【表紙】 令和8年7月1日発行(毎月1回1日発行)第48巻第7号通巻560号 Monthly Elder高齢者雇用の総合誌 7 2026 特集 新任人事担当者のための高齢者雇用入門 リーダーズトーク 男女がともに家庭責任をにないながら女性がキャリアアップできる社会を 公益財団法人21世紀職業財団 会長 定塚由美子 読者アンケートにご協力をお願いします! 【表紙裏】 助成金のご案内 〜65歳超雇用推進助成金のご案内〜 65歳超継続雇用促進コース 65歳以上への定年の引上げ、定年の定めの廃止、66歳以上への継続雇用制度の導入、他社による継続雇用制度の導入のいずれかの措置を実施する事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引き上げること A改正前後の就業規則を労働基準監督署等へ届け出ること B1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること C高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)の実施 支給額 ●定年の引上げ等の措置の内容、60歳以上の対象被保険者数、定年の引上げ年数に応じて240万円まで支給。 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース 高年齢者の雇用管理制度を整備するための措置(賃金制度、健康管理制度等)を実施した事業主の皆様を助成します。 支給対象となる主な措置(注)の内容 @高年齢者に係る賃金、人事処遇制度の導入・改善 A労働時間制度・在宅勤務制度・研修制度・健康管理制度の導入・改善 (注)措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要。 支給額 ●措置の内容に応じて最大60万円(中小企業事業主以外は45万円)支給。 ●措置の実施に必要な機器等の導入経費(上限50万円)に60%(中小企業事業主以外は45%)を乗じた額を支給。 高年齢者無期雇用転換コース 50歳以上かつ定年年齢未満の有期契約労働者を無期雇用労働者に転換した事業主の皆様を助成します。 主な支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任及び高年齢者雇用管理に関する措置(※)を1つ以上実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分(勤務した日数が11日未満の場合は除く)の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと 支給額 ●対象労働者1人につき40万円(中小企業事業主以外は30万円) (※)高年齢者雇用管理に関する措置とは、55歳以上の高年齢者を対象とした、次のいずれかに該当するもの (a)職業能力の開発及び向上のための教育訓練の実施等、(b)作業施設・方法の改善、(c)健康管理、安全衛生の配慮、(d)職域の拡大、(e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進、(f)賃金体系の見直し、(g)勤務時間制度の弾力化 JEEDホームページ「助成金」 https://www.jeed.go.jp/elderly/subsidy/index.html 〜障害者雇用納付金関係助成金〜 障害者作業施設設置等助成金 雇入れ、雇用の継続に必要な障害特性による就労上の課題(加齢に伴う課題を含む)を克服し、作業を容易にするために配慮された施設等の設置・整備を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @障害者用トイレや手すりを設置または整備 A拡大読書器を購入 等 助成額 支給対象費用の2/3 障害者雇用相談援助助成金 対象障害者の雇入れおよび雇用継続を図るための一連の雇用管理に関する援助の事業(障害者雇用相談援助事業)を実施する事業者(※)に支給します。※事前に労働局の認定が必要です。 助成対象となる措置 @利用事業主に障害者雇用相談援助事業を行った場合 A@を行った後に利用事業主が対象障害者を雇い入れ、かつ6カ月以上の雇用継続をした場合 助成額 @60万円ほか A1人7万5千円ほか 障害者介助等助成金 適切な雇用管理のために必要な介助等の措置や、加齢に伴う課題の解消のために必要な介助等の各種措置を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @職場復帰支援 A中途障害者等や中高年齢等障害者の技能習得支援 B職場介助者の配置または委嘱(継続措置および中高年齢等措置あり) C手話通訳・要約筆記等担当者の配置または委嘱(継続措置および中高年齢等措置あり) D職場支援員の配置または委嘱(中高年齢等措置あり) E健康相談医の委嘱 F職業生活相談支援専門員の配置または委嘱 G職業能力開発向上支援専門員の配置または委嘱 H介助者等の資質向上措置 I重度障害者の業務遂行のために必要な支援を重度訪問介護等サービス事業者に委託 助成額 @月4万5千円 ほか ABCEFGH支給対象費用の3/4 ほか D月3万円ほか I支給対象費用の4/5ほか 職場適応援助者助成金 職場への適応を容易にするために職場適応援助者による支援を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @訪問型職場適応援助者による支援 A企業在籍型職場適応援助者による支援(@Aとも中高年齢等措置あり) 助成額 @1日3万6千円までほか A月9万円ほか 重度障害者等通勤対策助成金 障害の特性に応じた通勤を容易にするための措置を行う場合に支給します。 助成対象となる措置 @住宅の賃借 A住宅手当の支払い B駐車場の賃借 C通勤用自動車の購入 D重度障害者の通勤援助のために必要な支援を重度訪問介護等サービス事業者に委託 (ほかにも対象となる措置がありますのでホームページでご確 認ください) 助成額 @〜C支給対象費用の3/4 D支給対象費用の4/5ほか ほかにも助成金がありますので、ホームページでご確認ください。 https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/index.html 説明動画はこちら https://www.jeed.go.jp/disability/subsidy/news/setsumeidouga_of_01.html e-Gov電子申請を利用して申請できます 24時間365日 いつでも手続きできます! ※お問合せや申請は、当機構(JEED)各都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ、東京・大阪支部は高齢・障害者窓口サービス課)までお願いします 【P1-4】 Leaders Talk No.134 男女がともに家庭責任をにないながら女性がキャリアアップできる社会を 公益財団法人21世紀職業財団 会長 定塚由美子さん じょうづか・ゆみこ 1984(昭和59)年労働省(現厚生労働省)入省。雇用均等・両立支援を中心に労働関係、福祉関係行政にたずさわる。内閣官房内閣人事局内閣審議官、厚生労働省社会・援護局長、大臣官房長、人材開発統括官等を経て2020(令和2)年に退官。2023年6月より現職。  1986(昭和61)年に男女雇用機会均等法が施行されてから40年。日本における女性活躍推進の取組みは着実に進歩している一方、世界各国と比較するとまだまだ十分とはいえません。今回は、厚生労働省で雇用均等政策にたずさわり、現在は21世紀職業財団会長として、女性活躍推進やハラスメント防止に取り組む定塚由美子さんに、日本における女性活躍推進の現状と課題についてお話をうかがいました。 「ダイバーシティ推進」と「ハラスメントのない職場づくり」二つの事業を柱に企業を支援する公益財団法人 ―定塚さんが会長を務める21世紀職業財団の活動内容について教えてください。 定塚 当財団は男女雇用機会均等法(以下、「均等法」)が施行された1986(昭和61)年に設立されました。均等法の周知啓発や研修などによる支援を目的に、旧労働省が経済団体や企業などに働きかけて「財団法人女性職業財団」として発足し、1993(平成5)年に現在の名称に変更し、2013年に公益財団法人になりました。育児休業関連の助成金などを国に代わって支給する指定法人の時期もありましたが、1993年以降は自らの事業で独立した運営を行っています。  現在は、「ダイバーシティ推進」と「ハラスメントのない職場づくり支援」の、おもに二つの事業を展開しています。  ダイバーシティ推進事業では、顧客企業の課題やニーズに応じたオーダーメイド研修のほか、ダイバーシティ推進や女性活躍推進のための調査・コンサルティング、会員制プログラムである「女性活躍サポート・フォーラム」、女性役員育成プログラム「女性部長のためのNext Step Forum」などを実施しています。女性活躍サポート・フォーラムは、100社以上の会員企業が参加し、@「DEI推進責任者会議」、A管理職一歩手前の「女性のためのエンパワーメント21世紀塾」、B課長職向けの「女性管理職研修」、C管理職ではない40〜50代の女性対象の「これからの仕事と生き方を考えるIt's My Turnセミナー」などを開催しています。  ハラスメント対策では、オーダーメイド研修・各種セミナーや調査、事案解決支援に向けたコンサルティングのほか、ハラスメントの社外相談窓口や公益通報受付窓口サービス業務を行っています。また当財団が認定する「21世紀職業財団認定ハラスメント防止コンサルタント○R(★)」の養成講座と認定試験を実施しています。  二つの事業は対価をいただいていますが、社会貢献事業としての調査研究、だれもが参加できる年2回のシンポジウムの開催などにも取り組んでいます。 ―均等法施行から40年。日本の女性活躍推進の現状をどのようにとらえていますか。 定塚 この40年は、三つの時期に分けられると考えています。第1期(1985〜2000年ごろ)は均等法施行後、男女差別の解消が進み、女性総合職の採用もはじまりましたが、実際には総合職が増えて定着するまでには至りませんでした。その要因としては、法施行後、企業や地域の組織文化の変容には至らなかったことが一番大きかったと思います。加えて、バブルが崩壊し、経済が厳しくなったこともマイナスの要素となりました。  この状況が変わりはじめたのが第2期(2000〜2015年ごろ)です。経済情勢が好転し、採用活動が活発化するなかで、女性を本格的に採用しようという企業が増えてきました。それを促進したのが、1997年の均等法改正により、募集・採用、配置・昇進を含む差別が禁止されたことに加え、ポジティブ・アクション※1に対する国の支援が盛り込まれたことです。労働基準法の女子保護規定も改正され、2006年の2回目の均等法改正(男女双方の差別禁止、間接差別禁止など)も追い風となりました。  第3期(2015年〜)は、「女性活躍」、「ダイバーシティ」という言葉を中心に、取組みが加速します。大きなポイントは「経営戦略としてのダイバーシティ」の重要性に企業が気づきはじめたことです。それまでの女性活躍の取組みは、女性を人権の観点から差別しないという文脈で語られてきました。そうではなく、家庭や社会の経験を含むさまざまな経験や価値観を持つ人が企業に存在し、お互いに議論や意見交換ができることが企業経営にもプラスになる、というダイバーシティの理解が徐々に進んだことです。2015年の女性活躍推進法の成立も企業の行動の大きな後押しとなりました。 依然として低いジェンダー・ギャップ指数女性リーダーの拡大と男女賃金格差の解消を ―一方で日本のジェンダー・ギャップ指数※2は国際的にも低い状況にあります。今後の課題とは何でしょうか。 定塚 ジェンダー・ギャップ指数の日本の順位は、2025(令和7)年は前年と同じ118位(148カ国)でした。先進国では最下位、アジアの国々のなかでも低いですし、きわめて後れている状況にあります。課題の一つは、女性リーダーの拡大です。女性管理職だけではなく、自治会などの地域のリーダーや政治家もきわめて少ない現状を変えていくことが必要です。もう一つの課題は、男女間賃金格差の解消です。いわゆるM字カーブが改善され、女性の労働力率は高まっていますが、その中身は賃金が低い非正規雇用が多いという実態もあります。  私たちは女性の活躍に向けた段階を3段階でとらえています。第1段階は「女性は子どもができたら退職があたり前」という社会。第2段階は女性がかろうじて仕事と育児・介護を両立している状況で、現状はこの段階にあります。目ざすべきは、第3段階の「男女ともに家庭責任をにないながらしっかりキャリアアップできる社会」です。  そのためには、男性も含めて仕事と育児・介護の両立が可能な働き方改革の推進が必要です。同時に女性自身の能力発揮・職域拡大・登用の三つが不可欠だと考えています。男性の育休取得率は向上していますが、育休後は子どもが病気になると休みを取るのは女性であることが多く、短時間勤務も女性が圧倒的に多いのが現状です。子育てを女性と男性がともにになうことが、女性のキャリア形成を支援していくことにつながります。 ―これまで定年・再雇用というと男性が多かったと思います。今後は定年・再雇用を迎える女性も増えていくと思われます。定年以降も女性が活躍していくうえで、企業にはどのような取組みが求められるでしょうか。 定塚 男女にかかわらず、本人の意欲と能力に応じて適切な仕事を用意するように努めてもらうことが基本です。一方で、“男性の再雇用”という前提で定年以降の職場や仕事を考えてはいないでしょうか。再雇用社員の仕事や役割が、男性向けの仕事や役割に偏っていないかを考えてみる必要があります。会社によっても違うと思いますが、定年以前の男女の配属先が異なっているケースもあります。これまでの経験値が男性と女性で違うこともありますし、それはそれで問題でもありますが、定年以降の仕事についても女性がこれまでの仕事や経験が活かせるポストを用意することが、定年後も女性が活躍していくためには重要でしょう。  また、女性は地域とのつながりが強い人が多く、いわゆる“ママ友”などの知合いも少なくありません。例えば、企業が地域で社会貢献活動をしたいと考えたとき、女性の力を活用するのも有効だと思います。もちろん企業内で働いてもらうことが大切なのですが、地域・社会貢献を企画する場合、その地域で長年暮らしてきた女性、特に中高年女性の意見を聞くことで、よい結果につながるのではないかと思います。 年齢に関係なく「人は生涯成長できる」あきらめることなく挑戦を続けてほしい ―定年以降も働きがいを感じて活躍していくうえで、働く女性が持つべき心構え、キャリア形成のポイントとは何でしょうか。 定塚 私自身も同世代ですが、「人は生涯成長できる」という信念を持っています。女性の場合、育児や介護などで忙しい時期が長く、一段落するのは50歳ごろだったという人も多いのですが、そこからでも、いろいろなことを学んでステップアップすることは十分に可能です。定年以降もまだまだ成長できますし、自分の人生をどうしたいのかを真剣に考え、あきらめることなく挑戦してほしいと思います。  ちなみに私の場合は58歳のときに役所を退職したのですが、「これからは3分の1を仕事、3分の1をボランティアなどの社会活動、残りの3分の1をプライベートの充実に充てよう」と人生のポートフォリオを考えました。 ―現在注目しているダイバーシティやハラスメントに関するテーマはありますか。 定塚 女性活躍推進法の改正により、2026年4月より、男女の賃金差異の公表義務の対象範囲が101人以上300人以下の中小企業まで広がりました。私たちとしても、賃金格差の是正を含めた女性活躍の支援に取り組んでいきたいと思っています。  また、最近気になっているのは、自治体トップのハラスメントが頻発していることです。企業を含め、トップのハラスメントは組織文化が変わっていないことの証左だと思います。ハラスメントの前提となるような組織の風通しの悪さ、上に遠慮して何もいえないという風土を変革し、風通しのよい文化にしていくことが重要だと思います。 (聞き手・文/溝上憲文、撮影/中岡泰博) ★「21世紀職業財団認定ハラスメント防止コンサルタント○R」は、公益財団法人21世紀職業財団の登録商標です。 ※1 ポジティブ・アクション……固定的な男女の役割分担意識や過去の経緯から、「営業職に女性はほとんどいない」、「課長以上の管理職は男性が大半を占めている」等の差が男女労働者の間に生じている場合、このような差を解消しようと、個々の企業が行う自主的かつ積極的な取組み ※2 ジェンダー・ギャップ指数……世界経済フォーラムが、経済、教育、健康、政治の分野ごとに各使用データをウエイトづけして算出している、各国の「男女格差」の指標 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、”年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のイラスト:水穂真善/アフロ 2026 July No.560 特集 6 新任人事担当者のための高齢者雇用入門 7 総論 高齢者雇用の現状と課題 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 12 コラム 定年廃止・定年延長と継続雇用制度 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 14 解説 1.高齢社員の評価・処遇制度 2.高齢社員の多様で柔軟な勤務制度 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 3.高齢社員の転倒防止策 〜職場環境改善と健康保持増進の推進を含んで 株式会社健康企業 代表・医師 亀田高志 26 助成金 65歳超雇用推進助成金について 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 高齢者助成部 高齢者雇用促進等のためのその他の助成金・補助金 編集部 1 リーダーズトーク No.134 公益財団法人21世紀職業財団 会長 定塚由美子さん 男女がともに家庭責任をにないながら女性がキャリアアップできる社会を 30 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 安心!頼れる専門家 ―70歳雇用推進プランナー活用術― 【第3回】企業診断システム(雇用力評価ツール)を活用しよう! 36 江戸時代にもあった「仕事と介護の両立問題」 〜目からウロコの高齢者介護史〜 【第2回】 江戸時代の介護休業制度である「看病断」とは? ―日本史の教科書にも載せてほしい、日本が誇れる歴史の1ページ― ア井将之 38 高齢者の職場探訪 北から、南から 第167回 大阪府 株式会社斉藤鐵工所 42 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第117回 株式会社ナレッジピース 代表取締役 阪井洋之さん(66歳) 44 知っておきたい労働法Q&A 《第96回》 雇用外の執行役員と継続雇用の関係、ホテル支配人の労働者性 家永勲/木勝瑛 48 新連載 サステナビリティを高めるシニア人材活用戦略 【第1回】 ESG経営と人的資本 山本大介/宮下太陽 50 いまさら聞けない人事用語辞典 第69回 「労働委員会」 吉岡利之 52 TOPIC1 職場における熱中症防止のためのガイドライン 54 TOPIC2 同一労働同一賃金ガイドラインのおもな改正事項 55 立川談慶の人生100年時代の歩き方 【第6回】 「笠碁」から学ぶ「敏感な場面でのエチケット」 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 59 読者アンケートにご協力をお願いします!/本誌はデジタルブックで読むことができます! 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.365 技能グランプリに出場を続け、次代へ技をつなぐ タイル工 勝呂高也さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第109回] サイコロ計算 篠原菊紀 【P6】 特集 新任人事担当者のための高齢者雇用入門  今回は、「新任人事担当者のための高齢者雇用入門」と題し、高齢者雇用の現状や課題、取組みを推進するうえで重要となる3テーマについて解説します。  改正高年齢者雇用安定法の施行により70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となって5年。高齢者雇用の取組みは着実に進展していますが、70歳まで働ける仕組みを整えている企業は約35%にとどまっています。新任人事担当者の方はもちろん、ベテラン担当者や経営者のみなさまにも本企画をご一読いただき、高齢者雇用の推進にお役立てください。 【P7-11】 総論 高齢者雇用の現状と課題 高千穂大学 経営学部 教授 田口(たぐち)和雄(かずお) ※このマンガに登場する会社・人物はすべて架空のものです 1 はじめに〜職場で活躍する高齢者の日常  職場で高齢者が活き活きと活躍している姿は、いまや日常的な光景となりました。これは平成期に政府が進めた高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)の改正、そのなかでも2004(平成16)年改正(2006年4月施行)の高齢法が企業に義務づけた「65歳までの雇用確保措置」を受けて、希望すれば65歳まで働くことができる就労環境が整備されたことに加えての動きです。  さらに、令和期に入った2020(令和2)年改正(2021年4月施行)の高齢法により、「70歳までの就業確保」の努力義務が企業に課せられ、高齢者雇用は70歳就業時代に向かうことになりました。  この春に人事部に異動された読者のみなさまは、現在の高齢法により高齢者雇用がどのような状況にあるのかを理解するのがむずかしいと感じられるかもしれません。そこで、総論では2020年改正・2021年4月に施行された高齢法の概要をふり返るとともに、政府統計をもとに現在の高齢者雇用における現状を確認し、70歳就業時代となった令和期の高齢者雇用の課題を考えていきたいと思います。 2 高年齢者雇用安定法の概要  まず高齢法が改正に至った背景から確認します。わが国は少子高齢化が急速に進み、2008年の1億2808万人をピークに人口は減少に転じ、人口減少時代に突入しました。一方で日本の労働力人口(15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は、1990年の6394万人から2022年の6902万人へと増えていますが、今後は減少に転じ、2030年には6556万人、2040年に6002万人に減少すると見込まれます※1。  こうした人口減少時代において、経済の活力を維持するには、働き手を増やすことがわが国の重要な政策課題の一つになっています。さらに、個々の労働者の特性やニーズが多様化しているなか、「将来も安心して暮らすために長く働きたい」と考える労働者も増えており、高齢期になっても能力や経験を活かして活躍できる環境の整備がいっそう求められています。こうした背景のもと、高齢法は2020年に改正されました。  2020年に改正された高齢法(以下、「新高齢法」)のポイントは事業主(以下、「企業」)が高齢者の多様な特性やニーズをふまえ、70歳まで就業機会を確保(「高年齢者就業確保措置」)できるよう、従来の高齢法(以下、「旧高齢法」)の規定(「高年齢者雇用確保措置」)に加え、企業に多様な選択肢を制度として整える努力義務が設けられている点です(図表1)※2。  旧高齢法の規定は大きく2点あります。第一に企業が定年を定める場合は60歳以上としなければならないこと。第二にそのうえで65歳までの雇用機会を確保するために、企業は図表2(9ページ)の上段に示す三つの制度のいずれかを「高年齢者雇用確保措置」(以下、「雇用確保措置」)として設けることが義務づけられていることです。つまり、65歳まで自社あるいは自社のグループ企業で「雇用」する場を設けることが企業に求められています。  新高齢法では、前記の雇用確保措置に加えて70歳までの就業機会を確保するため、企業に対して図表2(9ページ)の下段に示す五つの制度のいずれかを「高年齢者就業確保措置」(以下、「就業確保措置」)として講じる努力義務が新たに設けられました。  旧高齢法と比べた新高齢法のおもな特徴は次の2点です。第一は、「自社グループ外での継続雇用が可能になった」ことです。Bの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入について、雇用確保措置では60歳以上65歳未満の雇用は自社と特殊関係事業主(自社の子法人等、親法人等、親法人等の子法人等、関連法人等、親法人等の関連法人等)のみでしたが、就業確保措置では65歳以上70歳未満の高齢者に対してそれらに加えて、「他の事業主」が追加されました。すなわち、自社の高齢者が継続雇用制度で働く場が自社や自社グループにとどまらず、他社や他社グループ企業に拡大された点です。  第二は「雇用によらない働き方」が可能になったことです。就業確保措置の@〜Bの制度はこれまでの自社あるいは他社で「雇用される働き方」(以下、「雇用措置」)であるのに対し、CとDの制度は「雇用によらない働き方」で「創業支援等措置」と呼ばれます。Cは会社から独立して起業した者やフリーランスになった者と業務委託契約を結んで仕事に従事してもらう方法、Dは企業が行う社会貢献活動に自社の高齢者を従事させる方法です。  近年、働く人たちの多様なニーズに応えた働き方が誕生していますが、高齢者でも同様のニーズが高まることも考えられ、2020年の改正で創業支援等措置が設けられました。この創業支援等措置を導入する場合、企業は過半数労働組合等※3の同意を得て導入することが求められます。  このように65歳以降は自社(自社グループ)での「雇用」に限定せず、他社での雇用やフリーランスとしての業務委託などの働く場の選択肢が示されていることから「就業」と呼ばれています。 3 高齢者雇用の現状〜雇用と就業の状況  高齢者雇用の現状を政府統計から確認します。図表3(10ページ)は2000年以降の高齢法の改正にあわせた2006年(2004年改正の「高年齢者雇用確保措置義務化」の施行年)、2013年(2012年改正の「継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止」の施行年)、2023年(2020年改正・2021年施行の「高年齢者就業確保措置の努力義務化」)の3時点の高年齢者の雇用と就業の状況を整理したものです。  まず企業の雇用状況を確認すると、雇用確保措置を実施している企業(高年齢者雇用確保措置実施企業)の推移は2006年(84.0%)、2013年(92.8%)、2023年(99.9%)と着実に増加しています。そのなかでも2012年改正の「継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止」は実質65歳定年制に向けた転機となり、現在、ほとんどの企業で65歳まで働くことのできる環境が整備されている状況にあります。こうした動きにあわせて希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合(2006年:34.0%、2013年:62.4%、2023年:81.8%)も順調な拡大傾向にあり、2023年では8割を超える高い水準にあります。なお、70歳以上まで働ける企業の割合は希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合に比べ低い水準(2006年:11.6%、2013年:16.7%、2023年:40.9%)にあるものの、70歳就業時代に向けて着実にその割合は増えており、2023年では約4割に達しています。  次に高年齢者の状況を確認します。図表3をみると、60歳から64歳までの「60歳台前半層」の就業状況の推移は2006年(52.6%)、2013年(58.9%)、2023年(74.0%)と上昇傾向にあり、そのなかでも2013年から2023年までの10年間の上昇幅(58.9%→74.0%:15.1ポイントの増加)は、2006年から2013年への上昇幅(52.6%→58.9%:6.3ポイントの増加)と比べ2倍以上です。65歳定年への定年年齢の引上げが多くの企業で進められているなかで、65歳まで働くことが一般的なキャリアになりつつあることがわかります。実質65歳定年制を迎えた後の60歳台後半層(65〜69歳)の3時点の就業状況の推移についても、60歳台前半層と同じ傾向(@右肩上がりの増加傾向、A2006年から2013年の増加幅に比べた2013年から2023年までの増加幅が大きいこと)が確認されます。60歳台前半層の就業状況が増えているのは年金受給開始年齢の引上げがかかわっていますが、それだけではなくライフスタイルの変化もかかわっています。そのことは、60歳台後半層の就業状況の推移――水準は60歳台前半層より低いものの増加傾向にあること――が物語っています。2023年には、65歳以上の約4人に1人(25.2%)が、70歳以上は約5.4人に1人(18.4%)が働いている状況となりました。このように高齢者雇用は70歳就業時代に向けた対応が求められています。 4 おわりに〜求められる高齢者の心技体と高齢者雇用のアップデート  人口減少時代のなかで、総労働力人口における60歳以上の労働力人口の比率は1990年の11.5%から2022年の21.5%へと拡大しています※4。現在50代の団塊ジュニア世代が2030年代には60代になるので、60歳以上の労働力人口比率は今後とも拡大することが予想され、高齢社員の戦略的活用(正社員と同じように経営成果に貢献する戦力としての活用)が不可欠となるため、70歳までの就業環境の整備が企業に求められます。つまり、「高齢者の心(就労意識)・技(スキル・能力)・体(健康)と高齢者雇用のアップデート」です。そこで、最後に今後の高齢者雇用の課題として大きく2点を取り上げます(図表4)。  一つめは、就労意識(心)とスキル・能力(技)のアップデートに向けた自己啓発支援やキャリアサポートの整備・拡充です。役職定年制の導入にともなう「くだりのあるキャリア」への変化や、定年後の就労期間の延伸により、従来の「のぼるキャリア」のもとでの「現有能力の活用」は継続困難となりました。役職定年後の就労期間が長くなるなかで社会や技術の変化に対応するためには、現有能力(技)は単なる更新ではなく「進化」(アップデート)が必要となります。そのため、企業にはキャリア支援体制のさらなる拡充が、高齢社員には戦力としてのキャリアの自律や就労意識(心)のアップデートがいっそう求められるようになりました。高齢社員が活き活きと活躍し続けるためには、管理職の段階から準備しておくことが必要です。また、企業は教育訓練体系の見直しを進め、すべての社員にキャリアの自律や就労意識のアップデートをうながし、「学び直し」や「リスキリング」などのための自己啓発支援やキャリアサポートを整備・拡充することが求められます。  二つめは、健康(体)のアップデート(健康確保)に向けた職場環境の改善(アップデート)です。私たち人間にとって加齢にともなう身体機能の低下は避けられない課題であり、健康や体力の状況は高齢になるほど個人差が大きくなるとされています。高齢社員の健康確保は企業にとって重要な課題となり、高齢社員の健康や体力の状況把握をていねいに行うとともに、身体機能の維持向上に向けた健康づくり活動を推進していくことが求められます。さらに、身体機能の低下への配慮が必要となる高齢社員にとって、これまでの一般的な正社員を前提にして整備されている職場環境は働きにくい環境です。加えて、2025年6月に施行された労働安全衛生法に基づく労働安全衛生規則の改正により、熱中症対策の義務が企業に課せられました。今後とも高齢社員が健康で活躍できる機会を提供していくには、高齢社員に配慮した安全な職場環境の改善・拡充が求められます。詳しくは解説3であらためて取り上げます。 ※1 (独)労働政策研究・研修機構の推計(労働政策研究・研修機構〔2024〕「2023年度版労働力需給の推計」)。この数値は一人当たりゼロ成長に近い経済状況のもと、労働参加が2022年と同水準で推移した場合(一人当たりゼロ成長・労働参加現状シナリオ)の値。なお、経済・雇用政策を講じ、成長分野の市場拡大が進み、女性および高齢者等の労働市場への参加が進展する場合(成長実現・労働参加進展シナリオ)は、2030年に6940万人と増加した後、2040年に6791万人に減少すると推定している ※2 なお、2012年度までに労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主は、経過措置として2025年3月31日まで老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について、継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが認められていたが、2025年4月1日以降は高年齢者雇用確保措置として、定年制の廃止、65歳までの定年の引上げ、希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入のいずれかの措置を講じる必要がある ※3 過半数労働組合等……労働者の過半数を代表する労働組合がある場合には労働組合を、労働者の過半数を代表する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者をそれぞれさす ※4 総務省「労働力調査」 図表1 新高齢法と旧高齢法の比較 旧高齢法 新高齢法(2020年改正・2021年施行) 高年齢者雇用確保措置(65歳までの雇用確保措置) ○(義務) ○(義務) 高年齢者就業確保措置(70歳までの就業確保措置) − ○(努力義務) ※筆者作成 図表2 新高齢法の概要 制度 内容 高年齢者雇用確保措置(義務) @65歳までの定年引上げ A定年制の廃止 B65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主〈子会社・関連会社等〉によるものを含む) 高年齢者就業確保措置(努力義務) @70歳までの定年引上げ A定年制の廃止 B70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む) 雇用措置(雇用される働き方) C70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 D70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 創業支援等措置(雇用によらない働き方) (注)「特殊関係事業主」とは自社の子法人等、親法人等、親法人等の子法人等、関連法人等、親法人等の関連法人等を示す 出典:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の概要」(https://www.mhlw.go.jp/content/11700000/001245647.pdf)をもとに作成 図表3 高年齢者の雇用状況と就業状況 (単位:%) 2006年(平成18年) 2013年(平成25年) 2023年(令和5年) 高齢法改正の主な内容 2004年改正の「高年齢者雇用確保措置義務化」の施行 2012年改正の「継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止」の施行 2020年改正の「高年齢者就業確保措置の努力義務化」の施行 雇用状況 高年齢者雇用確保措置実施企業(注1) 84.0 92.8(92.3) (99.9) 希望者全員が65歳以上まで働ける企業 34.0 62.4(66.5) (81.8) 70歳以上まで働ける企業(注2) 11.6 16.7(18.2) (40.9) 就業状況(注3) 60〜64歳 52.6 58.9 74.0 65〜69歳 34.6 38.7 52.0 65歳以上 19.4 20.1 25.2 70歳以上 13.3 13.1 18.4 (注1)「雇用状況」は51人以上の企業。( )は31人以上の企業、2023年は「51人以上の企業」の集計は行われていない (注2)2024年調査以降の「70歳以上まで働ける企業」の調査は行われていない (注3)最新(2025年)の数値は「60〜64歳」74.9%、「65〜69歳」54.5%、「65歳以上」26.0%、「70歳以上」19.0% 出典:厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」、総務省統計局「労働力調査」をもとに筆者作成 図表4 高齢者の心技体と高齢者雇用のアップデート [高齢者] 心 (就労意識) 体 (健康) 技 (スキル・能力) アップデート [企業] 戦略的活用 アップデート 高齢者雇用 ※筆者作成 【P12-13】 コラム 定年廃止・定年延長と継続雇用制度 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 なぜ高齢者雇用制度を設けるのか?  高齢者雇用を考えていくうえで、その起点となるのが「高齢者雇用制度」です。このコラムでは高齢者雇用制度を紹介し、読者のみなさまに今回の特集への理解を深めていただきたいと思います。  まず高齢者雇用制度を設ける必要性の確認からはじめます。読者のみなさんの職場にも、正社員をはじめ、さまざまな雇用形態で社員が働いていると思います。例えば、「正社員」とは「雇用期間の定めのない、企業に直接雇用される」形態です。「雇用期間の定めのない」ということは、正社員として会社で雇用されると本人が退職を申し出るまで働くことができるのですが、ほとんどの企業は定年年齢を定めており、その多くが60歳に設定しています※1。さらに、総論で述べたように、高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)で「65歳までの高年齢者雇用確保措置の義務化」と、「70歳までの高年齢者就業確保措置の努力義務化」が企業に課せられているため、高齢者雇用制度を設けることが求められているのです。 高齢者雇用制度の概要  高齢法で定められている高齢者雇用制度のなかで代表的な制度は「定年廃止」、「定年延長」、「継続雇用制度」の3制度で、図表(13ページ)はその概要を整理したものです。  まず定年廃止は、その言葉の通り定年年齢を定めている定年制を廃止する制度で、高齢社員(労働者)の退職の申し出、あるいは高齢社員と会社との合意により雇用契約が終了するまで、高齢社員は働き続けることができます。定年廃止のメリットは、会社として長く働いてほしい高齢社員を雇用し続けることができることや、すべての高齢社員に対して安定した雇用を保障することで、本人の安心感を高められることなどです。一方、デメリットは、高齢社員の退職時期が不定となるため、会社は人員計画を立てにくくなることや、雇用契約終了時のルールなどで高齢社員との間に問題が起こるおそれがあることなどです。  次に定年延長は、現在企業が定めている定年年齢を引き上げて、これまでと同じ雇用形態のまま雇用を継続する制度です。定年廃止との大きな違いは、これまで定められた定年年齢を「廃止するか、引き上げるか」という点であり、どちらの措置も正社員といった雇用形態はそのまま継続されます。定年延長のメリットは、定年廃止と同じで、会社として長く働いてほしい高齢社員を定年年齢まで継続して雇用できることや、すべての高齢社員に対して定年年齢まで安定した雇用を保障することで、本人の安心感を高められることなどです。一方、デメリットは、労働条件の変更がむずかしいことや、定年延長を望まない高齢社員もいることなどです。  最後の継続雇用制度は、定年に達した正社員を本人が希望すれば引き続き雇用する制度です。定年廃止や定年延長との違いについて、多くの企業で導入している代表的な継続雇用制度である再雇用制度を例にあげると、定年廃止と定年延長は雇用形態を継続するのに対して、再雇用制度は定年に達した者(正社員)をいったん退職させ、契約社員、嘱託社員などの雇用形態により再び雇用する点にあります※2。継続雇用制度のメリットは、定年前後で労働条件の変更が比較的やりやすいことや、定年というラインを引くことで、一人ひとりに緊張感を持たせ、意識転換を図ることができることなどです。一方、デメリットは、定年前後で労働条件を大きく引き下げると高齢社員の意欲低下につながるおそれがあることや、長く会社に勤めてほしい高齢社員であっても継続雇用の労働条件が折り合わず、定年時点で退職するおそれがあることなどです。 「高齢社員に期待する役割」をあらためて確認する  では、読者のみなさまが会社の高齢者雇用制度を見直すうえでは、どのように整備・拡充すればよいのでしょうか。高齢法をふまえた一般的な制度というと、65歳定年制、70歳までの継続雇用制度となりますが、すべての会社にとってそれが適切な形というわけではありません。詳しくは解説1であらためて述べますが、高齢者雇用の個別施策は会社の経営戦略・方針に基づいて策定される高齢社員活用の基本方針、つまり、会社の経営成果に貢献してもらうために高齢社員に期待する役割に沿って展開されるからです。そのため、まずは会社として高齢社員に期待する役割(例えば、これまで通り職場で正社員と同じように活躍してもらう、正社員をサポート・支援する役割をになってもらう、あるいはこれまでつちかった技術・技能、ノウハウなどを活かして後進の指導・育成の役割をになってもらうなど)をあらためて確認し、それをもとに高齢社員の就労ニーズをふまえて高齢者雇用制度を考えることが求められます。 ※1 厚生労働省「就労条件総合調査結果の概況」(令和4年)によると、「定年制を定めている」企業は94.4%、そのうち定年年齢を一律「60歳」とする企業は72.3%。なお、高年齢者雇用安定法では、定年年齢を定める場合、60歳を下回ってはいけないと定めているため、定年制を定めている企業の多くは定年年齢を60歳としている ※2 継続雇用制度には再雇用制度のほかに勤務延長制度がある。同制度は定年に達した者を退職させることなく引き続き雇用する制度 図表 高齢者雇用制度の概要 種類 概要 メリット デメリット 65歳までの高年齢者雇用確保措置実施企業における雇用確保措置の措置率 定年廃止 定年年齢を定めている定年制を廃止 ・会社として長く働いてほしい高齢者を雇用し続けることができる ・全ての高齢者に安定した雇用を保障することで、本人の安心感を高めら れる ・高齢者の退職時期が不定となるため、人員計画が立てにくくなる ・雇用契約終了時のルールなどで問題が起こることがある 3.9% 定年延長 定年年齢を引き上げて、これまでと同じ雇用形態のまま、雇用を継続する仕組み ・会社として長く働いてほしい高齢者を定年年齢まで継続して雇用できる ・全ての高齢者に対して定年年齢まで安定した雇用を保障することで、本人の安心感を高められる ・労働条件の変更がむずかしい ・定年延長を望まない高齢者もいる 31.0% 継続雇用制度 本人が希望すれば定年後も引き続き雇用する「再雇用」等の制度 ・定年前後で労働条件の変更が比較的やりやすい ・定年というラインを引くことで、一人ひとりに緊張感を持たせ、意識転換を図ることができる ・定年前後で労働条件を大きく引き下げると高齢者の意欲低下につながるおそれがある ・労働条件が折り合わず、定年時点で退職するおそれがある 65.1% 出典:JEED「ダイカスト業 高齢者の活躍に向けたガイドライン〜高齢者とともに、働きやすい職場づくり〜」一般社団法人日本ダイカスト協会ダイカスト業高齢者雇用推進委員会(2025)を一部修正。65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施している企業の雇用確保措置率は厚生労働省「令和7年『高年齢者雇用状況等報告』」 【P14-17】 解説1 高齢社員の評価・処遇制度 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 1 高齢者雇用で企業が抱える大きな悩み 〜高齢社員のモチベーションの低下問題  総論で紹介したように、企業の労務構成で高齢社員が大きな集団となっている今日、「高齢社員の戦力的活用」は高齢社員活用の標準的な基本方針として定着しています。マンガのなかで、来年、定年を迎える高齢社員の高洲さんは、上司との面談で提示された再雇用の労働条件において、給料が現在の金額と大きく変わらないことに驚いています。しかしその一方で、上司から引き続き第一線での活躍や若手への指導の役割をになうことを期待されたことでモチベーションを高め、あらためて気を引き締めています。  このように定年後の雇用形態が継続雇用(再雇用)に切り替わったものの、労働条件は大きく変わらず、職場で正社員と一緒に活き活きと活躍している高齢社員の姿が多くの企業でみられます。しかしその一方で、定年前の正社員時代は活き活きと仕事に取り組んでいた社員が、継続雇用に切り替わったことで仕事への取組み意識が下がってしまうといった「高齢社員のモチベーションの低下問題」に悩まされている企業も少なくありません。継続雇用後の仕事内容は定年前とほぼ同じであるにもかかわらず、処遇などが大きく変わることへの不満がその背景にあります。危機感を持った企業は高齢社員のモチベーションの維持・向上を図るために、正社員と同じように仕事の成果や働きぶりに応じて賃金を決める評価・処遇制度への見直しを進めています。企業にとって欠くことのできない重要な戦力となっている高齢社員のモチベーションの維持・向上は、70歳就業時代における高齢者雇用の重要な課題です。解説1では評価・処遇制度の視点からこの課題を考えてみたいと思います。 2 人事管理の基本原則と評価・処遇制度  評価・処遇制度を考えるには、その基盤となる人事管理の基本原則を理解する必要があります。評価・処遇制度は企業の人事管理の個別施策(仕組み)の一分野であり、人事管理は経営方針・戦略に基づいた人材活用の基本方針に沿って整備されているからです(図表1)。さらに、人事管理においては、この基本原則に加えて労働法制を遵守することが求められます。例えば、労働基準法は使用者が法定労働時間を超える時間外労働(残業)や休日労働をさせる場合、労使で「36(サブロク)協定」を締結し、割増賃金を支払うことを義務づけています。こうした労働法制の身近な例として、社会問題となった「2024年問題」があげられます。これは平成期の働き方改革の一環として改正された労働基準法に基づき2024(令和6)年4月1日から建設業・ドライバー・医師などに時間外労働の上限規制が適用されたことによって、物流や地域医療への影響が懸念されている問題です。こうした「労働時間の上限規制」といったテーマは、解説2にもかかわる労働法制に関するものです。  高齢社員の評価・処遇制度についてもこの人事管理の基本原則をあてはめて考えることが必要になります。なかでも、労働法制の観点からは高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)を遵守しつつ、経営方針・戦略に基づいた高齢社員活用の基本方針に沿って高齢社員の評価・処遇制度を整備していくことが求められます。 3 「高齢社員のモチベーションの低下問題」の背景を考える  高齢社員のモチベーションの低下問題の背景を、企業の高齢者雇用に影響を及ぼす国の高齢者雇用政策との関連で考えてみたいと思います。  平成期における国の高齢者雇用政策には大きく二つの動きがみられました。一つめの動きは平成期前半の65歳までの雇用推進です。この時期に3回の高齢法改正が行われました。定年到達者が希望する場合65歳までの再雇用が努力義務化された「1990(平成2)年改正」、60歳定年が義務化された「1994年改正」、そして定年の引上げ等による高年齢者雇用確保措置の努力義務化が企業に課された「2000年改正」です。  こうした政策の推進を受けて、企業は65歳までの雇用推進に向けた人事管理の整備に取り組みました。多くの企業で整備された雇用制度は「60歳定年制+基準該当者の再雇用制度(継続雇用制度)」です。総論で紹介した現在の高齢法とは異なり、当時の高齢法は、65歳までの雇用確保が努力義務であり、再雇用(継続雇用)の対象者に基準を設けることができました。また、当時は高齢社員の人数も少ない状況でした。そのため、高齢社員に対して、仕事の成果を求めない「福祉的雇用」の活用方針がとられ、それに基づいて賃金制度は「全員一律の基本給、昇給なし、定額の賞与」とされていました。また、評価制度については不実施とするか、あるいは継続雇用者用の制度を整備して実施するといった措置がとられていました。  二つめの動きは平成期後半の実質65歳定年制の整備です。2004年に高齢法が改正され、それまで努力義務であった高年齢者雇用確保措置が義務化されました。つまり、定年を迎えた社員が希望すれば、65歳まで働くことができる雇用環境――実質65歳定年制――が整備されました(図表2)。  しかし、このように働く高齢社員が増加した一方で、平成期前半から続く福祉的雇用の活用方針をそのまま維持していた企業は、高齢社員のモチベーションの低下問題に悩まされていました。企業は高齢社員に対して「仕事の成果を求めない」とは伝えていませんが、高齢社員側は継続雇用後の評価・処遇が定年前と変わっていることでそれを認識していました。少子高齢化による労働力人口の減少が予想されるなか、厚生年金の受給開始年齢が引き上げられたこともあり、65歳まで働くことを希望する高齢社員が増えました。その結果、高齢社員が企業の労務構成において大きな集団となったことで、このモチベーションの低下問題は全社的な経営課題となりました。  そこで、企業は活用方針を「福祉的雇用」から定年前の正社員と同じように仕事の成果を求める「戦略的活用」に転換し、それにあわせて高齢社員の人事管理の見直しを進めました。評価・処遇制度では仕事の成果を処遇に反映するよう、基本給は一律定額から定年時の職位・等級などにリンクした水準に見直され、昇給は不支給(なし)から支給(あり)に変更されました。また、賞与は定額から正社員と同じように人事評価を反映した決め方に見直されるとともに、人事評価自体も正社員と同じ仕組みが用いられるようになりました。さらに、70歳までの就業確保措置の努力義務を企業に課す2021年の改正高齢法施行にあわせて65歳定年制の実施と70歳までの継続雇用制度の導入を進める動きがみられます。こうしたなかで、仕事の成果を処遇に反映する評価・処遇制度の仕組みを整備することが、マンガに登場する高洲さんのように、高齢社員のモチベーションの維持・向上につながるのです。 4 求められる70歳就業時代の高齢社員の評価・処遇制度のアップデート  少子高齢化による労働力人口の減少が予想されるなか、企業の戦力としての高齢社員への期待はますます大きくなります。高齢社員の戦略的活用を推進し、高いモチベーションで活き活きと活躍してもらうためには、正社員と同じように企業の戦力として、仕事の成果や働きぶりに応じて賃金を決めることが求められます。つまり、評価・処遇制度のアップデートです。しかし、「仕事の成果や働きぶりに応じて賃金を決める」といっても、70歳まで就業できる評価・処遇制度の仕組みをどのように設計すべきかが問題となります。なぜなら、評価・処遇制度は雇用制度に連動して形成され、しかも、その雇用制度自体も総論で述べたように高齢法に則して多様な選択肢があるからです。選択する雇用制度によって、「仕事の成果や働きぶりに応じて賃金を決める」ための評価・処遇制度の仕組みが異なります。  現在、多くの企業で一般的となっている「60歳定年+希望者全員65歳までの継続雇用」の雇用制度(実質65歳定年制)を例にして考えた場合、まずは65歳以降の雇用制度をどの制度にするかを決めることからはじめます。60歳台前半層に適用している現行の制度(希望者全員65歳までの継続雇用)をそのまま65歳以降にも適用するのか、別の制度にするのか、という点です。さらに、60歳台前半層についても、現行の制度を継続するのか、あるいは別の制度に見直すのかを確認する必要があります。国家公務員の段階的な65歳への定年年齢の引上げなど、65歳定年制導入の動きが加速しているからです。60歳台前半層の雇用制度を見直さず、60歳台後半層の雇用制度を整備するだけでは、近いうちに再び65歳定年制導入を準備することになり、雇用制度の見直しに要する労力が大きくなってしまいます。例えば、「65歳定年制への移行」と「希望者全員70歳までの継続雇用の整備」を同時に実施することで、労力を最小限に抑えることができます。  このように仕事の成果や働きぶりに応じた評価・処遇制度の仕組みを設計する際には、まず70歳まで就業できる雇用制度の基本設計(どの制度にするか)を決めたうえで進めることが重要です。そして、具体的な制度設計の際には、2026年10月に施行される改正同一労働同一賃金ガイドラインをふまえて取り組むことが求められます。  こうした高齢社員のモチベーションの維持・向上を図る評価・処遇制度の事例としてA社の取組みを紹介します。この事例の特徴は、年齢ではなく仕事の責任による評価・処遇制度を正規・非正規にかかわらず全従業員に適用している点です。 事例1 全従業員の処遇を年齢ではなく仕事の責任で決める役割等級制度を導入(社会保険・社会福祉・介護事業A社)  県中心部に高齢者向け複合施設を運営する社会保険・社会福祉・介護事業A社は、同社の主力として活躍しているシニア従業員が安心して長く働ける環境を整備するため、2021年に現行の雇用制度(定年年齢65歳、雇用上限年齢なしの基準該当者の継続雇用制度)を見直し、定年年齢を70歳に引き上げました。また、処遇については役割責任行動(顧客重視、業務遂行、チームワーク、関係構築・問題解決、成長の5項目)による役割等級制度を正規・非正規にかかわらず全従業員に適用し、再雇用後も人事評価によって賞与が決められています。 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2026)『70歳雇用推進事例集2026』 図表1 人事管理の基本原則と高齢社員の人事管理のとらえ方 【人事管理の基本原則】 経営方針・戦略 《人事管理》 人材活用の基本方針 個別施策 (評価・処遇制度等) 労働法制 【高齢社員の人事管理のとらえ方】 経営方針・戦略 《人事管理》 高齢社員活用の基本方針 個別施策 (評価・処遇制度等) 労働法制 (高齢法等) ※筆者作成 図表2 国の高齢者雇用政策と企業の評価・処遇制度の対応 平成期 前半 後半 国の高齢者雇用政策 65歳までの雇用確保の努力義務化 65歳までの雇用確保の義務化 企業の対応 雇用の基本方針 65歳雇用の推進 実質65歳定年制の整備 高齢社員の活用方針 福祉的雇用 戦略的活用への転換 賃金・評価制度 ・基本給:全員一律(昇給なし) ・賞与:定額 ・評価:不実施、もしくは実施(継続雇用者用) ・基本給:職位・等級等リンク(昇給あり) ・賞与:人事評価反映 ・評価:実施(正社員準拠) ※筆者作成 【P18-21】 解説2 高齢社員の多様で柔軟な勤務制度 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 1 進む勤務制度の柔軟化と働き方の多様化  働き手の確保がむずかしさを増すなかで、社員のライフスタイルの変化に対応した多様な働き方の整備を進めている企業が増えています。解説2のテーマである「勤務制度」は働き方の土台となる制度です。マンガの会社では、フルタイム勤務のほかに短時間勤務が整備されており、定年後継続雇用となっている高齢社員の浜田さんが、お孫さんのお迎えのためにこれを利用して仕事を続けています。高齢社員の戦略的活用を進めている企業がとる継続雇用の高齢者の働き方は、定年前の正社員と同じフルタイム勤務を基本としています。もし、マンガの会社の勤務制度がフルタイム勤務のみのままであったなら、高齢社員の浜田さんは仕事を続けながら、お孫さんのお迎えをするのがむずかしい状況となっていたことでしょう。  こうした勤務制度の変化(柔軟化・多様化)は平成期に入ってからみられる動きです。解説2では平成期以降に進められた勤務制度の変化の動きと、そのもとでの高齢社員の勤務制度をふり返り、令和期の働き方を考えてみたいと思います。 2 勤務制度の基本ルール 〜労働基準法  まず勤務制度の基本ルールの確認からはじめます。正社員の勤務制度は「1日8時間、週休2日制」というのが読者の一般的な認識ではないでしょうか。これは労働基準法(第32、35条)の「1週間の労働時間の上限を40時間とすること」、「1日の労働時間は8時間を超えないこと」、そして「休日を1週に1日以上与えること」をもとにしています。これらの労働時間を「法定労働時間」、休日を「法定休日」とそれぞれ呼んでいます。「1日8時間、週休2日制」は1日の労働時間を「8時間」とした場合の勤務制度※1で、フルタイム勤務はこの働き方をさしています。  この法定労働時間の枠のなかで、企業は自社の労働時間を自由に定めることができ、定めた労働時間は「所定内労働時間」と呼ばれます(図表1)。企業は自社の所定内労働時間を6時間や7時間のように、法定労働時間の上限より短く設定することができるものの、ほとんどの企業が1日の労働時間を「8時間」としています。法定労働時間の枠のなかでもっとも長く設定できる時間だからです。さらに、「1日8時間」の労働時間についても、企業は始業時刻と終業時刻を定めています。こうした労働時間制度を「一般的な労働時間制度」と呼ぶことにします。  このように1日8時間、週休2日制の「フルタイム勤務」を基本とし、会社が始業・終業時刻を定める「一般的な労働時間制度」が、多くの企業でとられている標準的な働き方です。 3 平成期以降の勤務制度の変化の動き 〜「柔軟化」とそれにともなう働き方の「多様化」  こうした勤務制度は昭和期を通して形成され、標準的な勤務制度となりました。しかし、平成期になると勤務制度に変化の動きがみられました。その動きの特徴は勤務制度の「柔軟化」です。図表2(20ページ)はその概要を整理したものです。大きく三つの変化がみられました。  第一の動きは、平成期前半の「労働時間制度」の柔軟化です。先に述べた「1日8時間、週休2日制」は、1987(昭和62)年の労働基準法改正によって、週48時間であった法定労働時間が週40時間に段階的に変更されたことがベースになっています。さらに、この改正では法定労働時間の短縮とともに、労働者の生活の質的向上を図るために、フレックスタイム制などの変形労働時間制の導入が進められ、労働時間の柔軟化への動きが始まりました。平成期に入ると経済活動のグローバル化やIT化の進展に加え、労働者の就業意識の変化もみられました。  こうした時代の変化に対応した労働時間などの働き方に関するルールの整備が求められるなか、1993(平成5)年の労働基準法改正では、週40時間労働時間制の実施、変形労働時間制の拡充、裁量労働制の規定の整備などが行われました。さらに、1998年改正では企画業務型裁量労働制の導入が、2003年改正では裁量労働制の改正がそれぞれ行われました。こうした一連の法改正を受けて、平成期前半ではフレックスタイム制、変形労働時間制度、裁量労働制の導入などによる労働時間制度の柔軟化が進められました。  この時期の継続雇用後の高齢社員の勤務制度 は、短時間・短日勤務などが中心でした。「福祉的雇用」の基本方針のもと、高齢社員に求められる役割が正社員時代の「企業の中核人材として基幹業務をになう役割」から、「パート社員と同じように補助業務を担当して正社員を支援・サポートする役割」に変わったためです。  第二の動きは平成期後半の「労働時間・労働日数」の柔軟化です。政府が取り組む働き方改革の一環として推進されている「多様な正社員制度」のなかの「短時間正社員」の導入が進められました※2。企業は正社員に対して原則としてフルタイム勤務を求めていますが、短時間正社員制度は、育児や介護と仕事を両立したい社員をはじめ、さまざまな人材に勤務時間や勤務日数をフルタイム勤務の正社員よりも短縮したうえで活躍してもらうための仕組みです。  この時期の高齢社員の働き方は、戦略的活用が進むなかで求められる役割が正社員に近い役割(基幹業務をになう役割)に変わったため、平成期前半の短時間・短日勤務中心から正社員と同じフルタイム勤務中心へと移行しました。もちろん、企業は引き続き短時間・短日勤務を選択できるようにしていますが、高齢社員を貴重な戦力として期待しているため、フルタイム勤務を彼ら・彼女らに求めています。マンガの会社は高齢社員の戦略的活用だけではなく、働き方の多様化(フルタイム勤務と短時間勤務)も進めています。継続雇用の高齢社員が短時間勤務を選択し、お孫さんのお迎えなどプライベートの時間を充実させることでウェルビーイングが向上し、仕事にプラスの影響が出ているのです。  第三の動きは、「働く場所」の柔軟化です。平成期の勤務制度の変化が勤務する「時間」の柔軟化であったのに対し、令和期は「場所」の柔軟化が特徴です。デジタル化の進展にともない、新しい働き方である在宅勤務(テレワーク)が情報サービス業や、裁量労働制の社員などを中心に導入されていましたが、コロナ禍を契機に産業全体へと普及しました。現在では育児や介護などのライフスタイルの多様化に対応する働き方として定着しています。ただし、マンガに登場する美浜さんの会社のようにホワイトカラーの職場であれば、在宅勤務を利用することができますが、製造部門の職場ではむずかしいのが実情です。製造部門の仕事は、会社(工場)に出社しなければできない特性があるからです。  以上のように平成期以降に進められた勤務制度の変化(柔軟化)により、これまでの一般的な労働時間制度によるフルタイム勤務や出社勤務を基本とする働き方が見直され、多様化が進みました。 4 高齢社員にとっての多様で柔軟な勤務制度とは?〜多様化する社員集団のなかで  このように勤務制度の柔軟化とそれにともなう働き方の多様化の背景には、労務構成と就業意識の多様化があります。伝統的な勤務制度(一般的な労働時間制度、フルタイム勤務、出社勤務)は戦後に労働基準法が制定された当時の、昭和期の労働者に適合するように形成されました。当時は製造業務に従事する正規労働者の男性が中心で、同質性の高い労務構成でした。時代が昭和期から平成期、そして令和期へと変遷するにしたがい、事務・技術系の正規労働者(ホワイトカラー)の拡大、女性の社会進出と増加、非正規労働者の拡大など、労務構成は変化しました。高齢者の増加もその変化の一つです。労務構成の多様化にあわせて労働者の就労意識やニーズ、そしてライフスタイルも変化し、勤務制度はこうした動きに対応すべくアップデート(柔軟化)してきました。  人口減少のもとでの少子高齢化にともない、今後は高齢者が労務構成の中心になることが予想されるため、総論で述べたように企業は高齢社員の戦略的活用を推進することが求められます。多様で柔軟な勤務制度の取組みは、病気の治療や家族の介護などライフスタイルが多様化する高齢社員にとっても、会社にとっても好ましい動き(アップデート)です。高齢社員は家庭の事情で退職せずに働き続けることができますし、人手不足に悩まされている会社としても経験やスキルを持つ戦力(高齢社員)を失わずにすみます。  また、こうした多様で柔軟な働き方を求めるニーズは高齢社員にかぎったものではありません。フルタイム勤務をしている正社員のなかにも、育児や親の介護、本人の病気治療といった健康上の問題など、さまざまな事情を抱えている人がいます。多様で柔軟な働き方を実現できる勤務制度は高齢社員のみならず、すべての社員に広く適用することが求められます。  こうした多様で柔軟な働き方を可能にする勤務制度の事例として、警備業B社の取組みを紹介します。この事例の特徴は、高齢社員をはじめとする社員の事情にあわせて柔軟な勤務体制を整備している点です。 事例2 短日勤務による無理のない柔軟な勤務体制 (警備業B社)  小売業の親会社が展開する店舗の店内保安警備や店舗駐車場警備をになう警備業B社は、警備業務の社員が自身のライフプランにあった働き方を選択できる柔軟な勤務体制を整備しています。具体的には、1日の所定労働時間は8時間を基本とし、勤務日数は週2〜5日の選択制としています。1カ月ごとのシフト制をとり、ITを活用したシフト管理を行っています。こうした公平なシフト管理による柔軟な勤務体制により、社員が家事、孫の世話、配偶者・親などの介護・通院といった予定行事や、自分の生活を重視することができ、長期にわたり働き続けることができる環境が整えられています。 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2026)『70歳雇用推進事例集2026』を一部修正。 ※1 なお、同法ではこの原則を法定の条件内で変更できることを認めており、「変形労働時間制」と呼ばれている ※2 多様な正社員制度には、短時間正社員のほかに、担当する職務内容が限定されている「職務限定正社員」、転勤範囲が限定されたり、転居をともなう転勤がなかったりする「勤務地限定正社員」の二つのタイプがある 図表1 法定労働時間と所定内労働時間 法定労働時間 国が定める上限労働時間 所定内労働時間 法定労働時間をもとに企業が定める標準労働時間 ※筆者作成 図表2 平成期以降の勤務制度の柔軟化の取組み 平成期前半 平成期後半 令和期 取組み内容 概要 「労働時間制度」の柔軟化 「労働時間・労働日数」の柔軟化 「働く場所」の柔軟化 主な内容 変形労働時間制、フレックスタイム制、みなし労働時間制、裁量労働制の整備・拡充 短時間・短日勤務(短時間正社員制度) 在宅勤務 伝統的な施策 一般的な労働時間制度 フルタイム勤務 出社勤務 高齢社員 活用の基本方針 福祉的雇用 戦略的活用 戦略的活用 働き方 短時間・短日勤務中心 フルタイム勤務中心 フルタイム勤務中心 ※筆者作成 【P22-25】 解説3 高齢社員の転倒防止策〜職場環境改善と健康保持増進の推進を含んで 株式会社健康企業 代表・医師 亀田(かめだ)高志(たかし) 1 はじめに  2026(令和8)年4月から改正労働安全衛生法が施行され、高齢社員の転倒災害などの労災防止対策が事業者の努力義務となりました。これまで事業者の義務にはあたらないガイドラインのレベルだった作業環境と作業内容の両面の法的要求が強化されています。例えば、高齢社員が就業中に転倒して骨折などを起こした事案に対して労働基準監督署から人事担当者としても指導を受ける可能性が出てきました。  増加する高齢社員の転倒などの労働災害には加齢現象にともなう心身の機能低下が影響しています。若い新任人事担当者の方には、加齢現象の影響する労災事故は避けがたいなど、ある種の自己責任にみえるかもしれません。  本稿では典型的な問題として転んでけがを負う転倒災害に焦点をあてて、新任の人事担当者としてかかわる具体策を解説します。人事担当者としてさまざまな人事労務問題を経験していくことを考慮し、安全衛生管理や法的要求となった事項とともに、対策の基本的な要素と実効性を妨げる働く人にありがちな傾向、側面まで紹介します。 2 人事担当者が高齢社員の労災防止に取り組む背景  労働災害防止対策と聞くと現場での対応は安全管理の範疇と考えて、人事部門の職務ではないと考えてしまうかもしれません。前述の改正法の施行に先立ち、2026年2月に職場での具体的な対策の内容を示し、労働基準監督署の指導の根拠となる「高年齢者の労働災害防止のための指針」が公表されました※1。そのなかでは以下の二つが強調されています。 @高年齢者労働災害防止対策を担当する組織としては、(中略)業種又は事業場の規模によっては、人事労務管理部門等が担当することも考えられること。 A(高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応→個々の高年齢者の健康や体力の状況をふまえた措置として)業務の軽減等の就業上の措置を実施する場合は、(中略)また、健康管理部門と人事労務管理部門との連携にも留意すること。  人事労務管理部門の職務の多くは、労働基準法などの法令に従った対応かと思います。同様に高齢社員の労災防止対策も人事担当者として主体的にかかわる法的要求の一つであることを理解する必要があります。  そのうえで考えておく必要があるのが、自職場で高齢社員の労働災害が発生した場合のことです。休業4日以上の場合、義務化された電子申請にて、遅滞なく労働基準監督署に報告書を提出しなければなりません。業務上の傷病に対して、事業主は労働基準法により補償責任を負っています。休業4日以上では労災保険から、給付基礎日額の80%が支給されますが、休業3日までは給付基礎日額の60%を事業主が支払うこととされています。これらの対応も人事担当者の職務です。障害が残ったケース、長期の休職となったケース、退職を余儀なくされるケースでも人事担当者が対応することになります。万が一、民法に基づく損害賠償を求める訴訟に発展すると法務部門と連携した対応を求められるでしょう。休業の段階から現場では欠員が生じますから、監督者、職長と対話しながら、要員の採用、確保、他部署からの異動も人事担当者が関与することになります。  以上のことから、人事担当者として日ごろから労働災害全般、特に増加する高齢社員の転倒災害などを防止する動機と関心を高めておく必要があります。 3 転倒災害が起きるメカニズムと背景 @特に女性で増加する転倒災害  基本的なことですが、高いところから地面に向かって落ちることを「墜落」、階段状のところを転がり落ちていくことを「転落」、同じ高さの平面で転ぶことを「転倒」と呼びます。これらの労働災害は過去には製造業や建設業など、いわゆる現場、現業での発生が課題でした。こうした業種で発生する「墜落」や「転落」といった労働災害の傾向は大きくは変わっていません。  一方で国内ではいわゆる第二次産業の製造業中心から第三次産業へとシフトしてきました。製造業に従事する人は減少し続け、反対にサービス業などに従事する労働者が増加しています。並行して、働く人の高年齢化が進行してきましたが、労災防止対策で注目されるのが、これまで危険とはあまり考えられなかったスーパーマーケット、飲食店、介護施設などで働く女性の転倒災害です。  厚生労働省が2025年5月末に公表し、修正を加えた「令和6年労働災害発生状況」によると※2、事故の型別・年齢階層別・男女別の度数率(=100万延べ実労働時間当たりの労働災害による休業4日以上の死傷者数)において、女性の場合、60歳以上(平均1.70)では20代(平均0.09)の約19.5倍へと極端に増加します。「墜落」や「転落」が多い男性では60歳以上(平均0.48)では20代(平均0.13)の約3.6倍に留まっていることと対照的です。 A転倒したときに負う骨折と大きな影響  読者のみなさんは日常生活で何かにつまずいたり、滑ったりしたことがありますか? 転倒災害の典型例ではつまずいたり、滑ったりした後に転んでけがをします。若い方や中高年齢で身体を鍛えている方はつまずいても、あるいは滑っても踏ん張り、バランスを保って転ばずにすみます。転びかけた段階で反射的に手が出て、手のひらの擦り傷だけで終わります。  けれども高年齢で身体機能が低下している場合や、特に女性で骨が脆(もろ)くなる骨粗しょう症になっている場合は、転倒は、骨折などの大きなけがを負うハイリスクとなります。具体的なけがの様子は以下のようになります。 ・手を出したものの手首の骨を折ってしまう。(例:橈骨遠位端(とうこつえんいたん)骨折) ・膝を強打し、膝の皿が割れてしまう。(例:膝蓋骨(しつがいこつ)骨折) ・足首が内側ないし外側に曲がって、関節あたりの骨折を起こす。捻挫をともなっていることも少なくない。(例:腓骨(ひこつ)骨折および足そく関節靭帯損傷(かんせつじんたいそんしょう)) ・転んだ際に股関節の骨折を起こす。(例:大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)骨折、大腿骨転子部(だいたいこつてんしぶ)骨折)  骨折は強い痛みをともなうだけでなく、大腿骨頸部骨折では出血多量で命の危険をともなうケースもあります。仕事だけでなく通勤や家事もできない状態が数カ月続くことになります。股関節の骨折ではいわゆる“寝たきり”になるリスクもあり、そのようなケースではリハビリテーションが必要になる事例が多いです。単身の場合には入院、通院とともに日常生活の困難に直面し、給与や賞与にも影響し、経済的な困窮に追い込まれるケースすらあります。 4 対策の基本となる五つの要素と課題への対応 @基礎となる体制と仕組み  厚生労働省が進める安全衛生管理、健康管理の施策は労災事故や心身の健康課題にかかわらず、以下の五つの要素で推進することが求められており、これらを継続的に実行することで高齢社員の転倒災害などを防止していくことが可能です。 (A)事業場のトップによる高齢社員への対策の方針表明と安全管理者、衛生管理産業医などの選任や安全委員会、衛生委員会ないし安全衛生委員会における労使で協調する安全衛生管理体制の整備と確実な運営。 (B)職場環境の改善として、コストや労力をかけて施設、設備、装置のハード面の改良を行うことと、ソフト面から加齢にともなう筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能、認知機能の低下などを考慮した現場で工夫できる作業の内容や仕方の見直し(例えば、22ページのマンガにある転倒災害を防止するコードカバーによる職場環境の改善など)。 (C)定期健康診断を通じて、体調、病気の有無などの健康状態を把握すること。またけがのないように気をつけながら、足の筋力、バランス能力、敏捷性などの体力チェックを行う。 (D)生活習慣病などで、例えば熱中症のリスクがあれば暑熱環境での作業は避けるなどの就業上の措置を行う。加齢にともなって増加するがんなどの私傷病の治療と就業の両立を支援する。体力チェックの結果をもとに産業医、保健師などの協力を得て、高齢社員全体と一人ひとりの両方に運動習慣をすすめていくなどの健康増進活動を推進する。 (E)高齢社員に対して、安全衛生と健康管理の両面の啓発を行う。また年上の部下を持つ管理監督者に高齢社員に特有な特性とそれに即した安全衛生対策に関する教育を定期的に実施する。 A人事担当者として現実的な課題を理解する  転倒災害などに通じる典型的な機能低下には視力と聴力の低下があります。視力低下は一般に「老眼」と呼称され、「老い」のイメージから認めることを嫌がるシニア層がいます。“若見え”がビジネスとして成立する令和の時代、近眼などがなく眼鏡をかけてこなかった中高年層の人では老眼鏡をつくりたがらず、つくってもかけようとしないこともあります。  同じく加齢にともなう難聴は、日常生活に支障が出ないように早めに補聴器をつくって、その使用に慣れていくことが望ましいです。けれども補聴器をつくることで障害があるように見えるのが嫌とか、老けたように見られたくないという理由から拒む人が多いのです。難聴は高齢者の心と身体、そして社会的なつながりを衰えさせ、「フレイル」と老年医学、老人医療の専門家が名づけた“虚弱の進行”を加速させます。  このような背景から、シニア層の方から目が見えにくいこと、特に夕方になるとその傾向が強いこと、耳が聞こえにくいこと、とりわけ高いサイレンなどの音が聞きづらいことを自ら説明してくれる場合は少ないのです。同じように転倒のしやすさを自覚して、自ら申告してくれるシニア層の方は稀です。定期健康診断で受診をすすめられたいわゆるメタボを放置しているうちに脳卒中や心臓発作を起こすケースに似て、転倒でけがをする人は骨折に直面して初めて、心身の機能低下を自覚する傾向があります。  現場とともに自宅でも利用する脚立の使用も同じです。脚立の危険性が啓発され正しい使い方は発信されていますが、重傷事故がしばしば発生しています。  年功序列の習慣の強かった日本の職場では、高齢社員となった元上司、元先輩を疎ましく感じる傾向も見受けられます。それが高じると高齢者差別、英語でいうエイジズム、日本的ないい回しではエイジハラスメントにつながることがあります。がんばってきた職場で役職を解かれ、報酬の減ってしまう高齢社員は孤立と孤独に直面し、ベテランであってもメンタルヘルス不調に陥るケースが増加しています。 B高齢社員が中心になる職場の持続的な運営を目的に  新任であっても人事担当者が考えなければならないのは、社員の年齢構成です。多くの職場ではいわゆる就職氷河期の影響で中間層が少なく、若手の採用もむずかしい一方、50歳以上の社員が多い傾向があります。企業などでは65歳までの雇用確保義務と70歳までの就業機会の確保の努力義務があり、将来的に高齢社員の割合がさらに増えていくことでしょう。  加齢現象は成人して以降、すべての人が経験していくことです。病気が増えることも他人ごとではなく、70歳まで働いた場合に男女とも5人に1人ががんと診断されます※3。生涯のなかで腰痛を患う人は8割以上※4、糖尿病はいわゆる予備軍を含め2000万人以上※5、慢性腎臓病(CKD)は成人の5〜8人に一人とされています※6。  今後は、加齢にともなう心身の機能低下や病気を申告できるムードを職場で醸成し続けていくことを謳い、その方針の浸透を人事担当者として心がけることが肝要となります。先輩方の機能低下とご病気を「自分ごととしてとらえましょう!」、「お互いさまと考えましょう!」と啓発することが可能です。  上場企業を中心に、人材をコストととらえる「人的資源管理」から投資の対象と位置づける「人的資本経営」に方向性がシフトしています。各企業などの存続を支える人事担当者の役割は大きく、高齢社員の労働災害などの防止に積極的に関与することが大切なのです。 ※1 「高年齢者の労働災害防止のための指針」は、以下のホームページでご覧になれます。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00010.html ※2 「令和6年における労働災害発生状況(確定値)」は、以下のホームページでご覧になれます。 https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001543319.pdf ※3 国立研究開発法人国立がん研究センター「がん情報サービス グラフデータベース」より筆者が抽出 ※4 松平浩ほか(2015)「日本人勤労者を対象とした腰痛疫学研究」『日本職業・災害医学会会誌』63巻6号 ※5 一般社団法人日本糖尿病学会・公益社団法人日本糖尿病協会2019年11月8日プレスリリース「日本糖尿病学会・日本糖尿病協会 アドボカシー委員会設立〜糖尿病であることを隠さずにいられる社会づくりを目指して〜」より ※6 一般社団法人日本腎臓学会ホームページ(https://jsn.or.jp/general/kidneydisease/symptoms04.php)およびNPO法人日本腎臓病協会ホームページ(https://j-ka.or.jp/ckd/)より 【P26-28】 助成金 65歳超雇用推進助成金について 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)高齢者助成部  「65歳超雇用推進助成金」は、65歳以上への定年引上げ等を行う事業主、高年齢者の雇用管理制度の整備を行う事業主、高年齢の有期契約労働者を無期雇用に転換する事業主に対して、国の予算の範囲内で助成するものであり、「生涯現役社会」の構築に向けて、高年齢者の就労機会の確保および雇用の安定を図ることを目的としています。  共通の要件は、雇用保険適用事業所の事業主であること、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条、第9条第1項の規定と異なる定めをしていないこととなります。  この助成金は次のT〜Vのコースがあります。 T 65歳超継続雇用促進コース  このコースは、支給要件を満たす事業主が、次の@〜Cのいずれかを就業規則等に規定し、実施した場合に受給することができます。 @65歳以上への定年の引上げ A定年の定めの廃止 B66歳以上への継続雇用制度の導入 C他社による継続雇用制度の導入 ◆おもな支給要件 @労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引き上げること A改正前後の就業規則を労働基準監督署等へ届け出ること B1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること C高年齢者雇用等推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 ※1 高年齢者雇用管理に関する措置とは、55歳以上の高年齢者を対象とした、次のいずれかに該当するもの (a)職業能力の開発および向上のための教育訓練の実施等 (b)作業施設・方法の改善 (c)健康管理、安全衛生の配慮 (d)職域の拡大 (e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進 (f)賃金体系の見直し (g)勤務時間制度の弾力化 ◆支給額  実施した制度、引き上げた年数、対象被保険者数に応じて図表1・2(28ページ)の額を支給します。 U 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  このコースは、支給要件を満たす事業主が、高年齢者の雇用の推進を図るために雇用管理制度(賃金制度、健康管理制度等)の整備にかかる措置を実施した場合に、措置に応じて一定額を助成します(28ページ図表3)。  なお、あらかじめ雇用管理整備計画書を提出し、認定されていることが必要です。 ◆支給対象となるおもな措置(※2)の内容 @高年齢者にかかる賃金、人事処遇制度の導入・改善 A労働時間制度・在宅勤務制度・研修制度・健康管理制度の導入・改善 ※2 措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要 ◆支給額  実施した雇用管理制度の措置に応じて、図表3(28ページ)の額を支給します。 V 高年齢者無期雇用転換コース  このコースは、支給要件を満たす事業主が、50歳以上で定年年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用転換制度に基づき、無期雇用労働者に転換させた場合に、対象者数に応じて一定額を助成します。  なお、あらかじめ無期雇用転換計画書を提出し、認定されていることが必要です。 ◆おもな支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置(26ページ※1)を1つ以上実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分(勤務した日数が11日未満の場合は除く)の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと ◆支給額  対象労働者1人につき40万円(中小企業以外は30万円)を支給します。 助成金の詳細について  助成金の支給要件等の詳細は、JEEDホームページをご確認ください。  また、JEEDホームページから、各コースの申請様式や支給申請の手引きをダウンロードできます。そのほか、制度説明の動画も掲載しています。  助成金に関するお問合せや申請は、JEEDの各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課、連絡先は本誌65ページ)までお願いします。 助成金の詳細はこちらからご確認ください。 JEEDホームページ「助成金」 https://www.jeed.go.jp/elderly/subsidy/index.html いつでも、どこでも助成金の電子申請 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)に申請いただいている65歳超雇用推進助成金が、e-Gov電子申請を利用して申請できます。 電子申請って? 現在、紙によって行われている申請などの行政手続を、インターネットを利用して自宅や会社のパソコンを使って行えるようにするものです。 e-Govって? デジタル庁がインターネット上で運営する行政サービスの総合窓口です。状況・分野・所管行政機関の条件から手続を探して、行政手続の申請・届出を行うことができます。 電子申請のメリットは? ●24時間365日いつでも手続ができます。(申請期限があります) ●インターネット経由でどこからでも申請できます。 ●手続きはマイページで管理され、処理状況や通知等を確認できます。 図表1 65歳超継続雇用促進コース【定年の引上げまたは定年の廃止、66歳以上への継続雇用制度の導入】 措置内容(引上げ年齢) 60歳以上被保険者数 定年引上げまたは定年の定めの廃止 66歳以上の継続雇用制度の導入 65歳 66〜69歳 5歳未満 5歳以上 70歳以上への引上げ 定年の定めの廃止 66〜69歳 希望者全員 対象者基準あり 70歳以上 希望者全員 対象者基準あり 1〜3人 15万円 25万円 40万円 45万円 60万円 22万円 20万円 40万円 36万円 4〜6人 20万円 32万円 65万円 70万円 120万円 37万円 32万円 65万円 60万円 7〜9人 25万円 39万円 110万円 115万円 180万円 60万円 50万円 105万円 95万円 10人以上 30万円 46万円 135万円 140万円 240万円 90万円 75万円 130万円 120万円 図表2 65歳超継続雇用促進コース【他社による継続雇用制度の導入】 措置内容(引上げ年齢) 60歳以上被保険者数 他社による継続雇用制度の導入 66〜69歳 希望者全員 対象者基準あり 70歳以上 希望者全員 対象者基準あり 1〜3人 20万円 16万円 32万円 30万円 4〜6人 30万円 26万円 50万円 45万円 7〜9人 50万円 40万円 85万円 75万円 10人以上 70万円 60万円 105万円 100万円 ●実施した制度、引き上げた年数、対象被保険者数に応じて定額が助成されます ●複数の取組みを実施した場合であっても支給額はいずれか高い額のみとなります 図表3 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース 認定された雇用管理整備計画に基づき高年齢者雇用管理整備措置を実施した場合の、当該措置の実施および実施にともない必要となる機器等の導入に要した経費を支給します 高年齢者雇用管理整備措置の種類 助成額 1 高年齢者にかかる賃金・人事処遇制度の導入・改善★1 60万円(中小企業以外は45万円) 2 労働時間制度の導入・改善 在宅勤務制度の導入・改善 研修制度の導入・改善★2 健康管理制度の導入 30万円(中小企業以外は23万円) 3 雇用管理制度の整備にともなう機器等導入 1〜2の措置導入経費(上限50万円)×60%(中小企業以外は45%) ★1 高年齢者向けの専門職制度等、高年齢者に適切な役割を付与する制度を含む ★2 高齢期における職業生活設計のために必要な情報の提供や助言を行う研修を含む 【P29】 その他の助成金 高齢者雇用促進等のためのその他の助成金・補助金編集部  当機構(JEED)の「65歳超雇用推進助成金」のほかにも、「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)、(中高年層安定雇用支援コース)」、「エイジフレンドリー補助金」などがあります。「特定求職者雇用開発助成金」については、各都道府県労働局やハローワークが、「エイジフレンドリー補助金」については、一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会(2026〈令和8〉年度補助事業者)が、支給窓口となります。 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)  高齢者や障害者などの就職困難者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に支給されます。この助成金の対象となる高齢者は、60歳以上で、ハローワーク等で就労に向けた個別支援を受けている方です。  高齢者を雇い入れた場合の助成対象期間は1年間で、支給対象期(6カ月間)ごとに支給されます。  高年齢者(60歳以上)の場合、支給額は「短時間労働者以外」(1週間の所定労働時間が30時間以上)と「短時間労働者」(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の者)で異なり、中小企業が短時間労働者以外を雇用する場合、60万円を2期に分けて30万円ずつ(中小企業以外は50万円を2期に分け25万円ずつ)支給されます。  中小企業が短時間労働者を雇用する場合は、40万円を2期に分け20万円ずつ(中小企業以外は30万円を2期に分けて15万円ずつ)支給されます。 特定求職者雇用開発助成金(中高年層安定雇用支援コース)  いわゆる就職氷河期世代を含む35歳〜60歳未満の中高年層のうち、就職の機会を逃したなどにより十分なキャリア形成がなされなかったために、正規雇用労働者としての就職が困難な方を、ハローワークなどの紹介により正規雇用労働者として雇い入れる事業主に支給されます。  対象となる労働者は、正規雇用労働者として雇用されることを希望しており、雇入れの日の前日から起算して過去5年間に正規雇用労働者として雇用された通算期間が1年以下で、過去1年間に正規雇用労働者として雇用されたことがない方で、かつハローワーク等において就労に向けた個別支援を受けている方となります。  支給額は、中小企業の場合は60万円を2期に分けて30万円ずつ(中小企業以外は50万円を2期に分けて25万円ずつ)となります。 エイジフレンドリー補助金※  高年齢労働者の労働災害防止のための設備改善や、専門家による指導を受けるための経費の一部を補助します。1年以上事業を実施しており、役員を除き自社の労災保険適用の高年齢労働者(60歳以上)が常時1名以上就労している中小企業が対象です。  労働安全衛生にかかる専門家によるリスクアセスメントの実施(第1段階)、およびリスクアセスメントの結果をふまえた各種取組み(第2段階)に要する経費の一部を補助する「専門家総合対策コース」、暑熱な環境による熱中症予防対策として身体機能の低下を補う装置・装備の導入に要する経費の一部を補助する「熱中症対策コース」、コラボヘルス等の労働者の健康保持増進のための取組みに要する経費の一部を補助する「コラボヘルスコース」があります。 ※ 労働安全衛生の専門家を活用したリスクアセスメントの実施申請は、2026(令和8)年8月31日(月)までとなっている。また、予算額に達した場合は、受付期間の途中であっても申請受付が終了する場合がある 【P30-34】 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 安心!頼れる専門家 ―70歳雇用推進プランナー活用術― 第3回 企業診断システム(雇用力評価ツール)を活用しよう! 〈前回のあらすじ〉 社長の指示により、高齢社員が長く働ける職場づくりを推進することになったLDer金属株式会社。JEEDの70歳雇用推進プランナーによるヒアリングが始まった。 ★このマンガに登場する人物、会社等はすべて架空のものです ★前回(2026年6月号)は、JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202606/index.html#page=24 つづく ※1から※3は、JEEDホームページでご覧いただけます ※1 『70歳雇用推進事例集2026』https://www.jeed.go.jp/elderly/data/q2k4vk000000tf3f-att/f41obh0000005ytm.pdf ※2 『高年齢者活躍企業事例サイト』https://www.elder.jeed.go.jp ※3 『エルダー』https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/index.html ※1 ※2 ※3 【P35】 解説 集中連載 マンガで学ぶ高齢者雇用 安心!頼れる専門家 ―70歳雇用推進プランナー活用術― 第3回 企業診断システム(雇用力評価ツール)を活用しよう!  JEEDでは、高齢者雇用に取り組む事業主の方へのさまざまな支援を行っています。その中心として活動をしているのが、「70歳雇用推進プランナー」です。高齢者雇用のプロフェッショナルである70歳雇用推進プランナーが、その知識や経験、実務上のノウハウを活かし、高齢者雇用に悩んでいる事業主のみなさまをサポートしています。 ◆企業診断システム(雇用力評価ツール)とは  企業が高齢者を活用できる力(高齢者雇用力)をどの程度持っているのか、高齢者雇用に上手に取り組んでいる先進企業と比較することにより、自社の高齢者雇用力の強みと弱みを把握し、どの領域から検討を進めるとより効果的であるかを見出すために開発されたものです。  自社の高齢者雇用力レベルを、高齢者を上手に活用している先進企業と、従業員規模・業種・地域別に比較することで、体系別に把握することができます。 ◆5つの領域をレーダーチャートで表示  「活用方針・活用戦略」、「評価・処遇」、「仕事内容・就労条件」、「能力開発・キャリア開発」、「推進体制・風土づくり」の5領域について、それぞれ5 つの設問(計25問)に回答することで、レーダーチャートを用いて視覚的にわかりやすく他社と比較することができます。 活用方針・活用戦略………高齢者活用の戦略を持ち、役割期待を明確にする 評価・処遇…………………働きぶりを評価・処遇し、戦力化を図る 仕事内容・就労条件………多様な働き方や働きやすい環境を整備している 能力開発・キャリア開発…成長機会を提供し、意欲・能力を高めている 推進体制・風土づくり……高齢者活用の体制を整備し、好ましい風土づくりをしている 【P36-37】 文化・福祉ジャーナリスト ア井(さきい)将之(まさゆき) 江戸時代にもあった 「仕事と介護の両立問題」 江戸時代にもあった 〜目からウロコの高齢者介護史〜 第2回 江戸時代の介護休業制度である「看病断(かんびょうことわり)」とは? −日本史の教科書にも載せてほしい、日本が誇れる歴史の1ページ− 江戸時代における「介護休業制度」  現代日本における最先端の福祉制度との印象もある介護休業制度ですが、「じつは江戸時代の武士も介護休業を取得していた!」という話を前回しまして、その一例として「看病御暇(かんびょうおんいとま)申し立て」を受けつけていた秋田藩のケースを取り上げました。これは先進的な事例というわけではなく、同時代の幕藩でも積極的に行われていた制度・施策です。ですので、いまでいうビジネスケアラー(介護と仕事を両立させている人)のような「サムライケアラー」が、当時は数多くいたと考えられます。  じつは江戸幕府がはじまって間もない17世紀前期の段階から、幕府や藩は父母・妻子が病気になった場合に休みを取れるような取決めを定めてはいました。これは幕府・藩によって呼び名が変わるのですが、「看病断(かんびょうことわり)」、「看病願(かんびょうねがい)」、「看病引願(かんびょうびきねがい)」、「看病不参(かんびょうふさん)」などの名称が使われていたようです。  当初の制度においては、申請すればすぐ休暇が取得できるといった規則などは特になかったのですが、1742(寛保2)年に幕府がその内容を大きくブラッシュアップした取決めをあらためて成立させたことで、状況は大きく変わりました。この制度改正によって、父母・妻子の病気の際は無条件かつ即刻で休暇が取得できるようになったのです。祖父母や叔父伯母など親類については、病気の程度やほかに看護人がいないかどうかを吟味したうえで取得が認められました。この幕府の制度設計にならって各藩でも同様の施策が講じられ、申請すればすぐに介護休暇を取れるという仕組みが全国各地で導入されていったわけです。  現代の介護休業制度も、休みを取得できる介護の対象として認められているのは「常時介護を必要とする家族」であって、そこには父母や祖父母のみならず、配偶者や子ども、孫なども含まれます。しかし制度の現実的なあり方として、そこで想定されている介護対象とは……やはり「老親」がメインとなってくるでしょう。江戸時代当時もそのような側面があったようで、当時の日記・記録に、病気になった老親のケアをするために休暇取得の申請をしたというケースが多数見受けられます。前回の渋江(しぶえ)和光(まさみつ)の事例もそうでした。  ちなみに、看病断の制度が強化された1742年当時の江戸幕府の将軍は、ドラマ「暴れん坊将軍」でもおなじみの八代将軍の徳川吉宗(よしむね)です。吉宗とその幕閣は当時、いわゆる「享保(きょうほう)の改革」と呼ばれる幕政改革を推し進めていて、目安箱の設置とそこでの投書がきっかけで決定した小石川養生所(こいしかわようじょうしょ)の設立、さらには町火消の導入など、公共政策的な取組みが多いことでも知られています。その改革期のかなり終わりごろに行われたのが、改正看病断制度の導入であったわけです。悲しいことに(?)、中学校や高校の歴史の教科書において「享保の改革の時期に、現在の介護休業制度に匹敵するような制度が定められた」といったことには、いまのところ、触れられてはいないようです。高齢化が進む現在、こうした制度が江戸時代にもあったという歴史を子どもたちが知ることは、意義深いような気もしますが……。 介護休業と儒教との関係  1742年という時期に看病断の制度が改正された背景要因としては、もちろん吉宗の意向あるいは人柄といったこともあったかもしれませんが、老親介護を想定しているという制度内容をふまえると、当時影響力を強めつつあった儒教の影響も考えられます。  それより少し前の時代になりますが、五代将軍綱吉(つなよし)は「孝」や「忠」の大切さを論じる儒教・朱子学を強く重んじ、幕府における一種の統治理念として掲げました。もともと初代将軍の家康も儒教に対して好感を持っていた側面がありましたが、綱吉は儒教・朱子学を教える学校である聖堂学問所(せいどうがくもんじょ)を1690(元禄3)年に設立するなど、その傾向をさらに強めたわけです。幕府による儒教・朱子学重視の姿勢は、綱吉以降の将軍の代になっても衰えることはなく、幕府のみならず全国の藩でも同様の傾向が広まっていき、藩校のような学校の設立が各地で急増していくようにもなります。  本格的に全国規模で藩校が乱立していくのは1700年代後半からで、改正看病断制度が導入されたのはそこに至る過渡期であり、儒教・朱子学の普及の度合いが高まりつつあった時期と重なります。「孝」すなわち親孝行の実践を奨励することにもつながる看病断の制度は、儒学の教えを武士に浸透させたい為政者側にとって、おあつらえ向きの内容であったわけです。  ではここで、より具体的に看病断についてイメージしていただくためにも、もう一つサムライケアラーの事例をご紹介しましょう。ご登場いただくのは、『水野(みずの)伊織(いおり)日記(にっき)』に実父の介護記録を記した沼津藩士・水野(みずの)重教(しげのり)です。日記は1862(文久2)年から、明治維新を経た1892(明治25)年までの出来事が記してありますが、幕末維新期の1866年の頁に、彼の実父である金沢八郎への介護についての記載があります。  それによると、父・八郎はそれまでも軽い中風(ちゅうふう)(脳卒中)で具合が悪くなったことはあったようなのですが、1866年の年末に体調が急に悪化し、年が明けたころからしゃっくり(吃逆)が止まらなくなります。現代においても珍しくない、終末期における難治性のしゃっくりが始まったのです。そして正月7日には、医師から「もう今回は手のほどこしようがない」といわれてしまいます。  正月7日に主治医から父の余命宣告を受けた重教は、最期のときまで世話をしなければならないと覚悟し、その翌日の8日に、藩に対して「看病引(かんびょうびき)」の申請をして、即日許可されます。秋田藩のケースでもそうでしたが、このあたりは本当に対応が速いです。日記にはその後、重教が兄弟三人でいっしょにケアを行ったこと、「小水」、「便」など下(しも)の世話もしたことなども具体的に記されています。父・八郎は辞世の句を詠むなど、武士らしい振る舞いをした後、2月5日に亡くなりました。  看病断(秋田藩では看病御暇、沼津藩では看病引)を申請して休みをもらっているという点では、前回みた渋江和光のケースとまったく同様です。申請してすぐに認められ、休みを取ってケアを行っています。ただこうしてあらためて両者のケースをみると、看病断とは別に、もう一つ重大な共通点があることにお気づきでしょうか。それは……ひとまず今回はここまでといたしましょう。 【参考資料】 ・ア井将之著『武士の介護休暇―日本は老いと介護にどう向き合ってきたか―』(河出書房新社)2024年 ・柳谷慶子著『日本史リブレット92江戸時代の老いと看取り』(山川出版社)2011年 【P38-41】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第167回 大阪府 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 段階的に65歳定年 70歳超雇用制度を導入 企業プロフィール 株式会社斉藤鐵工所(さいとうてっこうじょ) (大阪府大阪市住之江(すみのえ)区) ▲創業 1948(昭和23)年 ▲業種 水門・水処理装置の製造、産業機械部品の保管整備、工作機械部品の製造 ▲社員数 111人 (60歳以上男女内訳) 男性(22人)、女性(2人) (年齢内訳) 60〜64歳 8人(7.2%) 65〜69歳 8人(7.2%) 70歳以上 8人(7.2%) ▲定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員70歳まで継続雇用。その後は運用により継続雇用が可能。最高年齢者は76歳(機械工程の工程管理業務に従事)  大阪府は、西面で瀬戸内海(大阪湾)に臨み、北面、東面、南面の各境界に沿って北摂(ほくせつ)山地、生駒(いこま)・金剛(こんごう)山地、和泉(いずみ)山地が取り囲む盆地構造上の大阪平野にあります。年間を通じて温暖で晴れの日が多い「瀬戸内海式気候」に属していますが、特に夏は暑く、1年を通して雨が少ないことが特徴です。  大阪は江戸時代から「天下の台所」と呼ばれ、全国の物流・金融・情報が集まる商業・サービス業の割合が高い「商都」でありながら、現代では高い技術力を持ち独自の高度な技術を世界へ発信する多くの中小企業が集積する「ものづくりのまち」としても知られています。そのほかバイオテクノロジーなどのハイテク産業、スポーツ関連産業、ゲームコンテンツ産業などユニークな産業が集積していることも特徴です。  JEED大阪支部の立山(たてやま)雄一(ゆういち)統括は、「大阪支部で活動する高年齢者雇用アドバイザー(以下、「アドバイザー」)、プランナーは、商業・サービス業、製造業などさまざまな業種の事業所に人事管理制度、賃金・退職金制度などの高齢者の活用に必要な環境整備に関する相談・助言を行っています。大阪府の特徴の一つである『ものづくりのまち』の製造業の中小企業からは、『年齢を重ねることで体力や認知機能が低下し重大な労働災害につながる危険性が高まる』、『温暖化の影響による熱中症のリスクが高まっている』といった声も聞こえます。制度改善提案にあたっては、このような声に対する安全管理、健康管理に関する提案を含め、さまざまな業種への相談・助言活動をする過程で把握した実状に合わせて、高齢者雇用に関する課題解決に向けた提案を行っています」と説明します。  大阪支部で活躍するプランナーの一人、杉原(すぎはら)彰(あきら)プランナーは、特定社会保険労務士の資格を持ち、豊富な知識と経験を活かして、訪問事業所の高齢者雇用における課題の洗い出しから制度設計まで、ていねいに支援しています。参考資料として本誌をはじめ、JEEDの『70歳雇用推進事例集』などから訪問先の状況に合った事例を紹介し説明をしているそうです。  今回は杉原プランナーの案内で「株式会社斉藤鐵工所」を訪れました。 100年企業を目ざすものづくり企業  株式会社斉藤鐵工所は、1948(昭和23)年に創業し、2026(令和8)年に創業78年を迎えました。河川や港湾の安全を守るための治水事業を主軸に、津波・増水などの災害対策に欠かせない防災用ゲート(水門)、および水処理装置の設計、販売、製造、据付けをにない、地域の安心・安全を支える公共インフラを構築しています。  企業理念に「よい製品の提供を通じた社会貢献」、「新しい価値の創造への挑戦」、「働く人々のより豊かな生活向上」を掲げており、齋藤(さいとう)維(たもつ)代表取締役社長は「当社は熟練技術者によるミリ単位のゆがみ取りといった、独自の職人技を強みとしています。長年つちかった技術を活かし、産業機械部品の保管整備や工作機械部品の製造など、多角的にものづくりを行い、近年はトンネルを掘り進めるシールドマシンの部品整備など民間事業へも販路を広げています」と説明します。同社が長年の事業のなかでつちかった技術は高く評価されており、「大阪ものづくり優良企業賞2024」にて優良企業賞を受賞しました。  経営方針については「設備投資も福利厚生も、すべてにお金がかかります。しかし、しっかり利益を残すことができれば、それを社員に還元していけます。そうして社員の生活向上につなげていきたいです」と話すなど、人材を何よりも大切にしている齋藤社長。2021年からは、設計部門にCADを専門的に学んだベトナムからの高度人材を採用しており、社長自らベトナムへ赴き、実習生の家庭を訪問するなど、家族ぐるみの信頼構築にも努めています。 高齢社員が働きやすい環境づくり  2020年、同社は人手不足が深刻化するなか、「フルタイムは体力的には厳しいが、まだ働きたい」という意欲ある高齢社員の声を受け、短時間勤務や隔週勤務を正式に導入し、再雇用時に、フルタイム勤務以外の選択肢を選べるようになりました。  そして2023年9月、杉原プランナーの訪問をきっかけに、制度改革が一気に加速します。杉原プランナーは「初めて訪問した際、高齢社員が多く、若手が少ないことに齋藤社長は危機感を持っていました。将来の健全な労働力層を構築するため、若手の中途採用に注力しながらも、高齢社員や技能実習生に頼らざるを得ない状況がありました。他方で高齢社員の習熟した技術を高く評価し、モチベーション維持や技術の継承などに高い関心をお持ちだったので、高齢社員活用においてさまざまな制度改善の提案ができると感じました。そこで、60歳から65歳への定年延長、希望者全員70歳、基準該当者を75歳まで継続雇用する制度を提案したところ、あっという間に65歳定年制を実現されました。この『よいと思ったものをスポンジのように吸収して実行する土壌』があるからこそ、私も提案のしがいがあります」と話し、その実行力に舌を巻いていました。  この制度改定にあわせ、再雇用者の給与・賞与を一律の固定額とする慣行を廃止しました。現役世代の賞与が増えれば再雇用者も増額される仕組みを導入し、年3回の賞与は現役・再雇用にかかわらず支給し、全員で利益を分かち合う姿勢を鮮明に打ち出しています。 現場特有の事情をふまえた環境改善  2024年には、さらなる労働力の確保と、高齢化にともなうリスク管理の両立に重点を置きさまざまな施策を実行。定年後の再雇用を70歳に延長するとともに、70歳到達以降も運用により継続勤務可能な体制を整えました。  また、夏場の製造現場は非常に過酷で、40度を超える暑さのなか、職人たちは1000度近い溶接の熱を浴び、さらに保護具や長袖を着用して作業をしていたことから、広大な工場内に大型空調設備を設置しました。  「熱中症対策にファンつき作業着を配ったこともありましたが、鉄を削る粉を吸い込んで服がドロドロになってしまい、なかなか着てもらえなかったことなどもふまえ、大型空調設備を導入しました。室温が3〜5度下がるだけでも効率は変わりますし、少しでも快適に働ける環境をつくることが、社員の満足度の向上につながると思いました」(齋藤社長)  また、安全管理の取組みにも注力しており、フォークリフトの操縦や玉掛け作業は、免許取得以降は学び直す機会を設けていませんでしたが、安全管理の強化のために作業者全員を対象に、業務時間内に外部講師による講習を実施しました。  そのほか、高齢社員に自分の体の変化を数値で客観視してもらい、安全に働いてもらうための配慮として、体力テストや認知機能チェックの導入も検討しているそうです。  今回は、技術継承と多世代交流の中心となっている高齢社員にお話をうかがいました。 地図に残る仕事への誇りと、次世代への想い  設計課の林部(はやしべ)真(まこと)さん(72歳)は、定年前から設計を担当してきました。現在は週4日のフルタイム勤務で働いており、「定年を迎えた際、正直に『しんどい』と伝えたら、先代社長が『じゃあ週4日にしよう』と提案してくれました」と笑って話します。  林部さんは若手社員にとって、最高の相談役です。過去の類似図面をヒントとして示し、若手が自ら答えにたどり着くのを穏やかに見守ります。  「私自身も、若手から学ぶことがたくさんあります。いまの時代、CADが使えないと仕事が進みませんから、そこは若い子たちに『これどうやるんや?』とよくたずねています」(林部さん)  キャリアのなかでもっとも忘れられない仕事は、岸和田港水門の設計です。  「2年もかかった難工事でした。全長10mという巨大さで、陸路での輸送ができず、海路で運ばなければなりませんでした。潮の流れや漁協との調整に奔走し、ようやく設置が完了したときの達成感は忘れられません。いまでも時折、妻を連れてその現場を訪れては、苦楽をともにした仕事仲間の顔を思い出します」(林部さん)  この「形として残り、安全を守り続ける仕事」への誇りが、72歳となったいまも、林部さんを動かす原動力となっています。  設計課課長の齊藤(さいとう)英一(ひでかず)さんは、「水門の構造などは多種多様ですが、林部さんは質問すると即座に的確な答えを返してくれます。設計段階で構造上の不明点が出てきた際には、いまでも林部さんに相談し、教えを請うことがあります。また、林部さんは冗談をいったり、周囲を和ませてくれたりするので、林部さんがいることで職場がピリピリせず、働きやすい環境が保たれています。昔の職人気質な気むずかしさが一切なく、だれに対してもやさしく接しやすい雰囲気を醸し出しているため、若い社員でも物怖じせずに聞きに行けるのだと思います」と評していました。 属性を問わず一致団結できる企業へ  同社は杉原プランナーからの提案と提供された資料を活用し、令和7年度高年齢者活躍企業コンテストで独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰特別賞を受賞。これがきっかけとなりテレビの取材を受けたそうです。放送では67歳のベテラン社員が活き活き働く姿が映し出され、水門をつくる仕事のイメージが広く伝わるとともに、近隣住民からも「テレビを見ました」と声をかけられるなど反響があったといいます。  取材後、杉原プランナーは「同社のような『人を大切にする熱意』がすばらしい企業のお手伝いができることは、私にとっても大きな刺激になっています。今後も、新しくできる制度や活用できる補助金の情報をいち早くお届けし、制度をより充実させるお手伝いをしていきたい」と意欲を示しました。  齋藤社長は「男性でも女性でも、日本人でも外国人でも、若くても高齢でも、よい製品の価値は変わりません。人材の属性を気にすることなく、全員が一致団結してものづくりに邁進(まいしん)できる会社でありたいと思っています」と締めくくりました。  “100年企業”を目ざし、今後も高齢者雇用を含む制度の充実を図っていく方針です。 (取材・西村玲) 杉原彰プランナー アドバイザー・プランナー歴:12年 [杉原プランナーから] 「事前に訪問先のホームページなどでできるかぎり多くの企業情報を入手し、訪問資料の準備を行い、訪問時は聞くことに徹して多くの課題などをうかがえるよう最大限に意識しています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆大阪支部高齢・障害者業務課の立山統括は杉原プランナーについて「企業の現状を論理的に分析して抽出した課題に対して、他社の好事例の情報提供を中心とした具体的な解決策を提案することに定評があり、訪問した事業所から高い評価を得ています。訪問後には実際に制度改善に結びつくケースも少なくありません。また、2025年度の地域ワークショップでは、基調講演の講師だけでなく事例発表企業との『Q&Aセッション』の進行役を務め、事例発表企業の取組み内容を深く掘り下げてくれました」と評します。 ◆大阪支部高齢・障害者業務課は大阪モノレール摂津(せっつ)駅から徒歩約7分のところにあり、隣には摂津市役所があります。周辺には、新幹線車両と電気機関車が展示されている新幹線公園があり、春には、桜トンネルが花見客でにぎわいます。また、秋になると隣の摂津市役所では農業祭が開催され地元の農産物や特産品を求めて多くの人が集うなど季節を感じられる環境となっています。 ◆同府では28人の70歳雇用推進プランナー・高年齢者雇用アドバイザーが活動し、高齢者雇用にかかわる取組みを支援しています。2025年度の事業所訪問数は約1800社、制度改善提案数は約660件です。 ◆相談・助言を実施しています。お気軽にお問い合わせください。 ●大阪支部高齢・障害者業務課 住所:大阪府摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 電話:06-7664-0782 写真のキャプション 大阪市住之江区 本社社屋 齋藤維代表取締役社長 設計図の確認をする設計課の林部真さん 林部さんとともに働く設計課課長の齊藤英一さん 【P42-43】 第117回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  阪井洋之さん(66歳)は、IT関連企業でマーケティング戦略を中心に営業や事業開発分野の第一線を歩いてきた。退職後、IT人材の不足という社会的課題を見すえ、シニアの知見をIT業界に活かすため、会社を立ち上げた。つねに挑戦し続ける阪井さんが、生涯現役社会の未来を語る。 (写真提供:株式会社ナレッジピース) 株式会社ナレッジピース 代表取締役 阪井(さかい)洋之(ひろゆき)さん 時代を先駆ける現場で鍛えられて  私は三重県(みえけん)一志郡(いちしぐん)嬉野町(うれしのちょう)で産声を上げました。市町村の合併により、現在は松阪(まつさか)市となっています。県内の高校から大阪大学に進学、大学時代は下宿生活を謳歌しました。大学卒業後はマスメディア関係の仕事がしたくて、放送業界や新聞業界を目ざしました。しかし、こうした職種は当時から人気の高い職種で、就職を断念せざるを得ませんでした。就職留年しようかと迷っていた矢先、大学の学生課が富士通株式会社の二次募集を紹介してくれました。「とても伸び盛りの会社」だとすすめられるままに応募、幸い採用されました。以来、退職するまで、この会社とともに歩み続けました。  入社してシステムエンジニアの研修を受けてから、マーケティングや営業の部署に配属されました。その後、時代の波を受けて富士通がクラウドビジネスの本部を立ち上げることになり、その初代本部長としてクラウドビジネスの立ち上げにかかわりました。クラウドはIT導入のハードルを大きく引き下げましたので、IT活用が従来進んでいなかった分野に裾野を広げることになりました。私は農業や動物病院、訪問介護などの分野を担当したのですが、やりがいのある楽しい日々でした。  阪井さんはその後、経営戦略室長などを歴任して同社の執行役員を務める。「社会に勢いがあり、同年代が切磋琢磨して互いに成長できたよい時代でした。つねに新しいビジネスの先頭打者を任されて幸せでした」と笑顔を見せる。 仲間たちとの新たな旅立ち  富士通はスポーツにも力を入れていましたから私も富士通時代の最後は東京五輪・パラ五輪を含むスポーツ分野の担当になりました。ただ、コロナ禍の影響で私の部署も手持ち無沙汰になり、これが退職を決意するきっかけとなりました。  ただ、会社には感謝の念しかありません。いつも新しいことに挑戦させてもらえましたし、海外でのマーケティングも勉強させてもらい視野も広がり、太い人脈もできました。長年積み上げてきた経験を力に、新しく舵を切ることができたのだと思っています。  2020(令和2)年7月に退職、8月に株式会社ナレッジピースを設立しました。IT人材が慢性的に不足する社会状況のなかで、豊富な経験を持つシニア世代の活躍の場がないことを「もったいない」と感じたことが会社創業の出発点です。私自身に、まだ働き続けたいという気持ちがあったことも引き金となりました。  阪井さんは、2026年1月、創業6年目にして、東京都が主催する「地域に貢献!東京シニア創業者大賞」を受賞した。この賞はシニア創業の気運を高めるため優れた成果を収めたシニア創業者に贈られる。「賞を励みにします」との言葉に力がこもった。 シニアの経験が活きるITの世界  IT業界は慢性的な人手不足で、シニアにも人材ニーズがあることをまず強調したいと思います。もちろん、プログラマーのような仕事は生成AIにとってかわられる可能性がありますが、大きなシステムを構築する、あるいは再構築するときには過去のプロジェクトの経験が活きてくるのです。IT業界ではチームをまとめていくうえでプロジェクトマネジメントの経験がとても重要です。そこで私たちは、IT業界のシニア人材を、ITやデジタル部門で人材不足に悩む企業とマッチングさせるビジネスを立ち上げたのです。  最初に取り組んだのは、アドバイザー活動を行ってもらう会員の募集でした。当社の創業メンバー7人が手分けして有望な人材に声をかけ、創業時には40人の会員が集まりました。ちょうどコロナ禍だったので、オンラインでナレッジピースの理念を伝えました。「家にいるだけでは、ご家族に疎(うと)まれるだけですよ。あなたの経験を活かして一緒に楽しく働きましょう」などと参加を呼びかけました。  アドバイザーからは月5000円、年間6万円の会費をもらうことにした。「それだけの会費を取ってよく人が集まりますね」といわれることもあるが、シニアが活躍することの価値を感じてくれた人と一緒に働きたいという阪井さんの信念は揺らぐことがない。 「生涯現役」という希望  創業して6年、40人からスタートした会員は170人になりました。個人会員のうち半数は富士通の出身者ですが、40社以上の上場企業OBが在籍し、プロジェクトマネージャー、システムエンジニア、営業、マーケティングなど幅広いキャリアのメンバーが集結しています。  会員が自宅を離れて集える拠点づくりにも注力しました。それが当社の「日本橋サロン」です。心地よい環境に配慮してオフィスの内装はできるかぎり手づくりしました。昼間はシェアオフィスですが17時以降はサロンにかわり、お酒も飲めます。会員の居場所であり、社会との接点となっています。  個人会員の平均年齢は63.8歳ですが、賛助会員の企業は80社あり、そこには若いベンチャー企業の社長や女性経営者もいて交流を通じて新しい人脈が形成されつつあります。  私たちはおもに次の二つの側面の活動を展開しています。一つは、IT経験の豊富なシニア人材を集めて、相互交流や研鑽の場としてのコミュニティを運営し、企業へのアドバイザーとして活動する人材を増やすこと。もう一つは、一般企業からの案件や仕事を獲得し、最適なアドバイザーをマッチングすることです。売上げの大半は顧客からのリピートやアドバイザー会員からの紹介によるもので、おかげさまでクライアントは300社を超えました。  創業当初は顧客拡大に苦労しましたが、会員の人脈を活かし、企業訪問やオフィス兼サロンでの懇親を通じてていねいに対話を続けてきました。会員一人ひとりが自己研鑽の努力を続けていくために、セミナーや勉強会を頻繁に開いています。また、ともに働く仲間たちとのコミュニケーションを深めるために、俳句の会や日本橋歴史研究会、生成AI活用研究会などの「部活動」にも積極的に取り組んでいます。  くり返しになりますが、せっかく技術がありながら活躍の場がないシニアがいることはとてももったいないことであり、シニアの経験や知見を社会に役立てることが、豊かなIT社会を構築すると私は確信しています。  60歳でナレッジピースを創業し、現役時代より社会との接点が広がりました。平日に旅行やゴルフに行くなど、シニアに合った働き方も追求しています。創業以来いろいろなチャレンジをしてきましたが、これからも仲間と一緒にチャレンジすることが何よりも楽しみです。 【P44-47】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第96回 雇用外の執行役員と継続雇用の関係、ホテル支配人の労働者性 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲/弁護士 木勝瑛 Q1 役員経験者も継続雇用の対象になるのでしょうか  労働者として勤務していた者が、定年を迎える前に役員となり、雇用契約の対象外となりました。役員の地位について65歳に至る前に終了したことをきっかけに、65歳までの継続雇用を求められているのですが、これに応じなければならないでしょうか。 A  継続雇用制度の対象とする必要はなく、応じるか否かは使用者の裁量に委ねられます。 1 継続雇用制度の対象者  高年齢者雇用安定法では、定年年齢について60歳を下回ることができないことを定め(同法第8条)、定年の規定を設けている場合には、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するための措置として、@定年年齢の引上げ、A継続雇用制度(現に雇用する労働者が希望するときは定年後も引き続いて雇用する制度)のいずれかを採用するか、B定年の定めを廃止することが必要とされています(同法第9条)。  これらのうち多くの企業が採用しているのは、A継続雇用制度です。継続雇用においては、使用者が合理的な裁量の範囲で、定年前と異なる労働条件を提示することは許容されているものの、現に雇用する労働者が希望するかぎりは、解雇事由または雇用の終了事由に該当し、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性が認められる場合でなければ、継続雇用を拒絶することはできないと解釈されているところです。  ところで、継続雇用制度とは、「現に雇用する労働者」を「定年後」も引き続いて雇用する制度です。そのため、定年時点において雇用していない高年齢者は、継続雇用制度の対象とはなりません。例えば、60歳定年制を採用している企業に、61歳で入社したような場合には、継続雇用制度の対象にはなりません。他方で、このような労働者は、継続雇用の対象者でもないことから、労働契約法第18条が定める無期転換ルール(複数回の更新と5年以上の継続雇用が行われた際に、契約期間の無期転換を求めることができる権利を得る制度)の対象除外とすることもできない点にも留意しておく必要があります。  加えて、現に雇用する労働者でなければならないことから、業務を依頼している根拠が労働契約ではない場合にも、適用対象にはなりません。あたりまえのことのようにも思われますが、近年では、業務委託契約を締結しているフリーランスの方や従業員の地位から役員に就任したときに雇用契約が終了しているか否か明確ではないケースなどにおいて、問題となる場合があります。 2 裁判例の紹介  高年齢者の雇用継続に関連して、労働者であった者が、執行役員に就任したのちに、60歳を超えて執行役員の任期を終えたときに、継続雇用制度の適用があるか問題となった事案があります(東京地裁令和7年3月7日判決)。  原告となったのは、58歳のときに執行役員に就任して、退任するに至った後、62歳当時に顧問契約という名称にて雇用契約を締結することとなった者です。なお、正社員の定年は60歳と定められており、継続雇用制度も導入されていました。  しかしながら、原告は、63歳に至った段階で雇用契約を終了すると告げられたことから、高年齢者雇用安定法に基づく継続雇用制度の適用および雇止めの効力(労働契約法第19条2号により権利濫用として無効とならないか)が争われました。  高年齢者雇用安定法の適用対象になるとすれば、63歳の段階で雇用契約を終了させるためには、解雇事由または雇用契約の終了事由に該当し、かつ、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性がなければ、雇用契約の終了が認められないことになりそうです。  原告は、執行役員は雇用として扱われていないが、その実態は従業員的な役割も兼ねていたことを理由として、継続雇用制度の適用を主張しています。  しかしながら、裁判所は執行役員は雇用契約の対象ではないことを前提としたうえで、「本件継続雇用規定は、定年退職した従業員を対象とするものと解するのが相当であり、…従業員として被告を定年退職していない原告に本件継続雇用規定は適用されない」と判断し、原告の主張は認められませんでした。  また、雇止めの効力に関しても、「被告における顧問は、役員退任者を満63歳の誕生日まで一時的に雇用するものであり…、その雇用は臨時的なもの…顧問契約は1回も更新されておらず、…他の役員退任者についても、少なくとも直近10年間において、顧問として雇用された後、63歳を超えて顧問契約が更新された例は一例もなかった」ことなどを理由として、雇用継続の期待を否定したうえで、使用者が「顧問契約の期間満了をもって役員退任者を退職させる方針を有していたことがうかがわれ、原告との面談においてもその旨を繰り返し回答した」ことも認定された結果、労働契約法第19条2号の適用もなく、顧問契約の終了は有効なものと判断されました。  継続雇用制度の適用対象者に関しては、労働者の地位で定年を迎えることが適用の前提条件であることを示しており、執行役員という委任契約の対象となるような場合には、適用対象外となることは正確に把握しておく必要があります。  本件裁判例の使用者においては、役員就任前の時点で、雇用契約ではなくなることから継続雇用制度の対象とはならないことや63歳で顧問を退任して退職となることがあらかじめ提示されていたことも、期待可能性を否定する重要な要素となっています。  会社によっては、取締役や執行役員就任時に雇用契約が終了するのか否かについて、就業規則上明確となっていない場合があります。また、雇用契約が終了しているはずであるにもかかわらず、労働者としての指揮命令下に置き続けたり、報酬の決定方法が労働者と同様のまま維持されてしまったりしていることもあります。本件裁判例の原告も従業員的な役割も兼ねていたと主張していますが、従業員兼務役員と認められた場合には、継続雇用制度についても対象とする必要があります。  役員就任者の処遇が明確になるように就業規則の規定を整え、運用においても区別するようにしておきましょう。 Q2 業務委託契約を締結しているホテル支配人に、労働者性はあるのでしょうか  弊社はホテル事業を行っています。直営ホテルを除いた各ホテルの運営および支配人業は、個人事業主との間で業務委託契約を締結し、支配人となっていただくことで委託しています。このたび、ある支配人から自身は労働者であるから、残業代が支払われるべきだとの問合せがありました。労働者と評価されるのでしょうか。 A  支配人が、貴社の指揮監督下において労務提供を行っており、貴社が当該労務に対する対価を支払っている場合には、労働者と判断されることとなります。なお、近年の裁判例では、契約目的を重視してホテルの支配人について労働者性を否定したものがあります。 1 労働者性を論じる意義  実務上、労働者か否かが争いになる事案は多くあります。労働者であれば、労働契約法や労働基準法による保護を受けられるため、残業代が支払われることになりますし、解雇規制により安定した労働契約上の地位が期待できることとなります。しかし、そうでない場合には、これらの法令の適用はないため、残業代が払われることはありませんし、契約解消も比較的容易になされてしまいます。このように、労働者か否かによって保護の度合いが大きく変わるため、実務上も重要な論点となるのです。 2 労働者とは  では、どのような場合に労働者となるのでしょうか。この点、実務上重視されている基準として、1985(昭和60)年12月19日付で、労働省労働基準法研究会から提出された「労働基準法の『労働者』の判断基準について」があります。この基準によれば、労働者とは、@使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること、A労務に対する対償を払われる者であること、の二点を充足する者であるとされており、多くの裁判例もこれに沿って判断しています。  なお、@の指揮監督の有無については、○ア具体的仕事の依頼・業務指示に対する諾否の自由の有無、○イ業務遂行上の指揮監督の有無、○ウ勤務場所・勤務時間の拘束性の有無によりまず判断すべきとされています。これに加えて、補完要素として、○エ労務提供の代替性があげられています。  具体的な仕事の依頼や業務指示について、諾否の自由があるならば、指揮監督がない(=労働者ではない)と判断される事情の一つとなりますし、諾否の自由がなければ、指揮監督下にあり、業務命令に服すべき労働者であることを基礎づけることとなります(前記○ア)。また、注文者として行うべき指示の程度を超えた具体的な指揮監督が行われている場合、労働者性を基礎づけることとなります(前記○イ)。さらに、勤務場所や勤務時間が拘束されている場合には労働者性を基礎づけることとなります(前記○ウ)。加えて、本人に代わってほかの者が労務提供をすることが認められているなどの場合には労働者性を基礎づけることとなります(前記○エ)。 3 ホテル支配人の労働者性  ホテルの支配人の労働者性が争われた裁判例として、スーパーホテル事件(東京地裁令和7年7月10日判決)があります。この裁判例は、使用者の指揮監督下において労務の提供をするものではなく、また報酬の労務対償性もないとして、支配人の労働者性を否定しました。  裁判所は、次の通り判示しました。すなわち、まず、諾否の自由について、本件では、業務要領において各業務の内容が具体化されており、使用人が個別の業務依頼を拒否することは想定されていませんでしたが、「これは、本件委託契約に基づく受託業務を履行する義務があることによるものであるから、直ちに原告らと被告との間に指揮監督関係があることを示すものということはできない」と判示しました。  指揮監督の有無について、本件ではマニュアルによる業務指示がなされていたものの、「本件委託契約は、被告のホテル経営・運営のノウハウ及びサポートに基づき被告の設定する質と水準で本件ホテルを運営することにより高い収益を上げることを目的とする」のであるから、「被告がマニュアル等を作成しその遵守を義務付けることは……契約の目的に基づくものであり、使用者の労働力に対する業務遂行上の指揮監督とは異なる」と判示しました。被告社員による管理・指導についても同様に判断しています。  時間的・場所的拘束性については、本件ではホテルは365日営業で支配人はホテル所在地に住民票を異動してホテルに居住しながらホテル運営を行うとされていたことから、一定の場所的・時間的拘束が肯定されています。しかし、「これらは、……業務遂行を指揮監督する必要によるものではなく、本件委託契約の内容又はホテルの運営業務という業務の性質から生ずるものである」として、指揮監督関係を基礎づけるものではないと判示しました。  労務提供の代替性の有無について、本件では第三者への再委託が禁止されており、アルバイトの担当業務が限定されていたという事情がありましたが、再委託禁止は「運営業務が被告のホテル経営・運営のノウハウに基づき被告の設定する質及び水準で行われる必要があることから被告による審査と研修を経たものにのみ本件ホテルの運営業務を行われる趣旨」であり、「必要があれば代行要員に委託業務を代行してもらうことが可能」であったことなどから、労務提供の代替性も否定されています。  報酬についても、支配人に支払われる報酬のうち、一部は、店舗の利益状況に応じて支給されたり、自社サイトによる宿泊売上げなどに応じて支給されるものであるといった事情に照らすと、「いずれも一定時間の労働の対価として支払われるものとは認めがたく、報酬の労務対償性を認めるのは困難」と判示しました。  以上により、指揮監督下の労務提供および報酬の労務対償性の両者とも否定され、原告らは労働者にあたらないとされました。 4 ふり返り  本判決は、「被告のホテル経営・運営のノウハウ及びサポートに基づき被告の設定する質と水準で本件ホテルを運営することにより高い収益を上げる」という契約目的を重視し、被告による管理はホテルの質・水準維持のためのものであり、指揮監督下の労務提供を基礎づけるものではないとして労働者性を否定しています。  本判決の示した考え方を前提とすると、会社側のサポートが想定され、被告が設定する質・水準での運営を想定する事業形態の場合には、会社の縛りがかなり強くても、それは契約目的により当然想定されているからと切り捨てられてしまい、労働者性が肯定されることはほとんどなくなってしまうように思われます。本件は、控訴がなされており、控訴審の判断が注目されます。 【P48-49】 −新連載− サステナビリティを高めるシニア人材活用戦略 第1回 ESG経営と人的資本 株式会社日本総合研究所 山本(やまもと)大介(だいすけ)/宮下(みやした)太陽(たいよう)  不確実性が高まる現代において、企業が持続的に成長し続けるためには、サステナビリティ(持続可能性)の視点が不可欠です。とりわけ、人材を「資本」としてとらえ、その価値を最大限に引き出す人的資本経営の重要性が高まっています。そのなかでもシニア人材をはじめとする多様な人材の活用は、経験・知見の継承や組織のレジリエンス向上の観点からも、これからの企業経営の鍵を握る重要な要素です。そこで本企画では、シニア人材の持つ価値をあらためて整理するとともに、その活用に向けた具体的な戦略について解説します。 1 ESG経営とは何か  近年、「ESG経営」という言葉を耳にする機会が増えています。「ESG」とは「Environmental(環境)」、「Social(社会)」、「Governance(企業統治)」の頭文字を取った言葉で、これらに配慮した経営の考え方をさします。あわせて重要なのが、「サステナビリティ(持続可能性)」という視点です。サステナビリティとは、環境や社会に過度な負荷をかけることなく、企業や社会が将来にわたって持続的に発展していける状態を意味します。ESG経営は、サステナビリティを企業経営のなかで具体化していくための実践的な枠組みの一つといえます。  「ESG」は2000(平成12)年に当時の国際連合(以下、「国連」)の事務総長であったコフィー・アナン氏が提唱した持続可能な経済成長を目ざすための枠組み「グローバル・コンパクト」の影響を受け、世界の主要金融機関が共同で作成した『Who Cares Wins』※という報告書に初めて登場した言葉です。この報告書では、ESGの三つの視点に配慮した投融資の重要性が示されました。その後、多くの金融機関や機関投資家が合意した結果、その考え方が産業政策をになう行政や投融資を受ける企業にも広がりました。  ESG経営において最初に注目されたのはE(環境)の側面です。グローバル経済の成長にともない、地球環境への負荷はますます大きくなっており、「気候変動」、「生物多様性の損失」などの問題が生じています。さまざまな規制・ガイドラインや業界ルールなどが定められると同時に、各企業においても自主的な努力が求められるようになっています。日本政府も2020(令和2)年に「2050年までにカーボンニュートラルを目ざす」と宣言しており、再生可能エネルギーの利用や廃棄物の削減などすでに不可逆的な変化が進んでいます。  Eの側面に続いて取組みが広がっているのはG(企業統治)の側面です。国際的な投資活動が活発になり、世界共通の適正な仕組みのもと、法令・規範遵守や意思決定が行われるよう、ルール整備が進んできました。上場企業には「コーポレートガバナンス・コード」への対応が求められており、徐々に非上場企業に対してもガバナンス強化の要請が強まっています。  そして、人的資本ともっとも深くかかわるのが、S(社会)の側面です。従業員の人権、多様性、健康と安全、能力開発、働きがいといったテーマは、いずれも企業の持続的成長を支える基盤です。以下では、この社会的側面と人的資本の関係について見ていきます。 2 ESG経営の社会的側面と人的資本  企業が果たすべき社会的責任については、従来からさまざまな法律で規定されており、あらゆる活動は適法であることが前提です。しかしESG経営における社会的側面は、そこから一歩踏み込み、企業が社会の一構成員として持続可能でよりよい社会の実現に貢献することが求められています。この社会的側面を具体的に考えるうえで参考になるのが、ESG評価の指標です。例えば、日本でも広く参照されているFTSE Russe-llのESGスコアモデルでは、社会的側面に関する評価項目として、「顧客に対する責任」、「人権と地域社会」、「労働基準」、「健康と安全」などがあげられています(図表)。  ESG経営の考え方においては、これらは制約や面倒なルールとしてとらえるべきものではなく、「人的資本への投資」として前向きに取り組むべき課題です。ESG概念の広がりにともない、行政や機関投資家、金融機関も企業に対して「人的資本に投資しているかどうか」を問うようになっています。上場企業に対しては取組み内容の開示が求められていますし、補助金の審査において考慮されることや、金融機関の一部金融商品において取組みに応じた優遇措置が得られることもあります。人的資本投資に真摯に取り組むことが企業価値を高めると考えられているのです。  日本では人口減少が進み、労働力の確保が大きな経営課題となっています。とりわけ中堅・中小企業では、人手不足が事業継続や成長の制約になっているケースも少なくありません。そうしたなかで、人的資本への投資を重視する姿勢を明確にすることは、優秀な人材の採用や定着につながる可能性があります。また、従業員の意欲やエンゲージメントを高め、生産性の向上や心身の不調によるパフォーマンス低下の防止も期待できます。 3 ESG経営におけるシニア人材活用  ここまでESG経営が広がっていることと、そのなかで人的資本への投資が重要視されていることを解説してきました。最後に、人的資本投資とシニア人材のかかわりについて説明し、次号以降のテーマへの橋渡しとします。  シニア人材は長年の業務経験を通じて、知識や技能だけでなく、判断力や対人対応力、トラブル時の落ち着いた対処力など、多面的な力をつちかってきています。こうした経験知は、日々の業務運営に役立つだけでなく、不確実性の高い時代において、企業の持続性を支える重要な資産となります。また、シニアによる若手人材の育成は、単なる「知識の継承」だけでなく、仕事に対する態度や同僚との協力姿勢などに代表される組織文化の醸成にもつながり、長期的な投資効果が期待できます。  一方で、シニア人材活用を真に有効なものとするためには、経験を活かすだけでは足りません。シニア自身が、時代や事業環境の変化に応じて、自らの知識やスキル、価値観を更新していくことも欠かせません。企業側にも、シニアが安心して長く働き続けられるよう、健康面への配慮や柔軟な働き方の整備、役割の再設計といった支援が求められます。シニア人材への投資は、単なる高齢者雇用対策としてではなく、企業のサステナビリティを高めるための人的資本戦略の一環として位置づけることが重要です。  次号以降では、こうした観点からシニア人材活用の意義や具体的な進め方、留意点などについて順に解説していきます。 ※World Bank『Who Cares Wins』 https://documents1.worldbank.org/curated/en/280911488968799581/pdf/113237-WP-WhoCaresWins-2004.pdf 図表 ESG経営における人的資本投資の考え方 ESG経営の三つの側面 Environmental(環境) Social(社会) Governance(企業統治) 顧客に対する責任 人権と地域社会 労働基準 健康と安全 社会サプライチェーン 前向きな投資として取り組むことで効果が期待できる 人材の採用力向上 離職防止・長期活躍 モチベーション向上心身問題発生防止 行政、投資家・金融機関も取組みを実施 ※FTSE RussellのESGスコアモデルを参考に筆者作成 【P50-51】 いまさら聞けない人事用語辞 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第69回 「労働委員会」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「労働委員会」について取り上げます。 労使紛争の解決を図る機関  労働委員会の定義については、「労働委員会は労使間(労働者・使用者間)のトラブル(労使紛争)を解決するために、法律によって設けられた行政機関で、トラブルの自主的な解決が困難な場合に、中立・公正な立場で問題解決の手伝いをする※1」と『労働委員会ガイドブック』(全国労働委員会連絡協議会)に記載されています。労働組合法第19条に基づく機関であり、国の機関である中央労働委員会(中労委)と、各都道府県の機関である都道府県労働委員会の2種類があります。労使紛争の内容が一つの都道府県のことであれば都道府県労働委員会、二つ以上の都道府県に関係する場合は中央労働委員会の扱いとなります。  この機関の重要なポイントは、「中立・公正な立場で」紛争の解決を図るという点です。労使間でトラブルが発生して、それが社内で解決できない場合に第三者の労働委員会に相談するという流れになります。解決できないという時点で、労働者と使用者の間で意見の相違があるため、解決を図る側の労働委員会に労使いずれかに偏った意見が強いという状態は望ましくないことになります。そこで、解決を図る立場の労働委員会の委員は、労働者の代表として労働組合から推薦された労働者委員、使用者の代表として使用者団体から推薦された使用者委員、中立的な第三者の立場として学識経験者や法曹関係者からなる公益委員で構成され(三者構成※2)、任期は2年です。中央労働委員会の人数は三者同数15名ずつ(計45名)で内閣総理大臣により任命されます。都道府県労働委員会は各機関により人数が異なり(東京都はそれぞれ13名、愛知県はそれぞれ7名など)都道府県知事により任命されます。公平性を期すために、委員の経歴・現職、労働者委員・使用者委員・公益委員のいずれであるかの名簿が厚生労働省や都道府県のホームページなどで公開されています。 集団的労使紛争と個別的労使紛争  労働委員会がかかわる労使紛争は、労働組合と使用者との間で生じる集団的労使紛争と労働者個人と使用者の間で生じる個別的労使紛争に分かれます。労働委員会の役割として、労働組合法および労働関係調整法で役割が明記されているのは集団的労使紛争です。労働委員会のおもな役割を整理すると、「労働争議の調整」、「不当労働行為事件の審査」、「労働組合の資格審査」の三つがあげられます。  一つめの「労働争議の調整」については、労働組合には労働者と使用者が対等な立場で交渉できるように、団体交渉権が労働三権※3の一部として憲法第28条で保障されています。労働問題について交渉した際に、労使の意見が平行線をたどり決裂するなど労使間の紛争が発生し自主解決が困難となった際に、労働組合または使用者が労働委員会に調整の申請を行います。調整には、法的な強制力の低い順に、「あっせん」、「調停」、「仲裁」があります。 ・あっせん…あっせん員が労使双方の主張を確かめ、労使の自主的な話し合いを援助(あっせん案の提示など)する。あっせん案の受諾は任意。簡単で迅速な手続きのためもっともよく活用されている。 ・調停…三者構成の調停委員会が労使双方の主張を聞いて作成した調停案を提示する。調停案の受諾は任意。 ・仲裁…公益委員で構成される仲裁委員会が、仲裁裁定を下す。この内容は労働協約と同一の効力をもって当事者を拘束。  二つめの「不当労働行為事件の審査」とは、労働組合法第7条で禁じられている不当労働行為を使用者が労働組合や労働者に対して行った場合に、労働委員会に対して救済申立てを行うことができる制度のことです。不当労働行為には、組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱い、正当な理由のない団体交渉の拒否、労働組合の運営等に対する支配介入※4および経費援助、労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱いなどがあります。労働委員会はこれらの救済申立てがあった場合に審査を行い、不当労働行為の事実があると認められる場合には、使用者に対して、復職や組合運営への介入の禁止等といった救済命令を出します。一方、申立てに意義がないとされる場合には棄却命令が出されます。なお、申立ては基本的には都道府県労働委員会に対して行いますが、そこでくだされた救済命令(初審命令)に不服がある場合は、中央労働委員会に再審査申立てを行うことができます。  三つめの「労働組合の資格審査」ですが、本来、労働組合は自由に設立でき、届け出なども不要ですが、労働組合法に定める手続きに参与したり、救済を受けるためには、労働組合法第2条および第5条に定める一定の資格要件を備えていなければならないことになっています。この資格の有無を審査するのが労働組合の資格審査で、労働委員会の役割の一つとなります。  労働委員会は、個別的労使紛争の調整も行っていますが、手続きは「あっせん」に限定され、東京都・兵庫県・福岡県には労働委員会が主体となる制度がないなど、都道府県により実施状況が異なります。 労使紛争の取扱状況  最後に、労働委員会による労使紛争の取扱状況について確認しましょう。中央労働委員会のホームページ※5に事件取扱状況などの統計が公表されています。  まずは、「労働争議の調整」ですが、2024(令和6)年に全国の労働委員会が新規に取り扱った係属件数は165件(あっせんが159件、調停が5件、仲裁が1件)です。10年前の2014(平成26)年の367件、5年前の2019年205件と比較して減少傾向にあります。  次に、「不当労働行為事件の審査」ですが、2025年は国の労働委員会が初審として扱った新規申立てが188件で、公表値でもっとも古い2021年の277件と比較してこちらも減少傾向にあります。  減少の理由としては、働く環境が改善されてきたと評価される一方で、労働組合の組織率の低迷や、解決率が半数程度(2024年の労働争議の調整が解決で終結した比率は51.1%)であることも影響していると思われます。  次回は、「ハローワーク」について取り上げます。 ※1 『労働委員会ガイドブック』4ページの「労働委員会って何をするの?」の説明から筆者が一部改変。https://www.mhlw.go.jp/churoi/panfu/dl/pamph05.pdf ※2 三者構成については、国際的な労働問題の解決を図るILO(国際労働機関)でも同様の構成になっている ※3 労働三権……「団結権」(労働者が労働組合を結成する権利)、「団体交渉権」(労働者が使用者と団体で交渉する権利)、「団体行動権」(要求を実現するためにストライキなど団体で行動する権利)のこと ※4 支配介入……労働組合結成に対する阻止・妨害行為、労働組合の日常の運営や争議行為に対する干渉を行うことをさす ※5 労働争議の調整の統計 https://www.mhlw.go.jp/churoi/chousei/sougi/sougi05.html 不当労働行為事件の審査の統計 https://www.mhlw.go.jp/churoi/shinsa/futou/futou03.html 【P52-53】 TOPIC1 職場における熱中症防止のためのガイドライン  2026(令和8)年4月の改正労働安全衛生法の施行により高齢労働者の労働災害防止措置が努力義務となりました。本稿では、2026年3月に厚生労働省が策定した「職場における熱中症防止のためのガイドライン※1」の「第3 熱中症リスクに応じた措置」から一部を抜粋して紹介します(編集部)。 1 労働衛生管理体制の確立等  事業場における熱中症防止対策については、衛生委員会、安全衛生委員会又はこれらを設けていない事業場における労働者の意見を聴く機会等を活用し、労働者の理解と協力を得つつ労使で話し合い、その内容を労働者に対して周知することが重要である。(中略) (1)各種管理者等の選任と役割  事業者は、産業医の意見も参考にしながら、衛生管理者(50人未満の事業場では安全衛生推進者又は衛生推進者)を中心に、本ガイドラインに掲げる熱中症防止対策について検討させ、以下の(ア)〜(ク)に掲げる業務を行わせるとともに、事業場における熱中症防止に係る責任体制の確立を図ること。(中略) (ア)作業に応じて、適用すべきWBGT※2基準値を決定し、併せて衣類に関しWBGT値に加えるべき着衣補正値の有無を確認すること。 (イ)WBGT値の低減対策を検討し、その実施状況を確認すること。 (ウ)入職日、作業や休暇の状況等に基づき、あらかじめ各作業従事者の暑熱順化の状況を確認すること。なお、あらかじめ暑熱順化不足の疑われる作業従事者は第3の3の(2)に示す暑熱順化プログラムに沿って暑熱順化を行う必要があること。 (エ)朝礼時等作業開始前において作業従事者の体調及び暑熱順化の状況を確認すること。 (オ)作業場所のWBGT値の把握と結果の評価を行う。事業者は、評価結果に基づき、必要に応じて作業時間の短縮等の措置を検討すること。 (カ)職場巡視を行い、作業従事者の水分及び塩分の摂取状況を確認すること。 (キ)退勤後に体調が悪化しうることについて注意喚起すること。 (ク)熱中症に関する労働衛生教育の実施状況を確認すること。(中略) (2)作業手順・作業計画の策定  夏季の暑熱環境下における作業に対する作業手順・作業計画を策定すること。作業手順・作業計画には、特に新規入職者や休み明けの作業従事者については、熱中症を発症するリスクが高いため、作業内容等を十分に考慮した暑熱順化プログラム、WBGT値に応じた十分な休憩時間の確保、WBGT基準値を踏まえた作業中止に関する事項を含める必要があること。(中略) 2 作業環境管理 (1)WBGT値の低減  事業者は、過去に熱中症による労働災害が発生した場所など、WBGT基準値を超えている又は超えるおそれのある場所において作業を行うことが予定されている場合には、以下に掲げる措置を例としてWBGT値低減対策を講ずること等により、WBGT値の低減に努めること。 ア WBGT基準値を超えている又は超えるおそれのある作業場所(以下単に「高温多湿作業場所」という。)においては、発熱体と作業従事者の間に熱を遮ることのできる遮へい物等を設けること。 イ 屋外の高温多湿作業場所においては、直射日光並びに周囲の壁面及び地面からの照り返しを遮ることができる簡易な屋根等を設けること。 ウ 高温多湿作業場所に適度な通風又は冷房を行うための設備やミストシャワー等による散水設備などを設け、既に設置している冷房設備等については、その機能を点検すること。(中略) (2)休憩場所の整備等  熱中症の重篤化を防ぐためには、適切な身体冷却が有効であるため、事業者は、作業場所の近くに冷房を備えた休憩場所又は日陰等の涼しい休憩場所を確保すること。(中略) 3 作業管理 (1)作業時間の短縮等  1の(2)で検討した作業手順・作業計画に基づき、熱中症予防対策を作業の状況等に応じて実施するよう努めること。熱中症予防対策は、以下のものが考えられること。 ア 作業の休止時間及び休憩時間を確保し、高温多湿作業場所での作業を連続して行う時間を短縮するよう努めること。(中略) イ 身体作業強度(代謝率レベル)が高い作業を避けること。 ウ 可能であれば、日陰の場所に作業場所を変更すること。 (2)暑熱順化  高温多湿作業場所において作業従事者を作業に従事させる場合には、暑熱順化(熱に慣れ当該環境に適応すること)の有無が、熱中症の発症リスクに大きく影響することを踏まえ、計画的に、暑熱順化期間を設けること。(中略)  暑熱順化の方法としては、7日以上かけて暑熱環境での身体的負荷を増やし、作業時間を調整し、次第に長くすることが挙げられる。特に、新規入職者等に対して他の作業従事者と同様の暑熱作業を行わせないよう、計画的な暑熱順化プログラムを組むこと。(中略) (3)プレクーリング  WBGT値が高い暑熱環境下で、作業強度を下げたり通気性の良い衣服を採用したりすることが困難な作業においては、作業開始前にあらかじめ深部体温を下げ、作業中の体温上昇を抑えるプレクーリングについては、体表面から冷却する方法と、(中略)体内から冷却する方法を検討すること。(中略) (4)水分及び塩分の摂取  安衛則第617条により、多量の発汗を伴う作業場では、塩及び飲料水を備え付けることが義務付けられており、当該作業場では、飲料水、スポーツドリンク、経口補水液、塩飴等を備え付けなければならないこと。  高温多湿作業場所においては、作業従事者について自覚症状以上に脱水状態が進行していることがあること等に留意の上、作業従事者の自覚症状の有無にかかわらず、水分及び塩分の作業前後の摂取及び作業中の定期的な摂取を指導するとともに、作業従事者の水分及び塩分の摂取を確認するための表の作成、作業中の巡視における確認等により、定期的な水分及び塩分の摂取の徹底を図ること。(中略)  特に、加齢や疾病によって脱水状態であっても自覚症状に乏しい場合があることに留意すること。また、高血圧であって塩分等の摂取が制限される、糖尿病であって糖分等の摂取が制限されるなど基礎疾患を有する作業従事者については、主治医、産業医等に相談させること。 (5)服装による身体冷却  作業の性質上通気性の確保等が困難ではない場合は、熱を吸収し、又は保熱しやすい服装は避け、透湿性及び通気性の良い服装を着用させること。(中略) (6)作業中の巡視  定期的な水分及び塩分の摂取に係る確認を行うとともに、作業従事者の健康状態等(心拍数、体温及び尿の回数・色等の身体状況)を確認し、熱中症を疑わせる兆候が現れた場合において速やかに作業の中断その他必要な措置を講ずること等を目的に、高温多湿作業場所での作業中は巡視を頻繁に行い、声をかける等して作業従事者の健康状態を確認すること。また、長時間の単独作業を避け、なるべく短時間にさせること。(以下略) ※1 詳細については厚生労働省「職場における熱中症防止のためのガイドライン」をご確認ください。 https://neccyusho.mhlw.go.jp/pdf/2026/r8_neccyusho_guidelines.pdf ※2 WBGT……暑さ指数。人体と外気との熱のやりとり(熱収支)に着目した指標で、人体の熱収支に与える影響の大きい@湿度、A日射・輻射(ふくしゃ)など周辺の熱環境、B気温の三つを取り入れた指標 【P54】 TOPIC2 同一労働同一賃金ガイドラインのおもな改正事項  パートタイム・有期雇用労働法では、同一企業内の正社員とパートタイム・有期雇用労働者との間で、待遇(基本給や各種手当、福利厚生など)について不合理な差を設けることを禁止しており、厚生労働省では、その原則となる考え方や具体例、留意事項を示した「同一労働同一賃金ガイドライン」を策定しています。このガイドラインが改正され、2026(令和8)年10月1日より適用となります※。本稿では、本ガイドラインのおもな改正事項を紹介します(編集部)  「同一労働同一賃金ガイドライン」は、どのような待遇差が不合理なのかについて、考え方や具体例などを示したものです。  このたび、ガイドラインに新たに追加された内容は、次の通りです。 ■賞与・退職手当  賞与・退職手当の目的には、労務の対価の後払い、功労報償等のさまざまな目的が含まれます。これらの目的が妥当するにもかかわらず、パートタイム・有期雇用労働者に対し、正社員との間の職務の内容等の違いに応じた均衡のとれた内容を支給しない場合、不合理と認められる可能性があります。 ■無事故手当  正社員と業務の内容が同一のパートタイム・有期雇用労働者には、正社員と同一の無事故手当を支給しなければなりません。 ■家族手当  労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれるパートタイム・有期雇用労働者には、正社員と同一の家族手当を支給しなければなりません。 ■住宅手当  住宅手当が「転居を伴う配置の変更の有無に応じて支給されるもの」である場合、正社員と同一の転居を伴う配置の変更があるパートタイム・有期雇用労働者には、正社員と同一の住宅手当を支給しなければなりません。 ■福利厚生施設  福利厚生施設の料金・割引率等の利用条件について、不合理と認められる待遇差を設けてはいけません。 ■病気休職  正社員に病気休職期間に係る給与の保障を行う場合には、労働契約の更新を繰り返している等、相応に継続的な勤務が見込まれるパートタイム・有期雇用労働者にも、正社員と同一の給与の保障を行わなければなりません。 ■夏季冬季休暇  パートタイム・有期雇用労働者にも、正社員と同一の夏季冬季休暇を付与しなければなりません。 ■褒賞  褒賞が「一定の期間勤続した労働者に付与するもの」である場合、正社員と同一の期間勤続したパートタイム・有期雇用労働者には、通常の労働者と同一の褒賞を付与しなければなりません。 ※ 詳細については厚生労働省ホームページ「同一労働同一賃金ガイドライン」をご確認ください。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000190591.html 【P55】 立川(たてかわ)談慶(だんけい)の人生100年時代の歩き方 第6回 「笠碁(かさご)」から学ぶ「敏感な場面でのエチケット」  「囲碁」を学んでいます。プロ棋士の藤澤(ふじさわ)一就(かずなり)さんと懇意にさせていただいていまして、囲碁の初歩から教えていただいていますが、いやあ、深いのなんの。碁の世界では、「碁盤が宇宙で碁石が星」なんですって。  そして何より自分が深く共鳴したのは、「相手を囲う」ところに真意があるという点です。完膚なきまでに勝つというのではなく、平和的に相手を無力化させてしまうなんて、勝ち負けという「二元論」を超えたところに本当の世界があるのではと、その魅力をいま感じているのです。  そんな碁を取り扱った落語に「笠碁」があります。  仲のよいご隠居同士が、「待った」を巡った些細なことから喧嘩になってしまいます。しばらく雨が続き、やがてお互い「すまないことをしたなあ」と思うようになり、一方のご隠居がお相手のところに笠をかぶって様子を見に行きます。するともう片方のご隠居も、相手が気になるようで碁盤を出しておびき寄せるようにふる舞います。とうとう仲直りして、再び碁盤を囲むのですが、碁盤に水が垂れてきていることに気がつきます。相方は笠をかぶったまんまだったのです。オチは、「お前さん、笠かぶりっぱなしじゃないか」。  「友だちっていくつになってもいいなあ」としみじみ笑える名作です。季節は梅雨時でしょうか。  さて私、この「雨の雫」は、「じつは友人の涙だった」のではと想像しています。つまり、友だちが「申し訳なくて泣いていたのを、相手側が気づかないフリをして笠からの雫のせいにしている」という構図です。友だちって、なくしたときにその大切さに気づくものではないでしょうか。喧嘩別れも死別も、です。  「泣く」ことは人生においてとてもセンシティブな場面です。涙ではなく、笠からの雫のせいにしてあげることで、泣いている相手の心的負担はとても楽になるはずですもの。  具体的には、いまの世なら、だれかが目の前で泣くような場面に接したら、携帯電話が鳴ったフリをしてそこから去るみたいなふる舞いでしょうか。  「笠碁」、短いけど深い一席です。 【P56-57】 BOOKS 社員の健康と幸せを育むには?その道筋が見えてくる実践書 国際規格でつくるウェルビーイング −ISO 25554で考える組織・地域に合わせた設計指針− 佐藤(さとう)洋(ひろし)著/一般財団法人日本規格協会/2970円  2024(令和6)年11月、企業の社員や自治体の住民のウェルビーイング(心身の健康と幸福)の向上に役立つ国際規格「ISO25554」が発行された。組織や地域において、健康と幸福感をいかに促進すべきかを示す指針として、大きな注目を集めている。世界的に高齢化が進むなか、その先進国である日本から、日本の企業の健康経営(★)の考え方をベースにして提案し、開発、発行に至った世界共通の規格だ。  本書は、この規格を活用して、企業の健康経営や地域コミュニティのマネジメントに役立てるための推進方法を案内する一冊。本書によると「ISO25554を実務で使えるかたち≠ノ整理した地図」だという。本書の前半では、ウェルビーイング推進に必要な設計思想とプロセスを示し、後半では、それらが企業・行政・地域でどのように実装されるかを事例と物語を通じて説明していく。実践の枠組みを理解したうえで、後半の事例を読むことで、自社にあったウェルビーイングをかたちにする道筋が見えてくる、という構成になっている。  社員の心身の健康づくりや高齢者も活躍する職場づくりに取り組む企業の担当者らに、手に取ってほしい一冊である。 「時短」と「カイゼン」で仕事も人生もより楽しく!シニアにもおすすめの一冊 トヨタの時短術 原(はら)マサヒコ著/日経BP日本経済新聞出版/1100円  世界最大級の自動車メーカー「トヨタ自動車」は、その成長を支える「トヨタ生産方式」も世界的に有名だ。ムダの徹底的排除の思想と、つくり方の合理性を追求し、よいものを安くタイムリーに生産するモノづくりを示している。  本書は、かつてトヨタ自動車に勤務し、IT企業を経て、自らの会社を立ち上げた著者が、トヨタでつちかった「時短」に関する考え方や「カイゼン」の心がまえなどを解説する。製造業にかぎらず、あらゆる仕事の現場に取り入れられるようにアレンジしたという内容は、「仕事が劇的に速くなるトヨタの5つの言葉」、「1秒をバカにせず小さなことから自動化」、「ミスやムダが激減する自工程完結」など具体的で実践的。すぐに使えるノウハウなどが、ページいっぱいに詰め込まれている。しかし、本書で伝えたいのは単なる時短術ではなく、「仕事にかかる時間を短縮し、人生をよりよくするための時間を作り出すと同時に、仕事の成果を上げるため」の「時短」であると著者は綴っている。  現在の仕事にムダはないか。人生において何を優先すべきか。そんなことも考えさせてくれる。生涯現役を目ざし、仕事も人生もますます楽しみたいというシニアにもおすすめしたい。 いつまでもカッコよく!生涯現役のための食べ方、暮らし方とは? 84歳。食べて、歩いて、カッコよく生きる。 村上(むらかみ)祥子(さちこ)著/プレジデント社/1870円  著者は、転勤族の夫と3人の子どもを育てながら、新聞、雑誌、テレビなどのメディアを通じて、短時間でできる数々のおいしい料理を提案してきた。電子レンジ調理を研究・開発し、その第一人者として、現在も多くのレシピを提案している。  本書は、料理研究家人生60年となった84歳の著者が、料理との歩みをふり返りつつ、いまも毎日よく歩くという元気の秘訣や、80歳を過ぎてから経験した大腿骨の骨折から回復するまでのこと、夫を亡くして十数年前から一人暮らしをしているシンプルな暮らし方などの近況を紹介しながら、一人でも、いくつになっても栄養をしっかり摂ることの大切さを伝える。  「足腰丈夫でピンシャン」と生きるためには、「たんぱく質」が大切であることを強調し、たんぱく質を手間なく摂るための方法も公開。巻末のレシピ集では、手軽に栄養が摂れて気分も上がる「ひとりごはん」の27のレシピをカラー写真つきで紹介。冷凍した野菜やコンビニエンスストアの総菜の活用法、電子レンジだけで仕上げる料理など簡単でありながら、食欲をそそられるものばかり。食べることを大切にして楽しみ、元気に生きるためのコツが満載だ。 クレームは未然に防げる! 起きる理由と対策を徹底解説 社員を理不尽から守り抜く カスハラ・クレーム予防の教科書 高萩(たかはぎ)徳宗(のりとし)著/生産性出版/2200円  カスタマーハラスメント(以下、カスハラ)が社会問題化し、カスハラ防止条例を施行する自治体や、組織として対策に取り組む企業が増えている。2026(令和8)年10月1日には、カスハラ防止対策を講じることを企業に義務づける、改正労働施策総合推進法が施行される。  本書は、理不尽なカスハラ・クレームから社員や現場のスタッフを守るために、現実に即した実効性ある対策を、現場視点で提示する実務書。著者自身も、鉄道会社の現場で受けた暴言などがトラウマとなり、その後も旅行会社や創業した会社での現場運営責任者として、数多くのカスハラやクレームを経験したという。そのなかでつかんだ「理不尽を未然に防ぐ」ための考え方と工夫、社員やスタッフが「守られている」と実感できる組織づくり、組織として理不尽な要求に毅然と対応する体制構築などを説いている。  近年のカスハラやクレームは、企業が受けるダメージを計算して過度な要求を通そうとするようなものが少なくないそうだ。現場を守るためには、「明確な戦略」と「実効性のある対策」が必要であるとして、予防のポイントや対処法をまとめている。人事労務担当者が知っておきたい考え方や知識が得られる良書である。 本誌でもおなじみの脳科学者が贈る、最新ドリル!! もの忘れ・認知症を防ぐ! 脳活ドリル オール新作!たっぷり1000問 篠原(しのはら)菊紀(きくのり)監修/宝島社/1400円  認知症のリスクを下げるためには、体と頭を使うことが大切だ。脳は使うことで活性化し、使えば使うほど元気になるといわれている。  監修者の篠原菊紀さんは、著名な脳科学者で、本誌でも「イキイキ働くための脳力アップトレーニング!」(64ページ)を長期連載中である。  篠原さんは、体を動かすことが脳のハードウェアを守り、問題を解いていく脳トレは、脳のソフトウェアを鍛える役割を果たす、と説く。ルールを記憶し、そのルールに基づく作業は脳の機能「ワーキングメモリ」を重点的に使うそうだ。ワーキングメモリの力は年齢とともに落ちやすいが、鍛えれば伸びやすい機能だという。本書は、漢字の読み書きといった親しみのある問題から、「流行語思い出し問題」、「足し算ピラミッド」などユニークな問題までバラエティに富んだ内容で、飽きずに進められるドリルになっている。自分の脳年齢がわかる「脳年齢チェックテスト」、折り紙や健康に生きるための知恵を紹介するページもあり、問題を解きながら楽しむこともできる。  なかなか解けない問題に「あがく」ことが、脳の活動を高め、ネットワークを強化するという。「そろそろかな」と思ったら、ぜひ。 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 「第12次職業能力開発基本計画」を策定  厚生労働省は、2026(令和8)年度から2030年度までの5年間にわたる職業能力開発の基本方針を示した「第12次職業能力開発基本計画」を策定した。  今回の計画では、産業構造の急速な変化や人口減少にともなう労働供給制約のなかで、産業界等や成長分野等に必要な人材を戦略的に育成・確保するとともに、労働市場の「見える化」など職業能力開発の基盤を整備するとの方針を示している。  また、個人の自律的・主体的なキャリア形成支援や、企業における職業能力開発の充実等を推進することで、労働生産性の向上と労働者の自己実現や処遇向上等を図り、経済社会の成長につながるよう職業能力開発施策を推進するとしている。  今回の計画のポイント(職業能力開発の今後の方向性)として、おもに次の項目を掲げている。 @今後求められるスキルの変化に対応した戦略的な職業能力開発支援の推進 A労働市場でのスキル等の見える化の促進 B個人のキャリア形成と職業能力開発支援の充実 C企業の職業能力開発への支援の充実 D多様な労働者の能力発揮に向けた職業能力開発の推進 E技能五輪国際大会を契機とした技能の振興  このほか、職業能力開発分野の国際連携・協力の推進にかかわる施策の実施も掲げている。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_72145.html 厚生労働省 「令和7年賃金構造基本統計調査」結果を公表  厚生労働省は、「令和7年賃金構造基本統計調査」の結果を公表した。  調査は、2025(令和7)年6月分の所定内給与について調べたもので、今回まとめられたのは、常用労働者10人以上規模の約5万2200事業所について集計したもの。  調査結果によると、一般労働者(短時間労働者以外の労働者)の男女計の賃金額は34万600円(前年比3.1%増)、男女別では、男性37万3400円(同2.8%増)、女性28万5900円(同3.9%増)となっている。男女間賃金格差(男=100)は、76.6(前年差0.8ポイント上昇)となっている。  男女別・年齢階級別に賃金カーブをみると、男性では、55〜59歳で44万5600円(20〜24歳の賃金を100とすると181.4)と賃金がピークとなり、その後下降している。女性では、45〜49歳および55〜59歳の30万5700円(同127.6)がもっとも高くなっており、男性に比べ賃金の上昇が緩やかになっている。  短時間労働者の1時間あたり賃金は、男女計1518円(前年比2.8%増)、男性1769円(同4.1%増)、女性1418円(同2.2%増)となっている。男女別に1時間あたり賃金を年齢階級別にみると、1時間あたり賃金がもっとも高い年齢階級は、男女とも35〜39歳で、男性では、2709円、女性では、1569円となっている。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/chingin/kouzou/z2025/index.html 厚生労働省 「働きがいのある職場づくりのための支援マニュアル」を作成  厚生労働省は、企業における働きがい向上の取組みを支援するために「働きがいのある職場づくりのための支援マニュアル」を作成した。  働き手の減少や働き方の多様化などから、日本の労働環境は大きな転換期を迎えているといわれる。そのような時代に企業が持続的に成長し、社会に貢献し続けるためには、生産性の向上と個人のウェルビーイングを両立させることが重要であり、その鍵となるのが、「働きがい」(ワークエンゲイジメント)であるとして、厚生労働省はその重要性を広く伝えるための取組みを進めている。  「働きがいのある職場づくりのための支援マニュアル」は、はじめに働きがいの向上がもたらす従業員への効果とそれによる企業にとってのメリットについて説明。本編は大きく二部に分かれた構成となっており、前半では、働きがい向上への取り組み方を、企業における体制づくり、課題の特定、施策の展開、取組みの効果検証のステップに分けて詳しく説明している。後半では、先進的に働きがい向上に取り組む企業10社の事例を掲載し、大企業、中小企業におけるそれぞれの取組みの背景・目的、内容、工夫と、「採用競争力や従業員の定着率に好影響を与えている」といった取組みによる効果などを紹介している。マニュアルは、左記のウェブサイトからダウンロードが可能。 ◆働き方・休み方改善ポータルサイト(ワークエンゲージメント専用ページ) https://work-holiday.mhlw.go.jp/workengagement/ 【P59】 読者アンケートにご協力をお願いします! いつも本誌をご愛読いただき、ありがとうございます。 『エルダー』では、よりよい誌面をつくるため、読者アンケートを実施しています。 ご回答いただき、みなさまの声をお聞かせください! 回答方法 今号に同封した「読者アンケート」用紙にご記入のうえ、Faxにてお寄せください。 Fax番号はこちら→043-213-6556 Webでの回答も可能です。 回答用二次元コードはこちら→ ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://krs.bz/jeed/m/elder_enquete であることをご確認のうえアクセスしてください 本誌はデジタルブックで読むことができます! スマートフォンやパソコンでいつでも無料でお読みいただけます。ぜひ、ご利用ください! 自由に拡大できて便利! 読みたいページにすぐ飛べる! ★高齢者雇用のさまざまな課題などをテーマに現状と対応策などを紹介 ★高齢者雇用に取り組む経営者、人事労務担当者、いきいきと働く高齢者本人の声を紹介 ★最新号は毎月5日ごろJEEDホームページにアップされます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/index.html JEED エルダー 検索 〈お問合せ先〉企画部 情報公開広報課 TEL:043-213-6200 【P60】 次号予告 8月号 特集 仕事と介護の両立支援に向けて リーダーズトーク 藤井賢一さん(大同メタル工業株式会社 執行役員 人事企画ユニット人事企画センターチーフ) 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder JEED メールマガジン 好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.htmlであることを確認のうえアクセスしてください。 編集アドバイザー(五十音順) 池田誠一……日本放送協会解説委員室解説委員 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐藤弘太……日本商工会議所産業政策第二部労働担当課長 谷圭一郎……日清食品ホールディングス株式会社 グローバル人事部次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TISI 株式会社人事本部人事部 山ア京子……明治大学商学部特任准教授、日本人材マネジメント協会理事長 編集後記 ●今号の特集は「新任人事担当者のための高齢者雇用入門」をお届けしました。2021(令和3)年に改正高年齢者雇用安定法が施行され5年が経過しました。70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となり、厚生労働省の「令和7年高年齢者雇用状況等報告」によると、34.8%の企業が70歳までの高年齢者就業確保措置を導入しています。改正法が施行された直後の「令和3年高年齢者雇用状況等報告」での25.6%から約10ポイントの増加で、わが国における高齢者雇用は着実に進展していることがわかります。  一方で、約65%の企業は依然として70歳までの就業機会の確保に向けた取組みが進んでいないということでもあります。ぜひ本企画を参考にしていただき、高齢者雇用の推進に取り組んでいただければと思います。 ●新連載「サステナビリティを高めるシニア人材活用戦略」がスタートしました。人的資本経営の視点を交え、会社にとってのシニア人材の価値について全6回で解説します。ぜひお楽しみにしてください。 ●読者アンケートへのご協力をお願いします(上記の二次元コードからもご回答いただけます)。ご意見・ご感想のほか、「このテーマについて深掘りしてほしい」などのご要望もお待ちしています。 月刊エルダー7月号 No.560 ●発行日−令和8年7月1日(第48巻 第7号 通巻560号) ●発行−独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人−企画部長 鈴井秀彦 編集人−企画部次長 石井伸明 〒261-8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 (企画部情報公開広報課) FAX 043(213)6556 ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp ●編集委託 株式会社労働調査会 〒170-0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 読者の声 募集! 高齢で働く人の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用・雇用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字〜1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 【P61-63】 技を支える vol.365 技能グランプリに出場を続け、次代へ技をつなぐ タイル工 勝呂(すぐろ)高也(たかや)さん(67歳) 「仕上がりの出来栄えが目に見えるのがタイル張りのよさ。お客さまに喜んでいただけると、次の仕事への励みになります」 タイル張り職種の競技で金賞厚生労働大臣賞を受賞  色の異なるタイルを加工し組み合わせて表現した2羽の折り鶴。今年開催された「第33回技能グランプリ※1」のタイル張り職種の課題を、有限会社丸まる勝かつ工業(東京都世田谷区)代表取締役の勝呂高也さんが一部再現したものだ※2。タイル工として46年のキャリアを持つ勝呂さんは、この競技で最高位の金賞と厚生労働大臣賞を受賞した。  同大会のタイル張り職種は、2017(平成29)年の第29回大会で新設された。その際、所属する東京都タイル技能士会から声がかかり、「若手の見本になれば」と出場、銅賞を受賞した。その後、エントリー数が規定を下回り競技が中止になったことがあった。技能グランプリは、現場ではなかなか経験できない、技術と真剣に向き合う貴重な機会。職人が技を磨く場を守りたいという思いから、「現役のうちは出場を続けよう」と決心し、出場を重ねてきた。  ところが、今大会で金賞を受賞したことで、次回以降の出場資格を失うことになった。「今回が最後の出場になるとは思ってもいませんでした」と苦笑した。 現場で失われつつある伝統工法の重要性  技能グランプリで必要となる工法の一つに「積み上げ張り」がある。タイルの裏にモルタルを盛り、張った糸に合わせて1枚ずつ張っていく伝統的な工法だ。現在は複数枚のタイルを接着剤で一度に張る工法が主流で、現場で用いられることはあまりない。それでも「基本があって応用ができる」と勝呂さんはその重要性を説く。  「積み上げ張りは非効率ですが、理論的にはもっとも正確な工法です。例えば下地に凹凸がある場合でも、1枚1枚のモルタルの量を調整することでタイルを平滑に張ることができます。積み上げ張りを身につけることで、応用がきくのです」  積み上げ張りのむずかしさは、モルタルの量の見きわめと、モルタルに使うセメントと砂の配合にある。  「どちらも数値化がむずかしく、長年の経験がものをいいます」  勝呂さんが「これまで出場した大会のなかで一番面倒な課題」というのが、折り鶴の絵柄をタイルで表現する部分だ。  「折り鶴を表現するには、複数のタイルを多様な角度でカットする必要があるため、図面を起こし、それに合わせて1枚ずつカットしていくしかないんです」  大会に向けて、その練習を20回以上行い、カットに使う工具も工夫した。今回の大会で課題を標準時間内に完成させたのは、勝呂さんだけだった。徹底した事前準備が結果につながった。 磨き続けた技を次の世代につなぐ  丸勝工業は、勝呂さんが生まれたころに父親が創業。タイル工事は子どものころから身近な存在で、学校の夏休みに仕事を手伝うこともあった。一時は設計士を目ざし短期大学の建築科に進学したが、独り立ちするのはなかなかむずかしいと感じ、家業を継ぐ道を選んだ。  当初は社内の腕のよい職人につき、手伝いから始めた。その職人が2年余りで退職すると、一人でやらざるを得なくなった。そこからは独学で研鑽を積んだ。  「期限内に仕上げなければならないのに技術が追いつかず、昼休みに現場で練習したり、残業や休日出勤を続けたこともあります」  その後、1級タイル張り技能士を取得し、東京都タイル技能士会に入会してさらに技術を磨いた。同会では会長も務めた。  現在は一人で仕事をするかたわら、知合いの同業者の若手に技能検定の指導を行っている。東京都の技能継承動画「TOKYO匠の技」では、積み上げ張りなどを実演した。  「動画を見た若い職人が『勉強になった』と声をかけてくれたときはうれしかったです」  「この技術をなくしたくない」と語る勝呂さんは、意欲のある若い世代をこれからも応援していく考えだ。 TEL:03(3410)3886 (撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英) ※1 熟練技能者が「技」を競い合う国内最高峰の技能競技大会(隔年開催) ※2 上の写真は目地を詰める前の状態 写真のキャプション 技能グランプリの課題を20回以上練習して本番に臨んだ。接着剤を塗ってから20分ほどで表面が乾いてしまうため、段取りを組んで一気に張る必要がある 建築系のイベントで、タイルに親しんでもらうため、タイルを使った工作教室を開いている。カラフルなタイルが子どもたちに人気だ 技能グランプリでの積み上げ張りの様子。糸を張って基準を定め、タイルの裏にモルタルを盛り、糸に合わせて1枚ずつ張っていく(写真提供:中央職業能力開発協会) タイルを張る基準となる墨を打つための定規を土台に固定する。仕上がりの精度を左右する工程だ(写真提供:中央職業能力開発協会) タイル張りはコテを使いこなす技能でもある。下地のモルタルを平滑にしたり、目地を整えたりするのに、さまざまなコテを使い分ける 技能グランプリの課題の図柄をもとに作成した図面。この図面に合わせて、四角いタイルを必要な形にカットする。短大で建築を学んだ経験が作図に生きている タイルをすべて張り終えたら、目地の幅が均等になるように調整を行う。接着剤が乾くまでにやり終える必要があり、時間との戦いでもある 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回の問題の「サイコロ計算」は、前頭前野と頭頂葉を同時に刺激し、注意力や記憶力、空間認識を高める脳トレです。高齢者向けの認知症予防プログラムや子ども向けの脳トレ教材にも応用されています。 目標3分 第109回 サイコロ計算 問題 1 次のサイコロの数字を計算してください。 @ 5×4+3+2×6= A 6×6+5×3+1= 問題 2 次のサイコロの裏面の数字を計算してください。 ヒント:サイコロは向かい合う面の数字を足すと7になります。 @ 3×2×4+1×3= A 1×4×4−5×2= サイコロ計算で脳を活性化!  サイコロ計算は、脳科学の観点から前頭前野と頭頂葉を同時に活性化する課題として知られています。前頭前野は、「注意の切り替え」、「情報の保持」、「計算手順の制御」をにない、頭頂葉は、数の認識や空間的な位置関係の処理を担当します。複数のサイコロの数字を見て瞬時に計算する作業は、ワーキングメモリ(作業記憶)を継続的に使用するため、脳の情報処理速度や集中力の向上に役立つと考えられています。  なかでも特徴的なのが、サイコロの「裏面」を用いる計算です。一般的なサイコロでは、向かい合う面の合計が必ず7になるという規則があります。単なる計算だけでなく、視覚情報を一度保持し、規則に基づいて変換してから再計算する必要があります。  脳科学的には、この「保持→変換→計算」という一連の処理が、実行機能と呼ばれる高次認知機能を刺激します。特に前頭前野は、複数の情報を同時に扱いながら正しい手順を維持する際に強く活性化します。また、サイコロの見えない面を想像する作業は空間認識にも関係し、頭頂葉の働きも促進されます。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。人システム研究所所長、公立諏訪東京理科大学特任教授。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『何歳からでも間に合う 脳を鍛える方法』(徳間書店)など著書多数。 【問題の答え】 問題1 @35、A52 問題2 @84、A44 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2026年7月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontU7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 『70歳雇用推進事例集2026』のご案内  2021(令和3)年4月1日から、改正高年齢者雇用安定法が施行され、70歳までの就業を確保する措置を講ずることが事業主の努力義務となりました。  本事例集では、70歳以上の定年引上げ、70歳以上の継続雇用制度の導入、定年制の廃止を実施した事例を掲載しています。  各事例では、高齢社員の戦力化や賃金制度、安全衛生などについて詳しく紹介しています。 □インタビュー形式で掲載  制度改定の経緯や苦労話をインタビュー形式で紹介しています。 □検索ガイドを掲載  企業規模や業種を越えた共通の課題に対応した事例を検索することができます。 『70歳雇用推進事例集2026』はJEEDホームページから無料でダウンロードできます https://www.jeed.go.jp/elderly/data/manual.html 70歳雇用推進事例集 検索 独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)高齢者雇用推進・研究部 2026 7 令和8年7月1日発行(毎月1回1日発行)第48巻第7号通巻560号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈編集委託〉株式会社労働調査会