Leaders Talk No.134 男女がともに家庭責任をにないながら女性がキャリアアップできる社会を 公益財団法人21世紀職業財団 会長 定塚由美子さん じょうづか・ゆみこ 1984(昭和59)年労働省(現厚生労働省)入省。雇用均等・両立支援を中心に労働関係、福祉関係行政にたずさわる。内閣官房内閣人事局内閣審議官、厚生労働省社会・援護局長、大臣官房長、人材開発統括官等を経て2020(令和2)年に退官。2023年6月より現職。  1986(昭和61)年に男女雇用機会均等法が施行されてから40年。日本における女性活躍推進の取組みは着実に進歩している一方、世界各国と比較するとまだまだ十分とはいえません。今回は、厚生労働省で雇用均等政策にたずさわり、現在は21世紀職業財団会長として、女性活躍推進やハラスメント防止に取り組む定塚由美子さんに、日本における女性活躍推進の現状と課題についてお話をうかがいました。 「ダイバーシティ推進」と「ハラスメントのない職場づくり」二つの事業を柱に企業を支援する公益財団法人 ―定塚さんが会長を務める21世紀職業財団の活動内容について教えてください。 定塚 当財団は男女雇用機会均等法(以下、「均等法」)が施行された1986(昭和61)年に設立されました。均等法の周知啓発や研修などによる支援を目的に、旧労働省が経済団体や企業などに働きかけて「財団法人女性職業財団」として発足し、1993(平成5)年に現在の名称に変更し、2013年に公益財団法人になりました。育児休業関連の助成金などを国に代わって支給する指定法人の時期もありましたが、1993年以降は自らの事業で独立した運営を行っています。  現在は、「ダイバーシティ推進」と「ハラスメントのない職場づくり支援」の、おもに二つの事業を展開しています。  ダイバーシティ推進事業では、顧客企業の課題やニーズに応じたオーダーメイド研修のほか、ダイバーシティ推進や女性活躍推進のための調査・コンサルティング、会員制プログラムである「女性活躍サポート・フォーラム」、女性役員育成プログラム「女性部長のためのNext Step Forum」などを実施しています。女性活躍サポート・フォーラムは、100社以上の会員企業が参加し、@「DEI推進責任者会議」、A管理職一歩手前の「女性のためのエンパワーメント21世紀塾」、B課長職向けの「女性管理職研修」、C管理職ではない40〜50代の女性対象の「これからの仕事と生き方を考えるIt's My Turnセミナー」などを開催しています。  ハラスメント対策では、オーダーメイド研修・各種セミナーや調査、事案解決支援に向けたコンサルティングのほか、ハラスメントの社外相談窓口や公益通報受付窓口サービス業務を行っています。また当財団が認定する「21世紀職業財団認定ハラスメント防止コンサルタント○R(★)」の養成講座と認定試験を実施しています。  二つの事業は対価をいただいていますが、社会貢献事業としての調査研究、だれもが参加できる年2回のシンポジウムの開催などにも取り組んでいます。 ―均等法施行から40年。日本の女性活躍推進の現状をどのようにとらえていますか。 定塚 この40年は、三つの時期に分けられると考えています。第1期(1985〜2000年ごろ)は均等法施行後、男女差別の解消が進み、女性総合職の採用もはじまりましたが、実際には総合職が増えて定着するまでには至りませんでした。その要因としては、法施行後、企業や地域の組織文化の変容には至らなかったことが一番大きかったと思います。加えて、バブルが崩壊し、経済が厳しくなったこともマイナスの要素となりました。  この状況が変わりはじめたのが第2期(2000〜2015年ごろ)です。経済情勢が好転し、採用活動が活発化するなかで、女性を本格的に採用しようという企業が増えてきました。それを促進したのが、1997年の均等法改正により、募集・採用、配置・昇進を含む差別が禁止されたことに加え、ポジティブ・アクション※1に対する国の支援が盛り込まれたことです。労働基準法の女子保護規定も改正され、2006年の2回目の均等法改正(男女双方の差別禁止、間接差別禁止など)も追い風となりました。  第3期(2015年〜)は、「女性活躍」、「ダイバーシティ」という言葉を中心に、取組みが加速します。大きなポイントは「経営戦略としてのダイバーシティ」の重要性に企業が気づきはじめたことです。それまでの女性活躍の取組みは、女性を人権の観点から差別しないという文脈で語られてきました。そうではなく、家庭や社会の経験を含むさまざまな経験や価値観を持つ人が企業に存在し、お互いに議論や意見交換ができることが企業経営にもプラスになる、というダイバーシティの理解が徐々に進んだことです。2015年の女性活躍推進法の成立も企業の行動の大きな後押しとなりました。 依然として低いジェンダー・ギャップ指数女性リーダーの拡大と男女賃金格差の解消を ―一方で日本のジェンダー・ギャップ指数※2は国際的にも低い状況にあります。今後の課題とは何でしょうか。 定塚 ジェンダー・ギャップ指数の日本の順位は、2025(令和7)年は前年と同じ118位(148カ国)でした。先進国では最下位、アジアの国々のなかでも低いですし、きわめて後れている状況にあります。課題の一つは、女性リーダーの拡大です。女性管理職だけではなく、自治会などの地域のリーダーや政治家もきわめて少ない現状を変えていくことが必要です。もう一つの課題は、男女間賃金格差の解消です。いわゆるM字カーブが改善され、女性の労働力率は高まっていますが、その中身は賃金が低い非正規雇用が多いという実態もあります。  私たちは女性の活躍に向けた段階を3段階でとらえています。第1段階は「女性は子どもができたら退職があたり前」という社会。第2段階は女性がかろうじて仕事と育児・介護を両立している状況で、現状はこの段階にあります。目ざすべきは、第3段階の「男女ともに家庭責任をにないながらしっかりキャリアアップできる社会」です。  そのためには、男性も含めて仕事と育児・介護の両立が可能な働き方改革の推進が必要です。同時に女性自身の能力発揮・職域拡大・登用の三つが不可欠だと考えています。男性の育休取得率は向上していますが、育休後は子どもが病気になると休みを取るのは女性であることが多く、短時間勤務も女性が圧倒的に多いのが現状です。子育てを女性と男性がともにになうことが、女性のキャリア形成を支援していくことにつながります。 ―これまで定年・再雇用というと男性が多かったと思います。今後は定年・再雇用を迎える女性も増えていくと思われます。定年以降も女性が活躍していくうえで、企業にはどのような取組みが求められるでしょうか。 定塚 男女にかかわらず、本人の意欲と能力に応じて適切な仕事を用意するように努めてもらうことが基本です。一方で、“男性の再雇用”という前提で定年以降の職場や仕事を考えてはいないでしょうか。再雇用社員の仕事や役割が、男性向けの仕事や役割に偏っていないかを考えてみる必要があります。会社によっても違うと思いますが、定年以前の男女の配属先が異なっているケースもあります。これまでの経験値が男性と女性で違うこともありますし、それはそれで問題でもありますが、定年以降の仕事についても女性がこれまでの仕事や経験が活かせるポストを用意することが、定年後も女性が活躍していくためには重要でしょう。  また、女性は地域とのつながりが強い人が多く、いわゆる“ママ友”などの知合いも少なくありません。例えば、企業が地域で社会貢献活動をしたいと考えたとき、女性の力を活用するのも有効だと思います。もちろん企業内で働いてもらうことが大切なのですが、地域・社会貢献を企画する場合、その地域で長年暮らしてきた女性、特に中高年女性の意見を聞くことで、よい結果につながるのではないかと思います。 年齢に関係なく「人は生涯成長できる」あきらめることなく挑戦を続けてほしい ―定年以降も働きがいを感じて活躍していくうえで、働く女性が持つべき心構え、キャリア形成のポイントとは何でしょうか。 定塚 私自身も同世代ですが、「人は生涯成長できる」という信念を持っています。女性の場合、育児や介護などで忙しい時期が長く、一段落するのは50歳ごろだったという人も多いのですが、そこからでも、いろいろなことを学んでステップアップすることは十分に可能です。定年以降もまだまだ成長できますし、自分の人生をどうしたいのかを真剣に考え、あきらめることなく挑戦してほしいと思います。  ちなみに私の場合は58歳のときに役所を退職したのですが、「これからは3分の1を仕事、3分の1をボランティアなどの社会活動、残りの3分の1をプライベートの充実に充てよう」と人生のポートフォリオを考えました。 ―現在注目しているダイバーシティやハラスメントに関するテーマはありますか。 定塚 女性活躍推進法の改正により、2026年4月より、男女の賃金差異の公表義務の対象範囲が101人以上300人以下の中小企業まで広がりました。私たちとしても、賃金格差の是正を含めた女性活躍の支援に取り組んでいきたいと思っています。  また、最近気になっているのは、自治体トップのハラスメントが頻発していることです。企業を含め、トップのハラスメントは組織文化が変わっていないことの証左だと思います。ハラスメントの前提となるような組織の風通しの悪さ、上に遠慮して何もいえないという風土を変革し、風通しのよい文化にしていくことが重要だと思います。 (聞き手・文/溝上憲文、撮影/中岡泰博) ★「21世紀職業財団認定ハラスメント防止コンサルタント○R」は、公益財団法人21世紀職業財団の登録商標です。 ※1 ポジティブ・アクション……固定的な男女の役割分担意識や過去の経緯から、「営業職に女性はほとんどいない」、「課長以上の管理職は男性が大半を占めている」等の差が男女労働者の間に生じている場合、このような差を解消しようと、個々の企業が行う自主的かつ積極的な取組み ※2 ジェンダー・ギャップ指数……世界経済フォーラムが、経済、教育、健康、政治の分野ごとに各使用データをウエイトづけして算出している、各国の「男女格差」の指標