特集 新任人事担当者のための高齢者雇用入門  今回は、「新任人事担当者のための高齢者雇用入門」と題し、高齢者雇用の現状や課題、取組みを推進するうえで重要となる3テーマについて解説します。  改正高年齢者雇用安定法の施行により70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となって5年。高齢者雇用の取組みは着実に進展していますが、70歳まで働ける仕組みを整えている企業は約35%にとどまっています。新任人事担当者の方はもちろん、ベテラン担当者や経営者のみなさまにも本企画をご一読いただき、高齢者雇用の推進にお役立てください。 総論 高齢者雇用の現状と課題 高千穂大学 経営学部 教授 田口(たぐち)和雄(かずお) ※このマンガに登場する会社・人物はすべて架空のものです 1 はじめに〜職場で活躍する高齢者の日常  職場で高齢者が活き活きと活躍している姿は、いまや日常的な光景となりました。これは平成期に政府が進めた高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)の改正、そのなかでも2004(平成16)年改正(2006年4月施行)の高齢法が企業に義務づけた「65歳までの雇用確保措置」を受けて、希望すれば65歳まで働くことができる就労環境が整備されたことに加えての動きです。  さらに、令和期に入った2020(令和2)年改正(2021年4月施行)の高齢法により、「70歳までの就業確保」の努力義務が企業に課せられ、高齢者雇用は70歳就業時代に向かうことになりました。  この春に人事部に異動された読者のみなさまは、現在の高齢法により高齢者雇用がどのような状況にあるのかを理解するのがむずかしいと感じられるかもしれません。そこで、総論では2020年改正・2021年4月に施行された高齢法の概要をふり返るとともに、政府統計をもとに現在の高齢者雇用における現状を確認し、70歳就業時代となった令和期の高齢者雇用の課題を考えていきたいと思います。 2 高年齢者雇用安定法の概要  まず高齢法が改正に至った背景から確認します。わが国は少子高齢化が急速に進み、2008年の1億2808万人をピークに人口は減少に転じ、人口減少時代に突入しました。一方で日本の労働力人口(15歳以上人口のうち、就業者と完全失業者を合わせた人口)は、1990年の6394万人から2022年の6902万人へと増えていますが、今後は減少に転じ、2030年には6556万人、2040年に6002万人に減少すると見込まれます※1。  こうした人口減少時代において、経済の活力を維持するには、働き手を増やすことがわが国の重要な政策課題の一つになっています。さらに、個々の労働者の特性やニーズが多様化しているなか、「将来も安心して暮らすために長く働きたい」と考える労働者も増えており、高齢期になっても能力や経験を活かして活躍できる環境の整備がいっそう求められています。こうした背景のもと、高齢法は2020年に改正されました。  2020年に改正された高齢法(以下、「新高齢法」)のポイントは事業主(以下、「企業」)が高齢者の多様な特性やニーズをふまえ、70歳まで就業機会を確保(「高年齢者就業確保措置」)できるよう、従来の高齢法(以下、「旧高齢法」)の規定(「高年齢者雇用確保措置」)に加え、企業に多様な選択肢を制度として整える努力義務が設けられている点です(図表1)※2。  旧高齢法の規定は大きく2点あります。第一に企業が定年を定める場合は60歳以上としなければならないこと。第二にそのうえで65歳までの雇用機会を確保するために、企業は図表2(9ページ)の上段に示す三つの制度のいずれかを「高年齢者雇用確保措置」(以下、「雇用確保措置」)として設けることが義務づけられていることです。つまり、65歳まで自社あるいは自社のグループ企業で「雇用」する場を設けることが企業に求められています。  新高齢法では、前記の雇用確保措置に加えて70歳までの就業機会を確保するため、企業に対して図表2(9ページ)の下段に示す五つの制度のいずれかを「高年齢者就業確保措置」(以下、「就業確保措置」)として講じる努力義務が新たに設けられました。  旧高齢法と比べた新高齢法のおもな特徴は次の2点です。第一は、「自社グループ外での継続雇用が可能になった」ことです。Bの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入について、雇用確保措置では60歳以上65歳未満の雇用は自社と特殊関係事業主(自社の子法人等、親法人等、親法人等の子法人等、関連法人等、親法人等の関連法人等)のみでしたが、就業確保措置では65歳以上70歳未満の高齢者に対してそれらに加えて、「他の事業主」が追加されました。すなわち、自社の高齢者が継続雇用制度で働く場が自社や自社グループにとどまらず、他社や他社グループ企業に拡大された点です。  第二は「雇用によらない働き方」が可能になったことです。就業確保措置の@〜Bの制度はこれまでの自社あるいは他社で「雇用される働き方」(以下、「雇用措置」)であるのに対し、CとDの制度は「雇用によらない働き方」で「創業支援等措置」と呼ばれます。Cは会社から独立して起業した者やフリーランスになった者と業務委託契約を結んで仕事に従事してもらう方法、Dは企業が行う社会貢献活動に自社の高齢者を従事させる方法です。  近年、働く人たちの多様なニーズに応えた働き方が誕生していますが、高齢者でも同様のニーズが高まることも考えられ、2020年の改正で創業支援等措置が設けられました。この創業支援等措置を導入する場合、企業は過半数労働組合等※3の同意を得て導入することが求められます。  このように65歳以降は自社(自社グループ)での「雇用」に限定せず、他社での雇用やフリーランスとしての業務委託などの働く場の選択肢が示されていることから「就業」と呼ばれています。 3 高齢者雇用の現状〜雇用と就業の状況  高齢者雇用の現状を政府統計から確認します。図表3(10ページ)は2000年以降の高齢法の改正にあわせた2006年(2004年改正の「高年齢者雇用確保措置義務化」の施行年)、2013年(2012年改正の「継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止」の施行年)、2023年(2020年改正・2021年施行の「高年齢者就業確保措置の努力義務化」)の3時点の高年齢者の雇用と就業の状況を整理したものです。  まず企業の雇用状況を確認すると、雇用確保措置を実施している企業(高年齢者雇用確保措置実施企業)の推移は2006年(84.0%)、2013年(92.8%)、2023年(99.9%)と着実に増加しています。そのなかでも2012年改正の「継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止」は実質65歳定年制に向けた転機となり、現在、ほとんどの企業で65歳まで働くことのできる環境が整備されている状況にあります。こうした動きにあわせて希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合(2006年:34.0%、2013年:62.4%、2023年:81.8%)も順調な拡大傾向にあり、2023年では8割を超える高い水準にあります。なお、70歳以上まで働ける企業の割合は希望者全員が65歳以上まで働ける企業の割合に比べ低い水準(2006年:11.6%、2013年:16.7%、2023年:40.9%)にあるものの、70歳就業時代に向けて着実にその割合は増えており、2023年では約4割に達しています。  次に高年齢者の状況を確認します。図表3をみると、60歳から64歳までの「60歳台前半層」の就業状況の推移は2006年(52.6%)、2013年(58.9%)、2023年(74.0%)と上昇傾向にあり、そのなかでも2013年から2023年までの10年間の上昇幅(58.9%→74.0%:15.1ポイントの増加)は、2006年から2013年への上昇幅(52.6%→58.9%:6.3ポイントの増加)と比べ2倍以上です。65歳定年への定年年齢の引上げが多くの企業で進められているなかで、65歳まで働くことが一般的なキャリアになりつつあることがわかります。実質65歳定年制を迎えた後の60歳台後半層(65〜69歳)の3時点の就業状況の推移についても、60歳台前半層と同じ傾向(@右肩上がりの増加傾向、A2006年から2013年の増加幅に比べた2013年から2023年までの増加幅が大きいこと)が確認されます。60歳台前半層の就業状況が増えているのは年金受給開始年齢の引上げがかかわっていますが、それだけではなくライフスタイルの変化もかかわっています。そのことは、60歳台後半層の就業状況の推移――水準は60歳台前半層より低いものの増加傾向にあること――が物語っています。2023年には、65歳以上の約4人に1人(25.2%)が、70歳以上は約5.4人に1人(18.4%)が働いている状況となりました。このように高齢者雇用は70歳就業時代に向けた対応が求められています。 4 おわりに〜求められる高齢者の心技体と高齢者雇用のアップデート  人口減少時代のなかで、総労働力人口における60歳以上の労働力人口の比率は1990年の11.5%から2022年の21.5%へと拡大しています※4。現在50代の団塊ジュニア世代が2030年代には60代になるので、60歳以上の労働力人口比率は今後とも拡大することが予想され、高齢社員の戦略的活用(正社員と同じように経営成果に貢献する戦力としての活用)が不可欠となるため、70歳までの就業環境の整備が企業に求められます。つまり、「高齢者の心(就労意識)・技(スキル・能力)・体(健康)と高齢者雇用のアップデート」です。そこで、最後に今後の高齢者雇用の課題として大きく2点を取り上げます(図表4)。  一つめは、就労意識(心)とスキル・能力(技)のアップデートに向けた自己啓発支援やキャリアサポートの整備・拡充です。役職定年制の導入にともなう「くだりのあるキャリア」への変化や、定年後の就労期間の延伸により、従来の「のぼるキャリア」のもとでの「現有能力の活用」は継続困難となりました。役職定年後の就労期間が長くなるなかで社会や技術の変化に対応するためには、現有能力(技)は単なる更新ではなく「進化」(アップデート)が必要となります。そのため、企業にはキャリア支援体制のさらなる拡充が、高齢社員には戦力としてのキャリアの自律や就労意識(心)のアップデートがいっそう求められるようになりました。高齢社員が活き活きと活躍し続けるためには、管理職の段階から準備しておくことが必要です。また、企業は教育訓練体系の見直しを進め、すべての社員にキャリアの自律や就労意識のアップデートをうながし、「学び直し」や「リスキリング」などのための自己啓発支援やキャリアサポートを整備・拡充することが求められます。  二つめは、健康(体)のアップデート(健康確保)に向けた職場環境の改善(アップデート)です。私たち人間にとって加齢にともなう身体機能の低下は避けられない課題であり、健康や体力の状況は高齢になるほど個人差が大きくなるとされています。高齢社員の健康確保は企業にとって重要な課題となり、高齢社員の健康や体力の状況把握をていねいに行うとともに、身体機能の維持向上に向けた健康づくり活動を推進していくことが求められます。さらに、身体機能の低下への配慮が必要となる高齢社員にとって、これまでの一般的な正社員を前提にして整備されている職場環境は働きにくい環境です。加えて、2025年6月に施行された労働安全衛生法に基づく労働安全衛生規則の改正により、熱中症対策の義務が企業に課せられました。今後とも高齢社員が健康で活躍できる機会を提供していくには、高齢社員に配慮した安全な職場環境の改善・拡充が求められます。詳しくは解説3であらためて取り上げます。 ※1 (独)労働政策研究・研修機構の推計(労働政策研究・研修機構〔2024〕「2023年度版労働力需給の推計」)。この数値は一人当たりゼロ成長に近い経済状況のもと、労働参加が2022年と同水準で推移した場合(一人当たりゼロ成長・労働参加現状シナリオ)の値。なお、経済・雇用政策を講じ、成長分野の市場拡大が進み、女性および高齢者等の労働市場への参加が進展する場合(成長実現・労働参加進展シナリオ)は、2030年に6940万人と増加した後、2040年に6791万人に減少すると推定している ※2 なお、2012年度までに労使協定により継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めていた事業主は、経過措置として2025年3月31日まで老齢厚生年金の報酬比例部分の支給開始年齢以上の年齢の者について、継続雇用制度の対象者を限定する基準を定めることが認められていたが、2025年4月1日以降は高年齢者雇用確保措置として、定年制の廃止、65歳までの定年の引上げ、希望者全員の65歳までの継続雇用制度の導入のいずれかの措置を講じる必要がある ※3 過半数労働組合等……労働者の過半数を代表する労働組合がある場合には労働組合を、労働者の過半数を代表する労働組合がない場合には労働者の過半数を代表する者をそれぞれさす ※4 総務省「労働力調査」 図表1 新高齢法と旧高齢法の比較 旧高齢法 新高齢法(2020年改正・2021年施行) 高年齢者雇用確保措置(65歳までの雇用確保措置) ○(義務) ○(義務) 高年齢者就業確保措置(70歳までの就業確保措置) − ○(努力義務) ※筆者作成 図表2 新高齢法の概要 制度 内容 高年齢者雇用確保措置(義務) @65歳までの定年引上げ A定年制の廃止 B65歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主〈子会社・関連会社等〉によるものを含む) 高年齢者就業確保措置(努力義務) @70歳までの定年引上げ A定年制の廃止 B70歳までの継続雇用制度(再雇用制度・勤務延長制度)の導入(特殊関係事業主に加えて、他の事業主によるものを含む) 雇用措置(雇用される働き方) C70歳まで継続的に業務委託契約を締結する制度の導入 D70歳まで継続的に以下の事業に従事できる制度の導入 a.事業主が自ら実施する社会貢献事業 b.事業主が委託、出資(資金提供)等する団体が行う社会貢献事業 創業支援等措置(雇用によらない働き方) (注)「特殊関係事業主」とは自社の子法人等、親法人等、親法人等の子法人等、関連法人等、親法人等の関連法人等を示す 出典:厚生労働省「高年齢者雇用安定法の概要」(https://www.mhlw.go.jp/content/11700000/001245647.pdf)をもとに作成 図表3 高年齢者の雇用状況と就業状況 (単位:%) 2006年(平成18年) 2013年(平成25年) 2023年(令和5年) 高齢法改正の主な内容 2004年改正の「高年齢者雇用確保措置義務化」の施行 2012年改正の「継続雇用制度の対象者を限定できる仕組みの廃止」の施行 2020年改正の「高年齢者就業確保措置の努力義務化」の施行 雇用状況 高年齢者雇用確保措置実施企業(注1) 84.0 92.8(92.3) (99.9) 希望者全員が65歳以上まで働ける企業 34.0 62.4(66.5) (81.8) 70歳以上まで働ける企業(注2) 11.6 16.7(18.2) (40.9) 就業状況(注3) 60〜64歳 52.6 58.9 74.0 65〜69歳 34.6 38.7 52.0 65歳以上 19.4 20.1 25.2 70歳以上 13.3 13.1 18.4 (注1)「雇用状況」は51人以上の企業。( )は31人以上の企業、2023年は「51人以上の企業」の集計は行われていない (注2)2024年調査以降の「70歳以上まで働ける企業」の調査は行われていない (注3)最新(2025年)の数値は「60〜64歳」74.9%、「65〜69歳」54.5%、「65歳以上」26.0%、「70歳以上」19.0% 出典:厚生労働省「高年齢者雇用状況等報告」、総務省統計局「労働力調査」をもとに筆者作成 図表4 高齢者の心技体と高齢者雇用のアップデート [高齢者] 心 (就労意識) 体 (健康) 技 (スキル・能力) アップデート [企業] 戦略的活用 アップデート 高齢者雇用 ※筆者作成 コラム 定年廃止・定年延長と継続雇用制度 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 なぜ高齢者雇用制度を設けるのか?  高齢者雇用を考えていくうえで、その起点となるのが「高齢者雇用制度」です。このコラムでは高齢者雇用制度を紹介し、読者のみなさまに今回の特集への理解を深めていただきたいと思います。  まず高齢者雇用制度を設ける必要性の確認からはじめます。読者のみなさんの職場にも、正社員をはじめ、さまざまな雇用形態で社員が働いていると思います。例えば、「正社員」とは「雇用期間の定めのない、企業に直接雇用される」形態です。「雇用期間の定めのない」ということは、正社員として会社で雇用されると本人が退職を申し出るまで働くことができるのですが、ほとんどの企業は定年年齢を定めており、その多くが60歳に設定しています※1。さらに、総論で述べたように、高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)で「65歳までの高年齢者雇用確保措置の義務化」と、「70歳までの高年齢者就業確保措置の努力義務化」が企業に課せられているため、高齢者雇用制度を設けることが求められているのです。 高齢者雇用制度の概要  高齢法で定められている高齢者雇用制度のなかで代表的な制度は「定年廃止」、「定年延長」、「継続雇用制度」の3制度で、図表(13ページ)はその概要を整理したものです。  まず定年廃止は、その言葉の通り定年年齢を定めている定年制を廃止する制度で、高齢社員(労働者)の退職の申し出、あるいは高齢社員と会社との合意により雇用契約が終了するまで、高齢社員は働き続けることができます。定年廃止のメリットは、会社として長く働いてほしい高齢社員を雇用し続けることができることや、すべての高齢社員に対して安定した雇用を保障することで、本人の安心感を高められることなどです。一方、デメリットは、高齢社員の退職時期が不定となるため、会社は人員計画を立てにくくなることや、雇用契約終了時のルールなどで高齢社員との間に問題が起こるおそれがあることなどです。  次に定年延長は、現在企業が定めている定年年齢を引き上げて、これまでと同じ雇用形態のまま雇用を継続する制度です。定年廃止との大きな違いは、これまで定められた定年年齢を「廃止するか、引き上げるか」という点であり、どちらの措置も正社員といった雇用形態はそのまま継続されます。定年延長のメリットは、定年廃止と同じで、会社として長く働いてほしい高齢社員を定年年齢まで継続して雇用できることや、すべての高齢社員に対して定年年齢まで安定した雇用を保障することで、本人の安心感を高められることなどです。一方、デメリットは、労働条件の変更がむずかしいことや、定年延長を望まない高齢社員もいることなどです。  最後の継続雇用制度は、定年に達した正社員を本人が希望すれば引き続き雇用する制度です。定年廃止や定年延長との違いについて、多くの企業で導入している代表的な継続雇用制度である再雇用制度を例にあげると、定年廃止と定年延長は雇用形態を継続するのに対して、再雇用制度は定年に達した者(正社員)をいったん退職させ、契約社員、嘱託社員などの雇用形態により再び雇用する点にあります※2。継続雇用制度のメリットは、定年前後で労働条件の変更が比較的やりやすいことや、定年というラインを引くことで、一人ひとりに緊張感を持たせ、意識転換を図ることができることなどです。一方、デメリットは、定年前後で労働条件を大きく引き下げると高齢社員の意欲低下につながるおそれがあることや、長く会社に勤めてほしい高齢社員であっても継続雇用の労働条件が折り合わず、定年時点で退職するおそれがあることなどです。 「高齢社員に期待する役割」をあらためて確認する  では、読者のみなさまが会社の高齢者雇用制度を見直すうえでは、どのように整備・拡充すればよいのでしょうか。高齢法をふまえた一般的な制度というと、65歳定年制、70歳までの継続雇用制度となりますが、すべての会社にとってそれが適切な形というわけではありません。詳しくは解説1であらためて述べますが、高齢者雇用の個別施策は会社の経営戦略・方針に基づいて策定される高齢社員活用の基本方針、つまり、会社の経営成果に貢献してもらうために高齢社員に期待する役割に沿って展開されるからです。そのため、まずは会社として高齢社員に期待する役割(例えば、これまで通り職場で正社員と同じように活躍してもらう、正社員をサポート・支援する役割をになってもらう、あるいはこれまでつちかった技術・技能、ノウハウなどを活かして後進の指導・育成の役割をになってもらうなど)をあらためて確認し、それをもとに高齢社員の就労ニーズをふまえて高齢者雇用制度を考えることが求められます。 ※1 厚生労働省「就労条件総合調査結果の概況」(令和4年)によると、「定年制を定めている」企業は94.4%、そのうち定年年齢を一律「60歳」とする企業は72.3%。なお、高年齢者雇用安定法では、定年年齢を定める場合、60歳を下回ってはいけないと定めているため、定年制を定めている企業の多くは定年年齢を60歳としている ※2 継続雇用制度には再雇用制度のほかに勤務延長制度がある。同制度は定年に達した者を退職させることなく引き続き雇用する制度 図表 高齢者雇用制度の概要 種類 概要 メリット デメリット 65歳までの高年齢者雇用確保措置実施企業における雇用確保措置の措置率 定年廃止 定年年齢を定めている定年制を廃止 ・会社として長く働いてほしい高齢者を雇用し続けることができる ・全ての高齢者に安定した雇用を保障することで、本人の安心感を高めら れる ・高齢者の退職時期が不定となるため、人員計画が立てにくくなる ・雇用契約終了時のルールなどで問題が起こることがある 3.9% 定年延長 定年年齢を引き上げて、これまでと同じ雇用形態のまま、雇用を継続する仕組み ・会社として長く働いてほしい高齢者を定年年齢まで継続して雇用できる ・全ての高齢者に対して定年年齢まで安定した雇用を保障することで、本人の安心感を高められる ・労働条件の変更がむずかしい ・定年延長を望まない高齢者もいる 31.0% 継続雇用制度 本人が希望すれば定年後も引き続き雇用する「再雇用」等の制度 ・定年前後で労働条件の変更が比較的やりやすい ・定年というラインを引くことで、一人ひとりに緊張感を持たせ、意識転換を図ることができる ・定年前後で労働条件を大きく引き下げると高齢者の意欲低下につながるおそれがある ・労働条件が折り合わず、定年時点で退職するおそれがある 65.1% 出典:JEED「ダイカスト業 高齢者の活躍に向けたガイドライン〜高齢者とともに、働きやすい職場づくり〜」一般社団法人日本ダイカスト協会ダイカスト業高齢者雇用推進委員会(2025)を一部修正。65歳までの高年齢者雇用確保措置を実施している企業の雇用確保措置率は厚生労働省「令和7年『高年齢者雇用状況等報告』」 解説1 高齢社員の評価・処遇制度 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 1 高齢者雇用で企業が抱える大きな悩み 〜高齢社員のモチベーションの低下問題  総論で紹介したように、企業の労務構成で高齢社員が大きな集団となっている今日、「高齢社員の戦力的活用」は高齢社員活用の標準的な基本方針として定着しています。マンガのなかで、来年、定年を迎える高齢社員の高洲さんは、上司との面談で提示された再雇用の労働条件において、給料が現在の金額と大きく変わらないことに驚いています。しかしその一方で、上司から引き続き第一線での活躍や若手への指導の役割をになうことを期待されたことでモチベーションを高め、あらためて気を引き締めています。  このように定年後の雇用形態が継続雇用(再雇用)に切り替わったものの、労働条件は大きく変わらず、職場で正社員と一緒に活き活きと活躍している高齢社員の姿が多くの企業でみられます。しかしその一方で、定年前の正社員時代は活き活きと仕事に取り組んでいた社員が、継続雇用に切り替わったことで仕事への取組み意識が下がってしまうといった「高齢社員のモチベーションの低下問題」に悩まされている企業も少なくありません。継続雇用後の仕事内容は定年前とほぼ同じであるにもかかわらず、処遇などが大きく変わることへの不満がその背景にあります。危機感を持った企業は高齢社員のモチベーションの維持・向上を図るために、正社員と同じように仕事の成果や働きぶりに応じて賃金を決める評価・処遇制度への見直しを進めています。企業にとって欠くことのできない重要な戦力となっている高齢社員のモチベーションの維持・向上は、70歳就業時代における高齢者雇用の重要な課題です。解説1では評価・処遇制度の視点からこの課題を考えてみたいと思います。 2 人事管理の基本原則と評価・処遇制度  評価・処遇制度を考えるには、その基盤となる人事管理の基本原則を理解する必要があります。評価・処遇制度は企業の人事管理の個別施策(仕組み)の一分野であり、人事管理は経営方針・戦略に基づいた人材活用の基本方針に沿って整備されているからです(図表1)。さらに、人事管理においては、この基本原則に加えて労働法制を遵守することが求められます。例えば、労働基準法は使用者が法定労働時間を超える時間外労働(残業)や休日労働をさせる場合、労使で「36(サブロク)協定」を締結し、割増賃金を支払うことを義務づけています。こうした労働法制の身近な例として、社会問題となった「2024年問題」があげられます。これは平成期の働き方改革の一環として改正された労働基準法に基づき2024(令和6)年4月1日から建設業・ドライバー・医師などに時間外労働の上限規制が適用されたことによって、物流や地域医療への影響が懸念されている問題です。こうした「労働時間の上限規制」といったテーマは、解説2にもかかわる労働法制に関するものです。  高齢社員の評価・処遇制度についてもこの人事管理の基本原則をあてはめて考えることが必要になります。なかでも、労働法制の観点からは高年齢者雇用安定法(以下、「高齢法」)を遵守しつつ、経営方針・戦略に基づいた高齢社員活用の基本方針に沿って高齢社員の評価・処遇制度を整備していくことが求められます。 3 「高齢社員のモチベーションの低下問題」の背景を考える  高齢社員のモチベーションの低下問題の背景を、企業の高齢者雇用に影響を及ぼす国の高齢者雇用政策との関連で考えてみたいと思います。  平成期における国の高齢者雇用政策には大きく二つの動きがみられました。一つめの動きは平成期前半の65歳までの雇用推進です。この時期に3回の高齢法改正が行われました。定年到達者が希望する場合65歳までの再雇用が努力義務化された「1990(平成2)年改正」、60歳定年が義務化された「1994年改正」、そして定年の引上げ等による高年齢者雇用確保措置の努力義務化が企業に課された「2000年改正」です。  こうした政策の推進を受けて、企業は65歳までの雇用推進に向けた人事管理の整備に取り組みました。多くの企業で整備された雇用制度は「60歳定年制+基準該当者の再雇用制度(継続雇用制度)」です。総論で紹介した現在の高齢法とは異なり、当時の高齢法は、65歳までの雇用確保が努力義務であり、再雇用(継続雇用)の対象者に基準を設けることができました。また、当時は高齢社員の人数も少ない状況でした。そのため、高齢社員に対して、仕事の成果を求めない「福祉的雇用」の活用方針がとられ、それに基づいて賃金制度は「全員一律の基本給、昇給なし、定額の賞与」とされていました。また、評価制度については不実施とするか、あるいは継続雇用者用の制度を整備して実施するといった措置がとられていました。  二つめの動きは平成期後半の実質65歳定年制の整備です。2004年に高齢法が改正され、それまで努力義務であった高年齢者雇用確保措置が義務化されました。つまり、定年を迎えた社員が希望すれば、65歳まで働くことができる雇用環境――実質65歳定年制――が整備されました(図表2)。  しかし、このように働く高齢社員が増加した一方で、平成期前半から続く福祉的雇用の活用方針をそのまま維持していた企業は、高齢社員のモチベーションの低下問題に悩まされていました。企業は高齢社員に対して「仕事の成果を求めない」とは伝えていませんが、高齢社員側は継続雇用後の評価・処遇が定年前と変わっていることでそれを認識していました。少子高齢化による労働力人口の減少が予想されるなか、厚生年金の受給開始年齢が引き上げられたこともあり、65歳まで働くことを希望する高齢社員が増えました。その結果、高齢社員が企業の労務構成において大きな集団となったことで、このモチベーションの低下問題は全社的な経営課題となりました。  そこで、企業は活用方針を「福祉的雇用」から定年前の正社員と同じように仕事の成果を求める「戦略的活用」に転換し、それにあわせて高齢社員の人事管理の見直しを進めました。評価・処遇制度では仕事の成果を処遇に反映するよう、基本給は一律定額から定年時の職位・等級などにリンクした水準に見直され、昇給は不支給(なし)から支給(あり)に変更されました。また、賞与は定額から正社員と同じように人事評価を反映した決め方に見直されるとともに、人事評価自体も正社員と同じ仕組みが用いられるようになりました。さらに、70歳までの就業確保措置の努力義務を企業に課す2021年の改正高齢法施行にあわせて65歳定年制の実施と70歳までの継続雇用制度の導入を進める動きがみられます。こうしたなかで、仕事の成果を処遇に反映する評価・処遇制度の仕組みを整備することが、マンガに登場する高洲さんのように、高齢社員のモチベーションの維持・向上につながるのです。 4 求められる70歳就業時代の高齢社員の評価・処遇制度のアップデート  少子高齢化による労働力人口の減少が予想されるなか、企業の戦力としての高齢社員への期待はますます大きくなります。高齢社員の戦略的活用を推進し、高いモチベーションで活き活きと活躍してもらうためには、正社員と同じように企業の戦力として、仕事の成果や働きぶりに応じて賃金を決めることが求められます。つまり、評価・処遇制度のアップデートです。しかし、「仕事の成果や働きぶりに応じて賃金を決める」といっても、70歳まで就業できる評価・処遇制度の仕組みをどのように設計すべきかが問題となります。なぜなら、評価・処遇制度は雇用制度に連動して形成され、しかも、その雇用制度自体も総論で述べたように高齢法に則して多様な選択肢があるからです。選択する雇用制度によって、「仕事の成果や働きぶりに応じて賃金を決める」ための評価・処遇制度の仕組みが異なります。  現在、多くの企業で一般的となっている「60歳定年+希望者全員65歳までの継続雇用」の雇用制度(実質65歳定年制)を例にして考えた場合、まずは65歳以降の雇用制度をどの制度にするかを決めることからはじめます。60歳台前半層に適用している現行の制度(希望者全員65歳までの継続雇用)をそのまま65歳以降にも適用するのか、別の制度にするのか、という点です。さらに、60歳台前半層についても、現行の制度を継続するのか、あるいは別の制度に見直すのかを確認する必要があります。国家公務員の段階的な65歳への定年年齢の引上げなど、65歳定年制導入の動きが加速しているからです。60歳台前半層の雇用制度を見直さず、60歳台後半層の雇用制度を整備するだけでは、近いうちに再び65歳定年制導入を準備することになり、雇用制度の見直しに要する労力が大きくなってしまいます。例えば、「65歳定年制への移行」と「希望者全員70歳までの継続雇用の整備」を同時に実施することで、労力を最小限に抑えることができます。  このように仕事の成果や働きぶりに応じた評価・処遇制度の仕組みを設計する際には、まず70歳まで就業できる雇用制度の基本設計(どの制度にするか)を決めたうえで進めることが重要です。そして、具体的な制度設計の際には、2026年10月に施行される改正同一労働同一賃金ガイドラインをふまえて取り組むことが求められます。  こうした高齢社員のモチベーションの維持・向上を図る評価・処遇制度の事例としてA社の取組みを紹介します。この事例の特徴は、年齢ではなく仕事の責任による評価・処遇制度を正規・非正規にかかわらず全従業員に適用している点です。 事例1 全従業員の処遇を年齢ではなく仕事の責任で決める役割等級制度を導入(社会保険・社会福祉・介護事業A社)  県中心部に高齢者向け複合施設を運営する社会保険・社会福祉・介護事業A社は、同社の主力として活躍しているシニア従業員が安心して長く働ける環境を整備するため、2021年に現行の雇用制度(定年年齢65歳、雇用上限年齢なしの基準該当者の継続雇用制度)を見直し、定年年齢を70歳に引き上げました。また、処遇については役割責任行動(顧客重視、業務遂行、チームワーク、関係構築・問題解決、成長の5項目)による役割等級制度を正規・非正規にかかわらず全従業員に適用し、再雇用後も人事評価によって賞与が決められています。 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2026)『70歳雇用推進事例集2026』 図表1 人事管理の基本原則と高齢社員の人事管理のとらえ方 【人事管理の基本原則】 経営方針・戦略 《人事管理》 人材活用の基本方針 個別施策 (評価・処遇制度等) 労働法制 【高齢社員の人事管理のとらえ方】 経営方針・戦略 《人事管理》 高齢社員活用の基本方針 個別施策 (評価・処遇制度等) 労働法制 (高齢法等) ※筆者作成 図表2 国の高齢者雇用政策と企業の評価・処遇制度の対応 平成期 前半 後半 国の高齢者雇用政策 65歳までの雇用確保の努力義務化 65歳までの雇用確保の義務化 企業の対応 雇用の基本方針 65歳雇用の推進 実質65歳定年制の整備 高齢社員の活用方針 福祉的雇用 戦略的活用への転換 賃金・評価制度 ・基本給:全員一律(昇給なし) ・賞与:定額 ・評価:不実施、もしくは実施(継続雇用者用) ・基本給:職位・等級等リンク(昇給あり) ・賞与:人事評価反映 ・評価:実施(正社員準拠) ※筆者作成 解説2 高齢社員の多様で柔軟な勤務制度 高千穂大学 経営学部 教授 田口和雄 1 進む勤務制度の柔軟化と働き方の多様化  働き手の確保がむずかしさを増すなかで、社員のライフスタイルの変化に対応した多様な働き方の整備を進めている企業が増えています。解説2のテーマである「勤務制度」は働き方の土台となる制度です。マンガの会社では、フルタイム勤務のほかに短時間勤務が整備されており、定年後継続雇用となっている高齢社員の浜田さんが、お孫さんのお迎えのためにこれを利用して仕事を続けています。高齢社員の戦略的活用を進めている企業がとる継続雇用の高齢者の働き方は、定年前の正社員と同じフルタイム勤務を基本としています。もし、マンガの会社の勤務制度がフルタイム勤務のみのままであったなら、高齢社員の浜田さんは仕事を続けながら、お孫さんのお迎えをするのがむずかしい状況となっていたことでしょう。  こうした勤務制度の変化(柔軟化・多様化)は平成期に入ってからみられる動きです。解説2では平成期以降に進められた勤務制度の変化の動きと、そのもとでの高齢社員の勤務制度をふり返り、令和期の働き方を考えてみたいと思います。 2 勤務制度の基本ルール 〜労働基準法  まず勤務制度の基本ルールの確認からはじめます。正社員の勤務制度は「1日8時間、週休2日制」というのが読者の一般的な認識ではないでしょうか。これは労働基準法(第32、35条)の「1週間の労働時間の上限を40時間とすること」、「1日の労働時間は8時間を超えないこと」、そして「休日を1週に1日以上与えること」をもとにしています。これらの労働時間を「法定労働時間」、休日を「法定休日」とそれぞれ呼んでいます。「1日8時間、週休2日制」は1日の労働時間を「8時間」とした場合の勤務制度※1で、フルタイム勤務はこの働き方をさしています。  この法定労働時間の枠のなかで、企業は自社の労働時間を自由に定めることができ、定めた労働時間は「所定内労働時間」と呼ばれます(図表1)。企業は自社の所定内労働時間を6時間や7時間のように、法定労働時間の上限より短く設定することができるものの、ほとんどの企業が1日の労働時間を「8時間」としています。法定労働時間の枠のなかでもっとも長く設定できる時間だからです。さらに、「1日8時間」の労働時間についても、企業は始業時刻と終業時刻を定めています。こうした労働時間制度を「一般的な労働時間制度」と呼ぶことにします。  このように1日8時間、週休2日制の「フルタイム勤務」を基本とし、会社が始業・終業時刻を定める「一般的な労働時間制度」が、多くの企業でとられている標準的な働き方です。 3 平成期以降の勤務制度の変化の動き 〜「柔軟化」とそれにともなう働き方の「多様化」  こうした勤務制度は昭和期を通して形成され、標準的な勤務制度となりました。しかし、平成期になると勤務制度に変化の動きがみられました。その動きの特徴は勤務制度の「柔軟化」です。図表2(20ページ)はその概要を整理したものです。大きく三つの変化がみられました。  第一の動きは、平成期前半の「労働時間制度」の柔軟化です。先に述べた「1日8時間、週休2日制」は、1987(昭和62)年の労働基準法改正によって、週48時間であった法定労働時間が週40時間に段階的に変更されたことがベースになっています。さらに、この改正では法定労働時間の短縮とともに、労働者の生活の質的向上を図るために、フレックスタイム制などの変形労働時間制の導入が進められ、労働時間の柔軟化への動きが始まりました。平成期に入ると経済活動のグローバル化やIT化の進展に加え、労働者の就業意識の変化もみられました。  こうした時代の変化に対応した労働時間などの働き方に関するルールの整備が求められるなか、1993(平成5)年の労働基準法改正では、週40時間労働時間制の実施、変形労働時間制の拡充、裁量労働制の規定の整備などが行われました。さらに、1998年改正では企画業務型裁量労働制の導入が、2003年改正では裁量労働制の改正がそれぞれ行われました。こうした一連の法改正を受けて、平成期前半ではフレックスタイム制、変形労働時間制度、裁量労働制の導入などによる労働時間制度の柔軟化が進められました。  この時期の継続雇用後の高齢社員の勤務制度 は、短時間・短日勤務などが中心でした。「福祉的雇用」の基本方針のもと、高齢社員に求められる役割が正社員時代の「企業の中核人材として基幹業務をになう役割」から、「パート社員と同じように補助業務を担当して正社員を支援・サポートする役割」に変わったためです。  第二の動きは平成期後半の「労働時間・労働日数」の柔軟化です。政府が取り組む働き方改革の一環として推進されている「多様な正社員制度」のなかの「短時間正社員」の導入が進められました※2。企業は正社員に対して原則としてフルタイム勤務を求めていますが、短時間正社員制度は、育児や介護と仕事を両立したい社員をはじめ、さまざまな人材に勤務時間や勤務日数をフルタイム勤務の正社員よりも短縮したうえで活躍してもらうための仕組みです。  この時期の高齢社員の働き方は、戦略的活用が進むなかで求められる役割が正社員に近い役割(基幹業務をになう役割)に変わったため、平成期前半の短時間・短日勤務中心から正社員と同じフルタイム勤務中心へと移行しました。もちろん、企業は引き続き短時間・短日勤務を選択できるようにしていますが、高齢社員を貴重な戦力として期待しているため、フルタイム勤務を彼ら・彼女らに求めています。マンガの会社は高齢社員の戦略的活用だけではなく、働き方の多様化(フルタイム勤務と短時間勤務)も進めています。継続雇用の高齢社員が短時間勤務を選択し、お孫さんのお迎えなどプライベートの時間を充実させることでウェルビーイングが向上し、仕事にプラスの影響が出ているのです。  第三の動きは、「働く場所」の柔軟化です。平成期の勤務制度の変化が勤務する「時間」の柔軟化であったのに対し、令和期は「場所」の柔軟化が特徴です。デジタル化の進展にともない、新しい働き方である在宅勤務(テレワーク)が情報サービス業や、裁量労働制の社員などを中心に導入されていましたが、コロナ禍を契機に産業全体へと普及しました。現在では育児や介護などのライフスタイルの多様化に対応する働き方として定着しています。ただし、マンガに登場する美浜さんの会社のようにホワイトカラーの職場であれば、在宅勤務を利用することができますが、製造部門の職場ではむずかしいのが実情です。製造部門の仕事は、会社(工場)に出社しなければできない特性があるからです。  以上のように平成期以降に進められた勤務制度の変化(柔軟化)により、これまでの一般的な労働時間制度によるフルタイム勤務や出社勤務を基本とする働き方が見直され、多様化が進みました。 4 高齢社員にとっての多様で柔軟な勤務制度とは?〜多様化する社員集団のなかで  このように勤務制度の柔軟化とそれにともなう働き方の多様化の背景には、労務構成と就業意識の多様化があります。伝統的な勤務制度(一般的な労働時間制度、フルタイム勤務、出社勤務)は戦後に労働基準法が制定された当時の、昭和期の労働者に適合するように形成されました。当時は製造業務に従事する正規労働者の男性が中心で、同質性の高い労務構成でした。時代が昭和期から平成期、そして令和期へと変遷するにしたがい、事務・技術系の正規労働者(ホワイトカラー)の拡大、女性の社会進出と増加、非正規労働者の拡大など、労務構成は変化しました。高齢者の増加もその変化の一つです。労務構成の多様化にあわせて労働者の就労意識やニーズ、そしてライフスタイルも変化し、勤務制度はこうした動きに対応すべくアップデート(柔軟化)してきました。  人口減少のもとでの少子高齢化にともない、今後は高齢者が労務構成の中心になることが予想されるため、総論で述べたように企業は高齢社員の戦略的活用を推進することが求められます。多様で柔軟な勤務制度の取組みは、病気の治療や家族の介護などライフスタイルが多様化する高齢社員にとっても、会社にとっても好ましい動き(アップデート)です。高齢社員は家庭の事情で退職せずに働き続けることができますし、人手不足に悩まされている会社としても経験やスキルを持つ戦力(高齢社員)を失わずにすみます。  また、こうした多様で柔軟な働き方を求めるニーズは高齢社員にかぎったものではありません。フルタイム勤務をしている正社員のなかにも、育児や親の介護、本人の病気治療といった健康上の問題など、さまざまな事情を抱えている人がいます。多様で柔軟な働き方を実現できる勤務制度は高齢社員のみならず、すべての社員に広く適用することが求められます。  こうした多様で柔軟な働き方を可能にする勤務制度の事例として、警備業B社の取組みを紹介します。この事例の特徴は、高齢社員をはじめとする社員の事情にあわせて柔軟な勤務体制を整備している点です。 事例2 短日勤務による無理のない柔軟な勤務体制 (警備業B社)  小売業の親会社が展開する店舗の店内保安警備や店舗駐車場警備をになう警備業B社は、警備業務の社員が自身のライフプランにあった働き方を選択できる柔軟な勤務体制を整備しています。具体的には、1日の所定労働時間は8時間を基本とし、勤務日数は週2〜5日の選択制としています。1カ月ごとのシフト制をとり、ITを活用したシフト管理を行っています。こうした公平なシフト管理による柔軟な勤務体制により、社員が家事、孫の世話、配偶者・親などの介護・通院といった予定行事や、自分の生活を重視することができ、長期にわたり働き続けることができる環境が整えられています。 出典:(独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(2026)『70歳雇用推進事例集2026』を一部修正。 ※1 なお、同法ではこの原則を法定の条件内で変更できることを認めており、「変形労働時間制」と呼ばれている ※2 多様な正社員制度には、短時間正社員のほかに、担当する職務内容が限定されている「職務限定正社員」、転勤範囲が限定されたり、転居をともなう転勤がなかったりする「勤務地限定正社員」の二つのタイプがある 図表1 法定労働時間と所定内労働時間 法定労働時間 国が定める上限労働時間 所定内労働時間 法定労働時間をもとに企業が定める標準労働時間 ※筆者作成 図表2 平成期以降の勤務制度の柔軟化の取組み 平成期前半 平成期後半 令和期 取組み内容 概要 「労働時間制度」の柔軟化 「労働時間・労働日数」の柔軟化 「働く場所」の柔軟化 主な内容 変形労働時間制、フレックスタイム制、みなし労働時間制、裁量労働制の整備・拡充 短時間・短日勤務(短時間正社員制度) 在宅勤務 伝統的な施策 一般的な労働時間制度 フルタイム勤務 出社勤務 高齢社員 活用の基本方針 福祉的雇用 戦略的活用 戦略的活用 働き方 短時間・短日勤務中心 フルタイム勤務中心 フルタイム勤務中心 ※筆者作成 解説3 高齢社員の転倒防止策〜職場環境改善と健康保持増進の推進を含んで 株式会社健康企業 代表・医師 亀田(かめだ)高志(たかし) 1 はじめに  2026(令和8)年4月から改正労働安全衛生法が施行され、高齢社員の転倒災害などの労災防止対策が事業者の努力義務となりました。これまで事業者の義務にはあたらないガイドラインのレベルだった作業環境と作業内容の両面の法的要求が強化されています。例えば、高齢社員が就業中に転倒して骨折などを起こした事案に対して労働基準監督署から人事担当者としても指導を受ける可能性が出てきました。  増加する高齢社員の転倒などの労働災害には加齢現象にともなう心身の機能低下が影響しています。若い新任人事担当者の方には、加齢現象の影響する労災事故は避けがたいなど、ある種の自己責任にみえるかもしれません。  本稿では典型的な問題として転んでけがを負う転倒災害に焦点をあてて、新任の人事担当者としてかかわる具体策を解説します。人事担当者としてさまざまな人事労務問題を経験していくことを考慮し、安全衛生管理や法的要求となった事項とともに、対策の基本的な要素と実効性を妨げる働く人にありがちな傾向、側面まで紹介します。 2 人事担当者が高齢社員の労災防止に取り組む背景  労働災害防止対策と聞くと現場での対応は安全管理の範疇と考えて、人事部門の職務ではないと考えてしまうかもしれません。前述の改正法の施行に先立ち、2026年2月に職場での具体的な対策の内容を示し、労働基準監督署の指導の根拠となる「高年齢者の労働災害防止のための指針」が公表されました※1。そのなかでは以下の二つが強調されています。 @高年齢者労働災害防止対策を担当する組織としては、(中略)業種又は事業場の規模によっては、人事労務管理部門等が担当することも考えられること。 A(高年齢者の健康や体力の状況に応じた対応→個々の高年齢者の健康や体力の状況をふまえた措置として)業務の軽減等の就業上の措置を実施する場合は、(中略)また、健康管理部門と人事労務管理部門との連携にも留意すること。  人事労務管理部門の職務の多くは、労働基準法などの法令に従った対応かと思います。同様に高齢社員の労災防止対策も人事担当者として主体的にかかわる法的要求の一つであることを理解する必要があります。  そのうえで考えておく必要があるのが、自職場で高齢社員の労働災害が発生した場合のことです。休業4日以上の場合、義務化された電子申請にて、遅滞なく労働基準監督署に報告書を提出しなければなりません。業務上の傷病に対して、事業主は労働基準法により補償責任を負っています。休業4日以上では労災保険から、給付基礎日額の80%が支給されますが、休業3日までは給付基礎日額の60%を事業主が支払うこととされています。これらの対応も人事担当者の職務です。障害が残ったケース、長期の休職となったケース、退職を余儀なくされるケースでも人事担当者が対応することになります。万が一、民法に基づく損害賠償を求める訴訟に発展すると法務部門と連携した対応を求められるでしょう。休業の段階から現場では欠員が生じますから、監督者、職長と対話しながら、要員の採用、確保、他部署からの異動も人事担当者が関与することになります。  以上のことから、人事担当者として日ごろから労働災害全般、特に増加する高齢社員の転倒災害などを防止する動機と関心を高めておく必要があります。 3 転倒災害が起きるメカニズムと背景 @特に女性で増加する転倒災害  基本的なことですが、高いところから地面に向かって落ちることを「墜落」、階段状のところを転がり落ちていくことを「転落」、同じ高さの平面で転ぶことを「転倒」と呼びます。これらの労働災害は過去には製造業や建設業など、いわゆる現場、現業での発生が課題でした。こうした業種で発生する「墜落」や「転落」といった労働災害の傾向は大きくは変わっていません。  一方で国内ではいわゆる第二次産業の製造業中心から第三次産業へとシフトしてきました。製造業に従事する人は減少し続け、反対にサービス業などに従事する労働者が増加しています。並行して、働く人の高年齢化が進行してきましたが、労災防止対策で注目されるのが、これまで危険とはあまり考えられなかったスーパーマーケット、飲食店、介護施設などで働く女性の転倒災害です。  厚生労働省が2025年5月末に公表し、修正を加えた「令和6年労働災害発生状況」によると※2、事故の型別・年齢階層別・男女別の度数率(=100万延べ実労働時間当たりの労働災害による休業4日以上の死傷者数)において、女性の場合、60歳以上(平均1.70)では20代(平均0.09)の約19.5倍へと極端に増加します。「墜落」や「転落」が多い男性では60歳以上(平均0.48)では20代(平均0.13)の約3.6倍に留まっていることと対照的です。 A転倒したときに負う骨折と大きな影響  読者のみなさんは日常生活で何かにつまずいたり、滑ったりしたことがありますか? 転倒災害の典型例ではつまずいたり、滑ったりした後に転んでけがをします。若い方や中高年齢で身体を鍛えている方はつまずいても、あるいは滑っても踏ん張り、バランスを保って転ばずにすみます。転びかけた段階で反射的に手が出て、手のひらの擦り傷だけで終わります。  けれども高年齢で身体機能が低下している場合や、特に女性で骨が脆(もろ)くなる骨粗しょう症になっている場合は、転倒は、骨折などの大きなけがを負うハイリスクとなります。具体的なけがの様子は以下のようになります。 ・手を出したものの手首の骨を折ってしまう。(例:橈骨遠位端(とうこつえんいたん)骨折) ・膝を強打し、膝の皿が割れてしまう。(例:膝蓋骨(しつがいこつ)骨折) ・足首が内側ないし外側に曲がって、関節あたりの骨折を起こす。捻挫をともなっていることも少なくない。(例:腓骨(ひこつ)骨折および足そく関節靭帯損傷(かんせつじんたいそんしょう)) ・転んだ際に股関節の骨折を起こす。(例:大腿骨頸部(だいたいこつけいぶ)骨折、大腿骨転子部(だいたいこつてんしぶ)骨折)  骨折は強い痛みをともなうだけでなく、大腿骨頸部骨折では出血多量で命の危険をともなうケースもあります。仕事だけでなく通勤や家事もできない状態が数カ月続くことになります。股関節の骨折ではいわゆる“寝たきり”になるリスクもあり、そのようなケースではリハビリテーションが必要になる事例が多いです。単身の場合には入院、通院とともに日常生活の困難に直面し、給与や賞与にも影響し、経済的な困窮に追い込まれるケースすらあります。 4 対策の基本となる五つの要素と課題への対応 @基礎となる体制と仕組み  厚生労働省が進める安全衛生管理、健康管理の施策は労災事故や心身の健康課題にかかわらず、以下の五つの要素で推進することが求められており、これらを継続的に実行することで高齢社員の転倒災害などを防止していくことが可能です。 (A)事業場のトップによる高齢社員への対策の方針表明と安全管理者、衛生管理産業医などの選任や安全委員会、衛生委員会ないし安全衛生委員会における労使で協調する安全衛生管理体制の整備と確実な運営。 (B)職場環境の改善として、コストや労力をかけて施設、設備、装置のハード面の改良を行うことと、ソフト面から加齢にともなう筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能、認知機能の低下などを考慮した現場で工夫できる作業の内容や仕方の見直し(例えば、22ページのマンガにある転倒災害を防止するコードカバーによる職場環境の改善など)。 (C)定期健康診断を通じて、体調、病気の有無などの健康状態を把握すること。またけがのないように気をつけながら、足の筋力、バランス能力、敏捷性などの体力チェックを行う。 (D)生活習慣病などで、例えば熱中症のリスクがあれば暑熱環境での作業は避けるなどの就業上の措置を行う。加齢にともなって増加するがんなどの私傷病の治療と就業の両立を支援する。体力チェックの結果をもとに産業医、保健師などの協力を得て、高齢社員全体と一人ひとりの両方に運動習慣をすすめていくなどの健康増進活動を推進する。 (E)高齢社員に対して、安全衛生と健康管理の両面の啓発を行う。また年上の部下を持つ管理監督者に高齢社員に特有な特性とそれに即した安全衛生対策に関する教育を定期的に実施する。 A人事担当者として現実的な課題を理解する  転倒災害などに通じる典型的な機能低下には視力と聴力の低下があります。視力低下は一般に「老眼」と呼称され、「老い」のイメージから認めることを嫌がるシニア層がいます。“若見え”がビジネスとして成立する令和の時代、近眼などがなく眼鏡をかけてこなかった中高年層の人では老眼鏡をつくりたがらず、つくってもかけようとしないこともあります。  同じく加齢にともなう難聴は、日常生活に支障が出ないように早めに補聴器をつくって、その使用に慣れていくことが望ましいです。けれども補聴器をつくることで障害があるように見えるのが嫌とか、老けたように見られたくないという理由から拒む人が多いのです。難聴は高齢者の心と身体、そして社会的なつながりを衰えさせ、「フレイル」と老年医学、老人医療の専門家が名づけた“虚弱の進行”を加速させます。  このような背景から、シニア層の方から目が見えにくいこと、特に夕方になるとその傾向が強いこと、耳が聞こえにくいこと、とりわけ高いサイレンなどの音が聞きづらいことを自ら説明してくれる場合は少ないのです。同じように転倒のしやすさを自覚して、自ら申告してくれるシニア層の方は稀です。定期健康診断で受診をすすめられたいわゆるメタボを放置しているうちに脳卒中や心臓発作を起こすケースに似て、転倒でけがをする人は骨折に直面して初めて、心身の機能低下を自覚する傾向があります。  現場とともに自宅でも利用する脚立の使用も同じです。脚立の危険性が啓発され正しい使い方は発信されていますが、重傷事故がしばしば発生しています。  年功序列の習慣の強かった日本の職場では、高齢社員となった元上司、元先輩を疎ましく感じる傾向も見受けられます。それが高じると高齢者差別、英語でいうエイジズム、日本的ないい回しではエイジハラスメントにつながることがあります。がんばってきた職場で役職を解かれ、報酬の減ってしまう高齢社員は孤立と孤独に直面し、ベテランであってもメンタルヘルス不調に陥るケースが増加しています。 B高齢社員が中心になる職場の持続的な運営を目的に  新任であっても人事担当者が考えなければならないのは、社員の年齢構成です。多くの職場ではいわゆる就職氷河期の影響で中間層が少なく、若手の採用もむずかしい一方、50歳以上の社員が多い傾向があります。企業などでは65歳までの雇用確保義務と70歳までの就業機会の確保の努力義務があり、将来的に高齢社員の割合がさらに増えていくことでしょう。  加齢現象は成人して以降、すべての人が経験していくことです。病気が増えることも他人ごとではなく、70歳まで働いた場合に男女とも5人に1人ががんと診断されます※3。生涯のなかで腰痛を患う人は8割以上※4、糖尿病はいわゆる予備軍を含め2000万人以上※5、慢性腎臓病(CKD)は成人の5〜8人に一人とされています※6。  今後は、加齢にともなう心身の機能低下や病気を申告できるムードを職場で醸成し続けていくことを謳い、その方針の浸透を人事担当者として心がけることが肝要となります。先輩方の機能低下とご病気を「自分ごととしてとらえましょう!」、「お互いさまと考えましょう!」と啓発することが可能です。  上場企業を中心に、人材をコストととらえる「人的資源管理」から投資の対象と位置づける「人的資本経営」に方向性がシフトしています。各企業などの存続を支える人事担当者の役割は大きく、高齢社員の労働災害などの防止に積極的に関与することが大切なのです。 ※1 「高年齢者の労働災害防止のための指針」は、以下のホームページでご覧になれます。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00010.html ※2 「令和6年における労働災害発生状況(確定値)」は、以下のホームページでご覧になれます。 https://www.mhlw.go.jp/content/11302000/001543319.pdf ※3 国立研究開発法人国立がん研究センター「がん情報サービス グラフデータベース」より筆者が抽出 ※4 松平浩ほか(2015)「日本人勤労者を対象とした腰痛疫学研究」『日本職業・災害医学会会誌』63巻6号 ※5 一般社団法人日本糖尿病学会・公益社団法人日本糖尿病協会2019年11月8日プレスリリース「日本糖尿病学会・日本糖尿病協会 アドボカシー委員会設立〜糖尿病であることを隠さずにいられる社会づくりを目指して〜」より ※6 一般社団法人日本腎臓学会ホームページ(https://jsn.or.jp/general/kidneydisease/symptoms04.php)およびNPO法人日本腎臓病協会ホームページ(https://j-ka.or.jp/ckd/)より 助成金 65歳超雇用推進助成金について 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)高齢者助成部  「65歳超雇用推進助成金」は、65歳以上への定年引上げ等を行う事業主、高年齢者の雇用管理制度の整備を行う事業主、高年齢の有期契約労働者を無期雇用に転換する事業主に対して、国の予算の範囲内で助成するものであり、「生涯現役社会」の構築に向けて、高年齢者の就労機会の確保および雇用の安定を図ることを目的としています。  共通の要件は、雇用保険適用事業所の事業主であること、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律第8条、第9条第1項の規定と異なる定めをしていないこととなります。  この助成金は次のT〜Vのコースがあります。 T 65歳超継続雇用促進コース  このコースは、支給要件を満たす事業主が、次の@〜Cのいずれかを就業規則等に規定し、実施した場合に受給することができます。 @65歳以上への定年の引上げ A定年の定めの廃止 B66歳以上への継続雇用制度の導入 C他社による継続雇用制度の導入 ◆おもな支給要件 @労働協約または就業規則で定めている定年年齢等を、過去最高を上回る年齢に引き上げること A改正前後の就業規則を労働基準監督署等へ届け出ること B1年以上継続して雇用されている60歳以上の雇用保険被保険者が1人以上いること C高年齢者雇用等推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置(※1)の実施 ※1 高年齢者雇用管理に関する措置とは、55歳以上の高年齢者を対象とした、次のいずれかに該当するもの (a)職業能力の開発および向上のための教育訓練の実施等 (b)作業施設・方法の改善 (c)健康管理、安全衛生の配慮 (d)職域の拡大 (e)知識、経験等を活用できる配置、処遇の推進 (f)賃金体系の見直し (g)勤務時間制度の弾力化 ◆支給額  実施した制度、引き上げた年数、対象被保険者数に応じて図表1・2(28ページ)の額を支給します。 U 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース  このコースは、支給要件を満たす事業主が、高年齢者の雇用の推進を図るために雇用管理制度(賃金制度、健康管理制度等)の整備にかかる措置を実施した場合に、措置に応じて一定額を助成します(28ページ図表3)。  なお、あらかじめ雇用管理整備計画書を提出し、認定されていることが必要です。 ◆支給対象となるおもな措置(※2)の内容 @高年齢者にかかる賃金、人事処遇制度の導入・改善 A労働時間制度・在宅勤務制度・研修制度・健康管理制度の導入・改善 ※2 措置は、55歳以上の高年齢者を対象として労働協約または就業規則に規定し、1人以上の支給対象被保険者に実施・適用することが必要 ◆支給額  実施した雇用管理制度の措置に応じて、図表3(28ページ)の額を支給します。 V 高年齢者無期雇用転換コース  このコースは、支給要件を満たす事業主が、50歳以上で定年年齢未満の有期契約労働者を、無期雇用転換制度に基づき、無期雇用労働者に転換させた場合に、対象者数に応じて一定額を助成します。  なお、あらかじめ無期雇用転換計画書を提出し、認定されていることが必要です。 ◆おもな支給要件 @高年齢者雇用等推進者の選任および高年齢者雇用管理に関する措置(26ページ※1)を1つ以上実施し、無期雇用転換制度を就業規則等に規定していること A無期雇用転換計画に基づき、無期雇用労働者に転換していること B無期雇用に転換した労働者に転換後6カ月分(勤務した日数が11日未満の場合は除く)の賃金を支給していること C雇用保険被保険者を事業主都合で離職させていないこと ◆支給額  対象労働者1人につき40万円(中小企業以外は30万円)を支給します。 助成金の詳細について  助成金の支給要件等の詳細は、JEEDホームページをご確認ください。  また、JEEDホームページから、各コースの申請様式や支給申請の手引きをダウンロードできます。そのほか、制度説明の動画も掲載しています。  助成金に関するお問合せや申請は、JEEDの各都道府県支部高齢・障害者業務課(東京・大阪は高齢・障害者窓口サービス課、連絡先は本誌65ページ)までお願いします。 助成金の詳細はこちらからご確認ください。 JEEDホームページ「助成金」 https://www.jeed.go.jp/elderly/subsidy/index.html いつでも、どこでも助成金の電子申請 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)に申請いただいている65歳超雇用推進助成金が、e-Gov電子申請を利用して申請できます。 電子申請って? 現在、紙によって行われている申請などの行政手続を、インターネットを利用して自宅や会社のパソコンを使って行えるようにするものです。 e-Govって? デジタル庁がインターネット上で運営する行政サービスの総合窓口です。状況・分野・所管行政機関の条件から手続を探して、行政手続の申請・届出を行うことができます。 電子申請のメリットは? ●24時間365日いつでも手続ができます。(申請期限があります) ●インターネット経由でどこからでも申請できます。 ●手続きはマイページで管理され、処理状況や通知等を確認できます。 図表1 65歳超継続雇用促進コース【定年の引上げまたは定年の廃止、66歳以上への継続雇用制度の導入】 措置内容(引上げ年齢) 60歳以上被保険者数 定年引上げまたは定年の定めの廃止 66歳以上の継続雇用制度の導入 65歳 66〜69歳 5歳未満 5歳以上 70歳以上への引上げ 定年の定めの廃止 66〜69歳 希望者全員 対象者基準あり 70歳以上 希望者全員 対象者基準あり 1〜3人 15万円 25万円 40万円 45万円 60万円 22万円 20万円 40万円 36万円 4〜6人 20万円 32万円 65万円 70万円 120万円 37万円 32万円 65万円 60万円 7〜9人 25万円 39万円 110万円 115万円 180万円 60万円 50万円 105万円 95万円 10人以上 30万円 46万円 135万円 140万円 240万円 90万円 75万円 130万円 120万円 図表2 65歳超継続雇用促進コース【他社による継続雇用制度の導入】 措置内容(引上げ年齢) 60歳以上被保険者数 他社による継続雇用制度の導入 66〜69歳 希望者全員 対象者基準あり 70歳以上 希望者全員 対象者基準あり 1〜3人 20万円 16万円 32万円 30万円 4〜6人 30万円 26万円 50万円 45万円 7〜9人 50万円 40万円 85万円 75万円 10人以上 70万円 60万円 105万円 100万円 ●実施した制度、引き上げた年数、対象被保険者数に応じて定額が助成されます ●複数の取組みを実施した場合であっても支給額はいずれか高い額のみとなります 図表3 高年齢者評価制度等雇用管理改善コース 認定された雇用管理整備計画に基づき高年齢者雇用管理整備措置を実施した場合の、当該措置の実施および実施にともない必要となる機器等の導入に要した経費を支給します 高年齢者雇用管理整備措置の種類 助成額 1 高年齢者にかかる賃金・人事処遇制度の導入・改善★1 60万円(中小企業以外は45万円) 2 労働時間制度の導入・改善 在宅勤務制度の導入・改善 研修制度の導入・改善★2 健康管理制度の導入 30万円(中小企業以外は23万円) 3 雇用管理制度の整備にともなう機器等導入 1〜2の措置導入経費(上限50万円)×60%(中小企業以外は45%) ★1 高年齢者向けの専門職制度等、高年齢者に適切な役割を付与する制度を含む ★2 高齢期における職業生活設計のために必要な情報の提供や助言を行う研修を含む その他の助成金 高齢者雇用促進等のためのその他の助成金・補助金編集部  当機構(JEED)の「65歳超雇用推進助成金」のほかにも、「特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)、(中高年層安定雇用支援コース)」、「エイジフレンドリー補助金」などがあります。「特定求職者雇用開発助成金」については、各都道府県労働局やハローワークが、「エイジフレンドリー補助金」については、一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会(2026〈令和8〉年度補助事業者)が、支給窓口となります。 特定求職者雇用開発助成金(特定就職困難者コース)  高齢者や障害者などの就職困難者をハローワーク等の紹介により、継続して雇用する労働者として雇い入れる事業主に支給されます。この助成金の対象となる高齢者は、60歳以上で、ハローワーク等で就労に向けた個別支援を受けている方です。  高齢者を雇い入れた場合の助成対象期間は1年間で、支給対象期(6カ月間)ごとに支給されます。  高年齢者(60歳以上)の場合、支給額は「短時間労働者以外」(1週間の所定労働時間が30時間以上)と「短時間労働者」(1週間の所定労働時間が20時間以上30時間未満の者)で異なり、中小企業が短時間労働者以外を雇用する場合、60万円を2期に分けて30万円ずつ(中小企業以外は50万円を2期に分け25万円ずつ)支給されます。  中小企業が短時間労働者を雇用する場合は、40万円を2期に分け20万円ずつ(中小企業以外は30万円を2期に分けて15万円ずつ)支給されます。 特定求職者雇用開発助成金(中高年層安定雇用支援コース)  いわゆる就職氷河期世代を含む35歳〜60歳未満の中高年層のうち、就職の機会を逃したなどにより十分なキャリア形成がなされなかったために、正規雇用労働者としての就職が困難な方を、ハローワークなどの紹介により正規雇用労働者として雇い入れる事業主に支給されます。  対象となる労働者は、正規雇用労働者として雇用されることを希望しており、雇入れの日の前日から起算して過去5年間に正規雇用労働者として雇用された通算期間が1年以下で、過去1年間に正規雇用労働者として雇用されたことがない方で、かつハローワーク等において就労に向けた個別支援を受けている方となります。  支給額は、中小企業の場合は60万円を2期に分けて30万円ずつ(中小企業以外は50万円を2期に分けて25万円ずつ)となります。 エイジフレンドリー補助金※  高年齢労働者の労働災害防止のための設備改善や、専門家による指導を受けるための経費の一部を補助します。1年以上事業を実施しており、役員を除き自社の労災保険適用の高年齢労働者(60歳以上)が常時1名以上就労している中小企業が対象です。  労働安全衛生にかかる専門家によるリスクアセスメントの実施(第1段階)、およびリスクアセスメントの結果をふまえた各種取組み(第2段階)に要する経費の一部を補助する「専門家総合対策コース」、暑熱な環境による熱中症予防対策として身体機能の低下を補う装置・装備の導入に要する経費の一部を補助する「熱中症対策コース」、コラボヘルス等の労働者の健康保持増進のための取組みに要する経費の一部を補助する「コラボヘルスコース」があります。 ※ 労働安全衛生の専門家を活用したリスクアセスメントの実施申請は、2026(令和8)年8月31日(月)までとなっている。また、予算額に達した場合は、受付期間の途中であっても申請受付が終了する場合がある