高齢者の職場探訪 北から、南から 第171回 鳥取県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 高齢社員が職場改善の立役者。 経験を活かし日々の工夫で現場を支える 企業プロフィール 有限会社山本(やまもと)精機(せいき)(鳥取県岩美郡(いわみぐん)岩美町(いわみちょう)) ▲設立 1984(昭和59)年 ▲業種 精密金属加工・TIG溶接・組立 ▲社員数 55人 (60歳以上男女内訳) 男性(8人)、女性(1人) (年齢内訳) 60〜64歳 4人(7.3%) 65〜 69歳 2人(3.6%) 70歳以上 3人(5.5%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。定年後は希望者全員をパートタイム社員として再雇用。最高年齢者は軽作業に従事する74歳  鳥取県は、鳥取砂丘や中国地方最高峰の大だい山せん、浦富(うらどめ)海岸など豊かな自然環境に恵まれ、二十世紀梨やスイカ、らっきょうなどの農産物、松葉ガニ・紅ズワイガニなどの水産物の産地として知られています。漫画家の水みず木き しげる氏や青山(あおやま)剛昌(ごうしょう)氏の出身地としても有名です。産業では、豊かな農林水産資源を活かした食品関連産業のほか、電子部品や電気機器関連を中心とした製造業など、多様な産業が地域経済を支えています。  JEED鳥取支部高齢・障害者業務課の酒井(さかい)祐介(ゆうすけ)課長は、「人手不足が課題となるなか、その対策として高齢者の活用がこれまで以上に重視されるようになっています」と県内の高齢者雇用事情について説明します。  同課では、人手不足対策としての高齢者活用を重視し、事業主へのていねいなヒアリングを通じて課題や実情を把握したうえで、各企業の状況に応じた支援を行っています。  鳥取支部で活躍するプランナーの一人、藤田(ふじた)誠(まこと)さんは、2007(平成19)年からJEEDの高年齢者雇用アドバイザー・プランナーとして活動し、今年で20年目を迎えます。特定社会保険労務士の資格を持ち、労働法令や賃金制度など幅広い観点から、事業所に寄り添った助言を行っています。訪問前に企業の情報を入手したうえで、同業他社の事例や高齢者活用のメリットを伝えることを心がけているそうです。  藤田プランナーは、日ごろのプランナー活動について「少子高齢化が進むなかで企業が生き残っていくには、他社との差別化が欠かせません。定年延長や定年制の見直しも、その一つ。また、社員が充足している企業ほど、社員の紹介による入社が多く、ホームページやSNSでの発信が採用に結びついている面もあり、そうした点もお伝えするようにしています」と話します。  今回は、藤田プランナーの案内で「有限会社山本精機」を訪れました。 精密加工を一貫して手がける地域のものづくり企業 有限会社山本精機は、鳥取県岩美郡岩美町で精密金属加工を手がける企業です。機械加工に加え、TIG溶接や組立まで一貫して対応できる技術力を持ち、取引先から寄せられる図面をもとに、高い精度が求められる金属部品を製造しています。  山本(やまもと)康夫(やすお)代表取締役社長が近年特に力を入れてきたのが、社員が働きやすい職場づくりです。「かつてのように、ただ仕事をしていればよいという時代ではなくなってきました。人と人との関係も、会社全体で見ていかなければなりません。仕事は順調でも、人間関係が理由で辞めてしまうのは、たいへんもったいないことです。高齢社員にかぎらず、働いてくれている人が少しでもストレスなく働けるように、と考えています」と山本社長は話します。  同社の特徴の一つが、年に2回行う「改善活動」。社員を四つのグループに分け、それぞれで業務改善の案を出してもらい、半年間の取組みの成果を全員参加の場で発表します。優れた取組みは表彰され、上位のグループには商品券が贈られます。以前はこの順位づけを山本社長が一人で行っていましたが、いまは課長と係長も加わって点数をつける方式にあらためました。「一人の思いだけで順位を決めるのではなく、みんなで評価するようにしたかったのです。採用されるかどうかはわからなくても、最低でも一人一つは意見を出そうと呼びかけています」と山本社長。社員が自ら考える風土が、少しずつ根づいてきました。  当初は「扇風機がほしい」、「いすを新しくしてほしい」といった要望が中心でしたが、10年ほどを経て、いまでは自分の作業をより早く楽にする工夫や、システム化の提案まで生まれています。例えば、これまで紙で集計していた不良品のデータをタブレットで入力し、原因別・金額別に自動でグラフ化する仕組みを社員が構築しました。3時間かかっていた集計が3分ほどですむようになり、年間の損失額まで見える化されたことで、改善すべき工程を的確に絞り込めるようになったといいます。こうした提案は若手社員だけのものではありません。長年の現場経験を持つ高齢社員も、作業を効率よくこなすための治具づくりなど、自ら手を動かして改善に取り組んでおり、その視点が周囲の刺激にもなっています。 5年かけて休日を増やし、働き方を見直す  働き方の面では、完全週休2日制を目ざし、5年かけて土曜日の休みを段階的に増やしています。年に4日ずつ休日を増やし、すでに3年が経過しました。もともと年間100日ほどだった休日は着実に増えています。  休日を増やせた背景には、生産効率の向上があります。  「みんなが考えてくれた効率化のおかげで、土曜日を休んでも残業をそこまでしなくてよい状態に持ってこられました」(山本社長)  補助金を活用した自動化設備の導入も進めていますが、「設備を入れても、使いこなせなければ意味がありません。しっかりと教育をして、機械を使える状態になってもらうことが大切です」と、人材育成とセットで設備投資をとらえています。  同社の定年は65歳で、希望者全員をパートタイム社員として再雇用しています。パートタイム社員の勤務は原則として9時から15時までと定めていますが、なかには正社員と同じ8時15分から17時までフルタイムで働く人もいて、勤務形態は柔軟です。山本社長は、高齢社員がもたらす経験の豊かさを、次のように話します。「特に当社だけでなく、これまで何社か経験してきた方々は、そのなかでつちかった技術や考え方をどんどん発言してくれます。それを聞いて、ふだんは意見をいい出しにくい人たちも学べるようになりました。自分たちだけでは思いつかなかった、もっとこうすれば効率がよくなる、という視点をもらっています」  なお藤田プランナーと同社の縁は古く、藤田プランナーが社会保険労務士として開業まもないころにさかのぼります。当時、同社で飼われていた犬に、動物好きの藤田プランナーがチクワなどを手に芸を教え、いくつかの芸を先代社長(現社長の父)の前で披露したことがきっかけで顧問契約に至ったといいます。以来20年余り、同社を見守り続けてきました。持ち前の明るさで場を和ませる人柄は顧問先からの信頼も厚く、山本社長も「何かあったときに気軽に相談できる存在です」と話します。 経験を活かし、現場を支えるベテランたち  第一工場で二次加工をになう澤(さわ)昭範(あきのり)さん(70歳)と、検査部で最終検査を担当する岡村(おかむら)敏男(としお)さん(67歳)にお話をうかがいました。  澤さんは、機械加工後のバリやカエリ※を処理する仕上げ作業を受け持っています。以前は長く製造業に従事し、定年でのリタイアはまだ早いと考えて62歳で同社に入社しました。勤続8年、いまは9時から15時までの週4日勤務です。  澤さんが心がけているのは、作業の効率化とミスゼロです。「無理・無駄・ムラ」の3Mを減らすことを目標に、より楽に効率よくこなす方法をつねに考えています。持ちづらい部品を扱いやすくする治具を自作するなど、その改善提案は多岐にわたります。山本社長は「いわれたことだけをするのではなく、これは不便ではないか、効率が悪いのではないかと、自分で気づける人です」とその視点を評価します。半年に一度の改善活動の場だけでなく、日ごろから機械担当者へ働きかけることも少なくありません。 ※バリ、カエリ……機械加工によって生じる不要な突起やささくれ 藤田誠 プランナー アドバイザー・プランナー歴:19年 [藤田プランナーから] 「これまでたくさんの人からいただいた恩を、今後の人生で周りの人に送ることが使命だと思っています。モットーは『メメント・モリ(死を忘れるな)』、『カルペ・ディエム(いまを生きよ)』。私自身72歳のいまも元気で、最近の70代はこのように元気であることを、身をもって示すよう心がけています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆鳥取支部高齢・障害者業務課の酒井課長は、藤田プランナーについて「19年にわたりプランナーとして活動され、豊富な経験を持ち、つねにチャレンジ精神を持って新たな取組みに積極的に挑戦されています。何ごとにもほかに先駆けて前向きに取り組む姿勢があり、その行動力と実践力は周囲からの信頼も厚いものがあります」と話します。 ◆鳥取支部高齢・障害者業務課は、鳥取市中心部の東側に位置する若葉台ニュータウン内にあり、鳥取駅からバスで25分ほど、バス停「ポリテクセンター」から徒歩1分のところにあります。鳥取市東部に位置することから、八頭(やず)町方面からも比較的アクセスしやすい立地です。 ◆鳥取県では、西部(境港(さかいみなと)市・米子(よなご)市周辺)2人、中部(倉吉(くらよし)市周辺)1人、東部1人の計4人のプランナーが、それぞれの地域を中心に活動しています。2025年度は、相談・助言141件、制度改善提案52件の活動を行いました。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●鳥取支部高齢・障害者業務課 住所:鳥取県鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター(ポリテクセンター鳥取)内 電話:0857-52-8803 地図文字 鳥取県岩美郡岩美町★ 写真のキャプション 有限会社山本精機(写真提供:有限会社山本精機) 山本康夫代表取締役社長 第一工場で二次加工をになう澤昭範さん(写真提供:有限会社山本精機) 最終検査を担当する岡村敏男さん(写真提供:有限会社山本精機)