Leaders Talk No.135 65歳定年、70歳までの再雇用制度を導入 “社員の幸せ”を起点に制度を設計 大同メタル工業株式会社 執行役員 人事企画ユニット人事企画センターチーフ 藤井賢一さん ふじい・けんいち 1994(平成6)年に大同メタル工業株式会社に入社。工場、営業、労務担当を経て2016年より現職。  自動車に欠かせない部品である「自動車用エンジン軸受(じくうけ)」で世界シェア1位(2025年暦年ベース/同社推定)を誇る大同メタル工業株式会社。同社では、2025(令和7)年に策定した中期経営計画に基づく取組みの一環として、2026年4月より、定年を65歳、再雇用の年齢上限を70歳とする新たな高齢者雇用制度を導入しました。今回は、同社執行役員の藤井賢一さんにご登場いただき、高齢者雇用制度改定のねらいや新制度の概要についてうかがいました。 少子高齢化社会における人手不足の解消と会社の持続的発展にはベテラン社員の活性化が不可欠 ―2026(令和8)年4月から定年年齢を65歳に延長し、70歳までの再雇用制度を導入されました。制度改定に至った背景と目的について教えてください。 藤井 もちろん70歳までの就業機会の確保という法律の動きも意識していますが、当社の事情もありました。人材の採用が非常に厳しい状況にあり、将来にわたって労働力の確保がむずかしくなるなかで、人材確保の方法としてはベテラン社員の活用がもっとも確実であり、同時に会社が持続的に発展するためには、その人たちの経験やスキルをもっと活かしていくべきだと考えました。  検討を始めた2021年時点の当社の従業員に占める60歳以上の比率は2%台でしたが、10年後には10%を超えることもわかっていました。また当社の従業員の定年後の再雇用率はほぼ100%ですし、将来的に従業員構成においてこの年齢層が大きなウエイトを占めることを考えると、会社が持続的に発展するためにはベテラン社員の活性化が不可欠です。  当社は企業理念として、「社員の幸せをはかり、地球社会に貢献する」ことを掲げています。会社の持続的成長と生産性向上のために、従業員一人ひとりの働きがいを高め、その能力を最大限発揮できる機会と環境を提供しようという、会社としての思いもありました。 ―従来の60歳以降の再雇用制度にはどんな課題があったのでしょうか。それに対してどのような議論を重ねてきたのでしょうか。 藤井 従来の再雇用制度では、賃金は59歳時点の55%程度に下がります。再雇用となった社員のなかには、賃金の減少に加え、60歳定年という節目を迎え、体力的なことも考えて「無理せずほどほどに働けばいいかな」と、モチベーションが下がる人もいました。仕事を与える側も、「再雇用だから、あまり無理な仕事は与えられない」といった、よくいえば“やさしい対応”になりがちで、せっかく経験や知識があっても十分に活かされていない実態もありました。  2021年の秋に労働組合と一緒に再雇用制度の見直しの委員会を立ち上げ、勤務形態を含めていろいろな課題について調査をし、おのずと定年延長を行うことで意見が一致しました。ただし具体的な制度設計をどうするか、特に処遇制度については大きく悩みました。検討段階では、賃金制度をいったん60歳でリセットし、60歳以降はジョブ型に近い賃金制度に変え、賃金を59歳時点の7〜8割の水準とする案もあがりました。しかし経営陣から、「社員がやりがいを持って積極的に働いてもらうためには賃金を維持することが重要」という指摘があり、最終的には2024年10月の経営会議で新制度が承認され、2026年4月から定年延長をスタートすることになりました。 ―賃金は維持されるということですが、60歳以降の具体的な処遇制度について教えてください。 藤井 一般従業員の賃金制度は事務系と技能系に分かれ、等級数の違いなどはありますが、同じ資格等級制度で運用しており、資格等級にひもづいた基本給と成果を反映した賞与があります。従来の再雇用制度では、基本給は一律に半分程度に下がり、賞与についてもそれほど評価差がつかない仕組みでした。新制度では60歳以降も等級が維持され、賞与も60歳以前と同じように成果評価に基づいて支給されるので、基本的に給与は変わりません。59歳まであった昇給はなくなりますが、もともと同じ等級に長期にとどまる場合は昇給率が低くなるという仕組みがあり、それほどの変化はありません。また、退職金については60歳時に支給し、60歳以降はありません。  管理職層についてですが、当社は役職定年制を設けておらず、60歳定年まで役職を継続できましたが、新制度では60 歳で役職を降り、「エキスパート職」という職群に転換してもらいます。処遇面では一部の手当はなくなりますが、資格等級はそのまま維持されます。役職定年で処遇が大きく下がり、再雇用でさらに下がるという会社もあるので、一定の処遇を保証することで管理職を外れてもがんばってほしいという会社の期待の表れでもあります。 65歳の定年まで給与の等級を維持し成果評価に基づいた賞与を支給 ―すでに再雇用で働いている既存の再雇用社員の処遇はどうなりますか。 藤井 現在再雇用で働いている人たちはそのまま65歳まで再雇用を継続します。ただし、給与は2026年4月からの定年延長者と同じように59歳時の水準に引き上げました。これも人的投資として経営陣が前向きに判断したもので、いままで以上に高いパフォーマンスを発揮していただきたいという期待が込められています。 ―65歳への定年延長と同時に、70歳までの再雇用制度も導入されています。再雇用社員の処遇などについても教えてください。 藤井 じつはいままでも仕事の引継ぎが間に合わない、あるいはこの人でなければむずかしいという場合は65歳以降でも例外的に雇用延長を認めるケースなどがありました。新制度は希望者全員を再雇用するのではなく、一定の基準を設定し、会社が指名し、本人が希望すれば再雇用する形になります。具体的には部門長の推薦に基づいて人事部が人事評価などを見て承認し、本人の意思を確認するという手続きになります。  処遇については、現時点では従来の60歳から65歳までと同じようにいままでの賃金の6割程度の水準を設定しています。やはり65歳以降は体力や気力も含めた個人差が広がることも考慮したものです。ただし、処遇も含め、今後労使で議論していくことになるだろうと思います。 ―60歳以降の働き方について、一般従業員の方はいままでの仕事を継続していくことになると思いますが、元管理職の方の働き方はどうなるのでしょうか。 藤井 一般従業員には、いままでの仕事で引き続きスキルや経験を活かして働いてもらうことを期待しています。管理職については、60歳でポストオフとなりますが、実務をこなしながら、いままでの管理職でつちかった経験を活かしつつ、後輩の育成もになってほしいと考えています。  理想的には映画の『マイ・インターン』で俳優のロバート・デ・ニーロが演じたベンのような、次世代の成長を支えるメンターの役割も期待しています。また、全社的あるいは部門のプロジェクトなどの特命事項を与えて、その役割をになってもらうことなども考えています。 大切なのは社員の「モチベーション」や「働きがい」処遇を含む“社員の幸せ”を第一に ―65歳までの定年延長により、最長で70歳まで働くことになります。意欲を持って活躍してもらうための研修などの取組みを行っていますか。 藤井 定年延長に合わせて、これまでは行っていなかったキャリア研修を初めて実施する予定です。50代前半の社員を対象に、自身のスキルの棚卸しや、今後のキャリアを自ら描き、それに向けたマインドセットなどの内容を含めた研修を予定しています。  また、社員の健康や安全衛生面では、全社的に健康経営○R(★)を推進しているほか、厚生労働省が策定したエイジフレンドリーガイドライン(現:高年齢者の労働災害防止のための指針※)に沿った労働安全衛生活動にも取り組んでいます。  そのほか、58歳時に実施しているライフプランセミナーでは、昨年から「ロコモチェック」(骨や関節、筋肉などの衰えによる移動機能が低下していないかを調べる簡易テスト)を実施しています。今後はベテラン社員を対象にした安全衛生対策にさらに取り組んでいく予定です。 ―これから定年延長や70歳までの再雇用制度の導入に取り組む企業へのアドバイスをお願いします。 藤井 冒頭にもお話ししましたが、当初の想定以上に人手不足が深刻化しつつあり、ベテラン社員の活用は不可欠だと思います。そのためには経営陣ともよく話し合いながらベテラン社員の活用について準備を進めることが重要だと思います。  また、制度設計においては、人事はコスト面も含めて他社の事例を調べるなど、とかくテクニックに走りがちですが、大事なことは“どうやれば社員のモチベーションが上がるのか”、“会社で楽しく働けるのか”を重視することだと思います。会社に来ることが楽しければ私生活も楽しくなるでしょうし、その相乗効果が結果的に生産性の向上にも寄与すると思います。処遇も含めて社員の幸せを第一に考えることが制度設計の大きなポイントではないでしょうか。 (聞き手・文/溝上憲文、撮影/中岡泰博) ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 ※「高年齢者の労働災害防止のための指針」については、厚生労働省ホームページをご覧ください。  https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/roudoukijun/anzen/newpage_00010.html