いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第71回 「職務分析」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「職務分析」について取り上げます。 仕事の“見える化”  職務分析の定義については、厚生労働省『職務分析・職務評価実施マニュアル』(以下、『実施マニュアル』※1)に、「職務に関する情報を収集・整理し、職務の内容を明確にするプロセス」(6ページ)とあります。  職務分析の具体的な内容に入る前に理解しておきたいのは「職務」とは何かです。職務を異なる粒度で定義しているものもみられますが、JEEDの職業能力開発総合大学校基盤整備センターが公開している“スキルアイ”※2で用いられている解説がわかりやすいので、こちらをもとに確認していきましょう。ふだん使う用語に「仕事」がありますが、これは企業の経営活動において一定の目的で遂行するもので、分業または分担が可能な“まとまり”のことをさします。この仕事をさらに分解すると「作業」になり、これ以上の分割はできません。一方で、仕事を企業組織の業務機能を同一の種類、系統などで括った区分で、複数の仕事を集めたものが「職務」となります。この職務を一定の目的のもと集めたものを「部門」とし、部門が集まると会社という単位になります。  それでは、職務分析の内容に入っていきたいと思います。コンサルティング会社などがさまざまな手法や観点から実施しているのが実際のところですが、『実施マニュアル』の内容に沿ってみていきたいと思います。第一のステップとしては「情報の収集」とあり、ここでは対象職務に従事している従業員に日々の業務(仕事)や業務の目的、必要な知識・技能の習得に関するインタビューを行います。第二のステップとして、「情報の整理」があり、業務の代替可能性や事業への影響度、時間的割合・頻度などからおもな業務を抽出していきます。この際、取り扱う範囲や遂行するために必要な知識や技能の水準を整理していきます。また、おもな業務に従事する従業員にどの程度の責任や権限が与えられ、成果が求められているかも整理していきます。分析したこれらの一連の情報は、職務の目的や業務内容・責任範囲・必要な知識・技能・経験などで整理された職務記述書(ジョブディスクリプション〈Job Description〉)として書面でまとめ、従業員の教育・評価・採用・配置などの指針として活用していくのが一般的です。情報の収集と整理、アウトプットの一連の流れから、職務分析は仕事の“見える化”ともいえます。 国も周知・実施支援に力を入れている  職務分析で整理された内容は、職務記述書の作成以外に「職務評価」に活用されることがあります。職務評価とは、『実施マニュアル』によると「社内の職務同士を比較し、両者が同じか、異なるのか、異なる場合にどこが異なるかを明確にするプロセス」(6ページ)とあります。  この職務評価ですが、国が周知・実施支援に力を入れており、『実施マニュアル』以外の各種マニュアルの発行※3、「多様な働き方の実現応援サイト」※4にも職務評価の特設サイトを設け情報提供を行う、コンサルティングによる取組み支援を行う※5などの施策を講じています。  この理由としては、同一労働同一賃金の推進があげられます。これはパートタイム・有期雇用労働法(2021年4月1日全面施行)、改正労働者派遣法(2020年4月1日施行)に基づき、いわゆる正社員やパートタイマーなどの雇用形態の違いによって賃金などの待遇を決めるのではなく、従事している職務内容(業務内容や責任の程度)、転勤や配置変更の有無および範囲や貢献などに応じて待遇を決定することを目的とした施策です。もし、雇用形態ごとに待遇の違いがある場合にはバランスのとれた均衡待遇とすることが求められ、その違いについて事業主は求められた場合には待遇を決定するにあたって考慮したことを説明しなければならないとされています。これに対して『実施マニュアル』では「職務分析・職務評価で整理・比較した職務の内容を示せば、職務の内容に基づく根拠のある説明ができる」(4ページ)として職務評価の実施を推奨しています。実務面でも、しっかりと職務内容や大きさ(対象範囲や難易度、責任の度合いなど。ジョブサイズともいう)を押さえておかないと待遇差について説明がつかないことが多々あり、各々が従事している職務の明確化とその比較は、待遇を検討するうえでの基本ともいえます。  具体的な比較方法については、社内の職務同士を比較し職務の大きさの違いをとらえる「単純比較法」や、詳細な職務分析を行い個々の職務を難易度ごとに分類して比較する「分類法」、職務の評価項目※6ごとにレベルを定義しその違いで評価する「要素比較法」、職務の評価項目ごとにポイント化し総計ポイントで職務の大きさを評価する「要素別点数法」などがあります(図表参照)。  高齢者雇用の観点からは、定年後再雇用となると定年前よりも一律で賃金水準が抑えられてしまう運用がみられますが、職務分析・職務評価を通した根拠ある待遇にすることで、本人のさらなる活躍や、適材適所の人材配置につなげることができると考えられます。 ***  次回は、「心理的安全性」について取り上げます。 ※1 https://www.mhlw.go.jp/bunya/koyoukintou/parttime/dl/m_pamph.pdf ※2 「Job Skills Navigator powered by AI(通称:スキルアイ)」は、多数の業種について仕事内容や、求められる知識および技能・技術をとりまとめたモデルデータを用いて、企業組織で必要となる職業能力の洗い出しや、従業員の職業能力を把握するためのツール https://www.tetras.uitec.jeed.go.jp/statistics/skillai ※3 『職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル』に詳しい職務評価の考え方や手法、取組み事例などが紹介されている https://www.mhlw.go.jp/content/001042386.pdf ※4 https://part-tanjikan.mhlw.go.jp ※5  道府県働き方改革推進支援センターが実施している社会保険労務士などの専門家によるコンサルティング。「働き方改革推進支援センター」については、以下参照 https://hatarakikatakaikaku.mhlw.go.jp/consultation ※6 代表的な項目に、人材代替性・革新性・専門性・裁量性・対人関係の複雑さ(部門外・社外)、対人関係の複雑さ(部門内)、問題解決の困難度、経営への影響度などがある(学習院大学「GEM Pay Survey System」) 図表  職務(役割)評価の手法(イメージ図) 単純比較法 社内の職務を1:1で比較し、職務の大きさが同じか、異なるのかを全体を捉えて評価します 易 普 分類法 社内で基準となる職務について、詳細な職務分析を行うことで、個々の職務を難易度にもとづき分類し、それを総合的に評価します 易 普 普 難 要素比較法 あらかじめ職務の構成要素別に、レベルを定義し、そのレベルの違いで評価します 要素別点数法 構成要素別の評価結果を、ポイントの違いで表します ○○の要素については、 普 □□の要素については、 普 ●●の要素については、 易 ■■の要素については、 易 ○○の要素については、 普 □□の要素については、 難 ●●の要素については、 普 ■■の要素については、 難 ○○の要素については、3P ●●● □□の要素については、3P ●●● ●●の要素については、1P ● ■■の要素については、1P ● 合計8p ○○の要素については、3P ●●● □□の要素については、5P ●●●●● ●●の要素については、3P ●●● ■■の要素については、5P ●●●●● 合計16p 出典:「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」(厚生労働省)