いまさら聞けない人事用語辞 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第69回 「労働委員会」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「労働委員会」について取り上げます。 労使紛争の解決を図る機関  労働委員会の定義については、「労働委員会は労使間(労働者・使用者間)のトラブル(労使紛争)を解決するために、法律によって設けられた行政機関で、トラブルの自主的な解決が困難な場合に、中立・公正な立場で問題解決の手伝いをする※1」と『労働委員会ガイドブック』(全国労働委員会連絡協議会)に記載されています。労働組合法第19条に基づく機関であり、国の機関である中央労働委員会(中労委)と、各都道府県の機関である都道府県労働委員会の2種類があります。労使紛争の内容が一つの都道府県のことであれば都道府県労働委員会、二つ以上の都道府県に関係する場合は中央労働委員会の扱いとなります。  この機関の重要なポイントは、「中立・公正な立場で」紛争の解決を図るという点です。労使間でトラブルが発生して、それが社内で解決できない場合に第三者の労働委員会に相談するという流れになります。解決できないという時点で、労働者と使用者の間で意見の相違があるため、解決を図る側の労働委員会に労使いずれかに偏った意見が強いという状態は望ましくないことになります。そこで、解決を図る立場の労働委員会の委員は、労働者の代表として労働組合から推薦された労働者委員、使用者の代表として使用者団体から推薦された使用者委員、中立的な第三者の立場として学識経験者や法曹関係者からなる公益委員で構成され(三者構成※2)、任期は2年です。中央労働委員会の人数は三者同数15名ずつ(計45名)で内閣総理大臣により任命されます。都道府県労働委員会は各機関により人数が異なり(東京都はそれぞれ13名、愛知県はそれぞれ7名など)都道府県知事により任命されます。公平性を期すために、委員の経歴・現職、労働者委員・使用者委員・公益委員のいずれであるかの名簿が厚生労働省や都道府県のホームページなどで公開されています。 集団的労使紛争と個別的労使紛争  労働委員会がかかわる労使紛争は、労働組合と使用者との間で生じる集団的労使紛争と労働者個人と使用者の間で生じる個別的労使紛争に分かれます。労働委員会の役割として、労働組合法および労働関係調整法で役割が明記されているのは集団的労使紛争です。労働委員会のおもな役割を整理すると、「労働争議の調整」、「不当労働行為事件の審査」、「労働組合の資格審査」の三つがあげられます。  一つめの「労働争議の調整」については、労働組合には労働者と使用者が対等な立場で交渉できるように、団体交渉権が労働三権※3の一部として憲法第28条で保障されています。労働問題について交渉した際に、労使の意見が平行線をたどり決裂するなど労使間の紛争が発生し自主解決が困難となった際に、労働組合または使用者が労働委員会に調整の申請を行います。調整には、法的な強制力の低い順に、「あっせん」、「調停」、「仲裁」があります。 ・あっせん…あっせん員が労使双方の主張を確かめ、労使の自主的な話し合いを援助(あっせん案の提示など)する。あっせん案の受諾は任意。簡単で迅速な手続きのためもっともよく活用されている。 ・調停…三者構成の調停委員会が労使双方の主張を聞いて作成した調停案を提示する。調停案の受諾は任意。 ・仲裁…公益委員で構成される仲裁委員会が、仲裁裁定を下す。この内容は労働協約と同一の効力をもって当事者を拘束。  二つめの「不当労働行為事件の審査」とは、労働組合法第7条で禁じられている不当労働行為を使用者が労働組合や労働者に対して行った場合に、労働委員会に対して救済申立てを行うことができる制度のことです。不当労働行為には、組合員であることを理由とする解雇その他の不利益取扱い、正当な理由のない団体交渉の拒否、労働組合の運営等に対する支配介入※4および経費援助、労働委員会への申立て等を理由とする不利益取扱いなどがあります。労働委員会はこれらの救済申立てがあった場合に審査を行い、不当労働行為の事実があると認められる場合には、使用者に対して、復職や組合運営への介入の禁止等といった救済命令を出します。一方、申立てに意義がないとされる場合には棄却命令が出されます。なお、申立ては基本的には都道府県労働委員会に対して行いますが、そこでくだされた救済命令(初審命令)に不服がある場合は、中央労働委員会に再審査申立てを行うことができます。  三つめの「労働組合の資格審査」ですが、本来、労働組合は自由に設立でき、届け出なども不要ですが、労働組合法に定める手続きに参与したり、救済を受けるためには、労働組合法第2条および第5条に定める一定の資格要件を備えていなければならないことになっています。この資格の有無を審査するのが労働組合の資格審査で、労働委員会の役割の一つとなります。  労働委員会は、個別的労使紛争の調整も行っていますが、手続きは「あっせん」に限定され、東京都・兵庫県・福岡県には労働委員会が主体となる制度がないなど、都道府県により実施状況が異なります。 労使紛争の取扱状況  最後に、労働委員会による労使紛争の取扱状況について確認しましょう。中央労働委員会のホームページ※5に事件取扱状況などの統計が公表されています。  まずは、「労働争議の調整」ですが、2024(令和6)年に全国の労働委員会が新規に取り扱った係属件数は165件(あっせんが159件、調停が5件、仲裁が1件)です。10年前の2014(平成26)年の367件、5年前の2019年205件と比較して減少傾向にあります。  次に、「不当労働行為事件の審査」ですが、2025年は国の労働委員会が初審として扱った新規申立てが188件で、公表値でもっとも古い2021年の277件と比較してこちらも減少傾向にあります。  減少の理由としては、働く環境が改善されてきたと評価される一方で、労働組合の組織率の低迷や、解決率が半数程度(2024年の労働争議の調整が解決で終結した比率は51.1%)であることも影響していると思われます。  次回は、「ハローワーク」について取り上げます。 ※1 『労働委員会ガイドブック』4ページの「労働委員会って何をするの?」の説明から筆者が一部改変。https://www.mhlw.go.jp/churoi/panfu/dl/pamph05.pdf ※2 三者構成については、国際的な労働問題の解決を図るILO(国際労働機関)でも同様の構成になっている ※3 労働三権……「団結権」(労働者が労働組合を結成する権利)、「団体交渉権」(労働者が使用者と団体で交渉する権利)、「団体行動権」(要求を実現するためにストライキなど団体で行動する権利)のこと ※4 支配介入……労働組合結成に対する阻止・妨害行為、労働組合の日常の運営や争議行為に対する干渉を行うことをさす ※5 労働争議の調整の統計 https://www.mhlw.go.jp/churoi/chousei/sougi/sougi05.html 不当労働行為事件の審査の統計 https://www.mhlw.go.jp/churoi/shinsa/futou/futou03.html