【表紙】 令和5年8月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第551号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2023/9 No.551 職場ルポ カーディーラーの現場を支える戦力として 秋田ダイハツ販売株式会社(秋田県) グラビア 令和5年度障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテスト入賞作品 「絵画コンテスト 働くすがた〜今そして未来〜」 「写真コンテスト 職場で輝く障害者〜今その瞬間〜」 編集委員が行く 必要とされている仕事でより多くの障害者の就業機会を創る 株式会社F&LCサポート、株式会社あきんどスシロー スシロー杭全店、スシロー難波アムザ店(大阪府) 私のひとこと 福祉事業所の自主商品開発支援のあり方 〜インクルーシブデザイン・コラボレーションの効果〜 東洋大学 福祉社会デザイン学部 人間環境デザイン学科 教授 池田千登勢さん 「本屋の裏方」長野県・長澤(ながさわ)矯海(いさみ) さん 9月は「障害者雇用支援月間」です 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons withD isabilities and Job Seekers 9月号 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2023年9月号 NO.551 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 私のひとこと 2 福祉事業所の自主商品開発支援のあり方 〜インクルーシブデザイン・コラボレーションの効果〜 東洋大学 福祉社会デザイン学部 人間環境デザイン学科 教授 池田千登勢さん 職場ルポ 4 カーディーラーの現場を支える戦力として 秋田ダイハツ販売株式会社(秋田県) 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 クローズアップ 10 障害者雇用担当者のモチベーションアップ 第2回 〜障害者雇用担当者座談会(前編)〜 JEEDインフォメーション 12 ご活用ください!障害者の職業訓練実践マニュアル/障害者職業訓練推進交流プラザのご案内 グラビア 15 33 令和5年度障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテスト入賞作品 「絵画コンテスト 働くすがた〜今そして未来〜」 「写真コンテスト 職場で輝く障害者〜今その瞬間〜」 エッセイ 19 相談員の苦悩と心得 第1回 日本相談支援専門員協会 顧問 福岡寿 編集委員が行く 20 必要とされている仕事でより多くの障害者の就業機会を創る 株式会社F&LCサポート、株式会社あきんどスシロー スシロー杭全店、スシロー難波アムザ店(大阪府) 編集委員 大塚由紀子 省庁だより 26 特別支援教育における就労支援の取組 文部科学省初等中等教育局 特別支援教育課 研究開発レポート 28 注意障害に対する学習カリキュラムの開発 障害者職業総合センター職業センター ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 2023(令和5)年度就業支援課題別セミナーのご案内 ※「心のアート」は休載します 表紙絵の説明 「中学部2年生のときに書店で職場体験をしました。書店員の作業は、苦労もあるけれど楽しい仕事だと思い、自分ががんばって取り組んでいる様子を表現しました。段ボールの影や、顔の表情を描くのがむずかしかったけれど、満足できました。受賞するとは思っていなかったので、びっくりしました。うれしかったです」 (令和4年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 中学校の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。 (https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html) 【P2-3】 私のひとこと 福祉事業所の自主商品開発支援のあり方 〜インクルーシブデザイン・コラボレーションの効果〜 東洋大学福祉社会デザイン学部人間環境デザイン学科教授 池田千登勢  全国の多くの福祉事業所では、さまざまな「自主商品(授産製品)」を開発し、販売しています。手の込んだ細工が施された豪華な伝統芸能の衣装(※1)、障害のある人の感性により生み出されるアート作品(※2)、予約で毎年売り切れる手染めの鯉のぼり(※3)など、魅力的な自主商品をご存じの方も多いと思います。  しかし、福祉の専門家である職員と障害のある利用者が中心の福祉事業所で、優れた自主商品を創るのは、なかなかたいへんなことです。そこで都道府県を中心とする地方自治体では、デザイナーや技術者の派遣などによる自主商品開発支援を毎年行ってきました。貴重な支援機会を最大限に活かすため、障害者・支援者・外部の専門家など多様な人材が協力し合う、効果的なインクルーシブデザイン・コラボレーションの要点についてご紹介したいと思います。 アクティブラーニング型コラボレーション  アクティブラーニングはさまざまな教育現場で効果を上げている学習手法で、受動的な講義ではなくディスカッションやアイデア展開、発表などを通して学生が能動的に学びを得ることが特徴です。この手法を福祉事業の商品開発支援プロセスに応用すると、長期的に商品開発力が向上する効果がありました(※4)。  過去の支援では、プロのデザイナーなどの専門家が商品やパッケージデザインを提供することが多く、効果はあるものの短期間、単一商品で終わることも多々ありました。  しかし近年では、あえてプロのデザイナーや技術者を介さず、支援者は商品開発の適切なタイミングとヒントだけを示し、ときにはディスカッションのなかから福祉事業所自身が課題を見つけ、アイデアを発案し、試行錯誤しながら学んでいくアクティブラーニングと同じプロセスを実践して、多くの福祉事業所の商品開発力を継続的に向上させているコラボレーションプロジェクトもあります(※5)。 現場発想型コラボレーション  現場発想型コラボレーションは、専門家が福祉事業所の現場で環境を熟知し、利用者の特性を理解し、職員と相談しながら発想するプロセスです。  これまでのアイデア提供型の商品開発支援では、大規模な予算を使いプロのデザイナーなどの専門家がさまざまな商品を考案しても、福祉事業所は制作することが技術的に困難で、結果的に不良品が大量に発生したり、材料経費や手間がかかりすぎて生産中止になったりする事例もありました。  現場発想型のコラボレーションでは、専門家が現場で十分な時間を使って、職員や利用者とかかわりながら発想します。この結果、利用者のこだわりや感性を活かし、一般企業に真似ができない商品を創る(※6)、これまで廃棄されていた材料を活用して個性的で魅力的な商品開発に結びつける(※7)、障害があっても作業が正確にできる新しい治具(じぐ)も一緒に開発して商品の完成度を上げる(※8)など、無理なくつくれて自主商品としての魅力・強みを備えた商品開発が実現しています。 販売現場主導型コラボレーション  「よい商品であっても必ず売れるわけではない」といわれています。販売現場主導型コラボレーションは、どのような市場で、どうすれば、いつ、だれに、何が売れるのか、適切な販売価格、販売方法は何か、などを熟知した販売現場のプロである「売れる商品の目利き」が支援活動に参加し、さまざまなアイデアを吟味して取捨選択・具体的な助言で修正し、「売れる商品」へと導く役割をします。  新商品開発支援においては、売れる商品の目利きができる人材はデザイナーや技術者以上に不可欠な存在であり、販売現場と密に連携するコラボレーションを成功させています(※9)(※10)。 プロジェクトコーディネーターの役割  コラボレーションの効果を最大にするためには、専門家と福祉の現場をつなぐプロジェクトコーディネーターの役割(※11)が重要です。プロジェクトコーディネーターは、コラボレーション活動にかかわる複数の異なる組織や専門家の間のコミュニケーションをサポートするだけでなく、各々が対等の関係になるように、意思決定のルールやフラットな情報共有の仕組みの整備も行います。支援者と福祉の現場に上下関係をつくらないことで、支援を受ける側も受動的にならず、全員の力を最大限発揮することが可能になります。 全員に主体感がある=全員が創造性を発揮できるコラボレーション  全員が主体感を持てるコラボレーションとは、具体的には「メンバー全員がそれぞれの創造性を発揮できる」コラボレーションです。障害のある利用者も含め、多様なメンバー全員が主体感を持って取り組むためには、例えば、「どの段階でも意見やアイデアを出す機会がある」、「現場で各自が工夫をする余地がある」、「全員の特性やスキルを活かせる」、「自分の行動がプロジェクトに影響を与えていることを感じられる」などのコラボレーションプロセスを整えることが重要です。全員がよりよい変化を生み出すチャンスがあるコラボレーションということでもあります。  多様な人材がどのようにコラボレーションすれば長期的によい成果が得られるのかという視点は、社員の多様化が進む一般企業においても重要な課題です。福祉事業の現場で効果的なインクルーシブデザイン・コラボレーションのプロセスと共通する要素も多いのではないでしょうか。 ※1 島根県 ワークくわの木金城第2事業所:石見神楽(いわみかぐら)面・衣装 ※2 滋賀県 やまなみ工房:アート作品・アート作品のデザインを活かした商品 ※3 東京都 クラフト工房La Mano:手染めの鯉のぼり ※4 北海道 北海道産授産製品磨き上げ支援事業:複数の事業所同士で学び合い大きな成果 ※5 東京都 KURUMIRU−自主製品魅力発信プロジェクト−:教えない・指示しない・自ら考えさせる 徹底したアクティブラーニング型支援の実践 ※6 沖縄県 そてつの森(ドロップス):自閉症の人のこだわりと集中力を活かした微細な透明樹脂盛り技術で実現した複雑な形状のドロップスステッカー ※7 埼玉県 すいーつばたけ:廃棄していた色塗り作業の下敷き木材を活用したカラフルなアニマルブローチ ※8 神奈川県 横浜光センター:治具を開発し、中心を合わせてフェルトボールを積み重ねられるようにして制作しているディフューザー ※9 equaltoプロジェクト:アッシュコンセプトが運営するプロダクトデザインショップKONCENTとの連携で売れる商品づくりに成功 ※10 愛媛県 障がい者授産製品ブラッシュアップ事業:販売戦略を軸に商品のブランド化を実施して成功 ※11 テミルプロジェクト・equaltoプロジェクトにおけるNPO法人ディーセントワーク・ラボの役割 池田 千登勢 (いけだ ちとせ)  東洋大学福祉社会デザイン学部人間環境デザイン学科教授。博士(芸術工学)。  プロダクトデザイナーとしてNECグループの情報機器の先行開発を担当。ロンドン大学にて経営学修士(MBA)取得後、情報機器のアクセシビリティー推進、JIS X 8341制定にたずさわる。2006(平成18)年より東洋大学専任教員。プロダクトデザイン・ユニバーサルデザインを専門とする。おもな研究テーマは障害者就労継続支援B型事業所の授産製品のデザイン開発支援手法と実践、認知症患者を対象とした色彩を用いたアートセラピー手法など。著書に『インクルーシブデザイン・コラボレーションの可能性−就労継続支援B型事業所の商品開発支援のあり方−』(風間書房、2022年)。 【P4-9】 職場ルポ カーディーラーの現場を支える戦力として ―秋田ダイハツ販売株式会社(秋田県)― 秋田県内10カ所で展開するカーディーラーでは、特別支援学校と連携しながら職場実習を経て採用した人材を、現場を支える戦力として育てている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ 秋田ダイハツ販売株式会社 〒010-1415 秋田県秋田市御所野湯本(ごしょのゆもと)3-1-7 TEL 018-889-8700 FAX 018-889-8711 秋田ダイハツ販売株式会社 本荘(ほんじょう)店 〒015-0013 秋田県由利本荘(ゆりほんじょう)市石脇字田尻野30-20 TEL 0184-22-3027 FAX 0184-23-3370 Keyword:自動車小売業、身体障害、知的障害、精神障害、特別支援学校、職場実習、整備士、キャリアアップ POINT 1 各部署の要望を受けてから、業務内容に合わせた採用を進める 2 特別支援学校と連携し、数回の職場実習で互いのマッチングを重視 3 整備士や部品士などの資格取得に向けた現場支援も 10拠点で自動車の販売や整備  1949(昭和24)年創業の「秋田ダイハツ販売株式会社」(以下、「秋田ダイハツ」)は、ダイハツ工業株式会社のカーディーラーとして秋田県内に10カ所の販売拠点がある。車の整備などを含め地域に根ざしたアフターフォローを展開し、軽自動車の販売台数は18年連続県内1位(2022〈令和4〉年現在)を誇るという。  近年は、特別支援学校などと連携した障害者雇用にも力を入れてきた。いまでは各拠点・部署で、障害のある社員は部品の仕分け・配送から洗車や整備補助まで、自動車販売にかかわる多くの業務に従事している。従業員数274人のうち障害のある社員が16人(身体障害7人、知的障害7人、精神障害2人)、障害者雇用率は5.84%(2023年5月末現在)だという。  秋田ダイハツは2021年、「障害者の雇用の促進及び雇用の安定に関する取組の実施状況などが優良な中小事業主」(厚生労働省)として、「もにす認定」を県内で初めて受けた。そこで今回、これまでの経緯と取組みを取材させてもらった。 整備士不足を背景に  秋田ダイハツが本格的に障害者雇用に取り組み始めた背景には、地方を中心に深刻化しつつある人材不足もあったようだ。管理部部長の仲澤(なかざわ)浩美(ひろみ)さんは、「特に自動車整備士が足りません。県内出身者や県内の専門学校に通う二級整備士の国家資格保持者が減っていて、新卒者を同業他社と取りあうような状況です」と説明する。  そんななか秋田ダイハツは2012(平成24)年、秋田市内の特別支援学校から依頼され、授業の一環である就業体験の実習を受け入れた。実習生1人を受け入れた現場の社員たちから、「とてもがんばってくれた」と好感触の声があがったため、翌年本人を採用したという。  これを機に、県内各地の特別支援学校と連携しながら、採用を見すえた職場実習に取り組むようになった。  具体的には、管理部は各店舗・部署から増員の要望を受けると、その職場に近い特別支援学校に、おもな業務内容などを伝える。学校側は業務への適性や本人の希望などを考慮しながら、実習生を推薦するという流れだ。  生徒によっては在学中の3年間に、1回2週間の職場実習を数回経験し、大まかな仕事内容や職場の人間関係に慣れてもらう。受入れ側の社員たちも、本人の人となりや、ある程度の職務能力がわかり、お互いに「一緒に働いていけそうだ」と思えるようになればマッチングの成功だ。  「採用の可否は、現場の声を最優先しています。『自分たちも選考の一端をになった』という意識を持ってもらうことで、入社後の指導や育成にも責任感を持って力を入れてくれます」と説明する仲澤さん。  整備士一人ひとりの仕事量が増えるなか、これまで彼らが担当してきた洗車や拭き上げ作業、車内清掃などの資格がなくてもできる業務を行ってもらうことで、現場の大きな負担軽減につながることを実感しているという。  管理部総務グループの係長として、採用担当を務める佐藤(さとう)大地(だいち)さんによると、「入社してくる実習生たちに共通しているのは、やはり“車が好き”ということですね。障害者雇用の採用条件には自動車免許の取得はありませんが、入社後にほとんどの人が取得していますし、いつの間にか車も持っています」とのことだ。契約社員として働く彼らの平均賃金は、秋田県内の自動車小売業の特定最低賃金(※1)よりも高い設定だそうだ。 一人ひとりに沿った支援  職場実習である程度の人間関係ができるとはいえ、本人の特性などについては入社後に知ることも少なくない。人によっては現場の対応が混乱することもある。そこで秋田ダイハツでは、入社直前の3月ごろ、本人をよく知る母校の先生を職場に招き、受入れ先の社員らに向けて、本人の行動特性や、一緒に働くうえでの対応の工夫などを教えてもらうそうだ。  佐藤さんも、参考になった先生からのアドバイスがいくつもあるという。  「例えば、ある生徒は大勢の人がいる前で注意をしても冗談だと受け取ることがあると聞いていました。そこで職場では、やってはいけないことや直してほしいことがあるときは、別室に呼んで一対一で話すことで、しっかり理解してもらっています」  またチック症のある生徒を採用したときは、実習中は症状がわからなかったが、事前に学校の先生から「疲れたときなどに症状が出るかもしれない」と伝えられていた。入社後しばらくして症状が出たが、だれも驚くことなく、適度な休憩をとってもらうなどスムーズに対応できたそうだ。  毎年行われている2週間程度の新入社員研修には、障害のある社員も一緒に参加している。遠方から来る社員たちが宿泊施設に滞在する際、簡単な事前説明をしたうえで同室になってもらっているそうだが、佐藤さんによると「予想以上にうまくフォローしてくれて、よい人間関係がつくれています」という。  日ごろは佐藤さん自身も県内各地を巡回しながら、個別に声をかけて様子を確認している。なかにはSNSを通じて気軽に近況報告や相談のやり取りをしている社員もいるそうだ。「私たちは職場全体として支援のための制度や形を整えているわけではありませんが、一人ひとりの事情に沿った支援や工夫、必要に応じた対応をしてきました」と佐藤さん。  社内には障害者職業生活相談員の資格を持った社員が4人いるが、場合によっては当機構(JEED)の秋田障害者職業センターや、障害者就業・生活支援センターにも相談し、職場適応援助者(ジョブコーチ)の派遣を依頼したり、家族にも協力してもらったりしながら試行錯誤することもあるそうだ。佐藤さんが話す。  「精神障害のある男性社員は、入社時から頼りにしていた上司が異動したことで気持ちが不安定になり、職場に来られなくなってしまいました。このときは支援機関や家族のみなさんにも協力してもらい、『○○さん(元上司)がいなくても大丈夫』ということを納得してもらうまで、時間をかけて話し合い、無事に復帰できました」 整備士を目ざす  実際に現場で働く様子を見せてもらった。訪れたのは、秋田市から車で1時間ほど南下した由利本荘(ゆりほんじょう)市にある秋田ダイハツの本荘店だ。ここで、2022年入社の木村(きむら)和希(かずき)さん(19歳)が洗車担当として働いている。  木村さんは特別支援学校の3年次に、2週間の実習を2回受けた。もともと体を動かす仕事がしたかったという木村さんは、1・2年次には食品製造工場や大手スーパーの職場実習にも参加したが、「片方の耳を手術している影響で、工場の機械音やスーパー店舗内の雑音に囲まれながら指示の声を聴き取るのに苦労しました」とふり返る。本荘店の自動車整備場もときおり大きな音はするが、仕事への影響は少なかったそうだ。ただし、一つのことに集中しすぎると業務用インカムの声などを聞き逃すため、気をつけているという。  実習のときから任されている洗車は、本荘店に機械式の洗車場がないことから、最初から最後まで手作業だ。「先輩に作業のコツなどを教えてもらいながら取り組んでいます。車の汚れが目に見えてきれいになるので、達成感もありますね」と木村さん。手作業ならではのていねいな仕上がりは、お客さんにも喜ばれているそうだ。  1日に15台前後の洗車をこなす木村さんにとって、目下の課題は、洗車作業のスピードアップと正確さの追求だという。「昨夏に経験したのですが、暑い日はコーティング剤の乾きも早く、拭き上げが間に合わず跡が残ってしまってやり直しました」と明かす。一方で、洗車のほかに車内清掃やタイヤ交換の準備などもするようになり、「いまはしっかり仕事ができるよう努力するだけですが、将来は、整備士の国家資格を取得できたらと思っています」と話してくれた。  木村さんと同じ職場で働く二級整備士の佐藤(さとう)秀哉(ひでや)さんは、ダイハツ北海道・東北ブロックのサービスロールプレイング大会で準優勝に輝く実力者で、木村さんのよきお手本だ。「木村さんは実習のときから元気な挨拶ができて、返事も受け答えもしっかりしていたことがよかったと思います。洗車については、何といってもお客さんのもとに納車する自動車ですから、時間よりも出来映えを大事にするようアドバイスしました」と語る。続けて、佐藤さんは「いまでは、次にすべき作業を考えて自主的に行動するなど、すばらしい成長ぶりです。彼の働きのおかげで、私たちも本来の整備の仕事に力を注ぐことができ、ほんとうに助かっています」。  さらに木村さんが今後、整備士を目ざすようになったら「現場のみんなでいろいろ教えて応援してあげたいですね」と激励していた。  社内には、実際に国家資格取得のための勉強などを始めている従業員もいる。県南の店舗で働く障害のある従業員は、洗車担当を務めながら補助業務としてタイヤ取りつけ、エンジンオイルやフィルターの交換作業なども任されるようになった。いまは本人の希望で「自動車整備士三級」の取得を目ざし、必要な実務経験を現場で積みながら勉強中だ。 エンドユーザーのために  そして、本社1階にある部品物流部の現場も見学した。ここは自動車の修理などに必要な部品を調達し、配送する拠点となっている。全国各地の部品メーカーや工場から送られてきた部品を検品して棚に整理しておき、依頼に応じて配送準備を行っている。毎朝8時ごろに各地からトラックが到着して部品が運び込まれ、当日のうちに300点ほどの部品を県内各地に配送するほか、仕分けや検品、ラベリングなどを行っている。  部品グループの倉庫リーダーを務めている福田(ふくだ)庄悟(しょうご)さん(55歳)は、脳性まひによる身体障害がある。以前は製麺会社に勤務していたが、職場になじめず退職。あらためてハローワークを経由し、2007年に秋田ダイハツに入社したそうだ。当初から部品を扱う現場に配属され、「さまざまな業者さんから納品される専門的な部品がとても多く、名前を覚えるのに苦労した」そうだが、「休職中に通ったパソコンスクールで学んだエクセルを駆使して、部品や業者の名前を表にまとめて覚えやすくしました」とふり返る。  5年ほど前にリーダーになってからは、同僚に仕事を割りふる役目や、業務の責任も負うようになった。日ごろから心がけていることを聞くと、こう話してくれた。  「どの部署にも通じることかもしれませんが、あくまでもエンドユーザーのために仕事をしているという自覚を持って臨んでいます。私たちの部署では、ここの部品を修理工場などに送り出しますが、その先には車を修理してもらっているお客さまがいます。ここでもし間違った部品が届いたり、遅れてしまったりすることがあれば、そのしわ寄せはお客さまにいきますから」  その言葉の背景には、以前入社して間もないころ、社員がミスをして修理が遅れてしまい、お客さまが困っていたという話を伝え聞いたことがあったからだという。「現場の先にいるお客さまの存在を忘れてはいけない」と実感したそうだ。  福田さんは昨年、念願の「ダイハツ部品士検定三級」に合格した。これは厚生労働省が認定する社内検定認定制度(※2)の一つだ。「私だけの力ではなく、職場のみなさんがいろいろと協力してくれたおかげです。次の二級は来年挑戦するつもりです。こういう目標を持っていたほうが、日々の仕事のやりがいもあります」と笑顔で話してくれた。  そんな福田さんの話を聞いて、すぐに事務所から立派な賞状を持ってきてくれたのは、職場の上司である部品物流部部長の田口(たぐち)勉(つとむ)さん。  「三級は合格率が約50%と結構むずかしいのです。検定は必ずしも受ける必要はないのですが、福田さんから『受けてみたい』と申し出があったので挑戦してもらったところ、一発合格でした」  福田さんと「合格したら日本酒をごちそうする約束もしていたよね」などと冗談をいい合っていた田口さんは、福田さんについて「みんなのとりまとめ役をしながら、積極的に倉庫内の改善活動に取り組んでくれています。パソコン操作も得意なので、苦手な社員にも教えてくれています。彼が通院などでいない日は、同僚たちと『今日はたいへんだな』と話すほどの大黒柱です」と話す。  現場では、福田さんにかぎらず、だれもが休みやすい環境をつくるために、人員調整の工夫に力を入れているという。 “全員野球”の姿勢で  秋田ダイハツの代表取締役社長を務める長野(ながの)高則(たかのり)さんにも、障害者雇用の取組みについて話をうかがった。長野さんは2021年6月に関東にあるダイハツ販売会社から異動してきたそうだ。  「前任地の関東の職場では、どちらかというと障害者雇用率を意識していたところもありましたが、秋田ダイハツの場合は、大事な戦力の確保として障害者雇用をとらえている面が強いと感じています。実際にさまざまな職場で障害のある社員が働いていますが、なにごとにも真面目に取り組み続けられる社員がとても多いのも印象的です」  そのうえで、今後の方針については「少しでも長く私たちの会社で働き続けられるよう、彼らの社会的自立を見すえた待遇などの改善はもちろん、職場環境の整備が大切だと考えています。今年度も時給を少し上げたところですが、キャリアアップも大事ですね」と話す。  「まずは、本人がやってみたいということがあれば積極的に挑戦してもらいたいと思っています。例えば、国家資格を取ることで正社員登用の道も大きく開けていくでしょう。また、そうした目標に向かって努力する人が増えることで、職場にもよい影響が出てくるはずです」  関東の職場では外国人の従業員も多かったという長野さんは、最後にこう語ってくれた。  「これからの時代は、障害の有無にかかわらないことはもちろん、女性もシニアも外国人も含め“全員野球”の姿勢で取り組んでいかなければ、企業として乗り越えていけないと思います。これからも、私たちの企業理念の一つである『社員一人ひとりが働いてよかったと思える会社』を目ざし、だれもが戦力として働き続けていけるための職場づくりを進めていきたいと考えています」 ※1 特定最低賃金: 特定の産業または職業について設定される最低賃金。関係労使の申出に基づき、最低賃金審議会の調査審議を経て、地域別最低賃金よりも金額水準の高い最低賃金を定めることが必要と認めた場合に決定される ※2 社内検定認定制度:個々の企業や団体が、そこで働く労働者を対象に自主的に行っている検定制度(社内検定)のうち、一定の基準を満たしており、技能振興上奨励すべきであると認めたものを厚生労働大臣が認定する制度 写真のキャプション 秋田ダイハツ販売株式会社管理部部長の仲澤浩美さん 管理部総務グループ係長の佐藤大地さん 佐藤さん(左)は、県内の店舗を巡回し社員のフォローも行う 秋田ダイハツ本荘店で働く木村和希さん 木村さんと同じ職場で働く佐藤秀哉さん 秋田ダイハツ販売株式会社本荘店 木村さんは、洗車や車内清掃などを担当している 倉庫内で仕分けや検品を担当する福田庄悟さん 「ダイハツ部品士検定三級」の賞状をもつ福田さん 本社の1階が部品物流部の拠点となっている 部品物流部部長の田口勉さん 代表取締役社長の長野高則さん 【P10-11】 クローズアップ 障害者雇用担当者のモチベーションアップ 第2回 〜障害者雇用担当者座談会(前編)〜  障害のある人の雇用と定着のために重要な役割を果たすのが障害者雇用にかかわる担当者の方々。この連載では、担当者のみなさんがモチベーションを維持・アップしながら、スムーズに業務を行うためのヒントを探っていきます。  第2回は、企業で障害者雇用を担当している方々に、仕事のやりがいや課題などについて、座談会形式でお話しいただきました。 司会進行 『働く広場』編集委員 三鴨岐子 (みかも みちこ)  名刺や冊子などのデザイン制作を手がける「有限会社まるみ」の取締役社長。  障害のある社員の雇用をきっかけに「中小企業の障害者雇用推進」に関する活動を精力的に行っている。 座談会参加者プロフィール Aさん  グループ会社の業務サポートや施設運営などを行う特例子会社の事業所で、障害者雇用にたずさわり12年目。約100人の障害のある社員の定着支援を行っている。職場適応援助者(ジョブコーチ)の資格を持つ。 Bさん  グループ会社の事務代行やメール室サービス、印刷業務などを行う特例子会社で障害者雇用にたずさわり13年目。現在は管理部門の業務と兼務しながら、精神障害のある社員2人をサポートしている。ジョブコーチの資格を持つ。 Cさん  グループ会社の事務代行やリラクゼーション業務、清掃業務などを行う特例子会社の障害者雇用担当者。親会社からの出向で担当となり4年目。定着支援リーダーとして採用活動や支援者の育成などを行う一方で、障害のある社員約10人を個別にサポートしている。  今回は、前回取材した「障害者就業・生活支援センターTALANT(タラント)」センター長野路(ののじ)和之(かずゆき)さんに企業の障害者雇用担当者をご紹介いただき、座談会を開催しました。司会進行は、本誌編集委員の三鴨(みかも)岐子(みちこ)さんです。 障害者雇用担当者のやりがいとは? 三鴨 みなさんは、障害者雇用の担当者として、どのような思いで仕事に取り組んでいますか。また、どのようなときにやりがいを感じますか。 Aさん 障害のある人たちは「生きにくさ」を感じている人が多いと思います。そのような人たちが、少しでも、安心・安定して働くことができ、人生を豊かなものにできればと思っていますし、それが少しでも実現したときには、やりがいを感じます。また、自己発信を苦手とする人も多いので、その人の思いを代弁しながら寄り添うことを大切にしています。逆に、働くことによって、ご本人の体調が悪化したり、働くことへの自信や意欲を失ってしまうようなことは避けたいと思っています。 Bさん 私の場合は、業務を受託している事業会社から感謝の言葉をもらったり、次の仕事の依頼をいただいたり、必要とされていると感じることにやりがいを感じます。また、ご本人の「働きたい」という気持ちにしっかりと向き合うことができた結果、働くことに困難を感じていた人が、業務のマッチングや同僚との関係性などの問題をクリアし、週20時間から週30時間へと勤務時間を延ばして安定して働けるようになったことがありました。このようなときにも喜びを感じます。 Cさん 新しい仕事に挑戦できるようになったなど、ご本人の成長を感じられる瞬間は、私も本当にうれしいです。特に、自分が立てた目標に対して、それを意識しながらとてもがんばっているときなど、ご本人の行動にも変化を感じられるところが、とてもうれしく思います。また、ご家族との面談で「この会社で働くことができてよかった」などと、感謝の言葉をいただけたときも胸がいっぱいになりますね。 三鴨 人の成長を肌で感じることができるのは、この仕事の喜びでもありますね。 障害者雇用担当者の悩みとは? 三鴨 やりがいを感じる一方で、障害者雇用の業務には、この仕事ならではの苦労もあると思います。どのようなことに悩んでいますか? Aさん 定着支援というのは、人と向き合う仕事なので、「これが正解」という答えがありません。特に、社員数が増えるほど、問題も多様化しており、どのように対応したらよいのか悩むような状況がたくさん出てきます。  会社からは、早い解決や改善を期待されますが、状況によってはご本人の体調やモチベーションなどをみながら、年単位でのプロセスが必要な場合もあります。定着支援ではスモールステップがとても大切ですが、時間がかかるので、そのプロセスを周囲と共有して取り組んでいくことが重要になります。 Bさん 障害者雇用では、想定どおりにいかないことや、予期せぬ状況が日常的に起こります。ですから、そうしたイレギュラーな状況を前提に、業務を構築する必要があります。かくいう私自身も、着任したばかりのころは、「物事がスムーズに進まないのがあたり前」という理解が足りずに、たいへんな思いをしました。  一方で、長く担当を続けていくと、障害者雇用になじみのない人たちとの間に、障害者雇用についての認識や、障害のある人への支援や配慮に対する考え方などのズレが生じてしまうことがあります。だからこそ、「障害者雇用をよく知らない人だったらどのように考えるか」という視点も忘れないように心がけています。 Cさん 弊社には、複数の事業所があり、それぞれで障害のある社員が働いています。そのため、全員の様子や日々の活動を細かく把握しきれないことが悩みです。かといって、各職場での支援者から詳細に情報を共有してもらうのも、現場の負担を増やすのではないかと気がかりです。  グループ全体の障害者雇用をまとめる立場ではありますが、どのようなサポートをしたらよいのかと悩むことも多いです。 三鴨 障害者雇用の業務は、人の成長に向き合える喜びがある仕事ですが、多様な特性を持つ一人ひとりと、時間をかけて向き合い続ける忍耐力が必要な仕事でもあります。  また、「こうあるべき」という考えにとらわれずに、柔軟な考え方をすることが求められる仕事なのかもしれませんね。 *  *  *  *  *  次回は後編として、今回ご登場いただいたみなさんに、業務の課題を解決するために工夫されている点や、これから障害者雇用に取り組む企業の方、新たに担当になった方へのアドバイスなどをうかがいます。 知りたい! 企業における障害者雇用担当者の役割  障害者雇用担当者は、障害のある社員が力を発揮して働けるようにサポートしますが、その役割は多岐にわたります。 ●採用活動:社内で求められる人材要件を把握し、求人募集や面接などを通じて、障害のある社員を採用します。就労支援機関やハローワークなどと連携して行う場合もあります。 ●雇用管理:障害者雇用促進法などの法令を遵守し、雇用形態や労働条件(給与・福利厚生など)を決定して、契約書や社会保険の手続き・管理を行います。 ●業務の創出:障害のある社員の特性や能力に応じ、担当できる業務を社内から洗い出し、業務内容やプロセス、マニュアルなどの設計を現場の同僚やジョブコーチと連携して行います。 ●職場環境の整備:障害のある社員が安全・快適に働けるように、設備や機器などの物理的な環境の整備、通勤や休憩時間への配慮などを行います。就労支援機関と連携して行う場合もあります。 ●ほかの社員とのコミュニケーションの促進:障害のある社員とほかの社員が相互に理解し協力する体制をつくれるよう、研修や交流会を開催したり、両者間に生じた問題などの相談に応じたりします。 【P12-14】 JEED インフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 ご活用ください!障害者の職業訓練実践マニュアル  当機構(JEED)が運営する国立職業リハビリテーションセンター(埼玉県)および国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(岡山県)では、精神障害や発達障害、高次脳機能障害など、職業訓練上特別な支援を要する障害のある方の受入れを積極的に行い、より効果的な職業訓練の実施に必要な指導技法などを、障害種別ごとにマニュアルとして取りまとめています。  このマニュアルは、JEEDホームページからダウンロードすることもできます。また、無料で配付をしていますので、お気軽に左ページ下部お問合せ先へご連絡ください! NEW!! 職業訓練実践マニュアル 訓練生個々の特性に応じた効果的な訓練実施に向けた取組み 〜実践編〜  複数の障害種別の方が混在する環境下での訓練科運営が求められるなど、近年の職業能力開発施設における現状をふまえ、障害の有無や種別にとらわれない、訓練生個々の特性に着目した効果的な訓練を実施するための取組みについて、以下の構成でわかりやすくまとめました。 @効果的な訓練実施に必要な支援力の要素 A効果的な訓練の具体的な取組み B情報の可視化と共有 ホームページにマニュアルを掲載 こんな方におすすめ!  「訓練生との相談でどのように助言をしたらよいでしょうか?」、「情報を整理するのにどんなツールを使ったらよいでしょうか?」という方にもわかりやすくまとめています。  また、スライドと解説をセットにしているため、施設内の研修などにもご活用いただけます。 マニュアルの内容 知識・技能の習得の訓練にあたっての工夫 訓練生の特性に応じた訓練実施のための工夫をまとめています。わかりやすいように訓練場面の動画も収録しています。 情報の可視化と共有 情報の可視化と共有において留意事項や、ツールの活用方法について説明しています。 ◆付属DVD◆ マニュアル巻末の付属DVDにはマニュアルで使用しているスライド(Power Point)や各種シートのほか、訓練場面の動画を収録しています。ご自由にご活用ください。 <動画の内容> ・朝礼時の生活チェック確認シート確認例 ・対応法習得演習 ・グループワーク演習 職業訓練実践マニュアル 訓練生個々の特性に応じた効果的な訓練実施に向けた取組み ◆訓練生個々の特性に応じた効果的な訓練実施に向けた取組み〜基礎編〜(令和3年度発行) 精神障害・発達障害者への職業訓練における導入期の訓練編 ◆導入期の訓練編T 〜特性に応じた対応と訓練の進め方〜(平成30年度発行) ◆導入期の訓練編U 〜対応法の習得に向けた具体的な取り組み〜(令和元年度発行) ◆導入期の訓練編V 〜導入期の訓練のカリキュラムと具体的な進め方〜(令和2年度発行) 高次脳機能障害者編 ◆高次脳機能障害者編T 〜施設内訓練〜(平成28年度発行) ◆高次脳機能障害者編U 〜企業との協力による職業訓練等〜(平成29年度発行) 精神障害者編 ◆精神障害者編T 〜施設内訓練〜(平成24年度発行) ◆精神障害者編U 〜企業との協力による職業訓練等〜(平成25年度発行) 発達障害者編 ◆発達障害者編T 〜知的障害を伴う人の施設内訓練〜(平成22年度発行) ◆発達障害者編U 〜施設内訓練〜(平成23年度発行) ◆発達障害者編V 〜企業との協力による職業訓練等〜(平成24年度発行) 重度視覚障害者編 ◆重度視覚障害者編T 〜施設内訓練〜(平成22年度発行) ◆重度視覚障害者編U 〜企業との協力による職業訓練等〜(平成23年度発行) 精神障害者等向け委託訓練参考マニュアル 精神障害や発達障害のある方への円滑な委託訓練実施のために 〜精神障害者等向け委託訓練参考マニュアル〜(平成27年度発行)  委託訓練実施機関の方、また実施を検討されている機関の方に向けて、精神障害、発達障害のある方を受け入れるための、訓練環境におけるポイント、具体的な取組み内容などについてまとめました。 これまでに刊行したマニュアルは、12ページのコード(JEEDホームページ)からダウンロードできます。 ◎お問合せ先 職業リハビリテーション部 指導課 TEL:043-297-9030 E-mail:ssgrp@jeed.go.jp 障害者職業訓練推進交流プラザのご案内 会場参加とオンライン参加を選べます。 日時:令和5年10月27日(金)10:00〜16:30 会場:障害者職業総合センター オンライン:Web会議システム「Zoom」  厚生労働省および当機構(JEED)では、障害のある方の職業訓練を実施している、または、障害のある方の受入れを検討している職業能力開発施設などの方を対象に、精神障害や発達障害、高次脳機能障害のある方などに対する職業訓練技法の普及を行っています。  その一環として、厚生労働省主催の「障害者職業訓練指導員経験交流会」とJEED主催の「障害者能力開発指導者交流集会」をあわせて「障害者職業訓練推進交流プラザ」として共同開催するものです。  みなさまのお申込みを心よりお待ちしております! ◎対象者  障害のある方の職業訓練を実施している、または、障害のある方の受入れを検討している施設など(障害者職業能力開発校、一般の職業能力開発校、民間の障害者職業能力開発施設、障害者委託訓練受託施設、都道府県人材開発主管課)の方 ◎内容 ・行政説明 ・事例発表、訓練技法等の紹介 ・グループ別検討会 ※今年はオンライン参加の方もグループ別検討会にご参加いただけます。 詳細は下記ホームページにてご案内いたします。 ◎お申込み方法  JEEDホームページ(https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/intellectual/plaza_guide.html)から申込書をダウンロードできます。申込書に入力のうえ、JEED職業リハビリテーション部指導課広域・職業訓練係あて、メールまたは郵送でお申し込みください。 ◎締切令和5年9月8日(金)必着  ★参加費は無料です。また、事前の参加お申込みが必要です。  ★昼食は各自ご準備ください。 ホームページはこちらから→ ◎お問合せ先  厚生労働省 人材開発統括官 特別支援室 障害者企画係 〒100-8916 東京都千代田区霞が関1-2-2 TEL:03-5253-1111(内線5962) 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 職業リハビリテーション部 指導課 広域・職業訓練係 〒261-0014 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-3 TEL:043-297-9030 E-mail:ssgrp@jeed.go.jp 【P15-18・P33】 令和5年度 障害者雇用支援月間における絵画・写真コンテスト入賞作品 「絵画コンテスト 働くすがた〜今そして未来〜」 「写真コンテスト 職場で輝く障害者〜今その瞬間〜」  高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、広く障害者雇用への理解と関心を深めていただくため、障害のある方々などから絵画と写真を募集し、優秀な作品をもとに9月の「障害者雇用支援月間」にあわせてポスターを作成しています。  募集は絵画コンテスト3部門と写真コンテストに分けて行い、全国から寄せられた1,626点(絵画1,329点、写真297点)の応募作品の中から、審査の結果、ポスターに採用する厚生労働大臣賞4点のほか当機構理事長賞4点、同理事長奨励賞72点がそれぞれ選ばれました。  厚生労働大臣賞を受賞した4作品をもとに作成したポスターは、障害者雇用支援月間中、全国のハローワークなどに掲示されます。 厚生労働大臣賞 ◆絵画コンテスト 小学校の部◆  「おいしいピザが焼けたよ」  鈴木 健二朗(すずき けんじろう 静岡県) ◆絵画コンテスト 中学校の部◆  「治療中」  長瀬 葵(ながせ あおい 長野県) ◆絵画コンテスト高校・一般の部◆  「ラテの練習にとり組む姿」  佐々木 亮介(ささき りょうすけ 東京都) ◆写真コンテスト◆  「初夏のお知らせ」  清水 武志(しみず たけし 千葉県) 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞 ◆絵画コンテスト 小学校の部◆  「赤いでんしゃのうんてんしゅ」  大元 崇巨(おおもと たかなお 福岡県) ◆絵画コンテスト 中学校の部◆  「おいしいケーキを作るパティシエ」  香月 彩奈(かつき さな 福岡県) ◆絵画コンテスト 高校・一般の部◆  「しいたけの収穫」  田澤 拓夢(たざわ たくむ 山形県) ◆写真コンテスト◆  「キャップ・ラベル・ヨシ!!」  佐藤 良(さとう りょう 愛知県) 今年度も力作がそろいました! シンボルキャラクター ピクチャノサウルス 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞 絵画コンテスト 小学校の部 「おはなやさんになりたいな」 久保田 なつめ(くぼた なつめ 東京都) 「かわいいアイドル」 中村 恋那(なかむら れいな 東京都) 「生きものの仕事」 山本 興忠(やまもと おきただ 東京都) 「これからレッツゴー」 松本 陸(まつもと りく 東京都) 「東急バスとぼく」 矢野 瑞己(やの みずき 東京都) 「キラキラであかるいせかいバス」 松浦 壮太(まつうら そうた 東京都) 「夢見るイラストレーター」 松井 未緒(まつい みお 静岡県) 「りょうり人のわたし」 脇山 蒼唯(わきやま あおい 愛知県) 「かわいくておしゃれなびようしさん」 有薗 志音(ありぞの しおん 鹿児島県) 「日本のくらしを豊かにしてくれる政治家」 二宮 謙親(にのみや けんしん 鹿児島県) 絵画コンテスト 中学校の部 「点検作業」 芦田 晴(あしだ はる 長野県) 「仕事の確認」 川上 恭佑(かわかみ きょうすけ 長野県) 「自然の中で稲作」 堀 傑(ほり すぐる 静岡県) 「みんなを楽しませるマンガ家」 中嶋 梨乃扇(なかじま りのあ 広島県) 「日本の平和を守る警察官」 今野 琳(こんの りん 福岡県) 「みんなにたべてほしいおいしいパン」 橋 仁(たかはし じん 福岡県) 「完璧な家を作る大工」 光永 魁俐(みつなが かいり 福岡県) 「かわいい犬に変身しよう!」 吉武 桃花(よしたけ ももか 福岡県) 「みんなの生活を支えるスーパーの店員さん」 佐藤 希音(さとう ねね 福岡県) 「笑顔でカッコいいバスの運転士」 吉武 翔瑛(よしたけ しょうえい 福岡県) 絵画コンテスト 高校・一般の部 「メイドカフェで接客中」 倉地 文香(くらち あやか 北海道) 「慈しむシゴトバ」 石戸谷 有記(いしどや ゆき 青森県) 「てしごと」 久保田 紗織(くぼた さおり 岩手県) 「働いている私」 橋 合歓(たかはし ねむ 秋田県) 「仕出し弁当作り」 阿部 由美子(あべ ゆみこ 山形県) 「『さあ、お菓子作るよ!』」 三浦 弓枝(みうら ゆみえ 福島県) 「ランプソケット生産作業」 中井 美之(なかい みゆき 群馬県) 「ふたりで進む次のステップ」 番場 平(ばんば たいら 埼玉県) 「私の夢はイラストレーター」 野中 恵理子(のなか えりこ 千葉県) 「とれたぞ!大漁だ」 三浦 聖弥(みうら せいや 千葉県) 「光」 村田 真南(むらた まな 東京都) 「東急バスの風景を再げんした絵」 田中 広軌(たなか ひろき 東京都) 「期待してるよ!新人君」 小島 幸吉(こじま こうきち 神奈川県) 「消防士」 高嶋 教介(たかしま きょうすけ 富山県) 「可憐なお庭へ」 沖津 恵梨香(おきつ えりか 石川県) 「未来への再生プロセス (ビルバリ分解作業)」 山口 祐典(やまぐち ゆうすけ 石川県) 「草むしり」 神戸 陽子(かんべ ようこ 長野県) 「清掃する鏡の私」 平松 志織(ひらまつ しおり 岐阜県) 「がんばる登り窯の職人さん」 加藤 利和(かとう としかず 岐阜県) 「熟練の技」 杉本 有里(すぎもと ゆり 静岡県) 「正確にクッキーの型抜き」 戸苅 宏二(とがり こうじ 愛知県) 「初めての現場」 筒井 克季(つつい かつき 愛知県) 「工場で働くために工場で勉強する私」 竹内 巧(たけうち たくみ 愛知県) 「つくるとき」 中瀬 友之(なかせ ともゆき 三重県) 「野菜工場の収穫」 大枝 功治(おおえだ こうじ 大阪府) 「『キレイ』でみんなを笑顔に!」 田 安希子(たかだ あきこ 大阪府) 「ミスなく、正しい場所に入れましょう」 音城 志保(おとしろ しほ 大阪府) 「フィギュア作りの仕事は楽しいな」 小林 弘典(こばやし ひろのり 奈良県) 「よしっ!!これが終われば、窓ふき終了!!」 嶋田 麻希(しまだ まき 島根県) 「今日もエネルギッシュに働きます」 藤本 浩平(ふじもと こうへい 広島県) 「磨きあげ」 長尾 響輝(ながお ひびき 香川県) 「トマト!収穫!」 相田咲桜(あいた さくら 福岡県) 「お疲れ様です」 畑島 咲樹(はたしま さき 長崎県) 「象と名コンビ サーカス団のアニマル調教師になりたい そして象は友達」 松尾 英昭(まつお ひであき 熊本県) 「5歳は、若く見せてくれる?」 宮川 哲夫(みやかわ てつお 鹿児島県) 「絵を描くお仕事。」 與那覇 吉枝(よなは よしえ 沖縄県) 写真コンテスト 「みんなの力でみんな幸せ」 伊東 富士夫 (いとう ふじお 北海道) 「広報のこだわり」 岡部 元暁(おかべ もとあき 千葉県) 「一生懸命一杯」 島 柊志(たかしま しゅうじ 千葉県) 「椎茸の収穫」 吉野 拓人 (よしの たくと 東京都) 「機械の調整はわたしにおまかせあれ」 柴山 裕一 (しばやま ゆういち 岐阜県) 「陽を浴びて」 臼井 里奈 (うすい りな 岐阜県) 「フラワーチャレンジド」 川島 拓朗(かわしま たくろう 静岡県) 「仕事は真面目に 笑顔は忘れず」 永森 貴 (ながもり たかし 愛知県) 「放水始め!」 浦尾 幸伸(うらお ゆきのぶ 三重県) 「作業に集中する真剣な眼差し」 田代 壮介(たしろ そうすけ 滋賀県) 「落ち着いて確認しよ!」 永冨 詠二(ながとみ えいじ 大阪府) 「『きれいになっているかな?』」 岡嶋 夏南 (おかじま かな 岡山県) 「農場開園!」 神 麻美(じん まみ 岡山県) 「チャレンジありき!」 阿部 孝宏(あべ たかひろ 大分県) 「きれいになあれ」 芳ア はずき(よしざき はずき 大分県) 「今日のメロンもずみっ!」 黒沢 由香 (くろさわ ゆか 沖縄県) 審査委員 永関 和雄(委員長) 元全国造形教育連盟委員長 清水 満久 昭和女子大学 教職専門指導員 竹内 とも子 東京都新宿区立柏木小学校 指導教諭 桑原 史成 日本写真家協会会員 小山 博孝 日本写真家協会会友 佐藤 仁重 日本写真家協会会員 古田 詩織 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課 障害者雇用促進研究官 輪島 忍 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長 入賞作品展示会のお知らせ 全国5カ所で入賞作品展示会を開催します。 【東京】 9/8(金)〜9/12(火) 日本橋案内所隣 江戸桜通り地下歩道 【大阪】 9/20(水)〜9/22(金) 大阪市役所 【札幌】 10/19(木)〜10/21(土) 札幌駅前通地下広場 【愛知】 11/2(木)〜11/4(土) ナディアパーク 【福岡】 11/22(水)〜11/24(金) 福岡市役所 詳しくはJEEDホームページをご覧ください。 【P19】 エッセイ 第1回 相談員の苦悩と心得 日本相談支援専門員協会顧問 福岡寿 福岡寿(ふくおか ひさし)  金八先生にあこがれて中学校教師になるも、4年で挫折。その後、知的障害者施設指導員、生活支援センター所長、社会福祉法人常務理事を経て、2015(平成27)年退職。田中康夫長野県政のころ、大規模コロニーの地域生活移行の取組みのため、5年間県庁に在籍。  現在は「NPO法人日本相談支援専門員協会」顧問、厚生労働省障害支援区分管理事業検討会座長。  著書に、『施設と地域のあいだで考えた』(ぶどう社)、『相談支援の実践力』(中央法規)、『気になる子の「できる!」を引き出すクラスづくり』(中央法規)などがある。  介護保険の介護支援専門員(ケアマネジャー)と同じように、障害分野にも「相談支援専門員」という職種があり、障害福祉サービスを利用する方に、ケアプランに相当する支援計画(サービス等利用計画・障害児支援利用計画)を作成することとなっています。障害のある方は、相談支援専門員のサービス等利用計画に基づいて、家事援助や身体介護などのホームヘルパーの支援を受けたり、グループホームで暮らしながら仕事をすることができます。  相談支援専門員の業務には、こうした計画相談支援のほかに、サービスの有無にかかわらず、障害のあるすべての方たちの相談に応じる基本相談、障害福祉に関する地域の課題解決、連携体制や仕組みづくり、いわゆるソーシャルワークに奔走する仕事もあります。  しかし、業務に対する報酬が保障されている計画相談に対して、基本相談やソーシャルワークは自治体の裁量に委ねられています。  そのため、地域には計画作成の姿しか見えず、基本相談やソーシャルワークが育っていない地域も多く、地域間格差が激しいのが現状です。みなさんの地域はいかがでしょうか?  一方で、年間にどのくらいの相談に応じたかという実績をカウントしていくと、圧倒的に多いのが、診断のつかないグレーゾーン≠フ方たちです。どの障害種別にもカウントできず、その他の欄に多くのカウントが入るという結果になります。  なかでも、圧倒的に数を占めているのは、発達障害という診断に至らない発達特性のある方たちです。  私は、発達特性があっても、その強みを活かして社会で活躍してもらう人生であってほしいと、この仕事を通じて強く願っています。  相談で保育園などの現場に出向くことも多い日々ですが、ある晩秋の小春日和の日、園児たちは銀杏の枯れ葉などを集めてお料理ごっこで遊んでいました。その少し、離れたところで一人黙々と、何種類かのふるいを持ってきて、砂や土をふるいにかけて、粗目、パウダーのようなきめの細かい目の山をつくっているA君がいました。園からは、「発達特性があり、気になる子」と聞いていた園児でした。手慣れた保育士は、お友だちのごっこ遊びの輪のなかに無理に誘導しようとはせず、その代わり、「A君、胡椒ペッパーを配達してください」、「A君、ケーキに使うパウダーできましたか?」とA君に活躍の場を用意していました。  保育園でのごっこ遊びは、役割分担を決めてチームで働くメンバーシップ型の業務風景に似ています。A君はチーム内で臨機応変に対応することが苦手であっても、チームの業務のうち得意な分野の業務に専念してもらうことで活躍することができます。  長年、この仕事にかかわっていると、園児のころに心動いていた興味や関心、活動が、将来大人になったときの仕事や社会参加の武器につながっている事例に出会うことがままあります。できれば発達特性のある子の、その強みを活かして社会参加の武器にと願います。その萌芽は園児のころから見られています。  しかし、「なにがなんでも、お友だちと仲よく過ごして」と本人の苦手な環境や場面に追い込んでしまうと、本人のかんしゃくや拒否を強めてしまったり、登園渋りから学齢時の不登校につながったりします。  そのため、通常の保育園や学齢時の児童クラブに代わる、児童発達支援や放課後等デイサービスなど、障害児サービスの利用者となり、計画相談をになう相談支援専門員がかかわることになります。とりわけ、放課後等デイサービス事業所の増え方は、全国どこの地域でも顕著です。  本来は、発達障害があっても、相談支援専門員が中心となって、保健師などの行政、療育機関、保育、教育などが連携して、本人とご家族の伴走者になっていただくチームづくりが大切で、そうした取組みがあたり前のように実施できる多職種連携のシステムづくりが重要です。  障害福祉サービスにつなげなくとも支えていける基本相談や支援体制づくりをになうソーシャルワークの充実している豊かな相談の土壌づくり、みなさんの地域ではいかがでしょうか。それぞれの相談支援専門員が一人ひとりの支援から、地域のソーシャルワークまでバランスよく活躍してくださっている地域であってほしいと思います。 【P20-25】 編集委員が行く 必要とされている仕事でより多くの障害者の就業機会を創る 株式会社F&LCサポート、株式会社あきんどスシロー スシロー杭全店、スシロー難波アムザ店(大阪府) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 取材先データ 株式会社F&LCサポート 〒564-0063 大阪府吹田市江坂町1-22-2 TEL 06-6368-1028 FAX 06-6368-1030 スシロー杭全(くまた)店 〒546-0041 大阪府大阪市東住吉区桑津1-14-21 スシロー難波(なんば)アムザ店 〒542-0074 大阪府大阪市中央区千日前2-9-17 アムザ1000 4F 編集委員から  回転すしの「スシロー」を展開する株式会社あきんどスシローなどの持ち株会社である株式会社FOOD & LIFE COMPANIES。2022(令和4)年に新たに株式会社F&LCサポートを設立し、2023年1月に特例子会社として認定された。大切にする考え方は何か。スシローなどの店舗における障害者雇用と特例子会社における障害者雇用の違いは何か。店舗と特例子会社の障害者雇用についてあわせて紹介する。 Keyword:飲食業、特例子会社、店舗、清掃業務、特別支援学校 POINT 1 障害者雇用を進めていくためにも「店舗を支える仕事で」という考えを重視 2 チームで仕事をすることで障害者スタッフの活躍をうながし、人材不足の解消も 3 「全店の清掃をF&LCサポートでやってほしい」といわれるまでに 全国のスシローで障害者スタッフが活躍  「スシローで働き続けたことで、辛抱強さが身についた。疲れてしんどいなあと思っても最後まで働けているから」  自信に満ちた表情でそう語るのは形山(かたやま)充(みつる)さん。  形山さんは、大阪市内の特別支援学校を卒業後、「株式会社あきんどスシロー」(以下、「あきんどスシロー」)に入社、スシロー杭全(くまた)店(大阪市)に配属された。今年で8年目になる。取材にうかがった日の形山さんは、11時から17時までのシフト。「たこわさび」、「あん肝」、「まぐろユッケ」、「カニ風サラダ」の異なる種類の軍艦巻きを、同時に手早く仕上げる仕事ぶりを披露してくれた。仕込み、洗浄、炊飯、フライヤー、握り、デザートづくりなどキッチンの仕事はすべてできるとのことである。  形山さんは、特別支援学校在籍時に同社で職場体験実習をした際、当時の店長から商品製造の手ほどきをしてもらったそうだ。そのかいあって「形山さんはスタッフのなかでもベテラン。学生のアルバイトが2〜3年で交代してしまうなかで、本当に助かります」と、現店長の曽谷(そがや)信彦(のぶひこ)さん。文字通り「なくてはならない人財」になっている。  これは杭全店にかぎったことではない。回転すしの「スシロー」を展開するあきんどスシローでは、2023(令和5)年7月現在、252人(身体障害3人、知的障害204人、精神障害45人)の障害のあるスタッフたちが、全国の店舗で戦力となってお店を支えている。 店舗で働きたい障害のある人が減ってきた  「株式会社F&LC(エフアンドエルシー)サポート」(以下、「F&LCサポート」)は、2022年7月に「株式会社FOOD & LIFE COMPANIES(フード アンド ライフ カンパニーズ)」(以下、「F&LC」)の子会社として設立され、2023年1月に特例子会社としての認定を受けている。このほかに「株式会社あきんどスシロー」、「株式会社京樽(きょうたる)」、「株式会社FOOD & LIFE INNOVATIONS(フード アンド ライフ イノベーションズ)」を加えた5社で、障害者雇用率算定のグループ適用を受けている。  F&LCの人財部人財開発課課長であり、F&LCサポートの事業部長でもある森嶋(もりしま)咲野(さきの)さん、F&LCサポート事業副部長の荒木(あらき)慶(けい)さんに、特例子会社設立の背景をうかがった。  「あきんどスシローでは、2010(平成22)年から全国の店舗での障がい者雇用を積極的に進めています。いまの店長たちは、ほとんどといっていいほど障がい者スタッフと働いた経験があるのではないでしょうか。その経験は大きいですね。店長は、障がい者スタッフたちはきちんとお店を支えてくれる人財であることを肌で知っていますので、スタッフの受入れにとても前向きなのです」と森嶋さん。  「店舗は障がい者スタッフを必要としている。必要とされている場所、仕事で障がいのある方に働いていただく。これが本来の姿だと私たちは考えます。ですから店舗での障がい者雇用を積極的に進めていきたい気持ちは、いまも変わりません。けれども障がいのある応募者はここ数年減少するばかりでした」と荒木さん。  体を使う仕事や、土・日曜日にも働く仕事は、事務職の求人に比べると敬遠されやすく、その傾向が年々顕著になっている。あきんどスシローでもそういった影響を受けて、採用には苦戦していた。  それだけではない。  「店舗の仕事はどうしてもマルチタスクが求められます。しかも、それを一定のスピード感でこなすことを期待されます。それができる応募者は、決して多くはありませんでした。さらには、『京樽』や『回転寿司みさき』を展開する『株式会社京樽』、寿司居酒屋『杉玉(すぎだま)』を展開する『株式会社FOOD & LIFE INNOVATINONS』も、COMPANIES(当社グループ)に加わりました。COMPANIES全体で社会的責任を果たしていく必要がありましたが、持ち帰り鮨店の京樽と回転寿司店のみさきの店舗は小規模なものが多く、杉玉は居酒屋業態です。スシロー以上にマルチタスクが要求される業態が加わり、課題はさらに大きいものとなりました」と荒木さんは話す。  「必要とされている場所で障がいのある方に働いていただくという方針は大切にしながらも『まったく新しい発想』で、しかも『COMPANIES 全体』で障がい者雇用を進めていく必要がありました」と森嶋さんはいう。  このような経緯で、特例子会社の設立が検討された。特例子会社の事業選択においては、「店舗を支える仕事」ということが重視された。事業に貢献してもらう観点からだ。「店舗の清掃業務を特例子会社の事業にすれば、障がい者雇用の課題と店舗の困り感を同時に解決できると思いました」とのことである。 チーム編成で店舗の開店前清掃を行う  現在、F&LCサポートでは、5〜6人の障害者スタッフとトレーナーでチームを編成し、大阪府内のスシロー、杉玉の店舗における開店前清掃の業務を請け負っている。在籍している障害者スタッフは16人、3チームの編成である。  仕事の開始は8時30分。障害者スタッフとトレーナーは店舗に直行し、仕事を始める。午前中はスシロー店舗の清掃、午後は杉玉店舗の清掃だ。午前の仕事はスシローの開店時刻11時までに終わらせる必要がある。おもな仕事は、掃き掃除、モップがけ、寿司レーンの拭きあげ、ソファ拭き、テーブル拭き、カスター(調味類)セット拭き、バックヤード清掃などである。レーンごとに担当制で作業を進める。店舗を移動後、昼食休憩をはさんで杉玉の店舗清掃となる。杉玉もスシローと同様に、開店前に仕事を終わらせる必要があるが、杉玉はスシローとは店舗レイアウトが違うので、仕事内容や作業手順が異なる。また、客がキープしている焼酎の瓶があることなどから、スシロー以上により細かい作業が続く。  トレーナーが作成したスケジュールをもとに、障害者スタッフたちが、主体的に作業を進めていく姿が印象的だ。  2022年11月に入社した障害者スタッフの一人、西田(にしだ)健一(けんいち)さんに話を聞いた。  「前の仕事は事務職だったのですが、自分に向いているのは体を動かす仕事なのかもしれないと思っていたところ、F&LCサポートの求人がありました。特例子会社の認定を目ざしていると聞いて、チャレンジしたいと思いました。最初はいわれた仕事をこなすので精一杯だったけど、いまは『お客さまの目に入るところはきれいにしておかなければ』と、お客さまのことを考えるようになりました。お客さまに食事を楽しんでもらえるようにと思って仕事をしています」と話す。  トレーナーの一人、河合(かわい)寛(ひろし)さんにも話を聞いた。  「障がいのある人とかかわった経験がなかったので、戸惑うことも多かったのですが、自分が心を開いてかかわると、気持ちが通じ合うようになり、うれしいです」と笑顔で話してくれた。  取材でうかがったスシロー難波(なんば)アムザ店には、トレーナーの育成を担当する近藤(こんどう)康永(やすなが)さんが視察に入っていた。「実際に他店の活動を見ると、自分の店で活かせることがたくさん見つかりました。月曜からさっそくやってみようと思います」と意気込む。  荒木さんは「『障がいがあるからこれができない』ではなく、どうやったらできるかを考えて障がい者スタッフとかかわってほしいとトレーナーに指導しています」と話す。 障害者スタッフが現場の「困り感」を解決する「救世主」に  そもそも店舗の清掃は、その店のパートスタッフたちが開店業務、閉店業務の一連の作業として行うきまりであった。けれども繁忙期、繁忙日などは、製造と接客で忙殺されてしまい、どうしても「行き届かなくなる」ことがあったそうだ。特に都市部の店舗は人材不足が顕著なため、その困り感は大きいものだった。F&LCサポートの清掃チームはその「困り感」を解決する「救世主」となっている。  「店舗全体が明るくなった」、「安全衛生スコアが向上した」、「お客さまからほめられた」など、F&LCサポートが清掃を担当している店舗の店長、スタッフたちからは大歓迎されている。店舗運営部門の社員たちからは「全店の清掃をF&LCサポートでやってほしい」といわれるほどなのだそう。  「同僚がいる環境、困ったことをいつでも相談できる環境というのは特例子会社ならではのメリットですよね。会社としては、店舗では受入れ困難な方にも就業の機会がつくれ、いわゆる重度の障がいのある方にも活躍してもらえる環境が整えられたことはとても意義を感じています」と荒木さん。 店舗と特例子会社で障害者雇用の可能性を広げる  特例子会社での障害者雇用を進めていきながら、店舗での障害者雇用もこれまで通り積極的に進めていく予定だ。  「ダイバーシティ&インクルージョンのスタンスに立てば、障がいのあるスタッフと障がいのないスタッフが同じ場所で一緒に仕事をしていくことが本来あるべき姿ですから」と森嶋さんはいう。  「店舗ではオペレーションも変化していくので、障がい者スタッフの業務の切り出しはどんどんブラッシュアップしていきたい。『これでいい』と決めつけず、つねに試行錯誤していくことが大事です」と荒木さん。  「定年まで働きたい人には、それが叶うように。また、力をつけて店舗で活躍するようになったり、清掃の仕事と店舗の仕事をダブルでやってもらったりすることもいいと思います。F&LCサポートのスタッフたちは、店舗の社員やスタッフたちととても仲よくやっています。店長たちからも、いつも声をかけられています。『あの店長の下で働いてみたい』と思うスタッフが生まれたら、店舗の仕事をやってもらってもよいなと思います」と笑顔で話す森嶋さんである。  「一方で、F&LCサポートだけで終わるのではなく、自分の成長のために働いてもらって、成長したら転職してもよいと思います。そんな環境も素敵ですよね」と荒木さん。 ●  ●  ●  今後F&LCサポートでは、都市型店舗の開店前清掃に加え、新規事業を展開していく計画がある。郊外型店舗での駐車場の清掃、植栽の植替えや手入れをする環境整備の事業が、そして本社ではシェアードサービス部門の立上げ準備が進んでいる。2024年度中には100人を超える障害のある人の採用を進めていく計画とのことだ。  また将来的には、「特例子会社がCOMPANIES全体の障がい者雇用をサポートしていけるように」とのビジョンも聞けた。今後の展開がますます楽しみだ。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、株式会社FOOD & LIFE COMPANIES様のご意向により、発言内は「障がい」としています 写真のキャプション スシロー杭全店 スシロー杭全店で働く形山充さん 形山さんは、キッチン内の仕事をこなす スシロー杭全店店長の曽谷信彦さん F&LCサポート事業部長の森嶋咲野さん F&LCサポート事業副部長の荒木慶さん 株式会社F&LCサポートが入る株式会社FOOD & LIFE COMPANIESの本社 スシロー難波アムザ店 店舗の開店前清掃をF&LCサポートの清掃チームがになう 待合スペースの掃き掃除 店内のスロープのモップ拭き 注文用タブレット端末の拭取り カスター(調味類)セット拭き 入り組んだ部分を清掃するために道具を自作するなどの工夫も タイムスケジュールの一例。担当者と清掃場所や順序などが一目でわかるようになっている テーブル拭きやソファ拭きなど、対象にあわせて色違いのダスターを使い分ける 待合スペースの清掃を行う西田健一さん スタッフにアドバイスをする河合寛さん(右) スシロー難波アムザ店の開店前清掃を担当する西田健一さん 清掃チームのトレーナーを務める河合寛さん トレーナーの育成を担当する近藤康永さん 店舗の「救世主」となっている、F&LCサポートの清掃チーム 【P26-27】 省庁だより 特別支援教育における就労支援の取組 文部科学省初等中等教育局 特別支援教育課  改正障害者雇用促進法等の法的整備を背景に障害者の社会参加が進むなか、特別支援教育の現場でも、障害のある生徒の就職や職場定着を促進するための教育の充実に力が注がれています。ここでは、特別支援教育における就労支援の取組の現状について紹介します。 1 就職する特別支援学校卒業生が増加  特別支援学校の卒業生の進路として、直近10年間を概観すると、企業に就職する生徒が増加傾向にあります(図1)。  背景としては、障害者を積極的に採用しようとする企業が増えていること等が考えられ、最近はそうした雇用ニーズに呼応して、企業就労も目ざした特別支援学校高等部を設ける学校も見られるようになりました。 2 キャリア教育・職業教育の推進  文部科学省においても、障害者の社会参加が進み続ける現状を踏まえ、障害者の就労支援に向けたキャリア教育・職業教育の充実に取り組んでいます。  平成31年2月に公示された特別支援学校高等部学習指導要領では、キャリア教育・職業教育の充実を目ざして、次の点が示されています。 キャリア教育及び職業教育に関して配慮すべき事項 ●学校においては、キャリア教育及び職業教育を推進するために、生徒の障害の状態や特性及び心身の発達の段階等、学校や地域の実態等を考慮し、地域及び産業界や労働等の業務を行う関係機関との連携を図り、産業現場等における長期間の実習を取り入れる等の就業体験活動の機会を積極的に設ける。 ●地域及び産業界や労働等の業務を行う関係機関の人々の協力を積極的に得るよう配慮する。 キャリア教育の充実 ●生徒が、学ぶことと自己の将来とのつながりを見通しながら、社会的・職業的自立に向けて必要な基盤となる資質・能力を身に付けていくことができるよう、特別活動を要としつつ各教科・科目等又は各教科等の特質に応じて、キャリア教育の充実を図る。 ●その中で、生徒が自己の在り方や生き方を考え主体的に進路を選択することができるよう、学校の教育活動全体を通じ、組織的かつ計画的な進路指導を行う。その際、家庭及び地域や福祉、労働等の業務を行う関係機関との連携を十分に図る。  また、テレワーク、在宅勤務等、働き方も大きく変化しており、障害のある生徒等に対して新しい働き方を踏まえた指導や支援が求められています。このため、文部科学省では、令和5年度より、特別支援学校が企業等と連携して、将来の職業生活において求められるICT活用に係る知識や技能等を習得するために必要な指導方法等の開発を行い、効果的な指導の在り方について研究することとしています。 3 教育・労働等の関連機関・部局の連携  障害者の就労支援をさらに推し進めていくためにいま、教育・労働等の関連機関・部局の連携強化が強く求められています。  厚生労働省においては、障害者の雇用に関する労働関係機関と教育、福祉、医療等関係機関の連携について、都道府県労働局や公共職業安定所等において特別支援学校等との連携を一層強化するよう、厚生労働省職業安定局長より通知が出されました(平成25年3月29日に通知、平成30年4月2日改正)。これを受けて、文部科学省では、教育委員会等に対し、労働関係機関との一層の連携のもとに、障害のある生徒の就労に向けた支援の充実を図るよう周知しました。 4 共生社会の実現に向けた生涯学習の推進  障害の有無にかかわらず共に学び、生きる共生社会の実現とともに、障害者が生涯にわたり自らの可能性を追求でき、地域の一員として豊かな人生を送ることができる環境を整えていくことが求められています。  文部科学省では、障害者が生涯を通じて教育、文化、スポーツ等のさまざまな機会に親しむことができるよう、次のような事業を実施しています。 ●学校卒業後における障害者の学びの支援推進事業 ・都道府県を中心とした地域コンソーシアム形成による持続可能な生涯学習支援モデルの構築や、地方公共団体と民間団体等の連携による障害者の生涯学習機会の拡大促進、大学・専門学校等における生涯学習機会創出・運営体制のモデル構築を目ざす取組を実施 ・生涯学習の担い手の育成や学習環境の実質的な整備につなげるための研究成果発信・実践交流等を行うブロック別コンファレンスを実施 ●特別支援学校等における障害者スポーツの充実 ・特別支援学校等を活用した地域における障害者スポーツの拠点づくり等を実施 ・特別支援学校の児童生徒等を対象とした全国大会の開催 ●障害者の文化芸術活動の充実 ・障害のある生徒による作品の展示や実演芸術の発表の場の提供 ・障害のある生徒に対する文化芸術の鑑賞・体験機会の提供 ・障害の種別や年齢にかかわらず、鑑賞・創造・発表等の文化芸術活動に取り組むことができる機会の提供 ●障害のある学生の修学・就職支援促進事業 ・高等教育における障害学生支援の充実を図るため、先進的な取組や多くの知見を持つ複数の大学等が連携するプラットフォームを形成し、組織的なアプローチにより障害のある学生を支援する「障害のある学生の修学・就職支援促進事業」を実施 ※本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています ※「就職者等」について、令和2年度の学校基本調査で就職状況の区分が細かく分類されたことから、令和2年度以降においては「就職者等」の数を、平成31年度以前は「就職者」の数を学校基本調査から抽出することとした 図1 特別支援学校高等部(本科)卒業後の状況 (令和4年3月卒業者) 区分 卒業者 進学者 教育訓練機関等 就職者等 社会福祉施設等入所・通所者 その他 計 21,191人 399人 (1.9%) 337人 (1.6%) 6,390人 (30.2%) 12,943人 (61.1%) 1,122人 (5.3%) (学校基本調査より) (各年3月時点) 平成24 平成25 平成26 平成27 平成28 平成29 平成30 平成31 令和2 令和3 令和4 社会福祉施設等入所・通所者 就職者等 4,420人 25.0% 6,390人 30.2% 進学者・教育訓練機関等 その他 【P28-29】 研究開発レポート 注意障害に対する学習カリキュラムの開発 障害者職業総合センター職業センター  当機構(JEED)の障害者職業総合センター職業センターでは、休職中の高次脳機能障害者を対象とした職場復帰支援プログラムと、就職を目ざす高次脳機能障害者を対象とした就職支援プログラムの実施を通じ、障害特性や事業主ニーズに対応した先駆的な職業リハビリテーション技法の開発に取り組んでいます。  さて、今回焦点をあてた「注意」の機能は、「すべての認知機能の基盤である」といわれています。「注意」の機能が十分に働かないと、より高次にある「記憶」などはその機能を十分に発揮できません。当センターの利用者の中にも、「記憶」の機能への対処に取り組んでいても効果の出なかった人が、意識的に指示に注意を向けることで覚えることができたなど、「注意」の機能へのアプローチは高次脳機能障害者の就労支援において有効である例が見られています。  以下、2023(令和5)年3月末に発行した支援マニュアル24「注意障害に対する学習カリキュラムの開発」についてご紹介します。 ●注意の機能について  このカリキュラムでは「注意」の4つの機能に焦点をあてています。1つめは「続けられる力」で、注意がそれずに目的を持った行動を行うことです。2つめは「見つけられる力」で、いろいろな刺激の中からほかの刺激に振り回されないで1つの刺激を選択することです。3つめは、「同時に注意を向ける力」で、2つ以上の刺激に対して同時に注意を向けることで、「運転しながら音楽を聴く」のように「ながら」で表現されるものです。4つめは「切りかえる力」で、1つの行動から別の行動に注意を転換することです。 ●カリキュラムの概要 @カリキュラムの目的  1点めは、「受講者が自分の注意の特徴を知り、他者に説明できるようになること」です。カリキュラムの体験を通して、客観的に自分の特徴が把握できるようにしています。2点めは、「自己対処の方法と職場に配慮を求めることについて整理すること」です。注意を妨げる要因を取り除き、環境を整えるようにします。 Aカリキュラムの構成要素  カリキュラムは各回90分、全5回のグループワークで構成されています。  各グループワークは以下の4つで構成されています。まず、基礎知識を理解するための「講義」です。第1〜3回のグループワークの最初に15〜20分程度行います。2つめは「体験ワーク」です。課題の体験を通して、自分の注意の特徴について確認します。3つめは「意見交換」です。受講者同士が、発表を通して自分の注意の特徴に対する理解を深めます。最後は、「プチトレーニング」です。グループワークの時間外に、グループワークで学んだ内容を、日常生活や職業(作業)の場面と具体的に関連づけて体験するものです。「注意」の機能を補う対処策を継続的に使えるようにするために行います。 ●カリキュラムの具体的な内容 【第1回グループワーク】  「続けられる力」と「見つけられる力」について取り上げています。読み上げた新聞記事を聞き取る体験を通して耳で聞く「続けられる力」、意味の無いひらがな文の「ら」の文字を〇で囲む体験を通して目で見る「続けられる力」について確認します。また、同時に読み上げた2つの新聞記事のうち片方のみを聞き取る体験を通して耳で聞く「見つけられる力」、間違い探しを通して目で見る「見つけられる力」について確認します。 【第2回グループワーク】  「同時に注意を向ける力」と「切りかえる力」について取り上げています。  ここで読者のみなさんにも、「同時に注意を向ける力」の体験をしていただきます。左の問題の「偶数で40以下の数字」に〇をつけてください。左上から始めて、右の方へ順に進めます。1行終えたら、下の行をまた左から右へ行います。同時に注意を向ける体験なので、40以下の数字をひろってから偶数を選ぶのではなく、同時に2つの条件を満たす数字を見つけてください。(解答はこのページの左下にあります)  みなさん、体験してみてどのような感想を持たれましたか?体験ワークを実施すると、どうしても正解不正解が気になってしまいますが、ここでは注意の機能がそれぞれどのようなものであるかを体験し、理解することが目的です。グループワークの中でも、受講者が体験を通して気づいたことを大切にしています。  また、プチトレーニングは、「切りかえる力」 に関する課題です。課題の1つは、「〇月〇日の〇時にスタッフに好きな曲について教えてください」等、指示した日時に受講者から支援者に伝えてもらいます。もう1つは、日時を伝えずに、支援者から受講者に質問する課題で、「指定された日時以外に、こちらから声をかけることがありますので、質問されたら答えてください」と伝えておきます。どちらも、作業の途中などで切りかえて対応できるかを確認しています。 【第3回グループワーク】  注意を妨げる要因について、内的環境(感情・体調・興味など)と外的環境について説明します。  「整った環境(静かで整理整頓してある環境)」で課題に取り組んだときと、視覚的に「散らかっている環境」や聴覚的に「雑談が聞こえる環境」で課題に取り組んだときを比較して、自分の注意にどのような影響が生じるかを確認してもらいます。 【第4回グループワーク】  自分の注意の機能を発揮しやすい環境について、気づくための回です。ノイズキャンセリングヘッドホンやルーペ、パーテーションなど、実際に対処するためのツールを体験してもらいます。また、パソコンを使用する際、注意の機能を発揮するために活用可能であるWindows10の標準機能について紹介します。具体的には、読み上げ機能、画面拡大、ディスプレイ設定、タッチキーボードを体験して、自分にとって有効な方法かを確認してもらいます。 【第5回グループワーク】  第1〜4回までのまとめをしたあと、自分の注意の特徴についてまとめて発表してもらいます。その後、発表内容について意見交換をして、理解を深めていきます。 ●実施上のポイント  カリキュラムはグループワーク形式で実施することを想定していますが、複数人が集まれない場合は単独で実施することも可能です。  第1回の開始に間に合わなかったり、注意障害に対する抵抗感が強い場合などは、体験が中心である第3回や第4回から参加することもできます。  また、「注意」の機能に苦手意識のある発達障害者や精神障害者も活用可能です。 ●効果測定  本支援技法の効果測定は、神経心理学検査、作業検査、質問紙、セルフモニタリング、行動観察等により実施しました。各種検査の結果は、カリキュラムの実施前後で、「注意」の機能そのものが変化したとはいいきれない内容でした。しかし、セルフモニタリングや行動観察の結果からは、自分の注意の特徴を認識し、対処手段を取り入れる姿が見られ、カリキュラムの実施による効果が一定程度あったと考えられました。 ●おわりに  支援マニュアル24「注意障害に対する学習カリキュラムの開発」は、障害者職業総合センターホームページに掲載しています(★1)。また、冊子の配付を希望される場合は、下記にご連絡ください(★2)。 ★1 「支援マニュアルNo.24」は、https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/support24.htmlよりダウンロードできます。 ★2 障害者職業総合センター 職業センター TEL:043-297-9043 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/center.html 〔問題〕 出典:中島恵子『みんなでわかる高次脳機能障害 生活を立て直す脳のリハビリ「注意障害」編』(保育社、2012年) 【解答】 【P30】 ニュースファイル 国の動き 厚生労働省 雇用分野の障害者差別等相談件数実績  厚生労働省は、都道府県労働局やハローワークにおける「雇用の分野における障害者の差別禁止・合理的配慮の提供義務に係る相談等実績(令和4年度)」を公表した。このうちハローワークに寄せられた障害者差別および合理的配慮の提供に関する相談は225件で、対前年度比7.8%減となった。うち障害者差別に関する相談は37件(対前年度比32.7%減)、合理的配慮の提供に関する相談は188件(同0.5%減)。また労働局長による紛争解決の援助申立受理件数は1件(前年度2件)、障害者雇用調停会議による調停申請受理件数は9件(同10件)だった。 https://www.mhlw.go.jp/content/11704000/001100985.pdf 厚生労働省 事例をふまえた雇用管理などの事業主向けリーフレット  厚生労働省は、農園やサテライトオフィスなどで障害者雇用のための業務を提供する「障害者雇用ビジネス」の実態調査をふまえ、職場環境の整備や適正な雇用管理のための企業の望ましい取組みをまとめたリーフレットを公表した。  同省の調査によると、全国で23法人が計125カ所(うち農園91カ所、サテライトオフィス32カ所)で障害者雇用ビジネス事業を運営し、利用企業は1081社以上、就業障害者数6568人以上(2023(令和5)年3月末現在)だった。あきらかに法令に反する事例は確認されていないが、障害者雇用促進法の趣旨に照らして疑義が残る事例などがあったとしている。 https://www.mhlw.go.jp/content/001118350.pdf 厚生労働省 テレワーク雇用の相談窓口  厚生労働省は今年度事業として、ICTを活用した障害者のテレワーク雇用を検討または導入している企業を対象に、具体的な課題の解決に向けたサポートを行う相談窓口を開設した。「情報収集中だ」、「相談事項が明確ではない」といった手探り状況でも、専門アドバイザーが他社事例の紹介や課題整理に向けた支援を行う。事業の委託先は株式会社D&I(東京都)。  受入れ前から採用、さらに定着や戦力化までを1社あたり最大5回まで無料でサポートする。原則オンラインでの実施だが、内容によって電話または直接訪問による相談も可能。  詳細や問合せは「障害者のテレワーク雇用を推進する企業向け相談窓口」のホームページ、Eメール、電話で受けつけている。 https://www.mhlw-telework.com/support@mhlw-telework.com 電話:03−5577−6240(平日9時〜16時) 生活情報 東京 羽田空港で「電話リレーサービス」  「日本空港ビルデング株式会社」(大田区)は、「一般財団法人日本財団電話リレーサービス」(千代田区)と連携し、羽田空港第1・第2ターミナル地下1階案内カウンターなどで「電話リレーサービス」の提供を開始した。同サービスは、聴覚や発話に困難のある人と聴こえる人との会話を、通訳オペレータが「手話」または「文字」と「音声」を通訳することで、即時双方向につながるユニバーサルサービス。利用者はスマートフォンやタブレット、パソコンを使ってオペレータと手話で会話し、電話を利用できる。あらかじめ電話リレーサービスアプリをインストールし、事前登録済みの端末を備えつけのスタンドに固定しながら使用する。詳細は「電話リレーサービス」ホームページで。 https://nftrs.or.jp/ 本紹介 「点字毎日」創刊100年記念の連載と関連の年表をまとめた点字冊子  株式会社毎日新聞社は、同社が発行する週刊点字新聞「点字毎日」が、2022(令和4)年5月に創刊100年を迎えたことを記念し、連載した「点字毎日が伝えてきたもの 100年の歩み」と、関連の年表をまとめた点字冊子を発行した。  点字毎日が100年にわたって伝えてきた視覚障害者文化をふり返る企画で、2021年5月から連載した25回分の記事と年表をまとめた。同企画は2023年3月に「第30回坂田記念ジャーナリズム賞」を受賞し、「時代背景とともに、障害者を取り巻く状況の変遷や政治的・社会的権利獲得の歴史が多彩に描かれている」との評価を受けている。  点字冊子はA4サイズ(60ページ)で全3巻。希望者には点字データを収録したCD−ROMを追って郵送。定価4000円(公費助成制度を利用する場合は自己負担額800円・税込)。公費助成制度で購入する人には発行証明書を送る。申込みは点字毎日図書係まで。 電話:06−6346−8388 【P31】 ミニコラム 第27回 編集委員のひとこと 感謝される障害者雇用が好き 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子  今回取材した「スシロー難波アムザ店」は、大阪メトロ御堂筋(みどうすじ)線なんば駅の改札を出て、地上への階段を上がったすぐのところ、大型サウナが入店するビルの4階にある。「これは相当人気店だろう」と想像にたやすい立地だ。一方で、都市部の飲食や小売店舗では、スタッフの確保が課題だといわれるが、スシロー難波アムザ店も例外ではないそうだ。障害者スタッフチームが開店前の清掃を担当し、お店がきれいになる。来店したお客さまもうれしい、人手不足に悩む店舗も助かる。感謝される仕事は障害のあるスタッフたちのやりがいにもつながる。私は、こういう障害者雇用が大好きだ。株式会社あきんどスシローのマネージャーからは「すべての店舗の清掃を障害者チームで担当してほしい」といわれるほど大好評なのだが、目下の課題はトレーナーの採用だとうかがった。記事を読んだ方でトレーナーに応募したい方、トレーナー候補を紹介したい方からの問合せがあることを祈っている。 ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は大塚委員が執筆しています。ご一読ください。 アビリンピック マスコットキャラクター アビリス 2023年度地方アビリンピック開催予定 9月〜11月上旬 北海道、青森県、神奈川県、新潟県、石川県、山梨県、山口県、徳島県、大分県 *開催地によっては、開催日や種目ごとに会場が異なります *  は開催終了 ※全国アビリンピックは11月17日(金)〜11月19日(日)に、愛知県で開催されます。 地方アビリンピック 検索 ※日程や会場については、変更となる場合があります。 「第10回国際アビリンピック」金賞の中川直樹さん 内閣総理大臣表彰  2023年3月にフランスのメッス市で開催された「第10回国際アビリンピック」の歯科技工種目で金賞を受賞した中川(なかがわ)直樹(なおき)さん(埼玉県)が、内閣総理大臣表彰を受けました。  6月26日に首相官邸で行われた表彰式では、日本選手団の団長を務めた当機構(JEED)の輪島(わじま)忍(しのぶ)理事長による結果報告のあと、岸田(きしだ)文雄(ふみお)内閣総理大臣から中川さんに賞状が手渡されました。中川さんは「応援していただいたみなさまのおかげで15年越しの金メダルを勝ち取ることができました。国際大会の舞台に立てたことを誇りに思うとともに、金メダル以上に最高の仲間ができたと思っています」などとお礼の言葉を述べました。岸田総理は「中川選手の、目標に向かって日々技術を磨いてこられた姿勢は、全国で技術者を目ざす障害のある方々にとって目標となり、励みとなりました。今回のメダルを機に、後進の指導を含め、日本の技術向上に貢献していただくことを期待します」などと中川さんを激励しました。 写真のキャプション (左から) JEEDの輪島忍理事長、内閣総理大臣表彰受賞の中川直樹さん、岸田文雄内閣総理大臣、畦元(あぜもと)将吾(しょうご)厚生労働大臣政務官 【P32】 掲示板 受講者募集! 2023(令和5)年度 就業支援課題別セミナーのご案内 受講料無料  当機構(JEED)では労働、福祉、医療、教育などの分野で障害のある方の就業支援を担当している方を対象として、新たな課題やニーズに対応した知識・技術の向上を図るため、「就業支援課題別セミナー」を実施しています。 令和5年度のテーマは「精神障害者の短時間就労について 〜週所定労働時間10時間から20時間未満の労働者の雇用に向けて〜」です。 内容 ●「障害者の週20時間未満の短時間雇用に係る調査研究」について ●就労支援機関および医療機関における精神障害者の短時間就労に関する支援について ●精神障害者の短時間就労に関する雇用管理の実際日程および開催方法 日程:令和5年12月6日(水) 開催方法:オンライン形式 申込受付期間 令和5年9月27日(水)〜11月1日(水) お申込み方法 お申込み方法については9月にホームページに掲載します。 お問合せ先 職業リハビリテーション部人材育成企画課 TEL:043-297-9095 E-mail:stgrp@jeed.go.jp 読者アンケートにご協力をお願いします! 回答はこちらから→ メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 次号予告 ●この人を訪ねて  まちごと美術館cotocoto(新潟県)の館長で、株式会社バウハウス(新潟県)代表取締役の肥田野正明さんに、障害のある人の活躍の場をつくり、広げていくための事業や、その取組みのヒントについてうかがいます。 ●職場ルポ  精密部品の加工や検査を行う有限会社鹿屋電子工業(鹿児島県)を訪問。障害特性に配慮し、障害者雇用の環境と体制を整える現場の様子を取材しました。 ●グラビア  産業廃棄物処理、リサイクル事業などを行う有限会社ローズリー資源(青森県)を取材。地域と連携した取組みについて紹介します。 ●編集委員が行く  諏訪田克彦編集委員が、株式会社ナリス化粧品の特例子会社、株式会社ナリスコスメティックフロンティア(兵庫県)を訪問。障害のある社員が、能力を発揮できるようにする工夫などをお伝えします。 公式ツイッターはこちら! @JEED_hiroba 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 本誌購入方法  定期購読のほか、最新号やバックナンバーのご購入は、下記へお申し込みください。  1冊からのご購入も受けつけています。 ◆インターネットでのお申し込み 富士山マガジンサービス 検索 ◆お電話、FAXでのお申し込み 株式会社広済堂ネクストまでご連絡ください。 TEL 03-5484-8821 FAX 03-5484-8822 あなたの原稿をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 境 伸栄 編集人−−企画部次長 中上英二 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6526(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp/ メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●発売所−−株式会社広済堂ネクスト 〒105−8318 東京都港区芝浦1−2−3 シーバンスS館13階 電話 03−5484−8821 FAX 03−5484−8822 9月号 定価141円(本体129円+税)送料別 令和5年8月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP代表取締役 大塚由紀子 トヨタループス株式会社 管理部次長 金井 渉 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 弘前大学教職大学院 教授 菊地 一文 岡山障害者文化芸術協会 代表理事 阪本 文雄 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 サントリービジネスシステム株式会社 課長 平岡 典子 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲 信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨 岐子 筑波大学大学院 教授 八重田 淳 常磐大学 准教授 若林 功 【裏表紙】 令和5年度 障害者雇用支援月間ポスター このポスターの原画は、障害のある方々などから募集したものです。絵画・写真コンテストの入賞作品は、本誌グラビアで紹介しています。 9月号 令和5年8月25日発行 通巻551号 毎月1回25日発行 定価141円(本体129円+税)