【表紙1】 2025 5 令和7年5月1日発行(毎月1回1日発行)第47巻第5号通巻546号 Monthly Elder 高齢者雇用の総合誌 エルダー 特集 会社の成長のカギを握る「高齢社員の活かし方」 リーダーズトーク ウェルビーイング重視社会の実現に向け日本発の国際規格ISO25554が発行 一般財団法人日本規格協会 システム系・国際規格開発ユニット 社会システム系規格チーム 主席専門職 水野由紀子 【表紙2】 ご利用は無料です 雇用力評価ツールのご案内 −自社の高年齢者を活躍させる力(高齢者雇用力レベル)を診断できます− https://www.elder.jeed.go.jp/useful_tools/qitmat00000004qh.html  雇用力評価ツールとは、自社がどのくらい高齢者を活躍させる力(高齢者雇用力)を持っているのか、高齢者雇用の先進企業(ベンチマークデータ)と比較することにより、自社の高齢者雇用力の強みと弱みを把握し、雇用力5領域のうち、どの領域から検討を進めることが効果的であるかを見出し、雇用力を体系別に把握するツールとなっております。 雇用力5領域 @活用方針・活用戦略 高齢者活用の戦略を持ち役割期待を明確にする A評価・処遇 働きぶりを評価・処遇し戦力化を図る B仕事内容・就労条件 多様な働き方や働きやすい環境を整備している C能力開発・キャリア開発 成長機会を提供し意欲・能力を高めている D推進体制・風土づくり 高齢者活用の体制を整備し、好ましい風土づくりをしている 貴社 ベンチマーク 5領域全体 4 3 2 1 戦略 評価・処遇 仕事内容 能力開発 体制・風土 雇用力評価ツールは高年齢者活躍企業事例サイト内でご利用いただけます https://www.elder.jeed.go.jp 高齢者が活躍できるさまざまな情報を発信しています 企業事例検索 イベント情報 高年齢者雇用に関する資料 【P1-4】 Leaders Talk No.120 ウェルビーイング重視社会の実現に向け日本発の国際規格ISO25554が発行 一般財団法人日本規格協会 システム系・国際規格開発ユニット 社会システム系規格チーム 主席専門職 水野由紀子さん みずの・ゆきこ 一般財団法人日本規格協会にて、ISO・IECでの国際標準化業務に従事。おもに高齢社会分野を担当し、社会課題の解決に向けた日本提案の規格開発をサポート。令和元年度国際標準化奨励者表彰(産業技術環境局長表彰※)およびIEC1906賞を受賞。 ※ 現在は、イノベーション・環境局長表彰  2024(令和6)年11月、ウェルビーイング重視社会の実現に向けた国際規格「ISO25554」が発行しました。超高齢社会の課題先進国として日本が主導したもので、健康経営○R(★)のエッセンスを抽出し、高齢者を含む労働者個人と、労働者を雇用する企業の双方のウェルビーイングの向上にも資するものとして期待が集まります。今回は、ISO25554の発行にあたり、中心的な役割をになった一般財団法人日本規格協会の水野由紀子さんにお話をうかがいました。 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 ウェルビーイングの促進に向けた世界共通のガイドライン ―企業の社員や自治体の住民のウェルビーイング(心身の健康と幸福)の向上に役立つ国際標準化機構(ISO)のISO25554が2024(令和6)年11月に発行しました。水野さんはその開発に尽力されたと聞いていますが、所属されている日本規格協会について、まずは教えてください。 水野 日本規格協会グループは「標準化で、世界をつなげる」をスローガンに掲げています。標準化とは、自由に放置すれば、多様化、複雑化、無秩序化してしまうような“モノ”や“事柄”を単純化、秩序化することです。例えば、乾電池は「単3形」などその大きさや形状を標準化することで、どの製品にも使用することができます。その標準化によって決められた“取り決め”を文章に記したものが規格です。日本規格協会は標準化に関して規格の開発、普及および啓発などを行っています。 ―国際規格の「ISO25554」は日本提案の規格と聞いています。どのような経緯で提案、発行に至ったのでしょうか。 水野 私はISOの国際規格開発業務にたずさわっていますが、ISOの専門委員会(TC)314において高齢化社会に対応するための規格開発を担当しています。ウェルビーイング向上を目ざすISO25554もTC314で提案・開発されたものです。経済産業省では企業の健康経営を推進していますが、この考え方をベースに国際標準化したいとの声があがったことが最初のきっかけです。その後、企業だけではなく、自治体やさまざまな組織で活用できるウェルビーイング促進の規格をつくろうということで、2021年にISOのTC314に新規プロジェクトを提案し、委員会の投票で可決され、7月から審議がスタートしました。TCに対応する各国内には、その意見を取りまとめる国内委員会があり、日本では日本規格協会が担当しました。25554開発のためTC314に設置されたワーキンググループの議長およびプロジェクトリーダーに、佐藤(さとう)洋(ひろし)氏(国立研究開発法人産業技術総合研究所)が就任し、私が会議の運営やプロジェクトの管理を担当するセクレタリを務めています。 ―プロジェクトには、日本をはじめ約20カ国が参加しています。審議はどのように進むのですか。 水野 当初は「ウェルビーイングとは何か」について議論しました。一般的には身体や精神面、社会的によい状態であることと定義されますが、具体的に何かとなるとさまざまな意見があり、文化的背景や社会制度の違い、価値観によってとらえ方が違うことがわかりました。議論を重ねるなかで、ウェルビーイングは多義的で文化や背景によって異なるという認識を共有し、取り組むべきウェルビーイングの領域は各組織が定めるという方向性を確認しました。一方で、ウェルビーイングを促進するためにアプローチできる枠組みが必要ですので、世界共通のガイドラインをつくろうと開発を進めました。 ―ISO25554の具体的な概要について教えてください。 水野 まず企業や自治体、さらにはもっと小さいコミュニティなどの組織を対象に、ウェルビーイング向上を推進するための枠組みを示しています。具体的には、@ウェルビーイングのどの側面の向上を目ざすのか、目的を明確にする、A目的達成のためのプログラムや製品の仕様などを決めたうえで実践・展開する、Bその結果、個人および組織のウェルビーイングをどの程度達成できたのか、客観的な指標を用いて計測し、次の改善につなげていく、というPDCA的なサイクルの枠組みを提示しています。  ウェルビーイング促進の取組みを行っている企業は多いと思いますが、そもそも目ざす具体的な目標があまり明確ではなかったり、目標が明確であったとしても達成するためのプログラムがそれと結びついていないケースもあります。仮に結びついていると思っていても結果が検証されていないこともあります。やりっぱなしではなく、計測可能な指標を使って評価し、そのうえで改善し、次につなげていくというプロセスが大切になります。 組織におけるウェルビーイングの向上が従業員のエンゲージメントを高める ―企業で実践する場合、具体的な目標や計測する指標などはどうすべきでしょうか。 水野 25554の規格は、多様な組織が活用できるような枠組みを提示していますが、具体的な取組み内容まではふみ込んでいません。各企業の状況に応じて自由に設定いただくことを想定しています。25554は抽象度の高い内容になっていますが、現在、同規格のパート2として、実際に枠組みに沿った取組みを収集・分析した事例集を作成しているところです。日本国内の健康経営に取り組んでいる事例も含め国際委員会のワーキンググループで検討しており、事例集ができあがれば、規格の具体的な活用方法の参考になるものと期待しています。  枠組みに沿って企業が25554に取り組む際は、まず「自社にとってウェルビーイングとは何か」を決めていただくことが大事です。職場のウェルビーイング向上では体の健康や人間関係など職場環境の改善などが考えられますが、その目的達成に向けて具体的なステップをつくって取り組んでいただきたいと思います。それが、従業員のエンゲージメントを高め、仕事に対するやりがいやワーク・ライフ・バランスの向上など、個人のウェルビーイングの向上につながりますし、ひいては企業のサステナビリティや業績の向上にもつながると思います。 ―生涯現役社会を迎え、働く高齢者のウェルビーイングの向上も重要になっています。どのように取組みを進めればよいでしょうか。 水野 TC314で2022年に発行した「ISO25550(高齢化社会―さまざまな年齢層を含む労働力のための一般要求事項とガイドライン)」が参考になります。ガイドラインでは、高齢労働者が生産的に働く機会を提供するための環境整備に向けた要件を提供しています。具体的には、「フレキシブルな働き方の提供」、「健康支援プログラム」、「継続学習」、「職場環境の改善・整備」、「若手社員と高齢社員との協業支援」などの項目をあげています。  フレキシブルな働き方の提供では、短時間勤務などワーク・ライフ・バランスを重視した職場環境の改善も必要です。例えば、月曜日の午前中に毎週必ず病院に通う人がいれば、通院に配慮した働き方の提供が求められます。健康支援プログラムでは、定期健康診断以外にも歩くことを奨励したり、健康リテラシーを向上させるためのプログラムを考えたりすることもよいと思います。継続学習ではデジタルなど新しい技術を学び、高齢者が取り残されることのないように人材としてフルに活用すること、そのために企業側が就労環境にマッチしたサポートを提供することが大事になると思います。職場環境の改善・整備では、人間工学的な観点から、例えば高齢社員に合わせて部屋の明るさを調整する、文字を見やすいように大きくする、といった工夫も必要です。また、建物については、段差のないバリアフリーの環境にする、腰痛を予防・軽減するためにいすと机の配置を考えることなども重要となります。 小さいグループでの取組みの積み重ねがウェルビーイング重視社会の実現につながる ―若手社員と高齢社員が協業して一つの仕事に取り組んでいる事例などは、すでに日本の企業にもありますね。 水野 高齢社員が若手社員とペアを組んで業務に従事することで相乗効果が生まれる可能性もあります。若い人も高齢者から学びつつ、高齢者も新しい気づきを得るなど、お互いに学び合うことも25550に入っています。フレキシブルな働き方や健康支援プログラム、職場環境改善のための例示も入っていますし、ぜひ参考にしていただきたいと思います。 ―企業にとっては、25550の取組みも含めて、25554のウェルビーイングの向上を推進するのがおすすめですね。 水野 そうですね。何をウェルビーイングとするかは、個々の企業文化や企業理念によって違いますので、そこをベースに具体的に取り組むテーマを設定することになります。その際、25554では「個人のウェルビーイングと企業組織のウェルビーイングの両方を考える」という内容になっています。ウェルビーイングに対する考え方は個人によって違いますし、その集合体としての企業の力点の置き方も、企業ごとに異なるでしょう。また、グループごとに実践することもできます。例えば、営業部門では「体力が一番重要」ということであれば、そのプログラムを実践する、あるいはつねに細かい文字を見ている部署であれば「視力を守るため」など、目ざすウェルビーイングは異なっていてもよいのです。小さいグループがそれぞれ実践し、積み重ねることで、ウェルビーイング重視社会が実現していくことを期待しています。 (インタビュー/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、“年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙の写真:PEANUTS MINERALS/アフロ 2025 May No.546 特集 6 会社の成長のカギを握る「高齢社員の活かし方」 7 総論 高齢社員の“強み”と活用の課題 トレノケート株式会社 国家資格2級キャリアコンサルティング技能士 田中淳子 11 解説1 高齢社員のスキルを活かす仕組みづくり @「社内公募制」の活用 株式会社ジェイック HRドクター編集長 古庄拓 15 解説2 高齢社員のスキルを活かす仕組みづくり A「スキルマップ」の策定と活用 株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース シニアマネージャー 堀井元禎 19 事例1 日本ガイシ株式会社(愛知県名古屋市) 事業構成の転換にあたり人事制度を改定 「社内スカウト制度」でミドル・シニア層の活躍を推進 23 事例2 山九株式会社(東京都中央区) ダイバーシティ推進のため経験豊かなシニア人財を採用 1 リーダーズトーク No.120 一般財団法人日本規格協会 システム系・国際規格開発ユニット 社会システム系規格チーム 主席専門職 水野由紀子さん ウェルビーイング重視社会の実現に向け日本発の国際規格ISO25554が発行 27 65歳超雇用推進助成金のご案内 28 偉人たちのセカンドキャリア 第6回 町奉行から大名相当にキャリアチェンジ 大岡越前守忠相 歴史作家 河合敦 30 高齢者の職場探訪 北から、南から 第154回 神奈川県 株式会社栄和産業 34 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第104回 石井サイクル 店主 石井誠一さん(102歳) 36 加齢による身体機能の変化と安全・健康対策 【第6回】高齢社員のメンタルヘルス 竹中晃二 40 知っておきたい労働法Q&A《第83回》 コストカットをねらった役職定年制、無期転換権の不行使同意 家永勲/木勝瑛 44 地域・社会を支える高齢者の底力 【最終回】労働者協同組合上田(長野県) 46 いまさら聞けない人事用語辞典 第57回 「産前産後休業・育児休業」 吉岡利之 48 TOPIC 2025年版 高年齢者雇用安定法 対応企業実態調査 ―定年後の雇用環境整備が進む一方、シニア層の報酬見直しとモチベーション維持に課題が残る― 株式会社Works Human Intelligence 52 BOOKS 54 ニュース ファイル 56 JEEDが、企業における業務課題を解決します 57 70歳雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーのご案内 58 高年齢者活躍企業事例サイトのご案内 59 令和6年度「高年齢者活躍企業フォーラム」「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」アーカイブ配信のご案内 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.351 自然の材料の形を活かす手づくりならではの技 江戸すだれ職人 田中耕太朗さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第95回]ひと筆書き 篠原菊紀 ※連載「日本史にみる長寿食」は休載します 【P6】 会社の成長のカギを握る 特集 「高齢社員の活かし方」 会社成長のカギ!  少子高齢化などの影響により労働力人口が減少していくなかで、会社の持続的な成長を維持していくためには、多様な人材の活用が欠かせません。なかでも高齢社員は、長い職業生活のなかでつちかってきた知識や技術、豊富な経験や人脈があるだけに、その能力を発揮できる仕組み・制度を整備していく視点は、これからますます重要となります。  そこで今回は、高齢社員が持っている能力を活かしていくための仕組みについて、企業事例を交えてご紹介します。 【P7-10】 総論 高齢社員の“強み”と活用の課題 トレノケート株式会社 国家資格2級キャリアコンサルティング技能士 田中(たなか)淳子(じゅんこ) スキルや経験を活かせる場が減ればモチベーションは低下する  職業能力というものは、一般に経験年数と比例して増えていくと考えられます。人によってその能力の範囲や深さ、専門性などは異なるものの、働いた年数なりの知識、スキル、仕事上の多様な知恵などがあるものです。いまでは通用しない知識や知恵もあるでしょうが、組織のなかで伝承し、次世代にも活かしていきたいものがあるはずです。いや、伝承以前に、高齢社員自身がさらに能力を伸ばし、これからもその能力を高く発揮してもらいたい、というのが、これからの高齢社員に期待すべきことのように思います。  なぜならば、65歳までの雇用の完全義務化に加え、昨今では努力義務である70歳、あるいはそれ以上の年齢まで就業する機会を設ける職場も増えつつあるからです。  しかし、50〜60代社員に聴くと、長年つちかってきた職業能力を組織が活かそうとしないため、だんだんモチベーションが下がるという声も出てくるのです(図表1)。  以下は、私がここ数年で実際に耳にした55歳以上の方たちの声です。 ■50代後半男性(書籍編集)  役職定年で給与が減ったことより、仕事内容が悩みの種です。役職から外れ、本来好きだった編集の仕事に集中できると楽しみにしていましたが、上司と面談時、「定年まで5年。新しい本を出すなどはりきらなくてよいので、今後は目の前の業務を粛々と担当してください」、「今後は、加点はないです。減点にならないことに気をつけてください」といわれたのです。全社の方針は「挑戦しよう!」なのに、モヤモヤしています。 ■60代前半女性(人事)  さまざまな人事・人材育成施策を自分の考えで動かしてきました。従業員の声を集めながら、「この取組みは従業員のためになるな」と知恵を絞り、企画を動かしてきました。経験を活かした自分らしい仕事ができるようになってきたと思えたのは50代になってから。ところが、60歳を超え、再雇用になったとたんに、上司からは「これからはあなたのアイデアを実現するのではなく、後輩たちが考えたことを実現する手伝いをしてほしい」といわれました。これからも実現したいことがあり、そのための勉強もしていたので、羽が折られたような気分です。 ■50代後半男性(エンジニア)  50代前半で役職定年後、開発プロジェクトのマネージャを担当、それはそれで経験も活かせて、やりがいがありました。しかし55歳を超え、しばらくすると新規プロジェクトにアサインされないようになってきました。「あれ?」と思い、上司にたずねると、「残り数年の方には、新規プロジェクトを任せないという方針です」といわれました。もう挑戦しがいのあるおもしろい仕事は回ってこないのか。65歳まで10年近くあるけど、すでに“終わった人”のような扱いになるんだなと思い、気落ちしました。  私と同年代であることもあるので、気安い気持ちで話してくださるのでしょうが、これらはほんの数例です。  日本全体で見ると、若年層の人口自体が減り、各所で人手不足が進み、なんとしてでも労働力人口を維持したい、高齢社員も活躍できるようにと法改正も進んでいるなかで、どの組織でも相当なボリュームゾーンだと思われる高齢社員を取り巻く職場の環境は、何十年も前とあまり変化していないのかもしれません。「55歳役職定年以降」、「60歳定年以降」の社員が、「おまけ」のような扱いを受けてしまうのは非常にもったいない気もします。  一般に、給与面などの処遇が変化することから、業務内容自体もある程度変えざるを得ないのはわかるものの、だとしても、「担当していた業務や新しいことへの挑戦機会もなくす」、「やりがいを損ねるようなコミュニケーションを図る」というのは、組織にとっても得策ではないと思うのです。  職場では、後に続く40代や30代など若手中堅社員も、高齢社員の扱われ方を見ているわけです。「いずれ自分たちもこういうふうな目にあうんだな」と失望するかもしれません。 高齢社員が“やりがい”を感じられる環境を  高齢社員自身の悩みは、大きく分けて二つだろうと考えています。一つは、金銭的な面。もう一つが、やりがいの面です。  金銭的な面については、企業ごとの方針などもあり、ここでは論じませんが、「やりがい」を奪われるという点は、どの組織もまだまだ対応可能な領域ではないでしょうか。  やりたい仕事、好きな仕事も取り上げられてしまえば、「自分の何十年という蓄積はなんだったのか」、「これからは何に向かってがんばればよいのか」がわからなくなってしまうのも無理はありません。  「高齢社員は学ばない」、「高齢社員は変化しようとしない」から「どうすればモチベーションを上げられますか?」という相談を企業の人事担当者からときどき受けるのですが、高齢社員の「挑戦機会」を設けているか、能力開発を支援しているか、仕事の「やりがい」を奪うなどしていないか、期待をかけているかといった視点で、組織側も高齢社員の働く環境を見直すことは必要でしょう。  組織としては、「若い世代を育てなければならない」と考えるのは当然です。そうでなければ、事業を継続することができません。世代交代は、いつの時代でもどの組織でも取り組むべき課題ではあります。  とはいえ、「はい、高齢社員はここまででよいです。あとはのんびり若手を見守って支援に回ってください」といわれ、主体的にできる仕事を奪ってしまうことが、組織にとってよい影響を与えるとも思えないのです。  では、どうすればよいか。いくつかのアイデアを提起します(図表2)。 @キャリアの棚卸機会  いまの若手社員は、学校教育でもキャリア教育を受ける機会がありますが、高齢社員は、学校教育だけでなく、職業に就いてからもキャリア教育を受ける機会がなかった世代です。したがって、50代・60代になってもキャリアの棚卸をしたことがない人が多いのです。ということは、現在自分が持っている能力は何かや、今後どのように働いていきたいかなどが明確にできていない人も多いのです。高齢社員の活躍を推進するためには、キャリアの棚卸と今後のキャリアを考える機会を設けることがおすすめです。 A目標設定と評価  まだまだ、「60歳定年後の再雇用以降は目標設定も評価もなし」という運用をしているケースもあるようです。これは、再雇用者の給与を一定額に決めてしまう場合、評価する必要もないとの判断があるからだと思われます。  ただ、「今年からは目標設定も評価もない」といわれたら、「何に向かってがんばるのか」、向かう方向も見失うことになるでしょう。これまで述べてきたように、「新しいこともしなくてよい」、「後輩のサポートだけしてください」などといわれても、それでは、「はりきるだけ損」とも思えてきて、省エネモードに陥るのも無理はありません。60歳以前の社員と同じ仕組みでなくても、何らかの目標と評価は検討の余地があるはずです。 B後輩指導のメンターの役割とリスキリングの機会  ある企業の人事担当者からこんな話を聴きました。  「再雇用の社員がいる部署のほうが、若手社員の離職率が低いのです。若手に聴いてみると、『40〜50代の上司や先輩はまだまだ現役でギラギラしている。だから相談しても、そのギラギラ感で対応されるので余計に疲れる。だが、60代の方たちは、よい感じにギラギラ感が薄れているので、話をじっくり聴いてくれるし、自分の悩みの解消ができることがある』といわれたことがあります」  別の企業では、新入社員に業務指導をするOJTトレーナーとは別に、ラインの異なる部署の先輩を「キャリアや仕事の相談に応じる」メンター役に任命する仕組みを持っていました。若い社員で回していたメンターを、高齢社員が増えたことから、60代にもになってもらうようにしました。これには右記と同様の効果があったそうです。  高齢社員の落ち着きや知恵などが十分発揮され、若手社員への支援にもつながる、やりがいをもたらす取組みだと感心しました。  ただし、メンターなど若手の成長支援にかかわる高齢社員には、「現代のキャリア観や働く価値観、新しい育成のあり方」などを学び直してもらう必要があります。古い考え方、古い価値観で若手とかかわることは避けなければなりません。 C高齢社員へのまなざしのアンラーニング  60歳定年制が義務化されてから30年ほどは経ちます。「定年間近の50代は、失速する」、「その後の再雇用で残る人もやる気がない」、「そもそも年齢が年齢だけに新しいことも覚えたがらないだろう」といった「眼鏡」で高齢社員を見ているという面はないでしょうか。もちろん、高齢社員は、気力、体力、記憶力など、20代・30代と比較すればどうしても不足する面はあるかもしれません。  でも、高齢社員が現役で長く働き続ける時代になって、高齢社員の能力や経験や知恵、人脈などをうまく活かす方法はないのかを、経営も人事も現場の若手管理職も考え直すときが来ているのです。  個人差があるので、ぜひ、人事や管理職には、一人ひとりとじっくり対話してほしいと思います。特に、高齢社員のやりたいことと能力をうまく活かす場を設計することはとても大事な取組みです。「やりたいことがある」という場合、それが企業、組織の目ざす方向とずれていないかぎり、やってもらったほうが成果につながるケースもあるはずです。何もかも、「後進に譲りなさい」、「あなたは裏方で補助的な動きだけしてくれればよい」というのは、合理的ではありません。70歳を超えても働くかもしれないこの時代に、「補助的役割」を10年以上も与え続けることが労働生産性の向上につながるのか、いま一度考えていただきたいのです。 「愛されシニア」になるためにていねいなコミュニケーションを  最後に、高齢社員へのアドバイスを。  まずは、何歳になっても学び続けることです。興味のあること、新しいことにアンテナを立て、少しでも学んでいる姿を若い人たちに見せるのです。学ばないと思われている高齢社員のイメージを覆すには、あなた自身の行動で示すしかありません。  それでも、わからないことは、後輩たちに教えてもらうことがあるでしょう。その際、素直に学び、ていねいにお礼を述べていますか?  「これ、わからないんだけど、教えてくれる?」ではなく、「ここ、わからないので、教えていただけますか?」とていねいな言葉で話し、「ありがとう」ではなく「ありがとうございます」といっているでしょうか。  あなたより若い社員は、あなたのサポートをするために職場にいるわけではありません。だれでもわからないことがあるのは当然で、教えてもらうこと自体が悪いわけではありませんが、教えてもらって当然、やってもらって当然、ではありません。  ただでさえ、老眼などで険しい顔をしやすい高齢社員。ていねいで敬意を持った態度や言葉づかいを心がけ、ご機嫌で相手と接し、若い方たちから「愛されシニア」となれるよう努力を忘れないでいたいものです(図表3)。 図表1 高齢社員のやる気・やりがいを奪ってはいないか? はりきらなくて大丈夫ですよ 新しくやりたいことがあるんですが… 今後は新しいプロジェクトにはアサインしません もっと挑戦的な仕事がしたいのに… その役割は若い人に任せて、支援や補佐に回ってください 自分で企画した施策を実現したいと思っていたけれど… 高齢社員自身の「やる気」ばかりを話題にするが、「やりがい」を奪うような環境になっていないでしょうか? ※筆者作成 図表2 高齢社員がやりがいを持って活躍できる職場環境の整備 高齢社員に対するまなざしを職場全体でアンラーニング(学び直し)し、高齢社員がやりがいを持って活躍できる環境を整えることが大事 【高齢社員以外】 「高齢社員とはこういうもの」という、昔ながらの見方をアンラーニングする 【高齢社員への施策】 キャリアの棚卸機会 〜自分のキャリアを考える機会を設ける〜 目標設定と評価 〜しっかり目標を立て、評価する〜 後輩社員のメンター役 〜知識スキルなどの伝承や若手のケアなどに取り組む〜 ※筆者作成 図表3 愛されシニアになろう 年齢問わず、学び続ける 例:新しいことにアンテナを立てていることを示す 年下の同僚たちとていねいに接する 例:「ですます」で話す 年下の同僚に教えてもらうときも素直に学ぶ 例:謙虚な態度で学習する ご機嫌で過ごす 例:意識して笑顔でいる ※筆者作成 【P11-14】 解説1 高齢社員のスキルを活かす仕組みづくり @「社内公募制」の活用 株式会社ジェイック HRドクター編集長 古庄(ふるしょう)拓(たく) 1 はじめに  少子高齢化の影響が広がるなかで、高齢社員の活躍支援は各組織の重要テーマとなっています。  高齢社員側も“人生100年時代”といわれ、年金制度などへの不安もあるなかで「あと少しで定年したら仕事はせずに引退生活」と考える方は少なく、60・70代までなんらかの形で経験やスキルを活かしたいと考える人が増えています。経験やスキルを持った高齢社員を活かすうえで有効な仕組みの一つが、「社内公募制」です。  本稿では、高齢社員の活躍支援につながる社内公募制の概略と、導入や運用のポイントを解説します。 2 高齢社員の活躍を支援する「社内公募制」とは  社内公募制は、組織内の、人員を配置したいポジションを公開し、社員に応募してもらう仕組みです。社内公募制では、各部署を“採用企業”、社内を“労働市場”に見立て、募集ポジションの業務内容、求める経験・スキル、待遇や積めるキャリアなどを開示して、社員が応募できる状態にします。応募後は各部署などで選考を行って、合格(配属)が決定されると所属部署にも開示され、一定の期間で異動が実施される形が一般的です。  社内公募制は大手企業を中心に導入され、ジョブ型人事の導入などにともなって管理職への昇格選考も社内公募制で挙手した社員のみを対象に実施するような事例もあります。社内公募制では業務を熟知している、また活躍しているメンバーが異動してしまうことも起こりますので、組織運営上の問題や業績低下などのリスクを心配する方もいます。しかし、適切に運用することで優秀人材の離職防止、社員のモチベーション向上、採用コストの削減、幹部候補の育成につながります。  高齢社員の活躍支援という観点でも、 ・高齢社員が持っている経験やスキルを活かす ・キャリアの選択肢を広げ、高齢社員のモチベーションを向上させる ・高齢社員のキャリア自律の意識づけにつながるといったメリットがあります。  私が所属している株式会社ジェイック(以下、「ジェイック」)では、「可能性を羽ばたかせる」というミッションを掲げ、社員のキャリア自律を促進しています。ジェイックにおけるキャリア自律支援は、 @キャリア研修など、キャリア自律を「考えるきっかけ」 A社内でのキャリアカウンセリング、社外でのキャリア面談など「個別のケア」 B社内公募制や異動希望制などの、キャリア自律を「後押しする制度」 Ce-ラーニングや資格の取得支援などの「学ぶ環境」 という組み合わせで実施され、記事テーマとなる社内公募制に関しては、社内公募・異動希望の制度「マイキャリア」を運用しています。  もともとジェイックでは人材育成と相乗効果の発揮を意図して、部門や職種、拠点をまたいだ人事異動を積極的に行ってきました。そのなかで、会社からの指示による人事異動とともに運用しているのが、求人応募、異動希望を出せる社内公募制「マイキャリア」です。次章では社内公募制の実態をイメージしていただくため、ジェイックが運用するマイキャリア制度の概要を紹介します。 3 ジェイックの社内公募制「マイキャリア」  ジェイックが運用する社内公募制「マイキャリア」の特徴は、 ・毎年、全社員が自身のキャリア希望を申告できるアンケートを実施 ・公開ポジションへの応募+それ以外の異動希望の意向を取得 ・社内公募制とキャリア面談を通じて、キャリア自律のきっかけとする といった点です(図表1)。  アンケートは図表2(13ページ)のようなものです。マイキャリアの導入を検討する際には「本音を答えてもらう」と「回答結果を活用する」というバランスのなかで、アンケート結果をどこまで共有するかなども検討事項の一つでした。質問項目も、本音を聞き出すとともに、ネガティブな感情が生まれないよう、何度もブラッシュアップしています。また、出した希望が必ず通るわけではないという点も明確に発信しています。  異動希望の設問では「異動先で成果が出せるか不安」といった心配もあることを考慮し、異動希望とは別に「興味のあること」、「今後挑戦してみたいこと」、「将来築きたいキャリア」などについての自由記述の質問も取り入れています。これは「異動希望を出すふんぎりはついていないが、チャレンジしたいことがある」といった本音を聞き出す工夫です。 4 社内公募制の成果と気づき  マイキャリアの導入後、毎年一定数の社員がマイキャリアの回答を基に異動機会を得ています。自身の希望による異動は、意欲が高まるだけでなく、受け入れた部署側でも成長目標の設定やマネジメントをしやすくなります。このような観点からも、社内公募制が適切に実施されるとよい影響が生じると感じています。  全員の希望を即座に叶えることはむずかしく、希望が通らない場合も多くあります。一方で、マイキャリアの回答をふまえて、他事業部の事業部長が「ポジションをオファーしたい」となることもありますし、人事委員会で検討して異動を決定することもあります。また、即時ではなく、翌年度の下半期、再来期に向けて人事委員会で異動を仮決定することもあります。  異動希望に関しては叶った場合も叶わなかった場合も、必ず「検討して結果としてどうなった。それはなぜか、どうすれば叶う可能性があるか」をフィードバックしています。  ジェイックでは、マイキャリア導入以前から入社3〜5年目、30歳、40歳、50歳など、節目のタイミングでキャリア面談を行っていました。ただ、人事による面談には工数の制限もありましたし、「人事にはいいにくい」という声もありました。特にミドル・シニア層になると、「自分より人事の方が若い」というケースも多く、プライドなども含めて社内では相談しにくい状況もありました。現在、節目の面談は「社外へのキャリア相談」を基本として、マイキャリアを実施する際にも「外部」、「人事」、「事業部長」、「その他」という選択肢からキャリア面談の相手を希望できるようにしています。  このようにマイキャリアやキャリア面談を通じて、特に管理職やミドル・シニアなどから「相談」という形では出てこなかった本音や異動希望、やりたいことを吸い上げられるようになっています。  なお、「マイキャリア」を導入したのは、異動の希望を聞きたいという目的がすべてではありません。「マイキャリア」を導入した大きな目的は、「1年に1回、全社員に自分のキャリアを真剣に考える機会を提供する」ことでした。したがって、回答する際には自身のキャリアをふり返り、将来のキャリア構築に真摯に向き合ってほしいという思いが込められています。そのために、回答期限もアナウンスから約1カ月後と長めに設定し、希望者は回答前にキャリア面談を受けることができるようにしています。 5 なぜ社内公募制が高齢社員の活躍支援につながるのか?  ここまでジェイックで運用する社内公募制を紹介しましたが、なぜ社内公募制が高齢社員の活躍支援につながるのでしょうか。  高齢社員の活躍支援を考えるうえで非常に大切となるのは、「つちかってきた経験やスキルをどう活かすか?」です。一方で、活躍支援を運用するうえでハードルとなるのも「つちかってきた経験やスキル」であることが多いものです。例えば、多くの職場でミドル・シニアが持つ豊富な経験やスキルは貴重なものであり、部署内で頼られる存在となっています。つちかってきた経験やスキルとともに役職についている方も多いでしょう。  高齢社員の活躍支援を考えるうえでは、経験やスキルをどう活かすかとともに、経験とともに生まれている固定観念などをアンラーニングしてもらうことも重要です。多くの企業において、高齢社員に活躍してもらうことと同時に、若手や中堅社員を抜擢して組織を活性化させる、10年後、20年後に向けた組織づくりをすることも重要です。だからこそ、役職定年の仕組みがあったり、成果主義やジョブ型人事の導入が進んでいたりするのです。  社内公募制は高齢社員に「自分のスキルや経験がどう活かせるか?」を考えてもらったり、「興味や関心がある仕事にチャレンジできる」という高いモチベーションを生み出したりする効果があります。同時に、社内公募制で「自ら仕事を変える」ことは固定観念やポジションをアンラーニングして、「新人」となる機会を提供することにつながります。  また、受入れ側も「自ら手をあげて異動してきた」からこそ年齢や過去の役職などを気にせずマネジメントしやすい面が生まれます。高齢社員側も自らがやりたい、興味がある仕事に手をあげる形であれば、年下の上司を持ったり、年下のメンバーと同列で仕事をしたりすることも受け入れやすくなります。 6 社内公募制とともに導入すべきもの  高齢社員に自らのキャリア、スキルや経験の活かし方を主体的に考えてもらう、キャリア自律をうながすためは、社内公募制とともに以下の工夫や仕掛けを一緒に考えることがおすすめです。 ・キャリア研修…高齢社員は、“人生の残り時間”を意識する世代だからこそ、アプローチを工夫したキャリア研修はキャリアを考えるきっかけとして有効です。人事制度だけではキャリアに対する主体性は生まれません。制度を使う意思、きっかけとなるのがキャリア研修であり、キャリア面談です。 ・社外でのキャリア面談…前述の通り、高齢社員にとって社内の人事担当者は、年下であり、入社年次の後輩であることも多くなります。そうすると本音では相談しにくい状況が生まれます。社内でキャリア面談できる選択肢はもちろんあってよいですが、関係性のない社外の第三者に相談できる場をつくることがおすすめです。 ・リスキリング支援…高齢社員が活躍するためには、持っている経験やスキルに加えて新たな知識をインプットすることが必要となることが多いでしょう。それは、生成AIなどの知識かもしれませんし、自分の経験やスキルをメタ認知するスキルかもしれません。こうした活躍に必要な学習を支援しましょう。 7 まとめ  「社内公募制」は高齢社員の経験を活かしつつ、キャリア自律を促進する仕組みとなり得ます。自らのキャリアを考える機会、そして選択する場を設けることで、高齢社員に「自らの経験とスキルをどう活かすか?」を考え、キャリア自律をうながすきっかけとなるのです。本記事が高齢社員の活躍支援を考える参考となれば幸いです。 図表1 「マイキャリア」の基本の流れ STEP 01 年に一度、全社員を対象にアンケートを実施 ※ジェイックは1月末決算になるため、翌期の異動検討に間に合う10〜11月に実施 STEP 02 アンケート結果は上司などを通さず、人事と人事委員会(経営層)のみで共有 STEP 03 「異動希望者」と「キャリア面談の希望者」は個別面談を実施 STEP 04 面談結果もふまえて異動などを検討して決定本人へのフィードバックを実施 資料提供:株式会社ジェイック 図表2 アンケート内容 ※アンケート内容はほとんどの原型を留めつつ、表現や社内用語の修正などを加えています。ご了承ください。 @所属部署・職務・経過年数(選択式) 1.所属部署(選択式) 2.現在の職務(選択式) 3.現職務での経過年数(選択式) A希望キャリアパス(選択式) ⇒マネジメントコース、プロフェッショナルコース、その他 ※社内のキャリアパスとして組織のマネジメントを行うマネジメント職と、個人の専門性で貢献するプロフェッショナル職の2コースが存在します。 B興味のあること、今後やってみたいこと、将来築きたいキャリア等(自由記述) C異動希望 1.異動希望(選択式) ⇒今すぐ異動したい  できれば異動したい  どちらでも構わない  できれば異動したくない  いまの職務がよい 2.異動希望_理由(自由記述) D異動希望がある場合の希望先 1.異動先の第1希望(部署)(選択式) 2.異動先の第1希望(職務)(選択式) 3.異動先の第2希望(部署)(選択式) 4.異動先の第2希望(職務)(選択式) 5.異動先の第3希望(部署)(選択式) 6.異動先の第3希望(職務)(選択式) ※選択の前提として、社内におけるポジション情報も開示されています。 E転勤希望 1.転勤できない理由があれば教えてください(自由記述) 2.転勤したい方のみお答えください。希望する時期はいつですか(選択式) ※全国転勤を前提として採用活動・雇用していますが、ある程度社員の意向も確認しながら転勤決定をしています。 Fキャリア面談 1.キャリア面談を希望しますか(選択式) 2.キャリア面談を希望する相手を選んでください(複数選択式) ⇒「外部」「人事」「事業部長」「その他(記述式)」 3.キャリア面談を希望する相手の要望があれば、お書きください(自由記述) ※グループ会社Kakedasで提供するキャリア面談サービスを活用して、「第三者に相談して整理したい」ニーズを拾い上げています。評価者である人事や事業部長に相談しにくいキャリア相談も、第三者であれば本音で話しやすく、自分の考えを整理する機会となっています。また、「外部に相談して考えを整理したうえで、社内で面談して実現のアドバイスをもらう」といった形でも使われています。 Gその他会社に知っておいて欲しいことはありますか?(自由記述) 資料提供:株式会社ジェイック 【P15-18】 解説2 高齢社員のスキルを活かす仕組みづくり A「スキルマップ」の策定と活用 株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース シニアマネージャー 堀井(ほりい)元禎(もとただ) 1 はじめに  労働力人口の減少により、企業は経験豊富な高齢社員の知見を活かした組織の競争力強化が求められています。しかし、企業においては「高齢社員」とひとくくりにとらえてしまい、個人ごとの強みを活かした活用ができておらず、競争力強化が進んでいない現状も見てとれます。そこで本稿では、高齢社員のスキルを可視化し企業価値の向上につなげるためのスキルマップの策定・運用のポイントを解説します。 2 高齢社員の強み  高齢社員には若手をはじめとする一般社員と比べて大きく三つの強みがあると考えられます。 @豊富な業務経験  長年の業務経験から得た専門知識やノウハウは高齢社員だからこその強みです。 A人脈とネットワーク  これまでの経験を通じて得た社内外の幅広い人脈は一朝一夕には得がたい強みです。 B組織の文化・価値観の継承  自らも文化をつくる側として参画してきているため、その会社ならではの文化の維持や後進への伝承は高齢社員にこそ期待できる強みです。 3 高齢社員の課題  一方で高齢社員ならではの課題もあります。 @新技術・デジタル化への適応  最新の技術やツールへの適応力は加齢とともに落ちていくのが一般的です。 A体力・健康面での制約  若手社員と比較して業務負荷の面で制限が生じる可能性が高くなると考えられます。 Bモチベーションの低下  いわゆる「出世」と離れる立場になることで、役職定年やキャリア終盤になるほど成長や貢献意欲を維持することはむずかしくなります。 4 高齢社員向けスキルマップの意義と目的  そもそも「スキルマップ」とは、社員のスキルや経験を可視化し、適材適所の配置や能力開発を行うためのツールです。高齢社員向けのスキルマップは、先述の強みや課題に応える形で、以下三つの目的で活用できます。 @スキルの見える化  高齢社員個々人の強みを整理し、適所の活用を図ります。 A組織・ほかのメンバーへの知識伝承  経験や知見を組織内に共有しノウハウとして蓄積するために、高齢社員が持つスキル・経験の伝承を図ります。 B高齢社員の得意領域におけるスキルアップ  これまでの経験で得たスキルに加え、専門性の高い領域でのさらなる活躍を期待して、強化可能なスキルを特定しリスキルを図ります。また、成長期待を伝えることでモチベーション低下を防ぐ効果も期待できます。 5 スキルマップの策定方法  前段で高齢社員向けスキルマップを策定・活用していく必要性をお伝えしてきましたが、ここからはそのつくり方をお伝えしていきます。  業務遂行に必要なスキルや知識を洗い出し、スキルマップを策定するには五つのSTEPがあります(図表1)。  まずはじめに行っていただくのは、【STEP1】マップ範囲の選定です。前述したスキルマップの目的のうち、自社は何をメインの目的として活用していきたいか、を決めていきます。目的に応じてスキルを抽出する粒度や範囲は変わってくるので、関係者の認識を合わせることをゴールにしてください。  続いて【STEP2】業務の洗い出しを行います。対象となる高齢社員の方々がかかわってきた業務だけに絞るのか、これから先のことも考えて社内の業務全体まで広げて設計しておくのかを決めていきます。  【STEP3】アンケートの実施では、対象業務にかかわる組織長や業務に習熟している方、対象の高齢社員にアンケートやインタビューを実施して、必要となるスキルを洗い出していきます。スキルを洗い出す際は社内にどのような業務プロセスが存在するか整理して、プロセスごとに必要なスキルを質問していきます(17ページ図表2)。職種ごとに業務プロセスを整理したうえでアンケートやインタビューを実施することで、抜け漏れなくスキルを可視化することができます。  また、アンケートとインタビューは情報収集の広さ×深さの観点で使い分けるとよいでしょう(17ページ図表3)。  【STEP4】業務ごとのスキル・基準選定では、STEP3で洗い出したスキルから「特に付加価値を創出する重要なスキル」を抽出してリスト化していきます。 ※スキルマップをつくる際の注意点として、あれもこれもと欲張らないことがあげられます。弊社がご支援する際は、最大でも30個程度に絞り込むことを推奨しています。  評価基準を検討する段階では、スキルごとに4段階〜5段階の点数設定がよいとされています。高齢社員向けに絞ってスキルマップを活用したい場合は「未経験」レベルを削除した4段階が使い勝手がよいと考えます(図表4)。  【STEP5】評価方法の確定・マニュアル策定については、運用を行う際、評価者によって評価方法や評価基準がばらつかないよう手順書に落とし込むことが重要です。  以上の五つのSTEPを通じて、高齢社員に活用できるスキルマップを策定していきます。 6 スキルマップ策定と運用のポイント  高齢社員向けスキルマップ策定時は、含める項目に特徴があります。一般社員向けスキルマップは、能力開発状況の把握・育成が主目的のため、「獲得すべきスキル」の可視化が重要です。一方、高齢社員向けスキルマップは、高齢社員の活用が主目的のため「獲得してきたスキルや経験」を可視化する必要があります。「経験」が含まれる点がポイントです。  運用時は、高齢社員の心理的負担軽減とスキルマップを活用していくために、以下五つの点に考慮して工夫を行う必要があります。 @目的の周知  スキルマップを用いて実現していきたいこと、つまり「スキルの見える化」、「知識伝承」、「高齢社員のさらなるスキルアップ」であることを高齢社員および管理職層に周知して、スキルマップを更新し続けることの意義を浸透していくことが重要です。 Aプロセスの簡素化と継続性の確保  高齢社員が負担感を感じずにスキルマップを入力・更新できるよう、簡易なフォーマットにすること、入力サポート体制を構築しておくことが望ましいでしょう。また、一回入れて終わりにせず、年一回更新するタイミングを設けるなど、ルールを設けておくことも必要です。 B現場管理職との連携  知識伝承や高齢社員の育成場面でどのようにスキルマップを活用していくか、現場の管理職に対する教育機会を事前に設けておく、年一回の説明会の場を設けるなどの仕組みを設定して、スキルマップ策定時の目的と運用に乖離を生まない取組みが必要です。 Cフィードバックと動機づけ  導入時の説明だけに留めず、年一回のスキルマップ更新時にあわせてスキル変化に対するフィードバックを行うとよいでしょう。高齢社員の組織に対する貢献を伝えるなど、今後のさらなるスキルアップに対する動機づけも行うことで、スキルマップ活用に対する意識変化も期待できます。 D知識伝承機会の設定  社員や組織への知識伝承を高齢社員に任せきりにすることは望ましくありません。スキルマップで明らかにしたそれぞれの強み・伝承してほしい知識や知見を共有する場を会社として設けることで、高齢社員に対する期待を伝えやすくなります。  上記五つの取組みを行う際には、個々人の「経験」から得られる知見・考え方から得られるスキルの重要性を伝えていくことを心がけましょう。それによって高齢社員にモチベーション高くスキル継承を行ってもらうことで、組織力強化ひいては企業の競争力強化が実現できるのではないでしょうか。  また、今後はデジタル技術の活用によるスキルデータの管理や、柔軟なキャリア設計の導入を進めることで、より効果的な高齢社員活用の仕組みを構築することが求められます。スキルマップは一回つくって終わりではなく、自社にとって最適な仕組みと運用を考え続けることも重要なポイントです。 7 結びに  今後も日本国内の高齢化が進むなか、高齢社員の持つスキルが失われていくことは企業の競争力低下に直結します。特に一朝一夕では身につかない「経験や知見、専門的スキル」を可視化して、若手継承へとつなげていただく、本稿がその一助になれば幸いです。 図表1 スキルマップ策定の五つのステップ 【STEP1】 マップ範囲の選定 スキルマップを運用する目的・部署・階層・評価項目・評価反映先を議論する 【STEP2】 業務の洗い出し スキルマップ選定の前提となる業務区分を洗い出す 【STEP3】 アンケートの実施 運用する方々へアンケートを実施し、必要としているスキルを確認する 【STEP4】 業務ごとのスキル・基準選定 各業務ごとにスキルマップに載せるスキルを選定し、その評価基準を作成する 【STEP5】 評価方法の確定・マニュアル策定 評価段階や評価シートを設計し、運用マニュアルを作成する 作成:株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース 図表2 職種ごとの業務プロセスに応じたアンケート・インタビュー @営業 対象層のゴール像 ×××××××××××××××××××××× (経験)××××××××××××××× (知識&スキル)××××××××××× (基本姿勢)××××××××××××× Aマネジメント ×××××××××××××××××××××× (経験)××××××××××××××× (知識&スキル)××××××××××× (基本姿勢)××××××××××××× B技術スペシャリスト ×××××××××××××××××××××× (経験)××××××××××××××× (知識&スキル)××××××××××× (基本姿勢)××××××××××××× 業務プロセス 顧客リスト化 関係構築 ヒアリング 提案 クロージング 長期 短期 人 仕事 ・組織設計 ・後任育成 ・信頼構築 ・動機づけ ・MVV策定 ・戦略策定 ・目標設定 ・業務管理 現状分析 要件定義 詳細設計 テスト・検証 導入 フォロー 作成:株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース 図表3 情報収集の広さと深さ アンケート 広く多くの方の意見を効率的に集める 対象層/職種が多いときに実施 信ぴょう性はやや低いので補足的役割 無記名ではなく記名式がおすすめ or インタビュー 深く特定の方の意見を効率的に集める 基本はハイパフォーマーにするが、声の大きい方やネガティブな方の意見もあえて聴く 作成:株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース 図表4 評価基準の設定 5段階 評価点数 0 1 2 3 4 評価基準 未実施 要指導レベル 準自立レベル 自立レベル 指導レベル 4段階 0 1 2 3 要指導レベル 準自立レベル 自立レベル 指導レベル 作成:株式会社フィールドマネージメント・ヒューマンリソース 【P19-22】 事例1 日本ガイシ株式会社(愛知県名古屋市) 事業構成の転換にあたり人事制度を改定「社内スカウト制度」でミドル・シニア層の活躍を推進 「挑戦」をキーワードに基幹職の活躍をうながす新制度  日本ガイシ株式会社は、1919(大正8)年に日本陶器合名会社(現・ノリタケ株式会社)のガイシ部門が独立し、日本碍子(がいし)として創業した。国内の電力普及にともない、当時輸入に頼っていた特別高圧がいしを国産化し、近代日本の送電インフラ構築に大きく寄与。戦後の高度成長期には事業の多角化・拡大を推進し、世界的なモータリゼーションの進展にともない、排ガス浄化用セラミックス装置を主力製品とし、グローバルに展開するなど、半導体製造装置用、電子電気機器用など、独自のセラミックス技術を活かし、社会の基盤を支え、環境保全に役立つ製品を開発・提供してきた。日本の陶磁器産業を代表する森村グループの中核をにない、2025(令和7)年3月現在、海外18社を擁するグローバル企業である。  近年の電気自動車の普及と、世界的な脱炭素の大きな流れのなか、「NGKグループビジョン Road to 2050」を策定し、「独自のセラミック技術でカーボンニュートラル(温室効果ガス排出実質ゼロ)とデジタル社会に貢献する」をありたい姿として掲げ、2050年にこれらの分野における関連製品が売上高の80%を占めることを目ざしている。事業構造の転換を加速させ、グローバルブランドとして確立させていくため、2026年4月1日付で社名を「NGK」に変更する予定だ。  同社では、2025年4月に、基幹職(管理職)の人事制度を改定した。  人材統括部人事戦略部グローバル人事グループの山田(やまだ)倫大(みちひろ)グループマネージャーは、人事制度改定のねらいについて、次のように話す。  「NGKグループは、『5つの変革(収益力向上、商品開花、DX推進、研究開発、ESG経営)』で、事業構成の転換に挑戦しています。グループビジョン実現のためにも、人的資本経営方針に基づいて優秀な人材を社内外から確保し、全社一丸となって挑むべく、基幹職人事制度を改定しました。新しい人事制度のコンセプトは『透明性・公平性・納得性の向上』と『自律的な行動促進』、『挑戦の後押し』です。事業構造の転換に向け、多様な人材の最大活用と自律的行動を促進し、年齢に関係なく意欲を持って主体的に挑戦する人材の創出につなげていきます」  基幹職を対象にした人事制度改定は約20年ぶりとなる。改定の中心となるのが等級制度の変更だ。これまで1種類であった等級を複線化し、すべての職務に対してジョブディスクリプション(職務記述書)を設定、それぞれの職務内容を明確にした。あわせて、年収は職務に応じることとし、年齢による処遇の低下や役職定年を廃止した。また、評価制度についても見直しを行い、年収は等級と各年の評価結果によって増減するとし、これまでの「成果に対する評価」に加え、基幹職に求められる行動の達成度を評価する仕組みを整備。そして、従来の社内公募を全基幹職に適用することに加え、社内スカウト制度を導入した。 役職定年制を廃止し「役職任期制」に変更  同社は2017(平成29)年4月に、一般職を対象にした人事制度を改定し、基幹職を含めた全社員の定年年齢を65歳に延長している。一般職については、60歳到達時の給与水準を維持し、賞与や福利厚生なども含め60歳以前と同様の処遇とした。また、疾病や介護に対するサポートとして、短時間勤務や週3日勤務といった柔軟な勤務制度を導入したほか、親や配偶者の介護が必要な社員への支援として、介護支援一時金の導入などを行っている。この制度改定では、「しっかり65歳まで現役として働くことを意識してもらうこと」を重視し、おもに両立支援の整備を行ったそうだ。定年年齢を65歳に延長する一方で、58歳の到達年度にポストオフと給与がダウンする役職定年制は維持し、基幹職者は役職定年後も、65歳まで専任職として職務に就くこととした。  一方で、2017年の制度改定から数年を経て、シニア層の優秀な人材が役職を失いモチベーションを下げているというケースが顕在化しており、社内からも「ポストオフ後のシニア社員がモチベーションを低下させている」といった声が多く届くようになっていた。しかも、元役職経験者はこれから毎年積み上がっていく。山田グループマネージャーは次のように話す。  「役職定年制度は、役職者としての能力を持ち、貢献意欲の高い方からも役割を奪っており、会社としてもったいないことをしているという想いがまず先立ちました。役職定年制の維持は若手への権限移譲を担保する目的でしたが、結果的にマイナスの面の方が大きいと判断し、今回の基幹職人事制度の改定で廃止することにしました。シニア層のモチベーション向上とあわせて、今後は外部からの優秀な人材の獲得にもつながるのではないかと期待しています」  一律的なポストオフの廃止に加え、モチベーションの向上や物価上昇への対応のため、基幹職の年収水準を約10%引き上げた。  また、役職定年制廃止のねらいは、効率的な人事配置の実現にもある。  「今回の制度改定にあたっては、社員の挑戦を喚起するしかけとして、『役職任期制』を導入しました。年齢に関係なく6年間同じ役職を務めた方はポストオフになる仕組みです。一人の人が一つの役職を占有して、若手のチャンスを奪うことがないように配慮したものです」(山田グループマネージャー)  6年間という任期については社内でも議論になったが、その役職に就いて、一通り経営に資する動きが組織長としてできるためには、一定の時間が必要であり、どの部署であっても6年間あれば一通りのことは成し遂げられるであろうという結論に至った。ただ、若手社員の側には、「やはり6年は長い。チャンスがない」という意見もあるという。6年の任期を満了しなければならないことは決してないが、6年間継続するケースが出てくると予想されるため、その役職の仕事にチャレンジしたい社員の意見も鑑みつつ、経過を見て対応していく方針だ。 主体的なキャリア形成を可能にする等級の複線化  新制度の柱である等級の複線化は、役職任期制とも関連している。従来はプレイングマネージャー1本の等級であったが、三つの等級を設定した。新しい職務等級として設けた「マネジメント等級」は、マネジメントに専念し、組織長として戦略策定の具体化や人材のマネジメント、組織成果の最大化に寄与することを期待される職務である。同じく新たな職務等級である「エキスパート等級」は、例えばデータサイエンティストなどの専門性の発揮に特化した職務となる。従来のプレイングマネージャーは、「シニアプロフェッショナル等級」となり、専門性を発揮するスペシャリスト(個の専門性を軸に貢献)と組織をリードするチームリード(集団のリードや組織運営支援を主軸に貢献)の二つの役割が期待される。  等級の複線化により、役割を明確にし、多様な人材が自身の持ち味を存分に発揮していくことが期待される。になう職務に応じて等級を決定することから、年齢を理由に報酬が下がっていた問題についても、解消することができる。  「58歳になるとどんな仕事をしていても、一律で給料が下がり、60歳になるとまた下がっていましたが、新制度では年齢は関係なく、同じ仕事を続ければ58歳になっても、60歳になっても同じ等級で、給料が変わらなくなります。価値が高い仕事をすれば、年齢は関係なく報酬が得られる仕組みです」(山田グループマネージャー)  他方、若い世代からすると、仕事が変われば等級も変わるため、30代であったとしても給料が下がる可能性もある。人材統括部の斉藤(さいとう)達也(たつや)人事部長は次のように語る。  「例えば、38歳で課長職に就き、43歳でいったん役職を降りるとします。その人はそこで勉強して、次に別の部署の課長となってマネジメントを続けるか、あるいは『私は専門性を高めていきたい』と覚悟を決めるのであれば、その部署のまさにプロフェッショナルのプレイヤーとして活躍していくというキャリアの選択肢があります。今回の人事制度改定には、『年齢に関係なく、自分でキャリアを選ぶことができ、縦横無尽にどの職務でも活躍することができる』というメッセージが込められています」 全基幹職の社内公募制拡大と見える化を活かしたスカウト制度  新制度では、社内公募の対象を全基幹職に拡大し、新しく「社内スカウト制度」を導入した。個人の意思で次のキャリアに挑戦できる機会を増やし、組織の活性化と新たな挑戦を生み出していくことがねらいだ。  社内公募制度は、各部門の募集に対し、社員本人の意思で選考プロセスに進むことができる仕組みで、応募の際は、所属部署に知られずに選考を受けられるという利点があり、完全に本人の意思による自律的な挑戦が可能となっている。今回新設した社内スカウト制度は、各部門が欲しい人材にアプローチし、本人に社内公募制度を使った応募をすすめるという仕組みとなっており、部門側から求める人材の獲得に動くことができるというものとなる。  「スカウト制度は適所適材の異動配置を加速させるための取組みで、スキルや要件の見える化がセットになっています。今回の制度改定では基幹職1150ポストのジョブディスクリプションをすべて作成して職務を明確にし、になう職務に応じて等級を決定しました。どの部署にどんな職務があり、求められる成果や責任、権限・マネジメントの範囲、必要な知識およびスキルを、対象者はだれでも知ることができます。  部門側がジョブディスクリプションを提示するのに対して、基幹職者はキャリアシートを作成します。自身の経歴や保有しているスキル、および自身のキャリアプランに関して、例えば異動希望や、活かしたいスキル、挑戦したい領域をキャリアシートで見える化します。部門は求める人材をキャリアシートのデータから検索しスカウトします。ジョブディスクリプションとキャリアシートの相互開示により人材マッチングの質を向上させることがねらいです」(斉藤部長)  ミドル・シニア層がスカウトされるケースについては、「単純な専門知識だけでなく、機会がないと得られない経験であったり、その経験に基づいた判断であったり、幾度となく起きる想定外の事態に動じない姿勢など、ベテランの強みに白羽の矢が立つことが十分に考えられます」(斉藤部長)という。  同社では、シニア層がアドバイザーとしての要素が強いポジションで活躍しており、社内でも大いに需要がある。また、海外拠点の製造工場の拠点長は、事業運営、マネジメントといった多面的な経験が必要であることから、多様な経験を持った人物がになう必要がある。長年の営業経験を活かして新事業で新しいビジネスを開拓するポジションで活躍することもできる。  「ジョブディスクリプションの開示により、社内にどんな仕事があるか、何が求められているかが見えてくるので、シニア層の社員には、活躍する職務をぜひ見つけてほしいと思います」(山田グループマネージャー)  自律的に成長し、自身と会社を変革し続ける人材を育成するため、会社主導で行ってきた人事配置から、個人が挑戦する場面を準備し、挑戦したい領域での活躍を叶える人事配置へ転換を図っている。なお、社内スカウト制度は、年度始まりの異動を見すえ、数カ月間に限定して実施する予定だ。  なお、基幹職の新制度を導入するにあたり、説明会に社長が登壇し改革に関してメッセージを送った。今後は、さらにインナーコミュニケーションを通じて、発信を続ける方針だ。  また、今後の課題として、以前から基幹職者として活躍してきた世代は、一律にプレイングマネージャーをになってきただけに、今後、マネージャー等級になって人を通してのみで成果を出すことになる点に不安がある人は多く、マネジメントに特化した研修などを通して支援をしていくという。 2025年4月より65歳定年後の再雇用制度を導入  同社は基幹職の人事制度改定と同時に、2025年4月から65歳定年後の再雇用制度を導入した。一般職、基幹職にかかわらず、定年後、本人が継続雇用を希望し、会社が求める職務と本人の能力を鑑みて再雇用する。再雇用の年齢上限は70歳で、1年更新の有期雇用となる。  「基幹職のコンセプトと同じで、ジョブディスクリプションを用意し、職務内容と処遇の条件を開示します。65歳を超えるとさまざまな事情を持った人がおり、価値観も多様化していますので、シニア層の多様性に応えられるように仕事のバリエーションを増やして、ジョブディスクリプションを用意しています。65歳でいったん退職しますので、元一般職、元基幹職ということは関係なく、どの仕事をになうかで処遇を決めていきます。2年ほど前からトライアルを実施しており、すでに65歳定年後の再雇用として35人が働いています(2025年3月時点)。各職場におけるアドバイザーの役割として、つちかったノウハウを伝授しながら活躍しています」(斉藤部長)  再雇用ではジョブ型の仕組みを活かし、シニア層に合った働き方を提供して、持てる力を活用していくという。役職定年制の廃止や社内スカウト制度の導入、70歳までの継続雇用制度とジョブ型の活用など、ミドル・シニア層の活躍をうながしていく同社の取組みは、他社にとって参考になるのではないだろうか。 写真のキャプション 人材統括部斉藤達也人事部長(右)、人材統括部人事戦略部グローバル人事グループ山田倫大グループマネージャー(左) 【P23-26】 事例2 山九(さんきゅう)株式会社(東京都中央区) ダイバーシティ推進のため経験豊かなシニア人財を採用 創業100余年の大手総合物流会社 三つの事業分野を有機的に展開  山九株式会社は、1918(大正7)年に「山九運輸株式会社」として、福岡県北九州市で創業。八幡(やわた)製鐵所(せいてつしょ)および山口県の海軍燃料廠(ねんりょうしょう)にて石炭荷揚げ、貯蔵、構内作業をになう事業からスタートした。「山九」という社名は、当時の事業基盤であった山陽と九州の頭文字と、感謝の心を表す、英語の「Thank you」に由来している。1980(昭和55)年に現在の社名「山九」に変更し、長い歴史のなかで積み上げてきた現場力を活かし、大手総合物流会社に発展した。  現在は、「ロジスティクス(物流)」、「プラント・エンジニアリング」、「ビジネス・ソリューション」の三つの事業分野を有機的に結びつけた、独自のビジネスモデルを構築。本社を東京都中央区勝どきに構え、国内支店39、国内関係会社44、海外現地法人40などを展開する山九グループとして、製鉄所や化学系プラントなどの企画段階から、設計・建設・重量物輸送・据付・試運転までのトータルサポート、さらに操業支援、設備のメンテナンス、調達・生産・販売までワンストップサービスを提供し、産業の根幹から、人々の暮らしまでを支えている。 「人を大切にする」経営理念を継続 社員を「人財」と表し、活躍を手厚く支援  創業以来、「人を大切にすること」を経営理念とする同社では、社員を「人財」と表し、その育成に注力してきた。階層別やスキルに応じた豊富な研修プログラムを用意して社員の能力向上を図り、最大限に能力を発揮して活躍できるように支援している。  社員数(単体)は、約1万3000人。うち、65歳以上は560人(パート・アルバイトを除くと130人)。新規学卒者を毎年採用しており、正社員の平均年齢は41.0歳となっている。60歳を超える社員が増えてくるなか、2021(令和3)年に定年を60歳から65歳に延長するなど、シニア世代の活躍推進にも取り組んでいる。  現在の高齢者雇用制度は、定年65歳(60歳以降は定年年齢を選択することが可能)。65歳定年後は70歳まで契約社員として働くことができる再雇用制度がある※。希望により、短日・短時間の柔軟な働き方をすることが可能で、実際に65歳超の社員の働き方はさまざまだという。  なお、再雇用制度では、本人と会社の希望、健康状態を勘案して、1年ごとに契約を更新している。現在の最高年齢者は77歳で、管理職を務めた後、定年以降もつちかった技術を発揮しながら、後継者の指導に活躍しているそうだ。 外部からのキャリア採用は新たな知見や経験から学ぶため  定年延長などにより、社員が長く働ける環境を整えると同時に、特定のスキルや経験を有する人財を即戦力として迎えるキャリア採用にも取り組んでいる。  人事部の松本(まつもと)靖(やすし)人事企画担当部長兼採用グループマネージャーは、「外部からキャリアのある人財を積極的に採用するようになったのは、2023年からです。それまでは年間4人ほどでしたが、2023年は17人、2024年は18人を採用しています」と状況を説明する。  小川(おがわ)晋(すすむ)人事部長は、外部からのキャリア採用のねらいについて次のように話す。  「当社は、プロパー社員が多いことから、『外から学びたい』という考えが根底にあります。また、お客さまのご要望を受けとめて、ていねいにしっかりとお応えするという文化のある会社ですが、新しいことに取り組むときのスピード感などに少々欠けると感じるところがあり、そういったスキルや知見を持つ方に入社してもらいたいと考えました」  このようなねらいから、公益財団法人産業雇用安定センターの「キャリア人材バンク」に登録して、シニア世代のキャリア採用を行っている。  産業雇用安定センターのキャリア人材バンクは、働く意欲が高く、能力、経験が豊富な60歳以上の高齢者と、その能力や経験を必要として採用を希望する企業が登録し、求人・求職の申込みを受けて、同センターが間に入り、マッチングを支援する仕組みだ。  登録後は、同センターの担当者と面談を行い、求職者はこれまでの職務経験や希望する職種、賃金、勤務時間などを伝えて、同センターが収集した求人情報から条件に合った企業を紹介してもらう。求人企業は、希望する人材、求められる能力、資格、経験などを伝え、それらの条件に合った求職者を紹介してもらう。面接日程の調整や採否の連絡なども含めて、同センターがマッチングを行う。  このキャリア人材バンクを通じて、2024年5月、黒丸(くろまる)修(おさむ)さん(65歳)が入社した。  それまで同社では、キャリア採用で50代後半から60歳くらいまでの人財を採用したことはあったが、65歳での採用は黒丸さんが初めてとなる。  「ダイバーシティに取り組むことを検討していたこともあり、キャリア人材バンクには、『人事で活躍されたキャリアがあり、ダイバーシティの取組みを進めていくための経験者を求めています』と希望を伝えて求人を申し込んだところ、黒丸さんを紹介していただきました」(松本人事企画担当部長)  採用面接を経て、「厳しい環境下で長年責任ある仕事をされてきたこと、人事の仕事やダイバーシティを進めてこられた経験もあると知り、当社としては、その経験から学びたい、当社で活かしてほしいと思いました。物腰がやわらかく、温かい雰囲気を持って人に接している様子も、人事部門にふさわしく、求めている人財にピッタリとあてはまったので、戦力として採用を決めさせていただきました」と小川人事部長は黒丸さんの採用時についてふり返る。 研究職から管理部門までさまざまな経験を活かせる仕事を  黒丸さんは、研究開発型の製薬企業に四十数年間勤務して、2023年11月、65歳でその会社を定年退職となった。  製薬会社には研究者として入社し、長年研究開発にたずさわった後、50歳を超えてから退職までは人事領域に異動して、社員向けの研修をになう組織の責任者となり仕事に邁進。57歳のときに役職定年を経験した。  「このとき、今後は肩書きのない一人のプレイヤーとしてどれだけ仕事ができるのかを問われるのだと思い、それまで社内でさまざまな役割を経験したことが自分の強みになると考えて、キャリアコンサルタントの資格を取得し、それからは資格を活かして、企業内キャリアカウンセリングも担当しました。同時に、シニア社員の一人として、自分の行く末についても日々考えるようになりました」(黒丸さん)  65歳で退職する少し前に、産業雇用安定センターのキャリア人材バンクに登録して、求職を申し込んだ。  「65歳まで懸命に働いて、『それなりに満足した会社生活を送ることができた』という気持ちもありました。ただ、コロナ禍にフルリモートを経験した際、何か物足りなさを感じたことを思い出し、自分は組織のなかで、Face to Faceで意見を出し合いながら進めていくような仕事が性に合っているのだと気づいたのです。再就職をするなら、それができる会社で、経験が活かせる人事領域で働きたい、そう思うようになりました。異業種の会社で、これまでと違う世界をのぞいてみたいという好奇心もありました。  とはいえ、フルタイムで働くのはきついかなとも思い、キャリア人材バンクでは『週3日くらいの勤務で採用していただける会社があれば』と少しわがままをいって、求職の申し込みをしました」  キャリア人材バンクの登録は、当時勤務していた会社で、在職中に受けることのできる再就職支援サービスの一つだった。  ほどなくして、産業雇用安定センターからキャリア人材バンクの求人企業の紹介があり、山九の本社を訪ねて面接を受けることになった。  黒丸さんは、山九という会社に対し、経営理念の最初に「人を大切にすること」を掲げていることにまず共感したそうだ。また、社会のインフラを支える大切な事業をになっている会社であること、面接での訪問時に感じた社内の雰囲気に好感を持ったこと、取引先に著名な企業が名を連ねていて世界が広がるような気持ちになったことなどから、この会社に再就職したいと思ったそうだ。「入社してからもいろいろな発見があり、実際に視野が広がっています。よい刺激をいただきながら仕事ができています」と黒丸さんは表情をさらに明るくして話した。 ダイバーシティ推進の準備をにない会社の文化を理解することから始める  同社に入社した黒丸さんは、人事部DEI推進グループに所属。希望通り、週3日、8時30分〜17時30分で勤務している。  DEI推進グループは4人の幅広い年代の社員で構成され、ダイバーシティ推進を担当している。本格的に取組みを進めていくうえで、さまざまな準備を始めたところだという。  「前の会社でもダイバーシティ推進室を立ち上げる準備にたずさわりました。ダイバーシティは何年もかけて徐々に浸透し、会社が変化していきます。社員が発する言葉や行動も変わっていく、そんな変化を目の当たりにしました。そのときの経験を、いま活かすことができています。ただ、ダイバーシティは風土改革でもありますから、100年企業の山九の文化を、まず私自身が理解することが大事です。機会をいただいて現場を見学したり、社員のみなさんが大切にしていることの理解に努めたりしながら、どのようにして取組みを推進していったらよいのか、考えています。週3日勤務の私は、フォロワー的な存在です」と黒丸さんは現在の仕事を語る。  週3日の勤務は「ワーク・ライフ・バランスがとれてありがたい」と感じているが、円滑に仕事が進むように、会社にいるときにはできるかぎりグループメンバーとコミュニケーションを取り、成果物を都度共有するように努めているという。  さらに黒丸さんは、次のように話す。  「ダイバーシティの取組みについては、これから承認をもらい、アクションに移していく、まずそこをやっていきます。それから、キャリア自律を支援する取組みにも、時間を注ぐことができたらと考えています。私自身、研究職から人事へ異動した経験があり、最初は戸惑いましたが、やってみるとまったく異なる仕事ということではなく、人事が自分に合っていると思うことができました。山九はいろいろな仕事がある会社ですから、社内にどんな仕事があるのか、社員から見えやすい形にすると、一人ひとりの可能性をさらに広げられるのではないでしょうか。それは、社員にとっても会社にとってもよいことだと思いますので、そんなことも進めていきたいと思っています」  そして、「経験を活かし、つちかってきた能力を発揮できていること、会社から期待してもらえていることにやりがいを感じています」と黒丸さんは話し、笑顔をみせた。 経験豊富なシニアから若い社員が多くを学ぶ  小川人事部長は「黒丸さんは経験豊富なうえ、人をひきつける力が強く、黒丸さんから若い社員が学べることは、じつに多くあると思っています」と語り、黒丸さんの今後の活躍にも大きな期待を示すとともに、「キャリア採用というと、即戦力のイメージを持って採用されると思います。私もそうでした。しかし、それだけでないことを実感しています。若い社員にはいろいろな知識・経験から学んで自身を高めていってほしいので、シニアを採用することで、社外のことを学べる機会ができる、そういった人財育成をキャリア採用のシニアに期待することができています。年齢にかかわらず、今後もいろいろな経験を積んだ方々を採用していきたい」と続けた。  同社が求めるシニア人財については、「技術・技能だけではなく、人と人とのつながりで仕事をすることが多くあるので、人柄やコミュニケーションの面も重視しています。採用した側としては、その方の優れた面を活かす配置をすることが重要だと思います」と小川人事部長は話す。シニアを採用してから心がけていることは、「経験の長い方からは、学ぶものが必ずあります。それを学びたいという気持ちを持って接していると、うまくいくのだと思います」と返ってきた。  さまざまな経験を積んだシニア人財が技術や知識・経験を活かし、さらに活躍できるようにするには、シニアとその力に期待する会社の呼吸が合うことも大事な要素であることが伝わってくる。 ※ 70歳以降は、事業運営や人財育成の観点から個別に契約をするケースもある 写真のキャプション 人事部 松本靖人事企画担当部長兼採用グループマネージャー 人事部 小川晋人事部長 キャリア人材バンクを通じて65歳のときに入社した、人事部DEI 推進グループの黒丸修さん 【P27】 〜65歳超雇用推進助成金のご案内〜 65歳超継続雇用促進コース 65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、希望者全員を対象とする66歳以上への継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施する事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引上げること A定年の引上げ等の実施に対して、専門家へ委託費等の経費の支出があること。また、改正前後の就業規則を労働基準監督署へ届け出ること B1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること C高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年の引上げ年数に応じて160万円まで支給。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース 高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(賃金制度、健康管理制度等)を実施した事業主の皆様を助成します。 支給対象となる主な措置(注1)の内容 @高年齢者の能力開発、能力評価、賃金体系、労働時間等の雇用管理制度の見直しもしくは導入 A法定の健康診断以外の健康管理制度(人間ドックまたは生活習慣病予防検診)の導入 (注1)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 ●支給対象経費(注2)の60%(中小企業事業主以外は45%) (注2)措置の実施に必要な専門家への委託費、コンサルタントとの相談経費、措置の実施に伴い必要となる機器、システム及びソフトウェア等の導入に要した経費(経費の額に関わらず、初回の申請に限り50万円の費用を要したものとみなします。) 高年齢者無期雇用転換コース 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)を1つ以上実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分(勤務した日数が11日未満の場合は除く)の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき30万円(中小企業事業主以外は23万円) 高年齢者雇用管理に関する措置(※)とは、55歳以上の高齢者を対象とした、次のいずれかに該当するもの(a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化 令和7年4月1日から助成金の電子申請はじまりました! 令和7年4月1日から、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)に申請いただいている65歳超雇用推進助成金、障害者雇用納付金関係助成金、障害者職場実習等支援事業が、e-Gov電子申請を利用して申請できるようになりました(*一部未対応)。 電子申請って? 現在、紙によって行われている申請などの行政手続きを、インターネットを利用して自宅や会社のパソコンを使って行えるようにするものです。 e-Govって? デジタル庁がインターネット上で運営する行政サービスの総合窓口です。状況・分野・所管行政機関の条件から手続きを探して、行政手続きの申請・届出を行うことができます。 電子申請のメリットは? ●24時間365日いつでも手続きができます。 ●インターネット経由でどこからでも申請できます。 ●手続きはマイページで管理され、処理状況や通知等を確認できます。 ●パソコン上だけで手続きが完了します。移動時間や待ち時間を気にする必要がありません。 初めて助成金を申請する場合など、助成金制度や要件に関して不明な点がある場合は、都道府県支部高齢・障害者業務課(東京、大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします。そのほかに必要な条件、要件等もございますので、詳しくはホームページ(https://www.jeed.go.jp)をご覧ください。 なお、e-Govの利用方法については「e-Govを初めてお使いの方へ」(https://shinsei.e-gov.go.jp/contents/preparation/beginner)をご確認ください。 【P28-29】 偉人たちのセカンドキャリア 歴史作家 河合(かわい)敦(あつし) 第6回 町奉行から大名相当にキャリアチェンジ 大岡(おおおか)越前守(えちぜんのかみ)忠相(ただすけ) 異例の人事で苦労をするも百戦錬磨の経験を活かし信頼を獲得  大岡越前守忠相は、名奉行として知られていますが、彼の見事なお裁きを集めた『大岡政談』はフィクションです。ただし、非常に有能な幕府の官僚であったことは間違いありません。  日本史の教科書でも、八代将軍徳川吉宗(よしむね)の享保(きょうほう)の改革を支えた江戸町奉行として登場します。例えば、江戸の防火対策として、屋根の瓦葺きと土蔵造を奨励したり、延焼防止や避難場所確保のため多くの火除地を新設したり、町火消を組織して消火活動に町人を参入させたりしています。また、将軍吉宗が小石川薬園内に貧民のための無料診療所(養生所)をつくることを決めた際に、実際に開設に尽力したのは忠相でした。  さらに地方御用掛(ごようがかり)も兼務し、地方功者と呼ばれる田中(たなか)丘隅(きゅうぐ)ら農政官僚を使って武蔵野新田を造成したり、堤防強化と浄水のため小金井を中心に玉川上水両岸に桜樹を植えたり、酒匂(さかわ)川に強固な堤防を構築させたりもしています。救荒用作物としてサツマイモの栽培を普及すべきだと献策した青木(あおき)昆陽(こんよう)を登用したのも忠相でした。  このように江戸町奉行として20年にわたって八面六臂の活躍をした忠相でしたが、還暦を迎えた1736(元文(げんぶん)元)年8月、大名しか就けない寺社奉行に栄転しました。  寺社奉行とは、譜代大名が就く役職です。異動の際、2000石を加増されたとはいえ、約6000石の旗本に過ぎない忠相がなれる役職ではありません。実際、異例の人事で、旗本の寺社奉行は前代未聞のことでした。  このため、忠相は同僚たちのいじめを受けてしまいます。例えば、江戸城に登城した際、忠相が寺社奉行の控え室に入ろうとすると、相役の井上(いのうえ)正之(まさゆき)から「ここは奏者番の詰め所であって、あなたが入れる部屋ではない」と入室を拒まれました。じつは寺社奉行は、奏者番を兼務するのが慣例だったのですが、忠相は旗本だったこともあり奏者番には任命されていなかったのです。これを逆手にとって、井上ら寺社奉行の面々は嫌がらせをしたのでした。  また、寺社奉行は、将来、若年寄や老中になる前途有望な青年大名の出世コースでもありました。そのため、還暦の忠相とほかの奉行たちとは、親子以上の歳の開きがありました。つまり、石高だけでなく、年齢のうえでも異例な存在ゆえ、周りから煙たがられてしまったのでしょう。  忠相にとって、新しい職場は針のむしろだったはずです。なお、冷遇されていることを聞き知った将軍吉宗は、哀れに思って忠相のために特別な詰め所をつくってあげたそうです。  ただ、さすが百戦錬磨の忠相、しばらくすると相役たちから敬愛されるようになりました。同僚が自分を見下しても怒らず、むしろ積極的に彼らの仕事を補佐したり、助言をしたりしたからです。いずれも若い譜代大名たち、経験値では到底、忠相にはかないません。そこで彼らは忠相を頼りにするようになり、ついには師とあおぐようになったと伝えられています。  忠相は、老骨にむち打って70歳を過ぎても寺社奉行の仕事に専念し、火事で焼失した上野寛永寺のお堂の再建、徳川家康の130回忌法会、将軍の寺社参詣の下見などを精力的にこなしていきました。 徳川吉宗に仕えた生涯 いまなお愛される大岡越前  長年仕えてきた将軍吉宗が引退を表明したのは、1745(延享(えんきょう)2)年9月1日のことです。このとき吉宗は62歳でした。このおり忠相は吉宗に直々に呼び出され、相談にあずかったといわれています。忠相も69歳の老齢でしたが、吉宗の信頼が厚かったことがわかります。  新たに将軍になった家いえ重しげ(吉宗の長男)は、すでに35歳になっていましたが病弱で、引っ込み思案でした。そのため幕閣では、吉宗の三男で聡明な田安(たやす)宗武(むねたけ)を推す声も強かったのですが、吉宗は長子相続制度を遵守したのです。  こうして家重とその側近が江戸城本丸に入り、吉宗は西丸へ移って大御所と呼ばれました。「大御所」は、将軍を引退した人の呼称ですが、大御所になったのは家康、秀忠に次いで吉宗が三人目となります。通常、大御所は将軍の背後にあって絶大な政治力を持つのが常でした。当然、吉宗もそうしようと考えていたと思われます。ところが引退した翌年11 月、中風※の発作に倒れてしまいました。幸い命に別状はなく、翌年3月1日に床上げの祝いが行われました。ただ、家重の後見をするのはむずかしかったようです。  一方忠相は、1748(寛延(かんえん)元)年にようやく奏者番に就任し、寺社奉行と兼務するようになりました。このおり4080石を加増され、石高は1万石に達しました。そう、ついに大名に栄達したのです。  きっと吉宗の配慮があったのでしょう。しかし、その吉宗は1751年5月に再び中風の発作を起こし、6月20日に息を引き取ってしまいました。68歳でした。  吉宗の葬儀は、老中の松平(まつだいら)武元(たけちか)や若年寄の板倉(いたくら)勝清(かつきよ)が総責任者となり、同年閏6月10日、寛永寺において執行され、忠相は葬儀の準備委員となって支度に奔走しました。ただ、かなり体調が悪く、それをおしての仕事だったそうです。  同年11月、忠相は寺社奉行と奏者番の辞任を申し入れました。寺社奉行の辞職は認められたものの、奏者番については却下されました。しかし、それから一月後の12月2日、まるで吉宗の後を追うかのように75歳の生涯を閉じたのです。遺体は、相模国堤村(つつみむら)(神奈川県茅ヶ崎市)浄見寺(じょうけんじ)に葬られました。いずれにせよ、忠相は生涯現役を貫いたのです。  ところで、現在の赤坂見附(あかさかみつけ)駅近くに忠相の下屋敷があったのですが、忠相は屋敷地に豊川稲荷社を分霊して深く信仰していました。明治時代になって稲荷社は屋敷地から青山通りの対岸に遷されました。これが現在の豊川稲荷東京別院です。だから境内には、いまも大岡越前御廟があります。このほかさまざまな神の祠があり、商売繁盛や家内安全、金運や福徳開運など多くの御利益があるとされています。テレビ局に近いこともあって、芸能人の信仰も厚いようです。  また、江戸後期から明治時代に成立した大岡政談によって大岡越前守は名奉行となり、小説や映画となりました。そうしたこともあり、1912(大正元)年には政府から従四位が贈られ、翌年にはその墓前(浄見寺)で贈位祭(奉告祭)が大々的に行われました。なんと1万人が参列したといわれており、その人気のほどがわかります。以後、毎年大岡越前祭が開かれるようになり、関東大震災や戦争のために中断したものの、1956(昭和31)年に復活し、それ以後は茅ヶ崎市、茅ヶ崎商工会議所、大岡奉賛会、茅ヶ崎市観光協会などが後援する茅ヶ崎市の大きなイベントとして続き、2025(令和7)年4月には70回を数えるほどになっています。 ※ 中風……脳血管障害のこと 【P30-33】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第154回 神奈川県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 ダイバーシティに注力し生涯現役の職場を実現 企業プロフィール 株式会社栄和(えいわ)産業(神奈川県綾瀬(あやせ)市) 創業 1974(昭和49)年 業種 自動車部品の製造 従業員数 174人 (60歳以上男女内訳) 男性(18人)、女性(7人) (年齢内訳) 60〜64歳 11人(6.3%) 65〜69歳 7人(4.0%) 70〜74歳 5人(2.9%) 75歳以上 2人(1.1%) 定年・継続雇用制度 定年67歳。基準該当者を年齢上限なく継続雇用。最高年齢者は仕上げ担当の81歳  神奈川県は、関東平野の南西部に位置しており、東京都に隣接する横浜市と川崎市を中心に人口が密集し、東京都に次いで全国2位の人口を擁しています。  JEED神奈川支部高齢・障害者業務課の伊東(いとう)正人(まさと)課長は「神奈川県の事業所数は約28万5000所、従業員数は約352万6000人で、ともに全国4位の多さです※1。商工業地帯、宅地の占有が多い反面、県の約半分を農地・森林が占め、県中央部分には豊かな森林と田園が多く残り、水稲や野菜、果物、足柄茶(あしがらちゃ)、鶏卵などを生産しています。また、地域企業の特徴の一つとして、横浜みなとみらい21地区は、都内などからの大企業の本社・研究開発拠点や関連企業などの移転が複数あり、オフィスビル、関連ビルの建設が次々と進んでいるほか、文化施設や商業施設などの多彩な施設も集積され、街並みの様子はここ数年でだいぶ変わってきています」と話します。  同支部に多く寄せられる相談については、次のように説明します。  「改正高年齢者雇用安定法が施行され4年が経過したいまでも、70歳までの就業確保措置の努力義務に課題意識をもった企業からの問合せがあります。最近は、高齢社員の個人差が大きくなる状況においての雇用管理に関する相談が増えています。中小企業においては、働き手の不足から、定年後も運用で高齢社員を継続雇用している企業が多いことから、該当する企業に対して、相談・助言、制度改善提案を通じて、規定などの整備をうながすことにも力を入れています」  同支部で活躍するプランナーの一人、関(せき)芳矩(よしのり)さんは、2007(平成19)年からJEEDの高年齢者雇用アドバイザー、プランナーとして活動し、今年19年目を迎えた大ベテランです。80歳を超えたいまも精力的に県内の事業所を訪問し、訪問先の実態に合わせた助言を行っています。  関プランナーは「高齢社員の能力をうまく活用できている企業は、総合的に勢いがあると思います。定年や役職定年など、会社の制度には高齢社員のモチベーションを下げる材料がたくさんあります。この意欲低下をどう切り替えていくかが大切です」と語ります。  今回は、関プランナーの案内で株式会社栄和産業を訪れました。 ダイバーシティの力で笑顔あふれる未来をつくり出す  株式会社栄和産業は、神奈川県横浜市戸塚(とつか)区にて1974(昭和49)年に創業、1981年に綾瀬市に移転し、自動車部品、ショベルカーなど建設機械のエンジンフードや、バスのパネルフロントルーフなどを製作しています。現在は綾瀬市内の12の工場のほか、静岡県沼津(ぬまづ)市に工場を構えています。  同社は、「ダイバーシティの力で笑顔あふれる未来を創りだす」を企業理念に掲げ、年齢、性別、障害の有無、国籍の垣根をとり払い、だれでも活躍できる会社づくりを目ざしています。  高齢者雇用だけではなく、障害者雇用にも注力しており、県内13校の特別支援学校、インクルーシブ教育実践推進校から、職場実習を受け入れて、現在15人の障害のある人が同社で働いています。  また、外国籍労働者も積極的に雇用しており、カンボジア人、タイ人、ラオス人の53人が在籍。日本語がまったく話せなくても雇い入れ、母国語で仕事ができる環境を整えています。  女性活躍推進については、「私が入社したころは母(前社長夫人)しか女性はいませんでした」(伊藤(いとう)正貴(まさたか)代表取締役社長)とのことですが、現在は全社員の約2割にあたる31人の女性が活躍するまでになりました。同社の女性活躍推進の取組みは高く評価されており、2019(令和元)年12月に「えるぼし」認定の三ツ星を取得しており、将来的には男女比が半々になることを目ざしています。  また、2020年3月に「新・ダイバーシティ経営企業100選」(経済産業省)、2021年3月に「日本でいちばん大切にしたい会社」大賞審査委員会特別賞を受賞、2023年3月に「障害者雇用に関する優良中小事業主に対する認定制度(もにす認定制度)」の認定を受けています。 高齢社員の生き方が若手社員のお手本に  栄和産業では、2019年に67歳定年、基準該当者を年齢上限なく継続雇用する制度を導入しました。その背景について伊藤社長は次のように説明します。  「昭和のがむしゃらに働く時代は、みんなが無理をして働き、結果、疲労して50歳くらいで退職するケースが多く、定年を迎える人はなかなかいませんでした。そんな“人の力”でなんとかしていた時代から、次第に現場の機械化が進み、生産性の高い機械をどれだけ持っているか、という時代になりました。当社も機械を多く導入したことで社員の総労働時間も減っていき、定年を迎えられるようになりました。そこで定年を延長し、セットで年齢上限のない継続雇用制度を設けました。実質的に定年はないようなものですが、『定年』を機に後進の育成を意識してほしいと思っています」  同社では、定年後もほとんどの社員が継続雇用で働くことを希望しているそうです。本人が自身の定年や退職を意識し、その後どうするのか考え始めるのは定年の1年くらい前からとのこと。定年後もほぼフルタイム勤務を継続しますが、70歳を境に勤務形態を見直す人が増えており、週4日勤務や、短時間勤務など、本人の希望と健康状態に応じて、柔軟に対応しています。  「当社で高齢者が長く働いている要因の一つに、柔軟な勤務制度があると思います。最年長は81歳で、いまもフルタイムで働いています。若手が自分の将来を考える際のお手本のような存在です。私は、若手に定年や年金、高齢になってからの働き方を考えるように話しています。まだピンとこなくても、80代の社員が活躍する姿を見て、自分の生き方に重ねられるくらいの意識を持てるようになってほしいですね」(伊藤社長)  今回は、65歳を超えて活き活きと活躍するお二人に話をうかがいました。 新入社員の教育計画を立てるアドバイザー  佐々木(ささき)一照(かずてる)さん(67歳)は、46歳のときに同社に入社しました。以前は本社工場に勤務していましたが、2022年に稼働した吉岡第6工場に本社工場の機能が移ったのと同時に異動。現在はアドバイザーとして若手育成を担当しています。  第6工場は、おもにバスやトラック部品の板金・溶接などの工程を行っています。佐々木さんは「取引先がいくつもあり、納期が重なってしまうことがあります。その際は案件ごとに工程を見きわめ、優先順位を決めて、時間がかかる案件を途中まで進めておくなど、工夫して工程管理を行っています。作業人数が多ければ、人数の割りふりで調整できますが、2〜3人で行っているので、すごくやりくりがむずかしい。ですが、それがやりがいでもあります」と語ります。  佐々木さんは、新入社員の実習計画の策定を担当しており、マニュアルの作成なども行っています。基礎から応用までまんべんなく組み込んだもので、「むずかしい仕事ですが、後進を育てていかないと、辞めるに辞められません」と笑いながら話し、若手育成に意欲を見せていました。  製造部グループリーダーの三浦(みうら)祐樹(ゆうき)さん(31歳)は、佐々木さんから技術的な指導を受けています。「むずかしいところはていねいに教えてくれますし、ときどき『調子はどう?』と様子を見にきてくれるところもありがたいです。仕事以外でも車の不具合の相談や、保険のことなど、いろいろなことを教えてくれるので頼りにしています。今後は佐々木さんの仕事を私が引き継いでいけたらと思っています」 営業、製造、社内教育の改善まで提案する顧問  製造技術部門および営業渉外部の顧問として活躍する有地(あるち)毅成(たけのり)(68歳)さんは、Tier1(ティアワン)サプライヤー※2の自動車部品メーカーを定年退職後、前職でつきあいがあった栄和産業の求人情報を見て入社しました。「自動車部品や建設機械キャビンの設計・開発を40数年経験した後、戦略的な情報収集であったり、提案をしたりする業務をになってきたので、その経験を活かせると思いました」とふり返ります。  現在は、取引き先へのVA/VE(品質維持とコスト削減を目的にする方法)提案から、社内業務の合理化提案、教育体系立案まで、積極的に提案活動を行っており、そのかたわら、経済動向や業界動向の情報収集を行い、伊藤社長はじめ社内での共有に努めています。  「私が行う提案に対して、顧客や同僚からよい反応があるとやりがいを感じます。今後も経済や業界の動向の情報収集に努め、分析と情報共有をしていきたいです」  若いころは空手やキックボクシング、登山など、力強い競技や趣味に打ち込んできたという有地さん。「最近は体力の衰えを感じることもある」と話しますが、いまの趣味はボクシングとのこと。「行き過ぎなければよい運動です」と涼しい顔で話します。最後に「会社という公器を少しでもよい状態で後任に渡したい」と抱負を述べました。  営業渉外部次長の森田(もりた)雅博(まさひろ)さん(58歳)は、有地さんとともに新規開拓の企業や協力企業を訪問しています。「有地さんは人脈が広く、これまで接触がなかった企業と面談ができるようになりました。営業活動で得た情報を適正に共有してくれるところも頼りになります。好奇心が旺盛で新しいことに興味を持ち、柔軟なところもすばらしいです」と話していました。  取材を終え、関プランナーはJEEDの『70歳雇用推進事例集』※3を伊藤社長に示し、「参考に」と同業種で規模が近い企業事例を紹介していました。そして「栄和産業は4〜5年で高齢社員がぐっと増えました。高齢社員のモチベーションを高く維持するには、会社側が高齢社員をどうとらえているかがたいへん重要です。佐々木さんも有地さんも会社から期待されていますし、同社は今後も伸びていくと思います」と、今後への期待を語りました。 (取材・西村玲) ※1 総務省統計局「令和3年経済センサス−活動調査」 ※2 Tier1(ティアワン)サプライヤー……自動車メーカーと直接取り引きする一次サプライヤーを営む企業。Tier1に部品などを納品するTier2、Tier2に納品するTier3と続く ※3 裏表紙をご参照ください 関芳矩プランナー アドバイザー、プランナー歴:19年 [関プランナーから] 「プランナーにとって大切なのは専門的知識によるアドバイスとなります。高年齢者雇用安定法にともなう制度の相談や助言とあわせて、総務担当者が見落としがちな改正労働法令、賃金制度、健康管理、安全管理、労働者と企業のコミュニケーションなどについて、時間をかけた相談・助言活動を心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆神奈川支部高齢・障害者業務課の伊東課長は関プランナーについて、「年齢は80歳を超えていますが、バイタリティにあふれています。現在も特定社会保険労務士として活躍しており、その一方でJEED の業務にもご協力いただいています。日ごろから懇切ていねいな説明と適確な助言を行っており、訪問企業からの評判もよく、提案実績を伸ばしています。当支部にとって、なくてはならないプランナーの一人です」と話します。 ◆神奈川支部高齢・障害者業務課は、相鉄本線の希望ヶ丘駅(南口)から徒歩約12分。関東職業能力開発促進センター(ポリテクセンター関東)内にあります。 ◆同県では20人のプランナー・高年齢者雇用アドバイザーが活動し、年間約1000件の相談・助言活動を行っています。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●神奈川支部高齢・障害者業務課 住所:神奈川県横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 電話:045-360-6010 写真のキャプション 神奈川県綾瀬市 本社工場 伊藤正貴代表取締役社長 溶接の手本を見せる佐々木一照さん 提案事項を整理する有地毅成さん 【P34-35】 第104回 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 石井サイクル 店主 石井(いしい)誠一(せいいち)さん  石井誠一さん(102歳)は、13歳で自転車修理の修業を始めた。下町の風情が漂う住宅街の一角で、いまもなお現役で自転車修理の店舗を営む。「この仕事が大好きで、楽しくてたまらない」という石井さんが、90年の長い歳月を自転車修理ひとすじに歩いてきた、生涯現役で働く醍醐味を語る。 13歳で出会った天職  私は1922(大正11)年に東京の神田(かんだ)で生まれましたが、その後は東京市内を転々としました。東京市が東京都になったのは1943(昭和18)年のことでした。3人兄弟の長男の私は13歳で奉公に出されます。尋常小学校を卒業して高等小学校に進んだものの1年で中退しました。  そのころ住んでいた巣鴨(すがも)にあった大衆演劇の演芸場に通っては、夜遅く帰宅して叱られたことなど懐かしい思い出です。勉強嫌いでやんちゃな長男を早く奉公に出そうということになったのだと思います。  奉公先は京橋(きょうばし)の自転車屋で、父が探してくれました。小学校のころ、近所の自転車屋で修理の仕事をみるのが好きで、おもしろそうだと思っていたので奉公の不安はなかったです。当時の自転車屋は注文で自転車をつくっていました。それを店内の壁際に飾るのですが、いまのように軽い自転車ではなく、高い所へ持ち上げる作業は、13歳の小僧には重労働でした。ただ、修理の仕事は楽しかったです。休みは月2回、銀座が近かったので休日が待ち遠しかったです。  私は「藪(やぶ)入り」を経験しています。「藪入り」とは住み込みの奉公人が年2回(お正月とお盆)実家に帰れるという年中行事です。初めての「藪入り」では兄弟子の着物を借りて、鳥打帽(とりうちぼう)をかぶって意気揚々と実家に帰りました。  大みそかにはおかみさんが新しいジャンパーを買ってくれてうれしかったけれど、本当は自動車の整備工が着ているようなつなぎの服がほしかったと石井さん。話し上手で、その名調子につい聞き惚れてしまう。 戦禍の時代を生き抜いて  親方に鍛えられて自転車修理の腕は上達しましたが、奉公して4年ほど経ったとき、軍需工場に駆り出され、しばらく自転車の仕事から遠ざかることになりました。軍需工場のほうが奉公のときよりも賃金が高くて、その分を家に入れたら母が喜んでくれました。父は私が16歳のとき、47歳の若さで亡くなりました。  1941年12月8日、ついに太平洋戦争が勃発、1943年4月に私も召集されました。入隊して4カ月間訓練を受けたあと、所属部隊は南方戦線と中国戦線にふり分けられ、私は中国戦線要員に選ばれました。南方戦線は激戦地でしたから、こちらにふり分けられたら生きて帰れなかったかもしれません。人の運命というものは不思議なものです。  中国へは韓国の釜山(ぷさん)から汽車で入りました。バンプウという街でした。その後は山腹にひそみ、敵軍の補給路を断つ任務につきました。  だんだんと戦況が悪化するなか、手投げ弾で自爆した戦友もいましたが、1945年8月15日に終戦を迎え捕虜となりました。捕虜といっても私のいた部隊は、破壊された橋や建物などを修繕する仕事でした。  終戦の翌年6月、引き上げ港として指定されていた山口県の仙崎(せんざき)港へ上陸しました。そのとき私は、24歳になっていました。  戦争の話をしながら、中国で苦労をともにした戦友の名前をすべてフルネームで語る石井さんの記憶力に圧倒された。「戦争は二度とごめんですか」と問うと、石井さんは黙ったまま大きくうなずいた。 再び自転車修理の世界へ  山口県からなんとか東京へ戻ったものの、当時母が暮らしていた小石川(こいしかわ)の家は跡形もなく、母が身を寄せていた叔父の家を訪ねました。ただ叔父が母に与えていた部屋があまりにもみすぼらしかったので、母を連れ出し、今度は世田谷(せたがや)の父の兄を頼りました。この伯父は経理畑を歩いてきた温厚な人で、出征前の私もたいへんお世話になった人です。しばらく伯父が経理を担当している会社の仕事を手伝いました。あるときたまたま新聞で新橋の自転車屋が人を募集している記事を読み、さっそく出かけていきました。試験代わりということか、2台の自転車のハンドルやサドルの交換、リヤカーの太いタイヤの取りつけなどをいい渡され、7年ほどのブランクにひやひやしながらなんとか合格点をもらいました。  その後、26歳で結婚。生活のために好条件の店に移ったり、自分で部品の売買をやってみたり、自転車を掃除する巡回訪問を手がけるなど、紆余曲折がありましたが、1956年に現在地に「石井サイクル」を開業、間もなく創業69年を迎えます。これまで私の親戚はもちろん妻の親戚にも世話になりました。そしてこの鐘ヶ淵(かねがふち)に来てからは地域の人にずいぶん助けてもらいました。  このあたりもずいぶん変わり、以前の活気もなくなりました。それでも親子3代で利用してくださっている人もいますし、一人暮らしを気遣ってくださる人もいて、いろんな街を転々として最後にここへたどり着けたことは幸せです。  親戚の紹介で知り合った妻の千恵子さんが亡くなって34年になる。元気なときは一緒に日本各地を旅行し、海外にも足を伸ばした。「楽しい思い出も多いです」と石井さんが相好を崩した。 生涯現役で好きな仕事を続ける喜び  102歳の自転車屋が珍しいのか、よく聞かれるのが、「長い間仕事を続けていられる原動力は何ですか」ということです。そのたびに私は、「この仕事が好きだから」と答えます。自転車をいじっていられることが楽しくてたまらないのです。パンク修理やフレームのゆがみの修正など、仕事はいくらでもあります。自転車に関して、直せないものはないというのが90年この道を歩いてきた私の誇りです。ほかの自転車屋が直せなかった修理を頼まれることがあり、そういうときは年がいもなく意欲がわいてきます。  いまはパンク修理のお客さんが多いですが、ブレーキの不具合は必ず点検しています。お客さんの命を預かる仕事だから手抜きはできません。  妻を早くに亡くして、一人暮らしにも年季が入っており、洗濯は毎日欠かしません。食事は大体1日2食、朝はトースト、夕食は宅配弁当が中心ですが、炊き込みご飯やおかずを届けてくれるご近所さんがいてありがたいことです。店の2階で寝起きし、朝7時には店に降り、夕方6時ごろまで開けています。休みは日曜日だけ、正月三が日以外は自転車に触れています。一男一女に恵まれ、孫やひ孫が8人おり、みんなに会うのは楽しみですが、何よりの楽しみは週に一度のカラオケです。自転車でなじみの店に出かけ仲間に囲まれながら大好きな北島三郎を歌うときが至福の時間です。もう少し長らえて、早逝した父や妻の分まで人生を楽しみ、市井(しせい)の自転車屋として生涯現役を貫こうと思います。 【P36-39】 加齢による 身体機能の変化と安全・健康対策  高齢従業員が安心・安全に働ける職場環境を整備していくうえでは、加齢による身体機能の変化などによる労働災害の発生や健康上のリスクを無視することはできません。そこで本連載では、加齢により身体機能がどう変化し、どんなリスクが生じるのか、毎回テーマを定め、専門家に解説していただきます。第6回のテーマは「高齢社員のメンタルヘルス」です。 早稲田大学名誉教授 順天堂大学客員教授 竹中(たけなか)晃二(こうじ) 第6回 高齢社員のメンタルヘルス 1 はじめに  少子高齢化にともない労働力人口が減少するなか、高齢者の雇用促進が叫ばれています。雇用の延長や再就職を望む高齢社員の数は、経済的なニーズもともなって、今後も増えていくことが予測されます。しかし、企業における高齢社員の増加にともなって生じる年齢構成の偏りや役割分担の再構築などによって、彼らの意に沿わない事態も生じてきます。例えば、いままでの部下が上司になったり、慣れないパソコン作業やインターネットの操作に従事したりと、従来とは異なる業務に四苦八苦している高齢社員もいることでしょう。  また、高齢社員のなかには、「やりがいの持てる仕事を昔ほど任せてもらえなくなった」という不満があったり、一方で自身の身体は疲れやすく、体力の低下を自覚する人も増えてきます。  そのため高齢社員のメンタルヘルスを守るための課題を整理し、あらかじめ予防策を講じておくことは、企業にとって高齢社員の有効活用に役立ち、なによりも高齢社員自身の心身の健康を守るために重要なことです。 2 高齢社員の生きがい  高齢社員のメンタルヘルスに大きな影響を与える「生きがい」について考えてみましょう。高齢者にかかわる生きがいには、「生活地盤的要素(居りがい)」と「生活目標的要素(行きがい)」があります※1。「生活地盤的要素」とは、自分の存在意義ややりがいを表し、健康度、社会経済的地位、社会活動の3要素に大別されます。この要素は、まさに高齢社員が担当する仕事の変化にかかわっています。一方、「生活目標的要素」は、人生の価値や意義、喜び、張り合い、生きがいなどをさし、主観的幸福感の概念に相当し、広く生活の質に影響します。高齢社員のメンタルヘルスを守るためには、これら二つの要素に並行して配慮する必要があります。 (1)生活地盤的要素への配慮  高齢社員にとって、自分を犠牲にして積み上げてきた会社への貢献や実績は、彼らのプライドを支え、しかし若い世代や中間層の社員には理解してもらえないというもどかしさがあります。このもどかしさは、仕事についての動機づけを低下させる原因になります。しかし、この動機づけの低下は、さらに生活地盤的要素に悪影響をおよぼすために、会社側が行える対策と高齢社員自身が行える対処法を準備しておく必要があります。  また、職場などで生じるジェネレーション・ギャップは、仕事のやり方や価値観に大きな影響をおよぼします。50代後半〜60代の人は、長く会社中心の生活を送り、ゼネラリスト志向で、褒められるよりも叱られて育ち、がまんすること、皆勤、無遅刻・無欠勤が美徳と教えられた世代です。特にゼネラリストとして仕事を行ってきた世代には、スペシャリストや個性尊重といわれて育ってきた若い世代との違いを意識することになり、それらはストレスのもとになります。理不尽な下積み生活を続けてきた高齢社員にとって、下積みを嫌い、過程よりも結果を重視する中堅・若手とのつきあい方に戸惑いが生じています。さらに、世の中すべてのスピード感が速くなってきて、昔に通用していたことがいまに活かされないことが多くなっています。  しかし、活かせる内容もあります。仕事の本質は、自分の働きによってアウトプットに価値を加えること、よりよい成果を得るために効率的なプロセスを組むこと、だれか他者の役に立つことです。長くつちかってきた高齢社員の経験は、きっと本質的な仕事の価値に結びつくはずです。職場では、そういう彼らの経験を活かせる仕事を適材適所に配置し、ほかの世代への支援として役立っていることにやりがいを感じてもらうことです。一方で、お互いの接し方に注意が必要です。ほかの世代が高齢社員をリスペクトして学ぶ姿勢を持つこと、また逆に高齢社員の方からジェネレーション・ギャップの存在を意識したうえで、中堅・若手との関係づくりに注力することが重要です。 (2)生活目標的要素への配慮  生きてきた年数よりも、これから生きていく年数のほうが短くなり、仕事中心の生活だった高齢社員にとって、残された年数をどう生きていくかを考えることはきわめてむずかしい課題です。  職場では、ワーク・エンゲージメントと呼ばれるように、仕事に生きがいを見いだす生き方があります。ワーク・エンゲージメントとは、仕事に対してのポジティブで充実した心理状態のことで、仕事にやりがいを感じ、熱心に取り組み、仕事から活力を得ている状態です。しかし、ややもすると、仕事に対して依存的になってしまってメンタルヘルスを病む原因になりかねません。そこで、仕事と家庭、仕事と趣味のバランスを取りながら生活するワーク・ライフ・バランスを保つことが重要になります。  高齢社員は、ワーク・ライフ・バランスを保って生活を送っている周りの社員から学んでみたらいかがでしょうか。図表1は、メンタルヘルス状態のよい中高年者が日常生活で行っている「意味がある活動」です。これは、高齢者が日常生活において満足度を強化することを目的に推奨されているものです※2。仕事以外の活動にも目を向け、バランスの取れた生活を送ることで生活目標的要素が強化されます。 3 高齢社員がメンタルヘルス不調にならないために推奨する活動  ここからは、高齢社員のメンタルヘルス不調を予防する方法について解説していきます。働く人たちにとって、職場に心の問題が存在することをだれもが知っています。しかし、自分に何もなければ「人ごと」と思うだけです。多くの人がメンタルヘルスの職場研修に参加しているのですが、予防の観点が希薄で知識が実生活に活かされておらず、自覚症状がなければ何の行動もとらないのが実情です。周りが気がつき始め、またご本人に自覚症状が出てきたときには、すでに深みにはまっているものです。そうなれば、専門の病院や専門家に治療を行ってもらう対症療法に任せることになります。ここでも職場復帰が思うようにいかない場合は、優秀な人材を失うことになってしまいます。  職場で行うメンタルヘルス研修では、早期発見・早期対応が中心で、具体的な一次予防対策については触れられていません。本稿で紹介するメンタルヘルス不調への対策は、まず日ごろからストレス・マネジメントと呼ばれる予防(プリベンション)を生活のなかに取り込むこと、そしてポジティブ・メンタルヘルスの強化(プロモーション)を行うことです※2※3。  プリベンション(予防)とは、事前予防や一次予防のことで、ストレスなどが原因でメンタルヘルスが悪くなって体調を崩す可能性があることを前提にして、その原因を突き止め、和らげたり、対処法を身につけさせることです。一方、プロモーションは、メンタルヘルスについて意識や関心を高め、行動を起こしやすくすることで、ポジティブ・メンタルヘルス(喜び、楽しみ、充実感など)を強化し、ネガティブな反すう(嫌なこと、ストレスになることばかりに目を向けて大きくさせる)を和らげることにつなげます。 (1)プリベンション(予防):ストレスマネジメント  予防をになうストレス対処は、一般にストレス・マネジメント(ストレスの自己管理法)と呼ばれています※4。  ストレス・マネジメントでは、自分に立ちはだかるストレスを特定し、和らげたりするために以下の五つの対処法が考えられます。 @認知的方略:物事を合理的に考え、楽観的になり、気晴らしをする。 A対処資源の増強:能力、体力を増強し、よい人間関係を構築する。 Bリラクセーションまたはアクティベーション:緊張を解く(消化)、あるいはからだを動かす(昇華)。 C臨床的処置:専門機関を受診・通院し、治療を受ける。 D一時的避難:しばらく様子を見る、時間をおく。 (2)ポジティブ・メンタルヘルスの強化:メンタルヘルス・プロモーション  メンタルヘルス不調を起こすことを前提にして予防することとは別に、ポジティブなメンタルヘルスをいかにつくっていくかは、高齢社員のこころを守るうえで重要な課題です。欧米諸国では、専門的なメンタルヘルス・サービスにおいて精神疾患・障害を予防し、また治療を試みている一方で、ポジティブ・メンタルヘルスの強化を目的とする行動を積極的に奨励しています。これらの試みは、共通して、ネガティブ側面の低減に焦点を絞るのではなく、ポジティブ・メンタルヘルスの強化によってメンタルヘルス問題の予防をとらえている点が特徴です。  ここでは、その方法として、私たちがさまざまな場で推奨してきた活動のなかから、@こころのABC活動、A職場の雰囲気づくり:DJB(大丈夫?)、の2点について簡単に解説を行います。 @こころのABC活動(38ページ図表2)  私たちは、被災地域を中心に、「こころのABC活動」と名づけたメンタルヘルス・プロモーション活動を開始しました※5。「A:Act」は、散歩する、好きな音楽を聴く、友達と話すなど、からだ、こころ、そして人とも活動的に過ごすことをさします。「B:Belong」は、行事に積極的に参加する、趣味のサークルに参加するなど、社会的集団に属すことで集団への帰属意識を高め、同時に他者からのサポートを得やすくしています。「C:Chall enge」は、新しい活動に挑戦する、ボランティア活動を行う、困っている人を助けるなど、新規の活動や社会奉仕活動をうながす活動を意味します。それぞれの活動を、能動的に実践することで満足感や達成感を味わうことができます※6※7※8。  「こころのABC活動」では、肯定的な態度変容を目的として、対象者が望ましい活動に積極的に取り組み、メンタルヘルスをよい状態に保持することを目ざしています。動画(https://www.youtube.com/watch?v=i5RolvCetqY&t=28s)を配信していますのでぜひご覧ください。 A環境を整える:DJB(大丈夫?)(図表3)  職場で日ごろから声をかけあうことは、人間関係を円滑にするだけでなく、相手に相談しやすくさせます。メンタルヘルスに問題を持つ人は、その気持ちをだれかに伝えたり、ましてや専門家に相談したりすることはハードルが高いと考えがちです。専門家も問題を抱える人をいかに相談のテーブルにつかせるか、連絡させるかという援助要請をうながすことにむずかしさを感じています。オーストラリアで行われている「R U OK?(Are You OK?)」は、R U OK?と声をかけること、つまり人々が定期的に簡単な声がけをしあったり、それをきっかけに会話を行うことで地域メンバーを元気づけたり励ましたりするキャンペーンで、自殺を防止するために実施されています。私たちも、「DJB(大丈夫?)キャンペーン」と称して、メンタルヘルスに問題を持つ(かもしれない)人を含めて、彼らが相談しやすいように、さまざまな声がけをすることをうながしています。  以上、本稿では、高齢社員のメンタルヘルスと題して、メンタルヘルス不調のプリベンション(予防)やプロモーションについて述べてきました。人事・労務の部門にいらっしゃる方には、高齢社員の仕事のやりがいを確保しつつ、高齢者の特徴に合わせた対応が求められます。 ※1 谷口幸一(2010).高齢者の生きがい 佐藤眞一・大川一郎・谷口幸一編 老いとこころのケア:老年行動科学入門. ミネルヴァ書房 ※2 竹中晃二(2023).ヤング中高年:人生100年時代のメンタルヘルス.集英社新書 ※3 竹中晃二(2021).メンタルヘルス不調の予防を目的としたセルフケア活動実践のすすめ 看護 10, 76-81. ※4 Matheny, K.B., Aycock, D.W., & McCarthy, C.J. (1993). Stress in school-aged children and youth. Educational Psychology Review, 5, 109-134. ※5 竹中晃二・富永良喜共編(2011).日常生活・災害ストレスマネジメント教育―教師とカウンセラーのためのガイドブック― サンライフ企画 ISBN978-4-904011-37-9 C2047 ※6 竹中晃二・上地広昭・綾田千紘(2020).教員における仕事関連イベントが誘発する気分不調の改善―イフ・ゼン・プランの適用―ストレスマネジメント研究 16, 20-33. ※7 竹中晃二・野田哲朗・山蔦圭輔・松井智子(2020).気分症状改善・回復のための自助方略の検討―デルファイ法を用いた調査―. Journal of Health Psychology Research 33, 125-136. ※8 竹中晃二・上地広昭・吉田椋(2020).イフ・ゼン・プランを用いたメンタルヘルス・プロモーション活動の行動変容介入:準実験的研究 Journal of Health Psychology Research 33, 67-79. 図表1 「意味がある活動」の内容※2 活動の内容 定義 例 身体活 動運動・スポーツ、ハイキングなどのほか健康増進を目的として行う活動 ランニング、筋トレ、登山、ストレッチ ボランティア・地域貢献 他者、地域への貢献を目的とした、無償で行う活動 地域のゴミ拾い、子どもの見守り、動物の保護活動 自己研鑽・啓発活動 知識や能力を身につけ、スキルや技術を高める活動 資格勉強、語学、パソコン教室 ゲーム・動画視聴 スマートフォンやタブレットを用いて行うオンラインゲーム・動画の視聴 携帯ゲーム、テレビゲーム、動画視聴アプリ 音楽鑑賞・活動 音楽鑑賞や楽器演奏 CD、サブスクリプション、演奏 家事(衣食住関連) 日常生活を送るうえで必須となる衣食住全般の活動 料理、掃除、洗濯 家族の世話 育児、両親の介護 育児、両親の介護 読書・創作活動 読書、書道、描画などの創造的活動 読書、書道、描画 信仰 宗教的な意味合いを持つ活動 聖書、神社への参拝 動物の世話 飼育ペットの世話や協同活動 ペットの世話、ペットとの活動 ガーデニング 畑、家庭菜園ほか、庭づくり全般 畑、花の世話、家庭菜園 副業・投資・収集活動 副業・投資、趣味の収集活動 副業、投資、ポイント収集 図表2 こころのABC活動 具体的な例 A…Act からだ、こころ、そして人とも活動的になる 好きな音楽を聴く、好きな本を読む、積極的に外出する、友人とおしゃべりする、家族と今日のできごとを話す など B…Belong 趣味の会、食事会などの集まりに参加する 職場の行事に積極的に参加する、地域で活動する、健康教室に参加する、フィットネスクラブに加入する など C…Challenge さまざまなことに挑戦する 苦手な仕事を引き受ける、友人の相談に乗る、ボランティア活動に参加する、初めての楽器を習い始める など ※筆者作成 図表3  DJB(大丈夫?)キャンペーン 作成:早稲田大学応用健康科学研究室 【P41-43】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第83回 コストカットをねらった役職定年制、無期転換権の不行使同意 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲/弁護士 木勝瑛 Q1 コストカットを目的に役職定年制の導入を考えているのですが、役職定年による賃金の減額は不利益変更に該当するのでしょうか  弊社は現在、経営難に悩んでおります。競業他社に比べて経費率が高く、また役職者の賃金額が高水準であることから、役職定年制を導入して、55歳以上の従業員の賃金についてコストカットをすることで経営状況を改善したいと考えていますが、問題ないでしょうか。 A  役職定年制は、賃金減額をともなう場合には、労働条件の不利益変更に該当します。そのため、@合理性のある就業規則の変更、または、A労働者の同意が必要になります(労働契約法第10条)。今回のように経営難によるコストカットを理由とする場合には、不利益の程度、変更の必要性、内容の相当性、労働組合等との交渉状況といった事情のほか、特定の従業員層(今回であれば 55歳以上の者)のみに負担を集中させていないかといった点が重視される傾向にあります。 1 役職定年制とは  役職定年制とは、従業員が一定の年齢に達したときに、その者の就いている役職を解く制度をいいます。例えば、55歳に到達した者については、その日以後に初めて迎える人事考課時に部長職および課長職を解くといった制度を構築するような場合が考えられます。  役職定年制のねらいは、さまざまあります。本件のように賃金支払総額の抑制によるコストカットを目的とする場合もありますが、高年齢者雇用安定法(以下、「高年法」)による高齢者の継続雇用が規定されて以降は、企業の新陳代謝を図る趣旨で導入されることも多いように思われます。  高年法では、現在、65歳までの雇用の確保が義務づけられているところ、その方法としては、@65歳までの定年の引上げ、A65歳までの継続雇用制度の導入、B定年制の廃止が規定されており、企業は、このなかのいずれかの方法により65歳までの雇用維持を図る必要があります(高年法第9条)。  この点に関連して、例えば、満60歳で定年退職する旨の定年制を有していた企業においては、従前であれば、従業員は、満60歳で退職することになるのだから、責任ある役職・ポストはそのタイミングで空くことが予定されていました。しかしながら、この企業が@65歳までの定年の引上げや、B定年制の廃止を選択した場合には、従前の制度のままだと、@を選択した場合には65歳まで、Bを選択した場合にはその者の退職または降格まで責任ある役職・ポストが空かないという事態に陥ることになります。  そこで検討されるのが役職定年制です。前述の通り、役職定年制を導入した場合には、高齢従業員の雇用を維持したまま、一定の年齢(55歳など)で、その役職のみを外すことができることになります。そのため、上位のポストを高齢従業員が保持し続けてしまうという問題を解決し、若年層の従業員に責任あるポストを与えて企業の新陳代謝を図ることが可能となります。 2 役職定年制の導入 (1) 賃金の減額をともなわない役職定年制  役職定年制には、役職手当の不支給や基本給の減額などの賃金減額をともなうもののほか、単に役職を解くのみで賃金の減額をともなわないものが想定されます。  役職定年制に関するリーディングケースであるみちのく銀行事件判決では、「五五歳到達を理由に行員を管理職階又は監督職階から外して専任職階に発令するようにするものであるが、右変更は、これに伴う賃金の減額を除けば、その対象となる行員に格別の不利益を与えるものとは認められない。したがって、本件就業規則等変更は、職階及び役職制度の変更に限ってみれば、その合理性を認めることが相当である」と判示しました(最高裁平成12年9月7日判決)。  この判例の論旨からすれば、賃金の減額をともなわない役職定年制については、その合理性は比較的肯定されやすく、役職定年制を導入する旨の制度変更の有効性が肯定されやすいものと考えられます。 (2) 賃金の減額をともなう役職定年制  企業としては、役職定年制により従来の役職を解き、その役職とひもづけられた業務や責任から解放するのであれば、その分一定程度賃金を減額したい、あるいは、そもそも賃金支払総額の抑制のために役職定年制を導入したいと考えることもあるかと思います。  もっとも、賃金の減額をともなう役職定年制の導入は、従業員の労働条件の不利益変更に該当するため、@就業規則の合理的な変更、または、A労働者の同意が必要になります。そして、賃金に関する不利益変更は労働者に対する影響が大きいため、その有効性は厳しく審査されることになります。 3 熊本信用金庫事件  コストカットを主たる目的とした役職定年制の導入が問題となった比較的新しい裁判例として、熊本信用金庫事件(熊本地裁平成26年1月24日判決)があげられます。  この事案では、役職定年制度の導入により減額される賃金の程度は、55歳到達後60歳までに毎年10%、60歳到達時には50%の削減率に到達するというものでした。  裁判所は、従業員の被る不利益について、「役職定年到達後の労働者らの生活設計を根本的に揺るがしうる不利益性の程度が非常に大きなもの」と評価したうえで、このような不利益の大きさからすれば、合理性を認めるためには「相当高度な経営上の必要性」があり、かつ、「不利益を相当程度緩和させるに足りる措置」が必要としました。  そのうえで、本件における賃金削減の必要性は「一定程度あった」ものの、近い将来に破綻するような危機が具体的に迫っているものとはいえないとして、高度の必要性までは認定せず、また、本件役職定年制は、55歳以上の職員のみに著しい不利益を与えるものであること、不利益緩和措置が不十分であることなどを理由として、変更の合理性を否定しました。  熊本信用金庫事件では、コストカットの負担を55歳以上の高齢従業員のみに負わせるようなものであったこと、その負担が著しいものであったこと、十分な不利益緩和措置がなされていないことが重視されています。  コストカットを目的として役職定年制を導入する場合には、役職定年制という制度上、役職定年制度単体で見れば、高齢従業員にコストカットの負担を負わせるものになってしまうことはある程度避けられないでしょう。そのため、合理性を担保するためには、ほかの年代にも負担を負わせるような制度と抱き合わせで導入したり、不利益の程度を小さくしたり、不利益緩和措置を講じたりといった工夫が必要と考えられます。 Q2 賞与の支給等を条件に、無期転換権を行使しないことの合意を得ことに問題はないのでしょうか  無期転換を迎えるパートタイマーの従業員について、製品の受注の変動もあるので、雇用の柔軟性は確保しておきたいと考えています。パートタイマーに対して無期転換申込権を行使しないことを前提に、代わりに手当を支給したり、賞与を多めに支給したりすることを検討していますが、本人が同意すれば、そうした対応は可能でしょうか。 A  無期転換申込権発生後であれば、十分な説明を受けた労働者が自由な意思により同意したならば、権利を行使しないことに合意することは有効と考えられます。ただし、無期転換申込権発生前の事前協議によってあらかじめ放棄させることはできません。 1 無期転換申込権の発生要件と留意点  有期労働契約を締結している場合、同一の使用者において、1回以上更新され、かつ、通算して5年を超える期間にわたって労働契約が継続しているときには、通算して5年を超える期間を含む労働契約の期間中において、有期労働契約から無期労働契約に転換する権利(以下、「無期転換申込権」)が労働者に与えられます(労働契約法第18条)。  無期転換申込権は、「別段の合意」がないかぎりは現状の有期労働契約の労働条件を維持しつつ、期間の定めについてのみ無期に変更する内容で労働契約を成立させることができる権利です。使用者は、労働者から無期転換を希望する旨申し込まれたときには、これを拒むことはできず、期間の定めのない労働契約の成立を承諾したものとみなされます。  なお、「別段の合意」として、労使間での合意を締結するか、または、就業規則に無期転換後の労働者を適用対象とする労働条件の規定を定めておけば、無期転換を機に労働条件を変更することは可能と考えられていますが、労働条件の変更がある場合には、労働条件通知書に明記するものとされています。この際に、無期転換申込権の趣旨を阻害するような労働条件の設定については、公序良俗に反して無効となるとも考えられています。  また、無期転換申込権については、その権利が発生する前に、無期転換申込権を行使しないことを採用条件とすることやあらかじめ無期転換申込権を放棄する旨の意思表示をさせておくことは、公序良俗に反するものとして無効になると考えられています。そのため、たとえ雇用の柔軟性を確保するためであっても、無期転換申込権の行使時期を迎える「前」に手当や賞与の上乗せをもって、無期転換申込権を行使することをあらかじめ制限しておくことはできません。 2 事後的な無期転換申込権の放棄  事前の無期転換申込権の放棄については、無効と考えられていますが、他方で、契約を更新して無期転換申込権が発生した後であれば、これを労働者に放棄させることは可能と考えられています。しかしながら、無期転換申込権も重要な労働条件の一部であるため、その放棄を容易に認めてよいとは考えられておらず、「労働者の自由な意思」による同意が前提になると考えられています。  「労働者の自由な意思」とは、賃金債権の放棄に関する判例における表現として用いられた用語ですが(シンガー・ソーイング・メシーン事件、最高裁昭和48年1月19日判決)、近年では、賃金債権の放棄にかぎらず重要な労働条件の変更も含めて、労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在していることが必要と判断される傾向にあり、このことは無期転換申込権の放棄についても同様に考えられています。  「労働者の自由な意思」であるかは、労働者自身の同意に関する行為の有無だけではなく、当該変更によりもたらされる労働者の不利益の内容および程度、労働者による当該行為がされるに至った経緯および態様、当該行為に先立つ労働者への情報提供または説明の内容などに照らして判断されると考えられています(山梨県民信用組合事件、最高裁平成28年2月19日判決)。  したがって、無期転換申込権を行使しないことと引き換えに、手当や賞与の上乗せを行うことを検討されているようですが、契約の更新後(無期転換申込権の発生後)にこのような条件を提示してこれに労働者が応じたときに、無期転換申込権を労働者が自由な意思により放棄したと評価されるのかどうかが問題となります。 3 労働者に生じる不利益の判断  労働者に生じる不利益の内容や程度としては、無期転換申込権を行使しないことによって更新されるか否かについて再評価が必要になることで、雇用の安定性という観点からは労働者に不利益があることが主要な点として考えられます。他方で、無期転換申込権を行使せずに次の更新を迎えたときには、あらためて無期転換申込権が発生すると考えられていますので、更新されたときにはあらためて無期転換申込権を行使するかを決定できるという意味では、その期間は限定的ともいえます。  他方で、裁判例においては、不利益の内容や程度だけではなく、その経緯や態様、情報提供または説明の内容といった手続的な側面が重視される傾向があります。上記のような不利益の内容と程度について十分な説明を尽くして、労働者自身がメリットとデメリットを正確に把握して、比較検討した結果として、無期転換申込権を行使せずに放棄するという決断をした場合には、その効力を否定することにはならないと考えられます。  ただし、前述の通り、次回更新までの間の無期転換申込権の行使を制限するにとどまり、有期労働契約の期間満了後に更新した場合には、あらためて無期転換申込権を行使しないことを自由な意思により決断する機会が与えられることになりますので、その範囲は限定的です。有期労働契約の労働条件通知書において契約更新時の考慮要素として、無期転換申込権を行使しないことを合意した場合には更新しないといった条件が付加されるとすれば、そのような無期転換申込権の放棄は、実質的に事前放棄に等しく、不利益の程度は非常に大きくなり、無効と判断される可能性も高いと考えられます。  また、労働契約法第19条が定める雇止めに関する規制が適用されなくなるわけではないので、雇用の流動性を確保するという観点からは無期転換申込権の行使を制限するだけではなく、更新への期待可能性や通常の労働者との社会通念上の同一性といった労働契約法第19条の適用可能性に対する配慮は別途必要になるでしょう。 【P44-45】 地域・社会を支える高齢者の底力 The Strength of the Elderly 最終回 労働者協同組合上田(長野県)  労働力人口の減少が社会課題となるなか、長い職業人生のなかでつちかってきた知識や技術、経験を活かし、多くの高齢者が地域・社会の支え手として活躍しています。本連載では、事業を通じて地域や社会への貢献に取り組む企業や団体、そこで働く高齢者の方々をご紹介してきました。最終回となる今回は、長野県の労働者協同組合上田を取材しました。 「協同労働」という新しい働き方で地域の課題解決に取り組む  長野県の東部に位置し、約15万人の人口を擁する上田(うえだ)市。労働者協同組合上田(通称、「労協うえだ」)は、JR東日本の北陸新幹線などが乗り入れる上田駅から車で15分ほどの民家を拠点に、活動をしている。現在の組合員数は18人で、内訳は70代が8人、60代が7人、40代が3人。「こんな時代だからこそ 新しい働き方」を合言葉に、組合員それぞれの経験や趣味、資格を活かし、高齢者からの相談事などを仕事にし、地域の課題解決に取り組んでいる。  労働者協同組合は、2022(令和4)年10月に施行された労働者協同組合法に基づいて設立された法人で、「組合員が出資し、それぞれの意見を反映して事業を行い、自ら働くことを基本原理とする組織」とされる。組合員が3人以上集まれば、都道府県への届け出で設立することができ、労働者派遣事業を除くあらゆる事業を行うことが可能。働き手が出資して、自ら経営にたずさわる「協同労働」という新たな働き方を実現する制度で、介護、障害福祉、子育て支援、地域づくりなど、幅広い分野でのにない手の確保、シニア世代の仕事創出などの面からも期待されている。  労協うえだの代表理事を務める北澤(きたざわ)隆雄(たかお)さんは現在77歳。20歳のときに農協に就職し、労働組合の専従役員などを務めた後、40歳で広告宣伝などを扱う情報伝達サービスの会社に転職した。その会社が広告収入の悪化で倒産したのを受け、50歳のときに関連の会社を立ち上げ、その会社を63歳で定年退職。その後はアルバイトで、福祉施設の送迎にたずさわった。「さまざまな出会いもあり楽しかった」のだが、そこも70歳で定年となった。  2回目の定年後も、「まだ体も動きそうだから、どこかで働こうと思ったが、なかなか自分の思うような仕事に出会えなかった」という。週の何日か時間を区切られて、いわれたことをするだけの仕事しか見つからず、「ちょっとそれだと働きがいがないな」と感じていたそうだ。「やりがい」を求めて職探しをしていた2020年12月、北澤さんは、国会において労働者協同組合法が全会一致で可決・成立したというニュースを耳にした。  「さっそく制度の資料を取り寄せました。自分で主体的に新しい働き方で働ける―。『ああ、これだな』と感じて、ぜひ地元で具体化してみようと思いました」(北澤さん)  現役時代の先輩を通じて、日本労働者協同組合連合会からの紹介を受け、労働者協同組合ワーカーズコープ・センター事業団の北陸信越事業本部を訪問。2021年に、任意団体として「ワーカーズ上田地域応援隊」を立ち上げ、法律施行後の2023年3月に、労協うえだを設立した。 地域の高齢者の相談事を仕事にメンバーの個性、経験を活かし楽しんで働く  ワーカーズ上田地域応援隊でまず取り組んだのは、農協出身の北澤さんが得意とする農業分野。上田市内の知人から広い休耕田を借り受け、応援隊のメンバーで木を抜き、トラクターで耕して家庭菜園にした。現在は「市民ふれあい体験型家庭菜園」として希望者を募り、2000円の年会費で農業体験に活用している。さらに、応援隊に加入したメンバーに電気工事の資格保持者がいたことから、市内のコミュニティスペースのリフォームと空調設備工事を請け負うことができ、営繕に関する仕事もするようになった。  労協うえだは、応援隊発足の約2年後に設立。当初の組合員は5人で、営繕の事業が中心だった。それが市の地域包括支援センターと連携するようになり、地域の高齢者の相談、困りごとに対応する形で、仕事が増えてきた。北澤さんによれば、「『庭の草を刈ってほしい』とか、『エアコンを直してほしい』とか、いろいろな相談事が地域包括支援センターを通じて入ってきます。それをみんなで、できることをやって、お金をもらい配分をして、事業収入を得ながら回していく」という仕組みで活動が広がっている。  北澤さんたちが、労協うえだの活動で大切にしているのは、「組合員それぞれの個性を活かすこと」だ。「自分の個性や経験を活かしながら参加できれば、主体的に動けるし、楽しいじゃないですか。そういう働き方があって初めて、活動が広がっていくと思っています」と北澤さんは強調する。  実際、組合員には多種多様な人材が名を連ね、例えば設立当初からのメンバー、矢口(やぐち)毅(たけし)さん(70歳)は警察OB。「元気のよい高齢者が、少し弱っている高齢者と助け合うという活動の趣旨を聞いて、自分も健康なうちに、何か社会に役立てたらよいと思った」という。  地域包括支援センターが主催した会議をきっかけに、労協うえだに加わった平林(ひらばやし)浩(ひろし)さん(67歳)は元小学校教諭。「もともと労働者協同組合法には興味があったのですが、こんな身近でやっている人がいると知ってびっくりした」と話す。土屋(つちや)一夫(かずお)さん(60歳)は兼業で活動する組合員で、本業はワーカーズコープ・センター事業団北陸信越事業本部の事務局次長。本業で労働者協同組合を県内に広める仕事をしつつ、実際に自分も労協うえだに入って活動をしている。「本業の定年後、いずれ軸足をこちらに移していこうと考えている」そうだ。 地域の課題は地域のみんなで解決 老いても自立し仲間をつくり楽しく  労協うえだでは今後、市内に10カ所ある地域包括支援センターと連動する形で、5人以上の組合員で構成する10の地域支部を立ち上げる計画で、総勢50人の組織を目ざしている。仕事もメンバーも増やし、「地域の課題は地域のみんなで解決できる。労協うえだを、そんな組織にしていきたい」というのが組合員共通の思いだ。  さらに北澤さんは、「高齢者も元気なうちは労働者協同組合のような形の活動に加わり、地域をになっていくのが、ふさわしい超高齢社会のあり方ではないか」と訴える。矢口さんも「やはり老いても、自立ということを捨ててはいけないと思うのです。自立して仲間をつくって、楽しく生きないとね」と強調した。  労働者協同組合の活動などで、「支える側」に立つ高齢者が増えれば、地域で好循環が生まれる。そのために北澤さんは、「定年前に、定年後の地域での暮らし方、地域と自分のかかわり方を考えていくべき」と指摘する。「人生100年時代、定年後の残り30年をどう生きていくかは非常に重要な問題です。企業のなかでも、地域が抱える問題、地域で生きていくのに必要なスキルなどについて、研修などを行ってもらいたい」との願いを語った。 写真のキャプション 左から、矢口毅さん、北澤隆雄さん、平林浩さん、土屋一夫さん 【P46-47】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第57回 「産前産後休業・育児休業」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、産前産後休業・育児休業について取り上げます。育児休業については、2025(令和7)年4月から施行された点についても触れていきます。 目的は母性保護と両立支援  産前産後休業と育児休業は一連の流れでとらえた方がよいため、図表を参照しながら読み進めてください。 ◆産前産後休業  産前産後休業は、働く女性の妊娠・出産・育児を支援する母性保護を目的とした制度で、労働者保護の一環として労働基準法※1の第65条第1項および第2項で定められています。6週間(多胎妊娠の場合は14週間)以内に出産する予定の女性が請求した場合は就業させることができないとする産前休業と、出産日の翌日から8週間を経過しない女性を就業させることができない(ただし、6週間経過後は本人が請求し、医師が支障がないと認めた業務に就業させることは可)産後休業で構成されます。なお、図表の最上段の欄に例があるように、労働基準法では、妊娠中の女性が請求した場合に軽易な業務に転換させること(第65条第3項)や、妊娠中および産後1年を経過しない女性(妊産婦)に対して、危険有害業務の就業制限(第64条の3)や、変形労働時間の適用や時間外労働・休日労働・深夜業の制限(第66条第1項、第2項、第3項)など※2、産前産後休業以外にも、母性保護に関するほかの規定が定められているため、あわせて押さえておくとよいでしょう。 ◆育児休業  育児休業は、働く労働者の育児と仕事の両立支援※3を目的とした制度で、おもに育児・介護休業法※4に定められています。労働者が原則1カ月前までに事業者に申し入れることにより、原則子が1歳に達するまでの間で労働者が申し出た期間、ただし、子が1歳に達する時点で保育園に入所できないなどの場合は1歳6カ月まで、子が1歳6カ月に達する時点で保育園に入所できない場合は2歳まで延長した期間を休業することができます。産前産後休業と異なり労働者であれば男女ともに取得が可能で、2回まで分割して取得できます。  これに加えて、父母ともに育児休業を取得する場合は、子が1歳2カ月に達するまでの間に父母それぞれ1年間まで育児休業を取得できるパパ・ママ育休プラスや、父親が原則休業の2週間前までに申し出ることにより、育児休業とは別に原則として出生後8週間のうち4週間まで休業(2回に分割可)することができる産後パパ育休制度(出生時育児休業制度)※5が設けられています。 さらなる育児休業の取得促進に向けて  仕事と育児の両立支援に欠かせない育児休業ですが、取得が十分でない点に課題があります。「令和5年度雇用均等基本調査」(2024年7月31日公表 厚生労働省)の結果によると2023年度の育児休業取得率は、女性84.1%、男性30.1%という状況です。女性の場合は、取得率が一見高くみえますが、経年でみると2009(平成21)年以降90%を下回った状態で推移しています。男性の場合は、2012(平成24)年まで2.0%を下回っていたことから考慮すると飛躍的な伸びとなっていますが、育児休業でもっとも多い期間が女性は12〜18カ月未満(32.7%)に対して、男性は1カ月〜3カ月未満(28.0%)と育児を分担するうえで十分ではないと考えられます。  そのような状況から、よりいっそうの育児休業の取得の促進に向けて、育児・介護休業法、次世代育成支援対策推進法が2024年に改正され、2025年4月1日より段階的に施行されることになりました。育児休業に直接かかわるおもなポイントとして、次のものがあげられます。 ・従業員数300人超の企業に、育児休業等の取得状況を公表することを義務化(改正前は1000人超の企業) ・育児と仕事の両立に関する個別の意向聴取・配慮を事業主に義務化 ・従業員数100人超の企業に、一般事業主行動計画※6策定時に育児休業等の取得状況把握や数値目標の設定を義務化  このほか、育児休業期間中の収入面の見直しも進められています。育児休業期間中は、給与が無給になることに対し、雇用保険から休業開始時賃金の67%(休業開始から6カ月以降は50%)の育児休業給付金が支給されています。ただし、収入の減少は否めず、育児休業の取得を妨げる一因になっていました。そこで、2025年4月より出生後休業支援給付金を創設し、この出生直後の一定期間内に、両親ともに14日以上の育児休業を取得する場合に、最大28日間、育児休業開始前賃金の13%が上乗せされることになりました。これにより、育児休業給付金とあわせて手取り10割相当を受け取れる可能性が出てくるため、育児休業の取得促進が期待されています。 ***  次回は「労働生産性・労働分配率」について解説します。 ※1 「労働基準法」については、『エルダー』2024 年12 月号を参照 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202412/index.html#page=50 ※2 このほか、「生後満1年に達しない生児を育てる女性は、1日2回各々少なくとも30 分の育児時間を請求することができる」(労働基準法第67 条)との規定あり ※3 「両立支援」については『、エルダー』2023年10月号を参照 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202310/#page=50 ※4 正式名称は、「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律」 ※5 育児休業中は就業が原則不可だが、産後パパ育休制度では、労使協定を締結した場合にかぎり、労働者が合意した範囲で休業中の就業が可能 ※6 企業が従業員の仕事と子育ての両立を図るための雇用環境の整備や、子育てをしていない従業員も含めた多様な労働条件の整備などに取り組むにあたって、計画期間・目標・目標達成のための対策およびその実施時期を定めるもの 図表 働きながらお母さんになるあなたへ 妊娠期 産前6週間 出産 産後8週間 1歳 2歳 3歳 小学校入学 3年生修了 母性保護などの制度 産前産後休業、育児休業関係 ・時間外労働(※1)、休日労働、深夜業の制限 ・妊婦検診を受けるための時間を確保したり、医師等の指導をもとに、ラッシュアワーを避けるために時差出勤を利用する等母性健康管理のために必要な措置 育児時間(1日2回、少なくとも各30分) 6週間 (双子以上14週間) 8週間 産前産後休業 パート・アルバイト等を含め、すべての女性が産前産後休業を取得できます。 産後パパ育休 育児休業 遅くとも、育児休業開始予定日の1カ月前まで、産後パパ育児開始予定日の2週間前(※)までに会社へ育児休業申出書などを提出します。(※会社により異なる場合があります。) 育児休業給付の給付割合は、休業開始後180日間は、67%(それ以降は50%)です。(※2) ・女性は産後休業終了後から、男性は出産予定日から取得できます。 ・パート・アルバイト等であっても、一定の要件を満たせば取得できます。 保育所等に入れないなどの事情があれば、最長2歳に達する日まで育児休業を延長することができます。 両親共に育児休業を取得する場合は、休業対象となる子の年齢が原則1歳までから原則1歳2か月までに延長されます。(※3)(パパ・ママ育休プラス) 産前産後休業、育児休業期間中は社会保険料負担が免除されます! 場合によって免除(※4) ※1 時間外労働:労働基準法で定められている1日8時間または1週間40時間を超える労働 ※2 令和7年4月に出生後休業支援給付が創設され、子の出生直後の一定期間内に、両親ともに14日以上の育児休業を取得する場合に、最大28日間、出生児育児休業給付金又は育児休業給付金に上乗せして休業開始前賃金の13%が支給されます ※3 ただし、育児休業が取得できる期間は1歳2カ月までの間の1年間です ※4 就業規則等で3歳までの育児休業制度が定められ、休業している場合です 出典:「働きながらお母さんになるあなたへ」厚生労働省(令和6年11月) 【P48-51】 TOPIC 2025年版 高年齢者雇用安定法 対応企業実態調査 ―定年後の雇用環境整備が進む一方、シニア層の報酬見直しとモチベーション維持に課題が残る― 株式会社Works(ワークス) Human(ヒューマン) Intelligence(インテリジェンス)  2021(令和3)年4月より、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となりました。また、2025年4月からは、高年齢者雇用確保措置の経過措置が終了し、すべての企業で、希望者全員65歳までの雇用を実施することとなっています。企業には、高齢者雇用に関する法令への対応が求められるなか、株式会社Works Human Intelligenceは、大手企業における高齢者雇用への対応状況や課題、今後の取組みの方針などに関する調査を実施しました。本稿では、同調査結果の概要を紹介します(編集部)。 本調査の背景  少子高齢化が進むなか、働く意欲がある高年齢者がその能力を十分に発揮できるよう、高年齢者が活躍できる環境の整備を目的として、「高年齢者雇用安定法」が定められています。2021年の改正では、60歳未満の定年禁止と65歳までの雇用確保に加え、70歳までの雇用機会を提供することが努力義務として追加されました。  この改正における経過措置の期限が迫っており、2025年4月には65歳までの継続雇用制度(再雇用・勤務延長制度)の義務化と、高年齢雇用継続給付の減額が実施されることとなります。高年齢者が活躍できる環境のさらなる整備が企業に求められるなかで、「高年齢者雇用安定法」への対応状況や、50歳以降のシニア層活用に対する方針や取組みを調査。2022年の調査結果と比較することで、企業がどのようにシニア層を活用しているか、またその対応がどれほど進展しているかを明らかにしました。 調査結果の概要 1 70歳までの雇用機会確保(努力義務)について、2022年調査から「何もしていない」と回答した企業が21.2%減少。一方、「65歳までの雇用確保(義務)への対応拡充を優先」の企業は24.3%増加。雇用確保が2年間で着実に進んでいることが明らかに。 2 定年年齢の引き上げを予定している企業の割合は36.7%で、2022年調査から10.6%増加。人手不足が続くなか、経験豊富な従業員の確保が課題となっていることが推察される。 3 定年以降の継続雇用における課題について、2022年調査と比較して「適切な勤務体系の用意」の割合が16.8%減少し、働きやすい環境の整備が進んだ。一方で、「対象者のモチベーション」と「対象者の報酬水準」を課題としてあげた企業は半数を超えており、これらの課題は依然として残っている。 4 定年後の継続雇用に関する今後の取組みについて、2022年調査から「継続雇用者の報酬水準の見直し」が14.7%増加。適切な報酬水準の設定が各社にとって重要な課題であることがうかがえる。 5 シニア層の活用方針について、2022年調査と比較し、「積極的に継続雇用・活用し、知見やスキルを業務に活かしてほしい」と回答した企業が13.8%増加。労働環境の整備が進み、シニア層の活用意識が高まっている。 6 役職定年制度を導入している企業は全体の34.7%。また、12.2%の企業が一度導入した役職定年制度を廃止したと回答。 《注》本稿は、株式会社Works Human Intelligence が2025年3月12日に公表したプレスリリースを基に加筆・修正したものです。 図表1 70歳までの雇用機会確保の実施状況 21年4月の法改正における、70歳までの雇用機会確保(努力義務)について、どのような制度を取り入れたか教えてください(複数選択可) 24年(n=49) 22年(n=92) 何もしていない 40.8% 62.0% 70歳までの対応を行う前に、65歳までの雇用確保(義務)への対応内容の拡充を優先 28.6% 4.3% 70歳までの継続雇用制度(再雇用、勤務延長制度など) 70歳以上への定年引上げ 定年制の廃止 70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 (a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が業務委託、出資(資金提供など)する団体が行う社会貢献事業) 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 図表2 定年延長に関する今後の取組み予定 定年延長について今後の取組み予定を教えてください(複数選択可) 24年(n=49) 22年(n=92) 特に変更の予定はない 定年年齢の引き上げ 36.7% 26.1% 定年延長後の報酬水準の見直し 定年延長後の業務内容の見直し 定年延長後の等級制度の見直し 定年延長後の評価制度の見直し 定年制の廃止 その他 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 図表3 定年後の継続雇用者についての課題 定年以降の継続雇用者について、課題を教えてください(複数選択可) 24年(n=49) 22年(n=92) 対象者のモチベーション 65.3% 64.1% 対象者の報酬水準 51.0% 47.8% 対象者の評価制度設計 対象者に対する管理職のマネジメント 対象者と働く社員の働きにくさ 対象者からのスキルやノウハウの伝達 対象者に適切な職務がない 人事管理面の煩雑さ 人件費の高止まり 適切な勤務体系の用意 8.2% 25.0% 人員の余剰 特に課題はない 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 図表4 定年後の継続雇用者についての今後の取組み予定 定年以降の継続雇用者について、今後の取組み予定を教えてください(複数選択可) 24年(n=49) 22年(n=92) 継続雇用者の報酬水準の見直し 40.8% 26.1% 特に変更予定はない 継続雇用制度内容の見直し、対象年齢の変更 継続雇用者の評価制度の見直し その他 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 図表5 シニア層の活用に向けた会社の方針 シニア層の活用に向けて、貴社の方針について教えてください(複数回答可) 24年(n=49) 22年(n=92) 活躍が見込めるシニア層を継続雇用し、知見やスキルを業務に活かしてほしい シニア層は積極的に継続雇用、活用し、知見やスキルを業務に活かしてほしい 38.8% 25.0% シニア層の活用にはそれほど積極的ではないが、スキルの伝承や要員数確保のためには致し方ない わからない、決まっていない シニア層の活用にはそれほど積極的ではなく、最低限の制度設計はしておきたい シニア層はなるべく退出を促し、組織の新陳代謝を図りたい その他 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 図表6 役職定年制度の有無 役職定年制度は存在しますか(n=49,単一回答) ない 53.1% ある 34.7% 以前はあったが廃止した 12.2% 資料提供:株式会社Works Human Intelligence 《注》本稿は、株式会社Works Human Intelligenceが2025年3月12日に公表したプレスリリースを基に加筆・修正したものです。 解説 株式会社Works Human Intelligence WHI総研 シニアマネージャー 伊藤(いとう)裕之(ひろゆき)  2021(令和3)年4月の高年齢者雇用安定法の改正から3年が経過し、2022年の前回調査と比較して高年齢者雇用継続に向けた労働環境の整備、シニア層の活用意識が全体的に進捗していることがうかがえる結果となりました。  例えば図表5(50ページ)にある「シニア層の活用に向けて、貴社の方針について教えてください」という質問の結果では、「シニア層は積極的に継続雇用、活用し、知見やスキルを業務に活かしてほしい」という回答が大幅に増加しており、その進展が示されています。  この背景の一つとして、コロナ禍以降に顕著となっている全国的な人手不足の傾向があるとも考えられます。正社員・非正社員ともに求人数が増加する状況で、年齢にかかわらず企業内の人材を活用していくことが急務となっています。  シニア層については、一律の制度や運用ではなく、個人の働き方や能力、スキルに応じた労働条件の選択肢を増やし、そのうえでほかの従業員と同様に、働き方や成果に応じた報酬制度や評価制度を適用する動きが広がっていることが調査から見受けられました。ただし、これまで定年延長や継続雇用の課題の一つであった「要員の余剰」が人手不足傾向もあって結果的に解消されつつある一方、「対象者のモチベーション」という課題は依然として残っています。  モチベーション向上を目ざした報酬面の改善については、全国的な賃上げ傾向によって一律にはとりづらく、昇降給の導入や生活給の廃止など、個人ごとにメリハリをつけた対応が求められることになるでしょう。  報酬面以外の対策として有効なのが、定年年齢以前までのキャリア支援やスキルアップ支援です。  現在、キャリアやスキルに関する支援は若手層やマネジメント着任前後に偏っており、中高年層に対する研修やスキルアップの機会は不足していることが多いです。中高年層がキャリアを再評価する機会を早期に提供することが、シニア層のやりがいや満足感を高め、後々のモチベーション維持につながると考えられます。  また、今回の調査では役職定年についても調査を行いました。役職定年を導入している企業が3分の1存在する一方、廃止した、または廃止を検討している企業も20%程度存在しています。導入している企業の半数以上が、年齢による自動的なポストオフには至っていないことがわかりました。  役職定年の目的である管理職層の循環や世代の適正化に対して、管理職の人材不足や業務負荷の増大といった課題が多いため、スムーズに進行できていないことがうかがえます。  少子高齢化という社会的な構造変化と、それにともなう人手不足のなかで、シニア層の活用は多くの企業にとって避けては通れない人事課題となるでしょう。 【P52-53】 BOOKS 離職や休職はポジティブな選択肢!8人の事例からその価値に迫る キャリアブレイク 手放すことは空白(ブランク)ではない 石山(いしやま)恒貴(のぶたか)・片岡(かたおか)亜紀子(あきこ)・北野(きたの)貴大(たかひろ) 著/千倉書房/2860円  終身雇用や年功序列があたり前のように取り入れられてきた日本の企業では、離職や休職は、キャリアのブランク(空白)とされることが多かった。しかし本書は、それはブランクではなく、ブレイク(休憩)であるとして、「キャリアブレイク」と呼んで、価値を見いだしている。  キャリアブレイクとは、本書の定義によると、「今まで中心的に活動してきたキャリアの役割を手放すことによって、新しいキャリアの役割に向けて自分と社会を見つめ直している期間」。本書における「キャリア」は、ワークキャリアを含む、人生全体を射程とするライフキャリアを意味している。そして、個人のキャリア選択において、仕事を手放したり、休んだりするキャリアブレイクは、その先の人生を豊かにするものだととらえ、キャリアブレイクを実践した8人の事例を通して、その価値に迫る。また、キャリアブレイクを学術的に分析している。  職業人生が長期化し、キャリアブレイクをする人は、今後増えていくことが見込まれる。本書では20代、30代男女の事例をあげているが、キャリアブレイクは広い年齢層において生じる可能性があるという。高齢者雇用を進めるうえでも、知っておきたい定義といえるだろう。 組織を前進させるために、「決断する力」を鍛えよう ビジネスリーダーのための意思決定の教科書 川口(かわぐち)荘史(そうし) 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン/2750円  仕事や日々の生活において、人はさまざまな意思決定を求められる。変化が激しく、情報があふれるいま、最適な意思決定をすることのむずかしさを痛感している人は多いだろう。  本書は、精度の高い意思決定を主体的に行うための「つかみどころ」を解説する一冊。  著者の川口荘史氏は、投資銀行でのM&Aやベンチャー創業、新規事業創出などの経験を経て、2017(平成29)年に起業。「経験知に価値を与える」ことをミッションに掲げ、企業の意思決定のための情報を広く扱う事業を運営している。ビジネスの現場においてさまざまな分野での意思決定を経験するなかで川口氏は、「どんな場面にも共通して必要な『意思決定の構成要素』」を見つけた。@主体的に「決める」心がまえ、A問いと仮説を「見立てる」、B情報処理で全体が「分かる」、C選択を言語化し「伝え、動かす」の4要素である。本書は、各要素の重要性とプロセスについて、著者の体験や知見をふまえつつ、ていねいに解説していく。  経営者やリーダーシップ力を向上させたい人をはじめ、自分のキャリアや人生を主体的にコントロールしたいと考えている人にもおすすめしたい、意思決定の極意がつかめる内容だ。 産業医が伝える、安心して休職する判断から復帰までの道筋 未来のキャリアを守る 休職と復職の教科書 武神(たけがみ)健之(けんじ) 著/ディスカヴァー・トゥエンティワン/1870円  本書は、メンタルヘルス不調を予防するためではなく、不調になっても安心して「休職」という選択肢をとれるようになるために、必要な情報と実践的なアドバイスをまとめている。  著者の武神健之氏は、年間1000件以上の健康相談やストレス・メンタルヘルス相談を実施し、延べ1万人以上の働く人たちと向き合ってきた。その経験から、「自分の不調を受け入れ、向き合い、うまく制度を利用すれば、適切な『休職』は、むしろあなたの未来のキャリアを守る選択なのです」と実感をつづっている。しかし、休んだほうがよいと思いつつ、「まだ自分はできる」と考えたり、仕事を休むことに不安を抱えていたりする人が実際には多いそうだ。  「教科書」と名づけられた本書は、そうしたメンタル面の不調を抱える人の不安と悩みに答えるように、ストレスの気づき方、病院にかかるかどうかの判断やタイミング、「いい医者」のみつけ方、休職の判断、休職中の過ごし方、復職までの道筋、お金のこと、キャリア・転職のことなどについて、読みやすい文章で具体的に、さまざまなケースの紹介も交えて説明している。  メンタル不調が気になる人や、職場の上司、人事担当者にも手にとってほしい良書である。 徹底的に科学的根拠(エビデンス)にこだわった、今日から実行できる健康習慣 正しい医学知識がよくわかる あなたを病気から守る10のルール 津川(つがわ)友介(ゆうすけ) 著/集英社文庫/682円  健康づくりにまつわる情報があふれるなか、本書の最大の特長は、「情報の正しさ」であると、著者で医師の津川友介氏は強調する。  「エビデンスの確かさに徹底的にこだわった、高度な手法で行われ、さらにそれが第三者である同分野の研究者によって厳しく検証された論文だけを取り上げた」うえ、専門性の高い分野に関しては、各分野の第一人者にも内容をチェックしてもらったことを、それぞれの第一人者の名前を紹介して示している。  とはいえ、専門用語やむずかしい表現を極力使わずに、今日から実行できる健康習慣として具体的な内容を伝えていることも特長だ。一方で、より詳しく知りたい人のために、本書の根拠とした論文のリストを巻末に載せている。  日ごろの生活習慣を少し変えることで、がんや脳梗塞などの重い病気になるリスクを下げることができる。「睡眠は質よりも時間。7時間以上眠る必要がある」、「健康に悪い食べ物・よい食べ物」、「1日1時間走ると寿命が7時間延びる」など、睡眠・食事・運動・入浴などのカテゴリー別に、エビデンスに基づく情報とアドバイスがたっぷり。知りたいカテゴリーから、気軽に読み進めてみてはどうだろう。 抗加齢医学研究の専門家が、運動や食事、歩き方を伝授。一生歩ける人になる! 百歳まで歩ける人の習慣 脚力と血管力を強くする 伊賀瀬(いがせ)道也(みちや) 著/PHP研究所/1210円  生涯現役を目ざすには、健康寿命を延ばすためにも自分でしっかり歩ける体づくりが肝要だ。  抗加齢(アンチエイジング)医学研究に長年たずさわってきた著者の伊賀瀬道也氏は、一生歩くためには「脚力」と「血管力」の両方を鍛えることが重要だという。  本書は、百歳まで歩ける人になるために、脚力と血管力を鍛える理由や、脚力を強くする方法、血管を若返らせる食事や運動、楽しく効率的にウォーキングを実践する初級・中級・上級者向けのアドバイスなどを紹介している。  脚力を強くするには、いすの背を持ち背筋を伸ばして立ち、両足のかかとを上げて、つま先立ちし、ゆっくり下ろす。ふくらはぎを意識して上げ下げを繰り返す「かかと上げ下げ」がよいという。このとき、かかとを上げる角度は20度にして、そのまま5秒間キープする方法を取り入れると、血流の改善も期待できるそうだ。  ウォーキングは、体温が上がる夕方に歩くほうが、運動効果が大きいという。高齢者の場合、食前は血栓ができやすく、食後は転倒しやすいため、ウォーキングをする時間に気をつけたいという注意もある。ほかにも日々の心がけで、いつまでも歩ける人になるための情報が満載だ。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P54-55】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「グッドキャリア企業アワード2024シンポジウム」開催レポートを掲載  厚生労働省は、「グッドキャリア企業アワード2024シンポジウム」(開催日:2024(令和6)年11月27日)の開催レポートをWebサイトに掲載している。「グッドキャリア企業アワード」は、従業員の自律的なキャリア形成支援について、ほかの模範となる取組みを行っている企業を表彰し、その理念や取組み内容などを広く発信することで、キャリア形成支援の重要性を普及・定着させることを目的としている。  「グッドキャリア企業アワード2024」では、大賞(厚生労働大臣表彰)に5社、イノベーション賞(厚生労働省人材開発統括官表彰)に10社が選ばれた。開催レポートでは、表彰式と藤ふじ村むら博ひろ之ゆき氏(グッドキャリア企業アワード2024審査委員長)による受賞各社の取組みの紹介、審査における評価のポイント、審査総評のほか、津曲(つまがり)慎哉(しんや)氏(えびの電子工業株式会社代表取締役社長:グッドキャリア企業アワード2022大賞)による基調講演、「幅広い実績で従業員の成長を実現する」をテーマに、法政大学キャリアデザイン学部教授の坂爪(さかづめ)洋美(ひろみ)氏をコーディネーターとし大賞受賞企業3社を交えたパネルディスカッションの内容などを伝えている。 https://www.mhlw.go.jp/career-award/report/award2024.html  シンポジウム当日の動画はこちら。 https://www.youtube.com/playlist?list=PLZuQp87TRMPyCAfxYZoT1OOCv4_GMYowO 厚生労働省 特定一般教育訓練の指定講座を公表  厚生労働省は、教育訓練給付の対象となる「特定一般教育訓練」の2025(令和7)年4月1日付け指定講座として新たに231講座を決定した。  231講座の訓練内容の類型別内訳をみると、業務独占資格、名称独占資格、もしくは必置資格にかかわるいわゆる養成課程など、またはこれらの資格の取得を訓練目標とする課程(介護支援専門員実務研修、大型自動車第一種免許、特定行為研修など)が220講座、一定レベル以上の情報通信技術に関する資格取得を目標とする課程(基本情報技術者試験など)が1講座、短時間の職業実践力育成プログラムおよびキャリア形成促進プログラム(特別の課程〈保健〉、特別の課程〈社会科学・社会〉など)が10講座となっている。  なお、今回の新規指定により、すでに指定ずみのものを合わせると、2025年4月1日時点の特定一般教育訓練給付の対象となる講座は1016講座になる。  特定一般教育訓練給付は、厚生労働大臣の指定する速やかな再就職および早期のキャリア形成に資する教育訓練を受講し、修了した場合に、受講費用の40%(上限20万円)を支給するもの。  また、訓練修了後1年以内に資格等を取得し、就職などをした場合には、受講費用の10%(上限5万円)が追加支給される。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_50916.html ※2024年10月から、特定一般教育訓練給付金を拡充 https://www.mhlw.go.jp/content/001310140.pdf 厚生労働省 専門実践教育訓練の指定講座を公表  厚生労働省は、教育訓練給付の対象となる「専門実践教育訓練」の2025(令和7)年4月1日付け指定講座として新たに298講座を決定した。  298講座の訓練内容の類型別内訳をみると、業務独占資格または名称独占資格の取得を訓練目標とする養成課程(介護福祉士、看護師、美容師、社会福祉士、保育士、歯科衛生士など)が139講座、専門学校の職業実践専門課程およびキャリア形成促進プログラム(商業実務、衛生関係、工業関係など)が42講座、専門職学位課程(ビジネス・MOT、法科大学院、教職大学院など)が20講座、大学等の職業実践力育成プログラム(特別の課程〈保健〉、正規課程〈保健〉など)が30講座、第四次産業革命スキル習得講座が67講座。なお、すでに指定済みのものを合わせると、2025年4月1日時点の給付対象講座数は3220講座になる。  専門実践教育訓練給付は、厚生労働大臣が指定する教育訓練を受講し修了した場合に、受講費用の50%(年間上限40 万円)が支給される。また、訓練修了後1年以内に資格等を取得し、就職などをした場合には受講費用の20 %(年間上限16万円)が追加支給される。さらに、訓練前後で賃金が5%以上上昇した者には、教育訓練経費の10%(年間上限8万円)が追加支給される。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_50917.html ※2024年10月から専門実践教育訓練給付金を拡充 https://www.mhlw.go.jp/content/001310141.pdf 厚生労働省 令和7年「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施  厚生労働省は、労働災害防止団体などと連携し、5月から9月までを実施期間とした「STOP!熱中症 クールワークキャンペーン」を実施する。  すべての職場において、熱中症予防対策を講ずるよう広く呼びかけるとともに、期間中、事業者は@暑さ指数(WBGT)の把握とその値に応じた熱中症予防対策を実施すること、A熱中症のおそれのある労働者を早期に見つけ、身体冷却や医療機関への搬送等適切な措置ができるための体制整備等を行うこと、B糖尿病、高血圧症など熱中症の発症に影響をおよぼすおそれのある疾病を有する者に対して医師等の意見をふまえた配慮を行うことなど、重点的な対策の徹底を図る。また、熱中症に関する資料やオンライン講習動画等を掲載しているポータルサイト(※)を運営する。  同省がまとめた2024(令和6)年の職場における熱中症による死傷者数は1195人、うち死亡者数は30人となっている。死傷者数を業種別にみると、建設業216人、製造業227人となっており、全体の約4割が建設業と製造業で発生している。死亡災害は、建設業が最も多く8人、製造業、および運送業がいずれも6人と続いている。また、2020年以降の年齢別の熱中症の死傷者数をみると、全体の約5割が50歳以上となっている(いずれも2025年1月7日時点の速報値)。 https://www.mhlw.go.jp/stf/coolwork_20250228.html ※「学ぼう!備えよう!職場の仲間を守ろう!職場における熱中症予防情報」 https://neccyusho.mhlw.go.jp 調査・研究 パーソル総合研究所 「『正社員として20年以上勤務した60代』の就労実態調査」結果を公表  株式会社パーソル総合研究所は、「『正社員として20年以上勤務した60代』の就労実態調査」の結果を公表した。  多くの企業が60代の豊富な経験を持つ人材を雇用しているが、そうした人材を組織の中核的な戦力として位置づけ、その能力を十分に引き出す仕組みづくりが昨今の課題となっている。本調査は、職業キャリアの大半を正規雇用で勤務してきた60代の働き方と、その実態を明らかにする目的で、全国55〜69歳の男女5000人を対象として実施した。  調査結果によると、正社員として20年以上勤務した60代前半の就業率は95.8%、60代後半の就業率は89.3%で、同年代全般を対象にした総務省「労働力調査」(2023年)の74.0%、52.0%より高くなっている。  60代の雇用形態は、60代前半は、継続勤務者(55歳時点で勤めていた企業およびそのグループ企業に勤務する正社員、定年再雇用、契約・嘱託社員)が73.3%。転職者を含めると正社員等の勤務が89.1%。60代後半では、継続勤務者が44.7%、転職者を含めた正社員等の勤務が66.1%となっている。  60代に対する人事評価制度の適用状況をみると、60代前半の継続勤務者の人事評価制度の適用率は61.2%。60代後半では47.5%で、5割を下まわっている。 https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/60s-worker.html ヒューマンホールディングス株式会社 「シニアの仕事観とキャリアに関する実態調査2025 vol.1」結果を公表  ヒューマンホールディングス株式会社は、定年退職後に就労している65〜74歳の男女1000人を対象として実施した「シニアの仕事観とキャリアに関する実態調査2025」の結果を公表した。  本調査は、定年退職後に働いている65〜74歳の男女を対象に、就労の実態や働き方に対する意識を明らかにすることを目的として実施した。  調査結果から、「定年後に働いている理由」(複数回答可)についてみると、「生活費を得るため」が一番多く54.6%が回答。次いで、「社会とのつながりを保つため」が43.0%、「身体的健康を維持するため」が42.1%となっている。  次に、「現在の職業に就いた経緯」についてみると、「再雇用」が最多で34.9%、次いで「異なる業界・異なる職種で転職・再就職」が25.3%で、定年後に新たなキャリアを構築している人も多数いることが明らかになった。  「理想的な1週間の就労日数」は「3日」が31.2%で多数の一方、「実際の1週間の就労日数」は「5日」が47.7%で最多となっている。  「現実的に希望する年収額」については、「300万円〜400万円未満(17.1%)」が最も多く、次いで「400万円〜500万円未満(15.0%)」。一方で、「実際の年収額」は「200万円〜300万円未満(20.9%)」が最多、次いで「300万円〜400万円未満(17.6%)」となっており、100万円の差がみられた。 https://www.athuman.com/news/2025/22135/ 【P56】 JEEDが、企業における業務課題を解決します  私たちは、高齢者の雇用の確保、障害者の職業的自立の促進、求職者をはじめとする労働者の職業能力の開発および向上のために、以下のような総合的支援を行っています。 従業員の高齢化が課題だ 障害のある従業員のサポート体制を整えたい 従業員の生産性を上げたい 製造現場の技能・技術を向上したい 最新の技能・技術に対応できる者を育成したい ものづくり分野の人手不足を解消したい 社内でのノウハウがない コスト面で対応できない 社内でのノウハウがない 指導できる人材がいない生産体制を止められない 研究できる環境がない育成体制がない ものづくり分野の人材採用が進まない 高齢・障害者業務課へご相談ください 70歳までの就業機会確保に向けた相談・援助障害者雇用納付金制度に基づく助成金支給など 連絡先はこちら 業務内容はこちら 障害者職業センターへご相談ください 障害者を雇用する事業主等のニーズに対応した職業リハビリテーションサービスの提供など 連絡先はこちら 業務内容はこちら 生産性向上人材育成支援センターへご相談ください 従業員の人材育成や事業主への相談・援助(リスキリング・学び直し、DX推進)など 連絡先はこちら 業務内容はこちら ポリテクカレッジへご相談ください 2年間の実学融合の教育訓練システムによる高度実践技能者の育成、ものづくり人材の採用 中小企業等との共同・受託研究 連絡先はこちら 業務内容はこちら ポリテクセンターへご相談ください 標準6か月間の職業訓練を受講した求職者とものづくり人材を採用したい企業とのマッチングなど 連絡先はこちら 業務内容はこちら 【P57】 70歳雇用推進プランナー 高年齢者雇用アドバイザーのご案内 70歳までの就業機会の確保(令和3年4月より努力義務化)などに向けた高齢者の戦力化のための条件整理について、ご相談ください! なぜ高齢者の戦力化が必要なの? ●急速な高齢化による生産年齢人口の減少 人口統計によれば、今後、生産年齢人口(15〜64歳)は減少の一途をたどり、企業の人材確保はますます困難になっていきます。 ●高齢者の高い就業意欲 60歳以上への意識調査では過半数の人が「65歳を超えても働きたい」と回答しています 70歳雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーとは 高齢者の雇用に関する専門知識や経験などを持っている専門家です。 社会保険労務士 中小企業診断士 経営コンサルタント 人事労務管理担当経験者 など 相談・助言 無料 高齢者の活用に必要な環境の整備に関する専門的かつ技術的な相談・助言を行っています。 ▲人事管理制度の整備に関すること ▲賃金、退職金制度の整備に関すること ▲職場改善、職域開発に関すること ▲能力開発に関すること ▲健康管理に関すること ▲その他高齢者等の雇用問題に関すること 提案 無料 70歳までの就業機会確保などに向けた高齢者戦力化のための定年引上げや継続雇用延長などの制度改定に関する具体的な提案を行っています。 ▲課題の洗い出し ▲具体的な課題解決策の提案 ▲制度見直しのメリットを見える化 ▲制度整備に必要な規則例などの提供 その他のサービス 無料 ◆雇用力評価ツールによる課題などの見える化 簡単なチェック内容に回答いただくだけで、高齢者を活用するうえでの課題を見出し、解決策についてアドバイスします。 ◆他社の取組みにおける好事例の提供 同業他社の取組みが気になりませんか? ほかの会社がどういった取組みを行っているのか、貴社の参考となる事例を提供します。 企画立案等サービス 有料 専門性を活かして人事・労務管理上の諸問題について具体的な解決策を作成し、高齢者の雇用・活用等を図るための条件整備をお手伝いします。 中高齢従業員の就業意識の向上などを支援するために、貴社の要望に合った研修プランをご提案し、研修を行います。(経費の1/2を当機構〈JEED〉が負担します) お問合せ先 JEED都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ参照)までお問合せください。 【P58】 高年齢者活躍企業事例サイトのご案内 ―高年齢者が活躍できる、これからの働き方― https://www.elder.jeed.go.jp 高年齢者雇用にまつわるさまざまな情報を発信しています! さまざまな条件で検索できる! @企業事例検索 高年齢者活躍企業コンテスト入賞事例のほか、定年年齢、継続雇用年齢、従業員規模、業種、地域、都道府県別検索やフリーワード検索ができます。 Aイベント情報 「高年齢者活躍企業フォーラム」など、高年齢者雇用に関するイベント情報を掲載します。 B雇用力評価ツール 自社の高年齢者を活躍させる力(高齢者雇用力レベル)を診断することができます。 貴社 ベンチマーク 4 3 2 1 5領域全体 戦略 評価・処遇 仕事内容 能力開発 体制・風土 C仕事生活チェックリスト 生涯現役で活躍するための仕事生活のチェックリストです。 ※ご利用は事前のお申込みが必要です D高年齢者雇用に関する資料 高年齢者雇用に関する研究報告書などが閲覧できます。 jeed elder 検索 【P59】 令和6年度 「高年齢者活躍企業フォーラム」 「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」 アーカイブ配信のご案内  2024年10月に開催した「高年齢者活躍企業フォーラム(高年齢者活躍企業コンテスト表彰式)」、10月〜11月にオンライン配信で開催した「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」の模様をアーカイブ配信しています。  基調講演や先進企業の最新事例発表など、お手元の端末(パソコン、スマートフォンなど)でいつでもご覧いただけます。 視聴方法 JEEDホームページのトップページより STEP.01 機構について STEP.02 広報活動 (組織紹介動画・メルマガ・啓発誌・各種資料等) STEP.03 YouTube動画(JEED CHANNEL) STEP.04 「高齢者雇用(イベント・啓発活動)」の欄からご視聴ください ※事前申込不要(すぐにご覧いただけます) 以下の内容を配信中です 2024年10月4日(金)開催 高年齢者活躍企業フォーラム ●表彰式 ●事例発表 ●基調講演 ●トークセッション 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム ●基調講演等 ●事例発表 ●事例発表者とコーディネーターによるパネルディスカッション 2024年10月10日(木)開催 「ジョブ型」人事から考える 〜シニア人材の戦力化 2024年10月25日(金)開催 役職定年見直し企業から学ぶシニア人材の戦力化 2024年11月28日(木)開催 ミドルシニアのキャリア再構築 〜リスキリングの重要性と企業の戦略 お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 FAX:043-297-9550 https://www.jeed.go.jp JEEDのYouTube 公式チャンネルはこちら https://youtube.com/@jeedchannel2135 JEED CHANNEL 検索 【P60】 次号予告 6月号 特集 介護離職防止に向けて リーダーズトーク 篠崎淳一郎さん(株式会社カクヤスグループ 取締役 兼 CHRO) JEEDメールマガジン 好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 『有料販売終了』のお知らせ 2025年3月31日をもって、本誌の有料販売を終了いたしました。 これまでご購入いただきありがとうございました。 本誌はホームページへ掲載しているデジタルブック等からもご覧いただけますので、今後とも引き続きご愛読のほどよろしくお願いいたします。 編集アドバイザー(五十音順) 池田誠一……日本放送協会解説委員室解説委員 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 大嶋江都子……株式会社前川製作所 コーポレート本部総務部門 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐久間一浩……全国中小企業団体中央会事務局次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TIS株式会社人事本部人事部 山ア京子……立教大学大学院ビジネスデザイン研究科特任教授、日本人材マネジメント協会理事長 編集後記 ●今号の特集は、「会社の成長のカギを握る『高齢社員の活かし方』」をお届けしました。高齢社員が持つ知識やスキル、豊富な経験は、会社にとって貴重な財産です。少子高齢化による人材不足に加え、変化の激しい現代において、会社の成長を維持・促進していくためには、貴重な人材を有効に活用していくことが必要不可欠といえます。  今回は、「社内公募制」、「スキルマップ」の活用といった視点から、解説・事例を紹介しましたが、高齢者雇用を推進していくうえで考えるべき要素は、評価・処遇制度やキャリア形成支援など、ほかにもたくさんあります。本企画とともに、本誌のバックナンバーなどもご活用いただきながら、高齢者雇用の推進に努めていただければ幸いです。 『エルダー』読者のみなさまへ  2025年5月号は、大型連休の関係から、冊子の到着が通常よりも数日遅れることが見込まれます。ご不便をおかけしますが、ご理解のほどよろしくお願いいたします。ご不明な点は編集部(企画部情報公開広報課、電話:043-213-6200)までおたずねください。 読者アンケートにご協力ください 回答はこちらから 公式X(旧Twitter) @JEED_elder 月刊エルダー5月号 No.546 ●発行日―令和7年5月1日(第47巻 第5号 通巻546号) ●発行―独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人―企画部長 鈴井秀彦 編集人―企画部次長 綱川香代子 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●編集委託 株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.351 自然の材料の形を活かす手づくりならではの技 江戸すだれ職人 田中(たなか)耕太朗(こうたろう)さん(62歳) 「手間のかかるものだけでなく、簡単につくれるようなものであっても『ちゃんとしたものを、ちゃんとつくる』ことを大事にしています」 江戸時代に育まれた技法を現代に受け継ぐ  古くから日よけや間仕切りなどに用いられてきた、すだれ。その機能性やデザイン性から、現在もインテリアから調理道具まで幅広く利用されている。安価な大量生産品や輸入品が主流となるなか、江戸時代から継承されてきた技術をもとに、手づくりですだれを製造しているのが、明治初期創業の老舗、田中(たなか)製簾所(せいれんじょ)(東京都台東区)だ。  「江戸すだれは、竹を中心に葦(よし)、萩、御形(ごぎょう)など自然の材料を使って伝統的技法でつくるのが基本です」  そう話すのは、5代目の田中耕太朗さん。東京都伝統工芸士、東京都優秀技能者に認定され、40年以上の経験を有している。 使いやすさが評価され食品メーカーも愛用  すだれづくりは、材料の準備から始まる。おもな材料である竹の場合、仕入れた竹を必要な長さに切り、汚れを洗い落とす。次に竹を割って削り、乾燥させる。  「こうした準備を行うことは、材料である竹の硬さなどの状態を見きわめることに役立ちます」  材料が乾いたら、「編み」の作業を行う。1本1本の竹ひごには、割る前に印がつけられており、元の竹と同じ順に並べて編んでいく。  「竹は繊維に沿って割れるため、微妙に曲がっています。元通りの順に並べて編むことで、平らで表面がそろったすだれになります」  「桁(けた)」と呼ばれる台に、必要な長さの糸をくくりつけた「投げ玉」を複数かける。その上に竹ひごを1本ずつ置き、打ち玉を前後に交差させながら編んでいく。編み終えたら両端を切りそろえ、上下に桟(さん)をつけるなどして完成する。  「手づくりのほうが、細かいところまで目が届くので、曲がっていたり一様でない材料にも対処できます。ただ、仕上がりにばらつきが出やすいため、集中を切らさず、ていねいな作業が求められます」  手づくりは機械での生産と比べて時間もコストもかかるが、「手づくりのほうが使いやすい」と、田中さんのつくる伊達巻き用のすだれを毎年200枚注文する食品メーカーがあるなど、愛用者は多い。  「大切なのは、伝統を守りつつ、お客さまの要求に応えることです。そのため、つくり方は時代にあわせて少しずつ変化しています。ときには、お客さまの注文や用途に応じて、金属や化繊などの材料を使ってすだれをつくることもあります」  例えば、綿の糸よりも化繊の糸のほうが丈夫だが、摩擦や屈折に弱く、伸縮性も劣る。そうした性質を理解したうえで、用途にあわせて最適な材料を提案している。 客観的な視点を持つことで工夫や改善ができるように  幼いころから家業を手伝いながら育ったが、跡を継ぐ意思はなく、大学では数学を専攻し、卒業後は大学の助手として4年ほど勤めた。その間に家業を客観的にみることができ、すべてを自分でになえるこの仕事の魅力を再認識した。  大学でつちかった客観的にみる姿勢は、仕事でも役立っている。  「一つひとつの作業に対して『なぜこれをやる必要があるのか』を考えて、あえて違うやり方を試してみたりしながら、そのやり方が理にかなっていることを身をもって証明する習慣がつきました。もし大学に行かないままやっていたら、それまでのやり方を受け入れて、工夫も改善もしないままだったかもしれません」  大切にしているのは「相手の立場に立って考えること」だという。  「使ってくださるお客さまの立場に立ってつくらないといけませんし、材料の仕入れ先の立場に立たないと、こちらの要望を押しつけるだけでは、よいものはできません」  そうしたものづくりの姿勢や考え方を伝える塾を開く構想を持つ。  「父や祖父から教わったことは、技術そのものよりも、その根底にある姿勢や考え方だった気がします。生活の環境が変わればものづくりは変わるかもしれませんが、その姿勢や考え方は変わりません。日本の伝統工芸の根底に流れる文化を伝えることを、ライフワークにしていきたいと考えています」 株式会社田中製簾所 TEL:03(3873)4653 http://www.handicrafts.co.jp (撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英) 写真のキャプション 「桁」と呼ばれる台に、必要な長さの糸を巻きつけた「投げ玉」をセットし、竹ひごを1本ずつ載せて、投げ玉を前後に交差させながら編んでいく すだれづくりは材料の下ごしらえから始まる。竹は洗って乾かした後、割って竹ひごにする。小刀で割りながら、材料の良し悪しを感じ取る のり巻きすだれは、桁と投げ玉を使って編んだ後に、その外側を同程度の力加減で手で編んで補強する。2本の糸をまとめて編むよりも、こうしたほうが使いやすくなる 文字や絵を表現した「型抜きすだれ」。普通に編み、型抜きする部分に印をつけてから、ほどいて不要な部分を切り取り、編み直す 竹ひごを1本ずつ削って形を整える。のり巻きすだれの場合は、巻きやすいように竹ひごの側面の形をかまぼこ型に仕上げる すだれの用途や糸の種類などによって、大きさや重さの異なる投げ玉を使い分ける。例えば、きつく編む際には重い投げ玉が用いられる。なかには100年以上前から使われてきた年代物もある 竹ひごで編んだすだれは、コースターやランチョンマットなどのテーブルウェアにもマッチする 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  頭の中で図形などを動かすことを「メンタルローテーション(心的回転)」といいます。メンタルローテーションはSTEM(科学、技術、工学、数学)の四つの教育領域の基礎と考えられ、特許数と相関するという報告もあります。前頭葉のほか頭頂葉の働きがかかわる能力です。 第95回 目標 5分 ひと筆書き 同じ線を通らないように気をつけて、図形をひと筆でなぞりましょう。一度なぞった線と交差することは可能です。 @ A B C D E スーパーエイジャーを目ざそう  80歳、90歳、100歳を超えても30代と変わらない脳の力を示す人たちを「スーパーエイジャー」といいます。スーパーエイジャーの人たちは、脳トレでも使うような、総合的な情報処理能力と記憶力が良好に保たれています。  その脳構造は通常の高齢者と比較して、記憶に関係する海馬付近の萎縮が小さい、前頭葉の萎縮が小さい、脳の白質(配線の塊のようなところ)の損傷が小さいことが明らかになっています。  そして、おもしろいことに、歩行速度が速いことと、精神的健康が良好であることが、スーパーエイジャーと通常の高齢者を区別する指標になるのだそうです。  ですから、スーパーエイジャーを目ざすなら、今回のような脳トレにチャレンジするほか、歩行速度を速く保つこと、機嫌よく過ごすことが大切です。  逆に、「もう歳だから…」、「この年齢だからできない」というあきらめはよくないそうです。あきらめずにチャレンジし続けることが、脳へのよい刺激になり、活性化するのです。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。人システム研究所所長、公立諏訪東京理科大学特任教授。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRS を使って、脳活動を調べている。『中高年のための脳トレーニング』(NHK 出版)など著書多数。 【問題の答え】 @ A B C D E 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2025年5月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 『70歳雇用推進事例集2025』のご案内  2021(令和3)年4月1日から、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  本事例集では、70歳以上の定年引上げ、70歳以上の継続雇用制度の導入、定年制の廃止を実施した事例を掲載しています。  各事例では、高齢社員の戦力化や賃金制度、安全衛生などについて詳しく紹介しています。 インタビュー形式で掲載 制度改定の経緯や苦労話をインタビュー形式で紹介しています。 検索ガイドを掲載 企業規模や業種を超えた共通の課題に対応した事例を検索することができます。 『70歳雇用推進事例集2025』はJEEDホームページから無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者雇用推進・研究部 2025 5 令和7年5月1日発行(毎月1回1日発行) 第47巻第5号通巻546号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈編集委託〉株式会社労働調査会