研究開発レポート 職場復帰に向けた調整のための効果的なアセスメントの実施方法 障害者職業総合センター職業センター  障害者職業総合センター職業センター(以下、「職業センター」)では、気分障害等の精神疾患のある休職者を対象としたジョブデザイン・サポートプログラム(以下、「JDSP」)の実施を通じ、ストレス対処、対人技能などの職場復帰支援に関する先駆的な職業リハビリテーション技法の開発(★1)および普及に取り組んでいます。  職業センターおよび地域障害者職業センターで実施する職場復帰支援は、休職者のスムーズな職場復帰とともに、復帰後に安定した職業生活を送ることを目ざし、休職者、事業主および主治医の三者の合意形成を経たうえで実施しています。具体的には、支援開始段階で休職者、事業主および主治医の三者から職場復帰にかかる必要な情報を収集し、職場復帰に向けた課題や目標を整理するなどのアセスメント結果に基づいて策定した支援計画を三者に説明、合意を得たうえで支援を開始します。  職場復帰支援の開始段階で行うアセスメントにはさまざまな手法が用いられていますが、これまで体系的に整理されているとはいえない状況でした。そこで、休職者、事業主および主治医で職場復帰に向けた合意形成を行う際のポイントを整理し、支援ツールなどとして、実践報告書41「職場復帰に向けた調整のための効果的なアセスメントの実施方法」(2025〈令和7〉年3月発行)に取りまとめました。  本レポートでは、その概要をご紹介します。 1.支援ツールの内容  職場復帰に向けた調整のためのアセスメントの際に活用できる支援ツールは、@支援開始段階で活用する「支援目標の設定、支援計画作成」、A支援期間中盤で活用する「支援方針の検討」、B支援期間終了間際から終了後に活用できる「事業所との職場復帰の調整」の大きく三つに分けて紹介しています。今回は、そのなかでも@支援開始段階で活用する支援ツールを二つ紹介します。 (1)情報共有シート(2024版)(図1)  2019(平成31)年に発行したマニュアル(※)内の「情報共有シート」をベースに、職場復帰の調整における情報共有をより円滑に進めるために、休職・復職に関する社内規程や制度、職場復帰可否の判断基準などを可視化し、整理するツールをバージョンアップしました。  改良ポイントは@必ずしも一人の人が対象者の状況を把握しているわけではないため、それぞれの方が状況について記載できるよう説明文を追加、A社内規定などの制約のあるなかで職場復帰後の当面の取扱いにどの程度の運用が可能かを詳細に確認できる項目を追加、Bリワーク支援終了以降の職場復帰までの流れを記入する欄を追加、C休職前の休職者の状況をより正確に把握するために「休職前の業務内容・業務遂行状況」欄を追加、Dリワーク支援のなかでの取組目標について、休職者、事業主との間ですり合わせていくために「リワーク支援のなかで事業所として取り組んでほしいこと」欄を追加した点です。  JDSPでは、支援開始前の段階で情報共有シートの使用目的や記入方法を休職者へ説明し、休職者が主体的に情報収集できるよううながします。休職者と事業所担当者で必要に応じて連絡を取り合い、休職者と事業所担当者それぞれの担当箇所を記入する、面談を行い一緒に記入していくなど作成方法はさまざまですが、このシートの作成を通じて、職場復帰に向けて必要な事柄を休職者が自然に確認できる流れとなっています。また、休職者のなかには、事業所担当者から提出された情報共有シートを見て、制度などを初めて知る人もいます。支援者は、休職者と一緒に記載内容を確認することで、休職者が抱える不安などを共有しながら、事業所担当者に確認する事柄を具体化し、休職者が主体的に確認できるよう支援することができます。 (2)復職に向けた行程整理シート(2024版)  休職者が職場復帰に向けた行程を時系列で整理するためのシートです。行程の視覚化によって、職場復帰までの流れをイメージしやすくなり、休職者が見通しを持って主体的に行動できるようになることをねらいとしています。2019(平成31)年に発行したマニュアル(※)内の「復職に向けた行程整理シート」をベースに改良しました。  改良ポイントは、「事業所関連」、「主治医関連」、「職場復帰支援関連」の欄を新たに設け、各担当者と適切なタイミングで手続きを進めるための情報を整理できるようにしたことです。また、「復職後当面の取扱い」など前述した「情報共有シート(2024版)」と連動させることで、収集した情報を1枚のシートにまとめられるよう工夫しました。  窓口となる事業所担当者も、職場復帰の手続きに慣れていない場合もあります。その際、このシートを活用することで、職場復帰後までの流れを視覚的に共有することができ、事業所担当者との認識のずれを防ぐことができる効果もあります。 2.ツールを活用したアセスメントの際のポイント (1)「主体性」を尊重する  職場に復帰して働くのは休職者自身です。そのため、支援者が情報収集や調整などを代行することは、休職者が主体的に行動する機会の損失につながりかねません。支援者は、休職者が今後の自分自身の働き方を自ら考え、職場復帰に向けた行動ができるよう、「主体性」を尊重し、行動を支えることが重要です。休職者が事業所担当者や主治医に自分の状況や考えなどを伝えることができるよう、必要な情報を収集、整理することについて、適宜助言などを行います。 (2)アセスメントの目的、ねらいを再認識  アセスメントにおいては、「何を確認するのか」「何に取り組むため、検討するために必要な情報なのか」を考えて、支援者は各種シートを選択し、シートの記載内容だけでは情報が足りない場合は、補足的に情報収集を行います。 3.おわりに  本実践報告書のなかでは、ご紹介したもの以外にも、複数の支援ツールをご紹介しています。また、支援ツールを使った具体的な実践事例もご紹介しています。日々の支援の参考に、ぜひご活用ください。  本実践報告書は、障害者職業総合センター研究部門のホームページに掲載しています(★2)。また冊子の配布を希望される場合は、下記にご連絡ください(★3)。 ※支援マニュアルNo.19「職場復帰支援における事業主との調整」2019(平成31)年3月発行 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/support19.html ★1「職業リハビリテーション技法の開発」については、https://www.nivr.jeed.go.jp/center/center.htmlよりご覧いただけます ★2「実践報告書No.41」は、https://www.nivr.jeed.go.jp/center/report/practice41.htmlよりダウンロードできます ★3障害者職業総合センター職業センター TEL:043-297-9043 https://www.nivr.jeed.go.jp/center/index.html 図1 情報共有シート(2024版) 情報共有シート(2024版) ○○センター 担当:○○ TEL:000-000-0000 e-mail:○○@○○  職場復帰支援を行うにあたり、支援の方法や方向性を検討する参考にさせていただくために、ご本人様と事業所ご担当者様へ本シートの作成についてご協力をお願いいたします。 ◆事業所ご担当者様  項目により、複数の方にご記入いただいても構いません。  本シートへの記載事項や復職条件等に係る確認のため、当センター職員よりご担当者様あてご連絡させていただく場合がございます。 氏名 生年月日  年  月  日 (  歳) 住所 〒 〔最寄り駅  線  駅〕 連絡先(電話番号) 事業所名 所属部署 役職 事業内容 従事業務 勤務地 〒 〔最寄り駅  線  駅〕 通勤時間 移動手段: 時間    分 勤務日数 週    日 勤務時間 〜 通院先 主治医 通院頻度 事業所 担当者 窓口となる方に「〇」 氏名・役職 連絡先(電話番号) 備考 人事担当 健康管理スタッフ 上司 産業医 その他 休業開始日  年  月  日 現在の状況 有給休暇・病気欠勤・休職・その他(      ) 事業主の定める 休職期間 年  月  日 〜 年  月  日  (  年  か月間) 休職回数 回目 休職中の収入 休職前の収入の    % (受給期間   年   月まで) 備考 事業主の職場復帰に対する考え リワーク支援の利用 必須・必須ではない 定期報告 必須・必須ではない リワーク支援の報告会 必須・必須ではない 中間・終了 復職前のリハビリ出勤 必須・必須ではない・制度なし その他 職場復帰後当面の間の取扱い 事業主の考え 備考 時間外勤務(原則なし・制限あり・制限なし) 休日出勤(原則なし・制限あり・制限なし) 宿泊を伴う出張(原則なし・制限あり・制限なし) 勤務時間の軽減(1日   時間から開始可能・なし) 勤務日数の軽減( 週   日から開始可能・なし) 部署等の異動(可能性あり・原則不可) 職務調整(調整の余地あり・調整の余地なし) その他(       ) 職場復帰の流れ [例]主治医の職場復帰可能の判断→産業医面談→復職 職場復帰可否の判断基準 [例]リワークの出席率●%以上、十分な就労意欲がある、安全に通勤できる、疲労が翌日までに回復する、日中の眠気がない、業務遂行に必要な注意力や集中力が回復している、その他達成して欲しいと思われることなど。 休職前の業務内容・業務遂行状況 [例]データ分析、提案書作成(PC使用)。Excelスキルはあり、図表を活用して提案書作成はできているが、締切間近の提出が続いていた。 リワークの中でご本人に取り組んで欲しいこと [例]@指示通りに業務を遂行できるようになる、A進捗報告、体調不良等不安なことについて相談ができるようになる。 ※複数の事項がある場合には、優先順位を記載してください。 ご本人の職場復帰に対する考え [記載項目例]復職時期、配属先、職務内容に関する希望など 図2 復職に向けた行程整理シート(2024 版) 復職に向けた行程整理シート(2024版) スケジュール 有休・病気休暇・病気欠勤・(  ) (  年  月  日まで) 休職 (休職期間満了日  年  月  日) 復職 手続き 事業所関連 主治医関連 職場復帰支援関連 【復職前のリハビリ出勤の実施】 (必須・必須ではない・制度なし) 〔期間〕 〔作業内容等〕 【復職後当面の取扱い】 ・時間外勤務(原則なし・制限あり・制限なし) ・休日出勤(原則なし・制限あり・制限なし) ・宿泊を伴う出張(原則なし・制限あり・制限なし) ・勤務時間の軽減(1日時間から開始可能・なし) ・勤務日数の軽減(週日から開始可能・なし) ・部署等の異動(可能性あり・原則不可) ・職務調整(調整の余地あり・調整の余地なし) ・その他(   ) 【職場復帰可否の判断基準】