研究開発レポート 職場における情報共有の課題に関する研究 ―オンラインコミュニケーションの広がりなど職場環境の変化を踏まえて― 障害者職業総合センター研究部門 事業主支援部門 1 はじめに  職場における情報のやり取り(コミュニケーション)について、障害に起因する課題に直面している障害者は少なくありません。職場で共有される情報には、業務に関するものだけでなく、業界の動向や職場周辺のローカルニュース、趣味の話題など、直接業務にかかわらないけれど職業生活において有益なさまざまな事柄も含まれます。業務指示以外のものも含めた職場での情報のやり取りについて、障害種別を超えて全体的にとらえようとする調査は、職業リハビリテーションの分野では少なかったように思われます。  障害者職業総合センターでは、あらためて障害者が情報のやり取りについてどのような課題に直面し、どのような配慮を必要としているのかを明らかにするとともに、課題解消に向けた取組事例を把握するための調査研究を実施しました。本稿では、調査研究結果のなかから企業アンケート調査の結果の一部を紹介します。 2 調査方法  調査研究の一部として企業アンケートを実施しました。厚生労働省から提供を受けた令和4年障害者雇用状況報告(2022〈令和4〉年6月1日)において障害者を雇用していると報告した企業のなかから1万社を抽出し、人事・労務担当者または障害者の上司等、障害のある社員(職員)のコミュニケーションの状況を把握している方々へ回答を求めました(有効回答数は1217社、有効回答率は12.2%)。 3 調査結果からの抜粋  コミュニケーションについて課題が指摘されるおもな障害種別のなかでは、認知機能に障害のある障害種別(知的障害、精神障害、発達障害)と感覚機能に障害のある障害種別(視覚障害、聴覚・言語障害)で、実施されている配慮等に特徴の違いがありました。そこで、業務指示に関する情報のやり取りと、業務指示以外の内容を含んだ情報のやり取りのそれぞれについて、認知機能に障害のある障害種別と、感覚機能に障害のある障害種別の社員(職員)に対する企業の配慮を整理します。 (1)業務指示の伝達に関する取組み  企業アンケートで明らかになった、企業が業務指示の伝達に関して行っている配慮を見ると、認知機能に障害のある障害種別と、感覚機能に障害のある障害種別で、それぞれ多くの取組みが行われていることがわかりました(図1)。認知機能に障害のある障害種別では、企業は業務指示の伝達にあたり、伝達する情報を簡潔にあらためるほか、複数の指示を区切って順番に伝えたり優先順位を明確にしたりする配慮を行うことで認知的な負荷を減らし、指示役を固定化したり指示内容をその場で確認したりすることも含めて、指示内容が間違って伝わることを予防していました。  一方で、感覚機能に障害のある障害種別については、企業は見え方や聞こえ方に配慮したコミュニケーション手段を用いることで、業務指示が間違いなく伝わるようにしていることがわかりました。 (2)業務指示以外の情報のやり取りに関する取組み  職場においては、業務指示以外にもさまざまな通知、情報提供などが行われ、それらについても障害者が把握し、理解することが必要とされます。企業アンケートによると、認知機能に障害のある障害種別では、企業は業務指示以外の情報共有に関して、朝礼や定期的なミーティングの場で必要な情報を周知したり、上司等が必要な情報の把握状況を確認したりすることで、障害者に必要とされる情報が伝わるように配慮を行っていました。  視覚障害と聴覚・言語障害といった感覚機能に障害のある障害種別では、企業は業務指示以外の情報共有に関して、視覚障害者に掲示物などについて別途情報提供する、聴覚障害者に社内の放送等の内容を書面等で渡すなど、本人が受け取りやすい媒体・方法での情報共有を試みていました。そのほか、朝礼や定期的なミーティングの場で必要な情報を周知する、上司等が必要な情報の把握状況を確認するなど、必要とする情報が伝わるように配慮を行っていました(図2)。  また別の問いで、障害のある社員(職員)と上司や同僚との情報交換、交流をうながすために企業が行っていることを質問したところ、朝礼やミーティングの場での情報交換をうながすことや、歓送迎会や忘年会等の交流の機会の提供など、職場で一般的に行われる内容が確認されました。そのほかに、交流が苦手な社員には無理に会話に加わることをうながしたりせず一人で過ごせるよう配慮している場合もありました。 4 まとめ  企業アンケートの結果より、障害者が勤務する企業において業務指示やそのほかの通知などの情報が障害者に届くための情報保障と、情報を理解し対応できるような配慮を行っていることがわかりました。雑談やイベントなどの交流の機会に障害者も迎え入れ、一人の時間を大切にするという配慮を含め、さりげなくサポートしていることも明らかになりました。こうした取組みについて、調査研究のなかで実施した企業および障害者へのヒアリング調査で把握した事例を基に、マニュアルNo.83「障害者の働く職場のコミュニケーションに関するアイデア集」(※1)を作成しました。職場のコミュニケーションにおける配慮や工夫の参考としていただければ幸いです。  本稿の元となる「調査研究報告書179」(※2)はNIVRホームページからご覧いただけます。 ※1 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai83.html ※2 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku179.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室 (TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 図1 企業が業務指示の伝達に関して行っている配慮 知的障害(n=322) 精神障害(n=216) 発達障害(n=39) 視覚障害(n=34) 聴覚・言語障害(n=78) 1:指示内容をシンプルにし、平易な言葉で伝える。 2:口頭での伝達が把握されにくい等の場合、手話や筆談、文字変換アプリなど、当該社員(職員)の理解しやすいコミュニケーション手段で伝える。 3:指示内容の正確な理解や定着のために、指示は口頭だけでなく、書面でも渡す。 4:指示を文書で示す場合、拡大印刷や電子ファイルなど、障害のある社員(職員)の見え方に適した形で提供する。 5:指示内容を把握しやすいように、図や絵を用いて伝える。 6:指示はメールやチャット、SNSなどで伝える。 7:指示役を固定化することで、情報の混乱を避けるようにする。 8:複数の指示を伝える際には、優先順位を明確にする。 9:複数の指示を伝える際には、区切って順番に伝える。 10:伝えた指示の内容を理解しているかを、その場で確認する。 11:指示伝達に当たり、障害に関連して特別なことは行っていない。 12:その他 13:無回答 注 折れ線は、同一傾向の障害種別を図示する意図で使用しており、変化量を示すものではない。 図2 企業が業務指示以外の情報共有のため行っている配慮 知的障害(n=322) 精神障害(n=216) 発達障害(n=39) 視覚障害(n=34) 聴覚・言語障害(n=78) 1:建物内の掲示物については、車いすの高さでも読みやすいよう留意している。 2:(視覚障害など)掲示物を読むことができない社員(職員)には、別途情報提供する機会を設けている。 3:(聴覚障害など)放送内容を把握できない社員(職員)に対しては、その内容を書面等で示すようにしている。 4:朝礼や定期的なミーティングの場で、必要な情報を周知するようにしている。 5:社員(職員)への通知はすべてメールやチャット、SNSなどで行っている。 6:必要な情報はすべてグループウェアに保存し、いつでも検索できるようにしている。 7:上司等が、障害のある社員(職員)が必要な情報を把握しているかを確認するようにしている。 8:業務指示以外の情報の共有について、特別なことは行っていない。 9:その他 10:無回答 注 折れ線は、同一傾向の障害種別を図示する意図で使用しており、変化量を示すものではない。