クローズアップ はじめての障害者雇用 〜職場定着のための取組み〜 第3回 職場で起きた課題への対処  障害のある人をはじめて雇用する企業にとって、雇用そのものの実現は大きな一歩です。しかし、障害のある人が「継続して安心して働き続けられる」職場づくりこそが、雇用の真の成功につながることはいうまでもありません。  そこで第3回は、「職場で起きた課題への対処」をテーマに、職場で改善すべき課題が発生したときの考え方や、原因の検討から改善策の立案・実施、その後の取組みまで、具体例を交えながら紹介します。 課題が起きたときの対処 解決に向けた流れについて  職場で改善すべき課題が生じたときは、課題の原因となった行動の背景と、障害のある人が置かれている環境の情報を集めて状況を把握することが解決への第一歩です。  職場で起こる課題は同じ内容にみえても個別性が高く、障害のある人の特性や職場の状況によってその原因は異なるため、一律の改善策はないといえます。だからこそ「問題となる行動と本人の置かれている環境の情報を集め、原因を考えること」が重要となります。そのうえで原因に対応した改善策を考え、望ましい行動を増やすための仕組みを整備していきます。  左の表は、障害のある人が働く職場での課題解決に向けたワークフローです。このフローは、本人の望ましい行動の継続や今後の目標の設定にもつながりますので、職場定着をうながす大切な取組みとなります。  なお、課題への対処について、本人を支援している支援機関がある場合には、本人の同意を得たうえで、対処に役立つ情報を収集することも有効です。また、課題が生じた原因に、本人の職場以外のふだんの生活やプライベートが関係している場合は、家族や生活面を支える支援機関と連携することも必要です。  次ページでは、具体例として二つのモデルケースを紹介します。ぜひ参考にしてみてください。 就労支援機器を活用しよう!  障害のある人が仕事をする際には、さまざまな課題が生じることがあります。就労支援機器は、障害のある人が従事する作業を容易にし、効率的に遂行するために必要な機能を備えています。  例えば、印刷物をカメラで拡大して読みやすくする機器、遠くにいる相手の声をキャッチし、補聴器に声を送信する機器、パソコンのマウス操作を補助する機器、周囲の音を遮る機器など、さまざまな特徴を持っています。  障害特性や職務内容など本人の状況に応じた機器を導入することで、職場環境が整い、課題解決の一助となることもあります。  当機構(JEED)では「就労支援機器貸出・相談窓口」を設け、就労支援機器を展示しているほか、就労支援機器アドバイザーが、障害者の就労を支援する機器の紹介や活用方法に関する相談を行っています。就労支援機器を紹介するサイトもありますので、いろいろな機器を見ることができます。 おわりに  これまでご紹介した対応策は、本人が安心して取り組める職場づくりと、望ましい行動の定着につながります。企業の担当者と本人が協力し、改善のプロセスをくり返しながら、定着支援を充実させていくことが大切です。  次回は「職場定着のための人材育成とキャリア形成支援」をお届けします。 表 職場の課題解決に向けたワークフロー 1 問題となる行動と本人が置かれている環境の情報を集めて原因を考える  問題が起きたときの本人の気持ちや周囲の人の意見も聞きながら情報収集し、幅広い視点で原因を考えます。 ・どのような状況(場所、時間)で起きたか ・きっかけは何か ・具体的にどのような対応をしたか ・周囲の人とのかかわりはあったか など 2 原因に対応した改善策を考える(さまざまな改善策を組み合わせる)  その問題となる行動を止めさせようとするだけではなく、望ましい行動を増やすという視点で、原因に対応した改善策を考えます(本人と一緒に考える方法もあります)。改善策は、本人にも理由を説明して同意を得て実行します。 ・本人が取り組むこと ・企業の担当者等が取り組むこと ・改善につながる環境を設定すること など 3 改善に向けて取り組み、企業の担当者と本人とでふり返りを行う  改善に向けて取り組んだことについては、企業の担当者と本人とでふり返りを行います。 ・改善できたことや改善に向けて取り組んでいることを評価する ・大事なのは、企業の担当者と本人が、「これならできる、効果があった」などを感じられること 思ったような改善がみられないなどの場合は、1に戻って再度検討します。 「はじめての障害者雇用〜事業主のためのQ&A〜」(JEED)をもとに編集部作成 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003kesx.html 課題発生から事後対応、解決までのモデルケース  課題が発生したときの改善策を考える場合には、企業の担当者と本人を交えて一緒に考えるという方法もあります。その際は一方的な指示にならないように配慮し、本人に理由を十分に説明し、同意を得て進めることが大切です。 ケース1 パソコン入力作業で、その都度指示を受けて作業するが、ミスが多発 →「ミスしないで」と注意するだけではなく… 1 原因の例 本人 指示や手順が理解できていないが正しく作業していると思っている/作業量が多く処理できない/複数の指示があると混乱しやすい/集中が続かない 企業の担当者 作業リズムができていないのではないか/わからないときに質問できていないのでは/指示系統が統一されていない/説明が長いかもしれない 環境 雑音が多い環境なのがよくないかもしれない。 2 改善策の例(さまざまな改善策を組み合わせる) ・わかりやすい手順書やチェック表の作成。 ・指示を出す担当者を統一し、要点やポイントを強調して伝える。 ・質問できるように最初の言葉や合図などをあらかじめ決めておく。 ・小さな目標(時間や量)を設定して伝える。 ・耳栓などで集中できる環境を整える。 ・水分補給や肩回しなどの小休止を取り入れ、長時間作業の負担を軽減するなどリズムをつくる。 ケース2 部品の組立作業中、感情的になって部品を投げる →「投げないで」と注意するだけではなく… 1 原因の例 本人 手順がわからない/想定外のトラブルで焦った/寝不足や不安が影響している/嫌なことを思い出した 企業の担当者 うまくいかないときや失敗したときにイライラしやすいようだ 環境 周囲で急に大きな音がしたために驚いたのかも。 2 改善策の例 ・正しい手順や見本を示しながら説明する。 ・ミスしやすい箇所を写真やイラストなどでわかりやすく示す。 ・部品は会社の資産であり損失につながることを説明し、「部品を投げない」と目標化する。 ・イライラしたときの対処法(周囲に伝える・外に出て深呼吸などクールダウンをする方法)を助言する。 ・プライベートな要因や生活習慣などに原因があれば家族や生活面の支援機関に協力を依頼する。 「はじめての障害者雇用〜事業主のためのQ&A〜」(JEED)をもとに編集部作成 参考! 就労支援機器の紹介サイト  障害のある人が業務をより容易かつ効率的に行うために役立つのが「就労支援機器」です。障害特性に応じて、例えば視覚障害者を対象とした拡大読書器や画面読み上げソフト、聴覚障害者を対象とした補聴システム(集音システム)など多様な機器があり、テクノロジーの進化とともに現場で活用できる製品も増えています。 障害者の就労を支援する機器を、製品ごとに写真などで紹介 https://www.kiki.jeed.go.jp/index.php 就労支援機器貸出・相談窓口 https://www.jeed.go.jp/disability/employer/employer05.html 就労支援機器の地方説明会等 https://www.jeed.go.jp/disability/employer/kiki_setsumeikai_chihou.html