【表紙】 令和7年3月25日発行・毎月1回25日発行・通巻第570号 ISSN 0386-0159 障害者と雇用 2025/4 No.570 職場ルポ 特性や疾患に合わせた個別の支援・指導 株式会社瀬戸製作所(香川県) グラビア 欠かすことのできない働き手 株式会社カン喜(山口県) 編集委員が行く 新たな未来への道を切り拓くリーダーに聞く! 株式会社リンクライン(神奈川県)、株式会社ドコモ・プラスハーティ(東京都) 私のひとこと 感覚過敏を知ることで、障害特性における能力が発揮できる可能性 国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 研究員 井手正和さん 「『自然との共生』花粉交配用ミツバチの飼育」岐阜県・高橋(たかはし)璃沙(りさ)さん 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons withD isabilities and Job Seekers 4月号 【前頁】 心のアート ピースバード 村中洋介 (特定非営利活動法人障害者アート支援工房COCOPELLI) 画材:墨、アクリル絵の具、キャンバス/サイズ:130cm×162cm  人懐っこく冒険好きの村中さんは、特別支援学校卒業後、工房ココペリが創設されたタイミングでワークショップに参加しました。しかし、最初の1年は、おしゃべりをしてそのまま帰る日が続いていて、ほとんど絵を描きませんでした。心配した母親にうながされ、重い腰をあげて描きはじめたのは、大きな白黒の鳥でした。その後10年間でA4〜120号程度の作品約30点を完成させましたが、これらの作品も彼独自の画風で描かれています。 (文:特定非営利活動法人障害者アート支援工房COCOPELLI(ココペリ) 米田(よねだ)昌功(まさのり)) 村中 洋介(むらなか・ようすけ)  1986(昭和61)年生まれ。2008(平成20)年に描いた作品「フリーバード」が一般公募展「美の祭典 越中アートフェスタ2008」で優秀賞を受賞したことで、富山県内の障害のある人のアートとその魅力を広げるきっかけをつくりました。姿勢を保つのと細かな手の動きが苦手なため、柄の長い専用の筆を持って立ったまま、ゆっくりと絵を描いていきます。モチーフが二重丸のような花に囲まれている風景をモノクロで描く画風はずっと変わりません。 【もくじ】 障害者と雇用 働く広場 目次 2025年4月号 NO.570 「働く広場」は、障害者雇用の啓発・広報を目的として、ルポルタージュやグラビアなど写真を多く用いて、障害者雇用の現場とその魅力をわかりやすくお伝えします。 心のアート 前頁 ピースバード 作者:村中洋介(特定非営利活動法人障害者アート支援工房COCOPELLI) 私のひとこと 2 感覚過敏を知ることで、障害特性における能力が発揮できる可能性 国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 研究員 井手正和さん 職場ルポ 4 特性や疾患に合わせた個別の支援・指導 株式会社瀬戸製作所(香川県) 文:豊浦美紀/写真:官野貴 クローズアップ 10 障害者雇用率向上へのヒント 第1回 企業が取り組む障害者雇用の意義と今後の動向 JEEDインフォメーション 12 令和7年度「障害者雇用納付金」申告および「障害者雇用調整金」等申請のお知らせ/障害者雇用納付金電子申告申請システムのご案内 グラビア 15 欠かすことのできない働き手 株式会社カン喜(山口県) 写真/文:官野貴 エッセイ 19 誰一人取り残さない防災とは? 最終回 恊働性の実装 同志社大学社会学部教授 立木茂雄 編集委員が行く 20 新たな未来への道を切り拓くリーダーに聞く! 株式会社リンクライン(神奈川県)、株式会社ドコモ・プラスハーティ(東京都) 編集委員 平岡典子 省庁だより 26 令和6年 障害者雇用状況の集計結果A 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課 研究開発レポート 28 第32回職業リハビリテーション研究・実践発表会 Part1 特別講演「障害者を中心にした障害者雇用体制の構築〜職場、家庭、地域の就労支援ネットワークによる支援とともに〜」 株式会社MBTジョブレオーネ 代表取締役 岡山弘美氏 ニュースファイル 30 編集委員のひとこと 31 掲示板・次号予告 32 JEEDメールマガジン登録受付中! 表紙絵の説明 「養蜂場を見学し、花粉交配用ミツバチが野菜や果物の収穫に役立っていることを知り、このことを多くの人に知ってほしいと思い、この題材を選びました。色鉛筆をメインで使い、背景などは水彩絵の具で描きました。受賞を聞いたときは、ずっと絵を描き続けてきてよかったなと思いました」 (令和6年度 障害者雇用支援月間絵画コンテスト 高校生・一般の部 高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長奨励賞) ◎本誌掲載記事はホームページでもご覧いただけます。 (https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/index.html) 【P2-3】 私のひとこと 感覚過敏を知ることで、障害特性における能力が発揮できる可能性 国立障害者リハビリテーションセンター研究所 脳機能系障害研究部 研究員 井手正和  私たちの日常生活では、外界に存在する感覚刺激を受け取り、脳内で複雑な処理を行った後、それに基づいて外界にはたらきかけることをくり返しています。その意味では、感覚刺激の受容の様式に変化があった場合、その後の処理において、さまざまな影響をおよぼすことが想像できます。自閉スペクトラム症(Autism Spectrum Disorder:ASD)者では、そのほとんどが感覚過敏の症状をもつといわれています。例えば、さほど強くない光を浴びるだけでも、その眩しさに耐えられずに具合を悪くしたり、かすかな音が鳴っているだけでもうるさく感じられたりします。感覚はそれを体験する個人にしか理解できないものであるため、感覚過敏を訴える当事者の周囲の人は、その訴えに困惑します。その結果、過敏の訴えが、本人のワガママや考え過ぎではないかと誤解し、当事者は周囲の理解不足に苦しみます。  しかし、感覚が過敏であることは、そうした感覚をもたない人と比べて、何か劣っているということなのでしょうか? さまざまな実験の結果は、そうした考えを覆す事実を私たちに突きつけています。例えば、ある実験では、指先に微弱な触覚刺激を提示し、どの程度強度を弱めて刺激の存在に気づくことができるかを調べています(※1)。その結果、ASD者は、定型発達者に比べて、より微弱な刺激であっても、その存在に気づくことができました。また、触覚刺激を手の甲の同一箇所にくり返し提示すると、次第に慣れが生じてくることで通常は感覚が鈍ります。しかし、ASD者ではそうした慣れが生じにくく、くり返し刺激を提示してもほとんど感度が変わらないという結果も報告されています(※2)。視覚に関しても、その知覚精度を調べた研究があります(※3)。縞模様をわずかに傾けて提示し、どの程度傾けたらその傾きに気づくことができるかを調べたところ、ASD者は定型発達者に比べてわずかな傾きでさえ鋭敏に気づくことができました。  筆者の研究グループでは、ASD者を対象にして、刺激に対する時間情報処理の精度を調べる実験を行ってきました。そこでは、「時間順序判断」という課題を用いました。時間順序判断では、例えば左右の手の指先に振動を提示する装置を取りつけ、数ミリ秒というごくわずかな時間差で刺激を提示します。実験参加者は左右どちらの指に対する刺激が後に提示されたかをボタンを押して回答します。これにより、その個人がどの程度の刺激にどの程度の時間差の順序を正確に判断できるか、すなわち時間分解能を算出することができます。  この実験を通じて、きわめて高い時間分解能をもつASDの青年に出会いました。その青年はわずか6ミリ秒の時間差があれば正確に順序判断を行うことができ、定型発達者の平均である60ミリ秒という時間分解能の10倍の値であることがわかりました(※4)。この青年は日常生活では複数の時計を見比べることを好み、時計の秒針が規則的に揃って動く様子を観察しているといいます。また、感覚過敏をもっており、車に乗るとそのわずかな振動が気になるため、乗車することをあまり好まないと語りました。筆者らはこの青年のきわめて高い時間分解能がどのような脳内処理によってもたらされているのかに関心をもちました。そこで、時間順序判断課題中の脳活動をfMRIで計測したところ、腹側運動前野という脳部位が強い活動を示していることがわかりました。この時間分解能の高さはいったい何にかかわるのかを知るために、十数名のASD者と定型発達者に課題を実施してもらいました(※5)。その結果、時間分解能が高いASD者では日常生活において感覚過敏を強く経験していることがわかりました。このように、感覚過敏は一方では日常生活の困難に結びついているものの、他方ではASD者にみられる高い知覚処理精度にも関連している可能性が示されました。  きわめて高い時間分解能をもつ青年とは、その後も継続的につながりをもち続けていました。そんななか、筆者にある企業から依頼が舞い込みました。それは、尖った能力をもつASDの当事者をインターンとして紹介してもらいたいというものでした。悩んだあげく、私はその青年を候補者としてあげることにしました。ちょうど就職活動の時期だった本人は喜んでそのオファーを受けてくれました。筆者は、そのまま彼を雇用してくれるのではないかという淡い期待をもっていました。それから数カ月、青年と連絡を取り合いながらインターンを続けました。そして、インターンも終わりを迎え、青年の働きについて説明してもらえるとの連絡を受けました。説明日、インターン中の青年の努力やユニークなアイデアなどについて聞くことができました。しかし、一方でコミュニケーションがむずかしかった点などもあがっていました。結果として、残念なことにその企業での継続した雇用には結びつきませんでした。  ここで私が感じたことは、いくらASD者が優れた能力を有していたとしても、企業においては意思伝達の困難や他者とのコミュニケーションの苦手さが足を引っ張り、既存の企業形態では、のびのびと彼らの能力を活かしきれないということでした。もし、これからの社会が本当にASD者をはじめとする障害のある人々の尖った部分を活かしていこうと考えるのであれば、例えばASD者にみられる感覚過敏やコミュニケーションの困難などについては受容する体制を構築し、そのうえで能力を引き出す環境を提供しなければならないでしょう。そのような環境を構築したうえで、初めて障害特性における能力を発揮できる可能性が検討される必要があると考えます。 ※1 Blakemore S, Tavassoli T, Calo' et al. (2006):Tactile sensitivity in Asperger syndrome. Brain Cogn, 61, 5-13. ※2 Tannan V, Holden J K, Zhang Z et al. (2008):Perceptual metrics of individuals with autism provide evidence for disinhibition. Autism Res, 1(4), 223-230. ※3 Bertone A, Mottron L, Jelenic P et al. (2005):Enhanced and diminished visuo-spatial information processing in autism depends on stimulus complexity. Brain, 128(10),2430-2441. ※4 Ide M, Atsumi T, Chakrabarty M et al. (2020):Neural basis of extremely high temporal sensitivity: Insights from a patient with autism. Front Neurosci, 14, 340. ※5 Ide M, Yaguchi A, Sano M et al. (2019):Higher tactile temporal resolution as a basis of hypersensitivity in individuals with autism spectrum disorder. J Autism Dev Disord, 49(1), 44-53. 井手正和 (いでまさかず)  国立障害者リハビリテーションセンター研究所脳機能系障害研究部研究員。立教大学大学院現代心理学研究科博士課程後期課程修了。博士(心理学)。国立障害者リハビリテーションセンター研究所脳機能系障害研究部流動研究員、日本学術振興会特別研究員PDなどを経て、現職。専門は実験心理学、認知神経科学、リハビリテーション科学。2014(平成26)年度よりASD者を対象とした知覚の研究を開始する。研究と並行してアウトリーチ活動を積極的に行い、特にASD者の感覚過敏についての科学的な理解の啓発に取り組む。現在は協調運動の問題にも取り組み、MRIによる非侵襲脳機能計測手法を取り入れることで、その神経基盤の解明を目ざしている。 【P4-9】 職場ルポ 特性や疾患に合わせた個別の支援・指導 ―株式会社瀬戸製作所(香川県)― 精度の高い金属加工を手がける職場では、社員一人ひとりの障害特性や疾患に合わせた個別の支援・指導で、長く働き続けられる環境をつくっている。 (文)豊浦美紀 (写真)官野貴 取材先データ 株式会社瀬戸製作所 〒767-0031 香川県三豊市(みとよし)三野町(みのちょう)大見甲(おおみこう)2022 TEL 0875-72-5195 FAX 0875-72-5197 Keyword:身体障害、知的障害、内部障害、製造業、特別支援学校 POINT 1 創業者の時代から、働く意欲のある障害のある人を個別に採用 2 機械を使った精度が求められる作業も、時間をかけてていねいに指導 3 療養からの復職や通院など、個別事情に合わせて勤務形態などを調整 油圧コントロールバルブ製造  金属加工業を営む「株式会社瀬戸製作所」(以下、「瀬戸製作所」)が手がけるのは、おもに大手メーカーの小型建設機械に搭載される油圧コントロールバルブだ。機械加工から研磨、組立、性能検査まで自社で一貫して実施している。1952(昭和27)年に大阪府大阪市で設立後、2015(平成27)年に創業者の郷里である香川県三豊(みとよ)市に本社を移転させた。中国やベトナムにも子会社を持ち、グローバルに事業を展開してきた。  瀬戸製作所では、創業者の代から自発的に障害者雇用を行ってきたそうだ。いまでは社員104人のうち、障害のある社員は5人(身体障害4人、知的障害1人)で障害者雇用率は5.58%(2024〈令和6〉年6月1日現在)だという。2024年度には「もにす認定制度」(障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度)の認定も受けている。  組織的な支援体制などを整えているわけではないが、創業者から続く“共生”の精神と、社員を守る姿勢が職場全体に浸透しているなかで、障害者雇用も自然と定着しているように思われる。これまでの取組みや、当事者である社員や上司の話を聞きながら、ものづくりの現場を見学させてもらった。 安心して頼れる上司のもとで  まずは、本社工場内を案内してもらった。金属加工用の大小さまざまな機械が置かれているなか、3台の大型機械の間に立って作業をしていたのは製造1課の石井(いしい)聖也(せいや)さん(30歳)。地元の普通科高校の先生と「障害者就業・生活支援センターつばさ」(以下、「つばさ」)の職員と一緒に来社し、1週間のインターンを行ったのちに正社員として採用された。当初はつばさの職員が会社に来て勤務状況に関するヒアリングや助言等の支援を行っていたという。  現在担当しているのは、金属部品の材料を切削する「6面フライス加工」と呼ばれる工程だ。ブロック状の金属のかたまりを機械に取りつけ、決められたサイズになるよう数値を入力して切削していく。ただし、すべて機械が自動で仕上げてくれるわけではないという。石井さんの上司で、製造1課班長の好川(よしかわ)直樹(なおき)さんが説明する。  「許容されるサイズの誤差は±0.3mm以下とされているので、機械への取りつけ具合などを一つひとつ微調整する必要があります。何十もある部品の種類によって調整具合も違います。しかも、ここで規格からずれてしまうと、そのあとの工程にすべて影響するので、かなり重要な仕事です」  瀬戸製作所が手がける油圧コントロールバルブは、油圧ショベルを操作する“頭脳”のような役割をする制御装置。弁内で主軸部品がスムーズに動き、しかも油漏れしないためのミクロン単位の隙間が必要で、精度の高い加工技術が求められているのだという。  そんな大事な加工現場の一つを任されている石井さんは、作業の流れやコツをくり返し教わりながら、少しずつスキルアップしてきた。その過程では苦労もあったようだ。なかでも当初は、コミュニケーションが不得手であることが、大きな課題だった。  好川さんが6年前、初めて石井さんと同じ職場になったころは、ほとんど会話がなかったという。「当時の上司がちょっと職人気質で、本人にとっては少し怖いと感じる方だったようです。その影響で、本人から周囲に話しかけたり、質問をしたりするようなこともありませんでした」  その結果、石井さんはトラブルなどが起きるとその場で立ちすくんでしまうしかなかったそうだ。  しばらくしてその上司と替わって、新たに指導役を務めることになった好川さんは、「何があっても絶対に怒らない」、「できるだけ、本人がしゃべりだすのを待つ」ことに決めたそうだ。  「私はもともと叱ることが嫌いですし、本人がいまの仕事をしたいと思っていることはわかるので、少しずつ時間をかけて、つねに私から声がけをして働きかけながら、コミュニケーションの壁をとっぱらっていくようにしました」(好川さん)  また好川さんは、少しでも石井さんのことを理解しようと、特性について必要な配慮やサポートの仕方などをインターネットなどで調べ、日々の対応に活かしていったそうだ。  会話のなかでも、その場で返答を急がせることをせず、場合によっては「次のときでいいからね」と時間的な余裕をもたせた。そうやって石井さんの心理的な負担をやわらげながら、多少時間がかかっても自分で意見をいえるような雰囲気づくりを心がけたという。  「いまでは、ずいぶんしゃべってくれるようになりました。最初に会ったときとは全然違います。また、何かミスやトラブルがあれば、すぐ私のところに来て報告をしてくれるようにもなりました」(好川さん)  コミュニケーションの向上に合わせるように、石井さんは、機械の脱着といった新しい担当作業もいくつか増やしてきた。  最初は時間をかけて好川さんと一緒に一つひとつの作業をくり返し、作業が正しくできているかフィードバックしながら覚えてきたそうだ。「補助的な作業をいくつか担当できるようになった分だけ、ほかの社員も助かります。間違いなく戦力ですよ。今後はさらに難度の高い作業も、根気強く時間をかければできるようになると思います。本人からは『やってみる』という意欲も感じられるので、少しずつ、周囲とのコミュニケーションを図りながら、担当する作業を増やしていけたらと思います」と好川さんは期待している。  石井さんにも話を聞いてみた。こちらの質問に、はにかむような笑顔で、答えに困る様子を見せながらも、休日にはゲームセンターに行くこと、自転車で通勤していることを教えてくれた。「好川さんはどんな人ですか」との質問には、にっこりしながら「やさしいです」と答えてくれた。ちなみに、年に1回の社員旅行も、行きたい場所があるときなど参加するようになったそうだ。  総務部長の山本(やまもと)真也(しんや)さんも、「安心して頼ることができる上司がいることで、本人も大きく成長できました」と話す。  「入社した当時は、親御さんがついてきたり、代わりに連絡をされたりしていたようですが、いまはそういうことも一切ありません。突発的に休まないといけないときも、本人から好川さんに直接連絡しているようです。社会人として自立してきていることもうれしいですね」  障害者職業生活相談員(※)でもある山本さんは、数年前に瀬戸製作所に転職してきた。以前は大手自動車メーカーの特例子会社に出向していたことがあり、そこで多くの障害のある社員に仕事を指導していたという。こうした豊富な経験も含め、職場内で何かと頼られる存在だ。 工業高校で学んだことを活かす  次に案内してもらったのは、同じ工場建物内の、総務部などがある事務所と透明ガラスで隔てられた小部屋。ここは、できあがった製品の性能などを保証するための検査や測定を行う品質管理室だそうだ。  その一角で、回転型の測定機と向き合っていたのは、2013年に入社した品質管理課の田淵(たぶち)航(わたる)さん(29歳)。  測定機の真ん中には、油圧バルブの中に組み込まれる弁棒といわれる小さな金属部品が取りつけられている。田淵さんは「これは真円度測定機と呼ばれるもので、この弁棒がどれぐらい正確な円状であるかを計測しています」と教えてくれた。この業務でもっとも気をつかうのは、数値の違和感だという。  「手順通りの操作をすれば自動的に数値を出してくれますが、ごくたまに、ちょっとした設置のずれなどで、誤った数値が出ることがあります。そこを見逃さないように、『いつもと違うな』とか『ここでこの数字はおかしいかも』といった違和感を大事にしています」  両足が不自由な田淵さんは、地元の工業高校で就職活動をしていたときに、瀬戸製作所の求人票があると先生から紹介されたそうだ。「ほかにも印刷会社でパソコンを使う仕事もあったのですが、電子科だったので、ここの職場が合っていると思いました。一緒に入社した同級生もいました」  田淵さんは日常生活では、ロフストランドクラッチと呼ばれる杖(つえ)を使用しており、入社当初は、工場内も杖を使って移動していたそうだが、「慣れてくるとかえって邪魔だったので、いまは職場では使っていません」  真円度測定機の後方には、「部品の表面がどれほど滑らかであるか」を調べる表面粗さ測定機が置かれている。田淵さんはこの二つの測定機の間にいすを置いて、座りながら並行して使っている。  「ほぼ座った状態で仕事ができるので、私にとってはとても作業しやすい環境です。数年前に別の業務をしていたときも、いすに座ったまま作業できるよう工夫してもらっていました」  これまで仕事上で苦労したことなどについて聞いてみたところ、「一度、真円度測定機に使う針状の部品を誤って曲げてしまったことがあります」と明かし、「別の作業も一緒にやろうとして注意が足りなかったのかもしれません。高価な部品なので、上司に『給料から天引きにしてください!』といったところ、『そんな必要ないよ』と笑って許してもらいました。それ以来、特に気をつけて作業しています」と教えてくれた。  田淵さんは入社後、自動車免許も取得し、ほかの社員と同様にマイカー通勤をしている。「でも、いまでも運転は慣れないというか、自信があるわけではありません」とうつむき加減に答える田淵さん。職場前にある社員用駐車場には、田淵さんが一番停めやすい場所に身体障害者用であることを示すポールが置かれている。  田淵さんの先輩社員にあたる品質管理課の立石(たていし)晃(あきら)さんによると、職場内では「すれ違うときなど、本人が移動しやすいよう少し配慮するぐらいです」といたって自然体で接しているそうだ。  「彼のよいところは、まじめなところです。部品をだめにしたときには給料の天引きを願い出てきましたが、私たちもたまに部品を壊しますからね。いずれにせよ、そういう姿勢も含めて誠実だと思います」  一方で、まだ若い田淵さんには、もっと貪欲にスキルアップを目ざしてほしいそうだ。「例えばエクセルのマクロやプログラミングなど、会得できれば本人の大きな武器になります。業務的にメリットがあれば会社も支援してくれると思いますし、将来的に何かあっても生きていく糧になるはずです」とアドバイスする。  「個別に勉強したいことがあれば、社長に直接相談してみたらいいと思います」と立石さん。そんな気軽にできるのかと聞いてみたところ、2022年から3代目の代表取締役社長を務める藤田(ふじた)紹宏(つぎひろ)さんは、自身の作業用デスクを品質管理室内に置いており、日ごろから田淵さんの座席から数メートルの距離にいるそうだ。社長室は別棟にあるものの、来客があったときしか使っていないのだという。山本さんが「いまの社長が、社員として入社した十数年前から、ずっとこの場所だそうです。本人にとってはここが一番仕事もしやすいのでしょう。ほかの社員も、いまでは特に気にしていません」というほど、社員との距離が近いようだ。 透析に通いながら働き続ける  瀬戸製作所では、職場で長く働き続けられるための柔軟な環境づくりも行ってきた。通院などのために、時間単位での年次有給休暇の活用を積極的にすすめているほか、休職した社員には、個別の職場復帰プランも作成している。  ある社員は一時期、内臓疾患により長期入院と療養を余儀なくされた。復帰後も週3回の人工透析が必要だったことから、本人と相談しながら事情に合わせて勤務時間などを変更し、いまも活躍してもらっているという。  総務部長の山本さんは、「社員旅行のときも、この方が人工透析を受けられる病院を事前に調べて手配をし、一緒に楽しむことができました」と話してくれた。 「人にやさしい会社」として  これまでの瀬戸製作所の障害者雇用は、トップの姿勢によって、ごく自然に取り組んできた結果だ。山本さんによると、「組織として特に障害者雇用に取り組んできたというよりも、代々の社長が、個人的に相談されたり、困っている話を聞きつけたりすると放っておけないようで、その都度、働きたくても働けない人たちを受け入れてきたようです」とのことだ。  例えばコロナ禍のときは、電車で1時間離れている高松市内の飲食店が軒並み休業したため、留学生のアルバイト先がなくなり生活に困っているとの話があった。そこで、当時の社長でいまは代表取締役会長を務める藤田(ふじた)晃(あきら)さんが、留学生10人近くをアルバイトとして受け入れることを決断。本人たちから、できそうな作業を聞き取ったうえでふり分け、留学生たちが授業後に高松市から通えるよう、藤田会長自身が毎日車を運転して送迎していたそうだ。  「現社長の日ごろの言動をみていると、先代社長の姿勢を自然と受け継いでいるように感じます。その姿勢が職場全体にも伝わり、障害のある人も一緒に働きながら自然と“共生”精神のような社風になっているように思います」といいながら、山本さんはあるエピソードも教えてくれた。  「景気の波によって会社が不安定だったときも、いまの社長が『会社都合で契約社員の更新を止めるようなことは絶対にしない』と話したのを覚えています。あらためて、人にやさしい会社なのだと感じています。そういうトップの姿勢が、私たち社員の会社への信頼につながりますし、みんなでがんばろうという気持ちにもなれますね」  取材時、現社長の藤田紹宏さんは中国に出張中のため会えなかったが、「会社と社員のために奮闘してくれていると思います」と山本さん。  瀬戸製作所では今後も、障害者雇用に特に力を入れるというより、これまで通り、「働きたくても就職先がなくて困っているような人たちに、その人の能力に応じた仕事を考え、できるかぎり雇用していく」という姿勢を守っていくという。  これまで雇用してきた障害のある社員のなかには、キャリアアップして転職した人もいる。山本さんは、「前向きな退職・転職はもちろん応援しますし、働き続けたいという人には少しでも働きやすい職場環境を、みんなで考えながら工夫していけたらと思っています」と語ってくれた。 ※「障害者職業生活相談員」の詳細はこちらをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/employer/employer04.html 写真のキャプション 油圧コントロールバルブの製造を手がける株式会社瀬戸製作所 金属部品の切削を担当する製造1課の石井聖也さん 製造1課班長の好川直樹さん 製造された油圧コントロールバルブ 切削前の材料 切削後の部品。切削を経て表面が滑らかになっている 切削装置に材料をセットする石井さん 石井さんは、工程ごとに3台の機械を使い分けている 総務部長の山本真也さん 品質管理を担当する田淵航さん 真円度を測定する田淵さん 表面粗さ測定機に向き合う田淵さん 真円度測定の様子。中央に弁棒、その右側に針状の測定子が見える 品質管理課の立石晃さん 【P10-11】 クローズアップ 障害者雇用率向上へのヒント 第1回 企業が取り組む障害者雇用の意義と今後の動向  2024(令和6)年度の障害者雇用状況をみると、民間企業における雇用障害者数は67万7461.5人、実雇用率は2.41%と、過去最高となりました。一方、障害のある人の採用や定着に、頭を悩ませている企業もまだまだ多いのではないでしょうか。そこで本連載では、障害者雇用ドットコム代表で東京通信大学非常勤講師の松井優子さんの解説のもと、企業が障害者雇用を進めていくためのヒントをあらためて探っていきます 執筆者プロフィール 障害者雇用ドットコム代表 東京情報大学非常勤講師 松井(まつい)優子(ゆうこ)さん  教育機関で知的障害者、発達障害者の教育・就労にたずさわるなかで、障害者雇用には一緒に働く職場の理解が必要だと感じ、企業で障害者雇用にかかわる特例子会社の立ち上げ、200社以上の企業のコンサルティングや研修にたずさわる。著書に『障害者雇用を成功させるための5つのステップ』、『中小企業の経営者が知っておくべき障害者雇用』等がある(以上、Kindle版)。 障害者雇用の意義とは?  日本の障害者施策の基本理念は、すべての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく、相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現を目ざすことです。この理念に基づき、障害者の職業を通じた社会参加を実現するため、1960(昭和35)年に制定された「障害者雇用促進法(正式名称:障害者の雇用の促進等に関する法律)」では、障害者が適切な雇用機会を得られるよう支援するとともに、企業に対して、障害者雇用の義務を課しています。そのため企業には一定数以上の障害者を雇用する義務があり、この基準は「法定雇用率」として定められています(※)。  日本の障害者雇用は、身体障害者の雇用として、戦争で負傷した傷痍(しょうい)軍人の就職を進めるために始められました。そして、障害者の法定雇用率は、障害者雇用促進法の制定により、1960年に企業への努力義務として導入され、1976年に義務化されています。その後1998(平成10)年に知的障害者、2018年から精神障害者の雇用が義務化されました(表1参照)。  「働くこと」は、収入を得る手段としても意味がありますが、加えて社会の一員として役割を果たし、自己価値を高める大切な機会となります。職場での貢献を通じて成長したり、能力を認められて自尊心を育んだりすることができます。また、経済的な自立を果たすことで、生活の質が向上し、社会とのつながりを深く感じられるようになります。これは障害の有無に関係ありません。  障害者雇用では、法定雇用率が定められていることもあり、どうしても雇用率や雇用人数に目が向いてしまいがちですが、「働く」とは何か、どんな意味があるのかを考え直すとてもよい機会にもなります。その答えの一つとして、日本理化学工業株式会社(チョークを製造する会社で、社員の7割が知的障害者)の元会長である大山(おおやま)泰弘(やすひろ)氏がお話しされた、私のとても好きなエピソードを次に紹介します。 人間の究極の幸せはだれかに必要とされること  大山氏は、禅寺での法事の席で隣りあわせになったご住職との会話のなかで、「会社で字が読めない重度の知的障害のある人が働いており、施設で面倒をみてもらったほうがずっと楽だと思うのに、なぜその社員が、毎日会社に来るのか不思議だ」と話しました。  するとご住職は、「人間の究極の幸せは、愛されること、褒められること、役に立つこと、必要とされることで、それらは施設では得られないでしょう。会社であればこそ、こんな大雨のなか来てくれて助かったよ、昨日よりもたくさんつくってくれてありがとうなどと、言葉をかけられるでしょう」と話しました。  さらに、「このように人にありがとう”といわれること、必要とされることが人間としてうれしい、幸せだから、毎日会社に来るのです。企業が人間を幸せにしてあげられるのです」といわれました。  そして大山氏は、思っていたことと正反対の答えが返ってきたことに驚いたものの、「人間の幸せは人に必要とされて働き、自分で稼いで自立すること。そういう場を提供することが自分のできることではないか」と考え、障害者を多数雇用することにふみ切ったそうです。  企業は社会の公器ともいわれます。企業活動は利益を追求することも重要ですが、加えて社会の発展に貢献する責任があります。この「社会の公器」としての役割を果たすために、障害者雇用は重要な意義があるといえるでしょう。 2025年度以降の障害者雇用の施策動向  法定雇用率は少なくとも5年ごとに労働状況やその割合の推移を検討したうえで設定されています。現在は2023(令和5)年度からの法定雇用率改定が進められており、2024年度から民間企業は2.5%となりました。また、2026年7月に2.7%となることが決まっています。加えて除外率設定業種(表2参照)の企業においては、2025年度に除外率が一律に10ポイント引き下げられます。  今後は、2028年度に向けた法定雇用率が検討されていきます。労働状況や障害福祉の施策をみても、法定雇用率の引上げは続いていくでしょう。このようなことを意識しながら、企業は経営環境や技術の変化にあわせた障害者雇用を進めていく必要があります。そのため直近の障害者雇用だけでなく、中長期的な視点から戦略を考えることが求められています。 ※「障害者雇用率制度」については以下をご覧ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/page10.html#01 表1 障害者雇用促進法の変遷 1960(昭和35)年 身体障害者雇用促進法の制定 法定雇用率:公的機関は義務、民間企業は努力目標 1976(昭和51)年 すべての企業に法定雇用率を義務化 当初の法定雇用率は、1.5% 1987(昭和62)年 「障害者の雇用の促進等に関する法律」に改正 法の対象となる範囲を、身体障害者からすべての障害者に拡大 1998(平成10)年 知的障害者についての雇用を義務化 2016(平成28)年 事業主に、障害者に対する差別の禁止・合理的配慮を義務化 2018(平成30) 年精神障害者についての雇用を義務化 厚生労働省職業安定局「障害者雇用の現状等」(平成29年9月20日)より編集部作成 表2 令和7年度からの除外率設定業種と除外 除外率設定業種 除外率(変更前) 除外率(変更後) 非鉄金属第一次製錬・精製業・貨物運送取扱業(集配利用運送業を除く) 15% 5% 建設業・鉄鋼業・道路貨物運送業・郵便業(信書便事業を含む) 20% 10% 港湾運送業・警備業 25% 15% 鉄道業・医療業・高等教育機関・介護老人保健施設・介護医療院 30% 20% 林業(狩猟業を除く) 35% 25% 金属鉱業・児童福祉事業 40% 30% 特別支援学校(専ら視覚障害者に対する教育を行う学校を除く) 45% 35% 石炭・亜炭鉱業 50% 40% 道路旅客運送業・小学校 55% 45% 幼稚園・幼保連携型認定こども園 60% 50% 船員等による船舶運航等の事業 80% 70% 厚生労働省リーフレット(障害者の法定雇用率引上げと支援策の強化について)より編集部作成 除外率制度とは?  障害者の就業が一般的に困難であると認められる業種について、雇用する労働者数を計算する際に、除外率に相当する労働者数を控除する制度です。  ノーマライゼーションの観点から、2002(平成14)年法改正により、2004年4月に廃止されましたが、経過措置として、廃止に向けて段階的に除外率の引下げ、縮小が行われています。 (編集部) (参考:厚生労働省「除外率制度について」) 【P12-14】 JEED インフォメーション 〜高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)からのお知らせ〜 事業主のみなさまへ 令和7年度 「障害者雇用納付金」申告および「障害者雇用調整金」等申請のお知らせ 〜常用雇用労働者の総数が100人を超えるすべての事業主は障害者雇用納付金の申告義務があります〜  令和7年4月1日から5月15日の間に令和7年度申告申請をお願いします。前年度(令和6年4月1日から令和7年3月31日まで)の雇用障害者数をもとに、 ○障害者雇用納付金の申告を行ってください。 ○障害者の法定雇用率を下回る場合は、障害者雇用納付金を納付する必要があります。 ○障害者の法定雇用率を上回る場合は、障害者雇用調整金の支給申請ができます。 【申告申請期間】 種別 障害者雇用納付金 障害者雇用調整金 在宅就業障害者特例調整金 特例給付金(経過措置) 申告申請対象期間 令和6年4月1日〜令和7年3月31日 申告申請期間・納付期限 令和7年4月1日〜令和7年5月15日 (注1、注2、注3) (注1)年度の中途で事業廃止した場合(吸収合併等含む)は、廃止した日から45日以内に申告申請(障害者雇用納付金の場合は、あわせて申告額の納付)が必要です。なお、令和7年度中の事業廃止等による申告申請については、制度改正により様式が変更となりますので、期間内に申告申請できるよう、余裕をもって各都道府県申告申請窓口にご相談ください。 (注2)障害者雇用調整金、在宅就業障害者特例調整金および特例給付金(経過措置)は、申請期限を過ぎた申請に対しては支給できません。 (注3)常用雇用労働者の総数が100人以下の事業主が、報奨金および特例給付金(経過措置)の申請を行う場合の申請期限は令和7年7月31日となります。 *詳しくは、最寄りの各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)にお問い合わせください。 JEED 都道府県支部 検索 令和7年度申告申請における障害者雇用納付金制度のおもな変更点について @障害者の法定雇用率の引上げ  企業の法定雇用障害者数の算出に用いる障害者の法定雇用率が2.3%から2.5%に引き上げられました。 A一定数を超えて障害者を雇用する場合、超過人数分の調整金および報奨金の支給額を調整  調整金は年間総計120人超で月額23,000円、報奨金は年間総計420人超で月額16,000円に調整されます。 B特定短時間障害者(※)の実雇用率への算入  重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者である特定短時間障害者(就労継続支援A型事業所の利用者を除く)は1人をもって0.5人として対象障害者数にカウントします。※週所定労働時間が10時間以上20時間未満の障害者 C特例給付金の廃止(令和7年度申告申請限りの経過措置)  Bの措置に伴い、特例給付金が廃止され、廃止前に雇い入れられた特定短時間労働者である重度以外の身体障害者または重度以外の知的障害者については、1年間の経過措置が設けられています。 Dシフト制の取扱いの変更  シフト制で働く方の雇用区分の確認方法が変わり、常用雇用労働者および障害者の取扱いが変わります。 *制度改正の概要についてはJEEDホームページをご覧ください。https://www.jeed.go.jp/disability/seido.html JEEDホームページにて、記入説明書および解説動画をぜひご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/levy_grant_system_about_procedure.html 申告申請の事務説明会にぜひご参加ください。 *全国各地で2〜3月に開催しています。 *参加費は無料です。 JEED 納付金 説明会 検索 Q すべての事業主が障害者雇用納付金の申告・納付を行わなければならないのですか? A 障害者雇用納付金の申告義務がある事業主は、常時雇用している労働者の総数が100人を超える月が、申告申請対象期間(令和7年度申告申請では令和6年4月1日〜令和7年3月31日)のうち5カ月以上ある事業主です(注1)。  該当する事業主は、令和7年4月1日から5月15日までの申告申請期間内に、電子申告申請システムまたは、本社の所在する都道府県にあるJEED申告申請窓口(注2)への送付または持参により、前年度(申告申請対象期間)の実績に基づく申告申請書をご提出ください。  障害者雇用納付金の納付が必要となるのは、基準となる障害者雇用率を下回っている事業主となります。  また、この場合の障害者雇用納付金の額は、その「基準となる障害者雇用率(2.5%)に不足する人数」に「月額5万円」を乗じた額となります。  なお、障害者雇用納付金の申告義務がある事業主は、障害者雇用率を達成している事業主(障害者雇用調整金対象事業主)であっても、申告申請書を提出する必要があります。 Q 障害者雇用納付金の納付期限はいつですか? A 障害者雇用納付金の納付期限は、納付金申告書の提出期限と同様に5月15日となります。  なお、納付すべき障害者雇用納付金の額が100万円以上である事業主が、納付金申告書を提出する際に延納の申請をした場合は、次の通り3期に分けて納付することができます。  延納第1期分の納付期限:5月15日  延納第2期分の納付期限:7月31日  延納第3期分の納付期限:12月1日  また、障害者雇用納付金の納付手続きにおいては、電子納付(ペイジー)がたいへん便利です。詳細については、本誌裏表紙をご確認ください。 Q 障害者雇用調整金・報奨金申請時には、どのような添付書類が必要ですか? A 常時雇用している労働者の総数が300人以下で、障害者雇用調整金、報奨金を申請する事業主は、添付書類を提出する必要があります。  具体的には、雇用障害者の障害の種類・程度を明らかにする書類として障害者手帳等の写し、労働時間の状況を明らかにする書類として源泉徴収票(マイナンバーの印字のないもの)等の写しの添付が必要となります。 Q 申告申請関係の書類作成や手続きはパソコンでできますか? A 障害者雇用納付金の申告、障害者雇用調整金、報奨金、在宅就業障害者特例調整金および在宅就業障害者特例報奨金の申請にかかる申告申請書等は、電子申告申請システムで作成・送信が可能です。また、申告申請書とあわせて、添付書類も電子申告申請での送信が可能です。令和6年度は全体の約8割が電子申告申請となっています。  そのほか、「住所、名称等変更届」「吸収合併、相続、廃止等届」の作成・送信、電子申告申請用ID・パスワードの新規発行等も、電子申告申請システム上で行うことができます。 令和7年度申告申請のおもな留意点 1.「障害者の雇用の促進等に関する法律」の改正について  障害者雇用納付金制度について定めている「障害者の雇用の促進等に関する法律」が改正され、令和7年度申告申請(申告申請対象期間:令和6年4月1日〜令和7年3月31日)においては、おもな変更点として次の4点があります。 @企業の法定雇用障害者数の算出に用いる法定雇用率が2.3%から2.5%に引き上げられました。 A一定数を超えて障害者を雇用する場合の超過人数分について、障害者雇用調整金および報奨金の支給額が、障害者雇用調整金は年間総計120人超で月額2万3千円に、報奨金は年間総計420人超で月額1万6千円に調整されます。 B 重度身体障害者、重度知的障害者、精神障害者である特定短時間障害者(就労継続支援A型事業所の利用者を除く)は、1人をもって0.5カウントとして対象障害者数にカウントします。 CBの措置にともない、特例給付金が廃止されました。また、廃止前に雇い入れられた特定短時間労働者である重度以外の身体障害者または重度以外の知的障害者(就労継続支援A型事業所の利用者を含む)については、1年間の経過措置が設けられており、特例給付金(経過措置)の対象とすることができます。この経過措置は令和7年度申告申請限りです。  これらの変更点のほか、令和7年度申告申請からシフト制で働く方の雇用区分の確認方法が変更となり、常用雇用労働者および障害者の取扱いが変わります。  詳しくは記入説明書をご参照ください。  令和7年度中途に事業廃止・合併等で申告申請する場合は、速やかに本社の所在する都道府県にあるJEED申告申請窓口(注2)へご連絡ください。 2.「電子申告申請システム」について  システムに必要事項を入力すると、法改正の内容も反映して申告申請額が自動計算された申告申請書が作成されます。過年度に電子申告申請システムで作成した申告申請データ(XMLファイル)をお持ちの場合、システムに取り込んで申告申請書を作成することが可能です。作成した申告申請書は、電子申告申請システムを利用して送信できます。  令和6年度は、ほとんどの事業主の方(97%)に電子申告申請システムをご利用いただき、また、約8割の事業主に電子申告申請をしていただきました。 3.法人番号の記入または所得税確定申告書の写し等の提出  法人である事業主にあっては、申告申請書に法人番号をご記入ください。法人番号については、国税庁法人番号公表サイト(https://www.houjin-bangou.nta.go.jp)にて確認できます。  また、今回初めて申告申請を行う個人事業主(法人番号を持たない個人事業主以外の事業主を含む)にあっては、個人事業主の実在性確認のため、所得税確定申告書(白色申告書または青色申告書)の写しまたは開業届の写しのご提出をお願いします(これまでに提出済みである事業主の場合は、住所や屋号に変更がない限り再提出不要です)。 (注1)年度の中途に事業を開始・廃止した場合(吸収合併等含む)の取扱いは異なりますので、記入説明書をご参照ください。 (注2)JEED各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課)が申告申請窓口となります。 事業主のみなさまへ 障害者雇用納付金 電子申告申請システムのご案内 URL:https://www.nofu.jeed.go.jp/Nofu_Densi 電子申告申請システム トップページ こちらからアクセスできます JEEDホームページトップのバナーからもアクセスできます 障害者雇用納付金 電子申告申請システムの特徴 1 電子申告申請システム(Web)上のフォームに情報を入力して、申告申請書の作成ができます 2 過去の申告申請書のバックアップデータ(XMLファイル)やCSVファイルを取り込むことができます 3 電子申告申請用ID・パスワードの発行・変更手続きがWebでできます 4 添付書類(源泉徴収票や障害者手帳の写し等)の送信ができます 【P15-18】 グラビア 欠かすことのできない働き手 株式会社カン喜(山口県) 取材先データ 株式会社カン喜 〒745-1131 山口県周南市(しゅうなんし)大字(おおあざ)戸田字(へたあざ)一王(いちおう)1431 TEL 0834-83-2705 FAX 0834-83-2748 写真・文:官野貴  株式会社カン喜は、山口県周南市にある食品加工会社で、カキフライやカキグラタンなどの冷凍食品の製造や販売を手がけている。従業員の半数近くが知的障害や精神障害、身体障害のある従業員で、手数のかかる作業が多い食品加工業において、欠かすことのできない働き手となっている。  グラタンの製造工程で、カキ殻のサイズを整える「トリミング」を行っていた藤本(ふじもと)美枝(みえ)さん(45歳)は、「仕事は楽しいです。カキ殻をバランスよく並べるように心がけています」と話す。グラタンの製造では、ホワイトソースづくりや盛りつけ、包装や梱包など、製品づくりの各工程において障害のある従業員が活躍している。  同社では、生産工程を細分化しており、障害特性に合った工程を担当することで、重度の障害のある従業員が活躍できる職場環境を整えている。アジフライの製造ラインで働いていた檜ひ垣がき雄ゆう一いちさん(34歳)は、粉つけ機から出てきたアジの形を整える工程にチャレンジ中。適性がありそうな工程を試験的に担当し、特性に合うかを見きわめている最中なのだという。  働きやすい職場環境は、高い職場定着率につながっており、勤続20年以上の従業員も多い。個別凍結した冷凍カキの包装工程で働く福重(ふくしげ)亨(とおる)さん(52歳)もその一人で、勤続36年のベテラン。「働き始めたときはたいへんでしたが、いまは楽しい。長く働き続けたい職場です」と話す。  同社では、障害のある従業員のためのグループホームを運営するなど、従業員の生活を支えることにも力を入れている。2021(令和3)年には、さまざまな取組みが評価され、山口県第1号となる「もにす認定制度」(障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度)の認定を受けている。今後も、職場見学や職場実習を積極的に受け入れるなど、障害者雇用に向けた取組みを続けていくという。 写真のキャプション ハサミでカキ殻の形や大きさを整える「トリミング」 トレイにきちんと収まるサイズにトリミングする カキ殻のトリミングを行う藤本美枝さん(右) ボイルしたカキの身をカキ殻に詰める ホワイトソースづくりにも、障害のある従業員がたずさわっている ホワイトソースやパセリ、パプリカパウダー、チーズなどを盛りつける「トッピング」 手際よくパプリカパウダーをトッピングする藤本さん トッピングを終え、冷凍処理されたカキグラタン 重量検品の工程でも障害のある従業員が活躍している。ヘルメットは、てんかん発作による転倒に備えたもの 包装されたカキグラタンを箱詰めする梱包の工程 冷凍カキの包装工程で働く福重亨さん。個別凍結されたカキをチェックし、規格外のカキを取り除く チェックを終えたカキを包装機に投入する アジフライの製造ラインで働く檜垣雄一さんは、「カン喜で定年まで働き続けたい」と教えてくれた コンベアで運ばれるアジの形を整える。最終的な仕上がりに影響する大事な工程だ 開いたアジから骨などを取り除く作業の様子。食品加工は手数のかかる作業が多い ランチタイムの一コマ。左から藤本美枝さん、檜垣雄一さん、福重亨さん 【P19】 エッセイ 誰一人取り残さない防災とは? 最終回 恊働性の実装 同志社大学社会学部教授 立木茂雄 立木茂雄(たつきしげお)  1955(昭和30)年兵庫県生まれ。1978年関西学院大学社会学部卒。同社会学研究科修士課程修了後、1980年よりカナダ政府給費留学生としてトロント大学大学院に留学。MSW(マスター・オブ・ソーシャルワーク)ならびにPh.D.(ドクター・オブ・フィロソフィー)修得。1986年より関西学院大学社会学部専任講師・助教授・教授を経て2001(平成13)年4月より現職。  専門は福祉防災学・家族研究・市民社会論。特に大災害からの長期的な生活復興過程の解明や、災害時の要配慮者支援のあり方など、社会現象としての災害に対する防災学を研究。  おもな著書に『災害と復興の社会学(増補版)』(萌書房、2022年)などがある。 恊働性の実装 ――分担や連携ではなく、組織間の連結が求められる要配慮者対策  災害時を想定した要配慮者支援の現場では、防災、保健、医療、福祉など多様な分野にまたがる資源の提供を調整する、全体性・連続性・多元性・衡平性の視点が欠かせない。特に、社会的に脆弱な要配慮者を取り巻くさまざまな関係者――当事者や家族をはじめ、保健、医療、福祉、防災の各部局、専門職、地域住民など――が、相互に連携し、被災前後の支援に不調和や欠損が生じないようにサポートすることが必須となる。このため、行政や民間事業者、専門職による公的サービスと、地域住民によるインフォーマルな支え合い、さらに当事者・家族の自己決定力という自助の力が、一つに調整される必要がある。  つまり、関係者が単に分担し合うだけではなく、組織間での連結を強化し、言わば「組織の組織」をつくる調整活動が求められる。このような支援のあり方を「恊働」と呼ぶ。この恊働――立心偏であることに注意されたい。つまり自助力・共助力・公助力の三つのチカラが、誰一人取り残さないという心(マインド)で一つに束ねられること――こそが、誰一人取り残さない防災を実現する最重要の鍵となる。 インクルーシブ防災別府モデル ――越境と境界連結  筆者は平成17(2005)年の『災害時要援護者の避難支援ガイドライン初版』の公開以来、全国の多くの自治体で指導や助言を行ってきた。しかし、実際の現場では、行政の事務分掌主義がはびこり、多部局や多組織間の調整が進まず、連携のボトルネックとなるケースが多い。  大分県別府市で2016年から始まった「インクルーシブ防災別府モデル」の推進役として活躍してきたのが、別府市役所の村野(むらの)淳子(じゅんこ)氏だ。私たちの研究グループは4年間にわたって、彼女が多部局・多組織間での連携を進めるため、実際にどのようなアクションを取ったのかを調査した。その結果、村野氏が実施していたのは、部局や組織、団体、個人の間で境界を越える「越境」をくり返し、異なる部局・組織の境界を「境界連結」することだった。  村野氏は、(一)部局・組織をまたぐ「越境」を続けることで連携の気運が生まれ、(二)この結果、異なる組織の境界が「連結」され、(三)その結果、地域の関係者と恊働する気運ができあがり、当事者の「参画」が可能になっていた。このプロセスを循環させることが、誰一人取り残さない防災実現の鍵なのだ。 インクルージョン・マネジメント ――誰一人取り残さない防災の実現へ  右のようなプロセスを意図的・意識的に実践する手法を、私たちは「インクルージョン・マネジメント」と名づけた。これにより、さまざまな関係者や部門が恊働して支援を提供し、被災者が自らの意思で参画可能な環境を整えることができる。「インクルージョン・マネジメント」は、誰一人取り残さない防災を実現するための重要な社会技術であり、その実践こそが、真に効果的な支援の決め手となる。 結論 ――恊働性が鍵となる誰一人取り残さない防災  五回にわたった今回の連載では、災害時に誰一人取り残さないために必要な全体性、連続性、多元性、衡平性、協働性の原則について、具体的なエビデンスも参照しながら解説した。  これらの原則を基に、各関係者が組織の壁を越え連結し、被災者一人ひとりの多様なニーズに応じた支援が実現することで、真の「誰一人取り残さない」防災の体制が実現される。詳細については、下記の参考文献を参照いただきたい。 参考文献 立木茂雄(2020)『誰一人取り残さない防災のために、福祉関係者が身につけるべきこと』萌書房 立木茂雄(2022)『災害と復興の社会学(増補版)』萌書房 立木茂雄(2024)「防災と福祉の連携の決め手となるインクルージョン・マネジメントの論理と効果」『老年精神医学雑誌』35巻10号(2024年10月)1024−1030 立木茂雄(2025)「保健・医療・福祉を全天候型にする誰一人取り残さない防災の5原則」『医学のあゆみ』292巻2号(2025年1月)145−151 【P20-25】 編集委員が行く 新たな未来への道を切り拓くリーダーに聞く! 株式会社リンクライン(神奈川県)、株式会社ドコモ・プラスハーティ(東京都) サントリービバレッジソリューション株式会社 人事本部 副部長 平岡典子 取材先データ 株式会社リンクライン 〒250-0053 神奈川県小田原市穴部547-2 TEL 0465-22-4217 FAX 0465-32-2290 株式会社ドコモ・プラスハーティ 〒170-0013 東京都豊島区東池袋3-16-3 アーバンネット池袋ビル 編集委員から  今回は、「新たな未来への道を切り拓くリーダー」として3名の方にお話をうかがった。  私自身は、現在17歳になるダウン症の息子を授かったことをきっかけに、障がい者雇用の道へ導かれた。この世界で出会った障がい者雇用に熱い思いを込め、前向きでへこたれない、懐が深くて、どんな人も温かく迎え入れてくれる、そんなすばらしいリーダーたちの未来に向けたチャレンジと熱い思いを多くの人に届けたい。 Keyword:発達障がい、特例子会社、DEI、人材育成、デジタル人材、製造業、ハンドメイド、働きがい、リスキリング POINT 1 障がい者雇用で社会を変える! 2 ともに働くことでプラスの変化 3 だれもが働きやすい未来へ進む 障がい者にかかわる世界観を変える!  私は、障がい者にかかわる世界観を変えたいと思っている。そう思うなかで、今回出会った3人のリーダーの思いや実現しようとする未来にワクワクした。  障がい者雇用にたずさわっている方、これから障がい者雇用に取り組もうとされている方、経営者の方、多くの方に3人のリーダーたちを紹介したい。 「だれかに任せるくらいなら俺がやる!」  コムテック株式会社(以下、「コムテック」)の特例子会社である、株式会社リンクライン(以下、「リンクライン」)代表取締役の青野(あおの)真幸(まさゆき)さんと同社取締役兼コムテック株式会社取締役CSOの神原(かんばら)薫(かおる)さんにお話をうかがった。  リンクライン創設は2010(平成22)年。いまから15年前、チャレンジの花は何度ものピンチを乗り越え、大輪を咲かせた(『働く広場』2020〈令和2〉年2月号参照)(※1)。これまでをふり返って、そして未来について語っていただいた。  15年前、親会社のコムテックは、法定雇用率未達成で会社として障がい者雇用に取り組まなければならない状況だった。当時、コムテックの人事総務部長だった神原さんに障がい者雇用の仕事が任された。そこで神原さんが起こした行動は、全国のさまざまな障がい者雇用の現場を肌で感じる全国行脚だった。「当時、隣の席でグループ経営戦略等をになっていた、まったく畑違いの青野さんを引き連れて、北は宮城県から南は沖縄県まで70カ所以上を訪問した。そこで見た世界は、実現したい世界観とは程遠いものだった。補助的な仕事や、軽作業をしている現場。それら一つひとつはとても大切な仕事であるものの、10年先、20年先まで本当に社会で必要とされる仕事なのか。出口戦略のない役務提供に、どこかピンとこなかった。もし、自分がそのような仕事をすることになったら、単純に嫌だとも思った」と神原さんはいう。「儲けなくてもいい、期待もされていない、でも法律で決まっているからやらなければならないなんて。そんな世界観をぶっ壊したいと思った」と、当時36歳で若かったと神原さんはふり返る。  そして、自分たちの目ざしたいかたちに出会ったのが、長野県の「ねば塾」だった(『働く広場』2023年7月号参照)(※2)。「ねば塾」で働く障がいのある人々はみんな目がキラキラしていた。そしてイキイキとしていた。働くってたいへんだけど楽しい。自分が認められる場所があって、生きがい、働きがいを感じているそんな姿に心を打たれたという。  そこから、2人は「会社として自立」していること、「働く意味」にこだわって、化粧品(石鹸)を事業にすると決めた。そこで実際にだれが事業を立ち上げるかとなった際に、「だれかに任せるくらいなら、俺がやる!」と神原さんは自ら旗を掲げ、全国行脚をともにした青野さんと一緒に事業に取り組んだ。 何度ものピンチを乗り越えて  「僕たちには何もなかった。障がい者に関する知識も、石鹸をつくる技術も・・・」と青野さんが当時をふり返り、「あのころはたいへんだった、でも楽しかった。石鹸まみれ、汗まみれだった。でもその時代があったからいまがあり、未来がある」とも語ってくれた。  「『この石鹸を磨いておいて』と指示をすると、一日中磨き続け、気づくと小さな小さな石鹸ができあがっていた(笑)。スタートは全員で単純な形の石鹸を月200個しかつくれなかったが、いまや何千種類ものむずかしいデザインの石鹸を月2万個も制作できるまでになった。その道のりは決して平たんなものではなく、最初は仕事がなかった。軌道に乗っても、幾度もの困難があったが、ピンチをチャンスに変えた。人との縁に恵まれ、運も味方になった」と2人はふり返ってくれた。 悩んだら原点に戻る  2人には、「自分たちが引き入れた障がい者たちがイキイキと働く会社をつくる」という信念や覚悟があったから、へこたれそうになってもあきらめず、簡単にはいかないことにも、自分たちを信じてやり続けた。  会社を立ち上げて3年間はしんどい時期が続いた。そこでいま一度原点回帰で2人は再び「ねば塾」へ行った。「そこで『いままで彼らとやってきたことを2、3年続けていたら結果がついてくるから信じてやってごらん』という塾長の言葉に背中を押された。その後も、ふん張って続けていたら、本当にOEM(他社ブランド製造委託)や自社ブランドも軌道に乗り、黒字化も実現できたんです」と神原さん。 リンクラインの強み  「機械的技術があるわけじゃないので、やっぱり人に依存しています。僕らのつくる石鹸は世界一だと思っています。フレキシブルでデザイン性豊かなものをつくれるのは絶対うちだけだと自信を持っています。でもこの先はわからなく、他社に追い越されるかもしれません。でも、僕らの強みって、その石鹸のノウハウじゃなくてだれにも負けない努力をするっていうところだと思っています。情熱があって、もっと楽しくするんだとか、もっと豊かにするんだとか。まだ働けない障がいのある人はたくさんいて、リンクラインでもっと雇用も増やせないかとか。そのために、絶対だれにも負けたくない。努力はだれにも負けない。それが多分、僕らの強みじゃないかな」と青野さんは語ってくれた。 事業開始7年後 妻にいわれた言葉  神原さんも青野さんも、設立からリンクラインの事業化にどっぷりつかっていた。神原さんは、千葉県の自宅には帰らず神奈川県小田原市にあるリンクラインに泊まり込みだった。以前は自分の子どもに、「あれやれ、これやれ」と自分の考えでいっていた。やっていなかったら、「なんでやっていない? やれっていったよね」といった接し方をしていた神原さん。しかし、7年経って、子どもへの接し方が180度変わったという。できないことがあったときに、「どうやってやろうとしてるの? いつまでに、やろうとしているの?」と子どものいうことに耳を傾け、寄り添い、成長を支援するようになった。この変化を妻からは「やさしくなった」といわれた。そして神原さんはこう思ったという。  「リンクラインの仲間たちとどっぷり触れ合うなかで、育て方とか、人としての触れ合い方っていうことを、彼らから僕らは気づかされ、日々反省し、教えてもらっているということなんだろうなってすごく思いました。本当にやさしいというのは、その人の立場に立って真剣に考え抜くこと。こっちが優位に立って手を差し伸べてあげようという姿勢だったら、意味がないんですよ、最初から正解を与えちゃってるみたいで。だけどお互いに、どうやったらできるかなっていうのを考えたりとか、お互いに受け入れて失敗を恐れずやってみたりとか、じつは、僕らも答えをもってなかったっていうのもあります。僕らも石鹸をつくったことがなかったので、みんなで試行錯誤。だから、一人ひとりの伸びしろを、可能性の芽を摘んじゃいけない。育てることを諦めるのも、できないと決めつけるのもちがう」と。 リンクラインが目ざすこと  神原さんはいう。「障がい者がつくっている石鹸だから買うということを求めていない。ただ、この石鹸が欲しかったから買い、大切な人へのプレゼントとして贈るという、その商品をつくっているのが、じつは障がい者だったと後づけで知ってもらえることを目ざしてきました。最近それを実感できることが増えてきたことがすごくうれしい。本当にうれしい」  「最近では、講演の機会をいただくことも増えています。そのなかで、講演後にわざわざ自分のところに来てくれて『私、この石鹸買っていました』、『この間、大好きなお店で友達にあげた石鹸がじつはリンクラインさんの石鹸だったって、いま知りました』という話を聞くシーンが増えているんです。やっと、つながれてきているっていうその感覚が、僕はすごくうれしくて、これこそが障がいあるなしに関係なく『普通にこれが欲しいと思ったから買う。だれかにプレゼントしたいと思うから買う』。そんな世の中にしたい。もしかしたら、身の回りにあるすべてのものが、障がいのない人がつくったとか障がいのある人がつくったとか関係なく、よいものだから使っているといった時代になれば、障がい者雇用の世界観も変わってくると思いますね。障がいのあることを普通に告白できる。働きたいと思う人が普通に働ける。そんな世界を実現したい。それは1社単独で実現できることではなく、考え方を世の中に拡げ、また新たな人と人とのつながりのなかで今度は日本全体の価値観を、社会を変えていきたい」と神原さんは熱く語ってくれた。  会社名「リンクライン」に込めた思い=「心と心をつないでいく関係」が、これからも多くの人と人をつなぎ、新たな世界を切り拓いていく。 ドコモの新たなチャレンジ  3人目は、株式会社ドコモ・プラスハーティ(以下、「ドコモ・プラスハーティ」)事業運営部グループ支援部門担当部長の岡本(おかもと)孝伸(たかのぶ)さんにお話をうかがった。  岡本さんは、2015年にドコモ・プラスハーティを立ち上げ(2016年に株式会社NTTドコモの特例子会社に認定)、重度障がい者が働ける職場をつくった(『働く広場』2020年8月号参照)(※3)。同時にグループ支援部門をつくり、ドコモグループ各社の障がい者雇用の採用から定着までのノウハウを提供するコンサルティングをになう部署も立ち上げた。立ち上げから約10年、岡本さんの次なる挑戦は「キャリアプラスプログラム」だ。 岡本さんは、「ほうっておけない人」  生活や仕事のなかで岡本さんは、おかしいと思うことをほっとけない人。それは生き方として「美しくないから」。これはもう性分なのだろうと岡本さんはいう。この国をよくしたいとか、子ども世代に何を残せるのかと考えるようにはなったが、それはあくまで後づけなのかもしれない。目の前の課題をほうっておけない。  また、こんな話もしてくれた。岡本さんは、目ざす姿が達成されたときのことをリアルに想像できるか、そして、そのとき泣けるかどうか、感激できるかどうかをいつも大切にしている。その感情が湧き出たときは、どんな困難なことでもやれると確信できる、それが岡本さん。  今回紹介する「キャリアプラスプログラム」もその一つで、ドコモ・プラスハーティ設立時から温めていた構想だ。 「キャリアプラスプログラム」という新たな挑戦  2024(令和6)年10月に株式会社NTTドコモとドコモ・プラスハーティが共同でスタートさせた新たな施策だ。ドコモ・プラスハーティで新規採用し、2年間育成して、ドコモグループ各社で登用してもらうことを目標にしたプログラムだ(24ページ図1)。  グループ各社で正社員を目ざすにあたり、今回は発達障がいのある人を中心に採用し、2年間でリスキリング(職業能力の再開発・再教育)をして3年後はおもに各社のデジタル人材として採用してもらうことを考えている。  各社の業務効率化をになうアプリケーション開発ができる人材を育成する。社員教育には、社外機関を巻き込んでいる。これが岡本さんの真骨頂なのだ。岡本さんは目ざす姿を掲げながら、いろいろな人を巻き込み、実現に向けてみんなを引き連れていく。なんだか、岡本さんと一緒に仕事をしているとよいことがありそうな気がしてくる。自分がすべてやるのではなく、どんどん人を巻き込んで任せる。それが岡本さん。  「IT系の職場は、業界の特徴としても、メンタル系の休職や退職は少なくない。そういうこともずっと気になっていた」と岡本さん。  このキャリアプラスプログラムはじつは何年も構想を温めてきたもので、実現の機会を探っていたという。親会社との対話を重ねるなかで、親会社の抱える課題にマッチしたタイミングで提案することで実現できたと岡本さんはいう。  今回「障がい者雇用をきっかけにだれもが働きやすい職場づくりをする」といった方針を出し、報道発表もした。そこには法定雇用率の話は出てこない。 障がい者雇用で社風までも変えていく  岡本さんはまず親会社と「障がい者雇用のゴール」を共有した。それはノーマライゼーションであり、実現に向けて図2のような段階を示し表現した。これからドコモグループが目ざす障がい者雇用は、戦略的なインクルージョン(包含)であり、会社組織全体で障がいのある人もない人も混じりあい、相乗効果が最大化されている状態だと定義づけた。  その実現のために、今回のキャリアプラスプログラムが有効であり、キャリアプラスプログラムで働く基礎や実践スキルを身につけた障がいのある社員が各社へ入り込んでいく。そのなかで障がいのある人への配慮により、グレーゾーンの方々も救われ、だれもが働きやすい職場へと進化していく。  10年後、確実にドコモグループの社風は変わっている。そのための種まきだと岡本さんはいう。「短期間で成果や変化が現れるものではないからこそ、粘り強く、周囲を巻き込み大きな流れにしていくことが必要です。実現したい世界まで時間はかかっても、やり続けること、絶対にやるんだと思い続けることが大事です」 障がいのある人とともに働くことで起きる変化  障がいのある人とともに働くことの意味について、岡本さんの原点を教えてもらった。その一つは、横浜市立大学の影山(かげやま)摩子弥(まこや)先生のお話だという。  先生のお話のなかで、健常者5名(戦力度1×5名)のチームに障がいのある人1名(戦力度0.5×1名)がチームに加わった。当初は、チーム成果が個の戦力度の総和で「5.5」だったものが、「6.5」へ変化したという。この変化は、おもに健常者側に起きた変化で、5名の能力発揮が2割増になった結果だったという。この健常者側に起きた変化は、障がいのある人と働くことにより、働きやすい職場ができていくこと、ともに働く社員側のエンゲージメントの高まりや働きがいにつながり、職場が変わっていくというものだった。最初「これだ」と思ったという。その後ニューロダイバーシティやいくつかの文献等に出会い、ともに働くことにより、周囲の社員や組織へプラスの変化を起こすことを目ざしたいと思うようになったという。何より障がいのある人と働くことでそのような変化をもっとも実感しているのは、ほかならない自分自身だと岡本さんはいう。 これから目ざす新たな未来  岡本さんには、ほかにも実現したいことがある。障がい者雇用を1企業での取組みに留めず、さまざまな立場の方が連携して社会を変える活動をスタートさせる。まだ公表できないが、準備を進めているようだ。  障がい者雇用への思いをつなぐこと、実際に障がいのある人がになう業務は各社それぞれではあるが、もっとも大切なことは、どんな世界を実現したいのかということ。  夢を語り合い、実現に向けて多くの方が集まり、社会を変えていく。岡本さんの目ざす夢の実現はこれからだ。 まとめ 〜何を目ざして障がい者雇用をするのか?〜  障がい者雇用は、なんのためにやるのでしょうか? 何を目ざすのでしょうか?私自身は、企業において多くの時間、人事部門にたずさわってきた。直接障がい者雇用の担当ではなかったころは、障がい者雇用は法律で定められているから、企業としてやらねばならない活動だからととらえる一方で、いろいろなむずかしさもあると感じていた。  しかし、17年前に授かった第一子の息子はダウン症として生まれてきた。そこから7年して私は立ち上がった。「障がいのある子を授かっても悲しまない社会にしたい」、「障がいがあっても生まれてきた意味を全まっとうして、笑顔で普通にみんなと一緒に生きられる、働くことのできる社会にしたい」。そのために何ができるのかを考え、行動し続けてきた。  企業における障がい者雇用は、初期の段階では障がい者の法定雇用率を満たす法律順守がスタートかもしれない。しかし、DEI(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン)の観点での取組みの一つとしてとらえる企業も増えてきた。障がい者雇用で何を目ざすのか。実現したい世界はどのような世界なのか。会社ごとの理念、風土、文化に合わせた取組みとし、根づかせていくことが重要だと私は考える。  経営者は目ざす姿を掲げ、この障がい者雇用をだれに任せるのかが非常に重要だ。粘り強く、あきらめず、熱意を持って周囲を巻き込み、やり続けることのできるリーダーがつくった障がい者雇用の世界は、社員の意識を変え、風土、文化を変え、社会へ大きな変化をもたらすこともできる。片手間の仕事ではなく、覚悟を決めて重要な経営課題の一つとしてとらえる必要がある。障がい者雇用は、会社の未来への投資であり、成長戦略の一つなのだ。種を植え、つぼみとなり、大輪の花が咲くまでは時間がかかるかもしれないが、その先には企業を支える軸となる、それが障がい者雇用だ。  今回3人のリーダーにお会いしてパワーをいただいた。信じる道を突き進む覚悟と勇気をいただいた。私が所属するサントリーには、創業者の「やってみなはれ精神」が受け継がれている。自ら目標の旗を掲げ、失敗を恐れず、あきらめずやりきる。こうしたチャレンジを続けていると、その思いに共感してくれる人、応援してくれる人、一緒に歩んでくれる仲間ができる。さあ、読者のみなさまも目ざす姿を掲げ、新たな一歩をふみ出しましょう。 ※1 https://www.ref.jeed.go.jp/2020/m213q8000000ugzqatt/2020506.pdf ※2 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/book/hiroba_202307/index.html#page=23 ※3 https://www.ref.jeed.go.jp/2020/m213q8000000v61k-att/2020513.pdf 図1 キャリアプラスプログラムにおける育成スケジュール 2024年10月 2025年度 2026年度 2027年度 2028年度 2029年度〜 キャリアプラスプログラム 1期生 1年め 1期生 2年め ドコモグループの職場への配置 ※ 2期生 1年め 2期生 2年め ドコモグループの職場への配置 ※ 3期生 1年め 3期生 2年め ドコモグループの職場への配置 ※ ※ドコモグループ内にて障がいの特性やスキルに応じて配置先を調整 出典:株式会社NTTドコモ報道発表資料(2024年5月14日) 図2 障がい者雇用のゴールをどこに設定するか ゴールは? >>>>ノーマライゼーション セグリゲーション(分離) 義務的 特例子会社や農園等代行 インテグレーション(統合) 過渡期 特例子会社や一般雇用部門の一部で集約的に雇用 インクルージョン(包含) 戦略的 全体で達成されており、相乗効果が最大化されている ●=健常者、●=障がい者 資料提供:株式会社ドコモ・プラスハーティ 写真のキャプション 平岡(ひらおか)典子(みちこ) 株式会社リンクライン代表取締役 青野真幸さん 株式会社リンクライン取締役とコムテック株式会社取締役CSOを兼務する神原薫さん 株式会社リンクライン リンクラインのオリジナルブランド「li'ili'i(リィリィ)」の石鹸は、全国の雑貨ショップ、セレクトショップなどで販売され、好評を博している オリジナル商品の一つ、「寿司石鹸」の製造過程。シャリを模した石鹸を型から取り出す 同様に型から取り出したマグロの赤身をシャリに乗せる。リンクラインの石鹸は一つひとつていねいにハンドメイドでつくられる 株式会社ドコモ・プラスハーティ キャリアプラスセンター 株式会社ドコモ・プラスハーティ事業運営部グループ支援部門担当部長の岡本孝伸さん キャリアプラスセンターのオフィスは、業務に合わせたレイアウト変更が、容易に行える造りとなっている ★本誌では通常「障害」と表記しますが、平岡委員の意向により「障がい」としています 【P26-27】 省庁だより 令和6年 障害者雇用状況の集計結果A (令和6年6月1日) 厚生労働省 職業安定局 障害者雇用対策課 1 公的機関における在職状況(第4表) (1)国の機関(法定雇用率2.8%)  国の機関に在職している障害者の数は1万428.0人で、前年より4.9%、488.0人増加しており、実雇用率は3.07%と、前年に比べ0.15ポイント上昇した。  国の機関は44機関中43機関が達成(令和6年12月1日時点において、未達成であった1機関も達成済みとなっている)。 (2)都道府県の機関(法定雇用率2.8%)  都道府県の機関に在職している障害者の数は1万1030.5人で、前年より3.8%、403.0人増加しており、実雇用率は3.05%と、前年に比べ0.09ポイント上昇した。  知事部局は47機関中45機関が達成(令和6年12月1日時点において、未達成であった2機関のうち、1機関が達成済みで、もう1機関も達成見込みとなっている)、知事部局以外は121機関中105機関が達成。 (3)市町村の機関(法定雇用率2.8%)  市町村の機関に在職している障害者の数は3万7433.5人で、前年より5.1%、1822.0人増加しており、実雇用率は2.75%と、前年に比べ0.12ポイント上昇した。  2488機関中1769機関が達成。 (4)都道府県等の教育委員会(法定雇用率2.7%)  都道府県等の教育委員会に在職している障害者の数は1万7719.0人で、前年より4.2%、720.0人増加しており、実雇用率は2.43%(都道府県教育委員会は2.43%、市町村教育委員会は2.47%)と、前年に比べ0.09ポイント上昇した。  都道府県教育委員会は47機関中22機関が達成、市町村教育委員会は46機関中28機関が達成。 2 独立行政法人等における雇用状況(第5表)  独立行政法人等(法定雇用率2.8%)に雇用されている障害者の数は1万3419.0人で、前年より4.2%、539.5人増加しており、実雇用率は2.85%と、前年に比べ0.09ポイント上昇した。  独立行政法人等(国立大学法人等を除く)は94法人中80法人が達成、国立大学法人等は86法人中65法人が達成、地方独立行政法人等は193法人中140法人が達成。 前号の「令和6年度 障害者雇用状況の集計結果@」はこちらからご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/data/works/book/hiroba_202503/index.html#page=26 【第4表】国、地方公共団体における在職状況 (1)国の機関(法定雇用率2.8%) @法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数 A障害者の数 B実雇用率 C法定雇用率達成機関の数/機関数 D達成割合 計 339,750.0人 (340,707.5人) 10,428.0人 [8,816人] (9,940.0人) 3.07% (2.92%) 43/44 (44/44) 97.7% (100.0%) 行政機関 310,275.5人 (311,259.0人) 9,561.5人 [8,144人] (9,121.5人) 3.08% (2.93%) 37/38 (38/38) 97.4% (100.0%) 立法機関 3,995.5人 (4,011.0人) 118.0人 [95人] (115.0人) 2.95% (2.87%) 5/5 (5/5) 100.0% (100.0%) 司法機関 25,479.0人 (25,437.5 人) 748.5人 [577人] (703.5人) 2.94% (2.77%) 1/1 (1/1) 100.0% (100.0%) ※[ ]内は、実人員。以下同じ。 ※司法機関については、最高裁判所からの高等裁判所、地方裁判所、家庭裁判所分を一括した通報によるもの。 ※行政機関のうち未達成であった機関のうちの1機関は、令和6年12 月1日までに達成済み。 (2)都道府県の機関(法定雇用率2.8%) @法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数 A障害者の数 B実雇用率 C法定雇用率達成機関の数/機関数 D達成割合 計 361,319.0人 (359,503.0人) 11,030.5人 [8,761人] (10,627.5人) 3.05% (2.96%) 150/168 (152/163) 89.3% (93.3%) 都道府県知事部局 280,855.5人 (279,375.0人) 8,597.0人 [6,728人] (8,267.5人) 3.06% (2.96%) 45/47 (47/47) 95.7% (100.0%) その他の都道府県機関 80,463.5人 (80,128.0人) 2,433.5人 [2,033人] (2,360.0人) 3.02% (2.95%) 105/121 (105/116) 86.8% (90.5%) ※都道府県知事部局のうち未達成であった機関のうちの1機関は、令和6年12月1日までに達成済み。 ※その他の都道府県機関のうち未達成であった機関のうちの6機関は、令和6年12月1日までに達成済み。 (3)市町村の機関(法定雇用率2.8%) @法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数 A障害者の数 B実雇用率 C法定雇用率達成機関の数/機関数 D達成割合 市町村の機関 1,363,140.5人 (1,353,753.5人) 37,433.5人 [29,699人] (35,611.5人) 2.75% (2.63%) 1,769/2,488 (1,910/2,460) 71.1% (77.6%) ※市町村の機関のうち未達成であった機関のうちの175機関は、令和6年12月1日までに達成済み。 (4)都道府県と市町村の教育委員会(法定雇用率2.7%) @法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数 A障害者の数 B実雇用率 C法定雇用率達成機関の数/機関数 D達成割合 計 728,083.5人 (726,615.5人) 17,719.0人 [14,028人] (16,999.0人) 2.43% (2.34%) 50/93 (64/95) 53.8% (67.4%) ※都道府県教育委員会のうち未達成であった機関のうちの4機関は、令和6年12月1日までに達成済み。 ※市町村教育委員会のうち未達成であった機関のうちの3機関は、令和6年12月1日までに達成済み。 【第5表】独立行政法人等における雇用状況(法定雇用率2.8%) @法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数 A障害者の数 B実雇用率 C法定雇用率達成機関の数/機関数 D達成割合 計 471,294.0人 (467,326.5人) 13,419.0人 [10,675人] (12,879.5人) 2.85% (2.76%) 285/373 (308/369) 76.4% (83.5%) 独立行政法人等(国立大学法人等を除く) 219,303.5人 (218,020.5人) 6,501.0人 [5,237人] (6,294.5人) 2.96% (2.89%) 80/94 (80/93) 85.1% (86.0%) 国立大学法人等 150,869.0人 (149,826.0人) 4,266.5人 [3,276人] (4,096.5人) 2.83% (2.73%) 65/86 (77/86) 75.6% (89.5%) 地方独立行政法人等 101,121.5人 (99,480.0人) 2,651.5人 [2,162人] (2,488.5人) 2.62% (2.50%) 140/193 (151/190) 72.5% (79.5%) ※独立行政法人等(国立大学法人等を除く)のうち未達成であった機関のうちの10機関は、令和6年12月1日までに達成済み。 ※国立大学法人等のうち未達成であった機関のうちの10機関は、令和6年12 月1日までに達成済み。 ※地方独立行政法人等のうち未達成であった機関のうちの27 機関は、令和6年12月1日までに達成済み。 注1 第4表の各表の@欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる職員数」とは、職員総数から除外職員数及び除外率相当職員数(旧除外職員が職員総数に占める割合を元に設定した除外率を乗じて得た数)を除いた職員数である。 注2 第5表の@欄の「法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数」とは、常用労働者総数から除外率相当数(対象障害者が就業することが困難であると認められる職種が相当の割合を占める業種について定められた率を乗じて得た数)を除いた労働者数である。 注3 各表のA欄の「障害者の数」とは、身体障害者、知的障害者及び精神障害者の計である。法令上、重度身体障害者及び重度知的障害者については、1人を2人に相当するものとしてダブルカウントを行い、重度以外の身体障害者及び知的障害者である短時間労働者並びに重度身体障害者、重度知的障害者及び精神障害者である特定短時間労働者については、1人を0.5人に相当するものとして0.5カウントとしている。  ただし、重度身体障害者、重度知的障害者及び精神障害者である短時間労働者については、1人を1カウントしている。 注4 法定雇用率2.7%が適用される機関とは、都道府県の教育委員会及び一定の市町村の教育委員会である。 注5 ( )内は、令和5年6月1日現在の数値である。 注6 「独立行政法人等」とは、障害者の雇用の促進等に関する法律施行令別表第2の第1号から第8号まで、「地方独立行政法人等」とは、同令別表第2の第9号及び第10号までの法人を指す。 注7 特例承認・特例認定や各機関における法定雇用障害者数の算定の基礎となる労働者数の変化等により機関数は変動する。 ★本誌では通常西暦で表記していますが、この記事では元号で表記しています 【P28-29】 研究開発レポート 第32回 職業リハビリテーション研究・実践発表会 Part 1 特別講演 「障害者を中心にした障害者雇用体制の構築〜職場、家庭、地域の就労支援ネットワークによる支援とともに〜」 株式会社MBTジョブレオーネ 代表取締役 岡山弘美氏  当機構(JEED)では、毎年、職業リハビリテーションに関する研究成果を周知するとともに、参加者相互の意見交換、経験交流を行うことで障害者の雇用を促進することを目的として、「職業リハビリテーション研究・実践発表会」を開催しています。第32回となる2024(令和6)年度は、962人の方が参加されましたが、当日行われた「特別講演」、「パネルディスカッションT・U」の開催模様について動画を収録し、後日、障害者職業総合センター(NIVR)ホームページにてオンデマンド配信を行いました(動画は現在も掲載中)。また、その内容を広く発信するために、2023年度に引き続き、同ホームページで発表資料等の掲載も行っています(※)。ここでは、奈良県立医科大学発ベンチャー認定企業の株式会社MBTジョブレオーネ代表取締役岡山(おかやま)弘美(ひろみ)氏の特別講演「障害者を中心にした障害者雇用体制の構築〜職場、家庭、地域の就労支援ネットワークによる支援とともに〜」をダイジェストでご紹介します。 障害者は「わからない」といえるようになる支援者は「任せる・認める・感謝する」  今日は私からは簡単なお話だけさせていただき、4人の障害者の方も一緒に来ていただいていますので、彼らの言葉と動画で取組みをご紹介させていただきます。  最初に、私たちの取組みを取り上げたテレビ番組の動画をご覧ください。  そのうえで、まずお伝えしたいのは障害者雇用に対する思いということで、「自主性、主体性を持ち、自分たちの職場づくりを目ざす」ということです。例えば、私たちは職場の障害者の方を係員とお呼びしているのですが、その係員の方に、これから採用を目ざすという実習生の方を指導して、それを自信につなげていただいています。そして次にここが大事なことなのですが、「できない」、「わからない」をしっかりいえるようになるということを徹底しています。最初のころは「はい、できます」、「はい、わかりました」といっていたのですが、いまはしっかりと自分の言葉で、わからないことは「わからない」、できないことは「できない」といえるようになりました。そして私たち支援者は「任せる・認める・感謝する」ということを絶対忘れてはいけないと思っています。任せないと本人たちも認めてもらっていないと感じますし、そして感謝をしないと、彼らにこちらの思いが伝わらないということで、これは私のなかでとても大事な言葉です。 できないことを探すのではなくできることを見つけて活かす  奈良県立医科大学における障害者雇用の取組みは、労働局からの指摘をきっかけに始まりました。当初は義務的な側面が強く、雇用率も1.28%と低い水準にとどまっていました。そこで、2014(平成26)年に初めて知的障害のある5人を採用しました。そのときは「国にいわれたからやらなければいけない」という感覚だったのですが、その後2021年の3.22%に達するまでに改善が進み、いまでは障害者は職場にとって欠かせない存在となり、現在は39人の障害者スタッフが在籍し、病院全体の運営を支える大きな力として助けていただいています。  この取組みを進めるなかで困ったことは、病院なので「重い病気を抱えた患者への対応ができるか」、「緊急事態が発生したときに大丈夫か」といった懸念の声が多く聞かれたことでした。その当時の看護部長に相談したところ、「できないことを探すのではなく、できることを見つけて活かすように考えましょう」とアドバイスを受け、職場で自信をもち、活躍できる環境を整えることを重要視しながら業務の分担や環境の整備を進めたことで、障害者が職場に定着しやすい体制となりました。 障害者雇用の成功には関係機関との連携が不可欠  受け入れ体制の整備という面で障害者雇用の成功の鍵となったのは、継続的なミーティングを基盤とする関係機関との密接な連携です。当大学では、障害者就業・生活支援センターや就労移行支援センターとの月1回のミーティングなど定期的な会議を通じて、仕事の支援を行うのは社内の担当部署である障害者雇用促進係、家族を含めた生活面の支援を行うのは両センターという線引きを明確にしたうえで、課題や進捗状況を共有しています。これにより、業務の支援範囲や責任分担が明確となり、より包括的な支援が可能となりました。また、看護部との協力も重要な役割を果たしていて、病棟での実務に障害者が貢献するための具体的な役割分担が進められています。  採用プロセスも改善されており、障害者が職場に適応するために体験実習や就労目的実習を設けることで、実際の業務に即したスキルを習得する機会が提供されています。ただし、実習期間が終われば採用されるということではなく、実習のふり返りを通じて、障害者自身の適性や意欲を確認し、採用されない場合もあることをお伝えしています。 タオル折り専用の部屋を設置し障害者のメンタルを支える  動画でも紹介されました、患者が使うタオル折りは全員にやっていただきます。「奈良医大ではタオルを1時間100枚、1日600枚折らないといけない」と障害者自身が見学に来られたみなさんにお伝えしています。なぜタオルを折るのかというと、職場で摩擦があるなど病棟等への配置がうまくいかなかったときや業務のマッチングができていないときに、そこに帰ってメンタルを回復できる場所、一人ではなく、同僚がいて安心できる居場所として、「失敗をしても再度チャレンジできるようにリセットできる場所」としてタオルを折る専用の部屋を設置しました。  当大学で退職が少ない理由はここにあると思っています。何度もチャレンジしていただいて、その後面談をして、ちょっとがんばろうかとお声をかけて、またがんばって病棟で業務をしていただく、という体制です。  障害者雇用について初期は偏見や不安の声がありましたが、現場の声を聞き、定期的な対話の場を設けることで、障害者が業務を遂行できる環境が整備されました。例えば、発達障害のある方には、数字を扱う業務やくり返し作業を任せる一方で、知的障害のある方にはチームで取り組む仕事を割りふるなど、個々の特性にあわせた仕事のふり分けが行われています。一人で静かな環境を好む精神障害のある方には、それに適した職場環境を整えることで、業務の効率化と満足度の向上が実現しました。  障害者雇用の目的は、自立を支援し、チームづくりを通じて障害者自身が考えながら働ける環境を整えることだと考えます。単に仕事の量をこなすのではなく、毎日出勤し挨拶ができるといった基本的なことや、問題解決能力を身につけることなど「質」を重視して取り組んできました。  また、スキルアップして新しい職場で活かし、自信と勇気を得ることで豊かな人生を送れるようになることが目標です。実際に、より条件のよい職場に転職された方もおり、とてもうれしく思いました。最終的には、親が亡くなったあとも自分たちで考えて自立して生活できること、そして安定した収入を得られることが大切だと考えています。 ***  特別講演ではこのあと、実際に働いている4人の障害のある方が登壇し、会場から寄せられた質問にていねいに答えるなど、活発な質疑応答が展開されました。  次号では、「第32回職業リハビリテーション研究・実践発表会」のパネルディスカッションT「職場でのコミュニケーションの課題について考える」、パネルディスカッションU「障害者就労支援を支える専門人材を育てる〜福祉と雇用の切れ目のない支援に向けて〜」をダイジェストでお届けします。 ※下記ホームページよりご覧いただけます。 https://www.nivr.jeed.go.jp/vr/32kaisai.h 写真のキャプション 講演中の岡山弘美氏 病院で勤務するスタッフたちとの質疑応答の様子 ◇お問合せ先 研究企画部 企画調整室 (TEL:043-297-9067 E-mail:kikakubu@jeed.go.jp) 【P30-31】 ニュースファイル 国の動き 農林水産省 「ノウフク・アワード2024」選定  農林水産省は、農福連携の優れた事例に取り組む団体等を「ノウフク・アワード2024」として発表した。今回は応募があった205団体のうち22団体が受賞した。  グランプリに選ばれたのは2団体。@「株式会社菜々屋(ななや)」(徳島県徳島市)は、農業法人4社が共同して障害者就労施設を立ち上げ、県内の各農協と連携して県内全域の農家で施設外就労を行い、農業経営の効率化や規模拡大に貢献した。A「一般社団法人STEP(ステップ) UP(アップ)」(宮崎県宮崎市)は、障害者就労施設が農業生産法人を立ち上げ、障害者・刑務所出所者の就労や生活の安定に向けた支援を行うとともに認定農業者として地域の農業に貢献した。  準グランプリには、米の生産・加工・販売のほか企業や障害者就労施設等と連携したバウムクーヘンの開発・販売等を行っている「株式会社ココトモファーム」(愛知県犬山市)、障害者等の自立支援に向け、果樹栽培のほか商工農福連携の商品開発や販売に取り組む「株式会社八天堂(はってんどう)ファーム」(広島県三原市)、荒廃農地の活用や6次産業化、障害者・刑務所出所者の雇用、農業法人・JAや企業と連携した地域ぐるみの取組みを実施している「NPO法人熊本福祉会」(熊本県熊本市)の3団体を選定。このほか優秀賞に7団体、フレッシュ賞に3団体、チャレンジ賞に7団体が選ばれた。 https://www.maff.go.jp/j/press/nousin/kouryu/241121.html 内閣府 バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰  内閣府は、「令和6年度バリアフリー・ユニバーサルデザイン推進功労者表彰(第23回)」の受賞者を発表した。  内閣総理大臣表彰(1件)は、「社会福祉法人埼玉聴覚障害者福祉会」(埼玉県入間郡(いるまぐん)毛呂山町(もろやままち))。1986(昭和61)年に、ろう重複障害者の共同作業所「どんぐりの家」を立ち上げ、1994(平成6)年に同福祉会を設立。障害者支援施設、特別養護老人ホーム、聴覚障害者情報提供施設、共同生活援助、放課後等デイサービスの経営等を行っている。  内閣府特命担当大臣表彰優良賞は次の2件。@只石(ただいし)幸夫(ゆきお)さん(北海道旭川市)は、「特定非営利活動法人カムイ大雪バリアフリー研究所」代表理事などを歴任。地域の異業種の企業と連携しながら街や施設のバリアフリー化・ユニバーサルなイベントの開催などを行ってきた。A公益財団法人兵庫県芸術文化協会の兵庫県立尼崎青少年創造劇場および兵庫県立ピッコロ劇団(兵庫県尼崎市)は、1978(昭和53)年に劇場を開館し、障害者が演劇公演を楽しめるような鑑賞サポートに力を入れている。  このほか内閣府特命担当大臣奨励賞には、「株式会社Halu(ハル)」(京都府京都市)と「みんなでつくる音楽祭 in 小平(こだいら)実行委員会」(東京都小平市)が選ばれた。 https://www8.cao.go.jp/souki/barrier-free/r06hyoushou/index.html 地方の動き 茨城 生活自立支援に向けた実証実験  つくば市と国立大学法人筑波大学(つくば市)、一般社団法人つくばスマートシティ協議会(つくば市)、関東鉄道株式会社(土浦市)、今川商事株式会社(つくば市)、株式会社日立製作所(東京都)から構成される「つくばハンズフリーチケッティング共同事業体」は、障害のある人の生活自立支援と安全安心な地方公共交通利用の促進を目的とした実証実験を実施した。  この実証実験は、つくば市の医療施設等に通う障害のある人を対象に、公共交通機関を利用する際にハンズフリーチケッティングサービスを利用してもらい、その有用性を検証するというもの。家族による送迎負担の軽減と利用者の安全の確保を両立し、利用履歴に基づく料金決済などで利便性を向上させるねらい。  参加者は目的施設まで利用するバスに、整理券の発券やICカードをタッチすることなく、バス降車時と施設利用時にスマートフォンアプリの画面を提示することで、乗車と施設利用の事後決済が可能になる。家族は、参加者のスマートフォンの無線装置の受信データによって移動位置を確認できるという。  実証実験の成果をふまえ、ハンズフリー乗車/決済の対象となる施設やサービス、公共交通機関を拡大し、利便性の高い交通サービスの実装を目ざす。 働く 広島 紳士服製造・販売会社が障害者雇用促進を目的に新会社を設立  衣料品販売を手がける「青山商事株式会社」(福山市)は、2025(令和7)年1月7日付で新会社「株式会社青山ストーリー」を設立した。新会社は今後、特例子会社の認定およびグループ適用の承認を目ざす。事業内容は、青山商事グループ内外の事務作業や清掃作業を予定している。  同社の2023年度末の障害者雇用率は3.03%で、障害者雇用数は129人。物流センターなどで、商品の検品や値付け・梱包などの業務に就いている。新会社では、障害者の働きやすい職場づくりに取り組み、安定した雇用につなげながら、個々の能力を十分に発揮し活躍できる環境整備をしていくとしている。 本紹介 『図解でわかる障害者雇用と就労支援』  京都文教大学臨床心理学部臨床心理学科准教授の二本柳(にほんやなぎ)覚(あきら)さんと、大阪大学大学院人間科学研究科助教の山やま下した朋と も美み さんが『図解でわかる障害者雇用と就労支援』(中央法規出版刊)を出版した。  障害者の就労にまつわる法制度や支援体制について、企業・支援者・本人に役立つ入門書としてわかりやすく解説。障害特性や合理的配慮から、就労を支援する機関、就労支援を取り巻く仕組み、各種の助成制度、現場実践の展開までをとりあげ、左ページは解説、右ページは図解で構成され、視覚的に理解できる内容となっている。障害者雇用における実践についても12の事例を紹介している。B5変型判218ページ、2420円(税込)。 『人と人のあいだを生きる 最終講義エイブル・アート・ムーブメント』  障害のある人による芸術表現活動に力を注ぎ、一般財団法人たんぽぽの家理事長などを務めた故・播磨(はりま)靖夫(やすお)さん(享年82歳)の生前の大学講義等をまとめた遺作「人と人のあいだを生きる 最終講義エイブル・アート・ムーブメント」(どく社刊)が出版された。  播磨さんは新聞記者を経て、障害のある人が生きがいをもって自立した生活を送る場として「たんぽぽの家」を立ち上げ、市民運動として展開。アートと社会の新しい関係をつくる「エイブル・アート・ムーブメント(可能性の芸術運動)」を提唱し、さまざまなプロジェクトにつなげてきた。2022(令和4)年度文化功労者(芸術振興)。  本書には、2023年に女子美術大学で行った講義を加筆修正したものを中心に、エイブル・アート・ムーブメントの思想、たんぽぽの家の草創期に執筆した原稿などが収録されている。哲学者の鷲田(わしだ)清一(きよかず)さんが解説。四六変型版200ページ、2750円(税込)。 作品大募集! あなたの力作がポスターになる! 令和7年度 「絵画コンテスト働くすがた〜今そして未来〜」 「写真コンテスト職場で輝く障害者〜今その瞬間〜」 募集期間(応募作品受付期間) 令和7年3月1日(土)〜6月16日(月)【締切・当日消印有効】 児童・生徒をはじめ社会人・一般の方もご応募いただけます。 絵画コンテストの応募は障害のある方が対象です。写真コンテストの応募は障害の有無を問いません。多くのみなさまからのご応募をお待ちしています。 シンボルキャラクター “ピクチャノサウルス” 詳しくはホームページの募集要項をご覧ください。 JEED 絵画写真 検索 <過去のポスターや入賞作品などもご覧いただけます> 主催:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) ミニコラム 第44回 編集委員のひとこと ※今号の「編集委員が行く」(20〜25ページ)は平岡委員が執筆しています。ご一読ください。 障がいのある人とともに生き、ともに働く未来を サントリービバレッジソリューション株式会社人事本部副部長 平岡典子  今回取材させていただいた株式会社リンクラインの神原様と青野様、株式会社ドコモ・プラスハーティの岡本様に共通していたのは、障がい者雇用を通して、目ざしたい世界観が明確であること。 「障がい者とともに働くことで、みんなが幸せになるという未来」 を描いている点だと思う。  また、自社だけの取組みにせず、その輪を外に拡げて、社会を変えようとしているリーダーであるということ。それは、障がい者の法定雇用率の達成のための障がい者雇用とは大きく異なる。障がいのある人々がイキイキと働く、そのことで周囲の人々が、大切なことに気づいたり、元気になったり、刺激を受けてこれまで以上の力を発揮できたりする。  そして、その職場は、全員がそれぞれにもつ力を発揮するのだから、組織として強くなり、成果を出せるのはあたり前だと思う。障がいのある人がイキイキと働く現場づくりはそんなに簡単なことではないかもしれない。  だから絶対に実現するんだという熱意が必要なのだ。あきらめずにやり続けることが大事なのだ。  世の中を見渡せば、障がいにかかわっている仲間はたくさんいる。もっと外にも目を向け、つながっていこう。そして社会全体を変えていこう。 ★本誌では通常「障害」と表記しますが、平岡委員の意向により「障がい」としています 【P32】 掲示板 JEEDメールマガジン 登録受付中!  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、JEEDが全国で実施する高齢者や障害者の雇用支援、従業員の人材育成(職業能力開発)などの情報を、毎月月末に配信しています。 雇用管理や人材育成の「いま」・「これから」を考える人事労務担当者のみなさま、必読! 高齢 定年延長や廃止・再雇用 障害 障害のある従業員の新規・継続雇用 求職 ものづくり技能開発・向上の手段 みなさまの「どうする?」に応えるヒントが見つかります! JEED メルマガ で 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 読者アンケートにご協力をお願いします! ※カメラで読み取ったリンク先が「https://krs.bz/jeed/m/hiroba_enquete」であることをご確認ください。 回答はこちらから→ 次号予告 ●この人を訪ねて  「生活クラブ風の村」前理事長で、現在は一般社団法人ダイバーシティ就労支援機構の監事を務める池田徹さんに、障害のある人を含めたすべての「働きづらい人」たちのための支援のあり方について、お話をうかがいました。 ●職場ルポ  分析・計測機器の総合メーカー、株式会社堀場製作所(京都府)を訪問。ていねいなマッチングをはじめ、障害のある社員の声を反映させた現場改善、互いの理解を深めるワークショップなど、働きやすい環境づくりに向けた多様な取組みを紹介します。 ●グラビア  ビルメンテナンスや清掃管理などを展開する株式会社グローバル・クリーン(宮崎県)を取材。創業時から障害者雇用を進めている同社の取組みの様子をお伝えします。 ●編集委員が行く  八重田淳編集委員が、東京都内を中心に訪問介護・リハビリをはじめ、療育、障害者就労支援等を展開している株式会社リニエR(東京都)を訪問。医療職も入ったチームで取り組む就労支援の現状と課題について取材します。 『働く広場』読者のみなさまへ  2025年5月号は、大型連休の関係から、冊子の到着が通常よりも数日遅れることが見込まれます。ご不便をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。ご不明の点は編集部(企画部情報公開広報課、電話:043−213−6200)までおたずねください。 公式X(旧Twitter)はこちら! @JEED_hiroba 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 編集委員 (五十音順) 株式会社FVP 代表取締役 大塚由紀子 トヨタループス株式会社 取締役 大野聡士 NPO法人大阪精神障害者就労支援ネットワーク 副理事・統括施設長 金塚たかし 弘前大学教職大学院 教授 菊地一文 武庫川女子大学 准教授 諏訪田克彦 サントリービバレッジソリューション株式会社 人事本部 副部長 平岡典子 神奈川県立保健福祉大学 名誉教授 松爲信雄 有限会社まるみ 取締役社長 三鴨岐子 筑波大学大学院 教授 八重田淳 国際医療福祉大学 准教授 若林功 あなたの原稿をお待ちしています ■声−−障害者雇用にかかわるお考えやご意見、行事やできごとなどを500字以内で編集部(企画部情報公開広報課)まで。 ●発行−−独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 鈴井秀彦 編集人−−企画部次長 綱川香代子 〒261−8558 千葉県千葉市美浜区若葉3−1−2 電話 043−213−6200(企画部情報公開広報課) ホームページ https://www.jeed.go.jp メールアドレス hiroba@jeed.go.jp ●編集委託ー株式会社労働調査会 〒170−0004 東京都豊島区北大塚2−4−5 電話 03−3915−6415 FAX 03−3915−9041 4月号 令和7年3月25日発行 無断転載を禁ずる ・本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。また、本誌では「障害」という表記を基本としていますが、執筆者・取材先の方針などから、ほかの表記とすることがあります。 【P33】 2025年度(令和7年度) 職業リハビリテーションに関する研修のご案内  JEEDでは、医療・福祉などの関係機関で障害のある方の就業支援を担当する方を対象に、職業リハビリテーションに関する知識や技術の習得と資質の向上を図るための研修を実施しています。受講料は無料です。  各研修の詳細・申込みはJEED のホームページでご確認ください。みなさまの受講を心よりお待ちしています。 就業支援担当者の方への研修 障害者の就労支援に関する基礎的研修 日程など 開催場所、方法など 【対象】福祉、教育、医療分野にて、就労支援を担当する初学者の方 等 【概要】雇用と福祉の切れ目のない支援を可能とするために必要な基礎的な知識・技術の習得を目ざして実施します。 オンデマンド研修と集合研修の日程は、各地域障害者職業センターにより異なります。 詳細は、JEEDホームページをご確認ください。 オンデマンド配信による研修と全国の地域障害者職業センターで開催する集合研修を組み合わせた研修です。 基礎的研修フォローアップ研修 日程など 開催場所、方法など 【対象】職業リハビリテーションに関する基礎的な知識および技術を習得した就労支援担当者の方 等 【概要】基礎的研修の雇用分野の内容を補完し、講義・演習を通じて就労支援の基本的な知識・スキルを習得し、必要なスキルをふり返り、理解を深めるための研修です。 全国の地域障害者職業センターにて令和7年10月以降、順次開催予定です。 詳細は、JEEDホームページをご確認ください。 全国の地域障害者職業センターで実施します。 ステップアップ研修T 日程など 開催場所、方法など 【対象】おおむね1年以上の実務経験を有する就労支援担当者の方 等 【概要】就労支援に関する実践力の習得を図るための研修です。 【オンライン形式(ライブ配信)】 令和7年11月6日(木)〜11月7日(金) オンライン(ライブ配信)形式で実施します。 ステップアップ研修U 日程など 開催場所、方法など 【対象】おおむね2年以上の実務経験を有する就労支援担当者の方 等 【概要】障害者職業総合センターにおける研究および実践の成果をふまえた就労支援技術のさらなる向上や、障害者の就労支援に必要なヒューマンスキルの向上などを図るための研修です。 【オンライン形式(ライブ配信)】 令和8年2月16日(月) 【集合形式】 令和8年2月19日(木)〜2月20日(金) オンライン(ライブ配信)形式と障害者職業総合センター(千葉市)で行う集合研修を組み合わせて実施します。 就業支援テーマ別研修 日程など 開催場所、方法など 【対象】障害者の就業支援機関および関係領域の支援者の方 等 【概要】職業リハビリテーションの新たな課題やニーズに対応した知識・技術等の向上を図るための研修です。 【オンライン形式(ライブ配信)】 令和7年12月3日(水) オンライン(ライブ配信)形式で実施します。 職場適応援助者(ジョブコーチ)に関する研修 職場適応援助者養成研修 【対象】訪問型・企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)としての援助を行う予定の方など 【内容】ジョブコーチの役割、作業指導の実際、ケースから学ぶジョブコーチ支援の実際、職場における雇用管理の実際、支援記録の作成など 地域区分 集合研修(日程、開催形式、場所など) 実技研修 東日本エリア 北海道、東北、関東甲信越、静岡、愛知、富山、石川 西日本エリア 東海(静岡、愛知を除く)、北陸(富山、石川を除く)、近畿、中国、四国、九州、沖縄 4月期(受付終了) 東日本対象 集合形式 令和7年4月22日(火)〜4月25日(金) 千葉市 集合研修(4日)終了後に、地域障害者職業センターにおいて4日間程度の実技研修を実施します。 集合研修と実技研修のすべてを受講する必要があります。 西日本対象 大阪市 6月期 オンライン形式と集合形式の両方の受講が必須 東日本対象 オンライン形式 令和7年6月12日(木)〜6月13日(金) − 西日本対象 東日本対象 集合形式 令和7年6月19日(木)〜6月20日(金) 千葉市 西日本対象 集合形式 令和7年6月17日(火)〜6月18日(水) 大阪市 8月期 オンライン形式と集合形式の両方の受講が必須 東日本対象 オンライン形式 令和7年8月21日(木)〜8月22日(金) − 西日本対象 東日本対象 集合形式 令和7年8月28日(木)〜8月29日(金) 千葉市 西日本対象 集合形式 令和7年9月4日(木)〜9月5日(金) 大阪市 10月期 全国対象 集合形式 令和7年10月21日(火)〜10月24日(金) 千葉市 12月期 オンライン形式と集合形式の両方の受講が必須 東日本対象 オンライン形式 令和7年12月11日(木)〜12月12日(金) − 西日本対象 東日本対象 集合形式 令和7年12月18日(木)〜12月19日(金) 千葉市 西日本対象 大阪市 2月期 全国対象 集合形式 令和8年2月3日(火)〜2月6日(金) 千葉市 職場適応援助者支援スキル向上研修 【対象】ジョブコーチとして1年以上の実務経験のある訪問型・企業在籍型職場適応援助者(ジョブコーチ)の方 【内容】精神・発達障害者のアセスメントや支援方法、企業における雇用管理、意見交換、ケーススタディなど 第1回 全国対象 集合形式 令和7年6月24日(火)〜6月27日(金) 千葉市 第2回 全国対象 集合形式 令和7年10月7日(火)〜10月10日(金) 大阪市 第3回 全国対象 オンライン形式 令和8年1月20日(火)〜1月23日(金) − 研修の詳細はこちら https://www.jeed.go.jp/disability/supporter/supporter04.html お問合せ先 職業リハビリテーション部 人材育成企画課 TEL:043-297-9095 E-mail:stgrp@jeed.go.jp 【裏表紙】 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) Japan Organization for Employment of the Elderly, Persons withD isabilities and Job Seekers 障害者雇用納付金の納付はカンタン ベンリなペイジーで 時間を気にせず利用可能! ※金融機関によってご利用できない時間帯がございますので各金融機関にご確認ください。 \0 手数料無料! 2社に1社の事業主の皆様にご利用頂いております! ペイジー(Pay-easy)とは? 障害者雇用納付金をはじめ、国庫金(国税や社会保険料等)、地方税、公共料金、携帯電話料金、ネットショッピング代金など、社会や暮らしの中での様々な支払い手続がインターネットバンキング等を通じて簡単に行うことができる、国内のほぼ全ての金融機関が共同で設立した日本マルチペイメントネットワーク運営機構が運営する電子決済サービスです。 4月号 令和7年3月25日発行 通巻570号(毎月1回25日発行)