クローズアップ はじめての障害者雇用 〜職場定着のための取組み〜 最終回 職場定着のための支援機関との連携と支援制度の活用  障害のある人をはじめて雇用する企業にとって、雇用そのものの実現は大きな一歩です。しかし、障害のある人が「継続して安心して働き続けられる」職場づくりこそが、雇用の真の成功につながることはいうまでもありません。  そこで本連載の最終回は、「職場定着のための支援機関との連携と支援制度の活用」をテーマに、ハローワークなどの支援機関の役割や各機関の活用のポイントなどを、北海道障害者職業センター旭川支所長の市川(いちかわ)美也子(みやこ)さんに解説していただきます。 はじめに〜雇用・職場定着を円滑に進めるために〜  障害者雇用に取り組む契機は事業主によってさまざまですが、雇用したからには長く安定して勤め、企業の一員として活躍し、障害者自身も職業人として充実した生活を送ってほしいと願うでしょう。一方でそれを実現するために企業としてどのように雇用管理をすべきか、迷いや不安もあると思われます。しかし幸いなことに障害者雇用に関しては「働きたい」障害者だけでなく、「雇用したい(雇用継続したい)」事業主をバックアップするための機関や制度があります。企業内だけで悩まず、これらを効果的に活用していただき、雇用・職場定着がよりよい形で進展するよう、今回は主立った支援機関や制度についてご紹介します。 支援機関や制度の概要と活用ポイント ●ハローワーク  ハローワークでは求職中の障害者との相談を通じて希望などを確認しながら、事業主から受理した求人とのマッチングを図り、紹介を行っています。また、採用された後も障害者雇用経験が少ない企業に対しては、地域の支援機関と連携して職場定着に向けた支援をする「チーム支援」に取り組んでいます。  はじめて障害者雇用に取り組む場合には、管轄ハローワークで地域における障害のある求職者の傾向等についてあらかじめ助言を得たうえで求人作成することで、求職者の関心を得やすくなるでしょう。 ●障害者就業・生活支援センター  障害者が安定して働き続けるためには、仕事のことだけでなく、それにともなう生活に関する課題等への支援が必要なケースが多くあります。障害者就業・生活支援センターは就業面と生活面の双方について相談・支援を実施している機関です。各都道府県知事が指定する社会福祉法人等が運営しており、全国で339カ所(2025年〈令和7〉年6月2日現在)(※)設置されています。身近な地域でその状況をふまえた雇用や定着に向けた相談をすることができ、また、他機関や制度活用に向けたハブ(コーディネート役)として企業をバックアップしてくれる存在です。 ●地域障害者職業センター  (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)が各都道府県に設置している地域障害者職業センターでは、はじめて障害者を雇用する場合や、採用後の職場定着に関する不安や困りごと等まで、事業主の幅広いニーズに応える専門的な相談・支援を行っています。 ・体系的支援  事業主との相談をもとに、課題改善に向けた具体的な取組み内容を記載した事業主支援計画を策定し、継続的に支援を実施します。 ・ジョブコーチ支援  障害者が職場に定着できるよう、職場適応援助者(ジョブコーチ)が職場に出向き、障害者本人や事業主に対して個別の課題に応じた支援を行います。 ・リワーク支援  うつ病等により休職している方の円滑な職場復帰に向けて、主治医等と連携して支援を行います。 ●就労移行支援事業所(福祉機関)  就労移行支援事業所は障害者総合支援法に基づく障害福祉サービス事業所の一つです。企業等への就職を目ざす障害者が一定期間(利用期限は原則2年間)通い、作業や講座・企業実習等を通じて働くために必要な準備を整えるためのトレーニングを受けています。また、利用者の求職活動支援や就職後の職場定着の支援等も行っています。就労移行支援事業所での取組み状況から、職場における配慮事項等についての情報が得られやすいことや、企業実習中や採用後に課題が生じた場合も支援者からのフォローが得られる点は、雇用・定着に取り組むうえで企業にとって大きな安心材料といえます。 ●障害者職業能力開発校  全国に国立13校、都道府県立6校が設置されている障害者職業能力開発校では、障害の特性に配慮しながら個々の様態に応じた各種技能習得のための職業訓練を実施しています。また、訓練終了後の就職支援も行っています。  企業が求める技能に関連する科目を修了した障害者がいれば、求人とのマッチングが図りやすいことや、訓練受講状況から職場における配慮事項等について能力開発校からの情報が得やすいといったメリットがあります。 ●特別支援学校  特別支援学校の高等部には卒業後に企業への就職を希望している生徒がおり、在学中には「働くこと」を想定した作業学習や職場実習等が行われています。学校と連携して早期から計画的・継続的に職場実習を受け入れることで、雇用した際の配慮事項や職場環境の検討・整備に取り組みやすくなるでしょう。 ●その他の機関 ・JEED各都道府県支部 高齢・障害者業務課  障害者雇用納付金等の申告・申請受付、納付金関係助成金に関する相談・申請受付、障害者職業生活相談員資格認定講習や地方アビリンピック(障害者の技能競技大会)開催に関する業務等を行っています。 ・医療機関  個々の障害や疾患の特性をふまえた職場での配慮事項等について助言を得たい場合には、障害者ご本人と相談し、同意を得たうえで主治医等と連携できるとよいでしょう。 職場定着に向けた事業主の役割  障害者雇用に関する支援制度は近年、充実が図られており、企業を支える体制も整備されてきました。事業主の立場で考えると、法定雇用率の引上げ等の制度改正が進められるなかで、コンプライアンスを意識しつつ、企業活動を維持・継続するには日々たいへんなご苦労があるかと思いますが、課題や悩みは抱え込まずに、支援機関や制度を積極的に活用し、効果的・効率的に障害者の雇用や職場定着に取り組んでいただきたいと思います。  ただし、支援機関や制度はあくまでも「バックアップ役」です。連携を通じて課題への対応ノウハウを支援機関から事業主に伝え、障害者が自然な形で職場のサポートを受けながら働き続けられる「ナチュラルサポート」を形成することが支援の目的であり、雇用・職場定着の取組みの主体はあくまでも事業主自身であることにご留意ください。 ※障害者就業・生活支援センター一覧(厚生労働省ホームページ)  https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_18012.html 図 事業主をバックアップする支援機関 企業 障害者就業・生活支援センター 【主な業務内容】 ●就職・職場定着に向けた支援 ●生活習慣、健康管理、金銭管理などの日常生活の助言 【主な支援スタッフ】 ●就業支援担当者 ●生活支援担当者 ハローワーク 【主な業務内容】 ●職業紹介 ●雇用率達成指導 など 【主な支援スタッフ】 ●専門援助部門の職員 ●事業所部門の職員 就労移行支援事業所等 【主な業務内容】 ●就労に必要な訓練 など 【主な支援スタッフ】 ●職業指導員 ●就労支援員 ●生活支援員 医療機関 【主な業務内容】 ●就労支援に関するプログラム など 【主な支援スタッフ】 ●医療従事者 特別支援学校 【主な業務内容】 ●職業教育、職場実習 【主な支援スタッフ】 ●担任教諭、進路担当教諭 障害者職業能力開発校 【主な業務内容】 ●職業訓練 など 【主な支援スタッフ】 ●職業訓練指導員 障害者職業能力開発校全国19校(国立13校、都道府県立6校)うち、2校は(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構が運営 (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 都道府県支部 地域障害者職業センター 【主な業務内容】 ●事業主への相談・援助 ●ジョブコーチ支援 ●リワーク支援 など 【主な支援スタッフ】 ●障害者職業カウンセラー ●ジョブコーチ ●支援アシスタント 高齢・障害者業務課 【主な業務内容】 ●障害者雇用納付金制度に基づく障害者雇用納付金等の申告・申請の受付、障害者職業生活相談員資格認定講習の開催 など 【主な支援スタッフ】 ●助成金担当者 ※東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課を含む 出典:「はじめての障害者雇用〜事業主のためのQ&A〜」JEED、2025年 https://www.jeed.go.jp/disability/data/handbook/q2k4vk000003kesx.html