私のひとこと 見えにくい困難に気づいてほしい 〜LDなど発達障害のある人の現状〜 特定非営利活動法人全国LD親の会 副理事長 多久島睦美 全国LD親の会とは  特定非営利活動法人全国LD親の会は、LD(Learning Disabilities:学習障害)など発達障害のある人の人権が守られ、活き活きと暮らすことのできる社会の実現を求め、教育・福祉・医療・労働などの問題について、関係機関・関係団体と交流・連携しながら、調査研究、社会的理解の向上、諸制度の創設・改善を働きかけるなどの活動に取り組んでいます。1990(平成2)年に発足し、現在は30都道府県の親の会36団体が加盟しています。LDだけでなく、ADHD(注意欠如・多動症)・自閉スペクトラム症などさまざまな発達障害のある仲間がともに活動しています。各地域の親の会には、学齢期から壮年期まで幅広い年齢の子どもをもつ会員が所属しており、青年本人の交流の場を設けて、同じ経験をもつ当事者同士が悩みや不安を共有し合えるピアサポートの場も提供しています。 LDなど発達障害のある人の現状  発達障害のなかでもLDは、知的な遅れがないにもかかわらず、読む・書く・計算するといった特定の学習に困難を抱える障害です。LDには、読むことに困難がある「読字障害(ディスレクシア)」、書くことに困難がある「書字障害(ディスグラフィア)」、数や計算に関する理解が困難な「算数障害(ディスカリキュリア)」などがあります。ひらがなや漢字の習得が困難だったり、漢字を読めても書けない、暗算ができないなど、人によって特性はまちまちです。また、読み書きに加え、コミュニケーションの苦手さや不注意で忘れ物やミスが多いといった困難もあわせもつ人がほとんどで、自閉スペクトラム症やADHDと読み書き障害の両方がある人もいます。仕事上だけでなく「契約書が読めない」、「公的手続きの申請書が書けない」、「交通案内の看板が読めない」など、日常生活でもさまざまな困難を抱えています。「自分は読み書き・計算が苦手」と自覚していても、それが障害だと気がついていない人も多いのではないかと思います。  近年、「大人の発達障害」が社会問題となっています。学生時代はなんとかやり過ごせても、社会に出てから仕事や人間関係で困難が生じ、障害が顕在化してきます。不適応を起こして抑うつ状態になり、医療機関を受診して30代・40代になって初めて発達障害と診断されるケースも増えています。子どものころからさまざまな困難を抱えていたにもかかわらず、親にも先生にも見過ごされ「努力が足りない」と叱責され、自己肯定感が低くなってしまったり、鬱(うつ)や不安障害などの二次障害を発症してより深刻化してしまうケースもあります。職場で「書類が読めない」、「報告書を作成できない」と自己申告するのは、かなり精神的負担が大きく、わかったふりをしてしまう場合もあるかと思います。全国的にLDの診断ができる医療機関が少ないことに加え、「読み書きが苦手」という理由で医療機関・相談機関に行くことがないことから、困難があるにもかかわらず、LDの診断を受けている人が少ないのが現状です。また、LDの診断だけでは、障害者手帳を取得できないため、一般就労している人のなかにも読み書きに困難を抱えている人が一定数存在していると推測されます。 発達障害のある人の就労状況 〜会員調査より〜  全国LD親の会では2025(令和7)年1〜3月に、18歳以上の子どもをもつ会員および本人を対象とした「教育から就業への移行実態調査X」を実施し、現在集計作業を行っています(2026年度に報告書を発行する予定です)。この調査は2003年から継続して実施しており、支援制度の利用状況や就労状況などについて調査しています(今回の調査の回答数は保護者411人・本人207人)。現在の就労状況は、一般就労19%、障害者枠での就労40%、就労継続支援事業所(A型・B型)14%、また障害者手帳の取得率は80%(学生を除く)となっており、軽い障害と誤解されがちな発達障害ですが、厳しい就労状況にあります。  全国LD親の会では、2019年度に厚生労働省の委託を受けて、「発達障害者の顕在化されにくい読み書き困難の現状」について実態調査を行い、報告書をホームページ(※)に公開しています。こちらもご参照いただけたら幸いです。 発達障害のある人が働き続けるために  LDなど発達障害のある人が働き続けるためには、合理的配慮が非常に重要です。読み書き障害のある人は文書の読み取りに時間がかかったり文書の作成がむずかしい場合があり、書類中心の業務では能力が十分に発揮できないこともあります。実務的には、音声読み上げや音声入力・スケジュール管理などICTツールを導入することも助けとなります。当事者からも「電話でやり取りしながらメモを取ることができない」、「パソコンで入力した文章を読み直しても、漢字の誤変換に気づけない」、「読み書きができないことで、職務能力を低く評価されてしまう」といった悩みも聞かれます。読み書きの困難さについて理解されず、叱責されることが続くと自信をなくしたり自己肯定感が下がったりして、ストレスを抱えることになってしまいます。本人が自分の得意・不得意を把握して、苦手な業務への対処法を工夫したり、困っていることを相談できる環境も必要です。  発達障害への理解は進んできましたが、一般社会ではまだまだ「努力不足」、「職場の困った人」と誤解されることも多く、同僚の障害理解も重要です。以前、当事者の方から「外国籍の人が多い職場なので、スケジュールや作業手順が、図や写真など視覚的にわかりやすく提示されているので助かっている」という話を聞いたことがあります。合理的配慮は、「特別扱い」ではなく「働きやすさの調整」です。業務内容を見直し、視覚的・構造的にわかりやすくするなどの合理的配慮によって、障害のある人だけでなく、だれもが働きやすいユニバーサルな職場になってほしいと願っています。 多久島 睦美 (たくしま むつみ)  特定非営利活動法人全国LD親の会副理事長、あいちLD親の会かたつむり副代表。  発達障害(LD・ADHD)のある次男の小学校入学を機に、親の会に入会。その後、愛知県の親の会の代表を10年ほど務める。次男が就職して20年目を迎え、職場でのサポートによって働き続けられていることに感謝の思いで、母として発達障害と向き合った経験をもとに、家族支援や啓発活動に取り組んでいる。  読み書きに困難がある人が身近にいることを知ってほしい…全国LD親の会では、公開フォーラムや特別支援教育支援員養成講座などを開催し、イベントや情報発信を通じて、発達障害のある人への理解を広げる活動に取り組んでいる。 ※https://www.jpald.net/book/index.html