【表紙】 令和5年3月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第546号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2023/4 No.546 職場ルポ 当事者目線のていねいな準備で、製造ラインの一角もになう リコーエスポアール株式会社(神奈川県) グラビア コーヒー豆の「声」を聞き分ける焙煎チーム NPO法人みのり 領家グリーンゲイブルズ(埼玉県) 編集委員が行く 障がい者雇用にかかわる社会課題に挑む 〜鉄道車両メンテナンス会社の挑戦〜 堀江車輌電装株式会社(東京都) この人を訪ねて 視覚障害者になって初めて気づいたこと 「あうわ」視覚障害者の働くを考える会 代表 林由美子さん 「へあめいくあっぷあーちすと」鹿児島県・米田(よねだ)里緒(りお)さん 誰もが職業をとおして社会参加できる「共生社会」を目指しています 4月号 【前頁】 心のアート 今日は魚がいない 長谷川 海 (きらぼしアートセンター) 画材:ケント紙、ボールペン、コピック/サイズ:A3(297mm×420mm)  長いくちばしのペリカンがぽつんと立ち、遠くを見つめている。黒のボールペンでアウトラインを描き、色づけは130色あるコピックというカラーペンから選び出し、くちばし、目、足元は黄色。背中の羽は黒色。海面は1本の線、一筋。水面に写る影も一筆描きのよう。実にシンプル。線も色も無駄がない。描写に余韻を感じさせ、詩的な感じが漂う。一つの作品を10分ほどで仕上げる。下描きせず、フリーハンドで思うままに一気に描く。  絵を描き始めたのは、保育園のときから。小学生になるとコピー用紙をホッチキスで留めてノートをつくり、『おおきなかぶ』などの絵本をもとに、自分で絵物語を描くようになる。成長とともに写真集などから鳥を多く描き、昆虫、花へと広がる。最近は、母親が撮影した公園や動物園の動植物の写真をもとに作品が生まれ、ペリカンの絵も岡山県の池田動物園での1枚から。この作品は昨秋の「きらぼし★アート展」に出展、高い評価を得て、多くの人々が見入った。 (文:一般社団法人岡山障害者文化芸術協会 阪本文雄) 長谷川 海(はせがわ・かい)  1991(平成3)年生まれ。岡山県岡山市在住。  幼児のとき、自閉症と診断された。地域の小・中学校で学び、特別支援学校高等部へ進む。卒業後、パソコンの解体をする職場で8年間働いたが、聴覚過敏になり退職。就労継続支援A型・B型事業所を経て、2021(令和3)年から在宅生活。現在はアート活動をする就労移行支援事業所を利用、絵を描く日々を過ごし絵本出版の夢が膨らむ。ピアノ演奏も楽しんでいる。 協力:一般社団法人岡山障害者文化芸術協会 【もくじ】 目次 2023年4月号 NO.546 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 心のアート 前頁 今日は魚がいない 作者:長谷川 海(きらぼしアートセンター) この人を訪ねて 2 視覚障害者になって初めて気づいたこと 「あうわ」視覚障害者の働くを考える会 代表 林由美子さん 職場ルポ 4 当事者目線のていねいな準備で、製造ラインの一角もになう リコーエスポアール株式会社(神奈川県) 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 クローズアップ 10 障害者職業能力開発校の活用術 第1回 〜社員個々の能力を発揮して活躍してもらうには〜 JEEDインフォメーション 12 令和5年度 障害者雇用納付金制度に基づく申告申請が令和5年4月1日から始まります/事業主のみなさまへ 障害者雇用納付金 電子申告申請システムが令和5年度申告申請から新しくなります グラビア 15 コーヒー豆の「声」を聞き分ける焙煎チーム NPO法人みのり 領家グリーンゲイブルズ(埼玉県) 写真/文:官野 貴 エッセイ 19 ろう者である想い 第1回 〜子どものころから思い描いた夢〜 忍足亜希子 編集委員が行く 20 障がい者雇用にかかわる社会課題に挑む 〜鉄道車両メンテナンス会社の挑戦〜 堀江車輌電装株式会社(東京都) 編集委員 平岡典子 省庁だより 26 令和4年 障害者雇用状況の集計結果@ 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課 研究開発レポート 28 第30回 職業リハビリテーション研究・実践発表会 Part1 特別講演「障害や難病等のある人々の多様な働き方の現在地 〜超短時間での新しい働き方、テクノロジー活用、教育段階から労働社会への移行を例に〜」 東京大学 先端科学技術研究センター 社会包摂システム分野・教授 近藤武夫氏 ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 読者の声 表紙絵の説明 「大きくなったら、お化粧をしてあげて、喜んでもらえる仕事がしたいと思って描きました。ネイル、リップ、アイシャドウなど、たくさんお化粧道具を描きました。受賞を聞いて、とてもうれしかったです。最近は、お家でお化粧の練習をして遊んでいます」 (令和4年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 小学校の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。(https://www.jeed.go.jp/) 【P2-3】 この人を訪ねて 視覚障害者になって初めて気づいたこと 「あうわ」視覚障害者の働くを考える会 代表 林由美子さん はやし ゆみこ 1963(昭和38)年、大阪府大阪市生まれ。高校1年生のときから石川県在住。 高校を卒業し、信用金庫に3年間勤務後、大手ソフトウェア関連会社にシステムエンジニアとして転職。2006(平成18)年に視覚障害者手帳5級、2008年に1級を取得。2012年「レディース鍼灸院 織歩」開業。2017年『「あうわ」視覚障害者の働くを考える会』設立。ラジオかなざわ「視覚障害ラジオステーション」パーソナリティー。共著に『「どうしよう」から十年 おりーぶさんが見つめる未来!!』(Kindle版、「あうわ」視覚障害者の働くを考える会刊)。 エンジニアから「あはき師」に ――林さんが44歳のときに視覚障害者手帳を取得した経緯から教えてください。  幼少時から右目は弱視でしたが、運転免許も取得できていました。その後、40代になって急激に両目の視力が悪化し、システムエンジニアだった私は業務に支障をきたすようになりました。当時、会社にすすめられて取得した障害者手帳は軽度の5級です。上司と相談して別部署に異動するも、新しい上司との意思疎通がうまくいかず、会社に行けなくなって休職。復帰できないまま退職しました。  高校生の娘を抱えたシングルマザーの私は、働かないわけにはいかず本当に悩みました。たまたまインターネットで県立盲学校の存在を知り、わらにもすがる思いで連絡したところ「あはき師(あん摩マッサージ指圧師、はり師、きゅう師)」の養成課程をすすめられました。3年間の盲学校の学費は免除してもらえたので、日々の生活は雇用保険の失業給付や障害年金、シングルマザーの資格取得に向けた給付金などでやりくりしました。  じつは盲学校在学中、私がそれまで従事していたIT分野の仕事も視覚障害者の職域だと知りました。他県には障害者職業能力開発校などで視覚障害者が受けられる訓練コースがあり、受講できていたら仕事を辞めない選択肢もあったのかと思うと、いまでも悔しさはあります。  盲学校での授業や勉強には苦労しましたが、家事などに協力してくれた娘の高校卒業とともに、私もあはき師の国家資格を取得しました。東日本大震災に見舞われた2011(平成23)年3月のことです。  娘が入学した大学が宮城県仙台市にあり、震災の影響で授業開始は5月でした。4月下旬の引っ越しに同行した際、「一般社団法人宮城県鍼灸(しんきゅう)マッサージ師会」が避難所でボランティア活動をしていると知り、私も参加させてもらいました。現場では炊き出しなどいろいろな活動がありましたが、視覚障害者の私も役に立てたのは国家資格のおかげだと思います。このとき、「この仕事で人の役に立っていこう」と決意しました。 白杖(はくじょう)で外出し、骨折3回 ――盲学校卒業後の翌年には鍼灸院を開業したのですね。  当時は病院や施設のマッサージ師職に空きがない状況でしたし、私は鍼灸もやりたかったので、すぐに自営を決めました。退職金をつぎ込んで中古マンションを購入し、自宅兼店舗にして「レディース鍼灸院 織歩(オリーブ)」を開業しました。  実績のない状態からのオープンだったので、最初は宣伝を兼ねていろいろな集まりに参加しました。ふり返ると、多少無理をしてでも白杖を手に外出し続けてよかったと思います。不安だからと外出を避けていたら、そのまま家にとじこもる生活になっていたかもしれません。  一方、これまでに外出先で3回骨折しました。もともと歩くペースが速い私は、目が悪化してもつい同じスピードで歩いていたことが原因のようです。1回目は路上の何かにぶつかり転倒して仙骨を折り、次は駅の階段で白杖が人とぶつかり階段をふみ外し、膝の皿を割りました。3回目は点字ブロックがない道で、道路と同系色の車止めにぶつかり大腿骨などを折って3カ月間入院しました。初めて白杖を手にしたときに危険回避法などを学んでおくべきでしたが、当時はそんなリスクも予想していませんでした。  白杖を使い始めたのは盲学校2年次、障害者手帳が1級になったころです。知り合いの生徒から白杖が社会福祉法人石川県視覚障害者協会で手に入ると聞き、白杖のほか、単眼鏡やルーペ、拡大読書器を公費の助成を受けて購入しました。逆にいえば、それまで手帳取得の手続きでお世話になった眼科医や役所、盲学校でも教わりませんでした。知っていて当然と思われていたのかもしれません。その後も、自立した日常生活に必要な訓練や相談・助言などを行う「自立訓練(生活訓練)」を知らないまま、独学で、見えにくい生活を営む訓練を続けていきました。  このころに、私はこうした中途障害者への「情報障害」を何とかしたいと思いはじめました。そこで2017年、仲間数人とともに、視覚障害者の就労について考え発信する『「あうわ」視覚障害者の働くを考える会』(以下、「あうわ」)を設立しました。 講演会やラジオ番組で理解を広げる ――これまでの「あうわ」の活動について教えてください。  まずは知名度を上げるため講演会を開催しました。ちょうど同年にオープンした「神戸市立神戸アイセンター病院」の先生を招き、ロービジョンケアと就労支援について話してもらいました。神戸アイセンター病院は、眼科の研究から社会復帰支援まで一貫して対応する施設として有名です。参加者は百数十人にものぼり大盛況で、私たちの活動にも弾みがつきました。  2020年からはラジオ番組「視覚障害ラジオステーション」でパーソナリティーを務めています。広く視覚障害について知ってもらう内容で、専門家の話のほか、視覚障害者の楽団員や、視覚障害者のマラソン並走に取り組む団体などを紹介したりしています。  少しでも多くの方に聴いてもらえるよう、放送局の許可を得て、番組をYouTubeでアーカイブ配信しはじめました。その効果として、ラジオ番組内でITサポート事業者が「就労支援もしたい」と話した内容を、YouTubeで視覚障害者の就労支援団体が知り、そこから就労相談会が実現したといううれしい話も出てきています。  動画アップなどを手がけてくれたのは「あうわ」事務局長で盲学校出身の辻嵐(つじあらし)飛鳥(あすか)さんです。彼はもともとITに強く、病院でマッサージ師をしながらIT分野の勉強も続け、副業でホームページ制作などを手がけています。彼は、視覚障害があってもITの仕事を十分にこなせることを示すよいロールモデルになっています。 「総合的につながる支援」体制を ――林さんたちが目ざす視覚障害者の働く環境は、どんなものでしょうか。  じつは私自身が就労支援について勉強しはじめたころ、盲学校の先輩が紹介してくれたのが、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構が制作した冊子『視覚障害者と働く』(※)でした。視覚障害者が従事できる事務から専門業務までを紹介しつつ、職場で必要な配慮や工夫など、就労環境の理想がすべて書かれてありました。「これを石川県で実現すればよいだけだ」と思いました。  私たちの現状を理解してもらうため、「あうわ」設立3年目から労働局やハローワーク、障害者職業センター、障害者就業・生活支援センター、県・市、県立盲学校の担当者に呼びかけて年1回の座談会を開催し、課題の共有と解決に向けたディスカッションを行っています。  視覚障害者の7割以上といわれる中途障害者への必要な支援が届きにくい状況を、なんとかしたいと考えています。視覚障害になる疾患は悪化していくケースがほとんどですから、段階ごとの継続的なフォローが必要です。眼科分野に医療リハビリテーションがないことも、医療から福祉や就労の支援(情報・相談・訓練)につながりにくい要因です。さらに私の知るかぎり、石川県内では、あはき以外に視覚障害者専門の職業訓練施設や職場適応援助者(ジョブコーチ)がいないことも課題です。  医療から行政、企業も含めて「総合的につながる支援」の体制整備が求められています。今後も私たち「あうわ」は、社会のみなさんの理解を広げながら「視覚障害者と働く」理想の環境が、全国各地で実現することを目ざしていきます。 ※『視覚障害者と働く−理解と配慮で、ともに働く環境づくり−』 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/manual/emp_ls_comic01.html 【P4-9】 職場ルポ 当事者目線のていねいな準備で、製造ラインの一角もになう ―リコーエスポアール株式会社(神奈川県)― 大手メーカーの特例子会社では、従業員の目線に立ったていねいな準備と指導で、製造ラインの一角をになう業務も任されるようになっている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ リコーエスポアール株式会社 〒243-0298 神奈川県厚木市下荻野1005 TEL 046-243-1590(代表) FAX 046-241-3220 Keyword:特例子会社、知的障害、精神障害、製造ライン、アビリンピック POINT 1 新規業務は2年かけて準備し、従業員の目線に立った指導法などを工夫 2 アビリンピックやスポーツ大会などへの参加も、積極的に応援 3 親会社などには業務のコストや損益を明確に示し、課題共有につなげる リコーの特例子会社  複写機などを手がける大手メーカー「株式会社リコー」(以下、「リコー」)は、1994(平成6)年に「リコーエスポアール株式会社」(以下、「エスポアール」)を設立し、同年5月に特例子会社に認定された。その経緯について、2013年から代表取締役社長を務める小池(こいけ)寿孝(としたか)さんが説明する。  「当時は『障害者雇用率』を十分クリアしていましたが、グループ会社内での積極的な障がい者雇用推進の声に対し、経営陣も賛同しました。目的は、社会貢献の意味合いが強かったようです」  従業員10人程度の規模でスタートし、着実に担当業務を増やしながら組織を拡大してきた。いまでは全従業員68人、うち障がいのある従業員54人(身体障がい2人、知的障がい49人、精神障がい3人)、グループ5社の障がい者雇用率は2.52%(2022〈令和4〉年6月1日現在)だという。  職場は、リコー厚木(あつぎ)事業所(神奈川県厚木市)にある本社の「生産課」、リコーテクノロジーセンター(神奈川県海老名(えびな)市)にある「オフィス業務課」、リコー環境事業開発センター(静岡県御殿場(ごてんば)市)にある「リサイクル課」の3カ所だ。  おもな業務内容は、複写機アフターサービス用部品の包装・梱包、リサイクル部品の洗浄、転写ユニットの梱包、廃トナーボトルの組立、回収現像ユニット開梱、廃棄物の分別、機密文書の整理、メール便の仕分け配達、ペットボトル・空き缶の回収、作業着の回収とクリーニング、清掃、ビーカー・試験管などの洗浄、「JIS規格改定書」の差替えなど多岐にわたる。小池さんは「リコーの生産現場と相談しながら、入念な準備と当事者目線の指導で実績を積みあげ、製造ラインの一角も任せてもらえるようになりました」と話す。同社の現場の取組みや、従業員の奮闘ぶりを紹介したい。 機械も操作し部品包装  エスポアールが設立当初から請け負っているのが「複写機アフターサービス用部品」の包装業務だ。自動包装機も操作しながら1日約2万個をこなせることから、安定的な収益源の一つとなっている。  リコー厚木事業所内の現場を見学させてもらった。自動包装機に資材を補充していたのは、生産課包装グループの田野口(たのぐち)哲也(てつや)さん(48歳)。以前勤めていた会社で体力面や人間関係に悩み退職したという田野口さんは、障害者自立支援センターを経て2019年に入社した。面接では、人とのコミュニケーションが苦手なことから配慮を依頼したそうだ。  「会社のシャトルバスも苦手なので、主治医や上司と相談して一般バス通勤に変更させてもらいました。早めに着くので、ゆっくり始業準備もできます」  職場では、調子が悪くなっても薬を服用すれば30分ほどで持ち直せるが、深刻な場合は休憩室で深呼吸をする時間をとらせてもらっている。  生産課の課長を務める井口(いぐち)倫一(ともいち)さんたちが、適度な距離感で見守ってくれるのもありがたいようだ。田野口さんは「私の様子を見て、あえて声をかけなかったり、逆にしっかり指導してくれたり、ときに冗談をいってくれたりして、心地よい職場環境です。自分でも体調維持に努め、ずっと働き続けていきたいです」と話す。休日にはモトクロスを楽しみながらリフレッシュしているそうだ。  少し離れた場所では、生産課包装グループの津田(つだ)晋太郎(しんたろう)さん(47歳)が部品の袋詰め作業をしていた。以前は大手電機メーカーの関連会社で検査業務をしていたが職場の県外移転にともない退職、ハローワークの紹介でエスポアール設立時の1994年に入社した。  手先の器用さを評価され、いまは数種類の部品梱包も任されているベテランの一人。指導員らは「部品を見てすぐに箱を選び出し、何もいわなくても作業を進めてくれます。折り方を間違えると破損しやすい箱も、彼は素早く正確に組み立てられます」と信頼を寄せる。ちなみに津田さんは小学校5年生のころから家族と登山を続けているそうで、日本百名山の踏破を目ざすほどの健脚だ。 新規業務は2年かけて準備  生産課では2019年に「廃トナーボトル」の組立業務を開始した。廃トナーボトルは複写機のなかに組み込まれていて、印刷するたびに余分に出るトナーを集める部品だ。  「新規事業は、いつも準備に2年ほどかかります」と小池さん。まずエスポアールの指導員が業務内容を覚え、リコー社内試験として一定期間、指導員がやってみてエラーを出さないことを示し、初めて生産許可が下りる。そこから新規採用や実習などを経て業務がスタートする流れだ。  立ち上げにかかわった井口さんは、障がいのある従業員が取り組みやすいようマニュアルや治具(じぐ)などを考案していった。  「言葉よりも写真が理解しやすいので、現場のあちこちに作業の写真を掲示しました。廃トナーボトルの表面にシールを貼るときに『面の真ん中』が理解できないと従業員から指摘され、薄い板をくりぬいて確実に同じ位置に貼れる治具を手づくりしました」  業務が始まってからは「日々、品質と効率と安全をいかに維持していくかに目を配ってきました。つまずいたときも彼らにとっての理由があるので、そこを理解したうえで対策を考えています」と井口さんは話す。  現場では、生産課組立てグループの野堀(のぼり)亮(りょう)さん(29歳)が黙々と作業台でシール貼りや機械による確認作業をしていた。野堀さんは、以前働いていた会社の職場環境が合わなかったことから、あらためて就労移行支援事業所に通い2017年に入社したそうだ。最初はオフィス業務課で廃棄物回収を担当していたが、そこで知り合った女性従業員との結婚を機に異動してきた。「生産現場にかかわり、やりがいもあります。子どもが生まれたので、体力で負けないよう筋トレを始めました」と笑顔で話してくれた。  隣のエリアで廃トナーボトルを梱包していたのは、1994年に入社した生産課組立てグループの竹田(たけだ)すなおさん(47歳)。「初期メンバーはみんな同じぐらいの年なので、働きやすいです」と明るく話す竹田さんは、職場のムードメーカーのような存在。当初は部品包装を担当していたが、経験と腕のよさを認められ梱包業務を任されるようになった。周囲からも頼られる存在だが、竹田さんは「作業のやり方に自分のくせが出て、遅くなることがあり、なんとか直すようがんばっているところです。小さな努力を積み重ねていきたいです」と明かしてくれた。 アビリンピックや社外活動も  エスポアールでは、アビリンピックに挑戦する従業員も積極的に応援している。これまで「木工」や「製品パッキング」、「オフィスアシスタント」、「ビルクリーニング」、「パソコンデータ入力」の各種目に選手を送り出してきた。地方大会の案内を指導員経由で従業員たちに配布すると、出場希望者が毎回数人いるそうだ。日々の業務に関係のない種目にも挑戦でき、勤務時間内に練習時間をつくって指導員らがアドバイスしているそうだ。  2017年入社の小俣(おまた)拓也(たくや)さん(26歳)は、2018年に地方アビリンピック神奈川大会の「製品パッキング」に初挑戦し、全国大会にも出場した。当時は清掃業務を担当していたが、指導員らと一緒に特訓したという。その実力を、いまは生産課組立てグループで発揮している。小俣さんは「全国のレベルはとても高かったですが、また挑戦したいです」と意欲を見せる。小池さんが話す。  「競技に向けて懸命に練習すること自体、確実に本人のためになっています。ほかにもスポーツ大会や音楽など趣味の舞台でも活躍している従業員が少なくありません。こうした社外活動が充実することで、職場全体のモチベーションアップにもつながっていると思います」 休憩室はリラックスできる場に  2013年、海老名市にあるリコーテクノロジーセンター内に、エスポアールのオフィス業務課が設置された。リコーの各現場から出される廃棄物の分別や機密文書の整理を手始めに、メール便や清掃など業務を拡大してきた。  ここで設立当初から働いているのが、オフィス業務課第一グループの能代田(のよだ)和久(かずひさ)さん(47歳)。それまで別企業の食品配送センターで働いていたが倒産してしまい、ハローワークでエスポアールを紹介してもらったそうだ。いまは廃棄物回収所でリコーの試作機などの解体を手がけている。これまでに苦労したことを聞いた。  「以前、喫煙者だった私は、入社したら職場が禁煙になりイライラすることが増えてしまいました。でも会社の補助で禁煙外来の治療を受け、食生活が改善し、仕事も安定しました。鉄道のジオラマづくりを趣味にするようにもなり、禁煙に成功したばかりか飲酒も減りました」  ジオラマづくりでは、回収所に集まるウレタンや木板、発泡スチロール、LEDを再利用しているという。もともと能代田さんはリサイクルへの関心が高く、これまでにも廃材を使った整理箱など、いくつも社内提案してきたそうだ。  ちなみに能代田さんは昼休みの時間にも、従業員用休憩室でジオラマづくりをしている。指導員を務める萩原(はぎわら)恵一(けいいち)さんは、「休憩室は、従業員が少しでもリラックスできるような場にしています。それぞれ好きなことをしたり、みんなでジグソーパズルをつくったりしています。能代田さんのジオラマも飾られています」と教えてくれた。休憩室でのリフレッシュのおかげもあるのか、「職場では集中力が高い従業員が多く、その能力を仕事に活かしています」とも話してくれた。  コロナ禍では苦労もあったそうだ。「作業量が大きく減ったなかでモチベーションを維持するために、より細かく解体したり、清掃の範囲を増やしたりして、職場環境を整えてきました。今後も少しずつ業務拡大をしていけたらと思っています」 研究開発の現場で  オフィス業務課では2018年、新たにビーカー、試験管、フラスコなどの洗浄業務を開始した。現場はリコーの研究開発エリアだ。小池さんが説明する。  「研究開発の現場は部外者の出入りを厳しく制限しているので、以前は洗浄業務も研究員の手で行っていました。その後、外部委託を検討の際、エスポアールでもできるとアピールして実現させました」  この取組みは2019年、リコーグループの社内表彰『リコーウェイ・アワード』でブロンズ賞を受賞。その実績をはずみに2020年から「JIS規格改定書」の差し替え業務もスタートさせた。書類が保管されているリコーの図書館で、指定番号に沿って新しい書類と差し替える作業だ。また小池さんは、「本の貸し出し業務は、手続きがほとんどパソコンで完結するようになったため、人による作業が必要な本の整理業務のほうを、エスポアールで少しずつ引き継いでいけたらと考えています」と先を見すえる。 レベルの高い梱包作業  静岡県御殿場市にあるリコー環境事業開発センター内に2016年、エスポアールのリサイクル課が誕生した。おもな業務は、リコーで生産される複写機の部品「現像ユニット」の梱包だ。約20分ごとに運ばれてくるケース入りユニットを取り出して緩衝材とともに箱詰めし、空(から)ケースを戻す。  「レベルの高い梱包作業で、ケースをすみやかに戻さないと次の部品を出せないというプレッシャーもあります。ここまでしっかりと製造ラインの一角を障がいのある従業員だけでになうのは、なかなか珍しいと思います」と小池さん。  立ち上げ準備には、指導員の渋谷(しぶや)八千宝(やちほ)さんたちエスポアール社員2人が、リコーから1年間限定で派遣された社員と一緒に業務手順や指導法を考えた。渋谷さんは「私はもともと製造現場にいましたが、障がいのある従業員への指導は初めてだったので悩みました」とふり返る。  知的障がいのあるお子さんの母親でもあるという渋谷さんは、「自分の子だったらどう教えようかと考えながら、指導に反映させました」という。一人ひとりの特性に合わせ、例えば「部品1個につき、この作業は〇秒で」などと数字でわかりやすく示した。逆に数字や言葉では理解しにくい人には、写真などを用いたマニュアルもある。  ていねいな準備と実習を経て万全の体制で臨んでも、いざ始まってみるとトラブルは起きる。渋谷さんがもっとも印象に残っているのが、ある女性従業員だった。  「実習でできていた作業が、あるとき一つのミスをきっかけに、体がフリーズして動けなくなってしまいました。私だけではどうにもできず、小池さんに相談しました。支援機関と家族との三者面談を経て、本人に『安心して仕事をしていいんだよ』と理解してもらうよう、少しずつうながしていきました」  このとき小池さんは「とにかく本人とよく話をすること、すぐに答えを出さないこと」を助言。その後2018年に始まったリサイクル部品の洗浄業務を任せたところ、一人で完結する作業だったことも功を奏し、落ち着いて働けるようになったそうだ。渋谷さんは「どの従業員も安定した気持ちで勤務できるように、作業分担や生活面での相談も受けながら、支援機関や家族とも連携しています」と話す。リサイクル課では2020年から「回収現像ユニット」開梱業務も行っている。 業務拡大を進めるために  エスポアールが製造ラインや研究エリアにも入り込んで多様な業務を拡大してきたのは、小池さんの経歴も影響しているようだ。リコーで経理業務にたずさわっていた時期があり、現場を回って業務内容を把握しつつ社内人脈も広げてきた。  「エスポアールができそうな業務はわかっているので、時期を見ながら、同僚たちに声をかけて相談しています」という小池さんは、グループ会社や親会社と話すときは、業務にかかるコストや実績などをわかりやすく示すよう心がけているという。  「この業務内容でこれだけの単価、これだけの損益が出るというふうに、リコー側の仕様に合わせた数字で、全体の損益の理由を断面的に示します。明確な数字をたたき台に課題を共有すれば、具体的な対策や方針も出やすくなります」  一方の現場では、指導員が中心となって作業の流れや取り組み方の工夫を重ね、従業員の定着や職域拡大につなげてきた。小池さんは「指導員に求めているのは、仕事上の技量というよりも『彼らの目線に立てるかどうか』で、それが重要です」と話す。  いまも新しい業務拡大に向けた準備が進んでいるところだそうだ。「リコーグループの統廃合などで、別部署などにふり分けられる業務のなかに、エスポアールが請け負えるものがあります。少しでも持て余しているような断片的な仕事を集め、一つの業務としてになう方法も検討していきたいですね」という小池さんは、今後についてこう語った。  「リコーグループ全体の業務内容や事業のあり方が変わっていく先に、障がい者雇用がどのように乗っかっていくか、業務のとらえ方も抜本的に切り替えていくべき時期にきていると考えています。親会社と足並みをそろえながら、従業員の持てる能力をより発揮できる職場を目ざして、挑戦し続けていくつもりです」 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、リコーエスポアール株式会社様のご意向により「障がい」としています 写真のキャプション 代表取締役社長の小池寿孝さん 株式会社リコー厚木事業所内にあるリコーエスポアール株式会社の本社・生産課 生産課包装グループの田野口哲也さん 資材の補充を行う田野口さん 生産課課長の井口倫一さん 生産課包装グループの津田晋太郎さん 津田さんは部品の袋詰めも担当する 生産課組立てグループの野堀亮さん 廃トナーボトルに部品を取りつける野堀さん 生産課組立てグループの竹田すなおさん 竹田さんは、廃トナーボトルの梱包を担当する 生産課組立てグループの小俣拓也さん 小俣さんは、第39回全国アビリンピック「製品パッキング」に出場した オフィス業務課第一グループの能代田和久さん リコーテクノロジーセンターで、解体分別作業を行う能代田さん(写真提供:リコーエスポアール株式会社) 能代田さんが発案した提案書の数々 指導員の萩原恵一さん 機械を使ったチェック作業で取りつけ漏れなどを防ぐ 工場のラインをさらに改良し、より使いやすくした作業スペース 指導員の渋谷八千宝さん リコー環境事業開発センターでのリサイクル部品洗浄作業の様子(写真提供:リコーエスポアール株式会社) 同センターでの梱包工程。製造ラインの一角をになう(写真提供:リコーエスポアール株式会社) 【P10-11】 クローズアップ 障害者職業能力開発校の活用術 第1回 〜社員個々の能力を発揮して活躍してもらうには〜  障害者職業能力開発校では、職業スキル習得のための訓練だけではなく、企業向けの支援を行っているところもあります。今号から3回にわたり、障害者職業能力開発校の活用方法について連載します。  第1回は、障害のある求職者が職業スキルを身につけるための職業訓練、企業担当者向けの支援についてご紹介します。 はじめに  障害者職業能力開発校は全国に19カ所(※)あり、ベテラン人事担当者なら、これまでの採用活動のなかで利用をしていたり、していなくても何度か耳にしていたりするようです。一方で、経験の浅い方からは、「聞いたことがない」、「企業は利用できるのか?」、「どのような訓練をしているのか?」という声を聞くことがあり、情報を得ることそのものが少ないようです。そこで今回は、障害者職業能力開発校のうち全国的に事業を展開し、当機構が運営している国立職業リハビリテーションセンター(以下、「国リハ」)と国立吉備(きび)高原職業リハビリテーションセンター(以下、「吉備リハ」)をご紹介します。 国リハ・吉備リハの訓練内容  国リハ(埼玉県所沢市)および吉備リハ(岡山県加賀郡吉備中央町)では、就職に必要な職業訓練や職業指導など、障害者個々の特性・能力に応じたきめ細やかなサービスを提供し、社会で活躍する職業人を目ざした人材育成に努めています。企業としては、職業訓練を受講し専門的な知識・技能を身につけた人材を採用することで、採用後の従事業務の選定作業が行いやすく、社員のキャリア形成への道筋を立てやすくなるのではないでしょうか。  訓練コースは、大まかに分けて「ものづくり」、「IT技術」、「事務」、「サービス」、「物流」の五つの分野があります。明日のものづくりをになう人材、新時代のIT技術を身につけた人材を養成するための訓練概要、取得できる関連資格や就職先の職種、訓練生の声をご紹介します。  「障害者雇用のイメージがわかない」、「自社の業務に関する技術などがある障害者を採用したいが、進め方がわからない」などの不安がある場合は、両センターで障害者雇用に関する相談や、職業訓練場面を見学することで解決につながるかもしれません。  両センターのホームページで公開している訓練生の情報を見ることで、より具体的なイメージができると思います。また、個別の会社説明会を実施していますので、お気軽にお問い合わせください。 企業と連携して実施するオーダーメイド型の職業訓練  国リハおよび吉備リハでは「専門的な知識・技術を持った障害者を雇用したい」と考えている企業に対して、より良い採用や職場定着を支援するため、企業のニーズと訓練生の特性に応じたオーダーメイド型の訓練(「企業連携職業訓練」)(図)を実施しています。企業の現場での仕事内容に即した訓練を両センターの施設内で行った後、企業の中で訓練を実施するものです。企業の中での訓練を通して、障害者の特性に応じた職場環境の整備、上司や同僚の方々への指導方法などへのアドバイスも行っています。  そのほか、職業訓練を修了した障害者を採用した場合、職業訓練にたずさわった両センターの指導員だけでなく、お近くの地域障害者職業センターが連携して、職場定着支援も行うほか、休職者の職場復帰や在職者のスキルアップのための職業訓練も実施しています。  このように、障害者職業能力開発校は障害者の採用から採用後の雇用管理・スキルアップまで、幅広く対応している支援機関です。これからの障害者雇用の視点で重要だとされている「雇用の質」を高めるための取組みを行うときには、一度活用してみることをおすすめします。 ものづくりの分野 電子機器科 【関連資格検定】 ディジタル技術検定、CAD利用技術者試験 【主な就職先職種】 機械装置・電子機器等の製造・組立・検査・修理など テクニカルオペレーション科(国リハ) ※吉備リハでは電子機器科が該当します 【関連資格検定】 ディジタル技術検定、電子機器組立技能検定 【主な就職先職種】 機械・電気機器製造業等の製造組立ラインの設計・保守、工場内設備の設計・製図など 機械製図科 【関連資格検定】 技能検定、CAD利用技術者試験 【主な就職先職種】 機械CADオペレーター、機械設計など 建築設計科(国リハ) 【関連資格検定】 福祉住環境コーディネーター2級 【主な就職先職種】 一般土木建築工事業の設計、総合工事業の設計など IT技術の分野 OAシステム科(国リハ) システム設計科(吉備リハ) 【関連資格検定】 ITパスポート試験 基本情報処理技術者試験 【主な就職先職種】 Webプログラマー、システム開発など DTP・Web技術科(国リハ) ※吉備リハではシステム設計科が該当します 【関連資格検定】 日商PC検定、Webデザイン技能検定 【主な就職先職種】 印刷部門、Web制作など 訓練生の声(一部抜粋)  私は視覚障害者です。パソコンの基本操作から、オフィスソフト全般の習得、簿記の訓練など事務職を目ざすためのスキルアップが確実にできたと思います。 *視覚障害者を対象にしたコースもあります。 事務の分野 経理事務科 OA事務科 オフィスワーク科(国リハ) 職域開発科(吉備リハ) 【関連資格検定】 日商PC検定、日商簿記検定など 【主な就職先職種】 経理事務、総務事務、一般事務など 訓練生の声(一部抜粋)  日々の訓練を楽しみながら、頑張って入所時はゼロだった事務のスキルを身につけることができました。さらに訓練で身につけた知識をもとに日商簿記2級をはじめ、Excel、Word、会計ソフトなどのさまざまな資格の取得ができ、就職活動にもとても役に立ちました。 物流の分野 物流・資材管理科 アシスタントワーク科(国リハ) 職域開発科(吉備リハ) 【主な就職先職種】 運輸業倉庫作業員、メーカー商品管理など 訓練生の声(一部抜粋)  訓練では、ピッキング、部品の仕分け、組み立て作業などさまざまなことに取り組みました。ピッキングは伝票をしっかり見る力、部品の仕分けは製品をていねいに扱う力が身につきました。また、組み立て作業は、日々の訓練で手先を動かすのが早くなりました。体力的にも気持ち的にも一回り大きくなった気がします。 サービスの分野 アシスタントワーク科(国リハ) 職業実務科(吉備リハ) 【主な就職先職種】 物流センターの出荷作業員、スーパーマーケットなどの販売員、レストラン、ホテル、病院などの補助作業員など 図 企業連携職業訓練の流れ 企業への支援 訓練生への支援 訓練生の職業適性などと企業ニーズに応じた特注型の訓練メニューの作成 指導技法などの情報提供 企業内訓練に向けた特定技能の施設内訓練 企業内訓練 企業内訓練結果に基づく再訓練 採用 「企業連携職業訓練」利用者の声(一部抜粋) A社(電子応用装置製造業)担当者 「幅広い視点でB さんに合う仕事を検討し、複数の仕事を体験してもらいました。その結果、Bさんと企業がお互いに納得したうえで、採用につなげることができました。採用後も困ったときに支援が受けられるという安心感があります」 訓練生Bさん(発達障害) 「就職する前に作業内容がわかり、就職時のイメージがしやすくなりましたし、雰囲気や環境がわかり不安が少なくなりました」 ※『令和4年版障害者職業生活相談員資格認定講習テキスト』デジタルブックP317「障害者職業能力開発校」 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/soudanin_r4/#page=317 国立職業リハビリテーションセンター「事業主の方へ」 https://www.nvrcd.jeed.go.jp/employer/index.html 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター「事業主の方へ」 https://www.kibireha.jeed.go.jp/business/index.html 【P12-14】 JEED インフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 令和5年度 障害者雇用納付金制度に基づく申告申請が令和5年4月1日から始まります @障害者雇用納付金の申告・納付期限、障害者雇用調整金および在宅就業障害者特例調整金の申請期限は、令和5年5月15日です。 A報奨金および在宅就業障害者特例報奨金の申請期限は、令和5年7月31日です。 B特例給付金の申請期限は、上記@の対象事業主の場合、令和5年5月15日です。  上記Aの対象事業主および特例給付金のみを申請する事業主の場合、令和5年7月31日です。  ※障害者雇用調整金、報奨金や特例給付金などは、申請期限を過ぎた申請に対しては支給ができません。十分にお気をつけください。  障害者を雇用するには、作業施設や設備の改善、職場環境の整備、特別の雇用管理などが必要とされることが多く、経済的負担をともなうため、雇用義務を履行している事業主と履行していない事業主とではその経済的負担に差が生じることになります。  障害者雇用納付金制度は、身体障害者、知的障害者および精神障害者を雇用することは事業主が共同して果たしていくべき責任であるという社会連帯責任の理念に立って、事業主間の障害者雇用にともなう経済的負担の調整を図るとともに、障害者を雇用する事業主に対して助成、援助を行うことにより障害者の雇用の促進と職業の安定を図るため、「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づき設けられた制度です。 障害者雇用納付金制度の概要 障害者雇用納付金の徴収 不足する障害者1人当たり月額5万円 ★常時雇用している労働者数が100人を超える事業主は、 ●毎年度、納付金の申告が必要 ●法定雇用率を達成している場合も申告が必要 ●法定雇用障害者数を下回っている場合は、申告とともに納付金の納付が必要 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 障害者雇用調整金の支給 超過1人当たり月額2万7000円 ●常時雇用している労働者数が100人を超えており、常用障害者数※が法定雇用障害者数を超えている事業主に対し、申請に基づき支給 報奨金の支給 超過1人当たり月額2万1000円 ●常時雇用している労働者数が100人以下で、支給要件として定められている数を超えて障害者を雇用している事業主に対し、申請に基づき支給 在宅就業障害者特例調整金の支給 ●在宅就業障害者に仕事を発注した納付金申告事業主に対し、支払った業務の対価に応じた額を、申請に基づき支給 在宅就業障害者特例報奨金の支給 ●在宅就業障害者に仕事を発注した報奨金申請対象事業主に対し、支払った業務の対価に応じた額を、申請に基づき支給 特例給付金の支給 ●週20時間未満の障害者を雇用する事業主に対し、支給上限人数までの額を、申請に基づき支給 各種助成金の支給 ●障害者を雇い入れたり、雇用を継続するために職場環境の整備などを行う事業主に対し、申請に基づき費用の一部を助成 法定雇用障害者数を下回っている事業主 法定雇用障害者数を超えている事業主 法定雇用障害者数 納付金 雇用している身体、知的、精神障害者の数 調整金 常時雇用している労働者数が100人を超える事業主 ※常用障害者…常時雇用している労働者である障害者 納付金部 以下の当機構ホームページにおいて、障害者雇用納付金制度にかかる記入説明書および解説動画を掲載中ですので、ご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/levy_grant_system_about_procedure.html Q すべての事業主が障害者雇用納付金の申告・納付を行わなければならないのですか? A 障害者雇用納付金の申告義務がある事業主は、常時雇用している労働者の総数が100人を超える月が、申告申請対象期間(令和5年度申告申請では令和4年度)のうち5カ月以上ある事業主です(注1)。  該当する事業主は、4月1日から5月15日までの申告申請期間内に、電子申告申請システムか、本社の所在する都道府県にある当機構申告申請窓口(注2)への送付または持参により、前年度(申告申請対象期間)の実績に基づく申告申請書をご提出ください。  障害者雇用納付金の納付が必要となるのは、基準となる障害者雇用率を下回っている事業主となります。  また、この場合の障害者雇用納付金の額は、その「基準となる障害者雇用率(2.3%)に不足する人数」に「月額5万円」を乗じた額となります。  なお、納付金申告義務がある事業主は、障害者雇用率を達成している事業主(調整金対象事業主)であっても、申告申請書を提出する必要があります。 Q 障害者雇用納付金の納付期限はいつですか? A 障害者雇用納付金の納付期限は、納付金申告書の提出期限と同様に5月15日となります。  なお、納付すべき障害者雇用納付金の額が100万円以上となる場合は、3期に分けて延納することができ、各期の納付期限はそれぞれ次の通りです。  延納第1期分の納付期限:5月15日  延納第2期分の納付期限:7月31日  延納第3期分の納付期限:11月30日  また、障害者雇用納付金の納付については「ペイジー」をご利用いただけます。詳細については、本誌裏表紙をご確認ください。 Q 障害者雇用調整金・報奨金・特例給付金申請時には、どのような添付書類が必要ですか? A 常時雇用している労働者の総数が300人以下で、障害者雇用調整金、報奨金や特例給付金を申請する事業主は、添付書類を提出する必要があります。  具体的には、雇用障害者の障害の種類・程度を明らかにする書類として障害者手帳などの写し、労働時間の状況を明らかにする書類として源泉徴収票(マイナンバーの印字のないもの)などの写しの添付が必要となります。  なお、平成26年度以降の申請時に障害の種類・程度を明らかにする書類を提出した雇用障害者について、障害の種類・程度の変更がなく、申請対象期間内に障害者手帳などの有効期限を経過していない場合は、改めての提出は不要です。 Q 申告申請関係の書類作成や手続はパソコンでできますか? A 障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金、報奨金、在宅就業障害者特例調整金、在宅就業障害者特例報奨金および特例給付金の申請にかかる申告申請書等は、電子申告申請システムで作成・送信が可能です。また、令和5年度申告申請から、申告申請書とあわせて、添付書類も電子申告申請システムでの送信ができるようになりました。  そのほか、「住所、名称等変更届」、「吸収合併、相続、廃止等届」の作成・送信、電子申告申請用ID・パスワードの新規発行等も、電子申告申請システム上で行うことができます。 令和5年度申告申請の主な留意点 1.電子申告申請システムのリニューアル  令和5年度申告申請から、新たな電子申告申請システムにより申告申請書の作成・送信を行ってください。  詳細については、次ページのお知らせをご確認ください。 2.法人番号の記入または所得税確定申告書の写し等の提出  法人番号のある事業主は、申告申請書に法人番号の記入が必要です。  また、今回初めて申告申請を行う事業主で、法人番号のない事業主にあっては、所得税確定申告書(白色申告書または青色申告書)の写しまたは開業届の写しを、あわせてご提出いただくようお願いします。  法人番号については、国税庁法人番号公表サイト(https://www.houjin-bangou.nta.go.jp/)でご確認ください。 3.納付金等の重複申告申請について  納付金等の申告申請は、原則として法人単位で行うことが必要です。一つの法人内で、本社と本社以外の事業所がそれぞれ申告申請を行うなど、重複して申告申請を行っていることを確認した場合は修正手続をお願いします。 (注1)年度の中途に事業を開始・廃止した場合(吸収合併等含む)の取扱いは異なりますので、記入説明書をご参照ください。 (注2)当機構各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)が申告申請窓口となります。 事業主のみなさまへ 障害者雇用納付金 電子申告申請システムが令和5年度申告申請から新しくなりました URL:https://www.nofu.jeed.go.jp/Nofu_Densi/ 電子申告申請システム トップページ(画面イメージ) こちらからアクセスできます 当機構ホームページトップのバナーからもアクセスできます 新システムの特徴 1 電子申告申請システム(WEB)上のフォームに情報を入力して、申告申請書の作成ができます   ※申告申請書作成支援シート(マクロ機能付きExcel)は廃止しました 2 過去の申告申請書のバックアップデータ(XML ファイル)やCSVファイルを取り込むことができます 3 電子申告申請用ID・パスワードの発行・変更手続がWEBでできます 4 添付書類(源泉徴収票や障害者手帳の写し等)の送信ができます 新システムの詳細および操作の流れ等については、システムトップページおよび当機構ホームページに掲載している「障害者雇用納付金 電子申告申請システム操作マニュアル」をご参照ください。 【P15-18】 グラビア コーヒー豆の「声」を聞き分ける焙煎チーム NPO法人みのり 領家グリーンゲイブルズ(埼玉県) 取材先データ NPO法人みのり 領家グリーンゲイブルズ 〒362-0066 埼玉県上尾市領りょう家け 401-1 TEL 048-729-8264 写真・文:官野 貴  NPO法人みのりが運営する、埼玉県上尾(あげお)市にある多機能型事業所「領家(りょうけ) グリーンゲイブルズ」では、視覚障害があり知的障害などほかの障害もある盲重複障害者らが、点字名刺の制作やマッサージ、農作業など、さまざまな活動を行っている。なかでも注目を集めているのが、音を頼りに行うコーヒー豆の焙煎(ばいせん)作業だ。  同事業所では視覚障害のある人の活躍の場を広げるべく、地元のカフェの店長から指導を受け、コーヒー豆の焙煎を行っている。ガス直火式の業務用焙煎機を使用し、視覚障害のある利用者が、加熱されたコーヒー豆の弾ける音「ハゼ」を聞き取り、焙煎度合を調整する。色に惑わされることなく、音で焙煎度合を確認するため、よりベストなタイミングで焙煎終了できるという。焙煎チームでハゼ音を聞き取る役目をになう山仲(やまなか)聡彰(あきら)さん(32歳)は、「豆によってハゼるタイミングや音が違う。最初はむずかしかったですが、いまは聞き分けることができます。新しい産地の豆にもチャレンジしていきたい」と語る。同じく鬼海(きかい)翔太(しょうた)さん(21歳)は、「コーヒー豆が大きな声でハゼてくれるとうれしい。チームでの焙煎作業はとても楽しいです」と話す。  焙煎を終えたコーヒーは、焙煎チームメンバーによるカップテスト(試飲)が行われる。メンバーの「上品な酸味でおいしい」、「甘みとコクがある」などのコメントは、「焙煎記録」に書き入れられ、また、時間ごとの温度変化なども記入される。焙煎記録は、「味」を追い求める試行錯誤の証であり、彼らの誇りでもあるのだ。  現在は、生産が追いつかないほどに注文が殺到し、購入者からの「おいしい」という声が彼らのやりがいにつながっているという。 写真のキャプション 焙煎前のコーヒー豆。産地などによって目ざす焙煎度合が異なる コーヒー豆を焙煎機に投入する。焙煎機は一度に1kgまで焙煎できる業務用だ ハゼ音を聞き分けるために、焙煎チーム全員が耳を澄ませる 焙煎されたコーヒー豆。満足のいく仕上がりだ 最適なタイミングでコーヒー豆を取り出し、うちわで扇(あお)いで冷ます 門外不出の焙煎記録。その枚数は1300枚を超える カップテスト用にコーヒーを淹れる渡邊(わたなべ)美恵子(みえこ)さん 「おいしい!」焙煎のできに大満足の鬼海翔太さん 試飲した山仲聡彰さんは「上品な酸味があります」とコメント 焙煎チームのリーダーを務める生田(いくた)健人(けんと)さん タイムキーパーの齋藤(さいとう)孝伸(たかのぶ)さん。納得の味に笑みがこぼれる 計量した豆をグラインダーで粉砕し、ドリップパックに入れる 点字印刷機で商品ラベルに点字を打つ沢田(さわだ)恵美(えみ)さん パッケージをシーラーで密封する小林(こばやし)美穂(みほ)さん(左) 商品ラベルをパッケージに貼りつける ドリップパックのコーヒー粉は、少し多めの12g。これも味へのこだわりの一つだ ドリップパックのほか、珈琲ギフトセットなども販売され、オンラインショップなどで購入可能だ パッケージには「僕らは耳で焙煎をする。」というキャッチフレーズが点字とともに印字されている 【P19】 エッセイ 第1回 ろう者である想い 〜子どものころから思い描いた夢〜 忍足亜希子 忍足亜希子(おしだり あきこ)  俳優。1970(昭和45)年生まれ。北海道千歳市出身。銀行勤務を経て、1999(平成11)年、映画『アイ・ラヴ・ユー』で日本最初のろう者主演女優としてデビュー。同作で毎日映画コンクール「スポニチグランプリ新人賞」を受賞。以後、俳優業以外にも講演会や手話教室開催など、多方面で活躍中。  2021(令和3)年には、夫で俳優の三浦剛との共著『我が家は今日もにぎやかです』(アプリスタイル刊)を出版。  私がみなさんと違うのは、生まれつき耳が聴こえないため、おもに手話を話すということ。  幼いころは、耳が聴こえない子どもが通う「ろう学校」で言葉を習得するために、口話(こうわ)や読話(どくわ)の訓練を毎日行っていました。「口話」は自分で声を出して話すこと、「読話」は相手の口元を見て言葉を読み取ることです。どちらも視覚的に言葉を「見て」覚えるので、日本語を理解するのはとても苦労しました。そのころ通っていたろう学校は口話教育が中心だったので、手話ではなく、相手の口元を見て言葉を読み取る訓練をしていました。  言葉が理解できるようになった小学生のころ、いろんな夢を描くようになりました。「なりたい職業」について先生に聞かれたときは、父が航空会社に勤務していた影響もあり「キャビンアテンダントがいいな」とか、「絵を描くのが好きだから漫画家もいいな」と、そんな話をしたら、「あなたは耳が聴こえないから、むずかしいね」といわれてしまいました。  「自分は耳が聴こえないから、聴こえる人と同じようにできないって、そんなの不公平だよ。なんでダメなの? みんな夢を描くのは自由なはずなのに。その夢を叶えるために努力するのを応援してくれたっていいのに。諦めなきゃいけないの?」、そんな悔しさが込み上げてきました。あの一言はとてもショックで、とても悲しかったです。  それ以降「なりたい職業」について何も考えられなくなってしまいました。自分にはどんな仕事が許されて、何をしたら自分は認められるのか……、将来どうしたらよいのかわからないまま成長していきました。結局、夢や目標がないので、どこで働いたらよいのかもわからず、働きたいという気持ちは失せ、「勉強をもうちょっとがんばりたいかな」と、短大進学を選択しました。  当時入学した短大には、私のように耳の聴こえない学生はおらず、周りは聴こえる人ばかりでした。いままでろう学校にいたので、まったく違う世界に来たような気分でした。授業の内容がわからないので、まず友達をつくってノートを借り、書き写して勉強する、という学生生活を過ごしました。短大卒業時に先生のすすめで地元の銀行で働くことになりましたが、毎日同じような仕事のくり返しで自分には合わず、5年勤務して辞めてしまいました。退職してからは「自分の道探しをしよう」と、ろうの友達と手話でしゃべったり、海外旅行に行ったり、趣味でスキューバダイビングをしたりと、いろいろな経験をしながら、いままでがんばった自分を癒すため、ゆっくりまったり過ごしました。  そして20代半ばを過ぎたころ、友達に映画のオーディションをすすめられました。そのときは、俳優という職業は耳の聴こえる人の仕事だと思っていたので、あまり真剣に考えずに、「一度応募してみよう」、「演技というものを経験してみよう」と、軽い気持ちでオーディションに挑戦しました。演技経験はまったくなかったので上手く演じられず、無理だろうなと思っていましたが、なんと、オーディションに合格。映画『アイ・ラヴ・ユー』で主演デビュー。29歳、人生の転機が訪れました。  当時は、演技に関して何もわからない状態で、演じることで精一杯だったし、俳優としてやっていくかは、まだ心に決めていませんでした。俳優として、聴こえない子どもや大人に夢と希望を与えられるように「がんばりたい」と心から思えるようになったのは、30代後半でした。やっと自分が「やりたい」、自分の能力や得意なもので「楽しみながら仕事がしたい」と思えるようになったからです。好きでがんばれる仕事の方がいい。そうすれば気持ちも前向きになれるし、自分が活き活きしていくと感じました。  「耳が聴こえないからできない」と決めつけずに、自分に合った得意なところを見出し、希望を持ち、どうしたら可能にできるか工夫することは、とても大切なことだと思います。 【P20-25】 編集委員が行く 障がい者雇用にかかわる社会課題に挑む 〜鉄道車両メンテナンス会社の挑戦〜 堀江車輌電装株式会社(東京都) サントリービジネスシステム株式会社 課長 平岡典子 取材先データ 堀江車輌電装株式会社 〒102-0073 東京都千代田区九段北1-3-2 大橋ビル5階 TEL 03-5213-4728 編集委員から  鉄道車両メンテナンス会社がなぜ障がい者支援事業を行っているのか。そこには「働きたいと願うだれもが働ける社会をつくりたい!」という熱い思いを抱くリーダーがいる。今回の取材では、そのリーダーの活動を紹介するとともに、リーダーとともに働く障がい当事者がどのような思いで働いているのかをインタビューすることができた。 Keyword:大学キャリアセンター、清掃、ジョブコーチ、精神障害、発達障害、精神保健福祉士 写真:官野 貴 POINT 1 あらゆる悩みや課題を徹底的に聞き取る 2 課題解決に向けた具体的なアプローチを提示する 3 だれもが活躍する社会づくりにつなげる 堀江車輌電装株式会社  堀江車輌電装株式会社(以下、「堀江車輌電装」)は、東京都千代田区の九段下に本社のある、鉄道車両の整備・改造を行う会社だ。  自社内で障がい者雇用の好事例を生み出すだけでなく、社会に向けて障がい者支援事業を展開している。  堀江車輌電装は、従業員数64人(2022〈令和4〉年9月1日時点)、1968(昭和43)年創業の会社で、鉄道車両の整備・改造事業を行う部署のほかに、ビルメンテナンス事業部、障がい者支援事業部、未来創造事業部を持つ。  林(はやし)一茂(かずしげ)さん(35歳)は、そのビルメンテナンス事業部と、障がい者支援事業部の部長を務める。今回は、この二つの事業部について、林さんと、同社で活躍する障がいのあるお二人に取材を行った。 社会全体に向けた「障がい者支援事業」  林さんは、「社会が抱えるさまざまな課題を解決しながら、働きたいと願うだれもが働ける社会をつくりたい」という、熱い想いを抱いている。  林さんの支援スタイルは、障がい者雇用にかかわるさまざまな関係者(当事者、教育機関、支援機関、企業、家族)から悩みや課題を聞き取り、その課題解決に向けて、パートナーとしてともに取り組む、といったものだ。  例えば、教育機関である大学との課題解決の取組みについて触れたい。  林さんが大学のキャリアセンターにヒアリングに行くと、さまざまな課題を抱え、授業に参加できず単位が取れない学生や、就職活動がうまくいかない学生がいることを知った。そういった学生は障がいがあったり、いわゆるグレーゾーン(※)であることが多いと知り、就労へつなぐことを目的に、この課題解決に乗り出すことになる。  学生の課題の根本には、次の3つのポイント(図)がうまくいっていないということがわかってきた。@健康・生活管理、A自己理解(障がいの見える化)、B自己決定(選択)、である。  「@健康・生活管理」では、大学によっては全学生を対象にセミナーを実施していたり、カリキュラムに取り入れている学校もある。  障がい者支援事業部では、学生の健康と生活面についての課題を解決するため、独自のチェックシートを提供し、各項目5段階で自己評価を行えるようにした。このチェックシートには、発達障がいの傾向がある学生がつまずきやすいポイントを14項目抜粋してあり、企業が求めるレベルを4〜5点とした場合、3点以下の学生には課題意識を持ってもらうところがスタートだ。チェックシートの14項目には、体調不良時の対処、食事や起床、体力、金銭管理、身だしなみ、援助の要請、生活リズム、運動習慣などがあり、自分の課題を明らかにする。また、睡眠に課題を抱える学生が多いことから、同様に睡眠チェックシートも独自に作成。質問項目について「yes」と答えたものを1点とし、27点満点中13点以下は睡眠について課題があるとした。  このように、自分の課題を見える化することで、相談をする大切さに気づいてもらい、行動を起こすことが重要だと林さんはいう。この取組みが、障がいのある学生にかぎらず、全学生を対象としているのは、自分の課題に気づいておらず支援を受けていない学生を見つけることができ、必要な支援につなげることができることを考えてのことである。  次の「A自己理解(障がいの見える化)」については、障がい者支援事業部が実施する学生向けのセミナーのなかで、まず、将来自分にあった進路を納得して選択するため、また、必要な支援や配慮を得るために、十分な自己理解が重要だと伝えている。実際、企業での採用面接では自分の得意なことや苦手なことなどを伝える必要があるが、話すことが苦手であったり、経験不足などにより、面接で失敗することも多い。そのため、セミナー内ではペアワークを通じて自分の苦手を認識した後に、具体的な対応策として、相手に伝えるためのフレームワークや、数字を交えて話すことの大切さを伝え、「実際にやってみてうまくできた」という体験をする。  三つめの「B自己決定(選択)」は、これまでの@とAができている学生向けの最終ステップである。企業を知り、自分の働く道を決定していく。  具体的な取組みとしては、企業とのマッチングイベントや、合同企業セミナーを実施している。就職の際、障がいをクローズにするのか、もしくは障がいをオープンにし、手帳を取得して一般枠で就職するのか、障がい者枠で就職するのか、もしくは福祉的就労をするのかという選択肢を提示したうえで自己決定していく。  障がい者支援事業部では、このような取組みを大学側と連携して行っており、現在では10校のキャリアセンターと進めている。 障がい者専門の人材紹介事業  ただ、そこで終わらないのが林さんである。  現在はその先の、企業と学生をつなぐ仕事も行っている。それが、障がいのある求職者向けの人材紹介事業だ。  この事業では、求職者向けに模擬面接や履歴書の添削、インターンシップなどの訓練をし、求職者のレベルの底上げを図るとともに、家族ともコミュニケーションを重ね、価値観を共有し、信頼関係を築くことに時間をかけている。そして、一人ひとりにマッチした企業を紹介し、就労へつなげていくことで、定着率の高さにつながっている。「就職はゴールではなくあくまでスタート。働き続けることが何より大事だ」と林さんはいう。  では、このように社会全体に向けた取組みを展開している林さんについて、あらためて紹介したい。  社会人スタートは専門商社で、営業を2年半経験した。その後転職し、就労移行支援事業所・就労継続支援B型事業所(以下、「支援事業所」)の立ち上げを2年間経験し、堀江車輌電装に入社したのは2014(平成26)年だ。  林さんの障がい者雇用の原点は、専門商社でのこと。新規開拓営業をする際、当時の上司から「日経新聞の記事でおもしろいと思った会社に新規営業をする」という指示があった。ある日、視覚障がいのある人が経営する会社の記事に目が留まった。実際に訪問し、話をしていくなかで、初めて障がいのある人のすばらしさに触れた。それまで林さんは障がいに対して偏見があり、「障がいのある人は支援される側の人」と勝手に認識していたという。しかし、自分の想像をはるかに超えた存在の障がい者と出会い、自分の世界観が大きく変化した。その人とはその後も接点を持ち続け、専門商社を退社した後、ともに支援事業所の立ち上げにかかわることになった。  その支援事業所では、生活保護を受けている人や障がいのある人などさまざまな出会いがあった。働けるはずなのに働かない人、一方で、働きたいのに働けない人の存在を知り、不公平感を感じることもあったそうだ。そのため、福祉側から企業へ送り出す支援だけでなく「企業側として障がいのある人の受け入れまでやってみたい」と思うようになり、当時ご縁のあった堀江車輌電装への入社を決めた。  鉄道車両のメンテナンス会社のなかに、障がい者支援事業部をつくったのは2014年。林さんはこれまでの経験を通じて、障がいのある人が、働きたい気持ちはあるのに働く機会に恵まれないことや、企業の方針によっては、障がいのある人は一度就いた業務はなかなか変えてもらえないという「キャリア選択の狭さ」に課題を感じていた。 「心を突き動かされるものがあった」  「想いはあっても最初からうまくいったわけではありません。『鉄道車両のメンテナンス会社がなぜ障がい者支援をしているのか』と理解してもらえず、なかなか協力を得られませんでした。でも、徐々に大学や企業、就労支援機関などとの接点が増え、コミュニケーションを取っていくなかで、それぞれの課題が少しずつ見えてきました。その課題の一つひとつに向き合い解決したい、という強い思いを持って歩んできました」と林さんはいう。  「そんななか、企業において障がい者雇用の担当者は孤立することが多いこともわかり、コミュニティーをつくる活動を進めていきました。そうするうち徐々に『堀江車輌電装の障がい者支援事業部は困りごとを解決してくれる、よい組織らしい』という声も聞こえてくるようになりました」と林さんはふり返った。常にさまざまな立場の方の不安を聴き、一緒に解決してきた8年だった。  そんな林さんと私が出会ったのは、障がい者支援事業部主催の企業担当者を集めた事例検討会だ。そこでは各社担当者をつなぎ、悩みや課題を打ち明け、成功事例や失敗事例を共有する機会を提供してくれる。他社事例を知ることは企業担当者にとって非常に重要な機会である。そのまま真似することはできなくても、他社事例のなかで取り組めそうなものを自社に展開するサイクルを演出してくれる。年に4回開催され、1回に30〜40人の企業担当者や就労支援者、学校の先生などが集う会となっている。これは、障がい者支援事業部の企業サポートの一例である。  現在はリモート開催だが、いつも画面越しに林さんの「みなさんの役に立ちたい。課題を解決できないか」といった思いが伝わる。何より笑顔の林さんがいて、なんだか楽しそうなのだ。ざっくばらんに企業担当者をつなぎ、何でも話しやすい雰囲気ができあがる。障がい者雇用支援に使命感を持ち、楽しみながら行っているように見える。それが林さんなのだ。 活躍する障がい者スタッフ  次に、堀江車輌電装で活躍する二人の障がい者スタッフに話をうかがった。  まず、一人目は森下(もりした)慶祐(けいすけ)さん(35歳)。取材で会社におじゃますると、林さんの一歩後ろで森下さんが少しはにかんだ笑顔で私たちを迎え入れてくれた。森下さんは26歳のときに統合失調症を発症、半年の入院を経て就労移行支援事業所で訓練を行い、29歳で堀江車輌電装へ入社した。現在6年目だ。  現在は、ビルメンテナンス事業部での清掃業務に加え、障がい者支援事業部で、清掃業務のジョブコーチとしての役割もになっている。  これまでの経緯について話してくれた。  「自分は、26歳で統合失調症を発症し、入院していた半年間は希望がまったく持てませんでした。退院する際、医師や看護師のみなさんに『これからはいいことしかないよ!』と励ましの言葉をいただきましたが、そのときは『そんなわけない』と喜べませんでした。病状も重かったし、社会復帰できるかもわからなかったので、素直に受け取れませんでした。でもいまは、これまでいろいろ苦労はあったけど、がんばってきてよかったと感じています」と、清々しい表情で話してくれた。  「就労移行支援事業所では、事務の訓練が多かったので、将来は事務の仕事に就くしかないと思い込んでいました。でも、自分には手の震えがありましたし、社会人経験がなかったので、事務職が自分に向いているのかわかりませんでした。事業所の紹介で堀江車輌電装を知り、清掃という業務もあることを知りました。一方、これからの人生でずっと清掃業務をすることに何となく不安はありましたが、まずはやってみようと入社を決めました」 仕事の基本は3ステップ  森下さんがこれまでどのようなステップを歩み、現在どんな仕事をしているのかについて紹介したい。  まず、ステップ1は「担当する業務を覚えて一人でできるようになる」とした。森下さんは、通常2週間程度で可能な清掃業務の習得に、約3カ月かかったが、あきらめず粘り強く取り組んだという。  ステップ2は「習得した業務を自社で人に教える」である。自社に新しく入社した障がいのあるスタッフや高齢者に、自分が習得した業務を教える。  そして最後のステップ3では「自身がジョブコーチとして自社以外で教える」である。森下さんは、自社内で人に教えるという経験を経て、少しずつ自信がついてきた。もともと先生になりたかった思いがあり、人に教えるということにもっとチャレンジしたいと思ったという。  森下さんが実際にジョブコーチを担当した事例を紹介したい。  障がい者支援事業部の、企業に対して採用から定着までを支援するという取組みに、森下さんも参加した。それは、ある企業で新規に6人の障がいのある人を雇い入れ、清掃チームをつくるというものだった。森下さんは採用前の職場実習の段階から林さんに同行し、林さんが6人のスタッフに清掃業務を教える様子や、かかわり方をそばで見て学んだ。その後の半年間は森下さんが企業へ出向き、ジョブコーチとして6人のスタッフに指導を行った。  「障がい者が障がい者に教えるのは、むずかしいように思うかもしれませんが、当事者である自分だからこそわかることがあります。だから『自分にしかできないことがある』という想いで行っていました。堀江車輌電装の社風でもある『まずはやってみよう!』、そう思うことができました」と森下さんはいう。  半年後、ジョブコーチとしての役目を終え自社に戻るとき、6人のスタッフがお別れ会を開いてくれ、ネクタイを贈ってくれた。スタッフからは「いつも自分たちに寄り添ってくれたので、がんばることができた」といってもらえた。企業側からも「森下さんのおかげで新しい部門がしっかり立ち上がった」との評価ももらえた。  林さんも定期的にジョブコーチをしている森下さんの様子を見に行くと、そこには6人のスタッフがモチベーション高く清掃業務に取り組む姿があり、成功していることを実感したという。  森下さんは、自分がジョブコーチとして就くことが決まったときから、資格を取得するだけでなく、どんな風に教えたらよいのか、何を伝えたらよいのかを懸命に考えたという。  森下さんがジョブコーチとして伝えたこと、それは、「常に人から見られていることを意識して清掃を行うこと」だ。また「汚れにもストーリーがあること」、つまり、清掃をする場所の利用者が、どのような行動をするからどこが汚れやすいのかを想像して、清掃にあたる大切さを伝えた。  ごみや汚れと向き合っていると、ときにはネガティブな気持ちになることもある。だからこそ、どうやったら楽しく、モチベーション高く業務ができるだろうかということを考えてかかわった。「6人が活き活き働いていることは非常にうれしいです」と森下さんはいう。  「統合失調症を発症してからは苦しいことも多かったのですが、がんばればここまでできるようになるという経験から、同じ障がいで悩んでいる人にも希望を持ってほしいです。いまでは、自分にしかできないことを発揮し、自分の武器にしようと思うようになりました。この先自分がどこまでいけるのかわからないけれど、努力していきたいです」という。  森下さんに今後の夢を聞いた。  「ジョブコーチとしての仕事にもっともっとチャレンジしたいです。いまは清掃業務ですが、次は事務スキルもあげて、事務でも教えられるようになりたいと考えています」と話してくれた。  もう一人、Wさん(36歳)に話をうかがった。Wさんは、仮名で本誌のインタビューに応えてくれた。  Wさんは、堀江車輌電装の障がい者雇用第一号として、就労移行支援事業所経由で入社した。  当初は事務を希望していたが、その時期にちょうどビルメンテナンス事業部を立ち上げる段階であり、清掃業務を行う人員が足りなかったため、入社後1年くらいは清掃業務に従事したそうだ。  その後、事務業務を始めたが、最初は一人分の業務を切り出せず、実習生の面談や飛び込み営業など何でもやったという。「たいへんだと思うこともありましたが、働けることがありがたいと思っていました。いろいろなことにチャレンジするなかで、少しずつ自信もついてきました」とWさんはいう。  「自分は発達障がい(ADHD)で、人よりうまくできないという感覚や、ほかの人と自分が違うという感覚はありました。自分を肯定することができず、どんくさい自分、すぐに大事なことも忘れてしまう自分に戸惑い、不安になることも多くありました。大学を出て、精神保健福祉士を目ざし勉強を始めてから、『もしかして自分自身が発達障がいなのではないか』と気づいたのです。医療機関を受診し、発達障がいとの診断を受け、自分の生きづらさの理由や、常に抱えていた悩みの元がこれだったのかと納得することができました。当事者である自分が精神保健福祉士の資格を取ることや、有資格者として仕事をすることに適性があるのか迷いはありましたが、最後まであきらめず、資格を取得することができました」とWさんは話す。  現在の仕事は、障がい者支援事業部での就労支援プログラムの運営で、求職者とのオンライン模擬面接で面接官役を担当したり、リモート実習など訓練の場を提供し運営している。年間約300人の障がい当事者と会っている。  林さんは、Wさんについても森下さん同様、3ステップで成長を支援しているという。  ステップ1は「自分で担当業務をまわせること」。ステップ2で「実習生に担当業務を教えること」。ステップ3で「実習を主体的に一人でまわすことや面接の指導側にまわること」だ。  現在のステップ3に至るまで、林さんの教え方や振る舞いを覚え、見よう見まねで行うことで自信をつけた。  Wさんは「いまでも『これでよいのだろうか』と迷うこともありますが、いつもそばで林さんが見ていてくれる安心感があります。いまのところ仕事は続けられているので、自分には合っていると感じています。そしてこれからもやっていけそう、大丈夫だと思っています」と話してくれた。 最後に  今回のインタビューを通して、林さんが常に二人の存在を認め、フラットな関係性と安心安全な環境を整えていると感じた。  また、だからといって決して安定ではなく、わかりやすいステップを提示し、成長実感の持てるような経験の場を提供している。その際、まずは率先垂範で背中を見せてイメージをつかんでもらうものの、細かく指導するのではなく、その人らしさを最大限認め、任せている。だからこそ、森下さん、Wさんが自信を持って業務に取り組むことができるということを感じた。  自社の障がい者雇用の充実だけでなく、社会全体の障がい者雇用にかかわる課題に取り組んでいるのが堀江車輌電装だ。  インタビューの最後に林さんは伝えてくれた。  「自分自身は、障がい者と健常者の橋渡し役になりたいと思っています。そして、障がい者雇用にかかわる福祉業界・民間企業・教育機関の壁を少しずつ壊し、結びつきを深めながら、だれもが生きやすい社会、だれもがそれぞれに持つ強みを発揮できる社会の実現に貢献したい!」  このような熱い志を持つ林さんのこれからのチャレンジが、ますます楽しみである。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、平岡委員の意向により「障がい」としています ※グレーゾーン:障害特性がみられるが、確定診断には至らない状態のこと 図 3つのポイント 就職する為に必要な3つの要素 @健康・生活管理 A自己理解(障がいの見える化) B自己決定(選択) @健康・生活管理 A自己理解(障がいの見える化)←相互作用→B自己決定(選択) (資料提供:堀江車輌電装株式会社) 写真のキャプション ビルメンテナンス事業部、障がい者支援事業部部長の林一茂さん 堀江車輌電装は、鉄道車両の整備や改造を手がける(写真提供:堀江車輌電装株式会社) 健康管理・日常生活管理能力チェックシート(資料提供:堀江車輌電装株式会社) ビルメンテナンス事業部の森下慶祐さん コミュニティーづくりに活用されるチラシ(写真提供:堀江車輌電装株式会社) 森下さんは、清掃業務のみならず、ジョブコーチとしての役割も果たす 堀江車輌電装株式会社本社にてお話をうかがった 障がい者支援事業部で働くWさん Wさんは、オンライン模擬面接の面接官役も務める 【P26-27】 省庁だより 令和4年 障害者雇用状況の集計結果@ (令和4年6月1日) 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課  厚生労働省では、障害者雇用促進法に基づいて、障害者の雇用義務がある事業主などから、毎年6月1日現在の身体障害者、知的障害者および精神障害者の雇用状況について報告を求めています。  令和4年6月1日現在における同報告を集計し、その結果をとりまとめました。  その一部を抜粋して、今号と次号にて掲載します。 1 ポイント ■民間企業(法定雇用率2・3%) ○雇用障害者数61万3958.0人、実雇用率2.25%と、ともに過去最高を更新 ○法定雇用率達成企業の割合は48.3% ■公的機関(同2.6%、都道府県などの教育委員会は2.5%) ○国:雇用障害者数9703.0人 実雇用率2.85% ○都道府県:雇用障害者数1万409.0人 実雇用率2.86% ○市町村:雇用障害者数3万4535.5人 実雇用率2.57% ○教育委員会:雇用障害者数1万6501.0人 実雇用率2.27% ■独立行政法人など(同2.6%) ○雇用障害者数1万2420.5人、実雇用率2.72% 2 民間企業における雇用状況 ◎雇用されている障害者の数、実雇用率(第1表)  民間企業(43.5人以上規模の企業:法定雇用率2.3%)に雇用されている障害者の数は61万3958.0人で、19年連続で過去最高となった。  雇用者のうち、身体障害者は35万7767.5人、知的障害者は14万6426.0人、精神障害者は10万9764.5人と、知的障害者、精神障害者が前年より増加した。  実雇用率は、11年連続で過去最高の2.25%、法定雇用率達成企業の割合は48.3%であった。 ◎企業規模別の状況(第2表)  企業規模別にみると、雇用されている障害者の数は、43.5〜100人未満規模企業で6万6001.0人、100〜300人未満で11万7790.0人、300〜500人未満で5万2239.5人、500〜1000人未満で6万9375.5人、1000人以上で30万8552.0人と、すべての企業規模で前年より増加した。  実雇用率は、企業規模別にみると、43.5〜100人未満で1.84%、100〜300人未満で2.08%、300〜500人未満で2.11%、500〜1000人未満で2.26%、1000人以上で2.48%となった。なお、1000人以上規模企業が法定雇用率を上回っている。  法定雇用率達成企業の割合は、企業規模別にみると、43.5〜100人未満で45.8%、100〜300人未満で51.7%、300〜500人未満で43.9%、500〜1000人未満で47.2%、1000人以上で62.1%となり、すべての規模の区分で前年より増加した。 ※本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 【第1表】民間企業における雇用状況(法定雇用率2.3%) 区分 @企業数 A法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数 B障害者の数 A.重度身体障害者及び重度知的障害者 B.重度身体障害者及び重度知的障害者である短時間労働者 C.重度以外の身体障害者、知的障害者及び精神障害者(注4) D.重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間労働者(注5) E.計A×2+B+C+D×0.5 F.うち新規雇用分 C実雇用率E÷A×100 D法定雇用率達成企業の数 E法定雇用率達成企業の割合 民間企業 企業 107,691 (106,924) 人 27,281,606.5 (27,156,780.5) 人 125,433 (124,508) 人 17,969 (18,003) 人 317,201 (304,060) 人 55,844 (53,414) 人 613,958.0 (597,786.0) 人 58,855.0 (55,081.0) % 2.25 (2.20) 企業 52,007 (50,306) % 48.3 (47.0) 注1 A欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数」とは、常用労働者総数から除外率相当数(身体障害者、知的障害者及び精神障害者が就業することが困難であると認められる職種が相当の割合を占める業種について定められた率を乗じて得た数)を除いた労働者数である。 注2 BA欄の「重度身体障害者及び重度知的障害者」については法律上、1人を2人に相当するものとしており、E欄の計を算出するに当たりダブルカウントを行い、D欄の「重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間労働者」については法律上、1人を0.5人に相当するものとしており、E欄の計を算出するに当たり0.5カウントとしている。  ただし、精神障害者である短時間労働者であっても、以下の注4に該当するものについては、1人分とカウントしている。 注3 A、C欄は1週間の所定労働時間が30時間以上の労働者であり、B、D欄は1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の労働者である。 注4 C欄の精神障害者には、精神障害者である短時間労働者であって、次のいずれかに該当する者を含む。  @ 令和元年6月2日以降に採用された者であること。  A 令和元年6月2日より前に採用された者で、同日以後に精神障害者保健福祉手帳を取得した者であること。 注5 D欄の精神障害者である短時間労働者とは、精神障害者である短時間労働者のうち、注4に該当しない者である。 注6 F欄の「うち新規雇用分」は、令和3年6月2日から令和4年6月1日までの1年間に新規に雇い入れられた障害者数である。 注7 ( )内は令和3年6月1日現在の数値である。  なお、精神障害者は平成18年4月1日から実雇用率に算定されることとなった。 【第2表】民間企業における企業規模別の障害者の雇用状況 区分 @企業数 A法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数 B障害者の数 A.重度身体障害者及び重度知的障害者 B.重度身体障害者及び重度知的障害者である短時間労働者 C.重度以外の身体障害者、知的障害者及び精神障害者(注4) D.重度以外の身体障害者及び知的障害者並びに精神障害者である短時間労働者(注5) E.計A×2+B+C+D×0.5 F.うち新規雇用分 C実雇用率E÷A×100 D法定雇用率達成企業の数 E法定雇用率達成企業の割合 規模計 企業 107,691 (106,924) 人 27,281,606.5 (27,156,780.5) 人 125,433 (124,508) 人 17,969 (18,003) 人 317,201 (304,060) 人 55,844 (53,414) 人 613,958.0 (597,786.0) 人 58,855.0 (55,081.0) % 2.25 (2.20) 企業 52,007 (50,306) % 48.3 (47.0) 43.5〜100人未満 55,602 (54,876) 3,590,481.0 (3,546,392.0) 10,829 (10,710) 3,547 (3,429) 34,342 (33,384) 12,908 (12,044) 66,001.0 (64,255.0) 7,783.5 (7,260.5) 1.84 (1.81) 25,460 (24,787) 45.8 (45.2) 100〜300人未満 36,824 (36,803) 5,676,389.5 (5,682,382.5) 21,935 (21,842) 4,931 (5,001) 61,729 (59,370) 14,520 (13,700) 117,790.0 (114,905.0) 13,018.0 (11,858.0) 2.08 (2.02) 19,052 (18,614) 51.7 (50.6) 300〜500人未満 7,012 (6,983) 2,480,599.5 (2,478,229.0) 10,591 (10,524) 1,753 (1,874) 26,963 (26,228) 4,683 (5,015) 52,239.5 (51,657.5) 5,450.5 (5,026.0) 2.11 (2.08) 3,079 (2,911) 43.9 (41.7) 500〜1,000人未満 4,778 (4,810) 3,068,651.0 (3,092,099.0) 14,279 (14,224) 1,946 (2,003) 36,150 (34,823) 5,443 (5,293) 69,375.5 (67,920.5) 7,170.0 (6,436.5) 2.26 (2.20) 2,257 (2,063) 47.2 (42.9) 1,000人以上 3,475 (3,452) 12,465,485.5 (12,357,678.0) 67,799 (67,208) 5,792 (5,696) 158,017 (150,255) 18,290 (17,362) 308,552.0 (299,048.0) 25,433.0 (24,500.0) 2.48 (2.42) 2,159 (1,931) 62.1 (55.9) 注 第1表と同じ 【P28-29】 研究開発レポート 第30回 職業リハビリテーション研究・実践発表会Part1 特別講演「障害や難病等のある人々の多様な働き方の現在地〜超短時間での新しい働き方、テクノロジー活用、教育段階から労働社会への移行を例に〜」 東京大学先端科学技術研究センター 社会包摂システム分野・教授 近藤武夫氏  当機構では、毎年、職業リハビリテーションに関する研究成果を周知するとともに、参加者相互の意見交換、経験交流を生み出すための機会として、「職業リハビリテーション研究・実践発表会」を開催しています。第30回となる今年度は、新型コロナウイルス感染症の状況を勘案し、開催規模を縮小したうえで開催するとともに、その様子をリアルタイムで配信して視聴いただける形式をとりました。また、その内容を広く発信するために、昨年度に引き続き、当機構障害者職業総合センター(NIVR)ホームページへの動画掲載も行っています(★)。ここでは、東京大学先端科学技術研究センター社会包摂システム分野・教授の近藤(こんどう)武夫(たけお)氏による特別講演「障害や難病等のある人々の多様な働き方の現在地〜超短時間での新しい働き方、テクノロジー活用、教育段階から労働社会への移行を例に〜」をダイジェストで紹介します。 長時間働けない人が働きにくい日本の雇用システム  私の所属する東京大学先端科学技術研究センターでは、自治体や企業、地域と連携して、一般的な雇用や障害者雇用では働くことがむずかしい人々を企業での雇用につなげる「超短時間雇用プロジェクト」を行っています。  日本の総人口(※1)における障害のある人の割合は約7%(※2)となりますが、これは、18〜64歳の労働者人口(※3)に対する障害者の割合の0.7%(※4)とは大きな乖離があり、障害者の雇用政策は進んでいるものの、一般企業に就労している障害者は限られている状況がうかがえます。その背景には、「長時間働く必要がある」、「採用時に職務定義がない」という日本型雇用の通例が、障害のある人たちにとって、厚い壁となっているものだと考えられます。例えば、日本の一般企業では、健常者なら週に40時間、障害者雇用でも週に20〜30時間以上、年間12カ月を通じて働くことが求められます。そのため、障害のある人に限らず、子育て、介護、高齢などで長時間、長期間働けない人は雇用対象になりにくいという問題が生じています。また、一般的に、採用時には職務の定義がなく、暗黙のうちに「臨機応変になんでもできる人」が期待されます。その結果、特定分野で何かできることがあったとしても、障害や疾患などによってできないことがあると、労働社会から排除されやすい状況があります。 「超短時間雇用モデル」を実現する6つの要件  その状況を打開するために、産学連携で開発した雇用モデルが、「超短時間雇用モデル」です。次のような6つの要件を定義して、既存の障害者雇用の仕組みでは働くことのできない人たちを、一般企業での雇用につなげて力を発揮してもらっています。 【超短時間雇用モデルの要件@】 採用前に、職務内容を明確に定義しておく 【超短時間雇用モデルの要件A】 定義された特定の職務で、超短時間から働く  その企業の業務のなかで困っていることを具体的に洗い出し、それができる人を採用します。例えば、「この部分をだれかに手伝ってもらえれば、優先度の高いほかの業務にもっと集中できるのに」、「この時間に、この業務だけ手伝ってもらえれば助かるのに」といった内容に対し、その業務を遂行できる力のある人を結びつけて、週に数時間などの超短時間の勤務時間でも働くことを可能にする仕組みとしています。 【超短時間雇用モデルの要件B】  職務遂行に本質的に必要なこと以外は求めない職務を明確に定義し、それに直接関係のないことは求めません。一般的に必要だといわれる、挨拶や言葉づかい、身だしなみなどのビジネスマナーなどについても、その職務に必要がなければ求めません。緘黙(かんもく)があり、言葉を発せない人が活躍している企業もあります。 【超短時間雇用モデルの要件C】 同じ職場でともに働く  障害者雇用のための特別な場所をつくるのではなく、同僚として一緒に働いてもらうことを大切にしています。 【超短時間雇用モデルの要件D】 超短時間雇用を創出する地域システムがある  企業のなかに、超短時間の価値ある仕事を見出し、超短時間で働きたい人とマッチングする仕組みを自治体のなかに設けています。業務分析を行って業務内容や労働時間、給与などを定義し、定着支援や相談も行います。現在は、神奈川県川崎市、兵庫県神戸市ではすでに安定的に制度として運用されており、岐阜県岐阜市、福島県いわき市、東京都渋谷区、東京都港区でも制度としての運用と体制整備が始まっています。 【超短時間雇用モデルの要件E】 積算型雇用率を独自に算出する  障害者雇用率制度には当てはまりませんが、超短時間雇用の積算で、週30時間換算で何人分の雇用となるかを独自にカウントして、企業内や地域全体で、何人分相当の働き方を生み出せているのかを調べています。 超短時間雇用で働く人の事例  超短時間雇用モデルは、なんらかの理由で、働く機会から取り残された人を対象にしています。障害のある人の事例には、次のようなものがあります。 【コンテンツ制作の進捗管理と報告業務をになうCさんの事例】  難病により重度の肢体不自由があるCさんは、週に数時間、コンテンツ制作部署の制作業務の進捗管理と上長(Dさん)への報告業務を担当している。毎週行わなければならない仕事をCさんがになってくれるので、制作業務の管理職を担当するDさんは臨機応変な対応に時間を割くことが可能になり、非常に助かっている。 【テレビ番組のセットの組づけと片づけを担当するEさんの事例】  発達障害と精神障害のあるEさんは、テレビ番組制作会社の番組撮影現場で、セットの組づけと片づけを午前と夕方に各1時間ずつ担当している。プロデューサーのFさんは、本務である管理業務や優先度の高い業務に時間を割り当てられるようになり、助かっている。  これまで、150カ所以上の事業所にて、300人弱の人たちが超短時間雇用で働いています。その多くが中小企業や地域に根ざした商店で、地域によっては、就労継続支援B型のサービスを併用しつつ、超短時間で働くことを特例的に認めている自治体もあります。また、大企業では、ソフトバンク株式会社が超短時間雇用モデルでの障害者雇用に積極的に取り組んでおり、同社が事務局を担当する「ショートタイムワークアライアンス」には、200社以上の企業が参加するなど、関心の高まりを感じています。 教育現場から雇用の場へと広がるインクルーシブな取組み  2016年の障害者差別解消法施行前後から、国立大学を中心として、障害のある学生を支援する部署を設置し、専門性のある支援担当者(教職員)を配置するなどして、障害のある学生を組織的に支援しようとする取組みが広まっています。また、ITを使って、読むことや書くことなどの教育活動になじみにくかった子どもたちが教育を受ける機会が保障されるようになっています。  そういった学びを経た子どもたちが、社会に出る時代も、そう遠い未来の話ではありません。今後は、そのような人たちが伝統的な雇用の枠組みの壁に阻まれることなく、力を発揮できるような新しい仕組みが必要になると思います。コンピュータサイエンス領域や理工学系領域におけるニューロダイバーシティ雇用(発達障害のある人の能力に注目して、活躍の場を提供する)などの発展的な取組みが、ほかの領域に広がっていくことも期待をしています。障害のある人が、社会で活躍する人材となれるように支える仕組みづくりは、人口減少社会を迎えている私たちが、いままさに取り組むべき課題だといえるのではないでしょうか。 ●   ●   ●  次号では、「職業リハビリテーション研究・実践発表会」のパネルディスカッションT「『同僚』のちょっとした理解とサポートが力になる〜障害のある社員が働きやすい職場づくりについて〜」、パネルディスカッションU「大学等における発達障害学生への連携支援について」をダイジェストでお伝えします。 (※1)1億2577万人(総務省統計局「令和2年11月1日現在人口推計」より) (※2)937万人(厚生労働省「平成30年版厚生労働白書」より) (※3)約7,130万人(総務省統計局「平成28年10月1日現在人口推計」の18〜64歳人口から、講演者が労働白書を参考にして独自に算出した失業者数を除いた人数) (※4)49.6万人(従業員45.5名以上の企業で雇用されている障害者)(厚生労働省「労働政策審議会障害者雇用分科会 第83回資料」より) ★右記ホームページにて、特別講演の動画をご覧いただけます。https://www.nivr.jeed.go.jp/vr/30kaisai/kouen.html ◇お問合せ先:研究企画部 企画調整室(TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 写真のキャプション 特別講演の様子 東京大学先端科学技術研究センター社会包摂システム分野・教授 近藤武夫氏 【P30-31】 ニュースファイル 国の動き 国会 改正障害者総合支援法等が成立  障害者の地域生活や就労の支援を強化する障害者総合支援法や精神保健福祉法、障害者雇用促進法などの改正法が参院本会議で可決、成立した。多くが2024年4月に施行される。  グループホームの支援内容として一人暮らしを希望する利用者への支援や退居後の相談などを明確化するほか、本人の適性や希望に合わせて就労先を選べるようにする「就労選択支援」の創設などが盛り込まれている。  また労働時間が週10時間以上20時間未満の重度身体障害者、重度知的障害者および精神障害者については就労機会の拡大のため実雇用率において算定できるようにする。障害者雇用に関する附帯決議では、事業主が、単に雇用率の達成のみを目的として雇用主に代わって障害者に職場や業務を提供する、いわゆる障害者雇用代行ビジネスを利用することがないよう、事業主への周知、指導などの措置を検討することを求めている。 内閣府 バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者  内閣府は、バリアフリー・ユニバーサルデザインの推進について顕著な功績のあった者を顕彰する「令和4年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者」を発表した。  顕彰されたのは次の5法人。 〇内閣総理大臣表彰:戦時中も含め休刊することなく視覚障害者へ情報提供を続け、2022(令和4)年に創刊100周年となった「毎日新聞社点字毎日」(大阪府大阪市) 〇内閣府特命担当大臣表彰優良賞:聴覚障害者らが胃部]線検査を受ける際、アニメーションなどをモニターに表示して指示を伝えられるシステムを開発した「株式会社アイエスゲート」(東京都墨田区)/障害福祉サービス事業所としてSDGs推進などを視野に多様な地域ネットワークで利用者の雇用機会拡大などを図っている「NPO法人わくわーく」(福岡県北九州市) 〇内閣府特命担当大臣奨励賞:車いす使用者用駐車施設の不正利用防止策として、2004(平成16)年から全国で初めて駐車施設の全面青色塗装を行っている「全国脊髄損傷者連合会山形県支部」(山形県山形市)/知的障害者によるアート作品を徳島県立近代美術館など施設外に出展、学生とのワークショップや障害の有無にかかわらず国内外から参加できるオンラインアート展示会などを企画してきた「社会福祉法人悠林舎(ゆうりんしゃ)障害者支援施設シーズ」(徳島県阿南(あなん)市) 地方の動き 長崎 知的障害の受刑者支援モデル事業  長崎県と諫早(いさはや)市および長崎刑務所(諫早市)は、2022(令和4)年度から長崎刑務所で実施している知的障害受刑者処遇・支援モデル事業について、包括的に連携する協定を結んだ。また同事業の効果検証について連携して取り組むため、日本福祉大学(愛知県)と法務省矯正局が協定を結んだ。  矯正局の調査によると、全国の知的障害受刑者は1300人超で、うち療育手帳の取得者が約3割と判明。必要な支援がないまま短期間で再犯を反復する傾向があるとされる。このため刑事施設で全国唯一の「社会復帰支援部門」が設置されている長崎刑務所では、2022年10月から九州各地の刑務所などから知的障害やその可能性がある受刑者を集め、特性に応じた作業や訓練を進めたり、出所後の支援に必要な療育手帳の取得をうながしたりするなどの支援モデル事業を行っている。事業は「社会福祉法人南高愛隣会」(諫早市)と連携し、より専門的で長期的な支援を目ざす。 働く 千葉 障害者の雇用実習先マップを無料公開  千葉県中小企業家同友会(千葉市)の「障がい者雇用と多様な働き方を考える委員会」は、障害者の職場見学や実習を受け入れる企業をまとめた「障がい者の職場見学・職場実習受入マップ」を作成し、ウェブ上で無料公開を始めた。  同友会のホームページ上につくられた専用ページを開くと、地図に対象企業リストや所在地の印が表示される。その印をクリックすると、「会社名」や「事業内容」のほか、「実習で受け入れ可能な職種」、「主な仕事の内容」、「受け入れ可能な障がいの種別」、「自社のアピールポイント」などが列挙される。同友会会員でなくても原則千葉県内に拠点があれば、マップ掲載を無料で受けつける。すでに計40社以上が掲載されている。 本紹介 『統合失調症の人と働くために知っておきたいこと』  立正大学特任准教授で、障害福祉サービス事業所を運営する「一般社団法人キャリカ」(埼玉県)の代表も務める松岡(まつおか)広樹(ひろき)さんが、『統合失調症の人と働くために知っておきたいこと』(かざひの文庫)を出版した。  松岡さんは20年間ソーシャルワーカーとして障害者の就労生活サポート業務に従事。現場での経験やデータを読み解きながら、精神障害のある人の「幸せな働き方」について解説、当事者との対話のなかから希望を生み出し力づけられる言葉を見つけ出し、上司や同僚として一緒に満足して働き続けられる秘訣をアドバイスする。四六判、224ページ、1650円(税込)。 作品大募集! あなたの力作がポスターになる! 令和5年度 「絵画コンテスト働くすがた〜今そして未来〜」 「写真コンテスト職場で輝く障害者〜今その瞬間〜」 募集期間(応募作品受付期間) 令和5年3月1日(水)〜6月15日(木)【締切・消印有効】 児童・生徒をはじめ社会人・一般の方もご応募いただけます。 絵画コンテストの応募は障害のある方が対象です。 写真コンテストの応募は障害の有無を問いません。 多くのみなさまからのご応募をお待ちしています。 詳しくはホームページの募集要項をご覧ください。 JEED 絵画写真 検索 <過去のポスターや入賞作品などもご覧いただけます> 主催:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 シンボルキャラクター “ピクチャノサウルス” ミニコラム 第22回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は平岡委員が執筆しています。  ご一読ください。 積極的に知ってもらい、交わることへ一歩ふみ出そう! サントリービジネスシステム株式会社課長 平岡典子  私の職場では、障がいのある社員が他部署の一般社員に仕事を教えながら一緒に働くという体験を広げている。これまでに200人を超える社員に加え、役員や社長までも体験した。  この活動の体験者は何を感じ、何を学ぶのか。  私たちのメンバーは活き活きとした表情で、自信を持って業務に取り組む。依頼された仕事に全力で向かう。仲間を思いやり、声をかけ合う。元気な挨拶で職場全体を明るくする。そんな姿に触れ、体験者たちは心を動かされる。「障がいがあるということは、普通より劣っている」という偏見や、「自分たちとは違う世界の人たち」というとらえ方に変化が起こる。  「みんなの仕事ぶりに驚いた」、「こんなことまでできるとは思わなかった」、「話してみると自分と趣味が同じという共通点があった。また会ったら話してみようと思う」など、驚きや感激を体験し、「ぜひ、社員みんなに体験してもらいたい!」と口々にいう。  私たちのメンバーは、「社員のみなさんにしっかりと仕事を教えることができた。コミュニケーションが取れた」と自信を持つことができ、成長にもつながっている。  この取組みを試みた当初は不安もあった。障がいのある人とない人が交わることで、よい影響を与え合うことができるのだろうか。でも実際に始めてみると、その不安はすぐに吹き飛んだ。  障がいについて、もっとオープンに、たくさんの人たちに知ってもらうこと、交わってもらうことに、勇気を持ってふみ出そう。そうすることが、ともに生きる社会づくりにつながっていく。  さあ、一歩ふみ出そう。その先にきっと、だれもが生きやすい、輝く未来が待っている。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、平岡委員の意向により「障がい」としています 【P32】 掲示板 読者の声 ともに歩む 介護付きホーム ユウユウハウス下横野・中島 統括園長 長瀧(ながたき)薫(かおる)  知的障がいのある彼は、今日も片道8kmの道を、自転車で通勤して来ます。支援学校を卒業と同時に清掃職として常勤パート雇用しました。採用以来この4年間、無遅刻無欠勤を更新しています。いまでは、当介護付きホームにとって無くてはならない存在です。なぜなら、施設の一番の品質は「きれいであること」、「清潔であること」であると私は思っており、その品質を維持しているのが、ほかならぬ彼なのですから。  『働く広場』は、全国の障害者雇用の事例や調査結果、法令等がわかりやすく書かれていて、とても助かります。特に「エッセイ」の記事が楽しみです。さまざまな方が、その経験と思いを記されていてとても参考になります。また、『働く広場』は読み進めていくと、全国の雇用事業所と連携できているような(私だけの思いかも知れませんが)気持ちになり、元気をもらっています。これからも、雇用の促進のため誌面を充実していただきたいです。 メールマガジン好評配信中! 読者アンケートにご協力をお願いします! 公式ツイッターはこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_hiroba 次号予告 ●私のひとこと  約40年以上手話講座の講師や手話通訳を行い、ろう者の方々の支援に取り組んでいる手話通訳士の谷千春さんに、ともに働くうえでの留意点などについてご執筆いただきます。 ●職場ルポ  津田駒工業株式会社の特例子会社、ふぁみーゆツダコマ株式会社(石川県)を訪問。ジョブローテーションを行い、個々のスキル向上を目ざす取組みなどについて取材しました。 ●グラビア  手づくりオーダー家具専門店、株式会社山ノ木(和歌山県)を取材。職人として活躍する聴覚障害のある人たちの活躍を紹介します。 ●編集委員が行く  八重田淳編集委員が、横浜国立大学教育学部附属特別支援学校(神奈川県)を訪問。知的障害のある学生の就労に向けた、チームワーク教育の取組みについてお伝えします。 『働く広場』読者のみなさまへ  2023年5月号は、大型連休の関係から、お手元への到着が通常よりも数日遅れることが見込まれます。ご不便をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。ご不明の点は編集部(企画部情報公開広報課、電話:043−213−6216)までおたずねください。 本誌購入方法 定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。 1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申し込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAXでのお申し込み  株式会社広済堂ネクストまでご連絡ください。  TEL 03-5484-8821  FAX 03-5484-8822 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 岡山障害者文化芸術協会 代表理事 阪本文雄 トヨタループス株式会社 取締役 清水康史 武庫川女子大学 学生サポート室専門委員 諏訪田克彦 あきる野市障がい者就労・生活支援センターあすく センター長 原 智彦 サントリービジネスシステム株式会社 課長 平岡典子 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学大学院 准教授 八重田淳 常磐大学 准教授 若林 功 あなたの原稿をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 飯田 剛 編集人−−企画部情報公開広報課長 中上英二 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6216(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●発売所−−株式会社広済堂ネクスト 〒105−8318 東京都港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03−5484−8821 FAX 03−5484−8822 4月号 定価141円(本体129円+税)送料別 令和5年3月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 【P33】 2023年度(令和5年度) 職業リハビリテーションに関する研修のご案内  当機構では、医療・福祉などの関係機関で障害のある方の就業支援を担当する方を対象に、職業リハビリテーションに関する知識や技術の習得と資質の向上を図るための研修を実施しています。受講料は無料です。  各研修の詳細・お申込み先などは、当機構のホームページ(https://www.jeed.go.jp)のサイト内検索(各研修名で検索)でご確認ください。みなさまの受講を心よりお待ちしています。 研修 日程 場所 就業支援担当者の方への研修 就業支援基礎研修 【対象】就業支援を担当する方 【内容】就業支援のプロセス、障害特性と職業的課題、障害者雇用施策、ケーススタディなど 各地域障害者職業センターのホームページなどで別途ご案内いたします。 ◯◯障害者職業センター 検索 ※◯◯には都道府県名を入力 各地域障害者職業センターなど 就業支援実践研修 精神障害・発達障害・高次脳機能障害コース 【対象】就業支援の実務経験2年以上の方 【内容】障害別のアセスメント、支援ツールの活用方法、ケーススタディなど 令和5年10月以降に全国14エリアで開催します。 就業支援実践研修のホームページなどで別途ご案内いたします。 全国14エリアの地域障害者職業センターなど 就業支援スキル向上研修 精神障害・発達障害・高次脳機能障害コース 【対象】就業支援の実務経験3年以上の方 【内容】障害別の支援技法、職リハに関する最新情報、ケーススタディなど 令和6年1月31日(水)〜2月2日(金) 未定 就業支援課題別セミナー 【対象】障害者の就労や雇用に関する支援を担当している方 【内容】令和5年度のテーマは決まり次第、ホームページなどで別途ご案内いたします 令和5年12月6日(水) オンライン形式 職場適応援助者(ジョブコーチ)に関する研修 職場適応援助者養成研修 【対象】訪問型・企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)としての援助を行う予定の方など 【内容】ジョブコーチの役割、作業指導の実際、ケースから学ぶジョブコーチ支援の実際、職場における雇用管理の実際、支援記録の作成など ※集合研修4日+地域障害者職業センターでの実技研修4日程度を全て受講する必要があります 地域区分 集合研修(日程、開催場所など) 実技研修 東日本:北海道、東北、関東甲信越、静岡、富山 西日本:東海(静岡を除く)、北陸(富山を除く)、近畿、中国、四国、九州、沖縄 4月期 ※受付終了 西日本対象 令和5年4月18日(火)〜4月21日(金) 大阪府大阪市 集合研修終了後に、各地域障害者職業センターが実施。 東日本対象 令和5年4月18日(火)〜4月21日(金) 千葉県千葉市 6月期 西日本対象 令和5年6月13日(火)〜6月16日(金) 大阪府大阪市 東日本対象 令和5年6月20日(火)〜6月23日(金) 千葉県千葉市 8月期 全国対象 オンライン形式と集合形式の両方の受講が必須 オンライン形式 令和5年8月23日(水)〜8月24日(木) 集合形式 令和5年8月31日(木)〜9月1日(金) 千葉県千葉市 9月期 西日本対象 令和5年9月26日(火)〜9月29日(金) 大阪府大阪市 10月期 東日本対象 令和5年10月3日(火)〜10月6日(金) 千葉県千葉市 12月期 西日本対象 令和5年12月12日(火)〜12月15日(金) 大阪府大阪市 東日本対象 令和5年12月19日(火)〜12月22日(金) 千葉県千葉市 2月期 全国対象 オンライン形式と集合形式の両方の受講が必須 オンライン形式 令和6年2月14日(水)〜2月15日(木) 集合形式 令和6年2月21日(水)〜2月22日(木) 千葉県千葉市 職場適応援助者支援スキル向上研修 【対象】ジョブコーチとして1年以上の実務経験のある訪問型・企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の方 【内容】精神・発達障害者のアセスメントや支援方法、アンガーコントロール支援、意見交換、ケーススタディなど 第1回 全国対象 令和5年5月30日(火)〜6月2日(金) 千葉県千葉市 第2回 全国対象 令和5年7月4日(火)〜7月7日(金) 大阪府大阪市 第3回 全国対象 令和6年1月16日(火)〜1月19日(金) オンライン形式 各種研修の詳細はこちら https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/supporter04.html <お問合せ先> 職業リハビリテーション部 人材育成企画課 TEL:043-297-9095 E-mail:stgrp@jeed.go.jp 【裏表紙】 4月号 令和5年3月25日発行 通巻546号 毎月1回25日発行 定価141円(本体129円+税)