【表紙】 令和3年7月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第526号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2021 8 No.526 職場ルポ 拠点ごとに雇用し、全社体制で支援と推進 株式会社グリーンテック(愛知県) グラビア 明るく元気に助け合い、意欲を持って働ける職場 株式会社東急ウィル 元住吉事務所(神奈川県) 編集委員が行く 特例子会社のあるべき姿・キヤノンモデルの紹介 キヤノンウィンド株式会社、大分キヤノン株式会社(大分県) 私のひとこと ひきこもり×在宅×IT=可能性無限大! 〜日本初のひきこもり者主体の株式会社の目ざす姿〜 株式会社ウチらめっちゃ細かいんで 代表取締役 佐藤 啓さん 「きょうりゅうはかせ」鹿児島県・大澤(おおさわ)津楓斗(つふうと)さん 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています 8月号 【前頁】 心のアート 鳥の巣 玉野昌弘 (特定非営利活動法人地域支援センターポレポレ) 素材:チラシ、テープ、針金  この作品の材料は、チラシを丸めテープで固定し、お好みサイズにカットしたものです。玉野さんが何年もかけて創作し貯めてきたので、大量にあります。  この小さくカットしたチラシ一つひとつに針金を通していき、長い巻物にし、自由自在にカタチをつくることができる作品に仕上げました。  針金を通す工程は本人だけでなく、ほかの利用者さん、スタッフ、そして展示会では来場者にも協力していただきました。みんなでつなぎ、できあがった作品です。 (文:特定非営利活動法人地域支援センターポレポレ 菊 義典) 玉野昌弘(たまの まさひろ)  35歳、石川県在住。ダウン症がある。  生活介護・就労継続支援B型事業所「ぽれぽれ工房山の家&それいけ仲間たちの家」を利用。創作時には集中し、接客時には明るく元気。畑ではみんなに指示を出すなど、積極的に作業に取り 組んでいる。  それぞれの場面で、玉野さん自身の流儀を発揮し幅広く活躍している。 【目次】 障害者と雇用 2021年8月号 NO.526 心のアート 前頁 鳥の巣 作者:玉野昌弘(特定非営利活動法人地域支援センターポレポレ) 私のひとこと 2 ひきこもり×在宅×IT=可能性無限大! 〜日本初のひきこもり者主体の株式会社の目ざす姿〜 株式会社ウチらめっちゃ細かいんで 代表取締役 佐藤 啓さん 職場ルポ 4 拠点ごとに雇用し、全社体制で支援と推進 株式会社グリーンテック(愛知県) 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 クローズアップ 10 コロナ禍を乗り越えて〜新しい働き方を問う〜 第3回 JEEDインフォメーション 12 “事例で見る”“動画で見る”『障害のある方への合理的配慮の提供』/2021年度(令和3年度)就業支援課題別セミナー「視覚障害者への就業支援の最前線」のご案内 グラビア 15 明るく元気に助け合い、意欲を持って働ける職場 株式会社東急ウィル 元住吉事務所(神奈川県) 写真/文:官野 貴 エッセイ 19 配慮は人のためならず第1回 〜コロナ禍と働き方改革〜 株式会社Ds'sメンタルヘルス・ラボ 代表取締役(精神科医・産業医) 原 雄二郎 編集委員が行く 20 特例子会社のあるべき姿・キヤノンモデルの紹介 キヤノンウィンド株式会社、大分キヤノン株式会社(大分県) 編集委員 樋口克己 省庁だより 26 令和3年度障害保健福祉部予算の概要(2) 厚生労働省 障害保健福祉部 研究開発レポート 28 職場復帰支援の実態等に関する調査研究 障害者職業総合センター研究部門 障害者支援部門・事業主支援部門 ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 訪問型・企業在籍型職場適応援助者支援スキル向上研修 表紙絵の説明 「将来、恐竜博士になって、博物館に展示するならこんな風に飾りたいな、という想いをふくらませて描きました。恐竜の勇ましくてゴツゴツした感じを出すために、筆ではなく、割りばしに直接絵の具をつけて塗りました。強い感じが出せたので、うれしかったです」 (令和2年度 障害者雇用支援月間ポスター原画募集 小学校の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。(https://www.jeed.go.jp/) 【P2-3】 私のひとこと ひきこもり×在宅×IT=可能性無限大! 〜日本初のひきこもり者主体の株式会社の目ざす姿〜 株式会社ウチらめっちゃ細かいんで代表取締役 佐藤啓 一歩をふみ出すことがむずかしい  「ひきこもり」。この言葉を聞くのは、近年では決して珍しくはなくなってきました。全国に100万人以上いるといわれるひきこもり者ですが、その実像はまだまだ広く伝わっているとはいえません。マスコミを通じて広がる「ひきこもり」のイメージは、最近でこそ弊社で働くスタッフの事例のような「前向き」なものも増えてきていますが、いまだに「得体のしれない」、「よくわからない」といったものが少なくありません。  私自身、いとこに2人ひきこもり当事者がいることもあり、「ひきこもり」という言葉に特別な先入観はありませんでした。一方で、彼らの両親も年を重ね、いわゆる「8050問題」(※)に差しかかるなかで、「ひきこもり者の就労」に関しての実情を知りたくなりました。  縁あってつながったひきこもり当事者や経験者と呼ばれる人たちと、実際に会った第一印象は、「一般の人と変わらない」ということでした。  「会話も普通にできるし、自分の考えや意見も持っている」、「内容によってはとても深い知識を備えていたり、プログラミングなどのスキルを持っていることもある。ただ、何らかの事情で『他人や社会から距離を置くこと=ひきこもること』を選ばざるを得なくなり、その結果、さまざまな生きづらさを抱えてしまっている」、「本人たちは、決して仕事をしたくないわけではない。ただ、自分が自信を失っている状態で、『そもそも自分に仕事が務まるのだろうか』、『迷惑をかけるのではないか』、『できることは何があるのだろうか』と、そんな思いのなかをぐるぐる回っている状態で、一歩をふみ出すことがむずかしい」…。そのような印象を、多くのひきこもり者と話すなかで受けました。 在宅で仕事や勉強ができる仕組みを  日本初のひきこもり者主体の事業会社である「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」(以下、「めちゃコマ」)を設立する前、私自身はめちゃコマの親会社でもある、社会人向けのITやビジネス教育を提供する「フロンティアリンク株式会社」を経営していました。  フロンティアリンクは一日完結型のIT・ビジネス研修をオンラインで提供しているのですが、2006(平成18)年の創業当初から完全在宅で仕事をしていたこともあり、ITであれば在宅でも、本人の気持ち次第で仕事をすることも勉強をすることもできるということが、自社の経験上わかっています。  そしてもう一つ、いとこたちはパソコンが好きでした。これはほかのひきこもり者に会って話したときも、多く見られる傾向でした。それであれば「ひきこもり×在宅×IT」で、仕事や勉強ができる仕組みをつくればよいのではないか。在宅であれば、ひきこもり者の環境を大きく変えることなく、新しい一歩をふみ出すことができます。  多くのひきこもり者から聞くのは「働きたいけど外に出るのはつらい」ということだったこともあり、「ひきこもり者が安全・安心に働ける環境を、まずは在宅で用意する」ことを念頭に、2017年12月にめちゃコマがスタートしました。 安全・安心に自分のペースで長く働けるように  めちゃコマが大切にしているのは「ひきこもり者が、安全・安心に自分のペースで長く働ける」ことです。設立した当初はひきこもり者の特性である「まじめさ」に頼ってしまい、納期の厳しい仕事などを詰めこんでしまった結果、スタッフの半数以上が同時期に離職してしまうという「会社存続の危機」を迎えたこともありました。  それ以降はスタッフの「安全・安心」を最優先し、メンタルケアに関する面談を定期的に実施したり、仕事のペースやスケジュールを本人の希望や体調などを考慮して柔軟に対応するなど、「長く安心して働ける」環境を構築してきました。  私自身、ひきこもり者は基本的にまじめで心やさしく、そして会社名の由来ともなっている「きめ細かさ」を持ち合わせている「職人肌」の人が多いと思っています。めちゃコマは現在30人ほどのスタッフが全員、完全在宅でホームページ制作やプログラミング講座の講師などIT系の仕事をしていますが、みなさんそれぞれのスキルを活かし、フロンティアリンクグループのIT部隊として、だれ一人欠かせない貴重な人財≠ニなっています。  一方で、めちゃコマには無料で登録可能な「サポーター会員」という仕組みがあります。現在登録者が3000人近くいるのですが、これらの方々にも在宅での仕事をお渡ししようとすると、さまざまな課題があるのも事実です。  仕事確保の問題もあるのですが、なかでも比較的多く耳にするのが「自宅がそもそも安全・安心な環境ではない」という話です。家庭環境などの問題で、自宅から離れてみたいが、仕事がなかったり、貯蓄の関係で行動に移すのがむずかしいというケースです。このような方向けに、グループ会社で長崎県五島市に本社を置き、障害者の在宅雇用などを支援する「株式会社ニュータイプ・ラボ」では、コワーキングスペース兼シェアハウスである「五島ベース」を2021(令和3)年6月1日に五島市内にオープンしました。ここではニュータイプ・ラボの雇用のもと、最大5人の方がパソコンを使ったデータ入力などの在宅ワークを行いながら、シェアハウスで暮らして生活の見直しを行い、自活につなげていくことができます。  今後は「自宅を離れての在宅勤務」という形のひきこもり者のサポートも、グループ会社で連携していければと思っています。  めちゃコマも設立して3年が経ち、ようやく黒字化を果たしました。現状はフロンティアリンクグループ内の案件が多い状態ですが、今後3年で社外案件の比率を7割程度まで高め、「ひきこもり者が安全・安心に自分のペースで長く働ける」という理念はそのままに、より一般の会社に近づけていくことができればと思っています。ひきこもり者の潜在能力に在宅とITが組み合わされば、可能性は無限にあります。みなさまのご支援を、引き続きどうぞよろしくお願い申し上げます。 ※ 8050問題:80代の親が50代の子どもの生活を支える状態をなぞらえた、中高年ひきこもりの問題 佐藤 啓 (さとう けい)  1973(昭和48)年、北海道生まれ。東京工業大学工学部電気・電子工学科卒業、米ワシントン大学経営大学院(MBA)修了。1996(平成8)年、「セイコーエプソン株式会社」入社、ソフトウェア部門にて6年間のエンジニア経験の後、会社派遣による2年間の海外留学を経て、経営企画部門にて新事業育成などを担当。同時期に東京工業大学非常勤研究員も兼務。2006年、「フロンティアリンク株式会社」を設立。2017年、「株式会社ウチらめっちゃ細かいんで」を設立。2019年、長崎県五島市に障害者の在宅雇用を推進する「株式会社ニュータイプ・ラボ」を設立。2020(令和2)年、同社代表取締役に就任。 【P4-9】 職場ルポ 拠点ごとに雇用し、全社体制で支援と推進 ―株式会社グリーンテック(愛知県)― 自動車部品の品質管理などを手がける同社では、拠点ごとに障害者雇用が進む。 現場の取組みの差が課題だったが、全社的な支援体制で定着推進も図っている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ 株式会社グリーンテック 〒460-0003 愛知県名古屋市中区錦2-4-15 ORE錦二丁目ビル5F TEL 052-221-0230 FAX 052-221-0200 Keyword:身体障害、知的障害、精神障害、身体症状症、ハローワーク、障害者就業・生活支援センター POINT 1 社員投稿を機に、社長が自ら職場環境改善のプロジェクトを発足 2 課題を洗い出し、全社的に推進・支援する体制 3 社内の好事例や現場の声を活かし、職場環境を改善 自動車部品の品質管理  1996(平成8)年創立の「株式会社グリーンテック」(以下、「グリーンテック」)は、自動車業界を中心に部品の品質管理や検査受託事業などを手がける。いまではその拠点は、北海道から九州まで国内40カ所超にあり、さらにアメリカや中国にも広げてきた。  規模拡大とともに障害者雇用も進め、2020(令和2)年6月1日現在で全社員3290人(契約・パート含む)のうち障害のある社員は87人(身体障害23人、知的障害14人、精神障害50人)、障害者雇用率は2・6%となっている。  グリーンテックでは、全国に散在する拠点での事業が中心であることから、障害者雇用も拠点ごとに進めてきたという。創業者である中島(なかじま)宗幸(むねゆき)代表取締役会長の長男で、2015年から代表取締役社長を務める中島(なかじま)康雄(やすお)さんは、「急激な社員の増加により、最初は障害者雇用率を優先せざるを得ませんでした。事実上、現場任せにしていたこともあり、多くの失敗もありました」と明かしたうえで、こう話す。  「あらためて会社全体として、障害者雇用を進める目的や、職場環境のあり方を明確にする必要があると実感し、数年前から本腰を入れて検討と実行を重ねてきました」  2019年には全社的な方針が打ち出され、職場環境や支援体制の整備を積極的に進めたことで、部署や拠点によって差があった取組みも、足並みがそろってきているそうだ。  康雄さんの弟で、管理部門の取締役を務める中島(なかじま)将貴(まさたか)さんも「当社は、各自の技能や技術を提供していく品質管理のプロ集団だと考えています」としながら、「専門職を育てるような職場環境だと、障害者雇用はむずかしいのではないかと思われてきましたが、いまは、本人に合った仕事と職場環境で能力を発揮している社員が大勢います」と手応えを語る。  これまでの取組みの経緯と現状について、本社と拠点の現場を訪問し取材させてもらった。 スマイルプロジェクト  障害者雇用をめぐる職場環境の改善検討は、社員からの投稿がきっかけの一つだったという。  2017年、社長の康雄さんが「社内の風通しをよくしたい」と社内SNSを開設した。すると精神障害のある社員から「集中力をともなう作業は疲れやすいので、心身を休めるスペースをつくってほしい」という投稿が寄せられた。ほかにもメンタルサポートや職場のバリアフリー化に関する提案もあったそうだ。康雄さんがふり返る。  「それまで当社の仕事のやり方や職場環境は、全社員をひとくくりにとらえていたように思います。障害のある社員が増えてくるなかで、同じ社員として公平に働きやすい環境を、しっかり考えなければいけないと実感しました」  そこで2018年、障害のある社員もいきいきと働ける職場づくりを目ざす「スマイルプロジェクト」が、康雄さんの音頭で立ち上げられた。  同じころ、社内では長期経営計画で売上拡大の方針が示され、社員数も大きく増加していくことが予想された。2017年に大手自動車部品メーカーから人事部長として転職し、現在は管理本部長を務める堀野(ほりの)政範(まさのり)さんは「社員数の増加にともない、法定雇用率を守っていくためには、障害者雇用の取組みを根本から見直す必要があると考え、当社の現状を詳しく調べることにしました。その結果、これまで障害者雇用を各拠点・現場主導で進めてきたことにより、その取組みにさまざまな差が出ていることがわかりました」と話す。  グリーンテックの障害者雇用率は2014年に2.6%になったが、その後は増減をくり返し、2018年には2.1%と未達成状態に。その裏では、職場定着率が65%に低下していたという。実態調査と分析を行い、浮かび上がってきた課題は「障害者の働く環境整備が拠点任せ」、「(障害者を受け入れる)職場への理解活動が不足」、「2016年の障害者雇用促進法改正に未対応」などだった。  一方で、近い将来法定雇用率が2.5%になることも想定し、増加する社員数に合わせて数十人の障害者の雇用が試算上で必要だとわかった。可能な採用人数や切り出せる業務などを拠点ごとに調査しつつ、他企業も訪問した堀野さんは、こう語る。  「どの企業でも最初は、地道に業務をつくり出しながら時間をかけて進めていました。あらためて私たちも、着実に環境整備に取り組んでいこうと決めました」  洗い出した課題や対策を整理し、2019年1月に「障がい者雇用施策アクションプラン」がまとまった。このアクションプランでは、合理的配慮などの内容を再確認し、相談体制の整備や障害者職業生活相談員の配置、外部の支援機関との連携強化をあげている。  また、「経営者」、「人事担当者」、「受入れ部署」の役割についても明示。社員へのメッセージ発信や採用計画策定、採用活動、受入れ部署との調整、現場での教育訓練や労務管理などを分担してもらい、実行については障害者職業センターや障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所などとの連携も提案している。  同年4月には「障がい者雇用方針」を社内外に公表した。康雄さんは「それまで拠点ごとに進めていた職場環境の整備を、会社全体で一緒に取り組んでいこうという方針を、全社員に向けて明確に示しました」と話す。 全社的な取組み推進  具体的な整備は、管理本部内の「働き方改革推進プロジェクト」が担当した。堀野さんと、同プロジェクトの主査を務める村井(むらい)雅人(まさひと)さんに、プロジェクトのおもな内容を説明してもらった。 【社内の周知と理解】  社内向けに独自のガイドブックを作成。社内の障害者雇用率や障害者雇用納付金の推移、障害者雇用の目的、方針内容などをまとめた。各部署・拠点の責任者に向けた勉強会では、小テストを実施し90%以上の理解を図った。  精神障害のある社員が増えている状況をふまえ、ハローワークから講師を招いた研修を役員クラスや部門長に向けて実施。2021年度は各拠点のマネジャー、職長、事務員クラスの研修も計画している。 【相談窓口の設置】  障害のある社員だけでなく、職場の責任者からの相談なども受けつける「スマイルコール」を2019年7月に設置。働き方改革推進プロジェクト専用の携帯電話に直接つながる形となっている。「いろいろな方から電話が来て、必要性を実感しています。まず第三者としてじっくり話を受けとめることを大事にしています」と村井さん。聞くだけで済むこともあるが、社内で対応したり、外部の支援機関と連携をとったりしながら解決につなげている。 【社内好事例の紹介】  すでに障害者雇用を積極的に進めていた4拠点を調査し、好事例集を作成。ハンドブックにして社内関係者に配布したほか、拠点を回ってアドバイスもした。堀野さんは「事例の内容を外部機関に評価してもらったところ、じつはかなりよい取組みをしていることもわかり、自信を持って紹介できました」と語る。  その一つ、富士営業所の事例では、取組み内容のほか、さまざまな気づきやアドバイスが紹介されている。例えば採用活動について、「積極的に支援機関とつながり、障害者雇用に関するセミナーにひたすら参加して情報収集と人脈づくりに奔走」、「結果として会社の知名度向上につながり、応募者も集まる」、「特別支援学校とのパイプは絶対に必要」などと助言。  精神障害のある社員については「重要なのは『心の安定』であり、常に安心できる環境が一番望ましい。素を出せる環境が必要」、「取引先の言葉を悪くとらえ悩みはじめることもあるが、早期に大丈夫だと感じられるよう解釈の手伝いをする」といった気づきのほか、「身体障害のある社員を取引先に派遣してクレームが入ったときは、作業遂行能力を見てもらい、了承を取りつけたこともあった」など、エピソードも紹介。全体として「周囲も、障害のある社員のがんばりは刺激になり、支援をしてくれるようになった」、「作成したマニュアルがとてもわかりやすく、教える側のレベルも向上した」など職場内の活性化を伝えている。 身体症状症への配慮  社員のみなさんにも話を聞くことができた。まずは本社の人事部人事グループの山田(やまだ)晃史(こうじ)さん(34歳)。就労移行支援事業所を経て2017年11月に入社した。以前は税務署などで短期就労をしていたが、人とのかかわりで苦労が多いことに気づき、病院に行ったところ、軽度知的障害と、身体の不調が続いてしまう身体症状症(※)の診断を受けたという。  山田さんは「僕の場合は、知っている人がいるエリア内のトイレに行けないという症状があります」と明かす。トイレは、上司に告げたうえで別フロアや別棟を利用するが「事情をわかってくれている社員さんばかりなので安心できます」と笑顔で話してくれた。最近は、毎日服用していた胃腸薬を飲まずに済むようになり、突発的な欠勤もなくなっているそうだ。  「最初のころは、指示されるたびに『できません』というばかりでした」とふり返る山田さん。いまではデータをエクセルにまとめる業務のほか、書類のチェック作業も担当している。「3行以上の文章を読解するのが苦手なので、仕事の手順を短文の羅列や表にしてもらったりしています。いまは音読しながら長い文章も理解できるようになってきました」と話す。コロナ禍で在宅勤務が増えたが、気がねなく音読しながら仕事のスキルアップに努めているそうだ。  山田さんのサポートにあたるのは、人事部人事グループのグループ長を務める出水(でみず)大介(だいすけ)さん。山田さんとは会社説明会で出会って以来、同じ職場だという。  文章の理解が苦手そうだということは、出水さんもすぐに気づき、説明の仕方を変えるなど工夫を重ねてきた。一方で山田さんも、新しい業務を頼まれたときは、猶予期間をもらい、自発的に就労移行支援事業所に行ってスキルを習得してきたそうだ。出水さんが話す。  「いまは『こういう特性のある社員』といった感じで職場に溶けこんでいます。しかも山田さんは、チェック業務について周囲からの信頼が厚いですね。コミュニケーションが苦手といっていましたが、最近は、自分から同僚に『なにかできることはないか』と声がけし、実際に業務依頼も増えています」 現場の声で階段を改修  障害者雇用が進む拠点の一つ、小牧営業所(愛知県丹羽郡大口町)も取材させてもらった。検査室では、いすに座って拡大鏡をのぞきながら小さな金属部品を検査する社員たちの姿があった。  そのなかの一人、伊藤(いとう)奈緒(なお)さんは、疾病による左下肢機能全廃の障害がある。2017年にグリーンテックに転職する前も、同様の職種で働いていたが「立ち作業が多いうえに、建物が古くてトイレのバリアフリー化もされず、苦労しました。ここは手すりつきの洋式トイレもあると聞き安心しました」と話す。  とはいえ入社後に、ハード面での困りごとが見つかり、改修してもらった。例えば従業員用の入口にある階段の手すり設置。対応した村井さんによると、「もともとここは別会社の建物を改装したのですが、階段に手すりがないのは、私たちにとっても危険だと気づきました」という。伊藤さんも「手すりを使ったほうが力をかけやすく、安心して昇降できます」と喜ぶ。  あらためて点検すると、ほかにも建物内の階段や手洗いコーナー、下駄箱などに手すりの設置や固定強化が必要な場所が見つかったという。「伊藤さんだけでなく、ほかの社員や来客のためにも、改修すべきことはまだまだあります」と村井さんはいう。  伊藤さんのサポート役を務めるリーダー職の佐々木(ささき)優(ゆう)さんは、「伊藤さんは入社後も、自分の障害について隠すことなく、いろいろなことを話してくれたので、私たちもサポートしやすかったですね。周りへの声かけもスムーズにいきました」と話す。  「人よりも歩く速さなどが何倍も遅いので、なるべく迷惑をかけないようにがんばりたいです」と話す伊藤さんは、先日、初めて顧客先に派遣されて仕事を任されたという。佐々木さんは「彼女は手作業が速いだけでなく、なにごとにも意欲的に取り組んでくれます。今後も、チャレンジ精神を活かしてあげたいですね」と話す。 特別扱いされない  もう1カ所、障害者雇用が進む豊橋営業所とテレビ会議システムでつなぎ、3人の方に話を聞かせてもらった。  2013年入社の鈴木(すずき)貫(とおる)さん(31歳)は、脳性麻痺による歩行困難と上肢機能に軽度の障害がある。「もともと大学で法律を学んでいましたが、親の病気を機に2年次で中退し、ハローワークの紹介で就職しました」と明かしてくれた。  両手の握力が弱いため、職場では重い物などを運べないことを理解してもらっている。コンデンサーなど基盤部品の検査を担当しているが、顧客先に派遣されることもあるそうだ。  「職場では、周囲から、よい意味で特別扱いされないのが心地いいですね。障害があることをいい訳にせず、いろいろな仕事をしていきたいです」と話す鈴木さんは、体力づくりをかねて毎日40分の自転車通勤を続けている。  2020年に入社した小野田(おのだ)龍也(りゅうや)さん(19歳)は、特別支援学校時代の実習を経て入社した。「自分はプラモデルづくりが好きで、細かい作業も得意なので、合っているなと思いました」とふり返る。  自動車の小さな端子部品の検査を担当し、8000個入りの箱を一日3箱ほどこなす。光のあて具合で傷などを見つけるが、先輩社員から「リズム感をもって、テンポよくやると不具合を見つけやすいよ」と教わったそうだ。「みなさん、わかりやすく作業を教えてくれます。最近は逆に、作業が速すぎると注意されるので気をつけています。この先は、もっと顧客先の現場に行けるようにがんばりたいです」と意気込みを語る。  そんな小野田さんは、入社2年目にして現場デビューを果たした。所長の中村(なかむら)勉(つとむ)さんは、「1年間ほぼ休まず真面目に取り組んだ働きぶりと本人の意欲をみて、4人チームの1人として半月間、派遣しました。それにより、自信がついたと思います」と話す。  豊橋営業所は全社員108人のうち、障害のある社員は11人いる。「いまでは障害の有無を意識しないほど溶け込んでいるので、分け隔てなく指導しています」という中村さんは、「現場としては、利益追求とともに一人ひとりのスキルアップや、やりがいの両方に目を向けつつ、仕事とのマッチングを重視しながら障害者雇用を進めていきたいと考えています」と抱負を語る。 障害者雇用への理解  あらためて社長の中島康雄さんに、現在の課題と今後について話してもらった。  「社内における障害者雇用への理解は、正直、まだまだ不十分かもしれません。その一方で、障害のある社員の価値観もそれぞれ違っていて、『みんなと同じように扱ってほしい』という人もいれば、『ハンデをしっかり認めてほしい』という人もいることがわかってきました。一般社員も含め、相互理解を深めながら『いかに社員全員が働きやすい職場にしていくか』が大きなテーマになっています」  働く向上心の高い社員も少なくないことから、「本人の意欲を、きちんと活かせる職場にしたいというのが本心です」と康雄さんは力を込める。  「『障害があるからこの作業はできないだろう』というのは、やはり偏見ですよね。世の中を見渡せば、いろいろなチャレンジをしている障害のある方たちがいます。社内でも、同じように夢や目標を持っている人たちのサポートをしたい。私はいま、その入口を少しつくっただけですが、今後も社員みんなとともに、どんどん広げていけたらと思っています」 ※身体症状症:自覚症状に見合った検査結果や医学的所見がないにもかかわらず,頭痛や吐き気・めまいなど身体の不調が長期間にわたって続く疾患 写真のキャプション 株式会社グリーンテック代表取締役社長の中島康雄さん 管理部門の取締役を務める中島将貴さん 働き方改革推進プロジェクト主査の村井雅人さん 管理本部長の堀野政範さん (写真提供:株式会社グリーンテック) 人事部人事グループ長の出水大介さん 人事部人事グループで働く山田晃史さん 金属部品を検査する伊藤奈緒さん(左) 階段に設置された手すり 伊藤さんをサポートする、リーダー職の佐々木優さん 豊橋営業所長の中村勉さん※ 入社2年目の小野田龍也さん※ 豊橋営業所で働く鈴木貫さん※ (※写真提供:株式会社グリーンテック) 【P10-11】 クローズアップ コロナ禍を乗り越えて 〜新しい働き方を問う〜 第3回  新型コロナウイルス感染症の感染拡大により、障害者雇用の現場でもテレワークなどの新しい勤務形態を模索する企業が増えています。今回は、人材サービス事業などを行うパーソルグループの特例子会社で、多くの精神障害や発達障害のある社員が活躍している「パーソルチャレンジ株式会社」にお話をうかがい、テレワークの取組み事例について紹介します。 監修:本誌編集委員 松爲信雄(東京通信大学教授) コロナ禍で導入したテレワーク  パーソルグループの特例子会社として、グループ内外の企業から事務などの業務を受託している「パーソルチャレンジ株式会社」では、多くの障害のある社員が活躍しています。経理業務グループには約50人の社員が所属し、そのうち約半数が障害のある社員です。そして、そのほとんどが精神障害や発達障害のある方です(2021〈令和3〉年5月取材時)。  2020年4月の緊急事態宣言の発令以降、経理業務グループでは、テレワークを取り入れながら毎日の業務に取り組んできました。  「所属メンバーの全員が、テレワークとオフィス勤務をおおよそ半分ずつ実施しています。もともと1人の社員が複数の種類の業務を担当しており、そのなかに『在宅でもできる業務』と『出社が必須となる業務』があったため、わりとスムーズに対応できたと思います。チャットやビデオ通話などのできるオンラインコミュニケーションツール(図1)を普段からよく使用していたことも役立ちました」と、経理業務グループ第1チームチームリーダーの丸井貴子さんは話します。 在宅でもできるように業務フローを見直す  一方で、細かな工夫もしてきました。例えば、図2にある請求書関連の業務では、三つのステップをふんだ後に承認のプロセスがあり、月末に支払いをしていましたが、テレワーク開始にあたり、ステップ3を承認の後に変更しました。  「請求書の原本のチェックは出社して行うのですが、支払いのある月末までに完了すればよいと変更したことで、出社する日数を減らすことができました。一般的に、経理は出社しなくてはできない業務といわれることが多いのですが、このように業務のフローを見直すことなどにより、在宅でできる仕事を増やす余地はあるのではないかと思います」と丸井さんはいいます。 必要に応じて、個々にフォロー  「テレワークの導入は、精神障害や発達障害のある人が多い経理業務グループのメンバーには、メリットを感じることが多かったです」と、経理業務グループ第1チームサブリーダーで、ご自身も精神障害のある岡本拓也さんは語ります。  「他人との関係性に気を遣うことなく、マイペースに仕事ができる点がよいと感じました。いままで、体調が悪いと欠勤になっていた人が、在宅ならば業務ができるという場合もあり、出勤率が前より高くなった例もあります」  フォローが必要だと感じている人や希望者には、毎日決まった時間に、音声通話やビデオ通話で、岡本さんと1対1での面談を実施。困りごとがないかなどを確認しているそうです。  「何かあったときにいつでもすぐに相談できる人がいること、それが可能な関係性ができていることが大きな安心材料になっていると思います」 障害者雇用のノウハウがテレワークにも役立つ  同社がスムーズにテレワークを実施できている背景には、障害者雇用の仕組みづくりでつちかったノウハウも役立っていると、丸井さんは分析します。  「当社では以前から、業務一つひとつを、作業レベルに徹底的に分解するということが行われていて、手順、判断基準などが、マニュアルなどで“見える化”されています。障害という働くうえでの制約や、個々の障害特性を前に、どうしたらうまく業務が進められるのかという視点で取り入れられてきた仕組みなのです。このことが、スムーズな業務フローの見直しにつながるなど、テレワークの実施時にもよい方向に働きました」  同社の取組みには、障害のある人がテレワークで活躍するためのヒントがたくさん見られ、多くの企業で取り入れられそうです。 【取材先プロフィール】 パーソルチャレンジ株式会社 (東京都港区) ◆事業内容 障害者専門の人材紹介、就労移行支援、委託訓練、教育・アセスメント、公共事業受託、事務アウトソーシングなど ◆従業員数 966人。うち障害のある社員は535人(身体92人、知的41人、精神402人)で、グループ内企業や外部企業からさまざまな業務を受託する「事務アウトソーシング事業」を中心に従事(2021年4月1日現在) ◆実績 ・2018年、厚生労働省委託事業『障害者のサテライトオフィス雇用推進マニュアル―2019―』を作成 ・2020年、(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構「令和2年度 障害者雇用職場改善好事例」で最優秀賞(厚生労働大臣賞)を受賞 図1 オンラインコミュニケーションツールの画面 チャットやビデオ通話などで、連絡を取り合う。「直接顔を合わせたときよりも、質問などがしやすい」という声もきかれる (提供:パーソルチャレンジ株式会社) 図2 業務フローの変更例 テレワーク導入前 ステップ1:金額・日付・社名をチェック ステップ2:科目・源泉税をチェック ステップ3:請求書の原本を確認 ↓ 承認 ↓ 支払い(月末) テレワーク導入後 ステップ1:金額・日付・社名をチェック ステップ2:科目・源泉税をチェック テレワークで行うことができる作業 ↓ 承認 ↓ ステップ3:請求書の原本を確認 出社時に行う作業 ↓ 支払い(月末) ※パーソルチャレンジ株式会社の資料より編集部作成 写真のキャプション 丸井(まるい)貴子(たかこ)さん エンプロイメント・イノベーション本部 PHD&SOL受託事業部 経理業務グループ 第1チーム チームリーダー 岡本(おかもと)拓也(たくや)さん エンプロイメント・イノベーション本部 PHD&SOL受託事業部 経理業務グループ 第1チーム 【P12-14】 JEEDインフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 『障害のある方への合理的配慮の提供』 ホームページで検索できます! ホームページ「障害者雇用事例リファレンスサービス」 JEED リファレンス 検索 QRコードはこちら  2016(平成28)年4月から、事業主には、障害者の募集・採用時および採用後に、障害の特性や本人の希望・ニーズに応じて個別に配慮する『合理的配慮の提供』が義務づけられています。  しかし、「どのような配慮をすればよいのかわからない」という事業主の方や、「企業から相談されたが、どのような支援を行えばよいか迷う」という支援機関の方もいらっしゃるのではないでしょうか。  当機構が運営するホームページ「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、実際に『合理的配慮の提供』を行っている企業の事例(合理的配慮事例)を紹介しています。また、そのほかにも、さまざまな創意工夫を行い障害者雇用に積極的に取り組んでいる企業の事例(モデル事例)を掲載しています。  今後も、企業や支援機関のみなさまに役立つ事例を追加掲載していきますので、ぜひご利用ください。 業種や従業員規模、障害種類別などの条件を設定して事例を検索することができます。 合理的配慮事例を検索する場合は、こちらのチェック欄を選択してください。 <利用者アンケートから> ・「募集・採用、定着までの経緯を知ることができた」 ・「障害者の担当業務を写真で知ることができた」 「障害者雇用事例リファレンスサービス」では、よりよいサービスの提供のため、みなさまのご意見等をおうかがいしています。 ホームページからアンケートへのご協力をお願いいたします。 事例で見る∞動画で見る ホームページで見られます! 動画「みんな輝く職場へ〜事例から学ぶ 合理的配慮の提供〜」 JEED みんな輝く 検索 QRコードはこちら  「合理的配慮とは何か」、「どのように取り組めばよいか」と疑問をお持ちの事業主の方にもわかりやすく、『合理的配慮の提供』に関するポイントの解説などを紹介しています。  当機構ホームページでご覧いただくことができるほか、DVDの無料貸出も行っていますので、ぜひご活用ください。 【視覚障害】就労支援機器の活用 【精神障害】社内相談支援体制の整備 【発達障害】企業在籍型ジョブコーチの活用 障害種類別の取組みを専門家がわかりやすく解説しています。 ◆上記動画の内容およびDVD貸出、「障害者雇用事例リファレンスサービス」に関するお問合せ 雇用開発推進部 雇用開発課 TEL 043-297-9513 FAX 043-297-9547 中央障害者雇用情報センターのご案内  民間企業での障害者雇用の経験を有する障害者雇用支援ネットワークコーディネーターが、企業の規模・業種の特性に応じた雇用管理や『合理的配慮の提供』などに関する相談・援助を行っています。 例えば… ・障害者の従事する職務を用意するにはどうしたらよいか ・賃金体系や就業規則、採用後の処遇、昇進昇格などはどのようにしたらよいか ・採用後の職場定着、健康管理において配慮することは何か ・特例子会社を設立したいが、どのように準備を進めたらよいか ・障害者雇用を進めている他社の状況を知りたい  など  まずは中央障害者雇用情報センターにお問い合わせください。 TEL 03-5638-2792 E-mai syougai-soudan@jeed.go.jp 2021年度(令和3年度)就業支援課題別セミナー 「視覚障害者への就業支援の最前線」のご案内 受講料無料  当機構では、労働、福祉、医療、教育などの分野で障害のある方の就業支援を担当している方を対象として、新たな課題やニーズに対応した知識・技術の向上を図るための「就業支援課題別セミナー」を実施しています。  令和3年度のテーマは、「視覚障害者への就業支援の最前線」です。  みなさまの受講を心よりお待ちしています。 内容 ■視覚障害者支援の最新動向とコロナ禍における就業状況 ■支援機器・ソフトウェアを活用した視覚障害者に対する職業訓練および就労支援 ■就労支援機器の活用 ■視覚障害者の心理と支援ー中途障害を中心にー ■視覚障害者への職場定着支援 対象者 労働、福祉、医療、教育などの関係機関において就業支援を担当する方 日程 令和3年11月4日(木)〜11月5日(金) 開催方法 オンラインによる開催を予定しております。 研修のご参加にあたっての、インターネット通信料等は受講者各自の負担となります。 お申込み ◎申込方法:「就業支援課題別セミナー受講申込書」に必要事項を記入し、申込受付期間内にメールでお申し込みください。 ◎受講申込書・カリキュラム:当機構ホームページからダウンロードできます。 ◎申込受付期間:令和3 年8月26日(木)〜10月1日(金) ◎受講決定の通知:申込受付期間終了後、受講の可否についてメールにて通知します。詳細は8月上旬までにホームページに掲載しますので、ご確認ください。 就業支援課題別セミナー 検索 ◎お問合せ先 職業リハビリテーション部 研修課 TEL:043-297-9095 E-mail:stgrp@jeed.go.jp URL:https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/seminar/kadaibetsu.html 【P15-18】 グラビア 明るく元気に助け合い、意欲を持って働ける職場 株式会社東急ウィル 元住吉事務所(神奈川県) 取材先データ 株式会社東急ウィル 元住吉事務所 〒211-0025 神奈川県川崎市中原区木月3-36-1 TEL 044-431-5697 写真・文:官野 貴  「東急株式会社」の特例子会社である「株式会社東急ウィル」の元住吉事務所では、知的障がいのある社員が、鉄道事業関連施設などの清掃作業や、リネン類のクリーニング業務を行っている。  「行ってきます」、「行ってらっしゃい」。清掃班が元気な挨拶(あいさつ)を交わして向かったのは、東急電鉄で働く運転士や車掌、車両の整備を行う職員が利用するシャワー室やトイレ、事務所などだ。  タオルを使い分けながら洗面台の鏡を磨いていた池田(いけだ)佑司(ゆうじ)さん(24歳)(15ページ写真)は、「汚れがきれいになるとうれしい。お客さまに喜んでもらいたいです」と語る。同社では施設の利用者を「お客さま」と呼び、お客さまが施設を気持ちよく使えるよう、ていねいな清掃を行っている。  吉村(よしむら)洵紀(じゅんき)さん(25歳)は以前、清掃作業中に洗面台のグラつきに気づき、「落ちたら危ない。お客さまがけがをしてはいけない」と事務所へ報告。事故を未然に防いだとして会社から表彰された。  運転士などが利用する仮眠室のシーツや掛布団カバーなどのクリーニング業務では、シーツなどを大型洗濯機に投入する際、クリーニング班全員が声をかけ合いながら協力し、作業にあたっている。同社のモットーは「明るく元気な挨拶をしよう」、「仲良く助け合い、楽しく仕事をしよう」である。入社12年目の皆川(みなかわ)大樹(ひろき)さん(29歳)は、「班のみんなと協力し合うことを心がけています」と語る。  「いろいろな作業をこなせる皆川さんは、あこがれの先輩です」と話すのは、入社6年目の小磯(こいそ)尚悟(しょうご)さん(24歳)。二人はクリーニング用機器の注油や水抜き作業のメンテナンスを任されるなど、上司からの信頼も厚く、クリーニング班を引っ張る存在として、意欲を持って業務にあたっている。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、株式会社東急ウィル様の希望により「障がい」としています 写真のキャプション 清掃に使うタオルなどを分別し収めることができるウエストポーチ 建物内の見通しが悪い場所にはカーブミラーが設置されている カーブミラーを指差喚呼し、安全を確認したうえで進む 清掃用具を使い分けながら、シャワー室の壁面を磨く吉村洵紀さん 洗濯、乾燥を終えた掛布団カバーを大型アイロン機にセットする皆川大樹さん 一日あたり約1,300枚ものリネン類を仕上げる カバーに自動でアイロンがかけられ、折りたたまれる 折りたたまれたカバーの仕上がりを確認する小磯尚悟さん 事務所の清掃では、お客さまの業務の支障とならないように細心の注意を払いながら作業にあたる 車庫をバックに仕事への意気込みを見せてくれた(左から)池田さん、吉村さん、小磯さん、皆川さん 【P19】 エッセイ 配慮は人のためならず 【第1回】 〜コロナ禍と働き方改革〜 株式会社Ds's(ディーズ)メンタルヘルス・ラボ 代表取締役 (精神科医・産業医) 原 雄二郎 原 雄二郎(はら ゆうじろう)  精神保健指定医、日本精神神経学会専門医、日本医師会認定医。  金沢大学卒業後、東京女子医科大学病院、東京都立松沢病院、東京都立広尾病院勤務を経て、東京大学大学院に入学。卒業後、同大学院医学系研究科精神保健学分野客員研究員。同教室と連携し、鄭理香とともに「株式会社Ds’sメンタルヘルス・ラボ」を設立、代表に就任し、現在に至る。  臨床診療とともに、産業医・顧問医や研修講師として、職場のメンタルヘルス対策の支援を行っている。 コロナ禍によるリモートワークの広がり  新型コロナウイルス感染症の拡大により社会が大きく変化した。わが国の働き方は、もしかすると法律ではなく、このウイルスによって大きく改革されたのかもしれない。  大きな変化の一つは、なんといってもリモートワークの拡大だろう。最近、いろいろな人に、「こんな世の中になってしまって不調者が増えているのではないか」と聞かれることがある。その答えは、イエスでもあり、ノーでもある。  それは単に専門性の話だけではなく、実務上の話でもある。私は精神科医でもあり産業医でもあるため、ある日は外来で診療を行い、またある日は企業の健康管理を行っているというわけだ。  つまり、先ほどの問いに戻ると、「世間一般で感染に対する恐怖や、自粛による疲れなどが原因で不調を訴える人」は、外来でいえばたしかに増えている。また、職場であっても「電車に乗るのが恐怖でストレスだ」や「ここ数カ月、一度もオフィスに出ていなくて、ちょっとしたことが聞けなくてストレスが溜まる」といったことは定番の悩みでもある。そうすると、イエスばかりではないかとなるのであるが、実は、そうでもない人たちが少なからず存在している。 リモートワークが好影響をもたらす場合  例えば、「うつ病を発症し休職したが復職した人」であれば、復職したとはいえ、まだまだ不安が強く、ちょっとした負荷に弱い一面があったりする。いわば、「何とかしがみついて日々の仕事をこなしている」ような状態である。それが、リモートワークが進んだことにより通勤という負荷から解放され、それまで以上に体調がよくなったというケースだ。  ほかにも、発達障害やその特性などがある人たちにも好影響をもたらした。特に、ASD(自閉スペクトラム症)の傾向がある人は、元来、職場内のコミュニケーションが苦手だったり、あいまいな指示や口頭での指示は伝わりにくい。それがリモートワークになるとどうだろう。多くの指示はメールによってなされ、他者とかかわる機会は最小化になり、職場特有の「空気」を読まなくて済むようになる。例えば聴覚過敏があり、オフィスでは不快に感じるさまざまな音に悩ませられていたとしても、自宅にはすでに快適な空間が用意されていたり、あるいは、上司の指摘などを恐れずに、大きなイヤーマフだってし放題である。こうして、余計なものに妨害されることなく、日々の作業に集中できる環境がすでにあるわけである。  さらに、被害妄想を抱いてしまう統合失調症や妄想性障害がある人たちにも好影響をもたらしている。これらの障害がありながら仕事を続けていくのは困難な場合がある。入院を要したり、休職をするほどの重症ではなくとも、体調によっては、職場の人などから迫害を受けているという妄想に苦しめられ、オフィスにいるのが苦痛になる場合がある。もちろん、病状にもよるが、経験的には、それまで就業を続けられてきた水準の場合、自宅では妄想を意識することなく、比較的安心して過ごせることが多い。リモートワークというのは、職場内における刺激を低減し、症状を悪化させないという点で好ましいのだ。 アフターコロナはスペクトラム型で  それでは、アフターコロナの働き方は、精神障害のある人の視点ではリモートワーク中心が望ましいのだろうか。実際に、このたびの変革を機に、基本的に永続的にリモートワークを打ち出している企業もあるようだ。でも、この答えは、非常にむずかしい。先に述べたように、リモートワークが原因で不調になる人も、逆に改善する人も混在するからだ。同じ障害であっても、その人によって、さらには同じ人であっても、仕事内容や時期によって正解が変わってくるものだ。ということで、アフターコロナは「出社かリモートか」ではなく、多様な働き方を許容する「スペクトラム型」で、ぜひお願いしたいものである。 【P20-25】 編集委員が行く 特例子会社のあるべき姿・キヤノンモデルの紹介 キヤノンウィンド株式会社、大分キヤノン株式会社(大分県) ホンダ太陽株式会社 社友 樋口克己 取材先データ キヤノンウィンド株式会社 〒870-0292 大分県大分市迫564-1 TEL 097-524-1122(代表) 大分キヤノン株式会社 〒873-0292 大分県国東市安岐町下原710 TEL 0978-67-2111(代表) FAX 0978-67-2297 編集委員から  コロナ禍で、県外への移動が自粛されるなか、地元大分県の素晴らしい企業を取材できたこと、また、その一部ではありますが、みなさんへ紹介できたことは、手前味噌にはなりますが、よかったなと思っております。 写真:官野 貴 Keyword:特例子会社、製造業、就労移行支援事業、知的障害 POINT 1企業と社会福祉法人がそれぞれの得意分野を活かし設立 2  障害者雇用が親会社に与えるプラスの影響 3 「人」と「場所」が整った、特例子会社のあるべき姿  最近はスマートフォンが一般的となったが、道行く人に「デジタルカメラ」と聞けば出てくるメーカーは「キヤノン」であろう。放送用の4Kや8Kといった最先端のデジタル放送機器、プロのカメラマンが使用する一眼レフカメラ、さらには一般の家庭でも普及しているインクジェットプリンターなど、だれもがその便利さを体感していて、人が暮らしていくうえで欠かせないものを世界に供給し、世界中に工場がある日本のグローバル企業の一つである。  今回は、私の地元でもあり、大分県にあるキヤノンの工場の一つ、大分キヤノン株式会社(以下、「大分キヤノン」)と、その特例子会社である「キヤノンウィンド株式会社」(以下、「キヤノンウィンド」)を取り上げることとした。  キヤノンウィンドの特出するものとして、「地元の社会福祉法人との合弁会社」であるという点があげられる。一般的な特例子会社は、企業が独自でつくる場合が多いのだが、キヤノンウィンドは元々、社会福祉法人の就労移行支援事業先として大分キヤノン内で企業実習を行っていたことから、このような形を取っている。 新型コロナウイルス感染拡大第4波  国内で、新型コロナウイルスの感染が確認されてから約1年半が過ぎたが、収まるどころか次々と変異株が現れ、世界中を席捲している。切り札といわれる「ワクチン接種」も、日本は世界から大きく後(おく)れを取り、やっと高齢者への接種が本格化してきた段階である。取材時の5月は、東京をはじめとする9都道府県に緊急事態宣言が出されており、県外への移動自粛が求められていることから、以前から訪問したいと思っていた、地元大分のキヤノンウィンドを取材することとした次第である。  キヤノンウィンドは冒頭で紹介した通り、大分キヤノンの特例子会社である。大分市内にある大分キヤノン大分事業所へは、今回の取材のアテンドをしていただいた当機構大分職業能力開発促進センターの高柳順一さんにも同行をお願いし、カメラマンの官野さんと3人で訪れた。  キヤノンウィンドは、大分キヤノン大分事業所の敷地内に同居している。いまはコロナ禍ということもあり、たいへん厳しい感染症対策が取られていた。 設立の経緯  そもそも、キヤノン株式会社(以下、「キヤノン」)の創業者である故・御手洗(みたらい)毅(たけし)氏が大分県の出身であることから、大分県内には何カ所ものキヤノンの工場がある。また、大分県は「日本の障害者雇用の発祥の地」ともいわれる。そこにキヤノンの特例子会社がある。何か因縁めいたものを感じるのは私だけだろうか。  キヤノンウィンドの歴史は、2007(平成19)年に地元の「社会福祉法人暁雲(ぎょううん)福祉会」(以下、「暁雲福祉会」)が就労移行支援事業として、実習生を大分キヤノンの工場で実習させたことから始まる。  暁雲福祉会の常務理事であり、キヤノンウィンドの取締役も兼務する丹羽(にわ)和美(かずみ)さんは、当時をふり返り、「実習当初から、当法人と大分キヤノンは実務レベルで常に話し合いの機会を持ってきました。『企業と福祉』というフィールドの違いは大きく、ときに日に数回、数時間も知的障害のある方の雇用のむずかしさについて率直に議論を重ねました。そのようななかで、互いの強みを活かし、弱みを補うフルサポート体制が生まれ、企業と社会福祉法人それぞれが得意分野での役割を果たし、企業として継続を図ることで一致しました。私自身にも『知的障害のある方々の一般就労を叶えたい』という強い願いもありました」と語る。  また、大分キヤノン代表取締役社長であり、キヤノンウィンドの代表取締役社長を兼務する増子(ましこ)律夫(りつお)さんは「キヤノンとしては法定雇用率達成が目的、暁雲福祉会は一般就労が狙い、その二つが合致したのも事実です」と言葉を加えた。  翌年には、実習生のなかから5人を採用し「キヤノンウィンド株式会社」を設立した。2009年に特例子会社の認定を受け、今日に至っている。現在では障害のある従業員24人のうち、知的障害のある人は22人(うち、重度14人)、精神障害のある人は2人である。大分キヤノンからは業務サポート、生産管理スタッフが、暁雲福祉会からは業務および会社生活全般を支援する福祉職が出向している。 現場で  大分キヤノンの業務は、カメラなどの生産から、あらゆる映像関連の総合事業、さらには最先端技術の加工・自動技術までと、管理業務全般で成り立つ。キヤノンウィンドは、そのカメラ生産の前工程を中心として、大分キヤノンのメインラインに送り出す役割を持っている。  当初の業務は3種類だったが、現在では50種類以上へ増え、さらに職域拡大を図っている。業務内容ボードで紹介をしていただいたが、@詰替え作業、A組付け作業、B計数作業、C貼付け作業の、おもに四つの作業を行っている。それぞれ個々に工程マスターのマトリックス表をつくり、達成度・習熟度が一目でわかるように掲示し、作業を数値化・見える化している。採用に当たっては採用前の企業内実習を重視し、企業および社会への適応を判断している。  職場長の渕上(ふちかみ)恵美子(えみこ)さんは大分キヤノンからの出向である。2011年からキヤノンウィンドを担当してきた。  「当初は障害特性の理解ができず、作業性の見極めが特にむずかしかったです。いまでは全員の作業性が理解できて、仕事を導入しやすくなりました。月1回の大分キヤノン生産会議において、キヤノンウィンドの仕事量を確保する仕組みになっています。大分キヤノンの生産管理部門がキヤノンウィンドの窓口となっており、生産計画が立てやすいです。継続的な作業創出を行いキヤノンウィンドが企業として成り立つことが、大分キヤノンに対する貢献ではないでしょうか」と想いを語ってくれた。  また、キヤノンウィンドでは、大分キヤノンの生産技術陣と協同しながら「できそう」を「できる」へ転換するさまざまな「治工具」(※)をつくり出し、職域拡大を進めている。そのすべてが「からくり」によるもので、安全性・品質を重視したわかりやすい、飽きさせないコンセプトでつくられている。  ネーミングも面白い。「ホットサンド」、「ホッチキチ」、「ミッションインプッシュプル」など、改良された治工具が並ぶ。ここで開発した治工具は、ほかの工場でも活用されている。個々の障害の特性に合わせ開発されたものが、ほかの工場でも広く水平展開されていることは「ユニバーサルデザイン」の模範とするところである。改良された治工具はその成果が明確に出る。作業者にとってもわかりやすいことが一番である。  カメラの「取扱説明書」の梱包作業を見ると、前方に世界地図が貼ってあり、当日の生産数が出荷国ごとに表示されている。そこへの出荷が終わると、貼ってある「カメラの絵」を剥がして作業終了となる。現場では、随所にこのような工夫がなされている。 社員の思いと合理的配慮  知的障害のある西(にし)孝志(たかし)さん(44歳)と、分藤(ぶんどう)明男(あきお)さん(43歳)のお2人は、並んで「詰替え作業」を行っている。カメラ部品をトレーの上に仕分けする作業だ。西さんは入社10年目。「仕事は面白いですよ。休日は買い物に行きます」と答えてくれた。  分藤さんは入社11年目。絵が趣味と聞いたが「プロ級」の腕前で、作品が大分県立美術館で展示されているという。社内にも彼の作品コーナーがあり、そのリアルさに驚かされた。あの「山下清」を思わせるほどだ。  取扱説明書の梱包プロは甲斐(かい)学(まなぶ)さん(39歳)。入社11年目で、ほとんどすべての工程をマスターしている。全国アビリンピックにも出場したことのある実績の持ち主だ。「この作業は自分に合っています。会社の役に立つ人間になりたいです」と話す。  久保(くぼ)絵美(えみ)さん(36歳)は、「ていねいな仕事を心がけています。いろいろな仕事ができるので楽しいです」という。彼女も製品パッキング競技で全国アビリンピックに出場した経験を持つ。  今年入社した新入社員2人を紹介しよう。工藤(くどう)奎太(けいた)さん(28歳)と、廣戸(ひろと)雄一郎(ゆういちろう)さん(25歳)だ。工藤さんはグループホームで暮らしている。「家族も入社を喜んでくれました。仕事は少しずつ覚えていますが楽しいです」という。  廣戸さんは、臼杵(うすき)市の実家から電車で通勤している。「実習生時代から仕事をやってきたので、いまは慣れてきました」と話してくれた。  キヤノンウィンドの社員は朝、全員が指定場所に集まり、体調確認を行った後、会社の通勤バスで出勤する。勤務場所は、食堂、トイレ、更衣室などの設備と近く、可能なかぎり社員の負担を軽減できるよう配慮されている。職場環境面からも、会社の合理的配慮が至るところに見られる。 経営的観点から見えるもの  増子さんの考えのなかには、「経済活動のなかで維持継続できる会社であり続ける」ということがある。元々は法定雇用率の達成が目的でスタートしたが、ものづくりのなかの一機能として維持することができて、初めて障害者雇用が成り立つ。そのためには、条件を整えることが重要である。  「キヤノンの理念でもある『共生』のもと、さまざまな取組みを行ってきましたが、キヤノンウィンドもそのなかの一つです」と増子さん。  仕事量確保のために、それまで大分キヤノンが外部発注していたものを取り込んだり、大分キヤノンで行っていたものを棚卸したりすることで、キヤノンウィンドの仕事を担保してきた。IN/OUTを考えると、大分キヤノンのメンバーでやるよりも効率がよい。キヤノンウィンドが大分キヤノンの仕事を請け負うことで、大分キヤノンは、さらに質の高い仕事ができるようになる。  仕事には、当然のことながらQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)が必要である。キヤノンウィンド発の製品に不具合があってはならない。キヤノンウィンドの製品が直接エンドユーザ―に行くことはないが、次工程がエンドユーザ―であるという考えを持ち、不具合を止める仕組みをつくるのは、企業としては当たり前のことである。  「今後の雇用は多様性が重要視されます。企業のなかには付加価値的には低いが、ないと困る仕事が残ります。一見するとムダと思えても必要な仕事です。いい方を変えれば『必要な仕事ばかり』です。その『必要な所』に必要な人を組み込む。それが障害者雇用の形態であると思います」と増子さんは続けた。  「例えば、CDのケースなどは、材料などの効率を考えると〇の形になりますが、どのケースも□です。〇にすることで生じる不具合がたくさんあります。一見ムダと思える□の角の部分が重要なのです」 障害者雇用が親会社に与える影響と送り出しサイド  大分キヤノンの従業員数は、約3200人である。キヤノンウィンドはそのなかにあり、食堂や休憩室なども共用している。キヤノンウィンドがあることで、大分キヤノンの社員に与える影響も大きい。  大分キヤノンの人事部長であり、キヤノンウィンドの取締役を兼務する小林(こばやし)浩(ひろし)さんは「プラスの影響が大きいです」と話す。  「キヤノンウィンドが大分キヤノンに必要なトリガーになっていて、覚醒効果を持っています。彼らがものづくりに必要だという認識が浸透し、社員への意識覚醒効果がたいへん大きい。これは、障害者雇用が親会社に与える大きな要素の一つであり、ユニバーサル社会を形成するうえでの重要なポイントです」  これは、昨今よくいわれているSDGs(持続可能な開発目標)の観点から見ても、社会経済活動のなかで欠かせないものであろう。送り出す方の暁雲福祉会の基本姿勢も重要になってくる。  冒頭で述べていただいた丹羽さんは「暁雲福祉会としては、『働き続けること』を支えていきたい。『就職』がゴールではなく、『職場定着』がゴールだと思っています。彼らに挑戦する機会を提供し続け、将来想定される障害の重度化や、家庭環境の変化、親なきあとの課題などについても、ともに考えていきたい」と語ってくれた。 筆者が考える特例子会社  私はこれまでに全国、さらには海外も含め多くの特例子会社を見てきた。素晴らしいと感じた会社、「これは?」と疑問を感じた会社などさまざまではあるが、共通する一つの意見を持っている。  どの特例子会社も「これで完成」ということはない。設立よりも「それを維持継続する」ことがむずかしい。  特に、今回のように世界的なコロナ禍など、予期せぬ事態が起こったときや、地震や大規模災害など数十年、数百年に一度といわれるような災害時など、事業形態を大きく変えるような状況に陥ったときなどに、明暗が大きく分かれる。では、そのとき「どうするか?」の判断基準の一つが、親会社の「人」である。一般企業でも同じだが、企業はそれを操作する「人」で成り立つ。  特に、特例子会社ではその「人」が重要である。また、それに関連して「場所」である。また、その特例子会社が「どこにあるか」も、大きく左右する。  特例子会社のトップは多くは親会社からの出向派遣が多い。派遣された「人」がどう運営するかによって特例子会社は大きく変わる。親会社の社長や役員が特例子会社の社長を兼務すれば、全体のなかでどうやって運営するか、どういうふうに組み込むかを判断しやすいし、全体のなかに取り込んで経営できる。  場所も親会社のなかにあれば、物流費や資材供給、社員の支援も容易だ。社員同士の交わりも自然と生じ、親会社の社員の意識も変わる。  反対に、親会社の課長や部長といった、一管理職が社長として派遣されれば、その「人」の考え方にもよるが苦労するケースも出てくる。加えて場所的にも親会社から離れた場所に特例子会社があれば、その苦労は倍増するケースが多くなるのが通常である。  人的には、親会社への報告、承認をどうするか、派遣された自分の立場もある。仕事も親会社、または関連する企業との商談・駆け引きが必要になる。  ものづくり会社においては「品質」は当たり前で、それ以外に求められるのが「コスト」になってくる。派遣された社長がその点をどうやって乗り切るかがその人にかかってくる。たいへんな重責である。  また、過去に障害者雇用にかかわった人なら、障害の特性や作業性を理解できるが、まったくの「素人」ではすべてを一から始めなければならない。  今回のキヤノンウィンドは、すべての条件が整っている、正に「特例子会社のあるべき姿」を具現化したものである。 最後に  私が特例子会社を取材するのは今回が最後となるだろう。その取材先として、読者のみなさんに自信を持って紹介できる企業を訪問できたことは、たいへんうれしい次第である。  「キヤノンのような大企業だからできる」と思う人もいるかも知れないが、重要なのは「考え方」である。  企業規模の大小にかかわりなく、企業は人で運営され、最後は人が決定する。AIや科学がいかに進化しても、最終判断を下すのは人であることに変わりはないはず。人に期待し、ともに進んでいきたいと思う企業が、真の企業である。  今後は、特例子会社についてさらに深堀りを進め、特例子会社の設立を考えている方に、一つの指針を示せるような提案をしたいと考えている。 ※治工具:「治具(じぐ)」と「工具」を合わせた名称。加工・組立の手助けや、作業の効率化・省力化などに用いられる器具 写真のキャプション 社会福祉法人暁雲福祉会常務理事、キヤノンウィンド株式会社取締役の丹羽和美さん パッケージへのホチキス止めをサポートする「ホッチキチ」を試用する樋口委員 職場長の渕上恵美子さん 大分キヤノン株式会社代表取締役社長、キヤノンウィンド株式会社代表取締役社長の増子律夫さん シールの貼り付け作業を補助する「ホットサンド」。作業完了を示すイラストが見える 分藤明男さん(左)、西孝志さん(右) 分藤さんが描いた一眼レフカメラとレンズ 部品の詰替え作業を行う分藤さん 部品の入ったトレーを運ぶ西さん 久保絵美さん 封入作業を丁寧に行う久保さん 甲斐学さん 取扱説明書をビニール袋に封入する甲斐さん 工藤奎太さん(左)と廣戸雄一郎さん(右) テープの貼り付け作業を行う工藤さん(左)と廣戸さん(右) 大分キヤノン株式会社人事部長、キヤノンウィンド株式会社取締役の小林浩さん 【P26-27】 省庁だより 令和3年度 障害保健福祉部予算の概要(2) 厚生労働省 障害保健福祉部 ※(1)は7月号に掲載しました 3 発達障害児・発達障害者の支援施策の推進7.0億円(6.3億円) (※地域生活支援事業計上分を除く) 1 発達障害児・発達障害者に対する地域支援機能の強化2.7億円(2.2億円)  発達障害児者の各ライフステージに対応する一貫した支援を行うため、地域の中核である発達障害者支援センター等に配置する発達障害者地域支援マネジャーの体制を強化することで、市町村や事業所等が抱える困難事例への対応促進等を図り、発達障害児者に対する地域支援機能を強化する。 2 発達障害の初診待機解消に関する取組の推進93百万円(82百万円)  発達障害児者の診断に係る初診待機の解消を進めるため、発達障害の医療ネットワークを構築し、発達障害の診療・支援ができる医師の養成を行うための実地研修等の実施や医療機関におけるアセスメント対応職員の配置を進める。 3 発達障害児・発達障害者とその家族に対する支援1.6億円(1.6億円)  都道府県及び市町村において、同じ悩みを持つ本人同士や発達障害児者の家族に対するピアサポートや発達障害児者の家族に対するペアレントトレーニング、青年期の発達障害者に対する居場所作り等を実施することにより、発達障害児者及びその家族の支援を推進する。 4 発達障害に関する理解促進及び支援手法の普及1.4億円(1.3億円)  全国の発達障害者支援センターの中核拠点としての役割を担う、国立障害者リハビリテーションセンターに設置されている「発達障害情報・支援センター」で、発達障害に関する各種情報を発信するとともに、困難事例に係る支援をはじめとする支援手法の普及や国民の理解の促進を図る。  また、「世界自閉症啓発デー」(毎年4月2日)などを通じて、自閉症をはじめとする発達障害に関する正しい理解と知識の普及啓発等を行う。 4 障害者に対する就労支援の推進22億円(14億円) (※地域生活支援事業計上分を除く) 1 雇用施策と福祉施策の連携による重度障害者等の就労支援7.7億円  重度障害者等に対する就労支援として、雇用施策と福祉施策が連携し、企業が障害者雇用納付金制度に基づく助成金を活用しても支障が残る場合や、重度障害者等が自営業者として働く場合等で、自治体が必要と認めた場合に、地域生活支援促進事業により支援を行う。 2 工賃向上等のための取組の推進6.4億円(6.0億円)  一般就労が困難な障害者の自立した生活を支援する観点から、就労継続 支援事業所などに対し、経営改善、商品開発、市場開拓や販路開拓等に対する支援を行うとともに、在宅障害者に対するICTを活用した就業支援体制の構築や販路開拓等の支援等を実施する。  また、全都道府県において、関係者による協議体の設置により共同受注窓口の機能を強化することで、企業等と障害者就労施設等との受発注のマッチングを促進し、障害者就労施設等に対する官公需や民需の増進を図ることに加え、農福連携に係る共同受注窓口の取組を支援する。 3 障害者就業・生活支援センター事業の推進7.9億円(7.6億円)  就業に伴う日常生活の支援を必要とする障害者に対し、窓口での相談や職場・家庭訪問等による生活面の支援などを実施する。 4 共同受注窓口を通じた全国的な受発注支援体制の構築【新規】16百万円  就労継続支援事業所の全国的な受発注を進め、都道府県域を越えた広範な地域から作業等の受注量を確保するため、その取組実績がある法人のノウハウを活かし、その法人が、全国の共同受注窓口の取組事例を収集・整理するとともに、自らも各地の共同受注窓口を通じた全国的な受発注の推進支援を実施する。 5 農福連携による障害者の就農促進 @農福連携による障害者の就農促進プロジェクトの実施3.4億円(2.8億円)  農業分野での障害者の就労支援に向け、障害者就労施設等への農業の専門家の派遣による農業技術に係る指導・助言や6次産業化支援、農業に取り組む障害者就労施設等によるマルシェの開催等の支援を実施する。また、過疎地域における取組を支援する。 A様々な産業と福祉との連携に向けた障害者就労のモデル事業の実施17百万円(52百万円)  農業、林業、水産業に加え、環境や伝統工芸など、地域と関わりの深い様々な産業と福祉の連携を推進する地域課題解決型の障害者就労のモデル事業を実施し、ガイドブック(事例集・マニュアル)を作成するとともに関係者による○福(マルフク)連携推進協議会を開催することにより、横展開を図る。 5 感染防止に配慮した障害福祉サービス等提供体制の確保14億円 1 障害福祉サービス等提供体制の継続支援【新規】12億円  新型コロナウイルスの感染者等が発生した障害福祉サービス事業所等が関係者との連携の下、感染拡大防止対策の徹底や工夫を通じて、必要なサービス等を継続して提供できるよう支援するとともに、都道府県において、緊急時に備え、職員の応援態勢やコミュニケーション支援等の障害特性に配慮した支援を可能とするための体制を構築する。 2 福祉施設における感染防止対策感染防止のための研修等【新規】1.9億円  障害福祉サービス事業所等の職員が医療的見地からの相談を受けられる窓口の設置、専門家による感染症対策や業務継続計画(BCP)作成に係る実地研修やセミナー等を行う。 (参考1) 障害福祉分野におけるICT導入 (令和2年度3次補正予算案3.3億円)  障害福祉分野において、ICTの活用による生産性の向上の取組を促進し、安全・安心な障害福祉サービスを提供できるよう、障害福祉サービス事業所等におけるICT導入を支援する。 (参考2) 障害福祉分野におけるロボット等導入支援 (令和2年度3次補正予算案2.9億円)  障害福祉サービス事業所等におけるロボット等導入支援の実施により、介護業務の負担軽減等を図り、労働環境の改善、生産性の向上等を通じて安全・安心な障害福祉サービスの提供等を推進する。 (参考3) 「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(障害福祉サービス等分)」の積み増し (令和2年度3次補正予算案397億円)  障害者支援施設等におけるサービス再開支援や感染症対策の支援等行うため、「新型コロナウイルス感染症緊急包括支援交付金(障害福祉サービス等分)」の積み増しをする。 (参考4) 社会福祉施設等施設整備費補助金(障害者支援施設等における個室 化改修等支援事業)【再掲】 (令和2年度3次補正予算案82億円の内数)  障害福祉サービス施設等の防災・減災対策を講じるための施設整備(耐震化整備、ブロック塀等改修、非常用自家発電設備の整備、浸水被害等に備えた改修等)に要する費用を補助するとともに、新型コロナウイルスの感染拡大を防止する観点から、多床室の個室化に要する改修等の経費について補助する。 6 東日本大震災等の災害からの復旧・復興への支援 1 障害福祉サービスの再構築支援(復興)1.5億円(1.5億円)  被災地の障害者就労支援事業所の業務受注の確保、流通経路の再建の取組や障害福祉サービス事業所等の事業再開に向けた体制整備等に必要な経費について、財政支援を行う。 2 避難指示区域等での障害福祉制度の特別措置(復興)15百万円(15百万円)  東京電力福島第一原発の事故により設定された帰還困難区域等及び上位所得層を除く旧緊急時避難準備区域等・旧避難指示解除準備区域等の住民について、障害福祉サービス等の利用者負担の免除の措置を延長する場合には、引き続き市町村等の負担を軽減するための財政支援を行う。 3 被災地心のケア支援体制の整備(一部復興)68百万円(87百万円)及び被災者支援総合交付金(125億円)の内数  東日本大震災による被災者の精神保健面の支援のため、専門職による相談支援等を実施するとともに、自主避難者等への支援などを通じて、引き続き専門的な心のケア支援を行う。  さらに、熊本地震による被災者の専門的な心のケア支援を引き続き実施するとともに、平成30年7月豪雨や令和元年台風第19号等による被災者の心のケアに対応するため、市町村等が行う被災者の専門的な心のケア支援を引き続き実施する。 ※上記のほか、各自治体の復興計画で令和3年度に復旧が予定されている東日本大震災で被災した障害福祉サービス事業所等の復旧に必要な経費について、財政支援を行う。 ※( )内は令和2年度予算額 ※本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 【P28-29】 研究開発レポート 職場復帰支援の実態等に関する調査研究 障害者職業総合センター研究部門障害者支援部門 事業主支援部門 1 はじめに  わが国における、メンタルヘルス不調により休職した労働者に対する職場復帰支援を見ると、医療機関においては1997(平成9)年以降、当機構においては2002年以降取り組まれてきました。この間、職場復帰支援を実施する機関の増加、メンタルヘルス不調による休職者の増加や多様化、企業におけるメンタルヘルス対策の推進やニーズの変化等、職場復帰支援を取り巻く環境は大きく変化しています。  このような状況をふまえ、職場復帰支援の現在の実態について多角的な見地から把握し、職場復帰支援の有効性の向上等についての検討を行うため、研究部門では2018年度から2020(令和2)年度にかけて「職場復帰支援の実態等に関する調査研究」を実施しました。  本研究では、企業、医療機関、地域障害者職業センター(以下、「地域センター」)、職場復帰支援を利用し復職した方(以下、「復職者」)に対する、各種調査を行いました。本稿ではそれらの結果の一部についてご報告します。 2 企業における休職者の実態および休職中の措置について  本研究では国内すべての上場企業3,740社(2019年当時)を対象としたアンケート調査(回収率:12.4%)を行い、社内のメンタルヘルス対策、休職・復職の実態、事業場外資源(※1)の利用状況等についてたずねました。回答企業の98.3%(457社)がメンタルヘルス不調をともなう私傷病に利用可能な休職制度等があると回答しました。回答時点でメンタルヘルス不調による休職者等が1人以上いた企業は、有効回答439社中66.3%(291社)でした。この結果より、多くの企業がメンタルヘルス不調による休職者等への対策が必要になっていると考えられます。  対策の実施にあたっては事業場外資源、すなわち企業における社員のメンタルヘルス不調の予防・改善や職場復帰を社外の立場から支援する機関を、企業または社員が利用する場合があります。その利用状況について調査した結果、休職制度等がある457社のうち、何らかの事業場外資源を利用したことがある企業は33.9%(155社)、利用したことがない企業は56.9%(260社)、「わからない」「無回答」が合わせて9.2%(42社)でした。事業場外資源の機関別利用状況を複数回答でたずねたところ、最も多かったのが地域センターのリワーク支援を利用したことがある企業で90社、次いで医療機関の復職支援プログラムが89社、コンサルタント会社等の従業員支援プログラム(EAP)が35社となっていました。 3 事業場外における職場復帰支援について  事業場外資源が行っている職場復帰支援については各機関それぞれ特色がありますが、本研究ではその中でも特に医療機関に対してアンケート調査(回答数:52機関)を行い、復職支援プログラムの実施体制や実施内容についてたずねました。  復職支援プログラムにおいて主に行われているプログラムの内容は図1の通りです。最も多く実施されている「心理教育」とは、疾病理解、症状の自己理解、セルフコントロールの習得などを主な目的としたものです。「グループワーク」は特定のテーマについて参加者が意見や感想を話し合うものや、集団で何らかの共同作業を行うもので、さまざまなテーマが設定されていました。共通するねらいとしては、休職中の者同士の交流によって自分とは異なる見方や考え方への気づき、グループの中での適切な行動の仕方、他者への働きかけ方についての学び等があると考えられます。 4 企業による休職者の復帰時、復職後の措置および事業場外資源による復職後のフォローアップ(※2)について  本研究では、休職者に対する復帰時、復職後の措置やフォローアップについても調査を行いました。  企業アンケート調査の結果、企業(産業医等を含む)が復帰時または復職後に復職者に対して実施した措置の状況は図2の通りです。最も多かったのは「残業や休日勤務の制限または禁止」(67.6%)で、復職者が通常勤務(※3)へ戻るまでの期間について各企業で最も多いケースをたずねたところ、多い順に「復職から3カ月以内」(29.3%)、「復職から半年以内」(19.9%)、「復職から1カ月以内」(16.2%)となっていました。  一方、事業場外資源のうち医療機関へのアンケート調査結果からは、回答機関の90.4%(47機関)が復職者へのフォローアップを行っていることがわかりました。フォローアップの内容については、「個別面談」(72.3%)が最も多く、次いで「プログラム(※4)の提供」(63.8%)の順となっていました。  また、同じく事業場外資源である地域センターに対してフォローアップについて調査を行ったところ、97.8%(45カ所)が実施していました。実施方法を見ると、個別対応が多いこと(「電話・メール・手紙による助言」が86.7%、「電話・メール・手紙による状況確認」が84.4%、「個別面談」を実施しているのが84.4%〔複数回答〕)もわかりました。さらに、復職者が所属する企業に対するフォローアップも78.3%が取り組んでいました。 5 おわりに  本研究の結果から、職場復帰に向けた取組みは、休職中から復職後にかけて企業や事業場外資源によりさまざまな形で実施されていることがわかりました。  調査研究報告書では、各調査の詳細について具体的なデータや企業の取組み事例を掲載しています。また、本研究の結果は「精神障害者雇用管理ガイドブック」の「復職編」の改訂にも反映されており、職場におけるメンタルヘルス対策の基礎知識や、地域センターのリワーク支援の概要についても掲載されていますので、職場復帰支援にかかわるさまざまな方にご活用いただければと思います。 ※1 本研究における事業場外資源は、主に医療機関、地域センター、従業員支援プログラム(EAP)実施機関の3機関を想定しています ※2 本研究におけるフォローアップとは、地域センターや医療機関が職場復帰支援終了後に復職者や復職者の所属する企業に対して行う、何らかの支援と定義しました ※3 本研究における通常勤務とは、図2の「企業における復帰時または復職後の措置」がすべて終了した状態と定義しました ※4 プログラムの内容は、復職者同士が交流する場の提供、心理教育や認知行動療法、レクリエーション等多岐にわたっています ※本研究「調査研究報告書NO.156」は、https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku156.htmlより、「精神障害者雇用管理ガイドブック」は、https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai71.html よりダウンロードできます ◇お問合せ先:研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 図1 復職支援プログラムで実施されている主要プログラムの分類(最大3つまで回答) 心理教育 73.1% 認知行動療法(個別、集団) 71.2% グループワーク 44.2% コミュニケーショントレーニング 38.5% 作業訓練 32.7% 運動・リラクゼーション 13.5% マインドフルネス 9.6% 働くこと・キャリア 5.8% その他 3.8% 図2 企業における復帰時または復職後の措置(複数回答) 残業や休日勤務の制限または禁止 67.6% 就業時間の短縮 61.9% 定期的な面談 60.2% 本人の状況に応じた業務内容の調整 53.0% 出張・外出の制限(内勤を原則とした) 38.1% 復職者の同意の下、主治医からの情報や意見の収集 30.0% 通院のための休暇の保障 26.0% 給与やキャリアパス等の処遇変更を伴わない異動 25.8% 変則勤務(休職等の前)から定時勤務(復職後)への変更 21.2% 給与やキャリアパス等の処遇変更を伴う職種等の変更 12.9% 事業場外資源との連携 6.1% 雇用形態の変更 5.3% その他 5.5% 【P30】 ニュースファイル 地方の動き 愛知 意思疎通支援アプリ開発  愛知県は、聴覚障害者など会話によるコミュニケーションが困難な人が、円滑に意思疎通を図ることができる「コミュニケーション支援アプリ」を開発した。民間団体がつくった「コミュニケーション支援ボード」を参考に、スマートフォンで使えるようにした。  アプリをダウンロードしたスマートフォンやタブレット上で、文字やイラストを指し示しながら情報や意思を伝えるというもの。使用場面を「避難所」、「病院・薬局」、「コンビニ・スーパー」、「交通機関」から選び、相手を避難所運営者・医療スタッフ・窓口職員・レジスタッフ・駅員・タクシーの運転手などから選択して、「診断書がほしい」、「トイレを借りたい」など定型の表示を提示する。相手側も「どこまで行きたいのか」、「有料レジ袋は必要か」といった質問を選べる。ダウンロードは無料。ダウンロード方法や使い方の動画などは、県障害福祉課のサイトに掲載されている。 https://www.pref.aichi.jp/soshiki/shogai/communication-support-app.html 働く 東京 区立の農福連携農園が全面オープン  杉並区が、区立の農福連携農園「すぎのこ農園」をオープンした。広さ約3200uの区民農園だった農地を区が購入し、区から委託を受けたJA東京中央が運営。江戸時代中期の住宅部材を活用した木造平屋建ての管理棟も完成し、内部に調理スペースを設けて、収穫した農産物を使った子ども食堂や加工品開発に取り組む。今後は就労を目ざす障害者を雇用につなげる取組みなども視野に、福祉事業との連携強化を図る。  園内の多目的農園区画で収穫された農産物は福祉施設などに提供するほか、区民向けの収穫体験も開く。問合せは杉並区産業振興センターへ。 電話:03−5347−9136 岐阜 失業者と障害者支援をマッチング  「社会福祉法人舟伏(ふなぶせ)」(岐阜市)が、新型コロナウイルスの影響で失業した人と、県内の就労系障害福祉事業所をマッチングするサイト「Giveemotion(ギブエモーション)」を開設した。精神障害者の相談支援などを行う舟伏が、岐阜県から委託されて行う。  県内9市町の約50カ所の事業所が登録。IT、農業、調理、製作などの業種や地域を選択すると、条件に当てはまる事業所が紹介され、サイトを通じて見学や体験を申し込める。事業所の登録やマッチング料は無料。サイト内では、異業種から転職してきた職員らのインタビューも動画を交えて紹介している。 https://give-emotion.com/ 本紹介 『発達障害でIT社長の僕』  IT関連企業の社長を務める齋藤(さいとう)秀一(しゅういち)さんが、自ら発達障害グレーゾーンの特性を活かして経営者になった経験を元にした本『発達障害でIT社長の僕』(幻冬舎メディアコンサルティング刊)を出版した。  不登校だった少年時代を過ごし、社会人になってから転職をくり返すも、自身の特性が特技になることに気づき、2001(平成13)年にITシステム開発会社を創業。放課後等デイサービス施設や就労移行支援事業所のほか、ITと障害者支援の自社ノウハウを活かし、農福連携のための農業法人も設立している。障害を才能に変えて自分の居場所を見つけるためのヒントを提示する。四六判202ページ、1540円(税込) 2021年度地方アビリンピック開催予定 8月〜10月 北海道、青森県、福島県、神奈川県、新潟県、石川県、山梨県、岐阜県、兵庫県、山口県、徳島県、大分県 *部門ごとに開催地・日時が分かれている県もあります *北海道、青森県、福島県、神奈川県、新潟県、石川県、山梨県、岐阜県、兵庫県、山口県、徳島県、大分県以外は開催終了 ※全国アビリンピックが12月17日(金)〜12月20日(月)に、東京都で開催されます。 地方アビリンピック 検索 ※新型コロナウイルス感染症の影響により、変更する場合があります。 【P31】 就労支援機器紹介シリーズ 第4回 障害のある社員の就労環境を支援する 機器やソフトをご紹介します! ケージーエス株式会社の『ブレイルメモスマート Air32』 視覚障害者向け ブレイルメモスマート Air32 418,000円(税込) 製品説明 32マスの広い点字表示と小型軽量化を両立させた新型点字ディスプレイ!! ・ブレイルメモスマート Air32は、PCと接続することで画面上に出ている文字データを点字で表示する点字ディスプレイです(PC-Talkerシリーズ等のスクリーンリーダーに対応しています) ・単体でも点字データ、テキストデータの読み書きに使用でき、電話メモや出張先でのレポート作成に使用できます ・15時間連続使用可能で、バッテリーを気にせず使用できます ※製品の詳細については、ホームページでご確認ください https://www.kgs-jpn.co.jp/ 製品のお問合せ ケージーエス株式会社(TEL:0493-72-7311)まで 当機構では障害者を雇用している・雇用しようとしている企業に『ブレイルメモシリーズ』を無料で貸し出しております! 詳細は、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 中央障害者雇用情報センター(TEL:03-5638-2792)まで、またはホームページをご確認ください(https://www.kiki.jeed.go.jp)。 就労支援機器のページ 検索 ミニコラム 第4回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)も樋口委員が執筆しています。 ご一読ください。 障害者スポーツとパラ五輪について ホンダ太陽株式会社社友樋口克己  新型コロナウイルス感染拡大の影響で延期となっていた東京パラ五輪が、8月に開催予定となっている。  以前から思っていることだが、五輪と比べてパラ五輪は、いまひとつメジャーとはいい切れない。テレビの放送時間なども明らかに差がある。なぜか。その一つに「わかりにくさ」があると思う。  五輪はわかりやすい。各国で一番の選手を集めて「よーいドン」で競う。勝った人が「世界一」だ。見ている人もわかりやすい。  一方、パラ五輪はどうか。障害にはさまざまな「区分け」がある。これは仕方のないことだが、見ている人からは「後ろの方だったのに優勝?」などの声をよく聞く。  これは、脊椎損傷の人と頸椎損傷の人では身体的な機能がまったく違うためだ。自転車と車が競争するようなものである。  しかし一般の人には、これがよく知られていないため、このことが、パラ五輪がメジャーになれない一因ではないかと私は思う。  日本で初めて障害者スポーツを取り入れ、日本初の車いすマラソン大会を開いた中村(なかむら)裕(ゆたか)先生は「これはスポーツだ」と宣言した。  第1回大会で、トップのランナー2人が手をつないでゴールした。そのとき、中村先生は「どちらが先だ?」といって、ゴール写真を参考に優勝者を決めた。正に「スポーツ」である。  パラ五輪は、障害の程度に関係なく「その国の障害のある人のなかで、一番強い人を世界で競わせる」。五輪と同じである。見ている人もわかりやすい。どうだろうか。出場機会が失われる重度の人たちには世界選手権やアジア大会などでの出場のチャンスがある。  「『スポーツ』を取り去る」のではなく、「さまざまな機会を与える」ことが大切だと思う。 【P32】 掲示板 受講者募集! 職業リハビリテーションに関する各種研修のご案内 訪問型・企業在籍型職場適応援助者支援スキル向上研修 受講料無料 ◆訪問型・企業在籍型職場適応援助者支援スキル向上研修(第3 回)  訪問型または企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)として1年以上の実務経験を有する方に対して、雇用管理やアセスメントに関する支援スキルの向上を図る研修を実施します。  講義・演習に加え、ケーススタディ、グループワーク、アクションプランの作成等実践的な内容が特長です。 ◆日程および会場  【第3回】<幕張会場> ※全国からお申し込みいただけます。  日程:令和3年10月12日(火)〜10月15日(金)  会場:障害者職業総合センター(千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3) ◆申込受付期間  令和3年7月20日(火)〜8月27日(金) ◆お申込み先  当機構ホームページに受講申込書および申込方法を掲載しています。 ◆お問合せ先  職業リハビリテーション部 研修課  TEL:043-297-9095  E-mail : stgrp@jeed.go.jp 職場適応援助者(ジョブコーチ) ステップ1 ジョブコーチをめざす方 職場適応援助者 養成研修 ジョブコーチ支援を行う際に必要な知識・技術の習得 障害者職業総合センター 全国の地域障害者職業センター ステップ2 ジョブコーチの実務経験のある方 職場適応援助者 支援スキル向上研修 ジョブコーチとしての支援スキルの向上 障害者職業総合センター・大阪障害者職業センター 雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える人事労務担当の方 ぜひご覧ください! メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 次号予告 ●私のひとこと  障害のある人の「成長ステップ」見える化プロジェクトなどを提案する株式会社Connecting Point代表取締役の阿部潤子さんに、障害者雇用における目ざす社会や取組みについて、ご執筆いただきます。 ●職場ルポ  コニカミノルタ株式会社の特例子会社コニカミノルタウイズユー株式会社(東京都)のキャリアアップへの取組みなどを取材します。 ●グラビア  「令和3年度障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテスト」入賞作品をご紹介します。 ●編集委員が行く  大塚由紀子編集委員が、東急不動産株式会社(東京都)での多様な働き方を紹介します。 <働く広場の読者のみなさまへ>  2021年9月号は、「令和3 年度障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテスト」入賞作品の公表日の関係から、通常よりも数日遅れてお手元に届くことが見込まれています。ご不便をおかけしますが、よろしくお願いします。ご不明な点は、当機構企画部情報公開広報課(電話043-213-6216)までお問い合わせください。 本誌を購入するには―― 定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。 1冊からのご購入も受けつけています。 ●インターネットでのお申込み 富士山マガジンサービス 検索 ●お電話、FAX でのお申し込み  株式会社廣済堂までご連絡ください。  TEL 03-5484-8821  FAX 03-5484-8822 あなたの原稿をお待ちしています ■声−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 五十嵐意和保 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6216(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●発売所−−株式会社 廣済堂 〒105−8318 港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03−5484−8821 FAX 03−5484−8822 8月号 定価141円(本体129円+税)送料別 令和3年7月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 埼玉県立大学 教授 朝日雅也 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 岡山障害者文化芸術協会 代表理事 阪本文雄 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすく センター長 原 智彦 ホンダ太陽株式会社 社友 樋口克己 サントリービジネスシステム株式会社 課長 平岡典子 東京通信大学 教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学 准教授 八重田 淳 【P33】 高障求 メールマガジン 無料配信中 新規登録募集中! 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、当機構が全国で実施する高齢者や障害者の雇用支援、従業員の人材育成(職業能力開発)などの情報を毎月月末に、みなさまに配信しています。 主な特徴 ・読みごたえのある充実した内容 ・当機構の制度やサービス内容がよくわかる ・マイエリア情報で地元情報をチェック!! ・セミナーやイベント情報が満載 *シンプルなテキスト版もあります 雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える 人事労務担当者や就労支援担当者のみなさま 必読!! みなさまの「どうする?」に応えるヒントが、見つかります! 令和3年度「高障求メールマガジン」読者アンケート実施中!! 7月15日(木)〜12月15日(水) メールマガジン編集部では、みなさまによりよい情報をお届けできるようアンケートを実施しています。 みなさまのご意見をお待ちしています! 当機構ホームページからの回答も可能です。 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 JEED メルマガ で 検索 当機構ホームページもあわせてチェック https://www.jeed.go.jp 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 【裏表紙】 職業訓練を受けている障害者の採用をお考えの事業主のみなさまへ 国立職業リハビリテーションセンター(中央障害者職業能力開発校)および国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(吉備高原障害者職業能力開発校)では、障害のある方々の就職に必要な職業訓練や職業指導を実施しており、訓練生の採用をお考えの事業主のみなさまに次のような取組みを行っています。 詳細についてはホームページをご覧ください。 訓練生情報の公開 *訓練生(訓練修了者と修了予定者のうち掲載希望者のみ)の情報をホームページで公開しています。 国立職業リハビリテーションセンター(毎月1日、15日に情報更新) http://www.nvrcd.ac.jp/employer/trainee/index.html 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(毎月15日に情報更新) https://www.kibireha.jeed.go.jp/kyushoku/info.html 企業連携職業訓練の実施 *障害者の雇入れを検討している企業との密接な連携により、特注型の訓練メニューによるセンター内での訓練と企業内での訓練を組み合わせた採用・職場定着のための支援(企業連携職業訓練)を実施しています。 国立職業リハビリテーションセンター http://www.nvrcd.ac.jp/employer/support/index.html 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター https://www.kibireha.jeed.go.jp/business/company.html このほかにも疾病、事故等により受障した休職者の方が、職場復帰するにあたり必要な技術を身につけるための職業訓練も実施しています。 お問合せ先 国立職業リハビリテーションセンター 職業指導部 職業指導課 〒359-0042 埼玉県所沢市並木4-2 Tel:04-2995-1207 Fax:04-2995-1277 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター 職業評価指導部 職業指導課 〒716-1241 岡山県加賀郡吉備中央町吉川7520 Tel:0866-56-9002 Fax:0866-56-7636 8月号 令和3年7月25日発行 通巻526号 毎月1回25日発行 定価141円(本体129円+税)