高齢者の職場探訪 北から、南から 第168回 兵庫県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 職員と園、双方への好影響が期待 希望者全員70歳までの継続雇用を制度化 企業プロフィール 社会福祉法人和田福祉会(わだふくしかい))(兵庫県丹波(たんば)市) ▲創業 2012(平成24)年 ▲業種 幼保連携型認定こども園の運営 ▲職員数 32人 (60歳以上男女内訳) 男性(2人)、女性(5人) (年齢内訳) 60〜64歳 4人(12.5%) 65〜69歳 3人(9.4%) 70歳以上 0人(0.0%) ▲定年・継続雇用制度 定年60歳。希望者全員70歳まで継続雇用。その後も運用により継続雇用。最高年齢者は69歳  兵庫県の産業は、阪神工業地帯、播磨(はりま)臨海工業地帯において鉄鋼、造船、機械、化学工業などが発展した一方で、清酒、手延素麺(てのべそうめん)、皮革(ひかく)、かばん、線香などの地場産業も盛んです。観光では、日本で初めて世界遺産に登録された姫路(ひめじ)城を筆頭に、有馬(ありま)温泉や城崎(きのさき)温泉などが有名です。また、宝塚歌劇団の本拠地である宝塚大劇場や、淡路島(あわじしま)と本州をつなぐ日本最長の吊り橋である明石海峡大橋(あかしかいきょうおおはし)も知られています。淡路島と徳島県鳴門(なると)市を結ぶ鳴門海峡大橋により、兵庫県は近畿と四国をつないでおり、神戸港湾とともに、物流業界においても重要な地域となっています。  JEED兵庫支部の熊谷(くまがい)章太(しょうた)調査役は、「高年齢者雇用アドバイザー・プランナーへの相談では、加齢にともなう体力・気力の低下など、健康への対応に関することをはじめ、改正高年齢者雇用安定法への対応や就業規則などの改正などについて多く寄せられています。兵庫県は広大で、地域ごとに雇用環境が異なり、郡部では若年者の人手不足が顕著で高齢者が長く働ける労働環境の構築などの相談があり、製造業が多い神戸から尼崎(あまがさき)地区では技術伝承やモチベーションの維持・向上などの相談が寄せられています」と同支部の取組みなどを語ります。  兵庫支部で活躍するプランナーの一人、渡邊(わたなべ)憲司(けんじ)プランナーは、プランナー歴9年目のベテランです。社会保険労務士、2級FP技能士などの資格を有し、豊富な知識と経験を活かして訪問した事業所の高齢者雇用における課題に耳を傾け、誠実な支援を続けています。  今回は渡邊プランナーの案内で「社会福祉法人和田福祉会」を訪れました。 幼保連携型の認定こども園を運営  社会福祉法人和田福祉会は、兵庫県丹波市で幼保連携型の「認定こども園わだ」を運営しています。同法人は2012(平成24)年に設立し、認定こども園わだは2014年に開園しました。大地(おおち)常夫(つねお)理事長は、「当こども園は、私立と公立の幼稚園と保育園が統合し、丹波市や地域の支援をいただいて開園して12年になります。地域に開かれた『子育て・親育ち』のための拠点として、安心して子育て・親育ちができる共同のコミュニティーの形成に努めています」と園の方針を語ります。自分らしく生きる力の基礎を育むことを大切にし、のどかな町の一角に天井の高い明るい施設と広い園庭があり、栄養士・調理員による給食の提供や看護師による健康管理など、子どもの安全・健康に配慮した体制を整え、現在は0歳児から就学前までの子ども86人が通っています。 提案を積極的に受けとめて制度を改定  渡邊プランナーは、2025(令和7)年8月に同法人を初訪問しました。「高齢者雇用の現状や課題などについてお聞きし、状況をふまえて作成した『高齢者戦力化のご提案』を同年9月に再訪問してご説明しました」とふり返ります。  当時、同法人の定年は60歳、65歳までの継続雇用という高齢者雇用制度でしたが、実態として、本人が希望し法人が必要と認めた場合はその後も継続雇用が可能でした。しかし、保育業務は体力が必要であり、加齢にともなう体力面の個人差があることなどをふまえたうえで、渡邊プランナーは、同法人への提案内容をとりまとめたそうです。  「希望者全員70歳までの継続雇用を提案するとともに、継続雇用延長を実施する際、定年後の雇用管理制度の整備および高齢職員の能力開発を目的とした制度を新たに構築することを提案しました。定年後も働きたい意欲のある高齢職員を活用することは、人材不足の緩和と高齢者の就業のモチベーションアップにつながります。また、安心して働ける仕組みをつくることは、中途採用などへの好影響も期待できます。一方、職員にとっては、長いスパンでキャリア形成や知識・技術習得などに取り組めるので、モチベーションの維持・向上につながります」  同法人の中野(なかの)譲(ゆずる)事務長は、「提案をお聞きして、より働きやすい環境をつくるためには、希望者全員70歳までの継続雇用を制度化することがよいと思いました。高齢者雇用制度の充実を考えていたときでしたので、提案を受けて積極的に検討を進め、2026年4月に継続雇用の対象を『希望者全員70歳』にあらためました。定年以降は嘱託職員となり、基本的には補佐的な立場で若い職員を支える役目をになってもらいます。働き方はフルタイム勤務のほか、短時間勤務などにも柔軟に対応しています」と制度改定について語ります。  同園の前川(まえがわ)往代(ゆきよ)園長はこの制度改定について、「70歳まで働けることで先がみえるようになり、継続雇用で働いている職員の方々の安心感やモチベーションアップにつながったと思います。経験豊富な年長者がいらっしゃることは、まず若い職員にとって大きな安心感になっています。また、若い職員には子育て中の者が多く、朝は多忙のため、早い時間を担当していただけることも大きな助けになっています。子どもたちにとっても、多様な世代とふれあえることは、意義のあることと思います」と実感と思いを話します。  今回は、これまでの経験や学んだことを活かし、活躍するお二人の高齢職員にお話をうかがいました。 若手を支えながら、全体に気を配る  保育教諭として活躍する石垣(いしがき)陽子(ようこ)さん(64歳)は、認定こども園わだの前身の一施設である保育園のときから勤務しており、当時を含めると勤続年数は25年ほどになります。60歳で定年を迎えてから嘱託職員となり、現在は2歳児の「こあら組」の副担任を務めています。勤務時間は、もっとも早い時間の朝7時から、こあら組園児の帰宅時間の16時まで、週5日のフルタイム勤務です。  「定年前は主担任を務めていましたが、定年後は副担任となり、若い先生を補佐しています。調理師の資格も取得しているので、調理室の人員が足りないときはスポット的に調理員の仕事もします」と笑顔で話す石垣さん。定年を迎える半年ほど前に、「園から『できたら勤務を続けてほしい』とお話ししていただきました。子どもたちが成長していく姿を見届けることができるこの仕事が大好きですし、続けていられることがうれしく、つねに感謝と奉仕の心で仕事をしています。体力のいる仕事ですので、体と相談しながらですが、元気なうちは続けていたいですね。働きやすい環境を整えてくださっているので、頼りにしていただけるようにがんばります」と話します。  こあら組の主担任を務める窪田(くぼた)麻衣(まい)さんは、「定年を迎えられる前は石垣先生が主担任でした。立場は替わりましたが、いまもなんでも聞きやすく、いろいろなことによく気づいてくださり、子どもたちのことだけでなく、職員の体調や子育てをしている先生のことも気遣ってくださる、やさしく頼りになる大切な存在です。いつも明るい笑顔で子どもたちに慕われています」と石垣さんを語ります。  経験豊富な石垣さんは、保育や遊びなどのアイデアを豊富に持っているうえ、一緒にいると「見通しをもって保育ができ、相談できることもありがたい」と窪田さんは語り、信頼を寄せています。前川園長は「主担任と副担任が補完し合う名コンビです」と石垣さんと窪田さんの関係を明かし、定年後に経験を活かしつつ柔軟な姿勢で働いている石垣さんを称えます。 子育て支援員の認定を受け活躍の幅を拡げる  岸名(きしな)直樹(なおき)さん(66歳)は、市役所を退職後、民間企業や森林組合での勤務を経て、64歳のときに入職。石垣さんと同じ朝7時から勤務し、登園して来る園児たちの出迎えを担当しています。その後は施設の環境整備をにない、砂場の清掃や庭木のせん定、水やりなどを9時まで行い一度帰宅。15時30分に再び出勤し、預かり保育の補助を担当し、18時に仕事を終えます。この働き方で週5日勤務しています。  「孫が当園でお世話になり、卒園したときに事務長からお声がけいただいたのが入職のきっかけです。体はまだまだ動きますし、未経験でしたが、可能なかぎりやってみようと思い、働くことになりました。“第3の人生”という感じですから、昼間が自由に使える勤務時間は、いまの自分に適しています」と岸名さん。日中は、畑仕事や交通安全などのボランティア活動をしているそうです。「子どもと接する仕事は初めてで最初はたいへんでしたが、日々新しい発見がある仕事で、園児の成長にふれられるのが楽しみです。朝は一人ひとり名前を呼んであいさつを交わし、夕方に園児が元気に帰っていく姿をみると充実感があります。体力が続くうちは一日一日しっかりやっていきたいです」  保育園部主任の志方(しかた)真澄(ますみ)さんは、「岸名先生は毎朝、門から玄関前まで掃除をしています。園児や保護者が朝から気持ちよく過ごせるようにという岸名先生の思いが感じられます。ほかにも、施設の保全を中心にさまざまなことを岸名先生が段取りよく、かつていねいにしてくださいますし、園児の相手もしていて、とても頼もしく、助かっています。おかげでほかの職員の負担が減り、働き方の改善にもつながっています」と岸名さんの活躍に敬意を表します。  また、園から子育て支援員※になることをすすめたところ、岸名さんは2025年夏から秋にかけて「兵庫県子育て支援員」の基本研修と専門研修を受講。努力して修了し、県から子育て支援員の認定を受けました。園ではその際、勤務時間内にオンライン研修を受講できる環境をつくり支援しました。「保護者の方々がより安心してお子さんを預けられるようになればと思い、受講しました」(岸名さん)。志方さんは、「朝のあいさつを楽しみにしている子も多く、岸名先生に駆け寄るようにして登園する子もいます。園にとってなくてはならない存在になっています」と話し、岸名さんの今後の活躍にも期待を寄せています。  今後の取組みについて中野事務長にたずねると、「地域住民や保護者から信頼され、また子どもの心に残る認定こども園を目ざして、引き続き働きやすい職場づくりに努めます」と話してくれました。仕事も人生経験も豊かな高齢職員は、そのなかでとても大事な存在となっていることが伝わってきました。(取材・増山美智子) ※子育て支援員……都道府県または市町村が実施する研修(「基本研修」および「専門研修」)を修了し、保育や子育て支援分野の各事業などに従事するうえで必要な知識や技術を身につけたと認められた人 渡邊憲司プランナー アドバイザー・プランナー歴:9年 [渡邊プランナーから] 「プランナー活動では、訪問先企業との信頼関係を築くために、ていねいにヒアリングし、事業所に合った有益な情報の提供を心がけています。そのうえで、労働力人口の減少、ダイバーシティ経営が進展するなか、高齢者雇用の重要性を説明し、高齢社員の活用促進に向けた取組み、定年年齢や継続雇用年齢の引上げなどについて、マニュアルや事例集を紹介しながら、担当者が一歩前に踏み出せるような助言や提案ができるように努めています」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆兵庫支部高齢・障害者業務課の熊谷調査役は、渡邊プランナーについて「数多くの事業所訪問経験をふまえた、ていねいで親身な相談・助言は、訪問先事業所から高い評価をいただいており、『おしつけがましいことは一切なく、“理をもってわかりやすく”を心がけていることが伝わりました。とても信頼しています』との言葉が寄せられるほどです。また、高年齢者活躍企業コンテストの応募支援や生涯現役社会ワークショップひょうごのファシリテーターを担当するなど、支部の事業を積極的に支えてくれています」と紹介します。 ◆兵庫支部高齢・障害者業務課は、阪急電鉄武庫之(むこの)荘そう駅からバスで約10分の兵庫職業能力開発促進センター内にあります。 ◆同県では、13人の70歳雇用推進プランナーが活動し(2026年4月現在)、2025年度は770件の相談・助言活動を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●兵庫支部高齢・障害者業務課 住所:兵庫県尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 電話:06-6431-8201 写真のキャプション 兵庫県丹波市 運営する「認定こども園 わだ」 左から、前川往代園長、大地常夫理事長、中野譲事務長 副担任を務めるクラスで園児たちと歌をうたう保育教諭の石垣陽子さん 園児が安心して安全に過ごせるように、庭木の手入れや清掃などにつねに励んでいる岸名直樹さん