エルダー活躍先進事例集 平成27年度版
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BFACDEGHIJKLMNOPQRSTM宿泊業,飲食サービス業高齢者が働きやすい職場づくりのためにこれまで行ってきた改善や工夫改善区分課 題検討状況・改善内容① 制度面徒弟制度的な職場風土を払拭し、「近代的な供食事業の多店舗展開」を図るため、(一生続けられることを前提に)価値観を共有する従業員とそのリーダーである店長の育成(‥いわば『全員が価値観を共有する永続的な調理職場の実現』)」が課題となった。「定年も役職定年もなく、本人の意欲さえあれば、出来る仕事を何時までやってもらってもかまわない」と宣言し、年齢にかかわりなく採用し雇用し続けている。(就業規則に謳っていないが、実質的に「定年制を廃止」している実態がある。) そのため個々人の希望にあった、柔軟な雇用形態、就労条件に応じている。定年後賃金を毎年10%づつ減らしている以外には、定年によって職位、職権、勤務形態に一切の変更はなく、役職定年も設けていない。② 能力開発「全てを任せられる」店長の育成、社員全体に「調理人の理想の姿」としての店長を志向させる職場風土の醸成、また、定年を機に長年培ってきた店長としての役割を剥奪しないためには、「年々増えていく従業員や店長にどのようにして新たな仕事を確保していくか」、「高齢化する店長に定年後も従来どおり働いてもらうにはどのようにしたらよいか」といった経営課題に応えなければならなかった。当社は、能力を超えた規模拡大に走ることはせず、ひたすら「社会的使命感を持った意識の高い調理人」の養成に注力してきた。そのため、「見識を広め、職業人としての自覚と人間的成長を促す」意味合いから、階層を問わず、会社が契約している外部教育機関の実務講座を無償で受講させることにより従業員各人の自己啓発を促している。また、それと同時に新たな顧客を開拓し、現場を増やすことにより、高齢の店長クラスにも新しい職場を提供し続けている。③ 環境改善高齢化が進み、多くの調理現場では、加齢による体力の低下から、従来やってきた作業が負担となり、仕事を続けることに限界を訴えるおそれが出てきた。そのため、当社では、火や重量物を取扱うことなく、能率的に作業が進められる「システム化された調理機器の導入」を重点的な課題として捉えてきた。当社では従業員の高齢化に対応した作業環境の改善を当然のこととし、より前向きな観点から、特に新規の事業所を新設する際には積極的に省力化設備の導入を図っている。それは、「IT化されたシステム機器の導入により高齢者でも能率を落とさず安全に働ける」と考えているからである。また、調理台の高さを低くし、作業現場の照度を上げるなど、高齢者が働きやすいように調理現場の改装を行っている。また、床が滑らないような床材・履物に替えるなど高齢者でも安全に働けるよう、水周りの作業環境改善に努めている。④ 健康管理・安全衛生、 その他安全衛生は食品を扱う調理現場では最もノウハウを必要とする技術の一つである。そのため、当社では経験豊富な高齢者の持つノウハウを集めて活用するとともに、その成果をいち早く全社に展開することが課題になっている。また、「お客様へのサービス」とともに、それを支える「従業員へのサービス」を重要視するとともに、従業員、特に店長など高齢社員の功労に報いることで、「本人の就業意欲を更に高める」ことを模索している。作業現場の安全衛生には特に注力し、本部の衛生部が巡回して指導にあたるほか、社長主催の全体会議を年1回開催してベテラン社員の持つノウハウの交流を図っている。さらに、本部の管理栄養士を使って現場を巡回し、社員の福利厚生を目的とした「社員向けの供食と供食管理」を行っている。また、就業意識を高めるため、教育をかねた福利厚生の一環として、功労者には会社が契約する外部教育団体が主催する海外研修旅行に参加させている。⑤ 新職場、職務の創出当社の「店長制度」は現場を任せられる人材を数多く育て上げることを目的としており、そうして育てられた店長に(彼等が活躍できる)供食現場を提供し続けるためには、(会社はもちろんのこと)高齢の店長に対しても「常に新規顧客を開拓し続ける」ことを求めていく必要がある。例えば、店長会議の席上、ある現場の店長から、「『1日5時間の勤務が辛くなった。1日3時間なら続けられるのだが』と、或る高齢のパートタイマーから訴えられたが、なんとか(彼女らの雇用を)つなぎ止める方法はないものだろうか?」という悩みが打ち明けられることがある。当社は新たな顧客を開拓し、現場を増やすことにより、高齢の店長クラスにも新しい職場を提供し続けている。またそのことは彼等自身の働き甲斐の創出にもつながっている。左記の例では、隣の現場の店長からの情報で、「ある小規模の企業から、『昼食のみの供食をしてもらいたい』との話が来ている」ことが分かり、検討の結果、「当該企業の一室を食堂として借り、『調理し冷凍した料理を温めて盛り付ける』形式の供食を出張ベースで行う」という、いわば「出張賄い」案がまとまり、実施に移された。⑥ 未解決の課題、うまくいかなかったこと当社における過去45年以上にわたる改善の取組みは「店長制度の制定とその深化・発展」に集約される。「店長制度」は、言ってみれば「優れたリーダーの育成」であり、「優れたリーダーを継続的に輩出できる組織や人事制度こそが企業の発展につながり、結果として『年齢にかかわらず生き甲斐を持っていつまでも働ける社会』を実現する」と考えている。こうした西原流の家族主義的経営スタイルを将来にわたって維持・継続していくことが課題である。当社では、「従業員の誰もが年齢にかかわらず働ける」という安心感からくる「相互扶助による人間的な職場風土の醸成」を通じ、多くの店長が自信を持って新たな事業の開拓や既存の事業の改善に(年齢にかかわらず)取組んでいる。その理由は、「オーナー(社長)から事業運営の一切を任されている」と言う彼等の意識が、最高の働き甲斐である「自己実現」と「人間としての成長」につながっているからであると考えられる。27-23
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