【表紙】 令和2年11月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第518号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2020 12 No.518 職場ルポ 就労センターを拠点とした多様な支援とキャリア育成 株式会社LIXIL(東京都) グラビア “話が見える”カフェ Social Cafe Sign with Me 春日店(東京都) 編集委員が行く 新型コロナウイルスによる障害者雇用への影響 一般社団法人障害者雇用企業支援協会(東京都) 私のひとこと 精神障害のある方の就労 社会福祉法人うしおだ 理事長・精神科医 野末浩之さん 「幸せそうに働いている姿」東京都・佐々木(ささき)亮介(りょうすけ)さん 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています 12月号 【前頁】 心のアート ウゴメケ!サンカク fuco: 画材:紙に水彩ペン/サイズ:縦790mm×横1100mm それまで何年もマルだけ100作以上描いてきた彼女が、ある日「サンカク描いて」の一言で初めてサンカクを描いたのが本作。独特なサンカクの形や向き、ひしめきがマルとはまた異なる作風となる。シンプルなモチーフなので、人によって見え方が違うのも面白い。マル、サンカク、シカクバージョンの中で最も細かく描くのがサンカク。彼女は一体何を思い浮かべているのだろう。 文:瀬戸口庸子(母) fuco:(ふうこ)  佐賀県在住、丸顔の二十歳女子。知的障害をともなう自閉症がある。  5年前学校に行けなくなったとき、母親が暇つぶしになるからと「マル描いて」といったのを機に、アート活動を始める。具体物は描けなかったが、マルなどのモチーフはイメージできたこと、自分のスピードで描き進められることから、それにハマる。家族で行う“マルツナガルプロジェクト”で、オリジナルグッズを製作販売したり、だれかと共作したりと、マルから人とつながる活動をしている。 協力:SANC(Saga ArtBrut Network Center) 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2020年12月号 NO.518 心のアート−−前頁 ウゴメケ!サンカク 作者:fuco: 私のひとこと−−2 精神障害のある方の就労 社会福祉法人うしおだ 理事長・精神科医 野末浩之さん 職場ルポ−−4 就労センターを拠点とした多様な支援とキャリア育成 株式会社LIXIL(東京都) 文:豊浦美紀/写真:官野貴 クローズアップ−−10 活躍する障害者職業生活相談員 第2回 JEEDインフォメーション−−12 障害者雇用を進める事業主のみなさまへ 就労支援機器をご活用ください!/障害者雇用のためのマニュアル・好事例集などのごあんない/今、手に取られている「働く広場」をデジタルブックでもお読みいただけます! グラビア−−15 “話が見える”カフェ Social Cafe Sign with Me春日店(東京都) 写真/文:官野貴 エッセイ−−19 あなたはどう思いますか? 第3回 香川大学 教育学部 教授 坂井聡 編集委員が行く−−20 新型コロナウイルスによる障害者雇用への影響 一般社団法人障害者雇用企業支援協会(東京都) 編集委員 松爲信雄 省庁だより−−26 令和2年版 障害者白書概要A 内閣府ホームページより抜粋 研究開発レポート−−28 調査研究報告書No.150 「発達障害者のストレス認知と職場適応のための支援に関する研究」 障害者職業総合センター研究部門 障害者支援部門 ニュースファイル−−30 掲示板・次号予告−−32 表紙絵の説明 「お客さまの喜んでいる姿や、お店の色を想像しながら描きました。体、顔の大きさ、イス、テーブル、食事を提供しているところを想像しながら描くことに、とても苦労しましたが、たまには、想像して描くのも面白いと思いました。まさか受賞するとは思っていなかったので、すごく嬉しかったです」 (令和2年度 障害者雇用支援月間ポスター原画募集 高校・一般の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。(https://www.jeed.or.jp/) 【P2-3】 私のひとこと 精神障害のある方の就労 社会福祉法人うしおだ理事長・精神科医 野末浩之 就職活動をしたことがない  私は、幼いころから原因不明の生きづらさとうつ気分に悩んできました。そんな気持ちを晴らしてくれる愛読書が、北(きた)杜夫(もりお)氏のユーモアあふれるエッセイ『どくとるマンボウ』シリーズです。作品を読み進めるうちに、氏が作家になる前は精神科医師をされていたこと、そして自身も躁うつ病を患っておられることを知りました。「自分も精神科医師になって、こころの不思議にかかわってみたい」と考えるようになったのは、小学校卒業のころだったと記憶しています。  その後、曲折を経て医学部に進学し、念願かなって医師免許を取得、精神科専門研修へと歩みを進めていきましたが、ここで大きな問題が生じます。いま初めて告白するのですが……、「実は私、就職活動をしたことがない」のです。 助けを求められる力  大学を卒業する際には、現在も勤務する医療機関で初期研修医(※1)としてお世話になることを決意し、奨学金もいただいていました。子どものころから職員の家族として、ときには患者としてかかわりのあった病院でした。卒業時に就職面接などはなく、病院の人事担当者に食事に連れて行ってもらい、日本の医療の将来について語り合ったのがその代替だったと思われます。ずいぶんと大らかな、1980年代のことでした。  精神科研修医として診療で多くの当事者の方たちにお会いするようになると、彼らの「働きたい、でもどうやったらいいのだろう」、「自分たちに働くなんて、無理かも」などの切実な思いを聞かせていただく日々が続きました。就活経験のない私にとって、就労や職業リハビリテーションはまさに未知の世界でした。千葉市の幕張(まくはり)にある「障害者職業総合センター」に見学や研修に出向いたり、地域作業所の職員や利用者にお話をうかがったりして、少しずつ学んでいきました。なかでも、研修先の精神科病院のリハビリ専門職(作業療法士)に教えていただいた「就労するために必要なのは2点、基礎体力と、困ったときに周りに助けを求められる力」という言葉は強く印象に残っています。  たしかに、フルタイムで8時間働いて、残りの時間を通勤や家事、睡眠などに充て、翌朝再び出勤し業務に就くためには、それ相応の体力がついている必要があります。そして、精神障害のある方たちにはもう一つ、「SOSを出す力」が求められます。それなしに就労し、短期間で挫折をくり返す当事者の相談に乗るうちに、体力や生活リズムを整えると同時に、職場や余暇時間でのコミュニケーションスキルの獲得が大切だと思うようになりました。そんな時期に出会ったのが、SST(社会生活技能訓練)(※2)でした。 SSTとの出会い  1990年代は、わが国にSSTが導入され始めた時代です。私の研修病院でも、提唱者のR・P・リバーマン博士のもとへ研修ツアーに出かけた同僚医師がおり、彼を中心に勉強会が行われ、国内で研修事業を行っていた「東大デイホスピタル」に、私も通わせていただきました。ここで感じた第一印象は、「この技法は患者さんだけでなく、自分にも役立つな」というものでした。いま思えば、私には軽度発達障害の傾向があり、そのため、対人場面での困難を生じてはうつ状態を呈していたのです。そんな私にとって、安全な環境で顔なじみのメンバーや支援者と一緒に、よい意味でワンパターン(行う手順が決まっている)に対人コミュニケーションの練習を行えるということは、とても安心できるものでした。獲得するスキルは、視線や声の大きさといった、具体的かつ必須の項目ですし、困ったら支援者がお手本を見せてくれて、何度でも練習ができ、おまけに最後にはみなで誉めてくれる(正のフィードバック)のです。改善すべき点については批判するのでなく、「こうすればもっとよくなる」という形で提案してくれます。  こうした経験を通して、自分が実体験できなかった就労へのステップを当事者のみなさんとともに練習し、わがことのように支援を行わせていただきました。私にとって就労支援は、病状の安定した患者さんとともに精神科デイケアなどで多職種が協働する、大切な活動として位置づけられるようになったのです。 当事者と対等な視点で  現在も地域の医療・福祉施設で精神科医として従事していますが、特に21世紀に入ってからの、精神障害者雇用における質的・量的な前進は、目を見張るものがあります。地域によって濃淡はありますが、通所可能な範囲に複数の障害者就労支援を行う事業所が展開しており、当事者にとっては豊かな環境になったと思われます。  一方で、スキルトレーニングなどにおいては、利用者個々のアセスメントに基づいた細やかな支援が重要であることは、いまも変わっておりません。支援者は当事者と対等な視点で、自ら一緒に就労を試みるイメージで業務にあたっていただきたいと願っています。それが、かつては就労支援へのかかわりをためらっていた、そして自身の当事者性に気づくことにより、職業リハビリテーションを活用できるようになった精神科医からのメッセージです。 ※1 初期研修医:医師国家試験に合格し、2年間の初期臨床研修を受けている医師 ※2 SST(社会生活技能訓練):Social Skills Training。ソーシャルスキル(社会技能)と呼ばれるコミュニケーション技術を向上させることによって困難な状況を解決しようとする技法 野末浩之 (のずえひろゆき)  1961(昭和36)年、神奈川県生まれ。1987年、帝京大学医学部卒業。  社会福祉法人うしおだ理事長、うしおだ診療所所長、精神科医。  診療以外にも、保健所や作業所・グループホームなどの嘱託医として在宅訪問や精神保健相談を行い、こころの障害を抱えながら地域生活を送る人たちを支援。  近著に『DV被害の回復にむけて 〜精神科医からのメッセージ〜』(萌文社)がある。 【P4-9】 職場ルポ 就労センターを拠点とした多様な支援とキャリア育成 ― 株式会社LIXIL(リクシル)(東京都)―  特例子会社をつくらず、障害のある社員300人以上を直接雇用するLIXILでは、就労センターを拠点に、柔軟な職場環境で社員の支援とキャリア育成を図っている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野貴 取材先データ 株式会社LIXIL 〒136-8535 東京都江東区大島2-1-1 https://www.lixil.co.jp/ Keyword:知的障害、身体障害、車いす、バリアフリー、商品開発 POINT 1 特例子会社をつくらず、就労センターを支援拠点に 2 特性や能力によって一般部署への派遣型も 3 商品開発や社内研修にも活躍の場を広げる 就労センターを拠点に直接雇用  「株式会社LIXIL」(以下、「リクシル」)は、2011(平成23)年に国内5社が統合し、国内外16カ国に工場を持つ住宅設備業界の最大手メーカーの一つだ。  障害者雇用については、それまで各社で直接雇用されていた社員がそのまま勤務し、採用も各拠点で個別に行っているという。特例子会社をつくらず、代わりにグループ全体の推進部署として「障がい者雇用推進室」を設けた。  その後、2014年に本社敷地内に建てられたNIJI(ニジ)棟に、障がい者雇用推進室の機能が移転して『障がい者就労センター「LIXIL(リクシル) WINGNIJI(ウイングニジ)」』(以下、「NIJI」)が誕生した。おもに本社部門の採用や業務、管理などを担当するほか、全社的な障害者雇用を推進する支援拠点として、各地の人事総務担当者とも連携している。  リクシルの障害者雇用の実人数は、2020(令和2)年6月1日現在で315人(身体障害193人、知的障害81人、精神障害41人)で、障害者雇用率は2・33%。NIJIに在籍している障害のある社員は36人(身体障害20人、知的障害11人、精神障害5人)となっている。  NIJIの責任者で、リクシルHuman(ヒューマン) Resources(リソース)部門ヘルスケア・障がい者雇用促進プロジェクトのプロジェクトマネジャーを務める富井(とみい)晃(あきら)さんが、これまでの障害者雇用の経緯について説明する。  「私たちはもともとメーカーということもあり、工場での採用を中心として障害者雇用を進めてきました。その後、間接部門や営業部門にも採用が広がっていきました。リクシル本社内では以前から、名刺印刷などを障害のある社員たちで担当してきた経緯もあり、NIJIがその業務を引き継ぎながら、より多様な業務拡大に力を入れてきました」  具体的には、印刷・発送(研修資料や会社案内、販促資料、アンケートなど)、データ入力(経費管理、販売管理など)、名刺作成、書類のPDF化、社内便(メールセンター部署間)、他部署への派遣型のデータ入力・受発注、そのほか(試験材製作・商品開発協力など)といった内容だ。なかでも名刺作成は、いまでは全国の2万人以上の社員分を受注から梱包・発送まで一貫して引き受け、柱の業務となっているという。  NIJIは特例子会社ではなく、あくまで社内の部署の一つであることから、売上げや利益を追求する必要はないが、「部署の担当者から『外注するより安く済みました』と喜ばれると、あらためてNIJIの価値を認めてもらっていると実感します」と富井さんは話す。 バリアフリーの平屋建て  東京都江東区を流れる横十間川(よこじっけんがわ)のそばに位置するリクシル本社は、計4棟のビル建物で成り立っており、それぞれKAZE(カゼ)棟、HIKARI(ヒカリ)棟、HOSHI(ホシ)棟、NIJI棟と呼ばれている。  NIJI棟は、延床面積400u近い木造平屋建て。バリアフリーを基本に、音や光も含めて配慮できるよう設計されたそうだ。ドアはすべてスライド式で、ベッドを置いた休養室や自然光を活かした休憩所も設けた。フロア内はパステル・アースカラーで、やわらかな色を基調としている。さらにフロアの奥には遮音扉で仕切られた部屋をつくり、印刷機など音がする機器類を集約した。  フロア内のデスクは、お互いの障害理解を進めるため、異なる障害特性のメンバーを混在した配置にしている。NIJI内の企画・管理責任者を務める、ヘルスケア・障がい者雇用促進プロジェクト障がい者雇用グループ主幹の和多田(わただ)幸夫(ゆきお)さんが説明してくれた。  「定期的に席替えをすることでリフレッシュするとともに、お互いの障害理解を促進しています。障害特性によって窓際やフロアの奥の席にするなどの配慮はしていますが、『同じ職場で働く仲間として、ほかのメンバーの障害も理解する』という意識も大事です。席替えの効果として、例えばずっと引っ込み思案だったメンバーが、ある日突然、自分から話しかけられるようになったり、手話で会話をする努力を自主的に始めるなど、コミュニケーションの変化を感じることがあります」 多目的トイレの増設  バリアフリーを目ざして設計されたNIJI棟だが、使っているうちに課題が見つかることもあるそうだ。  まずは多目的トイレ。もともと竣工当時は1カ所だったが、中庭部分を改修して2カ所増やした。というのも、職場には車いすユーザーや内部障害者など多目的トイレを必要とするメンバーが何人もいるため、トイレが空かずに困っている様子が見られていたという。しかも、車いす向けには少し窮屈な広さだった。新たに増やしたトイレは、十分な広さを確保した。また職場フロアに入るときの自動ドアも、センサーの反応する距離が短いことがわかり改修した。  ソフト面の課題についても聞くと、ポールハンガーの利用に関するエピソードを教えてくれた。玄関脇にあるコート掛けコーナーは、車いすユーザーに届かないため、要望を受けて専用のポールハンガーを当初から置いていた。だが、いつのまにか、カバン掛けとして使用されてしまっていたという。和多田さんは「私は2年前に着任しましたが、ポールハンガーはカバン掛けだと思っていました。レイアウト変更を検討する際、車いすのメンバーと話をしたところ『実は……』と教えてもらって初めて気づきました。引継ぎがうまくできていなかったのかもしれません」とふり返る。車いすのメンバーも「みなさんが仕事で使っているカバンなので、そちらのほうが重要だなと思い、いい出せませんでした」と明かす。現在では、ポールハンガーも本来の目的で使用されている。またこれ以降、リーダー間の情報共有はメールや毎週のミーティング、グループ内SNSなども活用し、コロナ禍(か)でも途切れないようにしている。  最近では、NIJI棟前の通路のアスファルトに水たまりができていることに気づいたリーダーが、「車いすでは通りにくいだろう」と改修指示をした。「メンバーはつい遠慮しますから、周囲が率先して気づいてあげられるよう心がけています」 リーダー6人がメンバーを支援  NIJIは、障害のある社員に特化した職場として、ハード面・ソフト面で配慮された就労環境と細やかな支援をしながら、社員一人ひとりが力を発揮できる業務の見極めと拡大を進めてきた。なかでも日々の業務運営で大きな要の存在となっているのが6人のリーダーだ。  NIJIでは、メンバー全体の業務管理を、6人のリーダーが一緒になって取り組んでいる。各リーダーと数人のメンバーでチームをつくる、というわけではなく、NIJIが担当することになった業務内容に合わせて一時的なチームをつくっていくやり方だ。場合によっては、一人のメンバーが複数のチームに属することもある。  仕事の流れは、以下の通り。まず本社やグループ会社からの業務依頼の受付窓口はメールに1本化されており、受付時に業務内容を各リーダーが共有できるようになっている。そして業務の難易度や納期、負荷状況などを協議し、担当メンバーを決める。このとき、メンバーの『いまできること』だけでなく『チャレンジ』目線でも判断し、成長の機会としているという。業務完了までは担当リーダーが確認しながらフォローしていく。メンバーが、本人にとって適切な負荷で、さまざまな業務を経験し、その都度達成感を得ながら成長できるよう図っている。  メンバーの勤務時間は5パターンを設定。始業は8時半〜10時、終業は16時〜17時20分までと幅を持たせている。過集中や注意力散漫を防いで就業リズムを整えるために、休憩時間は固定して一斉に取り、ラジオ体操も行っている。「特に、特別支援学校などから入社してきた就労経験のない若いメンバーには、働くリズムを整えることが重要です」と和多田さん。  また、一人ひとりに合わせた仕様の日報で、メンバーそれぞれが日々の行動をふり返っている。担当リーダーとメールで日報をやり取りするなかで、小さな成長や課題点、目標などを確認し合う。  さらに、リーダーが中心になって「働く目標」や「気持ちの発散方法」などをテーマにしたワークショップも定期的に開催している。あるときは『チームワークと達成感』をテーマに、全員でチームビルディングゲーム「マシュマロチャレンジ」に挑戦した日もあったという。  「企画運営するリーダーたちは特に専門知識があるわけではありませんが、個人的に関心を持ったことについて手探りで情報収集しながら、みんなでアイデアを出し合いトライしてみるという感じです。リーダーの多様性も活かしたいと考えています」と和多田さんは説明してくれた。 几帳面さやフットワークを活かす  実際にNIJIで働くメンバーにもインタビューに答えてもらった。  まずは入社5年目になる窪川(くぼかわ)潤(じゅん)さん(28歳)。昨年9月まで本社内のメールセンターで宅配物の仕分けや連絡作業を担当していたが、そこでつちかったスキルを活かし、いまはNIJI内の郵便・宅配物の発送や配達の業務などを任されている。  「相手先の会社に発送する郵便物の数え間違いや、社内便の投函ミスがないよう気をつけています。書き漏れなどないよう確認作業にも目を光らせています」と説明する窪川さんに、そばで聞いていた和多田さんは「彼の几帳面さが活かされていますね」と補足してくれた。高校時代に陸上部に入っていた窪川さんは、趣味もランニングや駅伝観戦というほど走ることが好きだという。  「配達業務は自分のフットワークの軽さを活かせているなと思います。部署の人たちに少しでも役立てたとき、やりがいを感じます」  窪川さんは以前、生命保険会社で3年半働いていたそうだ。  「その職場では、書類のスキャニング業務を担当していたのですが、ほかの障害のある社員と2人で、ずっと座りっぱなしの仕事でした。一般の社員さんたちと同じフロアにいましたが、自分たちだけが浮いているというか、周囲から『面倒くさい感じ』に思われているような気もしていました」と明かす。世話になっていた地元の就労移行支援事業所や家族とも相談し、「3年間は続けよう」とがんばったが、その後も仕事内容や職場環境が変わらなかったことから、転職を決めたという。あらためて、リクシルで働き始めてよかった点を聞いてみた。  「一番は人間関係です。リーダーの方たちの面倒見や、仕事の教え方が素晴らしいと思っています。NIJIにはさまざまな障害のあるメンバーがいますが、みんな和気あいあいと過ごせているのもいいですね」  いまは、後輩メンバーにメール便業務を教えるためのマニュアルを作成しながら、エクセルの勉強もしているそうだ。「(コロナ禍の)在宅勤務を機に、思い切って自分のパソコンも購入しました。パソコン操作のスキルアップとともに、メール便業務のスペシャリストを目ざしています」と語ってくれた。 イベントの司会進行役で前進  神海夜(じんかいや)さん(24歳)は、東京都立白鷺(しらさぎ)特別支援学校在学時の2週間の実習がきっかけで、2015年に入社した。実習のときは、事務補助や入力作業などを経験した。「自分はもともと体力に自信がないので、事務系の仕事を希望していたことと、パソコンのスキルを学びたいと思っていたのでリクシルに応募しました」とふり返る。  入社後も最初は入力作業や封筒カッティング作業などを担当していたが、徐々に名刺印刷業務で封入やラベリング・発送作業、データ管理作業なども任されるようになってきた。これまで苦労したことについて聞いてみると、「担当する作業量が多かったときに、決められた期間内に終わらせられるかどうか不安になったことがあります。そのときにはリーダーに『限界です』と相談して、枚数などの上限を決めてもらうことができました」  日ごろの職場について「明るい雰囲気で、みんな仲よしです」と教えてくれる神さんは、最近は自身のスキルアップにも力を入れている。エクセルの勉強のほか、英文翻訳にも興味を持ち始め、独学で挑戦しているそうだ。  インタビュー中、神さんは「自分は緊張しやすくて、人見知りで……」とくり返していたが、2年前に本社で開催された家族参観イベント「ファミリーデー」では、ブラインド(視覚障害)体験会の司会進行役に抜てきされた。その様子を聞いた神さんの学校時代の恩師が「彼がこんな姿を見せるようになるとは」と感動していたそうだ。神さんも「最初にリーダーからいわれたときは、断ろうかと悩んだのですが、でも一歩前進してみようと思って、がんばりました」と笑顔でふり返っていた。 商品開発に協力も  最近は、商品開発でもNIJIの社員が活躍している。リクシルが2018年に商品化した車いす対応のシステムキッチン「Well(ウェル) Life(ライフ)」だ。その開発段階から協力を依頼されたのが2014年入社の野村(のむら)絵梨(えり)さん(34歳)。  開発グループの担当社員にインタビュー形式で、通常のキッチンの不満や要望などを伝え、サンプル商品ができたあとは工場に出向き、実際のキッチンの天板の高さや動線を含めた使い勝手を確認した。「実際にウェルライフが完成したときは、やっぱりうれしかったですね」とふり返る。その後、東京ビッグサイトで開催された国際福祉機器展においてリクシルがウェルライフを展示したときには、野村さんも会場に出向き、説明員を務めた。  リクシルが今年9月に商品化した、一般住宅の玄関ドアを自動化する電動オープナーシステム「DOAC(ドアック)」の開発にも、野村さんがモニター役として参加したそうだ。  「日ごろNIJI内だけで仕事をしているので、たまにほかの部署の方たちと一緒に仕事ができると、よい経験、よい刺激になります」  野村さんは、NIJIではパソコンの入力作業を担当している。職場では、デスクまわりの通路を広めにし、低い位置にあるキャビネットを専用で使用するなどの配慮をしてもらっているほか、電車通勤のため、ラッシュ時間をずらした午前10時出社となっている。 NIJI以外の職場でも勤務  業務内容やメンバー本人の能力によって、NIJIではなく業務依頼元のオフィスで仕事をするケースも増えている。  その場合は、あらかじめNIJIのリーダーが受入れ先の部署に出向き、本人の特性や配慮事項についての説明会を行っている。いまは聴覚障害のある9人と精神障害のある3人が本社オフィス業務、知的障害のある4人のうち2人が社員食堂で厨房とホール業務、もう2人が清掃業務に就いている。  リクシルは2018年3月に「LIXIL ダイバーシティ&インクルージョン宣言」を発表し、「多様性を認めるだけでなく、あらゆる個性を成長とイノベーションの原動力にすることを目的に、国や地域ごとの課題に合った活動を展開する」としている。インクルーシブな職場の実現の一つの形として、NIJIのメンバーが依頼元の部署に「異動」することも大きな目標ではある。ただ到達点やペース、タイミングなどは一律とせず、あくまで一人ひとりの特性に合わせてキャリアパスを進めていくようにしているという。  「さらにNIJI自体の戦力化や存在価値の向上にむけ、業務を通じた社内交流も図っています」と富井さんは話す。例えば、本社内の社員が自由に業務を行う交流エリアの備品管理などをNIJIが担当したり、ショールームに勤務する社員向けの手話教室を開催したりしている。手話教室では、聴覚障害のある来訪者との基本的な意思疎通や、災害などの非常時に避難をうながすための手話を教えているという。  最後に、今後のNIJIの運営方針について富井さんが語ってくれた。  「NIJI自体も物理的なキャパシティが限界に来ているので、本社内に出張するような形も含めて、勤務場所を増やしていきたいですね。将来的には、全国のほかの拠点にも同様の機能を持たせた場所をつくっていけたらと考えています」  職場におけるダイバーシティ&インクルージョンを実現していく拠点の一つとして、さらなるNIJIの活動展開が期待されている。 写真のキャプション 障がい者就労センター「LIXIL WING NIJI」 ヘルスケア・障がい者雇用促進プロジェクトマネジャーの富井晃さん バリアフリーなフロアは、デスクもゆったり配置されている 休憩室の大きな窓は、社員のリフレッシュにも一役買っている 間口の広いスライド式ドアは、車いすでも通過が容易だ NIJI 内の企画・管理責任者を務める和多田幸夫さん メール便業務のスペシャリストを目ざす窪川潤さんは、後輩のためにマニュアルづくりもしている 増設されたトイレには、社員の声を取り入れた メールセンターから郵便物を運ぶ窪川さん 神海夜さんは、印刷した名刺の発送やデータ管理などを担当する 神さんが司会進行役を務めたファミリーデーのブラインド体験会(写真提供:株式会社LIXIL) パソコンの入力作業や書類のPDF化などを担当する野村絵梨さん 野村さん(左)は、国際福祉機器展で開発に協力した商品の説明を行った(写真提供:株式会社LIXIL) 【P10-11】 クローズアップ 第2回 活躍する障害者職業生活相談員  前号から始まった「障害者職業生活相談員」の活躍を紹介するシリーズ。第2回目は、活動歴7年という経験豊富な相談員の方に、障害のある社員とのかかわり方や工夫、また、これから相談員として働く方へのアドバイスなどをうかがいました。 【取材先プロフィール】 JFEビジネスサポート横浜株式会社 (神奈川県横浜市) ◆業種  各種サービス業。  JFEエンジニアリンググループの職場環境、IT、電子化、広告宣伝などのサポート業務を展開 ◆従業員数  283人のうち、障害者は24人(知的障害19人、精神障害4人、身体障害1人) ◆障害者職業生活相談員数  4人 職場のサポート体制  「JFEビジネスサポート横浜株式会社」の安倍(あべ)朋子(ともこ)さんは、「コ・ワークラボセンター」という障害のある社員20人が在籍する部署で働いています。  同部署には、障害のある社員をサポートする担当者として、センター長である渡辺(わたなべ)重己(しげみ)さん以下7人が所属し、障害者職業生活相談員の資格を順次取得していますので、この項では全員を「相談員」とご紹介します。  相談員のみなさんは、企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の資格も取得している安倍さんともう一人のベテラン相談員を中心に、一貫したサポートができるよう意思統一を図っています。 まずは名前を覚えて、じっくり聞く  安倍さんは、豊富な経験から「朝の挨拶ひとつで、障害のある社員たちの体調や気分がわかる」ということですが、「そのためには、一緒に働く仲間として、その人に興味を持つことが大切」とも話します。  「はじめて相談員になる場合、どう対応すればよいのかと迷う人もいますが、特別扱いする必要はありません。特性上の配慮は必要ですが、当社の一般社員として育てればいいのです」 ◆アドバイスポイント @障害のある社員の話を聞く  相談員になって日が浅いと、心の距離を近づけようとして、自分のことをたくさん話しがちです。それよりも「話を聞いてほしい」社員の方が多いので、「聞く」ことに徹しましょう。 A顔と名前を1日も早く覚える  「自分の名前を呼んでくれた」という喜びが、心を開くきっかけになります。 B伝え方で、自信やモチベーションをアップ  本人の自信やモチベーションは、言葉のかけ方ひとつで変化します。相手の性格や状況を見極めて工夫してみましょう。 相談員の業務分担  同社は、JFEエンジニアリンググループの一社として、ものづくりを支えるさまざまな事業を行っています。そのなかで障害のある社員たちは、スキャニングなどの電子化サービス、定期的な施設・巡回サービスやオフィスサービスなど、多岐にわたる業務をになっています。  7人の相談員のうち、安倍さんとベテランの相談員は、新しい業務の手順やルールなどを定めて、障害のある社員の仕事として新しく導入する業務を習得するための支援や、その業務をさらに深めていく支援を担当しています。そのほかの相談員は、障害のある社員と一緒に業務をしながら、作業内容とその社員とのかかわり方の両方を覚えていきます。  障害のある社員を支援する場合、どの相談員が担当しても方針が一貫していることが重要です。そのため、マニュアルを整備しています。また、マニュアルの内容に不都合が生じた場合は、会議を開き、改訂内容を検討します。相談員の個人的な見解で変更することが、方針のブレにつながるからです。 相談員が同じ方向に向かって  障害のある社員の職域が広がったことで、各相談員が離れた現場にいることが多くなり、相談員同士が直接顔を合わせる機会が減ったため、報告は「Slack(スラック)」というコミュニケーションツールを利用しています。日々の出来事をすぐに共有し、伝達漏れを防ぐことが目的です。  例えば、挨拶時の表情や声のトーンなどで、「何か元気がない」と安倍さんが感じた社員がいたら、「少し気をつけて様子を見てほしい」などの申し送りをしています。こうしたベテランならではの気づきは、だれもが同じようにできるわけではないので、このツールでそれを補っています。  それ以外にも、社員の身体的・精神的な状態を把握し、一人ひとりの社員の全体像をきめ細かくとらえるため、「自己申告シート」も活用しています。毎日、自分の体調・気分・睡眠・やる気を、それぞれ「マイナス2」から「プラス2」までの5段階で自己採点し、記録します。  「長期間続けていくと、例えば『春に体調を崩すことが多い』といった、その社員の調子の波がよくわかります。また、面談などの対応やその後の変化などの記録とリンクさせると、社員それぞれの“カルテ”ができていきます。このような記録の蓄積は、経験の浅い相談員にも役立つ、部署全体の大きな財産です」  また、社員からの相談などは、複数の相談員で対応するようにしています。  軽微な相談は、あえてオープンな場所で聞き、判断に迷うときは隣席の相談員にも意見を求めます。  その後、相談内容は、相談員全員で共有します。安倍さんは「ひとりで判断しないことも、方針のブレを防ぐことにつながります」と強調します。  新しく相談員になった社員は、業務手順、個々の特性に加え、障害そのものについても勉強しなければなりません。資料などは用意されていますが、多忙な業務と並行して進めることになります。  「何か困ったときは、迷わず先輩に聞いてほしい。現場で学ぶことがたくさんあって、先輩には、そうした経験値が蓄積されていますから」 相談員の存在が安心感に  センター長の渡辺さんによれば、「弊社に、『コ・ワークラボセンター』が設置されたことにより、『障害のことをわかるプロがいる』、『障害のある社員への対応に困ったら、経験豊富な相談員である安倍さんたちに相談すればいい』という安心感が、社内全体に生まれた」といいます。  最後に安倍さんは、今後について、こう語ってくれました。  「この人はこんなふうに仕事ができると、周囲にアピールすること、仕事の割りふりの仕方で障害のある社員にやりがいを持ってもらうことも相談員の役割です。センター外の部署で、サポートなく業務をこなす社員も出てきていますし、みんなの憧れになるような活躍をする社員も出てくるなど、可能性が広がっています」 写真のキャプション 相談員の安倍朋子さん コ・ワークラボセンターで、それぞれの業務に励む さまざまなオフィスサポート業務をこなす 【P12-14】 JEED インフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 障害者雇用を進める事業主のみなさま へ 就労支援機器をご活用ください! 中央障害者雇用情報センターでは、障害者を雇用している、または雇用しようとしているみなさまに無料で就労支援機器の貸出しを行っています。 「就労支援機器」とは障害者の就労を容易にするための機器のことで、例えば視覚障害者を対象とした拡大読書器や、聴覚障害者を対象とした補聴システム(集音システム)といったものがあります。 拡大読書器 ●書類や写真などを拡大表示する機器です。 ●コントラストや色調の変更も可能なためより見やすく調整することができます。 ●卓上型、携帯型など活用シーンに合わせて選択できます。 補聴システム(集音システム) ●マイク(送信機)が拾った音を直接、補聴器や人工内耳に届けるシステムです。 ●聞きたい音を大きくできるので就労のあらゆる場面で有効に使用できます。 ノイズキャンセラー ●視覚的・聴覚的な刺激を低減させることで、周囲の状況に影響されずに集中できる環境を整えます。 ▲上記は一例です 貸出しの対象となる事業主 障害者を雇用している、または雇用しようとしている事業主など※国、地方公共団体・独立行政法人などは対象外です 貸出し期間 原則、6カ月以内 ※職場実習やトライアル雇用の場合も利用できます 貸出しの流れ 申請書の提出 申請書を記入し、メールまたは郵送でご提出ください ※申請書は当機構ホームページよりダウンロードできます 貸出し決定 決定内容を通知し、機器を配送します 貸出しの終了・回収 当機構契約業者が回収にうかがいます お問合せ 中央障害者雇用情報センター 〒130-0022 東京都墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 TEL:03-5638-2792 E-mail:kiki@jeed.or.jp 就労支援機器を常設にて展示しているほか、導入に関する相談を行っています 就労支援機器を当機構ホームページでもご紹介しています https://www.kiki.jeed.or.jp/ 就労支援機器のページ 検索 障害者雇用のためのマニュアル・好事例集などのごあんない 〜当機構ホームページでご覧いただけます。ぜひご活用ください!〜 JEED マニュアル 検索 基本的 一般的 個別的 応用的 はじめからわかる障害者雇用 〜事業主のためのQ&A集〜 障害者雇用の知識や関連情報、具体的方策についてQ&A 形式でわかりやすく解説 障害者雇用マニュアル コミック版 具体的な雇用事例や障害者雇用に関する問題点を解消するためのノウハウを、障害別にコミック形式でまとめたマニュアル 障害者の雇用ノウハウに関する動画 障害者雇用を積極的に進めている企業の取組みや雇用管理などに関するノウハウを動画(DVD)でわかりやすく解説 ※DVDは無料貸出を行っています 障害者の職場定着と戦力化 14社の経営者や経営幹部が語る障害者雇用のメリット、職場定着のポイントなどを紹介 職場改善好事例集 障害者の雇用管理や雇用形態、職場環境、職域開発などについて、事業所が創意工夫を重ねて実践している取組みをテーマ別にまとめた事例集 マニュアルなどについてのお問合せ 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 雇用開発推進部 雇用開発課 TEL:043-297-9513 FAX:043-297-9547 DVD無料貸出しに関するお問合せ 中央障害者雇用情報センター TEL:03-5638-2792 FAX:03-5638-2282 今、手に取られている「働く広場」をデジタルブックでもお読みいただけます! 当機構では、障害者に対する雇用支援などを実施しており、その一環として障害者雇用の月刊誌「働く広場」を発行しています。 本誌は当機構ホームページでデジタルブックとしても公開しており、スマートフォンやパソコンでいつでも無料でお読みいただけます(※)。ぜひ、ご利用ください!(毎月5日ごろに最新号がアップされます) ※2016年4月号〜最新号まで掲載しています 読みたいページにすぐ飛べる! 自由に拡大できて便利! ★ルポルタージュ形式で、障害者雇用の現場をわかりやすく紹介 ★国が進める施策の動向や、関係制度、助成金などの支援策を紹介 ★「はじめての障害者雇用」「精神障害者が働く現場」「特別支援学校の取組み」など、テーマを掘り下げた記事が充実 お問合せ 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 企画部 情報公開広報課 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL:043-213-6216 FAX:043-213-6556 https://www.jeed.or.jp E-mail:hiroba@jeed.or.jp JEED 働く広場 検索 写真のキャプション 受信機 マイク送信機 パーテーション 【P15-18】 グラビア “話が見える”カフェ Social Cafe Sign with Me春日店(東京都) 取材先データ Social(ソーシャル) Cafe(カフェ) Sign(サイン) with(ウィズ) Me(ミー)春日店 〒113-0033 東京都文京区本郷4-15-14 区民センター1F 写真・文:官野貴  東京都文京区に、公用語を“手話”と“筆談”とするスープカフェがある。それが「Social(ソーシャル) Cafe(カフェ) Sign(サイン) with(ウィズ) Me(ミー)×ベリーベリースープ」だ。ここでは、聴覚障害のある人が手話を使って働いている。  「一般社団法人ありがとうの種」代表理事で、自身も聴覚障害のある柳(やなぎ)匡裕(まさひろ)さん(48歳)が「当事者による雇用の場をつくりたい。障害者が『ありがとう』といわれる社会を実現したい」という思いから、2011(平成23)年12月に同店をオープンした。現在では、障害の有無に関係なく手話を楽しみ交流するカフェとして親しまれている。  働き始めて5年目の綿引(わたびき)宏(ひろし)さん(26歳)は、「手話が公用語のカフェで働くことで、仕事の厳しさを学びました。以前アルバイトをしていた飲食店では、『指示が聞こえないから間違えても仕方がない』という認識が自他ともにありましたが、ここでは、それは通用しません。働くということへの考えが変わりました」と語る。  店長の岡本(おかもと)記代子(きよこ)さん(43歳)は、「手話でコミュニケーションがとれる職場で働きたいという思いがありました。このお店は“話が見える”働きがいのある職場です」と話す。文京区役所や東京ドームに近いという場所柄、客層は幅広いが、岡本さんによると、聴覚障害のある人が働いていると知らずに訪れたお客さまも、手話で話しかけると、すぐに理解して、写真入りのメニューやサインボードの指さし、電子メモパッドなどを活用して注文や会計を済ませるという。  柳さんは「コロナ禍(か)の影響で創業店舗の本郷店を春日店に移転統合しました。雇用の場が減ったことは残念ですが、お店はまたつくれます。テイクアウトやデリバリーに力を入れて、コロナ禍を乗り越え、手話者が輝く場所を増やしていきたい」と前向きだ。 写真のキャプション 「いらっしゃいませ」の手話で迎えてくれた綿引宏さんの夢は、自分のハンバーガーショップを持つことだ メニューやサインボードを指さすことで注文ができる 人気メニューの「茸とソーセージの5種野菜ポトフ」は栄養満点 同店で提供されるスープは、具だくさんが特徴 できたてをテーブルまで運んでくれる 「一般社団法人ありがとうの種」代表理事の柳匡裕さん 店内に設置された黒板には、来店者からのさまざまなメッセージが残されている 店長の岡本記代子さんは、「ろう者や手話を使いたいというお客さまとの会話も楽しいです。これからも、おいしいスープをお客さまに届けたい」と語る 【P19】 エッセイ【第3回】 あなたはどう思いますか? 坂井聡 さかい さとし  香川大学教育学部教授、香川大学学生支援センターバリアフリー支援室室長、香川大学教育学部附属坂出(さかいで)小学校校長・附属幼稚園園長、言語聴覚士、公認心理師。  特別支援学校での進路指導の経験があり、現場をよく知る実践的な研究者。富士通株式会社やソフトバンク株式会社と産学官の共同研究も行っている。 障害についての考え方  最近よく考えることがある。それは障害についての考え方である。WHO(世界保健機関)が、“障害の社会モデル”であるICF(国際生活機能分類)を公表してから20年が経とうとしているのに、なぜ、いまだに多くの人が1980(昭和55)年に発表された、“障害の医学モデル”であるICIDH(国際障害分類)から抜け出すことができないのか、ということである。  私は特別支援教育の指導法などが専門のため、いろいろな学校の研究授業などに行くのだが、いまだに多くの授業で、“社会に合わせる”ということを主たる目標にしていると感じる。授業で「これでは社会では通用しない」、「これができないと、社会に出ることができない」などという言葉を聞くことが多いからである。逆に、「配慮を受けながらでも社会参加できればよい」という言葉を聞くことは少ない。  教育の現場では、困難なことやできないことを「本人の力のみで」できるようにする、という発想が強いように思う。つまり、「訓練することで不足している部分を克服し、できるだけ社会的不利を被(こうむ)らないようにする」という“医学モデルの考え方”が、深く浸透しているのではないだろうか。  しかし、これには大きな問題がある。うまくいかなかった場合、その個人の責任とされることが多いからだ。それは、克服できなかった個人に責任があり、場合によっては「努力不足の結果だ」などと、まるでその個人が弱い人間であるかのような評価になってしまう。  本人や保護者が問題を感じていて支援を必要とする場合や、自分の力で解決することができない場合、さまざまなものに頼ってもよいのである。「あなたの場合、これを利用したらこんなことができるようになりますよ」と、支援もセットで考えて指導していくのがよいはずなのだが、そうなっていないのである。  ICFでは、参加や活動することができるようにするために、環境をはじめ健康状態や個人因子との相互作用でとらえることが示されている。なかでも、参加や活動をできなくさせている多くの要因は環境にあり、それらを整えることで、診断の有無にかかわらず、参加できればよいし、活動できればよいと思うのである。 環境の側にある障害  YouTube(ユーチューブ)に「Race(レース) the(ザ) tube(チューブ)」という動画がいくつか公開されている。そのなかには、車いすユーザーと地下鉄の電車が次の駅まで競争するというものもある。車いすユーザーが次の駅でその電車に乗ることができれば、車いすユーザーの勝利というものだ。走る車いすユーザーと、時間通りに走る電車の、手に汗握るデッドヒートである。  そのうちの一つに、こんな動画があった。ほぼ同時に駅に入り、「車いすユーザーのほうが少し早いかも」と想像したとき、カーブの先に階段が現れ、そこから先に進めずにいる車いすユーザーの後ろ姿のシーンで終わるというものだ。  私はこれを最初に見たとき、思わず「あっ」と声を上げたことを、いまでも覚えている。そのとき私が直感的に感じたのは、「この“階段”が障害なのだ」ということである。この“階段”こそが物理的な障壁となって、活動すること、参加することを不可能にしているのである。障害は環境の側にあるとあらためて考えるきっかけとなった動画である。  訓練というのは、その人にある凸凹の凹に焦点を当てて、凹んでいる部分を埋めるためにしているような感じがある。そもそも、凸凹は直さないといけないのだろうか。例えば、車いすユーザーがどんなに訓練しても、階段を降りることはできない。つまり、参加・活動できるようにするためには、環境側を変えるしかないのである。これは、知的障害や発達障害のある人たちの場合も同じである。凸凹はそのままでよいのである。  これまで行ってきた訓練は、凸凹の凹を何とかしようとするものになっていたのではないだろうか。  もう一度考えてみたい。もっと、凸を伸ばすことを考えてみたらどうだろうか。そして、障害について、支援者や指導者が“社会モデルの考え方”をしていく必要があるのではないだろうか、と思う。 【P20-25】 編集委員が行く 新型コロナウイルスによる障害者雇用への影響 一般社団法人障害者雇用企業支援協会(東京都) 東京通信大学 教授 松爲信雄 取材先データ 一般社団法人 障害者雇用企業支援協会 〒101-0035 東京都千代田区神田紺屋町34番地 東和神田ビル4階 TEL 03-3252-1900 FAX 03-3252-1901 編集委員から  新型コロナウイルスの感染拡大により、企業における障害者雇用に大きな落ち込みがみられました。  今回、「一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC)」にお話をうかがい、コロナ禍かにおける障害者雇用の現状と、今後のあり方について考察しました。 写真:官野貴 Keyword:新型コロナウイルス、在宅勤務、テレワーク POINT 1 緊急事態宣言中は、多くの企業で在宅勤務や自宅待機を実施 2 SACECの調査から、コロナ禍におけるさまざまな課題が見えた 3 今後はITなどの活用により、障害のある人も働きやすい環境になる可能性も はじめに  新型コロナウイルスの感染拡大による障害者雇用の落ち込みは、就職氷河期(1993〜2004年)、リーマンショック(2008〜2010年)、東日本大震災(2011年)に続く、たいへんな状況にあるといわれます。事実、労働政策審議会障害者雇用分科会の資料(7月31日付)では、2020(令和2)年2月から6月までに解雇された障害者は1104人となり、前年同期より152人上回ることが報告されました。特に、4月に緊急事態宣言が発出された後の5月には221人、6月には206人と、いずれも前年同期の1・5倍を超えました。また、求人数、就職件数、就職率も前年同期より減少しています。 1.実態調査  こうした新型コロナウイルスの感染拡大による障害者雇用の実際について、「一般社団法人障害者雇用企業支援協会(SACEC)」は、特例子会社を中心に5月の緊急事態宣言が発出されている状況での調査を行い、92社から回答を得ました。そのおもな結果は、次の通りです。 (1)業務の現状  緊急事態宣言が発出された以降も、8割以上の企業では出勤による勤務形態が続いていました(図1)。親会社などの業務受託先が在宅勤務に移りつつあるなかでも、出勤が必要な業務(例えば、配達物関連業務、清掃、印刷など)があることから、出勤時には、出社前の検温(体調確認)、消毒やマスクの着用、ソーシャルディスタンスの維持、会議の自粛など、通常のコロナ禍(か)への対策をしながら、業務を継続しています。  しかし、それらの業務のすべての領域で受注量が著しく減少しました。特に、マッサージやカフェなどの対面接客がともなう業務は、すべて中止に追い込まれました。また、事務処理系の補助業務や事業活動に密接に関連した業務も減少しました。  その一方で、在宅勤務の社員がいる企業が6割超ありました(図1)。ですが、その実情は、実際にテレワークとしてになう業務が十分に提供されているとはいえない状態であり、自己学習をともなう自宅待機にならざるを得ないようです。 (2)雇用の維持  ほとんどの企業は、障害のある人の雇用を維持することを最優先の課題としています。ですが、有期雇用の場合は期間の満了で雇用関係を解消するところもありました。  給与も通常通りに支払われており、経営的には難局に直面しているなかでも社員の厚生を第一と考える姿勢は変わっていませんでした。ただし、月給制の社員は通常通りの支給額ですが、時給・日給制の社員の場合には、就労時間の減少にともなって所得が減少しています。そのため、低下した所得に対する補償をする企業もありました。 (3)在宅事情  図1に示した在宅勤務といっても、実際には、テレワークそのものを実施している企業と、自宅待機に近い企業があり、後者のほうが多いという結果でした。  在宅勤務を実施した企業の大半は、テレワークとして提供できる仕事が十分ではなく、業務の創出に苦労しているということです。従事している仕事の多くは、緊急事態宣言が発出される前から取り組んでいた内容でした。  業務の創出や提供がむずかしいために、むしろ、在宅を自宅待機として位置づけ、自己啓発の機会として課題学習を提供してその習得を義務づけることが行われていました。また、これを、社員の就労意欲の維持を図る方法として活用する企業も少なくありませんでした。  こうした在宅モードにある社員に対しては、図2に示すように、さまざまなマネジメント上の働きかけをしていますが、在宅勤務や自宅待機を実施している企業の半数では、社員の一部にメンタル不調の人が出現していると回答しています。  在宅モードにある社員のメンタル不調の背景には、家族が不調に陥(おちい)りその影響を受ける場合や、報道などで不安を掻(か)き立てられる事例も少なくないようです。また、こうした社員に対する支援は、通常上司や支援員が中心になっているのですが、就労支援機関に支援を求める場合も少なくありません。 (4)今後のあり方  調査の行われた5月下旬の時点では、今後のあり方について図3のような回答がありました。  受託業務に関する展望では、「B 受託業務の全体量の減少」で「(やや)そう思う」が34・7%、「A 受託業務の一部の喪失」と「C 契約金額の縮小」では、20・7%の企業が同様の回答をしていました。反対に、「(あまり)そう思わない」は55・5〜68・5%でした。その一方で、「F 在宅業務の拡大・定着」に「(やや)そう思う」が33・7%、「E 受託業務の領域の拡大」では17・4%の企業が「(やや)そう思う」と回答し、反対に「(あまり)そう思わない」が48・9〜52・2%でした。業務の将来展望には楽観的とも悲観的ともいい難い見通しを立てていることがうかがえます。  そうしたなかにあっても、「D 親会社や業務受託先の障害者雇用に対する理解やマインドの低下」に対しては「(あまり)そう思わない」が76・1%と高く、受託先企業の障害者雇用への理解に信頼を置いているようでした。  また、障害のある社員については、「H定着状況の悪化」と「I 業務遂行力の低下」について「(やや)そう思う」という回答は22・8〜26・0%でした。むしろ、「G 採用計画の停滞」が生じることに「(やや)そう思う」が55・5%と高い回答でした。 2.担当者の視点  この調査結果を受けて、調査を実施したSACEC理事長の畠山(はたけやま)千蔭(ちかげ)さん、常務理事である石崎(いしざき)雅人(まさと)さんにお話をうかがいました。 (1)調査結果の感想 石崎 この調査は、緊急事態宣言の発出以後、4月半ばあたりから、協会員の企業が他社の状況を知りたいとの要望が高まるなかで実施したものです。社会全体の生産活動と障害者雇用への影響に対する見通しへの不安と緊張感が高まっている最中に行われたものでした。さらに、調査時から半年を経過して、新型コロナウイルスの感染防止と産業活動の併存が重要な課題となっている最近の状況をふまえて、第二次調査を準備しているところです。  当初の予測では、企業は厳しい状況に置かれていると予想していたのですが、結果を見るかぎりは、想像していたよりも現場は混乱しているようには感じられません。さまざまな手段を模索しながら、現実的に対応していることが読み取れました。  特に、在職者については可能なかぎり雇用の維持に努力しているのですが、他方で、新規採用に手控えの傾向がありました。また、在宅就業を進めたいが仕事の提供に苦慮しており、実際には在宅という名の自宅待機が少なからず行われていることが印象的でした。  調査対象の企業はおもに特例子会社であることから、本社の在宅就業による出社率が回復してこないかぎりは特例子会社も成り立っていかなくなります。また、おもに知的障害のある人が配属される集団的作業の縮小が予想されるなかで、新たな仕事をどのようにしてつくり出していくかが今後の大きな問題となります。 畠山 障害者雇用を考える場合、病気や障害によって従事できる仕事に違いがあります。また、テレワークと在宅勤務の違いについて混乱しないことが大切です。テレワークは仕事そのものですが、在宅勤務には自己学習も含めた自宅待機も含まれます。発達・精神障害のある人に比較的多いパソコンによる事務系の仕事では、テレワークは通用するのですが、知的障害のある人の多くが従事している作業系の仕事は、テレワークの適用には向きません。 (2)今後の見通し 石崎 現在は、社会構造自体が一種の調整期間に入っており、社会全体の経済活動の回復には数年かかると思います。明るい展望はなかなか開けないのですが、新規事業の展開はますます必要となるでしょう。特に、テレワーク関連の事業を広く開拓していくことが求められています。  とはいうものの、障害のある現有社員の能力などを考えると、現実的にはむずかしい面もあります。特に、知的障害のある人たちの現業仕事の減少にどう対応するかが大きな課題です。なかには、工場の製造工程ラインに組み込めるかを検討しているところもあります。当面の可能性はあると思いますが、製造工程のロボット化の流れのなかにあっては将来的にも有望な仕事となるか不安な部分があります。 畠山 最近の流行として、農福連携が新たな事業として脚光を浴びているようです。ですが、これまでの方法では、障害のある人の雇用拡大になかなか結びつかないのではと思います。そこで生産〜加工〜販売・出荷の一連の流通経路を一体化して運営する「道の駅のような場所(仕組み)」を提案しています。企業がこのような場所の経営に乗り出せば、このそれぞれの部署の特性に応じた多様な障害のある人を雇用することができるでしょう。 石崎 障害のある人を雇用している企業が復調するには、社会全体の経済活動の動向をふまえても、少なくとも3年くらいはかかるでしょう。そのためには、親会社や業務受託先が協働して、技術革新の成果を取り込みながら新たな仕事を生み出すことが必要です。これまでも、知的障害のある人にはむずかしいと思われていた仕事(例えば、名刺などの印刷)も、技術革新により、いまでは多くの障害者雇用企業で行われています。AIの展開によって特例子会社の仕事は消失するのではといわれていたのですが、結果的には、新たな技術を取り込んで仕事を増大してきた経緯があります。  先ほどの農福連携でも、農業の暗黙知を技術的に“見える化”して、それをAIに組み込むことで新たな事業が展開できるかもしれません。こうした将来展望を考えると、今後は、いかにテクノロジーを使って事業展開を進めるかを考える時期にあると考えています。  また、そうした成果や情報は、企業間で共有して拡大・浸透を図ることが必要でしょう。そのことによって、地域や世の中の全体が変わっていくことを期待したいです。 畠山 他方で、企業のこうした新たな事業へのチャレンジに対して、社員はそれに応え得る能力が必要です。そのためには、事業所の人材育成に留まらず、企業に人材を送り出す医療・保健・福祉・教育の分野において、さらなる教育訓練が必要であることを意味します。  受け入れ側の事業所は、IT化や在宅就業を推進していくにつれて、障害のある社員であっても、いままで以上に高度な能力を求めていくでしょう。それに対応して、送り出す側のさらなる人材育成が求められます。企業側の受け入れ水準をもっと下げてほしいという要求は、現実的ではありません。  企業は利益を出し、かつ、労働者の生活を担保する使命があります。そのため、企業が障害者の雇用を維持できる社会的な仕組みを構築していくことが必要でしょう。 石崎 企業は、法定雇用率の達成と維持について、背伸びしながらもがんばっています。今回の調査の感想としても、そうした状況をふまえた障害者雇用の仕組みを考えていくことが求められていると思います。 3.まとめ  調査やヒアリングを通して、いくつかの点について検討してみました。  このコロナ禍が収束するまでは、障害者雇用は厳しい状況が続きそうです。特に、就職活動では、合同企業説明会の縮小や中止で、障害者と企業が出会う機会が大きく減っています。また、職場実習も、在宅勤務の浸透で企業の受入れ体制ができていなかったり、外部の人の構内入所の禁止などが生じていたりしています。企業も障害者雇用を進めるうえで重要な、採用方法について模索しています。  一方で、オンライン教育、インターネット販売、作業の機械化サービスなど、新たなサービスチャンスが発生する可能性もあります。例えば、ウェブを活用した採用方法の導入で、コミュニケーションに苦手意識や不安を抱く障害のある学生は企業にアクセスしやすくなり、新たなチャンスが生まれるかもしれません。また、それにともなって、採用基準の見直しによる新たな人材が発掘されるかもしれません。さらに、通勤の不安などに課題のある障害のある人には、むしろ働きやすい職場となるかもしれません。  こうした状況のなかでは、私たちの働き方も変わらざるを得ません。具体的には、「働く場所」と「働き方」を見直す必要が生じてきます。働く場所の見直しは必然的に、業務、人材、管理、評価のあり方について再考することが必要になってきます。  このように、障害者雇用においてもテレワーク・在宅勤務をどのように実現して継続するかが重要になることは間違いないでしょう。他方で、こうした就業形態にそぐわない現業部門の仕事の減少とそれに従事する障害者の処遇に、どのように取り組んで行くかが今後の課題となります。また、こうしたことの全体を通して、企業が障害者雇用に取り組む意味や意義を見つめなおす機会になるかもしれません。  本稿を執筆している9月時点では、複数のメディアがコロナの影響に関する報道をしていますが、障害者雇用の求人についても「“コロナが〜”という短期的な話ではなく、中長期的に“業績が悪くて追加採用の見通しが立たない”」という話が増えてきています。  そのため、企業だけではなく、国や地方自治体など行政や支援機関も一体となった支援体制がますます必要になることでしょう。企業、そして障害者一人ひとりが選択肢を持って働けるための質の高い支援が求められます。 図1 業務遂行の形態(複数回答) 1.通常通り出勤し稼働している社員がいる 50.0% 2.通常とは異なる形(時差出勤・時短勤務等)で出勤し稼働している社員がいる 60.9% 1か2のいずれか、または両方に〇印をつけた会社は 83.7% 3.自宅で仕事に取り組んでいる社員がいる(在宅勤務・テレワーク・リモートワーク) 64.1% 4.自宅待機している社員がいる 59.8% 5.休暇を取得している社員がいる 20.7% 6.会社は休業している 2.2% 図2 在宅モードの社員に課していること(複数回答) 1.定時連絡 障害のある社員以外(支援員等) 56.3% 障害のある社員 66.3% 2.健康状態(体温・体調等)の連絡 障害のある社員以外(支援員等) 48.8% 障害のある社員 71.3% 3.定期的な提出物(日報等) 障害のある社員以外(支援員等) 23.8% 障害のある社員 38.8% 4.オンライン会議への参加 障害のある社員以外(支援員等) 38.8% 障害のある社員 17.5% 5.特にない 障害のある社員以外(支援員等) 7.5% 障害のある社員 7.5% 図3 今後の展望 受託業務の一部を喪失する A 1.そう思う 8.7% 2.ややそう思う 12.0% 3.どちらでもない 9.8% 4.あまりそう思わない 20.7% 5.そう思わない 47.8 平均スコア 3.88 受託業務の全体量が減少する B 1.そう思う 13.0% 2.ややそう思う 21.7% 3.どちらでもない 8.7% 4.あまりそう思わない 18.5% 5.そう思わない 37.0% 平均スコア 3.45 受託業務の契約金額が縮小される C 1.そう思う 8.7% 2.ややそう思う 12.0% 3.どちらでもない 16.3% 4.あまりそう思わない 17.4% 5.そう思わない 44.6% 平均スコア 3.78 親会社や業務受託先の障害者雇用に対する理解やマインドが低下する D 1.そう思う 2.2% 2.ややそう思う 12.0% 3.どちらでもない 8.7% 4.あまりそう思わない 18.5% 5.そう思わない 57.6% 平均スコア 4.19 受託業務の領域が広がる E 1.そう思う 1.1% 2.ややそう思う 16.3% 3.どちらでもない 32.6% 4.あまりそう思わない 22.8% 5.そう思わない 26.1% 平均スコア 3.57 在宅業務が拡大・定着する F 1.そう思う 12.0% 2.ややそう思う 21.7% 3.どちらでもない 13.0% 4.あまりそう思わない 18.5% 5.そう思わない 33.7% 平均スコア 3.41 障害のある社員の採用に停滞が生じる(計画通り進まない) G 1.そう思う 19.6% 2.ややそう思う 35.9% 3.どちらでもない 16.3% 4.あまりそう思わない 12.0% 5.そう思わない 14.1% 平均スコア 2.64 障害のある社員の定着状況が悪化する H 1.そう思う 5.4% 2.ややそう思う 17.4% 3.どちらでもない 21.7% 4.あまりそう思わない 21.7% 5.そう思わない 31.5% 平均スコア 3.58 障害のある社員の業務遂行力が低下する I 1.そう思う 4.3% 2.ややそう思う 21.7% 3.どちらでもない 22.8% 4.あまりそう思わない 19.6% 5.そう思わない 29.3% 平均スコア 3.49 ※平均スコア:そう思う=1、ややそう思う=2、どちらでもない=3、あまりそう思わない=4、そう思わない=5として、設問ごとに回答結果の平均値を算出 (出典:一般社団法人障害者雇用企業支援協会「緊急事態宣言下における障害者雇用の状況に関するアンケート報告書」) 写真のキャプション 一般社団法人障害者雇用企業支援協会によるアンケートの報告書 常務理事の石崎雅人さん 障害者雇用企業支援協会理事長の畠山千蔭さん 【P26-27】 省庁だより 令和2年版 障害者白書概要A 内閣府ホームページより抜粋  前月号では、第1章「障害のある人に対する理解を深めるための基盤づくり」、第2章「社会参加へ向けた自立の基盤づくり」、第3章「日々の暮らしの基盤づくり」の概要について紹介しました。今月号は、第4章と第5章および補章の概要を紹介します。 第4章 住みよい環境の基盤づくり 第1節障害のある人の住みよいまちづくりと安全・安心のための施策 ●移動等の円滑化の一層の推進  ・バリアフリー法の改正  移動等円滑化に係る「心のバリアフリー」の観点からの施策の充実などソフト対策を強化するため、「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」を改正(※1) ●ユニバーサルデザインの考え方を踏まえたバリアフリー施策の推進  ・バリアフリー法に基づく心のバリアフリーの推進  「バリアフリー教室」の全国各地での開催、鉄道利用者への声かけキャンペーン等の啓発活動の推進、障害のある人等が公共交通機関を利用する際等の支援、接遇を的確に行うための研修プログラムやマニュアルを事業者に向けて作成、教育・研修を促進 ●建築物のバリアフリーの推進  ・ホテル・旅館のバリアフリー化  ホテル・旅館におけるバリアフリー化を促進するため、「建築設計標準」を改正(※2) ●公共交通機関、歩行空間等のバリアフリー化の推進  ・鉄道におけるバリアフリー化  2020年東京オリンピック・パラリンピック競技大会を契機に、バリアフリールートの複数化、エレベータの大型化やホームドアの設置等のバリアフリーの高度化を推進。新幹線における車椅子用フリースペース(仮称)の創設や車椅子対応座席の予約方法の改善等について中間とりまとめ ●防災、防犯対策の推進  ・110番アプリシステム  聴覚に障害のある人等、音声による110番通報が困難な人が、スマートフォン等を利用して文字等で警察に通報できる「110番アプリシステム」を全都道府県警察に整備し、運用を開始 第2節障害のある人の情報アクセシビリティを向上するための施策 ●情報アクセシビリティの向上  障害のある人や高齢者等がICT機器の利用方法を学ぶことのできる「デジタル活用支援員」の仕組みの検討等を内容とする「デジタル活用共生社会実現会議報告」を取りまとめ ●読書バリアフリー法の制定  障害の有無に関わらず、全ての国民が等しく読書を通じて文字・活字文化の恵沢を享受することができる社会の実現に向けて、視覚障害者等の読書環境の整備を総合的かつ計画的に推進するため、「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」が成立(※3) ●情報提供の充実  ・日本銀行券の券種の識別性向上に向けた取組  日本銀行券について、偽造抵抗力強化の観点に加え、視覚に障害のある人が触った時や見た時に券種の区別をしやすくする工夫を施す等のユニバーサルデザインの観点も踏まえ、新たな様式で発行するための準備に着手 ●コミュニケーション支援体制の充実  ・電話リレーサービス  聴覚に障害がある人が家族などに頼らずに電話をかけられるよう、手話通訳や文字通訳に対応するオペレーターを配置して支援する「電話リレーサービス」を推進。公共インフラとしての電話リレーサービスを実現するため、「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」が成立(※4) 第5章 国際的な取り組み ●国際協力等の推進  ・パラスポーツを通じて誰もが平等に社会参加できる社会へ(スポーツを通じた障害のある人の社会参加促進)  開発途上国の行政官等を対象として、日本における障害者スポーツ振興の制度や、障害者スポーツ競技に関する知識・技術を習得する為の研修を実施 補章新型コロナウイルス感染症への対応 ●新型コロナウイルス感染症への対応  社会福祉施設等における各種サービスの継続的な提供のための感染拡大防止に向けた取組や視聴覚障害者等に対する障害特性を踏まえた情報提供の配慮を地方自治体に要請。加えて、障害のある人の雇用の維持等を事業者団体に対して要請  特別支援学校等を含めた学校における安全確保のため、保護者、教職員等に対する感染症対策の対応に係る情報の周知・指導を教育委員会等に依頼。また、学校設置者に対して感染拡大防止の観点からの全国一斉の臨時休業を要請。その後、学校再開に向け、児童生徒等の感染リスクを低減するための取組の参考になるよう衛生管理マニュアル等を作成 「障害者白書」 内閣府ホームページ https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/index-w.html ※1「高齢者、障害者等の移動等の円滑化の促進に関する法律」の改正 https://www.mlit.go.jp/report/press/sogo09_hh_000226.html ※2「建築設計標準」の改正 https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/jutakukentiku_house_fr_000049.html ※3「視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律」 https://www.mext.go.jp/a_menu/ikusei/gakusyushien/1421441.htm ※4「聴覚障害者等による電話の利用の円滑化に関する法律」 https://www.soumu.go.jp/menu_hourei/s_houritsu.html 【P28-29】 研究開発レポート 調査研究報告書bP50「発達障害者のストレス認知と職場適応のための支援に関する研究」 障害者職業総合センター研究部門 障害者支援部門 1研究の背景  発達障害は、従来、子どもの障害として小児科や児童精神科で中心的に扱われてきました。  しかし、大人になってもその症状は継続する ことが認知されるようになりました。最近では、労働者全般の健康安全を扱う産業保健の対応事例として、メンタルヘルス不全や気分障害など精神疾患の背景に、発達障害が疑われるケースが報告されています。  発達障害については、2005(平成17)年に施行された発達障害者支援法を契機に、教育、福祉、医療、労働など各方面で成人期の対応策が検討されています。  最近では、特に「自閉症スペクトラム障害(ASD)」や「注意欠陥多動性障害/注意欠如・多動症(ADHD)」が注目されていますが、これらの障害については精神疾患が高い確率で併存することが国内外の調査からわかってきました。多くの調査結果から共通して示唆されることは、発達障害と精神疾患の症状を適切に評価し、対応することの重要性です。  職業リハビリテーションの専門機関である地域障害者職業センター(以下、「地域センター」)では、発達障害者のみならず、発達障害の傾向のある精神障害者に対しても個別的支援が行われています。しかし、発達障害と精神障害の併存そのものに着目した職業リハビリテーションにおける知見やエビデンスは、十分に整備されていませんでした。そこで、障害者職業総合センター研究部門において、「発達障害者のストレス認知と職場適応のための支援に関する研究−精神疾患を併存する者を中心として」(平成30年度〜令和元年度)」の研究で、地域センターを利用している発達障害と精神障害を併存する者の実態と、対応の現状を明らかにすることとしました。 2 研究対象範囲の設定  研究を進めるうえでは「発達障害の傾向がある対象者」を、どうとらえるかが大きな課題となりました。発達障害の診断を中心にした場合、発達障害の傾向とは、「@医学的に診断がつく可能性が高いが未受診・未診断状態である」、「A医学的に診断基準に至らないグレーゾーン」のいずれかとなります。加えて本人の自覚の状態はさまざまです。そこで、対象者について「地域センター利用開始時点では医学的な診断はないが、支援経過において職業上の障害の背後に発達障害の傾向があると判断できたケース」としました。発達障害の傾向があるケースは、実態として@とAのいずれかに該当すると予想され、各々を前提に実態を整理する必要がありました。また、専門家の意見も加えて、調査対象範囲を次の3群に分けて検討することとしました。 発達障害者(以下T群)  「発達障害」として利用登録している者。知的障害のない発達障害者(IQ70を超える者、またそれと同等とみなせる者)。 精神障害者(以下U群)  「精神障害」として利用登録している者。発達障害の傾向がうかがわれる者。  一般的なうつ病、気分障害に該当する者(統合失調症、てんかんを除く)。 精神障害者(以下V群)  「精神障害」として利用登録している者。U群に該当しない者。  一般的なうつ病、気分障害に該当する者(統合失調症、てんかんを除く)。対照群となる。 3調査結果  全国の地域センターの協力により、分析対象としてT群105事例、U群79事例、V群94事例を得ることができました。調査では発達障害者の適応上の課題となりがちな「自閉症スペクトラム障害の行動特徴」と、発達障害に認められる「認知機能」の課題を項目として設定し、支援事例の特徴や機能の偏りの程度について回答を求めました。ここでは「自閉症スペクトラム障害の行動特徴」の結果をご紹介します。 @発達障害者(T群)と精神障害者(U群)の特性比較  T群はU群に比して、項目全般で“特異さがある”“特異さがややある”と判断された者が、より多いという結果でした。T群は発達障害の診断があるので特異さが観察されることは当然といえます。一方のU群は、診断がないにも関わらず、T群ほどではないにしろ、相当程度の人数が“特異さがある”、“特異さがややある”と判断されていました。またT群とU群ともに『他者との関係づくり』、『対人的交流の相互作用の障害』の結果に同様の傾向が見られました。  加えて、T群とU群は共通して「社会性・コミュニケーション(図1)」において、「こだわり(図2)」のカテゴリより“特異さがある”が高頻度で生じており、T群とU群の職場適応の課題の背景となる特性は、共通している可能性が示唆されました。 A精神障害者U群の職場でのストレス要因の特徴  さらに、職場不適応の背景となりうるさまざまな職場ストレス要因を列挙したうえで、実際の支援事例にそれらがストレスの原因となったかどうかの回答を求めました。調査結果を3群間(T群、U群、V群)で比較したところ、U群では、「役割不明瞭」や「上司や部下と衝突・不和」などが、高頻度で挙げられていました。職場での役割がはっきりしないことや、職場内のタテ・ヨコの関係は、U群の人たちにとってストレスの原因になりやすいようです。  U群の多くは、発達障害の傾向はあっても専門的な診断や判断がないため、職場の関係者のみならず、本人ですらその事実に気づいていない可能性があります。場合によっては、発達障害の傾向を考慮した配慮や対処が必要であっても、本人の性格や努力不足の問題ととらえられてしまう恐れもあります。発達障害の傾向がある社員がメンタルヘルス不全や適応の問題を示した場合、社内だけでなく、専門家を含めて検討することが重要です。必要に応じて産業保健窓口や医療機関、職業リハビリテーションなどの専門的支援機関との情報交換や連携をすることが求められます。  ヒアリング調査では、地域センターの支援を通じて、企業と本人の間で発達障害の傾向が共有され対処を行ったことで、問題の深刻化を防いだケースが報告されました。 4 おわりに  調査研究報告書150では、アンケート調査のほかに、発達障害と精神障害が併存する事例についてヒアリング調査を行い、支援に重要な視点を整理しました。また、具体例を紹介したリーフレット「発達障害特性と精神障害が併存する人の就労支援のポイント」も作成しました。これらの資料は障害者職業総合センター研究部門のホームページ(※)からご覧いただけます。 ※ 障害者職業総合センター研究部門ホームページ https://www.nivr.jeed.or.jp/ 「調査研究報告書No.150」https://www.nivr.jeed.or.jp/research/report/houkoku/houkoku150.html 「発達障害特性と精神障害が併存する人の就労支援のポイント」https://www.nivr.jeed.or.jp/research/kyouzai/kyouzai65.html ◇お問合せ先:研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.or.jp) 図1発達障害者と精神障害者における発達障害関連特性(社会性・コミュニケーション)に関する所見 対人的交流の相互作用の障害 T群 特異さがある 56.2% 特異さがややある 26.7% 平均的 15.2% 不明・無回答 1.9% U群 特異さがある 20.3% 特異さがややある 53.2% 平均的 21.5% 不明・無回答 5.1% 非言語的コミュニケーションの障害 T群 特異さがある 31.4% 特異さがややある 48.6% 平均的 16.2% 不明・無回答 3.8% U群 特異さがある 11.4% 特異さがややある 41.8% 平均的 36.7% 不明・無回答 10.1% 他者との関係づくり T群 特異さがある 41.9% 特異さがややある 44.8% 平均的 12.4% 不明・無回答 1.0% U群 特異さがある 22.8% 特異さがややある 57.0% 平均的 19.0% 不明・無回答 1.3% T群(発達障害者 n=105)、U群(精神障害者 n=79) 図2 発達障害者と精神障害者における発達障害関連特性(こだわり)に関する所見 常同的・反復的な言語、運動、物の使用 T群 特異さがある 6.7% 特異さがややある 14.3% 平均的 72.4% 不明・無回答 6.7% U群 特異さがある 1.3% 特異さがややある 10.1% 平均的 79.7% 不明・無回答 8.9% 習慣・言語・非言語的行動の儀式的パターンへの過度なこだわり/変化への過度の抵抗 T群 特異さがある 15.2% 特異さがややある 39.0% 平均的 41.9% 不明・無回答 3.8% U群 特異さがある 8.9% 特異さがややある 31.6% 平均的 53.2% 不明・無回答 6.3% 限局的で固着した興味 T群 特異さがある 11.4% 特異さがややある 30.5% 平均的 49.5% 不明・無回答 8.6% U群 特異さがある 7.6% 特異さがややある 29.1% 平均的 51.9% 不明・無回答 11.4% T群(発達障害者 n=105)、U群(精神障害者 n=79) 【P30-31】 ニュースファイル 地方の動き 岡山 第二回おかやま障害者ワークフォーラム  12月9日(金)に岡山市の岡山コンベンションホールで、障害者や保護者、支援機関など向け企業説明会「おかやま障害者ワークフォーラム2020」(岡山県、山陽新聞社会事業団、岡山障害者雇用企業研究会、岡山障害者就業・生活支援センター主催)が開催される。岡山エリアの障害者雇用企業約20社が出展し、支援機関や医療機関の相談ブースも開設。各企業での障害者の業務内容や働き方、求める人材などを確認することができ、障害者の就労準備や意欲アップに役立つ機会となっている。  また、昨年度は約500人の方が来場したが、今年度はコロナ対策を施したうえで規模も制限するため、参加できない企業も加えウェブでも企業の取組み紹介資料を公開する。問合せは岡山障害者就業・生活支援センターへ。 生活情報 福島 家族向け「福祉車両」貸出し  デイサービス介護事業などを展開する「i(アイ)−step(ステップ)株式会社」(いわき市)が、障害者や高齢者の家族向けに福祉車両の貸出しを始めた。  施設利用者や家族から、福祉車両を気軽に利用できないことや、自家用車での旅行・通院がむずかしいといった相談が寄せられていたことから計画。リフトつき福祉車両9台、車いすと歩行器を5台ずつ準備した。軽自動車は3時間2500円から利用できる。問合せはi−stepレンタカーへ。 電話:0246−46−3322 東京 視覚障害者のためのUD化粧パレット  「株式会社アデランス」(新宿区)は、全盲の視覚障害者の発案から生まれたユニバーサルデザイン(UD)化粧パレット『BLINDMAKEUD(ブラインドメイクユーディーパレット)』を発売した。  「一般社団法人日本ケアメイク協会」でブラインドメイクを広める活動を行う視覚障害者らと、共同で商品を開発。リップ、グロス、チーク、アイブロー、アイシャドー3点、ハイライト、ラメを1つのパレットにまとめた「スターターセット」などがある。時計に例えて配置したアイテムは位置も変更でき、3時と9時の位置の側面や各アイテムの間に突起をつけて使いやすくした。「アデランススマイルストア」で購入できる。https://medical-aderans.com/ 大阪 障害者の絵画を飾るギャラリーホテル  障害者の絵画を飾るホテル「DISTORTION(ディストーション)9」(大阪市)がオープンした。「泊まれるギャラリー」がコンセプトで、作品は障害者の芸術活動を支援する「やまなみ工房」(滋賀県)の通所者が手がける。  ホテルは貨物用コンテナを利用した2階建ての2室で、絵画十数点を飾っており、購入も可能。半年に1度、通所者の作品を入れ替える。コーヒーや水などアメニティーの包装デザインも工房利用者が手がけている。宿泊予約はホームページから。 https://www.ninedesign.jp/distortion9/ 福岡 車いす用オリジナルパンツ商品化  「株式会社プラスアルファ」(直方(のおがた)市)が、すべての車いす使用者が使いやすいオリジナルパンツを、縫製会社と共同開発し販売を開始した。  ベルト部分がマジックテープのスライド式になっているほか、後ろポケットがなく、膝下左右2カ所に小物が入るスペースをもうけるなど、さまざまな工夫が施されている。  商品化には国内トップアスリートや特例子会社も協力し、さらに開発を続け便利で使いやすいものにしていきたいとしている。  価格は9100円から。問合せは通販サイト「Stadium Pants store(スタジアム・パンツ・ストア)」へ。 https://stadiumpants.stores.jp/ 働く 福島 農業と福祉連携のカフェ開店  地元農産物の利用拡大と障害者の就労支援に取り組むカフェ「RIBBON(リボン)∞COFFEE(コーヒー)」が、福島市中心部にオープンした。  運営する就労継続支援B型事業所「FLAT(フラット)福島」が、県産の果物や野菜などを食材にしたスムージー、フルーツティー、サンドイッチなどをテイクアウトで提供。事業所の利用者がスタッフに加わり、接客や調理を担当する。  また農福連携の取組みの一環として、提携農家の協力を得て利用者が就農体験をし、収穫や仕分けにかかわった農産物を使ったメニューも取り入れる予定。営業時間は平日午前11時〜午後5時。問合せはFLAT福島へ。 電話:024−572−3930 新潟 地元の銘菓を復活販売  2019(令和元)年に閉店した上越市の「滝本菓子店」の銘菓「チャーム」が、障害者支援などを行う「NPO法人ささえ愛みんなの家」(上越市)の運営する障害者就労継続支援事業所「はなの家」で復活した。  チャームは、バタークリームとあんを挟んだブッセ風の和洋菓子。同法人が障害者の就労の場として今年オープンした「喫茶たんぽぽ」のメニューに加えるため、施設の利用者や指導員が元店主から指導を受け、約2カ月かけてつくり方を習得。  9月から敷地内にある菓子製造店でテイクアウト販売も可能になった。価格は以前と同じ1個190円(税込)。数に限りがあるため、電話予約がおすすめ。問合せは喫茶たんぽぽへ。 電話:025−523−1504 静岡 農家と障害福祉事業所を仲介  人手不足に悩む農業に障害者も参画してもらおうと「NPO法人オールしずおかベストコミュニティ」(静岡市)が、農家と障害福祉事業所の仲介事業を開始した。  同法人は静岡県から農福連携事業を受託し、マッチングを強化するため今年度から農福連携ワンストップ窓口を設置。コーディネーターが、農家と福祉事業所をつなぐ活動を展開している。みかん農家での手伝いから始め、障害者が農業にたずさわる「農福連携」の取組みを広げる計画だという。  ほかの障害者福祉施設にも呼びかけ、牧之原(まきのはら)市の茶畑や静岡市の自然薯(じねんじょ)の農園の作業にも従事できるようにしていく。 和歌山 JAと障害者施設が農園  「JAみくまの西向(にしむかい)営農センター」(東牟婁(ひがしむろ)郡串くし本もと町)と「社会福祉法人つばさ福祉会」の障害者福祉施設「エコ工房四季」(同町)が、農福連携事業として米栽培などの福祉農園の立上げに着手した。  同センターはこれまで、エコ工房四季とともにニンニク栽培を展開してきたが、今年から休耕田4千uを活用してコシヒカリ、畑ではナスやカボチャを栽培。利用者約10人が、農作業にたずさわる。飲食店や体験型観光農園なども視野に入れ、地域経済の活性化や地域農業の維持につなげる予定。 本紹介 『障害者とともに働く』  「NPO法人日本障害者協議会」代表の藤井(ふじい)克徳(かつのり)さんと、「公益財団法人共用品推進機構」専務理事の星川(ほしかわ)安之(やすゆき)さんが『障害者とともに働く』(岩波書店刊)を出版した。  「障害のある人の労働」をテーマに、障害者が働くさまざまな企業や事業所の事例を紹介。テレワークの広がりやAIの導入など人々の働き方が大きく転換するなかで、だれもが笑顔で働ける社会のあり方を考える。新書判204ページ、820円(税別)。 2020年度地方アビリンピック開催予定 11月下旬〜1月 茨城県、千葉県、石川県、三重県、滋賀県、京都府、広島県、佐賀県 *部門ごとに開催地・日時が分かれている県もあります *上記以外の県は開催終了(開催中止含む) ※新型コロナウイルス感染症の影響により、変更する場合があります。 地方アビリンピック 検索 【P32】 掲示板 高障求 メールマガジン 好評配信中!  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、当機構が全国で実施する高齢者や障害者の雇用支援、従業員の人材育成(職業能力開発)などの情報を、毎月月末に、みなさまに配信しています。 雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える人事労務担当者のみなさま、必読! 高齢 超高齢社会の人材確保 障害 障害特性に応じた配慮の方法 求職 ものづくり技術伝承や人材育成 みなさまの「どうする?」に応えるヒントが、見つかります! 【登録用QRコード】 または JEED メルマガ で 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.or.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 次号予告 ●リーダーズトーク  トヨタ自動車株式会社(愛知県)サステナビリティ推進室の大塚友美さんに、同社における障害者雇用の取組みについてお話をうかがいます。 ●職場ルポ  サントリービジネスシステム株式会社(東京都)を訪問。従業員の職場定着と、職域拡大を進める現場を取材します。 ●グラビア  帝京大学の特例子会社で、大学・病院内の清掃やサポート業務を行っている株式会社帝京サポート(東京都)を取材。ここで活躍する障害者スタッフをご紹介します。 ●編集委員が行く  原智彦編集委員が、東京都立志村学園、株式会社パソナハートフルを取材。特別支援学校と就労をテーマに執筆します。 本誌購入方法  定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。  1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申し込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAXでのお申し込み 株式会社廣済堂までご連絡ください。 TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 あなたの原稿をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 早坂博志 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6216(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.or.jp/ メールアドレス hiroba@jeed.or.jp ●発売所−−株式会社 廣済堂 〒105−8318 港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03−5484−8821 FAX 03−5484−8822 12月号 定価(本体価格129円+税)送料別 令和2年11月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 埼玉県立大学 教授 朝日雅也 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 岡山障害者文化芸術協会 代表理事 阪本文雄 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 相談支援事業所 Serecosu 新宿 武田牧子 あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすく センター長 原智彦 ホンダ太陽株式会社 社友 樋口克己 サントリービジネスシステム株式会社 課長 平岡典子 東京通信大学 教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学 准教授 八重田淳 【裏表紙】 第28回 職業リハビリテーション研究・実践発表会 12月25日公開予定!  当機構では、職業リハビリテーションに関する研究成果を広く各方面に周知するとともに、参加者相互の意見交換、経験交流をさまざまな場で生み出すための機会として、「職業リハビリテーション研究・実践発表会」を毎年開催しています。  今年度は、新型コロナウイルス感染症への対応を考慮し、「障害者雇用の経営改善効果」をテーマとした特別講演等の動画の公開と、障害者雇用に取り組んでいる企業や支援機関による実践事例などさまざまな立場・視点から発表される方の発表資料を、障害者職業総合センター(NIVR)ホームページに掲載します。 障害者職業総合センターホームページ https://www.nivr.jeed.or.jp/ 職リハ発表会 検索 特別講演 「障害者雇用の経営改善効果 〜戦力化と相乗効果〜」 影山摩子弥 氏(横浜市立大学都市社会文化研究科 教授) パネルディスカッションT 「障害者を継続雇用するためのノウハウ〜企業在籍型ジョブコーチの活躍〜」 コーディネーター:鈴木瑞哉(東京障害者職業センター所長) 野澤紀子(障害者職業総合センター 主任研究員) パネリスト:星希望 氏(あおぞら銀行 人事部 人事グループ 調査役 精神保健福祉士) 細川孝志 氏(青山商事株式会社 ロジスティクス戦略部長) 松本優子 氏(豊通オフィスサービス株式会社 臨床心理士・社会福祉士) パネルディスカッションU 「障害のある社員の活躍のためのICT活用」 コーディネーター:早坂博志(独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 企画部次長) パネリスト:井上竜一郎 氏(インプラス株式会社 代表取締役) 竹内稔貴 氏(グリービジネスオペレーションズ株式会社 経営企画室 マネージャー) 吉田岳史 氏(パーソルチャレンジ株式会社 コーポレート本部 経営企画部 事業開発グループ マネジャー(NeuroDive秋葉原マネジャー)) 研究発表 研究・実践発表103題の発表資料を掲載 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者職業総合センター 研究企画部 企画調整室 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9067 E-mail:vrsr@jeed.or.jp https://www.nivr.jeed.or.jp 写真のキャプション 影山摩子弥 氏 12月号 令和2年11月25日発行 通巻518号 毎月1回25日発行 定価(本体価格129円+税)