【表紙】 令和7年11月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第578号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2025/12 No.578 職場ルポ 特性や事情にあわせ、柔軟な配慮と支援で安定就労 北陸コカ・コーラボトリング株式会社(富山県)、株式会社べネフレックス能登営業所(石川県) グラビア だれもが働きやすい職場で働く 秋田協同印刷株式会社(秋田県) 編集委員が行く 成長し進化を続けるスーパー特例子会社の挑戦 楽天ソシオビジネス株式会社(東京都) 私のひとこと IoT活用による発達障害者の就労支援の将来像 〜テクノロジー・ファーストによる共創型支援の実践と展望〜 福井大学工学系部門工学領域知能システム工学講座 教授 小越康宏さん 「将来の僕 マジシャン」静岡県・デラクルス クライス チェスター シブノさん 12月号 【前頁】 心のアート みやぎお魚図鑑 翔太郎 (就労継続支援B型事業所あっぷるぷらす) 画材:模造紙、黒の油性ペン、カラーの水性ペン/サイズ:四六判(788mm×1091mm)  絵との出会いは中学校時代の担任が美術教師だったこと。さらに、放課後等デイサービス(あっぷるじゃんぷ石巻(いしのまき))でもアート活動に触れたことで、翔太郎さんの絵の世界を誕生させた。制作ではおもにカラーペンを使い、全体の色のバランスを見ながら、一色ずつ埋めていくのが彼の特徴。初めは「ゾウといえばグレー」、「キリンは黄色に茶色のぶち」といった一般的な色づかいだったが、高等部のころから独特な色彩感覚を発揮するようになった。代表作は「みやぎお魚図鑑」。地元の鮮魚店に貼られている実写のポスターをまねて描いたそう。マゼンタやブルー、イエローなどの鮮やかでカラフルな配色と、パーツごとに細かく塗り分ける、翔太郎さんワールドがよく表現された作品となっている。 (文:NPO法人エイブル・アート・ジャパン、障害者芸術活動支援センター@宮城〈SOUP〉 鎌田(かまた)貴恵子(きえこ)) 翔太郎(しょうたろう) 2002(平成14)年5月29日生まれ 2017年・2023年 「Art to You!東北障がい者芸術全国公募展」入選(宮城県/せんだいメディアテーク) 2022(令和4)年 アウトドアミスト イラスト採用(宮城県/株式会社グリーディー) 2023年 農福連携ビール「つむぐIPA」ラベルデザイン採用(宮城県/一般社団法人イシノマキ・ファーム) 2024年 「Fujisakiday『は虫類館の動物』イラスト公募」藤崎賞受賞(宮城県/八木山動物公園フジサキの杜) 2024年 「杉ハーブティー」ラベルデザイン採用(宮城県/合同会社もものわ) 協力:NPO法人エイブル・アート・ジャパン、障害者芸術活動支援センター@宮城 【もくじ】 障害者と雇用 働く広場 目次 2025年12月号 NO.578 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 心のアート 前頁 みやぎお魚図鑑 作者:翔太郎(就労継続支援B型事業所あっぷるぷらす) 私のひとこと 2 IoT活用による発達障害者の就労支援の将来像 〜テクノロジー・ファーストによる共創型支援の実践と展望〜 福井大学工学系部門工学領域知能システム工学講座 教授 小越 康宏さん 職場ルポ 4 特性や事情にあわせ、柔軟な配慮と支援で安定就労 北陸コカ・コーラボトリング株式会社(富山県)、株式会社べネフレックス能登営業所(石川県) 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 クローズアップ 10 はじめての障害者雇用〜職場定着のための取組み〜 第4回 職場定着のための人材育成とキャリア形成支援 JEEDインフォメーション 12 障害者雇用を進める事業主のみなさまへ 就労支援機器をご活用ください!/障害者雇用のためのマニュアル・好事例集などのご案内/JEEDメールマガジン新規登録者募集中!! グラビア 15 だれもが働きやすい職場で働く 秋田協同印刷株式会社(秋田県) 写真/文:官野 貴 エッセイ 19 ITが切り開く、視覚障害者の新しい可能性 第3回 見えなくても「見やすい」教材をつくる〜全盲教師の新たな授業スタイル〜 株式会社ふくろうアシスト 代表取締役 河和 旦 編集委員が行く 20 成長し進化を続けるスーパー特例子会社の挑戦 楽天ソシオビジネス株式会社(東京都) 編集委員 大野聡士 省庁だより 26 令和7年版 障害者白書概要A 内閣府ホームページより抜粋 研究開発レポート 28 16年間のパネル調査がとらえた障害のある労働者の職業サイクルについて 障害者職業総合センター研究部門 社会的支援部門 ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 読者の声 表紙絵の説明 「この題材を選んだのは、マジシャンが技を披露している姿を、みんなに見てもらって楽しんでもらいたかったからです。マジシャンがあやつる鳥やうさぎをたくさん描きましたが、繊細なタッチで細部までていねいに描くことがたいへんでした」 (令和7年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 中学生の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。 (https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html) 【P2-3】 私のひとこと IoT活用による発達障害者の就労支援の将来像 〜テクノロジー・ファーストによる共創型支援の実践と展望〜 福井大学工学系部門工学領域知能システム工学講座 教授 小越康宏 はじめに  近年、障害者雇用や就労支援の領域では、IoT(Internet of Things、モノのインターネット)やICT(Information and Communication Technology、情報通信技術)の活用が加速している。特に発達障害者支援の分野では、個々の特性に応じた柔軟な対応が求められる一方で、企業側には「どのように配慮すべきか」、「成果をどのように客観的に評価すべきか」といった課題が残されている。  アメリカでは「Technology First」政策が広がり、支援技術を支援の第一選択肢として位置づける制度改革が進んでいる。これは、技術によって支援者を支援し、結果的に本人の自立や社会参加を促進するという考え方である。  Friedman(2023)の調査によると、Technology First施策を実施している州では、遠隔支援や医療アクセスの拡大が進み、障害のある人々の地域生活の質が向上していることが示唆された。OECD(経済協力開発機構)もまた、AIや支援技術の発展が障害者の就業および社会参画を後押しすることを指摘している。  こうした国際的潮流を背景に、日本でも工学・情報・福祉・教育の枠を超えた連携が始まりつつある。筆者らが開発してきたICT個別教育支援システム「ぴこっと」(※1)は、テクノロジー・ファーストの理念と親和性の高い実践的モデルであり、技術と人が協働して支援者を支える新しい支援の形を提示している。 個別教育支援システム「ぴこっと」の概要と実証成果  「ぴこっと」は、学校・家庭・福祉機関・企業をつなぐICT基盤システムであり、発達障害のある人一人ひとりの行動、感情、学習、体調、生活リズムなどを時系列で記録・可視化できる。従来、支援は経験や直感に依存していたが、本システムでは客観的データに基づく支援の根拠化とフィードバックが可能となる。  実証研究を通じて、次のような成果が得られた。 ・作業効率や集中持続時間の可視化により、ジョブコーチが配置や休憩タイミングを精緻(せいち)に判断できるようになった。 ・利用者の自己理解と自己効力感の向上がみられ、就労継続率や生活の安定につながった。 ・学校・家庭・企業間での一次情報共有が容易になり、支援の一貫性が確立された。  さらに、蓄積されたデータの分析により、同じ特性をもつ利用者の支援パターンを参照できるようになり、個別最適化と支援の標準化の両立が実現した。これは、支援を経験に頼る時代から、支援を科学的に理解し再現できる時代への転換を意味している。 IoT・AIによる人と技術の協働支援  「ぴこっと」は研究開発段階から、さまざまなIoT機器との連携を想定して設計されている。これにより、支援者の観察だけでは得られない行動・生理・環境データを客観的に取得できる。これらのデータを用いることで、なぜいま、支援対象者は集中できないのか、どの環境がストレス要因となっているのかなどを科学的に把握できる。  「ぴこっと」との連携を想定し、研究開発してきたIoT機器には以下のようなものがある。 ・CASP(キャス)(会話する植木鉢型デバイス)  植物との対話を通して情緒の安定や責任感を育む。出勤前の水やり行動が生活リズムの形成に寄与し、欠勤率の低下が報告されている。 ・RFIDを用いた忘れ物防止システム  作業道具や私物を自動検知し、忘れ物や紛失を防止。企業からも指導負担の軽減が評価された。 ・GPSによる移動支援システム  通勤や外出経路を可視化し、安全確認と自立的な移動支援を両立。就労移行期の安心感を高めている。 ・スマートグラスによる表情認識支援  対人関係が苦手な利用者に、相手の表情変化をリアルタイムに提示。接客やチーム業務での安定した人間関係形成に寄与した。 ・楽器演奏支援システム  余暇活動を支援し、音楽体験を通じて情緒の安定と集中力向上をうながす。職場定着やストレス軽減にも効果がある。  これらのデータを「ぴこっと」上で統合・解析することで、支援者はデータに基づいた行動理解と介入判断が可能になる。IoTとAIが支援者の第二の目として機能し、人と技術が協働して支援を行う新たな支援様式を生み出している。 ICFに基づく共通言語と時系列解析による支援の一貫性  支援データを共通言語化するため、「ぴこっと」ではICF(国際生活機能分類)(※2)に基づく項目体系を採用している。これにより、教育・医療・福祉・企業が異なる立場でも同一の指標で状況を把握でき、支援の一貫性と継続性が担保される。  さらに、行動・情動・体調の時系列分析により、緻密なライフログをとらえ、介入のタイミングを精緻化できる。  共通言語と時系列解析の導入は、 ・記録業務の重複削減(業務負担の軽減) ・多職種連携の円滑化(意思決定の透明化) ・長期データに基づく効果検証(政策評価への応用) といった多面的なメリットをもたらす。工学的アプローチにより、福祉支援に評価性・信頼性・一貫性がもたらされたといえる。 おわりに  個別教育支援システム「ぴこっと」は、教育・福祉・就労をつなぐ実践を通して、技術が支援者と利用者の双方を支える可能性を示してきた。現在は製品化され、社会実装が進んでいる。業務効率化や合理的配慮の根拠づくり、データ連携による現場改善などが期待される。  テクノロジー・ファーストとは、単に技術を優先することではなく、技術を通して支援者を支え、人と技術が協働する社会を築くことである。AIやIoTは、人に代わる存在ではなく、人を理解し、支え、ともに成長する協働のパートナーである。  今後、IoTの活用は発達障害者の就労支援において大きな可能性を秘めている。生体情報や作業データをリアルタイムに分析することで、個々の特性や体調に応じた最適な支援が可能になる。また、遠隔モニタリングやクラウド連携により、在宅就労や地域間ネットワークの構築が進み、多様な働き方が実現するだろう。IoTを基盤とした支援データの蓄積と活用は、成長の可視化と福祉から就労への円滑な移行を支える新たな仕組みとなる。  「ぴこっと」を核としたこうした取組みは、人と技術がともに学び、支え合う共創社会の実現へとつながっていく。これこそが、日本初のテクノロジー・ファーストの実践である。 ※1 福井工業高等専門学校電子情報システム工学科の小越咲子教授と2009(平成21)年から共同し実証実験や試験運用を経て実運用を進めている ※2 ICF(国際生活機能分類):International Classification of Functioning, Disability and Healthの略。人間の生活機能の分類と、それに影響する背景因子および健康状態の分類で構成され、それらの相互作用において健康状態を総合的にとらえる分類指標。2001年5月、WHO(世界保健機関)総会において採択された 小越 康宏 (おごし やすひろ)  福井大学工学系部門工学領域知能システム工学講座教授。金沢大学大学院自然科学研究科博士課程修了。博士(工学)。専門は福祉工学および社会工学。AI技術を駆使し、特別な支援を必要とする人々の就学から就労、そして自立に向けた支援など、教育や福祉の枠を超えて、地域が一体となって、社会課題の解決に取り組んでいる。支援対象者だけでなく、支援する側へのサポートも重視し、持続可能な社会システムの実現を目ざしている。  大学では、社会性スキルや技能の向上を目的とした「スマートグラスを活用した状況認識・表情認識支援ツール」や「表情表出・同調・発話トレーニングツール」、「教育支援ツール」、「脳波などの生体情報を活用して情動や意志を推定し、情動コントロールや集中を支援するツール」、「IoT農業ツール」などの研究開発を進めている。  特に、福祉に関心を持つ若い工学系技術者が、教育や農工福連携、就労支援などの実践的活動を通じて社会のニーズを探り、支援システムの開発に取り組んでいる。こうした取組みを通して、多様性を認め互いに尊重しながら協業できる人材の育成に力を注いでいる。 【P4-9】 職場ルポ 特性や事情にあわせ、柔軟な配慮と支援で安定就労 ―北陸コカ・コーラボトリング株式会社(富山県)、株式会社べネフレックス能登営業所(石川県)― 飲料水の製造販売を展開する会社では、グループ各社で直接雇用しながら、従業員一人ひとりにあわせた職場環境づくりを図ってきた。 取材先データ 北陸コカ・コーラボトリング株式会社 〒933-0397 富山県高岡市(たかおかし)内島(うちじま)3550 TEL 0766-31-1158 FAX 0766-31-3725 株式会社べネフレックス 能登営業所 〒929-2222 石川県七尾市(ななおし)中島町(なかじままち)字(あざ)中島二部(なかじまにぶ)1-4 TEL 0767-66-2888 FAX 0767-66-2889 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 Keyword:身体障害、知的障害、精神障害、ジョブコーチ支援、企業グループ算定特例 POINT 1 トップダウンで障がい者雇用の専属担当者を置き、内製化や調整を図る 2 一人ひとりの特性や置かれた状況にあわせた、柔軟で細やかな配慮 3 労務の専門知識も活かした、だれもが働きやすい制度や職場づくり 清涼飲料水の製造販売  「北陸コカ・コーラボトリング株式会社」(以下、「北陸コカ・コーラ」)は富山県高岡市に本社を置き、コカ・コーラ製品の製造販売を行う全国五つのボトラー会社の一つとして、富山・石川・福井・長野の4県で清涼飲料水などの製造販売を行っている。1962(昭和37)年設立の「北陸飲料株式会社」が、翌年に日本コカ・コーラ株式会社の指定会社となり、現在の社名に変更して60年以上になる。  障がい者雇用については、23年ほど前に組織的な推進へと本腰を入れることになったという。コーポレートプランニング統括部人事企画課エキスパートの本郷(ほんごう)一利(かずとし)さんは「きっかけは、それまで分社化を推進しながらアウトソーシングを進めた結果、『障害者雇用率』の大きな低下が判明したことでした」とふり返る。  現在は北陸コカ・コーラグループ4社の全従業員924人のうち、障がいのある従業員は22人(身体障がい12人、知的障がい5人、精神障がい5人)で、雇用率は3.29%(2025〈令和7〉年6月1日現在)までになったという。  人事部門を中心としたこれまでの取組みのほか、本社やグループ会社で働く従業員のみなさんを紹介する。 納付金発生を機に  北陸コカ・コーラでは2002(平成14)年、「障害者雇用納付金」(※1)を納めることになったことから、当時の代表取締役社長で現在代表取締役会長を務める稲垣(いながき)晴彦(はるひこ)さんが、「企業の社会的責任を果たすべきである」として、障がい者雇用の積極的推進を社内向けに打ち出した。  これを受けて当時の人事部は同年、障がい者雇用推進の専属担当者1人を配置する。専属担当者はまず社内業務の洗い出しを行い、職場の管理職と協議しながらハローワークへ求人票を出し、面接やトライアル雇用を経て採用していくことにしたという。  最初につくり出したのは清掃業務だ。それまで外部業者に依頼していた本社建物内のトイレや廊下、共有スペースの床などの清掃を社内業務に切り替えた。  実際に求職者のトライアル雇用を行うときには、専属担当者も一緒に作業をしながら、業務内容が本人にマッチするかを見きわめ、各作業にかかる時間などを確認したという。そこから一人ひとりにあわせて1日の作業の流れを「業務予定表」として作成し、想定時間内に必要な作業が完了できるよう訓練を重ねていったそうだ。この際、必要に応じて当機構(JEED)の障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターからジョブコーチ支援を受け、仕事内容や清掃スケジュール、清掃作業について指導を受けながら、本人が1人で作業できるようサポートしてもらった。同時に職場側もアドバイスを受けながら業務の定着を図っていった。  現在、北陸コカ・コーラグループの障がい者雇用推進を担当しているのはコーポレートプランニング統括部人事企画課シニアマネジャーの宮崎(みやざき)としみさんだ。グループ各社の採用から定着、相談窓口、支援機関との連携などを一手に引き受けている。  清掃業務については、重度の知的障がいのある2人と、外部の作業員を加えた計3人で行っているが、これまで試行錯誤もあったようだ。最初の支援が順調にいったからといって、万事うまく定着できるわけでもなかったという。宮崎さんは「しばらく経つと、自己流の清掃内容になったり、スケジュール通りに清掃できなくなったりすることがあります。ときには現場から清掃ができていないとクレームが入ることもあります。またコミュニケーションが苦手なところもあり、同僚とうまくいかないこともあります」と明かしてくれた。  課題が確認された際、通常は総務課の支援担当者や宮崎さんが指導や対応をしているが、大きな業務内容の変更や改善策を検討しなければならないときは、あらためて障害者就業・生活支援センターなどに相談している。その結果、清掃スケジュール表を清掃場所ごとに用意したり、日報の書式を工夫して自己チェックしたりしながらスムーズに作業を進められるようになったそうだ。  清掃業務は日ごろは単独作業が多いが、自己の業務のふり返りやコミュニケーションの円滑化のため、総務課の支援担当者が週1回の面談をもうけている。「労働安全に関する話をはじめ、社内のさまざまな案内事項も共有しながら、会社の一員であるという仲間意識も持てるよううながしています」(宮崎さん) 試験室で働く女性も  本社から車で20分ほど離れたところにある北陸コカ・コーラ砺波(となみ)工場。ここの品質管理課では、精神障がいのある女性が働いている。試験室での洗い物や廃棄物の分別、共有場所の清掃などを担当しているという。  本人の特性などから、「新しい環境や仕事の導入は慎重にして、基本的に定型業務とする」、「一緒に働くメンバーを固定化し、日々の変化を極力少なくする」といった配慮をしているそうだ。現場の支援担当者は「とてもまじめに働いてもらっています」としたうえで、「夏場などは疲れがたまりやすく、以前の作業場所が暑いところだったため、空調の効いた場所での仕事の割合を増やすなど、工夫しています」と話してくれた。 以前は1年で転職していた男性  宮崎さんは、「障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターから継続的に支援やアドバイスをもらっていることもあり、うれしいことに勤続10年になる従業員もいます」と話す。その一人が、石川県白山(はくさん)市にある北陸コカ・コーラの「石川マーケットサービスセンター」で清掃業務を担当している50代男性のSさんだ。精神障がいがあり、それまでの一般企業では1年以内の転職をくり返していたそうだが、就労継続支援A型事業所を経て2016年に入社し、10年目を迎えた。  当初、主治医から「危険や責任をともなう作業は避ける」などの配慮事項が伝えられたほか、支援に入った障害者職業センターの障害者職業カウンセラーや職場適応援助者(ジョブコーチ)からは「本人の特性として、スピードやノルマを求められる作業では焦ってしまいがちなので、落ち着いて正確に作業できる方法や手順が必要」、「職場で相談できる人がいないと心理的な負担が高くなり体調を崩しやすいので、職場内の相談体制を調整する」といった支援計画も提示。計3カ月ほどの支援を受けSさんは安定的に勤務できるようになった。  さらに職場側では、「障害者職業生活相談員」(※2)資格認定講習を受けた北原(きたはら)喜代美(きよみ)さんが、Sさんの支援担当者として仕事の調整や相談を受けている。北原さんはSさんについて「とてもまじめに取り組んでくれています。ただ一生懸命になりすぎて、焦る気持ちを抑えきれず体調を崩しやすいので、日ごろから様子を見て体調管理などのアドバイスをしています」とのことだ。  Sさん自身は「同僚とのコミュニケーションのとり方で苦労することはありますが、清掃後に社員の方から『ありがとうございます』と声をかけてもらい、感謝されることがやりがいにつながっています」として「今後もできるだけ長く勤務したいので、しっかり健康管理もしたいです」と意欲を示している。 細やかな配慮で勤続22年  本社の事業管理部コールセンターでも長年、細やかな配慮を受けながら働いている従業員がいる。Wさんは、入社前から下肢障がいがある。前の職場で働いていたときに股関節の痛みが悪化し、退職を余儀なくされたうえに、日常生活へも影響を及ぼすようになったそうだ。  「当時はあたり前のことだった働くことが遠いものに感じられました。もう一度社会とつながりたいという思いが強かったです」というWさんは、JEEDの職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)で職業訓練を受け、再就職を目ざす。その後ハローワークを通じ、契約社員として2003年に入社した。  面接の際は、身体的な制約があるとして「30分以上の歩行や立ち仕事が困難である」、「階段の上り下りに強い痛みがあるため、できるかぎり避けたい」ことなどを率直に伝えたそうだ。  これを受け職場側は、通勤用の車を停める場所を通用口の近くに指定、エレベータを優先利用できるようにして歩行の負担を軽減した。Wさんは「通用口には手すりが設置され、より安全に出入りできるようになりました。その後はテレワーク制度による在宅勤務もできるようになり、体調などの状況に応じて柔軟に働ける環境になったことは、本当に助かります」という。  Wさんが働き始めたころは、自分だけ配慮してもらっていることに後ろめたさを感じることもあったが、周囲の温かいフォローに励まされたという。「業務以外でも重いものを運ぶときや困った場面で声をかけて助けてもらっています。ここで働けてよかったと感じる瞬間が、これまでにたくさんありました」(Wさん)  2013年に股関節の手術を受けたが、それでも走ったりしゃがんだりすることはできず、階段も一歩ずつしかのぼれないというWさんは最後にこう語る。  「股関節の障がいといっても、歩ける距離や痛みの出方、できる動作はほかの人と違います。一人ひとりの状況に寄り添った柔軟な配慮と対応をしてくれる職場と、同僚のみなさんの温かい支えがなかったら、こうして長年働くことはできなかったと思います」  Wさんの上司である五十嵐(いがらし)学(まなぶ)さんによると、「コールセンター業務は、電話対応やシステム操作など、集中力と正確性が求められるだけに、余計な負担はかからないよう、職場内も座席の配置や動線を工夫しています。本人のペースを尊重しながら、無理なくスキルアップできるよう段階的な指導を行っています」とのことだ。  一方、職場全体への影響としては「障がいのある方と働くことでメンバーの意識が高まり、互いに支えあう風土が育まれています。結果として、チームの結束力が強まり、職場の雰囲気もよりよくなっていると感じます」と語ってくれた。 透析や移植手術を経て  石川県七尾市(ななおし)能登中島町(のとなかじままち)にある北陸コカ・コーラの能登事業所も訪問した。同じ建物には商品を自動販売機で販売するグループ会社「株式会社ベネフレックス」(以下、「ベネフレックス」)の能登営業所も入っている。  能登事業所の建物は2024年1月の能登半島地震、同年9月の能登半島豪雨によって大きな被害を受けた奥能登地域の山あいにあり、建物の前から先に続く山越え道路が取材の前日に通行禁止が解除されたばかりだった。  ベネフレックスの営業企画部企画管理課の課長を務める川場(かわば)博記(ひろき)さんによると「地震から数日後には電気が復旧し営業を再開しましたが、水道は2カ月ほど使えず、トイレ用に敷地内の井戸水を汲んで使っていました。いまも仮設住宅で暮らす部下もいます」と話してくれた。  ここで、働きながら病気を乗り越えてきた男性の話を聞くことができた。地元育ちの岩尾(いわお)良静(りょうせい)さん(42歳)は、2011年に正社員として入社後、専用車で各地を回りながら自動販売機に商品を補充する業務を担当していた。ところが翌年、腎不全を患ってしまう。週3回各4時間の透析が必要だった岩尾さんだが、仕事を続けることができた。  「上司に相談し、柔軟な働き方になるよう配慮してもらえました。透析のある日は、少し早めに出勤するなどして時間をつくることができました」  その後1年弱で、母親から移植を受ける手術をすることになり、2カ月間休職した岩尾さん。復職後、上司から「1人で回るのはまだ厳しいだろうから」といってもらい、負担の少ない自動販売機の設置作業の補助などに従事した。その後、体力の回復にあわせて商品補充業務に戻ることができたそうだ。  いまは2カ月に1回通院をしているという岩尾さんは「術後は多少疲れやすくはなりましたが、勤務中は1人で回っているので、休憩時間の配分も自分で調整しています。結果として業務量も以前と変わらずこなせているので、今後も無理なく続けていけると思います」と笑顔で語る。  この日岩尾さんが回っていたのは、商店などの少ない住宅地域。岩尾さんが補充作業を終えるのを待っていた近所の高齢者が、「ここに自販機があって助かるよ」といいながら飲み物を買っていた。  またベネフレックスでは、自動販売機脇に設置されているごみ箱の空き缶回収も行っているが、精神障がいのある従業員3人のうち2人が回収作業、もう1人が分別作業をそれぞれ担当している。川場さんによると「ハローワーク経由の求人で、普通免許があることを条件に採用しています。トライアル雇用ではペアで回ってもらい、順調にいけば1人で回ってもらいます」とのことだ。  毎日、回収場所は変わるが、なるべく運転距離が少なくてすむよう、回収地点やスケジュールを工夫している。「最近は大型ショッピングセンターなど1カ所でたくさん回収する地点もあり、彼らは大事な戦力です」と川場さんはいう。 だれもが働きやすい職場に  北陸コカ・コーラは2010年、三つの子会社を含めて「企業グループ算定特例」(※3)の認定を受けている。「当時は県内でこの制度の認定を受けている事例がなく、富山労働局やハローワークの方に協力していただきながら進め、国から認定されたときは達成感もありました」と宮崎さん。  特例子会社を設立することなく、グループ会社全体で障がい者雇用を進める方針のもと、グループ会社それぞれが法定雇用率達成を目ざしているという。宮崎さんは「本社の人事企画課にも採用などの相談がよく来るようになりました。グループ会社全体に、障がい者雇用についての理解が浸透していると実感しています」と手応えを語る。  これまで北陸コカ・コーラグループでは、障がいのある従業員がいる職場には、もれなく「障害者職業生活相談員資格認定講習」の受講もうながしてきた。現在グループ全体で10人、本社内だけで5人の同相談員がいる。宮崎さんは「さまざまな障がいの特性を理解し、仕事内容の決定や変更、働きやすい職場環境づくりのための工夫をしながら、当事者の体調の変化に気づき早期に対応できる、相談しやすい体制づくりを進めています」と説明する。  宮崎さんは、人事部門に異動してから社会保険労務士の資格も取得しており、労務管理に関する専門知識を活かしつつ、他企業の好事例などを参考にしながら、だれもが働きやすい環境づくりに力を入れてきた。  多様な働き方の支援として子育てや介護、病気療養との両立支援をはじめ、部署によって異なる繁忙期をふまえた変形労働時間制、時間単位の有給休暇制度、半日単位の有給休暇制度などを積極的に導入し、従業員の意見を聞きながら内容の充実に努めている。特に在宅勤務が可能なテレワーク制度はコロナ禍の前から導入し、障がいのある人だけでなく、さまざまな事情を抱える人も柔軟に働きやすくなったそうだ。  2017年からはパートタイム従業員について新たに評価制度を導入した。宮崎さんは「これまで正社員で使っていた評価基準表をアレンジし、年に1度、職場の管理者が評価しています。評価が上がれば次年度の賃金にも反映されますので、従業員のモチベーションアップにつながっています」と説明する。  北陸コカ・コーラでは、ハローワークを通した採用活動が中心だが、本郷さんは「今後は、特別支援学校などから職場見学や職場実習生を受け入れることも考えています」と意欲的に語ってくれた。以前、県内の学校の教員らが研修の一環として北陸コカ・コーラの見学に訪れた際に、ある特別支援学校の先生と意見交換する機会があり、本郷さんたちも「職場見学からやってみようか」と受入れ体制づくりを検討しているそうだ。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、北陸コカ・コーラボトリング株式会社様のご意向により「障がい」としています ※1「障害者雇用納付金制度」については、JEEDホームページをご覧ください。https://www.jeed.go.jp/disability/about_levy_grant_system.html ※2「障害者職業生活相談員」については、JEEDホームページをご覧ください。https://www.jeed.go.jp/disability/employer/employer04.html ※3「企業グループ算定特例」については、厚生労働省ホームページをご覧ください。「事業主の方へ 1.障害者雇用率制度」内「企業グループ算定特例制度の概要」、ほかhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html 写真のキャプション 北陸コカ・コーラボトリング株式会社本社(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 北陸コカ・コーラボトリング株式会社コーポレートプランニング統括部人事企画課エキスパートの本郷一利さん コーポレートプランニング統括部人事企画課シニアマネジャーの宮崎としみさん(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 支援担当者との面談で、業務のふり返りやコミュニケーションの円滑化を図る(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 清掃場所や作業内容がリスト化 された業務日報。作業開始、終了時刻を記入する(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 北陸コカ・コーラ砺波工場の試験室での洗い物の様子(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 石川マーケットサービスセンターで清掃業務にあたるSさん(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) Wさんが働く事業管理部コールセンター(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 石川マーケットサービスセンターでSさんの支援を担当する障害者職業生活相談員の北原喜代美さん(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 事業管理部コールセンターでWさんの上司の五十嵐学さん(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 株式会社ベネフレックス能登営業所が入る北陸コカ・コーラ能登事業所(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) ベネフレックス営業企画部企画管理課課長の川場博記さん ベネフレックス能登営業所で働く岩尾良静さん 専用車から自動販売機に補充する商品を取り出す岩尾さん 【P10-11】 クローズアップ はじめての障害者雇用 〜職場定着のための取組み〜 第4回 職場定着のための人材育成とキャリア形成支援  障害のある人をはじめて雇用する企業にとって、雇用そのものの実現は大きな一歩です。しかし、障害のある人が「継続して安心して働き続けられる」職場づくりこそが、雇用の真の成功につながることはいうまでもありません。  そこで第4回は、「職場定着のための人材育成とキャリア形成支援」をテーマに、その基本となる考え方や方法、社内研修、人事評価と育成、能力開発、雇用形態とキャリアの観点から、大阪障害者職業センター障害者雇用支援ネットワークコーディネーターの伊い集じゅう院いん貴たか子こさんに解説していただきます。 はじめに〜障害のある社員の人材育成とキャリア支援の考え方  企業の発展や成長にとって社員の人材育成は不可欠です。また、社員にとっても、障害の有無にかかわらず、企業から期待され、チャレンジできる環境があることで働きがいを感じ、企業に貢献できている実感を持つことができます。  そのためにも障害のある社員の希望や障害特性等に配慮した育成やキャリア形成のために支援を行うことは重要です。  人材育成の制度や方法(研修制度、人事評価制度、資格取得推奨制度等)は企業によってさまざまですが、障害のある社員の場合もほかの社員と同様に対応することが基本です。そのうえで可能な範囲で障害特性等に配慮し、研修機会をつくることが大事です。  障害の有無にかかわらず個々の社員の価値観や希望、環境もさまざまであり、職業人としてのキャリアに対する考え方もさまざまです。人材育成やキャリア形成支援については、社員が制度や将来像について理解したうえで主体的に取り組めるようにすることが必要です。 障害のある社員に対する社内での研修 障害のある社員の職業能力の向上のために、研修の実施は不可欠です。次のような方法で取り組んでみましょう。 OJT研修(業務を通じて上司等から教育訓練を受ける実地研修)  OJT研修は実際の業務で取り扱うものや場面を通して、体験しながら行われるため、業務習得をするうえで効果的です。実施にあたっては、簡潔な説明と習得状況の確認、フィードバックが基本となります。知的障害、精神障害、発達障害のある社員については、視覚的にわかりやすくするために写真・イラストなどを取り入れたマニュアルの準備があるとよいでしょう。指示者による見本の提示と説明、障害のある社員がやってみて、できているところをほめることが有効です。  また企業によっては、障害のある社員に社内での休憩時間の過ごし方、有給休暇の取り方などちょっとした企業の文化や手続きなどを教えてくれる先輩社員を、一定期間配置することで安心して働ける環境をつくっているところもあります。 OFF−JT研修(実務を離れ、座学や演習を通した集合研修)  障害のある社員に対して集合研修は負担感があるのではないかと心配する声もありますが、障害や障害特性に応じた配慮はしつつ、研修を受講してもらうことは重要です。車いす使用者、発達障害のある社員への物理的な環境調整、視覚障害、聴覚障害のある社員への情報保障、知的障害のある社員向けのわかりやすい教材の準備、研修内容によっては個別にフォローする人員の配置等を考慮することが望まれます。企業にとっては人材育成につながり、障害のある社員にとっては企業の一員であることを実感できる機会になります。 人事評価と育成  障害のある社員に対しても人事評価は企業の方針や目標を明示し、評価を通じて社員個々の強みや課題を把握し、人材育成につなげていくために重要です。また、人事評価の結果を本人にフィードバックして今後の成長につなげることはキャリア形成に不可欠です。  一方で人事評価制度自体をほかの社員と同様にするのはむずかしいという声も聞かれます。その点については、障害のある社員の障害種別や個々の特性に応じて具体的な数値や行動を目標に設定することで、ふり返りやすく上司との人事面談においても齟齬なく進めていきやすくなるでしょう。例えば知的障害のある社員に毎月、具体的な人事目標を確認し、目標を意識することで、達成に向けた行動につながりやすくなったという事例もあります。  評価の際には目標設定の意味を明確に伝え、達成に向けた意識や具体的な行動につなぎ、評価結果を伝えたうえで、次の目標を設定し、成長につなげることが重要です。評定者と障害のある社員との面談では、キャリア形成の支援として具体的な目標を一緒に考えるというようなコミュニケーションも必要です。そして評価結果が雇用継続や担当職務の拡大、昇給や昇進のように実感できるものにつなげることがモチベーションの維持や向上のためにも重要です。 能力開発  2022(令和4)年の障害者雇用促進法の改正により、事業主の責務に、職業能力の開発および向上に関する措置が含まれることが明確化されています。障害者職業能力開発校(職業訓練校)や障害者の委託訓練をになう施設では在職者を対象とした、スキルアップやキャリアチェンジを目的とした職業訓練も行っています。ITスキル、ビジネスマナー、障害特性に応じたコミュニケーションの方法などを学べます。受講するにはハローワークへの相談や各校の募集要項を確認してみましょう。 雇用形態とキャリアの多様性・ロールモデル  障害のある社員の雇用形態は正社員、契約社員、パート社員等とさまざまです。企業のなかにはフルタイム勤務ができるようになること、一定年数以上勤務した社員が社内試験を受けることなどで正社員への登用制度を設けているところもあります。  実際に正社員に登用された人がいることで障害のある社員が自身のキャリアの可能性を理解し、勤怠などの行動面、業務に意欲的に取り組むなどのモチベーションアップにつながります。雇用形態だけでなく、担当職域の拡大または職位が上がることもキャリア形成の重要なポイントになります。そうした点が明示されていることが障害のある社員の職場定着につながり、新たに障害のある社員を募集する際に企業の強みにもなります。  特例子会社のなかには職位制度を設け、職位ごとの役割を具体的に記載したものを社員に明示し、給与制度につなげているところもあります。  そのほかに、キャリア形成を考えたときに障害のある社員にとってもロールモデル(具体的な行動や考え方の「見本」、「規範」となる人物)の存在は重要です。正社員登用、短時間勤務への変更などの働き方や職位の変化、業務拡大、異動などの具体的な選択肢が明示され、多様なロールモデルの存在があることにより、障害のある社員が目ざすキャリアを自身で決定できることが望まれます。 働き方の柔軟性  障害のある社員のなかには障害の状況や長期勤続で体力や業務遂行面での課題が顕著になる、またはライフステージの変化(結婚、介護等)により、勤務時間の短縮や担当業務の変更などが必要になる場合があります。そうした場合にも個別に配慮し柔軟な対応をとれるよう考慮すべきと思われます。  また企業によっては多様で柔軟な働き方(短時間勤務、地域限定勤務、在宅勤務等)を可能にするところもあり、障害のある社員にかぎらず全社員の職場定着につながるものと考えられます。  このような多様な制度や運用を明文化し、社内周知することは望ましいと思います。障害のある社員だけでなく、企業の合理的配慮として必要な社員に公平に運用されることで、すべての社員が安心して働きやすい職場の実現につながります。 * * * * *  次回は、「支援機関との連携と支援制度の活用」について解説します。 出典(参考文献) 1「はじめての障害者雇用〜事業主のためのQ&A〜」JEED, 2023 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003kesx.html 2 齊藤朋実、伊集院貴子、越後和子第32回職業リハビリテーション研究・実践発表会発表論文集 JEED, 2024, pp.202-203 参考! 障害のある方への職業訓練  障害者職業能力開発校は国立13校、都道府県立6校の計19校が設置されています。国立の障害者職業能力開発校のうち、以下の2校はJEEDが運営しています。 ・国立職業リハビリテーションセンター(中央障害者職業能力開発校) ・国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(吉備高原職業能力開発校)  障害のある方を対象とした職業訓練は厚生労働省のサイトでも紹介されています。 【P12-14】 JEEDインフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 障害者雇用を進める事業主のみなさまへ 就労支援機器をご活用ください!  当機構(JEED)の『就労支援機器貸出・相談窓口』では、障害者を雇用している、または雇用しようとしている事業主に無料で就労支援機器の貸出しを行っています。  「就労支援機器」とは障害者の就労を容易にするための機器のことで、例えば視覚障害者を対象とした画面読上げソフト、拡大読書器や、聴覚障害者を対象としたデジタル補聴システム等があります。  それらのなかでも、最近は「感覚過敏に対応する機器」の貸出しが増えています。 感覚過敏に対応する機器 (聴覚的・視覚的な刺激を低減させることで周囲の状況に影響されずに集中して就労できる環境を整えます) ぜひ一度お試しください!! ●ノイズキャンセラー 電子的に周囲のノイズを聞こえにくくします。人の声はノイズではないので聞こえます。 ≪機器を使った方の声≫ デスクワーク中、近くの騒音が気になって集中力が途切れたとき、騒音がほぼすべてカットできたので快適に使えました。 ●イヤーマフ 周りのすべての音を物理的に遮音します。 ≪機器を使った方の声≫ ・大きな音が出るシュレッダー作業のとき、楽になりました。 ・周りの人の声が気になっていたが、だいぶ気にならなくなりました。 ●パーテーション ≪機器を使った方の声≫ 周辺の見えるものがすべて気になって集中できなかったが、落ち着いて仕事ができるようになりました。 視覚を補助する機器 ●拡大読書器 据置型、携帯型、ポータブル型など各種取りそろえています。 見え方、作業環境、見る対象物などの条件に合わせて選択できます。 ●パソコン支援ソフト ・画面読上げソフト(PC-Talker、JAWS)、画面拡大ソフト、文字認識(OCR)ソフトなどの貸出しを行っています。 ・なかでも、高知システム開発製のソフト(PC-Talkerなど)はソフト単体での貸出しも可能です。 聴覚を補助する機器 ●デジタル補聴システム 補聴器や人工内耳に送信機(マイク)が拾った音を直接届けることができるシステムです。職場では、会議や打合せの場面でとても有効に活用できます。音声認識アプリとの併用も検討できます。またリモート会議のパソコンなどAV機器への接続も可能です。 就労支援機器貸出制度について ●貸出対象となる事業主  障害者を雇用している、または雇用しようとしている事業主  ※国、地方公共団体、独立行政法人などは対象外です ●貸出期間  原則、6カ月以内(必要に応じて1回かぎり延長が可能。最長1年間の貸出し) お問合せ先 就労支援機器貸出・相談窓口 〒130-0022 東京都墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 TEL:03-5638-2792 E-mail:kiki@jeed.go.jp 就労支援機器アドバイザーが、就労支援機器の紹介や活用方法に関する相談を行っています。 機器の展示コーナーも設けていますので、実際に手に取って試していただくこともできます。 就労支援機器および貸出制度については、JEEDホームページで詳しくご紹介しています https://www.kiki.jeed.go.jp 就労支援機器のページ 検索 障害者雇用のためのマニュアル・好事例集などのご案内  当機構(JEED)ホームページでご覧いただけます。また、ダウンロードにより全文もしくは必要箇所の印刷等をすることも可能です。ぜひご活用ください! https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/index.html 障害者 マニュアル 検索 紹介ページはこちら 基本から知りたい方へ はじめての障害者雇用 〜事業主のためのQ&A〜  障害者雇用を進めるにあたって直面する職務の選定や労働条件の検討、職場環境の整備などに不安や悩みを抱える企業の方に向けて、具体的な方策や関連情報をQ&A形式で解説しています。 聴覚障害者の雇用支援マニュアル 〜きこえない・きこえにくい人が働きやすい職場に〜 NEW 障害者雇用マニュアル コミック版  障害者雇用に関する問題点の解消のためのノウハウや具体的な雇用事例を、障害種別ごとにコミック形式で紹介しています。  障害別に順次発行する新シリーズ「障害者雇用支援マニュアル」の第1弾。聴覚障害の特性や雇用管理に関するノウハウをコミックを交えてわかりやすく解説し、職場で役立つ手話については動画リンクを通じて紹介しています。 事例から知りたい方へ 障害者雇用職場改善好事例集  障害者の雇用管理や雇用形態、職場環境、職域開発などについて、事業所が創意工夫を重ねて実践している取組みをテーマ別に紹介しています。 動画で知りたい方へ 障害者の雇用ノウハウに関する動画・DVD  障害者雇用を積極的に進めている企業の取組みや雇用管理などに関するさまざまなノウハウを動画でわかりやすく解説。DVDを無料で貸し出しています。 お問合せ先 障害者雇用開発推進部 雇用開発課 TEL:043-297-9513 FAX:043-297-9547 E-mail:tkkoka@jeed.go.jp JEEDメールマガジン 登録無料 新規登録者募集中!!  当機構(JEED)では、JEEDが全国で実施する高齢者雇用や障害者の雇用支援、従業員の人材育成(職業能力開発)などの情報を、メールマガジンにて毎月月末に配信しています。 おもな特徴 ◇毎号特集を組んで業務内容を紹介 ◆JEEDの制度やサービス内容がよくわかる ◇マイエリア情報で地元情報をチェック! ◆セミナーやイベント情報が満載 雇用管理や人材育成の「いま」「これから」を考える、人事労務担当者や就労支援担当者のみなさま、必読! 障害のある従業員の新規・継続雇用… 定年延長・廃止に再雇用… 技能開発・向上の手段… そのお悩みのヒントが見つかります!! 登録方法 JEED メルマガ で 検索 または から! お問合せ先 企画部 情報公開広報課 TEL:043-213-6215 E-mail:hmerumaga@jeed.go.jp 【P15-18】 グラビア だれもが働きやすい職場で働く 秋田協同印刷株式会社(秋田県) 取材先データ 秋田協同印刷株式会社 〒010-0976 秋田県秋田市八橋南(やばせみなみ)2-10-34 TEL 018-823-7477(代表) FAX 018-824-2864 写真・文:官野 貴  秋田協同印刷株式会社(以下、「秋田協同印刷」)では、印刷業でつちかったノウハウを活かして、従来のDTPや印刷、製本業務をはじめ、Webサイトや電子書籍のデータ制作などの業務を展開。同社の製本工程では、障害のあるベテラン従業員2人と入社7年目の若手従業員が活躍している。  この日、ミシン目加工機でカレンダーに切り離し用のミシン目を入れる作業を行っていた三浦(みうら)朋子(ともこ)さん(67歳)は、勤続39年の大ベテランで聴覚障害がある。三浦さんは、印刷した用紙をまとめる作業である「丁合(ちょうあい)」や穴あけ作業など、さまざまな製本工程を幅広く担当している。「ここは働きやすい職場です。体に気をつけて、70歳まで働き続けたいです」と話す。  三浦(みうら)寛之(ひろゆき)さん(55歳)も聴覚障害のある、勤続35年のベテラン従業員だ。折り機のオペレートを担当しており、折り機に大判の印刷物をセットし、きちんと一枚ずつ送り込まれるように調整を加える。「秋田協同印刷は、障害への理解があり、とても働きやすい職場です。楽しく仕事ができています」と話す。  若手従業員として活躍しているのが倉田(くらた)響(きょうま)さん(24歳)。倉田さんは、特別支援学校在学中の実習を経て、同社に入社。現在は、中綴(なかと)じラインで補助業務にあたっている。補助業務は、複数の作業を並行して行うため、全体的な流れを見ながら、それぞれの作業をバランスよくこなさなければならない。今後の目標についてたずねると「さらに経験を積み、知識を身につけて、中綴じ機の主担当にチャレンジしたい」と教えてくれた。  同社は、障害の有無にかかわらず、だれもが働きやすい環境づくりを大切にしており、2024(令和6)年度に「もにす認定制度」(障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度)の認定を受けた。今後も職場体験や実習などを通して、障害者雇用に貢献していく予定だという。 写真のキャプション 小型カレンダーにミシン目加工を行う三浦朋子さん ミシン目が正しい位置になるように微調整を行う 加工を終えたカレンダーをさばきながら、ミシン目の位置を確認する 折り機に加工用の印刷物をセットする三浦寛之さん 印刷物が一枚ずつ折り機に送り込まれるように調整を加える 折り機では、大判の印刷物が折り込まれ、冊子状へと加工される 冊子状になった印刷物を折り機から取り出す 冊子状の印刷物を整えてまとめる 冊子状になった印刷物を次の工程へ引き継ぐ 折り工程を終えた印刷物を運ぶ倉田響馬さん 傷や汚れをチェックし、中綴じ製本機の紙掛け装置にセットする 倉田さんは印刷物を紙掛け装置にセットする際、ていねいな作業を心がけているという 補助業務は、複数の作業を並行して行う。中綴じ製本が終わった印刷物をパレットに積み込む 中綴じ製本機で断裁された切れ端をまとめ、フレキシブルコンテナバッグへと詰める 【P19】 エッセイ ITが切り開く、視覚障害者の新しい可能性 第3回 見えなくても「見やすい」教材をつくる 〜全盲教師の新たな授業スタイル〜 株式会社ふくろうアシスト 代表取締役 河和 旦 (かわ ただし) 情報アクセシビリティ専門家、AI活用教育コンサルタント。視覚障害と肢体不自由の重複障害がある。東京都立大学卒業後、福祉情報技術コーディネーターとして独立。障害当事者向けのIT指導やサポートを行い、転職や自立につながった実績も多数。共著に『24色のエッセイ』、『本から生まれたエッセイの本』(みらいパブリッシング)がある。https://fukurou-assist.net  前回は、ITスキルを身につけて事務職への転職を実現したAさんの事例を紹介した。今回は、さらに一歩進んで、最新の技術を活用することで教育現場に新風を吹き込んでいる全盲の教師の物語をお伝えしたい。 教えたい情熱と「見た目」という壁  Bさんは30代の男性教師。高校時代に失明したが、教員免許を取得し、「子どもたちに教えたい」という夢を諦めなかった。しかし、現実は厳しかった。  「授業の内容は頭の中にあるんです。でも、それを生徒が見やすいプリントやスライドにする方法がわからなくて…」  初めて相談を受けたとき、Bさんの声には悔しさがにじんでいた。全盲の人にとって、文字の大きさや配置、画像の位置といった「見た目」の調整は、画面読み上げソフトだけでは困難を極める。まるで目隠しをしたまま絵を描くようなものだ。 文章の「設計図」を描く新しい方法  そんなBさんに、私は「Markdown(マークダウン)」という方法を提案した。  「これは見出し」、「これは箇条書き」といった指示を、簡単な記号で文章に書き込んでいく。例えば、見出しには「#」、箇条書きには「−」を使う。視覚に頼らず、文章の構造を組み立てられる画期的な方法だ。  「なるほど、建物の設計図を描くような感じですね」とBさんは理解を示した。まさにその通り。見た目の装飾ではなく、まず内容の骨組みをしっかりつくるのだ。 魔法のような変換ツール  次に紹介したのが「Pandoc(パンドック)」というツール。Markdownで書いた文章を、美しいワープロ文書やプレゼンテーション用資料のスライドに自動変換してくれる。  「えっ、本当にこれだけで?」  初めて変換結果を確認したBさんの驚きの声を、私はいまでも覚えている。シンプルなテキストが、見事にレイアウトされた教材に生まれ変わった瞬間だった。 生徒たちに届く授業  この技術を習得したBさんは、小学校、中学校や高等学校で福祉体験授業や音楽の授業を担当している。  「B先生の資料、すごく見やすいです」  「授業がわかりやすい」  生徒たちからの評価に、Bさんは「見えない自分でも、見やすい教材がつくれるんだ」と自信を深めた。同僚の先生方も、その授業スタイルに注目している。 一人ひとりに合った「道具」を見つける  第2回のAさんは既存のツールを使いこなすことで道を開いた。今回のBさんは、自分に合った新しいツールを見つけることで可能性を広げた。大切なのは、その人の目標や特性に応じて、最適な方法を選ぶことだ。  障害があっても、適切な技術があれば、創造的な仕事は十分に可能。Bさんの事例は、そのことを力強く証明している。  しかし、どんなに優れた技術を持っていても、社会から提供される情報そのものがアクセシブルでなければ、新たな壁にぶつかってしまう。次回は、墨字の書類という壁に直面した夫婦が、AI技術を使ってその壁を乗り越えた実話を紹介する。技術の進化は、まだまだ新しい扉を開き続けている。 【P20-25】 編集委員が行く 成長し進化を続けるスーパー特例子会社の挑戦 楽天ソシオビジネス株式会社(東京都) トヨタループス株式会社 取締役 大野 聡士 取材先データ 楽天ソシオビジネス株式会社 東京オフィス 〒158-0094 東京都世田谷区玉川1-14-1 楽天クリムゾンハウス TEL 050-5817-3217(代表) 大野(おおの)聡士(さとし) 編集委員から  楽天ソシオビジネス株式会社は、「Make a Challenge挑み、成長し続ける会社」というメッセージを打ち出されています。2007(平成19)年12月の会社設立から17年を超え、これまで、どのようなチャレンジを続けてきたのか、そしてこれからどのような方向を目ざしているのか。代表取締役社長の堀井さくらクリスティーナさん、ビジネスプロセスアウトソーシング事業部本部長の大石新さん、テクニカルサービス部部長の大滝健太郎さんにお時間を頂戴し、お話をうかがいました。 写真:官野 貴 Keyword:特例子会社、企業内アウトソーシング、挑戦文化、成長支援、評価制度、AI活用 POINT 1 多様な人が多様なままに活躍できる社会を目ざす 2 失敗を恐れず挑戦し成長し続ける企業文化 3 障がい者雇用を通じて新たな社会的価値を創造する  住みたい街ランキングでつねに上位にランクインする二子玉川(ふたこたまがわ)駅に近い、楽天クリムゾンハウス内に本社を構える楽天ソシオビジネス株式会社(以下、「楽天ソシオビジネス」)は、楽天グループの企業内アウトソーシング企業として多彩な業務をになっています。Web・クリエイティブ製作や業務改善に関するエンジニアリングなどの専門性の高い業務、従業員の人事・経理・総務関連のカウンター業務に加え、社内コンビニやファクトリー事業も自社運営しています。2007(平成19)年の設立以来、「Make a Challenge挑み、成長し続ける会社」を掲げ、多様な挑戦を続けてきました。今回は代表取締役社長の堀井(ほりい)さくらクリスティーナさん、ビジネスプロセスアウトソーシング事業部本部長の大石(おおいし)新(あらた)さん、テクニカルサービス部部長の大滝(おおたき)健太郎(けんたろう)さんにお話をうかがいました。 採用の考え方、職場定着について 大野聡士(以下、「大野」) 御社にはさまざまな障がいのある方が在籍されていますが、採用の考え方、職場定着に関する工夫について、おうかがいできますか。 堀井さくらクリスティーナ(以下、「堀井」) 弊社のミッションは「多様な人が多様なままに活躍できる社会の実現」です。弊社でも、楽天グループのミッションである「イノベーションを通じて、人々と社会をエンパワーメントする」という目標のもと、障がいのある方々に成長の機会を提供し、事業の成功を通じて社会にインパクトを起こし、イノベーションをともにつくりたいと考えています。収益を上げて黒字化を目標とすることにより、自立し、自ら成長と変化を続けることで社会に貢献する企業を目ざしています。成長意欲のある仲間を求めることが一番の大きな軸です。 大野 長く働き続けられる環境づくりも重要ですね。 堀井 その通りです。一人ひとりが安心して働けるよう、障がい特性に応じたきめ細かな支援を行っています。対面でのコミュニケーションを重視し、マネージャーやリーダーが直接メンバーの様子を把握し、定期的に1on1ミーティングを実施して、本人の体調変化や業務状況の確認に努めています。オフィス環境もアクセシビリティに配慮するほか、健康推進室を設けることで、健康情報の発信も行っています。また、職場のマネージャーと専門家がワンチームとなることで、一人ひとりの特性や体調に応じたフォローをしています。 失敗を許容し成長につなげる 大野 「Make a Challenge挑み、成長し続ける会社」というメッセージに関してお聞かせください。障がいの特性からチャレンジをためらう方もいるのではと思うのですが、どのように後押しされていますか。失敗時のフォローについても教えてください。 大滝健太郎(以下、「大滝」) 失敗は決して否定されるものではなく、改善や成長の源泉ととらえています。大切なのは「なぜそうなったのか」をしっかり受けとめることです。仕事は人と人とのかかわりなのでコミュニケーションを重ね、「何が足りなかったか」、「どうすればよかったか」を明確にします。数字管理も大切にしつつ、感情や認識のズレを埋める対話も重視しています。失敗しても、改善して次に活かすものというマインドセットを大切にしています。マネジメント層も失敗を恐れず挑戦する文化を大切にしています。なぜそうしなければいけないのかと反発の声があっても、理由をていねいに説明し、失敗を認めつつ次の方法を一緒に考えることで、再チャレンジの機会をつくっています。上司や職場環境、一緒に働く仲間がそれを受け入れる体制が整っていることも弊社の特徴です。 大野 採用段階からチャレンジというメッセージを発信しているのですね。 大石新(以下、「大石」) はい。チャレンジ精神を持つ方が多く入社しており、「この会社だからこそ挑戦できる」という声も多いです。 積極的にチャレンジする風土 大野 具体的なチャレンジの事例を教えてください。 大石 求職者向けの説明会では「いまできることよりも、入社後に自分がどう変えていきたいかが大事」と伝えています。弊社では、目標に向けて努力できる環境づくりを重視し、それが習慣化されることで自分の力になると考えています。例えば「AIはいつでも使ってください」ではなく「1日1回使いましょう」などとうながすことで、自然に自分をアップデートできていきますし、楽天グループならではのスピード感につながっていると思います。 堀井 わからないことにも積極的に挑戦する風土があります。楽天グループでは70以上のサービスを展開しており、楽天ソシオビジネスにも多様な要望があり、「まずできることから始めよう」とチーム全体で取り組んでいます。 大石 事務職でもこだわりや興味を持つことで強みを発揮し、自ら業務改善やエンジニアリングに挑戦し、ジョブチェンジして活躍する例もあります。 大滝 私も、もともとはエンジニアではありませんでしたが、RPA(※1)チームの立ち上げにかかわりマネジメントを任せていただきました。環境に適応し変化を受け入れ、チャレンジしていくことが大切で、柔軟な対応を許容する文化が弊社の強みだと考えています。 大野 楽天グループから多様な依頼があり、それに応える形で業務を進めているのですね。 大滝 はい。その一方で、つまづいたこともあります。AI関連の業務で専門スキルが求められるタスクを相談されたとき、正直むずかしいと思って配下のマネージャーに相談したのですが、逆に挑戦を後押しされたことがあります。失敗をしても、お互いに仲間がカバーし合える環境が大きな支えになっています。 付加価値を高める 大滝 楽天グループでは、自社で提供する先進的エージェント型AIツールを社内で推進するとともに、楽天IDをお持ちのユーザーには無料で利用できる専用ウェブアプリも提供しています。そのためサービス拡大にあわせて、弊社のケイパビリティや組織体制を拡充していこうとしています。最前線のAI活用にかかわることができるのは弊社の大きな強みと考えています。 堀井 たいへんな面もありますが、その分やりがいも大きいです。 大野 グループ各社から、つねに多様な依頼が来るのですね。 大滝 はい。弊社から楽天グループ内に営業活動して獲得することもありますが、事業部側からの依頼が増えています。特にAI関連の案件が徐々に増えています。 大野 具体的にはどのようなAI関連業務があるのですか? 大滝 アノテーション(※2)業務など、AIの精度を高めるための画像選別などのデータ準備作業が増えています。 大野 依頼があった際には、できるかどうかではなく、まず検討から始めるということですね。 大滝 はい。例えば、人員をそろえてほしいという要望に対し、すぐに対応できない場合は調整案を模索します。むずかしい場合は理由を説明し、「できないで終わらせない」姿勢を大切にしています。 大野 AI関連以外で新たなチャレンジはありますか? 大石 はい。弊社には、事務職だけでなく、エンジニアが在籍しており、事業業務をこなしながら同時に業務改善を提案するハイブリッドな体制が可能で、それが弊社の強みになっています。AI関連の分野も含め、付加価値の高いサービス提供が今後の柱となっていくと考えています。 大野 高度な技術力と改善力を組み合わせて付加価値を高めているのですね。 大石 はい。弊社の認知度が上がるにつれ、期待値が高まり高度な業務の依頼が増えてきています。 当事者だからこそできること 堀井 最近は、アクセシビリティやユーザーインターフェース(UI)の改善を特に重視しています。大滝さんが担当したプロジェクトを契機に社内外で重要性が認識されたため、さらに拡大を目ざしています。 大滝 楽天グループのeラーニング研修などにおいて、視覚障がいのある従業員の声を反映し、使いやすさを検証しています。 視覚障がいの当事者6名がレビューを行い、改善点をフィードバックしています。 大野 具体的にどのような課題に取り組まれていますか? 大滝 音声読み上げソフトに対応していないコンテンツがあり、プレゼンテーションソフトのスライドが画像を中心につくられている場合、テキスト情報が読み上げられないといった問題があります。こうした問題は健常者である作成者が気づきにくいことも多く、視覚障がいの当事者からの問合せを通じて改善しています。また事前相談にも応じてレビューや改善提案を行っています。 大野 当事者の視点からのフィードバックがサービス向上に役立っているのですね。 堀井 はい。楽天グループ全体でD&Iの観点からだれもが情報にアクセスできることを最低限の保証と考えています。当事者でないと気づかない課題も多く、そうした気づきが弊社の強みとなり得ると考え、積極的に改善活動を推進したいと考えています。 大野 当事者の声を活かすことはとても重要ですね。 堀井 はい。アクセシビリティを社会モデルとして確立し、全従業員が平等に情報にアクセスできる働きやすい環境づくりを進めています。 成長を支える評価制度 大野 御社のビジョンの中核にある「挑戦→成長→自立→共生」のサイクルに関する取組みやチャレンジを教えてください。 堀井 各チームが明確な収支目標を設定し、メンバー全員が主体的に数字の積み上げ方を議論する文化があります。チーム単位で責任を持ち、オープンに目標を共有しています。 大野 チーム編成は? 大滝 業務種類に応じて人事系、総務系、経理系などに分けています。仕事の拡大にともないチーム数も増え、規模が大きくなると部に昇格します。ニーズに応じてチーム編成や採用も柔軟に行い、現在は40以上のチームが編成されています。 大野 独立採算で黒字化を目ざしているとうかがいましたが、採用と仕事のバランスはどう管理されていますか? 大滝 採用人数に見合う仕事を確保し、人員増減に応じて業務量を調整しています。新しい仕事が次々生まれているため、人員配置やアサインのおもしろさもあります。 大野 楽天グループからの仕事は豊富にあるのですね。 大滝 はい。AIなどの新技術を活用しながら業務の高度化にも対応しています。こうした文化が弊社の成長を支えています。 大野 目標設定や実績把握はどのように行われているのですか? 堀井 マネジメント層だけでなくメンバーも収支を把握し、改善を続けています。 大野 貴社の評価制度のなかで、例えば、「スピード」という評価項目に関して、何か課題感はありますか? 大石 楽天グループの評価制度を基本にしつつ、弊社独自の評価項目を作成し、従業員の状況に応じて使い分けています。入社間もない従業員やパフォーマンスが十分でない方には、評価項目を噛み砕き調整しています。 堀井 障がいのある方に配慮し、報・連・相や協調性、挨拶など細かな項目を加点方式で評価し、一定レベルに達したら標準的なコンピテンシー評価に移行します。 大滝 段階的に評価制度を使い分けることで、個々の成長段階に応じた適切な評価を実現しています。 堀井 加えて、目標のふり返りは3カ月に1回必ず行い、1on1ミーティングも毎週実施し、細かくていねいに従業員の成長を支えています。 大野 格づけ制度もあり、能力や成果に応じてステップアップできるのですね。 堀井 はい。業種を問わず全従業員が同じ基準で評価されます。マッサージ担当も同じ基準です。特例子会社のなかではユニークな取組みと自負しています。 人材育成について 大野 役職者に障がいのある方が多い点に驚きました。OJTやチャレンジ機会の付与、能力向上の工夫について教えてください。 堀井 優れたパフォーマンスがあれば障がいの有無に関係なくリーダー職を任せる文化があります。小規模なサブリーダーから始めて、もしあわなくとも経験を積んで再チャレンジする機会も設けています。成長意欲を重視し、本人からの希望があればマネジメント層がチャンスを探し提供します。 大滝 視覚障がいのある方もマネージャーとして活躍しています。リーダー職へのステップは本人の状態や意欲にあわせて検討し、段階的に経験を積める環境を整えています。個々の凸凹を補い合いながらチームとして機能させ、仕事のレベルも細かく調整しています。 大野 成長の方向は多様ですね。多様性に対応した育成は? 大滝 ジェネラリストもスペシャリストも評価し、格づけで差別化するのでなく、最大限力を発揮できる領域を広げることを重視しています。育成方針は個人の強みや意欲にあわせて柔軟に設計しています。 大石 チームをさらに小さなユニットに分け、段階的に業務を任せるなど無理なく成長できる仕組みを工夫しています。 大野 従業員のモチベーションはいかがですか? 大滝 スピード感の速い会社ではあるものの、安定した定常業務も多く、特性にあわせた業務付与が重要だと考えています。体調が追いつかない方や消極的な方でも、適切に仕事を任せると力を発揮することも多いです。健康推進室が体調面のサポートをし、調子が悪いときは業務調整や説明の工夫をしています。 大野 個人の特性に応じて適材適所を見きわめているのですね。 大滝 はい。コミュニケーションを重ね特性や得意な仕事を引き出し、適した業務を試行錯誤しながら自立・自走できる人材が育っています。それがむずかしいケースもありますが、ともに試行錯誤しながら粘り強く進めることを大切にしています。 企業に根づく楽天グループの哲学 大野 採用で重視するポイントは? 大滝 部門によりますが、開発系では「好きかどうか」を大切にしています。技術は進化が早いため、自発的に学び続ける意欲が重要です。会社から研修は提供しますが、本人の「好き」が成長の原動力です。 大野 採用にあたっての判断基準は? 大滝 体調が安定し毎日出社できることが最低条件として、やはり仕事への興味や意欲がもっとも重要だと考えています。 堀井 弊社は、成長や変化を受け入れながら、チームで協力しあえる方と一緒に働きたいと考えています。失敗を恐れず成長意欲のある人材を見きわめています。 大石 楽天グループに根づく「楽天主義」への共感も重要だと考えています。楽天グループで働くという意識を持てるかが鍵です。 大野 楽天主義とはどのようなものですか? 堀井 楽天主義とは、「ブランドコンセプト」と、「成功のコンセプト」で構成されており、楽天グループの全従業員が共有する価値観・行動指針です。 大滝 弊社の社員証にも成功のコンセプトが記載されています。 大野 ブランドコンセプトのなかにある、大義名分とは? 堀井 大義名分とは、会社としての社会的 意義を示しており、私たちがここで働く意味を忘れないための指針です。お金を稼ぐだけでなく社会にどんな価値を提供したいのかをつねに自問することをうながしています。 大滝 AIへの取組みもその一環で、だれでも手軽にAIを利用できるようにするという社会的な使命を持っています。 堀井 「楽天市場」の創設も、大義名分に基づき、だれもが手軽に商品を売買できるプラットフォームづくりを目ざしていました。既得権益にとらわれず、だれもが自立しビジネスを創造できる社会を目ざしています。「成功のコンセプト」は成功の秘訣として、「ブランドコンセプト」は、会社が成長していくなかでつねに足元を見直し、忘れてはならない価値観と位置づけています。 スーパー特例子会社に込めた想い 大野 貴社のホームページにある「スーパー特例子会社」という表現にはどのような想いが込められていますか? 堀井 単なる特例子会社の枠にとどまらず、一歩先の価値創造を目ざす強い意志のあらわれです。一人ひとりがプロフェッショナルとして社会に貢献し、楽天グループ全体に大きな価値をもたらす存在を目ざしています。ただ、働きに来る場所ではなく、多様な働き方を実現し、これからの新しい社会モデルをつくることが重要だと考えています。超高齢社会を迎ええた日本で、多様な背景や特性を持つ人が活躍する未来を見すえ、「スーパー特例子会社」のモデルが社会に広がることに大きな社会的使命を感じています。つまり、「スーパー」という言葉には、既存の枠組みを超えて新しい価値を創造し、社会全体によい影響を与えていくという願いが込められています。 設立時から現在までの変化 大野 設立当初と現在の業務内容の違いは? 大滝 仕事の依頼のされ方は変わらず、楽天グループの各社からの依頼に対応していますが、「どうすればできるか」を試行錯誤し、業務の規模や範囲を広げてきました。最初は人事や総務が中心でしたが、視覚障がい者が活躍するマッサージ事業など新規事業も立ち上げました。従業員数はスタート時の約50人から430人に増えています。 大石 業務の横の広がりと深みが増し、定型作業から業務設計まで任されるようになりました。人事、総務、経理のコア業務に深くかかわり、楽天グループの各社に対して、自分たちの経験を活かした提案も行っています。 大野 積極的に提案することも多いのですね。 大石 はい。楽天グループが拡大してきたなか、基幹業務設計に関する相談や業務依頼を受けることも増えました。 堀井 長年にわたり事業部との信頼関係を築き、集約的に任せてもらえるようになりました。最初は障がい者の活躍の場を目的として小さくスタートしましたが、徐々に新規事業が広がっています。 大石 弊社に対して「障がい者の会社」という印象は薄く、一事業会社へと変わってきたと感じています。楽天グループのうちの一社として同じ水準を要求され、仕事の質が高まっていると思います。 障がいの特性が新しい発見や気づきを生むチャンス 大野 今後の展望についてお聞かせください。 堀井 私はもともと楽天グループの人事部に所属し、現在は楽天ソシオビジネスの代表を務めています。障がい者雇用は法律上の義務や特性への配慮が注目されがちですが、障がいの特性こそが新しい発見や気づきを生む大きなチャンスだと考えています。多様な視点が組織に新たな価値をもたらし、業務改善やイノベーションの源泉になります。新しいアイデアは日々の小さな発見から生まれます。その気づきを与えてくれるチャンスが特例子会社の強みです。失敗や課題もありますし、制度づくりや現場運営は決して容易ではありません。しかし、障がい者雇用は社会貢献であるのと同時に、企業の持続的成長に不可欠な要素と確信しています。新しい社会的価値を築き、障がい者雇用の可能性を広げたいと思います。 大野 障がい者雇用を新たな価値創造の源泉ととらえる視点が重要だと感じました。本日はありがとうございました。 取材を終えて  今回の取材を通じて、楽天ソシオビジネスのみなさまが自社の強みを深く意識していること、そして、その強みは挑戦を積み重ねてきたからこそ築かれてきたものであると感じました。失敗を恐れず挑戦し続ける企業風土が従業員のチャレンジ精神を支え、多様な業務や新規事業に積極的に取り組む原動力となっています。加えて、楽天グループの理念をみんなで共有し、企業としての社会的使命を自覚し、障がい者雇用を社会価値創造の源泉ととらえる姿勢に共感しました。同社の取組みは示唆に富み、多様性と挑戦を両立させるモデルとして大いに参考になるものと感じます。今回の取材は、楽天ソシオビジネスの真摯な挑戦を知る貴重な機会となりました。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、楽天ソシオビジネス株式会社様のご意向により「障がい」としています ※1 RPA:Robotic Process Automationの略。パソコン上で行われる定型業務をソフトウェアロボットが自動化する技術 ※2 アノテーション:「注釈」を意味し、IT分野ではテキスト、画像、動画などに情報タグ(メタデータ)をつける作業のこと 写真のキャプション 楽天ソシオビジネス株式会社東京オフィスの入る楽天クリムゾンハウス 楽天ソシオビジネス株式会社代表取締役社長の堀井さくらクリスティーナさん テクニカルサービス部部長の大滝健太郎さん ビジネスプロセスアウトソーシング事業部本部長の大石新さん 楽天クリムゾンハウスの会議室でお話をうかがった 【P26-27】 省庁だより 令和7年版 障害者白書概要A 内閣府ホームページより抜粋  11月号に続き、今号では「令和7年版障害者白書」の概要の第4章、第5章、第6章を紹介します。 第4章 障害のある人がその人らしく暮らせるための施策 1.福祉的就労をする障害のある人への支援 〇障害者総合支援法の改正により、障害のある人が就労先・働き方についてよりよい選択ができるよう、就労アセスメントの手法を活用して、本人の希望、就労能力や適性等に合った選択を支援する「就労選択支援」を創設。 〇就労継続支援B型事業所等での工賃の水準が向上するよう、都道府県は、2024年度から2026年度の新たな「工賃向上計画」を策定し、経営等の支援や関係行政機関、地域の商工団体等の関係者と連携し、取り組んでいる。 〇コンサルタントによる企業経営手法の活用や共同受注の促進など、比較的効果のあった取組に重点を置いて取り組むとともに、厚生労働省において、これらの取組に対して予算補助を行っている。 2.成年後見制度 〇2022年10月に公表された国連の障害者権利委員会による総括所見や、成年後見制度の見直しに向けた検討を行うとする第二期成年後見制度利用促進基本計画等を踏まえ、障害当事者団体からの委員も参加の下、2024年4月に、法制審議会民法(成年後見等関係)部会において、成年後見制度の見直しの調査審議が開始された。 成年後見に関する主な指摘 @判断能力が回復しない限り利用をやめられない A本人の自己決定が必要以上に制限される場合がある B本人がそのニーズに合った保護を受けることができない C適切な時機に任意後見監督人の選任申立てがされない 3.スポーツの推進 〇パラスポーツ活動の機会の創出やスポーツ活動の定着のため、スポーツ活動の場づくりや特別支援学校等の全国大会の開催を支援。 〇パリ2024パラリンピック競技大会が、2024年8月28日(水)から9月8日(日)までフランス・パリで開催。海外開催大会で過去最多となる11競技でメダルを獲得。複数の競技種別において、競技初・種目初となる金メダルやメダルを獲得。 〇2025年11月15日(土)〜26日(水)に、第25回夏季デフリンピック競技大会東京2025を開催。「“誰もが個性を活かし力を発揮できる”共生社会の実現」等を掲げ、東京都を中心に21競技が実施される予定。 4.文化芸術活動の推進 〇2023年策定の第2期「障害者による文化芸術活動の推進に関する基本計画」に基づき、文化芸術活動を総合的かつ計画的に推進。 第5章 住みよい環境の基盤づくり 1.公共交通機関のバリアフリー化 〇「バリアフリー法」に基づき、鉄道駅等の旅客施設の新設、大規模改良及び車両の新規導入に際し、構造や設備について、「公共交通移動等円滑化基準」への適合を義務付けている。2024年3月に公共交通機関の旅客施設や車両等、役務の提供等について、「移動等円滑化整備ガイドライン」を改正した。 〇2024年3月、「公共交通事業者に向けた接遇ガイドライン」の見直しを行い、障害者差別解消法に基づく国土交通省の対応指針の改正内容を盛り込んだ。 〇鉄道駅等旅客施設や車両の整備に対する助成及び融資により、公共交通機関のバリアフリー化を進めている。 2.歩行空間等のバリアフリー化 〇「移動等円滑化の促進に関する基本方針」に基づき、音響により信号表示の状況を知らせる音響信号機や、歩行者等と車両が通行する時間を分離して交通事故を防止する歩車分離式信号、横断歩道上における視覚障害のある人の安全性及び利便性を向上させるエスコートゾーン等の整備を推進している。 〇2024年1月には、「道路の移動等円滑化に関するガイドライン」を改定し、踏切道手前部の視覚障害者誘導用ブロックと踏切道内誘導表示の設置方法や構造について規定。 3.防災対策の基本的な方針の見直し 〇2024年11月「令和6年能登半島地震を踏まえた災害対応の在り方について(報告書)」において、快適なトイレの設置の確保や温かく栄養バランスの取れた食事の提供等に課題があったとされたことから、災害や紛争の影響を受けた人々への人道支援の国際的な指標である「人道憲章と人道支援における最低基準」(スフィア基準)も踏まえつつ、同年12月に「避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針」、「避難所運営等避難生活のためのガイドライン(チェックリスト)」、「避難所におけるトイレの確保・管理ガイドライン」を改定し、公表した。 4.令和6年能登半島地震における障害のある人への主な支援 〇障害者等要配慮者の避難先となる福祉避難所を設置するとともに、一般の避難所においてもニーズの把握を行い、要配慮者スペースを設けるなどの必要な対応を行うよう被災自治体に対して通知。 〇石川県からの派遣要請に基づき、DPATを派遣。避難所の巡回活動を通じた精神疾患患者の診察や薬剤調整等を実施。また、中長期における被災者の心のケアとして、石川県が「こころのケアセンター」を設置し、心のケアを必要とする方に対して、専門ダイヤルによる電話相談や訪問支援等の対応を行っている。 〇介護職員等の派遣、避難者の受入等  ・介護職員等が不足している場合には、国や県等の調整を受けて、別の事業所等より介護職員等の派遣。  ・被災等により利用者の避難が必要である場合には、国や県等において調整を行い、受入先を確保。  ・障害者支援施設等の復旧事業や事業再開に要する経費に関する国庫補助事業を実施。 〇避難所における障害児者への配慮事項等、手話や点字・音訳による情報保障、ストーマ用品の無償提供等について、厚生労働省ホームページにおいて、随時情報提供。 5.障害者関連の被災状況(2025年3月11日現在) 〇石川県内の障害者施設については30施設に断水、9施設に建物被害があった。同県内の障害児施設については36施設に断水、25施設に建物被害があった。障害者施設からの避難はあったが、いずれも人的被害はなかった。 6.障害者による情報の取得及び利用並びに意思疎通に係る施策の推進に関する法律に基づく取組 〇法に基づき、障害のある人による情報取得等に資する機器等の開発及び普及の促進並びに質の向上に関する「協議の場」(※)を2024年5月に開催し、前年度の施策の実施状況について関係府省庁から報告し、意見交換した。 ※視覚障害や聴覚障害などの障害当事者団体、機器開発等を行う事業者や関係団体、内閣府、デジタル庁、総務省、厚生労働省、経済産業省が参集。 7.視覚障害者等の読書環境の整備の推進に関する法律に基づく取組 〇法に基づき、関係者協議会を開催し、関係者からの意見聴取や協議等を行い、パブリックコメントを経て、2025年3月に基本計画(第2期)を策定した。 8.文字表示電話サービス「ヨメテル」の提供開始(TOPICS) 〇中途失聴者や高齢者を含む難聴者などが、スマートフォンを使って自身の声で通話相手であるきこえる人に話し、通話相手の声を文字で読むことができる文字表示電話サービス「ヨメテル」が2025年1月から開始された。 ※「ヨメテル」は、現行の電話リレーサービスと同じく公共インフラとして24時間365日利用でき、緊急通報(110、118、119)が可能。発信者側はIP電話へ発信する際と同程度の通話料金が適用。 第6章 国際的な取組 〇障害者権利委員会では、2024年6月に委員改選に伴う選挙が行われ、我が国から立候補した田門浩弁護士が当選し委員に就任した(任期2025年1月から2028年12月)。 ★「障害者白書」は、内閣府ホームページに掲載しています。https://www8.cao.go.jp/shougai/whitepaper/index-w.html 【P28-29】 研究開発レポート 16年間のパネル調査がとらえた障害のある労働者の職業サイクルについて 障害者職業総合センター研究部門 社会的支援部門 1 はじめに  障害のある労働者は、年齢を重ね、また社会情勢が変化するなかで、就業・生活の実態がどのように変化するのでしょうか。  障害者職業総合センター研究部門では、2008(平成20)年度から2023(令和5)年度までの16年間、2年ごと8期にわたって多様な障害者を対象に長期縦断調査(パネル調査)を実施しました。本調査研究における「職業サイクル」とは、誕生から死亡に至るまでの「ライフサイクル」になぞらえ、職業人生における就職、就業の継続、休職や復職、離職や再就職、キャリア形成、そして最終的な職業人生からの引退に至る多くの労働者に共通する経験の全体をとらえた造語です。  以下に、調査研究報告書181「障害のある労働者の職業サイクルに関する調査研究(第8期調査最終期)」(※1)の一部についてご紹介します。 2 調査研究の方法  本調査研究の調査対象者は、視覚障害、聴覚障害、肢体不自由、内部障害、知的障害、精神障害のいずれか、またはこれらの重複障害があり、調査開始(2008年)時点での年齢は、下限を義務教育終了後の15歳、上限をおおむね55歳とし、企業や自営業で週20時間以上就労している者としました。当事者団体等、障害者を多数雇用する事業所、職業リハビリテーション機関の協力を得て募集を行い、調査開始時に登録した1026人に第3期(2012年、2013年)で新たに登録した241人を加えた1267人が対象者です。なお、対象者として登録した者は、離職しても、その後のキャリア形成の状況を確認するため、継続的に調査対象としました。  障害のある労働者の職業サイクルについて、就業状態や職種等の外的な状況だけでなく、内面的な職業の意義や満足度からもとらえるとともに、合理的配慮の提供や地域支援の状況、また、結婚や子どもの誕生、家族状況の変化等のライフサイクル、さらに、社会情勢の大きな変化等との密接な関係によるものととらえ、総合的な調査内容としました。原則として第1期から第8期まで共通の内容を調査しましたが、一部、隔回の質問項目があり、また、法制度や問題意識の変化等による項目や選択肢の変更・追加も行いました。 3 調査研究の内容  パネル調査であることの大きな利点は、一人ひとりの障害のある労働者の職業生活が年齢や時代とともにどう変化してきたのかを追跡・俯瞰できる点です。また、一般に労働者の職業サイクルは、年齢による一般的な傾向だけでなく、出生年代による特徴を有することから、個々人を超えた一定の傾向を明らかにするため、調査回答者を出生年代(以下、「世代」)に分けて、それぞれの世代(@1983〜1992年度生まれ、A1973〜1982年度生まれ、B1963〜1972年度生まれ、C1946〜1962年度生まれ)の経時的変化を追跡することにより、世代別の職業サイクルの特徴を明らかにする分析を実施しました。 4 結果 (1)世代別、障害種類別の職業サイクルの特徴  就労率は、どの世代も男女で顕著な違いはありませんでしたが、1946〜1962年度生まれにおいては、就労率が低下傾向に変わる節目が、男性は第5期、女性は第7期と違いがありました(図参照)。就業形態は、1963〜1972年度生まれはほかの世代よりも正社員が多く、給与が高いなど世代間の違いも認められました。職種は視覚障害では「医療や福祉に関わる仕事」の割合が5〜6割、肢体不自由および内部障害では「事務の仕事」の割合が青壮年期(45歳未満)で6〜8割、知的障害では「清掃やクリーニングなどのサービス業」や「ものを作る仕事」の割合がそれぞれ3〜4割と、比較的高い傾向がみられました。 (2)障害者にとっての職業の意義  仕事をする理由として、あてはまる度合いが調査項目のなかで最も高かったのは「収入を得るため」であり、その傾向は世代や年齢によって変わりませんでした。一方、仕事の満足度は「給料や待遇」が調査項目のなかで最も低い傾向がみられました。 (3)職場での理解や配慮  2016年に「合理的配慮」の提供義務化等を内容とする改正障害者雇用促進法が施行されたことの影響をみると、法律施行前の第4期に職場において「理解や配慮がない」と回答した割合は22%でしたが、施行後の第5期においては、そのうちの約半数となる12%は新たになんらかの「理解や配慮がある」と回答しました。 (4)職業生活と関連するライフイベント  世代別では1973〜1992年度生まれは結婚している者の割合がゆるやかに上昇していました。障害種類別では知的障害は結婚している者や子どもがいる者の割合が低い傾向がみられました。また、いずれの世代、障害種類別においても、だれかと一緒に暮らしている者の割合が高くなっていました。 5 まとめ  今回の調査で明確になったのは、障害のある労働者における就職、職場定着、合理的配慮の提供といった職場環境の変化、ライフイベントといった職業人生における経験の具体的な状況です。このような障害者の「職業サイクル」における変化への適応を支えることは非常に重要です。今後は全8期の調査データを用いて、障害のある労働者の長期にわたる職業生活の変化における個人要因(障害種類や性別・年齢等)と環境要因(家庭や職場環境の状況等)の影響およびそれらの相互作用の分析を進めていきます。  本調査研究報告書においては、「中高年期における障害の重度化が働き方等に与える影響」について、また調査期間中に起きた「東日本大震災」、「新型コロナウイルス感染症拡大」が障害者の就業および生活に与えた影響についても報告しています。本調査研究成果をわかりやすくまとめた資料「パネル調査がとらえた障害のある人の職業人生」(※2)を作成していますので、ぜひご活用ください。 ※1 調査研究報告書181「障害のある労働者の職業サイクルに関する調査研究(第8期 調査最終期)−第8回職業生活前期調査(令和4年度)・第8回職業生活後期調査(令和5年度)−」は、以下のホームページでご覧になれます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/report/houkoku/houkoku181.html ※2 マニュアル、教材、ツール等84「パネル調査がとらえた障害のある人の職業人生」 https://www.nivr.jeed.go.jp/research/kyouzai/kyouzai84.html ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室 (TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 図 4世代を重ね合わせた就労率の経時的変化(グラフ横軸は年齢範囲の中央値を示す) 【男性】 1983〜1992年度生まれ(n=26) 20.5 22.5 23.0 25.5 27.5 29.5 31.5 33.5(歳) 1期 2期 3期 4期 5期 6期 7期 8期 1973〜1982年度生まれ(n=41) 29.5 31.5 33.5 35.5 37.5 39.5 41.5 43.5(歳) 1期 2期 3期 4期 5期 6期 7期 8期 1963〜1972年度生まれ(n=55) 39.5 41.5 43.5 45.5 47.5 49.5 51.5 53.5(歳) 1期 2期 3期 4期 5期 6期 7期 8期 1946〜1962年度生まれ(n=54) 53.5 55.5 57.5 59.5 61.5 63.5 65.5 67.5(歳) 1期 2期 3期 4期 5期 6期 7期 8期 【女性】 1983〜1992年度生まれ(n=7):参考 20.5 22.5 23.0 25.5 27.5 29.5 31.5 33.5(歳) 1期 2期 3期 4期 5期 6期 7期 8期 1973〜1982年度生まれ(n=22) 29.5 31.5 33.5 35.5 37.5 39.5 41.5 43.5(歳) 1期 2期 3期 4期 5期 6期 7期 8期 1963〜1972年度生まれ(n=26) 39.5 41.5 43.5 45.5 47.5 49.5 51.5 53.5(歳) 1期 2期 3期 4期 5期 6期 7期 8期 1946〜1962年度生まれ(n=27) 53.5 55.5 57.5 59.5 61.5 63.5 65.5 67.5(歳) 1期 2期 3期 4期 5期 6期 7期 8期 【P30】 ニュースファイル 国の動き 厚生労働省 使用者による障害者虐待の状況  厚生労働省が「令和6年度使用者による障害者虐待の状況等」を取りまとめ、結果を公表した。「障害者虐待防止法」に基づき都道府県労働局が地方自治体と連携し、障害者を雇用する事業主や職場の上司などの「使用者」による障害者への虐待防止や是正指導に取り組むなかで、通報や届出のあった事業所数と対象となった障害者数を調べた。  これによると通報・届出のあった事業所数は、前年度比5.4%増の1593事業所。対象となった障害者数は、前年度比1.5%減の1827人だった。虐待が認められた事業所数は、前年度比2.9%減の434事業所で、虐待が認められた障害者数は、前年度比14.3%減の652人で、障害種別では多い順に知的障害(189人)、精神障害(170人)、身体障害(142人)、発達障害(33人)などとなっている。  認められた虐待の種別では、経済的虐待が584人(85.0%)で最多となっている。ある製造業の事業所のケースでは、労働基準監督署が臨検監督で勤務実態等を確認したところ、知的障害のある正社員の割増賃金の支払額が不足していることが判明。是正勧告を行い、後日支払いを確認したという。 https://www.mhlw.go.jp/content/11909000/001553553.pdf 地方の動き 関東 「障害者用駐車場の適正利用を」  関東の1都3県(埼玉県、千葉県、東京都、神奈川県)は共同で12月までの間、障害者用駐車場の適正利用に向けた普及啓発のため、共通のリーフレットやポスター等を活用した広報活動を各都県で実施している。  障害者用駐車場(障害者等用駐車区画)は、車いすユーザーなど車の乗り降りや移動に配慮が必要な人のために設けられた区画で、通常より幅が広く、建物の出入口やエレベーターホール等に近い場所に定められている。こうした駐車場を「必要な人のために空けておこう」と呼びかけるポスターやリーフレットを、高速道路のサービスエリアや商業施設、イベント会場などで掲示・配布するほか、SNSなどでも集中的に発信している。 東京 SOSネットワーク対象に障害者も  八王子市は、行方不明になった認知症の高齢者らを早期発見するため、行政と民間が情報を共有する「SOSネットワーク」について、新たに障害者もネットワークの対象とする運用を開始した。事前にスマートフォンのアプリ(みまもりあいアプリ)に顔写真や身体的特徴を登録しておくと、失踪時、警察をはじめ公共交通機関や協力者らに情報が伝わる仕組み。  厚生労働省によるとSOSネットワークは、認知症の高齢者が巻き込まれる交通事故などを防ぐために普及を呼びかけており、いまでは全国の約1700自治体のうち8割以上で導入されているという。  八王子市内で昨年起きた、知的障害のある16歳の男子生徒の行方不明・死亡事故を受け、対象者を広げた。 神奈川 「手話リンク」を導入  神奈川県は県代表電話に、一般財団法人日本財団電話リレーサービスが提供する「手話リンク」を導入した。県ホームページの「手話で電話する」ボタンをクリックすると県庁に電話がつながり、通訳オペレータを介して手話で電話することができる。都道府県での手話リンク導入は鳥取県に次いで2番目という。  通常、聴こえない人が電話リレーサービスを利用するには事前登録が必要で通話料もかかるが、手話リンクは事前登録が不要で、インターネットの通信料のみかかる。利用方法などは神奈川県ホームページまで。 https://www.pref.kanagawa.jp/docs/yv4/prs/r4478719.html 働く 東京 パン・菓子づくりコンテスト  障害者らによるパン・菓子づくりのコンテスト「第10回チャレンジドカップ2025」の決勝大会が、日本菓子専門学校(世田谷区)で開催された。  コンテストは神奈川県内のベーカリー経営者らで構成する特定非営利活動法人NGBC(神奈川県)が、障害者の技術向上を応援しようと2003(平成15)年に初開催。途中、東日本大震災やコロナ禍などで中止となり今回6年ぶりに企画された。  参加資格は、パン・菓子製造を作業として活動している福祉施設の利用者と職員のチームで、パン部門と菓子部門のどちらかに応募できる。書類審査と公開審査を通過した15チーム(パン部門8、菓子部門7)が決勝大会に進出したが、公開審査に進出した製品については後日、審査員のコメントとアドバイスが送付される。  最高賞となる金賞には、パン部門は社会福祉法人希望会が運営する就労継続支援B型事業所「ばく to Pan」(茨城県)の「なかよしチーム ばく」がつくった「アーモンド香るフルーツたっぷり結いロール」、菓子部門は社会福祉法人江え刺さし寿じゅ生せい会か いが運営する就労継続支援B型事業所ワークセンターわかくさ「Ricoa(リコア)」(岩手県)の「米粉シフォンケーキ」が選ばれたほか、全チームが努力賞やチームワーク賞などに選ばれた。詳しい結果はコンテストの特設ホームページで公開している。 https://challengedcup.webnode.jp 本紹介 『障がい者はノウフクでもっと輝ける! ― 農福連携というしあわせな選択』  特例子会社を中心とした農福連携の促進に取り組む「農福連携特例子会社連絡会(ノウトク)」の代表を務める高草(たかくさ)雄士(ゆうし)さんが『障がい者はノウフクでもっと輝ける!―農福連携というしあわせな選択』(弘文堂刊)を出版した。  草さんは、父である故・草(たかくさ)志郎しろう)さんが2016(平成28)年に設立した一般社団法人ノーマポートの代表を引き継ぎ、農福産連携モデルを推進する活動などに取り組んできた。農福連携技術支援者育成研修や自治体向けセミナー等の講師を務めるほか、企業参入型の農福連携の普及啓発や人材育成に注力してきたという。本書ではノウフクを成功させるには、農業と福祉の橋渡しをするコーディネーターの存在も欠かせないとしつつ、「ノウフクって何ですか?」といった初心者にもとっかかりやすい説明のなかで、「なぜ、農業と福祉がお付き合いをするのですか?」といった質問形式をとりながら、農福連携が進められている背景から、実際の取組み、導入方法、課題などを解説している。四六判、192ページ、1980円(税込) アビリンピック マスコットキャラクター アビリン 2025年度地方アビリンピック 開催予定 11月末〜1月 千葉県、京都府、佐賀県 *開催地によっては、開催日や種目ごとに会場が異なります *  は開催終了 地方アビリンピック 検索 ※日程や会場については、変更となる場合があります。 ※第45回全国アビリンピックは10月17日(金)〜10月19日(日)に、愛知県で開催されました。本誌2026年2月号で特集します。 地図 千葉県 京都府 佐賀県 【P31】 ミニコラム 第52回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は大野委員が執筆しています。ご一読ください。 企業の挑戦を支える哲学と風土、楽天ソシオビジネス株式会社の取材から トヨタループス株式会社 取締役 大野聡士  英語の「Challenge」の語源は、ラテン語の「calumnia」に由来し、もともとは告発や主張を意味する言葉だったそうです。スポーツの世界では審判の判定に異議を唱える際にChallenge を宣言することがあります。このようにさまざまな意味を持ちますが、一般的には、Challenge は挑戦をさす言葉として使われることが多いと思います。  「挑戦なくして成功なし」。多くの偉人や経営者が挑戦の重要性を説いています。障害者雇用の分野においても、多くのみなさまが一人ひとりの働きがいや組織の価値向上、持続的成長に向け日々努力されていると思います。  楽天ソシオビジネス様も例外ではありません。今回の取材を通じて、企業に根づく楽天グループの哲学、黒字化への強いこだわり、失敗を許容し成長につなげるための企業風土、そしてチャレンジを支える評価の仕組みやお互いに支え合うメンバーの存在、将来に向けた社長の力強いメッセージなど、企業の強みや大切にしていることをおうかがいすることができました。  将来に向けてなすべきことは何かを考える貴重な機会となりました。取材にていねいにご対応いただいたみなさまに感謝申し上げます。 【P32】 読者の声 掲示板 可能性が花開くとき Y・F(東京都)  私の働く会社に手話サークルができました。じつは私は当初「手話ができるYさんに手話サークルを立ち上げてほしい」と聴覚障害のある同僚に頼まれていたのです。  日常会話程度の手話ユーザーである私としては頼りにされてうれしかったのですが、あえて断りました。同僚は心細そうな顔をしていましたが、もちろん意地悪をしたわけではありません。  「あなたは本業でも高い成果を上げているし、手話サークルを立ち上げ、運営していく力がすでに備わっている。あなたならきっとやれるし、この経験が眠っている可能性を目覚めさせるいいきっかけになるのではないか」、そのように考えた私はあえて手を出し過ぎず、見守る役に徹することにしたのです。  サークルを立ち上げるためには初めてのことが多いし、うまくいかないこともありました。しかし手話に関心を持つ社員の協力を得ながら、先日ついに第一回の手話サークルが開催されたのです。  手話やジェスチャーを交じえて講座を進める同僚の姿は自信と喜びに満ちていました。撒かれた種は芽吹き、つぼみをつけ、花を咲かせました。私は手話サークルの最前列に座り、生命力あふれる同僚の姿を見ながらニヤリとせずにはいられなかったのです。 読者アンケートにご協力をお願いします! ※カメラで読み取ったリンク先が「https://krs.bz/jeed/m/hiroba_enquete」であることをご確認ください。 回答はこちらから 次号予告 ●リーダーズトーク  「無印良品」ブランドの衣服品、食料品、生活用品などの企画・開発から、商品調達、流通・販売までを手がける株式会社良品計画(東京都)人事部長の吉田正人さんに、同社が取り組むハートフルプロジェクトに基づいた障害者雇用の方針などについてお話をうかがいます。 ●職場ルポ  農業機械や建設機械のパイプ部品などを製造しているコーケン工業株式会社(静岡県)を訪問。70代以上の従業員も多い職場で「大家族のような自然体での支え合い」を目ざし、障害のある従業員の能力を活かしている取組みをご紹介します。 ●グラビア  精神科スーパー救急病棟や地域移行強化病棟など全6病棟330床に加え、訪問看護ステーションや介護老人保健施設なども併設している社会医療法人智徳会未来の風せいわ病院(岩手県)を取材。障害のある従業員が安心して働けるような職場づくりにむけた配慮をお伝えします。 ●編集委員が行く  菊地一文編集委員が、市立札幌みなみの杜高等支援学校(北海道)を訪問。障害のある生徒の就労支援や職場実習など、学校独自の取組みについて取材しました。 メールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 あなたの原稿をお待ちしています ■声−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 電話 043-213-6200(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●編集委託−株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 電話 03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 令和7年11月25日発行 無断転載を禁ずる 12月号 ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 トヨタループス株式会社 取締役 大野聡士 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 サントリービバレッジソリューション株式会社 人事本部 副部長 平岡典子 武庫川女子大学 准教授 増田和高 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学大学院 教授 八重田 淳 国際医療福祉大学 准教授 若林 功 【P33】 ◆広域センター・地域センター 一覧◆ 2025年11月25日現在 広域障害者職業センター 全国の広範な地域から障害者を受け入れ、職業評価、職業指導、職業訓練などの職業リハビリテーションを実施し、その成果に基づく指導技法などを能力開発施設へ提供しています 名称 所在地 電話番号 国立職業リハビリテーションセンター(中央障害者職業能力開発校)〒359−0042 埼玉県所沢市並木4−2 04−2995−1711 国立吉備高原職業リハビリテーションセンター(吉備高原障害者職業能力開発校) 〒716−1241 岡山県加賀郡吉備中央町吉川7520 0866−56−9000 地域障害者職業センター 障害者に対する専門的な職業リハビリテーションサービス、事業主に対する障害者の雇用管理に関する相談・援助、地域の関係機関に対する助言・援助を実施しています 名称 所在地 電話番号 北海道障害者職業センター 〒001−0024 札幌市北区北二十四条西5−1−1 札幌サンプラザ5階 011−747−8231 旭川支所〒070−0034 旭川市四条通8丁目右1号 LEE旭川ビル5階 0166−26−8231 青森障害者職業センター 〒030−0845 青森市緑2−17−2 017−774−7123 岩手障害者職業センター 〒020−0133 盛岡市青山4−12−30 019−646−4117 宮城障害者職業センター 〒983−0836 仙台市宮城野区幸町4−6−1 022−257−5601 秋田障害者職業センター 〒010−0944 秋田市川尻若葉町4−48 018−864−3608 山形障害者職業センター 〒990−0021 山形市小白川町2−3−68 023−624−2102 福島障害者職業センター 〒960−8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024−526−1005 茨城障害者職業センター 〒309−1703 笠間市鯉淵6528−66 0296−77−7373 栃木障害者職業センター 〒320−0865 宇都宮市睦町3−8 028−637−3216 群馬障害者職業センター 〒379−2154 前橋市天川大島町130−1 ハローワーク前橋3階 027−290−2540 埼玉障害者職業センター 〒338−0825 さいたま市桜区下大久保136−1 048−854−3222 千葉障害者職業センター 〒261−0001 千葉市美浜区幸町1−1−3 ハローワーク千葉4階 043−204−2080 東京障害者職業センター 〒110−0015 台東区東上野4−27−3 上野トーセイビル3階 03−6673−3938 多摩支所 〒190−0012 立川市曙町2−38−5 立川ビジネスセンタービル5階 042−529−3341 神奈川障害者職業センター 〒252−0315 相模原市南区桜台13−1 042−745−3131 新潟障害者職業センター 〒950−0067 新潟市東区大山2−13−1 025−271−0333 富山障害者職業センター 〒930−0004 富山市桜橋通り1−18 北日本桜橋ビル7階 076−413−5515 石川障害者職業センター 〒920−0901 金沢市彦三町1−2−1 アソルティ金沢彦三2階 076−225−5011 福井障害者職業センター 〒910−0026 福井市光陽2−3−32 0776−25−3685 山梨障害者職業センター 〒400−0864 甲府市湯田2−17−14 055−232−7069 長野障害者職業センター 〒380−0935 長野市中御所3−2−4 026−227−9774 岐阜障害者職業センター 〒502−0933 岐阜市日光町6−30 058−231−1222 静岡障害者職業センター 〒420−0851 静岡市葵区黒金町59−6 大同生命静岡ビル7階 054−652−3322 愛知障害者職業センター 〒460−0003 名古屋市中区錦1−10−1 MIテラス名古屋伏見5階 052−218−2380 豊橋支所 〒440−0888 豊橋市駅前大通1−27 MUS豊橋ビル6階 0532−56−3861 三重障害者職業センター 〒514−0002 津市島崎町327−1 ハローワーク津3階 059−224−4726 滋賀障害者職業センター 〒525−0027 草津市野村2−20−5 077−564−1641 京都障害者職業センター 〒600−8235 京都市下京区西洞院通塩小路下る東油小路町803 ハローワーク京都七条5階 075−341−2666 大阪障害者職業センター 〒541−0056 大阪市中央区久太郎町2−4−11 クラボウアネックスビル4階 06−6261−7005 南大阪支所 〒591−8025 堺市北区長曽根町130−23 堺商工会議所会館5階 072−258−7137 兵庫障害者職業センター 〒657−0833 神戸市灘区大内通5−2−2 ハローワーク灘3階 078−881−6776 奈良障害者職業センター 〒630−8014 奈良市四条大路4−2−4 0742−34−5335 和歌山障害者職業センター 〒640−8323 和歌山市太田130−3 073−472−3233 鳥取障害者職業センター 〒680−0842 鳥取市吉方189 0857−22−0260 島根障害者職業センター 〒690−0877 松江市春日町532 0852−21−0900 岡山障害者職業センター 〒700−0821 岡山市北区中山下1−8−45 NTTクレド岡山ビル17階 086−235−0830 広島障害者職業センター 〒730−0004 広島市中区東白島町14-15 NTTクレド白島ビル12階 082−502−4795 山口障害者職業センター 〒747−0803 防府市岡村町3−1 0835−21−0520 徳島障害者職業センター 〒770−0823 徳島市出来島本町1−5 ハローワーク徳島4・5階 088−611−8111 香川障害者職業センター 〒760−0055 高松市観光通2−5−20 087−861−6868 愛媛障害者職業センター 〒790−0808 松山市若草町7−2 089−921−1213 高知障害者職業センター 〒781−5102 高知市大津甲770−3 088−866−2111 福岡障害者職業センター 〒810−0042 福岡市中央区赤坂1−6−19 ワークプラザ赤坂5階 092−752−5801 北九州支所 〒802−0066 北九州市小倉北区萩崎町1−27 093−941−8521 佐賀障害者職業センター 〒840−0851 佐賀市天祐1−8−5 0952−24−8030 長崎障害者職業センター 〒852−8104 長崎市茂里町3−26 095−844−3431 熊本障害者職業センター 〒862−0971 熊本市中央区大江6−1−38 ハローワーク熊本4階 096−371−8333 大分障害者職業センター 〒870−0131 大分市皆春1483−1 大分職業能力開発促進センター内 第1教室棟3・4階 097−503−6600 宮崎障害者職業センター 〒880−0014 宮崎市鶴島2−14−17 0985−26−5226 鹿児島障害者職業センター 〒890−0063 鹿児島市鴨池2−30−10 099−257−9240 沖縄障害者職業センター 〒900−0006 那覇市おもろまち1−3−25 沖縄職業総合庁舎5階 098−861−1254 【裏表紙】 障害者雇用の総合誌「働く広場」がいつでも無料でお読みいただけます! 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、障害者に対する雇用支援などを実施しており、その一環として障害者雇用の月刊誌「働く広場」を発行しています。 本誌はデジタルブックでも公開しており、スマートフォンやパソコンでいつでも無料でお読みいただけます。ぜひ、ご利用ください! (毎月5日ごろに最新号がアップされます) 掲載をお知らせするメール配信サービスもございますのであわせてご利用ください。 読みたいページにすぐ飛べる! 自由に拡大できて便利! ★ルポルタージュ形式で障害者雇用の現場をわかりやすく紹介 ★国が進める施策の動向や、関係制度、助成金などの支援策を紹介 ★「障害者雇用率向上へのヒント」、「障害のある人の地域生活支援について」など、テーマを掘り下げた記事が充実 お問合せ先 企画部情報公開広報課 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 電話043-213-6200 FAX043-213-6556 E-mail hiroba@jeed.go.jp https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html JEED 働く広場 検索 12月号 令和7年11月25日発行 通巻578号(毎月1回25日発行)