【表紙】 令和3年3月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第522号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2021/4 No.522 職場ルポ 現場・本社・支援機関の連携で、見守りやすい職場に 株式会社美交工業(大阪府) グラビア 「よき見本になりたい」〜卒業生の活躍〜 日興みらん株式会社(東京都) 持永知毅さん 編集委員が行く 知的ハンディキャップのある方の就労に向けた特別支援学校の取組み 東京都立港特別支援学校(東京都)、千葉県立特別支援学校 市川大野高等学園(千葉県) 私のひとこと 家計の把握、できていますか? 弁護士法人ソーシャルワーカーズ 代表弁護士・社会福祉士 浦ア寛泰さん 「学校の先生」愛知県・笠原(かさはら)彩乃(あやの)さん 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています 4月 【前頁】 心のアート Fun(ファン) beetle(ビートル) 川浪 晋 (就労継続支援B型事業所ジーニアス) 素材:ダンボール紙、ポスターカラーマーカー/サイズ:360mm×410mm  昆虫というテーマで、足のひづめやツノをつけて「カブトウシ」という架空の昆虫を描きました。タイトルの「Fun beetle」に集約されているように、描いているときは愉(たの)しくてたまらない気持ちでした。  見る人にも楽しい気持ちになってほしいと思い、こんなタイトルにしました。  点描は初めてのトライでしたが、カラフルに色を重ね、細かいところまで点を重ねるように工夫しました。自由に描いたり、何かの発想を盛り込めたときは、愉しいですね。  もっと自分の発想を描けるように、画力を高めたいです。(文:川浪 晋) 川浪 晋(かわなみ すすむ)  23歳のころに統合失調症を発症。  頭痛と振戦(しんせん)(意識しないふるえ)に苦しむ日々を送るなか、2020(令和2)年5月、就労継続支援B型事業所ジーニアスと出会い、アート活動に取り組むようになる。制作時には驚異的な集中力を発揮し、絵を描くときだけは、頭痛や振戦がピタリと止まる。  その特性を活かして、点描など緻密な描写にも取り組む。 協力:SANC(Saga ArtBrut Network Center) 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2021年4月号 NO.522 心のアート 前頁 Fun beetle 作者:川浪 晋(就労継続支援B型事業所ジーニアス) 私のひとこと 2 家計の把握、できていますか? 弁護士法人ソーシャルワーカーズ 代表弁護士・社会福祉士 浦ア寛泰さん 職場ルポ 4 現場・本社・支援機関の連携で、見守りやすい職場に 株式会社美交工業(大阪府) 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 クローズアップ 10 職場定着に役立つ「ピアサポート」とは 第1回 〜当事者ならではの経験に基づく支援〜 JEEDインフォメーション 12 令和3年度 障害者雇用納付金制度に基づく申告申請が令和3年4月1日から始まります グラビア 15 「よき見本になりたい」〜卒業生の活躍〜 日興みらん株式会社(東京都) 持永知毅さん 写真/文:官野 貴 エッセイ 19 障害福祉サービスの現場から 第2回 社会保険労務士・行政書士 高橋 悠 編集委員が行く 20 知的ハンディキャップのある方の就労に向けた特別支援学校の取組み 東京都立港特別支援学校(東京都)、千葉県立特別支援学校 市川大野高等学園(千葉県) 編集委員 平岡典子 省庁だより 26 令和2年 障害者雇用状況の集計結果A(令和2年6月1日) 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課 研究開発レポート 28 第28回 職業リハビリテーション研究・実践発表会特集 Part2 パネルディスカッション T「障害者を継続雇用するためのノウハウ〜企業在籍型ジョブコーチの活躍〜」 U「障害のある社員の活躍のためのICT 活用」 ニュースファイル 30 掲示板・次号予告 32 国立職業リハビリテーションセンター 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 訓練生募集のお知らせ 表紙絵の説明 「将来、学校の先生になりたいと思い、この絵を描きました。私は絵を描くのが得意ではなく、人を描くのが苦手なのですが、腕や足がおかしくならないようがんばって描きました。将来、勉強をわかりやすく教えられる先生になるために、いまは勉強をがんばって、大学へ進学したいと思っています」 (令和2年度 障害者雇用支援月間ポスター原画募集 中学校の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。(https://www.jeed.go.jp/) 【P2-3】 私のひとこと 家計の把握、できていますか? 弁護士法人ソーシャルワーカーズ代表弁護士・社会福祉士 浦ア寛泰 家計管理の苦手な人が多い  私は、当事務所のある千代田区や近隣複数区の障害者就労支援センターの法律顧問(アドバイザー)を務めています。その関係で、企業で働いている障害のある人やそのご家族からのご相談も多数お受けしています。特に多いご相談の一つが、「多重債務(借金)」についてです。ご家族からは、障害のあるわが子の将来を心配して、「親なきあと」や成年後見制度に関するご相談も多く寄せられます。  そうしたなかで強く感じるのは、「家計の把握がきちんとできていない」方が多いということです。多重債務の原因の多くは、支出を適切にコントロールできずに、収入以上にお金を使ってしまい、不足分を借金で穴埋めせざるを得なくなったことが発端です。「親なきあと」を心配する親御さんも、お金をどうやって残すかには関心があっても、自分の老後の収支や、わが子の収支について正確に把握していないことが多いようです。例えば、「先月の食費はいくらくらいでしたか?」、「毎月、自宅の光熱費はいくらかかっていますか?」といった質問に即答できる人はほとんどいません。  特に知的障害や精神障害のある人のなかには、家計管理を苦手とする人が多いようです。さらに、キャッシュレスがあたり前の時代になってきて、昔に比べて、ますます支出を把握しコントロールすることがむずかしい環境になっています。  そこで、家計管理が苦手な障害のある人でも、家計を適切に把握できるようになるためのポイントを、3点に絞って解説します。 @「家計簿」にこだわらず、やれるところから  家計管理というと、真っ先に「家計簿をきちんとつけなければ」と考える人が多いと思います。実はこれが落とし穴です。特に多重債務で相談に来られた方には、家計簿を習慣的につけているかを確認して、していなければ、試しに家計簿をつけてみるようにお願いすることがあります。  しかし、例えば、注意欠陥・多動性障害(ADHD)の傾向のある人などは、家計簿をつけること自体を忘れてしまう、レシートを紛失するなどして支出が確認できなくなってしまう、不必要に多数のクレジットカードや銀行口座を持っていて把握するのがたいへんなど、家計簿をつけることに挫折しがちなようです。  他方、自閉スペクトラム症(ASD)の傾向のある人は、いざ家計簿をつけようとすると、「これは食費?交際費?娯楽費?」など、細かい費目が気になってしまい、完璧に家計簿をつけようとして挫折してしまいがちです。また、きっちり予算を立てようと張り切ってしまい、突然の臨時支出(例えば、友人の冠婚葬祭費など)でパニックになったり、高い節約目標を掲げすぎてやる気を失ってしまったりする傾向があるようです。  もちろん、診断を受けている人の全員がこういう特徴があるというものではなく、あくまで「傾向がある」というに過ぎませんが、自分の得意・不得意を理解することは重要です。  家計簿をつけることに苦手意識がある人は、例えば、まずは、買い物を極力現金だけでするようにして、毎日寝る前に財布の残金だけをチェックしてノートに書いたり、レシートだけ保管するなど、やれるところから始めてみることをおすすめします。  逆に、クレジットカードや、○○payなどのスマートフォンの決済アプリをよく使う「キャッシュレス派」の人にとっては、手書きの家計簿で管理するのは至難の業でしょう。家計簿アプリを導入して、クレジットカードや決済アプリと連動させて、自動で家計簿をつくれるようにするのがベストでしょう。最近は優れた家計簿アプリが多数出ていて、クレジットカードや銀行口座との連携機能も充実しているものが多いです。最初の設定はやや面倒かもしれませんが、一度設定してしまえば、あとは、ほぼ全自動でクレジットカードや銀行引き落としも含めて家計簿を作成することができます。  向き不向きは人それぞれです。大事なことは、きちんとした家計簿をつけることにこだわらず、やれる範囲で自分に合った方法をいろいろ試してみて、長く続けられそうな、フィーリングに合うやり方を見つけることです。 A「どんぶり勘定」でもよい  家計を記録する目的は、何にどれくらい支出しているかを把握して、収入の範囲に収まっているか、節約できる費目がないかなどをチェックし、改善に役立てることです。会社の帳簿と違い、必ずしも1円単位で正確に書く必要はありません。多少大雑把でも、漏れがあったとしても、大きな金額でなければ、家計管理の目的には影響はありません。  家計簿をつけ始めると、すべての収支を漏れがないよう、1円単位で正確に書こうと思うあまり、かえって挫折してしまう人もいるようです。まずは、「どんぶり勘定」でも、多少の漏れがあってもいいので、大雑把にでも家計の傾向(例えば、「1カ月の食費はだいたい○万円くらい」など)がつかめればよい、という気持ちで続けるのがよいでしょう。 Bまずは3カ月間続けてみる  収入(給与)も家賃も光熱費も、1カ月単位で発生することが多いと思われます。家計簿アプリを使っていれば1カ月単位の収支は自動で計算されますが、そうでない人は、どこかで時間を取って、1カ月単位の収支を自分で計算する必要があります。  支出には、毎月ほとんど金額が変わらない固定費(家賃、光熱費など)もあれば、毎月金額が上下する変動費(食費、日用品代など)もあります。特に変動費は、ある程度の期間継続して記録し、平均的な支出を把握することが必要です。まずは3カ月間程度続けられれば、家計の大まかな状況を把握することができるでしょう。  なお、このほかに、不定期に臨時で発生する費用(冠婚葬祭費、旅行代など)もあります。このような臨時の支出については、別途年間ベースで管理する必要がありますが、3カ月間記録を継続することができれば、予測が立てやすくなるでしょう。 行政の家計改善支援なども活用しよう  家計把握ができたら、可能であれば、人に見てもらって意見をもらうとよいでしょう。同居する家族がいれば、情報を共有することで、一緒に家計の見直しをすることができます。  とはいえ、親しい友人や同僚などに家計のことを相談するのは抵抗がある人も多いでしょうから、行政の家計支援などを活用するのもよいと思います。全国の市区町村では、家計が苦しい住民を対象に、家計に関する相談に乗り、家計の状況を「見える化」し、家計再生のためのプランを一緒に考えてくれる「家計改善支援事業」を実施している自治体もあります。詳しい窓口などは、「家計改善支援 ○○市」などでインターネット検索をしてみてください。家計改善に向けた計画づくりのほか、必要に応じて、さまざまな公的給付を受けるための助言や、債務整理が必要であれば専門家へつなぐ支援などもしてくれます。  私たちの法律事務所でも、多重債務に陥って自己破産などの債務整理をする際は、単に法的に借金を消すことだけではなく、再び同じようなことにならないよう、自己破産などの法的整理と並行して、当事務所専属のソーシャルワーカー(精神保健福祉士・社会福祉士)のサポートのもとで、家計簿を無理のない範囲でつけていただくなどの方法により、家計改善の支援もしています。  障害のある方、特に、多重債務に一度陥ってしまったような方は、家計簿をつけることにも苦手意識を感じている方が多いようですが、以上の点に留意して家計改善にチャレンジすれば、みなさん、自分なりの方法で、自分の家計を適切に把握して、支出をコントロールできるようになるはずです。どうしても一人ではむずかしい場合は、早めに周りの支援者や専門家に相談をしてください。 浦ア 寛泰 (うらざき ひろやす)  1981(昭和56)年生まれ。岐阜市出身。2005(平成17)年、弁護士登録。長崎県の離島(法テラス壱岐(いき))で活動した経験や、法テラス千葉で障害のある方の刑事弁護を数多く担当した経験から、弁護士とソーシャルワーカー(福祉の専門職)が協働して活動する必要性を痛感。2010年CFPR(※)登録。2014年社会福祉士登録。2018年4月、仲間とともに弁護士法人ソーシャルワーカーズ設立(代表弁護士)。  共著に『福祉的アプローチで取り組む弁護士実務―依頼者のための債務整理と生活再建―』(第一法規)など。 ※CFP:Certifi ed Financial Planner(認定ファイナンシャルプランナー)。日本FP協会が認定しているFPの上級資格 【P4-9】 職場ルポ 現場・本社・支援機関の連携で、見守りやすい職場に ―株式会社美交工業(大阪府)― 公共施設の清掃業務や公園の管理運営を手がける美交工業では、点在する現場と本社、支援機関との連携を強化することで、雇用の安定と職場全体の活性化を実現している。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ 株式会社美交工業 〒550-0025 大阪府大阪市西区九条南2-7-23 TEL 06-6581-3300 FAX 06-6581-3310 Keyword:知的障害、ジョブコーチ、障害者職業生活相談員、障害者就業・生活支援センター POINT 1 就労支援機関との連携を機に1人から採用、総合評価方式の入札制度が雇用を後押し 2 専任支援者、本社のジョブコーチ、支援機関によるケース会議で課題解決 3 同業者の協会と支援機関の連携も進め、業界全体で障害者雇用を拡大 従業員170人で障害者雇用率20%超  ビルメンテナンス・造園業の「株式会社美交工業」(以下、「美交」)は、1980(昭和55)年に設立され、おもに大阪府や大阪市からの受託事業として、施設の清掃、公園の管理運営(指定管理)などを行ってきた。障害者雇用については、2003(平成15)年に知的障害者1人の雇用からスタートし、いまでは従業員170人のうち障害者が22人(身体障害2人、知的障害20人)、障害者雇用率は20・76%(2020年6月1日現在)にのぼる。  2005年に大阪府ハートフル企業大賞を受賞、その後も障害者雇用職場改善好事例優秀賞、ダイバーシティ経営企業100選などに選ばれ、2020(令和2)年度から始まった「障害者雇用に関する優良な中小事業主の認定制度(もにす認定制度)」では、大阪府初の事業主として認定された。  小規模ながらも障害者雇用にふみ出したきっかけは何だろうか。専務取締役として旗ふり役をになってきた福田(ふくだ)久美子(くみこ)さんは、「『エル・チャレンジ』(以下、「エルチャレ」)で運営する就労支援事業との連携と、大阪府の入札制度が総合評価方式に変わったことが大きい」とふり返る。  エルチャレの正式名称は「大阪知的障害者雇用促進建物サービス事業協同組合」(大阪府大阪市)。清掃や建物サービスに特化した障害者雇用を進めるため、1999年に「社会福祉法人大阪知的障害者育成会(現社会福祉法人大阪手をつなぐ育成会)」や就労支援機関などが集まり設立、現在は6団体で構成されている。  エルチャレは、大阪府などの自治体と連携し、公共施設の清掃業務を活用することで、職業的重度の知的障害者などの就労訓練に取り組んできた。一方で大阪府は、清掃業務の入札制度についても検討し、障害者雇用などを評価項目に盛り込んだ「総合評価一般競争入札制度」を2003年度に導入した。  美交も、同じころにエルチャレから障害者雇用の提案を受けた。福田さんは「エルチャレの利用者は、実際の現場で1〜2年間の訓練を経験しているという安心感があった」という。  美交はエルチャレとともに、本人の障害特性に応じて作業を組み合わせながら、雇用方法を検討。初めて採用した従業員は、公園の巡回清掃業務に加わった。4人で1チームとなり、軽自動車で移動しながら公園を清掃して回る内容だ。  「最初は熊手で落ち葉を掃くときに、一生懸命すぎて土まで掘っていましたね。支援に入ったエルチャレのジョブコーチが体で覚えるようにうながし、本人も加減がわかるようになって、だんだんやわらかい表情になっていったのを覚えています」 現場と本社の支援体制  その後もエルチャレから採用を続けてきたが、安定して雇用できた大きな要因として、福田さんは職場の支援体制づくりを挙げる。業務の特性上、あちこちに点在する清掃現場では、本社との温度差もできてしまいがちであるため専任支援者を置いたが、「現場任せにすると、支援者や責任者の負担が大きくなりかねないと思いました」と福田さん。そこで本社にも企業在籍型ジョブコーチの資格を持った管理職を置き、「はたらく応援室」を拠点にフォロー体制を整えた。  総務係長で、はたらく応援室の室長を務める佐藤(さとう)弘美(ひろみ)さんは、入社2年目の2006年に企業在籍型ジョブコーチの資格を取得。日ごろは障害者や支援者の相談、現場から上がってくる課題対応について定期的なケース会議を行い、必要に応じて佐藤さんたちも現場の応援に入る。会議は、専任支援者やエルチャレ、場合によっては障害者就業・生活支援センターの担当者も加わる。「なるべく多くの目で見守ることを心がけている」という福田さんは、「本人も相談先を自由に選べるよう、支援者、本社、エルチャレや障害者就業・生活支援センターの窓口を示しておき、ていねいな連携で、風通しのよい職場環境を目ざしてきました」と説明する。  さらに福田さんは「大阪府の総合評価入札制度にも育てられた」と語る。大阪府の総合評価は、雇用率はもちろん、支援者の置き方や生活支援、通勤方法といった雇用環境についても細かい質問項目が設けられている。その内容も障害者にかかわる法律に合わせて年々変わるそうだ。  「入札のたびに、支援方法についてのいろいろな提案を求められますが、逆に私たちも『こういう支援や配慮も必要なのだな』と勉強させてもらっています。新しい知識や考え方を得る意味でも素晴らしい制度だと思っています」 大阪府立大学で清掃業務  美交が2011年から業務を受託している大阪府立大学(以下、「府立大」)の中百舌鳥(なかもず)キャンパス(大阪府堺市)を見学させてもらった。ここで清掃作業に従事するのは約30人。そのうち知的障害のある5人の方を訪ねた。ちなみに5人は、美交の前に所属していた企業からの期間を含めると、府立大での就労が10年以上になり、2020年には、5人全員が大阪府知事表彰を受けた。  1日のスケジュールは、午前中はそれぞれキャンパス内のトイレなどを清掃して回り、午後は5人が一緒に屋外の除草回収作業などを行う。5人の担当場所や清掃手順などは、ラミネート加工されたA4サイズの表に、写真つきでわかりやすくまとめられている。午前9時〜正午までの3時間で約12カ所のトイレを1人で掃除するのはなかなかハードだ。  「5人とも頼もしい働きぶりなんですよ」と話すのは、専任支援者を務める谷本(たにもと)さゆりさん。8年前に入社後、すぐに一般社団法人大阪ビルメンテナンス協会主催の「障がい者雇用支援スタッフ養成講座」を受講し、おもに5人の支援を任されている。「一人ひとりの性格や特性をしっかり理解したうえでないと支援もうまくいかないと思い、自分なりに自信が持てるまで時間はけっこうかかりました」と明かす。いまは「ベテランさんでも手順などを忘れることがあるので、見回りながらこまめに確認しています」という。自転車のかごに掃除用具を載せ、自分の担当する作業をこなしながら、広いキャンパス内を縦横無尽に回っている。  谷本さんと同様に自転車で回る古殿(ふるどの)世津子(せつこ)さんは、もともとパート従業員のまとめ役だったが、数年前に障害者職業生活相談員の講習を受け、谷本さんの補助として障害のある従業員もフォローしているそうだ。  「けがをしないよう、その日の顔色や体調も見ながら声かけをしています。作業内容で注意したあとは、うまくいったことを確認して『やったらできるやん!』などと意識的にほめるようにしています。これが一番効果的ですね」  府立大とのやり取りを担当している辻(つじ)秀和(ひでかず)さんは「このコロナ禍で新たに除菌作業も増えましたが、スムーズに実践できています。現場の支援が行き届いているおかげで、府立大から『よくやってもらっています』という言葉ももらっています」と語る。辻さん自身も、月に何度か現場を訪れて5人の仕事の様子を見て回り、声かけを心がけている。同じ男性ということもあり、相談相手として頼られることも少なくないようだ。 働くベテラン従業員たち  では実際に5人はどんなふうに働いているのだろうか。1カ所ずつ見て回ったが、どの現場もそれぞれ1人で黙々と作業していた。  1階男子トイレで熱心に便器を磨いていた坪田(つぼた)剛(たけし)さん(48歳)は、「20年前にも駅の掃除をやっていたので、清掃は得意なほうです」といいつつも、最初はトイレ便器の黄ばみを取る作業に苦労したという。「わからないことは谷本さんたちに聞いて、クレームがこないようがんばっています。ここ3年は無欠勤です」と誇らしげに語ってくれた。  3階トイレで洗面台を洗っていた辻林(つじばやし)義清(よしきよ)さん(47歳)にも、仕事について聞いたところ「エルチャレの訓練に通っていて『府立大で働きませんか』と誘われました。自分は足が悪く、あまり遠くにはいけないので、ここがちょうどいいです」と笑顔で話してくれた。  別棟の5階トイレを担当していた伊藤(いとう)均(ひとし)さん(61歳)は、この仕事を始めて17年が経つ。清掃の仕事は「時間がかかりますから、たいへんです。洗面台を一生懸命やります。65歳まで働きます」と語ってくれた。伊藤さんは曜日で担当場所が変わるため、更衣室ロッカーのドア裏に大きな紙の注意書きが貼ってある。  グラウンドそばの部室棟にあるトイレで、モップを使って清掃していた生田(いくた)義信(よしのぶ)さん(61歳)は、「仕事は慣れました。むずかしいこともありません」と話す。生田さんの用具類には、すべて黄色いビニールテープが貼られている。生田さんは、用具に書かれた自分の名前を判別することが困難なため、いつの間にか、自分で貼っていたそうだ。  キャンパス敷地内で外構の落ち葉を集めていたのは兼田(かねだ)茂樹(しげき)さん(47歳)。10年を超える仕事について「楽しいです」と笑顔で答えてくれた。実は兼田さんは視野狭窄(しやきょうさく)などの症状がある進行性の目の病気がある。  少し前から兼田さんは、屋内の廊下などで支援員が「ここだよ」と指さしてもわからなかったり、ごみを見落としたりすることが目立つようになっていた。メガネの度数を上げてもらっても状況は変わらなかったため、ケース会議を経て、専門の眼科医に診てもらったところ視野狭窄が判明した。兼田さん本人も自分の目の状態をうまく説明できなかったようだった。谷本さんたちは、眼科医に「トイレットペーパーの芯の穴から見ているような感じです」と説明され初めて納得できたという。特に暗い場所が見えにくいことから、屋外担当に変わってからも、顔を作業場所に正対させてから指示するなどの工夫をしている。さらに障害者就業・生活支援センターにも相談し、この先どういう仕事ならできるのか、あらためて適性調査をしているところだ。福田さんが説明する。  「できるかぎり本人のためになる状態にしたい。それは必ずしも当社で働き続けるだけでもないと思います。作業所に戻ることも視野に入れて、エルチャレや支援機関と一緒に、どういう方法なら幸せに働き続けられるかを考えていきます」 支援は生活の場面でも  最近は、従業員の親が高齢となり、入院したり亡くなったりして生活環境が急に変わってしまうケースも相次いでいる。福田さんは、就業と生活の相互の関係性をみながらやっていくために支援機関との連携は不可欠だと話す。  「障害者一人ひとりの尊厳を守るためにも、外部の方にも積極的に介入してもらい、そのなかでどうしていくかを一緒に考え、本人が最善の方法を選べるように整えることが大事だと思います」  具体的な対応ケースも紹介してもらった。 ケース1 親の入院を機にグループホームへ  ある従業員の父親が倒れて入院したとき、辻さんが入院先に出向いて、本人をグループホームに転居してもらう許可を取った。実はそれまで父親は、唯一の同居家族だった本人と離れることを承諾していなかったという。ほかにも、家族がグループホームをすすめても本人が嫌がるケースがある。「会社側としては、できるだけ生活を見守ってもらえる拠点があってほしいと思うのですが、本人の希望も尊重しながら解決策を模索しています」と辻さんは話す。 ケース2 キャッチセールスでトラブル  グループホームで暮らす従業員が、キャッチセールスのトラブルにあった。あるとき金融機関から会社に、従業員宛で郵便物が届き、おかしいと感じた支援員らが本人と一緒に開封したところ、80万円のローンが組まれていた。すぐにエルチャレとグループホームへ連絡し、弁護士に相談してクーリングオフできた。「日ごろから外部と密に連携しているからこそ、スピーディーに対応できました」と福田さんは教えてくれた。 職場内の活性化、さらなる取組み  美交では、障害のある従業員の課題やトラブルの対応を重ねるうちに、職場全体に、予想以上の大きな効果をもたらしたという。福田さんが話す。  「課題解決に向けた意見交換が活発になり、社内のコミュニケーションも飛躍的に活性化したのです。一体感や達成感とともに、職場内はだれもが働きやすい労働環境になりました。結果として生産性も大きく高まりました」  障害者雇用の経験を機に、2006年からはホームレス雇用も始めた。ホームレス支援機関と組み、住居がなくても雇用することとした代わりに、支援機関に登録することを条件にした。福田さんは「足にコケが生えた人をお風呂に入れることからドヤ街の調査まで、想像を超えるケースもたくさんありましたが、さらに社内の課題解決能力も上がりました」と手応えを語る。一方でホームレスから自立する人が増え、行政対応もあって公園のテントは激減したそうだ。美交はいまも支援機関とともに就労への足がかりの場を提供している。 同業者の協会で仲間を増やす  福田さんは現在「一般社団法人大阪ビルメンテナンス協会」の理事も務め、エルチャレとの協働事業を手がけている。美交は協会に入るほどの規模ではなかったが、障害者雇用を始めたのを機に入会したそうだ。  というのも大阪府が入札で総合評価方式を導入したとき、業界内では反発も少なくなかった。福田さんは同協会で「障害者雇用をみんなで進めたい」と訴えたという。  「他社も障害者雇用に取り組めば入札競争は激しくなります。でも一緒に実践する企業が増えなければ、総合評価方式が効果なしと見なされ、なくなってしまうかもしれません。仲間づくりが美交を守ることにもなると考えました」  協会はエルチャレと連携し、地方アビリンピック大阪大会の運営協力もしている。もちろん美交の従業員もアビリンピックに挑戦してきた。また、協会では独自に前述の「障がい者雇用支援スタッフ養成講座」を考案。専任支援者の育成目的で3日間におよぶ講座を年1回実施し、14年で150人以上が受講した。同講座の受講は、大阪府の入札制度の、総合評価の評価基準項目にも入っている。さらに、障害者の余暇支援活動として、地元の天神祭の清掃ボランティア活動を展開するほか、神輿もかつぐようになった。 無理なく社会に役立つ  「大手企業のような社会貢献という枠ではなく、事業の実践を通して無理なく社会に役立っていけるとわかりました」という福田さんは、今後も、会社の成長を目ざしながら、社会に役立つことを実践し続けたいと語る。  実際に美交は、障害者雇用やホームレス雇用でつちかった経験を活用し、いまでは公園管理者として市民サービス向上のための取組みも手がける。地域の活性化を目的とした無料レンタサイクル事業や園内バリアフリー踏査、環境啓発イベント、子連れ向けの施設運営など内容も多彩だ。  「私たちは公共の仕事が多いので、公共サービスにはこだわりがあります。いかにして市民への社会的サービスや社会的な賑わいを創るのかを追求していきたいのです。ビルメンテナンスというサービス業で障害者が戦力になり、会社の中心となって働けるような職場を、これからもつくり続けていくつもりです」  さまざまなケースを積み上げてきた美交は、ほかの企業にも事例やアイデアなどを積極的に紹介している。「障害者雇用は、工夫次第でどの会社でもできると思っています。会社のトップや担当者にも『これならできるかな』と思ってもらえるよう後押ししていきたい」と力強く語る福田さんは、全国各地の企業や団体に呼ばれて講演なども行っている。 写真のキャプション 美交工業で障害者を支援する(左から)古殿世津子さん、谷本さゆりさん、佐藤弘美さん、福田久美子さん、辻秀和さん 社会参加への努力が模範になる者として大阪府立大学で働く5人が令和2年度「障がい者週間知事表彰」を受けた(写真提供:株式会社美交工業) 作業スケジュールには、作業内容が写真つきで記載されている 大阪府立大学中百舌鳥キャンパスでの除草作業 辻林義清さん 水滴が残らないようにタオルで拭きとる 坪田剛さん 汚れを見逃さないよう注意しながらスポンジで便器を磨いていく 伊藤均さん 拭き取り用のタオルで便座の裏側もしっかりと清掃する 生田義信さん グラウンドの土が床に残らないようにモップで拭いていく モップの房糸を束ねるゲタ部に、目印となるビニールテープが巻かれている 兼田茂樹さん 側溝にたまった落ち葉を拾い集める 2007年に開催された障がい者雇用支援スタッフ養成講座の様子(写真提供:株式会社美交工業) 2015年の地方アビリンピック大阪大会にて、銀賞の賞状を掲げる美交工業の選手(写真提供:株式会社美交工業) 2019年の天神祭では、清掃ボランティアや神輿巡行に参加(写真提供:株式会社美交工業) 【P10-11】 クローズアップ 職場定着に役立つ「ピアサポート」とは 第1回 〜当事者ならではの経験に基づく支援〜  近年、支援の現場において、「ピアサポート」という言葉をよく耳にするようになりました。当事者ならではの共感をベースとした支援方法である「ピアサポート」の有用性と今後の可能性について、実際にピアサポーターが活躍する事業所などの取組み事例とともに、2回の連載でご紹介します。 【取材先プロフィール】 NPO法人アイ・キャン (福島県郡山市) ◆事業概要  あさかホスピタルグループの障害福祉部門として、共同生活援助事業のほか、相談支援事業所、多機能型支援事業所(就労移行支援、就労継続支援A型・B型事業所)、地域活動支援センターI型の運営を通じ、精神障害者の地域生活を支援。  地域と積極的に交流するパン工房の運営も行う。 はじめに 〜ピアサポートとは〜  「ピアサポート」とは、一般に、「同じような立場の人によるサポート」といった意味で用いられる言葉です。「ピア」は英語のpeerという言葉をさし、「同じような立場や境遇、経験をともにする人たち」を意味します。  ピアサポートという言葉は、幅広い領域で使用されていますが、障害領域における「ピアサポート」に関しては、「障害のある人生に直面し、同じ立場や課題を経験してきたことを活かして仲間として支えること」という定義(※1)がなされています。 障害のある人のピアサポート活動  「精神障害」、「身体障害」、「難病」といった障害で、すでにさまざまな「ピアサポート」に関する取組みが見られます。 ■精神障害におけるピアサポート  「生活支援」、「病院訪問」、「1対1でのピアカウンセリング」などに、当事者としての経験を持つ人が、ピアサポーターとして従事することが増えています。2010(平成22)年、精神障害者地域移行・地域定着支援事業実施要綱において「ピアサポートの活用」が明記されたことを機に、全国各地でピアサポーターの養成研修が行われています。 ■身体障害におけるピアサポート  身体障害者自身による障害福祉サービス支援を積極的に行っている「自立生活センター」が全国に広まっており、自らも自立生活を営むピアサポーターによる「社会生活力を高めるための支援」や「ピアカウンセリング」などが提供されています。また、各地の自立生活センターを中心に、ピアサポーター養成のための研修プログラムが実施されています。 ■難病におけるピアサポート  患者会活動のなかでの相談や交流の場で、多くはボランティアで「当事者相談」、「ピアカウンセリング」などが行われています。また、全国各地の難病相談支援センターなどで、ピアサポーターの養成研修が開催されています。  自身も障害を抱えながら活動するピアサポーターは、当事者やその周囲の方の希望となり、よき理解者となりえます。今回は、福島県郡山(こおりやま)市で、福祉施設などの事業を行う「NPO法人アイ・キャン」(以下、「アイ・キャン」)の取組み事例とともに、精神障害におけるピアサポート活動の現状と課題について紹介します。 事例紹介 ピアサポーターがリードするピアミーティング  福島県では、2011年度から「精神障がい者ピアサポーター」養成の取組みを進めており、現在までに約130人の方がピアサポーターの養成研修を修了しています。アイ・キャンでも、県の委託によりピアサポーターの養成を行い、同時に、ピアサポーターを活用した支援活動にも積極的に取り組んできました。  現在、アイ・キャンでは、養成研修を修了したピアサポーターを中心に企画・運営されるピアミーティングを、月1回のペースで行っています。ピアミーティングでは、精神障害のある方が持つ悩みや生きづらさをテーマに話し合いを進めます。ピアサポーターは、自身も体験談を語りながら話し合いをリードし、参加者とともに会を創り上げていきます。  「互いの悩みに耳を傾け、向き合っていると、なんとかしてあげたいと思う気持ちがひしひしと伝わってきて、当事者同士の想いの強さを感じます。心のうちを話してくれた人が、ほっとした表情を見せてくれたときには、本当によかったなと思います」と、ピアサポーターとして会の運営にかかわる上遠野(かとうの)友和(ともかず)さんは話します。 ピアサポーターの助言に助けられた支援現場  現在、個人でピアサポートの活動に取り組む上遠野さんは、以前アイ・キャンのスタッフとして約6年半、勤務していました。当時は、ピアミーティングを開催したり、研修会や会議に参加するピアサポーター活動のほか、地域活動支援センターの補助員業務や地域生活を送っている方への訪問や面談などをほかの職員とともに行っていました。また、同じグループの「社会医療法人あさかホスピタル」の入院患者の退院相談を受けるなど、地域移行・地域定着支援業務にも従事。いずれの業務も、自身の経験に基づくピアサポーターならではの視点と専門性を活かしながら活動をしていました。  アイ・キャンの支援員の吉田(よしだ)真也(しんや)さんは、上遠野さんの仕事ぶりについて、「患者さんに近い立場で、その方の苦悩や想いをくみ取ることは、私たち一般職員にはむずかしいことです。経験者として、その事案をどのように考えるのか、上遠野さんの言葉を聴くことで、助けられることがたくさんありました」と語ります。 リカバリーの経験が、重要な強みに  ピアサポーターとして活動するためには、リカバリー(※2)の経験も大事なポイントです。リカバリーストーリーを発表するような啓発や当事者活動などで社会に働きかける形で活躍しているピアサポーターもいます。  現在、上遠野さんとともに、アイ・キャンのピアミーティング運営の中心となって活動している阿野(あの)美和(みわ)さんは、7年前にピアサポーター養成研修を修了。その後、医科大学の授業や企業の従業員対象の勉強会などで、病気とのつきあい方や地域での生活に関する体験談の発表などの活動も行ってきました。阿野さんは、「今後は、もっと開催日時を増やして、より多くの方に参加してもらうのを楽しみにしています」と話してくれました。 ピアサポーターの雇用の現状と課題  全国各地の支援機関などでも、ピアサポーターに注目して養成に取り組む動きが見られます。その一方で、一般企業においてはピアサポーターの強みをどのように活かしたらよいのかわからないという不安などから、ピアサポーターの雇用や活用については、これからという現状もあります。  吉田さんは、これまでの活動をふり返りながらピアサポーターの可能性についてこう語ってくれました。  「私たちの事業所では、ピアサポーターの雇用を通じて、その有効性を実感しています。しかし、今後、さらにピアサポーターの活躍の場を広げるには、一般企業の力を借りていく必要があると考えます。そのためにも、ピアサポーター同士の交流やピアサポーターの普及や啓発活動に努め、企業のみなさんと一緒に、ピアサポーターが活躍しやすい体制づくりに努めていきたいと思います」  職場でも、ピアサポート的な位置づけの先輩社員や同僚の存在が、障害者がより安心して働くことができる環境づくりにつながるかもしれません。障害者の「職場定着」のためのピアサポートの活用に期待が高まっています。次回は、ピアサポート的な活動を職場でも取り入れている事例として、「株式会社ニッセイ・ニュークリエーション」の取組みを紹介します。 ※1 岩崎香・秋山剛・山口創生・宮本有紀・藤井千代・後藤時子:障害者ピアサポートの専門性を高めるための研修の構築.日本精神科病院協会雑誌、36巻10号、p20-25(2017) ※2 リカバリー:ここでは、「人々が生活や仕事、学ぶことなど、地域社会に参加できるようになる過程」をさす 写真のキャプション ピアミーティングの様子 【P12-14】 JEED インフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 令和3年度 障害者雇用納付金制度に基づく申告申請が令和3年4月1日から始まります @障害者雇用納付金の申告・納付、障害者雇用調整金および在宅就業障害者特例調整金の申請期限は令和3年5月17日です。 A報奨金および在宅就業障害者特例報奨金の申請期限は、令和3年8月2日です。 B特例給付金の申請期限は、上記@の対象事業主の場合、令和3年5月17日です。  上記Aの対象事業主および特例給付金のみを申請する事業主の場合、令和3年8月2日です。 ※障害者雇用調整金、報奨金や特例給付金などは、申請期限を過ぎた申請に対しては支給ができせん。十分にお気をつけください。 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 納付金部  障害者を雇用するには、作業施設や設備の改善、職場環境の整備、特別の雇用管理などが必要とされることも多く、経済的負担がともなうこともあるため、雇用義務を履行している事業主と履行していない事業主とではその経済的負担にアンバランスが生じることになります。  「障害者雇用納付金制度」とは、身体障害者、知的障害者および精神障害者(以下、「対象障害者」)を雇用することは事業主が共同して果たしていくべき責任であるという社会連帯責任の理念に立って、事業主間の障害者雇用にともなう経済的負担の調整を図るとともに、障害者を雇用する事業主に対して助成、援助を行うことにより障害者の雇用の促進と職業の安定を図るため、「障害者の雇用の促進等に関する法律」(以下、「法律」)に基づき設けられた制度です。 令和3年度申告申請からの主な変更点 1.障害者法定雇用率の引上げ  令和3年3月1日から、障害者法定雇用率が2・2%から2・3%へ引上げになりました。 2.200人以下の事業主に係る障害者雇用納付金減額特例の終了  常用雇用労働者数の総数が100人を超え200人以下の事業主に係る障害者雇用納付金の減額特例は令和2年3月31日をもって終了しました。  令和3年度に申告いただく障害者雇用納付金については、すべての事業主に対して月額5万円の調整基礎額が適用されますので、ご注意ください。 3.法人番号の記入または所得税確定申告書の写し等の提出  令和3年度申告申請から、法人である事業主にあっては申告申請書に法人番号をご記入いただきます。  また、個人事業主にあっては、所得税確定申告書(白色申告書又は青色申告書)の写しまたは開業届の写しのご提出をお願いします。 4.代表者印の取扱い  令和3年1月以降、申告申請書等への代表者印の押印は不要となりました。 5.特例給付金の新設  特に短い労働時間であれば就労可能な障害者の雇用機会を確保するための特例給付金が新設されました。  概要については、当機構ホームページ https://www.jeed.go.jp/disability/tokureikyuufu.html をご確認ください。 Q すべての事業主が障害者雇用納付金の申告・納付を行わなければならないのですか? A 障害者雇用納付金の申告が必要となるのは、常時雇用している労働者数が100人を超える事業主となります。  常時雇用している労働者数が100人を超える事業主は、年度ごとに翌年度の4月1日から5月15日(令和3年度は5月17 日)までの間に本社の所在する各都道府県にある当機構申告申請窓口(注1)に障害者雇用納付金申告書を提出しなければなりません。  なお、この申告書は、年度ごとに、その雇用する対象障害者の人数が、基準となる障害者雇用率(令和3年2月28日までは2・2%。同年3月1日からは2・3%。以下同じ)を達成している事業主も提出することとされています。  このうち、障害者雇用納付金の納付が必要となるのは、基準となる障害者雇用率を下回っている事業主となります。  また、この場合の障害者雇用納付金の額は、その基準となる障害者雇用率に不足する人数に月額5万円を乗じた額となります。 Q 障害者雇用納付金の納付期限はいつですか? A 障害者雇用納付金の納付期限は、申告書の提出期限と同様に5月15日(令和3年度は5月17日)となります。  なお、納付すべき障害者雇用納付金の額が100万円以上となる場合は、3期に分けて延納することができ、各期の納付期限はそれぞれ次の通りです。 延納第1期分の納付期限:5月17日 延納第2期分の納付期限:8月2日 延納第3期分の納付期限:11月30日  また、障害者雇用納付金の納付については「ペイジー」をご利用いただけます。詳細については、裏表紙をご確認ください。 Q 障害者雇用調整金および在宅就業障害者特例調整金はどのような支給金ですか? A 【障害者雇用調整金の支給】  障害者雇用納付金の申告が必要となる事業主のうち、年度ごとに、その雇用する対象障害者の人数が基準となる障害者雇用率を上回っている事業主に対して支給されます。 〈支給額〉「基準となる障害者雇用率を上回って対象障害者を雇用している人数」に「月額2万7000円」を乗じた額となります。 〈申請期間〉年度ごとに翌年度の4月1日から5月15日(令和3年度は5月17日)までです。 〈支給時期〉支給決定された年度の10月から12月末までに指定の預金口座に振り込みます。 【在宅就業障害者特例調整金の支給】  障害者雇用納付金申告または障害者雇用調整金支給申請事業主のうち、年度ごとに、在宅就業障害者か在宅就業支援団体(在宅就業障害者に対する支援を行う団体として厚生労働大臣に申請し、登録を受けた団体)に仕事を発注した事業主に支給されます。  なお、基準となる障害者雇用率が未達成の場合は、在宅就業障害者特例調整金の額に応じて障害者雇用納付金が減額されます。 〈支給額〉「事業主が当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額35万円で除して得た数」に「調整額2万1000円」を乗じた額となります。なお、各月において雇用している障害者数の年度間合計数に単位調整額2万1000円を乗じた額が限度額となります。 〈申請期間〉年度ごとに翌年度の4月1日から5月15日(令和3年度は5月17日)までです。 〈支給時期〉支給決定された年度の10月から12月末までに指定の預金口座に振り込みます。 Q 報奨金および在宅就業障害者特例報奨金はどのような支給金ですか? A 【報奨金の支給】  常時雇用している労働者数が100人以下の事業主のうち、一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%相当数の年度間合計数または72人のいずれか多い数)を上回って対象障害者を雇用している事業主に支給されます。 〈支給額〉「一定数を上回って対象障害者を雇用している人数」に「月額2万1000円」を乗じた額となります。 〈申請期間〉年度ごとに翌年度の4月1日から7月31日(令和3年度は8月2日)までです。 〈支給時期〉支給決定された年度の10月から12月末までに指定の預金口座に振り込みます。  【在宅就業障害者特例報奨金の支給】  報奨金申請対象事業主のうち、年度ごとに、在宅就業障害者か在宅就業支援団体に仕事を発注した事業主に支給されます。 〈支給額〉「事業主が当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額35万円で除して得た数」に「報奨額1万7000円」を乗じた額となります。なお、各月において雇用している障害者数の年度間合計数に単位報奨額1万7000円を乗じた額が限度額となります。 〈申請期間〉年度ごとに翌年度の4月1日から7月31日(令和3年度は8月2日)までです。 〈支給時期〉支給決定された年度の10月から12月末までに指定の預金口座に振り込みます。 Q 特例給付金はどのような支給金ですか? A 【特例給付金の支給】  次のいずれも満たす事業主が、支給の対象となります。 @週所定労働時間が10時間以上20時間未満の労働者である障害者を雇用している事業主 A週所定労働時間が20時間以上の労働者である障害者を雇用している事業主 B以下のいずれにも該当しない事業主 ・納付金の未納付がある事業主 ・申請書に記載のあった障害者に対する適切な雇用管理の措置を欠いたことによる労働関係法令の違反により送検処分をされた事業主  支給額等の詳細については、機構ホームページの「特例給付金のご案内」(https://www.jeed.go.jp/disability/tokureikyuufu.html)をご確認ください。 Q 調整金・報奨金・特例給付金申請時には添付書類が必要と聞きましたが、どのような書類が必要ですか? A 雇用する労働者数が300人以下で調整金、報奨金や特例給付金を申請する事業主は、雇用する障害者の障害の種類・程度を明らかにする書類と、その労働者の労働時間の状況を明らかにする書類を添付する必要があります。  具体的には、障害の種類・程度を明らかにする書類は障害者手帳などの写し、労働時間の状況を明らかにする書類は源泉徴収票(マイナンバーの印字のないもの)などの写しです。  なお、障害の種類・程度を明らかにする書類として、平成26年度以降の申請時に提出された雇用障害者について、障害の種類・程度の変更がなく、申請対象期間内に障害者手帳などの有効期限がきていない場合は、改めての提出は不要です。 Q 申告、申請関係の書類作成や手続きはパソコンでできますか? A 障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金、報奨金、在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金および特例給付金の申請にかかる申告申請書と各種届は、当機構ホームページ(https://www.jeed.go.jp/)の「障害者の雇用支援(障害者雇用納付金)」のコーナーに掲載していますので、ダウンロードしてパソコンで作成することができます。 ●「申告申請書作成支援シート(マクロ機能つき)」を活用していただくと、画面の案内に従って月別の常用雇用労働者数や障害者の雇用状況などを入力することにより、納付金額などが自動計算されるほか、エラーチェック機能が組み込まれており、比較的簡易に申告申請書を作成できます。 ●「申告申請書作成支援シート(マクロ機能つき)」により作成した申告申請データを、当機構ホームページを通じて送信し、申告申請の手続きを行うことができます(電子申告申請)。  なお、電子申告申請の場合も、常時雇用する労働者数が300人以下の調整金・報奨金等申請事業主は、添付書類(障害者手帳や源泉徴収票などの写し)が必要となります。ただし、添付書類は電子送信することができませんので、当機構ホームページより所定の添付書類送付状をダウンロードして、必要事項を記載、添付書類を添付したうえで、各都道府県にある当機構申告申請窓口まで送付してください。  また、「電子申告申請」を利用するためには、電子申告申請用IDとパスワードが必要となるほか、ご注意いただく点がありますので、詳しくは、各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)にご照会ください。 障害者雇用納付金制度の概要 障害者雇用納付金の徴収 不足する障害者1人当たり月額5万円 ★常時雇用している労働者数が100人を超える事業主は、 ●毎年度、納付金の申告が必要 ●法定雇用率を達成している場合も申告が必要 ●法定雇用障害者数を下回っている場合は、申告とともに納付金の納付が必要 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者雇用調整金の支給 超過1人当たり月額2万7000円 ●常時雇用している労働者数が100人を超えており、雇用障害者数が法定雇用障害者数を超えている事業主に対し、申請に基づき支給 報奨金の支給 超過1人当たり月額2万1000円 ●常時雇用している労働者数が100人以下で、支給要件として定められている数を超えて障害者を雇用している事業主に対し、申請に基づき支給 在宅就業障害者特例調整金の支給 ●在宅就業障害者に仕事を発注した納付金申告事業主に対し、支払った業務の対価に応じた額を、申請に基づき支給 在宅就業障害者特例報奨金の支給 ●在宅就業障害者に仕事を発注した報奨金申請対象事業主に対し、支払った業務の対価に応じた額を、申請に基づき支給 特例給付金の支給 ●週20時間未満の障害者を雇用する事業主に対し、支給上限人数までの額を、申請に基づき支給 ※詳しくは当機構ホームページをご覧ください 各種助成金の支給 ●障害者を雇い入れたり、雇用を継続するために職場環境の整備などを行う事業主に対し、申請に基づき費用の一部を助成 法定雇用障害者数を下回っている事業主 雇用している身体、知的、精神障害者の数 納付金 法定雇用障害者数 法定雇用障害者数を超えている事業主 調整金 常時雇用している労働者数が100人を超える事業主 (注)以下の当機構ホームページにおいて、障害者雇用納付金制度に基づく申告申請のご案内(動画)を掲載中ですので、ご活用ください。https://www.jeed.go.jp/disability/levy_grant_system_about_procedure.html 本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています。 【P15-18】 グラビア 「よき見本になりたい」 〜卒業生の活躍〜 日興みらん株式会社(東京都) 持永知毅さん 取材先データ 日興みらん株式会社 〒103-0016 東京都中央区日本橋小網町9-2 小網町日興ビル4F Tel 03-5649-2930 Fax 03-5649-2940 写真・文:官野 貴  「日興みらん株式会社」は、「SMBC日興証券株式会社」(東京都千代田区)の特例子会社としてグループ各社の事務作業を受託し、障がいのある社員が業務に就いている。日本橋小網町の本社では知的障がいのある社員19人が働いており、持永(もちなが)知毅(ともき)さん(19歳)もその一人だ。  2020(令和2)年4月に入社した持永さんは、東京都立港特別支援学校(※)の在学中に担任や進路指導の先生のすすめもあり、2〜3年生のときに合わせて3回、同社で実習を行っている。この実習を通して、日興みらんで働きたいという気持ちが大きくなり進路を定めた。入社に向けた面接では「テープ貼りが得意です。一生懸命がんばりたいです」と思いを述べ、念願かなって内定をもらった際は「とてもうれしかった」という。  日興みらんでは、障がいのある社員それぞれに合わせて作業工程や治具(じぐ)などに工夫をこらしている。返信用封筒へのテープ貼りでは、失敗例などが記載された見本と見比べることで、自らズレやゆがみなどに気づけるようにしている。テープの長さを揃えるのが苦手な社員は、治具に合わせてテープをカットしてから封筒に貼りつけるなど、工程を工夫している。また、名刺などの発送作業では、封入作業と封かん作業を別の社員が行うようにし、必ず複数人が内容物の数などを確認するダブルチェックをすることでミスを防いでいる。  持永さんは「返信用封筒のテープ貼りでは、受け取る人の気持ちになってテープをきれいに貼ることを心がけています」と話す。返信用封筒は、親会社であるSMBC日興証券の顧客が直接目にするため、ていねいに仕事をすることが求められる。この春、入社2年目となる持永さんは「たくさん仕事を覚えて、後輩のよき見本となれるよう、日興みらんで長く働いていきたいです」と抱負を語ってくれた。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、日興みらん株式会社様の要望により「障がい」としています ※今号20ページ「編集委員が行く」で紹介しています 写真のキャプション 名刺の封入作業では、名刺と注文書に記載されている部署や氏名を確認し、各支店行きの袋に入れていく 確認が済んでいないことが一目でわかるよう、袋のチャックを開けておく 100を超える支店のなかには、よく似た名称もあるため注意が必要だ 実寸大の見本と見比べながら両面テープがきれいに貼れているか確認する 封筒に貼りつけたテープを直角にカット。作業に集中する持永さん 治具に合わせてテープをカットすることで、長さを揃えることが容易になった クリアフォルダの一部を切り取って、A4用紙三つ折りの治具とする工夫も 切り出したメモ用紙の角は揃っており、見た目も使い心地もよい メモ用紙の裁断作業では、A4用紙から4面を切り出すため位置調整が重要だ 社員それぞれが熱心に業務を行っている 整理整頓が仕事のミスを減らすことにつながる 各作業を終えるたびに日誌を入力することで反省点などに気づくことができる ランチタイムの一コマ。同期入社の高島(たかしま)尚義(ひさよし)さん(左)と一緒に食べることが多いという 【P19】 エッセイ【第2回】 障害福祉サービスの現場から 社会保険労務士・行政書士 高橋 悠 高橋 悠(たかはし ゆたか)  行政書士事務所にて約8年間、介護・障害福祉サービス事業所の立上げ・運営支援にたずさわった後、2016(平成28)年10月に独立開業。顧問先のうち7割以上が介護・障害福祉サービス事業所である。また、「合同会社サニー・プレイス」を設立し、小規模保育事業所B型および企業主導型保育所を経営している。  前回は、障害者の就労の場を提供している「就労継続支援事業所」についてお話ししました。各事業所においては、自らの事業所を選択してもらえるよう、賃金(工賃)向上のための多種多様な施策を実施しています。  今回からは、こうした事業所の取組みをいくつかご紹介していきます。 インターネットの活用による生産活動の機会の創出  就労継続支援事業所の提供する「就労継続支援サービス」は、2006(平成18)年4月の障害者自立支援法(現:障害者の日常生活及び社会生活を総合的に支援するための法律)の施行によって誕生しましたが、その前からも「作業所」または「授産施設」という名で障害者に就労・生産活動の機会を提供している事業所は存在していました。  しかし、その作業内容はおもに、ほかの企業から受注しての軽作業(例:割り箸の袋詰め、ボールペン組立てなど)がほとんどでした。受注額が低いため工賃収入を高くすることがむずかしく、また作業も単調であることから、利用者のモチベーションの維持にも苦労していました。かといって、大規模な作業の受注や納期の厳しい作業を受注するためには、利用者に高い技術やチームプレーの能力が必要であり、多くの事業所はいまもこのジレンマに苦しんでいます。  しかし近年、インターネットの普及にともなって、事業所で利用者にパソコンなどを支給したうえで、従来の生産活動とは一線を画したことを実施する事業所も増えてきました。  例としては次の通りです。 @インターネットオークションへの出品 A企業ホームページに掲載するブログ記事の作成代行 B中古パソコンの引取り、およびデータ消去作業の請負 C自作の生産物(パソコンゲーム、CD、LINEスタンプなど)の販売  身体障害者、精神障害者のなかには、肢体不自由や長時間(または毎日)働けないという理由で一般企業に勤務することが困難なため、やむなく就労継続支援事業所で働いているというケースも多くあります。その一方で「知識労働における能力」は健常者とほぼ変わらない、またはそれ以上(例えば、エンジニアなどのIT職に就いていて、後天的に身体障害や精神障害となった方など)の方も多いため、こうした利用者が多く通所する事業所においては、上記のようなインターネットを介したビジネスに積極的に乗り出し、生産活動の機会とすることが可能となります。  インターネットに慣れ親しんだ世代であれば特別な技術の習得も必要なく、システムの導入や手順さえ覚えてしまえば一人でも作業を完結することができるというのも、大きなメリットです。  就労継続支援事業においては「福祉」という意識が強く、また積極的にITを導入している事業所も少ないため、どうしてもこうしたインターネットビジネスの展開にふみ切るのは抵抗があります。  しかし、従来からの状況をなんとか打破しようと、既存の作業内容から離れ、まったく新しい領域にふみ出していくことで、工賃向上を実現させている事業所も、近年では増加傾向にあります。 【P20-25】 編集委員が行く 知的ハンディキャップのある方の就労に向けた特別支援学校の取組み 東京都立港特別支援学校(東京都)、千葉県立特別支援学校 市川大野高等学園(千葉県) サントリービジネスシステム株式会社 課長 平岡典子 取材先データ 東京都立港特別支援学校 〒108-0075 東京都港区港南3-9-45 TEL 03-3471-9191 FAX 03-3471-9195 千葉県立特別支援学校 市川大野高等学園 〒272-0805 千葉県市川市大野町4-2274 TEL 047-303-8011 FAX 047-303-8191 編集委員から  知的障がいのある生徒と社会をつなぐ特別支援学校の取組みを取材した。今回のテーマは、ほかの特別支援学校で参考にしていただいたり、知的障がいのある方の新たな雇用につながればと思い、企画した。 写真:官野 貴 Keyword:特別支援学校、知的障がい、進路指導、職場実習、保護者との連携、専門教科、デュアルシステム POINT 1 「働くために必要な力」を育む、さまざまな取組み 2 港特別支援学校の保護者、企業と連携した進路指導や進路学習 3 市川大野高等学園の地域に密着したデュアルシステム はじめに 〜知的障がい者の雇用状況〜  知的障がい者が法定雇用率の算定基礎に加えられ約20年。年々、民間企業での雇用が拡大し、現在では約12万3千人の方が企業で働いている(※1)。  2019(平成31)年3月に特別支援学校高等部を卒業した生徒約2万2千人のうち、約32%が企業就労しており、この割合も年々増えてきている(※2)。その背景には、就労に向けた特別支援学校の取組みが実を結んでいるといえる。  企業で雇用されている知的障がい者は、事務補助や接客、清掃など幅広い分野で個々の特性を活かした活躍をしている。私の所属するサントリービジネスシステム株式会社(※3)においても、2015年より知的障がいのある方を採用し、現在では東京・大阪の事業所を合わせて20人が活躍している。実際の雇用を通して、知的障がいのある方がさまざまな経験をしながら成長する姿を目の当たりにし、可能性の拡がりを実感している。採用にあたっては、特別支援学校より毎年新入社員を迎え入れており、今後も新規採用を継続していきたいと考えている。  今回は、「東京都立港特別支援学校」(以下、「港特別支援学校」)と、「千葉県立特別支援学校市川大野高等学園」(以下、「市川大野高等学園」)の二校を訪問し、各校での生徒への企業就労に向けた取組みについてうかがった。 港特別支援学校のこだわり  港特別支援学校の進路指導主幹教諭である安田(やすだ)賢(さとし)先生に、お話をうかがった。  港特別支援学校では、「MINATOだからできること皆と一緒にできること」をスローガンに、よりよい社会づくりを目ざし、社会に開かれた教育を実践している。  都内にはすでに、卒業後の企業就労100%を目ざす就業技術科≠設置している特別支援学校がいくつかある。港特別支援学校でも新たなコンセプトの学校づくりを目ざし、2016年に普通科に加え、1学年20人という小規模体制で、全員が企業就労を目ざすためにきめ細やかな活動を展開する「職能開発科」を設置した。今回はおもに、この職能開発科での取組みについて紹介したい。  港特別支援学校での特徴的な活動は大きく二つある。一つめは、「自己選択・自己決定を目ざす進路指導と保護者との連携」、二つめは「企業とともに歩むパートナーシップ実習」だ。 自己選択・自己決定を目ざす進路指導と保護者との連携  港特別支援学校では、高校1年生の段階から6業種の職場実習(インターン)を経験する。生徒はさまざまな職種や職場があることを知り、実際に働く経験を通して、自分自身を理解する≠アとに重点を置く(図1)。1年生での実習は教員引率のもと、10人単位で物流、事務、飲食厨房、製造、小売販売、サービスといった6業種の職場すべてを体験する。この取組みは他校に比べて格段に多い。  2年生では、1年生での経験をもとに自分の適性を見つける≠アとの理想と現実に向き合い、志向を絞っていく。  そして3年生では、自分の興味・強みを活かし、自分の進路を決定する≠ニいう、三つの段階を大切にしている。  実習後は、企業担当者や同行した教員からのフィードバックを基に、生徒自身でのふり返りをていねいに行う。多くの企業での実習を経験しながら、「実習→ふり返り」のサイクルを回すことで、「何ができるのか」、「何をやりたいのか」、「何が向いているのか」を自分で選択できるようになるという。  生徒の進路決定は、学校任せではなく保護者にも一緒に考えてもらうことが大切だと考え、教員を含めた三者面談にも時間をかけて取り組んでいる。  また、保護者が進路について知る機会を多く提供しながら連携を重視している。例えば、保護者向けに「進路学習プログラム」(図2)と称して、毎年6月に実施する「進路のいろは」では進路指導の流れ、福祉と企業の違いといった基本的な情報を発信し、8月の「夏季進路学習会」では企業担当者・企業で働く卒業生を学校に招き、パネルディスカッション形式で企業就労に関する情報提供を行っている。そのほか、複数の企業の職場見学会も実施しており、企業で働くイメージを持てる機会を提供している。このプログラムは保護者の要望を反映し、毎年内容を充実させている。  「上記の進路学習プログラムに加え、新たな試みとして、小グループでの保護者懇談会も実施しました。進路での疑問点や、職場実習(インターン)での成功体験・失敗談などを保護者同士でざっくばらんに共有してもらいました。学校にとっても、保護者の生の声を聞くことのできる有意義な機会となりました。今後は個別の進路相談などの要望もあり、保護者の新たなニーズにも応えられるよう連携していきたい」と安田先生はいう。  このように、多くの経験を通じ、生徒が「自分で決めた進路」であること、保護者にも就労についてさまざまな情報を提供し、ともに進路を考え決定することにより、卒業後の安定就労につながっているという(図3)。 企業とともに歩むパートナーシップ実習  もう一つ紹介したいのが企業との「パートナーシップ実習」だ。これは通常の職場実習(インターン)とは異なり、より多くの社会経験を積み、生徒の心の成長につなげるとともに、企業側にとっても社員への啓発活動となる活動である。  これは、後述する市川大野高等学園の「デュアルシステム」や、京都府や滋賀県の特別支援学校での取組み事例から学び、実現したという。  このパートナーシップ実習は、2019(令和元)年には「第9回キャリア教育推進連携表彰」(文部科学省・経済産業省共同実施)の優秀賞を受賞した取組みである。多種多様な企業が協力し、企業内の障がい者理解の啓発に寄与している点、また生徒自身が企業での経験を通して働くイメージを持ちやすいといった点が評価された。取材時は、13社1法人とともに取組みを進めているとのことだ。 パートナーシップ実習の事例紹介  今回は、「ダウ・ケミカル日本株式会社」(東京都品川区)とのパートナーシップ実習について紹介したい。  同社での実習の初年度は、生徒が学校で学んでいるハンドドリップ技術で淹れたコーヒーと、生徒手づくりのクッキーやケーキを社員向けに提供することからスタートした。  この取組みにより、社員の知的障がいのある方への理解が深まったという手応えを感じ、翌年度にはもっとコミュニケーションを重視しようと、コーヒーなどの提供だけでなく、生徒と社員がゆっくり会話できる環境を整えた。  さらにその翌年度には、なんとオフィス内で授業参観を実施した。保護者は生徒が企業内でコーヒーなどの提供を行う様子を見るだけでなく、保護者と社員が意見交換する場を設けるなど進化させた。企業側はこの取組みをどのように受けとめているのか、そして保護者は、どのような思いで子どもたちと向き合い日々を過ごしているのかなど、活発なやりとりがあったそうだ。  パートナーシップ実習について、受け入れ企業からは、「社内の理解啓発につながるよい機会だ」などの声があるという。企業側にとっても非常に有意義な活動であり、まさに企業と学校が互いにWin−Winとなる活動であると感じた。 今後の展望  港特別支援学校の目標は生徒全員の企業就労であるが、そのうえで「全員が働き続けること」、「就労が定着すること」が重要だと考えている。そのためには「もっと社会・企業の障がいへの理解が促進されることが重要であり、これからも企業と連携しながら、よりよい社会づくりに向けたさまざまな情報発信を続けたい」と、安田先生は語ってくれた。 市川大野高等学園のこだわり  市川大野高等学園では、就労支援コーディネーターの石倉(いしくら)正裕(まさひろ)先生と進路指導部長の田中(たなか)明子(あきこ)先生にお話をうかがった。  市川大野高等学園は、知的障がい者の社会的・職業的自立を目ざす専門学科が設置された県内で2校目の高等特別支援学校で、開校から今年で10年目となる。教育目標には「本物の働く力を育み、笑顔輝く生徒の育成」を掲げている。  1学年の定員は96人、知的障がいのある方が選考を受けて入学する学校であり、ここ数年卒業後の進路は、約8割が企業就労、そのほかは就労移行支援などの福祉サービスとなっている。  市川大野高等学園での特徴的な活動を二つ紹介したい。一つめは「本物志向の専門教科」、二つめは「地域密着のデュアルシステム」だ。 本物志向の専門教科  入学時に4学科(9コース)のなかから一つを選択し3年間専門教科として学ぶ(図4)。代表的な日課表(図5)にあるように、学習カリキュラムの半分弱がこの専門教科である。  この専門教科で目ざしていることは、例えば農業コースの生徒が将来的に農業の仕事に就くことではなく、どのコースにおいても「働くことを学ぶ」ためのカリキュラムと位置づけており、「元気なあいさつができること」、「時間内集中して取り組むこと」、「わからないことはきちんと質問すること」、「失敗したら速やかに報告すること」、「途中で投げ出さず、最後までやり抜くこと」といった、働くうえでの基本的な力をつちかうことにある。  この専門教科は、教育目標にある通り、コースごとに専門の教員をつける本物へのこだわりが見える。例えば、木工コースでは、担当の教員は工業高校で教えていた教員であったり、フードサービスコースでは、担当の教員が数カ月間、レストランやパン工房で接客やパン・焼き菓子づくりの修行を受け、本格的なノウハウを学んだりしたという。  取材の日は、各コースでの専門教科の授業の様子を見学した。  まず、最初に案内してもらったのが染織デザインコースだ。藍染め・草木染めなどを行っている教室に入ると、生徒さんが「こんにちは」と気持ちのよいあいさつで迎えてくれた。隣の教室では、数人の生徒さんが機織り機を器用に動かし、染めた糸から布を織っていた。しばらく見入ってしまうくらい真剣な表情で機織りをする姿があった。「少し聞いてもいいですか」と近づいて声をかけると手を止めまっすぐに私を見てくれた。「機織りはむずかしくないですか」と聞くと「最初はむずかしかったのですが、いまは慣れて得意です」と話してくれた。自分の好きな色の糸で、好きなデザインを選べることも魅力なのだそうで、その表情はとても自信にあふれていた。  次に見学した窯業(ようぎょう)コースの教室では、生徒さんが慣れた手つきで電動ろくろを操作し、器をつくっていた。電動ろくろは最初から回せるものではなく、段階的に作業の難易度を上げるなどの工夫をしているそうだ。学年を重ねるごとに習熟し、先輩が後輩に教える場面も見られた。教室の奥には本格的な窯があり、生徒さんが作成した器が所狭しと並んでいた。どの器もお店に並んでいてもおかしくないほどの品物であり、その完成度の高さに驚いた。  続いて、木工コースを見学させていただいた。教室に入ると、電動のこぎりや電動やすりなど、本格的な機械が並び、生徒一人ひとりが分業して作業にあたっている。その姿はみな職人のようだった。一人ひとりに育まれた本物へのこだわりと、みなぎる自信を感じた。ここでもわれわれの見学の様子に気づくと、手を止めて挨拶をしてくれた。完成品はきれいにヤスリがかけられ、一寸の狂いもないほど精密な出来栄えだった。  次の見学場所へ行くため、廊下を移動していると、二人の生徒さんが本格的な清掃用具を使って校舎の大きな窓ガラスを清掃していた。メンテナンスサービスコースの生徒さんだ。清掃した窓ガラスがピカピカに変わっていく。生徒さんに話しかけると「まだ上手にできないこともあるけれど、きれいになっていく様子が気持ちいいです」と話してくれた。  学校内はごみ一つ落ちておらず、廊下も教室も床がピカピカであったのは、このメンテナンスサービスの生徒さんたちの清掃によるものが大きいようだ。  9つのコースすべてを見学させていただき、どのコースでも生徒さんに声をかけたが、みなさん気持ちのよい挨拶で迎え入れてくれた。礼儀正しく、自分の行っている作業に誇りを持ちながら取り組んでいることが伝わってきた。  また、生徒が扱っている器具はすべて本格的なものばかり。「社会に出して通用する本物をつくる」という活動を通して、働くことに通じる学びがたくさんあり、「働くために必要な力」を育んでいることがわかった。  文化祭では、自分たちがつくった作品を保護者や地域の方に販売する機会がある。買ってもらえる経験、感謝される経験が、一人ひとりの働く意欲にもつながっているという。 地域密着のデュアルシステム  「デュアルシステム」とは、地域の企業と連携し、実社会での実務をになう経験を通して、社会的・職業的自立を目ざす取組みである。  授業の一環として、徒歩圏内の職場へ複数名の生徒と教員とで向かい、社員と実際の職場に立つ経験をする。例えば、飲食店では通常の営業時間に店頭に立ち、社員と同じユニフォームを着て接客をするほか、コンビニエンスストアでの品出しや、メール便配達、福祉施設でのベッドメイキングなど、業務は多岐に渡る。現在は18の企業がこの取組みに賛同し、生徒のデュアルシステムでの実習(以下、「デュアル実習」)を受け入れている。企業と学校との関係性も良好で、企業側から「このような業務もやってもらえるのではないか」といった提案もあるそうだ。  デュアル実習にあたって、生徒は事前に目標を設定する。デュアル実習を終えると必ずふり返り表を基に自身の活動を評価し、同行した教員とともにふり返りをていねいに行う。  このデュアル実習は、実習先でのスキルの向上よりも、働く意欲や働くうえで必要な力を学ぶ機会ととらえている。 生徒の就労に向けて鍵を握る担任力  千葉県内46校の特別支援学校のうち29校には、32人の「就労支援コーディネーター」と呼ばれる教員が配置されている。企業との橋渡し役として、日々生徒の実習先や実際の就職先となる企業の開拓に奔走している。市川大野高等学園には2人の就労支援コーディネーターと、学年ごとの進路担当教員を含め6人の体制で生徒の進路関連業務を行っている。石倉先生は、「実はこれでも十分な人数とはいえない」という。その分クラス担任一人ひとりの力が大事だそうだ。1クラス8人の生徒を受け持つ担任も、校内の授業だけでなくデュアル実習や職場実習(インターン)への同行を通して、企業の実態を知る機会が多い。個々の生徒を熟知している担任が企業についても知ることで、より個々の生徒に合う職場とのマッチングが可能になる。このことは就労後の定着につながる非常に重要なことだと考える。  学校設立から数年は卒業後全員の企業就労を目ざして活動をしてきたが、就職させることがゴールではなく、定着率(働き続けること)を大事に考えて、本人の意志を一番に保護者とも三者面談を重ねながら納得のできる進路決定を進めているという。 企業のみなさまへ  今回取材させていただいた2校にかぎらず、特別支援学校では、卒業後の「働くために必要な力を育む」ためのさまざまな取組みを行っていますので、社会で活躍できる知的障がいのある方はたくさんいます。その方たちがさらに力をつけるためには、学校での学習だけでなく、企業での実習など、より多くの経験を重ねることが重要です。しかし、コロナ禍で受入れがむずかしいという企業も出てきており、生徒の経験の場が縮小している現状があります。  『みなさんの働く仲間に、知的障がいのある方はいますか?  もしいなければ、まずは一緒に働く機会をつくってみませんか?』  障がい者雇用を進めるうえで、実際に障がいのある方について知る機会、接する機会をつくることは重要なステップとなります。まず、企業ができることの一つは、生徒の実習を受け入れ、一緒に働く経験をしてみることだと考えます。コロナ禍で、さまざまな活動が制限されていることも事実ですが、できることを一歩でも前に進めてみませんか?「一緒に働きたい」と思える生徒さんに出会えるかもしれません。 だれもが生きやすく活躍できる社会を目ざして  私が授かった第一子はダウン症というハンディキャップを持って生まれてきた。出産翌日に医師から告知を受け、私は深い悲しみに突き落とされた。それでも目の前のわが子を育てなくてはという使命感で、家族とともにわが子とかかわるなかで、生後3カ月目に初めてわが子が見せた笑顔は、いまでも忘れられない。この笑顔によって私は救われ、この子の笑顔はきっと周囲を元気にできる。この子が胸を張って生きていける社会に変えなければという思いに急き立てられた。  障がい児の親となってから見た社会は、決して生きやすくはなかった。でもいま、13歳になった息子は、たくさんの方に支えられ、日々悩みながらもたくましく生きている。「大学生になりたい! その後は会社でかっこよく働きたい!」と意欲十分だ。その夢は叶えられるだろうか。  障がいのある子を授かったことに悲しまない「だれもが生きやすく、活躍できる社会づくり」に向けた歩みを、これからも一歩一歩進めていきたい。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、平岡典子編集委員の希望により「障がい」としています ※1 「令和2年 障害者雇用状況の集計結果」(厚生労働省) ※2 「特別支援教育資料(令和元年度)」(文部科学省) ※3 本誌2021年1月号の「職場ルポ」で紹介しました。当機構ホームページでご覧になれます 働く広場 2021年1月号 検索 図1 自己選択自己決定を目ざす進路指導 図2 進路学習プログラム年間計画 図3 生徒と保護者と共に進路を考える (図1〜3提供:東京都立港特別支援学校) 図4 専門学科とコース 学科 コース 園芸技術科 農業 園芸 工業技術科 木工 窯業 生活デザイン科 ソーイングデザイン 染織デザイン 流通サービス科 フードサービス メンテナンスサービス 流通 (市川大野高等学園の資料より作成) 図5 代表的な日課 月火水木金 8:35 登校 月火水木金 8:35 SHR 月火水木金 8:45 清掃 1 9:05 2 10:00 3 10:55 4 11:50 1時限から4時限 月 専門教科 1時限から4時限 火 専門教科 水 1時限 職業 2時限 理科 3時限 国語 4時限 家庭 木 1時限 音楽 2時限 英語 3時限 情報 4時限 数学 金 1時限から4時限 専門教科 月火水木金 12:35 昼休み 5 13:25 月 総合/HR 6 14:20 自立活動 火 5・6時限 専門教科 水 5時限 保健体育 6時限 美術 木 5時限 社会 6時限 保健体育 金 5時限 道徳 6時限 特別活動 月火水木金 15:10 SHR 15:35 月 部活動 水 部活動 金 部活動 (出典:市川大野高等学園ホームページ) 写真のキャプション 東京都立港特別支援学校 港特別支援学校進路指導主幹の安田賢先生 食品に関するコースでは、パンづくりなども学習する 教室では、清掃の検定に向けて練習が行われていた 実習でコーヒーを販売する生徒とその様子を見学する保護者(写真提供:東京都立港特別支援学校) 進路指導部長の田中明子先生 市川大野高等学園 就労支援コーディネーターの石倉正裕先生 千葉県立特別支援学校 市川大野高等学園 自分たちで染めた糸を使い、機織り機で布を織っていく 実習でつくったパンは、近隣住民向けに販売されている デュアル実習のふり返り表(提供:市川大野高等学園) 電動ろくろを使い粘土から器を生み出す 大型の電動工具を駆使し、椅子やふみ台などをつくる 校舎内外の清掃作業を通して、手法や道具の使い方を学ぶ 【P26-27】 令和2年 障害者雇用状況の集計結果A (令和2年6月1日) 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課 1 民間企業における雇用状況 ◎産業別の状況  産業別にみると、雇用されている障害者の数は、「農、林、漁業」、「宿泊業、飲食サービス業」、「生活関連サービス業、娯楽業」以外のすべての業種で前年よりも増加した。  産業別の実雇用率では「医療、福祉」(2・78%)、「農、林、漁業」(2・33%)「生活関連サービス業、娯楽業」(2・33%)、「電気・ガス・熱供給・水道業」(2・31%)、「運輸業、郵便業」(2・23%)が法定雇用率を上回っている(第4表)。 2 国、地方公共団体における在職状況 (1)国の機関  国の機関(法定雇用率2・5%)に在職している障害者の数は9336・0人、実雇用率は2・83%。国の機関は45機関中44機関で達成している(第3表(1))。 (2)都道府県の機関  都道府県の機関(法定雇用率2・5%)に在職している障害者の数は9699・5人、実雇用率は2・73%。知事部局は47機関中42機関が達成、知事部局以外は112機関中100機関が達成している(第3表(1))。 (3)市町村の機関  市町村の機関(法定雇用率2・5%)に在職している障害者の数は3万1424・0人、実雇用率は2・41%。2465機関中1741機関が達成している(第3表(1))。 (4)都道府県等の教育委員会  都道府県等(法定雇用率2・4%)の教育委員会に在職している障害者の数は1万4956・0人、実雇用率は2・05%(都道府県教育委員会は2・06%、市町村教育委員会は2・00%)。都道府県教育委員会は47機関中15機関が達成、市町村教育委員会は54機関中24機関が達成している(第3表(2))。 3 独立行政法人等における雇用状況  独立行政法人等(法定雇用率2・5%)に雇用されている障害者の数は1万1759・5人、実雇用率は2・64%。独立行政法人等(国立大学法人等を除く)は91法人中82法人が達成、国立大学法人等は89法人中70法人が達成、地方独立行政法人等は174法人中127法人が達成している(第3表(3))。 【第3表】 国、地方公共団体等における在職状況 (1)国、地方公共団体の機関(法定雇用率2.5%) [ ]内は、実人数 @法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数 A障害者の数 B実雇用率 C法定雇用率達成機関の数/機関数 D達成割合 国の機関 329,989.5 人 (328,132.5 人) 9,336.0 人 [7,807 人] (7,577.0 人) 2.83% (2.31%) 44/45 (27/44) 97.8% (61.4%) 都道府県の機関 355,407.5 人 (345,606.0 人) 9,699.5 人 [7,465 人] (9,033.0 人) 2.73% (2.61%) 142/159 (122/158) 89.3% (77.2%) 市町村の機関 1,301,788.5 人 (1,200,580.0 人) 31,424.0 人 [24,036 人] (28,978.0 人) 2.41% (2.41%) 1,741/2,465 (1,766/2,441) 70.6% (72.3%) (2)都道府県等の教育委員会(法定雇用率2.4%) @法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数 A障害者の数 B実雇用率 C法定雇用率達成機関の数/機関数 D達成割合 都道府県等教育委員会 729,491.0 人 (714,968.5 人) 14,956.0 人 [11,390 人] (13,477.5 人) 2.05 % (1.89%) 39/101 (38/100) 38.6% (38.0%) (3)独立行政法人等における雇用状況(法定雇用率2.5%) @法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数 A障害者の数 B実雇用率 C法定雇用率達成機関の数/機関数 D達成割合 独立行政法人等 446,151.0 人 (440,944.0 人) 11,759.5 人 [9,046 人] (11,612.0 人) 2.64% (2.63%) 279/354 (282/352) 78.8% (80.1%) 注1 (1)(2)の各表の@欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数」とは、職員総数から除外職員数及び除外率相当職員数(旧除外職員が職員総数に占める割合を元に設定した除外率を乗じて得た数)を除いた職員数である。 注2 (3)の表の@欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数」とは、常用労働者総数から除外率相当数(対象障害者が就業することが困難であると認められる職種が相当の割合を占める業種について定められた率を乗じて得た数)を除いた労働者数である。 注3 各表のA欄の「障害者の数」とは、身体障害者、知的障害者及び精神障害者の計であり、短時間労働者以外の重度身体障害者及び重度知的障害者については法律上、1人を2人に相当するものとしてダブルカウントを行い、重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間労働者については法律上、1人を0.5人に相当するものとして0.5カウントとしている。  ただし、精神障害者である短時間労働者であっても、次のいずれかに該当する者については、1人分とカウントしている。 @平成29年6月2日以降に採用された者であること A平成29年6月2日より前に採用された者で、同日以後に精神障害者保健福祉手帳を取得した者であること 注4 法定雇用率2.4%が適用される機関とは、都道府県の教育委員会及び一定の市町村の教育委員会である。 注5 ( )内は、令和元年6月1日現在の数値である。  なお、精神障害者は平成18 年4月1日から実雇用率に算定されることとなった。 注6 「独立行政法人等」とは、障害者の雇用の促進等に関する法律施行令別表第2の第1号から第8号まで、「地方独立行政法人等」とは、同令別表第2の第9号から第10号までの法人を指す。 注7 特例承認・特例認定や各機関における法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数の変化等により機関数は変動する。 【第4表】 民間企業における産業別の雇用状況 区分 @企業数 A法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数 B障害者の数 A.重度身体障害者および重度知的障害者 B.重度身体障害者および重度知的障害者である短時間労働者 C.重度以外の身体障害者、知的障害者および精神障害者 D.重度以外の身体障害者および知的障害者ならびに精神障害者である短時間労働者 E.計A×2+B+C+D×0.5 F.うち新規雇用分 C実雇用率E÷A×100 D法定雇用率達成企業の数 E法定雇用率達成企業の割合 産業計 企業 102,698 (101,889) 人 26,866,997.0 (26,585,858.0) 人 122,795 (121,377) 人 17,084 (16,845) 人 291,126 (278,430) 人 48,984 (45,159) 人 578,292.0 (560,608.5) 人 57,630.0 (62,015.0) % 2.15 (2.11) 企業 49,956 (48,898) % 48.6 (48.0) 農、林、漁業 364 (365) 41,662.5 (42,366.5) 181 (191) 26 (35) 542 (594) 80 (126) 970.0 (1,074.0) 112.0 (88.0) 2.33 (2.54) 211 (219) 58.0 (60.0) 鉱業、採石業砂利採取業 75 (72) 11,253.5 (10,420.5) 48 (49) 2 (1) 117 (105) 4 (4) 217.0 (206.0) 12.0 (8.0) 1.93 (1.98) 39 (39) 52.0 (54.2) 建設業 4,398 (4,251) 822,754.0 (803,549.0) 4,160 (3,986) 217 (212) 7,179 (6,802) 283 (266) 15,857.5 (15,119.0) 1,166.5 (1,252.5) 1.93 (1.88) 2,125 (2,042) 48.3 (48.0) 製造業 25,113 (25,238) 7,090,293.5 (7,108,849.5) 37,047 (37,003) 1,667 (1,688) 75,760 (73,435) 3,850 (3,735) 153,446.0 (150,996.5) 10,688.0 (12,219.5) 2.16 (2.12) 13,801 (13,613) 55.0 (53.9) 電気・ガス・熱供給・水道業 261 (254) 217,474.5 (215,501.5) 1,301 (1,262) 39 (30) 2,358 (2,278) 46 (41) 5,022.0 (4,852.5) 261.0 (244.5) 2.31 (2.25) 127 (122) 48.7 (48.0) 情報通信業 5,634 (5,468) 1,597,679.0 (1,561,346.5) 7,193 (7,070) 277 (276) 13,466 (12,568) 392 (366) 28,325.0 (27,167.0) 3,104.5 (3,464.0) 1.77 (1.74) 1,554 (1,473) 27.6 (26.9) 運輸業、郵便業 7,379 (7,336) 1,630,362.5 (1,597,562.0) 7,617 (7,474) 826 (822) 19,242 (18,212) 2,036 (1,894) 36,320.0 (34,929.0) 3,306.5 (3,323.5) 2.23 (2.19) 4,032 (3,989) 54.6 (54.4) 卸売業、小売業 15,930 (15,933) 4,318,092.5 (4,306,939.0) 15,722 (15,581) 3,109 (3,116) 46,650 (44,415) 10,311 (9,685) 86,358.5 (83,535.5) 9,268.0 (9,468.0) 2.00 (1.94) 6,183 (6,073) 38.8 (38.1) 金融業、保険業 1,406 (1,408) 1,154,140.5 (1,159,132.5) 6,369 (6,357) 268 (259) 11,638 (11,220) 381 (375) 24,834.5 (24,380.5) 2,183.5 (2,336.5) 2.15 (2.10) 577 (545) 41.0 (38.7) 不動産業、物品賃貸業 1,993 (1,945) 481,513.0 (466,653.5) 1,858 (1,791) 237 (204) 4,517 (4,185) 502 (434) 8,721.0 (8,188.0) 980.0 (1,128.0) 1.81 (1.75) 684 (658) 34.3 (33.8) 学術研究、専門・技術サービス業 3,279 (3,171) 1,168,713.0 (1,043,055.0) 5,003 (4,342) 569 (525) 12,026 (10,131) 1,583 (1,517) 23,392.5 (20,098.5) 2,401.5 (2,773.5) 2,00 (1.93) 1,122 (1,065) 34.2 (33.6) 宿泊業、飲食サービス業 3,114 (3,153) 802,603.0 (880,808.0) 2,798 (3,002) 1,028 (1,153) 8,706 (9,285) 3,269 (3,394) 16,964.5 (18,139.0) 1,837.0 (2,395.5) 2.11 (2.06) 1,459 (1,453) 46.9 (46.1) 生活関連サービス業、娯楽業 2,942 (2,977) 521,018.0 (534,754.0) 2,251 (2,353) 581 (536) 6,325 (6,499) 1,453 (1,308) 12,134.5 (12,395.0) 1,251.0 (1,445.0) 2.33 (2.32) 1,251 (1,242) 42.5 (41.7) 教育、学習支援業 2,225 (2,149) 491,507.5 (486,793.5) 2,044 (2,007) 227 (226) 3,890 (3,777) 408 (385) 8,409.0 (8,209.5) 1,028.0 (938.0) 1.71 (1.69) 852 (805) 38.3 (37.5) 医療、福祉 17,225 (16,880) 3,000,281.0 (2,910,097.0) 13,886 (13,719) 5,375 (5,243) 41,190 (38,683) 18,259 (16,009) 83,466.5 (79,368.5) 11,626.5 (11,345.0) 2.78 (2.73) 10,693 (10,397) 62.1 (61.6) 複合サービス事業 906 (951) 299,335.0 (306,822.0) 1,404 (1,405) 163 (167) 2,975 (2,926) 367 (344) 6,129.5 (6,075.0) 478.5 (535.0) 2.05 (1.98) 396 (406) 43.7 (42.7) サービス業 10,454 (10,338) 3,218,314.0 (3,151,208.0) 13,913 (13,785) 2,473 (2,352) 34,545 (33,315) 5,760 (5,276) 67,724.0 (65,875.0) 7,925.5 (9,050.5) 2.10 (2.09) 4,850 (4,757) 46.4 (46.0) 注 前号掲載の第1表と同じ 【P28-29】 研究開発レポート 第28回職業リハビリテーション研究・実践発表会特集 Part2 パネルディスカッション T「障害者を継続雇用するためのノウハウ 〜企業在籍型ジョブコーチの活躍〜」 U「障害のある社員の活躍のためのICT活用」  職業リハビリテーションに関する研究や実践の成果を周知するための機会として、毎年開催されている「職業リハビリテーション研究・実践発表会」。2020(令和2)年度は、新型コロナウイルス感染症を考慮して、特別講演やパネルディスカッションなどの様子の動画配信と、実践事例などの発表資料を、障害者職業総合センター(NIVR)のホームページに掲載する形式で実施しました。ここでは、パネルディスカッションT・Uの様子をダイジェストでお伝えします。  パネルディスカッションT 障害者を継続雇用するためのノウハウ 〜企業在籍型ジョブコーチの活躍〜  近年、企業在籍型ジョブコーチ養成研修の受 講者が増加していますが、これは、企業が障害 者雇用に対応する体制の整備を進めているとい うことの現れであり、企業在籍型ジョブコーチ が企業の障害者雇用に大きく貢献しているということが示されているとも考えられます。  パネルディスカッションTでは、東京障害者職業センター所長の鈴木(すずき)瑞哉(みずや)氏と、障害者職業総合センター主任研究員の野澤(のざわ)紀子(のりこ)氏をコーディネーターとして、実際に企業在籍型ジョブコーチとして活躍中の、あおぞら銀行人事部人事グループ調査役・精神保健福祉士の星(ほし)希望(のぞみ)氏、青山商事株式会社ロジスティクス戦略部長の細川(ほそかわ)孝志(たかし)氏、豊通(とよつう)オフィスサービス株式会社臨床心理士・社会福祉士の松本(まつもと)優子(ゆうこ)氏の3人をパネリストに迎えて、企業在籍型ジョブコーチの役割や可能性について検討しました。  はじめに、野澤氏から、所属する研究部門での調査結果の報告があり、「企業における企業在籍型ジョブコーチの配置の意向は高いものの、ジョブコーチを支援する社内体制ができていない」などの課題が指摘されました。  次に、各パネリストから、それぞれの企業内の取組み事例が紹介されました。  星氏からは、「企業在籍型ジョブコーチは、社内にいるからこそ状況がよくわかり、当事者のみならず、職場の管理者や担当者などが安心して働ける環境や体制づくりに貢献できる」、「企業在籍型ジョブコーチの役割は多岐にわたり、社内ですべて対応していくのは困難なため、外部の支援機関との連携が欠かせない」などの、実体験に基づいた考えが示されました。  細川氏からは、「ジョブコーチ研修で得た情報などを報告・共有し、障害者雇用の方向性を少しずつ社内に周知することで、社員の理解を得て、支援体制の整備につながっていった」という経験が語られ、ジョブコーチに加えて、現場での支援や課題の報告を行う「障害者職業生活相談員」を配置するなどの現行の支援体制についての紹介がなされました。  松本氏は、精神科の臨床心理士としても勤務している立場から、「職場環境を把握しやすい企業在籍型ジョブコーチが産業医と連携することで、いち早い医学的判断と、雇用継続のための早期での危機介入ができる」とその有用性を強調しました。  後半のディスカッションでは、「企業在籍型ジョブコーチには、当事者の声、周囲の声の両方に耳を傾け、調整・実行していく力が必要」、「時間も労力もかかる社内の体制づくりに孤軍奮闘している企業在籍型ジョブコーチが多いため、外部で連携できる場所があるとよい」などの声があがり、企業在籍型ジョブコーチに求められる能力や外部機関との連携の重要性についても言及されました。  パネルディスカッションU 障害のある社員の活躍のためのICT活用  障害者の特性に配慮したさまざまな働き方を選択できるようにすることで、生産性の向上や戦力化が期待されています。デジタル技術を活用した新しい働き方により、障害者が能力を発揮して働いている事例もあります。  パネルディスカッションUでは、当機構企画部次長の早坂(はやさか)博志(ひろし)氏をコーディネーターとし、インプラス株式会社代表取締役の井上(いのうえ)竜一郎(りゅういちろう)氏、グリービジネスオペレーションズ株式会社経営企画室マネージャーの竹内(たけうち)稔貴(としたか)氏、パーソルチャレンジ株式会社コーポレート本部経営企画部事業開発グループマネジャーの吉田(よしだ)岳史(たけし)氏をパネリストに迎えて、障害者がデジタル技術を活かして能力を発揮しながら働いている事例や、それにつなげていくための支援を紹介し、障害者の働き方の新しい可能性について検討しました。  はじめに、パネリスト3人による各企業の事例紹介が行われました。  井上氏からは、コンピュータのシステム開発などを行うインプラス株式会社で、2014年から進めてきた障害者雇用の取組みが紹介されました。試行錯誤や失敗をくり返しながらも、自身と3人の健常者社員全員がジョブコーチ研修を受けるなどして社内の理解を深め、サテライトオフィスや在宅勤務などの新たな勤務体制の導入を試みた結果、現在は計4人の障害者雇用を実現しています。井上氏によると、「障害者雇用は、『人材が確保できる』、『生産性が上がる』、『社風がよくなる』などのメリットをもたらす、重要な経営戦略のひとつ」だといいます。  竹内氏からは、ゲームやインターネットの事業を行っているグリー株式会社の特例子会社グリービジネスオペレーションズ株式会社での取組みが紹介されました。同社では全54人の社員のうち、48人が障害者手帳を保有しており、事業貢献度の高い仕事を増やし、障害のある社員の特性に応じた業務を担当してもらうことで、その戦力化に成功しています。新型コロナ感染症の流行にともない、テレワークにもいち早く取り組み、環境整備から健康面の自己管理などについてもフォローを行う様子が紹介されました。  吉田氏からは、パーソルチャレンジ株式会社が運営するITに特化した支援を行う就労移行支援事業所「Neuro(ニューロ) Dive(ダイブ)」で、今後、市場の拡大とともに人材不足が想定される先端IT領域について、発達障害者の特性や能力を活かして、ビジネススキルを高めるプログラムを提供するとともに、一人ひとりの就労準備性を高め、定着を見据えた支援を行う様子が紹介されました。  後半のディスカッションでは、「体調などの本人の状況に応じた配慮をするのに、ICTやテレワークはよいツール」、「テレワークへの移行で、障害者のストレスは相対的に減り、生産性が上がっている。ただし、自己管理ができることなどの、就労準備性がより求められるようになっている」、「テレワークと同じく、障害者雇用もトライ&エラーでチャレンジしていくことが大切。雇用の前に一緒にチャレンジするパートナーとして就労移行支援事業所を活用してほしい」などの意見があり、ICTのメリットを活かした障害者の新しい働き方の可能性について、活発な議論がなされました。 ※コーディネーターとパネリストの方々の所属先・役職および企業の従業員数とその内訳は収録時のものです ※パネルディスカッションの動画は、障害者職業総合センター(NIVR)のホームページ(https://www.nivr.jeed.go.jp/)にて視聴することが可能です 写真のキャプション 野澤紀子氏 鈴木瑞哉氏 星希望氏 細川孝志氏 松本優子氏 早坂博志氏 井上竜一郎氏 竹内稔貴氏 吉田岳史氏 【P30−31】 ニュースファイル 国の動き 厚生労働省 障害者施設に虐待防止委員会の設置を義務化 厚生労働省は、障害者施設で職員から利用者への虐待が年々増えていることを背景に、2022(令和4)年度から事業所に虐待防止委員会の設置を義務づけることを決めた。障害者福祉施設・事業所の指定基準に「職員研修」、「虐待防止委員会の設置」、「責任者の設置」の3点を加える。2021年度は準備期間として努力義務とし、虐待防止の研修を実施したり、職員のストレスがたまりやすい職場になっていないか点検したりする。障害者へのむやみな身体拘束をさせない仕組みも強化する。  厚生労働省によると、障害者施設での虐待は2018(平成30)年度に592件が認定され、2013年度に比べ約2倍に増えた。 地方の動き 神奈川 障害者の新たな働き方を創出  横浜市は、JR関内(かんない)駅に障害者就労啓発施設としてカフェ「cafe ツムギ station at Yokohama Kannai」をオープンした。「株式会社オリィ研究所」(東京都港区)が開発した分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を活用して、障害のある人に自宅から遠隔操作で接客してもらう。市内の就労支援施設で製造した菓子類も販売し、複合的な支援を目ざす。  カフェは、市が関内駅の高架下スペースに新設した施設内にあり、「株式会社JR東日本フーズ」(東京都台東区)が運営。障害者を雇用し、交代で在宅勤務してもらう。席のテーブルの上に置いたロボットを通じ、画面越しに客の顔を見て、注文を取ったり会話したりする。席の案内や料理の提供は店舗スタッフが担当する。「OriHime」は平日14時から18時の稼働を予定。メニューに7種類の紅茶やハーブティー、ビーフカレーなどを揃えた。営業時間は11時〜19時、年中無休。 生活情報 東京 地下鉄の順路などをアプリで音声案内  「東京地下鉄株式会社(東京メトロ)」(台東区)は、視覚障害者に駅を安全に利用してもらうための新しいナビゲーションシステム「shikAI(シカイ)」を導入した。千代田線、有楽町線、副都心線などの一部の駅でサービスが始まり、利用状況を見ながらほかの駅への拡大も検討していく。  新システムは、スマートフォンの専用アプリで駅構内のQRコードを読み取ると、目的地までの順路などを音声で案内するというもの。例えば、アプリで乗りたい車両や行きたい出口を選び、点字ブロックを進むと、点字ブロックに貼られたQRコードが読み取られ、「左に3m進んでください」などと音声で案内する。次の移動先でもQRコードを読み取り、さらに次の移動先への音声ガイドが流れ、最終目的地まで誘導する。階段やホームの端が接近しているときや順路を外れたときにも、何m戻ればよいかなどを知らせてくれる。「shikAI」アプリはiPhoneでダウンロードが可能。利用料金は無料。 東京 架空の逆転世界「バリアフルレストラン」プログラムの提供開始  共生社会の実現に取り組む「誰もが誰かのために共に生きる委員会(チーム誰とも)」(主幹:公益財団法人日本ケアフィット共育機構)(千代田区)が、車いすユーザーと二足歩行者が逆転した架空の世界を体験する「バリアフルレストラン」を提供開始。社会がつくり出す障害とは何か、「あたりまえ」とは何かを問いかけるプログラム。車いすユーザーの協力のもと、「東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター」(文京区)と共同開発した。  レストラン内には、車いすユーザーに最適化された低い天井やテーブルなどを用意。車いすユーザーが多数派という設定の環境のなかで、「二足歩行者」は障害のある人として位置づけられ、こうした環境を体感してもらう。プログラムを通じて多くの人に、現在の社会がいかに多数派や健常者の「あたりまえ」を前提につくられているのかを体験してもらい、どうしたら社会をよくできるのかを考える機会をつくるとしている。問合せは、公益財団法人日本ケアフィット共育機構まで。 電話:03−6261−2333 URL:http://www.carefi t.org 静岡 障害者モデルのファッション誌  障害のある人たちがモデルを務めるファッション専門のフリーペーパー「MISFITS(ミスフィッツ)」が、静岡県内を中心に創刊された。  静岡市内で放課後等デイサービス事業所を運営する「株式会社LIFEWORKS(ライフワークス)」と、ダウン症や知的障害のあるモデルが所属する「studio(スタジオ) Erika(エリカ)」(島田市)が手を組み実現。創刊号はA4判22ページ。衣装は県内の店舗から提供を受けた。SNSを通じて募集・写真選考を通過した4歳から30代の8人も撮影に参加している。今後は年4回の発行を予定。 働く 三重 高校と防災用パンを共同開発  「県立明野(あけの)高校」(伊勢市)と、障害者施設を運営する「社会福祉法人ベテスタ」(松阪市)が、農業と福祉をつなげる「農福連携」の一環として、災害備蓄用パン「あんぱんかん」を共同開発した。  同校とベテスタは数年前から農作物の栽培などで協力し、ベテスタが運営する障害者施設で防災用パンの製造を手がけていることから、2020年に共同で開発に乗り出した。生産科学科作物部門の3年生や施設利用者が協力し、甘みの強いサツマイモとして知られる安納芋(あんのういも)を栽培。あんの製造は市内の老舗和菓子店「藤屋窓月堂(ふじやそうげつどう)」が担当し、ベテスタの施設でパンを製造、長期保存のための菌検査などをくり返して商品化に成功した。「あんぱんかん」は1缶2個入り540円(税込)。同校の直売所やベテスタで販売。問合せはベテスタへ。 電話:0598−28−4835 福岡 パーソルHDが障害者雇用の新会社  人材サービス大手の「パーソルホールディングス株式会社」(東京都港区)は、障害者雇用にかかわる新会社「パーソルネクステージ株式会社」(東京都港区)を設立し、2月に福岡県内に1カ所目のオフィスを開設した。雇用契約を結んだ障害者に働く機会の提供などを行い、一般企業への就労も支援する。3年で200人以上の障害者を雇う計画で、地方在住でも活躍できる環境づくりを整える。  パーソルネクステージは、就労継続支援A型事業としてグループ会社などからテレワークでも可能なIT業務などの仕事を引き受ける。福岡オフィスをはじめ九州地方や地方都市に3年間で計10拠点を設ける方針。障害者を雇用しながら、企業に就職を希望する障害者の教育や就職の支援、職場での定着のサポートも手がける。 本紹介 『発達障害で問題児でも働けるのは理由(ワケ)がある!』 かなしろにゃんこ。(著)/石井京子(監修・解説)/講談社/A5判170ページ/1,540円(税込)  本誌2018年7月号から11月号で、コミックエッセイ「うちの子はたらく体験記」を連載した(※)漫画家のかなしろにゃんこ。さんが、発達障害のある息子「リュウ太くん」の内面に迫ったコミックエッセイ「発達障害で問題児でも働けるのは理由がある!」(講談社刊)を出版した。  「自分に合う仕事はどうやって見つけるか」、「発達障害のさまざまな特性に、どう対処するか」。紆余曲折の末に、希望していた仕事に就職できたリュウ太くんの実体験をもとに、親の気づきや本人へのインタビューなどを交えながら働くことのヒントを紹介。また、「一般社団法人日本雇用環境整備機構」理事長で、発達障害者の就労支援に詳しい石井(いしい)京子(きょうこ)さんの解説も掲載。 ※当機構ホームページでご覧になれます 働く広場 2018年7月号 検索 作品大募集! あなたの力作がポスターになる! 令和3年度 「絵画コンテスト 働くすがた〜今そして未来〜」 「写真コンテスト 職場で輝く障害者〜今その瞬間〜」 募集期間(応募作品受付期間) 令和3年3月1日(月)〜6月15日(火)【消印有効】 児童・生徒のみならず社会人一般の方もご応募いただけます。 絵画コンテストの応募は障害のある方が対象です。写真コンテストの応募は障害の有無を問いません。多くのみなさまからのご応募をお待ちしています。 詳しくは、ホームページの募集要項をご覧ください。 JEED 絵画写真 検索 <過去入賞作品やポスターもご覧いただけます> 主催:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 シンボルキャラクター “ピクチャノサウルス” 【P32】 掲示板 国立職業リハビリテーションセンター 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 訓練生募集のお知らせ  当機構が運営する国立職業リハビリテーションセンターおよび国立吉備高原職業リハビリテーションセンターでは、求職中の障害のある方々に対して就職に必要な職業訓練や職業指導を実施しています。また、休職中や在職中の方のための職業訓練も行っています。  なお、利用にあたり、年10 回程度の入所日を設けています。  募集コースや応募締切日、手続きなどの詳細については、下記までお気軽にお問い合わせください。 お問合せ 国立職業リハビリテーションセンター 埼玉県所沢市並木4―2 http://www.nvrcd.ac.jp/ 【求職中、休職中の方】TEL:04―2995―1201 【在職中の方】TEL:04―2995―1135 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 岡山県加賀郡吉備中央町吉川 7520 http://www.kibireha.jeed.go.jp/ 【求職中の方】TEL:0866―56―9001 【休職中、在職中の方】TEL:0866―56―9003 『働く広場』読者のみなさまへ  2021年5月号は、大型連休の関係から、お手元に届く日程が通常よりも数日遅れることが見込まれています。ご不便をおかけしますが、よろしくお願いします。ご不明の点は当機構企画部情報公開広報課(電話:043−213−6216)までおたずねください。 雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える人事労務担当の方 ぜひご覧ください! メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 次号予告 ●この人を訪ねて  障害のある子どもたちの職業体験をサポートする一般社団法人ぷれジョブ代表理事の西幸代さんに、全国に広がる活動について、お話をうかがいます。 ●職場ルポ  ソフトウエア開発などを行う富士ソフト株式会社の特例子会社富士ソフト企画株式会社(神奈川県)を訪問。障害者雇用に関し数多く受賞をしている現場を取材します。 ●グラビア  JTBグループの特例子会社で、データ入力業務などを行う株式会社JTBデータサービス(東京都)を取材。聴覚に障害のある方の活躍を中心に、ご紹介します。 ●編集委員が行く  八重田淳編集委員が、建設や不動産管理を行う大東建託株式会社の特例子会社大東コーポレートサービス株式会社(東京都)を訪問。施設から雇用への真の移行を目ざす取組みを取材します。 本誌購入方法  定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。  1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申し込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAX でのお申し込み 株式会社廣済堂までご連絡ください。 TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 あなたの原稿をお待ちしています ■声−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 早坂博志 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6216(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●発売所−−株式会社 廣済堂 〒105−8318 港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03−5484−8821 FAX 03−5484−8822 4月号 定価141円(本体129円+税)送料別 令和3年3月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 埼玉県立大学 教授 朝日雅也 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 岡山障害者文化芸術協会 代表理事 阪本文雄 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 相談支援事業所 Serecosu 新宿 武田牧子 あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすく センター長 原智彦 ホンダ太陽株式会社 社友 樋口克己 サントリービジネスシステム株式会社 課長 平岡典子 東京通信大学 教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学 准教授 八重田淳 写真のキャプション 視覚障害者の支援機器を活用した訓練風景 【P33】 2021年度(令和3年度) 職業リハビリテーションに関する研修のご案内  当機構では、医療・福祉などの関係機関で障害のある方の就業支援を担当する方を対象に、職業リハビリテーションに関する知識や障害者の雇用支援に必要な技術の修得と資質の向上を図るための研修を実施しています。受講料は無料です。  各研修の詳細・お申込み先などは、当機構のホームページ(https://www.jeed.go.jp)のサイト内検索(各研修名で検索)でご確認ください。みなさまの受講を心よりお待ちしています。 研修 日程 場所 就業支援基礎研修 【対象】就業支援を担当する方 【内容】就業支援のプロセス、障害特性と職業的課題、障害者雇用施策、ケーススタディなど 各地域障害者職業センターのホームページなどで別途ご案内いたします。 ◯◯障害者職業センター 検索 ※◯◯には都道府県名を入力 各地域障害者職業センターなど 就業支援実践研修 精神障害・発達障害・高次脳機能障害コース 【対象】就業支援の実務経験2 年以上の方 【内容】障害別のアセスメント、支援ツールの活用方法、ケーススタディなど 10〜12月に全国14エリアで開催します。 就業支援実践研修のホームページなどで別途ご案内いたします。 全国14エリアの地域障害者職業センターなど 就業支援スキル向上研修 精神障害・発達障害・高次脳機能障害コース 【対象】就業支援の実務経験3 年以上の方 【内容】障害別の支援技法、職リハに関する最新情報、ケーススタディなど 令和4年1月18日(火)〜1月20日(木) 千葉県千葉市 就業支援課題別セミナー 【対象】障害者の就労や雇用に関する支援を担当しており、障害者に対する就業支援の実務経験を有する方 【内容】令和3年度は「視覚障害者への就労支援の最前線」をテーマとします 令和3年11月4日(木)〜11月5日(金) オンラインによる開催を予定 職場適応援助者養成研修 【対象】訪問型・企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)としての援助を行う予定の方など 【内容】ジョブコーチの役割、作業指導の実際、ケースから学ぶジョブコーチ支援の実際、職場における雇用管理の実際、支援記録の作成など (集合研修4日+地域障害者職業センターでの実技研修4日程度) ※対象地域は以下のとおりです 東日本:北海道、東北、関東甲信越、静岡、富山 西日本:東海(静岡を除く)、北陸(富山を除く)、近畿、中国、四国、九州、沖縄 4月期 東日本対象:令和3年4月20日(火)〜4月23日(金) 千葉県千葉市 西日本対象:令和3年4月20日(火)〜4月23日(金) 大阪府大阪市 5月期 全国対象:令和3年5月18日(火)〜5月21日(金) 千葉県千葉市 6月期 東日本対象:令和3年6月8日(火)〜6月11日(金) 千葉県千葉市 西日本対象:令和3年6月8日(火)〜6月11日(金) 大阪府大阪市または摂津市 9月期 東日本対象:令和3年9月14日(火)〜9月17日(金) 千葉県千葉市 西日本対象:令和3年9月14日(火)〜9月17日(金) 大阪府大阪市または摂津市 10月期 全国対象:令和3年10月26日(火)〜10月29日(金) 千葉県千葉市 12月期 東日本対象:令和3年12月14日(火)〜12月17日(金) 千葉県千葉市 西日本対象:令和3年12月14日(火)〜12月17日(金) 大阪府大阪市または摂津市 2月期 全国対象:令和4年2月15日(火)〜2月18日(金) 千葉県千葉市 職場適応援助者支援スキル向上研修 【対象】ジョブコーチとして一定の実務経験のある訪問型・企業在籍型職場適応援助者の方 【内容】精神・発達障害者のアセスメントや支援方法、アンガーコントロール支援、意見交換、ケーススタディなど <第1回>令和3年5月25日(火)〜5月28日(金) 千葉県千葉市 <第2回>令和3年8月3日(火)〜8月6日(金) 大阪府内 <第3回>令和3年10月12日(火)〜10月15日(金) 千葉県千葉市 <第4回>令和4年2月1日(火)〜2月4日(金) 大阪府内 <お問合せ先> 職業リハビリテーション部 研修課 TEL:043-297-9095 E-mail:stgrp@jeed.go.jp 【裏表紙】 障害者雇用納付金は、「振込み」による支払いはできません。 ※1 「ペイジー」への対応や、インターネットバンキングの操作方法については、ご利用の金融機関へお問い合わせください。 ※2 確認番号が付番されていない事業主の方は、確認番号を当機構納付金部(TEL:043-297-9651)までお問い合わせいただくか、金融機関の窓口での納付をお願いします。 その他、障害者雇用納付金制度については、当機構HP https://www.jeed.go.jp/から、「障害者の雇用支援」→「障害者雇用納付金制度」をご参照ください。 インターネットを利用して、障害者雇用納付金申告及び障害者雇用調整金等申請の手続きをお手元のパソコン上で行うことができます!! 利用時間 9:30〜17:00(土・日・祝日を除く) 4月号 令和3年3月25日発行 通巻522号 毎月1回25日発行 定価141円(本体129円+税)