職場ルポ 特性や事情にあわせ、柔軟な配慮と支援で安定就労 ―北陸コカ・コーラボトリング株式会社(富山県)、株式会社べネフレックス能登営業所(石川県)― 飲料水の製造販売を展開する会社では、グループ各社で直接雇用しながら、従業員一人ひとりにあわせた職場環境づくりを図ってきた。 取材先データ 北陸コカ・コーラボトリング株式会社 〒933-0397 富山県高岡市(たかおかし)内島(うちじま)3550 TEL 0766-31-1158 FAX 0766-31-3725 株式会社べネフレックス 能登営業所 〒929-2222 石川県七尾市(ななおし)中島町(なかじままち)字(あざ)中島二部(なかじまにぶ)1-4 TEL 0767-66-2888 FAX 0767-66-2889 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 Keyword:身体障害、知的障害、精神障害、ジョブコーチ支援、企業グループ算定特例 POINT 1 トップダウンで障がい者雇用の専属担当者を置き、内製化や調整を図る 2 一人ひとりの特性や置かれた状況にあわせた、柔軟で細やかな配慮 3 労務の専門知識も活かした、だれもが働きやすい制度や職場づくり 清涼飲料水の製造販売  「北陸コカ・コーラボトリング株式会社」(以下、「北陸コカ・コーラ」)は富山県高岡市に本社を置き、コカ・コーラ製品の製造販売を行う全国五つのボトラー会社の一つとして、富山・石川・福井・長野の4県で清涼飲料水などの製造販売を行っている。1962(昭和37)年設立の「北陸飲料株式会社」が、翌年に日本コカ・コーラ株式会社の指定会社となり、現在の社名に変更して60年以上になる。  障がい者雇用については、23年ほど前に組織的な推進へと本腰を入れることになったという。コーポレートプランニング統括部人事企画課エキスパートの本郷(ほんごう)一利(かずとし)さんは「きっかけは、それまで分社化を推進しながらアウトソーシングを進めた結果、『障害者雇用率』の大きな低下が判明したことでした」とふり返る。  現在は北陸コカ・コーラグループ4社の全従業員924人のうち、障がいのある従業員は22人(身体障がい12人、知的障がい5人、精神障がい5人)で、雇用率は3.29%(2025〈令和7〉年6月1日現在)までになったという。  人事部門を中心としたこれまでの取組みのほか、本社やグループ会社で働く従業員のみなさんを紹介する。 納付金発生を機に  北陸コカ・コーラでは2002(平成14)年、「障害者雇用納付金」(※1)を納めることになったことから、当時の代表取締役社長で現在代表取締役会長を務める稲垣(いながき)晴彦(はるひこ)さんが、「企業の社会的責任を果たすべきである」として、障がい者雇用の積極的推進を社内向けに打ち出した。  これを受けて当時の人事部は同年、障がい者雇用推進の専属担当者1人を配置する。専属担当者はまず社内業務の洗い出しを行い、職場の管理職と協議しながらハローワークへ求人票を出し、面接やトライアル雇用を経て採用していくことにしたという。  最初につくり出したのは清掃業務だ。それまで外部業者に依頼していた本社建物内のトイレや廊下、共有スペースの床などの清掃を社内業務に切り替えた。  実際に求職者のトライアル雇用を行うときには、専属担当者も一緒に作業をしながら、業務内容が本人にマッチするかを見きわめ、各作業にかかる時間などを確認したという。そこから一人ひとりにあわせて1日の作業の流れを「業務予定表」として作成し、想定時間内に必要な作業が完了できるよう訓練を重ねていったそうだ。この際、必要に応じて当機構(JEED)の障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターからジョブコーチ支援を受け、仕事内容や清掃スケジュール、清掃作業について指導を受けながら、本人が1人で作業できるようサポートしてもらった。同時に職場側もアドバイスを受けながら業務の定着を図っていった。  現在、北陸コカ・コーラグループの障がい者雇用推進を担当しているのはコーポレートプランニング統括部人事企画課シニアマネジャーの宮崎(みやざき)としみさんだ。グループ各社の採用から定着、相談窓口、支援機関との連携などを一手に引き受けている。  清掃業務については、重度の知的障がいのある2人と、外部の作業員を加えた計3人で行っているが、これまで試行錯誤もあったようだ。最初の支援が順調にいったからといって、万事うまく定着できるわけでもなかったという。宮崎さんは「しばらく経つと、自己流の清掃内容になったり、スケジュール通りに清掃できなくなったりすることがあります。ときには現場から清掃ができていないとクレームが入ることもあります。またコミュニケーションが苦手なところもあり、同僚とうまくいかないこともあります」と明かしてくれた。  課題が確認された際、通常は総務課の支援担当者や宮崎さんが指導や対応をしているが、大きな業務内容の変更や改善策を検討しなければならないときは、あらためて障害者就業・生活支援センターなどに相談している。その結果、清掃スケジュール表を清掃場所ごとに用意したり、日報の書式を工夫して自己チェックしたりしながらスムーズに作業を進められるようになったそうだ。  清掃業務は日ごろは単独作業が多いが、自己の業務のふり返りやコミュニケーションの円滑化のため、総務課の支援担当者が週1回の面談をもうけている。「労働安全に関する話をはじめ、社内のさまざまな案内事項も共有しながら、会社の一員であるという仲間意識も持てるよううながしています」(宮崎さん) 試験室で働く女性も  本社から車で20分ほど離れたところにある北陸コカ・コーラ砺波(となみ)工場。ここの品質管理課では、精神障がいのある女性が働いている。試験室での洗い物や廃棄物の分別、共有場所の清掃などを担当しているという。  本人の特性などから、「新しい環境や仕事の導入は慎重にして、基本的に定型業務とする」、「一緒に働くメンバーを固定化し、日々の変化を極力少なくする」といった配慮をしているそうだ。現場の支援担当者は「とてもまじめに働いてもらっています」としたうえで、「夏場などは疲れがたまりやすく、以前の作業場所が暑いところだったため、空調の効いた場所での仕事の割合を増やすなど、工夫しています」と話してくれた。 以前は1年で転職していた男性  宮崎さんは、「障害者職業センターや障害者就業・生活支援センターから継続的に支援やアドバイスをもらっていることもあり、うれしいことに勤続10年になる従業員もいます」と話す。その一人が、石川県白山(はくさん)市にある北陸コカ・コーラの「石川マーケットサービスセンター」で清掃業務を担当している50代男性のSさんだ。精神障がいがあり、それまでの一般企業では1年以内の転職をくり返していたそうだが、就労継続支援A型事業所を経て2016年に入社し、10年目を迎えた。  当初、主治医から「危険や責任をともなう作業は避ける」などの配慮事項が伝えられたほか、支援に入った障害者職業センターの障害者職業カウンセラーや職場適応援助者(ジョブコーチ)からは「本人の特性として、スピードやノルマを求められる作業では焦ってしまいがちなので、落ち着いて正確に作業できる方法や手順が必要」、「職場で相談できる人がいないと心理的な負担が高くなり体調を崩しやすいので、職場内の相談体制を調整する」といった支援計画も提示。計3カ月ほどの支援を受けSさんは安定的に勤務できるようになった。  さらに職場側では、「障害者職業生活相談員」(※2)資格認定講習を受けた北原(きたはら)喜代美(きよみ)さんが、Sさんの支援担当者として仕事の調整や相談を受けている。北原さんはSさんについて「とてもまじめに取り組んでくれています。ただ一生懸命になりすぎて、焦る気持ちを抑えきれず体調を崩しやすいので、日ごろから様子を見て体調管理などのアドバイスをしています」とのことだ。  Sさん自身は「同僚とのコミュニケーションのとり方で苦労することはありますが、清掃後に社員の方から『ありがとうございます』と声をかけてもらい、感謝されることがやりがいにつながっています」として「今後もできるだけ長く勤務したいので、しっかり健康管理もしたいです」と意欲を示している。 細やかな配慮で勤続22年  本社の事業管理部コールセンターでも長年、細やかな配慮を受けながら働いている従業員がいる。Wさんは、入社前から下肢障がいがある。前の職場で働いていたときに股関節の痛みが悪化し、退職を余儀なくされたうえに、日常生活へも影響を及ぼすようになったそうだ。  「当時はあたり前のことだった働くことが遠いものに感じられました。もう一度社会とつながりたいという思いが強かったです」というWさんは、JEEDの職業能力開発促進センター(ポリテクセンター)で職業訓練を受け、再就職を目ざす。その後ハローワークを通じ、契約社員として2003年に入社した。  面接の際は、身体的な制約があるとして「30分以上の歩行や立ち仕事が困難である」、「階段の上り下りに強い痛みがあるため、できるかぎり避けたい」ことなどを率直に伝えたそうだ。  これを受け職場側は、通勤用の車を停める場所を通用口の近くに指定、エレベータを優先利用できるようにして歩行の負担を軽減した。Wさんは「通用口には手すりが設置され、より安全に出入りできるようになりました。その後はテレワーク制度による在宅勤務もできるようになり、体調などの状況に応じて柔軟に働ける環境になったことは、本当に助かります」という。  Wさんが働き始めたころは、自分だけ配慮してもらっていることに後ろめたさを感じることもあったが、周囲の温かいフォローに励まされたという。「業務以外でも重いものを運ぶときや困った場面で声をかけて助けてもらっています。ここで働けてよかったと感じる瞬間が、これまでにたくさんありました」(Wさん)  2013年に股関節の手術を受けたが、それでも走ったりしゃがんだりすることはできず、階段も一歩ずつしかのぼれないというWさんは最後にこう語る。  「股関節の障がいといっても、歩ける距離や痛みの出方、できる動作はほかの人と違います。一人ひとりの状況に寄り添った柔軟な配慮と対応をしてくれる職場と、同僚のみなさんの温かい支えがなかったら、こうして長年働くことはできなかったと思います」  Wさんの上司である五十嵐(いがらし)学(まなぶ)さんによると、「コールセンター業務は、電話対応やシステム操作など、集中力と正確性が求められるだけに、余計な負担はかからないよう、職場内も座席の配置や動線を工夫しています。本人のペースを尊重しながら、無理なくスキルアップできるよう段階的な指導を行っています」とのことだ。  一方、職場全体への影響としては「障がいのある方と働くことでメンバーの意識が高まり、互いに支えあう風土が育まれています。結果として、チームの結束力が強まり、職場の雰囲気もよりよくなっていると感じます」と語ってくれた。 透析や移植手術を経て  石川県七尾市(ななおし)能登中島町(のとなかじままち)にある北陸コカ・コーラの能登事業所も訪問した。同じ建物には商品を自動販売機で販売するグループ会社「株式会社ベネフレックス」(以下、「ベネフレックス」)の能登営業所も入っている。  能登事業所の建物は2024年1月の能登半島地震、同年9月の能登半島豪雨によって大きな被害を受けた奥能登地域の山あいにあり、建物の前から先に続く山越え道路が取材の前日に通行禁止が解除されたばかりだった。  ベネフレックスの営業企画部企画管理課の課長を務める川場(かわば)博記(ひろき)さんによると「地震から数日後には電気が復旧し営業を再開しましたが、水道は2カ月ほど使えず、トイレ用に敷地内の井戸水を汲んで使っていました。いまも仮設住宅で暮らす部下もいます」と話してくれた。  ここで、働きながら病気を乗り越えてきた男性の話を聞くことができた。地元育ちの岩尾(いわお)良静(りょうせい)さん(42歳)は、2011年に正社員として入社後、専用車で各地を回りながら自動販売機に商品を補充する業務を担当していた。ところが翌年、腎不全を患ってしまう。週3回各4時間の透析が必要だった岩尾さんだが、仕事を続けることができた。  「上司に相談し、柔軟な働き方になるよう配慮してもらえました。透析のある日は、少し早めに出勤するなどして時間をつくることができました」  その後1年弱で、母親から移植を受ける手術をすることになり、2カ月間休職した岩尾さん。復職後、上司から「1人で回るのはまだ厳しいだろうから」といってもらい、負担の少ない自動販売機の設置作業の補助などに従事した。その後、体力の回復にあわせて商品補充業務に戻ることができたそうだ。  いまは2カ月に1回通院をしているという岩尾さんは「術後は多少疲れやすくはなりましたが、勤務中は1人で回っているので、休憩時間の配分も自分で調整しています。結果として業務量も以前と変わらずこなせているので、今後も無理なく続けていけると思います」と笑顔で語る。  この日岩尾さんが回っていたのは、商店などの少ない住宅地域。岩尾さんが補充作業を終えるのを待っていた近所の高齢者が、「ここに自販機があって助かるよ」といいながら飲み物を買っていた。  またベネフレックスでは、自動販売機脇に設置されているごみ箱の空き缶回収も行っているが、精神障がいのある従業員3人のうち2人が回収作業、もう1人が分別作業をそれぞれ担当している。川場さんによると「ハローワーク経由の求人で、普通免許があることを条件に採用しています。トライアル雇用ではペアで回ってもらい、順調にいけば1人で回ってもらいます」とのことだ。  毎日、回収場所は変わるが、なるべく運転距離が少なくてすむよう、回収地点やスケジュールを工夫している。「最近は大型ショッピングセンターなど1カ所でたくさん回収する地点もあり、彼らは大事な戦力です」と川場さんはいう。 だれもが働きやすい職場に  北陸コカ・コーラは2010年、三つの子会社を含めて「企業グループ算定特例」(※3)の認定を受けている。「当時は県内でこの制度の認定を受けている事例がなく、富山労働局やハローワークの方に協力していただきながら進め、国から認定されたときは達成感もありました」と宮崎さん。  特例子会社を設立することなく、グループ会社全体で障がい者雇用を進める方針のもと、グループ会社それぞれが法定雇用率達成を目ざしているという。宮崎さんは「本社の人事企画課にも採用などの相談がよく来るようになりました。グループ会社全体に、障がい者雇用についての理解が浸透していると実感しています」と手応えを語る。  これまで北陸コカ・コーラグループでは、障がいのある従業員がいる職場には、もれなく「障害者職業生活相談員資格認定講習」の受講もうながしてきた。現在グループ全体で10人、本社内だけで5人の同相談員がいる。宮崎さんは「さまざまな障がいの特性を理解し、仕事内容の決定や変更、働きやすい職場環境づくりのための工夫をしながら、当事者の体調の変化に気づき早期に対応できる、相談しやすい体制づくりを進めています」と説明する。  宮崎さんは、人事部門に異動してから社会保険労務士の資格も取得しており、労務管理に関する専門知識を活かしつつ、他企業の好事例などを参考にしながら、だれもが働きやすい環境づくりに力を入れてきた。  多様な働き方の支援として子育てや介護、病気療養との両立支援をはじめ、部署によって異なる繁忙期をふまえた変形労働時間制、時間単位の有給休暇制度、半日単位の有給休暇制度などを積極的に導入し、従業員の意見を聞きながら内容の充実に努めている。特に在宅勤務が可能なテレワーク制度はコロナ禍の前から導入し、障がいのある人だけでなく、さまざまな事情を抱える人も柔軟に働きやすくなったそうだ。  2017年からはパートタイム従業員について新たに評価制度を導入した。宮崎さんは「これまで正社員で使っていた評価基準表をアレンジし、年に1度、職場の管理者が評価しています。評価が上がれば次年度の賃金にも反映されますので、従業員のモチベーションアップにつながっています」と説明する。  北陸コカ・コーラでは、ハローワークを通した採用活動が中心だが、本郷さんは「今後は、特別支援学校などから職場見学や職場実習生を受け入れることも考えています」と意欲的に語ってくれた。以前、県内の学校の教員らが研修の一環として北陸コカ・コーラの見学に訪れた際に、ある特別支援学校の先生と意見交換する機会があり、本郷さんたちも「職場見学からやってみようか」と受入れ体制づくりを検討しているそうだ。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、北陸コカ・コーラボトリング株式会社様のご意向により「障がい」としています ※1「障害者雇用納付金制度」については、JEEDホームページをご覧ください。https://www.jeed.go.jp/disability/about_levy_grant_system.html ※2「障害者職業生活相談員」については、JEEDホームページをご覧ください。https://www.jeed.go.jp/disability/employer/employer04.html ※3「企業グループ算定特例」については、厚生労働省ホームページをご覧ください。「事業主の方へ 1.障害者雇用率制度」内「企業グループ算定特例制度の概要」、ほかhttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html 写真のキャプション 北陸コカ・コーラボトリング株式会社本社(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 北陸コカ・コーラボトリング株式会社コーポレートプランニング統括部人事企画課エキスパートの本郷一利さん コーポレートプランニング統括部人事企画課シニアマネジャーの宮崎としみさん(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 支援担当者との面談で、業務のふり返りやコミュニケーションの円滑化を図る(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 清掃場所や作業内容がリスト化 された業務日報。作業開始、終了時刻を記入する(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 北陸コカ・コーラ砺波工場の試験室での洗い物の様子(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 石川マーケットサービスセンターで清掃業務にあたるSさん(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) Wさんが働く事業管理部コールセンター(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 石川マーケットサービスセンターでSさんの支援を担当する障害者職業生活相談員の北原喜代美さん(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 事業管理部コールセンターでWさんの上司の五十嵐学さん(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) 株式会社ベネフレックス能登営業所が入る北陸コカ・コーラ能登事業所(写真提供:北陸コカ・コーラボトリング株式会社) ベネフレックス営業企画部企画管理課課長の川場博記さん ベネフレックス能登営業所で働く岩尾良静さん 専用車から自動販売機に補充する商品を取り出す岩尾さん