【表紙】 令和7年12月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第579号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2026/1 No.579 リーダーズトーク 配慮があたり前の文化でだれもが、どこでも働ける職場に 株式会社良品計画 人事部長 吉田正人さん 職場ルポ 大家族のように、自然体で支え合う職場 コーケン工業株式会社(静岡県) グラビア リワークプログラムで復職を支援するピアスタッフ精神保健福祉士 社会医療法人智徳会 未来の風せいわ病院(岩手県) 編集委員が行く 社会に貢献する人材育成を目ざした特別支援学校におけるキャリア発達支援 市立札幌みなみの杜高等支援学校(北海道) 「向上心」愛知県・森(もり)淳(じゅん)さん 1月号 【前頁】 心のアート 秋田駒ケ岳 千葉 広和 (NPO法人生活支援きょうどう舎 しじゅうから at work) 画材:画用紙、色鉛筆/サイズ:縦381mm×横540mm  60歳から絵を描き始めて以来、一貫して山の絵に向き合い続けている千葉広和さん。初期のころは、生まれ育った秋田県の駒ヶ岳(こまがたけ)、大人になってから移り住んだ宮城県の泉ヶ岳(いずみがたけ)や太白山(たいはくさん)、七ツ森といったお気に入りの山の景色を思い出しながら表現してきた。最近では「いろんな山を描いてみたい」という意欲があり、日本百名山の写真集を参考にしながら全国各地の山の絵を完成させている。  描くときは、はじめに山の稜線(りょうせん)や雲、山小屋などを下書きしてから、ひとマスずつ色を交互に塗っていく。手の震えでにじむ輪郭や、その日の体調で変化する筆圧によってできる色の濃淡などが、自然な山のグラデーションやまるで雲が流れているような空を生み出している。 (文:NPO法人エイブル・アート・ジャパン、障害者芸術活動支援センター@宮城〈SOUP〉鎌田(かまた)貴恵子(きえこ)) 千葉広和(ちば・ひろかず) 1948(昭和23)年10月生まれ 2015(平成27)年 「仙台市障害者による書道・写真・絵画コンテスト」銀賞受賞(宮城県) 2016〜2024(令和6)年 第1〜6回「きょうどう舎それいろ展」出展(宮城県/ギャラリーチフリグリ) 2018・2024年 「せんだい21アンデパンダン展」出展(宮城県/仙台市内5会場) 2019・2020年 第5・6回「Art to You!東北障がい者芸術全国公募展」入選(宮城県/せんだいメディアテーク) 2022年 「ビッグ幡in東大寺」入選(奈良県/東大寺大仏殿前) 2025年 「『わたしの中のバリアを外すのは、わたしだ。』作品展 ART&ART WEEK」入選(宮城県/仙台パルコ本館) 協力:NPO法人エイブル・アート・ジャパン、障害者芸術活動支援センター@宮城 【もくじ】 障害者と雇用 目次 2026年1月号 NO.579 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 心のアート 前頁 秋田駒ケ岳 作者:千葉広和(NPO法人生活支援きょうどう舎 しじゅうから at work) リーダーズトーク 2 第9回 配慮があたり前の文化でだれもが、どこでも働ける職場に 株式会社良品計画 人事部長 吉田正人さん 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 職場ルポ 大家族のように、自然体で支え合う職場 コーケン工業株式会社(静岡県) 文:豊浦美紀/写真:官野 貴 JEEDインフォメーション 12 事業主のみなさまへ 令和8年度「障害者雇用納付金」申告および「障害者雇用調整金」等申請のお知らせ/ 事業主のみなさまへ 障害者雇用納付金関係業務調査のごあんない〜障害者雇用納付金制度を支える仕組みです〜/障害者雇用の専門家が企業のみなさまを支援します〜「障害者雇用支援人材ネットワーク事業」のごあんない〜 グラビア 15 リワークプログラムで復職を支援するピアスタッフ精神保健福祉士 社会医療法人智徳会 未来の風せいわ病院(岩手県) 写真/文:官野 貴 エッセイ 19 ITが切り開く、視覚障害者の新しい可能性 第4回 AIが架けた橋〜1枚の申込書から始まった小さな革命〜 株式会社ふくろうアシスト 代表取締役 河和 旦 編集委員が行く 20 社会に貢献する人材育成を目ざした特別支援学校におけるキャリア発達支援 市立札幌みなみの杜高等支援学校(北海道) 編集委員 菊地一文 クローズアップ 26 はじめての障害者雇用〜職場定着のための取組み〜 最終回 職場定着のための支援機関との連携と支援制度の活用 研究開発レポート 28 職場復帰に向けた調整のための効果的なアセスメントの実施方法 障害者職業総合センター職業センター ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 第33回職業リハビリテーション研究・実践発表会オンデマンド配信のお知らせ ※「この人を訪ねて/私のひとこと」、「省庁だより」は休載します 表紙絵の説明 「このテーマを選んだのは、『現場実習にあたって向上心を高めて働いていきたい』という思いが自分のなかにあり、またその気持ちで2週間働き続けることができうれしかったからです。描くときには、ダンボールの影や光の質感を絵の具で表現することや背景のつくり込みなどで苦労しましたが、完成したあとの達成感がとてもありました。理事長賞の受賞を聞いたときは驚きと感動が入り混じって、感謝の気持ちでいっぱいでした」 (令和7年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 高校生・一般の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。 (https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html) 【P2-5】 リーダーズ トーク Leaders Talk 第9回 配慮があたり前の文化でだれもが、どこでも働ける職場に 株式会社良品計画 人事部長 吉田正人さん 吉田正人(よしだまさと) 2001(平成13)年、大手アパレル企業入社。海外赴任や新規事業対応を含め、人事領域全般(制度企画・労務・海外拠点支援等)に従事。2021(令和3)年株式会社良品計画に入社し、人事部にて現職。 株式会社良品計画 人事部 成澤(なるさわ)岐代子(きよこ)さん  商品企画から販売までの事業展開をする「株式会社良品計画」(以下、「良品計画」)は、店舗ごとの障がい者雇用を中心に、キャリアアップや当事者主体の活動などを通して、一人ひとりが自分らしく能力を発揮できる職場づくりを推進してきました。  今回、人事部長を務める吉田正人さんと、障がい者雇用の現場にかかわってきた人事部の成澤岐代子さんに、これまでの取組みと今後について語っていただきました。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 「ハートフルプロジェクト」 ―良品計画ではいま、障がいのある従業員355人(「障害者雇用率」2.93%、2025〈令和7〉年9月1日現在)の95%近くが店舗で働いているそうですね。取組みの経緯から教えてください。 吉田 もともと身体障がいのある従業員が数人いたものの、当時の法定雇用率を大幅に下回っていた当社は2000(平成12)年、ハローワークからの指導を機に23人(身体障がい15人、知的障がい8人)を採用し、事務部門で入力業務などを担当してもらいました。ただその後は店舗が加速度的に増えていき、事務部門だけで採用し続けることがむずかしくなり、障がい者雇用に対する考え方を抜本的に変える必要が出てきました。  ちょうどそのころ当社では経営理念の一つに「良品ビジョン」を掲げていました。これは、全従業員がそれぞれ目標を持って協力し合い、達成時の喜びを分かち合おうというものです。そうであれば障がいのある従業員も目標を持って、一緒に働ける場をつくるべきではないかとの考えに至りました。そうして2009年、「共に働き、共に育つ」という理念とともに、店舗における障がい者雇用を推進する「ハートフルプロジェクト」をスタートさせました。全社的な取組みであることを示すためにプロジェクトのリーダーは会長、副リーダーは社長がそれぞれ務めて社内認知を高め、人事部では社会保険労務士でもある成澤ら2人が陣頭指揮をとって進めていきました。 成澤 私たちは、まず成功例をつくることが大事だと考え、あらかじめ環境の整ったモデル店舗を選びました。当社のルールだけで運営できるようテナントではない路面店とし、重視したのは規模を問わず店長やリーダーの力量です。求人票には接客とバックヤードの2種類を提示し、「無印良品が好きで働きたい」という意欲と向上心のある人を採用していきました。全国での採用でしたから、各地のハローワークには採用から定着支援まで本当にお世話になりました。  プロジェクトを契機に障がいのある従業員を「ハートフルスタッフ」と呼んでいますが、受け入れが決まった店では店舗従業員に対して講義や研修を行い、ハートフルスタッフに対しては店舗用のマニュアルを活用して研修を行いました。マニュアルはもともと持ち出し厳禁ですが、基本的なところだけコピーして本人に渡したり、店長と相談して独自にアレンジしたものを作成したりして、一人ひとりにマッチした指導やサポートを行い、業務を拡大していきました。いまでは店舗での仕事内容も品出しや商品たたみ、賞味期限チェック、植物などのメンテナンス、倉庫整理、お客さま対応、レジ、POP作成など多岐にわたります。 吉田 どの店でどのように雇用をしているかを社内発信していくと、「自分たちもやってみたい」と手をあげる店も増えてきました。全国から店長が集まる会議で社長から店長に任命書を渡す場をつくったのも、モチベーションにつながっていたかもしれません。 雇用形態を柔軟に変える ―その後に導入された「雇用の多様性」とはどういう内容でしょうか。 吉田 当社では、一般採用で入ったけれども障がい者手帳を持っているというクローズドの従業員が少なからずいました。なかには、ハートフルスタッフの働き方を見て「隠して働いて休みがちになるより、もっと自分らしい働き方をしたいからハートフルスタッフになりたい」という人や、「ハートフルスタッフで入ったけれども、障がい者手帳を返還して一般雇用で働くことが目標」という人もいます。私たちは雇用形態を柔軟にして、自由に行き来できるようにしました。  一般雇用に変わっても、同じ職場のままだと働き方を変えにくいのですが、異動すればリセットできます。反対のケースでも同様です。各地に店舗があるからこそできる働き方ですね。なかには雇用形態を変えて行き来する人もいますが、とにかく自分で考え、選ぶことが大事です。 得意を活かすキャリアアップ ―2018年度から始まった「キャリアアップ制度の構築」について教えてください。 吉田 店舗では、時間給の「パートナースタッフ」からスタートしますが、月給制(週30時間以上勤務)の「ハートフル嘱託社員」になるには、いまは年1回の登用試験があります。  条件は、レジなど一定の業務内容ではなく、自分の決めた目標に対してどのような工夫・努力をして成果を出したかです。この評価制度を広げ、勤務するスタッフの働きがいやキャリアアップを一緒に考え、働きやすい職場づくりを目ざすためのキャリアアップ制度を導入しました。  パートナースタッフも、レベルごとに小さな目標を設定した評価表をつくります。自分なりのキャリア構築やスキルアップに力を入れてもらうことで、自分の得意分野を発揮できる人が増えてきたように思います。 成澤 例えばイラストの上手な人が、店内のPOPや展示用の布バッグに絵を描いてくれたり、文章力が高い人はお便りやお客さまへの返信文をつくったりしています。最近の自慢の社員は、ホスピタリティにあふれた知的障がいのある入社10年目の女性です。嘱託社員になったのを機に新たな目標として接客をあげ、上司と話し合いながら自分なりに工夫していきました。  その結果、百貨店で接客表彰を3回ほど受けています。2024年には、都内の大手百貨店に入る店舗のなかでスタークラブ認定アクションアワードに選ばれました。当社から初選出となる快挙です。 当事者目線のマニュアルや相談窓口 ―現在力を入れているのが、障がいのある当事者が主体となる活動だそうですね。 吉田 キャリアアップ制度によって、自分の考えをしっかり主張できるようになってきたことが、当事者主体のハートフルプロジェクト活動につながっています。  代表的な取組みが2024年設置の「ハートフル困りごと相談窓口」で、ハートフルスタッフによる運営です。それまでも社内の相談窓口として店長や人事部、24時間相談センターがありましたが、同じ気持ちを分かち合える者同士、いわゆるピアカウンセリングの場として立ち上げました。パソコンやスマートフォンから受けつけ、1週間以内にメンバー7人のうちのだれかが回答します。一緒に落ち込むこともあるので、メンバーのなかで調子のよい人がやります。いまは週に3件ぐらいがちょうどよい具合のようです。  当事者同士の横のつながりを望む声にこたえた座談会も好評です。最初は全員が参加できる会を年2回ほど、「体調管理」、「接客を考える」などのテーマ別で行っていましたが、いまは定期的にオンラインで毎回10人ほどが参加し、ざっくばらんに語り合います。地域別でも始めていますが、いずれもハートフルスタッフが主体となって開催しています。 成澤 最近は、レジ業務について「当事者目線のマニュアル」づくりにも着手しました。もともと数字が不得意な人にはレジ担当を回避してもらっていましたが、あるとき「レジを覚えたい。繁忙期の店で貢献できないのがつらい」と相談されたのがきっかけです。これもメンバー7人で作成中です。  当事者が主体となる姿勢が、思わぬ方向にも広がっています。企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の養成研修(※)を希望して受けたハートフルスタッフがすでに3人います。指導員などを目ざすわけではなく「両方の視点から理解したい。店長や上司が困っていることも知っておきたい」といわれたときは驚きましたね。 配慮があたり前の文化を ―会社全体として、現在の課題は何でしょうか。 吉田 職場のみなさんの志や熱意に感謝しつつも、「今後は会社組織として、取組み全体を加速できる環境にしていかなければ」と反省しているところです。国内にかぎっていえば、今後も店舗数とともに障がいのある従業員の人数も増えていく予定なので、サポート体制や推進のための時間も増やして組織を強化していくつもりです。  社内全体をふり返ってみると、実際にハートフルスタッフが一緒に働いている店舗では「配慮する対象者に、障がいがあるかどうかだけにすぎない」という職場環境になりつつあるように感じます。例えば、背が高い人は、背の低い人が届かない位置にあるものを取る手伝いをしますよね。同じように計算が苦手な人がいれば、必要に応じて手助けする。それがあたり前だという配慮の文化が、ごく自然に根づいている店舗は確実に増えています。  店長会で事例なども発表しており、推進している店舗はより充実すると思いますが、社内には、もともと意識がそこに向かわず「そういう世界があるんだな」ぐらいの感覚でとらえている人もいるでしょう。店長教育といっても、個別対応だけではなく、組織的に持続可能な教育制度も充実させていく必要があります。  今後は、「配慮があたり前の店舗」を広げるために、「一店舗一人」というわかりやすいスローガンを掲げることも検討しています。ただこれはあくまで結果としての一店舗一人であって、絶対にノルマ化するものではありません。採用のマッチングがうまくいかなかった店舗があったので、社内でもていねいに理解を深めていくつもりです。店長自身が、障がいのある人と働くとはどういうことなのか、何のためにやるのか、これまでよりも一段深いレベルで理解を得られるよう、人事部として取り組んでいきたいと考えています。 だれもが「感じの良い暮らし」を営む社会 ―良品計画が目ざす障がい者雇用のあり方について教えてください。 吉田 障がい者雇用については、量だけではなく質の重要性についていわれるようになりました。質の領域に取り組むためには、当事者が自ら本当に働きたいと思えるような会社や職場の土壌が整っていることが大事です。そのための環境づくりと人材教育が欠かせないと思っています。  私自身、障がい者雇用やダイバーシティといった言葉を出しているうちは、本当の意味で実現できていないことの裏返しだと思っています。私たちの最終的な目標は、障がい者雇用という言葉自体を少しでも早くなくすことです。  障がいがあるかないかは、いわば国による線引きですから、働くうえではまったく関係ありません。良品計画の会社理念には「感じ良い暮らしと社会」が掲げられています。そこにはだれもが生活をしていくうえで、手を取り合って働くことも含まれています。  私たち良品計画が目ざす理想は、だれもが障がいの有無を気にせずに働ける社会です。だれでも働きたいときに働けて、そのときどきによって互いに配慮し、助け合いながら、一人ひとりが「感じの良い暮らし」を営んでいける社会を実現していきたいと考えています。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、株式会社良品計画様のご意向により「障がい」としています ※「企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)養成研修」についてはJEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/seminar/job_adapt02.html 【P6-11】 職場ルポ 大家族のように、自然体で支え合う職場 ―コーケン工業株式会社(静岡県)― 機械関連のパイプ部品製造会社では、「大家族のような自然体の支え合い」を合言葉に、だれもが個々の能力を発揮できる職場環境づくりを目ざしている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野 貴 取材先データ コーケン工業株式会社 〒438-0216 静岡県磐田市(いわたし)飛平松(とびひらまつ)214-1 TEL 0538-66-4151(代表) FAX 0538-66-6220 Keyword:製造業、工場、溶接、知的障害、身体障害、特別支援学校、職場実習、多能工化、高齢者雇用、災害対策 POINT 1 特別支援学校と連携し、職場実習を経て希望者を全員採用 2 車いすユーザーの災害時の不安も考慮し、柔軟な職場づくり 3 高齢者も活躍する現場で、大家族のような横のつながりも パイプ部品の製造会社  静岡県磐田市にある「コーケン工業株式会社」(以下、「コーケン工業」)は、1971(昭和46)年に設立され、農業・建設機械などに使われるパイプ部品の製造加工を手がけてきた。同市内に3工場を持つほか、タイには合弁会社もある。  障がい者雇用については、社員296人のうち障がいのある社員が13人(身体障がい6人、知的障がい6人、精神障がい1人)で、「障害者雇用率」は5.74%(2025〈令和7〉年6月1日現在)という。高齢者も大勢が働いており、65歳以上が56人、うち75歳以上は26人にのぼり、現在の最高齢者は89歳だそうだ。  コーケン工業は、2017(平成29)年に「第7回日本でいちばん大切にしたい会社大賞」中小企業庁長官賞を受賞したほか、2020年度の「障害者雇用優良事業所厚生労働大臣表彰」も受賞している。  2015年から2023年まで代表取締役社長、現在は代表取締役会長を務める飯尾(いいお)祐次(ゆうじ)さんは、これまでの雇用方針や職場環境づくりについて、「私たちは何ごとも自然体で臨んできました。大事にしてきたのは、家族のような支え合いとチームワークです」と話す。これまでの経緯とともに、現場で活躍するみなさんを紹介する。 特別支援学校の生徒を採用  コーケン工業が障がい者雇用を始めたのは1997年。当時のことを伝え聞いているという飯尾さんによると、地元の特別支援学校からある会社に就職が内定していた女子生徒Aさんが、卒業間近になって会社側の事情により内定を取り消されてしまった。そこで学校の先生が、当時コーケン工業の代表取締役社長だった村松(むらまつ)久範(ひさのり)さんに相談したところ、「じゃあうちで採用してみよう」ということになったそうだ。  「当時は障がい者雇用の知識も経験もない当社の工場で、Aさんはいきなり働くことになりましたが、現場には高齢の女性社員をはじめ自然と協力してくれる社員がいたおかげで、すぐに仕事や職場に慣れたそうです」(飯尾さん)  もともとコーケン工業では、1980年代後半から人手不足になったのを機に高齢者を積極的に雇用していた。そのうちの一人が、Aさんに手取り足取り教えながら、孫のように見守ってくれたのだという。Aさんはいまも製造現場で、パイプにリングをはめる業務の担当として働いている。  Aさんの成功例を機に、コーケン工業は特別支援学校から職場見学や職場実習生を受け入れることになった。総務部総務課課長の新林(しんばやし)和彦(かずひこ)さんによると、「学校側が、私たちの工場の仕事に向いていそうな、ものづくりに興味のある生徒さんを見きわめて、本人にすすめてくれているようです。職場実習を経て就職を希望してくれた生徒さんは全員採用してきました」という。  常務取締役の高橋(たかはし)直樹(なおき)さんは長年、製造現場で職場実習生の受入れにかかわってきた一人。「実習時から、何かを伝えたり教えたりする際は、理解できているかていねいに確認しながら進めることを心がけてきました」と説明する。  ちなみに特別支援学校高等部2年次の職場実習のときは、3工程4種類の作業を組み合わせて1週間ごとに行い、最終日には自分がもう一度やってみたいと思う工程に取り組んでもらうという。「実習中に本人の特性や適性がわかってくるので、業務のマッチングもしやすいですね。そして最後は本人の意欲、ここで働きたいという気持ちがもっとも重要です」と高橋さん。  入社後は、現場の上司が一緒に取り組みながら仕事を教えるが、飯尾さんは「人によっては、覚えるまでにかなり時間がかかることもたしかにあります。ですが一度覚えたら、同じ作業をまじめに継続できるのは大きな能力です。何より仕事が楽しいといってくれるのが一番ですね」という。  コーケン工業では、障がいのある社員は全員がフルタイム勤務で、正社員雇用となっている。65歳以上の場合は、本人の希望によってパートタイム勤務の嘱託社員もいる。「10代から80代までの幅広い人材が一緒に働くことで、さまざまな相乗効果も生まれていると思います」と飯尾さん。 ロボット操作が好き  さっそく製造現場から見学させてもらった。本社工場の2階には、7000u近い広々としたフロアにさまざまな機械が並んでいる。その一角で、アーム型ロボットを前に作業していたのが、第1製造部製造2課の縣(あがた)篤史(あつし)さん(21歳)。パイプを治具に固定しボタンを操作することで、ロボットが金属パイプに器具を溶接するという流れだ。パイプは約10種類あり、縣さんは毎日500本ほどの溶接を担当。手ぎわよくパイプの固定や取り外しを行い、1本ずつ溶接の具合を確かめながら収納ケースに積み重ねていた。  縣さんは特別支援学校に在籍中、職場実習を通して「ロボットにかかわる作業が合っている」と感じたという。ただ実際に働き始めてから「失敗は何回もしました」と明かす。  「ときどき、きちんと溶接されていない部分が見つかるのですが、アームの先とパイプの溶接場所がずれていたようで『これをこうするといいよ』とリーダーや周りの人にコツを教えてもらいました」  また縣さんは「最初のころは自分に自信がなくて、少し声が小さくなりがちだったのですが、何か問題があったことなどを報告するときに、きちんと伝わらないと意味がないので、声を大きくしようと思っています」と話してくれた。  そんな縣さんについて「いつも、すごくよい返事をしてくれます」と太鼓判を押すのは、製造2課課長代理の向井(むかい)雄紀(ゆうき)さん。「はじめはなるべくむずかしい言葉を使わないよう心がけて指導しましたが、作業スキルのレベルアップとともに、ほかの同僚と変わらなくなりました」という。一緒に働いてみると、本当にまじめで仕事の吸収も早い縣さんは、いろいろな仕事ができるようになり、いまはたまに作業者の足りない場所に応援で入ってもらいながら多能工化につなげているそうだ。  向井さんは「彼自身がどうなりたいか、自分の考えを持てるようになれば、もっと成長できると思います。十分な伸びしろがあるので、本人のスピードに合わせてステップアップしていってほしいですね」と期待する。縣さんも「本当にいろんな人たちから教わっているので、もっと多くのことを学んで挑戦したいと思っています」と意欲を見せていた。 79歳の同僚と一緒に  2階フロアの別の機械がある場所では、案内役の向井さんから「バチっと火花が出るかもしれないので、気をつけてください」と注意をうながされた。顔に保護マスクをつけた男性が、パイプを治具に固定し、金属音を上げながら溶接作業をしているところだった。向井さんが「彼は大ベテランです」と紹介したのが、入社17年目になる山田(やまだ)啓真(ひろまさ)さん(37歳)だ。  スポット溶接機を使い、パイプに仮づけされた小さな部品を2カ所溶接するとき、山田さんは手作業でパイプをずらしていた。「少しだけずらす、その加減がむずかしいのですが、山田さんはもう職人の腕前です」と向井さん。山田さんはいまでは5種類ほどの作業をこなすことができ、どこかで人手が足りなくなったときなど、とても助かっているそうだ。  山田さんも特別支援学校での職場実習を経て2008年に入社した。向井さんは「仕事を覚えるスピードはハンデがありますが、一度覚えたら忘れません。機械の設定を変えるリモコン操作もできます。本人の作業中の目を見るとわかりますが、真剣さが伝わってきます」と教えてくれた。  山田さんの長所はほかにもある。性格が陽気で、職場内でだれとでも話ができることだという。なかでも休憩時間になるとフロア内のスペースでよく話すのが、同僚の富山(とみやま)健吾(けんご)さん(79歳)だ。富山さんは、もともと別の会社でパイプ関連の製造に長年たずさわっていた。60歳の定年退職後は福祉施設で補助の仕事に就いたが、65歳を前に「体力的にもたいへんだろうから」と退職をうながされた。「でも自分としてはまだまだ働けると思っていたところ、コーケン工業さんに嘱託社員として採用してもらいました」という。  この職場で14年目になる富山さんは、山田さんについて「気が合うというか、冗談をわかってくれて、気楽にお話ができる方なんですよね。この職場では山田さんのほうが先輩なので、新しい作業をするときに『どんな感じだった?』とか聞くこともあります。あと山田さんは鉄道の写真を撮るのが趣味なので、休憩時間に、一緒に写真を見ながら楽しく話しています」と笑顔で語ってくれた。 災害時の不安もなくす  コーケン工業では、知的障がいのある社員を雇用し始めてから数年後、身体障がいのある社員も雇用するようになった。飯尾さんは「ちょうど1995年にこの工場を建てたとき『今後必要になるだろう』と多目的トイレを設置していたので、車いすユーザーの方もスムーズに採用できたのだと思います」と説明する。  2011年に入社した森(もり)駿介(しゅんすけ)さんは生まれつき両足が不自由で、中学から特別支援学校に通い、卒業後は機械建築の専門学校でCAD操作を身につけた。就職活動をするなかで母校のOBがコーケン工業にいたことを知り、入社を希望したという。  通勤はマイカーだが、本社工場の通用口に一番近い駐車場を森さん用に確保してもらった。「多目的トイレが1階と2階にあり、建物内もスペースが広い動きやすく、働きやすいと感じました」と森さん。  森さんの所属する技術部技術課は2階にあり、業務用エレベーターを使って移動していたが、しばらくして、1階の品質保証部がある部屋の一角に、森さんのデスクを移すことになった。もと技術部で、いまは品質保証部の部長を務める小松(こまつ)伸也(しんや)さんによると「エレベーターがあるとはいえ、何かと移動もたいへんなのではないかと社長から話が出て、森さんとも相談して決めました」という。  その当時、「災害時など不測の事態のときにも、より早く避難しやすいように」と説明されたという森さんは、「じつは自分も災害時の不安を感じていたので、会社側から提案してもらったときは、とてもうれしかったです」とふり返る。小松さんも「森さんは最初、遠慮していい出せなかったのかもしれません。こちらが気づけてよかったです」  3次元CADを操作する森さんは、取引先からの図面やデータをもとに社内用のわかりやすい立体図を作成したり、製造に必要な寸法を出したりするのがおもな仕事だ。小松さんは「ほかの技術部員も簡単な図面などは作成しますが、森さんたち2人のスペシャリストが大事な図面を一手に引き受けてくれています」と頼りにしている。  品質保証部の部屋には、さまざまな検査機も並び、座ったままできる作業も多いという。小松さんは「森さんには、ほかの部員にCAD操作の指導をしてもらいながら、自身のスキルアップとして検査業務にも取り組んでいってもらえたら」と期待する。森さんも「この先も、やれそうなことがいろいろあるので楽しみです。体の障がいがあるだけに、健康を意識しながら長くこの会社に貢献できるようになりたいですね」と応えた。実際に森さんは健康維持のため、毎週欠かさず水泳にも取り組んでいるそうだ。 施設外就労の場も  コーケン工業では、「障害福祉サービス事業」を行う施設「社会福祉法人福浜会(ふくはまかい)はまぼう」(以下、「はまぼう」)と提携し、工場の一角に施設外就労の場をつくっている。平日の9時から昼休憩をはさみ15時ごろまで、はまぼうの利用者と職員たち10人近くが来て、パイプに取りつけるリングをあらかじめ通しておくなどの前準備作業に取り組んでいる。高橋さんは「同じ仕事でも、私たちの職場に通ってくることでみなさんの意欲も違うらしいです。工場まで来るのがむずかしい利用者さんのために、施設にも製品を届けて作業してもらっています」という。  毎年、施設で行われる夏のお祭りイベントには、飯尾さんたちが顔を出して、ふくろうをモチーフにした雑貨を買ってくるのも恒例になっているそうだ。 「0歳から100歳まで」の職場を  飯尾さんは10年ぐらい前、「この一つ屋根の下で、0歳から100歳までの人が楽しく働ける会社をつくりたい」という夢を表明したという。  「人生100歳といわれるようになりましたが、『私たちは、100歳までの人が、ものづくりを通して同じ職場にいる会社を実現したい』と話しています。これまでの最高齢者は93歳で、みなさん口をそろえて『働いているから元気でいられる』といってくれます」  一方で0歳というのは、子どもも連れてこられる職場という意味だそうだ。コーケン工業では現在、産休育休後の復職率は100%だが、「0歳児が保育園に通っていても祝日などは休園です。当社は取引の関係で祝日も出勤することがあるため、2020年からいわゆる子連れ出勤制度を導入しました」と飯尾さん。  工場2階の製造フロアに隣接した、事務部門の職場の奥にある部屋を空けて、おもちゃなどを置いた簡易的なキッズルームをつくった。「専門の保育士や担当者がいるわけではなく、みんなで仕事をしながら代わる代わる見守る体制です。当社ぐらいの規模だから可能なのかもしれません」(飯尾さん)  それでも最初は「子どもが製造現場に行ってけがでもしたら、どう責任を取るのか」といわれたこともあるそうだ。飯尾さんは「毎日のことではないし、自宅でも公園でもけがのリスクはある。みんなで助け合いながらやっていきましょう、と納得してもらいました」。いまではすっかり定着し、たまに電話後しかめっつらになった社員が、子どもたちの笑い声に思わずなごむ様子も見られるという。  飯尾さんは、「みんなで助け合うという意味では障がい者雇用も同じです。私たちの職場では、障がいのある社員がさまざまな部署で働いており、だれもが自然体で働いてもらいたいと思っています」と語る。  「当社では何十年も前から『自然体で雇用しよう』といってきました。大切にしているのは、職場における家族のような関係性です。家族にたまたま障がいのある子がいる場合、その子だけ一人でご飯を食べることもないし、家族それぞれができることをして助け合っていますよね。コーケン工業でも、それぞれ自分に合った仕事を覚え、みんな一緒に『チームコーケン』として働き続けてもらいたいですね」  こうした飯尾さんたちの思いは、コーケン工業の理念として「自然体で雇用すること・一生やりがいを持って働いてもらうこと・すべての人の働きたい気持ちに応えること」を掲げ、全社員が物心ともに豊かで健やかになる「チームコーケンの幸せ」を追求する、と明文化もされている。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、コーケン工業株式会社様のご意向により「障がい」としています 写真のキャプション コーケン工業株式会社は、農業・建設機械などに使われるパイプ部品の製造加工を手がける コーケン工業株式会社代表取締役会長の飯尾祐次さん 総務部総務課課長の新林和彦さん 常務取締役の高橋直樹さん 第1製造部製造2課の縣篤史さん 製造2課課長代理の向井雄紀さん 溶接を終えたパイプを確認する縣さん。装置ではアーム型ロボットが溶接を行っている 第1製造部製造2課の山田啓真さん 第1製造部製造2課の富山健吾さん スポット溶接機を使い、仮づけされた部品を溶接する山田さん 休憩時間に談笑する山田さんと富山さん 技術部技術課の森駿介さん 品質保証部部長の小松伸也さん 森さんは、3次元CADで立体図などの作図を担当している 【P12-14】 JEED インフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 事業主のみなさまへ 令和8年度 「障害者雇用納付金」申告および「障害者雇用調整金」等申請のお知らせ 〜常用雇用労働者の総数が100人を超えるすべての事業主は障害者雇用納付金の申告義務があります〜  令和8年4月1日から5月15日の間に令和8年度申告申請をお願いします。前年度(令和7年4月1日から令和8年3月31日まで)の雇用障害者数をもとに、 ○障害者雇用納付金等の申告申請を行ってください。 ○障害者の法定雇用率を下回る場合は、障害者雇用納付金を納付する必要があります。 ○障害者の法定雇用率を上回る場合は、障害者雇用調整金の支給申請ができます。 *詳しくは、最寄りの各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)にお問い合わせください(33ページ参照)。 JEED 都道府県支部 検索 【申告申請期間】 種別 障害者雇用納付金 障害者雇用調整金 在宅就業障害者特例調整金 申告申請対象期間 令和7年4月1日〜令和8年3月31日 申告申請期間・納付期限 令和8年4月1日〜令和8年5月15日(注1、注2、注3) (注1)年度の中途で事業廃止した場合(吸収合併等含む)は、廃止した日から45日以内に申告申請(障害者雇用納付金の場合は、あわせて申告額の納付)が必要です。なお、令和8年度中の事業廃止等による申告申請については、制度改正により様式が変更となりますので、期間内に申告申請できるよう、余裕をもって各都道府県申告申請窓口にご相談ください。 (注2)障害者雇用調整金、在宅就業障害者特例調整金は、申請期限を過ぎた申請に対しては支給できません。 (注3)常用雇用労働者の総数が100人以下の事業主が、報奨金の申請を行う場合の申請期限は令和8年7月31日となります。 障害者雇用納付金制度の改正等について (令和7年4月1日施行関係) ■除外率の引下げ  除外率が、各除外率設定業種ごとにそれぞれ10ポイント引き下げられ、令和7年度中の中途廃止、令和8年度申告申請から適用されます。  これまで除外率が10%以下であった業種は除外率制度の対象外となりますので、ご注意ください。 ■特定短時間労働者である障害者の計上について  令和7年3月31日をもって特例給付金の経過措置が終了しました。これにともない、週所定労働時間が10時間以上20時間未満の重度以外の身体障害者または重度以外の知的障害者である障害者については、常用雇用労働者数および雇用障害者数のカウント対象外となります。 *制度改正の概要についてはJEEDホームページをご覧ください。https://www.jeed.go.jp/disability/seido.html JEEDホームページにて、記入説明書および解説動画をぜひご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/levy_grant_system_about_procedure.html 申告申請の事務説明会にぜひご参加ください。 *全国各地で2〜3月に開催します。 *参加費は無料です。 JEED 納付金 説明会 検索 事業主のみなさまへ 障害者雇用納付金関係業務調査のごあんない 〜障害者雇用納付金制度を支える仕組みです〜  障害者雇用納付金制度の適正運営、事業主間の経済的負担の平等性の確保などの観点から、障害者の雇用の促進等に関する法律第52条に基づき調査を実施しております。  実際に調査の対象となった事業主の方に対しては郵便、お電話にて事前にご連絡し、日程調整や用意いただく書類などについてご案内します。  ご協力をお願いいたします。 【対象となる事業主の方】  障害者雇用納付金の徴収並びに障害者雇用調整金等の支給の適正を期するため、源泉徴収票(写)や障害者手帳等(写)の根拠資料の添付を義務づけている事業主を含むすべての事業主を対象として実施いたします。 【調査方法】  訪問等により、申告申請書に記載された常用雇用労働者の総数および雇用障害者数や障害の程度などについて、関係書類の確認やヒアリングを行い、申告申請内容が適正であることの確認を行います。 【申告申請額に誤りがあった場合】  調査の結果、申告申請内容に誤りがあった場合には、納付金の追加納付または調整金などの返還を行っていただくことになります。また、納付した金額が多かった場合には、還付をさせていただきます。  なお、納付金の追加納付が必要な場合には、その納付すべき額に10%を乗じて得た額の追徴金が課せられます。 注意  申告申請書作成時に根拠とした書類は、調査時に確認しますので適切な保管をお願いいたします。  また、雇用障害者の退職後も、障害者であることを明らかにする書類(手帳等の写し)を3年間保存する義務があります。  ご注意ください。 本調査について、詳しくはJEEDホームページに掲載している「障害者雇用納付金関係業務調査のごあんない」をご参照ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/noufukin_chosa.html <お問合せ先> 納付金部 調査課 TEL:043-297-9654 障害者雇用の専門家が企業のみなさまを支援します 〜「障害者雇用支援人材ネットワーク事業」のごあんない〜 障害者雇用の課題に対応した経験をもつ、「労務管理」、「医療」、「建築」などさまざまな分野の専門家である「障害者雇用管理サポーター」が企業のみなさまの疑問や課題に対応いたします。 サポーターの活用例 相談内容  精神障害のある社員の職場定着に向けて、自社の取組みの参考とするため、ほかの企業が実際にどのように取り組んでいるのかを把握したい。 支援内容  相談企業が、障害者雇用管理サポーターの所属している企業(精神障害のある社員を複数人雇用)を訪問した。  サポーターから、「電話応対の可否など、精神障害のある社員一人ひとりの特性に合わせて、職務内容や配置場所を変えていること」、「管理者による体調管理ができるように、毎日障害のある社員からの日誌の提出を求めていること」、「障害のある社員本人の了解のもとで周囲の従業員に障害の特性を説明し、配慮を求めていること」などについて説明した。  相談企業からは、配置場所や活用している資料等について実際に目にすることができ、わかりやすく勉強になったとの声がきかれた。 相談内容  障害者に対する合理的配慮が適切に行われているか自社の状況を再確認しており、アドバイスがほしい。 支援内容  障害者雇用管理サポーター2名(社会保険労務士、先進的に取り組んでいる企業に所属する者)が相談企業を訪問のうえ、他社での合理的配慮の取組みについて情報提供し、障害者との面談方法について助言援助を実施した。  相談企業からは、障害のある社員との面談時に留意する合理的配慮の考え方について再確認することや、障害者からの配慮事項の要望を受けて全社員に有効な就業規則の改定につなげられたことなど、合理的配慮の取組みが一歩進み、さまざまな社員にとって相談しやすく働きやすい環境整備につながったとの声がきかれた。 ご相談受付 サポーターによる支援をご希望の場合は、次の@、Aどちらかの方法でご連絡ください。 @障害者雇用支援ネットワークコーディネーターにご相談ください。 企業のみなさまの相談内容に合わせて、サポーターと調整を行います(相談・支援にかかる費用は無料です)。 E-mail:syougai-soudan@jeed.go.jp 障害者雇用支援ネットワークコーディネーターの連絡窓口(電話・住所等)につきましては、JEEDホームページ内にある「障害者雇用支援人材ネットワーク事業」のページをご確認ください。 障害者雇用支援人材ネットワーク事業 A障害者雇用管理サポーター検索サイト「障害者雇用支援人材ネットワークシステム」により、ご自身でサポーターを検索し、直接連絡のうえ、支援の依頼についてご相談いただけます(支援に関する費用はサポーターによって異なります。サイトのサポーター検索結果からご確認ください)。 JEED 支援人材 検索 「障害者雇用支援人材ネットワークシステム」 https://shienjinzai.jeed.go.jp <お問合せ先> 職業リハビリテーション部 指導課 TEL:043-297-9072 【P15-18】 グラビア リワークプログラムで復職を支援する ピアスタッフ精神保健福祉士 社会医療法人智徳会 未来の風せいわ病院(岩手県) 取材先データ 社会医療法人智徳会(ちとくかい) 未来の風せいわ病院 〒020-0401 岩手県盛岡市手て代しろ森もり9-70-1 TEL 019-696-2055(代表) FAX 019-696-4185 写真・文:官野 貴  岩手県盛岡市にある「社会医療法人智徳会未来の風せいわ病院」(以下、「未来の風せいわ病院」)は、精神科スーパー救急病棟や地域移行強化病棟など全6病棟に加え、訪問看護ステーションや介護老人保健施設なども併設している。  また、外来受診や入院治療を受けた方の「これからの暮らし」を支援する取組みにも力を入れており、それぞれの専門分野のスタッフが、病院内外の施設や機関と連携を取りながら、社会復帰を目ざす患者さんが必要とするさまざまな支援を行っている。  未来の風せいわ病院は、デイケアの一環として行われるリワークプログラムやハローワークと連携した就労支援に積極的に取り組む、東北地方で数少ない病院の一つ。現在休職中で復職を目ざしている方を対象に、少人数のグループ活動を通して、職場復帰に必要な心と体のリハビリを行っている。  リワーク支援にあたる「リワーク室」は室長以下、精神保健福祉士、看護師、臨床心理士各1人で構成されている。チームの要となっているのが、精神保健福祉士の駿河(するが)孝史(たかし)さん(56歳)だ。精神保健福祉士としての専門知識を活かして、また、うつ病の当事者としてピアサポートを行うピアスタッフとして活躍している。  リワークプログラムでは、「社会生活技能訓練(SST)」や、「社会認知ならびに対人関係のトレーニング(SCIT)」などの専門的な社会心理療法により、病気や障害とうまくつき合う方法を学び、対人スキルの獲得、就労・復職準備などを目ざす。  駿河さんは、「利用者に対し、敬意を持って接することが大事です」と話し、自身が苦労した経験を活かし、利用者の復職を支援している。  未来の風せいわ病院では、事務や清掃、マッサージなどの各分野でも障害のある従業員が活躍しており、2024(令和6)年度には、障害者雇用優良事業所として、岩手県知事表彰を受けている。 写真のキャプション リワークプログラムの一つ「グループワーク」での一コマ。活動中の人間関係などを客観的に見つめ直すことで、コミュニケーションスキルなどが向上する グループワークで利用者にアドバイスをする駿河さん。精神保健福祉士として、ピアスタッフとして、同僚や利用者からの信頼も厚い 今回のグループワークでは、病院内のエレベーターに張り出す案内表示を利用者同士で話し合いながら制作する グループワークで制作された案内表示。さまざまな意見を反映し、わかりやすい案内表示が完成した 社会医療法人智徳会未来の風せいわ病院。地域生活支援を中心とした精神科医療拠点だ 個人面談に臨む駿河さん。自身が苦労した経験などを活かして、利用者の相談にのり、アドバイスなどを行う リワーク室の同僚との打合せ。駿河さんは、不調を押して無理に働こうとしてしまうこともあるため、室長が体調を判断し、休みを指示するという配慮も 「社会認知ならびに対人関係のトレーニング(SCIT)」での一コマ。ペープサート(紙人形)を使って、それぞれ性格の違う登場人物の思考や感情を表現する。ペープサートの絵柄は、絵の得意な利用者が制作したもの SCITで使用されたプリント。他罰的や自責的、お気楽な性格の登場人物の思考や感情を、利用者が考えて記入する 「社会生活技能訓練(SST)」では、実際の場面を想定したロールプレイングなどを通し、人との接し方などのトレーニングを積む 室長と看護師、臨床心理士とともにケース会議を行い、利用者についての情報共有やケアプランを検討する お昼休み、おいしいランチに笑顔の駿河さん リワークプログラムの合間に、パソコンで日報を入力する 利用者が記入したふり返りノートにコメントを書き込む ふり返りノートのコメントには、よかった点や改善点、アドバイスなどを記入している 利用者一人ひとりと言葉を交わし、ふり返りノートを返却する リワークプログラム終了後、学会発表に備え同僚とともに練習を行う 駿河さんは、「今後は若手の育成に努め、少しでも貢献できるかぎり働き続けたい」と話す。学会発表も若手育成の一環だ 【P19】 エッセイ ITが切り開く、視覚障害者の新しい可能性 第4回 AIが架けた橋 〜1枚の申込書から始まった小さな革命〜 株式会社ふくろうアシスト 代表取締役 河和 旦 (かわ ただし) 情報アクセシビリティ専門家、AI活用教育コンサルタント。視覚障害と肢体不自由の重複障害がある。東京都立大学卒業後、福祉情報技術コーディネーターとして独立。障害当事者向けのIT指導やサポートを行い、転職や自立につながった実績も多数。共著に『24色のエッセイ』、『本から生まれたエッセイの本』(みらいパブリッシング)がある。https://fukurou-assist.net  今回は、社会の仕組みそのものがつくり出す壁に、AIという新しい道具で立ち向かった夫婦の物語をお伝えしたい。 在宅勤務への道  静岡県のクリニックで働くCさんとDさんは、ともに全盲のマッサージ師だ。30代の夫婦で、いつも前向きで明るい。  「君たちがケアマネジャーの資格を取ったら、在宅勤務を認めよう」  院長の提案に、二人は複雑な思いを抱いた。在宅勤務は長年の願いだ。しかし、ケアマネジャー試験のむずかしさも知っている。希望と不安が入り混じるなか、それでも二人は挑戦を決意した。  ところが、受験申込書は紙だけ。点字版もデータ版もない。上司に代筆を頼むと「ご家族に書いてもらってください」との返事。県庁に相談しても同じ答えが返ってきた。  「私たちだって、自分で申し込みたいんです」  Dさんの声には、悔しさがにじんでいた。妻の実家は重度障害の弟の介護で手一杯。夫の母親は遠方に住んでいる。「家族に頼む」という選択肢はなかった。 あきらめない妻の交渉力  「でも、これも勉強かもしれませんね」落ち込む夫を励ましながら、Dさんは県との交渉を続けた。電話を何度もかけ、メールを送り、ついに申込書の表計算ソフトのデータを入手することに成功した。  「やった! これでなんとかなる」  喜んだのも束の間。表計算ソフトのファイルを開いてみると、複雑な表形式で、画面読み上げソフトでは内容がさっぱりわからない。特に先天盲のDさんには「3行目のB列」といった説明自体が理解できなかった。 AIが「翻訳」してくれた瞬間  そんなとき、私に相談が舞い込んだ。  「まず、この表計算ソフトの表を、お二人が理解できる形に『翻訳』しましょう」  私はAIを使って、視覚的な表を、順番に答えていける質問形式のテキストに変換した。「該当する項目に〇を付ける」という指示は「次の選択肢から選んでください」に。視覚を前提とした書類が、音声で理解できる書類に生まれ変わった。  「これなら私たちでも書ける!」  二人は協力しながら、自分たちの手で申込書を完成させた。それは小さな、でも確かな自立の証だった。 「できない」を「できる」に変える知恵  後日、二人からうれしい報告があった。  「無事に受理されました! 試験、がんばります!」  電話の向こうで、二人の笑い声が聞こえた。あのときの悔しさは、新しい挑戦への原動力に変わっていた。  この経験からみえてくるのは、「配慮」の形が時代とともに進化しているということだ。デジタルデータとAIがあれば、視覚障害者も自分の力で多くのことができる。  大切なのは、その可能性を社会が認め、柔軟に対応することだ。「これまでのやり方」にとらわれず、「新しい方法」を一緒に探す。それが、本当の意味でのバリアフリーではないだろうか。  CさんとDさんの挑戦は、小さな一歩かもしれない。でも、その一歩が、次に続く人たちの道を切り開いている。技術の力と人の意志が合わさったとき、不可能は可能になる。二人の笑顔が、そのことを教えてくれた。  最終回となる次回は、こうしたAI時代の新しい可能性を、社会全体でどう育てていくか。視覚障害者の就労支援にたずさわってきた経験から、その未来図を描いてみたい。 【P20-25】 編集委員が行く 社会に貢献する人材育成を目ざした特別支援学校におけるキャリア発達支援 市立札幌みなみの杜高等支援学校(北海道) 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 取材先データ 市立札幌みなみの杜(もり)高等支援学校 〒005-0012 北海道札幌市南区真ま駒こま内ない上かみ町まち4-7-1 TEL 011-596-0451 FAX 011-588-5020 菊地(きくち)一文(かずふみ) 編集委員から  今回取材した市立札幌みなみの杜高等支援学校は、「六つの職業コース」を通して企画・運営のみならず、経営まで生徒が中心となって進めているほか、「職業ゼミ」、「マイスター制度」などのさまざまな工夫がみられ、カリキュラム全体を通して生徒の「働きたい」気持ちを育んでいる。また、生徒の「将来の働く」夢の実現に向けて、企業とともに「協育実習」と称するインターンシップを展開するなど、特別支援学校高等部普通科でここまで質の高いキャリア教育・職業教育を展開している学校は、ほかにはなかなかみることがない。本稿では、みなみの杜の取組みについて生徒や校長へのインタビューを含めて、レポートする。 Keyword:特別支援学校、キャリア発達支援、職業教育、企業と特別支援学校の連携・協働、マイスター制度、インターンシップ 写真:官野 貴 POINT 1 企業と特別支援学校の連携・協働 2 教育課程全体を通したキャリア発達支援 3 「マイスター制度」による職業技能と職業意識の育成  これまで特別支援学校では、知的障害教育を中心に、「キャリア発達をうながす」キャリア教育の推進が図られてきた。  キャリア発達の視点は「なぜ・なんのため」学ぶのかを重視する視点であり、「なぜ・なんのため」働くのかという本人の社会的・職業的自立につながる重要な視点である。  その背景としては、従前から大切にしてきた「自立と社会参加」という基本コンセプトがあげられ、単に教科の内容を教え込むのではなく、教育課程全体を通して将来を見すえたコンピテンシー(資質・能力)の育成を目ざし、「為すことによって学ぶ」ことや「生きる力の育成」を重視した実践が展開されてきたことがあげられる。  このような取組みの成果をふまえ、現行の学習指導要領では、幼稚部を除くすべての学部の学習指導要領に「キャリア教育の充実」が明示され、職業教育に限定しない、小学部段階からの教育活動全体を通した「キャリア発達」を支援する教育へのいっそうの理解を図り、充実を図ることが求められている。 市立札幌みなみの杜高等支援学校の概要  市立札幌みなみの杜高等支援学校(以下、「みなみの杜」)は、2017(平成29)年に開校し、今年度で9年目となる、高等部単独設置の「普通科」の特別支援学校である。キャリア教育・職業教育に特化した高等部単独の特別支援学校の多くは、職業に関する専門教科を中心とした教育課程を編成する「専門学科」であるが、みなみの杜のように、普通科でありながら専門学科と同等、あるいはそれ以上の成果をあげている特別支援学校は稀有である。  みなみの杜は本誌2024年2月号(※1)で筆者が紹介した京都市立東山(ひがしやま)総合支援学校(以下、「東山」)と同時期に設置された、横浜市立若葉台(わかばだい)特別支援学校(以下、「若葉台」)をモデルとして設置された。  若葉台は、筆者が開校以前の教育課程編成から10年以上にわたってかかわり、コンサルテーションしてきた、東山と同様のコンセプトを有する学校である。本人が作成する個別の諸計画である「キャリアデザイン」とそれを通した対話の時間「キャリアデザイン相談会」を定期的に実施し、日ごろの職業教育や地域協働活動、インターンシップについて「ふり返り」、対話することによって、生徒自身が働くことの意義を見出し、そして将来を描き、その実現に向けて必要なことに気づき、行動できるよう支援している。  これらの学校においては、自己選択や自己決定を基盤とする「生徒主体」を軸として、「キャリア発達」、「対話」、「地域協働」といったキーワードをキーコンセプトとしていることが特徴であり、共通点である。このことは近年のいわゆる高等特別支援学校の一つのモデルとなっている。  みなみの杜はこれら学校の要点をふまえつつ、発展させるとともに、独自の特徴的な取組みを開発し、実践してきた学校である。校訓は「らしくあれ」で、生徒一人ひとりが夢を追い、自分らしく活き活きと社会のなかで活躍することを願い、指導・支援の充実に努めている。  なお、動画を含む、みなみの杜の概要については、下記のURLまたは二次元コードから参照いただきたい(※2)。 みなみの杜の取組みの特徴 @職業教育を中心とした教育課程  現在、みなみの杜では、「ストア(接客・商品管理)」、「キッチン(調理・製パン)」、「アグリ(野菜栽培・食品加工)」、「ファクトリー(木工・窯業(ようぎょう)等)」、「クリーンアップ(清掃)」、「サポート(福祉・デザイン)」の六つの職業コースを開設している。  各コースでは、企画・運営のみならず、収支決算を含む「経営」まで、生徒が主体となって取り組めるようにしている点が、ほかに類をみない部分である。  そして、その各コースの学びを深めているのが1年生の「職業ゼミ」である。  商品開発を学ぶことを通して「仕事はだれかのためにある」ということを学んだり、会社が社会に果たす役割という視点で会社をとらえたりするなかで、一人ひとりの職業観を育てていく。そこで育てた自分のなかの「はたらく」がコース実習やインターンシップにかかわる実習でさらに深まり、根を張っていく。  そのほか、「働く生活」の土台づくりとして、職業T・U・Vのほか、各教科等を合わせた指導である「生活基礎」を位置づけ、「自立活動」、「道徳」の指導において自分や他者、社会を知りそれらとかかわり合っていく力を高めている。  さらには「SSJカリキュラム」と称する学年の成長に合わせた仕掛けを教育課程に位置づけ、学びに見通しと必要感をもって向かえるようにするなど、教育課程全体を通して生徒のキャリア発達支援に努めている。 Aマイスター制度  各コースでは、卒業後も自らを高めていける職業人になってほしいという思いから各コースの技能習得度を認証する「マイスター制度」を設けている。各コースのさまざまな分野について3段階で試験を実施しており、合格者にはマイスターエンブレムが授与される。自分の所属コースのグランマイスターを取得したうえで、ほかのコースすべてのベーシックマイスターを取得するとダイヤモンド賞受賞者として表彰され、後述する杜(もり)カフェに合格証書が掲示される。  2025年3月31日現在で、ダイヤモンド賞10人、グランマイスター(指導者レベル)51人、アドバンスマイスター(応用レベル)158人、ベーシックマイスター(基礎レベル)548人となっている。  このようにみなみの杜では、普通科の特色を活かし、希望者には広くすべてのコースの専門性とホスピタリティを身につけられる仕組みを整えている。  生徒たちは自分の所属するコース以外の職種にも積極的にチャレンジし、職業スキルの幅を広げるとともにその職種に必要なマインドを獲得している。 B杜カフェ  杜カフェは、生徒と地域をつなぐ、そして各職業コースをつなぐ、みなみの杜のキャリア教育・職業教育の中核に位置づく場といえる。  杜カフェは、アグリコースが自校で栽培した野菜をふんだんに使ったピザやパスタ、カレーなどのフードメニューやデザートが提供されるため、開店前から行列ができるなど、リピートする地域住民も多い。地域のみなみの杜への期待の大きさを表す場でもあり、生徒たちにとっては、顧客の求めに応じることを通して学び、成長する場でもある。  筆者は数回みなみの杜を訪問してきたが、6月の訪問時は、驚くことに1年生だけで杜カフェを営業していた。入学してわずか2カ月半しか経っていない1年生だけである。近年このようなカフェを営業している特別支援学校は各地でみられるようになってきたが、1年生だけでの営業、しかもここまでのパフォーマンスをみせる学校はほかにみたことがなく、正直驚き、目を疑った。  営業に至るまでの取組みを聞いてみると、まず6月に1年生だけで営業する日があることを伝え、生徒たちが具体的な目的意識を持てるようにしたそうである。そのうえで3年生とともに営業する機会、2年生とともに営業する機会を各一回ずつ設定したそうである。たったそれだけの機会でも必要性や必然性を実感した1年生は、日々の学習のなかで真剣かつ本気で取り組み、このレベルに至ったのである。  日々ただ漫然と職業教育をくり返すのではなく、生徒の本気を引き出し、成長をうながす仕掛けが至るところで工夫され、生徒たちのキャリア発達をうながしているということがわかった。 生徒と校長へのインタビューから  次に生徒と校長の小山(こやま)学(まなぶ)さんへのインタビューの一部を紹介する。本インタビューでの生徒の語りは、まさに教育活動の成果であり、アウトカムとしての評価の一つと筆者はとらえている。  生徒にとっての「働くうえでの大切なこと」は、授業で学んで終わりではなく、身につけた知識や技能を活かすこと、そしてその結果、成功だけではなく失敗を含めた「体験」をふり返ることによって実感をともない、見方や考え方をともなう「経験」として身についていく。それが実感をともなった、本人にとっての意味のある「働くために必要な力」、「本物の働く力」になっていくと考える。 ☆藤野(ふじの)莉湖(りこ)さん(1年生) 〇みなみの杜を志望した理由は?  中学生のころのオープンスクールのときに決めました。生徒の明るい姿、先輩と後輩との関係がよいと思いました。ほかの学校はプレッシャーを感じましたが、みなみの杜はみんな個性があって、チームワークがいいと思いました。 〇現在学んでいる職業コースは?  ファクトリーコースです。窯業や木工などのものづくりや解体作業をしています。自分たちでつくったものを販売して達成感が得られることがいいところです。コース実習では、周りを見て行動することや、協力することの大切さを学びました。 〇これまで悩んだことやつまずきは?  人間関係です。周りのことを見ていなくてコミュニケーションがずれて、気まずくなったことがあります。 〇どうやってそれを乗り越えたか?  自分の考えと相手の考えがずれていたことがわかったので、人間関係を大切にすることを意識するようになりました。 〇将来の希望職種は?  窯業が好きなので、ものづくりに関係した仕事がしたいです。あとはご飯づくりやカフェにも興味があります。 〇将来はどうなりたい?  いろいろな人に頼りにされる、信用される大人になりたいです。そのためにコミュニケーション力がつくよう、いろいろな人と話すようにしています。 〇「働くために必要な力」は何か?  集中力と、一つのことだけでなくいろいろなことに挑戦する力と、コミュニケーション力です。三つのコースを経験してそう思いました。 〇就職した後の夢は?  いろいろなことに挑戦したいです。自分で店を持てたらと思います。そのために一日に一回は、自分が何をしたいのかについて考えるようにしています。 ☆加藤(かとう)大樹(だいじゅ)さん(3年生) 〇みなみの杜を志望した理由は?  中学生のころから将来のことを考えていて、高1のときから全部のコースを体験できて、実習にも行けることが魅力的だと思いました。 〇所属している職業コースは?  ファクトリーコースで木皿をつくっています。カフェのアンケートで木皿が役に立っていることがわかって、やりがいを感じています。つくったものを販売して、お客さまに喜んでもらいたいと思っています。 〇これまで悩んだことやつまずきは?  進路選択です。1年生の最初の実習はA社で実習しましたが、「会社として障害者雇用の実績がないため、新卒採用の予定がない」といわれました。その後、別の会社で認められたのですが、どうするか悩みました。 〇どうやってそれを乗り越えたか?  先生と親に相談して、最終決断は自分でしました。自分の強みは笑顔とコミュニケーション力だと思っていたので、どのコースもつらいことはなくがんばれました。その後、希望していたA社から来てほしいといわれ、うれしかったです。 〇日々意識していることは何か  昔から時間の意識が課題だったので、5分前行動を意識しています。 〇「働くために必要な力」は何か?  コミュニケーション力と報・連・相です。働くために最低限のことだと思います。わからないことを聞くことができるし、早く会社になじめるからです。 〇どうしてそう思ったのか?  職業基礎の時間に学びました。最初はあまり大事じゃないと思っていたのですが、実習先で報・連・相ができなくて、評価表でチェックを受けたため、意識するようになりました。 〇就職した後の夢は?  A社は朝8時出勤で自宅からは遠いので、練習をして、いま自宅で親にしてもらっているような生活ができるような力をつけて、一人暮らしをしたいです。そのためにまずは一人暮らしで何がたいへんだったかを聞いて、知ることが大事だと思っています。 ☆校長の小山学さん 〇みなみの杜設置のコンセプトは?  生徒が小さなことから一つひとつ自己選択や自己決定を積み重ねていくことを大切にした学校です。普通科のよさを活かして、校内に産業構造をふまえた幅広い職種を構成し、1年時に広く学び、2年時で選択できるようにしたいと考えました。  各コースが相互に連携しながら杜カフェという場を運営していくのですが、教師が誘導してではなく、生徒が自ら考え、企画・経営までたずさわるような形を描いていました。 〇生徒が企画・経営する土台は?  コースリーダー会議を月1回実施して、各コースの状況などを共有するようにしています。また、お客さまが来るというリアルな体験を通して、各コースが連携する必要性を感じられるようにしています。 〇職業教育の特色は?  「本物から学ぶ」ことです。学校のなかで教師が教えるだけではうまくいきません。その道のプロが定期的に来たり、実際働いているところを見に行ったりして、スキルだけでなく姿勢など本物を学ぶことが大事だと考えます。  また、「みなみの杜応援団」として「協育実習(インターンシップのこと)部会」、「協育学習部会(地域の方や卒業生などの学習サポーターの会)」、「PT(保護者と教師)部会」の三つの部会を組織し、校内の学びと校外の学びをつなぐように努めています。  インターンシップについては、企業にお願いしてやらせていただく形から、ともに育てていく意識へと転換を図りました。一緒に生徒を育てていただきたいという思いを全職員で企業に伝えてきて、いまに至っています。  年2回開催している「協育実習部会」では、学校の職業教育にかかわることを通して、企業同士が雇用の悩みを共有し意見交換する場にもなっています。  校長の小山さんは教育行政の立場でみなみの杜の設置にたずさわり、開校に向けて尽力し、開校後は教頭として着任した。その後、他校での4年間の管理職経験を経て、みなみの杜の校長として着任した。  当初、先を見すえたビジョンを描いて開校したが、あらためて次の時代に向けてどのように変革していけばよいか、教職員との対話を通して日々試行錯誤しているとのこと。  みなみの杜は開校以来、変化を恐れず3年スパンで取組みを整理・精査し、検討を重ねることにより、計画・実施・評価に基づく発展を図ってきており、マネジメント面についても注目したい学校である。 ※1 JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/book/hiroba_202402/index.html#page=22 ※2 https://www23.sapporo-c.ed.jp/minaminomori/index.cfm/1.html 図 みなみの杜協働育成システム(2024年4月1日改訂版) みなみの杜応援団 (双方向での学びを支える) PT部会 運営委員会 協育実習部会 協育学習部会 自分らしく生き生きと社会の中で活躍する生徒を育てる 働く力を育てる学び (コース実習・職業TUV) 職業TUV(職業基礎) (カフェ)運営部門 ストア (センター) キッチン (サポート) コース実習 サービス部門 クリーンアップ (エコサイクル) サポート 職業ゼミ 1年生のみ 生産部門 アグリ (ファーム) ファクトリー (工房) 協育アドバイザー (企業等外部講師) 就労支援コーディネーター 生き抜く力を育てる学び (各教科別の学習等) 国語・社会・数学・理科・音楽・美術・保健体育 職業・家庭・情報 生活基礎 (チャレンジ) (コミュニケーション) (セルフマネジメント) 総合的な探求の時間 特別活動 (学校行事、LHR) 特別の教科道徳 自立活動 生徒会活動 部活動 ゲストティーチャー (教科等外部講師) 協育サポーター (無償ボランティア) 協育実習 (企業や福祉事業所等での実習) <見学・研修> 実際に見て、聞いて、視野を広げる <体験> 経験を拡大し、課題に気づく <協育> 課題解決に向けて、より実践的な実習を行う <評価> 企業視点で、実習の成果を評価してもらう 協育学習 (地域や交流校での体験的学習) <見学・研修> 実際に見て、聞いて、視野を広げる <体験> 地域の方や他校、多文化等とふれあう <協育> 人のために汗を流し、その喜びを実感する <評価> 検定試験や資格取得で自分のスキルを高める 【学びの重点】自分を高める 人を大切にする 社会で活躍する (資料提供:市立札幌みなみの杜高等支援学校) 文献:1 キャリア発達支援研究会(2024)キャリア発達支援研究10 本人を中心とした柔軟な思考としなやかな対話をとおして新たな価値を相互に生み出すキャリア発達支援.ジアース教育新社 2 菊地一文(2023)これからのキャリア教育の一層の充実に向けて.これからの特別支援教育はどうあるべきか.全日本特別支援教育研究連盟編著.pp140-147、東洋館出版社 3 菊地一文(2021)知的障害教育における「学びをつなぐ」キャリアデザイン.全国特別支援学校知的障害教育校長会編、ジアース教育新社 写真のキャプション 市立札幌みなみの杜高等支援学校 学校教育目標・校訓(写真提供:市立札幌みなみの杜高等支援学校) 「ストア(接客・商品管理)」コース(写真提供:市立札幌みなみの杜高等支援学校) 「クリーンアップ(清掃)」コース(写真提供:市立札幌みなみの杜高等支援学校) 「サポート(福祉・デザイン)」コース(写真提供:市立札幌みなみの杜高等支援学校) 「キッチン(調理・製パン)」コース(写真提供:市立札幌みなみの杜高等支援学校) 「アグリ(野菜栽培・食品加工)」コース(写真提供:市立札幌みなみの杜高等支援学校) 「ファクトリー(木工・窯業等)」コース(写真提供:市立札幌みなみの杜高等支援学校) 杜カフェに掲示されたダイヤモンド賞合格証書 杜カフェは校舎に併設されている 杜カフェ入り口(写真提供:菊地一文) 杜カフェ店内(写真提供:菊地一文) カフェメニューの調理も生徒が担当する(写真提供:菊地一文) 1年生で取材時の月はファクトリーコースの藤野莉湖さん 3年生でファクトリーコースの加藤大樹さん 市立札幌みなみの杜高等支援学校校長の小山学さん 【P26-27】 クローズアップ はじめての障害者雇用 〜職場定着のための取組み〜 最終回 職場定着のための支援機関との連携と支援制度の活用  障害のある人をはじめて雇用する企業にとって、雇用そのものの実現は大きな一歩です。しかし、障害のある人が「継続して安心して働き続けられる」職場づくりこそが、雇用の真の成功につながることはいうまでもありません。  そこで本連載の最終回は、「職場定着のための支援機関との連携と支援制度の活用」をテーマに、ハローワークなどの支援機関の役割や各機関の活用のポイントなどを、北海道障害者職業センター旭川支所長の市川(いちかわ)美也子(みやこ)さんに解説していただきます。 はじめに〜雇用・職場定着を円滑に進めるために〜  障害者雇用に取り組む契機は事業主によってさまざまですが、雇用したからには長く安定して勤め、企業の一員として活躍し、障害者自身も職業人として充実した生活を送ってほしいと願うでしょう。一方でそれを実現するために企業としてどのように雇用管理をすべきか、迷いや不安もあると思われます。しかし幸いなことに障害者雇用に関しては「働きたい」障害者だけでなく、「雇用したい(雇用継続したい)」事業主をバックアップするための機関や制度があります。企業内だけで悩まず、これらを効果的に活用していただき、雇用・職場定着がよりよい形で進展するよう、今回は主立った支援機関や制度についてご紹介します。 支援機関や制度の概要と活用ポイント ●ハローワーク  ハローワークでは求職中の障害者との相談を通じて希望などを確認しながら、事業主から受理した求人とのマッチングを図り、紹介を行っています。また、採用された後も障害者雇用経験が少ない企業に対しては、地域の支援機関と連携して職場定着に向けた支援をする「チーム支援」に取り組んでいます。  はじめて障害者雇用に取り組む場合には、管轄ハローワークで地域における障害のある求職者の傾向等についてあらかじめ助言を得たうえで求人作成することで、求職者の関心を得やすくなるでしょう。 ●障害者就業・生活支援センター  障害者が安定して働き続けるためには、仕事のことだけでなく、それにともなう生活に関する課題等への支援が必要なケースが多くあります。障害者就業・生活支援センターは就業面と生活面の双方について相談・支援を実施している機関です。各都道府県知事が指定する社会福祉法人等が運営しており、全国で339カ所(2025年〈令和7〉年6月2日現在)(※)設置されています。身近な地域でその状況をふまえた雇用や定着に向けた相談をすることができ、また、他機関や制度活用に向けたハブ(コーディネート役)として企業をバックアップしてくれる存在です。 ●地域障害者職業センター  (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が各都道府県に設置している地域障害者職業センターでは、はじめて障害者を雇用する場合や、採用後の職場定着に関する不安や困りごと等まで、事業主の幅広いニーズに応える専門的な相談・支援を行っています。 ・体系的支援  事業主との相談をもとに、課題改善に向けた具体的な取組み内容を記載した事業主支援計画を策定し、継続的に支援を実施します。 ・ジョブコーチ支援  障害者が職場に定着できるよう、職場適応援助者(ジョブコーチ)が職場に出向き、障害者本人や事業主に対して個別の課題に応じた支援を行います。 ・リワーク支援  うつ病等により休職している方の円滑な職場復帰に向けて、主治医等と連携して支援を行います。 ●就労移行支援事業所(福祉機関)  就労移行支援事業所は障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス事業所の一つです。企業等への就職を目ざす障害者が一定期間(利用期限は原則2年間)通い、作業や講座・企業実習等を通じて働くために必要な準備を整えるためのトレーニングを受けています。また、利用者の求職活動支援や就職後の職場定着の支援等も行っています。就労移行支援事業所での取組み状況から、職場における配慮事項等についての情報が得られやすいことや、企業実習中や採用後に課題が生じた場合も支援者からのフォローが得られる点は、雇用・定着に取り組むうえで企業にとって大きな安心材料といえます。 ●障害者職業能力開発校  全国に国立13校、都道府県立6校が設置されている障害者職業能力開発校では、障害の特性に配慮しながら個々の様態に応じた各種技能習得のための職業訓練を実施しています。また、訓練終了後の就職支援も行っています。  企業が求める技能に関連する科目を修了した障害者がいれば、求人とのマッチングが図りやすいことや、訓練受講状況から職場における配慮事項等について能力開発校からの情報が得やすいといったメリットがあります。 ●特別支援学校  特別支援学校の高等部には卒業後に企業への就職を希望している生徒がおり、在学中には「働くこと」を想定した作業学習や職場実習等が行われています。学校と連携して早期から計画的・継続的に職場実習を受け入れることで、雇用した際の配慮事項や職場環境の検討・整備に取り組みやすくなるでしょう。 ●その他の機関 ・JEED各都道府県支部 高齢・障害者業務課  障害者雇用納付金等の申告・申請受付、納付金関係助成金に関する相談・申請受付、障害者職業生活相談員資格認定講習や地方アビリンピック(障害者の技能競技大会)開催に関する業務等を行っています。 ・医療機関  個々の障害や疾患の特性をふまえた職場での配慮事項等について助言を得たい場合には、障害者ご本人と相談し、同意を得たうえで主治医等と連携できるとよいでしょう。 職場定着に向けた事業主の役割  障害者雇用に関する支援制度は近年、充実が図られており、企業を支える体制も整備されてきました。事業主の立場で考えると、法定雇用率の引上げ等の制度改正が進められるなかで、コンプライアンスを意識しつつ、企業活動を維持・継続するには日々たいへんなご苦労があるかと思いますが、課題や悩みは抱え込まずに、支援機関や制度を積極的に活用し、効果的・効率的に障害者の雇用や職場定着に取り組んでいただきたいと思います。  ただし、支援機関や制度はあくまでも「バックアップ役」です。連携を通じて課題への対応ノウハウを支援機関から事業主に伝え、障害者が自然な形で職場のサポートを受けながら働き続けられる「ナチュラルサポート」を形成することが支援の目的であり、雇用・職場定着の取組みの主体はあくまでも事業主自身であることにご留意ください。 ※障害者就業・生活支援センター一覧(厚生労働省ホームページ)  https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18012.html 図 事業主をバックアップする支援機関 企業 障害者就業・生活支援センター 【主な業務内容】 ●就職・職場定着に向けた支援 ●生活習慣、健康管理、金銭管理などの日常生活の助言 【主な支援スタッフ】 ●就業支援担当者 ●生活支援担当者 ハローワーク 【主な業務内容】 ●職業紹介 ●雇用率達成指導 など 【主な支援スタッフ】 ●専門援助部門の職員 ●事業所部門の職員 就労移行支援事業所等 【主な業務内容】 ●就労に必要な訓練 など 【主な支援スタッフ】 ●職業指導員 ●就労支援員 ●生活支援員 医療機関 【主な業務内容】 ●就労支援に関するプログラム など 【主な支援スタッフ】 ●医療従事者 特別支援学校 【主な業務内容】 ●職業教育、職場実習 【主な支援スタッフ】 ●担任教諭、進路担当教諭 障害者職業能力開発校 【主な業務内容】 ●職業訓練 など 【主な支援スタッフ】 ●職業訓練指導員 障害者職業能力開発校全国19校(国立13校、都道府県立6校)うち、2校は(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 都道府県支部 地域障害者職業センター 【主な業務内容】 ●事業主への相談・援助 ●ジョブコーチ支援 ●リワーク支援 など 【主な支援スタッフ】 ●障害者職業カウンセラー ●ジョブコーチ ●支援アシスタント 高齢・障害者業務課 【主な業務内容】 ●障害者雇用納付金制度に基づく障害者雇用納付金等の申告・申請の受付、障害者職業生活相談員資格認定講習の開催 など 【主な支援スタッフ】 ●助成金担当者 ※東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課を含む 出典:「はじめての障害者雇用〜事業主のためのQ&A〜」JEED、2025年 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003kesx.html 【P28-29】 研究開発レポート 職場復帰に向けた調整のための効果的なアセスメントの実施方法 障害者職業総合センター職業センター  障害者職業総合センター職業センター(以下、「職業センター」)では、気分障害等の精神疾患のある休職者を対象としたジョブデザイン・サポートプログラム(以下、「JDSP」)の実施を通じ、ストレス対処、対人技能などの職場復帰支援に関する先駆的な職業リハビリテーション技法の開発(★1)および普及に取り組んでいます。  職業センターおよび地域障害者職業センターで実施する職場復帰支援は、休職者のスムーズな職場復帰とともに、復帰後に安定した職業生活を送ることを目ざし、休職者、事業主および主治医の三者の合意形成を経たうえで実施しています。具体的には、支援開始段階で休職者、事業主および主治医の三者から職場復帰にかかる必要な情報を収集し、職場復帰に向けた課題や目標を整理するなどのアセスメント結果に基づいて策定した支援計画を三者に説明、合意を得たうえで支援を開始します。  職場復帰支援の開始段階で行うアセスメントにはさまざまな手法が用いられていますが、これまで体系的に整理されているとはいえない状況でした。そこで、休職者、事業主および主治医で職場復帰に向けた合意形成を行う際のポイントを整理し、支援ツールなどとして、実践報告書41「職場復帰に向けた調整のための効果的なアセスメントの実施方法」(2025〈令和7〉年3月発行)に取りまとめました。  本レポートでは、その概要をご紹介します。 1.支援ツールの内容  職場復帰に向けた調整のためのアセスメントの際に活用できる支援ツールは、@支援開始段階で活用する「支援目標の設定、支援計画作成」、A支援期間中盤で活用する「支援方針の検討」、B支援期間終了間際から終了後に活用できる「事業所との職場復帰の調整」の大きく三つに分けて紹介しています。今回は、そのなかでも@支援開始段階で活用する支援ツールを二つ紹介します。 (1)情報共有シート(2024版)(図1)  2019(平成31)年に発行したマニュアル(※)内の「情報共有シート」をベースに、職場復帰の調整における情報共有をより円滑に進めるために、休職・復職に関する社内規程や制度、職場復帰可否の判断基準などを可視化し、整理するツールをバージョンアップしました。  改良ポイントは@必ずしも一人の人が対象者の状況を把握しているわけではないため、それぞれの方が状況について記載できるよう説明文を追加、A社内規定などの制約のあるなかで職場復帰後の当面の取扱いにどの程度の運用が可能かを詳細に確認できる項目を追加、Bリワーク支援終了以降の職場復帰までの流れを記入する欄を追加、C休職前の休職者の状況をより正確に把握するために「休職前の業務内容・業務遂行状況」欄を追加、Dリワーク支援のなかでの取組目標について、休職者、事業主との間ですり合わせていくために「リワーク支援のなかで事業所として取り組んでほしいこと」欄を追加した点です。  JDSPでは、支援開始前の段階で情報共有シートの使用目的や記入方法を休職者へ説明し、休職者が主体的に情報収集できるよううながします。休職者と事業所担当者で必要に応じて連絡を取り合い、休職者と事業所担当者それぞれの担当箇所を記入する、面談を行い一緒に記入していくなど作成方法はさまざまですが、このシートの作成を通じて、職場復帰に向けて必要な事柄を休職者が自然に確認できる流れとなっています。また、休職者のなかには、事業所担当者から提出された情報共有シートを見て、制度などを初めて知る人もいます。支援者は、休職者と一緒に記載内容を確認することで、休職者が抱える不安などを共有しながら、事業所担当者に確認する事柄を具体化し、休職者が主体的に確認できるよう支援することができます。 (2)復職に向けた行程整理シート(2024版)  休職者が職場復帰に向けた行程を時系列で整理するためのシートです。行程の視覚化によって、職場復帰までの流れをイメージしやすくなり、休職者が見通しを持って主体的に行動できるようになることをねらいとしています。2019(平成31)年に発行したマニュアル(※)内の「復職に向けた行程整理シート」をベースに改良しました。  改良ポイントは、「事業所関連」、「主治医関連」、「職場復帰支援関連」の欄を新たに設け、各担当者と適切なタイミングで手続きを進めるための情報を整理できるようにしたことです。また、「復職後当面の取扱い」など前述した「情報共有シート(2024版)」と連動させることで、収集した情報を1枚のシートにまとめられるよう工夫しました。  窓口となる事業所担当者も、職場復帰の手続きに慣れていない場合もあります。その際、このシートを活用することで、職場復帰後までの流れを視覚的に共有することができ、事業所担当者との認識のずれを防ぐことができる効果もあります。 2.ツールを活用したアセスメントの際のポイント (1)「主体性」を尊重する  職場に復帰して働くのは休職者自身です。そのため、支援者が情報収集や調整などを代行することは、休職者が主体的に行動する機会の損失につながりかねません。支援者は、休職者が今後の自分自身の働き方を自ら考え、職場復帰に向けた行動ができるよう、「主体性」を尊重し、行動を支えることが重要です。休職者が事業所担当者や主治医に自分の状況や考えなどを伝えることができるよう、必要な情報を収集、整理することについて、適宜助言などを行います。 (2)アセスメントの目的、ねらいを再認識  アセスメントにおいては、「何を確認するのか」「何に取り組むため、検討するために必要な情報なのか」を考えて、支援者は各種シートを選択し、シートの記載内容だけでは情報が足りない場合は、補足的に情報収集を行います。 3.おわりに  本実践報告書のなかでは、ご紹介したもの以外にも、複数の支援ツールをご紹介しています。また、支援ツールを使った具体的な実践事例もご紹介しています。日々の支援の参考に、ぜひご活用ください。  本実践報告書は、障害者職業総合センター研究部門のホームページに掲載しています(★2)。また冊子の配布を希望される場合は、下記にご連絡ください(★3)。 ※支援マニュアルNo.19「職場復帰支援における事業主との調整」2019(平成31)年3月発行 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/support19.html ★1「職業リハビリテーション技法の開発」については、https://www.nivr.jeed.go.jp/center/center.htmlよりご覧いただけます ★2「実践報告書No.41」は、https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/practice41.htmlよりダウンロードできます ★3障害者職業総合センター職業センター TEL:043-297-9043 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/index.html 図1 情報共有シート(2024版) 情報共有シート(2024版) ○○センター 担当:○○ TEL:000-000-0000 e-mail:○○@○○  職場復帰支援を行うにあたり、支援の方法や方向性を検討する参考にさせていただくために、ご本人様と事業所ご担当者様へ本シートの作成についてご協力をお願いいたします。 ◆事業所ご担当者様  項目により、複数の方にご記入いただいても構いません。  本シートへの記載事項や復職条件等に係る確認のため、当センター職員よりご担当者様あてご連絡させていただく場合がございます。 氏名 生年月日  年  月  日 (  歳) 住所 〒 〔最寄り駅  線  駅〕 連絡先(電話番号) 事業所名 所属部署 役職 事業内容 従事業務 勤務地 〒 〔最寄り駅  線  駅〕 通勤時間 移動手段: 時間    分 勤務日数 週    日 勤務時間 〜 通院先 主治医 通院頻度 事業所 担当者 窓口となる方に「〇」 氏名・役職 連絡先(電話番号) 備考 人事担当 健康管理スタッフ 上司 産業医 その他 休業開始日  年  月  日 現在の状況 有給休暇・病気欠勤・休職・その他(      ) 事業主の定める 休職期間 年  月  日 〜 年  月  日  (  年  か月間) 休職回数 回目 休職中の収入 休職前の収入の    % (受給期間   年   月まで) 備考 事業主の職場復帰に対する考え リワーク支援の利用 必須・必須ではない 定期報告 必須・必須ではない リワーク支援の報告会 必須・必須ではない 中間・終了 復職前のリハビリ出勤 必須・必須ではない・制度なし その他 職場復帰後当面の間の取扱い 事業主の考え 備考 時間外勤務(原則なし・制限あり・制限なし) 休日出勤(原則なし・制限あり・制限なし) 宿泊を伴う出張(原則なし・制限あり・制限なし) 勤務時間の軽減(1日   時間から開始可能・なし) 勤務日数の軽減( 週   日から開始可能・なし) 部署等の異動(可能性あり・原則不可) 職務調整(調整の余地あり・調整の余地なし) その他(       ) 職場復帰の流れ [例]主治医の職場復帰可能の判断→産業医面談→復職 職場復帰可否の判断基準 [例]リワークの出席率●%以上、十分な就労意欲がある、安全に通勤できる、疲労が翌日までに回復する、日中の眠気がない、業務遂行に必要な注意力や集中力が回復している、その他達成して欲しいと思われることなど。 休職前の業務内容・業務遂行状況 [例]データ分析、提案書作成(PC使用)。Excelスキルはあり、図表を活用して提案書作成はできているが、締切間近の提出が続いていた。 リワークの中でご本人に取り組んで欲しいこと [例]@指示通りに業務を遂行できるようになる、A進捗報告、体調不良等不安なことについて相談ができるようになる。 ※複数の事項がある場合には、優先順位を記載してください。 ご本人の職場復帰に対する考え [記載項目例]復職時期、配属先、職務内容に関する希望など 図2 復職に向けた行程整理シート(2024 版) 復職に向けた行程整理シート(2024版) スケジュール 有休・病気休暇・病気欠勤・(  ) (  年  月  日まで) 休職 (休職期間満了日  年  月  日) 復職 手続き 事業所関連 主治医関連 職場復帰支援関連 【復職前のリハビリ出勤の実施】 (必須・必須ではない・制度なし) 〔期間〕 〔作業内容等〕 【復職後当面の取扱い】 ・時間外勤務(原則なし・制限あり・制限なし) ・休日出勤(原則なし・制限あり・制限なし) ・宿泊を伴う出張(原則なし・制限あり・制限なし) ・勤務時間の軽減(1日時間から開始可能・なし) ・勤務日数の軽減(週日から開始可能・なし) ・部署等の異動(可能性あり・原則不可) ・職務調整(調整の余地あり・調整の余地なし) ・その他(   ) 【職場復帰可否の判断基準】 【P30】 ニュースファイル 国の動き 国土交通省 支援施設などの人材確保を支援  国土交通省は、自動車事故の被害者が介護者なき後も安心して生活を送ることができる環境を整備するため、障害者支援施設やグループホームの開設後に必要となる介護人材の確保や介護器具の導入にかかわる経費の支援をする補助対象事業所71カ所を選定した。  補助上限額および対象経費は、新設(増設)年度の人材雇用費や施設支援費、研修等経費などに上限1500万円、開設次年度以降は賃金改善費、施設支援費など上限1000万円としている。事業所リスト等詳細は、左記Webサイトへ。 https://www.mlit.go.jp/report/press/jidosha02_hh_000729.html 地方の動き 埼玉 地域分散型ショップの愛称決定  埼玉県は、就労継続支援B型事業所で障害者がつくった商品を販売する地域分散型ショップの愛称を「つながるしごと・しごとびと」に決定した。愛称は事業所やそこで働く障害者がつながり、地域にも広がっていくことをイメージ。新たにステッカーも作成し、イラストには、社会福祉法人みぬま福祉会川口太陽の家・工房集(川口市)の利用者でアート活動を行う関(せき)翔平(しょうへい)さんの作品を採用した。  地域分散型ショップは県内4カ所にあり、それぞれ菓子やパン、野菜、加工品、雑貨などを販売している。県ではショップを通じて商品の販路を広げ、工賃向上につなげることを支援している。 https://www.pref.saitama.lg.jp/a0605/news/page/news2025091801.html 東京 都庁展望室で分身ロボットが案内業務  東京都は、都庁展望室にスマートフォンやパソコンなどを通じ遠隔操作できる分身ロボット「OriHime(オリヒメ)」を設置し、重度障害などで外出困難な人が自宅から観光客向けの案内業務を行う取組みを昨年度から始め、今年度は2026(令和8)年3月13日まで実施する。展望室には案内支援員が常駐する。  実施場所は、東京都庁第一本庁舎45階の南展望室で、1階専用エレベーターから行ける。案内時間は平日13時〜17時(展望室の休館日・土日・祝日・年末年始除く)。 https://www.hataraku.metro.tokyo.lg.jp/shogai/event/orihime 静岡 パソコンリサイクルで障害者雇用  静岡県は、「リネットジャパングループ株式会社」(愛知県)と「株式会社クラ・ゼミ」(浜松市)とともに、県内における使用済みパソコンのリサイクル(環境領域)と障害者雇用の創出(福祉領域)を目的に「環福連携」の取組みを3者連携で推進する協定を締結した。  3者は、県内の企業や自治体からリネットジャパンが回収した不用パソコンを、同社が雇用した障害のある人が解体したうえで再資源化するとしている。クラ・ゼミは採用や職場定着の取組みを支援する。また、新たに「静岡環福連携促進協議会」を設立し、県内の企業や自治体と連携して推進していくという。 https://www.pref.shizuoka.jp/sangyoshigoto/shuroshien/shuroshien/1040127/1077753.html 働く 全国 障害福祉現場の賃上げ状況  公益財団法人日本知的障害者福祉協会(東京都)など障害福祉関係8団体が、「障害福祉現場の賃上げ状況調査」の結果を公表した。  これによると、回答があった全国1547事業所のサービス類型は、日中活動系30.1%、施設系18.7%、訓練系・就労系15.3%、相談系13.6%、居住支援系11.6%、児童系7.6%、訪問系3.1%。賃上げ額(事業者あたり平均月額)は2024(令和6)年度の9635円に対して2025年度は9643円と同程度で、事業者が着実に処遇改善を実施しているものの、賃上げ率は、全産業(春闘ベース)が前年度比0.15%増に対し、障害福祉分野は0.12%減となっている。  回答した事業所の95.6%が経営上の課題を「感じている」とし、おもな課題(複数回答)の92.2%が「物価高騰の影響により支出が増加している」、76.0%が「サービス提供に必要な人材が確保できない」としている。詳細は同協会のホームページなどで公開中。 http://www.aigo.or.jp/archives/2025/post-724.html 熊本 西日本で農福コンソーシアム  西日本の13県23団体が、農福連携の推進を目指す「ノウフクコンソーシアム西日本」(NCN)を設立し、東海大学熊本キャンパス(熊本市)で設立総会とシンポジウムを開催した。広域で連携を図り、農業の人材不足や障害者雇用といった地域社会が抱えるさまざまな課題解決を目ざす。  NCNのメンバーは、東海大学などが参加する熊本県農福連携協議会や福祉団体、自治体、研究者など23の個人・団体。会長には安芸市(あきし)農福連携研究会(高知県)の公文(くもん)一也(かずや)さんが就いた。  農福連携を広めるために、農業だけでなく水産業や林業などに範囲を広げたり、商業や教育など異分野とも組み合わせたりすることを検討する。今後は、連携事例の情報共有や農産物の販路開拓、行政への政策提言なども推進していく予定。事務局はNPO法人熊本福祉会(熊本市)内の熊本県農福連携協議会。電話:096−353−7700 長崎 新聞社がeスポーツで就労支援  株式会社長崎新聞社(長崎市)は、eスポーツを通じて障害者らの就労を後押しする就労継続支援B型事業所ONEGAME(ワンゲーム)長崎を、本社内に新設した。全国でワンゲームを展開する株式会社ワンライフ(群馬県)と業務提携し、長崎新聞文化ホールが運営する。  ONEGAME長崎では、ゲームを通じて基本となるパソコンスキル、動画制作スキル、インターネット理解などを身につけた新たな人材育成を支援する。コースは、プロ選手やデバイス開発者などを目ざし、必要なスキルを学ぶ「選手コース」、照明・音響や映像配信、設営などを学ぶ「イベントコース」、MCや声優などに必要な表現力を学ぶ「実況解説MCコース」の三つ。連携してイベント企画やゲーム実況動画の投稿なども行う。このほか動画編集や写真のデータベース化作業などで工賃を支給する予定という。 本紹介 『発達障害×働く力―就労支援の実践ガイド』  早稲田大学教育・総合科学学術院の教授を務める梅永(うめなが)雄二(ゆうじ)さんら23人の専門家や支援者らが『発達障害×働く力―就労支援の実践ガイド』(金剛出版刊)を出版した。  専門家や支援機関からの実践報告、教育機関や企業での支援例、海外の最新情報などから、発達障害者の特性に応じた支援の重要性を訴えている。高校・大学からの就労、就労移行支援事業所における就労支援、障害者就業・生活支援センターにおける実践、特例子会社における雇用、米国における就労支援のほか、児童期から成人期に至る包括的支援や発達障害者に必要な就労活動、発達障害と医療など、幅広く網羅した内容を紹介している。A5判、300ページ、4180円(税込)。 アビリンピックマスコットキャラクター アビリス 2025年度地方アビリンピック 開催予定 2026年1月〜2月 東京都、京都府、香川県、佐賀県 *開催地によっては、開催日や種目ごとに会場が異なります *  は開催終了 地方アビリンピック 検索 ※日程や会場については、変更となる場合があります。 ※第45回全国アビリンピックは2025年10月17日(金)〜10月19日(日)に、愛知県で開催されました。本誌2026年2月号で特集します。 地図のキャプション 東京都 京都府 香川県 佐賀県 【P31】 ミニコラム 編集委員のひとこと 第53回 ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は菊地委員が執筆しています。 ご一読ください。 キャリア・パスポートの活用による、対話を通した「学ぶこと」や「働くこと」への意味づけや価値づけ 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文  キャリア・パスポートは「児童生徒が、小学校から高等学校までのキャリア教育に関わる諸活動について、特別活動の学級活動及びホームルーム活動を中心として、各教科等と往還し、自らの学習状況やキャリア形成を見通したりふり返ったりしながら、自身の変容や成長を自己評価できるよう工夫されたポートフォリオ」(文部科学省)と説明されている。  また、「その記述や自己評価の指導にあたっては、教師が対話的にかかわり、児童生徒一人一人の目標修正などの改善を支援し、個性を伸ばす指導へとつなげながら、学校、家庭及び地域における学びを自己のキャリア形成に生かそうとする態度を養うよう努めなければならない」(同)とも説明されている。  まさに児童生徒が「対話」を通して「なぜ・なんのため」学ぶのかを考え、目標を設定したり、諸活動をふり返ったり、自身の成長を実感したりする「学びをつなぐ」ためのツールであり、「教材」といえる。また、教師にとっては、キャリア・パスポートを用いた児童生徒との対話的なかかわりによって、効果的な指導・支援に活かすものといえる。  つまり、ただ単に学ぶことや働くことを体験するだけではなく、体験前に児童生徒が自分なりの目的意識や目標をもって臨めるようにすることや、体験後にふり返り対話することによってその意味や価値、さらにはこれからすべきことについて考えることが肝要である。今後の学校現場における「これまで」と「いま」と「これから」の「学ぶ」と「働く」をつなぐ、キャリア・パスポートの活用を期待したい。 【P32】 掲示板 第33回職業リハビリテーション研究・実践発表会 オンデマンド配信のお知らせ  JEEDは、2025(令和7)年11月12日(水)および13日(木)の2日間、東京ビッグサイトにおいて「第33回職業リハビリテーション研究・実践発表会」を開催しました。  当日は、「インクルージョン」の考え方を基盤としただれもが誇りを持って働ける環境と人づくりをテーマとした特別講演や「企業で働く障害者の高齢化」、「雇用の質」をテーマとしたパネルディスカッション等を行い、約1000人の方にご来場いただきました。  このたび、その内容をより多くの方に発信するため、障害者職業総合センター(NIVR)ホームページに動画や発表資料等を掲載しました。ぜひご覧ください。 https://www.nivr.jeed.go.jp/vr/33kaisai.html NIVR 検索 〈お問合せ先〉 研究企画部 企画調整室 TEL:043-297-9067 E-mail:vrsr@jeed.go.jp 読者アンケートにご協力をお願いします! ※カメラで読み取ったリンク先が「https://krs.bz/jeed/m/hiroba_enquete」であることをご確認ください。 回答はこちらから→ 次号予告 ●特集  2025(令和7)年10月17日(金)〜19日(日)に愛知県で開催された第45回全国アビリンピックを取材。各都道府県から出場した選手たちの活躍の様子をレポートします。 ●特別企画第1部  特別企画として、企業で働く障害のある人と企業の担当者の座談会を実施し、次号から2回にわたりお届けします。第1部では、障害のある社員による座談会の模様を紹介します。 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 メールマガジン 雇用支援や人材育成などの情報を毎月好評配信中! 詳しくは JEED メールマガジン 検索 あなたの原稿をお待ちしています ■声−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 電話 043-213-6200(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●編集委託−株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 電話 03-3915-6415 FAX 03-3915-9041 1月号 令和7年12月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 トヨタループス株式会社 取締役 大野聡士 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 サントリービバレッジソリューション株式会社 人事本部 副部長 平岡典子 武庫川女子大学 准教授 増田和高 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学大学院 教授 八重田 淳 国際医療福祉大学 准教授 若林 功 【P33】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2025年12月25日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 事業主の方へ 指導者(障害のある方を指導する方)育成に役立つ 研修受講者募集 令和8年度コースは3月2日(月)より受付開始!!  職業能力開発総合大学校では、職業訓練や企業において教育・指導にたずさわる方々を対象とした研修を実施しています。実際に教育訓練を担当される方が指導するにあたって必要な知識および技能・技術を習得するための研修をはじめ、精神・発達障害への配慮や支援に役立つ研修もありますので、ぜひご利用ください。 【研修コースの例】  「精神・発達障害関係の指導員研修」として、@「【通信活用研修】精神・発達障害と似た行動をする訓練生への支援T(理解と接し方)」A「【通信活用研修】精神・発達障害と似た行動をする訓練生への支援U(訓練の支援と支援体制)」の研修コースを用意しており、段階的に受講することができます。 【研修期間・実施形態・受講料の例】 ・研修期間 1コース 2〜3日 ・実施形態 オンラインまたは対面(会場:職業能力開発総合大学校等) ・受講料 1コース 6,000円〜 ※研修期間、実施形態および受講料は、コースにより異なりますので、詳細は職業能力開発総合大学校研修部までお問い合わせください。 研修コースの内容や申込方法などの詳細はホームページで! 職業大 研修 検索 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 職業能力開発総合大学校 研修部 〒187-0035 東京都小平市小川西町2-32-1 TEL:042-346-7234 FAX:042-346-7478 https://www.uitec.jeed.go.jp/training/index.html 1月号 令和7年12月25日発行 通巻579号(毎月1回25日発行)