知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第96回 雇用外の執行役員と継続雇用の関係、ホテル支配人の労働者性 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永勲/弁護士 木勝瑛 Q1 役員経験者も継続雇用の対象になるのでしょうか  労働者として勤務していた者が、定年を迎える前に役員となり、雇用契約の対象外となりました。役員の地位について65歳に至る前に終了したことをきっかけに、65歳までの継続雇用を求められているのですが、これに応じなければならないでしょうか。 A  継続雇用制度の対象とする必要はなく、応じるか否かは使用者の裁量に委ねられます。 1 継続雇用制度の対象者  高年齢者雇用安定法では、定年年齢について60歳を下回ることができないことを定め(同法第8条)、定年の規定を設けている場合には、雇用する高年齢者の65歳までの安定した雇用を確保するための措置として、@定年年齢の引上げ、A継続雇用制度(現に雇用する労働者が希望するときは定年後も引き続いて雇用する制度)のいずれかを採用するか、B定年の定めを廃止することが必要とされています(同法第9条)。  これらのうち多くの企業が採用しているのは、A継続雇用制度です。継続雇用においては、使用者が合理的な裁量の範囲で、定年前と異なる労働条件を提示することは許容されているものの、現に雇用する労働者が希望するかぎりは、解雇事由または雇用の終了事由に該当し、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性が認められる場合でなければ、継続雇用を拒絶することはできないと解釈されているところです。  ところで、継続雇用制度とは、「現に雇用する労働者」を「定年後」も引き続いて雇用する制度です。そのため、定年時点において雇用していない高年齢者は、継続雇用制度の対象とはなりません。例えば、60歳定年制を採用している企業に、61歳で入社したような場合には、継続雇用制度の対象にはなりません。他方で、このような労働者は、継続雇用の対象者でもないことから、労働契約法第18条が定める無期転換ルール(複数回の更新と5年以上の継続雇用が行われた際に、契約期間の無期転換を求めることができる権利を得る制度)の対象除外とすることもできない点にも留意しておく必要があります。  加えて、現に雇用する労働者でなければならないことから、業務を依頼している根拠が労働契約ではない場合にも、適用対象にはなりません。あたりまえのことのようにも思われますが、近年では、業務委託契約を締結しているフリーランスの方や従業員の地位から役員に就任したときに雇用契約が終了しているか否か明確ではないケースなどにおいて、問題となる場合があります。 2 裁判例の紹介  高年齢者の雇用継続に関連して、労働者であった者が、執行役員に就任したのちに、60歳を超えて執行役員の任期を終えたときに、継続雇用制度の適用があるか問題となった事案があります(東京地裁令和7年3月7日判決)。  原告となったのは、58歳のときに執行役員に就任して、退任するに至った後、62歳当時に顧問契約という名称にて雇用契約を締結することとなった者です。なお、正社員の定年は60歳と定められており、継続雇用制度も導入されていました。  しかしながら、原告は、63歳に至った段階で雇用契約を終了すると告げられたことから、高年齢者雇用安定法に基づく継続雇用制度の適用および雇止めの効力(労働契約法第19条2号により権利濫用として無効とならないか)が争われました。  高年齢者雇用安定法の適用対象になるとすれば、63歳の段階で雇用契約を終了させるためには、解雇事由または雇用契約の終了事由に該当し、かつ、客観的かつ合理的な理由および社会通念上の相当性がなければ、雇用契約の終了が認められないことになりそうです。  原告は、執行役員は雇用として扱われていないが、その実態は従業員的な役割も兼ねていたことを理由として、継続雇用制度の適用を主張しています。  しかしながら、裁判所は執行役員は雇用契約の対象ではないことを前提としたうえで、「本件継続雇用規定は、定年退職した従業員を対象とするものと解するのが相当であり、…従業員として被告を定年退職していない原告に本件継続雇用規定は適用されない」と判断し、原告の主張は認められませんでした。  また、雇止めの効力に関しても、「被告における顧問は、役員退任者を満63歳の誕生日まで一時的に雇用するものであり…、その雇用は臨時的なもの…顧問契約は1回も更新されておらず、…他の役員退任者についても、少なくとも直近10年間において、顧問として雇用された後、63歳を超えて顧問契約が更新された例は一例もなかった」ことなどを理由として、雇用継続の期待を否定したうえで、使用者が「顧問契約の期間満了をもって役員退任者を退職させる方針を有していたことがうかがわれ、原告との面談においてもその旨を繰り返し回答した」ことも認定された結果、労働契約法第19条2号の適用もなく、顧問契約の終了は有効なものと判断されました。  継続雇用制度の適用対象者に関しては、労働者の地位で定年を迎えることが適用の前提条件であることを示しており、執行役員という委任契約の対象となるような場合には、適用対象外となることは正確に把握しておく必要があります。  本件裁判例の使用者においては、役員就任前の時点で、雇用契約ではなくなることから継続雇用制度の対象とはならないことや63歳で顧問を退任して退職となることがあらかじめ提示されていたことも、期待可能性を否定する重要な要素となっています。  会社によっては、取締役や執行役員就任時に雇用契約が終了するのか否かについて、就業規則上明確となっていない場合があります。また、雇用契約が終了しているはずであるにもかかわらず、労働者としての指揮命令下に置き続けたり、報酬の決定方法が労働者と同様のまま維持されてしまったりしていることもあります。本件裁判例の原告も従業員的な役割も兼ねていたと主張していますが、従業員兼務役員と認められた場合には、継続雇用制度についても対象とする必要があります。  役員就任者の処遇が明確になるように就業規則の規定を整え、運用においても区別するようにしておきましょう。 Q2 業務委託契約を締結しているホテル支配人に、労働者性はあるのでしょうか  弊社はホテル事業を行っています。直営ホテルを除いた各ホテルの運営および支配人業は、個人事業主との間で業務委託契約を締結し、支配人となっていただくことで委託しています。このたび、ある支配人から自身は労働者であるから、残業代が支払われるべきだとの問合せがありました。労働者と評価されるのでしょうか。 A  支配人が、貴社の指揮監督下において労務提供を行っており、貴社が当該労務に対する対価を支払っている場合には、労働者と判断されることとなります。なお、近年の裁判例では、契約目的を重視してホテルの支配人について労働者性を否定したものがあります。 1 労働者性を論じる意義  実務上、労働者か否かが争いになる事案は多くあります。労働者であれば、労働契約法や労働基準法による保護を受けられるため、残業代が支払われることになりますし、解雇規制により安定した労働契約上の地位が期待できることとなります。しかし、そうでない場合には、これらの法令の適用はないため、残業代が払われることはありませんし、契約解消も比較的容易になされてしまいます。このように、労働者か否かによって保護の度合いが大きく変わるため、実務上も重要な論点となるのです。 2 労働者とは  では、どのような場合に労働者となるのでしょうか。この点、実務上重視されている基準として、1985(昭和60)年12月19日付で、労働省労働基準法研究会から提出された「労働基準法の『労働者』の判断基準について」があります。この基準によれば、労働者とは、@使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること、A労務に対する対償を払われる者であること、の二点を充足する者であるとされており、多くの裁判例もこれに沿って判断しています。  なお、@の指揮監督の有無については、○ア具体的仕事の依頼・業務指示に対する諾否の自由の有無、○イ業務遂行上の指揮監督の有無、○ウ勤務場所・勤務時間の拘束性の有無によりまず判断すべきとされています。これに加えて、補完要素として、○エ労務提供の代替性があげられています。  具体的な仕事の依頼や業務指示について、諾否の自由があるならば、指揮監督がない(=労働者ではない)と判断される事情の一つとなりますし、諾否の自由がなければ、指揮監督下にあり、業務命令に服すべき労働者であることを基礎づけることとなります(前記○ア)。また、注文者として行うべき指示の程度を超えた具体的な指揮監督が行われている場合、労働者性を基礎づけることとなります(前記○イ)。さらに、勤務場所や勤務時間が拘束されている場合には労働者性を基礎づけることとなります(前記○ウ)。加えて、本人に代わってほかの者が労務提供をすることが認められているなどの場合には労働者性を基礎づけることとなります(前記○エ)。 3 ホテル支配人の労働者性  ホテルの支配人の労働者性が争われた裁判例として、スーパーホテル事件(東京地裁令和7年7月10日判決)があります。この裁判例は、使用者の指揮監督下において労務の提供をするものではなく、また報酬の労務対償性もないとして、支配人の労働者性を否定しました。  裁判所は、次の通り判示しました。すなわち、まず、諾否の自由について、本件では、業務要領において各業務の内容が具体化されており、使用人が個別の業務依頼を拒否することは想定されていませんでしたが、「これは、本件委託契約に基づく受託業務を履行する義務があることによるものであるから、直ちに原告らと被告との間に指揮監督関係があることを示すものということはできない」と判示しました。  指揮監督の有無について、本件ではマニュアルによる業務指示がなされていたものの、「本件委託契約は、被告のホテル経営・運営のノウハウ及びサポートに基づき被告の設定する質と水準で本件ホテルを運営することにより高い収益を上げることを目的とする」のであるから、「被告がマニュアル等を作成しその遵守を義務付けることは……契約の目的に基づくものであり、使用者の労働力に対する業務遂行上の指揮監督とは異なる」と判示しました。被告社員による管理・指導についても同様に判断しています。  時間的・場所的拘束性については、本件ではホテルは365日営業で支配人はホテル所在地に住民票を異動してホテルに居住しながらホテル運営を行うとされていたことから、一定の場所的・時間的拘束が肯定されています。しかし、「これらは、……業務遂行を指揮監督する必要によるものではなく、本件委託契約の内容又はホテルの運営業務という業務の性質から生ずるものである」として、指揮監督関係を基礎づけるものではないと判示しました。  労務提供の代替性の有無について、本件では第三者への再委託が禁止されており、アルバイトの担当業務が限定されていたという事情がありましたが、再委託禁止は「運営業務が被告のホテル経営・運営のノウハウに基づき被告の設定する質及び水準で行われる必要があることから被告による審査と研修を経たものにのみ本件ホテルの運営業務を行われる趣旨」であり、「必要があれば代行要員に委託業務を代行してもらうことが可能」であったことなどから、労務提供の代替性も否定されています。  報酬についても、支配人に支払われる報酬のうち、一部は、店舗の利益状況に応じて支給されたり、自社サイトによる宿泊売上げなどに応じて支給されるものであるといった事情に照らすと、「いずれも一定時間の労働の対価として支払われるものとは認めがたく、報酬の労務対償性を認めるのは困難」と判示しました。  以上により、指揮監督下の労務提供および報酬の労務対償性の両者とも否定され、原告らは労働者にあたらないとされました。 4 ふり返り  本判決は、「被告のホテル経営・運営のノウハウ及びサポートに基づき被告の設定する質と水準で本件ホテルを運営することにより高い収益を上げる」という契約目的を重視し、被告による管理はホテルの質・水準維持のためのものであり、指揮監督下の労務提供を基礎づけるものではないとして労働者性を否定しています。  本判決の示した考え方を前提とすると、会社側のサポートが想定され、被告が設定する質・水準での運営を想定する事業形態の場合には、会社の縛りがかなり強くても、それは契約目的により当然想定されているからと切り捨てられてしまい、労働者性が肯定されることはほとんどなくなってしまうように思われます。本件は、控訴がなされており、控訴審の判断が注目されます。