【表紙】 令和8年11月1日発行(毎月1回1日発行)第48巻第11号通巻564号 Monthly Elder高齢者雇用の総合誌 エルダー 11 2026 特集 多様な業種・業態で高齢者雇用が拡大高齢者の戦力化・活躍推進のヒントがココに! 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞受賞企業事例から〜 リーダーズトーク シニアの持つ知見と消費力を活かし社会・市場の活性化につなげよう 玉川大学 経営学部国際経営学科 教授、経営学部長 神谷 渉 【前頁】 助成金のご案内 〜65歳超雇用推進助成金のご案内〜 65歳超継続雇用促進コース 65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、66歳以上への継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施する事業主の皆様を支援します。 主な支給要件 �@労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引き上げること �A改正前後の就業規則を労働基準監督署等へ届け出ること �B1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること �C高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年の引上げ年数に応じて最大240万円まで支給 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース 高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(賃金制度、健康管理制度等)を実施した事業主の皆様を支援します。 支給対象となる主な措置(注)の内容 �@高年齢者に係る賃金、人事処遇制度の導入・改善 �A労働時間制度・在宅勤務制度・研修制度・健康管理制度の導入・改善 (注)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要 支給額 ●措置の内容に応じて最大60万円(中小企業事業主以外は45万円)を支給 ●措置の実施に必要な機器等の導入経費(上限50万円)に60%(中小企業事業主以外は45%)を乗じた額を支給 高年齢者無期雇用転換コース 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を支援します。 主な支給要件 �@高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)を1つ以上実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること �A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること �B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分(勤務した日数が11日未満の場合は除く)の賃金を支給していること �C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき40万円を支給(中小企業事業主以外は30万円) (※)高年齢者雇用管理に関する措置とは、55歳以上の高年齢者を対象とした、次のいずれかに該当するもの(a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化 JEEDホームページ「助成金」 https://www.jeed.go.jp/elderly/subsidy/index.html 〜障害者雇用納付金関係助成金〜 障害者作業施設設置等助成金 雇入れ、雇用の継続に必要な障害特性による就労上の課題(加齢に伴う課題を含む)を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 �@障害者用トイレや手すりを設置または整備 �A拡大読書器を購入 等 助成額 支給対象費用の2/3 障害者雇用相談援助助成金 対象障害者の雇入れおよび雇用継続を図るための一連の雇用管理に関する援助の事業(障害者雇用相談援助事業)を実施する事業者(※)に支給します。※事前に労働局の認定が必要です。 助成対象となる措置 �@利用事業主に障害者雇用相談援助事業を行った場合 �A�@を行った後に利用事業主が対象障害者を雇い入れ、かつ6カ月以上の雇用継続をした場合 助成額 �@60万円 ほか �A1人7万5千円 ほか 障害者介助等助成金 適切な雇用管理のために必要な介助等の措置や、加齢に伴う課題の解消のために必要な介助等の各種措置を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 �@職場復帰支援 �A中途障害者等や中高年齢等障害者の技能習得支援 �B職場介助者の配置または委嘱(継続措置および中高年齢等措置あり) �C手話通訳・要約筆記等担当者の配置または委嘱(継続措置および中高年齢等措置あり) �D職場支援員の配置または委嘱(中高年齢等措置あり) �E健康相談医の委嘱 �F職業生活相談支援専門員の配置または委嘱 �G職業能力開発向上支援専門員の配置または委嘱 �H介助者等の資質向上措置 �I重度障害者の業務遂行のために必要な支援を重度訪問介護等サービス事業者に委託 助成額 �@月4万5千円 ほか �A�B�C�E�F�G�H支給対象費用の3/4 ほか �D月3万円 ほか �I支給対象費用の4/5 ほか 職場適応援助者助成金 職場への適応を容易にするために職場適応援助者による支援を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 �@訪問型職場適応援助者による支援 �A企業在籍型職場適応援助者による支援(�@�Aとも中高年齢等措置あり) 助成額 �@1日3万6千円まで ほか �A月9万円 ほか 重度障害者等通勤対策助成金 障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 �@住宅の賃借 �A住宅手当の支払い �B駐車場の賃借 �C通勤用自動車の購入 �D重度障害者の通勤援助のために必要な支援を重度訪問介護等サービス事業者に委託 (ほかにも対象となる措置がありますのでホームページでご確認ください) 助成額 �@〜�C支給対象費用の3/4 �D支給対象費用の4/5 ほか ほかにも助成金がありますので、ホームページでご確認ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/index.html 説明動画はこちら https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/news/setsumeidouga_of_01.html e-Gov電子申請を利用して申請できます 24時間365日いつでも手続きできます! ※お問合せや申請は、当機構(JEED)各都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ、東京・大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします 【P1-4】 Leaders Talk No.138 シニアの持つ知見と消費力を活かし社会・市場の活性化につなげよう 玉川大学 経営学部国際経営学科 教授、経営学部長 神谷 渉さん かみや・わたる 専門は流通論、消費者行動論。コンサルティング会社、シンクタンク勤務などを経て、2016(平成28)年より玉川大学経営学部国際経営学科准教授、2022(令和4)年より教授、2026年より経営学部長を務める。  少子高齢化によるさまざまな影響が懸念される現代社会ですが、その一方でシニア市場が活況です。定年退職後の余暇を楽しむシニアはもちろん、働きながら勉強をするシニアや、孫など家族のために消費をするシニアなど、さまざまな商品・サービスが活気づいています。  今回はシニアの消費行動に詳しい玉川大学教授の神谷渉さんにご登場いただき、シニアの消費行動と雇用の関係について、お話をうかがいました。 社会とのつながり、情報処理能力の維持など就労がシニアの消費行動に影響をもたらす ―消費行動の視点から見た、シニア世代とミドル・若手世代との行動・特徴の違いについて教えてください。 神谷 シニア世代とミドル・若手世代の消費行動を比較する際、まず押さえておかなくてはいけないのが情報処理能力の違いでしょう。例えば、シニア世代はスマートフォンなどを若者のように使いこなせないといったように、新しい情報をうまく処理できないケースや、加齢の影響で情報を記憶にとどめることがむずかしくなる、といったことも増えてきます。  また、暮らし・生活の視点で見ると、食生活の変化も大きいといえます。シニア世代の場合、肉や魚系が減り、野菜・果物系が増えるという特徴があります。加えて、行動範囲が以前と比べて狭まってくるという特徴もあります。これらは、シニア世代の消費行動をとらえるうえで意識しておく必要があります。 ―就業の有無や、フルタイム、短時間勤務などの働き方の違いは消費行動にどんな影響を与えるのでしょうか。 神谷 フルタイムで働いている人と短時間で働く人では可処分所得が異なるので、旅行など余暇に投資するお金も異なります。ただし、フルタイムで働くと時間に余裕がなくなるので、消費とのバランスをどう考えるかがポイントです。  一方、就労していない場合は、時間があっても収入による行動の制約が発生します。例えば、「毎年旅行に行きたいが、今年は控えておこう」とか、「毎月ゴルフをやりたいが、隔月にしておこう」というような制約につながります。  また、就労することで社会とのつながりが維持されますし、仕事でパソコンなどを使うことで情報処理の訓練にもなるので、就労していない人よりも情報処理能力の衰え方がやわらぐ傾向にあります。  今後心配になるのは、仕事から完全にリタイアし、「これからはゆっくり過ごそう」と考えているうちに、老いが急激に進み、いざ何かやってみようとしても体力や気力がなくなってしまうことだと思います。 ―働くことによる生活リズム、人とのつながりなど、シニアの消費や暮らしにどのような違いが表れるのでしょうか。 神谷 「自分の目的を達成するために消費する」というのが消費行動の基本ですが、高齢になると「自分のため」という考えがある一方で、他者や社会とのつながりを求めて消費や投資が増えてくる傾向があるといえます。他者とは自分の子どもや孫だけではなく、地域コミュニティの人たちなども含まれるでしょう。地域や社会に投資することで自己満足が得られるような行動も見受けられます。会社を退職すると、それまでの生活の中心であった会社コミュニティへの依存が徐々に薄れ、家族を重視したり、社会とのつながりを求めて新たなコミュニティをつくるという行動をするシニアも少なくありません。逆にいえば、「孫や地域・社会に消費・投資するために働く」ということもあり得るということです。 ―健康寿命の延伸などを背景に、「シニア市場」が活性化していると聞きます。シニアの消費行動をふまえ、シニア市場はどのように変化しているでしょうか。 神谷 シニアになっても自分の能力をもっと高めたいという意欲を持つ人もいます。例えば、学び直しやリスキリングなどの教育分野のニーズもあります。あるいは健康や身体能力の維持を目的に、運動やスポーツにチャレンジする人もいます。  また、先ほど述べた食生活の変化に対応した需要は今後ますます高まっていくと考えられます。例えば、年を重ねると食事を簡単にすます傾向があり、栄養も偏りがちです。そうした需要に対応した宅配弁当などが増えていますし、欧米では電子レンジで温めるだけの1食分の具材が入った弁当タイプの冷凍食品の需要が伸びており、日本でも今後はその分野が伸びると予想されます。  商品需要の変化にともない、デザインや視認性への対応も必要になってきます。特に視認性は重要で、例えば同一ブランドのシャンプーとリンスは、同じようなパッケージで販売されている商品が多くありますが、形状の違いなど触ってどちらかわかるような工夫もこれからは大切になってくるでしょう。  消費の観点ではアクセスの改善も重要です。車や歩いて時間のかかる大きな店舗より、近くて小さな店舗のほうがニーズはあります。インターネット通信販売も便利で実際に利用しているシニアは多いのですが、シニアにとってパソコンやスマートフォンは操作がむずかしいなどの問題もあります。体力の低下や物理的な制約をサポートする仕組みが広がれば、さらにシニアの消費が活性化していくでしょう。 シニアのニーズをもっとも理解しているのはシニアシニアの価値を市場開発に活かす経営戦略を ―シニア市場が拡大するなかで、シニア人材を雇用することは企業にどのようなメリットや価値をもたらすと考えられますか。 神谷 シニアのニーズを一番理解しているのはシニア自身です。先ほどのシャンプー・リンスの商品開発などのように、シニアの声を活かせる分野にシニア人材を配置することが大切です。営業職として、豊富な人脈を持つシニア人材を活用している企業もあります。後輩世代のサポート役として活躍しているシニアもいますが、シニアの価値を市場開発に活かすことは、これからの経営戦略にとっても重要ではないでしょうか。  最近では、ベンチャー企業がシニアと雇用契約を結び、活躍しているという話も耳にします。若い人の知見しかないところにシニアの知見が入ることで、市場の活性化が期待できるからです。例えば、旅行業でシニアのニーズを汲くんだバリアフリーの旅行があるように、シニアの知見を活かした新しいサービスや旅行プランを提供できる可能性が広がります。あるいは、近年のリバイバルブームのなかで、シニアが開発した商品が若者の間で“バズる”可能性もあります。あらゆる産業でシニアの知見をよい意味で若者にフィードバックする可能性を秘めていると思います。 さまざまな事情を抱えるシニアが働ける環境・土壌・風土の整備を ―消費者であり働き手でもあるシニアの持つ活力を、企業や社会はどのように活かしていけばよいのでしょうか。 神谷 企業視点では、多様な働き方ができる環境を整備することが、シニアが活躍するうえで重要だと思います。もちろんフルタイムで働ける人もいれば、知見や経験はあってもさまざまな事情から短時間でしか働けない人もいますので、それぞれの希望を受け入れることのできる土壌・風土も必要だと思います。  また、働く意欲があっても、実際にどうしたらよいのかがわからず、踏み出せない人もいるので、それをサポートする仕組みがあることも大切だと思います。例えば、AIを活用し、シニアがつちかった知見やノウハウを文章化する。また、言語化能力が少し衰えてきたとしても、「こうしたい」と思うことをAIのサポートで的確に表現し業務につなげることも、これからは可能になるでしょう。冒頭で「情報処理能力が落ちる」といいましたが、その部分を客観的に把握し、AIにサポートさせることができれば、若者と同じように仕事ができるようになると思います。  社会とのつながりでは、本人の参加をうながすような強制的なつながりを持てる仕組みが必要かもしれません。会社員時代は「行きたくなくても行かざるを得ない」という、半ば強制的に社会とのつながりが維持される環境といえます。しかし、退職して自由な環境になると、「行きたくないなら無理して行かなくてもいいや」と、出かけることが億劫(おっくう)になり、社会とのつながりが徐々に薄れていくことになりかねません。ボランティア活動などもよいのですが、ボランティアなので始めたばかりのころは積極的だったとしても、徐々にやらなくなってしまうという可能性もあります。例えば、シニア向けの学校などの教育サービスのように、「何曜日は必ず来てください」といった、ある種の強制力があるような社会とのつながりが大事だと思います。 ―働くこと、社会とのつながりを持つことでシニアも元気になり、市場も活性化するということですね。 神谷 シニア世代により消費してもらうには、シニアのニーズを取り込めるようなマーケティングが必要ですし、シニア人材の活用も含め、まだまだ改善できる余地があると思います。例えば、スマートフォンでいえば、キャッシュレス決済が可能になるなど、その活用はさまざまな領域に広がっていますが、やはり情報処理の速い若者を前提にしているところがあり、シニアにとってはアプリ一つを使いこなせるようになるのに時間がかかり、負担になっているところもあります。シニア人材の目を通して、シニアが抱える課題やさまざまなニーズを把握し、企業を含む社会全体で解決を図っていくことが、市場の活性化につながっていくと思います。 (聞き手・文/溝上憲文、撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のイラスト:水穂 真善/アフロ 2026 November No.564 特集 6 多様な業種・業態で高齢者雇用が拡大 高齢者の戦力化・活躍推進のヒントがココに! 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長表彰優秀賞受賞企業事例から〜 7 「令和8年度 高年齢者活躍企業フォーラム」を開催 8 優秀賞 アクツフーズ 株式会社(福島県石川郡古殿町) 株式会社 増木(埼玉県朝霞市) 株式会社 事業承継機構(東京都千代田区) 大東コーポレートサービス 株式会社(東京都品川区) にいかわ信用金庫(富山県魚津市) 株式会社 西軽精機(長野県佐久市) 株式会社 エーディエフ(大阪府大阪市西淀川区) 株式会社 カコテクノス(兵庫県小野市) 桜井工業 株式会社(愛媛県今治市) 吉川工業アールエフセミコン 株式会社(宮崎県児湯郡新富町) 株式会社 サンエス総合ビルメンテナンス(鹿児島県志布志市) 1 リーダーズトーク No.138 玉川大学 経営学部国際経営学科 教授、経営学部長 神谷 渉さん シニアの持つ知見と消費力を活かし社会・市場の活性化につなげよう 52 江戸時代にもあった「仕事と介護の両立問題」 〜目からウロコの高齢者介護史〜 【最終回】 近代以前に重視されていた「互助」による高齢者支援 ―現代の日本社会で失われていった支援の形― �ア井将之 54 高齢者の職場探訪 北から、南から 第171回 鳥取県 有限会社山本精機 58 サステナビリティを高めるシニア人材活用戦略 【第5回】 リスキリングでシニア自身の価値を高める 小島明子/宮下太陽 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.369 不調の原因を突き止め印刷機を確実に修理する ハイデルベルグ印刷機メンテナンスアドバイザー 池田久重さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第113回]ナンバースケルトン 篠原菊紀 ※連載「マンガで学ぶ高齢者雇用」、「高齢者に聞く 生涯現役で働くとは」、「AI と歩む人生100 年時代」、「立川談慶の人生100年時代の歩き方」、「知っておきたい労働法Q&A」、「いまさら聞けない人事用語辞典」、「Books」、「ニュースファイル」は休載します 【P6】 特集 多様な業種・業態で高齢者雇用が拡大 高齢者の戦力化・活躍推進のヒントがココに! 令和8年度 高年齢者 活躍企業コンテスト 〜独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構 理事長表彰優秀賞受賞企業事例から〜  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、厚生労働省との共催で、「高年齢者活躍企業コンテスト」を毎年開催しています。本コンテストは、高齢者が年齢にかかわりなく生涯現役で活き活き働くために、人事制度の改定や職場環境の改善などに、創意工夫をして取り組む企業を表彰するものです。  厚生労働大臣表彰受賞企業を紹介した前号に続き、今号では本コンテスト表彰式の模様とともに、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞を受賞した11社の取組みをご紹介します。 【P7】 令和8年度 「高年齢者活躍企業フォーラム」を開催 高齢者雇用先進企業29企業・団体を表彰  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)は2026(令和8)年10月9日(金)、厚生労働省との共催で、「令和8年度高年齢者活躍企業フォーラム」を開催した。同フォーラムは、「年齢にかかわらず活き活きと働ける社会」を築いていくために、企業や個人がどのように取り組んでいけばよいのかを一緒に考える機会として実施し、今回で41回目となった。当日は会場に企業の人事・労務担当者らを迎えるとともに、Webでライブ配信を行った。  同フォーラムでは、高齢者が活躍するために企業等が行った雇用管理や職場環境の改善などの創意工夫の事例を募集した「高年齢者活躍企業コンテスト」の表彰式と、コンテスト入賞企業による事例発表、赤津(あかつ)順一(じゅんいち)氏(一般財団法人日本予防医学協会理事)による基調講演、受賞企業を交えたトークセッションを実施した。  はじめに、浦野(うらの)靖人(やすと)厚生労働副大臣とJEEDの輪島(わじま)忍(しのぶ)理事長による主催者挨拶があり、その後に行われた表彰式では、厚生労働大臣表彰として、最優秀賞の株式会社エヴァーブルーをはじめ、優秀賞の株式会社三吉(みよし)電器(でんき)、稲村(いなむら)建設(けんせつ)株式会社、特別賞の株式会社鵜飼(うかい)、株式会社亀井組(かめいぐみ)、四国(しこく)アイビ株式会社に浦野厚生労働副大臣より賞状が授与された。最優秀賞を受賞したエヴァーブルーの福井(ふくい)研二(けんじ)取締役推進部長は、「歴史あるコンテストですばらしい賞をいただき、心より感謝申し上げます。受賞が発表されてから、メディアの取材依頼や取引先さまからお祝いの言葉を頂戴し、とまどいながらも喜びを実感しております。当社の従業員も受賞を喜んでおり、そのこともとてもうれしく思います。これからも企業理念である『選ばれ喜ばれる企業』を目ざして努めてまいります」と受賞の喜びと感謝を述べた。  次に、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰として、優秀賞の株式会社増木(ますき)、株式会社事業(じぎょう)承継(しょうけい)機構(きこう)をはじめとする11社に輪島理事長より賞状が授与された。また、特別賞11社、クリエイティブ賞1社の企業・団体名が紹介された。  表彰式後のコンテスト上位入賞企業による事例発表では、株式会社エヴァーブルー(取締役推進部長・福井研二氏)、株式会社三吉電器(代表取締役・大久保(おおくぼ)重美(しげみ)氏)、稲村建設株式会社(取締役・尾上(おのうえ)綾乃(あやの)氏)が順に登壇。自社の取組み内容と制度、高齢社員の活躍の様子などが、各職場で撮影された映像と代表者の発表により紹介された。  休憩後に行われた基調講演で赤津氏は「高年齢者の安全配慮と健康管理」をテーマに、加齢にともなう機能変化、高齢労働者の労働災害の状況、労災事故事例とその要因分析などを、データを示しながら説明。高齢労働者に配慮すべき作業環境をあげるとともに、職場における取組みとして「エイジアクション100」(職場改善ツール)の活用などを紹介した。さらに、すべての人が長く働ける職場づくりが重要であるとして、そのことが「労働寿命の延伸、さらには健康寿命の延伸につながる」と語った。  最後に行われたトークセッションでは、コーディネーターの内田(うちだ)賢(まさる)氏(東京学芸大学名誉教授)から、職場の安全配慮と健康管理で重視して取り組んでいることや高齢社員にうながしていることなどの質問が投じられ、事例を発表した3社の代表者が取組みの姿勢や工夫点などを語り、基調講演を行った赤津氏が所感を述べた。  なお、基調講演とトークセッションの詳細は、本誌2027年1月号で掲載する予定。 写真のキャプション 挨拶を行うJEEDの輪島忍理事長 【P8-11】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 安心して能力を発揮できる職場づくりに励み定年70歳を超えても無理なく働ける環境に アクツフーズ 株式会社(福島県石川郡(いしかわぐん)古殿町(ふるどのまち)) 企業プロフィール アクツフーズ 株式会社 (福島県石川郡古殿町) 創業 1902(明治35)年 業種 食品製造・販売 従業員数 106人(2026〈令和8〉年9月1日現在) 60歳以上 30人 (内訳) 60〜64歳 17人(16.0%) 65〜69歳 9人(8.5%) 70歳以上 4人(3.8%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。定年後は一定条件のもと75歳まで継続雇用。75歳以降は運用により年齢の上限なく継続雇用。最高年齢者は84歳 �T 本事例のポイント  アクツフーズ株式会社は、こんにゃくおよびところてん製品の製造・販売を行い、全国でトップクラスのシェアを持つ食品メーカーである。  近年は若者の採用が困難な一方で、長年つちかった技や経験を活かして働きたいと希望する高齢者の声があることから、2019(平成31)年に定年年齢を60歳から70歳へ延長した。さらに、70歳を超えても本人の希望と健康状態などに配慮しながら定年前と同様、あるいは短時間勤務などで継続して働ける制度を整備した。だれもが安全に安心して働ける職場づくりに努めており、高齢従業員は、経験を活かせる業務を中心に配置し、可能なところから機械化を進めて身体的負担の軽減を図っている。 POINT �@2019年に定年年齢を60歳から70歳へ延長。定年後は、1年ごとに面談を行い契約を更新している。 �A年齢を問わず適正に評価することを基本方針とし、必要とされる役割を果たしているかを重視する評価を行っている。 �Bフルタイム勤務を基本としつつ、勤務時間の短縮、始業・終業時刻の調整、曜日限定勤務などの相談に応じているほか、柔軟に休みが取得できるよう配慮している。 �C多くの高齢従業員が就いている出荷前検品とコンテナ詰込み作業では、2人1組の体制を基本としている。 �D季節ごとの行事や食の提供を福利厚生で行い、業務を離れての楽しみや交流を感じられる取組みを大切にしている。 �U 企業の沿革・事業内容  同社の歴史は、1902(明治35)年にこんにゃく原料商として創業したことにさかのぼる。昭和の時代からこんにゃく製品を製造し、その後ところてん製品も手がけるようになり、2008年に、社名を「阿久津商店」から「アクツコンニャク株式会社」へ変更。その後、製造工場の建設・整備、物流体制を整え、2021(令和3)年に「アクツフーズ株式会社」へと社名を変更した。現在、三つの工場で従来商品の板こんにゃくやしらたきをはじめ、甘味風こんにゃくなどカロリーに配慮した食事やおやつになる商品なども製造。ニーズに合わせた商品開発を行うとともに、大手スーパーのプライベートブランド商品も製造し、1日の製造量は多い日で、10tトラックに換算すると9台分にのぼる。  本社・工場は福島県石川郡古殿町に位置し、品質と安全性にこだわったものづくりを続けている。 �V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員数は106人。そのうち、30人が60歳以上となっている。同社のある古殿町は、若者人口が少なく、高校などの教育機関もないため、若手の採用が以前から困難な状況にある。一方で、60歳を超えても体力や意欲があり、つちかってきた知識や経験を活かして働いていたい、という声が多くの従業員から聞かれていた。また、定年後の生活設計に対する不安から、継続的な収入を得たいという声もあった。  同社の高齢従業員のていねいで慎重な作業姿勢は、安定した製品づくりはもちろん、ほかの世代の従業員の士気を高めることにも寄与してきたことから、可能なかぎり勤務を継続してほしいと考え、会社としても定年年齢の延長に取り組むことにした。ただし、工場勤務は立ち仕事のため、個々の健康状態や能力に配慮し、経験を発揮できる業務配置とすることや、さらに働きやすい環境づくりに努め、だれもが活き活きと活躍し続けられる職場を目ざして取組みを進めた。 �W 改善の内容 (1)制度に関する改善 �@70歳定年制の導入  従来の制度である「定年60歳。希望者全員65歳まで継続雇用」を、2019年に「定年70歳。一定条件のもと、年齢の上限なく継続雇用」にあらためた。また、2024年には、就業規則を「経営戦略型就業規則本則」と「経営戦略型就業規則パートナー社員規定」の二つに分けるとともに、「定年70歳。定年後は一定条件のもと、75歳までの有期(1年間)パートナー社員として継続雇用する」と規定を変更した。前制度の「年齢の上限なく」を「75歳まで」にあらためたのは、75歳を過ぎると働けないという意味ではなく、これまで75歳を超えて働いている人がいないことから、「一度立ち止まり、その後について考える機会になれば」と考えて、「75歳」の文字を入れたという。  70歳定年制により、長年勤務する高齢従業員の技術が継続的に活用できるようになり、現場の安定性と生産性の向上につながるとともに、従業員にとっても働くうえでの安心感が高まっている。また、他社を退職した幅広い年齢層の人材を正規従業員として採用することができており、その経験を役立てられている。 �A賃金制度・人事評価制度  同じ業務と働き方であれば、定年後も賃金は変わらず、年齢を問わず適正に評価することを基本方針としている。また、生産量などの数値より、現場での貢献度や責任、協調性といった数値化しにくい価値を大切にしている。年齢に関係なく活躍のチャンスがあり、これにより高齢従業員でも主体的に業務へかかわる姿勢がみられるようになっている。 �B多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入  フルタイム勤務を基本としつつ、勤務時間の短縮、始業・終業時刻の調整、曜日限定勤務などの相談に応じている。また、柔軟に休みが取得できるよう配慮するとともに、事前申請がなくても体調不良や急な通院などにも現場で相談しやすい雰囲気を大切にし、業務調整によって無理なく休める体制を整えている。年齢や立場を問わず、生活と仕事の両立を支える職場であることをつねに従業員に示すことに努めている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ○高齢従業員の「役割」  高齢従業員に求められる役割は、安全・品質を守り、生産性と職場の安定への貢献である。基本動作や衛生ルールなどの「あたり前」を守ること、スピードや量よりも「正確さ・安定性」を重視した仕事であることの意識を職場全体で高めてもらうことが役割であることを共有している。  経験そのものが価値であると認識し、これまでの経験に基づく注意点や判断のポイントをていねいに伝えることで、高齢従業員には現場の見守りや教育・相談、調整・橋渡し役として活躍してもらっている。高齢従業員が調整役として活躍することで、チームワークの向上と多様な人材がともに働ける職場づくりが進んでいる。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み �@2人1組による検品作業体制  高齢従業員の多くは、出荷前検品とコンテナ詰込み作業に就いており、そこでは2人1組の作業体制を基本としている。手と目を使って商品の重量や形状、異物はないかなどを素早くチェックする検品は集中力が必要なため、2人体制でダブルチェックを行い、役割を交代しながら作業をする。これにより精神的なゆとりが生まれ、ミスの減少につながっている。 �A相談しやすい職場づくり  現場では「こうしたほうが作業しやすくなる」といった話合いが、日ごろから行われている。  人事制度は、以前から年功序列ではなく、管理職には若い従業員も就いている。ただし、高齢従業員が多いことをふまえ、日常的に体調や作業状況を気づかい、無理の生じない役割分担や作業順の調整を行っている。第一工場の藤島(ふじしま)誠(まこと)工場長(35歳)は、「体調面など、困ったことがあればすぐに対応します。そのためにも、ふだんから話しやすい雰囲気づくりに努めています」と現場で語る。声をかけ、話しあえる文化が根づいたことで、体調不良や疲労の早期把握、事故やけがの防止につながっている。自分の状態を伝えやすい環境は、離職を防ぐ一因となっている。 �B加齢にともなう変化への対応  検品後の商品を詰めたコンテナをトラックに積載する際、途中で崩れないよう積みあげたコンテナをラッピングする。これを手作業(複数人)で行っていたが、重労働で高齢従業員には負担が大きいため、自動化装置を導入した。  さらに、工場や事務所では、大きな文字で書かれた表示物やLEDライトへの変更など、視認性の重視を徹底。また、休憩室(兼食堂)には横になって休める畳コーナーを設けた。そのほか、転倒防止策として、床に滑りにくい加工をする、滑り止め付き長靴を支給するなどの取組みも行っている。 �C季節行事・食の提供などの福利厚生  休憩室に冷凍食品やカップ麺を置き、1個100円で提供。従業員の誕生日には果物詰合せを贈呈する。ほかにも社員旅行などの行事や、お節料理(年末出勤の従業員に贈呈)、恵方巻、花見の時期にチーズケーキ、暑気払いに焼肉セット、土用丑の日のうなぎなどを福利厚生で提供。楽しみや交流を感じられる取組みを大切にするなか、世代を超えて従業員同士の交流が活発になり、離職率の低下と良好な人間関係の維持に好影響を及ぼしている。 (4)高齢従業員の声  勤続14年の我妻(あづま)ヒサエさん(71歳)は、70歳定年後も変わらずフルタイム勤務を続けている。「会社から『まだ続けていてください』といっていただけるのですが、私からすれば『働かせていただいている』という気持ちです。家にいると体がなまってしまいますから、働いていることで体調が保たれていると思います」と語る。  藤島(ふじしま)和子(かずこ)さん(68歳)は、64歳のときに入社し、フルタイムで勤務している。タレ付きの商品を包装し、検品を行う作業をおもに担当する。「立ち仕事ですが、長年ゴルフ場でキャディーをしていたので足腰は強いほうだと思います。定年の70歳までは続けていたいと考えています」と話す。  入社して約1年のAさん(65歳)は、転職先を探すなかで同社に出会った。いまは品質検査を担当しているが、情報セキュリティの知識や経験を有していることから、今後はそれらが活かせる業務に就いてもらう方針だ。Aさんは、「60代でも正規従業員として採用していただき、定年の70歳までまだまだ働けることがありがたいですね。つちかった経験を活かして役に立つことができればうれしいです」と話す。 (5)今後の課題  人事・労務を担当する渡邉(わたなべ)香水(かな)さんは、「安心して働ける環境があり、そのなかで自分が成長し、長く勤められる会社がよい会社なのだろうと思います。そこを目ざして、働きやすい職場づくりを続けていきたいです」と話す。  同社では従業員の紹介で入社するケースが多く、人手不足は解消されている。しかし、今後を見すえると、さらに製造工程の自動化を進めることが必須と考えている。その一方で、今後も熟練の技は欠かせないととらえている。渡邉(わたなべ)しのぶ営業本部長は、「かつて働かれていた高齢従業員の方で、退職というよりは“卒業”するように見送られて仕事を引退された方がいらっしゃいました。今後も会社と仕事のことを大切に思い、できるかぎり経験と力を発揮し、気持ちよく卒業していただけるような職場づくりに力を注いでいきたいと思います」と語ってくれた。従業員と地域に親しまれながら成長していくことを目ざす同社の挑戦は、これからも続いていく。 写真のキャプション アクツフーズ株式会社全景 藤島誠工場長(左)と我妻ヒサエさん(右)(71歳) 渡邉しのぶ営業本部長(左)と人事・労務を担当する渡邉香水さん(右) 【P12-15】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 「役割分担」で高齢社員が活躍できる職務を創出 若手社員と助け合いながら豊富な経験を活かして活躍 株式会社 増木(ますき)(埼玉県朝霞(あさか)市) 企業プロフィール 株式会社 増木 (埼玉県朝霞市) 創業 1872(明治5)年 業種 リフォーム・不動産事業 ※2026年3月に株式会社増木、株式会社増木不動産に分社 社員数 34人(2026〈令和8〉年1月1日現在) 60歳以上 9人 (内訳) 60〜64歳 4人(11.8%) 65〜69歳 2人(5.9%) 70歳以上 3人(8.8%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。定年後は一定条件のもと75歳まで再雇用。75歳以降は一定条件のもと年齢の上限なく再雇用。最高年齢者は76歳 �T 本事例のポイント  埼玉県朝霞市に本社を構え、リフォーム事業・不動産管理事業を展開する株式会社増木。その歴史は1872(明治5)年にまでさかのぼり、地域に根ざし、「人とのつながり」を大切にする企業文化のなかで、長い年月によって築かれた顧客との信頼関係の維持、若手社員への技術・知識の継承に、高齢社員の力が活かされている。  「年齢ではなく能力と経験が重要」との考えのもと、同社では65歳の定年後、基準該当者を75歳まで1年ごとに契約を更新する再雇用制度を導入。高度な技術を有するなど一定の基準を満たした場合は、75歳以降も年齢の上限なしに再雇用する。一方で、嘱託社員になっても仕事内容や処遇を大きく変えず、健康や意欲に合わせて安心して長く働ける環境の整備を進めている。 POINT �@定年65歳、その後は一定条件のもと75歳まで再雇用。75歳以降も一定条件のもと年齢の上限なく再雇用が可能となる制度を、就業規則に明文化している。 �A定年後もそれ以前と「変わりなく仕事ができる」環境、風土が根づきつつある。若手社員と高齢社員による「役割分担」の推進などで、経験豊富な高齢社員が能力を活かし、活躍できる場を創出している。 �B賃金は業務責任・範囲に基づいて設定。年齢に関係なく同一の基準で評価を行い、評価結果は、次の年の契約に反映する。 �C表彰制度や資格取得助成などのほか、「アニバーサリー休暇」といった同社独自の施策も、年齢にかかわらず全社員に適用。高齢社員のモチベーションアップにつながっている。 �U 企業の沿革・事業内容  同社の歴史をひもとくと、そのルーツは1872年創業の材木屋にある。薪・炭・木材の生産販売から発展し、1946(昭和21)年に建設業なども手がける「増田木材店」を設立。法人化、組織変更などを経て1991(平成3)年、「増木工業株式会社」に名称を変え、建築、不動産売買、賃貸管理、リフォーム、官公庁工事など幅広い事業を展開。2022(令和4)年にホールディングス体制に移行し、リフォームと不動産管理部門をになう会社として「株式会社増木」を設立。さらに2026年3月には不動産部門が独立する形で、株式会社増木不動産が設立された。  150年を超える歴史のなかで、時代の流れに合わせながら事業を行ってきた同社の強みは、「地域に根ざした住まいの提案と確かな技術力の提供」。長期にわたる顧客との信頼関係が特に重要となる建築・不動産業で、地域に住む人たちの相談にもていねいに対応しながら、人とのつながりを大切に、「この地域に在って良かったと言われる企業」を目ざしている。 �V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  社員数は34人で、60歳以上は9人。内訳は、60〜64歳が4人、65〜69歳が2人、70歳以上が3人で、いずれもリフォームや不動産管理などの一線で中核となる戦力として活躍している。  「仕事を第一に考えれば、技術やスキルを持っている熟練者が貴重。年齢に関係なく、働けるのであれば、働いてもらいたい」と親会社である株式会社増木ホールディングスの増田(ますだ)敏政(としまさ)社長。シニア層の「顧客の住まいの悩みにていねいに対応する高い傾聴力と対話力」や「宅地建物取引士などの専門資格と確かな現場技術」は、社業にとって不可欠との考えだ。  貴重な戦力となるシニア層がその力を発揮できるよう、「役割分担」で若手社員とも自然に助け合える環境づくりを推進している。役割は年齢によって固定せず、それぞれの経験・知識・技術・体力などを活かしながら、チームで負担を分散。高齢社員の負担の軽減、疲労の防止を図るとともに、若手社員への技術・ノウハウの継承にもつなげている。 �W 改善の内容 (1)制度に関する改善 �@雇用制度を改善  65歳の定年後、75歳まで嘱託社員として1年ごとに契約を更新できる再雇用制度を導入。契約更新の評価基準などは就業規則で定めており、個人の面談を経て、公平性・客観性を確保しながら、更新している。2022年のホールディングス化からこれまで、本人が退職を希望した場合を除き、パート採用の高齢者を含め、雇用を打ち切った事例はない。 �A労働日数・時間は個別に最適化  従来から短時間正社員制度やパート勤務制度があり、社員がそれぞれ労働日数・時間の相談を申し出て、会社がそれに柔軟に応じる基盤がある。定年後の嘱託社員についても、年1回の面談で、本人の希望や健康状態、職場の状況を総合的に勘案して労働日数・時間を決定。個別に最適化する形にしている。 �B仕事内容、基本給の維持  定年後も月給制を維持。賃金に年齢区分を設けず、基本給は原則、役割・職によって設定している。業務面でも、嘱託社員になったことによる変更などはなく、「よい意味で、高齢社員から仕事を取り上げていません。嘱託社員になっても変わりなく仕事ができているので、それがやりがいになっていると思います」(株式会社増木・荒井(あらい)智博(ともひろ)社長)という。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み �@新たな職務の創出  高齢社員を「単なる労働力の補填」ではなく、組織を支える「コア戦力」とするため、リフォームの工事現場などで「品質アドバイザー」、「若手メンター(指導者)」の職務を創出。同社の役割分担の取組みの一環で、高齢社員の体力的な負担を抑えつつ、工事現場などでの品質維持や後進の育成で力を発揮している。  さらに、住まいについての悩みを抱えるシニア層の顧客を対象として「相談窓口」を開設。その相談窓口の担当を、人生経験豊かで傾聴能力の高い高齢社員にになってもらうことで、同社サービスへの顧客満足度向上につなげている。 �A資格取得、学び直しなどへの支援  資格取得では、年齢制限なしで50万円を上限に費用を支援する。学び直しに関しては、現場管理や不動産業務で導入が進むITツールやデジタル機器への対応研修や、最新の省エネ建築や法改正の勉強会を定期的に実施。そのほか、「自主企画研修旅行」という独自の制度を設け、レポート提出を条件に、休日付与と手当を支給し、社員の学びを後押ししている。「この制度ががんばろうと思うきっかけの一つになった」と、高齢社員から好評の声が上がっている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、安全衛生、福利厚生の取組み �@身体的負担の軽減  リフォームなどの現場で、身体的な負担が大きい業務については、個人に負担が集中しないよう、作業内容に応じてチーム内での業務を分担できる体制、交替可能な体制を整えた。台車や作業補助具なども活用し、身体への負担の軽減を図っている。 �A健康管理の取組み  健康で長く活躍してもらうため、個別面談や日々のコミュニケーションを通じて、徹底した健康状態の把握と心身のケアを行っている。身体を動かす習慣づくりを会社全体で推進し、朝礼時のラジオ体操などを定着させた。 �B両立支援コーディネーターの配置  病気と仕事の両立を支援するため、両立支援コーディネーターを配置。高齢社員を含む全世代が、安心して働ける環境整備を推進している。 �C多様な働き方を支援する取組み ・世帯主指定ノー残業デー  育児・介護・家庭と仕事の両立を支援するため、それぞれの社員の世帯主が日にちを指定するノー残業デーの制度を設けた。取得者には家族の人数に応じた補助金を支給する。 ・マイ・アニバーサリー休暇  個人の記念日(アニバーサリー)を大切にすることができるよう、社員が自由に選択して休暇を取得できる「アニバーサリー休暇」の制度を設けた。取得者には手当を支給する。 (4)その他の取組み  「人とのつながり」を強めていく取組みとして、社内親睦や地域貢献活動も推進している。社内の交流活性化に向けては、「親睦推進補助金」として飲食費などを補助しており、活用事例は多い。また、「親子出勤制度」を設け、子どもを連れて出勤することも可能となっている。職場にいる子どもたちを、高齢社員が自分の孫のようにかわいがる様子なども見られ、世代間の理解促進にも一役かっている。 (5)高齢社員の声  46歳のとき、正社員として長く働けることに魅力を感じ、当時働いていたパートの仕事から同社への入社を決めた山道(やまみち)崇子(たかこ)さん(66歳)。「入社面談で『建設業経理士の資格を取ってください』といわれたのがうれしかった」という山道さんは、仕事にも学びにも積極的で、経理、住宅事業、広報などさまざまな業務を経験し、現在は賃貸管理業務などを担当している。  「不動産事業で、お客さまとのかかわりが増えたときに、正しい知識できちんとお伝えすることが大事だと気づき、責任感が芽生えました」といい、勉強に邁進し、宅地建物取引士に63歳で見事合格。今後も「必要とされる人材でいたい。毎年更新時に、自分の職務に対して『これとこれでお給料をください』といえるようにしたいのです」と、笑顔で語っていた。  田村(たむら)真知子(まちこ)さん(70歳)は、子育てが一段落した44歳のときに入社。以来、不動産事業の事務や営業で活躍し、「顧客サービスのプロフェッショナル」として周囲からの信頼も厚い。田村さんは、「自分の場合、環境的にもがむしゃらな働き方はできません。それを尊重していただいているので長く働けていると思っています」というが、「元気でいること」に対する自身の努力も欠かしていない。「月に60km以上」を目標にランニングをし、体を鍛えている。今後はさらに「社会に貢献できることもやってみたいです」と意欲的だ。  50歳で入社し、不動産の工事を担当している森田(もりた)恒夫(つねお)さん(71歳)は、もともと建築関係の仕事をしており、建築、リフォーム、修繕工事などに豊富な経験を持つ。15年以上にわたり、同社が管理している物件の工事関連業務を一手に引き受けてきた。現在は3人体制で業務を行っているが、うち1人は2026年4月に入社した若手で、森田さんはそのメンター役もになう。勤務は週5日、午前8時半から午後5時半のフルタイム。元気に働く秘訣は、「通勤を含めて1日8000歩ぐらいは歩くこと。体が動くかぎりは働きたい」と話してくれた。  最高年齢者の久保添(くぼぞえ)充行(みつゆき)さん(76歳)は、東京営業所で官公庁関連の営業を担当している。新卒で入社した建設会社を早期退職してから、埼玉県内の地元業者、同県内に支店がある建設会社を経て、68歳で入社。それまでにつちかった営業スキル、人脈で、手腕を発揮しているが、「昔の経験だけで仕事ができるかというとそうではなく、いろいろ変化をしています。自分でも積極的に情報を収集して、自分なりに挑戦をしています」とチャレンジする姿勢を崩さない。同僚からも「手本にしたい」と尊敬を集める存在だ。情報収集をして人間関係構築につなげていく営業の精神は、社内向けにも発揮されている。「職場には若い人も多いのですが、その趣味も勉強しています。例えば、『推し』のアイドルのこととかね」と、久保添さん。共通の話題が世代間の潤滑油にもなるそうだ。元気で働く秘訣は「健康」で、健康のために「休みの日は必ず、早朝カラオケに行きます」。カラオケでもつねに、新しい歌にチャレンジしているそうだ。 (6)今後の課題  荒井社長に話をうかがうと、「これまでは経験豊富で能力の高い社員が、年齢を重ねていくのに応じて、制度を整えてきたという面があり、今後については考えなければならないことも少なくない」のが実情だという。増木ホールディングス人事課の山宮(やまみや)弘資(こうすけ)課長は、「個人の健康状態やモチベーションには差があるため、画一的な制度ではなく、一人ひとりにカスタマイズした『オーダーメイド型の働き方』を追求する必要があると思います」と話す。定年の延長、65歳以降の再雇用制度の見直しなど、実態をふまえて検討し、「多様な世代がそれぞれの強みを活かし、年齢にかかわらずやりがいを持って輝き続ける地域密着企業」を目ざす考えだ。 写真のキャプション 株式会社増木 増木ホールディングスの増田敏政社長 左から久保添充行さん(76歳)、山道崇子さん(66歳)、株式会社増木の荒井智博社長、田村真知子さん(70歳)、森田恒夫さん(71歳 【P16-19】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 経営経験を持つシニアが中核をになう生涯現役の事業承継プラットフォーム 株式会社 事業(じぎょう)承継(しょうけい)機構(きこう)(東京都千代田区) 企業プロフィール 株式会社 事業承継機構 (東京都千代田区) 創業 2018(平成30)年11月 業種 専門サービス業 社員数 39人(2026〈令和8〉年4月1日現在) 60歳以上 30人 (内訳) 60〜64歳 14人(35.9%) 65〜69歳 15人(38.5%) 70歳以上 1人(2.6%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。定年後は一定条件のもと70歳まで再雇用。70歳以降は一定条件のもと75歳まで再雇用。75歳以降も一定条件のもと年齢の上限なく再雇用。最高年齢者は72歳 �T 本事例のポイント  株式会社事業承継機構は、2018(平成30)年に設立された、日本の中小企業が直面する「後継者不足による黒字廃業・事業途絶」といった社会的課題の解決を目的とするソーシャルビジネス企業である。  同社の際立った特徴は、高齢社員が組織の中核をになっている点にある。社員の平均年齢は62歳で、60歳以上が全体の76.9%を占め、社員の約半数が社長・役員経験者である。長年つちかった経営経験や専門知識、人脈を活かし、事業承継先企業の経営支援や組織改革、人材育成において重要な役割を果たしている。経営を知る人材が事業のにない手となる構造そのものが、同社の競争力の源泉となっている。 POINT �@高齢社員が組織の中核をになっており、約半数が社長・役員経験者で構成され、経営経験と専門性を事業承継支援に活かしている。 �A大手を含む約50社の企業の人事部と「再就職支援制度」により連携し、キャリアが豊富な高齢社員を自社および事業承継先企業で採用している。 �B2024(令和6)年11月に社内タスクフォース活動を実施。経験豊富な高齢社員をリーダーとし、機能別組織への発展を目ざす取組みを進めた。 �C社長との定期対話や勉強会、グループ討議、資格取得支援を通じて継続的な学びをうながしているほか、生成AIの活用を推進し、高齢社員の能力・意欲の向上を図っている。 �D65歳の定年後、一定の条件のもと70歳まで再雇用する制度を整えるとともに、有期雇用や業務委託などの多様な働き方を組み合わせて、個々の状況に応じた就業を可能にしている。 �U 企業の沿革・事業内容  2018年、「Yamatoさわかみ事業承継機構」として設立され、翌年から事業を本格始動し、2022年に現社名へ変更した。後継者不足に直面する中小企業の事業を承継し成長させることを目的とし、日本の社会基盤を永続的に守るという理念を掲げている。  地域金融機関との連携に加え、投資家からの出資により「事業承継未来ファンド」を組成し、後継者不足などの課題を抱える中小企業の株式を取得して事業承継を実施している。承継後は100%子会社として経営人材の派遣やガバナンスの強化、財務体質の改善を通じて企業価値の向上を支援。短期的な利益や転売益を追わず、取得した株式を原則として長期保有する点が特徴である。これまでに承継した企業は26社にのぼり、そのいずれにおいても廃業やリストラの例はない。 �V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  高齢社員の比率が高く、社員の平均年齢は62歳である。60歳以上の社員が全体の76.9%を占め、65歳以上の社員も多数在籍している。採用にあたっても60歳未満は少なく、60代前半層以降の採用が7割を占める。最高年齢者は72歳の社員で、承継企業との経営に関する窓口業務を担当し、長年つちかった専門性や経験を活かして企業運営を支えている。  こうした人員構成は、事業承継支援という事業特性に根ざしている。承継先企業の経営支援や営業活動には、経営経験や実務知見を有する人材が欠かせないためである。そこで単なる後継者不足の解消にとどまらず、人材・資金・経営機能を一体的に提供する仕組みを構築してきた。個々の能力や経験を最大限に発揮できる就業環境の整備にも設立当初から取り組んでおり、定年後は、業務委託契約を含む70歳以降の就業機会を確保する制度の導入、年齢で業務を制限せず専門性を活かした配置、個別面談による職務・契約条件の調整などの施策を体系的に整備している。 �W 改善の内容 (1)制度に関する改善 �@雇用形態と定年制度・継続雇用制度  設立当初から定年を65歳とし、定年後は就業規則により一定の条件のもと70歳まで再雇用している。その後も運用により一定の条件のもと75歳まで、さらにその後は、運用により一定の条件のもと年齢の上限なく再雇用する仕組みとなっている。なお、無期雇用契約社員の場合、定年は70歳、有期雇用契約からの無期転換時に70歳を超えている場合は定年を75歳とするなど、年齢上限にかかわらない柔軟な運用を実現している。正社員のほか有期雇用契約や業務委託など多様な雇用・就業契約を組み合わせ、個々の能力やライフステージに応じた働き方を可能にしている。  所定労働時間は1日8時間・週5日を基本としつつ、短時間勤務制度や在宅勤務制度を整え、2025年4月にはフレックスタイム制と半日休暇制度を導入するなど、個々の社員の事情の変化に応じて、働き方を柔軟に見直せる体制を整えている。 �A評価・賃金制度  賃金は月給制を基本とし、定年後の再雇用に切り替わっても月給制そのものは変わらない。ただし、役職者は65歳定年時に役職を離れるため、役職手当が支給されなくなる分、年収の水準は下がる。  賞与は固定額ではなく、業績に応じて支給額が変動する。「査定評価シート」を用いて四半期ごとに上長と面談を実施し、評価を賞与に反映。特徴的なのは、経営支援業務を担当する社員の個人業績評価である。担当する承継先企業の社長へのヒアリングを通じて、業務の遂行状況や目標の達成度を評価する。長期的に企業価値の向上を図るという事業の性格から、単年度の定量評価にとどまらず、長期的な視点を評価に織り込む仕組みとなっている。加えて、企業理念に沿って行動できているかという定性的な評価も重視し、短期の業績だけに縛られることなく、高齢社員が長期的な視点で仕事に向き合えるよう工夫をしている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み �@タスクフォース活動  2024年11月から3カ月間、社内タスクフォース活動を実施した。事業承継先の企業に対して、マネジメント改革、組織・風土改革、ミッションドリブン(業務改革)、権限移譲、人事制度改革に関する意見提言を行うもので、経験豊富な高齢社員をリーダーに起用し、若手・中堅社員を含むチームを編成し取り組んだもの。若手・中堅社員にとっては主体的に会社運営を考える機会となり、世代を超えて共通の課題に取り組むことで、相互の学びと啓発の場となった。 �A教育訓練・リスキリング  高齢社員が保有する知識や経験を活かしながら、さらなる成長と能力向上を図るため、教育訓練とリスキリングを進めている。社長との定期的な対話や、社長の著書を用いた勉強会、全社員ミーティングでのグループ討議を通じて、企業理念や事業モデルへの理解を深める機会を設けている。金融以外の業種から入社する社員も多いことから、勉強会では事業承継の仕組みや企業理念への理解を深め、事業承継に関する知識を養うことに主眼を置いている。資格取得に必要な受験料などの支援に加え、生成AIといった新たなツールの活用も推進している。これらの取組みが、高齢社員の継続的な学びと自己研鑽(けんさん)をうながし、意欲の向上と能力の発揮につながっている。 �Bシニア人材の知見の活用と世代間の学び合い  知識・経験の豊富な高齢社員を、自社のみならず承継先企業にも配置し、それぞれが経営支援や組織運営、人材育成、ノウハウの継承といった中核的な役割をになっている。高齢社員にとっては、自らの知見や経験を地域企業の成長に活かすとともに、次世代の人材育成にも貢献することで、大きなやりがいと社会的意義の実感につながっている。その一方で、高齢社員がITツールなどの習得において若手社員から指導を受ける場面も多い。ノウハウを伝える側と学ぶ側が固定されず、世代を超えて教え合う関係が生まれており、職場に無形の好影響をもたらしている。 (3)作業環境・健康管理・福利厚生の取組み�@健康経営○R(★)  2025年7月、会社全体で健康づくりに取り組む「健康経営」を宣言した。定期健康診断や特定健康診断を柱とし、社員のみならず事業に参加する業務委託契約者も含め、8000円の受診料補助を行っている。会社の規模から専任の産業医や産業保健スタッフを置くことはむずかしいものの、協会けんぽや外部機関を有効に活用し、高齢社員が心身ともに安心して働ける環境の整備を進めている。 �A相談窓口の設置  第三者機関と提携し、オンラインの通報・相談窓口「JSKほっとライン」を設けている。上司や関係部門に相談しにくい事情があるときにも、心の悩みを直接相談できる仕組みである。 �B福利厚生と社内交流  勤続1年以上の社員を対象とした退職金制度を設けているほか、年に4回、職場の全員が集う懇親会を開催している。懇親会には事業に協力する金融機関や社会保険労務士、承継先企業の社長なども加わり、事業計画の進捗を共有し、日常業務にかかわる情報を交換する機会となっている。さらに2025年12月には、経営への諮問機関として人事委員会を発足させ、シニア中心の人員構成にふさわしい福利厚生制度の検討を始めている。 (4)その他の取組み  同社の高齢社員の活躍は、独自の採用の仕組みに支えられている。大手を含む企業約50社の人事部と再就職支援制度により連携し、キャリアが豊富なシニア人材の採用母集団を広げてきた。約600人の就労希望登録者からマッチングを行い、自社および承継した中小企業に採用・配置している。承継先の多くは人員層が薄く指導者も不足しているため、採用した高齢社員がつちかってきた知識と経験を発揮することで、承継先の業績向上や組織風土の改革につながっている。  また、承継した中小企業が所在する地域との関係を築くため、企業版ふるさと納税を通じた地域貢献にも取り組んでいる。後継者不在による廃業は地域経済にも大きな影響を及ぼすことから、事業承継を通じた企業の存続そのものが地域社会への貢献につながる。地域に根ざしシニアが活躍する会社として認知されることが、より多くのシニアの雇用機会の創出と、地域社会の活性化への貢献につながると考えている。 (5)高齢社員の声  清水(しみず)斉(ひとし)さん(60歳)は、前職で役職定年になったことを機に入社。前職でのIT部門での経験を活かして同社のセキュリティ業務に従事している。「この会社の事業理念と支援業務に強く魅力を感じ、再就職を決めました。これまでの経験がそのまま活きる仕事に就けて、充実しています」と語る。  塩井(しおい)英喜(ひでき)さん(66歳)は、前職で技術開発・事業運営の経験を積んでおり、定年を機に入社した。「事業承継の取組みに深く共感したことが、ここで働くきっかけになりました。年齢にかかわらず、つちかってきたものを発揮できる場があるのはありがたいことです」と話す。  大石(おおいし)泉(いずみ)さん(68歳)は、新規事業や経営マネジメントの経験を活かし、週3日勤務で、承継先企業の経営支援を担当している。「健康に不安がなく、働けるうちは働き続けたいと思っています。自分の経験が地域の企業の役に立っていると感じられることが、何よりのやりがいです」と語っている。 (6)今後の課題  今後の社員数の増加や、就業年齢の引上げという社会的な要請を見すえ、シニア世代に向けたキャリア形成支援が必要になると考えている。社内にはキャリアコンサルタントの有資格者もおり、自社での研修の実施を検討している。  2025年12月に発足した人事委員会では、人事・報酬制度や働き方の見直しも進めており、すべての社員が意見を出し合い、経験と意欲に応じて長く活躍できる企業風土を、これからも育てていく。 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 写真のキャプション 株式会社事業承継機構の社員のみなさん 社内勉強会の様子 清水斉さん(60歳) 塩井英喜さん(66歳) 大石泉さん(68歳) 【P20-23】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 DXと豊かな人生経験で事務の現場をになう60歳からの新規雇用が拓く活躍の場 大東(だいとう)コーポレートサービス 株式会社(東京都品川区) 企業プロフィール 大東コーポレートサービス 株式会社 (東京都品川区) 設立 2005(平成17)年 業種 その他の事業サービス業(事務作業の受託・シェアードサービス) 社員数 436人(2026〈令和8〉年9月1日現在) 60歳以上 24人 (内訳) 60〜64歳 7人(1.6%) 65〜69歳 15人(3.4%) 70歳以上 2人(0.5%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。定年後は65歳まで再雇用。その後も雇用形態は変わるが希望者全員を70歳まで再雇用。そのほか、60歳以上を対象とした嘱託社員としての新規雇用制度(契約から最長5年)を設けている。最高年齢者は74歳 �T 本事例のポイント  大東コーポレートサービス株式会社は、大東建託株式会社の特例子会社※として、グループ各社の事務作業を集約してになうシェアードサービス会社である。  同社は、生産年齢人口が減少するなかで人材確保に苦慮する一方、就業を望みながらもその機会に恵まれない高年齢者が数多くいる現実に着目した。そこで、自社の人材確保と高年齢者の就業問題を同時に解決する道として、2024(令和6)年4月、60歳以上を対象とした新規雇用制度を設けた。定年後の再雇用ではなく、他社を定年退職した人材を新たに迎え入れるこの取組みは、同業種のなかでも先進的な試みであり、高年齢者が豊かな人生経験を活かせる活躍の場を築いている。 POINT �@パソコンスキルテストに合格した60歳以上を新規雇用し、人材確保と高年齢者の就業問題の同時解決を実現。 �A高年齢社員の「画面の迷子(まいご)」などの課題を分析し、文字の拡大や操作の自動化に配慮した専用ツールを開発し、作業時間を大幅に短縮。 �B工事の協力会社への契約書提出の督促や書類確認に高年齢社員の経験とトラブル対応力が活き、提出率が格段に向上。大東建託の残業時間削減など大きな成果につながっている。 �C毎朝15分間のパソコン練習時間と、高年齢社員のみの毎日の朝礼を設け、技能の向上とコミュニケーションの活性化を図っている。 �D保健師による面談や、19インチモニター・眼鏡型ルーペの導入、柔軟な勤務形態など、健康と働きやすさに配慮した支援を整えている。 �U 企業の沿革・事業内容  2005(平成17)年5月に設立され、同年8月に大東建託株式会社の特例子会社として認定を受けた。以来、北九州事業所や浦安事業所の開設、グループ会社との合併などを経て、2016年より現在の体制となった。  事業内容は、大東建託およびグループ会社からの事務作業の受託を中核とするシェアードサービスであり、そのほか名刺・看板の製作、印刷、図面製本、メールセンターの運営管理などもになっている。 �V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方 同社が高年齢者の新規雇用に踏み出した背景には、生産年齢人口が減少傾向にあることなどから、人材の確保が年々むずかしくなっているという事情がある。加えて、パート・アルバイトの求人応募数は年々減少しており、シェアードサービス会社として組織を維持するむずかしさが高まると見込まれていた。  高齢者雇用の取組みの中心となった北九州事業所は、2008年に本社以外で最初の拠点として開設された。北九州市は、高齢化率が政令指定都市で第1位という、高齢化の進んだ都市である。  同社では、以前から北九州市内でスマートフォン・パソコン教室を開催しており、参加した高年齢者からは「まだ働きたい」という声が多く寄せられるなど、人材を求める企業と就業を望む高年齢者を結ぶ場として適していた。  そこで2024年4月、パソコンスキルテスト、適性検査、面接の結果にもとづき、60歳以上の高年齢者を採用する新規雇用制度をスタートした。  制度の始動にあたっては、客観的なデータにもとづく検証を重視。北九州市の高年齢者向けイベントに出展した際、来場者にパソコンスキルのチェックを実施したところ、きわめて高いスキルを持つ高年齢者が多いことがわかった。この結果は、「高年齢者はパソコンが苦手」という通念が必ずしもあてはまらないことを裏づけ、経営層の理解を得る根拠となった。 �W 改善の内容 (1)制度に関する改善 �@雇用形態  高年齢者の新規雇用は、嘱託社員として行われる。定年を迎えた自社の社員を対象とする再雇用とは異なり、他社を定年退職した人などを新たに迎え入れる制度である点に特色がある。雇用契約は半年ごとの更新とし、パソコンスキルの評価と面談の結果にもとづいて継続を判断する。契約期間は最長で5年。2026年9月現在、東京と北九州で18人(東京4人、北九州14人)が活躍している。 �A多様な勤務形態  身体的な負担や健康状態に配慮し、社会保険が適用される条件を満たす範囲で、1日7.5時間の週3日勤務や1日6時間の週4日勤務など、勤務時間を希望に応じて選べる制度を設けている。60歳以上の66.7%がこの制度を利用して働いており、いずれも申請制で、フルタイムへの変更も可能である。 �B評価・賃金制度  昇給は勤続年数に応じて時給を引き上げる仕組みで、毎年10円、契約から3年を超えると20円が加算される。賞与は年2回支給している。  また、パート・アルバイト社員を対象に、業務のスピードと正確性、電話対応、社員協力、快適な職場環境づくりへの貢献を評価し、最大2万円を加算する賞与加算制度を設けている。「自分の取組みが正当に評価されていると実感できる」との声が多く、日常的な業務改善案やツール作成の提案につながっている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み �@前職の経験を活かした役割設定  高年齢社員の基本業務は、工事業者への契約書提出の督促の電話連絡と、提出された契約書の確認である。この電話連絡は、以前は若手社員が担当していたが、提出率が芳しくなく、同じ業者へ何度も連絡しなければならないなど敬遠されがちな業務であったが、高年齢社員がその業務をになうようになったところ、提出率は格段に向上した。年齢を重ねた人からの督促には業者側も迅速に応じる傾向があり、相手の反応が芳しくないような場合でも粘り強く対応して提出をうながしている。若手社員では萎縮しがちな場面での対応力と粘り強さは、高年齢社員ならではの経験値に支えられている。  また、業務改善やマネジメントの経験を持つ人材も多く、若手社員では思いつかない視点からの改善提案や業務ツールの提案など、想定を超える効果も生まれている。 �A毎朝のスキルアップタイムと朝礼  高年齢社員のパソコンスキルの維持・向上を目的に、毎朝15分間のパソコン練習時間(スキルアップタイム)を設けている。タイピングやマイクロソフトのExcel、Teamsの操作などを練習するもので、1分あたりのタイピング速度は、入社時の平均70.1字から、10週間で平均112.1字へと向上した。これは既存スタッフの平均を上回る水準である。  あわせて、以前は廃止していた朝礼を高年齢社員の希望により復活させ、毎日15分間実施している。業務上の不明点や共有事項を確認するとともに「一人で抱え込まない」職場の雰囲気づくりの場にもなっている。 �B新規採用者への指導体制  新規雇用制度の開始当初は若手社員が高年齢社員に業務を教えていたが、実務に習熟した高年齢社員が新しく入社した高年齢社員に教える場面が多く見られるようになったことから、2025年1月、高年齢社員が新規入社の高年齢社員に教える体制を整えた。教わる側からは「要点が明確でわかりやすい」と好評で、教える側からも「教えることが記憶の定着に役立つ」との声があがっている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み �@業務のDXによる負担軽減  新規雇用制度を始めた当初、若手社員が作成した業務ツールは、パソコン操作に慣れていることを前提とした内容であり、高年齢社員からは「文字が小さく作業を覚えづらい」、「画面上での操作は苦手」といった声があがった。  その背景を探るなかで見えてきたのが、画面のなかで自分がどこを操作しているのかわからなくなる、いわゆる「画面の迷子」といった課題である。同社はこれらを分析し、高年齢社員に配慮した業務ツール「施工台帳ナビ」を開発した。文字サイズを20ポイントとし、画面上での操作やファイルの読み込み・起動、メール作成の自動化、確認作業を〇×で判断できるようにするなど、操作の負担を減らすことに主眼を置いたもの。ツールにマニュアルを組み込み、作業手順を目に見える形にする工夫も加えた。  この結果、1件あたりの作業時間短縮効果は、若手社員が作成したツールが46.0%だったのに対し、高年齢社員に配慮したツールでは71.9%の短縮を達成した。作業時間の大幅な短縮により、2025年4月からは4業務を追加で受託し、2026年4月からはさらに8業務を追加受託。高年齢社員への配慮から生まれたDXへの対応が、業務領域と組織の拡大に直結している。なお、この業務ツールは、前職でシステム開発にたずさわっていた高年齢社員が自主的に作成したものであり、その高年齢社員は現在、システムエンジニアとしての役割をになっている。 �A作業環境の改善  身体的な負担を軽くするため、通常は17インチのパソコンモニターを19インチにし、腱鞘炎(けんしょうえん)になりにくいマウスや眼鏡型のルーペを導入した。  また、高年齢社員のみをまとめた座席の配置により、各チーム5〜6人がまとまるようにした。口頭での情報共有を推奨することで発言が活発になり、「連携がとりやすい」、「結束が強まる」と好評である。 �B健康管理・メンタルヘルス対策  定期健康診断の結果において、高年齢社員の有所見率が高い傾向にあるため、必要に応じて保健師が保健指導や受診勧奨を行っている。加えて、入社後1カ月目・7カ月目には保健師によるフォロー面談を実施し、体調の変化や不安を早期に把握して負担の少ない働き方につなげている。体力測定などの健康増進イベントも実施し、こうした取組みが評価され、健康経営優良法人(ホワイト500)に5年連続で認定されている。  また、若手社員を含む月1回の全体ミーティングや毎日の朝礼に加え、管理職が契約更新のたびに1対1の面談を行い、身体的・精神的な負担や勤務環境、要望の聞取りなどを通して、メンタルヘルス不調の未然予防につなげている。 (4)その他の取組み  同社は北九州市と密に連携し、高齢者雇用の進捗を定期的に報告している。「ミドル・シニアと企業の出会いの場」に出展し、職業体験のブースで1分間のタイピングや5分間のExcelの操作を体験してもらう催しには累計で201人が参加した。こうした地域への貢献が認められ、2026年2月、福岡県生涯現役チャレンジセンターから感謝状が贈られた。 (5)高年齢社員の声  深堀(ふかほり)正識(まさのり)さん(61歳)は、工事業者や産業廃棄物処理業者の許可証の確認、システムに申請された内容の確認と差戻しなどを担当し、勤続1年11カ月を迎えた。  「新しいことをするのが好きなので、いろいろな仕事をやらせてもらえて飽きません。目標は、あと3年フルタイムで働くことです」  出口(でぐち)美智代(みちよ)さん(61歳)は、施工に関する台帳の作成や工事業者とのやりとりを担当し、勤続1年11カ月となる。  「業者さんとのやりとりでは、穏やかな空気で会話をすることを心がけています。いろいろな業者さんがいらっしゃるので、お話しするのが楽しいです。勤務日数を柔軟に調整できることも心強いですね」  國永(くになが)和子(かずこ)さん(71歳)は、施工に関する台帳のチェックや操作を担当し、勤続1年1カ月となる。  「これまでの仕事でつちかった知識や経験が、いろいろなところで活きています。年齢を気にせず働けるのが気持ちよく、仕事をしやすい職場です」 (6)今後の課題  同社は、「高齢者雇用×シェアードサービス×DX」を標準的な仕組みとしてまとめ、大東建託グループ全体へ広げていくことを目ざしている。グループ全体には高年齢者がになえる業務が数多く残されているため、アクセシビリティと自動化をさらに高め、高い生産性を追求することで、これを実現していきたいと考えている。あわせて、職場環境の整備や保健師による個別面談の仕組みを各拠点へ展開し、高年齢社員の高い定着率を維持しながら、就業人口の減少という社会課題の解決にいっそう貢献していく方針である。 ※特例子会社……障害者の雇用の促進および安定を図るため、事業主が障害者の雇用に特別の配慮をし、一定の条件を満たす場合に厚生労働大臣が認定し、親会社に合算して障害者の雇用率を算定できる子会社 写真のキャプション 大東コーポレートサービス株式会社北九州事業所 17インチモニター(左)と、高年齢社員向けに用意した19インチモニター(右) 左から出口美智代さん、國永和子さん、DX推進室長兼サポート事業部次長の塩塚亮作さん、深堀正識さん、サポート事業部地図情報センターの伊�ア稜太さん 【P24-27】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 定年後再雇用職員の戦力化 −人事制度改革による高齢職員の活躍を推進− にいかわ信用金庫(富山県魚津(うおづ)市) 企業プロフィール にいかわ信用金庫 (富山県魚津市) 創業 1923(大正12)年 業種 協同組織金融業(預金・融資・為替業務など) 職員数 116人(2026〈令和8〉年4月1日現在) 60歳以上 11人 (内訳) 60〜64歳 6人(5.2%) 65〜69歳 4人(3.4%) 70歳以上 1人(0.9%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員を65歳、一定条件のもと70歳まで再雇用。さらに70歳以降も一定条件のもと年齢の上限なく再雇用。最高年齢者は71歳 �T 本事例のポイント  にいかわ信用金庫は、1923(大正12)年に有限責任魚津町信用組合として発足。以来、幾度かの名称変更と合併を経て、富山県東部を中心に地域とともに歩んできた金融機関である。  「地元産業と地域市民の繁栄への奉仕」を理念に掲げ、金融サービスの提供にとどまらず、創業支援や販路開拓、経営課題の解決など、地域に密着したコンサルティング機能を軸とした事業に取り組んでいる。  人手不足が顕在化し、数年後には定年到達者の増加が見込まれるなか、定年後の再雇用となった職員を、補助的・定型的な業務に限定する従来の仕組みを見直し、経験豊かな戦力として活躍してもらうため、定年前から定年後までを一貫してとらえた人事・賃金・評価制度の抜本的な改革に取り組んだ。 POINT �@定年後の再雇用職員(嘱託職員)を福祉的雇用ととらえず戦力化するため、定年前から定年後までを貫く人事・賃金・評価制度を抜本的に見直した。 �A処遇の軸を定年前は「役割基準」、定年後は「職務基準」とし、正職員は役割給、嘱託職員は職務給へとあらためた。 �B嘱託職員の職務について、職務記述書を作成し、職務評価により職務価値に応じた給与テーブルを設定。後進の育成や技能の伝承を職務として明文化し、責任をになう重要な職務として位置づけた。 �C旧制度では対象外であった嘱託職員に、ポイント制の賞与制度と人事評価制度を導入し、貢献に応じた処遇を可能にした。 �U 企業の沿革・事業内容  1923年に有限責任魚津町信用組合として発足し、1948(昭和23)年に魚津信用組合、1950年に新川信用組合へと名称を変更。1951年の信用金庫法の制定にともない新川信用金庫へ改組し、1990(平成2)年に水橋信用金庫との合併で新川水橋信用金庫とあらため、そして2005年の滑川信用金庫との合併により、現在のにいかわ信用金庫となった。  富山県全域を営業エリアとし、県東部を中心に10店舗を展開する地域金融機関として、預金・融資・為替業務などを展開している。「地元産業と地域市民の繁栄への奉仕」を理念に、金融サービスの提供に加え、創業支援、中小企業の販路開拓、経営課題の解決、事業再生などのコンサルティング機能を軸とした地域密着型金融に取り組んでいる。 �V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  全職員116人のうち、60歳以上は11人。最高年齢者は71歳で、事務集中センターの仕事や本店と支店間のメール便運搬を担当している。定年後の職務としては、集配・備品管理、法務担当、預金特化型サテライト店の店舗長など、本人の経験や希望に応じた配置が行われている。  働き方改革関連法の施行前後から人手不足が顕在化し、職員全体の年齢構成から、数年後には定年到達者の増加が見込まれていた。しかし、従来の定年後再雇用制度では、定年後の職務を経験や能力にかかわらず補助的・定型的な業務に限定していたため、再雇用を希望しない職員が一定数いた。また、定年後は時給制で、定年前の役職を考慮して時給額を設定していたことから、同じ仕事内容でも時給額が異なることへの不満を持つ職員もいるなど課題が生じていた。  こうした課題をふまえ、定年後の再雇用職員を戦力化するため、定年前の制度を含む人事制度の抜本的な見直しを進めた。当初は定年年齢の延長を軸に議論を進めたが、退職金を支給するタイミングについての職員アンケートで60歳を希望する回答が多かったことから、定年年齢の延長ではなく、人事・賃金制度を見直すことで、実質的に定年年齢の延長に近い仕組みを整備する方向へと切り替えた。  労働組合との協議では、年齢ごとの退職金シミュレーションを示しながら説明を重ねて、理解を深め、2023(令和5)年から3段階に分けて制度改定に着手。時給制から月給制への移行や職務等級の見直し、人事考課制度の改定などを順次進めてきた。2026年度中には給与体系をさらに見直し、定年年齢の延長と同等の処遇に近づける予定である。 �W 改善の内容 (1)制度に関する改善 �@定年制度・継続雇用制度  定年は満60歳に達した日の属する年度末であり、希望者全員を65歳まで再雇用する(1年ごとに更新)。65歳以降については、従来「特に必要があると認めた者」にかぎる限定的な運用であったが、制度改正により、健康状態、人事評価、服務規律違反の有無などの基準を設け、65歳から70歳まで再雇用できる規定を整備した。さらに70歳以降についても、一定条件のもとで年齢の上限なく再雇用する制度としている。 �A賃金制度の見直し  高齢職員の賃金制度の見直しでは、高齢職員のみを対象とした部分的な改善にとどめず、定年前の賃金制度、役職定年制度、賞与制度、退職金制度、人事評価制度を含めて一体的に見直した。定年前の正職員については、職能給から役割給へと変更した。定年後の嘱託職員については、職務価値に応じた職務給を導入し、正職員の役割給テーブルをもとに職務評価により算定した職務ポイントに応じて給与テーブルを設定した。あわせて、年功的になりやすい賃金制度の歯止めとして設けていた役職定年制度を廃止し、年齢という一律の基準で役職を解くのではなく、雇用区分や年齢にかかわらず、その職務にふさわしい人材を役職に充てることとした。 �B賞与制度の導入  これまでは、嘱託職員には賞与を支給していなかったが、ポイント制の賞与制度を新たに導入し、定年後再雇用を含む嘱託職員をその対象とした。基本給とは切り離し、等級と人事評価の結果に応じたポイントに単価を乗じて賞与額を算定する仕組みで、2026年度の夏季賞与から適用している。 �C人事評価制度の見直しと導入  従来の人事評価は、抽象的な評価項目を7段階で評価する方式であり、評価者によって評価にばらつきが生じやすく、評価すること自体がむずかしいという課題があった。制度の見直しにより、評価シートや評価方法をシンプルにし、組織マネジメントおよびコミュニケーションのツールとして機能するよう設計した。あわせて、これまで人事評価を行っていなかった嘱託職員を、2025年度から評価制度の対象とした。  管理職の職務をになう嘱託職員は正職員と同じ評価シートを用いて目標管理とコンピテンシー評価を行い、管理職以外の嘱託職員は成績評価と組織行動評価を組み合わせて評価する。管理職以外を対象とする組織行動評価には、後進の指導やノウハウの共有、周囲とのコミュニケーションなどからなる「嘱託職員としての役割貢献」の項目が加えられており、再雇用後の嘱託職員にどのような姿勢で働いてもらいたいかを示している。 �D多様な勤務形態と面談による希望確認  定年を迎える職員には、6カ月前に総務部長が個別に面談を行い、再雇用の意思を確認するとともに、定年後の職務内容や働き方の希望を聞いたうえで人材配置を行っている。その後の契約更新時にも同様に面談を行い、フルタイム・パートタイムといった希望する働き方や希望時間帯、職務内容、勤務場所などについて、可能なかぎり本人の希望に沿うよう配慮している。定年の1カ月前には労働契約書と職務記述書を示し、再雇用後の労働条件を確認したうえで最終的な意向確認を行っている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み �@職務記述書による職務の明確化  嘱託職員の職務給制度では、職務ごとに職務記述書を作成している。職務記述書は「職務の目的」と「成果責任」の項目から構成され、面談で職務内容のすり合わせを行ったうえで作成し、労働契約の締結時に本人へ交付している。これにより、契約期間中にになう職務の内容が、そのレベル感とともに明示される。後進の育成や専門スキル・ノウハウの伝承も、努力目標ではなく責任をになう重要な職務として明確に位置づけられている。 �A専門人材への転換と適材適所  職務記述書の導入により、これまでの職務経験をふまえ、定年後はより専門に特化した職務を任せることが可能となった。長年、総務・人事分野でゼネラリスト的に働いてきた職員が、定年後は法務担当として、つちかった知識やスキルを若手・中堅へ伝承しながら、補助金・助成金の申請などに主体的に取り組んでいる例や、店舗長としての経験を活かし、預金特化型サテライト店の店舗長として店舗運営をにないながら新人教育を任されている例など、高齢職員が専門性を発揮できる適材適所の配置が実現している。 �B高齢職員が働きやすい職務の創出  かつては外部委託としていた「集配・備品管理」を自社運用へ切り替え、定年後再雇用職員の職務の一つとしている。この職務は職務等級の初号等級に位置づけられ、定年後の面談で希望する職員が一定数いることから、負荷の少ない仕事の選択肢の一つとなっている。そのほか事務部門での定型的なパソコン入力業務なども希望できるようにしている。 (3)雇用継続のための健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み �@健康管理  労働安全衛生法上は定期健康診断およびストレスチェックの対象とならない、週の所定労働時間が正職員の4分の3未満の再雇用職員に対しても、正職員と同様の健康診断とストレスチェックを実施している。対象の職員からは、受診することで健康管理に役立っているとの声が聞かれている。 �Aインフルエンザの予防接種  毎年11月に、希望者全員を対象としてインフルエンザの予防接種を実施している。雇用区分や労働時間の長さにかかわらず高齢職員も対象であり、接種費用は全額会社負担である。 �B体力づくり  職員有志による陸上部と登山部があり、特に陸上部は50代の職員が中心となって、県内外のマラソン大会などに積極的に出場している。こうした活動は、生涯スポーツとして競技を楽しむとともに、健康な心身と業務への活力につながっている。 �C表彰制度・福利厚生  長年にわたり勤務している職員を対象に、入庫20年目と30年目にそれぞれ表彰するとともに旅行券を支給している。このほか、定年後の嘱託職員についても、業務外の傷病により欠勤が1カ月を経過してもその傷病が治らない場合には最長6カ月の休職期間を設けるなど、安心して働き続けられる仕組みを整えている。 (4)高齢職員の声  飯田(いいだ)康隆(やすたか)さん(71歳)は最高年齢の職員で、制度改定前に定年を迎え、再雇用で現在に至っている。「定年後は時給制で給与が大幅に減少しましたが、現在の制度で月給制となり、給与は大きく改善しました。いまは働きやすくなったと感じています」と話す。  飯田(いいだ)一成(かずなり)さん(65歳)も制度改定前に定年を迎えた。「定年直後は時給となったため、給与の減少幅が大きかったのですが、制度が変わって給料が上がりました。働けるかぎり働き続けたいです」と、定年当時をふり返りながら話してくれた。  米原(よねはら)勝幸(かつゆき)さん(63歳)は、定年を迎えると同時に新しい制度へと移行した。「仕事上の権限は低くなりましたが、そのぶん動きやすくなり、給与の面でも満足しています。まずは65歳を目標にがんばります」と抱負を語る。 (5)今後の課題  定年前後を貫く制度改革により、年齢にかかわらず公正・公平な処遇を実現し、高齢職員の戦力化において大きな成果を得ている。今後は、この基盤をさらに進化させ、多様な働き方の拡充に取り組むとともに、育児や介護、健康状態やキャリア形成のステージに応じて雇用区分や勤務時間、役割の範囲を柔軟に選択・変更できる制度の導入を目ざしている。「処遇面での納得感」と「ライフスタイルに合わせた選択肢」の両立により、すべての職員が安心して長く働き続けられる組織を追求していく考えである。 写真のキャプション にいかわ信用金庫 高齢職員が活躍する本社の様子 飯田康隆さん(71歳) 飯田一成さん(65歳) 米原勝幸さん(63歳) 【P28-31】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 人を大切にする「しあわせ経営」を実践 選択定年制の導入により生涯現役で働くことも可能 株式会社 西軽(にしかる)精機(せいき)(長野県佐久(さく)市) 企業プロフィール 株式会社 西軽精機 (長野県佐久市) 創業 1979(昭和54)年 業種 金属製品製造業(NC複合自動旋盤による、医療機器、産業用機器部品の製造) 従業員数 28人(2026〈令和8〉年9月1日現在) 60歳以上 3人 (内訳) 60〜64歳 3人(10.7%) 65〜69歳 0人(0.0%) 70歳以上 0人(0.0%) 定年・継続雇用制度 60歳から80歳までの間で定年退職時期を決められる選択定年制。定年後は運用により希望者全員を再雇用。現在の最高年齢者は63歳 �T 本事例のポイント  株式会社西軽精機は、おもに医療機器部品の旋盤加工を手がけている。「自分と、自分に関わるすべての人を幸せにする」を理念に掲げ、従業員とその家族が幸せであることを大切にした「しあわせ経営」を実践している。また、「Well-being Company 西軽精機」を目ざし、従業員にとってよりよい環境をつくるため、従業員全員で就業規則の見直しに取り組んでいる。そのなかで、従業員が高齢になっても希望するかぎり働き続けられる環境を整備した。年齢を理由に賃金を減額することはなく、正規従業員として働き続けることができる。フルタイム勤務ができなくなったときには、非正規従業員としての再雇用が可能で、本人が希望すれば生涯現役を目ざせる会社である。 POINT �@60歳から80歳までの間で従業員自身が定年退職時期を決められる選択定年制を導入している。定年後は非正規従業員として希望者全員を再雇用し、短時間勤務となることも可能。 �A賃金は、年齢を理由に減額することはなく、半期ごとに生産性をみて評価。賞与は、100項目超の力量表にもとづいて「何ができるか」で評価し、結果を反映する。 �B従業員とその家族が幸せになることを大切にし、年収1.5倍、残業ゼロ、有給休暇の取得率の向上に取り組み、ワーク・ライフ・バランスの実現をつねに目ざしている。 �C35歳以上の従業員に対して人間ドック費用の全額補助を行い、また試用期間3カ月を過ぎた従業員は全額会社負担でがん保険に加入することができる。 �U 企業の沿革・事業内容  同社の歩みは、1979(昭和54)年に創業した旋盤加工を行う有限会社西にし軽かる井沢(いざわ)精機製作所(せいきせいさくじょ)からスタートした。工場の増設などを経て、1990(平成2)年に株式会社に組織変更すると同時に、社名を西軽精機とした。現在、長野県佐久市に本社と工場を構えるほか、静岡県浜松市に営業所を展開し、NC複合自動旋盤などを用いて、精密部品の製造を行っている。直径38mm以下の旋盤加工を得意とし、医療機器部品、歯科用インプラント、産業用機械部品などを手がけ、取引先企業数は180社を超える。  「従業員全員が工場長レベルの技術力を持っている」ことを強みとし、挑戦する風土で難易度の高い依頼にも柔軟に対応して業績を伸ばしている。 �V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員28人のうち、60歳以上は3人(全体の10.7%)。安心して長く働ける定年制度を整備したことは、中高年ばかりではなく、若い従業員にも好評である。定着率は高く、昨年までの11年間は退職した従業員がいなかった。  職場改善の取組みは、「しあわせ経営」を実践しはじめた約11年前から、さまざまな内容で進めている。上原(うえはら)大輔(だいすけ)代表取締役社長は2004年に入社。その4年後にリーマンショックがあり、同社は倒産の危機に直面した。2011年に創業者である父から社長を継いだ上原社長は、会社を存続させるという強い気持ちで仕事に励み、試行錯誤をくり返した。そんな時期に上原社長が出会ったのは、坂本(さかもと)光司(こうじ)氏の「日本でいちばん大切にしたい会社」シリーズ(あさ出版)だった。この本との出会いが、以降のさまざまな改革への原動力となった。  上原社長は同書から、「いちばん大切にすべきは従業員とその家族である」という考え方を学び、その日から従業員が幸せになるための会社づくりに注力。「だれも辞めさせない、辞めたいと思うような会社にもしない」と宣言し、「しあわせ経営」をはじめた。他社の先進事例からも学び、よいと思ったことは取り入れ、また、従業員全員で就業規則の見直しを行うなかで、定年制度も改定した。数年前からは、従業員一人ひとりのウェルビーイングの実現を目ざしている。  そして、2025(令和7)年には、人を大切にする経営学会主催第15回「日本でいちばん大切にしたい会社大賞」において、審査委員会特別賞を受賞した。この賞は、従業員とその家族をはじめ、人を大切にした経営を実践している企業に贈られる賞として知られている。 �W 改善の内容 (1)制度に関する改善 �@選択定年制を導入  会社が一律に定年年齢を決めるのではなく、従業員それぞれのウェルビーイング実現のため、60歳から80歳までの間で、従業員自身が定年退職時期を決められる選択定年制を導入している。定年後は、再雇用で非正規従業員となり、短時間勤務などに変更することも可能。  この制度は、以前は60歳としていた定年制を従業員全員で話し合い、最終的に投票により決定した。多品種・少ロットの付加価値の高いものづくりを行うには、技術と経験を持つ高齢従業員の存在は欠かせない。この制度改定により、60歳を過ぎても正規従業員として仕事・賃金が変わらず働ける会社となった。自分が希望するかぎり働けることから、住宅ローンを組む従業員などにも安心感をもたらし、従業員のライフプランにも好影響を与えている。 �A賃金制度・人事評価制度  賃金は、年齢を理由に減額することはなく、半期ごとに生産性をみて評価する。賞与は、100項目超の力量表にもとづいて技能を評価し、結果を反映する。 �B多様な勤務形態、短時間勤務制度の導入  フルタイム勤務がむずかしくなった従業員は、非正規従業員として再雇用が可能。担当する機械を減らすことで職務の軽減を図ることができる。ただ現在は、60歳以上の従業員は全員が正規従業員として勤務している。再雇用の年齢に上限はなく、本人が希望すれば生涯現役で働くことが可能である。  また、所定労働時間は始業8時30分、終業17時30分の8時間だが、仕事が終われば、賃金が減額されることなく、16時30分に退社することができる社内ルールを設けた。このルールの導入により、時間外労働が激減して、生産性が大幅に向上。ワーク・ライフ・バランスの実現にも寄与している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み �@年3回、社長と個人面談  社長からは会社の現状を説明するが、その後は自由に話せる面談であり、働き方や体調などについても確認できる機会となっている。 �A全員が工場長の意識を持つ  先代の時代から、年齢に関係なく全員が責任を持って仕事をする意識を大切にし、優れた機械を導入して一人2〜3台の機械を扱い、一人で仕事を完結できる体制をつくってきた。役職は設けず、従業員の成長によって「全員が工場長」の技術と意識を有し、自分の裁量で仕事を進めることができる。そのため休暇を取りやすい職場になった。 �B技術向上を目ざす品質会議  よりよい品質の製品をつくる目的で、従業員全員参加の「品質会議」を行っている。また、隔月で全員参加の自己啓発の勉強会を行っている。 (3)雇用継続のための作業環境の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み  作業環境では、工場建設の際、先代が「木の床は疲れにくい」と考え、工場ではめずらしい木の床とした。足元の感触は温かく、日常的に従業員が掃除を心がけており、床の輝きが増している。機械の手入れも行き届いており、5S活動が安全衛生に寄与している。  また、35歳以上の従業員には人間ドック費用を全額補助、試用期間3カ月を過ぎた従業員は全額会社負担でがん保険に加入することができる。さらに、年1回、産業医との健康相談を実施している。  社内行事の暑気払い、忘年会には年齢に関係なく従業員の8割が参加。世代間ギャップの解消にも役立ち、親しくなることで、仕事面の相談ができるなど人間関係も円滑になっている。  そうしたなかでお互いさまの企業風土が育まれ、休暇を取りやすい環境となり、有給休暇取得率は99%となっている。 (4)その他の取組み �@就業規則は全員で考え、決める  就業規則の変更は会社が決めるのではなく、全従業員で話し合い、プレゼンを行う。その後、投票を行い、7割の賛成で採択。7割に満たない場合は、再度話し合い、2回目の投票を行う。現在は、休職制度の見直しに取り組んでいる。 �AありがとうBOXの設置  従業員同士で感謝を伝える相手と自分の名前を書いたカードを投函する「ありがとうBOX」を設置。送る枚数に制限はなく、年3回の社長面談の際にカードを本人に渡すが、10cmもの厚さのカードの束を社長から受けとる従業員もいる。 �B社内お手伝い求人  業務が繁忙となった際に社内で求人を出し、手の空いた従業員が手伝う仕組みをつくり活用している。担当職務以外の業務に接することで、能力向上にもつながっている。 �Cアプリの自主製作  AIを活用し、従業員が自主的にアプリを作成。紙で行っていた情報発信がしやすくなった。アプリはだれでも使えるように工夫されており、スマートフォンを用いて高齢の従業員も活用している。 (5)高齢従業員の声  田中(たなか)千也(かずや)さん(60歳)は、35歳のときに入社して製造部に所属、1000分の1mmの精度が求められるNC自動旋盤を担当。機械部品や器具など日によって多様なものをつくっている。田中さんは「地道にやってきて、60歳を超えましたが、まだ働けますし、気持ちは若いときと変わりません。選択定年制になり現在も正規従業員として59歳のときと同じ仕事、働き方ができ、賃金も同じであることをありがたく感じています。体力と集中力がいる仕事ですので、健康維持に努めて、まずは65歳を目ざしてこれからもがんばりたいです」と仕事や会社の制度に満足している表情で話した。  山崎(やまざき)厚子(あつこ)さん(63歳)は、勤続27年。入社当初は、事務をしながら組立てなどさまざまな仕事を任され、柔軟に対応してきた。20年ほど前から品質管理を担当し、できあがった製品の寸法などを図面と照らしあわせて検査、確認している。極小の製品もあり、顕微鏡を使って確認することもある。気をつけているのは、「正確に行うことと、納期を守ること」。細心の注意が求められる仕事だが、「段取りを自分でつけられるので休みが取りやすく、居心地のよい会社です。自分で定年退職の年齢を決められるのもよいと思います」とにこやかに話す。いまは、「70歳まで勤務を続けられたら」と考えている。  勤続23年の紅林(くればやし)優(まさる)さん(62歳)は、製品を仕上げる研磨や品質管理を担当し、医療関係の器具などを手がけている。選択定年制について、「気力があり健康であれば、ほぼ定年なしに等しい内容ですから、制度ができたときは驚きました。60歳を超えても同じ待遇で、モチベーションも変わらず働くことができています。収入面で安心して働き続けられる環境か、そうではないのかは、人生のなかで大きな違いだと感じています。社長との面談では、『体が元気なうちは働いていたいです』、とお願いしています」と制度への実感を語る。経験を活かして、元気に仕事が続けられるよう、半年前から毎朝2kmの早歩きを継続している。 (6)今後の課題  上原社長は、「職場改善を行ってきて、生産性、売上げがともに向上しました。付加価値の高い仕事を多く手がけることができ、従業員の収入は目標に掲げた1・5倍を実現できています。生産性の向上は従業員が成長したからであり、従業員の努力はいうまでもなく、人を大切にする経営により、職場の心理的安全性が高まったことも大きいと思っています」と取組みをふり返り、今後について次のように語った。  「この会社にいたいと従業員が思う会社、この会社がなくなったら困ると従業員が思う会社にしていきたい。そのために、これからも従業員と家族を大切にして、『自分ごと』と『会社ごと』がつながるような環境づくりに努めます」 写真のキャプション 株式会社西軽精機 感謝を伝えるカードとカードを投函する「ありがとうBOX」 手動の機械も最新のNC自動旋盤も扱う、勤続25年の田中千也さん(60歳) 【P32-35】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 「従業員ファースト」を合言葉にチームワークを強化 ーだれもが輝ける職場環境を構築ー 株式会社 エーディエフ(大阪府大阪市西淀川(にしよどがわ)区) 企業プロフィール 株式会社 エーディエフ (大阪府大阪市西淀川区) 設立 1999(平成11)年 業種 製造業(アルミ製品の企画・設計・加工・組み立て・販売) 従業員数 26人(2026〈令和8〉年4月1日現在) 60歳以上 5人 (内訳) 60〜64歳 0人(0.0%) 65〜69歳 1人(3.8%) 70歳以上 4人(15.4%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。一定条件のもと70歳まで再雇用。さらに70歳以降も希望者を一定条件のもと年齢の上限なく再雇用。最高年齢者は76歳 �T 本事例のポイント  株式会社エーディエフは、1999(平成11)年大阪府で設立された。2007年にクリーンルーム業界へ参入し、2011年には現在の所在地に新社屋を建設。その後、メディカル業界、食品業界にも業容を拡大した。  同社では、「MVV」、すなわち「世の中に選択肢を与える(Mission)」、「アルミといえばエーディエフと言われるレベルのメーカーになる(Vision)」、「あった方が良い、を形に(Value)」を掲げ、一品づくりのアルミフレームメーカーとして、高い専門性と技術力という強みを活かし事業を発展させてきた。  また、コロナ禍においては本社所在地の区役所や近隣医療機関に対して自社製品であるパーテーションを寄贈し、その設置作業を従業員がボランティアで行うなど、日ごろから地域貢献にも取り組んでいる。 POINT �@2026(令和8)年2月から、定年年齢を60歳から65歳へ、再雇用を65歳までから70歳までとする制度を導入し、高齢従業員の働きがいの促進を目ざしている。 �A2021年に賃金制度を見直し、賃金をすべて基本給に集約して給与額がひと目でわかるようにした。また、再雇用後も毎年勤務状況や貢献度に応じた昇給を実施している。 �B70歳以上の従業員については、原則週4日勤務とし、給与面は変更前と同水準を実現した。また、希望に応じて、仕事と私生活の両立が可能となるよう短時間・短日数勤務を選択可能とした。 �C70代の従業員を「マイスター」として任命し、OJTやペア就労を通じて技術・技能の継承を推進することで、質の高い後継者育成を目ざしている。 �D配置などのミスマッチを防止するために、総合適性検査(SPI検査)を実施。また、冷暖房設備やWBGT計、滑り止め、LED照明等を導入し、安全で働きやすい職場環境を整備した。 �E外部講師による定期的なメンタルヘルス研修を実施し、心身の健康維持と前向きな職場風土づくりを全社一体となって推進している。 �U 企業の沿革・事業内容  株式会社エーディエフは、1998年9月に大阪府で創業したアルミフレームメーカーである。創業以来30 年近く、顧客の要望に応じたさまざまなオーダーメイド製品に特化した事業を展開している。現在は、物流関連事業へ進出するとともに、アルミ加工技術を活かし、製造現場向けの設備・治具(じぐ)や建屋(たてや)の改築をともなわずに設置可能な簡易クリーンルーム事業など、多様な分野へ事業を展開している。これらの製品は、国内のみならず海外にも納入実績を有する。近年は、自社製品のサブスクリプションサービスなど新たな事業に取り組み、事業領域の拡大を進めている。経営においては「従業員ファースト」を基本理念とし、「結果的終身雇用」の考え方を掲げ、従業員一人ひとりが安心して長く働ける職場づくりを重視している。 �V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員数は26人で、このうち60歳以上の従業員は5人(19.2%)、うち70歳以上は4人(15.4%)、現在の最高年齢者は76歳である。高齢従業員にはこれまでつちかってきた技能や経験、専門性をふまえて職場の配置を行っている。製造業全体で人材確保が課題となるなか、JEEDの70歳雇用推進プランナー訪問時の助言を契機として、高齢従業員が活躍できる制度整備を行った。同社が手がけるアルミフレーム製品はオーダーメイドに特化しており、顧客ごとに異なる要望へ柔軟に対応するためには、豊富な経験やノウハウが不可欠である。そのため、高齢従業員を単なる人手不足を補う存在としてではなく、技術の継承や品質の維持・向上、若手従業員の育成をになう重要な人材として位置づけ、長く働ける職場づくりを進めてきた。 �W 改善の内容 (1)制度に関する改善 �@定年制度および継続雇用制度  制度改定前は定年年齢を60歳とし、希望者全員を65歳まで継続雇用する制度を設けていた。65歳超については制度で定めず、基準該当者を年齢上限なく再雇用していたが、2026年2月から定年年齢を65歳とし、一定条件のもと70歳まで再雇用する制度に見直した。70歳以降も、一定条件のもと年齢の上限なく再雇用する制度としている。 �A賃金制度および人事評価の考え方  賃金については基本給に加えて支給していた各種手当が複雑であったことから、2021年に制度を見直し、すべてを基本給(家族手当および通勤手当を除く)に集約した。これにより、自身の給与額がひと目でわかるようになった。また、人物を重視する方針のもと、学歴・年齢などで賃金額を決定せず、優秀な人材の新卒初任給は大卒と同額に設定している。現在76歳の最高年齢の嘱託従業員についても、業績や能力に応じて時間給を引き上げている。  人事評価制度については、従来は各部門長の意見をふまえて社長が最終評価を行っていた。その後、2024年に定めた中期経営計画「ゴー・ゴー・イチ計画(=5年でアイデアを50個出して全員の給料を100万円アップさせよう計画)」にもとづき、正社員を対象に「業績を向上させて一人年間最低20万円の昇給を行うこと」を労使の約束として社長が社内外に表明している。現時点では、月額最低1万7千円の賃上げを実施している。一方、高齢従業員については「ゴー・ゴー・イチ計画」の対象外としているが、毎年勤務状況や貢献度に応じた昇給を実施している。 �B多様な働き方  高齢従業員の希望と業務内容に応じて、仕事と私生活の両立が可能となるよう短日数・短時間勤務を選択できる体制を整備した。70歳以上の従業員については、原則として週4日勤務に変更後も、給与面は変更前と同水準にしている。また、猛暑となる7〜9月は、健康面に配慮し、勤務時間を9時から16時5分に短縮している。  さらに、高齢従業員にかぎらず、健康・介護・出産等の個人の事情の自己申告に応じた時差出勤が可能で、ワーク・ライフ・バランスに配慮している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み �@研修・教育訓練の実施  個々の能力向上を目的に、業務上必要な国家資格や免許の取得に要する費用を全額負担している。会社で必要な資格取得者には昇給も行っている。また、グローバル戦略の一環として外国語専門学校の企業優待制度に加入し、入学を希望する従業員や家族に対して受講費用の補助を行っている。これらの制度は、自己啓発を後押しする仕組みとして導入された。さらに、全従業員を対象とした総合適性検査(SPI検査)を実施。その結果は人材育成計画の策定や適材適所の配置に活用される。 �A技術・技能継承の取組み  高度な技能を有する70代の従業員2人を「マイスター」として任命し、若手従業員とのペア就労を通じて技術指導や技能継承を行うなど、企業の技術力を支える重要な役割を果たしている。また、日々の業務における疑問や課題を気軽に相談できる存在としても重要な役割をになっており、現場における知的基盤の強化に寄与している。 �B職場コミュニケーションの推進  ペア就労により、高齢従業員がつちかってきた技能やノウハウの継承と若手従業員の育成が進むとともに、高齢従業員の発案による現場改善も活発化している。高齢従業員の発案により、集塵機(しゅうじんき)使用時の破片の飛散を防止するカバーの製作・設置を行った事例もある。若手従業員はそれをもとにカスタマイズするなど、相乗効果が生まれている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み �@作業環境および作業方法の改善  従業員の安全確保のため作業場のすべての階段に滑り止めを設置し、転倒・転落リスクの軽減を図っている。また、照明の増設にともない、すべての照明をLEDへ更新し、視認性の向上につなげている。製造現場のレイアウトでも従業員から意見を募り、各工程で相談しながら随時見直しを行うなど、だれもが安心して働き続けられる職場環境づくりに努めている。 �A健康管理  健全な組織運営には従業員の心身の健康が重要との考えにより、従業員のメンタルヘルス対策として、毎月1回外部講師を招き「健康組織風土マインドマネジメント研修」を実施している。研修では、自ら考え行動する主体性やチャレンジ精神、前向きな思考の育成を目ざし、特に、中高齢従業員については、変化に柔軟に対応しながら成長意欲を維持・向上させることを目的としている。その結果、これまで発言に消極的だった従業員が自ら意見を述べるようになるなど、前向きな意識や行動の変化が生じている。 �B安全衛生管理  熱中症予防対策としては作業場に冷暖房設備を完備するとともに、最上階の天井に遮熱(しゃねつ)シートを施工し、保温カーテンを設置することで冷暖房効率を高め、快適な作業環境を整備している。また、作業現場に熱中症指数計(WBGT計)を設置。会社が支給する飲料を冷蔵庫で常備し、従業員がいつでも利用できる環境を整備している。さらに、ペルチェ冷却作業着※を支給し、従業員の熱中症予防の徹底を図っている。 �C福利厚生  企業型確定拠出年金制度を導入し、全従業員が利用しやすい環境が整備されている。また、外部専門家による資産運用や日常生活におけるさまざまなリスク管理に関する勉強会を毎年開催し、希望者を対象とした個別相談も実施。老後の必要資金が可視化され、定年後も働き続けるきっかけになっている。  昼食の弁当については費用の半額を会社が補助している。利用者も多く、休憩スペースは部署や役職を問わず日々異なるメンバーが交流を深める場となっている。  ほかにも、従業員同士の親睦を深めるためにさまざまなイベントを実施している。昨年は、ミニ四駆を趣味とする高齢従業員を含む有志が、自社の製造業としての技術力を活かして「ミニ四駆大会」に参加。ものづくりのおもしろさをあらためて認識し、企業・世代の垣根を越えて学び合う機会となった。非日常な環境での交流は、相互理解の促進や従業員のリフレッシュ、チームワークの強化につながっている。 (4)高齢従業員の声  元気に働くためには「毎日働くことが大切です」と話す川島(かわしま)昭男(あきお)さん(76歳)。川島さんは53歳のときに入社。以来、ものづくりの仕事のなかでも、改善に取り組んだり、自分なりにいろいろな発想を形にできたりするところにおもしろさを感じているという。日常生活で心がけていることは「早寝早起きとしっかり熟睡すること」とのこと。「目標は80歳まで働くこと。これからも仕事のなかでいろいろな改善に取り組んでいきたいです」と引き締まった表情を見せる。 (5)今後の課題  新市場への進出にともない、自社製品のサブスクリプションサービスを開始しており、そのサービス特有の顧客満足度を得る質の高いサービスが必要となっているため、これまでロールモデルとして活躍してきた高齢従業員が元気なうちに、その後継者となる若い人材の確保・育成が急務となっている。今後は、少子高齢化社会のなかで貴重な戦力となり、「ゴー・ゴー・イチ計画」継続のために活躍が不可欠である予備軍を含めた高齢従業員に、なおいっそう活き活きと働いてもらうため、さらなる健康面のサポート・弾力的な勤務形態・表彰制度等モチベーション向上のための施策の整備に取り組んでいく。高齢従業員をはじめ、すべての人々の人生を輝かせる企業であり続けることを目ざして、同社は次なる高みに挑んでいく。 ※ペルチェ冷却作業着……電流によって吸熱・発熱を行うペルチェ素子を用いて体を冷却する機能が付加された作業着 写真のキャプション 株式会社エーディエフ 保温カーテン 川島昭男さん(76歳) 【P36-39】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 「一貫共創技術」を掲げ、高齢従業員を含むすべての従業員が活躍できる職場環境を創出 株式会社 カコテクノス(兵庫県小野(おの)市) 企業プロフィール 株式会社 カコテクノス (兵庫県小野市) 創業 1935(昭和10)年 業種 輸送用機械器具製造業 従業員数 259人(2026〈令和8〉年4月1日現在) 60歳以上 37人 (内訳) 60〜64歳 16人(6.2%) 65〜69歳 16人(6.2%) 70歳以上 5人(1.9%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。一定条件のもと70歳まで嘱託社員として再雇用。70歳以降は一定条件のもと75歳までパート社員として継続雇用。最高年齢者は72歳 �T 本事例のポイント  株式会社カコテクノスは、1935(昭和10)年に神戸(こうべ)市で加古(かこ)工業所として創業、1980年に小野工場を開設し、電鉄機器製造に着手した。1995(平成7)年の阪神(はんしん)・淡路(あわじ)大震災で板金(いたがね)工場が倒壊したが、翌年には再建。2003年に現在の社名に変更した。創業以来、電鉄、電力、産業機器を三本の柱として、安心で安全な製品づくりによって、地域に貢献してきた。経営方針に「一貫共創技術(いっかんきょうそうぎじゅつ)(一貫した品質で、共に創り上げる、止める技術)」を掲げ、創業以来の「和わ 」の精神のもと、高齢従業員はもとよりすべての従業員が活躍できる職場環境を創出してきた。経済産業省「地域未来牽けん引いん企業」の認定や文部科学大臣表彰を含む「創意工夫者表彰」などを、29年連続で受賞している。 POINT �@2025(令和7)年に定年を60歳から65歳へ引き上げるとともに、70歳までの再雇用制度を整備した。70歳以降もパート社員として就業継続が可能になり、本人の健康状態や希望に応じた働き方を実現した。 �A高齢従業員と若手従業員のペア就労によるOJTで技能伝承を実施。技能資格取得支援やDXの推進により能力向上を支援している。また、「創意工夫活動」や「KPS活動」を通じて、高齢従業員の経験や知識を業務の改善活動に活用している。 �B定期的なリスクアセスメントの実施により、危険箇所の把握と改善を図っている。 �Cバリアフリー化や送迎バスの運行により、高齢従業員の身体的負担を軽減。人間ドック費用の会社負担や健康イベントなどを実施したことで2024年、2025年、2026年と「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」に認定された。 �D福利厚生施設「カコテラス」を活用した社内イベントやサークル活動を開催し、年齢や所属を超えた交流機会を提供している。 �U 企業の沿革・事業内容  1935年に加古工業所として創業し、社会インフラを支える製品の製造を通じて事業を展開してきた。2003年に社名を株式会社カコテクノスへ変更して現在に至る。輸送用機械器具製造業の事業所として、鉄道車両用制御機器、電力供給設備、産業用制御装置など、社会インフラに不可欠な製品の設計・製造・組立・試験を一貫して行っている。公共性の高い分野において、技術力と品質の高さを活かし、持続的な成長を遂げており、地域における中核企業としての地位を確立している。多品種少量かつ高度な品質要求に対応できる技術力を有している点を強みとし、高齢従業員を技能伝承のにない手として位置づけ、定年延長・人材育成・職場環境改善を一体的に進めることで、高齢従業員の活躍と企業競争力の向上を両立している。 �V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員259人のうち、60〜64歳が16人(6.2%)、65歳以上が21人(8.1%)を占めている。高齢従業員の配置は、本人の経験・能力・体力・希望をふまえて柔軟に行われ、年1回の面談によって配置の見直しが行われている。面談では、体調や生活環境、働き方の希望などを把握し、その内容をふまえて配置転換や勤務条件を調整している。  製造業においては、経験に裏づけられた技能が品質の維持・向上に直結することから、高齢従業員の活躍が不可欠であると考え、2025年に就業規則を改定して、定年年齢、継続雇用期間、労働条件、賃金にかかる制度の見直しを実施した。 �W 改善の内容 (1)制度に関する改善 �@定年制度および継続雇用制度  2025年4月に定年年齢を60歳から65歳へ引き上げ、65歳の定年後は、一定の条件を満たす者を対象に70歳まで嘱託社員として再雇用する制度を導入した。また、70歳以降は75歳まで本人の健康状態や就労意欲をふまえ、パート社員としての雇用継続を可能とした。「65歳まで正社員」→「70歳まで再雇用」→「その後も75歳まで柔軟に就業継続」という段階的な継続雇用制度が導入され、高齢従業員の年齢や体力の変化に応じた、無理のない働き方を実現している。 �A賃金制度・人事評価制度  60歳までは基本給と職務給を支給し、60歳到達時に業務内容を各部門の責任者的業務からサポート的業務へ変更し、賃金も2割程度低下する。また、60歳以降は昇給がなくなり一律の賃金額となる。管理職についても、原則として60歳到達時に役職を離れ、これまでつちかった経験や知識を活かした業務に従事している。その後、65歳まではおおむね同様の仕事に従事し、65歳以降は嘱託社員となる。  人事評価制度については、年に1回の面談を正社員に対して実施し、業務目標の達成状況および能力発揮の程度を評価する仕組みとなっている。また、モチベーション向上の一環として、面談での評価を賞与に反映する仕組みがとられている。嘱託社員およびパート社員も半年に1回、同様の面談を実施している。 �B多様な働き方  65歳以降の嘱託社員およびパート社員においては、半年に1回の契約更新時の面談結果をふまえ、体力低下や、家庭の事情などによりフルタイム勤務が困難な場合、週3日勤務、月14日勤務などの勤務形態が認められている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み �@技能伝承の取組み  ベテランの高齢従業員と若手従業員を組み合わせたペア就労によってOJTを実施し、実務を通じて技能を継承する体制を整備している。  また、要領書(作業手順書)の整備が年間目標として設定され、整備の進捗状況が毎月の会議で報告されている。要領書の整備により技能の標準化を進めるとともに、文章化が困難な部分については現場での実践を通じて伝承されている。 �A技能資格取得の奨励  高齢従業員を含めたすべての従業員の自主的なスキル向上をうながすため、技能検定試験に関する情報を提供するとともに、受験料は、1回目は全額、2回目は半額を会社が負担している。また、取得資格に応じた手当を支給することで、継続的な能力開発への意欲向上を図っている。 �B負荷の見える化  製品ごとの作業時間や必要人員を把握し、業務負荷の見える化が実施され、生産計画や工程管理業務の平準化およびワーク・ライフ・バランス向上に寄与している。 �CDXの推進による能力発揮支援  タブレットなどのデジタル機器を活用した生産管理システムを導入し、業務の効率化と負担軽減を図っている。操作が容易な機器を採用して、高齢従業員もデジタル機器を使いやすい環境を整備した。このようにして経験とデジタル技術の融合による能力発揮を支援している。 �D創意工夫活動の促進  全従業員を対象として改善提案を行う創意工夫活動を実施している。提案内容に応じて評価や表彰が行われ、年間約1500件の提案が提出されている。また、部門を超えた品質向上、生産性向上および職場改善への連携を目的にKPS(Kako Production System)活動という創意工夫活動が実施されている。現場で発生する課題や改善点について、部門間で情報共有を行いながら品質・コスト・納期(QCD)の改善が図られている。このように、部門レベルおよび個人レベルでの業務改善活動への参加を奨励することにより、高齢従業員においても、長年つちかった経験や技能を活かした改善提案や若手への助言を行うなど、活動の中心的な役割をになうことに寄与している。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み �@職場環境等の改善  バリアフリートイレや階段の手すりの設置、通路のスロープ化などを実施。また、エレベーターの整備や作業動線の見直しにより移動や運搬時の負担軽減を図るとともに、空調設備の充実や整理整頓の徹底により、安全で働きやすい環境を維持している。電子製品の品質確保の観点から工場内の温度管理を徹底し、従業員が快適な室内環境で作業できるよう配慮している。加えて、送迎バスを運行して、交通手段の確保や通勤負担の軽減を図っている。 �A労働災害防止のためのリスクアセスメントの実施  月1回の安全衛生委員会および週1回の安全パトロールにおいてリスクアセスメントを実施し、危険箇所の把握と改善を継続的に行っている。 �B健康管理の推進  定期健康診断に加え、35歳以上の従業員を対象に人間ドックを会社負担で実施している。また、インフルエンザの予防接種や健康イベント(血管年齢測定、健康講座など)を実施し、健康意識の向上を図っている。さらに、熱中症対策として塩飴や飲料水を常備するとともに、ノー残業デーを設定し、労働時間の適正化による心身の負担軽減とワーク・ライフ・バランスの確保に取り組んでいる。こうした取組みが評価され、2024年、2025年、2026年と「健康経営優良法人(中小規模法人部門)」の認定を受けている。 �C福利厚生の推進  従業員の交流と職場環境の向上を目的として、福利厚生施設「カコテラス」を整備し、休憩、イベントおよびサークル活動などに活用している。また、社内旅行や交流会への補助、クラブ活動への支援などを通じて、世代を超えた交流の機会を提供している。加えて、ライフプラン手当の支給や資産形成支援を行っており、従業員の中長期的な生活設計を支援する取組みも実施している。 �D永年勤続表彰  長年勤務した従業員に対して、10年、20年、30年といった節目で永年勤続表彰を実施。創立記念式典において表彰を行い、記念品の贈呈などにより功績を評価している。この取組みにより、長期就業への動機づけおよび働き続けることへの意欲向上が図られ、高齢従業員の雇用継続の促進に寄与している。 (4)その他の取組み  2023年に「障害者雇用に関する優良な中小事業主に対する認定制度(通称:もにす認定)」の認定を受けた。現在雇用している5人の障害のある従業員のうち、60歳以上の2人に対しては、産業医による定期的な巡回訪問や個別相談を実施し、健康面・心理面の課題を把握したうえで、配置転換や業務内容の見直しを柔軟に行っている。また、管理職による定期的な面談を通じて、業務のみならず生活面の相談にも対応しており、個々の状況に応じたきめ細かな支援を実施している。 (5)高齢従業員の声  明石(あかし)義一(よしかず)さん(72歳)は、15歳の時に入社。神戸本社勤務を経て、小野工場へ異動し現在に至る。明石さんは同社での仕事を「鉄道車両の製作というインフラを支える仕事をしていますので、微力ながら社会貢献していることにやりがいを感じています」と話す。明石さんは、日ごろからストレッチやウォーキングなどで体力維持にも取り組んでおり、「目標は、75歳くらいまで働きたいですね」と笑顔を見せる。 (6)今後の課題  同社は2023年に「ひょうご産業SDGs認証事業※(アドバンスステージ)」の認証およびマネジメントシステム特別表彰を受けた。今後も副業・兼業の推進、育児・介護休業制度の充実、有給休暇取得率の向上および残業時間の削減などを通じて、多様な働き方の実現と労働環境の改善に取り組んでいく。  また、脱炭素への取組みや地域貢献活動なども実施しており、今後も持続可能な社会の実現に向けた企業活動を展開するという。経営方針「一貫共創技術」のもと、同社のチャレンジが続く。 ※「ひょうご産業SDGs 推進宣言事業・認証事業」については、以下のホームページをご覧ください。 https://web.hyogo-iic.ne.jp/sdgs/ 写真のキャプション 株式会社カコテクノス カコテラス掲示板 明石義一さん(72歳) 【P40-43】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 定年制廃止によって、生涯現役で働くことが可能 従業員の採用も、年齢上限を設けずに実施 桜井(さくらい)工業(こうぎょう) 株式会社(愛媛県今治(いまばり)市) 企業プロフィール 桜井工業 株式会社 (愛媛県今治市) 創業 1986(昭和61)年 業種 総合建設業(土木工事業、建築工事業、解体工事業) 従業員数 23人(2026〈令和8〉年9月1日現在) 60歳以上 12人 (内訳) 60〜64歳 3人(13.0%) 65〜69歳 6人(26.1%) 70歳以上 3人(13.0%) 定年・継続雇用制度 定年なし。最高年齢者は79歳 �T 本事例のポイント  桜井工業株式会社は、愛媛県今治市を拠点とする総合建設会社で、公共工事を中心に、土木工事や建築工事を展開している。今年で会社設立40年。「常に時代とともに歩み、多様なニーズに的確に応えていく」ことを会社の使命とし、技術力の向上、人間力の醸じょう成せいに努め、「人づくり」、「街づくり」、「家づくり」に活かしていくのが同社の企業理念だ。  建設業は「3K」(きつい、汚い、危険)のイメージもあり、ほかの業種と比較してもにない手確保がむずかしいとされる。さらに同社の所在地の今治市は造船業が盛んで、若い人材が造船業に流れる傾向があり、より人材確保が困難な状況にある。そうした実情もふまえ、年齢にこだわらず、能力や体力に自信があり、意欲のある人材に活躍してもらうため、定年年齢を段階的に引き上げ、2025(令和7)年10月には定年制を廃止した。基本として、高齢従業員を「高齢者扱いしない」という考えで、賃金については年齢による区分を設けず、資格取得支援なども年齢にかかわりなく実施している。 POINT �@「元気で能力があれば、いつまでも働いてもらいたい」という経営方針のもと、2023年5月に定年年齢を70歳に改定。その後、実態として70歳を超えても重要な戦力となる従業員が増えてきたことから、2025年に定年制そのものを廃止した。 �A年齢による賃金の引き下げは行わない。従事する仕事、勤務形態などによって従業員それぞれの処遇を決定する。 �B2025年4月から、従来の「4週6休制」から「4週8休制」に移行。さらに、勤務日数の削減、勤務可能な時間帯、それに応じた賃金などについて個別に協議を行い、従業員の希望をふまえた柔軟な働き方を推進している。 �C業務上求められる資格の取得については、年齢に関係なく支援し、取得者には資格手当を支給する。取得した資格を賃金に反映させることで、学びへの意欲にもつなげている。 �D業務のICT化、夏場の作業環境の改善などの取組みが、高齢従業員でも働きやすく、安心して仕事ができる職場環境の形成につながっている。 �U 企業の沿革・事業内容  1986(昭和61)年、愛媛県今治市で創業。市内の下水道工事からスタートし、同市内の公共事業のほか、愛媛県内の松山、東予(とうよ)地域などでの工事も請け負ってきた。土木工事が売上げの約9割を占めるが、建築工事、解体工事などもあわせて手がけている。構造物の解体で発生するコンクリートやアスファルト、建設廃材などを破砕した「再生クラッシャーラン(RC)」を利活用する体制を自社で整備しており、それが同社の強みになっているという。  「借金をしない」が創業者のモットーで、会社設立当初から、堅実、安定的な経営を進めてきた。近年は公共工事の減少などで厳しい環境が続くなか、顧客のニーズの多様化に対応し、土木、建築、解体をトータルプロデュースして行う事業の受注などにも力を入れている。 �V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員数は23人。うち60〜64歳が3人、65〜69歳が6人、70歳以上が3人で、60歳以上が5割を超えている。その大多数が技術者や技能者として、重機の操作などの建設現場での作業にたずさわっている。最高年齢者は79歳で、後述の通り、重機のオペレーターとして活躍している。  従業員の高齢化の背景にあるのは慢性的な人手不足。若い世代については、学歴などを問わず、門戸を広げて採用に取り組んでいるが苦戦しており、採用した人材も長期的な就業に結びつかないことも増えている。一方で、60歳以上の高齢者に関しては、70歳を超えても働く意欲がある従業員が少なくなく、別の建設会社を一度退職した人が「まだ働きたい」と同社への入社を希望するケースもあることから、資格と経験のある高齢従業員を貴重な戦力と位置づけ、できるかぎり長く働けるよう定年制廃止をはじめとする制度改正、環境整備を行った。 �W 改善の内容 (1)制度に関する改善 �@定年制の廃止  2017(平成19)年に定年年齢を60歳、継続雇用の上限を65歳としたが、年齢上限を超えて長く働く従業員が増え、就業規則が実態とかけ離れたものになっていたことから、制度の見直しを行い、2023年5月に定年年齢を70歳に引き上げた。さらに、定年制による縛りが、元気で活躍している70歳以上の従業員がいる現実と合致しないと判断し、再度の改正を実施。2025年10月に定年制廃止に踏み切った。 �A賃金制度・人事評価制度  定年制を廃止する一方で、年齢による待遇の変更などは行わず、従来の賃金制度や評価制度は維持することとした。もともと同社の賃金制度では、年齢による基準や区分を設けていない。給与は原則、勤務日数や仕事内容に応じた基本給と諸手当で構成され、「管理業務ができるか」、「資格を所持しているか」などによって賃金額が決まる。評価制度も従業員共通で、日ごろの働き方や仕事への取組みをもとに実施。査定は、年2回の賞与に反映させる。 �B「4週6休制」から「4週8休制」への移行  従来、「4週6休制」が基本だったが、60歳を超えた希望者については土日を休日としていた。働き方改革の一環で、建設業界でも週休2日制の導入が進んでいることを受け、同社も2025年4月、「4週8休制」に移行。全従業員が週休2日制の対象となった。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み �@個別協議による就業条件の設定  同社では、年齢にかかわりなくフルタイムでの勤務を基本としているが、個々の事情に合わせた働き方で仕事を続けてもらえるよう、個別協議による就業条件の設定を行っている。例えば、親の介護や年金の受給との兼ね合いなど、高齢期特有の事情も考慮し、勤務日数の見直しや勤務時間帯の変更などの調整に応じ、調整にともなう給与額などについて話し合っている。従業員も会社側もお互いに納得した条件で働けることが、高齢従業員の働きやすさやモチベーションの向上にもつながっているという。 �A資格取得支援  建設業の仕事では、法令上、さまざまな資格が求められることから、年齢に関係なく従業員の資格取得を推奨している。一級土木施行管理技士や一級建築士をはじめとする国家資格、重機などの操作に必要な免許の取得や講習の受講などに必要な受講料、講習料の全額を負担し、就業時間内での受講を認めているほか、駐車料金を含む交通費も支給している。  資格を取得した技術者や技能者に関しては、資格取得だけにとどまらず、継続的に学習することが求められるケースが多い。例えば土木施行管理技士では、「CPDS」という全国土木施行管理技士会連合会の継続学習制度があり、技術力向上を目的としたセミナーや講習会に参加することによって、公共工事入札での評価の加点となるポイントが取得できる仕組みになっている。こうしたセミナーや講習会の参加についても、資格取得と同様の支援を行っている。 �B資格手当の支給  技能技術、専門知識を有する高齢従業員に、戦力として長く働いてもらえるよう、資格取得者には、資格手当を支給し、能力に応じた処遇としている。努力が給与に反映されることで学びへの意欲も高まり、中高齢従業員を含む資格取得者が増えているという。資格取得は、会社の利益につながると同時に、高齢従業員にとってのメリットにもなる。資格があれば、比較的身体への負担が少ない業務に従事できるなど、働き方の選択肢が広がるからだ。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み �@ICT建機の導入  高齢従業員が活躍できる環境整備の一環として、3台のICT建機を導入している。ICT建機は、情報通信技術を活用した建設機材で、GPSやセンサー、3D設計データなどを搭載。モニターによる案内や自動制御機能により、作業の精度や業務効率が向上するため、高齢従業員の身体的負担や作業負荷の軽減にも寄与している。 �A事務処理の効率化  従来は現場技術者の仕事だった、書類の作成管理、データ管理など施工にかかわる事務処理を専門的に行う部署を社内に整備。現場技術者の負担軽減や労働時間の短縮、作業の効率化を図るとともに、この職務に女性従業員を登用することで、女性活躍の推進にもつながった。 �B健康・安全管理の取組みの強化  だれもが安心して働ける職場環境を目ざした健康・安全管理の取組みとして、KY(危険予知)活動やアルコールチェックを毎日実施している。近年特に重要視されている熱中症対策では、現場に持ち込むための飲料を会社で準備し、ファン付きの作業服や塩分補給用の飴なども支給。気温が高い日は休憩時間を増やしたり、こまめな水分補給を徹底したりしている。 (4)その他の取組み  従業員の新規採用についても、年齢に制限を設けず、個人の資質や能力にもとづいて判断をしている。ここ数年では、1級土木施工管理技士の70代男性、建設業界での経験が長い60代男性を新規で採用。70代男性の場合、勤めていた会社を定年退職した際には、親の介護などの事情があり、再雇用の道を選択することができなかったのだが、介護が落ち着いた後、70歳を超えても「まだ働きたい」という意思が強く、同社で働くことを希望した。60代男性は、諸事情により、短時間で勤務できる仕事を探していたという。 (5)高齢従業員の声  工事の費用の計算や見積もりの作成を行う「積せき算さん」の業務を担当する竹田(たけだ)健二(けんじ)さん(74歳)。20代で入社した会社を65歳まで勤め上げ、約5年間の親の介護を経て、70歳のときに桜井工業に入社した。竹田さんによれば、積算業務は「材料費や人件費、必要な作業人数などを考えて計算します。長年の経験が物をいう仕事です」。前職でそのスキルを磨き、経験豊富な竹田さんは、周囲から頼りにされている。  仕事でやりがいを感じるのは、「現場で物をつくり、完成して検査に合格したときですね。後からその場所を見て『ここは自分がたずさわった現場だ』と思えるところです」と話す。  岡本(おかもと)隆彦(たかひこ)さんは、最高年齢の79歳。50年以上、現役でオペレーターとして重機を操作している。勤務は週休2日のフルタイムで「楽な仕事ではないと感じるときもある」が、「工事が終わって、きれいに仕上がったのを見たときにやりがいを感じる」そうだ。「たいへんでもありますが、楽しいですよ」と笑顔を見せた。  重機の運転席には空調があり、猛暑でも冷房が効いた場所で仕事をすることができるが、重機の操作で足を使うことで、関節や腰に負担がかかるので、午前と午後に休憩時間が設定されている。岡本さんは「元気で働き続ける秘訣は無理をしないことです」と語った。 (6)今後の課題  「街の整備が進み、大規模工事は少なくなります。公共工事も以前ほど多くはありません。そのなかでどう人材を確保し、技術をつないでいくかが課題です」と、同社の田中(たなか)賢一(けんいち)社長は話す。そして、「課題解決の鍵は、若手の採用だけではなく、経験を持った人にいかに長く活躍してもらうかではないか」と続ける。  田中(たなか)宏明(ひろあき)取締役は、高齢になっても働きやすく、長く仕事を続けることができる職場環境を実現するためには、「『高齢者だから』という考え方をあまりしないことが重要だと思います」と指摘する。  従業員を年齢で「高齢者」と一括りにすることなく、個別に体力や健康状態を見ながら、それぞれの状況をふまえて対応していくことを続けていくという同社。「一緒に仕事をしていくという意識が大事です」と二人は声を揃えた。 写真のキャプション 桜井工業株式会社 「積算」の業務を担当する竹田健二さん(74歳) 重機を操作する最高年齢者の岡本隆彦さん(79歳) 【P44-47】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 企業の長期的成長を支える「戦略的高齢者雇用」への転換を推進 吉川(よしかわ)工業(こうぎょう)アールエフセミコン 株式会社(宮崎県児湯郡(こゆぐん)新富町(しんとみちょう)) 企業プロフィール 吉川工業アールエフセミコン 株式会社 (宮崎県児湯郡新富町) 創業 1984(昭和59)年 業種 製造業(電子部品・デバイス・電子回路製造業) 従業員数 306人(2026〈令和8〉年4月1日現在) 60歳以上 48人 (内訳) 60〜64歳 32人(10.5%) 65〜69歳 14人(4.6%) 70歳以上 2人(0.7%) 定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員65歳まで再雇用。65歳以降は一定条件のもと年齢の上限なく再雇用。最高年齢者は76歳 �T 本事例のポイント  吉川工業アールエフセミコン株式会社は、吉川工業株式会社のグループ会社として、宮崎県児湯郡新富町において1984(昭和59)年に創業、翌年の1985年4月に操業を開始した。以来、半導体製品のテスト工程受託を中心に機器の設計などを手がけ、業容を拡大してきた。  同社が手がけている半導体関連技術などの高度専門分野は、技術革新への対応が不可欠なため、外部研修とOJTを組み合わせた人材育成を実施しており、高齢従業員についても、過去の経験に依存するだけでなく、新たな技術や業務環境に対応するために継続的な学習機会を設けている。また、JEEDの支援により、50代後半の従業員を対象に「就業意識向上研修」※を実施している。 POINT �@再雇用後の嘱託社員にも役割・責任に応じた賃金制度を導入し、役職を付与するとともに、年齢に関係なく能力や実績で処遇する仕組みを整備した。 �A研修やキャリア相談を通じて、定年前後の意識改革や能力維持・向上を支援するとともに、高齢従業員をOJTの指導役として活用し、技術・技能の継承を推進している。 �B作業環境の改善や補助機器の導入によって身体的負担を軽減し、安全に働ける環境を整備するとともに、安全衛生管理を充実させるために、計画的なリスク管理と改善を継続的に実施している。 �C従業員本人や家族の体調不安、メンタル面の悩みなどについて、匿名で24時間365日医師に相談できるチャット型医療相談システムを導入・運用している。 �U 企業の沿革・事業内容  1984年7月に宮崎県児湯郡新富町で吉川セミコンダクタ株式会社として創業。親会社である吉川工業株式会社と、宮崎沖電気工業株式会社(当時)との共同出資により設立され、1985年4月に操業を開始した。その後、1999(平成11)年3月に新日本製鐵グループでつちかわれたRFID関連技術を継承するため、東京に「吉川アールエフシステム株式会社」を設立。2012年10月には、吉川アールエフシステム株式会社の吸収合併にともない、「株式会社吉川アールエフセミコン」へ社名変更、さらに、2019(令和元)年9月、吉川工業株式会社が100周年をむかえるにあたって、現在の社名に変更した。主たる事業は、半導体製品およびその応用機器に関する後工程(テスト・組立)を中心とする受託サービスであるが、同社は単なる半導体製品の受託製造企業にとどまらず、半導体の製造に関わる事業を複合的に展開している。また、グループ会社では「セミコンスポーツプラザ(SSP)」を運営。この施設を通じて、地域住民の健康増進を図ることで、地域社会への貢献にかかわっている。 �V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員数は306人で、60歳以上の従業員は48人(15.7%)、うち65歳以上16人(5.2%)、最高年齢者は75歳である。高齢従業員の配置は、これまでにつちかってきた技能・経験・専門性を活かしている。管理職経験者については、専門職として現場を支える役割をになう場合もあり、過去の職務経験を活かした配置が実現している。  少子高齢化の進展により、製造部門は交代制勤務であり、若年層の採用や定着が容易ではなく、将来にわたる人材確保が課題となっていた。そのため、経験豊富なシニア人材が継続して活躍できる環境を整備し、人材の確保・定着につなげることを目的として制度面の見直しを図った。同社の特色は、高齢者を単に人手不足を補う存在としてとらえていない点にある。半導体関連業務では、長年の経験にもとづく知識や判断力が求められるため、現場を支える重要な戦力として高齢従業員を位置づけ、技術継承や若手育成に結びつけている。こうした考え方のもと、同社は従来型の「福祉的高齢者雇用」から、企業の長期的な成長を支える 「戦略的高齢者雇用」への転換を進めている。高齢者を配慮の対象として見るのではなく、経験、技能、責任感を有する人材として再評価し、組織のなかでの役割を明確化している。 �W 改善の内容 (1)制度に関する改善 �@定年制度と継続雇用制度  2019年に少子高齢化による人材確保の課題をふまえ、希望者全員を65歳まで嘱託社員として再雇用とし、以降は一定条件のもと、年齢の上限なく再雇用する制度を導入した。なお、年齢構成の偏りが若手管理職の育成や登用に与える影響を懸念し、定年年齢については60歳を維持している。定年延長により世代交代が停滞する可能性をふまえ、高齢従業員の活躍機会の確保と、若手人材の育成との均衡を考慮しながら定年延長に向けた制度設計の検討を進めている。 �A賃金制度・人事評価制度  2021年に賃金制度を改定し、再雇用後の職務内容、役割、責任をより反映する処遇体系へ転換した。具体的には、「仕事内容の変化と人材活用の仕組みによる給与決定基準」により、再雇用者に新たな役割と責任権限をあてはめたうえで雇用契約を締結し、給与を決定する仕組みとした。2024年には55歳の役職定年制を廃止したことで能力や実績に応じて活躍できる仕組みが整備された。現在では、嘱託社員の役職者が多く活躍している。  人事評価制度については、同社が2019年に作成した「人事考課 求められる成果・責任度一覧」をもとに、役員や上司が評価を行っている。評価にあたっては、業務内容や責任範囲を明確にし、個人の達成度にもとづく絶対評価を実施している。一方、賞与については、評価ランクに応じた相対評価が用いられている。ただし、人事評価を賃金額に反映させているのは、60歳までの正規従業員のみで、再雇用後の嘱託社員については、主として65歳時の契約更新時の判断に活用されている。 �B多様な働き方  同社では、従業員がライフステージに応じて働き方を調整できる環境整備の一環として一部の職種でフレックスタイム制を導入しており、従業員は自身のライフスタイルや業務状況に合わせて、柔軟な勤務とすることができる。年齢や家庭状況にかかわらず働き続けられる職場づくりは、高齢従業員の継続就業にも功を奏している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み �@研修・教育訓練の実施  半導体関連技術等の高度専門分野は、技術革新への対応が不可欠であるため、全従業員を対象に外部研修とOJTを組み合わせた人材育成を実施している。高齢従業員についても、過去の経験に依存するだけでなく、新たな技術や業務環境に対応するため、継続的な学習機会を設けている。2021年6月から、JEEDの支援を受け、「就業意識向上研修」を実施。同研修は、年金、健康保険、雇用保険等の社会保障制度に関する理解促進にもつながっている。 �A技術・技能継承の取組み  長年の経験、知識、熟練技能を有する高齢従業員は、若手従業員に対する技術指導やOJTを通じて、技能継承の中心的な役割をになっている。特に、半導体関連業務では、装置の取扱い、品質管理、工程理解など、マニュアル化しにくい経験知が重要であるため、高齢従業員の知識や技能は、同社の現場力を維持するうえで重要な資源となっている。 �B職場コミュニケーションの推進  高齢従業員の豊富な経験を活かし、人間関係や業務上の悩みに対する相談役(メンター)としての役割を果たしている。高齢従業員が若手・中堅従業員の相談相手となることで、異なる世代間の円滑なコミュニケーションが促進され、職場の風通しの改善にもつながっている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み �@作業環境および作業方法の改善  高齢従業員を含む全従業員が安全に働き続けられるよう、作業環境や作業方法の改善を進めており、具体的な取組みは以下の通り。 ・照度の高い照明の設置で作業環境を改善 ・高温の場所や機械の稼働部分への注意表示 ・各所にクーラーや換気扇を設置 ・立ち作業が多い現場への疲労軽減マットの設置 ・作業姿勢の改善指導 ・重量物運搬のリフトや補助装置の導入 ・小休憩時間の設定による連続作業時間の短縮 ・搬送・組立等の反復作業へのロボット導入 ・段差があり危険な箇所等にはスロープ設置や目立つ色で注意表示 など  これらの多彩な取組みは、加齢にともなう身体的負担への配慮であると同時に、全従業員にとっても安全で効率的な作業環境を整備するものである。 �A健康管理  健康管理は、高齢従業員を含む全従業員を対象に、健康診断後、精密検査が必要とされた者に対して二次検査の受診を徹底している。また、健康増進の取組みとして、各従業員が健康維持・増進のための目標を定め、「1日5000歩の歩行」等を実践することで日常的な運動習慣の定着をうながしている。  さらに、メンタル面の対策として、匿名で24時間365日医師に相談できる「チャット型医療相談システム」を導入し、運用。これにより、従業員がメンタル面での不調を抱え込まず、早期に相談できる体制が整備された。 �B安全衛生  親会社である吉川工業株式会社が鉄鋼事業を基盤としてきたこともあり、安全衛生の取組みは従来から経営上の重要課題となっており、単なる事故防止にとどまらず、職場環境の質を高める活動として展開している。具体的には、年度ごとに「全社労働安全衛生管理計画」を作成し、各部門が実行すべき具体的な行動計画として社内に共有されている。管理者による月1回の安全パトロールも実施されており、現場の状態を継続的に確認する仕組みが整えられている。安全衛生委員会では、各部門の定常作業における労働災害リスクを抽出し、関係部門へ報告。各部門は、抽出されたリスクについてリスクアセスメントを行い、優先順位を定めたうえで低減活動を実施する。その進捗は毎月の委員会で共有し、安全衛生委員会が全社的に管理している。 �C福利厚生  社宅制度や家賃補助制度を整備し、従業員の生活基盤を支援している。また、各種競技参加休暇やリフレッシュ休暇等、従業員の多様なニーズに対応した特別休暇制度も導入している。さらに、グループ会社が運営する「セミコンスポーツプラザ」を社員割引価格で利用できるようにしており、従業員の運動不足解消や健康増進を支援している。 (4)高齢従業員の声  石井(いしい)英一(えいいち)さん(76歳)は、RF事業部のR&Dテクニカルアドバイザーで、49歳のときに入社。製品開発や技術の検討、特許の出願などを手がけている。「仕事の内容が自分に合っており、新しい技術を理解できるようになることが、この仕事の魅力です」と話す。元気に働き続けるための秘訣は「興味をもって勉強を続けること」とのことで、「現在の業務上の課題を解決して、技術を継承するのが目標」と笑顔を見せる。 (5)今後の課題  今後の人材不足にも対応していけるよう、高齢者、障害者、外国人、女性など多様な人材の戦力化・活用を図っていく。一人ひとりが「働く能力・雇用される能力」を切磋琢磨して高めあう社風を構築し、時代に応じた働きやすい制度や環境づくりなど全社をあげて取り組みながら、同社のさらなる挑戦が続く。 ※「就業意識向上研修」については、JEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/employer/startwork_services.html 写真のキャプション 吉川工業アールエフセミコン株式会社 従業員が割引価格で利用できるスポーツ施設「セミコンスポーツプラザ」 石井英一さん(76歳) 【P48-51】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 一人ひとりの声と個性に寄り添い「ずっと働きたい」を叶える職場 株式会社 サンエス総合ビルメンテナンス(鹿児島県志布志(しぶし)市) 企業プロフィール 株式会社 サンエス総合ビルメンテナンス (鹿児島県志布志市) 創業 1989(平成元)年 業種 その他の事業サービス業(建物等管理業務) 従業員数 73人(2026〈令和8〉年9月1日現在) 60歳以上 46人 (内訳) 60〜64歳 12人(16.4%) 65〜69歳 17人(23.3%) 70歳以上 17人(23.3%) 定年・継続雇用制度 定年なし。最高年齢者は78歳 �T 本事例のポイント  株式会社サンエス総合ビルメンテナンスは、1989(平成元)年に鹿児島県志布志市で創業した。施設の清掃・維持管理、業務用空調機の分解洗浄、環境衛生管理、公共施設の指定管理受託業務など、地域の暮らしを足元から支えるエッセンシャルワークをになってきた。  社名に込めた三つの「S」(セーフティ・スピード・サービス)を追求し、施設を利用するすべての人に快適で安心できる環境を届けることを使命としている。清掃や建物の維持管理は、若い世代が目を向けにくい業種でもある。だからこそ、年齢にかかわらず働き続けられる職場をつくり、「全員が主役」となれる会社を目ざしてきた。  同社の従業員のおよそ7割が女性で、その多くを高齢者が占める。2009年には定年制を廃止。生活のリズムに寄り添った柔軟な勤務、きめ細かな健康への目配り、安心して休める体制づくりを通じて、生涯現役で働ける職場を実現している。 POINT �@2009年に定年制を廃止し、本人の体力と意欲が続くかぎり働き続けられる制度を整えた。 �A一人の社員が複数の現場を担当できる多能工化を進め、急な欠勤にも助け合える体制を築いている。 �B現場配置を1週間単位で見える化した配置ボードを本社に設置し、柔軟なシフト調整に役立てている。 �C年齢にかかわらず能力に応じた賃金を設定し、資格取得を全面的に支援している。 �D2025(令和7)年に特別休暇「推(お)し活(かつ)休暇」を新設し、社員の活力を引き出している。 �U 企業の沿革・事業内容  1989年10月、鹿児島県志布志市で創業。1999年に鹿屋(かのや)支店、2003年に串間(くしま)支店、2004年に鹿児島(かごしま)営業所を相次いで設置し、鹿児島県から宮崎県にまたがる地域へと事業を広げてきた。  同社の清掃の現場は、市役所や図書館などの公共施設、病院、介護施設、工場と幅が広い。原則として、従業員は自宅に近い現場に配置され、それぞれの地域で施設の環境衛生を支えている。同社は清掃業を「地域になくてはならない仕事」と位置づけ、2022年にはSDGs宣言を策定した。高齢者や女性、障害のある人など多様な人材の活躍、清掃業を通じた環境保全、そして地域への貢献を経営の柱に掲げ、その実践を積み重ねている。 �V 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  全従業員73人のうち、60歳以上は46人で、全体のおよそ6割を占める。勤続20年を超えるベテランも複数人在籍し、高齢従業員の長年の経験と技能が会社を支えている。  高齢者雇用を推進してきた背景には、この業種ならではの特性がある。清掃・維持管理は、もともと高齢者が多く働く分野であり、一律の定年年齢を設けることが実態にそぐわなかった。前職を定年退職したのち、まだ体を動かせるうちにと同社を志望する人も多い。そこで、高齢従業員が主力として活躍する現実に合わせ、2009年に定年制を廃止した。この際には、JEEDの「65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)」※も活用している。  定年という区切りをなくしたことは、単に雇用期間が延びる以上の意味を持った。年齢で線を引かれる不安がなくなり、従業員は長く働き続けられるという安心感を得て、定着率が向上した。定年制廃止によって長く働くことができるよう、一人ひとりに寄り添った職場づくりも一気に進んでいった。同社は、体調の変化を隠さず相談できる雰囲気づくり、生活のリズムに合わせた勤務の調整、休みやすい体制の整備といった取組みを実践。その結果、長年の経験を持つ人材が残ることで業務の継続性や品質も安定し、取引先からの信頼も高まっている。  一方で、年齢を重ねれば体力や体調の変化、本人だけでなく家族の変化も避けられない。同社はそれを前提として受けとめ、一人ひとりの状態に寄り添いながら、いつまで、どのように働くかを本人と話し合って決めていく。経営層が社員一人ひとりの生活のリズムまで把握できる規模であり、その距離の近さがきめ細かな配慮を可能にしている。 �W 改善の内容 (1)制度に関する改善 �@定年制の廃止  2009年、「定年65歳」という定年制そのものを廃止した。同社の場合、もともと高齢従業員が戦力として活躍し、70歳を超えて働く従業員も多く見られた。この先、少子高齢化による人材不足が見込まれるなかでも会社が持続的に活動できるようにとの判断から、思いきった制度改定に踏み切った。 �A柔軟な勤務時間・勤務地の設定  勤務時間や勤務場所の決定にあたっては、本人の経験や希望、勤務日数、適性をきめ細かく把握してシフトや配置を組んでいる。とりわけ高齢従業員については、体力や健康状態、季節ごとの暑さ寒さの影響、家庭の事情までを考慮して配置している。例えば、早起きが得意な従業員には、短時間で終わる自宅近くの午前中の現場を割りあてるなど、生活のリズムを崩さない働き方を提案している。 �B能力に応じた賃金設定  賃金は全従業員が最低賃金からスタートし、能力に応じて昇給する。高度な技能を求められる現場に配属する社員には、年齢にかかわらず能力に見合った高い賃金を設定しており、年齢にかかわりなく能力が処遇に反映されることが、高齢従業員の働く意欲と仕事の品質の向上につながっている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み �@資格取得の全面的な支援  業務に役立つ資格を取得する場合は、年齢を問わず会社が費用を負担している。受験料に加え、交通費や食費、日当、滞在費まで対象とし、資格取得に1カ月ほどを要する場合にはマンスリーマンションの借上げなども行う。受験日や講習の出席日は有給の出勤扱いとし、取得した資格の種類に応じて月額の手当を支給している。経済的な負担を気にせず資格取得に集中でき、努力が賃金に反映されることが、スキルアップへの意識と働く意欲の向上につながっているという。これにより、会社にとっても、専門性の高い人材育成を通じたサービスの質の向上という効果を生んでいる。 �A多能工化によるスキルアップ  一人の従業員が複数の現場を担当できるよう、最低でも2カ所の現場を覚えてもらう取組みを進めている。担当できる現場が増えれば、仕事の幅も量も広がり、収入も増えていく。本人のスキルアップと収入増、会社の柔軟な人員配置を同時に実現する仕組みである。 �Bベテラン従業員によるメンター的な役割  同社には、勤続20 年を超える70代のベテラン従業員がいる。この従業員が、経営層と現場の従業員との間に入って両者をつなぐ「メンター」のような役割をになっている。  同世代のベテランが現場をまわり、世間話を交わしながら、従業員が自分の口からはいい出しにくい体調の不安や困りごとを拾い上げ、本人の了承を得て、経営層へと伝えていく。年齢も立場も近いからこそ、体力の衰えや家庭の事情といった話も相談しやすいという。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み �@身体の負担に配慮した作業と用具  清掃作業は一定の姿勢を続けることが多く、高齢従業員には身体的な負担が重くなりやすい。深く屈む姿勢は膝関節に負担がかかるため、腰を軽く屈める姿勢での作業を指導している。また、業務用の掃除機を家庭用の軽いものに替える、重い薬剤は小分けにして運ぶといった工夫なども重ねている。さらに、薬剤を小分けにして手渡す機会は、従業員と言葉を交わす場にもなっている。ほかにも、大規模施設では簡単なハンドル操作で扱える自動床洗浄機を導入した。 �A会社から歩み寄る健康管理  法定の健康診断やストレスチェックを実施し、結果に応じて再検査などを働きかけているが、同社の健康管理の特徴は、制度の実施にとどまらず、会社側から一人ひとりに歩み寄る姿勢にある。例えば、高齢になれば、「膝が思うように上がらない」、「気圧の変化で頭痛がする」、「白内障(はくないしょう)で視界がかすむ」といった不調がだれにでも起こりうる。しかし、こうした体調の変化は、従業員からはいい出しにくい。そこで同社では、「目はよく見えていますか」、「膝の具合はどうですか」と率先して声をかけ、日常的に体調を聞き取るようにしている。特に、視力の低下は清掃の品質確認に直結するため、目の大切さを定期的に呼びかけ、薬剤の使用時には目を防護するためのゴーグルを着用することとしている。  とりわけ大切にしているのが、話しやすい雰囲気をつくることである。例えば白内障の手術を受けることになった従業員がいれば、本人の了解のもとでそのことを社内に周知する。「あの人も受けたのなら」と、ほかの従業員も体の不調を打ち明けやすくなり、早めの受診につながっていく。連絡の手段も相手に合わせ、電話を好む世代には電話で、日中は外に出ている従業員には都合のよい時間帯にまとめて連絡するなど、生活のリズムをふまえて使い分けている。  また、清掃の現場は自宅から直行・直帰が基本で負担は少ない反面、会社が本人と顔を合わせる機会はかぎられる。そこで、給与の締め日などにあえて従業員が本社へ立ち寄る機会を設け、そのつど声をかけて足元や歩き方、自動車の運転の様子までさりげなく確認している。こうした積重ねを通じて、従業員一人ひとりの健康状態を継続的に把握している。  さらに、台風や大雨などで視界不良が予見される場合には、高齢従業員を早めに退勤させるなど、会社が率先して歩み寄ることが、「見えづらい」、「休みたい」をいい出しやすくしているという。  こうした目配りは、従業員の家族にも及ぶ。同社には一人暮らしの高齢従業員も多い。日々の様子から本人の健康に不安を感じたときには、離れて暮らす家族に連絡を取り、状況を共有して見守りにつなぐこともある。家族からは「母が働いてくれているので安心している」といった声が寄せられており、会社と家族がともに一人の従業員を支える関係が築かれている。働き続けられる場を用意することが、従業員の生活の安定と、その家族の安心にもつながっている。 �B特別休暇「推し活休暇」の新設  全従業員が心身をリフレッシュし、活力を持って働き続けられるよう、2025年に特別休暇「推し活休暇」を新設した。特定の対象を応援する活動(推し活)のために、年1回、3日を上限として取得でき、休暇は無給だが、1回につき5千円の支援手当を支給する。アーティストの追っかけだけでなく、遠方の孫に会いに行くために利用する従業員もおり、休暇を使って帰ってきた従業員の表情はより明るくなり、仕事への活力へと還元されている。 (4)高齢従業員の声  稲付(いなつき)悦子(えつこ)さん(69歳)は、公共施設や老人ホームの清掃を週4日ほど担当している。「家にずっといると気持ちがふさぐことがありますが、仕事に出ると気分が晴れます。みなさんが声をかけてくださるのもうれしいですね。あと10年、80歳までは働きたいです」  ��橋(たかはし)シミ子さん(79歳)は、社会福祉法人の施設で清掃を担当している。「家でもやることが多く忙しいのですが、仕事はまた別の意識で、責任感を持って取り組んでいます。たとえ1日であっても、きちんとやらないといけないという気持ちです。無理のない範囲で、少しでも働かせてもらえてありがたいです」  井上(いのうえ)トミ子さん(77歳)は、勤続20年を超えるベテランで、市役所などの清掃を二人一組で協力し合いながら担当している。「仕事は生活にハリを与えてくれます。仕事をすると達成感も疲労感もあって、嫌なこともたまにありますが、それも日々のアクセントになっています。体が続くかぎり、週1日でもいいから働きたいです」 (5)今後の課題  同社は、働く意欲のある高齢従業員が健康を保ちながら働き続けられる環境づくりをこれからも進めていく。高齢従業員が安心して引退でき、新しい世代が入りやすいよう、世代の橋渡しとなる仕組みづくりを続けることが、これからの課題である。地域に根ざす企業として、高齢者、女性、障害のある人、若者といった多様な人材のだれもが活き活きと働ける職場を目ざしていく。 ※65歳超雇用推進助成金(65歳超継続雇用促進コース)については、JEEDホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/subsidy/subsidy_keizoku.html 写真のキャプション 株式会社サンエス総合ビルメンテナンス 掃除機を重い業務用(右)から軽い家庭用(左)へ変更(写真提供:株式会社サンエス総合ビルメンテナンス) 清掃スタッフの稲付悦子さん(69歳・左)と��橋シミ子さん(79歳・右) 【P52-53】 文化・福祉ジャーナリスト �ア井(さきい)将之(まさゆき) 江戸時代にもあった 「仕事と介護の両立問題」 〜目からウロコの高齢者介護史〜 最終回 近代以前に重視されていた「互助(ごじょ)」による高齢者支援 −現代の日本社会で失われていった支援の形− 律令(りつりょう)制度と現代の介護制度の違い  前回は古代に制定された律令制度において、80歳以上の高齢者には「侍(じ)」と呼ばれる世話をする人を付けるべし、との規定があったことをご紹介しました。そんな大昔の制度に、現代でいうホームヘルパー(訪問介護員)のような考え方が盛り込まれていたことには本当に驚かされますが、ただこの「侍」のあり方は、現代の介護保険サービスにおけるホームヘルパーとはあり方が大きく異なります。  この点を明確にするために、「高齢者介護のような家庭・個人の生活課題やリスクをだれが助けるのか」に関する四つのパターンについて少し触れておきましょう。その四つとは「自助(じじょ)」、「互助」、「共助(きょうじょ)」、「公助(こうじょ)」です。自助とはその名の通り自分で自分を助けるという意味ですが、そこには家族・親族も含まれます。ですから、自分の親を介護する老親(ろうしん)介護は、自助の典型例といえますね。互助とはご近所や地域コミュニティ、ボランティアによる助けのこと、共助は同じ生活課題・リスクを抱える人同士で助け合うもので、保険の仕組みが該当します。そして公助は、国や自治体が税金を使って直接支援する公共福祉サービスのことです。  この区分でいうと、律令制度はどのように分類できるでしょうか。そこで定められているホームヘルパー(≒侍)の場合、「侍」には子や孫などを優先的にあてがうものとし、身寄りがない場合は外部の人をあてがってよい、とされていました。ここでの「外部」とは、人の動きが少ない当時のことですので、基本的には近くに住んでいるご近所さん、ということになるでしょう。つまり律令制度の介護制度とは、「自助と互助をしっかりやりなさい」という内容の取決めであるといえます。一方、現代の介護保険サービスのホームヘルパーの場合、家族やご近所さんでもない見知らぬ人が対価をもらって介護を提供し、その対価には国民が支払う介護保険料と税金とがあてられるという仕組みです。いわば共助と公助が土台となっている支援の仕組みですので、律令制度のあり方とは大きな違いがあるわけです。  律令制度が規定されたころ、保険や公共福祉サービスという考え方はほぼ皆無でしたから、高齢者・老親を支えるとなると基本は自助であり、自助で対応しきれない場合は互助(地域・ご近所の助け)とならざるを得ない面があったでしょう。 日本の高齢者介護における互助の精神  ところでこの互助に関してですが、2026(令和8)年6月に発表された、内閣府の『令和8年版高齢社会白書』に興味深いデータが掲載されています。日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの60歳以上を対象としたアンケート調査結果によると、「近所の人との付き合いがありますか」との質問にはどの国も8割以上の割合で「ある」と答えているのですが、「(ご近所の人と)病気のときに助け合う」はアメリカが22.8%、ドイツが34.3%、スウェーデンが10.4%であるのに対し、日本は3.9%にとどまっています。日本はかなり低めの割合です。福祉大国であるスウェーデンも低めであることから、老病(ろうびょう)の際は国家による支援が充実しているので、ご近所による支援は必要ない、という見方もできるでしょう。しかし日本は、そのスウェーデンよりもさらに低い割合にとどまっています。  先ほどの律令制度では、互助の促進も一部含むような内容ではありましたが……老病に対してご近所同士で助け合うという点において、互助の精神は日本社会のなかでそれほど醸成されてこなかったのでしょうか?  結論からいいますと……まったく違います。  確かに、特に中世期は武士同士の争いが激しくなり、高齢者支援への意識が高まりにくい時期も長く続きました。しかし一方で、大地主・領主層などの富裕層(ふゆうそう)が、高齢者を含む支援を必要とする人を地域内で助けていたのではないか、との見解を示す歴史研究者もいます。  そして大きく状況が変わったのが江戸時代で、そのきっかけの一つとなったのが、当時定められていた五人組(ごにんぐみ)の制度です。  五人組とはご近所同士の五世帯の家々が一つのグループを作る制度のことで、その原型は律令制度の五保(ごほ)の制(せい)にあります。それを復活させたのが現在放送中の大河(たいが)ドラマの主人公としても注目を集めている豊臣(とよとみ)秀吉(ひでよし)です。彼の政権が治安維持、年貢(ねんぐ)納入の連帯責任を負わせることを目的として導入し、それを徳川幕府が受け継いで、「五人組」の制度として確立させていったのです。  幕府が導入した五人組は、年貢をきちんと収めているか、キリシタンになっていないかなどを相互監視させるのがその制度としての当初の目的でした。しかし何かにつけてものごとを成熟させるのが得意な日本人は、どんどんその内容を変貌させ、五人組を「お互いに助け合うグループ」として位置づけるようになっていきます。その助け合いの内容には、冠婚葬祭(かんこんそうさい)や災害時の対応など多岐にわたりますが、そのなかには病気の際の助け合いも含まれていました。そしてここでいう病気の際の助け合いには、要介護状態の原因ともなる各種老病が含まれていると考えてよいでしょう。こうした五人組における助け合い=互助の精神は、江戸時代の中ごろになると幕府の側も率先して推奨するようになり、当時の幕府高官・蓑笠之介(みのかさのすけ)が農家の心得を記した『農家慣行(のうかかんこう)』にその点が明記されています。  この五人組の制度は明治維新を境に失われ、そし て第二次世界大戦を経て社会・価値観の急速な変貌、経済成長が進むなか、地域コミュニティそのものが次第に姿を薄めていきました。現在日本では、自助、互助、共助、公助を一体的に地域内で取り組もうとする「地域包括ケアシステム」の構築に向けて国をあげて取り組みつつあります。この理念や考え方は、日本が世界に誇れるような最先端の高齢者福祉であるといえますが、こと互助の部分に関しては、先のアンケート結果を見るかぎり、日本にはまだまだ取り組むべき課題、改善の余地があるようにも感じられます。  しかしこれまで触れてきた通り、もともと日本人には、高齢者介護における互助の精神はしっかりと醸成されていました。もちろん五人組のようなものを現代社会に再現することはできませんけれど、江戸時代当時の日本人が持っていたご近所を大切にする気持ち、ご近所に病気の人がいればつねに気にかけようとする精神は、現代の日本人が参考にできる部分も多いのではないでしょうか。少子高齢化が急速に進む現代社会の場合、地域内のお年寄り同士で助け合う文化・価値観がもっと醸成されれば、若い世代の負担が減り、ひいては介護離職の予防にもつながるのでは……とも思われるのですが、この点どうでしょう(お元気なお年寄りが、支援を必要とするお年寄りを支えるような)。  ……と最後に駆け足で問いを投げかける形となりましたが、今回にてこの連載は終了です。半年間のご愛読、まことにありがとうございました。 【参考資料】 ・�ア井将之 著『武士の介護休暇―日本は老いと介護にどう向き合ってきたか―』(河出書房新社)2024年 ・内閣府『令和8年版高齢社会白書』(55〜56頁)2026年 https://www8.cao.go.jp/kourei/whitepaper/w-2026/zenbun/pdf/1s3s_03.pdf 【P54-57】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第171回 鳥取県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 高齢社員が職場改善の立役者。 経験を活かし日々の工夫で現場を支える 企業プロフィール 有限会社山本(やまもと)精機(せいき)(鳥取県岩美郡(いわみぐん)岩美町(いわみちょう)) ▲設立 1984(昭和59)年 ▲業種 精密金属加工・TIG溶接・組立 ▲社員数 55人 (60歳以上男女内訳) 男性(8人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 4人(7.3%) 65〜 69歳 2人(3.6%) 70歳以上 3人(5.5%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。定年後は希望者全員をパートタイム社員として再雇用。最高年齢者は軽作業に従事する74歳  鳥取県は、鳥取砂丘や中国地方最高峰の大だい山せん、浦富(うらどめ)海岸など豊かな自然環境に恵まれ、二十世紀梨やスイカ、らっきょうなどの農産物、松葉ガニ・紅ズワイガニなどの水産物の産地として知られています。漫画家の水みず木き しげる氏や青山(あおやま)剛昌(ごうしょう)氏の出身地としても有名です。産業では、豊かな農林水産資源を活かした食品関連産業のほか、電子部品や電気機器関連を中心とした製造業など、多様な産業が地域経済を支えています。  JEED鳥取支部高齢・障害者業務課の酒井(さかい)祐介(ゆうすけ)課長は、「人手不足が課題となるなか、その対策として高齢者の活用がこれまで以上に重視されるようになっています」と県内の高齢者雇用事情について説明します。  同課では、人手不足対策としての高齢者活用を重視し、事業主へのていねいなヒアリングを通じて課題や実情を把握したうえで、各企業の状況に応じた支援を行っています。  鳥取支部で活躍するプランナーの一人、藤田(ふじた)誠(まこと)さんは、2007(平成19)年からJEEDの高年齢者雇用アドバイザー・プランナーとして活動し、今年で20年目を迎えます。特定社会保険労務士の資格を持ち、労働法令や賃金制度など幅広い観点から、事業所に寄り添った助言を行っています。訪問前に企業の情報を入手したうえで、同業他社の事例や高齢者活用のメリットを伝えることを心がけているそうです。  藤田プランナーは、日ごろのプランナー活動について「少子高齢化が進むなかで企業が生き残っていくには、他社との差別化が欠かせません。定年延長や定年制の見直しも、その一つ。また、社員が充足している企業ほど、社員の紹介による入社が多く、ホームページやSNSでの発信が採用に結びついている面もあり、そうした点もお伝えするようにしています」と話します。  今回は、藤田プランナーの案内で「有限会社山本精機」を訪れました。 精密加工を一貫して手がける地域のものづくり企業 有限会社山本精機は、鳥取県岩美郡岩美町で精密金属加工を手がける企業です。機械加工に加え、TIG溶接や組立まで一貫して対応できる技術力を持ち、取引先から寄せられる図面をもとに、高い精度が求められる金属部品を製造しています。  山本(やまもと)康夫(やすお)代表取締役社長が近年特に力を入れてきたのが、社員が働きやすい職場づくりです。「かつてのように、ただ仕事をしていればよいという時代ではなくなってきました。人と人との関係も、会社全体で見ていかなければなりません。仕事は順調でも、人間関係が理由で辞めてしまうのは、たいへんもったいないことです。高齢社員にかぎらず、働いてくれている人が少しでもストレスなく働けるように、と考えています」と山本社長は話します。  同社の特徴の一つが、年に2回行う「改善活動」。社員を四つのグループに分け、それぞれで業務改善の案を出してもらい、半年間の取組みの成果を全員参加の場で発表します。優れた取組みは表彰され、上位のグループには商品券が贈られます。以前はこの順位づけを山本社長が一人で行っていましたが、いまは課長と係長も加わって点数をつける方式にあらためました。「一人の思いだけで順位を決めるのではなく、みんなで評価するようにしたかったのです。採用されるかどうかはわからなくても、最低でも一人一つは意見を出そうと呼びかけています」と山本社長。社員が自ら考える風土が、少しずつ根づいてきました。  当初は「扇風機がほしい」、「いすを新しくしてほしい」といった要望が中心でしたが、10年ほどを経て、いまでは自分の作業をより早く楽にする工夫や、システム化の提案まで生まれています。例えば、これまで紙で集計していた不良品のデータをタブレットで入力し、原因別・金額別に自動でグラフ化する仕組みを社員が構築しました。3時間かかっていた集計が3分ほどですむようになり、年間の損失額まで見える化されたことで、改善すべき工程を的確に絞り込めるようになったといいます。こうした提案は若手社員だけのものではありません。長年の現場経験を持つ高齢社員も、作業を効率よくこなすための治具づくりなど、自ら手を動かして改善に取り組んでおり、その視点が周囲の刺激にもなっています。 5年かけて休日を増やし、働き方を見直す  働き方の面では、完全週休2日制を目ざし、5年かけて土曜日の休みを段階的に増やしています。年に4日ずつ休日を増やし、すでに3年が経過しました。もともと年間100日ほどだった休日は着実に増えています。  休日を増やせた背景には、生産効率の向上があります。  「みんなが考えてくれた効率化のおかげで、土曜日を休んでも残業をそこまでしなくてよい状態に持ってこられました」(山本社長)  補助金を活用した自動化設備の導入も進めていますが、「設備を入れても、使いこなせなければ意味がありません。しっかりと教育をして、機械を使える状態になってもらうことが大切です」と、人材育成とセットで設備投資をとらえています。  同社の定年は65歳で、希望者全員をパートタイム社員として再雇用しています。パートタイム社員の勤務は原則として9時から15時までと定めていますが、なかには正社員と同じ8時15分から17時までフルタイムで働く人もいて、勤務形態は柔軟です。山本社長は、高齢社員がもたらす経験の豊かさを、次のように話します。「特に当社だけでなく、これまで何社か経験してきた方々は、そのなかでつちかった技術や考え方をどんどん発言してくれます。それを聞いて、ふだんは意見をいい出しにくい人たちも学べるようになりました。自分たちだけでは思いつかなかった、もっとこうすれば効率がよくなる、という視点をもらっています」  なお藤田プランナーと同社の縁は古く、藤田プランナーが社会保険労務士として開業まもないころにさかのぼります。当時、同社で飼われていた犬に、動物好きの藤田プランナーがチクワなどを手に芸を教え、いくつかの芸を先代社長(現社長の父)の前で披露したことがきっかけで顧問契約に至ったといいます。以来20年余り、同社を見守り続けてきました。持ち前の明るさで場を和ませる人柄は顧問先からの信頼も厚く、山本社長も「何かあったときに気軽に相談できる存在です」と話します。 経験を活かし、現場を支えるベテランたち  第一工場で二次加工をになう澤(さわ)昭範(あきのり)さん(70歳)と、検査部で最終検査を担当する岡村(おかむら)敏男(としお)さん(67歳)にお話をうかがいました。  澤さんは、機械加工後のバリやカエリ※を処理する仕上げ作業を受け持っています。以前は長く製造業に従事し、定年でのリタイアはまだ早いと考えて62歳で同社に入社しました。勤続8年、いまは9時から15時までの週4日勤務です。  澤さんが心がけているのは、作業の効率化とミスゼロです。「無理・無駄・ムラ」の3Mを減らすことを目標に、より楽に効率よくこなす方法をつねに考えています。持ちづらい部品を扱いやすくする治具を自作するなど、その改善提案は多岐にわたります。山本社長は「いわれたことだけをするのではなく、これは不便ではないか、効率が悪いのではないかと、自分で気づける人です」とその視点を評価します。半年に一度の改善活動の場だけでなく、日ごろから機械担当者へ働きかけることも少なくありません。 ※バリ、カエリ……機械加工によって生じる不要な突起やささくれ 藤田誠 プランナー アドバイザー・プランナー歴:19年 [藤田プランナーから] 「これまでたくさんの人からいただいた恩を、今後の人生で周りの人に送ることが使命だと思っています。モットーは『メメント・モリ(死を忘れるな)』、『カルペ・ディエム(いまを生きよ)』。私自身72歳のいまも元気で、最近の70代はこのように元気であることを、身をもって示すよう心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆鳥取支部高齢・障害者業務課の酒井課長は、藤田プランナーについて「19年にわたりプランナーとして活動され、豊富な経験を持ち、つねにチャレンジ精神を持って新たな取組みに積極的に挑戦されています。何ごとにもほかに先駆けて前向きに取り組む姿勢があり、その行動力と実践力は周囲からの信頼も厚いものがあります」と話します。 ◆鳥取支部高齢・障害者業務課は、鳥取市中心部の東側に位置する若葉台ニュータウン内にあり、鳥取駅からバスで25分ほど、バス停「ポリテクセンター」から徒歩1分のところにあります。鳥取市東部に位置することから、八頭(やず)町方面からも比較的アクセスしやすい立地です。 ◆鳥取県では、西部(境港(さかいみなと)市・米子(よなご)市周辺)2人、中部(倉吉(くらよし)市周辺)1人、東部1人の計4人のプランナーが、それぞれの地域を中心に活動しています。2025年度は、相談・助言141件、制度改善提案52件の活動を行いました。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●鳥取支部高齢・障害者業務課 住所:鳥取県鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター(ポリテクセンター鳥取)内 電話:0857-52-8803 地図文字 鳥取県岩美郡岩美町★ 写真のキャプション 有限会社山本精機(写真提供:有限会社山本精機) 山本康夫代表取締役社長 第一工場で二次加工をになう澤昭範さん(写真提供:有限会社山本精機) 最終検査を担当する岡村敏男さん(写真提供:有限会社山本精機) 【P58-59】 サステナビリティを高めるシニア人材活用戦略 第5回 リスキリングでシニア自身の価値を高める 株式会社日本総合研究所 小島(こじま)明子(あきこ)/宮下(みやした)太陽(たいよう)  不確実性が高まる現代において、企業が持続的に成長し続けるためには、サステナビリティ(持続可能性)の視点が不可欠です。とりわけ、人材を「資本」としてとらえ、その価値を最大限に引き出す人的資本経営の重要性が高まっています。そのなかでもシニア人材をはじめとする多様な人材の活用は、経験・知見の継承や組織のレジリエンス向上の観点からも、これからの企業経営の鍵を握る重要な要素です。そこで本企画では、シニア人材の持つ価値をあらためて整理するとともに、その活用に向けた具体的な戦略について解説します。 1 はじめに  本連載の第4回※1では、シニア人材による若手育成を、若手の成長や技能継承をうながす「投資」としてとらえたうえで、若手に教えることは、シニア人材自身が知識やスキルを更新する機会にもなることを指摘しました。こうした学びをさらに広げ、シニア人材が変化する仕事や社会の要請に対応し続けるためには、教えることに加えて、自ら新たな知識やスキルを獲得する取組みも必要です。そこで今回は、シニア人材のリスキリングに焦点をあて、その意義と具体的な機会について考えます。  そもそも、リスキリングという言葉が注目された背景としては、2020(令和2)年のダボス会議※2において、リスキリング革命(Reskilling Revolution)が発表されたことがあげられます。このなかでは、2030年までの10年間に10億人がよりよい教育やスキルを習得する機会を得る、という目標が掲げられました。  経済産業省が推計したデータ※3によれば、2015(平成27)年と2050年で必要とされる能力が大きく変わることが示されています。2015年時点では、「注意深さ・ミスがないこと」、「責任感・まじめさ」、「信頼感・誠実さ」が上位3位までを占めており、与えられた仕事を、まじめにコツコツと正確にこなす人材が求められていた状況が窺(うかが)えます。一方、2050年時点では、「問題発見力」、「的確な予測」、「革新性」が上位3位までを占めています。今後は、与えられた仕事を正確に遂行する能力だけではなく、変化する時代のなかで社会の課題を発見・予測し、イノベーションを創出していく能力が求められると考えられます。シニア人材においても、これまでの経験やスキルを活かしつつ、社会で求められる能力を向上させることが求められます。 2 シニアの自己啓発の現状  社会から必要とされる人材として活躍し続けるうえでは、企業側の支援のみに期待するのではなく、日ごろから、シニア個人が学び続ける姿勢を持つことが重要です。しかし、厚生労働省「令和7年度能力開発基本調査」によれば、自己啓発を実施した人の割合は年齢が上がるにつれて低くなることがわかっています(59ページ図表1)。  特に50代になると、その比率は大幅に下がります。自己啓発を実施しているシニアにおいても、平均延べ時間を見ると、40時間以下と少なく、学びの量を増やすことが必要だといえます(59ページ図表2)。国の教育訓練給付金をはじめ、企業側が設けている教育支援制度の活用をうながし、学びの量を増やしていく取組みが求められます。  一方、自己啓発を行っている人の学びの内容を見てみると、多くはeラーニングなど、一人で学ぶ一方向の学習が中心となっています(59ページ図表3)。先に述べた今後必要とされる能力をふまえると、シニアであれば、これまでのスキルや経験を活用して、越境学習※4など実践の現場で学び、そこで得られた学びを本業などで活かすことが期待されます。  越境学習の代表的な例は副業・兼業ですが、いまはその働き方も多様化しています。リモートワークを活用しながら、遠方の中小企業の仕事をになうなど、自分のスキルや経験を提供する働き方も可能となっています。企業が副業・兼業をシニア人材に対して積極的に推奨していくことは、シニア人材の新たな学びやネットワークの構築など、本業への貢献につながります。 3 協同労働の場を活用した新たな越境学習の提案  副業・兼業の解禁を行う企業は徐々に増えてきていますが、制度を整備しても利用するのは若手人材が多く、シニア人材からのチャレンジが少ないという課題もあります。そのため、シニア人材にとって心理的ハードルが低く、筆者らが新たな可能性を感じているのが、協同労働の現場です。  協同労働とは、働く人が自ら出資し、事業の運営にかかわりつつ、事業に従事する働き方です。3人の仲間(組合員)を集めれば立ち上げることができ、協同労働にかかわる人たちは、組合を組織し、組合の「出資」、「経営」、「労働」のすべてをになうことになります。経営にも労働にも主体的にかかわっていくことが求められるため、働くなかで自分の役割や貢献の仕方を学ぶことができます。政府としても労働者協同組合をシニア活躍の一つとして位置づけています。政府の「高齢社会対策大綱」(2024年9月13日閣議決定)では、「高齢期のニーズに応じた多様な就業等の機会の提供」として、労働者協同組合の活用により、地域における多様なニーズに応じ、高齢者が自ら働く場を創出する取組みを促進することが掲げられています。  2022年10月に労働者協同組合法が施行されて以降、徐々にその裾野は広がりつつあり、2026年9月時点で約200団体の労働者協同組合が設立されています。労働者協同組合のにない手も幅広く、シニア人材やフリーランスなど多様な人材が立ち上げていることも特徴的です。株式会社日本総合研究所では、協同労働の場を一つの越境学習の選択肢としてとらえ、実際に企業人材に対して、協同労働インターンシッププログラムを提供しています。主体性や傾聴力、個々人の特性をふまえた協力関係の築き方、仕事起こしを通じた地域課題解決に対する姿勢などを学ぶことは、シニア人材にとって、現在の仕事につながる新たな学びの獲得やセカンドキャリアの選択肢を広げることにつながっています。  本稿では、協同労働を取り上げましたが、今後もより多くのシニア人材が、実践的なリスキリングの一つである越境学習にチャレンジできるよう、多様な場が提供されることが望まれます。企業に求められるのは、シニア人材の学びを本人任せにせず、社内外で新たな役割や課題に向き合う機会を積極的に提供することです。さらに、複数の企業や地域の団体が連携して学びの場をつくることができれば、組織や地域の垣根を越えた人材交流がうながされ、シニア人材の経験を社会のさまざまな場で活かすことにもつながるでしょう。 ※1 本連載第4回(2026年10月号)は、JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202610/#page=52 ※2 ダボス会議……世界経済フォーラムの年次総会。世界経済フォーラムとは、地域、産業の課題を経済、政治、学究、その他の社会におけるリーダーたちが連携することで改善に取り組むことを目的とした国際機関 ※3 https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kyouikumirai/dai3/siryou4.pdf ※4 越境学習……ふだん勤務している会社や職場を離れ、まったく異なる環境に身を置き働く体験をすることから新たな視点などを得る学びのこと 図表1 自己啓発を実施した人の割合 全体 35.5% 20〜29歳 41.9% 30〜39歳 42.8% 40〜49歳 37.0% 50〜59歳 31.0% 60歳以上 21.3% 図表2 自己啓発を実施した人の平均延べ時間(推計) 全体 42.7 20〜29歳 55.0 30〜39歳 39.6 40〜49歳 41.3 50〜59歳 39.7 60歳以上 34.7 図表3 自己啓発の実施方法(正社員) eラーニング(インターネット)による学習 45.6% ラジオ、テレビ、専門書等による自学、自習 37.3% 社内の自主的な勉強会、研究会への参加 22.7% 社外の勉強会、研究会への参加 19.8% 民間教育訓練機関(民間企業、公益法人、各種団体)の講習会、セミナーへの参加 15.2% 通信教育の受講 14.5% 公共職業能力開発施設の講座の受講 2.0% 高等専門学校、大学、大学院の講座の受講 1.5% 専修学校、各種学校の講座の受講 1.3% その他 8.8% ※出典:厚生労働省「令和7 年度能力開発基本調査」をもとに日本総合研究所作成 【P60】 次号予告 12月号 特集 働きながら治療する −シニアのための両立支援− リーダーズトーク 山本教史さん(株式会社ニチイホールディングス 執行役員 人事本部長) 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 編集アドバイザー(五十音順) 池田誠一……日本放送協会解説委員室解説委員 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐藤弘太……日本商工会議所産業政策第二部労働担当課長 谷 圭一郎……日清食品ホールディングス株式会社 グローバル人事部次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TISI株式会社人事本部人事部 山�ア京子……明治大学商学部特任准教授、日本人材マネジメント協会理事長 JEEDメールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 編集後記 ●当機構(JEED)では、10月9日(金)に「令和8年度高年齢者活躍企業フォーラム」を開催し、高年齢者活躍企業コンテスト受賞企業の表彰式のほか、基調講演、受賞企業によるトークセッションなどを行いました。基調講演、トークセッションの模様は、本誌2027年1月号でご紹介する予定です。また、アーカイブ配信も行いますので、興味のある方はぜひそちらもご覧ください。 ●今号の特集では、前号に引き続き、高年齢者活躍企業コンテストより、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞を受賞した企業11社の取組みをご紹介しました。それぞれの業種・業態特有の事情をふまえつつも、会社や地域の風土や特徴を活かしながら取組みを推進しています。読者のみなさまにおかれましても、ぜひこれらの取組みを参考に、自社の高齢者雇用の推進に取り組んでいただければ幸いです。 ●連載「江戸時代にもあった『仕事と介護の両立問題』〜目からウロコの高齢者介護史〜」は今号で最終回。江戸時代のころから仕事と介護の両立問題があったことにも驚きますが、もしかしたらこうした歴史のなかに、両立を実現するためのヒントが隠されているかもしれませんね。 月刊エルダー11月号 No.564 ●発行日−−令和8年11月1日(第48巻 第11号 通巻564号) ●発行−−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−−企画部長 古屋勝史 編集人−−企画部次長 石井伸明 〒261‐8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp 発送先の変更などについては、上記のメールアドレスまでご連絡ください。 ●編集委託 株式会社労働調査会 〒170‐0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918 )8618 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く方の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用・雇用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.369 不調の原因を突き止め印刷機を確実に修理する ハイデルベルグ印刷機 メンテナンスアドバイザー 池田(いけだ)久重(ひさしげ)さん(67歳) 「長年やってきても、わからないことはまだまだあります。『こういうことか』とわかる瞬間があるから、この仕事は楽しいんです」 ドイツ製高性能印刷機のメンテナンスをになう  上の写真は、ドイツのハイデルベルグ社の高性能印刷機。版の交換からインキ量の調整まで、次に刷る印刷物への切替えを自動で行う。同社はドイツに本社を置く世界屈指の印刷機メーカーで、印刷や出版、デザインの業界で広く知られている。  今回の取材で訪れたアベイズム株式会社(東京都)を含む数社と契約を結び、ハイデルベルグ社の印刷機のメンテナンスをになっているのが池田久重さんだ。同社の技術者として海外を含め40年間勤務し、60歳で定年退職後に独立した。定期的に顧客の工場を訪れて機械を点検し、印刷機のオペレーターから不具合などを聞き取って修理にあたる。  高速で精密に動く印刷機は、長時間の稼働で部品が消耗し、汚れもたまっていく。使い続けるかぎり、不具合は避けられないという。  「明らかに壊れているものは、すぐに対応できます。むずかしいのは、徐々におかしくなっていく場合です。稼働中の音や振動、数値を確かめながら、『恐らくこのあたりではないか』と原因を絞り込みます」 音や刷り上がりから不調の原因を探る  不調の手がかりの一つが「音」だ。例えば給紙部では、紙をエアーで一枚ずつはがし、吸いつけて送り出す。紙を吸い上げきれなかったり、空気が漏れたりすると、その音が微妙に変化するという。  「毎日聞いているオペレーターは、少しずつ変わる音に、かえって慣れてしまうようです。『変な音がしますよ』と声をかけても、ピンとこないことがあります」  刷り上がりの不具合から原因をたどることもある。色が安定しないときは、もとになる細かな点(網点(あみてん))のずれをルーペで観察し、ずれが4色のインキすべてか、特定の色だけかを確かめる。そこから紙をはさんで運ぶ「グリッパー」などにあたりをつけ、開けてみると紙片が詰まっていたこともある。  また、インキの性質など、化学的な知識も欠かせない。  「赤いインキを使うユニットは故障が多いなど、経験から立てられる仮説はいくつもあります」  ただし、印刷機の修理は時間との勝負でもある。機械が止まれば生産が止まり、納期にも響く。  「経験の引き出しがたくさんあっても、全部は開けられません。何から見るかは状況で見きわめます」  つねに心がけているのは、原因を理解して修理を終えることだ。  「部品を替えただけで直ったときは、もやもやして不安が残るんです。原因がわかれば安心できますし、それが経験値となって次につながっていくのだと思います」 現場のオペレーターへの技術の伝承に努める  子どものころから機械いじりが好きだった池田さんは、工業高等専門学校で機械工学を学び、航空機の整備士を目ざした。しかし当時は求人がなく、機械のメンテナンスができ、海外ともかかわれる企業として、ハイデルベルグ・ジャパン株式会社の前身企業に入社した。  「印刷機を開けると、見たことのないギアや電気装置が並び、『これは何だろう』と引き込まれました。航空機のエンジン並みのベアリングが使われるほど精密で、航空機よりおもしろいかもしれません」  国内勤務を経て、ハイデルベルグ・オーストラリアに転職。帰国後はハイデルベルグ・ジャパンでドイツ本社との技術窓口をにない、新機種の日本導入ではプロジェクトマネージャーを務めた。後年は社内のスキル管理も担当。技術者としての心構えを「独り言」と称して社内にメールで発信し、後輩から反響もあったという。  現在は、顧客先のオペレーターへの技術の伝承に取り組む。  「オペレーターの方々が育って、ある程度のことは自分たちで解決できるようになれば、お客さまにとってはコスト削減にもなります」  「70歳までは現役を続けたい」と話す池田さん。長年つちかってきた技と、それを惜しみなく伝える姿勢が、印刷の現場を支えている。 TECHNOPRESS(テクノプレス) TEL:045(783)1776 (撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英) 写真のキャプション 紙を反転させる装置により、片面10色と両面各5色の印刷を切り替えられる10色機。メンテナンスでは、反転装置にもっとも気をつかうという 他社製の検査機を点検する。初めはどう動くかわからなかったが、インターネットや生成AI を駆使して仕組みを調べ、修理にこぎつけた。期限や費用を顧客と相談し、直すかメーカーを呼ぶかを判断する メーカー修理なら一式交換となるところも、原因を絞り込み、必要な部品だけを交換して顧客の費用負担を抑える 紙は意外に硬く、はさみ続けるグリッパーは摩耗していく。刷り上がりの品質を保つには、定期的な交換が欠かせない 紙をはさんで次のユニットへと運ぶグリッパーを点検。専用工具を使って動きを確かめながら、汚れやすい部分をきれいに清掃する 顧客の担当者に装置内部の電気系統を説明する。池田さんの訪問日に合わせ、相談ごとを用意して待つオペレーターも多い 版の位置(見当)を調整するモーターの交換作業。調整用のモーターは左右、天地(上下)、斜めの3種類があり、写真は左右方向用を取り替えるところ 定期メンテナンスで使う標準工具のケース。このほかに特殊工具などもたずさえて、顧客の工場を回る 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  まずは、マスの配置をじっと見て戦略を立てます。「5文字が入る場所はかぎられているな。ん?5文字同士で組み合わせが可能なのは……。そこにつく2文字は……」。この問題は、ワーキングメモリをしっかり使って解き、最後はメモなしでもできるようにくり返してみましょう。 第113回 目標 5分 ナンバースケルトン 下の数字をすべて使って、マスを埋めましょう。 数字はすべて「左から右」、「上から下」に並んで入ります。 2文字 56 62 87 93 3 字 195 234 375 948 4文字 1006 1107 6374 7250 5文字 25904 61205 78531 ワーキングメモリを刺激しよう!  今回の問題でポイントとなるのが、情報を一時的に頭の中に保持しながら処理する「ワーキングメモリ」(作業記憶)です。選択肢の数字を覚え、「どの数字を使ったか」、「残っている数字は何か」を意識しながらマスを埋めることで、短期的に情報を記憶し、必要に応じて取り出す力を使います。  ワーキングメモリは、暗算をしたり、会話の内容を理解したり、複数の手順を順番に進めたりするときにも活躍する大切な認知機能です。この問題では、数字を覚えるだけでなく、条件に合うような組合せを考えるため、記憶と同時に集中力や判断力も働かせる必要があります。  数字を一時的に記憶しながら、試行錯誤(しこうさくご)をくり返すことがこの問題のポイントです。頭の中の情報を絶えず更新しながら答えを探すことで、ワーキングメモリをしっかり使うことができます。楽しみながら、ワーキングメモリを刺激しましょう。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。人システム研究所所長、公立諏訪東京理科大学特任教授。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『脳活ドリル オール新作!たっぷり1000問』(宝島社)など著書多数。 【問題の答え】 1107 93 9  234 56 5 87  1006 8 62  375  0  7 3 25904 1 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2026年11月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-front�U7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 令和9年度 高年齢者活躍企業コンテスト 〜生涯現役社会の実現に向けて〜 ご応募お待ちしています 高年齢者がいきいきと働くことのできる創意工夫の事例を募集します 主催 厚生労働省、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)  高年齢者活躍企業コンテストでは、高年齢者が長い職業人生の中でつちかってきた知識や経験を職場等で有効に活かすため、企業等が行った創意工夫の事例を広く募集・収集し、優秀事例について表彰を行っています。  優秀企業等の改善事例と実際に働く高年齢者の働き方を社会に広く周知することにより、企業等における雇用・就業機会の確保等の環境整備を図り、生涯現役社会の実現に向けた気運を醸成することを目的としています。  高年齢者がいきいきと働くことができる創意工夫の事例について多数のご応募をお待ちしております。 取組内容 募集する創意工夫の事例の具体的な例示として、以下の取組内容を参考にしてください。 1.高年齢者の活躍のための制度面の改善 2.高年齢者の意欲・能力の維持向上のための取組 3.高年齢者が働きつづけられるための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組 主な応募資格 1.原則として、企業単位の応募であることとし、グループ企業単位での応募ではないこととします。また、就業規則を定めている企業に限ります。 2.応募時点において、労働関係法令に関し重大な違反がないこととします。 3.高年齢者が65歳以上になっても働ける制度等を導入し、高年齢者が持つ知識や経験を十分に活かして、いきいきと働くことができる環境となる創意工夫がなされていることとします。 4.応募時点前の各応募企業等における事業年度において、平均した1カ月あたりの時間外労働時間が60時間以上である労働者がいないこととします。 5.過去のコンテスト応募企業(受賞企業を含む)が再応募する場合は、過去の応募時とは異なる新たな制度等を導入し運用していること、又は過去の応募時の制度等を改定(発展又は充実させたものに限る)して、運用していることとします。 なお、過去のコンテスト受賞企業に限っては、直近のコンテスト受賞時から3年以上経過していることを要件とします。 各賞 【厚生労働大臣表彰】 最優秀賞 1編 優秀賞 2編 特別賞 3編 【独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰】 優秀賞 若干編 特別賞 若干編 クリエイティブ賞  若干編 ※上記は予定であり、各審査を経て入賞の有無・入賞編数などが決定されます。 応募締切日 令和9年2月26日(金) お問合せ先 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部 高齢・障害者業務課 ※連絡先は65ページをご覧ください。 ※詳細はホームページをご覧ください。 https://www.jeed.go.jp/elderly/activity/activity02.html 2026 11 令和8年11月1日発行(毎月1回1日発行) 第48巻第11号通巻564号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈編集委託〉株式会社労働調査会