写真のキャプション 子育て支援活動の様子 【P20-25】 編集委員が行く 精神・発達障がいのある社員も、かかわる社員も「だれもが、楽しく、誇りをもって」 あいおいニッセイ同和損害保険株式会社(東京都、大阪府) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 取材先データ あいおいニッセイ同和損害保険株式会社 〒150-8488 東京都渋谷区恵比寿1-28-1 事務サポートセンターでの障がい者雇用(特定業務集中職場恵比寿・日本橋・大阪の3カ所計):28人 うち事務チーム(精神・発達障がい者数):19人 編集委員から  「あいおいニッセイ同和損害保険株式会社」は、精神・発達障がい者の積極採用と早期離職の経験をもとに障がい者雇用方針を大きく転換。2015年、精神・発達障がい者の集中力や視覚的な処理能力を強みとして発揮できる「特定業務集中職場」を本社内に創設した。今回は、障がいのある社員もマネジメントする社員も、楽しく誇りをもって働ける職場づくりの工夫を聞いた。 写真:官野貴 Keyword:精神障がい、発達障がい、障がい理解、職域拡大、業務体制の工夫・改善、職場環境の整備 POINT 1 相次ぐ早期退職を受け、障がい者雇用推進プランを提案 2 社員の特性、強みを活かした業務を行うサポートセンターを開設 3 同じ「特定業務集中職場」のコンセプトを他拠点にも展開 従来型の障がい者雇用では、精神・発達障がい者も一緒に働く社員もつらい  障がい者雇用責任者の小谷(こたに)彰彦(あきひこ)さんが、人事部ダイバーシティ推進室に異動になった2015(平成27)年。「あいおいニッセイ同和損害保険株式会社」(以下、「あいおいニッセイ同和損保」)では、障がいのある社員の採用数を拡大し、82人を採用したものの、退職者が73人発生していた。在籍していた身体障がいのある社員の定年退職、2013年から積極採用した精神障害者保健福祉手帳を持つ社員の相次ぐ早期退職などが要因であった。  2013年に採用した精神障がいのある社員30人は、半数が1年以内に退職した。残った社員にも体調不良、勤怠不良、業務遂行不良、人間関係のトラブルなどが頻発し、退職者が後を絶たない状況だった。身体障がいのある人の採用市場は枯渇していることはわかっている。でもまた、精神障がいのある人を採用してもすぐに退職してしまうだろう。  各部門に精神障がいのある社員を、受入れ環境を整えないままに配属すると、障がいのある社員も、一緒に働く社員も互いにつらい。身体に障がいのある社員の場合は周囲の社員が何に配慮すればよいか比較的わかりやすいが、身体障がいのある人の雇用と同じ考え方で、精神障がいのある人の雇用を進めてはならない。小谷さんは、その思いのもと、他社の障がい者雇用の取組みを積極的に研究し、部門に配属していく形ではなく、障がいに配慮された環境を整えていくことが定着率に貢献することを知る。そして、精神障害者保健福祉手帳を持つ社員のなかには、精神疾患のある人だけでなく、発達障がいのある人も含まれており、他社では発達障がいのある人の雇用が進みつつあることも知った。  「全面的に方針を変える必要がある」、小谷さんはそう感じた。 障がい者雇用推進プランで示された「特定業務集中職場」  小谷さんは、当時机を並べていた高木(たかぎ)協一(きょういち)さんと一緒に、「障がい者雇用推進プラン」をつくり経営者側に提案した。それは次の通りだ。  「障がい者雇用を取り巻く環境は厳しさを増す一方だ。身体に障がいのある人の採用市場は枯渇しつつある。また、さらなる法定雇用率の引上げも予定されている。一方で、発達障がいのある人の雇用がメディアでも注目され始めている。精神障がい、発達障がいのある人の特性であるコミュニケーションや優先順位づけなどの苦手な点に配慮し、業務管理者のもとでタスクや体調を管理しながら、得意分野の業務に集中できる職場環境をつくることが有効なのだ。だれにでもできる簡単な仕事をやってもらう障がい者雇用ではなく、『特定分野の高付加価値の業務に集中して取り組んでもらう』障がい者雇用だ」  その障がい者雇用推進プランで示された「特定業務集中職場」が、高木さんを中心に1年間の準備期間を経て、2017年に誕生した。恵比寿本社の「オフィス・事務サポートセンター(現・恵比寿事務サポートセンター)」である。 1人の退職者もなし・4年目の「恵比寿事務サポートセンター」  2020(令和2)年6月現在、本社の「恵比寿事務サポートセンター」は、3人の知的障がいのある社員で構成される「オフィスチーム」と、7人の精神障害者保健福祉手帳を持つ社員(精神障がい、発達障がい)で構成される「事務チーム」の二つで編成されている。開設以来、1人の退職者も出ていない。  オフィスチームは会議室の清掃など、オフィス環境を整える業務。事務チームは、高度なパソコンスキル、事務精度の高さ、細部にわたるチェック力など、精神・発達障がいのある社員の特性、強みを活かした業務をになっている。全社の紙・電力・ガソリンの使用量の集計、音声ログの評価やテキスト化、代理店登録内容の点検、保険関係書類の点検、代理店ホームページの点検など、業務依頼元の部署も多岐にわたる。  「3年連続で事務チームに感謝状を贈呈してくれた部署もあるんです。贈呈式では、みんな誇らしげでした」と、人事部ダイバーシティ推進室担当次長(恵比寿事務サポートセンター統括)である立花(たちばな)順(じゅん)さんは話す。  新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、テレワークと出勤を組み合わせた勤務体制となっているため、現在、全員がオフィスに揃うことは困難だが、連携しながら業務にあたっている。  朝礼では、理念と行動指針の唱和、業務予定などが共有される。テレワークで在宅勤務をする障がいのある社員も、リモートで朝礼に参加する。  「今日の業務予定を確認してください。代理店マスターの確認業務は引き続きやってください。午後は保険書類の仕分け・郵送業務が入ってきますので、効率よく進めてください」  立花さんのよく通る声と、リモート参加の社員に向けてパソコンの画面に集中している姿が印象的だ。 自分たちより業務スキルが高い  立花さんは、恵比寿事務サポートセンターの管理責任者として、初代の小宮(こみや)義彦(よしひこ)さんから引き継いで2年目となる。  「法定雇用率の達成のために、働いてもらっているのではない。会社の一員として生産性を上げてほしいということを、当初からメンバーに伝えています。データ集約の仕事が社内のどの指標に反映されるのか、納品した仕事がどのように会社に貢献しているのかを意識してもらえるよう常に情報提供に努めています。本社各部の仕事をやってもらっているし、各部の役割を伝えている。そのせいか事務サポートセンターにはチーム意識があるように感じますし、個々のメンバーも気概をもって仕事をしてくれているように感じます」  マニュアル類も自分たちで作成しており、MOS(マイクロソフトオフィススペシャリスト)やMOSエキスパートの資格保有者、マクロやアクセスを活用する人財もいる。立花さんは「自分たちより業務スキルが高い」という。 得意な部分を最大限発揮してもらえるようマネジメントする  立花さんは自分の役割を「一人ひとりの特性をしっかり理解して、みんなが強みを発揮し、パフォーマンスを上げられるようにすること。私の役目は黒子なんです」と話す。  「朝、みなさんの顔色を見て、元気がなさそうな社員がいると声をかけています。精神障がい、発達障がいの社員の働く職場では、安定して出勤してくれることが大事です。特に、睡眠と食事が重要です。また、データ集計の仕事は得意だが、ほかの社員と声をかけ合ってやっていくことは苦手な社員がいます。そのような場面で全体の進捗を見ながら段取りをしていくことが私の仕事です。また、上司に的確なタイミングで報告し相談することが求められますが、彼らはそれが苦手です。何を思っているのか、何がしたいのかについては、時間と場所をとって話をしっかり聞いて、本人に寄り添ったアドバイスをします」  特性に配慮したマネジメントの工夫には枚挙にいとまがない。 仕事は着々と拡大生産性は約2倍に  「スタート時は3部門で合計3業務」だった仕事が、いまでは8部門18業務まで広がっている。業務品質の高さが評価され、順調に仕事の依頼が増えていった結果だ。  「安心して仕事を任せられます。彼らのがんばりを社内にしっかり発信し、仕事をしっかり確保してくることも、われわれの大事なミッションです」という人事部ダイバーシティ推進室室長の住田(すみだ)朋子(ともこ)さん。  社内啓発を目的に、現在請け負っている業務の具体的内容、職場の様子などを紹介した「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)news」を作成・発行したり、障がい者雇用率制度の解説、業務の様子を動画配信するなどして、社員の理解や協力をさらに得るための取組みも積極的に行っている。  「当時の生産性と比べると2倍くらいになっていますね。上司からは事務サポートセンターにも、将来的には生産性を高めていくための指数化を求められていて、環境としてありがたいと感じています。きちんと評価がされれば昇給することができますから。コロナ禍(か)で業務の不安定さは見られますが、だからこそより重要で責任の大きい仕事も増えています」と、小谷さんはいう。 本社での取組み成果が他拠点へも  そんな本社での取組みが社内で高く評価され、2020年には東京の日本橋と大阪の梅田でも事務サポートセンターが開設された。  恵比寿本社と同じコンセプト「特定業務集中職場」である。  日本橋の事務チームには、精神・発達障がいのある社員7人を含めた11人の障がいのある社員が、大阪の事務チームには、発達障がいのある社員5人を含めた7人の障がいのある社員が所属する。そして、日本橋では森(もり)一弘(かずひろ)さん、大阪では鎌内(かまうち)則之(のりゆき)さんが、それぞれ管理者としてマネジメントにあたっている。  現在は恵比寿本社、日本橋、大阪の各事務サポートセンターで週1回のテレビ会議を行い、情報共有、マニュアルやツール類の共有を行い、ブラッシュアップに努めている。  「毎日初めてのことばかりだが楽しい」という森さんと鎌内さん。お2人の笑顔がすがすがしい。 だれもが「楽しく、誇りをもって」仕事に取り組む  「障がい者雇用ということを実はあまり意識していない」という立花さん。理由をうかがうと、以前はお客さまのご意見や事故の解決方法に悩む社員を、日々ケアしマネジメントする立場だったそうだ。  「むずかしい課題を抱えている社員とのコミュニケーションには常に神経を遣っていました。精神・発達障がいのある社員たちとのやりとりでは、むしろ教えられることが多い」  立花さんは、定期面談で業務面での評価やフィードバックに加えて、個人目標の設定、資格取得に向けた助言などを行っている。面談をすると「みなさん目線が上がる、自信ももってくれる」。この言葉に立花さんのやりがいが伝わってくる。  小谷さんはこう続ける。「障がいのある社員に楽しく誇りをもって仕事をしてもらうためには、マネジメントする管理者も楽しく誇りをもって仕事ができるようにしなければなりません。『楽しく、誇りをもって』ということは障がいのある社員だけの課題ではないんです。だれもが、楽しく、誇りをもってやるからうまくいくんです」  「私が障がい者雇用の担当になった2015年、当時採用されていた精神障がいのある社員にとっては、とても働きづらい職場だったと思います。一緒に働く社員も苦しんでいました。当時は法定雇用率を達成することが大きなテーマになってしまっていたのかもしれません。でもそれでは、これだけ厳しい雇用情勢のなかではうまくいかなかった。法定雇用率など、法律を『守る』というより、楽しみや誇りを追求していくという『攻め』の障がい者雇用を目ざしていきたい」と小谷さんは話してくれた。 さらなる障がい者雇用の取組みも  2015年の障がい者雇用推進プランのなかには、特別支援学校の生徒を、地域の大型支店での一定期間の実習を経て採用する「地域密着モデル」も示されている。この取組みは青森県から福岡県まで全国20拠点以上で採り入れられ、現在26人の特別支援学校の卒業生が就業中である。地方の特別支援学校の卒業生にとって、事務職の仕事に就く機会はまだ少ないなかで、あいおいニッセイ同和損保の貢献度は大きいものがある。各支店へのサポートには、「事務補助業務ハンドブック」を作成し提供している。ここでも、事務サポートセンターで得られた障がい者雇用と雇用管理のノウハウが活用されている。  全国の各拠点ではハローワークへの求人を55カ所から255カ所へ拡大。恵比寿本社では視覚障がいのあるアスリートをヘルスキーパーとして採用するなど、さまざまな形での障がい者雇用にもチャレンジしている。  70人を超える退職者に苦しんだ2015年から5年が経ち、直近(2019年度)の1年間の退職者は定年退職者などを含め、わずか22人にとどまっている。  「現在約50人の精神・発達障がいのある人の雇用を、今後は、100人くらいまで増やしたい。また、仕事で自信と能力をつけた人には、次のステップも用意していきたいです」と、小谷さんは語る。3年後、5年後がさらに楽しみである。 ※本誌では通常「障害」と表記しますが、あいおいニッセイ同和損害保険株式会社様の要望により「障がい」としています 写真のキャプション 人事部ダイバーシティ推進室担当次長(障がい者雇用・活躍推進統括)の小谷彰彦さん 恵比寿本社に設置された「恵比寿事務サポートセンター」 オフィスチームは、会議室の机やホワイトボードの清掃なども行う データ集計などを担当する事務チーム 人事部ダイバーシティ推進室室長の住田朋子さん 人事部ダイバーシティ推進室担当次長(恵比寿事務サポートセンター統括)の立花順さん 「日本橋事務サポートセンター」のみなさん。右写真の右端が管理者の森一弘さん(写真提供:あいおいニッセイ同和損害保険株式会社) 「大阪事務サポートセンター」のみなさん。中央奥が管理者の鎌内則之さん(写真提供:あいおいニッセイ同和損害保険株式会社) 立花さんは、各社員から送られてくる業務日誌から、社員の体調などを読み解きマネジメントに活かしている 本社のマッサージルームでは、視覚障がいのあるアスリートがヘルスキーパーとして活躍する 【P26-27】 省庁だより 特別支援教育における就労支援の取組み 文部科学省 初等中等教育局 特別支援教育課  改正障害者雇用促進法などの法的整備を背景に障害者の社会参加が進むなか、特別支援教育の教育現場でも、障害のある生徒の就職や職場定着を促進するための教育の充実に力が注がれています。ここでは、特別支援教育における就労支援の取組みの現状について紹介します。 1 就職する特別支援学校卒業生が増加  特別支援学校の卒業生の進路を見ると、ここ十数年の変化として、平成19年卒業者と平成31年卒業者を比較すると、企業への就職者は23・1%から32・3%に増加しており、企業に就職する生徒が着実に増加していることがわかります(図1)。  これは、障害者を積極的に採用しようとする企業が増えていることの表れであり、最近はそうした雇用ニーズに呼応して、企業就労も目ざした特別支援学校高等部を設ける学校が見られるようになりました。 2 キャリア教育・職業教育の推進  文部科学省においても、障害者の社会参加が進み続ける現状をふまえ、障害者の就労支援に向けたキャリア教育・職業教育の充実に取り組んでいます。  まず、平成31年2月に告示された特別支援学校高等部学習指導要領では、キャリア教育・職業教育の充実を目ざして、次の点が示されました。 キャリア教育及び職業教育に関して配慮すべき事項 ●学校においては、キャリア教育及び職業教育を推進するために、生徒の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等、学校や地域の実態等を考慮し、地域及び産業界や労働等の業務を行う関係機関との連携を図り、産業現場等における長期間の実習を取り入れるなどの就業体験活動の機会を積極的に設ける。 ●地域や産業界や労働等の業務を行う関係機関の人々の協力を積極的に得るよう配慮する。 ●生徒が、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科・科目等又は各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図ること。 ●その中で、生徒が自己の在り方生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう、学校の教育活動全体を通じ、組織的かつ計画的な進路指導を行うこと。その際、家庭及び地域や福祉、労働等の業務を行う関係機関との連携を十分に図ること。 3 教育・労働などの関連機関・部局の連携  障害者の就労支援をさらに推し進めていくためにいま、教育・労働などの関連機関・部局の連携強化が強く求められています。  厚生労働省においては、障害者の雇用に関する労働関係機関と教育、福祉、医療など関係機関の連携について、都道府県労働局や公共職業安定所などにおいて特別支援学校などとの連携を一層強化するよう、厚生労働省職業安定局長より通達が出されました(平成25年3月29日に通達、平成29年4月3日に一部改正)。これを受けて、文部科学省では、教育委員会などに対し、本件通達の周知と、労働関係機関との一層の連携のもとに、障害のある生徒の就労に向けた職業教育、進路指導などの充実を図るよう通知を出しました。 4 特別支援教育の生涯学習化  文部科学省では、平成29年4月7日付の文部科学大臣メッセージにおいて、障害のある方々が生涯を通じて教育、文化、スポーツなどのさまざまな機会に親しむことができるよう、教育施策とスポーツ施策、福祉施策と労働施策などを連動させながら支援していく「特別支援教育の生涯学習化」に向けての取組を、今後より一層進めていくことを宣言しました。  具体的には、次のような特別支援教育の生涯学習化推進プランを策定しています(以下、抜粋)。 ●特別支援教育の充実  障害のある児童生徒等の自立と社会参加に向けた取組の更なる充実を図り、障害のある児童生徒等が十分な教育を受けられる環境を構築 ●特別支援学校等における障害者スポーツの充実  2020年に全国の特別支援学校でスポーツ・文化・教育の祭典を開催するための体制整備、特別支援学校等を活用した地域における障害者スポーツの拠点づくり等を実施 ●障害者の文化芸術活動の充実 ・生徒による作品の展示や実演芸術の発表の場の提供 ・生徒たちに対する文化芸術の鑑賞・体験機会の提供 ・障害のある芸術家による文化芸術の鑑賞・体験機会の提供 ●地域と学校の連携・協働体制構築事業  「地域学校協働活動」を特別支援学校等を含めて全国的に推進し、障害のある子供たちの放課後等の学習・体験活動等を充実 ●学校卒業後における障害者の学びの支援に関する実践研究事業  障害のある人の生涯にわたる能力の維持・ 開発・ 伸長のための効果的な学習プログラムに関する実践研究や都道府県を中心とした地域コンソーシアム形成による持続可能な生涯学習支援モデルの構築等の取組を実施 ※本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 図1 特別支援学校高等部(本科)卒業後の状況 平成31年3月卒業者 区分 卒業者 進学者 教育訓練機関等 就職者 社会福祉施設等入所・通所者 その他 計 21,764人 377人 (1.7%) 326人 (1.5%) 7,019人 (32.3%) 13,199人 (60.6%) 843人 (3.9%) 社会福祉施設等入所・通所者 社会福祉施設等入所・通所者 (平成19) (平成31) 57.8%→60.6%に増加 就職者 就職者 (平成19) (平成31) 23.1%→32.3%に増加 進学者・教育訓練機関等 進学者・教育訓練機関等 (平成19) (平成31) 7.0%→3.2%に減少 その他 その他(在宅等) (平成19) (平成31) 12.1%→3.9%に減少 (各年3月時点) 出典:学校基本統計 【P28-29】 研究開発レポート 高次脳機能障害者の職場適応促進を目的とした職場のコミュニケーションへの介入 ―コミュニケーションパートナートレーニング― 研究企画部研究部門 社会的支援部門 1 高次脳機能障害とコミュニケーションの困難  病気や怪我のために脳の一部が損傷されたことによる認知機能の障害を「高次脳機能障害」といいます。認知機能には、臨機応変に周囲の情報に注意を向ける力や、情報を記憶する力、言語を理解したり組み立てたりする力などが含まれます。これらの認知機能は、コミュニケーションにおいて重要な役割を果たしています。高次脳機能障害のある人の多くは、日常生活や職業生活においてさまざまな程度で周囲とのコミュニケーションに困難を抱えています。コミュニケーションは人と人の間に生じるものであるため、コミュニケーションの困難は、本人の認知機能障害だけによるのではなく、周囲の環境との相互作用により生じるものであるといえます。 2 コミュニケーションパートナートレーニング(CPT)  コミュニケーションパートナートレーニング(以下、「CPT」)は、高次脳機能障害のある人を取り巻く人的環境に着目した支援技法です。高次脳機能障害の特性に応じた適切なコミュニケーションの取り方について、周囲の人々に対して情報提供を行い、練習の機会を提供することにより、高次脳機能障害のある人とのコミュニケーションをよりよくすることを目ざします。CPTは国内外で広く取り組まれており、高次脳機能障害のある人の生活の質の向上や地域社会への統合の促進に関する成果を上げています。しかし、高次脳機能障害のある人の職場適応の促進に焦点をあてたCPTの取組みは国内外を見渡しても見あたりません。 3 高次脳機能障害者の職場適応促進を目的とするCPTプログラムの開発  ここまでに述べたことをふまえ、障害者職業総合センターでは、高次脳機能障害者の職場適応促進を目的とするCPTプログラムを開発することとしました。従来のCPTとの違いは、高次脳機能障害者と同じ職場で働く人(上司や同僚、企業在籍型ジョブコーチ、障害者職業生活相談員など)を対象とし、職場でのコミュニケーションに焦点をあてることです。  プログラムの開発にあたっては、まず、従来のCPTを参考にしながら試行版プログラムを作成しました。プログラムに含まれる演習課題は、職場を舞台として設定しました。プログラムの試行とその結果をふまえた改良を2回くり返し、最終的に「よいコミュニケーションのための15のスキル」を骨子とした7時間30分(休憩時間含む)のプログラムを完成しました。「よいコミュニケーションのための15のスキル」の内容やプログラムの時間割、配布資料は、「調査研究報告書bP51」(※)に掲載しています。ご関心のある方はどうぞご参照ください。 4 CPTの効果検討  企業などにおいて、高次脳機能障害のある人の上司や同僚、企業在籍型ジョブコーチ、障害者職業生活相談員などとして働く28名の方々にご協力をいただき、プログラムの効果を検討しました。参加者を2群に分け、時期をずらして各群にプログラムを実施しました(以下、先にプログラムを実施した群を「介入群」、後でプログラムを実施した群を「待機群」と表記)。両群へのプログラム実施前(測定1)と介入群へのプログラム実施後(測定2)で、高次脳機能障害者とのコミュニケーションに関する知識、興味、自信、意欲を測定し、介入群と待機群の得点を比較しました(知識については@、Aの2つの課題を行いました)。また、各回のプログラムの約1カ月後に参加者に対してアンケート調査を行いました。  その結果、プログラムに参加した人(介入群)は、まだ参加していない人(待機群)に比べ、高次脳機能障害者とのコミュニケーションに関する知識、自信、意欲が高まっていました(図1〜4)。アンケート調査の回答においては、プログラムに参加した後に高次脳機能障害のある社員との意思疎通がより正確になった、会話が増えた、信頼関係が強まった、といった内容の記載が見られ、プログラムが高次脳機能障害のある人の職場適応促進に寄与したことがうかがわれました。一方で、多忙な職場において時間をかけてていねいにコミュニケーションを行うことのむずかしさや負担感を指摘する声もありました。 5 まとめと今後の課題  本研究で開発したCPTプログラムは、高次脳機能障害のある人の職場の人的環境における適切なコミュニケーションに関する知識や自信、意欲を高めるために有効であることがわかりました。一方で、参加した方々の声から、プログラムの内容についてさらにブラッシュアップが必要な点が見つかりました。また、プログラムの効果の長期的な持続や、高次脳機能障害のある当事者側の視点など、今回は十分に検討できなかった点も今後の課題として残っています。  今回の研究成果は、「調査研究報告書bP51」として取りまとめたほか、職業リハビリテーション研究・実践発表会などの機会を通じて広く報告することを予定しています。職場環境に働きかける支援について多くの関係者の関心が集まり、議論とさらなる研究を通じてよりよい実践につながることが期待されます。 ※「調査研究報告書No.151」は、https://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/houkoku/houkoku151.htmlよりダウンロードできます nivr 調査 151 検索 ◇お問合せ先:研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.or.jp) 図1 知識の得点(課題@) 図2 知識の得点(課題A) 図3 自信の得点 図4 意欲の得点 群と測定時点を要因とする2元配置分散分析を行ったところ、「知識」の2つの課題、「自信」、「意欲」において交互作用が認められ(意欲は5%水準、そのほかは1%水準で統計的に有意でした)、介入群において得点向上が認められました。 ※各項目の測定方法については、「調査研究報告書151」に記載しています。 【P30-31】 ニュースファイル 国の動き 手話の「電話リレーサービス」新法成立  手話通訳者が間に入り、聴覚障害者と耳が聞こえる人を電話でつなぐ「電話リレーサービス」を制度化する新法「聴覚障害者等電話利用円滑化法」が、参議院本会議(第201回通常国会)において全会一致で可決し成立した。聴覚障害者がインターネット回線を通じて手話や文字で通訳オペレーターとやりとりし、オペレーターが通話先に同時に伝える。警察や消防への緊急通報でも使える。  制度の基本方針は、総務省が電話リレーサービスの提供事業者を指定し、監督。固定電話や携帯電話の電話代を年数円上乗せし、その負担金からサービス提供事業者に交付金を出す仕組み。 地方の動き 北海道 障害者のテレワーク推進へNPO法人と連携  北海道は、通勤が困難な障害者がテレワークで働くことを推進するため、テレワークの就労体験事業を始める。業務はデータ入力やホームページの点検、イラスト作成などを想定し、体験後は本人の希望をふまえて一般企業への就職や福祉的就労への移行を支援する。  対象は札幌市以外に住む20〜50代の身体障害者。障害者支援のNPO法人が希望者と面談して仕事の内容を決め、3〜4カ月間、在宅で仕事を体験する。年に5人程度ずつ、2022(令和4)年度まで3年間実施する予定。 栃木 気軽に一人暮らし体験を  栃木市は、障害者がアパートの1室で一人暮らしを体験する「市くらしだいじネット一人暮らし体験事業」を始めた。地域で自立生活を目ざす障害者が、体験によって課題や不安を把握することなどが目的。対象は身体、知的、精神の障害種別を問わず、障害程度区分1〜3または同程度の18歳以上の市民。緊急時の連絡に対応できる人が必要。登録から6カ月間のうちの20日以内、最長4連泊までくり返し利用できる。費用は1日250円。  参加者は同市内にあるアパート2階の1室(家具つき)で暮らす。必要に応じて居宅介護事業所が家事援助を行う。事前に栃木市障がい児者相談支援センターのコーディネーターと体験計画を作成し、体験後にふり返る。問合せは栃木市障がい福祉課へ。 電話:0282−21−2219 生活情報 東京 丸井錦糸町店にミライロの店舗  ユニバーサルデザインのコンサルティング事業を展開する「株式会社ミライロ」(大阪府)(※)が、丸井錦糸町店5Fに、ダイバーシティ&インクルージョンに関する情報発信と交流の拠点として初のリアル店舗「ミライロハウスTOKYO」をオープンした。  店舗では、先進的なITデバイスや車いすの走行アシスト器具、視覚障害者のサポートツール、情報保障機器の体験などができるほかレンタルも可能。今後はトークセッションやコミュニティごとの交流会、ユニバーサルマナー検定、手話講座、ワークショップ、座談会なども随時開催していく予定。 神奈川 透明マスクのつくり方をウェブ公開  聴覚障害者らでつくる「NPO法人インフォメーションギャップバスター」(横浜市)は、口の動きが見える透明なマスクのつくり方をウェブサイトで公開している。顔全体を覆うフェイスシールドなどの普及が行き届かないなか、手近な材料を使ってつくれる方法を型紙とともに紹介している。  材料は、透明でやわらかいカードケースかクリアファイルと、耳にかけるゴム。文房具店や100円ショップなどで購入できる。型紙に沿って切り抜き、両脇にパンチで穴を開けてゴムを通せば完成。内側にスポンジを鼻当てとして貼りつけると密着度があがる。  ウェブサイトでは日本語のほか、英語・ネパール語でもつくり方を紹介している。 http://www.infogapbuster.org/ 京都 車いす対応タクシーの指定注文が可能に  タクシーアプリ「Japan Taxi」は、車いす対応の研修などを受けた乗務員が乗務するユニバーサルデザインタクシーを指定注文できる機能を開始した。「都(みやこ)タクシー株式会社」(京都市)の車両から機能対応する。  都タクシーは、京都市内などがおもな営業エリア。50台以上が同機能に対応。利用方法は、アプリで乗車場所および降車場所にピンを置いた後、車種で「車いす対応」を選択。「今すぐ呼ぶ」を押し注文する。ユニバーサルデザインタクシーの型式などの指定を希望する場合は、タクシー会社へ直接注文する。また、車いすのタイプによっては利用できない場合があるため、事前の確認が必要。 兵庫 障害者らの孤立防止にサイト作成  新型コロナウイルス感染症の影響が長期化するなか、高齢者や障害者らを孤立させない新たな暮らし方を提案しようと、兵庫県内外の福祉・ボランティア団体関係者らが専用サイトを設けた。  「『つながりを切らない』情報・交流ネットワーク」と題して、感染を防ぎながら行動するための実践例を紹介している。例として、▽布マスクの材料を自宅に配送▽ビデオ会議アプリで第九を合唱▽認知症を防ぐ脳トレ教材を販売して収益を福祉事業に充当▽配食の調理をスーパーや飲食店に依頼など。  同ネット事務局を務める「NPO法人全国コミュニティライフサポートセンター」(本部・宮城県)のホームページからアクセスできる。 https://www.t-net.online/ 働く 北海道 シイタケ栽培の菌床製造施設で雇用創出  北見市内でシイタケを生産する「株式会社セブン&アイ・ホールディングス」(東京都)の特例子会社「株式会社テルベ」(北見市)が、シイタケ栽培に必要な菌床の製造施設を新設し、稼働させた。菌床の製造は隣接する社会福祉法人の利用者がたずさわる。シイタケの生産増や品質向上のほか、障害者の雇用創出にもつなげる。テルベは、イトーヨーカドー北見店など向けにシイタケを栽培出荷するほか、印刷事業なども展開している。 新潟 NSGソシアルサポートが関係子会社特例の認定  教育事業などを展開する「NSGグループ」(新潟市)の特例子会社として設立された「株式会社NSGソシアルサポート」が、県内で初めてとなる関係子会社特例の認定を受けた。ソシアルサポートは2020年3月に設立。従業員数12人(うち障害者8人)で、おもな業務内容は清掃(大学・塾)やIT事務(WEB作成など)としている。  「関係子会社の特例」は、一定の要件を満たす企業グループとして厚生労働大臣の認定を受けたものについては、特例子会社がない場合であっても、企業グループ全体で実雇用率の通算が可能となる制度。 東京 スタバで聴覚障害者らが手話接客  「スターバックスコーヒージャパン株式会社」 (品川区)は、聴覚障害者らが従業員として接 客する「nonowa(ノノワ) 国立(くにたち)店」(国立市)をオープンした。店舗では聴覚障害者19人と健常者6人が働く。注文内容をタブレットに向かって話す音声入力システムや、指さしするメニューなどを採用した。商品を渡す際には、手話での案内に加えてレシートの番号をデジタルサイネージ(電子看板)に表示して取り違えを防ぐ。当面、入店するには店頭かウェブで発行される整理券が必要。 本紹介 『発達障害の人の雇用と合理的配慮がわかる本』  「一般社団法人日本雇用環境整備機構」理事長の石井京子さんらが『発達障害の人の雇用と合理的配慮がわかる本』(弘文堂刊)を出版した。採用面接から就労開始直後、就労定着まで、それぞれのシーンで発達障害のある人が障害特性ゆえに抱える困りごとや必要な配慮を、Q&Aやコラムなどを交えて具体的に解説した。支援者、人事、上司、同僚をはじめ「職場の発達障害」を支える内容となっている。A5判200ページ、1900円(税別)。 2020年度地方アビリンピック開催予定 9月〜10月 北海道、青森県、石川県、山梨県、山口県、徳島県、大分県 *部門ごとに開催地・日時が分かれている県もあります *  の県は開催終了(開催中止含む) ※全国アビリンピックが11月13日(金)〜11月15日(日)に、愛知県で開催されます。 地方アビリンピック 検索 ※新型コロナウイルス感染症の影響により、変更する場合があります。 写真のキャプション 北海道 青森県 石川県 山梨県 山口県 徳島県 大分県 【P32】 掲示板 読者の声 僕の仕事について 磯山武士  スーパーで品出しパートをしている者です。僕の病気は、統合失調症です。しかし採用面接の時に精神病であることを告げ、理解を示して下さる店長に出会えたことは幸せでした。  イライラして上司に大声で叫んだ時など、2週間の休みをいただいて、ストレスが少なくなるように「野菜」から「一般食」に働く場所を変えていただいたのも良かったです。一定の場所で働くより、イライラしたら、その場所から離れられる職場だったからです。もくもくと仕事ができます。  また、言いたいことを言える上司がいることも長続きするためには重要だと考えます。言いたいことを心のうちにためてしまうと障害には良くありません。  僕は、人間関係にとまどいながらも理解ある人のあることを知り、日々仕事をこつこつとこなしていくことは人生の自信につながると考えています。  まだ人生なかば。今年の5月に8年目に入りました。いろいろ悩みますが、自分の出来る仕事に精一杯はげみたいと思います。 次号予告 ●私のひとこと  障害者のさまざまな権利擁護活動にたずさわる、東洋英和女学院大学教授の石渡和実さんに、障害者の地域生活支援や、障害者が働くことについてご執筆いただきます。 ●職場ルポ  東京海上ホールディングス株式会社の特例子会社で、グループ各社のサポート業務を行う東京海上ビジネスサポート株式会社(東京都)を訪問。職域を拡大し、障害のある従業員の職場定着を目ざす現場を取材します。 ●グラビア  スターバックスコーヒージャパン株式会社イオンモール岡山店で活躍する、昨年の全国アビリンピック愛知大会の「喫茶サービス」種目で金賞を受賞した細尾希良々さんをご紹介します。 ●編集委員が行く  三鴨岐子編集委員が、中小企業における障害者の就労について座談会を開催。全国の中小企業の代表と、中小企業家同友会全国協議会の方にお話をうかがいます。 本誌購入方法  定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。  1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申し込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAXでのお申し込み 株式会社廣済堂までご連絡ください。 TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 あなたの原稿をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 早坂博志 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6216(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.or.jp/  メールアドレス hiroba@jeed.or.jp ●発売所−−株式会社 廣済堂 〒105−8318 港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03−5484−8821 FAX 03−5484−8822 9月号 定価(本体価格129 円+税) 送料別 令和2年8月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 埼玉県立大学 教授 朝日雅也 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 山陽新聞社会事業団 専務理事 阪本文雄 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 相談支援事業所 Serecosu 新宿 武田牧子 あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすく センター長 原智彦 ホンダ太陽株式会社 社友 樋口克己 サントリービジネスシステム株式会社 課長 平岡典子 東京通信大学 教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学 准教授 八重田淳 【P33】 写真の部 「焼き上がりが楽しみだ」 伊東富士夫(いとう ふじお 北海道) 「わたしのしんゆう」 齋藤理美(さいとう さとみ 宮城県) 「ウィルスも汚れも見逃さない!」 佐藤沙織(さとう さおり 東京都) 「おもいよ、とどけ!」 佐藤浩(さとう ひろし 東京都) 「手あみと犬」 山田倫也(やまだ ともや 富山県) 「軍手結束魂!!」 加藤優一(かとう ゆういち 愛知県) 「真面目に働いています」 大野美紀(おおの みき 愛知県) 「ご来店お待ちしております!」 平野莉沙(ひらの りさ 愛知県) 「値札はり 楽しいです」 大陽和子(だいよう かずこ 三重県 「靴乾燥機にセッティング」 竹田琴音(たけだ ことね 滋賀県) 「たくさんあっても丁寧に数えます」 伊藤成美(いとう なるみ 大阪府) 「赤い結束機が相棒」 木村圭作(きむら けいさく 兵庫県) 「利用者から指導員へ〜教わる立場から教える側へ〜」 高田正吾(たかた しょうご 岡山県) 「未来のパラリンピアンの為に(競技用車いすの清掃)」 沖慎二郎(おき しんじろう 岡山県) 「店の名物ドーナツ作りにチャレンジ」 中島勇蔵(なかしま ゆうぞう 鹿児島県) 「私たちにしかできないハートフルタッチ」 慶田盛信彦(けだもり のぶひこ 沖縄県) 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長団体奨励賞 曽於市立末吉小学校(鹿児島県) 審査委員 永関和雄 (委員長)元 全国造形教育連盟委員長 清水満久 昭和女子大学 教職専門指導員 竹内とも子 東京都新宿区立柏木小学校 指導教諭 桑原史成 日本写真家協会理事 小山博孝 日本写真家協会会友 澤口浩司 厚生労働省 職業安定局障害者雇用対策課 地域就労支援室長 和田慶宏 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長 【裏表紙】 令和2年度 障害者雇用支援月間ポスター このポスターの原画は、障害のある方々などから募集したものです。原画コンテストの入賞作品は、本誌グラビアで紹介しています。 9月号 令和2年8月25日発行 通巻515号 毎月1回25日発行 定価(本体価格129円+税)