【表紙】 令和4年3月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第534号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2022/4 No.534 職場ルポ 「協働・協育・協挑」を実現する職場づくり 株式会社舞浜コーポレーション(千葉県) グラビア 安心して働ける職場 〜医療機器の生産をサポート〜 シスメックスハーモニー株式会社(兵庫県) 編集委員が行く 宮城県の特別支援学校の取組みから考える障がいのある子どもたちの自立 宮城県立支援学校小牛田高等学園、宮城県立支援学校岩沼高等学園(宮城県) クローズアップ はじめての障害者雇用U 〜障害のある人が働きやすい職場づくり〜 第1回 「想いを花束に代えて」愛知県・大村(おおむら)綾子(あやこ)さん 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構 誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています 4月号 【前頁】 心のアート 無題 井野 紳一郎 (社会福祉法人ポップコーン福祉会) 画材:紙、色鉛筆/サイズ:39.3cm×54.5cm 色彩の軌跡  色鉛筆を選ぶ、そのゆっくりとした指先から、予想を超える筆圧で色を塗り重ねる。短くなった色鉛筆を見ると、よく選ばれる色がわかります。さらに角度の違った手業(てわざ)の跡は、日によって渡される画用紙の向きが違うからだろうと思われます。こんなに色を重ねても色が濁らないのは、終わりのタイミングを見極めているからだろうか? (文:TASCぎふ) 井野 紳一郎(いの しんいちろう) 1981(昭和56)年生まれ。岐阜県岐阜市在住。社会福祉法人ポップコーン福祉会に所属。 ●経歴 2018年 「第4回tomoni プロジェクト展 〜ともに、つくる、つたえる、かなえる〜」(ぎふ清流文化プラザ/岐阜市) 2019年 「tomoni アートのフェスティバル 花さき、誇れ!」(ぎふ清流文化プラザ/岐阜市) 協力:TASC ぎふ(岐阜県障がい者芸術文化支援センター) 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2022年4月号 NO.534 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 心のアート 前頁 無題 作者:井野紳一郎(社会福祉法人ポップコーン福祉会) 私のひとこと 2 コロナ禍における障害者雇用の現状と課題〜企業に求められるこれからの障害者雇用とは〜 障害者雇用ドットコム代表、東京情報大学非常勤講師 松井優子さん 職場ルポ 4 「協働・協育・協挑」を実現する職場づくり 株式会社舞浜コーポレーション(千葉県) 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 クローズアップ 10 はじめての障害者雇用U 〜障害のある人が働きやすい職場づくり〜 第1回 JEEDインフォメーション 12 令和4年度 障害者雇用納付金制度に基づく申告申請が令和4年4月1日から始まります グラビア 15 安心して働ける職場 〜医療機器の生産をサポート〜 シスメックスハーモニー株式会社(兵庫県) 写真/文:官野 貴 エッセイ 19 発達障害当事者の働きづらさのリアル 第4回 〜発達障害自体よりも厄介? 二次障害とのつき合い方〜 姫野 桂 編集委員が行く 20 宮城県の特別支援学校の取組みから考える障がいのある子どもたちの自立 宮城県立支援学校小牛田高等学園、宮城県立支援学校岩沼高等学園(宮城県) 編集委員 平岡典子 省庁だより 26 令和3年 障害者雇用状況の集計結果@ 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課 研究開発レポート 28 第29回 職業リハビリテーション研究・実践発表会Part1 特別講演「コロナ禍における変化とチャレンジ〜障害者雇用の現場から考える〜」 株式会社ベネッセビジネスメイト人事総務部 部長 原田昌尚氏 ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 表紙絵の説明 「雑誌で、天井まで花に囲まれている花屋と、花をアレンジするフローリストの特集を見かけて、素敵だなと思い題材に選びました。飾ってある花の位置や、花の色を選ぶのがたいへんでした。受賞の電話をもらったとき、家族みんな大喜びで拍手をしました。受賞を励みに、いろいろな絵を描いています」 (令和3年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 高校・一般の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。(https://www.jeed.go.jp/) 【P2-3】 私のひとこと コロナ禍における障害者雇用の現状と課題 〜企業に求められるこれからの障害者雇用とは〜 障害者雇用ドットコム代表、東京情報大学非常勤講師 松井優子 コロナ禍が障害者雇用におよぼした影響  新型コロナウイルス感染症の影響により、私たちの働き方や仕事内容、生活スタイルは大きく変化しました。障害者雇用ではどのような変化があったのでしょうか。厚生労働省の「令和3年障害者雇用状況の集計結果」を見ると、雇用障害者数は59万7786.0人、実雇用率2.20%と雇用障害者数、実雇用率ともに過去最高を更新しています。一方で、「令和2年度ハローワークを通じた障害者の職業紹介状況」(厚生労働省)を見ると、ハローワークの障害者新規求職申込件数は21万1926件で、対前年度比5.1%減となり、平成11年度以来21年ぶりに減少しています。就職件数は8万9840件で、対前年度比12.9%減となり、平成20年度以来12年ぶりに減少しました。令和3年3月の法定雇用率引き上げなども関係し、雇用障害者数は増加しているものの、コロナ禍の影響を受け新規採用は厳しかったことがうかがえます。  障害者を雇用している企業における影響を見ると、業種、地域による差はあるものの、緊急事態宣言発令時には、休業、時差出勤、交代勤務などで、勤務時間を調整したというところが多くありました。特に知的障害や精神障害のある人を雇用している企業では、障害のある従業員の業務が、清掃や事務補助的な業務、印刷関連、メール配達など職場で行う仕事が多く、テレワークができないという状況があったためです。  また、サービス業などのテレワークがむずかしい業種や仕事では、ソーシャルディスタンスを保ちながら、通常通りの業務をしているところがありました。一方で、IT・情報関連の仕事が中心となっている業種や会社では、パソコン業務が中心だったこと、すでにセキュリティ体制が整備されていたこともあり、テレワークにスムーズに切り替えられたところもありました。 テレワークから見る新たな働き方とは  コロナ禍以降テレワークに切り替えた企業からは、好意的な反応が聞かれています。特に精神障害や発達障害のある従業員からは、「通勤ストレスがなくなった」、「対人コミュニケーションが減り、それによって働きやすくなった」という声があり、テレワークの継続を希望する声が多かったそうです。もちろん障害特性によっては、テレワークがむずかしかったり、個別の対応が求められる場面もあります。それでもテレワークという選択肢が広がることは、通勤が困難だったり、地域により働く場所がかぎられている障害者にとっては、働ける可能性を広げる機会につながります。また、企業にとっても障害特性に配慮した設備投資のコストが削減でき、首都圏など採用が厳しくなっている地域でも採用の可能性を広げることができます。  テレワークにかぎりませんが、「業務を検討しているが、障害のある従業員に適した業務が見つからない」という声をよく聞きます。このような問題がでてくる理由は、一つの部署やグループなど限定的な範囲で考えていたり、組織や業務の流れを把握していない受け入れ側の社員が、障害のある従業員の業務の検討を担当しているからです。現状でむずかしい場合には、特定の部署だけで考えるのではなく、組織全体で考えていくことが必要です。また、組織の事業全体を見通せる人材や事業運営で発言権のある人材がかかわることも求められるでしょう。  ある企業では、障害のある従業員がになう業務の切り出しに事業部の責任者がかかわり、障害のある従業員がどのような特性や能力を持っているのかを理解したうえで、社内全体の業務のなかからマッチングできる分野を見つけています。外注するよりもコストが安いなどの経済的なメリットを提示したり、納期面での柔軟な対応ができることなどを示すことで、事業部の社員たちは障害のある従業員に業務を任せることのメリットを認識しやすくなり、依頼業務が増えているそうです。これができたのは、事業部やプロフィット部門の社員たちの考えを理解し、ニーズとうまくマッチングさせたからです。  また、「障害のある人ができる仕事は何か」という視点からは、新たな業務を創出することはできません。組織に必要とされる業務、求められる仕事という視点から仕事を考えていくことが大切です。社内全体を俯瞰(ふかん)したときに、「人手がほしい業務はないか」、「やらなければならないけれど手がつけられていない業務はないか」、「いま、できていない業務でも、本当は取り組んだほうがよいものはないか」、このような点を見つけられるようになると、業務を見つけやすくなります。 組織に貢献する障害者雇用を実現するために  企業の障害者雇用が語られるときに、最近よく聞かれるようになったのが、SDGs(持続可能な開発目標)とサステナビリティ(持続可能性)です。企業活動の継続という面からも重視されています。障害者雇用は、人材活用の面から女性や外国人などと同様にダイバーシティ(多様性)に対する取組みの一環としてとらえられがちですが、SDGsに含まれるほかの視点からとらえ直すことによって、それらの持つ意味を広げることもできるでしょう。  例えば、SDGsの取組みでは、企業が社会課題解決に取り組むことがあります。社会課題を知るためのきっかけとして社員がボランティアやプロボノ(知識やスキルを活かした社会貢献)などに取り組み、会社のなかでは気づかない社会課題を発見し、それを基に自社のビジネスの新たなヒントにつなげることがあります。また、社会課題を起点とした解決策を考えていくアプローチを実践することで、社員の社会課題意識のレベルアップを図り、結果的に本業に貢献しつつ、会社と社員両者が同じ方向性を目ざすことにつながるケースも見られます。障害者雇用も雇用率の達成だけでなく、組織全体で新たな意義や位置づけを再定義することにより、違った視点でとらえ直すことができるでしょう。  変化はチャンスにもなり得ます。いままで取り組んできた障害者雇用の考え方や仕事内容を見直すことにより、組織に貢献する障害者雇用に取り組む機会にすることができます。これからは障害者雇用率を達成するだけでなく、企業に貢献する一歩進んだ障害者雇用を目ざすことが求められています。 ※本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 松井優子 (まついゆうこ)  教育機関で知的障害、発達障害の教育、就労にたずさわる。送り出した学生たちが戻ってくるのを見て、障害者雇用には一緒に働く職場の理解が必要だと感じ、企業で障害者雇用にかかわる。特例子会社の立ち上げ、200 社以上の企業のコンサルティングや研修にたずさわり、現在、障害者雇用ドットコム代表。企業視点からの障害者雇用の進め方や業務の切り出し、職域開拓などを得意とする。  著書に「障害者雇用を成功させるための5つのステップ」、「特例子会社の設立を考えたら必ず読む本」、「これからの障害者雇用はどうなるのか:コロナ禍の影響と今後に向けて企業が行なうべき事」(以上、Kindle)などがある。 【P4-9】 職場ルポ 「協働・協育・協挑」を実現する職場づくり ―株式会社舞浜コーポレーション(千葉県)― 夢の国と称されるテーマパークの舞台裏を支える特例子会社では、障がいのある従業員もない従業員も一緒に働きやすい職場づくりに力を注いできた。 取材先データ 株式会社舞浜コーポレーション 〒279-8521 千葉県浦安市舞浜1-1 TEL 047-305-5370 FAX 047-381-3569 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 Keyword:テーマパーク、特例子会社、ソーシャル・スキルズ・トレーニング(SST)、支援機関、アビリンピック、労働組合 POINT 1 「従業員情報シート」を軸に支援。「専門性向上研修」も実施 2 キャスト(障がいのある従業員)全員を正社員化、キャリアアップが可能に 3 電子社内報やイベントで、従業員同士のつながりや交流の場を広げる テーマパークを支える特例子会社  千葉県浦安市でテーマパークを運営する「株式会社オリエンタルランド」(以下、「オリエンタルランド」)は、1994(平成6)年に初の子会社「株式会社舞浜コーポレーション」(以下、「舞浜コーポレーション」)を設立した。2009年、舞浜コーポレーションは、オリエンタルランドの特例子会社「株式会社舞浜ビジネスサービス」(1999年設立)と合併する形で特例子会社となった。  従業員数は2021(令和3)年6月1日現在で463人、うち障がいのある従業員は313人(知的障がい260人、身体障がい37人、精神障がい16人)、障がい者雇用率は5社のグループ適用で2.71%だ。  おもな業務内容は、テーマパーク運営に関するサポート業務、クリーニングおよびリネンサプライ業、マッサージ業、花卉(かき)栽培事業、理容業、郵便物などの受け渡しおよび発送代行業など19分野にわたる。  2021年4月から代表取締役社長を務める一倉(いちくら)将(すすむ)さんは、企業理念の「協働・協育・協挑」を大きな柱に、職場環境づくりを進めてきたと説明する。  「障がいのある人もない人も『一緒に働く(協働)会社』の環境は、かなり整っていると実感しています。さらに『一緒に育つ(協育)風土』や『一緒に挑む(協挑)文化』の醸成にも、いっそう力を入れているところです」  拠点となる職場は、オリエンタルランドとほかのグループ会社とともに、テーマパークと接する広大な敷地内にある。働く現場と取組みを紹介していきたい。 キャストの支援体制  舞浜コーポレーションでは作業に従事する障がいのある従業員を「キャスト」と呼んでおり、知的に障がいのある従業員をはじめ、精神に障がいのある従業員、身体に障がいのある従業員が活躍している。特別支援学校と連携した職場実習(2年・3年次に各二週間)や、障害者就業・生活支援センターなどからの求職者を対象にした実習(二週間)を経て採用される流れだ。  人事部マネージャーの小原(こはら)謙一(けんいち)さんは、「長年の連携のおかげか、いまでは先生や支援機関の担当者から『この方が合いそう』と推薦されることも多いですね」と話す。一方、採用担当の福田(ふくだ)麻由(まゆ)さんによると、「面接時には家族の方にも同席してもらっていますが、家族と本人の気持ちが一致していないことがあります。なるべく本人の思いをくみ取りながらマッチングを見きわめます」とのことだ。  入社後、キャストを多角的に支援するのが「ノーマライゼーション推進グループ」(以下、「NDG」)だ。NDGの主任で社会福祉士でもある西村(にしむら)友恵(ともえ)さんが説明する。  「まず実習時と入社時・入社直後に『従業員情報シート』を作成します。NDGや各部署の担当者が、キャストと定期的に個人面談を行い、ヒアリングした情報を通勤・体調管理・就業環境・生活環境といった項目別に整理し、職場での合理的配慮や業務上の支援に反映させています」  ソーシャル・スキルズ・トレーニング(SST)にも力を入れる。一部を紹介する。【ステップバイステップ形式(小さなステップをふみながらロールプレイングを行い、フィードバックで行動強化)】 ●挨拶の苦手なキャストが、目は見なくとも相手の方を見ながら顔を上げて挨拶できるようになった ●マナー行動がむずかしいキャストが、エレベーターで「お先にどうぞ」と伝え行動するようになった 【問題解決技法形式(個人的な悩みの解決策を参加者で出し合う)】 ●スマートフォンでアプリを見すぎて時間を無駄にするとの悩みに、「不要なアプリを削除してみては」という意見を取り入れ、睡眠を確保できるようになった ●集団での会話がうまくなりたいとの悩みに、「一人ずつ仲よくなる」、「相槌(あいづち)や頷(うなず)きをする」などの意見から、まず表情を合わせることを意識するようになった  支援が必要な場合は外部の支援機関にも積極的に協力を仰いでいる。総務部マネージャーの岡部(おかべ)元暁(もとあき)さんが話す。  「社内の支援はあくまで業務に関する範囲内なので、特にプライベートな課題は、障害者就業・生活支援センターなどと連携しています。日ごろからの、情報交換を含めた関係づくりも大事です」  2021年には、これまでの支援内容を百数十の事例にまとめた「ジョブサポートマニュアル」を作成。NDG主任の小林(こばやし)薫平(くんぺい)さんは、「蓄積されてきた支援ノウハウを、現場でも日常的に共有できるようにしています」と話す。このほか災害時などに備え、スマートフォンなどで従業員の安否を会社が把握できる確認システムを導入したほか、通勤途中にも救助を受けやすいよう必要情報を記入できる「SOSカード」を全員に配付している。  親会社とも毎週、定例会議を開催し、支援状況や採用計画など幅広く情報交換しながら連携し合う。障がいのある人を雇用しているグループ会社から随時、個別の相談を受けたり、新入社員研修や管理者向けセミナーなどを開催したりするなかで、舞浜コーポレーションならではのノウハウを伝授しているそうだ。 管理者の「専門性向上研修」  現場でキャストを支援する立場として、社内には企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)18人、障害者職業生活相談員97人のほか、精神保健福祉士2人、社会福祉士8人、社会福祉主事任用資格4人、産業カウンセラー3人がいる。入社後に資格を取得しているケースが大半だという。  土台となるのは、障がい者雇用に関する「専門性向上研修」だ。この研修により目ざすのは、「社内外の関係者との適切な調整のもと、キャストの職場定着を促進できる人財」となる管理者の育成だ。  研修ではまず入社後3カ月〜半年の間に、障がい者にかかわる法律や知識の座学、社内ロケーション(部署)の職場体験トレーニングなどを行う。並行して入社後3年目までに県内の特別支援学校と障害者就業・生活支援センターの計6カ所を見学し、その後は障害者就業・生活支援センターなどが主催する地域の意見交換会などに参加。社内では定期的なミーティングで、現場での声かけから面談での聴き方まで、さまざまな悩みや工夫について意見交換を続けている。  この研修を受けて、さらに障害者職業生活相談員の資格も取得した、リゾートオペレーション部の加藤(かとう絵美(えみ)さん(35歳)に話を聞いた。加藤さんは6歳のときに発症した若年性関節リウマチが進行し、2011年に障害者手帳を取得。その翌年に「障がいのある人たちと一緒に働きたい」と、入社したという。  最初の配属先「パーク遺失物センター」では、知的障がい、精神障がいのある同僚たちと一緒に働いた。接し方に戸惑ったが「まずはその人を知ろう」と会話を重視。上司から「しゃべり過ぎだよ」とたしなめられたが、「あの時間は必要だったと思います」と笑顔でふり返る。  「でも、だんだんプライベートな相談を受けるようになり、『どこまで聞くべきか』と悩みました。上司やNDGから助言をもらい、肩の荷が下りました」  その後は、必要なときはキャストの業務を調整したり、支援機関などに相談するよううながしたりして、スムーズな支援につながる橋渡し的な役目をしている。いま配属されている通行証管理のロケーションでもキャストたちと一緒に、グループ会社従業員らに、ていねいな対応を心がけている。 キャストを全員正社員に  舞浜コーポレーションは2019年、それまで嘱託社員としていたキャストを全員、正社員化した。  2021年3月まで4年半にわたり代表取締役社長を務め、現在は同社理事とオリエンタルランド人事部マネジメントアソシエイトを務める中澤(なかざわ)尊史(たかふみ)さんは、「契約を毎年更新しながら働いてくれているキャストに、安定して働き続けてほしいという思いから正社員化を決めました。それに向けて親会社を納得させるため、奔走しました」とふり返る。  具体的には、それまでの6段階の社員資格制度を7段階に増やした形だ。小原さんによると「正社員化によって、新たにキャリアステップの道筋も示すことができたことも大きかった」という。キャストも、勤務年数や人事評価などの条件をクリアすれば、昇格試験を経て昇格できることになったからだ。  現場では、業務内容に沿った「ステップアップシート」を作成している。人事部の畑本(はたもと)賢治(けんじ)さんによると「作業スキルの習得状況などをわかりやすくステップで示し、自分がいまどの位置にいるかを現場の育成担当と確認し、半期ごとに目標設定しています」という。  2021年度には、キャスト3人が昇格した。その一人が、2013年入社の大滝(おおたき)愛美(まなみ)さん(32歳)。製菓学校卒業後に洋菓子店などで働いていたが、会社の研修中に体調を崩し、周囲のすすめで受診した精神科で初めて知的障がいの診断を受けた。就労支援機関を経て入社し、いまは加藤さんと同じ通行証を発行するロケーションに配属されている。  昇格して大きく変わったのは、任される仕事が増えたことだ。「例えば通行証の再発行時の、お金の受け渡しも任せてもらえるようになりました。計算が苦手だったのですが、妹が簡単な暗算法をいくつか教えてくれました」と話す。作業チームの中心に立って仕事を回すこともあるが、効率よく平等に作業を割りふる方法を考案するなど努力を怠らない。  昨年は、初めて地方アビリンピック(千葉県)で喫茶サービス種目に挑戦。「接客は仕事でも活かせるため、よい経験になりました。次回も挑戦したいです」と意気込む。岡部さんは、「会社では、これまでパソコンデータ入力などの種目に選手を送り出してきましたが、喫茶サービスは初めてです。職域拡大を視野に、今後もトレーニングを含め挑戦していきます」と語る。 労働組合にも加入  キャスト全員の正社員化と同時期に労働組合の「舞浜コーポレーション・フレンドシップ・ソサエティ」も設立され、キャストの加入手続きがていねいに進められた。チェアマン(委員長)の佐久間(さくま)真一(しんいち)さんは、「私たち関係者が、保護者に電話をしたり支援機関に足を運んだりして理解を広げ、キャスト向けの説明会を何度も行いました」と話す。  運営するホームページの文章はなるべくわかりやすい表現を使うほか、視覚障がいのある従業員向けには、読み上げ機能が使えるようワード文書を送信している。一方で組合員からの要望で多いのが従業員同士の交流で、映画や歌舞伎の鑑賞ツアーなどは大人気だ。トップセクレタリー(書記長)の森田(もりた)浩朗(ひろお)さんは、「イベントでの充実感がそのまま仕事にも直結しているようです」と話す。佐久間さんは、「会社への要望活動も通常の組合と同様に行っています。特例子会社でつくる労働組合は珍しいため、よい前例になるよう試行錯誤していくつもりです」と語った。 従業員同士の横のつながり  会社側としても、従業員同士で少しでも横のつながりが持てるようにと、さまざまな情報発信や交流の場を設けている。  2012年に始めた電子社内報「KGC(Keep Good Company!)」では、全社員が自分の自己紹介ページを持ち発信の場にしているほか、2020年からはキャスト4人もプロジェクトメンバーとして参加し、各部署の仕事や従業員を取材、紹介している。2017年から年4回発行している社内情報誌「NDネット」は、キャストの家族や支援機関も読者だ。会社の行事、各部署やキャストの紹介、健康や生活面に関する情報提供を行っている。  年1回開催の「MCC(舞浜コーポレーション)フェス」は、従業員が自由に音楽などを披露する文化祭のような楽しいイベント。2016年からは年1回、社内ホールで「コンプライアンスフェスタ」も開催。テーマごとに担当チームが漫画や寸劇などで趣向を凝らした発表を行い、キャストたちから「楽しくてわかりやすい」と好評だ。 裏方としてテーマパークを支える  テーマパーク運営を支える裏方の現場も見学させてもらった。アトラクションで使われる3Dメガネの洗浄業務を担当するロケーションでは、使用済みの3Dメガネを大型機械で洗浄、1本ずつ人の目で検品作業もしている。「検品で多く見つけるのは、鼻あて部分についたファンデーションやフレームの小さな傷です」と説明するのは、特別支援学校から2018年に入社した長谷部(はせべ)未歩(みほ)さん(22歳)。  長谷部さんは2021年から業務拡張のチャレンジメンバーとして、検品のダブルチェックや洗浄関連のデータ入力を行っている。また、洗浄業務の最終確認も任せられている。「自分のペースでマニュアルを確認し、メモも取って何度も見返しています」と話す。「安全に仕事ができるよう、同僚が困っていそうなときは声かけをしています」と頼もしい一面も見せる。 レストランの布ナプキン折り  テーマパーク内のレストランなどで使われている布ナプキンを折るロケーションもある。布ナプキンの折り方は、長方形にたたむものから王冠のように立てる形まで十数種類にのぼる。2002年入社の中島(なかじま)幸男(ゆきお)さん(49歳)は、商品サポート業務などを経験し、5年前から現ロケーションに配属されている。「折り方を覚えるのもたいへんでしたが、いまは折りながらゆがみを調整するのがむずかしいですね」と話す。実演してもらったところ、驚くほど鮮やかな手さばきだった。  「見えないゲストの笑顔を想像しながら折っています」と話す中島さんは、1年前からロケーション内のリーダー職を務めている。ほかの同僚よりもレベルの高い仕事を求められるそうで、プレッシャーにもなりそうだが「逆に仕事のやりがいになっています。後輩たちの見本になれるよう、がんばりたいです」と語っていた。 従業員向けマッサージ  舞浜コーポレーションがある建物には、全グループ会社の従業員のためのマッサージルームがある。営業時間は10時20分〜18時40分で、20分・40分・60分の3コースを用意。開設以来、延べ3万人以上もの従業員が利用している。  ここに勤務する1人が、あん摩(ま)マッサージ指圧師の西島(にしじま)朋幸(ともゆき)さん(49歳)。千葉県立千葉盲学校を卒業後、整骨院勤務を経て2001年に入社した。「この会社がすごいと思ったのは、少しでも『ここが歩きにくいかな』と漏らすと、すぐに対応してくれるところです。街なかよりも断然安全ですよ」と話す西島さん。日々の仕事については、こう語ってくれた。  「デスクワークから立ち仕事まで、さまざまな職種の人が来ます。話を聞いて触診しながら、自分のなかで施術プランを立て、予想通りに体がほぐれたときは『よっしゃ』と思います。人の役に立てているのが何よりのやりがいです」 「人を幸せにする会社」として  代表取締役社長の一倉さんに、目下の課題について聞いたところ、従業員の高齢化をあげた。平均年齢は低いものの、40代以降の従業員も増えているという。健康管理のための研修メニューを揃えるほか、「健康診断の結果が理解できない」というキャストのために、産業医面談に同席して一緒に説明するといった工夫もしている。  「体力低下や障がいの進行によって、スムーズに配置転換できる体制を充実させておくことも重要です」と一倉さんは話す。そこで導入しているのが約2カ月間の「クロス・チャレンジトレーニング」制度だ。本人と業務のマッチングがうまくいかなくなったときの配置転換の検討や、業務拡大による新たなスキルを身につけられるか挑戦してもらう場となっている。  また、さらなる職域拡大も視野に入れている。「これまでキャストの業務はバックステージにかぎられていましたが、テーマパーク内でゲストに直接貢献できるような場を増やしていきたいと考えています」という一倉さん。あらためて舞浜コーポレーションのあり方について語ってくれた。  「私たちオリエンタルランドグループは『幸せをつくる会社』です。テーマパークにかかわる従業員がゲストを幸せにするために、自らも幸せや成長を実感しながら、働きがいを持てるような会社を目ざしていきます」 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、株式会社舞浜コーポレーション様のご希望により「障がい」としています 写真のキャプション 株式会社舞浜コーポレーションのオフィス 代表取締役社長の一倉将さん(左)、理事の中澤尊史さん(右) 人事部の(左から)畑本賢治さん、小原謙一さん、福田麻由さん ノーマライゼーション推進グループの西村友恵さん 加藤さんは担当業務のほか、従業員からの相談窓口も務める リゾートオペレーション部の加藤絵美さん ノーマライゼーション推進グループの小林薫平さん 総務部マネージャーの岡部元暁さん 地方アビリンピック(千葉県)で喫茶サービス種目に出場した大滝さん(左から2人め)(写真提供:株式会社舞浜コーポレーション) 大滝さんは、通行証に使用する顔写真の撮影も担当する 通行証の発行などを行う部署で働く大滝愛美さん 2018年に開催された「MCCフェス」の様子(写真提供:株式会社舞浜コーポレーション) 全社員が自分の自己紹介ページを持つ電子社内報の「KGC」(写真提供:株式会社舞浜コーポレーション) 労働組合チェアマンの佐久間真一さん(左)、トップセクレタリーの森田浩朗さん 社内情報誌「NDネット」は、キャストの家族にも好評だという 布ナプキンの王冠折りを行う中島さん リゾートダイニングサポートの中島幸男さん 3Dアトラクションサポートの長谷部未歩さん 王冠折りの完成品(左)と見学者向けの手順ガイド(右) 3Dメガネを検品する長谷部さん。洗浄業務の最終確認も担当する あん摩マッサージ指圧師の西島朋幸さん 西島さんのマッサージは利用者から好評を得ている 【P10-11】 クローズアップ はじめての障害者雇用U 第1回 〜障害のある人が働きやすい職場づくり〜  今号より、これから障害者雇用に取り組もうとしているみなさまへの入門企画として、「はじめての障害者雇用U〜障害のある人が働きやすい職場づくり〜」を連載します。  第1回は、あおば社会保険労務士・精神保健福祉士事務所代表の貝沼春樹さんに、障害者雇用における職場環境整備などについてご執筆いただきました。  第1回は、「はじめての障害者雇用U〜障害のある人が働きやすい職場づくり〜」について、社会保険労務士としての雇用側の視点と、精神保健福祉士・訪問型職場適応援助者としての支援者側の視点を合わせ、職場環境整備や安全対策、それらの進め方などについて述べてみたいと思います。 1.障害者雇用における職場環境整備 @トップの意思表示と会社全体の体制整備  障害者雇用を進めるうえでは、会社が本気になりトップが率先して発信し、その趣旨を全社に周知・理解させ、必要な体制をしっかりつくることが重要です。その理由は、例えば人事部門などの推進しようとする側の思いと、現場で実際に受け入れる側の気持ちにギャップがあると、大きな支障となることがあるからです。このような状況を避けるためには、会社トップからの強い意思表示と発信の継続が必要であり、推進する側は、その趣旨と会社全体の推進体制を明らかにしつつ、受け入れる現場にしっかり理解してもらうよう努めることがたいへん重要です。 A職場と障害者本人の現場での環境整備  障害のある人を受け入れるのは現場です。その現場において円滑に受け入れ、定着に導くためには、会社としてその障害のある人の障害特性・得意不得意・業務遂行能力・症状などのアセスメントに基づき、障害のある本人に合った仕事内容の選定と配置を行うことが最大のポイントになります。しっかりしたアセスメントがなければ、定着に導くことはむずかしいでしょう。アセスメントを基にしつつ、本人の意見を含め必要な合理的配慮について話し合い、配慮できること、できないこと、代替案などについて双方が合意できるよう取り組む姿勢が大切です。実際に行う合理的配慮の内容およびその必要性について、受け入れる職場が十分理解することで、障害のある人が定着しやすくなります。加えて定期的な面談などにより、労働条件を含めた合理的配慮の見直しを行うことも重要です。 2.安全対策 @安全(健康)配慮義務に留意  当然のことですが、従業員の障害の有無にかかわらず、事業主は、労働契約法第五条の安全(健康)配慮義務を負います。  障害のある人は、障害によって、体調が変化しやすい、注意力・理解力・記憶力などの認知機能や物理的な身体機能の障害によって対処する力が低下している、コミュニケーションがむずかしい、などの課題があります。したがって労働安全衛生法などの安全衛生に関する諸法令を遵守することは当然ですが、安全確保・事故防止のために要請される安全衛生のレベルは、個々の障害特性や症状をふまえて高く、きめ細かい対応が求められると考えられます。  現状では、危険作業や夜間業務に配置されるケースはあまりないと思われますが、配置場所・業務内容と求められる業務レベル・就業時間などの選定の際には、その業務により曝(さら)されるリスクを把握・評価して、いっそうの注意と配慮が必要になると考えられます。 Aその他  合理的配慮の一環としての、トイレ、駐車場、階段・段差、点字ブロック、業務の見直し、マニュアル化など、障害のある人が職場で活動を可能とする環境整備(バリアフリー・ユニバーサルデザイン、視覚化による構造化など)は、健常者にとってもよい結果をもたらします。安全性が高まることに加えて仕事がしやすくなり生産性が上がる効果があります。 3.社内における環境整備の進め方 @専門家の支援を受ける  はじめて障害者を雇用する場合は、最初から支援機関などの専門家の支援を受けることをおすすめします。そうすれば適切な障害者の雇用管理やその対応などに取り組みやすくなります。障害者雇用を進める場合、会社方針の立て方、経営決定、推進体制、社内周知、社員各層への教育研修など、たくさんのことを行う必要があり、これらを通して社内理解を深め、障害のある人の配置と業務内容の選定、職場の受け入れ体制の整備、本人および上司や職場の同僚への支援などを進めなければなりません。これを社内単独で進めることは容易ではないでしょう。  配置後も、障害のある人の体調変動や周囲の職場環境の変化、合理的配慮への対応、職場での人間関係の問題など、対応しなければならない課題が出てくることがあります。この場合も専門家に相談することができれば、適切・迅速な解決に導きやすく、担当者の負担も軽減することができるでしょう。  ここでいう専門家とは、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構の地域障害者職業センター(※)のほか、障害者就業・生活支援センター、就労移行支援事業所、ハローワークの専門援助部門の職員やジョブコーチなどですが、障害者雇用のコンサルティング会社もあります。 A本人と職場環境の両面から考える  適切な障害者雇用を進めるためには、障害のある本人の問題だけに目を向けていては改善が進まないことがあります。本人は職場の各種の環境から影響を受け、職場は障害者から影響を受けるという関係であることを認識する必要があります。つねに本人とそれを取り巻く環境の両面から見て、その両面にアプローチしていくことが大事です。 4.最後に  障害者雇用は、試行錯誤の連続です。各種の資料などで成功事例が紹介されていますが、成功事例に至るまでには、その会社・職場での種々の試行錯誤とご苦労が裏にあります。しかし、試行錯誤をくり返しながらも続けていくと、障害のある人は予想以上の能力を発揮し、会社と職場に大いに貢献してくれます。  時間はかかりますが、専門家の支援を受け連携しながら、着実に進めていくことが大切です。 ※https://www.jeed.go.jp/location/chiiki/index.html <社内の不安> ・障害者は社員と同じように仕事ができるの?結局私たちが助けないといけなくなるのでは? ・企業は競争社会。厳しい環境で働くのはかわいそう。福祉が生活を支える方が障害者にとってもよいのでは? ・なぜ障害者を雇用しなければならないんだろう。 <経営者の姿勢> 企業のトップが前向きなメッセージを伝える ・受入部署任せにせず、経営者、採用担当もサポートします。支援機関も相談にのってくれます。 ・最近では多くの企業が障害者を雇用し、十分戦力になっています。 ・福祉が支える時代から、障害者も職業的に自立する時代になっています。働く意欲を持った障害者も増えています。 ・障害者雇用は法律で企業に義務付けられています。女性登用、高齢者雇用と同様に障害者雇用は企業の評価指標の一つです。 <社内の変化> ●障害者雇用を進める理由が理解できた。 ●今まで持っていた障害者のイメージとは少し違うようだ。 ●周囲から協力が得られれば安心。 ●障害者雇用は企業が取り組まなければならないことだ。 社員 障害者を受け入れてみよう! 出典:「はじめての障害者雇用〜事業主のためのQ&A〜」独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003kesx.html 写真のキャプション あおば社会保険労務士・精神保健福祉士事務所 代表 特定社会保険労務士、精神保健福祉士、訪問型職場適応援助者 貝沼(かいぬま)春樹(はるき) 【P12-14】 JEEDインフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 令和4年度 障害者雇用納付金制度に基づく申告申請が令和4年4月1日から始まります @障害者雇用納付金の申告・納付、障害者雇用調整金および在宅就業障害者特例調整金の申請期限は令和4年5月16 日です。 A報奨金および在宅就業障害者特例報奨金の申請期限は、令和4年8月1日です。 B特例給付金の申請期限は、上記@の対象事業主の場合、令和4年5月16日です。  上記Aの対象事業主および特例給付金のみを申請する事業主の場合、令和4年8月1日です。  ※障害者雇用調整金、報奨金や特例給付金などは、申請期限を過ぎた申請に対しては支給ができません。十分にお気をつけください 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 納付金部  障害者を雇用するには、作業施設や設備の改善、職場環境の整備、特別の雇用管理などが必要とされることも多く、経済的負担がともなうこともあるため、雇用義務を履行している事業主と履行していない事業主とではその経済的負担にアンバランスが生じることになります。  「障害者雇用納付金制度」とは、身体障害者、知的障害者および精神障害者(以下、「対象障害者」)を雇用することは事業主が共同して果たしていくべき責任であるという社会連帯責任の理念に立って、事業主間の障害者雇用にともなう経済的負担の調整を図るとともに、障害者を雇用する事業主に対して助成、援助を行うことにより障害者の雇用の促進と職業の安定を図るため、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき設けられた制度です。 障害者雇用納付金制度の概要 障害者雇用納付金の徴収 不足する障害者1人当たり月額5万円 ★常時雇用している労働者数が100人を超える事業主は、 ●毎年度、納付金の申告が必要 ●法定雇用率を達成している場合も申告が必要 ●法定雇用障害者数を下回っている場合は、申告とともに納付金の納付が必要 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者雇用調整金の支給 超過1人当たり月額2万7000円 ●常時雇用している労働者数が100人を超えており、※常用障害者数が法定雇用障害者数を超えている事業主に対し、申請に基づき支給 報奨金の支給 超過1人当たり月額2万1000円 ●常時雇用している労働者数が100人以下で、支給要件として定められている数を超えて障害者を雇用している事業主に対し、申請に基づき支給 在宅就業障害者特例調整金の支給 ●在宅就業障害者に仕事を発注した納付金申告事業主に対し、支払った業務の対価に応じた額を、申請に基づき支給 在宅就業障害者特例報奨金の支給 ●在宅就業障害者に仕事を発注した報奨金申請対象事業主に対し、支払った業務の対価に応じた額を、申請に基づき支給 特例給付金の支給 ●週20時間未満の障害者を雇用する事業主に対し、支給上限人数までの額を、申請に基づき支給(詳しくは当機構ホームページをご覧ください) 各種助成金の支給 ●障害者を雇い入れたり、雇用を継続するために職場環境の整備などを行う事業主に対し、申請に基づき費用の一部を助成 法定雇用障害者数を下回っている事業主 法定雇用障害者数を超えている事業主 法定雇用障害者数 雇用している身体、知的、精神障害者の数 納付金 調整金 常時雇用している労働者数が100人を超える事業主 ※常用障害者…常時雇用している労働者である障害者 (注)以下の当機構ホームページにおいて、障害者雇用納付金制度に基づく申告申請のご案内(動画)を掲載中ですので、ご活用ください https://www.jeed.go.jp/disability/levy_grant_system_about_procedure.html Q すべての事業主が障害者雇用納付金の申告・納付を行わなければならないのですか? A  障害者雇用納付金の申告が必要となるのは、常時雇用している労働者数が100人を超える事業主となります。  常時雇用している労働者数が100人を超える事業主は、年度ごとに翌年度の4月1日から5月15日(令和4年度は5月16日)までの間に当機構ホームページから電子申告により障害者雇用納付金申告書を提出するか、本社の所在する都道府県にある当機構申告申請窓口(注1)に送付または持参で提出しなければなりません。  なお、この申告書は、年度ごとに、その雇用する対象障害者の人数が、基準となる障害者雇用率(令和3年3月1日からは2・3%)を達成している事業主も提出することとされています。  このうち、障害者雇用納付金の納付が必要となるのは、基準となる障害者雇用率を下回っている事業主となります。  また、この場合の障害者雇用納付金の額は、その「基準となる障害者雇用率に不足する人数」に「月額5万円」を乗じた額となります。 Q 障害者雇用納付金の納付期限はいつですか? A  障害者雇用納付金の納付期限は、申告書の提出期限と同様に5月15日(令和4年度は5月16日)となります。  なお、納付すべき障害者雇用納付金の額が100万円以上となる場合は、3期に分けて延納することができ、各期の納付期限はそれぞれ次の通りです。 延納第1期分の納付期限:5月16日 延納第2期分の納付期限:8月1日 延納第3期分の納付期限:11月30日  また、障害者雇用納付金の納付については「ペイジー」をご利用いただけます。詳細については、本誌裏表紙をご確認ください。 Q 障害者雇用調整金および在宅就業障害者特例調整金はどのような支給金ですか? A【障害者雇用調整金の支給】  障害者雇用納付金の申告が必要となる事業主のうち、年度ごとに、その雇用する対象障害者の人数が基準となる障害者雇用率を上回っている事業主に対して支給されます。 〈支給額〉「基準となる障害者雇用率を上回って対象障害者を雇用している人数」に「月額2万7000円」を乗じた額となります。 〈申請期間〉年度ごとに翌年度の4月1日から5月15日(令和4年度は5月16日)までです。 〈支給時期〉支給決定された年度の10月から12月末までに指定の預金口座に振り込みます。 【在宅就業障害者特例調整金の支給】  障害者雇用納付金申告または障害者雇用調整金支給申請事業主のうち、年度ごとに、在宅就業障害者か在宅就業支援団体(注2)に仕事を発注した事業主に支給されます。  なお、基準となる障害者雇用率が未達成の場合は、在宅就業障害者特例調整金の額に応じて障害者雇用納付金が減額されます。 〈支給額〉「事業主が当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額35万円で除して得た数」に「調整額2万1000円」を乗じた額となります。なお、各月において雇用している障害者数の年度間合計数に単位調整額2万1000円を乗じた額が限度額となります。 〈申請期間〉年度ごとに翌年度の4月1日から5月15日(令和4年度は5月16日)までです。 〈支給時期〉支給決定された年度の10月から12月末までに指定の預金口座に振り込みます。 Q 報奨金および在宅就業障害者特例報奨金はどのような支給金ですか? A【報奨金の支給】  常時雇用している労働者数が100人以下の事業主のうち、一定数(各月の常時雇用している労働者数の4%相当数の年度間合計数または72人のいずれか多い数)を上回って対象障害者を雇用している事業主に支給されます。 〈支給額〉「一定数を上回って対象障害者を雇用している人数」に「月額2万1000円」を乗じた額となります。 〈申請期間〉年度ごとに翌年度の4月1日から7月31日(令和4年度は8月1日)までです。 〈支給時期〉支給決定された年度の10月から12月末までに指定の預金口座に振り込みます。 【在宅就業障害者特例報奨金の支給】  報奨金申請対象事業主のうち、年度ごとに、在宅就業障害者か在宅就業支援団体に仕事を発注した事業主に支給されます。 〈支給額〉「事業主が当該年度に支払った在宅就業障害者への支払い総額を評価額35万円で除して得た数」に「報奨額1万7000円」を乗じた額となります。なお、各月において雇用している障害者数の年度間合計数に単位報奨額1万7000円を乗じた額が限度額となります。 〈申請期間〉年度ごとに翌年度の4月1日から7月31日(令和4年度は8月1日)までです。 〈支給時期〉支給決定された年度の10月から12月末までに指定の預金口座に振り込みます。 Q 特例給付金はどのような支給金ですか? A【特例給付金の支給】  次のいずれも満たす事業主が、支給の対象となります。 @週所定労働時間が10時間以上20時間未満の労働者である障害者を雇用している事業主 A週所定労働時間が20時間以上の労働者である障害者を雇用している事業主 B以下のいずれにも該当しない事業主 ・納付金の未申告または未納付がある事業主 ・申請書に記載のあった障害者に対する適切な雇用管理の措置を欠いたことによる労働関係法令の違反により送検処分をされた事業主  支給額等の詳細については、当機構ホームページの「特例給付金のご案内」(注3)をご確認ください。 Q 調整金・報奨金・特例給付金申請時には添付書類が必要と聞きましたが、どのような書類が必要ですか? A  雇用する労働者数が300人以下で調整金、報奨金や特例給付金を申請する事業主は、雇用する障害者の障害の種類・程度を明らかにする書類と、その労働者の労働時間の状況を明らかにする書類を添付する必要があります。  具体的には、障害の種類・程度を明らかにする書類は障害者手帳などの写し、労働時間の状況を明らかにする書類は源泉徴収票(マイナンバーの印字のないもの)などの写しです。  なお、障害の種類・程度を明らかにする書類として、平成26年度以降の申請時に提出された常用障害者について、障害の種類・程度の変更がなく、申請対象期間内に障害者手帳などの有効期限がきていない場合は、改めての提出は不要です。 Q 申告申請関係の書類作成や手続きはパソコンでできますか? A  障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金、報奨金、在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金および特例給付金の申請にかかる申告申請書と各種届は、当機構ホームページの「障害者の雇用支援(障害者雇用納付金)」(注4)のコーナーに掲載していますので、ダウンロードしてパソコンで作成することができます。 ●「申告申請書作成支援シート(マクロ機能つき)」を活用していただくと、画面の案内に従って月別の常用雇用労働者数や障害者の雇用状況などを入力することにより、納付金額などが自動計算されるほか、エラーチェック機能が組み込まれており、比較的簡易に申告申請書を作成できます。 ●「申告申請書作成支援シート(マクロ機能つき)」により作成した申告申請データを、当機構ホームページを通じて送信し、申告申請の手続きを行うことができます(電子申告申請)。  なお、電子申告申請の場合も、常時雇用する労働者数が300人以下の調整金・報奨金等申請事業主は、添付書類(障害者手帳や源泉徴収票などの写し)が必要となります。ただし、添付書類は電子送信することができませんので、当機構ホームページより所定の添付書類送付状をダウンロードして、必要事項を記載、添付書類を添付したうえで、各都道府県にある当機構申告申請窓口まで送付してください。  また、「電子申告申請」を利用するためには、電子申告申請用IDとパスワードが必要となるほか、ご注意いただく点がありますので、詳しくは、各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)にご照会ください。 令和4年度申告申請の主な留意点 1.法人番号の記入または所得税確定申告書の写し等の提出  法人である事業主にあっては、申告申請書に法人番号をご記入いただきます。  また、今回初めて申告申請を行う個人事業主(法人番号を持たない個人事業主以外の事業主を含む)にあっては、所得税確定申告書(白色申告書または青色申告書)の写しまたは開業届の写しのご提出をお願いします。法人番号については、国税庁法人番号公表サイト(https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/)にて確認できます。 2.納付金制度における算定特例の適用時期について  納付金の申告期間内に算定特例を申請して認定された場合の、特例申請した前年の4月1日に遡って算定特例を適用する取扱いは令和4年度申告申請から廃止されました。令和4年度以降の申告申請にかかる算定特例は、申請した年度の4月1日から適用されます。 3.納付金等の重複申告申請について  納付金等の申告申請は、原則として法人単位で行うことが必要です。一つの法人が重複して申告申請を行っていることを確認した場合は修正手続をお願いします。 (注1)当機構各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は、高齢・障害者窓口サービス課)が申告申請窓口となります (注2)在宅就業障害者に対する支援を行う団体として厚生労働大臣に申請し、登録を受けた団体 (注3)https://www.jeed.go.jp/disability/tokureikyuufu.html (注4)https://www.jeed.go.jp/disability/koyounohu/index.html ★本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 【P15-18】 グラビア 安心して働ける職場 〜医療機器の生産をサポート〜 シスメックスハーモニー株式会社(兵庫県) 取材先データ シスメックスハーモニー株式会社 〒651-2271 兵庫県神戸市西区高塚台4-4-4 TEL 078-991-2183 FAX 078-265-0526 写真・文:官野 貴  「シスメックスハーモニー株式会社」は、医療機器メーカー「シスメックス株式会社」の特例子会社だ。多様な人材が働きやすい環境を整備し、地域共生社会の実現を目ざす取組みとして、2017(平成29)年に設立され、2018年1月に特例子会社の認定を受けた。  シスメックスハーモニーでは、血球計数検査などに使用される検査機器や周辺装置、臨床検査用試薬の生産に関するサポート業務を、親会社から請け負っている。現在、シスメックス株式会社加古川工場では、知的障害や精神障害などのある社員19人が働いており、検査機器で使用されるチューブの切断作業や保守パーツの袋詰めなどを行っている。またシスメックスハーモニーでは、作業ミスを防ぐための治具を自社で開発し、品質の向上に役立てているという。  発達障害のある沖井(おきい)良昭(よしあき)さん(30歳)は、入社3年目。この日、新型コロナウイルス感染症PCR検査用の検体採取キットの袋詰めを行っていた。「やりがいがある仕事でうれしいです。今後、さまざまな仕事にチャレンジしたいと思っています。わからないことは、指導員に質問できるので安心です」と話す。沖井さんと同期入社で、精神障害のある沖(おき)英計(ひでかず)さん(50歳)は、「作業マニュアルがあり、次に何をすればよいかが明確にわかるので、働きやすいです。送迎バスもあり、通院休暇も取りやすく、助かっています」と語る。  シスメックスハーモニーでは、2017年の設立以来、面談を重視し、長く働ける環境づくりに力を入れており、退職者はまだ一人もいないという。今後も、障害のある社員が安心して働ける環境づくりや関係会社からの仕事の切り出しなどを通して、さらなる障害者雇用の拡大を目ざしている。 写真のキャプション シスメックスハーモニーは、検査機器ユニットに必要な部品の生産を行っている ここでは、病院などで使用される検査機器が生産されている シスメックス株式会社加古川工場 チューブの長さを測る検尺では、素材や長さに合わせて治具を使い分ける 工場内、シスメックスハーモニーの作業エリア 内周に沿ってチューブを巻くことでチューブが伸びず、正確に長さを測れる 柔らかく伸びやすいシリコンチューブの検尺には、円筒状の治具を使用する 袋へのラベル貼りでは、貼付位置を記載したシートを利用する 保守パーツの袋詰めでは、員数管理トレイを活用しミスを防ぐ 内容物と袋の員数を揃えることで、入れ忘れのミスに気づける 沖井さんが担当するPCR検査用の検体採取キットの袋詰め作業 沖井良昭さん 巻き取り式の治具を使用したウレタンチューブの検尺を行う沖井さん この日、沖さんはウレタンチューブの切断作業を担当していた。まず、注文書を確認する 自動切断機を使用したチューブの切断作業を行う沖さん 注文書に従って、自動切断機にチューブの長さや個数を入力する 沖さんは、「品質の向上を目標として仕事に取り組んでいます」と語る 【P19】 エッセイ 発達障害当事者の働きづらさのリアル 第4回 〜発達障害自体よりも厄介? 二次障害とのつき合い方〜 姫野 桂(ひめの けい) フリーライター。1987(昭和62)年生まれ。宮崎県宮崎市出身。日本女子大学文学部日本文学科卒。25歳のときにライターに転身。現在は週刊誌やウェブ媒体などで執筆中。専門は性、社会問題、生きづらさ、など。おもな著書に『私たちは生きづらさを抱えている 発達障害じゃない人に伝えたい当事者の本音』(イースト・プレス)、『発達障害グレーゾーン』(扶桑社新書)などがある。  発達障害のある人は、その生きづらさのストレスから何らかの二次障害を併存している場合が多いようです。現に私も、双極性障害と摂食障害を併存しています。いままで私が取材してきた当事者の約9割が適応障害やうつ病、睡眠障害など何らかの二次障害を起こしていました。じつはこの二次障害、発達障害の特性そのものよりも厄介なんです。  私のように双極性障害があったら、うつの時期はとてもじゃないけれどベッドから起き上がれません。私の場合フリーランスなので、ちょっと回復したときにささっと仕事にとりかかれますが、会社に勤めている人は休職せざるを得ません。そして私がもう一つ抱えている摂食障害。拒食症と過食症をくり返すことが多い障害で、拒食症だった時期はいまよりも体重が10sも軽く、その分体力も落ちていました。そしてしばらく経ってから過食嘔吐が始まってしまいました。これは私のなかに「痩せて綺麗でいないといけない」という認知の歪みがあることが原因です。発達障害のある人のなかには、ものごとを「ゼロか100か」で考えてしまう「ゼロヒャク思考」の人が多く、私もゼロヒャク思考です。このゼロヒャク思考は摂食障害を引き起こしやすいといわれています。いまはちょうど過食の時期で人生で一番太ってしまったので、今度こそ健康的に痩せようと炭水化物を控えたり、エクササイズをしたり、時間のある日は軽くランニングをしたりしています。  私の友人で発達障害のある女性は、仕事が合わずに二次障害のうつ病を発症し、半年ほど休職していました。また、その女性も私と同じように摂食障害を併存しており、毎日縄跳びをして過激なダイエットに励んでいました。しかし、BMI(体格指数)で見ると、その女性は「痩せ」のゾーンに入る人でした。拒食症の人の多くは痩せているのに自分が太っているように感じてしまうのです。  このように、発達障害は特性そのものよりも二次障害のほうが生活するうえで深刻な被害をもたらしてしまうのです。そのために、発達障害の特性があるとわかったら、まずは二次障害を引き起こさないことが重要となってきます。二次障害を引き起こさないためにはストレスフリーの生活と、自己肯定感を高めて自分らしく生きる必要があります。そのためには環境がキーポイントです。例えば、発達障害の特性が垣間見える人でも、環境に適応できているため困りごとが起こらないケースもあります。しかし、残念ながら、うつ病や適応障害でクリニックを受診したら、根幹に発達障害が見つかった……というケースがとても多いのが現状のようです。いまの日本は、発達障害のある人が適応しやすい環境にないように思われます。  すでに二次障害を引き起こしてしまった人は、これ以上悪化させないようにするしかありません。そのためには、職場でも工夫が必要です。まずは職場の人が発達障害とその人の二次障害についてよく知ることです。二次障害の原因の多くはストレス。そのため、二次障害のある人に無理な残業や合わない作業を依頼するのはやめたほうがよいでしょう。また、二次障害を隠している人もいます。そして、そんな人はどこかでSOSを出しています。「最近この人ミスが多いな」、「体調が悪そうだな」。そう思ったときはさり気なく「仕事の分量大丈夫?」とたずねてみたり、場合によっては相談に乗り、仕事内容や分量を調整することをオススメします。二次障害の悪化は、仕事のパフォーマンスが落ちるので会社にとっても不利です。うまく働けるよう、発達障害だけでなく二次障害についても認知が広がってくれればと思います。 写真のキャプション 姫野 桂 【P20-25】 編集委員が行く 宮城県の特別支援学校の取組みから考える障がいのある子どもたちの自立 宮城県立支援学校小牛田高等学園、宮城県立支援学校岩沼高等学園(宮城県) サントリービジネスシステム株式会社 課長 平岡典子 取材先データ 宮城県立支援学校小牛田(こごた)高等学園 〒987-0005 宮城県遠田郡(とおだぐん)美里町(みさとまち)北浦(きたうら)字(あざ)船入(ふないり)1 TEL・FAX 0229-32-2112 宮城県立支援学校岩沼(いわぬま)高等学園 〒989-2455 宮城県岩沼市(いわぬまし)北長谷(きたはせ)字(あざ)豊田(とよた)1-1 TEL 0223-25-5332 FAX 0223-25-5333 編集委員から  宮城県での知的障がいのある方の特別支援学校の取組みを取材した。将来の社会参加に向けて学校と寄宿舎の両軸で育つ生徒たちとそれを支える先生方にお会いした。記事を読んでくださったみなさんにとって、障がいのある子どもたちが社会で生きるための自立について、あらためて考える機会になればと思う。 写真:官野 貴 Keyword:特別支援学校、知的障害、寄宿舎、自立支援 POINT 1 卒業後を見すえた、実践的で具体的な取組み 2 自ら考え、自らやってみる機会を与える 3 寄宿舎での生活を通じて自立に向けた支援を図る  私の所属するサントリーグループでは、特別支援学校を卒業した知的障がいのある社員が東京と大阪で活躍しており、今後全国の事業所においても障がいのある人と働くことがあたり前となる職場を目ざし、各地で採用活動をスタートしている。そのなかで東北エリアでの採用にあたり接点ができた「宮城県立支援学校小牛田(こごた)高等学園」(以下、「小牛田高等学園」)と「宮城県立支援学校岩沼(いわぬま)高等学園」(以下、「岩沼高等学園」)を訪問し、取材した。両校の取組みについて紹介したい。 小牛田高等学園のビブリオバトル授業を見学  まずは小牛田高等学園を紹介したい。校内は、加藤(かとう)隆弘(たかひろ)先生と佐々木(ささき)幸司(こうじ)先生にご案内いただいた。  最初に、2年生の「ビブリオバトルに挑戦!」の授業を見学した。「人を通して本を知る」と題し、数名のグループに分かれ、自分が読んだ本を手に5分間でその本の魅力をプレゼンテーションする。ほかの生徒はプレゼンテーションを聞きながらいくつかの観点で評価し、最終的にほかの生徒に一番「読みたい」と思わせた人がチャンピオンになるという。女子生徒の発表が始まると私はすっかり聞き入ってしまい、紹介してくれた本をぜひ読んでみたいと感じた。  本を読むことで、生徒たちは生きる力を育んでいるように思えた。自分の世界の小ささや考えの浅はかさを感じ、自分の進むべき道を軌道修正したり、「これでもよかったんだ」と自己肯定をしたりと自己成長につながっているのではないかと感じた。さらにこのビブリオバトルを通じて、自分の思いを相手に伝えるプレゼンテーションの力をつけることができる。  佐々木先生からは「読書を通じて社会に目を向けてほしい」という生徒への熱い思いをうかがった。読書の取組みは学校全体で進めており、2020(令和2)年に「子供の読書活動優秀実践校」として文部科学大臣表彰を受けている。校内の図書室の入り口にはさまざまな本が紹介文とともに掲示されていて、生徒たちが本に興味を持ち、「読んでみたい」という思いを育める仕組みがつくられていた。あらためて読書の大切さを感じる機会となった。 校内に会社!?  渡り廊下を進んだ先には、生徒たちがパソコン作業や検品作業に真剣に取り組む「職業実践室」があった。ここは事務作業訓練の場。実際のオフィスさながらの環境がそこにはあった。所狭しとさまざまな商品が並べられているなか、書類に書かれた商品の検品を行い、先生へ報告する。作業時間を計り正確性やスピードが求められる。ここでは先生は上司であり、学校ではなくオフィスであると指導している。休憩は自分の決めたタイミングで隣の休憩室にてお茶を飲むなどして過ごす。休憩の取り方、言葉遣いや態度も会社で通用するマナーが必須のようだ。  元商社マンの関(せき)教光(のりみつ)先生が、社長として生徒たちの指導にあたっている。ピッキング作業で扱う商品数は12種類5570点、商品総数は2万2千点を超える。ものすごい数だ。陳列されている棚から、書類に書かれた指定の商品を揃え、上司役の先生へ確認依頼をする。  緊張感のあるなかでの生徒の真剣な表情は印象的で、「自分たちは、いま仕事をしているのだ」という誇りも感じる場であった。学校の授業という域を越え、会社のオフィスがそこにはあった。  「検品作業を通して、仕事の正確性やスピードを身につけたり、仕事の段取り、優先順位や臨機応変な対応を身につけたりすることで、幅広い職種でそのスキルを活かすことができる」と、関先生はいう。 地域の小学生とねぎの収穫  あいにくのお天気だったが、取材した日は地域の小学生向けに生徒たちが授業を行い、育てたねぎを一緒に収穫するという日だった。  生徒がねぎの育て方などを説明し、小学生たちは興味深く聞き入っている。その後、実際の収穫作業が行われた。  農業高校を卒業した専任の先生の指導により、生徒たちの野菜は立派に育っていた。トマトやトウモロコシ、白菜など季節に合わせたさまざまな種類の野菜をつくるそうで、地域で販売されたり、飲食店で実際に調理されメニューに使われたりしているそうだ。 岩沼高等学園の地域連携  次に訪問した岩沼高等学園では、体育館にて3年生の芸術鑑賞の授業を見学した。和太鼓のパフォーマンスに生徒たちからは驚きや笑いの歓声があがり、心を躍らせていた。和太鼓の演奏体験もあり、演奏家のみなさんと楽しそうに交流する姿もあった。生徒たちにとって貴重な時間となっているようだった。本授業は、文化芸術による子供育成総合事業として、定期的に地域の芸術家のみなさんをお呼びして、交流をしているそうだ。  地域のみなさんに学校の活動を理解いただき、開かれた教育現場をつくることは、生徒たちに多くの経験を運び、世界を拡げる非常に重要な機会となるとあらためて感じることができた。 デジタル授業で生徒たちも前のめり!  岩沼高等学園には「PATH(パス)(※)」という取組みがある。10年後の自分を高校3年間かけてつくりあげる≠ニいうものだ。  「自分は将来どうなりたいのか」という目標を生徒たちが持つことは非常に大事だ。自分で決めた「なりたい姿」の目標があるからこそ、生徒たちはその目標に向かって努力・成長をすることができるのだと思う。  今回見学した1年生の授業は非常に興味深いものだった。デジタルツールを使った「あなたの将来アンケート」だ。先生が考えた質問に対して生徒はタブレット端末を使用して回答していく。  例えば、「あなたは、将来の夢や目標がありますか」という質問に対して、「はい・いいえ・わからない」などの選択肢で回答をしていく。全員がすべての質問への回答を終えると、前方スクリーンには生徒たちが回答した結果がカラフルな円グラフとなって現れた。  円グラフの結果を見ながら生徒たちと対話をする。「あなたは、将来の夢や目標がありますか」の回答を見ながら、先生はざっくばらんに「先生もみんなくらいのときは、まだ何になりたいか夢ははっきりしてなかったぞ」といいながらも、「夢や目標を持つことは大事だから、これから一緒に考えていこう」と生徒たちに投げかけた。  ここでは、どの回答を選んだ生徒に対しても、肯定的にとらえ、伝えるようにすることが重要だという。高校1年生のこの段階では、夢や目標が「まだない・わからない」という回答でもよく、生徒たちのありのままの現状を知るということが大事なのだ。  ほかに、「あなたは、将来どんな暮らしがしたいか決まっていますか」の質問については、「自分は将来絶対一人暮らしがしたい!」と発言し、前のめりで参加する生徒がいたり、一方で「自分はそんなこと考えてもいないな」、「一人暮らしをしたいと考える仲間が結構いるんだな」と、ほかの生徒の考えに刺激を受ける生徒もいるようだった。  生徒たちはタブレット端末などのデジタルツールを利用した学習に積極的な態度を示すことが多く、リアルな生徒の考えを把握し、すぐに生徒に伝えることが非常に有益だという。  生徒たちは質問されて初めて自分の考えに気づいたり、整理したりできる。また仲間の考えを知ることで刺激を受ける。気づきの多い授業であると感じた。このような経験を通して、一歩ずつ10年後の自分を描いていくのだろう。  このデジタルツールを活用した授業はこれからさらに拡げていきたいという。  小牛田高等学園と岩沼高等学園の見学を通して、先生方は深い愛情を持って、温かくおおらかに人物教育をされており、高校3年間だけでなく、その先の生徒たちの将来まで見すえた指導をされていると感じた。 卒業後の進路  小牛田高等学園は1学年に生徒は24人で、全校生徒は72人、岩沼高等学園は1学年に生徒は40人で、全校生徒は120人の規模である。生徒たちは、教科学習に加え、専門教科を通して職業教育を学び、高校3年間で社会参加と職業的自立を目ざす。  卒業後の進路は大きく三つに分かれる。一つは「一般就労」であり9割以上の生徒たちが、製造、卸売・小売、サービス業、教育、運輸・郵便、医療福祉など、さまざまな産業現場へ就職する。驚いたのは就労先の企業の数の多さである。東京都や大阪府などの都心部に比べ企業数が少ないため、就労先開拓には非常に苦労されているのではないかと想像していたが、障がいのある生徒が多くの企業で就労していることを知った。  一般就労以外には「福祉サービス利用」と「進学」を選択する生徒がいる。ここでは特に進学について触れたい。進学先としては、宮城障害者職業能力開発校に加え、支援学校仙台みらい高等学園といずみ高等支援学校専攻科があり、ここではさらに数年間社会で活躍するための訓練を受けてから一般就労を目ざす生徒たちがいる。高校の3年間だけでは就労がむずかしかった生徒でも、学び続けることで成長し一般就労のチャンスが拡がることもある。岩沼高等学園進路指導の庄司(しょうじ)竹弥(たけや)先生も、「3年間では学び足りない生徒たちでも、さらに数年学習を重ねれば企業就労の可能性が拡がると感じることも多い」とおっしゃっていた。  知的障がいのある子どもたちは、高校卒業後に学び続けられる場所が少ない。障がいがなければ専門学校や大学といった学びを続け、人生を豊かに自由に過ごすことのできる時間があるが、障がいのある子どもたちにはその猶予はない。学ぶことや経験することで少しずつ成長する子どもたちが豊かに生きる、さまざまな選択肢が拡がることを希望する。 高校1年生は全員、寄宿舎生活一人暮らし体験も  私が両校の取組みで一番驚いたことは、二校ともに寄宿舎があり、1年生は全員が寄宿舎での生活を送るということだった。小牛田高等学園の寄宿舎は、学校から徒歩約10分の場所に立地している。これまで20年以上寄宿舎で生徒指導にあたられている鈴木(すずき)紀之(のりゆき)先生に、寄宿舎をご案内いただきながらお話をうかがった。  寄宿舎での生活は年間160泊程度で、週末や夏休み・冬休みなどの長期休暇時は家庭での生活に戻るという。寄宿舎での一日のスケジュールは図のようになっており、起床後は6時15分から自分の部屋の清掃を30分、共用部分の清掃を30分かけて毎日行う。この清掃指導は、生徒たちの基本的な掃除力の底上げや将来を見すえた朝型の生活リズムづくり、同室生徒との協力や生活の場に対する責任感をつちかうため徹底しているそうで、その後朝食を取り、8時に登校という毎日を送っている。  起床後にまず清掃をするといった日常は家庭ではなかなかできない。生徒たちにとってはたいへんな朝のルーティンだが、この毎日の積み重ねが、生徒たちの心までも大きく成長させているのだろうと感じた。  寄宿舎での生活は年間160泊ということや、週末には生徒たちは家庭に戻ることを考慮し、寄宿舎を生活指導の場ととらえ、他者に対する礼儀、一定の距離感なども大切に指導しているようだ。  寄宿舎生活を通して、基本的な生活習慣を身につけ、自分のことは自分で行う必要性を感じ、実践できるようにすること。集団生活維持に必要な時間やルールを守り、自分の役割を主体的に果たすこと。自分中心にならないよう、ある程度我慢することを経験させる。その一つに、現代の子どもたちには少し酷のようだがデジタルデトックスの環境とし、個人のスマートフォンやタブレットは使用不可としている。そのような環境で、周囲とよりよい人間関係を築くために、他者を尊重しながら自分のことも主張でき、適切なコミュニケーションが取れるよう指導されている。  また、寄宿舎には一人暮らし体験ができる部屋「生活体験室」があり、寄宿舎で通常行っている掃除・洗濯に加え、食事づくりにもチャレンジする。自分でメニューを決め、買い物を行い、調理するという経験だ。高校生の段階でここまで経験するとは非常に驚きであった。  次に岩沼高等学園の寄宿舎を紹介したい。こちらは学校の校舎とつながった建物となっていた。庄司先生にご案内いただいた。  基本的な指導については前述の小牛田高等学園の寄宿舎と同様であるが、特徴的な部分としては、一人暮らし体験をするワンルームアパート「生活訓練棟」が、学校の敷地内に存在することだ。生徒はこのアパートで一週間、日常生活の時間管理から掃除・洗濯・食事のすべてを一人で行いながら学校生活を送る。  これらの寄宿舎での経験は、障がいのある子どもたちにとって将来の社会参加・自立の可能性を拡げる素晴らしい取組みであると感じた。 自立について  今回、宮城県の二校を取材させていただき、障がいのある子どもたちの将来の自立について大切であると考えていることを述べたいと思う。  私には、中学2年生になるダウン症の息子がいる。現在の障がい者雇用の仕事にたずさわる前は、息子の自立について考えたこともなかった。息子が何歳になっても寄宿舎や寮に入れるといった選択肢はまったくなかった。その背景には、何歳になっても一緒にいたいという気持ちもあったが、一人で生活することができるようになることが想像できなかったことがある。  親として障がいのある子どもを家から出して、別の場所で生活させると決断することはとても勇気のいること。  発達がゆっくりな息子に対し、幼少期は着替えや食事など身の回りのことにかなり手を出し、生活をしていた。できないのだから、仕方がない。私が面倒をみればよいと考えていた。息子を自分の手のなかで守ることしか考えていなかった。  しかし、転機は息子が9歳のときにやってきた。私が企業にて知的障がい者の雇用にたずさわるようになり、息子のために「よかれ」と思って行ってきた守る≠ニいうサポートが、彼の将来の可能性を狭めてしまっているということに気づいたのだ。  知的障がいのある人が社会で活躍するために大切なことは、小学生・中学生から親がすべてを抱えサポートするのではなく、子どもたちが自分のことを自分でできるような自立へのサポートをすることだと、いまは考えている。息子へのサポートが180度といってよいくらい変化した。  障がいがあるということで、親は周りに迷惑をかけてしまうのではないかと考え、子ども同士の交わりや地域社会との交わりも積極的に持つことがむずかしいと感じることがある。  親としてできることは、何でもやってあげるサポートではなく、大切なことは子どもが一人でできるためのサポート。  今回取材させていただいた二校ともに寄宿舎での生活、ステップアップとして一人暮らしの経験も高校の3年間で体験する。これまでの私であれば、将来高校生になった息子を家とは別の寄宿舎に入れるなど想像もできなかったが、施設を見学させていただき、子どもたちの可能性を拡げるうえで、非常に重要な取組みであると確信した。  東京では、自立に向けた取組みとして、通勤寮やグループホームなどがある。  私が一緒に働くメンバーが昨年、通勤寮での生活にチャレンジした。本人が将来一人暮らしをしたいと考えるなかで、通勤寮での生活はメンバーを大きく成長させ、将来一人暮らしをやっていけそうだという自信を持つことができたと感じている。家庭では機会がなかった掃除や洗濯だけでなく、ほぼ初めて食事づくりを経験した。「自分はできないかも」と最初は自信がなさそうだったが、寮スタッフのサポートを受けながら、生姜焼き・ハンバーグ・唐揚げなどメインに加え、サラダとお味噌汁もあり、栄養バランスもきちんと考えられたメニューをつくれるまでになっていた。完成後の写真を送ってもらうこともあったが、盛りつけもとても美味しそうに仕上がっていた。なによりできない、苦手だと思っていた料理だったが、実際にやってみたらできたという経験になった。これは、じつは家庭ではなかなかできない。親として反省しなければならないが、本人に「料理をつくりたい」というモチベーションがあったとしても、つい手と口を出してしまう親の姿が目に浮かぶ。それでは本人が自信を持てるような貴重な経験にならないのだ。 守る支援ではなく、自立に向けた支援  障がいのある子どもたちの自立に向けたスタートは、いつからでも遅いことはない。大切なのは、「できないのだからやってもらってあたり前」という環境ではなく、家族や周囲でかかわる大人は本人が自分でやってみたいという思いを育むこと。やってみたいと本人が思えば努力もするし、人は成長するのだと思う。できなかったこともできるようになり、その喜びが次のチャレンジにつながり、自信になる。このサイクルを回していくことが大事だと考える。私自身親として、息子にこのサイクルを回せるように努力していきたいと、今回の取材を終えて、あらためて考えている。 ともに支え合い、ともに生きる社会へ  私はいま、一緒に働く知的障がいのあるメンバーたちに「支えてもらっている、新たな気づきをもらっている」と感じることがよくある。またそれぞれ、私にはないすごい≠ニ感じるところや、尊敬するところがたくさんある。メンバーと過ごす時間は私にとっては大切な時間。障がいのある人は周囲に支えてもらうという一方的な関係だけではなく、逆の関係性も当然生まれてくる。メンバーと接していると障がいがあっても、だれかを支えることができたという経験が、自信になり、成長を加速させていると感じることも多い。  私は、障がいのある人とない人が交わることで、互いに支え合い、影響し合いながら、ともに生きることがあたり前となる社会をつくっていきたい。 ※PATH:planning alternative tomorrows with hopeの略。「こんなふうに生活していきたい」というビジョン、未来設計図 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、平岡典子編集委員の希望により「障がい」としています 図 生活日課表 6:15 6:55 7:00 7:30 8:00 起床・身じたく 部屋掃除(〜6:45) 朝礼 分担区清掃・配膳 朝食(〜8:00) 登校開始 学校 18:00 18:50 22:00 帰舎 夕食(〜18:30) 棟の集まり 入浴(〜20:30) 消灯(就床) 写真のキャプション 宮城県立支援学校小牛田高等学園 加藤隆弘先生(左)、佐々木幸司先生(右) ビブリオバトルでは、三人一組となり、お気に入りの本を紹介し合った 「職業実践室」には2万点を超す商品が並べられている 作業学習で指導にあたる関教光先生 デジタルツールを活用して行われた「PATH」の授業 宮城県立支援学校岩沼高等学園 小学生が畑でねぎの収穫を行った 生徒が先生役となって小学生にねぎの育て方を説明する 岩沼高等学園では、職業教育の一環として校内清掃を行っている 岩沼高等学園での専門教科「家政」の授業 芸術鑑賞の授業では、和太鼓のパフォーマンスが披露された 小牛田高等学園寄宿舎で指導にあたる鈴木紀之先生 小牛田高等学園寄宿舎の浴室 小牛田高等学園寄宿舎の食堂 宮城県立支援学校小牛田高等学園寄宿舎 舎内の「生活体験室」では、一人暮らしを体験できる 洗濯やアイロンがけなども自分自身で行う 二人で利用する舎室が自室となる 岩沼高等学園で進路指導にあたる庄司竹弥先生 岩沼高等学園寄宿舎の洗面室 岩沼高等学園寄宿舎の共用部 宮城県立支援学校岩沼高等学園寄宿舎 室内にはユニットバスやキッチンなどが備わっている ワンルームタイプの部屋が5室設けられた「生活訓練棟」 2段ベッドが2台設置された舎室 【P26-27】 省庁だより 令和3年 障害者雇用状況の集計結果@ (令和3年6月1日) 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課  厚生労働省では、障害者雇用促進法に基づいて、障害者の雇用義務がある事業主などから、毎年6月1日現在の身体障害者、知的障害者および精神障害者の雇用状況について報告を求めています。  令和3年6月1日現在における同報告を集計し、その結果をとりまとめました。  その一部を抜粋して、今号と次号にて掲載します。 1 ポイント ■民間企業(法定雇用率2.3%) ○雇用障害者数59万7786.0人、実雇用率2.20%と、ともに過去最高を更新 ○法定雇用率達成企業の割合は47.0% ■公的機関(同2.6%、都道府県などの教育委員会は2.5%) ○国:雇用障害者数9605.0人  実雇用率2.83% ○都道府県:雇用障害者数1万143.5人  実雇用率2.81% ○市町村:雇用障害者数3万3369.5人  実雇用率2.51% ○教育委員会:雇用障害者数1万6106.5人  実雇用率2.21% ■独立行政法人など(同2.6%) ○雇用障害者数1万2244.5人、実雇用率2.69% 2 民間企業における雇用状況 ◎雇用されている障害者の数、実雇用率(第1表)  民間企業(43.5人以上規模の企業:法定雇用率2.3%)に雇用されている障害者の数は59万7786.0人で、18年連続で過去最高となった。  雇用者のうち、身体障害者は35万9067.5人、知的障害者は14万665.0人、精神障害者は9万8053.5人と、いずれも前年より増加した。  実雇用率は、10年連続で過去最高の2.20%、法定雇用率達成企業の割合は47.0%であった。 ◎企業規模別の状況(第2表)  企業規模別に見ると、雇用されている障害者の数は、今年から新たに報告対象となった43.5〜45.5人未満規模企業では2080.0人であった。また、従来から報告対象であった企業規模で見ると、45.5〜100人未満規模企業で6万2175.0人、100〜300人未満で11万4905.0人、300〜500人未満で5万1657.5人、500〜1000人未満で6万7920.5人、1000人以上で29万9048.0人と、すべての企業規模で前年より増加した。  実雇用率は、今年から新たに報告対象となった43.5〜45.5人未満規模企業では1.77%であった。また、従来から報告対象であった企業規模で見ると、45.5〜100人未満で1.81%、100〜300人未満で2.02%、300〜500人未満で2.08%、500〜1000人未満で2.20%、1000人以上で2.42%となった。  なお、1000人以上規模企業が法定雇用率を上回っている。  法定雇用率達成企業の割合は、今年から新たに報告対象となった43.5〜45.5人未満規模企業では35.1%であった。また、従来から報告対象であった企業規模で見ると、45.5〜100人未満で45.7%、100〜300人未満で50.6%、300〜500人未満で41.7%、500〜1000人未満で42.9%、1000人以上で55.9%となり、すべての規模の区分で前年より減少した。 ※本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 【第1表】民間企業における雇用状況(法定雇用率2.3%) 区分 @企業数 A法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数 B 障害者の数 A.重度身体障害者及び重度知的障害者 B.重度身体障害者及び重度知的障害者である短時間労働者 C.重度以外の身体障害者、知的障害者及び精神障害者 D.重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間労働者 E.計A×2+B+C+D×0.5 F.うち新規雇用分 C実雇用率E÷A×100 D法定雇用率達成企業の数 E法定雇用率達成企業の割合 民間企業 企業 106,924 (102,698) 人 27,156,780.5 (26,866,997.0) 人 124,508 (122,795) 人 18,003 (17,084) 人 304,060 (291,126) 人 53,414 (48,984) 人 597,786.0 (578,292.0) 人 55,081.0 (57,630.0) % 2.20 (2.15) 企業 50,306 (49,956) % 47.0 (48.6) 注1 A欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数」とは、常用労働者総数から除外率相当数(身体障害者、知的障害者及び精神障害者が就業することが困難であると認められる職種が相当の割合を占める業種について定められた率を乗じて得た数)を除いた労働者数である。 注2 BA欄の「重度身体障害者及び重度知的障害者」については法律上、1人を2人に相当するものとしており、E欄の計を算出するに当たりダブルカウントを行い、D欄の「重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間労働者」については法律上、1人を0.5人に相当するものとしており、E欄の計を算出するに当たり0.5カウントとしている。  ただし、精神障害者である短時間労働者であっても、以下の注4に該当するものについては、1人分とカウントしている。 注3 A、C欄は1週間の所定労働時間が30時間以上の労働者であり、B、D欄は1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者である。 注4 C欄の精神障害者には、精神障害者である短時間労働者であって、次のいずれかに該当する者を含む。  @ 平成30年6月2日以降に採用された者であること。  A 平成30年6月2日より前に採用された者で、同日以後に精神障害者保健福祉手帳を取得した者であること。 注5 D欄の精神障害者である短時間労働者とは、精神障害者である短時間労働者のうち、注4に該当しない者である。 注6 F欄の「うち新規雇用分」は、令和2年6月2日から令和3年6月1日までの1年間に新規に雇い入れられた障害者数である。 注7 ( )内は令和2年6月1日現在の数値である。  なお、精神障害者は平成18年4月1日から実雇用率に算定されることとなった。 【第2表】民間企業における企業規模別の障害者の雇用状況 区分 @企業数 A法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数 B 障害者の数 A.重度身体障害者及び重度知的障害者 B.重度身体障害者及び重度知的障害者である短時間労働者 C.重度以外の身体障害者、知的障害者及び精神障害者 D.重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間労働者 E.計A×2+B+C+D×0.5 F.うち新規雇用分 C実雇用率E÷A×100 D法定雇用率達成企業の数 E法定雇用率達成企業の割合 規模計 企業 106,924 (102,698) 人 27,156,780.5 (26,866,997.0) 人 124,508 (122,795) 人 18,003 (17,084) 人 304,060 (291,126) 人 53,414 (48,984) 人 597,786.0 (578,292.0) 人 55,081.0 (57,630.0) % 2.20 (2.15) 企業 50,306 (49,956) % 47.0 (48.6) 43.5〜45.5人未満 2,657 (−) 117,789.5 (−) 330 (−) 123 (−) 1,070 (−) 454 (−) 2,080.0 (−) 225.0 (−) 1.77 (−) 932 (−) 35.1 (−) 45.5〜100人未満 52,219 (50,544) 3,428,602.5 (3,348,466.5) 10,380 (10,222) 3,306 (3,020) 32,314 (30,097) 11,590 (9,578) 62,175.0 (58,350.0) 7,035.5 (6,818.0) 1.81 (1.74) 23,855 (23,224) 45.7 (45.9) 100〜300人未満 36,803 (36,787) 5,682,382.5 (5,677,127.5) 21,842 (21,796) 5,001 (4,806) 59,370 (58,097) 13,700 (13,408) 114,905.0 (113,199.0) 11,858.0 (12,718.5) 2.02 (1.99) 18,614 (19,274) 50.6 (52.4) 300〜500人未満 6,983 (7,078) 2,478,229.0 (2,511,339.5) 10,524 (10,560) 1,874 (1,777) 26,228 (25,598) 5,015 (4,659) 51,657.5 (50,824.5) 5,026.0 (5,123.5) 2.08 (2.02) 2,911 (3,122) 41.7 (44.1) 500〜1,000人未満 4,810 (4,818) 3,092,099.0 (3,090,963.5) 14,224 (14,109) 2,003 (1,895) 34,823 (33,993) 5,293 (4,964) 67,920.5 (66,588.0) 6,436.5 (6,926.0) 2.20 (2.15) 2,063 (2,252) 42.9 (46.7) 1,000人以上 3,452 (3,471) 12,357,678.0 (12,239,100.0) 67,208 (66,108) 5,696 (5,586) 150,255 (143,341) 17,362 (16,375) 299,048.0 (289,330.5) 24,500.0 (26,044.0) 2.42 (2.36) 1,931 (2,084) 55.9 (60.0) 注 第1表と同じ 【P28-29】 研究開発レポート 第29回職業リハビリテーション研究・実践発表会 Part1 特別講演 「コロナ禍における変化とチャレンジ〜障害者雇用の現場から考える〜」 株式会社ベネッセビジネスメイト 人事総務部部長 原田昌尚氏  当機構では毎年、職業リハビリテーションに関する研究成果を周知するとともに、参加者相互の意見交換、経験交流を生み出すための機会として、「職業リハビリテーション研究・実践発表会」を開催しています。2021(令和3)年度は、経験交流と新型コロナウイルス感染症対策のバランスを考慮し、開催規模を縮小したうえでの現地開催と、動画等を障害者職業総合センター(NIVR)のホームページに掲載するハイブリッドの方式で開催しました。  今号では、株式会社ベネッセビジネスメイト人事総務部部長の原田(はらだ)昌尚(まさなお)氏による特別講演「コロナ禍における変化とチャレンジ〜障害者雇用の現場から考える〜」の様子をダイジェストでお届けします。 新型コロナウイルスの業務への影響  教育や介護などの事業を手がけるベネッセグループの特例子会社として2005(平成17)年に設立された株式会社ベネッセビジネスメイトでは、現在、東京都と岡山県の全7拠点に372人の従業員が勤務しています。そのうち、167人が障がいのある社員(知的障がい者84人、精神障がい者23人、発達障がい者37人、身体障がい者23人)です。オフィスの清掃やメール室業務などの「ファシリティサービス」や事務などの「業務サポート」業務、マッサージルームや社員食堂などの「施設運営」業務をグループ各社から受託し、高品質なサービスを提供することで、親会社の事業に貢献しています。  新型コロナウイルス感染症の流行は、同社の事業にも大きな影響を与えました。2020年4月に発令された緊急事態宣言下では、感染予防の観点から、障がいのある社員は全員自宅待機としました。その間も続けなくてはならなかったメール室業務などについては、障がいのない社員が出勤することで継続しました。  業務面では、業務の受託先である親会社で出社が制限されたり、イベント関連が中止になったりしたことにより業務量が減少し、業績悪化にも苦しみました。そのため、2020年度は障がい者の新規採用を行わず、今いる社員の雇用を守っていくことに注力し、業務量の減少に対応するために、親会社に対して新たな業務の提案を積極的に行いました。結果として、オフィスに届いた書類を在宅勤務者の自宅に転送する業務や、オフィスの定期消毒業務など、コロナ禍ならではの仕事を獲得しています。一方で、出社して業務を行うことへの不安や、懇親会などの社員の交流機会が減少したことなどにより、「社員のモチベーション低下」という新たな問題に直面しました。  そのようななか、同社では障がいのある社員の一部がリモートワークに挑戦しました。対象となったのは、RPA(人の代わりに業務をこなしてくれる自動化ツール)の開発と運用にあたっている社員5人(全員が発達障がい者)のうち、比較的稼働が安定していて、技術力も高い2人です。指導員2人がリモートワークチームとして加わって伴走し、支援機関や家族と連携を取りながら、勤務時間や日数、業務量などを調整するなど、本人たちにストレスがかからないような配慮を心がけ進めていきました。「チームでやっていく」というスタンスを大事にして毎日Teamsを通じた朝会を実施したほか、日報を通じて体調などの些細な変化を共有したことも有効だったとのことです。結果として、開発のスピードは通常の3倍以上となりました。生産性の向上の要因には、通勤のストレスがなくなったことや集中できる環境が得られたこと、チャットなどのツールの利用により、コミュニケーションの負荷を感じなくなったことなどがあげられていました。一方で、生活リズムの乱れなどの新たな課題も出てきており、現在もリモートワークと出社を併用した勤務形態を継続してトライアル中とのことです。 コロナ禍において、社員の意識や障がい者の定着状況はどう変化したか  次に、コロナによる急激な変化に対して社員の意識がどのように変化したかについて紹介がありました。同社の2020年度の職場の満足度調査結果によると、知的障がいのある社員については、「会社にくるのが楽しい」という回答率が前年度より増えている一方、ほかの社員の「働きがいを感じる」、「成長実感」、「仕事量は適当」などの回答率は低下したとのことです。これについては、原田氏より「障がいのない社員の回答も含まれており、コロナ禍によって、中間管理職などの一部の社員への負荷が増えていることなどの影響が表れていると考えられる。社内の一体感が薄れてきている状況もあるので、早急な対応が必要になる」との認識が示されました。  障がいのある社員の定着率に関しては、2020年度の定着率は97%であり、高い定着率が達成できた要因として、事業部と人事総務部に属する定着推進課(支援機関と連携して現場の指導などがうまくいくようサポートすることに特化した課)の連携対応が大きな役割を果たしたとの考察がありました。  自宅待機や在宅勤務の対応としては、課題を提供したり、不調を起こしやすい社員には電話連絡をしたりするなどして、障がいのある社員の心身の健康の維持に力を注ぎ、出勤を再開するときには、これまで以上にていねいな状況観察を行って、何か問題が発生しそうな場合は支援機関や医療機関と速やかに連携してサポートを行ったとのことです。原田氏からは「このようなコロナ期間の対応や、今までの長い取組みの積み重ねなどが複合的に折り重なった結果として、今回の定着率につながったかもしれない。今後も注視していきたい」との説明がありました。 Withコロナの障がい者雇用のチャレンジ  同社では、Withコロナでの取組み指針として、「ベネッセグループの新しい働き方・仕事にしっかり対応し、業績回復への支援を行うこと」、「ベネッセビジネスメイトの経営の正常化と障がい者雇用拡大路線への復帰を実現すること」、「Withコロナの働き方、環境、支援体制を整備し、安心して長く働き続けられる会社となること」の3つを掲げています。原田氏からは、そのために実現すべきテーマとして、個々の特性に応じた業務の切り出しとアレンジによる「障がいのある社員の戦力化のしくみ作り」、コロナによってできた新たなニーズに対応した「業務変化への対応、新規業務受託の拡大」、「Withコロナで安定的に働ける環境作り」の3点があげられました。  これらを実現するための取組みとして、カフェ運営などの新しい業務や既存の業務の変革のほか、障がいのある社員への業務指導にあたる支援者が成長を実感できるような育成指標(スキルマップ)の導入や、社員による新規業務提案制度など、社員のモチベーションを立て直すための取組みも強化しています。  講演の結びとして、原田氏からは「この2年弱のコロナ禍において多くの変化や課題が出てきた。まだ発展途上ではあるが、コロナと共存していくなかで障がい者雇用の価値というものを上げていきたい。また、障がいのある社員一人ひとりが自立して活躍し、やりがいを感じながら長く働き続けることができる会社、個人と企業がともに成長していく職場を目ざしていきたい。引き続き企業理念に基づいてチャレンジしていくことで持続的な成長を成し遂げたい」との展望が語られました。  次号では、「職業リハビリテーション研究・実践発表会」のパネルディスカッションT「メンタルヘルス不調による休職者への対応〜職場復帰支援を考える〜」、パネルディスカッションU「職務創出とその支援〜障害者雇用をしていくために〜」をダイジェストでお伝えします。 ★本誌では通常「障害」と表記していますが、株式会社ベネッセビジネスメイト様の当日の資料にしたがって「障がい」としています ★下記ホームページにて、特別講演の動画をご覧いただけます  https://www.nivr.jeed.go.jp/vr/29kaisai/kouen.html ◇お問合せ先:研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 写真のキャプション 特別講演の様子 特別講演の講師株式会社ベネッセビジネスメイト人事総務部部長の原田昌尚氏 【P30-31】 ニュースファイル 国の動き 国土交通省 水害ハザードマップの障害者対応状況を調査  国土交通省は全国の自治体を対象に、目が不自由な人のための音声・点字版など、障害者に対応した水害ハザードマップの作成に関するアンケート調査を行い、結果を公表した。  調査に応じた1591自治体(91%)のうち、「作成済み」と回答したのは41市町村(2.6%)、「作成中・検討中」が53市町村(3.3%)にとどまり、「作成の予定なし」が1471市町村(92.5%)にのぼった。「作成済み」、「作成中・検討中」と回答した自治体のうち、視覚障害に対応したものが74回答ともっとも多く、聴覚障害が25回答。また作成・検討したきっかけとして「福祉のまちづくりとしての行政目標」が34回答ともっとも多く、次いで「必要性が高いと感じるため」が20回答。マップの記載情報は多い順に、「浸水範囲」が57回答、「避難所に関する事項」が38回答だった。障害者に対応した水害ハザードマップを作成する際に、防災交付金などの交付金を活用した自治体は21.3%にとどまった。今後、国交省はマップ作成の手引に、先行地域の事例を盛り込むなどして後押しする方針。 地方の動き 群馬 メロン栽培で就労支援へ  高崎市は、農福連携事業の一環として、障害者が働くためのメロンの水耕栽培施設を2024年度に開設すると発表した。倉渕(くらぶち)町内の土地を取得して、ビニールハウス3棟や事務所兼出荷作業室を整備する。  就労継続支援B型事業として民間の指定管理者に委託し、農業経験のある指導員や生活支援員らを配置。利用者の定員は1日最大20人で、自宅送迎も行う。利用者はメロン栽培の育苗から受粉、収穫、出荷までの作業にかかわる。設備は、東京都町田市内で開発された液肥循環型の「町田式水耕栽培槽」を導入。農機などを使わないため、作業上の危険や負担が少ないとされる。年間を通して高付加価値のメロン栽培をしながら、工賃アップを目ざす。 京都 「障害を理由とする差別の解消のための事例集」を作成  京都府と京都市は、共同で「障害を理由とする差別の解消のための事例集」を作成した。障害を理由とする差別について、広く考えてもらうきっかけにしてもらうとともに、多数の事例を、障害者、支援者、事業者などの手引きとして利用してもらうのが目的。  事例集では、これまで京都府や府内各市町村の窓口などに寄せられた相談内容と対応について障害種別に計85事例にまとめているほか、参考情報として求められる配慮の例なども紹介している。事例集は府のホームページに掲載、ダウンロードできる。 https://www.pref.kyoto.jp/shogaishien/news/jireishu.html 愛知 動画で障害の特性を知る「フミダスドーガ」を制作  名古屋市は、障害と障害のある人への理解を深め、どのように手助けをしたらよいのかがわかるアニメーション動画シリーズを制作した。「障害のある人をサポートするための一歩を踏み出す勇気」を得られるとして「フミダスドーガ」と名づけた。  動画は、肢体不自由、視覚障害、聴覚障害、重症心身障害、知的障害、発達障害、精神障害、内部障害と難病の8つの障害種別に制作。イラストと文字を組み合わせたインフォグラフィックスで、障害特性や、具体的なサポートの方法を伝えている。「フミダスドーガ」特設サイトで見ることができる。 https://fumidasudoga.jp/ 神奈川 古着を藍染めし企業の制服などに  藤沢市と市内の異業種4者が連携し、リサイクル工場で働く障害者らが、資源物として回収した古着を藍染めし、企業の制服として使ってもらう取組みを始めた。  この「FUJISAWA BLUEHANDS PROJECT」と名づけられたプロジェクトでは、衣類などのデザインを「有限会社ラファイエット」が行い、「株式会社アートモリヤ」が染色技術を指導、障害者を雇用している藤沢市資源循環協同組合が場所を提供し、実際の作業も行う。市は、協力企業を増やしていくためにプロジェクトの広報と周知を図っていく。すでに市内の飲食店グループ「株式会社エムワイ」が店舗の従業員用の制服として発注した。市内の企業などにシャツを制服として使ってもらうほか、一般販売も検討する。問合せは藤沢市環境部環境総務課環境事業センターへ。 電話:0466−87−3912 本紹介 『成人の発達障害の評価と診断 〜多職種チームで行う診断から支援まで〜』  東京大学医学部附属病院こころの発達診療部による『成人の発達障害の評価と診断〜多職種チームで行う診断から支援まで〜』(岩崎学術出版社)が出版された。同診療部では2011(平成23)年から「発達障害研修会−成人の発達障害の評価と診断−」を毎年実施しており、包括的な「評価と診断」に重点を置いてまとめている。同診療部では、成人後に発達障害を疑って診断を求めるニーズの増大に対応するべく、2012年に精密な評価と診断を行ってそれに基づく心理教育と支援につなげていく「発達障害検査入院」というプログラムを開始。発達障害検査入院を含めて医師、心理士、ソーシャルワーカーの多職種チームで取り組んでいる。 A5判208ページ、3080円(税込)。 作品大募集! あなたの力作がポスターになる! 令和4年度 「絵画コンテスト働くすがた〜今そして未来〜」 「写真コンテスト職場で輝く障害者〜今その瞬間〜」 募集期間(応募作品受付期間) 令和4年3月1日(火)〜6月15日(水)【締切・消印有効】 児童・生徒をはじめ社会人一般の方もご応募いただけます。 絵画コンテストの応募は障害のある方が対象です。 写真コンテストの応募は障害の有無を問いません。 多くのみなさまからのご応募をお待ちしています。 詳しくはホームページの募集要項をご覧ください。 JEED 絵画写真 検索 <過去のポスターや入賞作品などもご覧いただけます> 主催:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 シンボルキャラクター“ピクチャノサウルス” ミニコラム 第11回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は平岡委員が執筆しています。  ご一読ください。 障がいのある社員への仕事切り出しのポイント サントリービジネスシステム株式会社課長 平岡典子  障がいのある人への「仕事の切り出しが進まない」とお悩みの会社は多いと聞きます。  私の所属するサントリービジネスシステム株式会社では、2015(平成27)年の活動当初はグループ3社から10種類程度の業務の受注から始まり、現在ではグループ26社から200種類を超える業務をになうまで活躍の場が拡がってきました。  ポイントは「徹底的な社内周知と社内営業活動」と「口コミ・リピーターの存在」だと考えています。  まずは社内周知のために、毎日元気な挨拶ですべてのフロアを回り、メール便の配達などのオフィスサポート業務をにないながら、スタッフはさまざまな部署の社員へ声をかけ、私たちがサポートできる仕事はないか探して回る日々でした。イントラネットでも常に情報発信をしていました。  当初は電話一本、メール一本で依頼を受け、上司の承認やマニュアルを必須にはせず、柔軟に対応しました。業務品質、依頼部署との信頼関係を大切に、依頼者の期待値を超える仕事をすることで、「またお願いしたい」、「こんなこともできる?」とリピーターを増やすことができたと思います。そのリピーターのみなさんには、「他部署にもこの経験を話してほしい」と伝えました。口コミによる信頼は強いですから、口コミとリピーターでどんどん拡がっていきました。  また、基本的に「決して依頼は断らない!」をモットーに、仕事を通してメンバーが成長できることを大切にしてきました。  メンバーの新しい業務へのチャレンジ精神を育む一方、「任せてみよう」と思う依頼元の社員の懐の深さに支えられているところは大いにありましたが、まずは「できない」と決めつけず、何でもチャレンジしてみることが大事ではないかと思っています。 【P32】 掲示板 高障求 メールマガジン 好評配信中!  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構では、当機構が全国で実施する高齢者や障害者の雇用支援、従業員の人材育成(職業能力開発)などの情報を、毎月月末に、みなさまに配信しています。 雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える人事労務担当者のみなさま、必読! 高齢 超高齢社会の人材確保 障害 障害特性に応じた配慮の方法 求職 ものづくり技術伝承や人材育成 みなさまの「どうする?」に応えるヒントが、見つかります! JEED メルマガ で 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 次号予告 ●この人を訪ねて  働く障害者に特化した日本初の労働組合、ソーシャルハートフルユニオン(東京都)の書記長を務める久保修一さんに、障害のある人が安心して働くための課題などについてうかがいます。 ●職場ルポ  自動車試作部品の製作や、各種治具・建設機械部品などを製作する株式会社栄和産業(神奈川県)を訪問。障害特性に合わせ職場定着を図る現場を取材します。 ●グラビア  住宅リフォームやビル設備リニューアルなどを行うTAKEUCHI株式会社(東京都)を取材。当機構の国立職業リハビリテーションセンター修了生で、同社で活躍する障害のある社員を紹介します。 ●編集委員が行く  八重田淳編集委員が、MS&ADホールディングスの特例子会社、MS&ADアビリティワークス株式会社(東京都)を取材。障害のある社員が能力を発揮できる取組みを紹介します。 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_hiroba 本誌購入方法 定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。 1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAXでのお申し込み 株式会社広済堂ネクストまでご連絡ください。 TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 あなたの原稿をお待ちしています ■声−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 奥村英輝 編集人−−企画部次長 五十嵐意和保 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6216(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●発売所−−株式会社広済堂ネクスト 〒105−8318 東京都港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03−5484−8821 FAX 03−5484−8822 4月号 定価141円(本体129円+税)送料別 令和4年3月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 埼玉県立大学 教授 朝日雅也 株式会社FVP代表取締役 大塚由紀子 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 岡山障害者文化芸術協会 代表理事 阪本文雄 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすく センター長 原智彦 ホンダ太陽株式会社 社友 樋口克己 サントリービジネスシステム株式会社 課長 平岡典子 東京通信大学 教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学 准教授 八重田淳 【P33】 2022年度(令和4年度) 職業リハビリテーションに関する研修のご案内  当機構では、医療・福祉などの関係機関で障害のある方の就業支援を担当する方を対象に、職業リハビリテーションに関する知識や技術の習得と資質の向上を図るための研修を実施しています。受講料は無料です。  各研修の詳細・お申込み先などは、当機構のホームページ(https://www.jeed.go.jp)のサイト内検索(各研修名で検索)でご確認ください。みなさまの受講を心よりお待ちしています。 研修 日程 場所 就業支援担当者の方への研修 就業支援基礎研修 【対象】就業支援を担当する方 【内容】就業支援のプロセス、障害特性と職業的課題、障害者雇用施策、ケーススタディなど 各地域障害者職業センターのホームページなどで別途ご案内いたします。 ◯◯障害者職業センター 検索 ※◯◯には都道府県名を入力 各地域障害者職業センターなど 就業支援実践研修 精神障害・発達障害・高次脳機能障害コース 【対象】就業支援の実務経験2年以上の方 【内容】障害別のアセスメント、支援ツールの活用方法、ケーススタディなど 10〜12月に全国14エリアで開催します。 当機構ホームページなどで別途ご案内いたします。 全国14エリアの地域障害者職業センターなど 就業支援スキル向上研修 精神障害・発達障害・高次脳機能障害コース 【対象】就業支援の実務経験3年以上の方 【内容】障害別の支援技法、職リハに関する最新情報、ケーススタディなど 令和5年1月18日(水)〜1月20日(金) 千葉県千葉市 就業支援課題別セミナー 【対象】障害者の就労や雇用に関する支援を担当している方 【内容】令和4年度のテーマは「雇用継続支援」です 令和4年11月2日(水) オンライン形式 職場適応援助者(ジョブコーチ)に関する研修 職場適応援助者養成研修 【対象】訪問型・企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)としての援助を行う予定の方など 【内容】ジョブコーチの役割、作業指導の実際、ケースから学ぶジョブコーチ支援の実際、職場における雇用管理の実際、支援記録の作成など ※集合研修4日+地域障害者職業センターでの実技研修4日程度 ※対象地域は以下のとおりです 東日本:北海道、東北、関東甲信越、静岡、富山 西日本:東海(静岡を除く)、北陸(富山を除く)、近畿、中国、四国、九州、沖縄 4月期 東日本対象:令和4年4月19日(火)〜4月22日(金) 千葉県千葉市 西日本対象:令和4年4月19日(火)〜4月22日(金) 大阪府内 6月期 東日本対象:令和4年6月21日(火)〜6月24日(金) 千葉県千葉市 西日本対象:令和4年6月28日(火)〜7月1日(金) 大阪府内 8月期 東日本対象:令和4年8月23日(火)〜8月26日(金) 千葉県千葉市 西日本対象:令和4年8月30日(火)〜9月2日(金) 大阪府内 10月期 全国対象:令和4年10月18日(火)〜10月21日(金) 千葉県千葉市 12月期 東日本対象:令和4年12月20日(火)〜12月23日(金) 千葉県千葉市 西日本対象:令和4年12月20日(火)〜12月23日(金) 大阪府内 2月期 全国対象:令和5年2月14日(火)〜2月17日(金) 千葉県千葉市 職場適応援助者支援スキル向上研修 【対象】ジョブコーチとして一定の実務経験のある訪問型・企業在籍型職場適応援助者の方 【内容】精神・発達障害者のアセスメントや支援方法、アンガーコントロール支援、意見交換、ケーススタディなど 第1回 全国対象:令和4年5月31日(火)〜6月3日(金) 千葉県千葉市 第2回 全国対象:令和4年8月2日(火)〜8月5日(金) 大阪府内 第3回全国対象:令和4年9月27日(火)〜9月30日(金) 千葉県千葉市 第4回全国対象:令和5年1月31日(火)〜2月3日(金) 大阪府内 <お問合せ先> 職業リハビリテーション部 研修課 TEL:043-297-9095 E-mail:stgrp@jeed.go.jp 各種研修の詳細はこちら https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/supporter04.html 【裏表紙】 障害者雇用納付金は、「振込み」による支払いはできません。 ※1「ペイジー」への対応や、インターネットバンキングの操作方法については、ご利用の金融機関へお問い合わせください。 ※2確認番号が付番されていない事業主の方は、確認番号を当機構納付金部(TEL:043-297-9651)までお問い合わせいただくか、金融機関の窓口での納付をお願いします。 その他、障害者雇用納付金制度については、当機構HP https://www.jeed.go.jp/から、「障害者の雇用支援」→「障害者雇用納付金制度」をご参照ください。 インターネットを利用して、障害者雇用納付金申告及び障害者雇用調整金等申請の手続きをお手元のパソコン上で行うことができます!! 利用時間 9:30〜17:00(土・日・祝日を除く) 4月号 令和4年3月25日発行 通巻534号 毎月1回25日発行 定価141円(本体129円+税)