技を支える vol.365 技能グランプリに出場を続け、次代へ技をつなぐ タイル工 勝呂(すぐろ)高也(たかや)さん(67歳) 「仕上がりの出来栄えが目に見えるのがタイル張りのよさ。お客さまに喜んでいただけると、次の仕事への励みになります」 タイル張り職種の競技で金賞厚生労働大臣賞を受賞  色の異なるタイルを加工し組み合わせて表現した2羽の折り鶴。今年開催された「第33回技能グランプリ※1」のタイル張り職種の課題を、有限会社丸まる勝かつ工業(東京都世田谷区)代表取締役の勝呂高也さんが一部再現したものだ※2。タイル工として46年のキャリアを持つ勝呂さんは、この競技で最高位の金賞と厚生労働大臣賞を受賞した。  同大会のタイル張り職種は、2017(平成29)年の第29回大会で新設された。その際、所属する東京都タイル技能士会から声がかかり、「若手の見本になれば」と出場、銅賞を受賞した。その後、エントリー数が規定を下回り競技が中止になったことがあった。技能グランプリは、現場ではなかなか経験できない、技術と真剣に向き合う貴重な機会。職人が技を磨く場を守りたいという思いから、「現役のうちは出場を続けよう」と決心し、出場を重ねてきた。  ところが、今大会で金賞を受賞したことで、次回以降の出場資格を失うことになった。「今回が最後の出場になるとは思ってもいませんでした」と苦笑した。 現場で失われつつある伝統工法の重要性  技能グランプリで必要となる工法の一つに「積み上げ張り」がある。タイルの裏にモルタルを盛り、張った糸に合わせて1枚ずつ張っていく伝統的な工法だ。現在は複数枚のタイルを接着剤で一度に張る工法が主流で、現場で用いられることはあまりない。それでも「基本があって応用ができる」と勝呂さんはその重要性を説く。  「積み上げ張りは非効率ですが、理論的にはもっとも正確な工法です。例えば下地に凹凸がある場合でも、1枚1枚のモルタルの量を調整することでタイルを平滑に張ることができます。積み上げ張りを身につけることで、応用がきくのです」  積み上げ張りのむずかしさは、モルタルの量の見きわめと、モルタルに使うセメントと砂の配合にある。  「どちらも数値化がむずかしく、長年の経験がものをいいます」  勝呂さんが「これまで出場した大会のなかで一番面倒な課題」というのが、折り鶴の絵柄をタイルで表現する部分だ。  「折り鶴を表現するには、複数のタイルを多様な角度でカットする必要があるため、図面を起こし、それに合わせて1枚ずつカットしていくしかないんです」  大会に向けて、その練習を20回以上行い、カットに使う工具も工夫した。今回の大会で課題を標準時間内に完成させたのは、勝呂さんだけだった。徹底した事前準備が結果につながった。 磨き続けた技を次の世代につなぐ  丸勝工業は、勝呂さんが生まれたころに父親が創業。タイル工事は子どものころから身近な存在で、学校の夏休みに仕事を手伝うこともあった。一時は設計士を目ざし短期大学の建築科に進学したが、独り立ちするのはなかなかむずかしいと感じ、家業を継ぐ道を選んだ。  当初は社内の腕のよい職人につき、手伝いから始めた。その職人が2年余りで退職すると、一人でやらざるを得なくなった。そこからは独学で研鑽を積んだ。  「期限内に仕上げなければならないのに技術が追いつかず、昼休みに現場で練習したり、残業や休日出勤を続けたこともあります」  その後、1級タイル張り技能士を取得し、東京都タイル技能士会に入会してさらに技術を磨いた。同会では会長も務めた。  現在は一人で仕事をするかたわら、知合いの同業者の若手に技能検定の指導を行っている。東京都の技能継承動画「TOKYO匠の技」では、積み上げ張りなどを実演した。  「動画を見た若い職人が『勉強になった』と声をかけてくれたときはうれしかったです」  「この技術をなくしたくない」と語る勝呂さんは、意欲のある若い世代をこれからも応援していく考えだ。 TEL:03(3410)3886 (撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英) ※1 熟練技能者が「技」を競い合う国内最高峰の技能競技大会(隔年開催) ※2 上の写真は目地を詰める前の状態 写真のキャプション 技能グランプリの課題を20回以上練習して本番に臨んだ。接着剤を塗ってから20分ほどで表面が乾いてしまうため、段取りを組んで一気に張る必要がある 建築系のイベントで、タイルに親しんでもらうため、タイルを使った工作教室を開いている。カラフルなタイルが子どもたちに人気だ 技能グランプリでの積み上げ張りの様子。糸を張って基準を定め、タイルの裏にモルタルを盛り、糸に合わせて1枚ずつ張っていく(写真提供:中央職業能力開発協会) タイルを張る基準となる墨を打つための定規を土台に固定する。仕上がりの精度を左右する工程だ(写真提供:中央職業能力開発協会) タイル張りはコテを使いこなす技能でもある。下地のモルタルを平滑にしたり、目地を整えたりするのに、さまざまなコテを使い分ける 技能グランプリの課題の図柄をもとに作成した図面。この図面に合わせて、四角いタイルを必要な形にカットする。短大で建築を学んだ経験が作図に生きている タイルをすべて張り終えたら、目地の幅が均等になるように調整を行う。接着剤が乾くまでにやり終える必要があり、時間との戦いでもある