【表紙】 令和8年10月1日発行(毎月1回1日発行)第48巻第10号通巻563号 Monthly Elder 高齢者雇用の総合誌 エルダー 10 2026 特集 多様な業種・業態で高齢者雇用が拡大 高齢者の戦力化・活躍推進のヒントがココに! 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト ~厚生労働大臣表彰受賞企業事例から リーダーズトーク 「無定年」時代に立ち向かう“自律心”を持とう 「サバイバルシニア発想」で高齢者の活力を引き出せ! 京都精華大学 メディア表現学部メディアイノベーション専攻 教授 三嶋(原)浩子 10月は「高年齢者就業支援月間」です 【前頁】 高年齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ ~生涯現役社会の実現に向けた~ 地域ワークショップ  高年齢者雇用にご関心のある事業主や人事担当者のみなさま!改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務とされ、高年齢者の活躍促進に向けた対応を検討中の方々も多いのではないでしょうか。  JEEDでは各都道府県支部が中心となり、生涯現役社会の実現に向けた「地域ワークショップ」を開催します。事業主や企業の人事担当者のみなさまへ、高年齢者に戦力として活躍してもらい、いきいき働いていただくための情報をご提供します。  各地域の実情をふまえた具体的で実践的な内容ですので、ぜひご参加ください。 概要 日時/場所 高年齢者就業支援月間の10月~11月に各地域で開催 カリキュラム (以下の項目などを組み合わせ、2~3時間で実施します) ▲専門家による講演【70歳までの就業機会の確保に向けた具体的な取組みなど】 ▲事例発表【先進的に取り組む企業の事例紹介】 ▲ディスカッション など 参加費 無料(事前のお申込みが必要となります) 開催スケジュール 下記の表をご参照ください ■開催スケジュール ※  で記載されている北海道、青森、宮城、栃木、埼玉、千葉、東京、神奈川、福井、静岡、三重、京都、大阪、兵庫、奈良、和歌山、島根、岡山、愛媛、福岡、長崎、鹿児島、沖縄については、ライブ配信やアーカイブ配信等の動画配信を予定しています。 ※開催日時などに変更が生じる場合があります。詳細は、各都道府県支部のホームページをご覧ください。 都道府県 開催日 場所 北海道 10月30日(金) 北海道職業能力開発促進センター 青森 11月12日(木) アピオあおもり 岩手 10月20日(火) いわて県民情報交流センター(アイーナ) 宮城 11月6日(金) 宮城職業能力開発促進センター 秋田 10月27日(火) 秋田県生涯学習センター 山形 10月15日(木) 山形国際交流プラザ(山形ビッグウイング) 福島 10月20日(火) ウィル福島アクティおろしまち 茨城 10月21日(水) ホテルレイクビュー水戸 栃木 10月22日(木) とちぎ福祉プラザ 群馬 10月29日(木) 群馬職業能力開発促進センター 埼玉 10月7日(水) さいたま共済会館 千葉 10月5日(月) ホテルポートプラザちば 東京 10月16日(金) SYDホール 神奈川 10月6日(火) かながわ労働プラザ 新潟 10月6日(火) 朱鷺メッセ新潟コンベンションセンター 富山 10月20日(火) 富山県総合情報センター 石川 10月22日(木) 石川県地場産業振興センター 福井 10月8日(木) 福井県中小企業産業大学校 山梨 11月17日(火) 山梨職業能力開発促進センター 長野 10月20日(火) ホテル信濃路 岐阜 10月2日(金) みんなの森ぎふメディアコスモスみんなのホール 静岡 10月14日(水) グランシップ 愛知 11月19日(木) 岡谷鋼機名古屋公会堂 三重 10月15日(木) 津公共職業安定所 都道府県 開催日 場所 滋賀 10月16日(金) 滋賀職業能力開発促進センター 京都 10月20日(火) 京都経済センター 大阪 10月27日(火) 大阪府社会保険労務士会館 兵庫 10月14日(水) 兵庫県中央労働センター 奈良 10月15日(木) 奈良商工会議所 和歌山 10月23日(金) 和歌山職業能力開発促進センター 鳥取 10月22日(木) 米子コンベンションセンター 島根 10月15日(木) 島根職業能力開発促進センター 岡山 10月23日(金) 岡山職業能力開発促進センター 広島 10月23日(金) 広島職業能力開発促進センター 山口 10月1日(木) 山口職業能力開発促進センター 徳島 10月14日(水) ろうきんホール 香川 10月15日(木) 香川職業能力開発促進センター 愛媛 10月22日(木) 愛媛職業能力開発促進センター 高知 10月22日(木) 高知職業能力開発促進センター 福岡 10月21日(水) JR博多シティ 佐賀 10月30日(金) アバンセ 長崎 10月22日(木) 長崎県庁 熊本 10月21日(水) 熊本職業能力開発促進センター 大分 10月6日(火) トキハ会館 宮崎 10月14日(水) 宮崎県立芸術劇場 鹿児島 10月27日(火) カクイックス交流センター 沖縄 10月23日(金) 沖縄労働局 各地域のワークショップの内容は、各都道府県支部高齢・障害者業務課(65ページ参照)までお問い合わせください。 上記日程は予定であり、変更する可能性があります。 変更があった場合は各都道府県支部のホームページでお知らせします。 jeed 生涯現役ワークショップ 検索 【P1-4】 Leaders Talk No.137 「無定年」時代に立ち向かう“自律心”を持とう 「サバイバルシニア発想」で高齢者の活力を引き出せ! 京都精華大学 メディア表現学部メディアイノベーション専攻 教授 三嶋(原)浩子さん みしま(はら)・ひろ 2004(平成16)~2026(令和8)年3月まで、株式会社博報堂にてCM プランナー・コピーライターとして勤務し、2026年4月より現職。著書に『就活・受験に効く!自分キャッチコピー』(中央経済社)、『未定年図鑑~定年までの生き方コレクション』(中央経済社)など。2026年1月に『“引退しない人生”をデザインする 無定年の設計図』(高橋書店)を出版。  生涯現役時代を迎え、就労期間が延伸傾向にある一方、役職定年や定年後再雇用により、職責や役割が変更となるなかで、モチベーション高く働いていくためには、会社による支援はもちろん、本人の意欲やマインドセットが重要です。今回は、「未定年」、「無定年」といった言葉を生み出した京都精華大学教授の三嶋浩子さんにご登場いただき、60代以降をより充実したものとするためのヒントについて、お話をうかがいました。 60歳以降の生き方・働き方について悩む「未定年」年齢に関係なく働き続けるための「無定年」 ―三嶋さんは、2023(令和5)年に刊行された『未定年図鑑』に続き、2026年1月に『無定年の設計図』を出版されました。「未定年」、「無定年」という言葉の意味や、その言葉に込められた思いについてお聞かせください。 三嶋 私は2026年3月まで広告会社の博報堂でコピーライターをしていました。「未定年」という言葉は私が所属しているシニア向けビジネスの開発とネクストキャリアを提案する「博報堂シニアビジネスフォース」というプロジェクトから生まれた言葉です。50歳になると、まだ元気だし、働きたいという気持ちがあるが、60歳定年、あるいは65歳までの雇用延長のゴールテープが見えてくるなかで、「さあどうしようか」と心が揺れ動く思春期の未成年のような世代ということで、「未定年」と名づけました。未定年時代をどう生きるのか、セカンドライフ、セカンドキャリアに備えるためのロールモデルを紹介したのが『未定年図鑑』です。  一方、60歳、65歳で職業生活を終えるのではなく、65歳を過ぎても働き続けている人は多いですし、将来の生活不安も含めて「働けるうちはいつまでも働きたい」という人が増えています。そこで定年なく働き続ける生き方を「無定年」と名づけ、前向きにセカンドライフ、セカンドキャリアを考えたい人に向けて書いたのが『無定年の設計図』です。 ―心が揺れ動く未定年に関して「中年の危機」という言葉もあります。これも関連があるのでしょうか。 三嶋 あります。私もキャリアコンサルタントの資格を持っていますが、キャリア論でも「中年期のクライシス」という言葉があり、揺れ動く気持ちとリンクしています。働きたいのに定年があるという悩み以外にも、自分や家族の健康問題の悩み、また、いまは初婚平均年齢が30歳を超え、52~55歳の団塊ジュニア世代はお子さんが中学生、高校生、大学生という家庭も少なくなく、教育費もかかります。未定年世代はいろいろと複雑な悩みを抱えている世代でもあります。 ―生涯現役時代といわれ、60歳以降も社会で活躍を続けるために、あるいは社会とのつながりを維持し続けるために、未定年の50代は何を意識し、職場や社会とどう向き合っていけばよいでしょうか。 三嶋 どういう人であれ、共通しておすすめ したいキーワードは職場や取引先などから「嫌われない」ことです。特にセカンドキャリアを考えると、あらゆる場面で人に嫌われないというのが最優先事項だと思います。その理由として、シニア世代がセカンドキャリアを考えて再就職しようにもむずかしいという現実があります。一方で、60歳以降のセカンドキャリアを見つけた人の多くが、知人・友人の紹介だったという調査があるのです。つまり人間関係が良好であることがセカンドキャリアにもつながるのです。  とはいっても嫌われないようにすることは言うは易しで、じつはむずかしいものです。一般論ですが、50歳ぐらいになると、若い人から煙たがられるようになると思ったほうがよいのです。  「後輩を助けてあげたい」という気持ちは大切なことですが、助ける方向性を間違えてしまえば、上から目線のいい方になって嫌われてしまいます。「若者の役に立ちたい」、という気持ち・行動がありがた迷惑になる可能性もあるのです。そのことを十分に意識することが重要です。 ―著書では、「無定年」を考えるうえで「どう生きたいか」というテーマを設定することが重要だと書かれていますね。 三嶋 どう生きていきたいかを別の言葉でいうと、「自分が何者か」を知ること。具体的には自分が得意なものは何か。人より優れていなくてもよいのですが、自分が好きなこと、やりたいジャンルを明確に旗として立てることが大切です。よくキャリアの棚卸しというと、職業人として身につけたスキルや経験の棚卸しにとどまっていることが多いのですが、そうではなく、小・中・高校など子どものころまで遡(さかのぼ)り、興味や関心があったことも含めてふり返り、やりたいことを見つけ出すのが棚卸しです。  やりたいことが見つかったら、心の中で思っているだけではなく、「これをやりたいんだ」と周囲にいいふらす、あるいはSNSを通じて世間に発信することです。自分が得意なこと、好きなことを発信することで、いろいろな人との出会いや、やりたいこととのつながりが生まれます。こうしたプロパガンダを50代のうちにやっておくことは非常に有効です。 自分のキャリアに独自性を出すための「キャリアトッピング」の視点を ―自分のキャリアに独自性を持たせるキャリアトッピングも重要だと指摘されています。 三嶋 いままで積み重ねてきたキャリアをより強くするのが「キャリアトッピング」です。私の場合はコピーライターですが、キャリアコンサルタントの資格をトッピングしました。学生に就職相談をされることもあり、それならしっかりとした知識を身につけたいと思い、資格を取得しました。コピーライターなのでエントリーシートなどの文章のチェックにスキルは活かせますし、相談にも応じることができます。本来、コピーライターとキャリアコンサルタントは何の関連もありませんが、自分自身で「こうつながるな」とストーリーを考えてトッピングしました。  例えば「営業職の経験しかないし、手に職もないから」とセカンドキャリアを諦めてしまう人が、「昔から子どもが好きだった」ということに気づいて、保育士の資格を取って働いている、というケースもあります。営業でつちかったコミュニケーション力に、「子どもが好き」というところから保育士資格をトッピングし、第二の人生に進んだのです。キャリア相談などでおすすめの資格を聞かれることがあるのですが、おすすめはありません。なぜならば、自分の好きなことなど個々人のパーソナリティと紐(ひも)づいたビジョンを持つことが何より重要だからです。 ―これは「キャリア自律」という言葉にも通じます。無定年時代を生きるには独自のビジョンを持つことが重要ということですね。 三嶋 キャリア自律をいい換えると、「自分のキャリアをクリエイティブする」ということ。新たな仕事や資格を探すだけではなく、いままで自分がやってきた経験やスキルを信じ、新しい仕事に変換させるのです。例えば、主婦歴40年の人が持つ料理や炊事、洗濯といった家事、子育てなどの仕事も立派なスキルでありキャリアですが、それだけではだめで、そのスキルをどう活かすかがクリエイティブです。  自律とはキャリアの方向性や選択を自身の信念に基づいて決定し、行動していくこと。つまり自分で考えて自らのキャリアをコントロールするのが自律です。50代から“自律心”を持つことが大事ですが、60代の再雇用の人でも決して手遅れではありません。 シニアが輝ける職域の創出と「がんばりたい」と思える施策の展開を ―会社側の視点では60歳以降も活躍してもらうために、会社としてキャリア自律をいかにサポートしていくかも重要かと思います。会社に求められる支援とは何でしょうか。 三嶋 いまの50・60代は終身雇用制度に守られてきた世代であり、会社から「自律しろ」といわれても、そのロールモデルがいません。経営者の方には若年労働力人口が減っていくなかで若い人の採用や投資に注力するよりも、むしろ50・60代のシニア社員が活躍できるステージをどうつくるかを考えてほしいと思います。役職定年や再雇用となった人が、後進育成の役割をになうケースは多いと思いますが、コミュニケーションが図れず、うまくいかないことも少なくないと耳にすることもあります。そういう意味でも、後進育成のみを活躍のステージと位置づける必要はありません。経営者のみなさんにお願いしたいのは、シニアが輝ける職域をつくること、そしてシニアが「がんばりたい」と思えるような施策を講じることです。具体的には活躍できるポジションをつくる、あるいはシニアの力が活かせる新しい事業を立ち上げることだと思います。  シニアが活躍できるステージを用意できたら、次は継続的に力を発揮してもらうため「サバイバルシニア発想」が重要です。つまり、生き残るためにシニア同士に競わせる仕組みをつくることです。例えば、役職定年後や定年後再雇用であっても、貢献や評価に応じて給与が上がる仕組みをつくることもその一つです。特に現在50 代の団塊ジュニア層は人数も多く、子どものころから競争社会を生き抜いてきた世代です。ポテンシャルは持っていますし、その力を呼び覚ますのが経営者の役割ではないでしょうか。ぜひサバイバルシニア発想でシニアの活躍をうながしてほしいと思います。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博) 【もくじ】 エルダー(elder)は、英語のoldの比較級で、“年長の人、目上の人、尊敬される人”などの意味がある。1979(昭和54)年、本誌発刊に際し、(財)高年齢者雇用開発協会初代会長・花村仁八郎氏により命名された。 ●表紙のイラスト:水穂 真善/アフロ 2026 October No.563 特集 6 多様な業種・業態で高齢者雇用が拡大 高齢者の戦力化・活躍推進のヒントがココに! 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト ~厚生労働大臣表彰受賞企業事例から~ 7 審査委員長からのメッセージ 東京学芸大学 名誉教授 内田 賢 8 最優秀賞 株式会社 エヴァーブルー(静岡県浜松市) 12 優秀賞 株式会社 三吉電器(茨城県日立市) 稲村建設 株式会社(鹿児島県鹿児島市) 20 特別賞 株式会社 鵜飼(岐阜県各務原市) 株式会社 亀井組(徳島県鳴門市) 四国アイビ 株式会社(愛媛県今治市) 32 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 入賞企業一覧 1 リーダーズトーク No.137 京都精華大学メディア表現学部メディアイノベーション専攻 教授 三嶋(原)浩子さん 「無定年」時代に立ち向かう“自律心”を持とう 「サバイバルシニア発想」で高齢者の活力を引き出せ! 34 江戸時代にもあった「仕事と介護の両立問題」 ~目からウロコの高齢者介護史~ 【第5回】 律令制度にも高齢者介護の規定が!? ―古代・中世期の介護の実状とは― 﨑井将之 36 高齢者の職場探訪 北から、南から 第170回 和歌山県 株式会社あおぞらケアセンター 40 高齢者に聞く 生涯現役で働くとは 第120回 株式会社NJS プロジェクトエンジニア 横山達巳さん(67歳) 42 AIと歩む人生100年時代 【第3回】 AIでシニア活躍に関する人事の仕事はどう変わり、どんな広大な可能性が広がるのか 松井勇策 46 知っておきたい労働法Q&A《第99回》 65歳以降の継続雇用制度と契約更新への合理的期待、事業場外みなし労働時間制の適用と事後的な労働時間管理 家永 勲/髙木勝瑛 50 サステナビリティを高める シニア人材活用戦略 【第4回】 シニア人材による若手育成が投資になる 石山大志/宮下太陽 52 いまさら聞けない人事用語辞典 第72回 「心理的安全性」 吉岡利之 54 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウムのご案内 56 BOOKS 58 ニュース ファイル 59 立川談慶の人生100年時代の歩き方 【第9回】 疝気の虫~もっと病と対話してみよう 60 次号予告・編集後記 61 技を支える vol.368 江戸時代生まれの3書体 正統の技をいまに受け継ぐ 勘亭流・寄席文字・江戸文字書家 中村泰士さん 64 イキイキ働くための脳力アップトレーニング! [第112回] シルエットクイズ 篠原菊紀 ※集中連載「マンガで学ぶ高齢者雇用」は休載します 【P6】 特集 多様な業種・業態で高齢者雇用が拡大 高齢者の戦力化・活躍推進のヒントがココに! 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト ~厚生労働大臣表彰受賞企業事例から~  独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED)では、厚生労働省との共催で、「高年齢者活躍企業コンテスト」を毎年開催しています。本コンテストは、高齢者が年齢にかかわりなく生涯現役で活き活き働くために、人事制度の改定や職場環境の改善などに、創意工夫をして取り組む企業を表彰するものです。  2026(令和8)年度は、厚生労働大臣表彰最優秀賞1 編、同優秀賞2編、同特別賞3編、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰優秀賞11編、同特別賞11編、同クリエイティブ賞1編の受賞が決まりました。  本誌では、10月号と11月号の2回に分けて、コンテスト受賞企業の取組みを紹介します。今号では、厚生労働大臣表彰受賞企業の取組みを紹介します。 【P7】 審査委員長からのメッセージ 高齢社員が持つ知識や経験を最大限に活かすための創意工夫に取り組む企業を表彰 東京学芸大学 名誉教授 内田(うちだ)賢(まさる)  「令和8年度高年齢者活躍企業コンテスト」の審査が終了いたしました。審査委員を代表し、応募いただきましたすべての企業・団体関係者のみなさまに厚く御礼申し上げます。今回は全国から64編の応募を受け、厳正な審査の結果、厚生労働大臣表彰は、最優秀賞1編、優秀賞2編、特別賞3編、また、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰は、優秀賞11編、特別賞11編、クリエイティブ賞1編が入賞を果たしました。  最優秀賞を受賞した株式会社エヴァーブルーは、「70歳を超えても現役を続けられる生涯現役モデル」の構築を掲げ、定年制の廃止や多様で柔軟な勤務制度、年齢に関係なく能力や貢献に応じた処遇制度を導入するなど、高齢社員が長年つちかってきた経験を最大限に活かせる職場づくりの取組みが評価されました。  優秀賞を受賞した株式会社三吉電器(みよしでんき)は、「年齢にかかわらず活躍できる」、「80歳まで働ける制度」の方針を打ち出し、80歳までの継続雇用制度の導入や退職金制度の拡充、年齢を問わない技能向上支援の取組みなど、まさに生涯現役での活躍を推進する取組みが評価されました。  同じく優秀賞を受賞した稲村(いなむら)建設(けんせつ)株式会社は、技能継承という経営課題に正面から向き合い、雇用の年齢上限撤廃をはじめとした生涯現役で働ける環境の整備に加え、ベテランと若手を組み合わせた班編成などを通して、豊富な技能・経験を次世代に継承しています。  特別賞を受賞した株式会社鵜飼(うかい)は、将来の人材不足を見すえて高齢者雇用に積極的に取り組んでおり、その経験を最大限に活かすための柔軟な働き方を推進。若手社員や障害のある社員とのペア就労など、高齢社員の新たな働き方の創出にも取り組んでいます。  同じく特別賞を受賞した株式会社亀井組(かめいぐみ)は、高齢者を含むすべての社員が安心して働ける環境を整え離職率0%を実現。雇用の年齢上限の撤廃のほか、個人の資質や体力に合わせて生涯現役で働ける新たな事業の創出、健康経営○R(★)など、幅広い取組みが評価のポイントとなりました。  同じく特別賞を受賞した四国(しこく)アイビ株式会社は、創業以来、定年制を設けず生涯現役で働ける環境を整え、多様で柔軟な働き方の実現、リスクアセスメントを活用した労働災害防止対策などに取り組み、高齢者を含む多様な人材による事業活動を通して地域社会に貢献しています。  審査を終えて、受賞企業の取組みが、ますます高度化しているという印象を受けました。これから高齢者雇用に力を入れようとしている企業にとって、ヒントになる事例がまだまだ多いということを再確認した次第です。加えて、これまで高齢者があまり活躍していなかった業種・業態において、目の前の課題を高齢者の知識と経験を活かして解決している事例もあり、高齢者雇用の新たな傾向も見え始めています。受賞企業が試行錯誤してきた取組みを横展開するためにも、本誌をご覧になったみなさまには、堅実一路(けんじついちろ)の精神をもって高齢者雇用の取組みを進めていただければ、審査にたずさわった者としてこれ以上の喜びはありません。 ★「健康経営○R」は、NPO法人健康経営研究会の登録商標です。 【P8-11】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 定年廃止で実現する「生涯現役」 経験を戦力に変える警備会社の職場づくり 株式会社 エヴァーブルー(静岡県浜松市) 企業プロフィール 株式会社 エヴァーブルー (静岡県浜松市) 創業 1978(昭和53)年 業種 その他の事業サービス業(警備業) 社員数 65人(2026〈令和8〉年4月1日現在) 60歳以上 40人 (内訳) 60~64歳 1人(1.5%) 65~69歳 7人(10.8%) 70歳以上 32人(49.2%) 定年・継続雇用制度 定年なし。希望者全員を年齢の上限なく継続雇用。最高年齢者は84歳 Ⅰ 本事例のポイント  株式会社エヴァーブルーは、1978(昭和53)年にビルメンテナンス事業を行う「株式会社共同設備」として設立。1989(平成元)年に警備事業の登録を行い、2001年に現在の社名へ変更し警備業を主軸とする体制を整えた。以来、施設警備、交通誘導警備、店内保安警備を中心に、警備に関する幅広いサービスを展開している。  警備業界では若年層の確保が困難となっており、高齢社員をいかに活かすかが経営上の重要な課題となっている。同社の有賀(ありが)公哉(きみや)社長は、この課題に正面から向き合い、「70歳を超えても現役を続けられる生涯現役モデル」の構築を掲げ、高齢社員の経験を最大限に活かせる職場づくりを進めてきた。 POINT ①2016年に定年制度を廃止し、健康状態や勤務意欲、能力に応じて年齢の上限なく働き続けられる制度を整備。 ②希望休制度、登録スタッフ制度、半日勤務制度を導入し、社員それぞれの事情に合わせた柔軟な働き方を実現。 ③賃金・評価制度を見直し、年齢に関係なく能力や貢献度に応じた制度にするとともに、警備マイスター制度や優秀社員表彰制度を整え、高齢社員の意欲向上・定着を図っている。 ④経験豊富な高齢社員を現場リーダーや指導役として配置し、若手社員への技能伝承と現場品質の維持・向上を図っている。 ⑤冷暖房付きのガードマンボックスの設置やファン付き作業服の支給など、屋外作業の多い警備業の特性をふまえた健康・安全対策を実施。 Ⅱ 企業の沿革・事業内容  同社は、「誰もが安心な未来へ」を企業理念に掲げ、「安全確保と防犯」を基軸とする地域密着のサービスを通じて、地域社会の安全から個人の安心までを支えることを目ざしている。  警備業を主軸とし、施設警備、交通誘導警備、店内保安警備、防犯対策、樹木・植栽管理のほか、イベント警備や盗聴・盗撮調査などの専門的なサービスも手がけている。 Ⅲ 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  2026(令和8)年4月1日時点において、社員数65人のうち70歳以上が32人と、全体の約半数を占めるなど、高齢社員が組織の中核的な役割をになう人員構成となっており、その活躍なくして現場は成り立たない状況にある。  高齢社員は、長年の経験を活かして現場リーダーや指導役として配置され、危険予知、顧客対応、新人教育などを担当している。さらに、障害のある社員とのペア就労においては統括役をになうなど、組織運営において重要な役割を果たしている。  高齢社員の活躍を推進する背景には、警備業界全体における若年層の採用難と労働力不足がある。経験豊富で顧客からの信頼も厚い高齢社員が継続的に働き続けられるよう、同社は、安心して長く働き続けられる環境を整えるべく定年制度の見直しなど、現場の実態や社員の意向をふまえて改定に取り組んできた。賃金・評価制度の見直しや多様な勤務形態の導入も段階的に進め、現場の声をふまえた改善に取り組んでいる。 Ⅳ 改善の内容 (1)制度に関する改善 ①定年制度および継続雇用制度  2016年に定年制度を廃止し、年齢による就業制限を設けない雇用制度を導入した。制度の運用にあたっては、年齢ではなく、社員の健康状態、勤務意欲、能力評価を基準としており、希望者全員が継続して働くことのできる仕組みとなっている。就業の継続については、毎年の健康診断結果をふまえ面談によって確認している。  定年制度の廃止により、年齢によって雇用が終了することへの不安が解消され、65歳以上の社員の継続就業率が向上。ベテランの定着が進んだことで、現場の品質と安全性の維持・向上、顧客からの信頼確保につながっている。 ②賃金制度と人事評価制度  2025年に、高齢社員の賃金制度を全面的に見直した。従来、65歳以上の高齢社員は最低賃金を基準とした時給設定であったが、高齢社員の離職防止と採用の強化を図るため、年齢や雇用形態によらず、能力や役割に応じた処遇を行う仕組みへと転換。具体的には、時給を地域最低賃金に200円超を加算した水準に統一し、地域最低賃金を約18%上回る時給を設定することで、高齢社員が安定した収入を得られる環境を整えた。  あわせて、人事評価制度として「勤労手当制度」を導入。勤務態度や現場対応力、顧客満足度、研修会への参加状況などを基準に月額の手当を支給するもので、評価にあたっては上司および同僚からの360度フィードバック※の一部を反映する仕組みとしている。これにより、同じ時給であってもまじめに働く社員が報われる仕組みが整い、社員の納得感が高まった。  また、経験や資格を可視化する「警備マイスター制度」を導入している。経験年数に応じて星印を付与し、資格取得者には金色、一般の社員には銀色の名札を貸与することで、ひと目でランクがわかる仕組みとし、高齢社員の経験を「見える資産」として位置づけた。加えて、「優秀社員表彰制度」を設け、顧客からの感謝の声や現場での貢献度などを基準に選考し、受賞者には社長からの礼状と賞品を贈呈している。 ③多様な働き方  警備の現場は、平日を中心とした勤務が主流であり、高齢社員は通院や健康管理、旅行などの事情で平日に休みを取ることに気兼ねを感じやすい。こうした事情が就業継続の不安材料となっていたことから、柔軟な働き方を実現するための複数の勤務形態を整備した。  「希望休制度」は、通院や旅行、家族行事などの用事がある場合、現場勤務の予定日であっても休暇を取得できる制度で、通院の頻度が高い高齢社員が気兼ねなく休める仕組みである。  「登録スタッフ制度」は、会社の都合で勤務日を固定せず、本人の都合に合わせて勤務日を選択できる制度で、おおむね2週間前に勤務可能な日を確認してシフトを設定する。  「半日勤務制」は、交代が可能な現場にかぎり、午前または午後の半日勤務を可能とするもので、「1日フルタイムはたいへんだ」という声に応え、体力の負担を大幅に軽減している。  これらの制度によって高齢社員が無理なく就業を継続できる環境が整うとともに、毎日働くことに不安を感じる人など、新たな人材の採用にもつながっている。短時間勤務から始めた社員が徐々に自信をつけ、段階的にフルタイム勤務へと移行する事例も見られるなど、人手不足の解消と現場の安定稼働に寄与している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ①職場コミュニケーション・意識統一  全社員に警備員心得(信頼される警備・厳正な服務・責任ある行動など)、クレド(企業理念・行動指針)、およびセクシャル・ハラスメント対策カード(イエローカード〈できるかぎり避けるべき言動〉、レッドカード〈絶対避けるべき言動〉)が配付され、行動指針の共有が図られている。その結果、現場での行動の標準化が進み、顧客対応の質向上やクレーム減少につながっている。 ②世代別研修の実施  高齢社員の身体的特性や就業上の課題に対応するため、60歳以上を対象とした世代別研修を年1回実施している。加齢にともなう筋力や反応速度の変化、疲労回復の遅れなどを正しく理解し、無理なく安全に働き続けるための知識を習得することを目的としている。テーマは毎年変更され、直近では認知能力の確認をテーマに開催された。  そのほか、Web給与明細アプリや現場の情報共有ツールなどの操作に不慣れな高齢社員のための、デジタルツールの活用方法の指導などにも取り組んでいる。 ③資格取得支援  警備業務検定などの資格取得については、社員が資格を取得するまで、受験料や教材費などを会社が全額継続して負担するとともに、取得後は資格に応じた資格手当を支給している。年齢制限はないため高齢社員もスキルの向上と処遇の改善が連動する仕組みとなっている。 ④役割の明確化  経験豊富な高齢社員を現場リーダーとして配置し、危険予知の指導や新人教育、顧客対応などを任せるなど、役割を明確にしている。中途採用の高齢社員には、前職で管理者やリーダーの経験がある人が多く、入社後すぐに現場リーダーを任せられる人材も少なくない。役割が明確になることで、これまでつちかった経験や知識を活かせているという実感が高まり、就業意欲や働きがいの向上につながっている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ①作業環境の改善、健康管理、安全衛生  警備業は屋外での作業が多く、夏の猛暑や冬の厳寒が高齢社員の身体に大きな負担となる。そこで同社は、駐車場や建設現場の警備などで使用する冷暖房付きのガードマンボックスを、顧客に相談したうえで現場に設置し、夏の熱中症や冬の寒さのリスクを大幅に低減している。あわせて、ファン付き作業服を支給して高温多湿の現場での負担を和らげ、冬季には保温性と滑り止め機能を備えた防寒靴を配付し、凍結した路面などでの転倒リスクの軽減にも取り組んでいる。  また、全社員に熱中症の応急手当の方法をまとめたカードを配付しているほか、夏季の巡回の際には、塩分タブレットや冷感グッズを配付するなど、熱中症のリスク軽減に努めている。 ②福利厚生の充実  夏季と冬季の年2回、社長が現場を巡回している。猛暑や厳寒のなかで警備にあたる社員一人ひとりに、社長が直接感謝を伝えるとともに、粗品を贈呈している。また、年2回懇親会を開催しており、社員間の交流の促進とモチベーションの向上を図っている。さらに、お盆や年末年始に出勤する社員に対しては心づけを支給し、家庭の事情にも配慮した支援を行っている。 (4)その他の取組み  同社は、高齢社員と障害のある社員を同一の現場に配置するペア就労を導入している。高齢社員が指導と統括をにない、障害のある社員が補助業務や細やかな作業を担当する。高齢社員は前職での管理職経験などを活かして体調の確認や休憩の声かけなどの配慮を行い、障害のある社員は集中力の高さやていねいさを発揮して業務を行っており、それぞれの特性を活かした役割分担によって現場の安定運営と業務品質の向上が図られている。この取組みは、障害者雇用の促進と高齢社員の役割の明確化を同時に進めるものであり、高齢社員にとっては、経験を活かしながら後進の育成にかかわることができる場となっている。 (5)高齢社員の声  鈴木(すずき)秀育(ひでやす)さん(84歳)は、83歳で入社して1年目。もともと自営業を営んでおり80歳で引退したものの、「隠居も飽きたので働こう」と決意し同社に入社した。「83歳という年齢では、なかなか受け入れてくれる企業がないなか、定年のないエヴァーブルーで働けることになりました。入社後も無理のないシフトを組んでいただき、若い人たちと一緒に楽しく仕事をしています。元気であればいくつになっても仕事ができることが、とてもありがたいです」と話す。 (6)今後の課題  同社は今後も「70歳を超えても現役を続けられる生涯現役モデル」をさらに深めていく方針である。高齢社員の採用をいっそう強化するとともに、ハローワークや地域の福祉機関との連携を深め、65歳以上の応募の増加を目ざしている。あわせて、経験資産のデジタル化を進め、若手社員や障害のある社員への技能の共有を効率化していく考えである。  警備業は、高齢者が経験を活かしてもっとも輝ける業種の一つである。同社は、若者に「教育」と「教養」が必要であるように、高齢者にも「今日行く」場所と「今日(の)用(役割)」があることが、やりがいや生きがいにつながると考えている。多様な人材が活躍できる持続可能な職場環境を築きながら、地域社会への貢献と会社の成長の両立を目ざしていく。 ※360度フィードバック……上司や同僚、部下など複数の立場の社員からの評価をフィードバックする仕組み 写真のキャプション 株式会社エヴァ―ブルー 警備マイスター名札 世代別研修の様子 鈴木秀育さん(84歳) 【P12-15】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 「80歳まで働ける制度」を就業規則へ明記し熟練の技術を次世代へつなぐ 株式会社 三吉電器(みよしでんき)(茨城県日立(ひたち)市) 企業プロフィール 株式会社 三吉電器 (茨城県日立市) 創業 1952(昭和27)年 業種 電気機械器具製造業(火力・水力発電関係の制御盤装置、産業用電気機械器具、精密板金加工品等) 社員数 25人(2026〈令和8〉年9月1日現在) 60歳以上 9人 (内訳) 60~64歳 1人(4.0%) 65~69歳 2人(8.0%) 70歳以上 6人(24.0%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。一定条件のもと75歳まで継続雇用。さらに一定条件のもと80歳まで勤務延長可能。最高年齢者は75歳 Ⅰ 本事例のポイント  株式会社三吉電器は、大手電機メーカーの企業城下町にて、その協力会社として1952(昭和27)年に創業した電気機械器具の製造会社である。おもに発電関連の水量制御をになう調速機制御盤や各種制御盤筐体(きょうたい)、精密板金加工品などを製造している。  同社が立地する茨城県日立市は、人口減少と高齢化が県内でも著しく、熟練技術者の活躍が企業の競争力維持に不可欠となっている。こうした地域事情をふまえ、同社は「年齢にかかわらず活躍できる」、「80歳まで働ける制度」を明確な方針に掲げ、熟練の高齢社員が長年つちかった技術を活かして働ける職場づくりを推進してきた。 POINT ①社員からの要望を受け、2025(令和7)年3月に就業規則を改定し、定年70歳、一定条件のもと75歳までの継続雇用、さらに会社が認めた場合は80歳まで勤務延長することができる、「80歳まで働ける制度」を明文化した。 ②30年以上勤続した社員は退職金の受給時期を選択できるほか、定年後継続雇用の社員には第2退職金を支給するなど、生涯設計を見すえた退職金制度を整備している。 ③国家資格取得や認定試験に向けた教育訓練の費用を全額会社が負担し、70歳を超える社員が検査員資格の取得に挑戦するなど、年齢を問わず技能向上を推進している。 ④工場照明のLED化、屋根の遮熱塗装、空調設備の更新など、高齢社員に配慮した作業環境の改善を進めている。 ⑤熟練の高齢社員が若手社員の指導をになうなど、多世代協働の職場文化を形成し、節目ごとに食事会を開催するなど、コミュニケーションを重視した職場づくりを行っている。 Ⅱ 企業の沿革・事業内容  同社は、1952年に機械加工業として創業し、1954年に有限会社三吉電器工業所を設立した。大手電機メーカーの協力会社として抵抗器組立て事業を開始し、その後、製缶板金、制御盤組立て、電子機器部品組立て事業へと展開してきた。2014(平成26)年には日立市十王町(じゅうおうちょう)伊師(いし) の工業団地へ移転統合し、3年前に株式会社三吉電器へ社名を変更している。  現在は、発電設備の水量制御をになう調速機制御盤の設計・加工・電子機器組立て業務を一括して受注し、完成品を納入するほか、各種制御盤筐体や精密板金加工品、近年では車両関係の制御開閉器外箱筐体など、幅広い精密板金業務にたずさわっている。 Ⅲ 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  同社が立地する日立市は、人口減少が県内でも著しく、高齢化率は2024年には34%、3人に1人が65歳以上という地域である。こうした地域事情をふまえ、同社は高齢社員の活用を経営戦略として位置づけている。70歳を超えても検査、生産管理、総務、工場長など重要な役割をになっており、高齢社員は品質管理や技能伝承の中心的存在となっている。  取組みの契機となったのは、2024年10月、JEEDの70歳雇用推進プランナーの訪問を受けたこと。「人手不足で採用がむずかしいのであれば、若年者1人の仕事を高齢社員2人で担当し、長く働いてもらうことを考えてみてはどうか」との助言を受け、定年延長などの見直しを提案されたことから、同社はただちに顧問の社会保険労務士に相談し、制度改定を進めた。  継続雇用年齢の上限を検討するにあたっては、同社のモデル人材ともいうべきA氏を基準とした。A氏は前述の大手電機メーカーを68歳で退職後に同社へ入社し、価値分析による経営改善に参画する一方、組織改革やISO品質管理責任者を歴任し、熟練の知識と経験を業務に反映してきた。69歳から80歳までの11年間は契約社員ではあるが総務部長の要職で活躍。A氏が80歳でも元気に勤めていたことから、「80歳まで元気なら働いてもらえる」との考えに至り、2025年3月に就業規則を改定した。 Ⅳ 改善の内容 (1)制度に関する改善 ①定年制度および継続雇用制度  2025年3月に就業規則を改定し、70歳定年、一定条件のもと75歳までの継続雇用制度を整備した。さらに会社が必要と認めた場合は、80歳まで勤務延長できる制度としている。定年後も原則として同じ職種で勤務を継続し、役職登用も行われている。60歳で定年となった後に工場長へ登用された事例もある。定年後の賃金は一部調整されるものの毎年昇給を実施しているほか、継続雇用終了による退職時には第2退職金の支給制度も設けている。退職金の支給額は勤続年数に対応させた一覧表を社員通用口に掲示し、いつでも閲覧できるようにしている。  この「80歳まで働ける制度」は、他社を定年退職した人材の受け皿としても機能している。 ②賃金制度・人事評価制度  2019年に、年齢ではなく能力や資格、成果を重視する賃金制度への見直しを行った。資格取得時には職能給を加算し、技能や貢献度を給与へ反映している。人事評価も、それ以前は曖昧な点があったことから、年1回、自己評価シートをもとに社長と本人が業務の進捗について認識のずれがないかを確認し、評価へ反映する仕組みにあらためた。評価には健康度チェックや力量評価表、QC工程表などを用い、ポイント制で明確に賃金へ反映する。評価基準を明確化することで、高齢社員を含めた社員の納得感の向上につなげている。  この見直しにより、評価の仕組みは大きく変わった。かつては勤続年数と能力を社長が判断して給料に反映していたが、現在は部門ごとに配属された部下の教育訓練計画から技能認定取得までの記録をもとに、各部門長が力量評価を行う。評価の根拠がすべて記録に残るため、部下が納得できる教育・訓練につながり、品質向上を支えている。 ③多様な勤務形態  2019年以降、完全週休2日制を導入した。以前は皆勤賞を設けていたが、皆勤賞があることで有給休暇を取得しにくくなっていたため廃止した。また、フレックスタイム制度を導入しているため、現場の部門長と相談して出勤日や出勤時刻を自由に決めることができる。会社回りの美化を担当する73歳の社員については、出勤日・出勤時刻も定めず、本人の働きやすい時間に働くことを認めている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ①教育訓練  「ものづくりは技術力が第一であり、社員のレベルアップが品質向上に直結する」との考えのもと、同社は教育体制を整備。溶接のJIS認定取得試験のための教育訓練計画を立て、費用は会社が全額負担し、取得後の職能給アップも明確にした。資格取得に特化した講師を派遣してもらい、溶接経験のある社長自らも社員とともに指導を受けるなど、徹底したレベルアップを図ってきた。その結果、2022年には国家資格である技能検定1級(工場板金・機械板金作業)に3人が同時に合格した。70歳を超える社員も検査員資格の取得に挑戦している。 ②技能継承  長年勤務する熟練の高齢社員が若手社員の指導をになっているほか、高齢社員が会社の支援のもとで技能検定試験に挑戦し、資格を取得することで、若手社員の模範となり、技能伝承がより着実に行われる環境となっている。技術力の底上げにあたっては、外部の名工による指導も取り入れており、現代の名工「製缶」・黄綬褒章受章のM氏(技能五輪全国大会金賞受賞。現在、各種資格講師マイスター)による技術指導のほか、安全衛生教育もお願いし、短期契約社員として採用。改善報告を朝礼で共有するなど、作業の安全確保につなげた。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ①作業環境の改善  高齢社員が働きやすい作業環境の整備を進めており、2015年と2020年に工場照明をLED化し、高齢期になると光を暗く感じやすくなるなか、明るく作業ができるようになった。また、2020年には工場建屋の屋根に遮熱塗装を施して工場内の温度上昇を緩和し、熱中症対策として工場内の空調設備も更新した。これにより、以前は一人ずつ使用していたスポットクーラーやファン付き・保冷剤入りジャケットが必要なくなった。  作業面では、経理業務のIT化や外部委託により高齢社員の事務業務の負担を軽減するとともに、重量物を取り扱う作業は若手社員がにない、高齢社員は技術指導や検査業務など経験を活かせる業務へ配置している。 ②健康管理  健康診断後の再受診勧奨に加え、「健康お祝い金制度」を導入して健康意識の向上を図っている。制度導入後は、各自が積極的に病院へ通ったり運動することを意識したりするようになり、健康への意識に変化がみられた。病気欠勤のない社員には、健康お祝い金として1~3万円を支給している。また、朝礼時には毎日ラジオ体操を実施し、昼食後には各自が散歩や体操を行うなど、日常的に健康管理を意識する習慣が根づいている。  溶接作業では強い光が発生することから、眼科を受診する社員も多く、受診の際に車の運転に制約がかかる場合には、社長・専務が車を出して病院までの送迎を支援している。 ③安全衛生  毎週月曜日の朝礼後に環境パトロールを実施し、5S活動などを徹底している。前述の名工の指導を受ける前は道具が乱雑に置かれて探すことが多かったが、指導を機に、あるべき場所へ道具を戻すことを徹底した。美化が継続するよう美化手当制度を設け、整理棚の自主製作などの社内改善を手当に加算している。安全教育やクレーン資格取得教育なども行っており、安全作業体制の強化を図っている。 ④福利厚生  退職金制度を明確化し、退職後の生活設計を立てやすくしている。また、通勤時間が長い高齢社員は通勤自体が負担となるため、希望者には会社近隣の物件探しから引越しの支援まで行っている。そのほか会社や個人が表彰を受けた際や社員の退職時など、節目ごとに社員全員で食事会を開き、コミュニケーションを図る機会を数多く設けている。 (4)高齢社員の声  石(いし)正博(まさひろ)さん(75歳)は、入社時67歳で、現在は検査員として品質管理を担当している。72歳のときに検査員資格を取得した。  「大手車両メーカーの新規認定取得のために検査員の試験を受けるよう会社から求められ、年齢を考えると当初は果たして合格できるのかとたいへん不安になりましたが、教育・訓練・研修と会社のサポートのおかげで合格することができました。年齢を考えると『もうこれまで』とあきらめがちですが、ダメと決めつけずトライすることが大切。成せば成る、です」  鈴木(すずき)正啓(まさひろ)さん(63歳)は、60歳で定年退職した後に、継続雇用で工場長へ抜擢された。「これからも同じ職場で同じ仕事を続けられ、工場長としてもうひとがんばりできます。退職年齢が延びたことで、年齢を気にせず、能力に応じた役割をにない続けられるようになり、仕事のやりがいを感じています」と、制度改定を歓迎する。 (5)今後の課題  同社は、社員全員が長く勤めたいと思えるような「人にやさしい」、「みんなの会社」を目ざしている。高齢社員の割合が年々高まっていることなどを受け、アシストスーツの導入検討や、夏の熱中症対策として空調設備の増設なども予定している。2026年度からは遠距離通勤者の交通費の増額や、会社近隣への住宅支援も始めており、だれもが長く働ける職場づくりを推進していく。 写真のキャプション 株式会社三吉電器 就業規則や退職金規程などを社員通用口に掲示している 高齢社員による指導の様子 石正博さん(75歳) 鈴木正啓さん(63歳) 【P16-19】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 優秀賞 高齢者の保有する能力に応え生涯現役で働ける環境づくりを推進 稲村建設(いなむらけんせつ)株式会社(鹿児島県鹿児島市) 企業プロフィール 稲村建設 株式会社 (鹿児島県鹿児島市) 創業 1954(昭和29)年 業種 建設業 社員数 26人(2026〈令和8〉年1月1日現在) 60歳以上 11人 (内訳) 60~64歳 3人(11.5%) 65~69歳 4人(15.4%) 70歳以上 4人(15.4%) 定年・継続雇用制度 定年70歳。希望者全員を年齢の上限なく継続雇用。最高年齢者は77歳 Ⅰ 本事例のポイント  稲村建設株式会社は、1954(昭和29)年に稲村組として土木工事業を創業し、1971年に法人化。70年余にわたり道路や河川などのインフラ整備を通じて、地域の暮らしを支え続けてきた。  建設業界では若年層の採用がむずかしく、社員の高齢化が進むなかで、経験豊富な高齢社員をいかに戦力として活かし、その技能を次代へ伝えていくかが経営上の重要な課題となっている。同社はこの課題に正面から向き合い、制度の改革と現場の温かい企業文化を両輪として、年齢で区切らず生涯現役で働ける環境づくりを進めてきた。その結果、離職者ゼロと採用増というたしかな成果があらわれている。 POINT ①2021(令和3)年に継続雇用の上限年齢を撤廃し、2026年に定年を70歳へと延長した。年齢を理由に就業機会を制限しない方針を明確にしている。 ②職務内容ではなく「保有する能力」に対して賃金を支払う方針を明確化し、定年後の継続雇用でも昇給が可能な仕組みとしている。 ③建設業界では導入例の少ない企業型確定拠出年金を、70歳までを対象として導入し、高齢期の資産形成を会社として支援している。 ④高齢社員と若手社員を組み合わせた班編成や、高齢社員による外国人技能実習生への指導を通じて次世代への技能継承を図っている。 ⑤ファン付き作業服やアシストスーツの導入、私傷病もカバーする保険への加入など、安心して長く働き続けられる環境を整えている。 Ⅱ 企業の沿革・事業内容  稲村建設株式会社は、1954年に稲村組として土木工事業を創業し、1971年に尾上組と合併して法人化した。1973年に土木工事業・舗装工事業の建設業許可を受けて以来、とび・土工工事業、管工事業、解体工事業などの事業を営んでいる。  インフラ整備を主軸とし、官公庁からの受注を中心に、道路整備をはじめとする各種工事を手がけており、地域の環境や土地を熟知した職人たちが、迅速かつていねいな施工を通じて、地域の暮らしを支えている。創業以来、多少の変動はあるものの右肩上がりの成長を続けており、近年は廃業した同業他社からの人材採用も進めながら事業を拡大。長い歴史のなかでつちかった信頼と柔軟な機動力を活かし、地域に寄り添う企業であり続けることを目ざしている。 Ⅲ 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  同社の社員26人のうち、60歳以上が11人を占める。60代、70代の社員が事業の中核をなしており、豊富な経験を持つ高齢社員の活躍なくして現場は成り立たない状況にある。  高齢者雇用推進の背景には、建設業界全体における若年層の採用難と、社員の高齢化がある。経験と技術力を備えた高齢社員を年齢によって失うことは、現場の品質低下や技能継承の停滞に直結する。会社の発展のためには他社に先んじて対策を講じる必要があると考え、安心して長く働き続けられる環境の整備を進めてきた。取組みにあたっては、社員の声に耳を傾けながら、経営層が主導して取り組んでいる。 Ⅳ 改善の内容 (1)制度に関する改善 ①定年制度および継続雇用制度  2021年9月に定年年齢を60歳から65歳へ引き上げ、同時に継続雇用の上限年齢を撤廃した。さらに2026年4月には定年年齢を70歳へと引き上げている。定年後もフルタイム勤務を希望する場合は契約社員として働き続けられるほか、本人が体調や家庭の都合に合わせて働き方を選べるよう、2026年4月からは新たにパートタイマーの区分を設け、勤務日数を減らして働く選択肢も整えており、この二つの区分の転換は自由に行えることになっている。  定年年齢を70歳へ引き上げた背景には、60代後半の社員がなお元気に活躍している実態がある。65歳を定年とする場合、その後は毎年退職を意識する時期が訪れ、離職につながりかねない。定年延長により「70歳までがんばろう」という意欲を引き出すとともに、貴重な人員の確保につなげている。なお、2021年の制度のもとで再雇用となっていた60代後半の社員については、2026年の制度改定にあわせて正社員区分へ移行し、退職金の算定にかかわる勤続年数もさかのぼって加算する対応をとっている。 ②賃金制度  2024年4月に賃金制度を全面的に見直した。その根幹にあるのは、基本給を職務内容や職務の価値ではなく、社員が「保有する能力」に対して支払うという考え方である。フルタイム勤務者の基本給には昇給があり、勤続年数の上昇にともなって水準が上がるため、定年後もそのまま働き続けるかぎり、右肩上がりの賃金カーブを描く仕組みとなっている。正社員と同じ労働時間で働く契約社員にも同一の賃金制度が適用され、社員区分による処遇の差を設けていない。  この見直しにより、賃金制度の透明性が高まり、社員からは「がんばる理由が明確になった」という声が寄せられた。定年後の処遇改善は就業意欲の向上につながり、優秀な人材の確保と技能継承、定着率の向上に寄与している。 ③企業型確定拠出年金制度の導入  従来の退職金制度は建設業退職金共済制度のみで、受け取れる額は十分とはいえなかったが、会社として資産形成を支援するため、地方の金融機関と一年をかけて制度を整え、2026年4月に企業型確定拠出年金制度を導入した。対象は70歳までとし、事業主掛金は社員の定着を図るため勤続年数に応じて設定している。  この制度は定年年齢の引上げとも連動しており、定年を70歳に延長することで、より多くの社員が長く資産を積み立てられるようになり、高齢期まで安心して働き、退職後にも備えられる仕組みとなっている。これは、建設業では導入例の少ない先進的な取組みである。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ①資格取得支援  建設業では、資格が安全性・品質・生産性に直結することから、資格取得を重視している。社員の技能向上とキャリア形成を支援するため、必要な資格の取得費用は会社が負担し、勤務時間内での講習受講を認めるとともに、取得後には資格手当を支給している。高齢社員の豊富な経験に資格が加わることで現場全体の技術力が高まり、若手社員にとってはキャリアの道筋が明確になって成長意欲の向上につながっている。 ②混成班による技能継承  高齢社員の豊富な経験と若手社員の機動力をともに活かすため、高齢社員と若手社員を組み合わせた班編成を行っている。高齢社員が安全管理や品質確認、作業手順の指導をになう一方、若手社員は体力を要する作業やデジタル機器の操作を補うなど、お互いの強みを活かす体制としている。この取組みにより若手社員の技能習得が早まって育成期間の短縮につながるとともに、高齢社員は「教える役割」をになうことで就業意欲を高めている。 ③技能実習生への指導と職場風土  同社は2023年9月からインドネシアの技能実習生を受け入れており、その指導を高齢社員が中心となって行っている。長年の経験に基づくていねいで根気強い指導は、実習生から厚い信頼を得ており、世代や国籍を超えた関係が築かれている。高齢社員自身も、自らの経験がだれかの成長に役立っているという実感を通じて、働きがいを高めている。  こうした風土を支えているのが、毎朝の全員朝礼である。全社員が出社して朝礼を行ってから現場へ向かうため、業務の相談にとどまらず、家庭での出来事や健康状態など、幅広い会話が交わされる。朝礼には経営層も参加しており、現場の声や社員の近況を直接把握できる場となっている。また経営層は作業現場にも足を運び、労働環境の把握とともに社員の働きぶりを確認している。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ①作業環境の整備と生産性の向上  身体的な負担の軽減や熱中症リスクの低減を図るため、ファン付き作業服やアシストスーツを導入している。あわせて測量機器などの設備投資を進め、生産性の向上と危険作業の排除にも取り組んでいる。従来は二人がかりで谷を越えながら行っていた測量作業も、デジタル機器の導入によって一人で行えるようになり、工期の短縮と危険作業からの解放につながった。 ②健康管理と補償の充実  掛金を会社が全額負担する業務災害総合保険に加入している。この保険は業務上の災害にかぎらず、私傷病による入院治療費も補償の対象としており、これまでに10人以上の社員が私傷病の補償を受けている。経済的な不安の軽減や家族の安心につながり、就業継続の意欲を支える柱となっている。また、定期健康診断ではオプションの腹部エコー検査を会社負担で実施しており、この検査によって早期に異常が見つかり、治療を経て職場に復帰した社員もいる。 ③福利厚生と企業文化  社員とその家族を大切にする企業文化づくりを意識している。年に一度バーベキュー大会を開催するほか、毎年クリスマスの時期には全社員にプレゼントを贈っており、家族からも好評を得ている。これらの福利厚生は、社員の家庭での団らんを生む行事として定着し、会社全体の一体感の醸成にも寄与している。 (4)その他の取組み  職場では、多様な人材がそれぞれの力を発揮している。外国人技能実習生の受け入れにあたっては高齢社員が技術指導や生活相談の役割をになっており、世代や国籍を越えた信頼関係が現場を支えている。また、身体障害のある社員も在籍しているが、周囲や経営層が特別視することなく、ほかの社員と同様に活躍している。こうした取組みが評価され、「ユースエール認定企業」(厚生労働省)※1や「かごしま『働き方改革』推進企業」(鹿児島県)※2などの認定を受けている。 (5)高齢社員の声  柿田(かきた)靖巳(やすみ)さん(68歳)は、土木工事現場の作業員として、作業全般や重機の運転などを担当。「仕事を通して自身の経験や知識を次世代につないでいけることにやりがいを感じています。若手社員と接することで元気をもらっています」と話す。  末吉(すえよし)敏幸(としゆき)さん(72歳)は、現場管理業務をになっている。「この年齢になっても、まだまだ会社から頼ってもらえるのがうれしいですね。体調や都合に合わせて出勤できるので、自分のペースで無理なく働けるのがありがたいです」と話す。 (6)今後の課題  これら一連の取組みは、たしかな成果となってあらわれており、離職者は2年弱にわたってゼロを更新中。採用の面でも、他社を定年退職した技能者からの応募が増え、2017(平成29)年以降は廃業した同業他社からの人材採用も進めながら、売上高を約二倍に伸ばしている。  同社は今後も年齢で線を引かないという方針を軸に、高齢社員が活躍できる環境づくりを進めていく方針である。また、現場作業の効率化と平準化を図るため、段階的にデジタル化を進め、高齢社員の負担軽減や作業ミスの防止、情報共有の迅速化を実現し、世代を問わず働きやすい職場環境の構築を目ざす。こうした取組みを重ね、高齢社員が「支えられる側」から「組織をけん引する側」へと活躍の幅を広げられる職場づくりを、これからも進めていく考えだ。 ※1 「ユースエール認定企業」 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000100266.html ※2 「かごしま『働き方改革』推進企業認定制度」 https://www.pref.kagoshima.jp/af04/sangyo-rodo/rodo/hatarakikata/seido.html 写真のキャプション 稲村建設株式会社 技能継承のため高齢社員と若手社員を混成した班編成 負担を軽減するためのアシストスーツを導入 柿田靖巳さん(68歳) 末吉敏幸さん(72歳) 【P20-23】 令和8年度 厚生労働大臣表彰 特別賞 個人の希望や能力に応じた柔軟な働き方を実現し全社をあげて「はつらつ職場づくり」を推進 株式会社 鵜飼(うかい)(岐阜県各務原(かかみがはら)市) 企業プロフィール 株式会社 鵜飼 (岐阜県各務原市) 創業 1947(昭和22)年 業種 輸送用機械器具製造業 従業員数 131人(2026〈令和8〉年6月9日現在) 60歳以上 27人 (内訳) 60~64歳 9人(6.9%) 65~69歳 7人(5.3%) 70歳以上 11人(8.4%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。希望者全員を年齢の上限なく継続雇用。最高年齢者は79歳 Ⅰ 本事例のポイント  株式会社鵜飼は1947(昭和22)年7月に、岐阜県岐阜市で柳原(やなぎはら)工業株式会社として創業した。1963年1月に、現在の所在地である各務原市金属団地に移転、1988年に株式会社鵜飼に社名を変更して現在に至る。  「仕事を通じ、我が社に関わる全ての事柄の幸せを目指す」を経営理念に掲げ、感謝の気持ちを忘れず、日々進化する会社を目ざしてきた。早くから将来の人材不足を視野に入れ、高齢者を積極的に雇用しており、高齢従業員の経験や能力を最大限に活かせるように、職務内容や働き方を柔軟に決めるなどの取組みを実現するために、全社一丸となって取り組んでいる。 POINT ①高齢従業員の経験を最大限に活かせるように、健康・快適で安全な職場環境づくりを目ざしている。 ②65歳定年後も希望者全員を年齢上限なく継続雇用する制度を導入。制度改定を段階的に進め、最終的に雇用上限年齢の撤廃を実現し、長く働き続けられる継続雇用制度を確立した。 ③労働時間、職務内容を面談により調整し、その希望をほぼ100%反映。短時間勤務や配置転換などにより負担軽減に柔軟に対応した。 ④能力に応じた賃金制度や人事評価の導入により、65歳以上の高齢従業員18 名が現場戦力として活躍できる職場環境を構築した。 ⑤高齢従業員の技術・技能を継承するため、技術・技能のマニュアル化を図り、若手従業員や外国人技能実習生、障害のある従業員とのペア就労やメンター制度を推進、高齢従業員の活躍の場を創出した。 ⑥職場のIT化やDXを進めていくなかで、高齢従業員を力仕事や危険業務から業務転換させるなど、高齢従業員が働きやすい支援の取組みを進めている。 Ⅱ 企業の沿革・事業内容  同社は、1947年に岐阜県岐阜市で創業して以来、金属加工一筋に歩んできた会社である。「板金(ばんきん)・溶接・切削(せっさく)・塗装・機械組立」の一貫体制を構築していることを強みとしており、工作機械の周辺機器や物流倉庫の搬送システムなども手がけるなどして業容を拡大してきた。1988年に社名を株式会社鵜飼に変更。その後、M&A(企業の合併・買収)によって従業員数を増やし、2015(平成27)年10月には岐阜県加茂郡(かもぐん)に東海圏ではトップクラスの設備を備えた塗装工場を完成させた。創業から79年を数えたいま、100年企業を目ざして新しい分野や市場への挑戦を続けており、「社員の幸せ、顧客の幸せ、社会貢献」を経営理念に掲げ、つねに感謝の気持ちを忘れず、日々進化する会社を目ざしている。 Ⅲ 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  全従業員131人のうち60歳以上の従業員は27人で全体の20.6%、65歳以上は18人で全体の13.7%を占めている。最高年齢者は79歳。20年ほど前に、若年層の入社希望者の減少が続いていることに気づいたことがきっかけとなり、高齢従業員が活躍するための制度面の改善に積極的に取り組み始めた。  また、高齢化が進むなかにあっても、安定的に事業を運営して会社を存続させていくためには、これからも増加することが見込まれる高齢従業員にとって働きやすい職場環境を創出することが何より重要と考えた。そこで、2007年以降、就業規則を改定し、定年年齢や継続雇用期間、労働条件および賃金にかかる制度の見直しを順次進めてきた。このような制度改定に加え、高齢従業員の個々の経験、能力および事情等をふまえ、高齢従業員が最大限活躍できるよう、職務内容や働き方を柔軟に調整する取組みを続けている。  高齢従業員の配置については、年1回の人事評価時の面談において決定している。その際、本人の事情を考慮して、希望をほぼ100%受け入れている。さらに、製造業における現場作業は高齢従業員には厳しい環境であることも考慮して、職務についてはこれまでと同一であっても、作業上の負荷は軽減する配慮を行っている。 Ⅳ 改善の内容 (1)制度に関する改善 ①定年制度と継続雇用制度  制度改定前は「60歳定年。定年後は、嘱託従業員として65歳まで継続雇用。パートタイム従業員は70歳まで雇用」と定めていたが、2007年に就業規則を改定し、定年後は希望者全員を嘱託従業員として継続雇用することを明示した。2017年には、嘱託従業員の継続雇用上限年齢を70歳までに、パートタイム従業員を75歳までに引き上げるとともに、定年後の継続雇用の形態を嘱託従業員とパートタイム従業員のいずれかの選択を可能にした。  さらに、2022(令和4)年にも就業規則の改定を行い、嘱託従業員という雇用形態を廃止してパートタイム従業員に一本化し、定年後は希望者全員をパートタイム従業員として継続雇用して、年齢上限は定めないことにした。 ②賃金制度と人事評価制度  パートタイム従業員の賃金は、従来は定額であったが、定年後のモチベーションの維持・向上のため、2021年6月の就業規則の改定によって、定年退職時の職務給の額に応じて、5段階の給与額のなかから、本給を定めるよう見直しを図った。  また、人事評価制度は、「パートタイム従業員雇用・継続審査表」を用いて年1回実施。評価は面談によりフィードバックし、評価によっては昇給も可能な仕組みを構築した。 ③多様な働き方の実現  制度改定前は、正規従業員および嘱託従業員は1日8時間勤務、パートタイム従業員は1日5時間勤務としていたが、2017年にパートタイム従業員の労働時間の規定を廃止して、個々の従業員の希望に応じて1日の労働時間を選択できるよう見直しを行った。ただし、継続雇用の高齢従業員には、原則として1日8時間を超えた労働は禁じている。  継続雇用者の職務内容や勤務形態は年1回の人事評価の面談の際に担当職長と相談のうえで変更可能であり、ほぼ100%、従業員の希望を受け入れている。職務内容の変更においては、高齢従業員に負担がかからないよう、個々人の体力等の状況を見ながら業務内容を調整している。本人の希望を優先するため、つねに代替要員の確保が可能となるよう、従業員の育成を計画的に進めている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ①資格取得支援  熟練の技術者が揃っているが、従業員の技術力のさらなる維持・向上のために、技能検定試験の受検に要する費用を全額会社が負担している。また、技能検定試験対策のための事前講習会の受講日は有給休暇扱いとする措置を実施するとともに、技能検定試験の合格者には、合格報奨金と技能資格手当を支給している。 ②技術・技能継承の取組み  同社では技術・技能継承の取組みとして、高齢従業員と若手従業員のペア就労を進めている。さらに、外国人の従業員とのペア就労も積極的に行い、熟練の技術者が実践を交えながら溶接の知識を教えている。 ③職場コミュニケーションの推進  コロナ禍までは、社内において溶接技術競技会などのイベントを定期的に企画・実施しており、若手従業員とのコミュニケーションの場として機能し、職場の活性化につながっていた。今後、こうした取組みを復活させることを視野に入れている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、健康管理、安全衛生、福利厚生の取組み ①作業環境や作業の改善  大物溶接品の材料設置と溶接のロボット化に取り組み、重筋作業や溶接作業の負担を軽減した。また、厚生労働省の「エイジフレンドリー補助金」※1を活用して、スポットクーラーやファン付き作業服、フリークレーンを導入して、作業環境の改善を実現した。さらに、立ち仕事による腰への負担軽減のために疲労を軽減するマットを導入。夏の暑さ対策としてはクールベストを従業員に支給した。 ②健康管理  長時間労働の抑制のため、毎週水曜日を「ノー残業デイ」に指定している。さらに、法定の定期健康診断と特殊健康診断を確実に実施するとともに、健診結果の有所見者に対する事後措置にも取り組んでいる。また、ストレスチェックも実施しており、集団分析の結果を活用した産業医面談を促進している。産業医は、月1回各工場を巡回して健康相談を行っており、さらに、私傷病などで長期間療養を要する従業員の支援のため、2016年に「私傷病による従業員の休職及び復職に関する規程」を整備した。 ③安全衛生  温暖化にともなう気温上昇をふまえ、2025年以降、熱中症対策を重点的に強化している。具体的には、作業現場における温湿度管理の徹底やスポットクーラーの設置、クールベストの支給等の対応に加え、作業時間中においては1時間につき5分程度の休憩を確実に取得する運用を徹底し、体温上昇の抑制および疲労の蓄積防止を図っている。また、水分および塩分補給のため、夏季は熱中症対策飲料と塩飴を常時提供し、従業員へ定期的な摂取をうながしている。さらに、作業前の体調確認や声かけの徹底により、体調不良の早期発見と重症化防止に努めている。これらの取組みは、特に高齢従業員の身体的特性や健康リスクに配慮したものであり、年齢にかかわらず安心して働き続けられる職場環境の整備につながっている。 ④福利厚生  インフルエンザの予防接種を全額会社負担にて年1回実施しており、従業員の健康維持に努めている。さらに、従業員へ誕生日のプレゼントの贈呈を行うことで、従業員のモチベーション向上を図っている。また、従業員相互のコミュニケーションの円滑化を図るため、同社ではクラブ活動を奨励し、会費補助も行われ、クラブ活動を通じた従業員間の交流促進を目ざしている。 (4)その他の取組み  健康経営の実現を目ざす企業として、安全で安心な職場環境づくりを進めている。その一環として、2017年10月24日、岐阜労働局が進めている「新はつらつ職場づくり宣言」※2として、「私たち株式会社鵜飼と株式会社鵜飼従業員組合は、労使ともに協力して健康・快適で仕事のしやすい安全な職場づくりを目ざすために、働き方改革を推進し『はつらつ職場づくり』に取り組むことを労使で宣言する」と表明した。具体的には、長時間労働の抑制、過重労働の解消、心身ともに安全で健康に働ける職場環境の創出をはじめ、高齢従業員はもちろん、だれもが活き活きと働き続けるための指標を掲げている。そして、2020年には、同社の取組みが評価され、健康経営優良法人2020の認定を受けている。 (5)高齢従業員の声  各種制度の改定や職場環境の改善に対しては、従業員から、おおむね好意的な評価が寄せられている。例えば、高齢のパートタイム従業員からは、「長く働けるという安心感がある」や「自分の体力や生活に合わせて働けるため、無理なく働き続けられる」、「収入を継続して得られることがありがたい」といった声が聞かれている。 (6)今後の課題  創業から79年を数え、新しい分野や市場への挑戦、新体制の構築を通じ、売上高100億円という野心的な目標を掲げる「100億円企業」を目ざすことを宣言した。この宣言のなかには、現在の課題や今後の成長手段などを明記した。まずは、築70年近い工場の建て替えを行い、従業員の作業環境を改善し、あわせて、生産性の向上と人材確保を目ざすことにしている。また、働き方改革にともなう労働時間の見直しに対応するために、マンパワーに依存しない生産形態への転換を図り、「人がやる仕事」と「機械がやる仕事」を明確に分けて、ロボットや自動化設備を導入することによって、さらなる効率化を実現することを視野に置いている。さらに、年齢や経験を問わず、社内でプロジェクトチームを発足させて、だれもが自由に意見を出し合える企業風土の構築を目ざすなど、同社のさらなる挑戦が続く。 ※1 「エイジフレンドリー補助金」 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_09940.html ※2 「新はつらつ職場づくり宣言」 https://jsite.mhlw.go.jp/gifu-roudoukyoku/roudoukyoku/gyoumu_naiyou/_120283/_120504/_120505.html 写真のキャプション 株式会社鵜飼 大物溶接品の材料設置と溶接のロボット化に取り組み、重筋作業と溶接作業の負担を軽減した 若手従業員に対する指導が高齢従業員の役割となっている 【P24-27】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 ICTと健康経営で支える 安全・安心に働き続けられる職場 株式会社 亀井組(かめいぐみ)(徳島県鳴門(なると)市) 企業プロフィール 株式会社 亀井組 (徳島県鳴門市) 創業 1906(明治39)年 業種 総合建設業 従業員数 77人(2026〈令和8〉年4月1日現在) 60歳以上  4人 (内訳) 60~64歳 5人(6.5%) 65~69歳 6人(7.8%) 70歳以上 3人(3.9%) 定年・継続雇用制度 定年65歳。一定条件のもと70歳まで継続雇用。70歳以降は一定条件のもと年齢の上限なく継続雇用。最高年齢者は81歳 Ⅰ 本事例のポイント  株式会社亀井組は、1906(明治39)年に徳島県鳴門市で創業した。創業120年を誇り、土木・建築工事を通じて地域社会のインフラ整備に貢献してきた。主力事業は、官公庁および民間発注の土木・建築工事の請負、企画、設計、施工管理である。土木工事部門では道路・橋梁(きょうりょう)・河川等の社会基盤整備を、建築工事部門では教育施設・医療福祉施設・商工業施設の建設、神社仏閣(じんじゃぶっかく)の修繕等を手がけている。また、大手住宅メーカーの耐震住宅工法を用いた注文住宅の設計・施工およびリフォーム事業を展開している。  同社では、多様な取組みによって、若手からシニアまで安心して働き続けられる職場環境を整備したことによって、近年は離職率0%を維持している。今後も、こうした成果を徳島県内や建設業界へ積極的に発信し、高齢従業員の活躍と健康経営を両立させる企業モデルとして、建設業界全体の人材確保やイメージ向上に貢献することを目ざしている。 POINT ①2020(令和2)年に定年年齢を60歳から65歳へ、継続雇用制度を65歳から70歳へ引き上げた。さらに70歳以降は年齢上限のない継続雇用制度を実現した。 ②年齢による一律の賃金引下げを行わず、役割や勤務形態に応じて賃金を決定。納得感のある賃金体系は高齢従業員のモチベーションアップにつながっている。 ③81歳の技術顧問をはじめ、高齢従業員が技術指導や品質管理の中核をにない、若手への技能継承を推進。技術の伝承とともに、「建設という仕事に関わる喜び」を伝えるメンター的な役割もになっている。 ④高齢従業員の新たな活躍の場を創出するため、本業の建設事業に加えて、「アグリ事業部」や「亀井組のだがし屋」を展開し、個人の資質や体力に合わせた生涯現役で働くことができる場の創出を目ざしている。 ⑤ICT(タブレット、360度カメラ、ドローン等)を活用し、高齢従業員の負担軽減と安全確保を実現した。 ⑥24時間365日利用可能な医師によるチャット相談や健診受診率100%の実現により、健康経営を積極的に推進。 ⑦社内カフェ「KAMECAFE(カメカフェ)」を設置し、世代や部署を越えた交流・情報交換を促進している。 Ⅱ 企業の沿革・事業内容  同社は、亀井組として1906年に徳島県鳴門市で塩田(えんでん)の整備事業を主たる業務として創業。1953(昭和28)年に株式会社亀井組に組織変更し、その後は総合建設会社として、国道改良工事、社寺建築等、公共および民間の建築工事、土木工事、港湾工事等を中心とした社会基盤整備等、地域の安全を守り、地域の基盤を支える事業を展開してきた。近年は、従来の建設事業に加え、ICT施工やデジタル技術の活用を積極的に推進し、生産性の向上や働き方改革にも取り組んでいる。また、建設業の枠にとどまらず、社内コミュニケーション拠点「KAMECAFE」の整備や「亀井組のだがし屋」の運営、農業分野への参入など、多様な事業を通じて地域社会とのつながりを深めている。「明治から続く技術を次世代へつなぐ」を合言葉に、高齢従業員の持つ高度な施工管理能力や地域との信頼関係を、若手従業員の育成と会社のブランド力向上に活かす「生涯現役・共創体制」の構築を目ざしている。 Ⅲ 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  従業員数は77人で、60歳以上の従業員は14人(構成比18.2%)、65歳以上は9人(構成比11.7%)となっている。81歳の最高年齢者は、現在も技術顧問として若手従業員の育成や技術指導を行っているほか、高齢従業員それぞれが業務や地域貢献等の役割を果たしている。建設業界における深刻な人手不足や技術承継の断絶に危機感を抱いたことがきっかけとなり、「明治から続く技術を次世代へつなぐ」ことを目的に、2020年に定年を65歳に延長した。合わせて、再雇用制度の見直しなど制度面の改善を実施し、高齢従業員を「品質と安全の要(かなめ)」と位置づけ、健康経営、柔軟な働き方、人材育成、安全衛生等に、総合的に取り組んでいる。 Ⅳ 改善の内容 (1)制度に関する改善 ①定年制度および継続雇用制度  定年年齢を65歳へ引き上げるとともに、継続雇用制度を見直し、70歳以降は、基準該当者を年齢上限なく継続雇用する制度を確立した。現在、最高年齢者として、81歳の従業員が活躍していることが功を奏し、「長く元気で働き続けたい」という高齢従業員のモチベーションアップにつながっている。 ②賃金制度  賃金は年齢ではなく、本人の役割や貢献度、 勤務形態に応じて決定している。65歳以降も従前と同じ勤務を希望する場合は、勤務条件・給与ともに定年前と同水準を維持している。なお、本人の希望により勤務日数を短縮する場合には、勤務の実態に合わせて賃金を調整している。 ③多様な働き方  高齢従業員を含むすべての従業員が、それぞれのライフステージや健康状態に応じて多様な働き方を支える環境整備を進めている。定年後の継続雇用にあたっては、毎年実施の社長面談において本人の希望や健康状態、就業意欲、生活状況などを確認したうえで勤務形態を決定している。従前通りのフルタイム勤務を希望する者は、勤務条件を維持したまま継続雇用しており、短時間・短日数勤務を希望する者は、本人の希望に応じて柔軟に対応している。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ①研修・教育訓練の実施  従業員の能力向上を目的として、業務に必要な資格および免許の取得に必要な費用を会社が全額負担している。また、必要に応じて高齢従業員に対してもデジタルツールの活用をサポートしている。 ②技術・技能継承の取組み  熟練の高齢従業員は現場でのOJTだけでなく、若手従業員に対する「技術研修会」の講師を定期的に担当し、長年の経験に基づく現場知識を若手従業員に伝承している。 ③社内コミュニケーション拠点の整備  パンやいちごの販売、日々の休憩場所として利用できる社内コミュニケーション拠点「KAMECAFE」(社内カフェスペース)を設置。このスペースには、コーヒーや給茶機を備えており、休憩時間には世代や部署を問わず多くの従業員が集まって交流を深めている。 ④「アグリ事業部」の設置  同社の高齢従業員の雇用とは異なるが、同社では、シルバー人材センターを通じて積極的に地域の高齢者を活用して、いちごの栽培などに従事してもらっている。また、本人の希望により事務職からアグリ事業部へ異動することもあり、従来の職域にとらわれない活躍の機会を創出している。さらに、本社内に「亀井組のだがし屋」を開設して、経理・総務業務を担当していた従業員が本人の希望により駄菓子屋の運営をになうなど、年齢や体力の変化に応じて能力を発揮できる環境を整備している。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、安全衛生、健康管理、福利厚生の取組み ①作業環境および作業方法の改善  全従業員が安全で効率的に働き続けられるよう、ICTやデジタル技術を活用した作業環境や方法の改善に着手した。働き方改革の一環として電子出退勤システムを導入したことにより、全従業員の時間外労働時間や年次有給休暇の取得状況の一元管理が可能になった。また、タブレット端末と360度カメラを各現場に設置し、作業報告や現場巡回、情報共有のデジタル化を推進したことで、現場間の移動や巡回業務の削減が図られ、高齢従業員を含む全従業員の身体的負担の軽減につながっている。  さらに、熱中症を未然に防ぐ「ウェアラブルデバイス」を導入し、安全な就業環境確保が実現した。現場の可視化を重要と考え、ドローンなどを活用して測量業務の効率化や省力化を図っている。 ②安全衛生  労働災害の防止のために、高齢従業員の知見を活かした「安全パトロール」を強化している。また、熱中症を未然に防止するため、ファン付き作業服や冷感インナー、遮熱(しゃねつ)サングラスを支給している。また、すべての現場にエアコンや経口補水液、塩飴を備えた遮熱休憩所を整備するとともに、朝礼等を活用して熱中症予防に関する注意喚起を実践している。 ③健康管理  「健康経営」を実現するために、従業員が安心して長く働ける環境整備に取り組んでいる。例えば、健康診断は、受診しやすい環境づくりのために検診車を手配しており、受診率100%を継続して達成している。また、インフルエンザの予防接種は、会社が費用を全額負担して実施している。さらに、24時間365日利用可能な専門医へのチャット相談サービスを導入し、従業員の健康不安や悩みに対応している。このほか、血圧計や運動器具の設置、「両立支援保険」への加入、健康支援機器としての水素吸入器の導入、健康アンケート結果を活用した栄養支援の実施など、従業員が安全・安心に働けるようにするためのさまざまな取組みを健康経営の一環として継続的に拡充、従業員の健康維持と就業継続を支える基盤となっている。 ④福利厚生  さまざまな工夫を行っており、まず、全従業員はライフイベントに応じた各種給付・福利厚生サービスを利用できる。また、部署ごとの懇親会費補助(年2回)や地域行事(阿波おどりなど)への参加支援を通じて従業員間の交流促進と組織の活性化を図っている。さらに、永年勤続表彰制度を設け、長年にわたり会社へ貢献した従業員を表彰することで、働く意欲の向上と定着促進につなげている。業務環境の整備にも力を入れており、全従業員へスマートフォンを支給するとともに、タブレット等の端末を活用することで、業務の効率化や情報共有を推進している。 (4)その他の取組み  創業120年を誇る総合建設会社として、地域の基盤を支える事業を展開しており、地域貢献を合言葉に現在もさまざまな形で地域の発展に注力している。例えば「亀井組のだがし屋」は地域の子どもたちが安心して集える居場所づくりと、災害時の支援物資の備蓄を兼ねた地域貢献を目的として開設した。平時は販売を行いながら備蓄し、災害時には支援物資として活用できる体制を整えている。また、近隣幼稚園とは約10年間にわたり交流を続けており、クリスマスには、同社の高齢従業員がサンタクロース役として訪問し、紙芝居の読み聞かせや駄菓子のプレゼントを行うなど、高齢従業員が地域との交流や次世代育成に積極的に参画している。文化・スポーツ活動への貢献ということでは、サッカーJリーグで徳島県全域をホームタウンとしている「徳島ヴォルティス」をオフィシャルスポンサーとしてサポート、芸術面の社会貢献の一環として、常設野外彫刻ギャラリーを設置、徳島本店等に数多くのアート作品を展示している。 (5)高齢従業員の声  81歳の最高年齢従業員の二見(ふたみ)岩夫(いわお)さんは、いまも現場の第一線に立ち、技術顧問として若手従業員への指導に日々力を注いでいる。「会社が資格取得を後押ししてくれたおかげで、必要な資格を取得し、長く働くことができています。家にいるより会社に来て人と会えることが楽しいです」と笑顔を見せる。 (6)今後の課題  建設業界全体の課題解決に向けたロールモデルの発信を視野に置いている。若手から高齢従業員まで、全員が働きやすい職場を目ざした結果、離職率0%を継続していることに力を得て、この成果を、徳島県内および建設業界全体へ積極的に発信し、人手不足に悩む同業他社に対し、高齢者の活躍と健康経営の両立が企業の競争力を高めることを証明し、業界全体のイメージアップと持続可能性の向上に寄与していきたいと願っている。今後も全社をあげて「生涯現役」に至る道を切り拓いていく。 写真のキャプション 株式会社亀井組の徳島本店 多くの従業員の交流の場となっている、KAMECAFE 各現場に設置されている、360度カメラ 最高年齢者の二見岩夫技術顧問(81歳) 【P28-31】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 厚生労働大臣表彰 特別賞 定年のない職場で一人ひとりの力を活かし続ける 四国(しこく)アイビ 株式会社(愛媛県今治(いまばり)市) 企業プロフィール 四国アイビ 株式会社 (愛媛県今治市) 創業 1971(昭和46)年 業種 ビルメンテナンス業 従業員数 162人(2026〈令和8〉年5月20日現在) 60歳以上 84人 (内訳) 60~64歳 15人(9.3%) 65~69歳 21人(13.0%) 70歳以上 48人(29.6%) 定年・継続雇用制度 定年なし。創業時より定年制度は設けていない。70歳以降は半年ごとの契約更新で年齢の上限なく継続雇用。最高年齢者は85歳 Ⅰ 本事例のポイント  四国アイビ株式会社は、1971(昭和46)年に、ボーリングのレーン用ワックスなどの清掃用品販売会社として愛媛県今治市で設立された。ビルメンテナンスの業務を展開し、2016(平成28)年に有限会社から株式会社に変更した。現在は、今治市内4カ所のプールの開園前の清掃を行うなど、清掃業務で地域のインフラを支えている。2023(令和5)年には「輝く女性推進部」を新組織として設け、美容エステ・歯のホワイトニング事業にも進出している。「お客様の笑顔と満足を求め 地域社会の発展と雇用に貢献し従業員の成長と幸せを願い『快適な空間づくり』で社会貢献できる企業とする。」を経営理念に掲げ、多用な人材を積極的に雇用、地域の活性化に一役買っている。 POINT ①創業時より定年制度は設けず、就業規則にも定年の定めはない。70歳以降は面談により健康状態や希望を確認して、労働条件を見直し ている。 ②賃金制度は、年齢に関係なく同じ制度としている。人事評価は、個人の能力に加えてお客さまからの評価を反映していることから、多くの高齢従業員が主任クラスで活躍している。 ③短時間勤務の現場から長時間勤務の現場まで、多様な現場があることから、従業員が柔軟に働くことができる制度が整備されている。 ④高齢従業員にとって体力を要する作業は、外国人技能実習生などの若年者とペア就労することで負担を軽減するとともに、技能の継承にもつなげている。 ⑤安全衛生管理体制を整備し、社内に高齢従業員の労災防止対策を含む「リスクアセスメント実施表」を掲げ、つねに、労働災害のリスクを見きわめられるようにしている。また、ヒヤリハット事例を社内報でも共有し、ブログで情報発信するなど従業員の労災防止対策の啓発に努めている。 Ⅱ 企業の沿革・事業内容  同社は、1971年、愛媛県今治市で四国アイビ有限会社として創業して以来、ビルメンテナンスや社屋、店舗、官公庁その他施設の清掃管理業務、日常清掃、マンション、アパート美装業務および新築家屋美装業務、清掃器具、清掃用品の販売、レンタルを中心に業容を拡大してきた。2016年に株式会社に組織変更、2023年には「輝く女性推進部」を設立して美容部門にも進出し、エステ部門「Jasmin(ジャスミン)」や歯のホワイトニングショップを展開している。  創業当時から「いつまでも働きたい人が働けるように」という理念を掲げて、労務管理の改善に取り組んできた。例えば、ストレスチェック制度が法定の制度になる前から従業員のストレスチェックを実施したり、地元の産業医とメンタルヘルス対策に取り組んだりするなど、全社一丸となってよりよい職場環境づくりを目ざしている。 Ⅲ 高齢化の状況、職場改善等の背景と進め方  全従業員162人のうち、60歳以上は84人、そのうち70歳以上は48人で、60歳以上の従業員の半数以上を占めている。最高年齢者は85歳で、1日2時間、週5日の清掃業務に従事している。メインの事業はビルメンテナンスや清掃であり、高齢者に合った働く場所や労働時間も多種多様な仕事があるため、創業時より定年は就業規則に定めていない。創業時にすでに高齢従業員が在籍したこともあり、「いつまでも働きたい人が働けるように」という創業者の理念を二代目社長もしっかり受け継いだ。  一方、2023年から、同社代表の家族が開業した美容エステと歯のホワイトニング事業を「輝く女性推進部」という新組織として編成して経営している。同社は全体的に女性が多いが、年齢層はまんべんなく分布した形となっている。20~30代は美容エステ・歯のホワイトニング事業の店舗勤務が多く、ビルメンテナンスや清掃には40代以上の従業員が従事している。 Ⅳ 改善の内容 (1)制度に関する改善 ①年齢上限のない雇用とシフト体制の構築  創業時より定年制度を設けておらず、退職規定および解雇規定の事由に該当しなければ、生涯現役で働くことが可能な環境となっている。本人の働き方の希望や体調の変化を確認するため、70歳以降は半年ごとの契約更新を行い、年齢上限の定めなく雇用している。また、高齢従業員が親の介護や自身の通院などで安心して休暇を取得できるよう、経験豊富な「クリーンマネージャー」がシフトをカバーできる体制を整備した。 ②賃金制度・人事評価  賃金制度については、年齢に関係なく同じ制度としている。高齢従業員の多くが主任として活躍しているが、年齢、性別、国籍を問わず、能力があれば主任になることができるので、従業員のモチベーションアップにつながっている。人事評価については個人の能力とお客さまからの評価から実施している。お客さまからの評価については毎月「褒(ほ)められ表」を従業員ごとに集計して、本人に渡している。 ③多様な勤務形態  本人の事情などをふまえ、勤務時間の短縮や短日勤務などについて随時相談に応じ、労働条件を変更している。ビルメンテナンスのほかに、美容エステ・歯のホワイトニング事業というまったく異なる業種も経営しており、店舗の20~30代の従業員に対し、育児などの事情が生じる場合において、短時間勤務や短日勤務への切り替えなど、ビルメンテナンス業と同様に対応している。このような、本人の事情に合わせた柔軟な働き方ができ、従業員の就労意欲の向上につながっている。 (2)意欲・能力の維持・向上のための取組み ①資格取得支援  創業時から高齢従業員も含め、会社が定めた資格取得に必要な費用は会社が全額負担し、資格取得後は、資格手当を支給している。資格取得が給与に反映されることで従業員のモチベーションがアップし、資格取得者が増え、お客さまに対するサービスの品質向上につながっている。 ②社内研修制度  毎月2回社員研修を実施しており、業務に支障がでないよう各部署1人ずつ参加する体制としている。研修会のほかにも会社負担でランチ会を開くなど、年齢に関係なく従業員同士が顔を合わせる場を積極的に設けている。 ③永年勤続表彰  勤続10年以上で永年勤続表彰し、金一封と記念品を贈っている。従業員にとって、まず10年というのは働く目標となり、9年目で退職を考えても、あと1年はがんばろうというモチベーションアップとなっている。 ④コミュニケーションの場の創出  従業員が各店舗に勤務していることから、全員が一堂に会する機会を持つことがむずかしいため、社内管理者が分担して職場を巡回し、職場改善の課題を把握している。それだけでなく、お客さまからの声を月1回「褒められ表」にまとめて、本人にフィードバックすることで、従業員のモチベーションのアップとコミュニケーションを促進する仕組みを設けている。永年勤続表彰該当者や「褒められ表」上位者には社長から感謝の気持ちを込めたハガキが送付される。この取組みにより、従業員だけでなく従業員の家族に、その働きぶりや常日頃会社で活躍している姿を伝えることができている。 (3)雇用継続のための作業環境や作業の改善、安全衛生、健康管理、福利厚生の取組み ①作業の改善  現場の作業においては、体力の必要なベッドメイキングは外国人技能実習生、そのほかの清掃は高齢従業員が担当する形でのペア就労を導入しており、高齢従業員の作業負担軽減を図っている。 ②安全衛生管理  2014~2015年ごろに、高齢従業員の転倒によるけがが多かったことをふまえ、安全衛生管理体制を強化し、安全衛生教育の実施を通じて従業員の意識啓発を強化した。社内で毎月開催している安全衛生委員会では、労働災害につながるヒヤリハット事例を共有し、その内容を社内報で周知している。社内には高年齢者の労災防止対策で実施が求められている「リスクアセスメント実施表」を過去から掲げ、現場にどのような危険が潜んでいるかを自主的に調べ、労災事故の未然防止を目ざした適確な安全衛生対策を講ずるようにしている。その結果、休業災害の減少とその維持が確保されている。 ③健康管理  年齢を重ねると、健康面での不調が出てくることが少なくないため、高齢従業員が安心して働くことができるように、定期健康診断の実施対象者でなくても、定期健康診断を実施している。個人では健康診断を受診していなかった高齢従業員も、会社で健康診断を実施することにより、毎年定期的に身体の状態を把握できるようになった。 ④福利厚生  業種の特性から、働く場所が多種多様であり、社内連絡や報告がむずかしい面があり、加えて、自分の会社がどんな会社なのかを知ってもらいたい、会社の方針を確実に伝えたいということがきっかけとなり、2005年10月から年に3~4回、社内報を発行している。  また、毎年部署ごとに忘年会または新年会などの懇親会を実施、年2回まで費用は会社で負担している。仕事を離れ、親睦を深める時間を設けることで連帯感が生まれ、家庭の事情や体調などでシフトに空きが出ても、お互い補いあえる環境づくりに貢献している。 (4)その他の取組み  ダイバーシティ経営の時代が到来したことをふまえ、高齢者に加えて障害者や女性を積極的に採用するとともに、外国人技能実習生も積極的に受け入れている。2025年度には、障害者雇用優良事業所として、独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰を受賞している。また、愛媛県が若年層の転出超過の解消に向け、女性活躍や仕事と家庭の両立支援などに積極的に取り組む企業を認証し、すべての人がいきいきと働ける環境づくりと企業の成長をバックアップする制度である「ひめボス宣言事業所」としても認証されている。 (5)高齢従業員の声  85歳の最高年齢従業員の小田(おだ)秋江(あきえ)さんは、1日2時間、週5日の勤務で、ある事業所の清掃を15年にわたって担当している。過去には複数の事業所を担当していたが、現在はその事業所のみを担当している。小田さんは非常に責任感が強く、得意先からの評価も高いという。 (6)今後の課題  少子高齢化や人口減少による生産年齢人口の大幅な減少を見すえ、ビルメンテナンス業界と地域の活性化のためにも、「ダイバーシティ」による地域の雇用の場の創出に向けて、よりいっそう積極的に貢献していくことを目ざしている。また、従業員が希望する時間帯で仕事ができるよう、取引先と調整を行い、柔軟な働き方の実現にも注力していく。さらに、創業以来、「労働災害ゼロ」を掲げて安全衛生管理を徹底してきたが、今後は、すべての世代にとって働きやすく、意欲があればいくつになっても安心して働ける職場環境の実現に全社をあげて取り組んでいく。より高みを目ざし、同社の飽くなき努力が続く。 写真のキャプション 四国アイビ株式会社 「リスクアセスメント実施表」を掲示して、労働災害の未然防止に注力している 得意先からの信頼が厚い小田秋江さん(85歳) 【P32-33】 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト 入賞企業一覧 厚生労働大臣表彰 最優秀賞 静岡県 株式会社 エヴァーブルー 優秀賞 茨城県 株式会社 三吉(みよし)電器(でんき) 鹿児島県 稲村(いなむら)建設(けんせつ) 株式会社 特別賞 岐阜県 株式会社 鵜飼(うかい) 徳島県 株式会社 亀井組(かめいぐみ) 愛媛県 四国(しこく)アイビ 株式会社 独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰 優秀賞 福島県 アクツフーズ 株式会社 埼玉県 株式会社 増木(ますき) 東京都 株式会社 事業承継機構(じぎょうしょうけいきこう) 東京都 大東(だいとう)コーポレートサービス 株式会社 富山県 にいかわ信用金庫 長野県 株式会社 西軽精機(にしかるせいき) 大阪府 株式会社 エーディエフ 兵庫県 株式会社 カコテクノス 愛媛県 桜井(さくらい)工業(こうぎょう) 株式会社 宮崎県 吉川(よしかわ)工業(こうぎょう)アールエフセミコン 株式会社 鹿児島県 株式会社 サンエス総合(そうごう)ビルメンテナンス 特別賞 東京都 社会福祉法人 調布市(ちょうふし)社会福祉事業団(しゃかいふくしじぎょうだん) 石川県 北陸化成(ほくりくかせい) 株式会社 愛知県 社会福祉法人 ケアマキス 大阪府 有限会社 スワン 兵庫県 社会福祉法人 三翠会(さんすいかい) 奈良県 株式会社 サンロード 山口県 株式会社 オータニ 香川県 徳寿(とくじゅ)工業(こうぎょう) 株式会社 熊本県 株式会社 緒方(おがた)建設(けんせつ) 大分県 株式会社 サンブレス 沖縄県 株式会社 アイセック・ジャパン クリエイティブ賞 宮城県 宮城(みやぎ)製粉(せいふん) 株式会社 【P34-35】 文化・福祉ジャーナリスト 﨑井(さきい)将之(まさゆき) 江戸時代にもあった 「仕事と介護の両立問題」 ~目からウロコの高齢者介護史~ 第5回 律令制度にも高齢者介護の規定が!? -古代・中世期の介護の実状とは- 古代・中世期にそもそも高齢者はいた!?  前回までは、もっぱら江戸時代の高齢者の介護状況について触れてきましたが、それ以前の時代はどうだったのでしょうか。一般的な時代区分でいえば江戸時代は近世とされますので、この場合、「古代・中世期における高齢者介護の実状とは?」という問いになります。今回は仕事と介護の両立というテーマから少し逸(そ)れる形にはなるものの、介護の歴史についての知見を広めていただくことを目的として、古代~中世のころの介護について取り上げたいと思います。  ところで、古代や中世というはるか昔の高齢者介護について考える場合、ひとつシンプルな問題意識が生じるのではないかと思います。それは「そんな大昔に、高齢者なんていたのか」という問いです。前回までは江戸時代の介護について取り上げましたが、人によっては「江戸時代でも、高齢になる前にみんな若くして亡くなったのでは」と思っていたかもしれませんね。  江戸時代の場合、当時の平均寿命については、藩(はん)単位で作成されていた宗門人別改帳(しゅうもんにんべつあらためちょう)などを通して地域単位での把握が可能なケースがあります。その場合、各地域の傾向ではおおむね30代後半が平均寿命になるようです。ただ当時は乳幼児の死亡率が高いため、0歳時点での平均余命である平均寿命は低い数値となるものの、例えば重病にかからず、無事に10歳以上まで生き延びることができれば、そのまま50代、60代まで生きられる可能性が一気に高くなる面がありました。  こうした状況は、江戸時代より前の時代においても大いに当てはまると考えられます。中世後期、領主層による年貢(ねんぐ)・軍役(ぐんえき)・課役(かえき)に反発すべく、庶民は村単位で一揆(いっき)、逃散(ちょうさん)(田畑を捨てて他国に行くこと)をする取り決めをしていましたが、その参加年齢を60歳以下と定める史料が残されています。これらには現役世代が参加するものと考えれば、60歳が高齢世代との境目になるような感覚が当時の人にはあったのかもしれません。それよりさらに時代をさかのぼると、朝廷の高官職員録の『公卿補任(くぎょうぶにん)』によると、平安時代の貴族・公卿のなかには60代以上まで生きた人が多数おり、90歳まで生きた人もいるとの記録が残っています。さらに古い時代だと、律令(りつりょう)制度では61歳~65歳を「老」として、税制面での優遇が図られていました。こうした史料を見ると、60歳まで生きられた人が古くから相当数いたような印象も受けます。  その一方で、平安貴族の間で行われていた長寿を祝う「参賀」の儀式では、40歳以上から敬老の対象となっていました。こうした40代から高齢世代かと思わせる史料もあることから、江戸期よりもやや早い段階から高齢者とみなす感覚があったのでは……とも想像できます。いずれにせよ、以上のことをふまえると、「古代、中世期なんて高齢になる前に死んでしまうから、介護の心配なんてしなくてよい」というわけでもなさそうです。もちろん現代ほどではないでしょうけど、当時の感覚での「高齢世代」まで生きた人は相当数いて、病気・けがにより子どもが世話をする状況もそれなりに多く見られたのではないでしょうか。 古代・中世期の介護事情とは?  江戸時代よりも古い時代においては、日記のように個人的に書かれた文章による介護の記録はきわめて乏しいのが実情です。ただ、高齢者の介護に関連する当時の伝聞・噂話を基にした物語・説話集などが残っています。介護をしていた本人が直接記したものではないのですが、当時の介護事情を推(お)し量(はか)るうえでとても有用な情報源です。  それから看病断(かんびょうことわり)のように、介護に関連する公的な制度もありました。それも日本の法制度としては最古ともいえる律令制度においてです。  701(大宝(たいほう)元)年に大宝律令が制定され、その後、改良版である養老(ようろう)律令が757(天平宝字(てんぴょうほうじ)元)年に制定されました。この養老律令の「令」の八番目にあたる「戸令(こりょう)」において、80歳以上の者に「侍(じ)(給仕する人)」を1人、90歳以上だと2人、100歳だと5人給付するとの定めがあります。ここでいう「侍」は世話をする人であり、子孫を優先的にあてがうとし、近親者がいない場合のみ親族ではない男性(白丁(はくてい)、次丁(じてい))を充てると規定されています。  つまり、80歳以上の高齢者には生活を支えるヘルパーを付けるべしとの規定が、律令のなかにあるわけです。もっとも、80歳以上まで生きられた人はめったにいなかったとは思いますが……。  また、平安時代後期に編纂(へんさん)された説話集の『今昔(こんじゃく)物語集』には、介護を扱った説話が含まれています。例えば巻三十一「尾張守於鳥部野出人語(をはりのかみとりべのにひとをいだすこと)」という物語は、家族である女性と同居していた「尾張守」が、年をとって体が弱ったからとの理由で、世話をせずにその女性を家から追い出したという内容です。女性は行き場をなくし、自ら墓場に行って死を待つという衝撃的な最期を迎えるのですが、この出来事に対して当時の人々が「どうして世話をしなかったのか」と尾張守を非難した、という記述で物語は終わっています。この物語の終わり方からは、当時の人々の一般的な感覚として、高齢の者は家族が介護すべきなのだ、という考え方を持っていたことを想像させてくれます。  さらに同じく『今昔物語集』の巻二十七「猟師母(れふしのはは)、成鬼擬噉子語(おにとなりてこをくらはむとすること)」では、認知症になったと思われる病気の母が子の兄弟を襲い、兄の髪をつかんだ母の手を弟が鬼かと思って弓で射た、という物語が記されています。この物語のなかには「人の親でひどく年老いた者は必ず鬼になってわが子を食おうとするものである」とあり、子の顔も判別できなくなって乱暴までするような認知症の症状のことを「鬼」と当時は呼んでいたのではないか……と思わせる記述もあります。またこの兄弟は母の部屋を挟むようにして自室を配置していたことから、普段から徘徊(はいかい)などしないように見守りをしていたのでは……との想像もできます。  ここで取り上げた以外にも、江戸時代よりも古い時代の高齢者介護に触れている史料は数多くあります。高齢者・老親の介護をどうするかの問題は、いまに始まったことではなく、それこそ古代から続く日本人に深く根差したものともいえるわけです。 【参考資料】 ・﨑井将之 著『武士の介護休暇―日本は老いと介護にどう向き合ってきたか―』(河出書房新社)2024年 【P36-39】 高齢者の職場探訪 北から、南から 第170回 和歌山県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 適切な人員配置とIT化、助けあう社風で、すべての従業員が活き活きと働ける職場 企業プロフィール 株式会社あおぞらケアセンター(和歌山県和歌山市) ▲創業 2001(平成13)年 ▲業種 高齢者福祉・介護事業(有料老人ホーム、グループホーム などを運営) ▲従業員数 160人 (60歳以上男女内訳) 男性(1人)、女性(74人) (年齢内訳) 60~64歳 18人(11.3%) 65~69歳 15人(9.4%) 70歳以上 42人(26.3%) ▲定年・継続雇用制度 定年66歳。基準該当者全員を年齢の上限なく継続雇用。最高年齢者は78歳  和歌山県は、紀伊(きい)半島の南西部に位置し、海、山、川の自然環境に恵まれた地域です。世界遺産「紀伊山地の霊場(れいじょう)と参詣道(さんけいみち)」に代表される観光資源も豊富に有し、数々の歴史名所や温泉などに世界各地から多くの人々が訪れています。  産業では、全国有数の果樹の産地として知られ、みかんや梅、柿、桃など多彩な果物が生産されています。また、マグロや太刀魚などの豊富な水産物を活かした食品加工業も盛んです。製造業は、おもに鉄鋼や化学工業が発達しています。さらに、長い歴史のなかで継承されている紀州漆器、紀州箪笥(たんす)、紀州へら竿などの伝統工芸品も息づいています。  JEED和歌山支部高齢・障害者業務課の小谷(こたに)恵介(けいすけ)課長は同支部の取組みについて、「県内の高齢化率は全国平均と比べて非常に高く、高齢社員を戦力としている事業所が多いといえます。比較的小規模の事業所が多いため、運用によって高齢者を雇用している事業所も多く、相談援助業務においては、実際に高齢者を雇用していくうえでの具体的な助言が求められます。そのためプランナーは、事業所訪問活動を通じて、各事業所と信頼関係を構築しながら実情に即した解決方法の提案を心がけています」と話します。  濱田(はまだ)智司(さとし)プランナーは、同支部で活躍するプランナーの一人です。社会保険労務士、中小企業診断士などの資格を持ち、深い知見と経験を活かし、事業所訪問を通じて各企業の高齢者雇用の課題などを聞き、その整理や解決、制度改革などにつながる支援を続けています。  今回は濱田プランナーの案内で「株式会社あおぞらケアセンター」を訪れました。 介護サービスに注力して25年  株式会社あおぞらケアセンターは、和歌山市を中心に有料老人ホームやグループホーム、デイサービスなど、おもに高齢者介護サービスを提供する民間企業です。  2001(平成13)年に現在の藤田(ふじた)元人(もとひと)代表取締役が有限会社あおぞらヘルパーステーションを設立したことが出発点となり、2006年に株式会社あおぞらケアセンターに商号変更。現在では、住宅型有料老人ホーム「あすか苑」、介護付有料老人ホーム「第2あすか苑」、グループホーム「あおぞら」など、多数の施設を展開しています。  従業員数は160人。平均年齢は53歳。全従業員に占める60歳以上の割合が46.9%、70歳以上が26.3%と高齢従業員が多いことが特徴です。また、障害者、外国人材、子育て世代といった多様な人材を採用しており、そのなかで、従業員同士が助けあい、支えあう社風が育まれ、有給休暇の取得率はほぼ100%。働きやすく、休みが取りやすい職場環境を実現しています。  藤田社長は、同社の方針について次のように語ります。「『お一人おひとりを大切に。笑顔と真心でお手伝い』をモットーに掲げています。利用者さまだけでなく、従業員も大切にするという思いをこめたもので、従業員については、年齢や障害の有無などではなく一人ひとりの適性、個性に合わせた配置を行い、それぞれのよさを伸ばして成長をうながすことを大切にしています」と同社の方針を語ります。  日々の現場では、ときにはスタッフが心を痛めるようなことも起こりますが、すぐに相談できる職場づくりに管理者が努めており、「まずは聞いて受けとめることを実践しています」と管理者の久喜(きゅうき)美幸(みゆき)主任は話します。管理者同士の連携も大切にし、よいことも悩みも共有して、必要に応じて藤田(ふじた)眞佐子(まさこ)専務取締役が管理者の相談にのり、スタッフが笑顔で仕事に臨めるように気を配っています。藤田専務は、「この10年ほどで施設を超えて支えあう関係も築かれ、全体で『チームあおぞら』といえるような組織になったと感じています」と明るい表情で語ります。  定年は66歳。基準該当者全員を年齢の上限なく継続雇用をしており、70歳以降は月20時間の勤務を基本に、希望により柔軟に対応しています。  柔軟な働き方や休みが取りやすい職場になった背景には、4年前に進めた勤怠管理や介護記録などのIT化、適切な人員配置といった取組みがあります。IT化は、だれもが無理なく扱えてリーズナブルなシステムを導入し、従業員間でサポートして全員が使えるようになりました。  人員配置について、藤田社長は次のように話します。  「施設の業務は曜日によって多少異なり、必要な人数も変わります。そこで曜日ごとの業務をすべて洗い出し、見直しをしながら必要な人員と時間を割り出し、1日につき1人の余剰人員が出るように配置しました。そうすることで急な休みにも対応できますし、従業員が活き活きと働く職場づくりにつながります。それでも不足したときは、施設間で助けあうようになり、その結果、長く働いている従業員が多い職場になりました」 プランナーの提案を参考にして  濱田プランナーは、2013年度に同社を初訪問し、2017年度と2022(令和4)年度にも訪れています。  「印象的だったのは、社長と専務のご夫婦が、年齢や障害の有無にかかわりなくみなさんに対して真摯に接しており、『できないことがあっても笑って許せる社風にしたい』と、従業員同士の助けあいを醸成する努力をされていたことです。高齢従業員にはずっと働いてもらいたいとのお考えを聞き、2013年度には継続雇用の上限年齢の引上げと助成金の活用、その後は70歳以上の従業員の働き方などについて提案をしました」(濱田プランナー)  これらの提案について、「大いに参考になり、2017年に定年を66歳に引き上げた際には助成金を活用することができました。働き方やモチベーション向上などのアイデアもいただき参考になっています」と藤田専務はふり返ります。  今回は、50代、60代で入社し、介護施設の大事な役割をになって70代のいまも元気に働いている 三人の方にお話をうかがいました。 働きやすい職場で楽しく元気に活躍  玉置(たまき)美代子(みよこ)さん(72歳)は、54歳のときに入社して18年。介護は未経験でしたが、職業訓練機関で「介護職員初任者研修」を受講して介護職に就きました。現在は1日3~4時間、週4日勤務で、住宅型有料老人ホーム「あすか苑」(入居定員30人)で入浴介助、配膳、トイレ介助などの業務を担当しています。働き方や担当業務は、1年ごとに主任と相談しながら決めているそうです。  「あすか苑」で暮らす利用者の方には、90歳を超えて元気な方も多く、100歳を超えた方もいらっしゃるそうで、「利用者さまとお話しすることが楽しいですし、職場は主任やトップの方々がいろいろと気をつかってくださる、働きやすい環境です。これからもがんばっていきたいと思います」と玉置さん。大きな炊飯器を台車で運ぶなど、昼食の準備がはじまって少し忙しそうに見えましたが、利用者の方が立ち上がって移動する様子に気を配り、さりげなく声をかけて寄り添い、歩行を見守っている姿が印象的でした。  中前(なかまえ)きみよさん(73歳)は、58歳のときに入社して勤続15年。玉置さんと同じように、職業訓練機関で「介護職員初任者研修」を受講して、介護職に就きました。現在は「あすか苑」で入浴介助、食事介助、シーツ交換や衣類の整理などをする環境整備をにない、1日4時間、週4日勤務しています。  「利用者の方々が、けがなどをされないように、安全面にもっとも気をつけています」と中前さん。取材当日は気温が高かったため、熱中症に気をつけて、タイミングをみては利用者の方々の水分補給にも努めていました。  「毎日人生の先輩方に接し、まだ学ぶことが多いなあと感じます。この仕事は奥が深いです。主任がやさしくて何でも相談しやすい環境ですし、有給休暇も取りやすい職場です。これからもここで元気にがんばっていきたいです」とにこやかな表情で話された中前さんです。  「あすか苑」の久喜主任は、玉置さんと中前さんの働きぶりを「利用者さまと信頼関係を築いていて、お一人おひとりのことをよくわかって接しているので、管理者としてとても助かっています。短時間勤務でも毎日の業務に責任を持って取り組まれています。健康に気をつけながら経験を活かし、できるかぎり勤務を続けていただきたいです」と話してくれました。  「あすか苑」に勤めて8年になる佐良家(さらいえ)佳代(かよ)さん(76歳)は、利用者の衣類などの洗濯を担当し、9時から13時まで1日4時間、週4日勤務を続けています。  心がけているのは、「利用者さまのお洗濯物をよりきれいにしてお渡しすることです。臭いなども、試行錯誤の末、取り除いた状態に仕上げられるようになりました」と話す佐良家さん。4時間という短時間でもスムーズに仕事が運べるように細かいところにも気を配り、「きれいに洗いあげられたときは、幸せな気持ちになります。よかったことは、足腰が丈夫になったことです」とはつらつとした表情で話してくれました。  副主任の竹田(たけだ)佐枝(さえ)さんは佐良家さんの働きぶりについて、「暑い日も寒い日も元気に意欲的に業務に取り組まれ、一枚一枚に気を配り洗濯をしています。ほかの職員との関係も良好で、施設運営を支える重要な役割をになって活躍されています。ここでの洗濯物は便や血液が付着していることがあり、洗浄はたいへんですが、洗剤選びや洗い方を工夫され、教えてもらったこともあります。いつも『私に任せて』と笑顔で引き受けてくれるので、助けられています」と話してくれました。  藤田社長は最後に、同社のこれからについて次のように語りました。「ロボットなどの最新のテクノロジーにも目を向けながら、利用者のみなさまとそのご家族、そして従業員にとってよりよい施設や職場となるように励み、そのなかで高齢従業員が引き続き明るく楽しく働き続けて、経験と力を当社の業務に発揮してくださることを期待しています」(取材・増山美智子) 濱田智司 プランナー アドバイザー・プランナー歴:21年 [濱田プランナーから] 「プランナー活動では、訪問先の事業所に役立つ情報などをお渡しすることが重要とつねに考えて活動しています。制度改善提案については、おもに高齢社員のモチベーションアップの方策等について力をかけて提案しています。働き方改革で生産性の向上が叫ばれているなか、高齢者雇用においてはその視点での提案も重要となります」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆和歌山支部高齢・障害者業務課の小谷課長は、濱田プランナーについて「社会保険労務士、中小企業診断士としての経験を活かした人事労務管理・賃金管理や高齢社員のモチベーション管理を得意分野とし、親しみやすい人柄とていねいな相談助言、的確な提案は、事業所から非常に好評です。プランナーを対象とする研修の講師も担当し、当支部のプランナーからも高い信頼を寄せられています」と紹介します。 ◆和歌山支部高齢・障害者業務課は、和歌山市内中心部から車で約 20分、JR阪和線「六十谷(むそた)」駅から徒歩約30分の「ポリテクセンター和歌山」内にあります。 ◆和歌山県では、6人の70歳雇用推進プランナーが活動し、2025年度は110件の相談・助言訪問と50 件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●和歌山支部高齢・障害者業務課 住所:和歌山県和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター(ポリテクセンター和歌山)内 電話:073-462-6900 地図文字 和歌山県和歌山市 写真のキャプション あおぞらケアセンター本社社屋(写真左)と運営している住宅型有料老人ホーム「あすか苑」(写真右奥) 左から、久喜美幸主任(介護福祉士)、藤田元人代表取締役、藤田眞佐子専務取締役 住宅型有料老人ホーム「あすか苑」で、昼食の準備をする玉置美代子さん。利用者の移動などにも目を配り、そっと寄り添っていた 「あすか苑」の利用者のためにお茶を用意する中前きみよさん。熱中症を防ぐために、夏場は利用者の水分補給にも気を配っている 利用者の衣類などの洗濯を担当し、手際よく干す佐良家佳代さん。佐良家さんが干すと「取り込みやすい」と職場では評判だ 【P40-41】 第120回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  横山達巳(67歳)さんは、上下水道工事の設計をになう技術者として、技術畑一筋に歩んできた。現在も、高齢者雇用を積極的に推進する会社の第一線で働き、後進の指導にも注力する。技術の継承を視野に置く横山さんが、生涯現役で働くためのヒントを語る。 株式会社NJS(エヌジェーエス) プロジェクトエンジニア 横山(よこやま)達巳(たつみ)さん 技術屋のDNAを受け継いで  私は、東京の下町・深川(ふかがわ)の生まれです。中学校までは都内で過ごし、その後、父の転勤で千葉県に移りました。父は日本国有鉄道(略称:国鉄、現在のJR)の職員で、蒸気機関車の機関士でした。子どものころ、父の仕事を見たことがありますが、休む間もなく釜に石炭をくべる重労働に驚かされました。父と同じような機関士になろうとは考えませんでしたが、技術の世界を歩き続けてきた私のなかには、機関士だった父のDNAが受け継がれているようです。  千葉県内の高校を卒業後、私は県内の大学に進学して土木工学を専攻しました。土木工学を選んだのは、建設現場で働きたいという思いがあったからです。大学卒業後、コンサルタント会社に入社し、下水道施設の設計に従事しました。以来、ずっとその道を歩いてきました。会社は変わっても仕事は同じ、この道一筋というと格好いいですが、じつはそれしかできないというのが本当のところです。  設計という仕事の具体的な内容は、下水道施設の計画から現場での測量、図面作成作業までです。測量するときは自ら機材を運びますが、機材が結構重いのが難点です。最近は、若い人と同じ現場に出ることもあり、楽しく働かせてもらっています。  横山さんの名刺には「技術士」という記載がある。上下水道の設計・維持管理の国家資格で、インフラのなかでも責任が重いとされる上下水道の技術士資格は、難関といわれる。「ずいぶん前にとったので苦労は忘れました」と横山さんは屈託のない笑顔を見せる。 新しい出会いに背中を押されて  私の兄は、公務員として上下水道関係の仕事をしてきました。私にも公務員として働くという選択肢もありましたが、事務所内での仕事よりも、現場に出られる仕事のほうが好きなので、この道を選びました。労働条件を考えて、いくつか会社を変わりましたが、最後に勤めた会社で定年まで勤めるつもりでした。  そして、当社には、58歳のときに入社しました。それから、いつのまにか9年が経ちました。創業75年余の業界のパイオニア企業でもある当社に入社できたのも、技術士という国家資格と経験があったことに加えて、何かの縁があったからだと思います。そして、これまで自分が重ねてきた経験を活かしてみたいと思い、入社しました。  いま若い人に伝えたいことは、やはり資格取得は自分の将来設計に大いに役立つということです。上下水道の技術士は公共性や安全性を要求されることから合格率も厳しいですが、ぜひ挑戦してみてください。  株式会社NJSは75年前の創業時から社会発展の基盤として上下水道の整備に努め、現在は災害対応や、インフラの老朽化対策、人口減少への対応にも全社をあげて取り組んでいる。「やりがいがあります」と横山さん。 柔軟な勤務制度のもとで  じつは、当社は『エルダー』2025(令和7)年9月号に登場しています。「多様で柔軟な勤務制度を整備し、生涯現役で働ける職場づくり」という特集の企業事例として、当社の柔軟な働き方が紹介されたのです※。当社では、私が入社した2年後に、それまでの「60歳定年・65歳まで再雇用」という高齢者雇用の制度が、「70歳定年・70歳の定年後は年齢上限なく働くことが可能」となりました。この制度の改定の背景には、上下水道工事の業界全体が抱える、慢性的な人材不足があるようです。  定年制の改定とともに、働く人にとって自由度の高い働き方も注目されました。当社はフレックスタイム制をとっていますが、私は通勤ラッシュを避けるため朝7時半には出社しています。フレックスタイム制は、子どもの保育園の送迎などにも融通がききますので、高齢社員ばかりではなく、多くの社員から歓迎されています。  ただ、お客さまは週5日で仕事されているので、私も週5日のフルタイムで働いています。また、年度末などの繁忙期にはともに働く若い人たちのことを考えながら働き方を調整しています。  定年制の改定により、シニア社員の活躍の場が広がり、それはそのまま技術継承を着実に進める体制が整備されたことになる。横山さんは「若い世代の元気をいただきながら、一緒に仕事をしています」と、再び笑顔になった。 若い人の力になるために  いまは30代の人たちと一緒に仕事をする機会が増え、毎日楽しく働いています。現場の測量や調査が必要なときは、関東以外の地方などにも出かけていきます。みなさんも道路などで見かけたことがあると思いますが、三脚の上に置く測量機器はかなりの重量があり、最近はかなり身体がきつくなってきました。若い人に助けてもらいながら働いているというのが実感です。  それもあって、いまの若い人たちのトレンドが知りたくて、終業後の飲み会にはまめに参加しています。自分の子どもよりも若い世代とつきあっているおかげでしょうか、自分自身の若返りも図られているようです。飲み会の席などでは、仕事への向き合い方などを中心に話をしています。仕事というものはゴールというものがなかなか見えませんから、息切れしないようにペース配分の力を身に着けることが大切だと私は思います。ただひとつ気をつけていることは、「自分の若かったころは……」は禁句だと肝に銘じています。 生涯現役を目ざして  いま、私は67歳です。当社では、80代の先輩も元気に働いています。「私も生涯現役を目ざして働き続けます」というのが優等生的な答えなのでしょうが、私は少し違うことを考えています。  若い人と一緒に働くなかで、つねに彼らのことを優先して考えるようになりました。私の技術は惜しみなく継承していきますが、若い人が懸命に働いて得た成果の妨げになるようなことはしたくないのです。手を動かさずに、口だけ出すようになったら、私は潔くリタイアしようと思っています。もちろん、私自身がきちんと仕事で役に立てればよいだけのことですから、そのためにも健康には気をつけていきたいと思っています。例えば、これからはウォーキングをしようと考えています。設計屋としてのモットーは、お客さまが望んでいることを想像するということ。想像力を鍛えて、若い仲間とともにもう少しがんばってみましょうか。 ※同社の事例記事(本誌2025年9月号)は、JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202509/index.html#page=22 【P42-45】 AIと歩む人生100年時代 雇用系産学連携シンクタンクiU組織研究機構 代表理事/社会保険労務士・公認心理師/AIエージェント・ストラテジスト(AICX協会) 松井(まつい)勇策(ゆうさく)  生成AIの登場により、ビジネスシーンにおいてもAI利用が本格化し、今後の仕事や働き方に大きな変化をもたらすことが期待されます。一方で、少子高齢化が進むわが国においては、シニア人材の活用がますます重要な経営課題となっており、AIの活用により業務負荷の軽減やスキルの補完などが実現できれば、これまでとは異なる形でシニア人材の価値が発揮されるといった変化も期待できます。本企画では、AIが職場や仕事、働き方に与える影響とともに、AI社会だからこそ高まるシニア人材の価値やその活用戦略について展望します。 第3回 AIでシニア活躍に関する人事の仕事はどう変わり、どんな広大な可能性が広がるのか はじめに  定年延長や継続雇用が広がり、長い経験を積んだ社員にどう活躍してもらうかが、人事の中心的な課題になっています。そこへAIが急速に入ってきました。多くの方はまず「仕事が奪われるのではないか」と身構えます。人事の仕事も例外ではありません。  けれども、人事の現場で起きている変化の本質は、「仕事が奪われる」ことではなく、「役割が移る」ことにあります。そしてこの変化は、高齢期の社員の活躍を支えるという課題と、想像以上に深いところでつながっています。  本稿では、シニアの活躍支援、人事の仕事、そしてAIという三つの点に焦点をしぼり、その関係を整理します。そのうえで、経営者や人事担当の方が明日から試せる、身近でわかりやすい使い方をご紹介します。特別なシステムの導入は前提としません。手元の生成AIに話しかけるところから始められることばかりです。取り上げるのは、シニア人材の力を、あくまで自社のなかでどう活かすか、という視点です。  では、AIを使うことで、シニアの活躍支援において具体的に何が可能になるのでしょうか。本稿では、次の三つを取り上げます(43ページ図表1)。 ①本人が、自分の経験を棚卸しし、強みを言葉にできるようになる ②学び直しの入口が下がり、「いまさら聞けない」を越えられるようになる ③人事が、面談で聞いた内容を整理・構造化し、組織の課題としてとらえられるようになる 人事の仕事は、いま何から変わりつつあるか  これまでAIの活用といえば、給与計算の自動化や、規程・書類の作成の効率化など、作業を速く正確にこなす場面が中心でした。近年はここから一歩進み、主要な労務システムにAIが組み込まれ、手続き的な業務の多くが自動化されつつあります。採用では応募書類の要点整理や質問案づくりを補助し、これまで紙や個人の記憶に眠っていた社員の経験・資格・異動歴を、検索できる形に整えることもできます。  この流れが進むと、人事に残る仕事の性質が変わります。処理のスピードや正確さで価値を出す部分はAIが引き受け、人の側には「判断」と「支援」が残ります。どの人材にどんな力があり、それをどこで活かせるのか。制度と現場の実態がどこでずれているのか。こうした、文脈を読み、人と向き合う仕事は、AIには置き換えにくい領域です(図表2)。  いい換えれば、人事の役割は「処理する人」から「見極めて、活かす人」へと移っていきます。そしてこの「見極めて、活かす」という役割こそ、高齢期の社員の活躍を支えるうえで、いまもっとも必要とされているものです。 キャリア形成をAIで支援する ―調べる・棚卸しする・可能性を広げる  では具体的な使い方に入ります。最初は、社員一人ひとりのキャリア形成を、AIで支援する方法です。むずかしい設定は要りません。会話するようにAIに話しかけるだけで始められます(図表3)。  第一に、「知らないことを、その場で調べる」使い方です。人生100年時代の学び直しは、多くの人にとって「いまさら聞けない」という心理的なハードルから始まります。新しい制度、聞き慣れない専門用語、若い世代が使う道具。こうしたわからないことを、恥ずかしさなくその場でたずねられることは、学び直しの入口を大きく下げます。人事の側は、「まずAIに聞いてみましょう」と一声かけるだけで、その第一歩を後押しできます。AIにあまりアクセスしていない方も含めて、ここがまず第一歩だと思います(44ページ事例A)。  第二に、「これまでの経験を棚卸しし、整理する」使い方です。になってきた仕事をAIに順に話し、「この経験から、どんな強みがあるといえそうか」、「ほかの場面にも活かせる力は何か」と対話しながら整理していきます。AIは聞き役として、本人が気づいていなかった強みを言葉にする手助けをします(事例B)。  第三に、「まだ見ぬ可能性を広げる」使い方です。整理した経験をもとに、「この強みは、社内のどんな役割で活かせそうか」と問いかけます。自分一人では思いつかなかった、次の活き方の候補が広がります。ここで大切なのは、あくまで自社のなかで次にどう活きるかに着地させることです。つちかった力を、同じ組織の別の場面で活かす道筋を、本人と一緒に描いていく。人事はその伴走者になります。 事例A スーパー(小売業・社員200名) 課題:60代パートがレジ更新についていけず、離職が心配されていた。 取組み:「わからないことはまずAIに聞く」を習慣化し、手順を自分の言葉でメモ化。 成果:操作に習熟し、いまは新人パートの相談役もになっている。 事例B 金属加工(製造業・社員80名) 課題:再雇用の熟練工が「任される仕事が減った」と意欲を落としていた。 取組み:本人の経験をAIとの対話で棚卸しし、段取り改善と後進指導の強みを言語化。 成果:本人が改善提案役を志願し、現場の段取り時間の短縮につながった。 実際に支援した実例(個社特定を避けるため、中核は変えずに情報を変えている部分があります) 面談・ヒアリングをAIで整理する  シニア社員の経験を戦力に変えるうえで、もっとも大切な入口が「面談」です。役割や立場が変わっていくなかで、本人が何を望み、どんな力を活かしたいのかは、ていねいに聞かなければわかりません。ところが、聞いた内容を整理し、意味づけする作業には大きな手間がかかります。ここにAIが役立ちます(45ページ図表4)。  進め方はシンプルです。面談の音声を録音し、AIで文字起こしをします。近年のツールは話者を分けて記録し、要約まで自動で作成します。1時間の面談を手作業で書き起こせば数時間かかるところが、大幅に短縮されます。そのうえで、「この人の強み」、「困っていること」、「活かせそうな場」といった観点で整理させれば、面談内容が構造化され、次の役割設計の材料になります。こうした「聞いて、AIで整理し、次につなげる」手法は、すでに専門家向けの研修としても体系化され始めています。例えば社会保険労務士などに向けて、ヒアリング内容をAIで分析し、現場の課題解決につなげる手法を教える講座があります。相手の言葉をいい換えて深く聞く進め方や、集まった複数の声をAIで立場ごとに束ね直して共通する課題を抽出する分析法などが扱われています。  この手法は、シニア社員の面談にそのまま応用できます。例えば継続雇用のベテラン社員に話を聞くと、「これまでの経験を活かせる場が減った気がする」、「若手にどう技術を伝えればよいかわからない」といった声が出てくることがあります。こうした声を一人分の感想として流すのではなく、AIで複数の面談を横断して整理すると、「経験を活かす場が制度として用意されていない」、「技能を受け継ぐ仕組みが個人任せになっている」といった、組織としての課題が浮かび上がります。面談が、個人の相談から、組織を動かす材料へと変わるのです(44ページ事例C・D)。 事例C 建設業(社員60名) 課題:シニア社員との面談記録が担当者の個人メモ止まりで、共有も引き継ぎもできなかった。 取組み:面談を録音してAIで要約・論点整理し、強み・希望・活かせる場を一覧化。 成果:配置転換の検討資料として使え、担当が代わっても引き継げる形になった。 事例D 介護施設(職員120名) 課題:多数のシニア職員の要望が個別対応にとどまり、全体像がつかめなかった。 取組み:複数の面談をAIで横断整理し、立場ごとに束ねて共通点を抽出。 成果:「役割の曖昧さ」という共通課題が見え、職務分担の見直しにつながった。 実際に支援した実例(個社特定を避けるため、中核は変えずに情報を変えている部分があります) 活用にあたっての留意点  一つは、世代によってAIの使い慣れに差があることです。AIを配っただけでは活用は進みません。人事が使い方の入口を用意し、寄り添う姿勢が欠かせません。  もう一つは、公平さの担保です。AIに評価や選別を委ねると、過去のデータに含まれる偏り、例えば年齢による思い込みが、そのまま結果に持ち込まれるおそれがあります。AIはあくまで判断材料をつくる道具であり、最終的な判断は人が責任を持つ。この線引きが重要です。また、面談の録音には本人の同意が欠かせません。何のために録り、どう扱い、どこまで共有するのか。あらかじめルールを定め、ていねいに説明したうえで進めることが求められます(図表5)。 おわりに  AIが人事の仕事を奪うのか。問いをそう立てる必要はないと思います。本当の問いは、人事がAIを使って、さらに多くの方が活躍でき、悩みを解決し、創造的に協働できるために何ができるのか。その可能性をAIは大きく広げてくれるものだと思います。  AIがあることで人事に広がるのは、貴重な一人ひとりの経験や個性と向き合い、その力が活きる場をつくる仕事です。それは、長い職業人生を歩んできたかけがえのない一人ひとりの人材が、これからも自社で活躍し続けるための土台をつくる仕事でもあります。AIは、その仕事を後押ししてくれる、大きな可能性があるのだと確信しています。 図表1 AI活用の本質と、シニアの活躍支援の本質は、どこでつながるのか AI活用の本質 散らばって形になっていない情報を、整理して見えるようにする 最大の難所 「見えない・言葉にならない」経験=ここにAIが効く シニアの活躍支援の本質 積み上げた経験を、社内の必要とされる場に結び直す AIで可能になること ①経験を棚卸しし強みを言葉に ②学び直しの入口が下がる ③面談を整理し組織の課題に 出典:筆者作成 図表2 人事の役割は「処理する人」から「見極めて、活かす人」へ 人 判断・支援=見極めて、活かす どの人材にどんな力があり、どこで活かせるか/制度と現場のずれを読む シニアの活躍支援は、この層 AI 定型処理 給与計算・勤怠管理・書類作成・問い合わせ一次対応 スピードと正確さで価値を出す部分を引き受ける 役割が移る 出典:筆者作成 図表3 経験を「自社の中での次の活き方」に変える3ステップ ①調べる 知らないことをその場でAIに聞く 学び直しの入口を下げる ②棚卸しする になってきた仕事を話し、強みを言葉にする 本人も気づかない強みを可視化 ③可能性を広げる その強みを社内のどの役割で活かせるか壁打ち 次の活き方の候補を広げる 着地点:会社の外ではなく、同じ組織の別の場面で、これまでの力を活かす 出典:筆者作成 図表4 面談の「個人の声」を、AIで「組織の課題」に変える 面談(録音) 本人にじっくり話してもらう 個人の声 文字起こし 話者を分け、要約まで自動 AIで整理 強み/困りごと/活かせる場に 構造化 束ねる 複数の面談を横断して整理 組織の材料へ 浮かび上がる「組織としての課題」 例:経験の活かせる場が制度として用意されていない/技能を受け継ぐ仕組みが個人任せになっている 出典:筆者作成 図表5 活用にあたっての三つの留意点 世代間のリテラシー差 配って終わりにせず、人事が使い方の入口を用意し寄り添う 公平さ(年齢バイアス) 過去データの偏りが結果に入り込む恐れ。評価をAIに丸投げしない 録音の同意 目的・扱い・共有範囲をあらかじめ決め、ていねいに説明してから録る AIは判断材料をつくる道具。最終的な判断は、人が責任を持つ 出典:筆者作成 【P46-49】 知っておきたい労働法Q&A  人事労務担当者にとって労務管理上、労働法の理解は重要です。一方、今後も労働法制は変化するうえ、ときには重要な判例も出されるため、日々情報収集することは欠かせません。本連載では、こうした法改正や重要判例の理解をはじめ、人事労務担当者に知ってもらいたい労働法などを、Q&A形式で解説します。 第99回 65歳以降の継続雇用制度と契約更新への合理的期待、事業場外みなし労働時間制の適用と事後的な労働時間管理 弁護士法人ALG&Associates 執行役員・弁護士 家永 勲 弁護士 髙木勝瑛 Q1 65歳以降の継続雇用制度について、雇用を継続するための基準を設けることに問題はないのでしょうか  当社では65歳を上限とする継続雇用制度を運用していますが、人材確保のため、65歳以降も一定の基準を満たす者を対象に、新たな有期雇用制度を設けることを検討しています。このような場合に基準を設けて対応することは許されるのでしょうか。 A  65歳以降の雇用継続については、一定の基準を設けて雇用継続に関する判断を行うことは可能です。ただし、雇用契約の連続性・共通性があることから、再雇用に合理的な期待が認められる場合には、雇用継続が必要となる場合があります。 1 65歳以降の高年齢者雇用をめぐる制度設計  高年齢者雇用安定法は、65歳までの雇用確保措置(定年の引上げ、継続雇用制度の導入、定年の廃止のいずれか)を事業主の義務とする一方、現時点では、65歳から70歳までについては、同様の措置に加え、業務委託契約などによる就業機会の確保(創業支援等措置)を含めて努力義務とするにとどめています(同法第9条、第10条の2)。  このため、65歳までの継続雇用制度は、原則として希望者全員を対象とする必要がありますが、65歳以降の雇用継続については、努力義務にとどまることもあり、企業が独自に対象者の基準を設け、当該基準を満たす者にかぎって新たな有期雇用制度の適用対象とすることも許容されています。  しかしながら、65歳までの雇用と65歳以降の雇用は、通常であれば労働契約期間として連続しており、さらに労働条件が維持されるといった共通性もあることから、両制度が実質的に一体のものと評価することも可能であり、65歳以降の雇用継続について更新拒絶(再雇用申込みの拒否)を行うような場合についても、労働契約法第19条が類推適用される可能性があるとされています。 2 裁判例の紹介  この点が問題となった裁判例として、大阪地裁令和8年3月19日判決(令和5年(ワ)第8675号)があります。  本件は、鉄道事業者である被告において、60歳の定年後に、継続雇用制度(被告では「シニア社員制度」と呼称され、65歳が更新上限とされていました)により65歳まで有期雇用契約を更新しながら通信設備の保守管理業務等に従事してきた原告が、被告が新たに導入した「グランドシニア社員制度」(65歳到達後、心身の健康状態やICT技術などの進展に対応できる能力や意欲、後輩を指導・育成できること、業務知識・経験の豊富さなどの基準(本件基準)を満たす者を対象に、最長5年間、1年ごとに有期雇用契約を更新する制度)への再雇用を申し込んだところ、被告から本件基準を満たさないとして再雇用を拒否された事案です。原告は、労働契約法第19条2号の直接適用または類推適用により、被告との間に労働契約上の地位があることの確認などを求めて提訴しました。  裁判所は、まず、グランドシニア社員制度は、65歳を更新上限としていた継続雇用制度(シニア社員制度)とは別個の制度であり、既存の有期労働契約を更新するのではなく、新たに再雇用する制度であることを理由に、同号の直接適用はないと判断しました。もっとも、両制度は労働契約期間が連続し、労働条件も共通していることから、新制度による再雇用契約の締結に対する合理的期待がある場合には、同号が適用される場面と利益状況が共通しているとして、類推適用の余地を認めています。  そのうえで、本件基準の該当性について、被告が制度導入時に基準を明確に定めており、労働組合を通じて広く周知し、対象者には個別に冊子を配付していたこと、グランドシニア社員の応募者に対する適用者の割合は約67.8%程度であり、抽象的な基準の該当性判断については使用者である被告が一定の裁量を有することが前提とされていたこと、原告の従前の実績などに照らすと、本件基準(業務知識・経験の豊富さなど)を満たすことが明らかとまでは認められないこと、高年齢者雇用安定法における65歳以降の雇用継続については努力義務にとどまっていることなどから、原告がグランドシニア社員制度により再雇用されると期待することについて合理的な理由があるとは認められないと判断し、原告の請求をいずれも棄却しました。  なお、原告の業務知識や意欲などに関連して、過去に経験してきた業務の内容・種類やそれに必要であった技術、被告が毎月開催していた社内勉強会への参加がなかったこと、社内資格を取得したこともなかったことなどが考慮されています。 3 実務上の留意点  本裁判例は、65歳までの継続雇用制度とは別個の新制度を設けた場合であっても、労働条件の連続性・共通性によって、労働契約法第19条2号の類推適用を受ける可能性があることを示した点で、65歳を超えた労働者の雇用に関する制度設計にあたり参考になります。  実務上は、新制度を旧制度と区別する趣旨を明確にし、対象者の基準をできるかぎり具体的かつ客観的に定めて、対象者に周知しておくことが紛争回避の観点からは重要でしょう。  基準が抽象的にとどまる場合、その該当性判断に使用者の裁量が広く認められる一方で、恣意的な運用がなされたと評価されるリスクも生じるため、基準の該当性を裏づける資料(人事考課、業務実績、指導記録など)を整備し、判断過程を説明できるようにしておかなければなりません。本件では、原告自身の過去の業務経験や知識や意欲の有無などが個別具体的に検討された結果、基準を充足するとはいえないと判断されていますが、65歳以降も再雇用された労働者と比較されても不採用と判断した合理的な理由を説明可能であるかを検証しておく必要もあります。  また、高年齢者雇用安定法上の65歳以降の就業確保措置はなお努力義務にとどまるとはいえ、対象者を限定する制度を導入する場合には、将来的な法改正の動向も注視しつつ、基準の設定・運用が労働契約法第19条の類推適用を受けた場合でも耐え得るものとなっているか、あらかじめ確認しておくことが望ましいといえます。 Q2 「事業場外みなし労働時間制」の対象者に、日報などで労働時間を事後報告させる場合は、その適用外となるのでしょうか  当社では、外回り営業を担当する従業員に対し、「事業場外みなし労働時間制」を適用しています。日中のスケジュール管理は本人に委ねており、直行直帰も認めています。業務中の随時の報告や指示は特に行っていませんが、業務管理の観点から、毎月末に業務日報を提出させ、1日ごとの始業・終業時刻、休憩時間、訪問先、面談内容などを記載させています。先日、退職した元社員から「会社は業務日報で毎日の労働時間を把握できていたはずだ。したがって、事業場外みなし労働時間制の適用は無効である」として、多額の未払い残業代を請求されました。事後的に業務日報を提出させていると、みなし労働時間制は適用できなくなってしまうのでしょうか。 A  事後的に業務日報を提出させているという事実のみをもって、ただちに事業場外みなし労働時間制の適用が否定されるわけではありません。重要なのは、その業務日報の記載内容の客観的な正確性が担保されており、会社が実際の労働時間を具体的に把握することが可能であったといえるかどうかです。判例の傾向からすれば、業務日報の記載内容が単なる自己申告に過ぎず、客観的な裏づけを行うことが困難な場合は、依然として事業場外みなし労働時間制の適用が認められる(労働時間の算定が困難であると判断される)可能性があるといえます。 1 事業場外みなし労働時間制とは  労働基準法第38条の2第1項は、労働者が事業場外で業務に従事した場合において、「労働時間を算定し難いとき」には、原則として所定労働時間労働したものとみなす「事業場外みなし労働時間制(以下、「みなし制」)」を定めています。労働時間の算定は、実際の労働時間に基づき1分単位で計算されるのが大原則です。みなし制はその例外規定であるため、適用されるか否かは厳格に判断されます。具体的には、「業務の性質、内容やその遂行の態様、状況等、業務に関する指示及び報告の方法、内容やその実施の態様、状況等」を総合的に考慮し、使用者が労働者の勤務状況を具体的に把握することが客観的に困難であったかどうかという観点から審査されます。  近年は、スマートフォンや各種のクラウドツールなどの通信技術が発達しているため、使用者が労働者と連絡を取ろうと思えばいつでも取れる環境にあります。そのため、携帯電話を貸与しているだけで「労働時間は算定可能」とみなされるのか、また、本件のように事後的な業務報告(日報など)を求めている事実がどう評価されるのかが、実務上大きな争点となっています。 2 裁判例の紹介(協同組合グローブ事件)  みなし制の適用可否、特に、事後的な業務日報の存在とその正確性が争点となった近時の判例(最高裁令和6年4月16日判決、福岡高裁令和7年8月28日判決)を紹介します。 (1)事案の背景  本件は、外国人技能実習生の監理団体に所属する指導員(キャリア職員)が、会社(協同組合)に対し未払い残業代などを請求した事案です。指導員は、担当する実習実施者に対する月2回以上の訪問指導のほか、実習生の送迎や生活指導、急なトラブル対応(通訳など)など、多岐にわたる事業場外での業務におもに従事していました。訪問のスケジュール管理は本人の裁量に委ねられ、直行直帰も許されており、業務中の随時の指示や報告は行われていませんでした。しかし会社は、月末に、就業日ごとの始業・終業時刻、休憩時間、訪問先や業務内容を記載した「キャリア業務日報」の提出を義務づけていました。また、会社は一部の残業について、この日報を基に残業時間を算出して残業手当を支払うこともありました。 (2)下級審(第一審・控訴審)の判断  第一審および控訴審は、会社は業務日報を通じて業務遂行状況の報告を受けており、疑問があれば実習実施者などに問い合わせて確認することも可能であったこと、さらには会社自身が日報を前提に残業代を支払っていた事実を重視しました。その結果、「業務日報にはある程度の正確性が担保されており、労働時間の把握は可能であった」として、みなし制の適用を否定しました。 (3)最高裁の判断(令和6年4月16日判決)  しかし、最高裁は原審のこの判断を覆しました。最高裁は、業務が多岐にわたり、本人の裁量でスケジュール管理や直行直帰が行われ、随時の指示・報告もなかった実態に照らせば、「勤務状況の具体的な把握が容易であったとは直ちに言いがたい」と指摘しました。そのうえで、①業務日報の内容を実習実施者などに確認するという方法は一般論に過ぎず、現実的な可能性や実効性が明らかではない、②会社が日報に基づき一定の場合に残業代を支払っていた事実のみをもって、業務日報の正確性が客観的に担保されていたとは評価できない、と判示しました。そして、業務日報の正確性を担保する具体的な事情を十分検討せずに、日報による報告のみを重視してみなし制を否定した原審の判断は違法であるとして、事件を高裁に差し戻しました。 (4)差戻審の判断(福岡高裁令和7年8月28日判決)  差し戻し後の福岡高裁は、最高裁の指摘をふまえ、多岐にわたる訪問先が指導員の訪問日時を子細に記録・保管しているとは通常うかがわれず、実習実施者などへの確認による正確性担保の実効性は乏しいと認定しました。また、日報に訂正などのチェックが入っていた事実についても、単なる誤記修正に過ぎず、客観的資料に基づくものではないと指摘しました。結論として、業務日報はあくまで「自己申告」の意味合いに留まり、全体の正確性が客観的に担保されていたとはいえないと判断したうえで会社が労働者の労働時間を具体的に把握することは困難であったとして、「労働時間を算定し難いとき」にあたると認定し、みなし制の適用を有効と認めました。 3 実務上の留意点と今後の対応策  本件のように、事後的な自己申告による業務日報であり、記載内容の真偽を客観的に裏づける手段がない、あるいは裏づけ確認を行う現実的・実効的な方法に乏しい場合には、「労働時間を算定し難い」と評価される可能性が高くなります。逆にいえば、会社支給のスマートフォンのGPS機能を用いたリアルタイムな打刻システムを導入し、訪問履歴と時間を分単位で厳格に管理しているようなケースでは、日報の正確性が客観的に担保されているとみなされ、みなし制の適用はきわめて困難になるでしょう。  また、本件では、労働者自らがスケジュールを管理し、直行直帰が自由で、随時の指示・報告がなかったことが前提となっています。制度上みなし制を採用していても、実際には上司がその日の行動予定を分単位で指定し、訪問が終わるごとに連絡ツールなどで細かく報告させ、次の行動を指示しているような実態があれば、使用者の具体的な指揮監督が及んでいるとして、適用は否定されることになります。  自社でみなし制を採用している場合には、一度、制度や運用が適切なものになっているか否か確認されることをおすすめします。 【P50-51】 サステナビリティを高めるシニア人材活用戦略 第4回 シニア人材による若手育成が投資になる 株式会社日本総合研究所 石山(いしやま)大志(たいし)/宮下(みやした)太陽(たいよう)  不確実性が高まる現代において、企業が持続的に成長し続けるためには、サステナビリティ(持続可能性)の視点が不可欠です。とりわけ、人材を「資本」としてとらえ、その価値を最大限に引き出す人的資本経営の重要性が高まっています。そのなかでもシニア人材をはじめとする多様な人材の活用は、経験・知見の継承や組織のレジリエンス向上の観点からも、これからの企業経営の鍵を握る重要な要素です。そこで本企画では、シニア人材の持つ価値をあらためて整理するとともに、その活用に向けた具体的な戦略について解説します。 ①はじめに  第3回※では、シニア人材が持つスキルや経験知を整理・可視化し、組織の資産として残すための「スキルベース」の考え方と、その具体的な方法を検討しました。しかし、スキルや経験知を整理しただけでは組織の力になりません。若手に継承され、実際の仕事で活かされてはじめて、資産化の効果が生まれます。そこで今回は、その成果を実際の人材育成へと結びつける視点から、シニア人材を核とした後進育成の進め方について考えます。  シニア人材の働きぶりは、本人だけでなく、同じ職場で働く若手社員にも影響します。株式会社パーソル総合研究所の調査では、シニア人材が職場で孤立し、仕事の中身が周囲から見えにくい職場ほど、若手社員の転職意向が高まることや、シニア人材が活躍している職場では、若手社員の転職意向が低く抑えられることが示されています。シニア人材施策は若手社員施策とも密接に関係しているのです。本稿では、シニア人材の育成的役割を「シニア施策」ではなく「若手への投資」として考え、具体的な制度への落とし込み方を紹介します。 ②「教える」を分解する  まず重要なのは、「シニア人材による育成」とは何かを明確にすることです。中原(なかはら)淳(じゅん)『職場学習論』(2010年)では、職場で人が他者から受ける支援を、業務支援、内省支援、精神支援の三つに分類し、能力向上との関係を検証しています。  同書によれば、職場で多く提供される業務支援は、必ずしも能力向上には結びついていないとされています。他方、本人の考えを問い返し、仕事の意味や判断の背景をふり返らせる内省支援は、能力向上につながることが示されています。シニア人材が行う技能継承というと、手順の伝達が想起されますが、若手の成長を左右するのは、「なぜそう判断したのか」、「ほかの選択肢はなかったか」と判断を問い直す機会なのです。つまり、シニア人材に期待されるのは、答えを一方的に教えること以上に、対話を通じて若手の判断力を育てる役割です。  また、仕事の経験談も重要な学習資源です。なかでも特に重要なのは失敗経験から得られた教訓を伝えることです。しかし、成功体験は語りやすい一方、失敗を語ることには心理的な痛みや評価への懸念がともないます。放置すれば、組織にとって重要な教訓が個人の記憶にとどまり、退職とともに失われてしまいます。人事制度や運用ルールを設計する際には、成功は共有されやすく、失敗は共有されにくいという非対称を意識し、失敗から得た教訓も共有できる仕組みを整えることが望まれます。  特に近年著しい生成AIの発展と普及により、標準的な手順や一般的な助言は、若手でも容易に得られるようになりました。一方、「この顧客、この設備、この組織で、あの判断がなぜ裏目に出たのか」という経験の文脈は当事者にしか語れません。AI時代だからこそ、失敗に至った固有の文脈と教訓の共有に価値があるのです。 ③三つの「もやもや」と人事施策  育成の目的や期待役割を明確にしても、シニア人材がすぐに引き受けられるとはかぎりません。背景には、自分の経験はもう通用しないという「陳腐化の不安」、押しつけになるのではないかという「関係の不安」、何をどこまで渡すべきかわからないという「範囲の不安」があります。  第一の陳腐化の不安に対しては、「教える」の定義を見直しましょう。過去の成功体験を正解として伝えるのではなく、判断が分かれた場面を示し、「当時は何を根拠に判断したか」、「現在なら何を確認すべきか」を若手とともに考えることが重要です。「問い返す」、「失敗を語る」などの役割を、人事評価項目や等級基準書などで期待役割として明文化することも有効です。  第二の関係の不安に対しては、シニア人材に自身の経験について文章を書かせるのではなく、後継者候補となる若手や人事が聞き手となって記録することで、語る側の負担を下げることが求められます。若手が抱える実際の案件を題材に経験を語ってもらう方法や場づくりも有効です。単なる昔話ではなく、目の前の課題をともに検討する場として設計することが重要です。  第三の範囲の不安に対しては、継承対象を目に見える形にしましょう。すべての経験を継承させようと考えるのではなく、「その人が抜けると何が止まるか」を起点に組織にとって重要な事項に基づき優先順位をつけることが重要です。この際に、トップダウンで決めるだけではなく、シニア人材と対話しながら優先順位をつけることで、判断基準の整理にもつながり、シニア人材自身も着手しやすくなります。 ④投資として効果を測る  シニア人材による育成は、若手の戦力化を早め、技能伝承を通じて事業継続リスクを低減する可能性があります。この効果を把握する際に確認すべきなのは、研修や面談の回数といった活動量だけでなく、若手の成長や事業成果です。加えて、育成をになうシニア人材の負荷や役割認識の変化もとらえる必要があります。育成への貢献が評価や処遇に反映されないのであれば、それは投資ではなく、善意への依存です。若手育成をあたり前の役割や「いい話」に終わらせず、正式な業務として時間を確保し、成果を評価する仕組みが求められます。シニア活躍施策と若手育成施策を連動させ、経験知の移転から効果測定までを一体的に整備することで、単なる費用ではなく、世代を越えて組織力を高める投資になります。  若手に教えることは、シニア人材にとっても、自らの経験をふり返り、知識やスキルを更新するリスキリングのよい機会になります。次回は、これらのリスキリングがシニア人材自身の価値向上につながるという観点から、その効果を解説します。 ※本連載第3回(2026年9月号)は、JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202609/#page=48 【参考資料】 ・株式会社パーソル総合研究所「シニア従業員とその同僚の就労意識に関する定量調査」(2021年) ・中原淳『職場学習論』(2010年) 図表 シニア人材が育成に踏み込めない三つの「もやもや」と求められる対応例 陳腐化の不安 「教える」の定義を見直す 不安 ▲過去の成功方法は、現在では通用しないのではないか… ▲若手の業務や価値観を十分に理解できていない… 組織として求められる対応 ① 判断が分かれた場面や、想定が崩れた場面を共有する ② 「問い返す」、「失敗を語る」「判断を支援する」役割へ転換する ③ 人事評価項目や等級基準書などで期待役割として明文化する 関係の不安 失敗を抵抗感なく渡せる形にする 不安 ▲失敗を語ることで、自身の評価が下がらないか… ▲経験談が若手に昔話や説教と受け取られないか… 組織として求められる対応 ①若手や人事が聞き手となり、インタビュー形式で記録する ②若手が現在抱える案件を題材に、関連する経験を引き出す ③世代を越えて案件を検討する場を設計・運用する 範囲の不安 継承する対象を目に見える形にする 不安 ▲何を優先して継承すべきか判断できない… ▲どの粒度まで言語化・記録すべきか分からない… 組織として求められる対応 ①「その人が抜けると何が止まるか」から逆算する ②事業継続、品質、安全、顧客への影響を基に優先順位を付ける ③継承する対象やその選択の基準をシニア本人とともに整理する ※筆者作成 【P52-53】 いまさら聞けない人事用語辞典 株式会社グローセンパートナー 執行役員・ディレクター 吉岡利之 第72回 「心理的安全性」  人事労務管理は社員の雇用や働き方だけでなく、経営にも直結する重要な仕事ですが、制度に慣れていない人には聞き慣れないような専門用語や、概念的でわかりにくい内容がたくさんあります。そこで本連載では、人事部門に初めて配属になった方はもちろん、ある程度経験を積んだ方も、担当者なら押さえておきたい人事労務関連の基本知識や用語についてわかりやすく解説します。  今回は、「心理的安全性」について取り上げます。 心理的安全性は組織やチームの状態  心理的安全性の定義は、「心理的安全性の高いチーム・職場とは」という論文※1に「職場において意見や懸念、失敗、異なる見方を表明しても、不利益を受けたり、孤立させられたりしない心理状態である」との記載があります。心理的安全性の定義は、書いてあるものにより微妙に異なるのですが、一般的に浸透しているものはおおよそこの定義に沿っているかと思います。  この心理的安全性は、じつはかなり昔から存在している概念で、起源は1965(昭和40)年、マサチューセッツ工科大学のエドガー・シャインとウォレン・ベニスが組織変革の文脈で言及したことにさかのぼります。その後、ハーバード・ビジネス・スクールのエイミー・C・エドモンドソン教授が1999(平成11)年の研究で「team psychological safety(チームの心理的安全性)」という用語を用いたことで、現在広く知られる形へと定義が整理されました。  心理的安全性を理解するうえで大事なのは、個人ではなくチーム(所属組織・職場なども含む)の状態をさしていることです。心理的安全性が高い状態を確保して、失敗や疑問、違和感、気づきなどをもとにメンバーの学習をうながし、チームとしてのパフォーマンス向上を目ざすというのが基本的な考え方です。ここでいう心理的安全性の高い状態とは、〝無知と思われる〟、〝無能と思われる〟、〝邪魔をしていると思われる〟、〝ネガティブと思われる〟という不安がない状態とされています。例えば、何か新しい取組みをしようとしているなか、メンバーが出してきた意見に対して、上司が「素人(しろうと)意見だ」とか「考えが足りない」などと逐一否定していたら、意見をいわないか、上司が考える正解しかいわなくなってしまいます。一方で、自由に対話できる環境があれば、これまではだれも気づかなかった将来につながる取組みとなる意見が出てくる可能性もあります。 心理的安全性が再注目されている  四半世紀以上も前に定義化されたこの用語ですが、最近よく目にします。  一つめの理由としては、社会や事業環境の変化や、将来の予測の困難さが加速化している点があげられます。このような状態をVUCA(ブーカ)※2ともいいますが、これまでの経験則や知見から導き出される〝正解〟に従っていればうまくいくという状態はもはやなくなってきています。このような正解のないなかで、メンバーが出し合った多様な意見のなかで成長の種を見つけ育てていくような環境づくりが、官民問わず重視されてきています。これは日本の成長戦略の一環として推進されている人的資本経営※3で提唱されている「多様な人材の育成・確保」や「イノベーション創出をリードする人材」、「従業員の自発的な貢献意欲の向上」の基盤となる環境でもあり、それを実現する重要な取組みとして心理的安全性の向上を推進する企業が増えています。上場企業の人的資本に対する取組みの開示のなかに「心理的安全性の高い職場環境の整備・醸成という記載をしている」、「自社の心理的安全性の取組み事例などを公表※4している」ことなどからもうかがえます。  二つめの理由としては、ここまで説明したものとは異なる観点ですが、「心の健康」問題が深刻化している点があげられます。『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~』(厚生労働省、独立行政法人労働者健康安全機構)※5パンフレットの冒頭に、近年、経済・産業構造が変化するなかで、仕事や職業生活に強いストレスを感じている労働者の割合が約8割との結果が出ています〔図表1参照〕。その理由のうち3位が対人関係(セクハラ・パワハラを含む)〔図表2参照〕と心理的安全性に関係ありそうな結果が掲載されています。本パンフレットには直接的に心理的安全性という用語は出てきませんが、『健康経営における「心の健康」投資・実践ガイド』(経済産業省ヘルスケア産業課、2025年)※6のなかでは、ストレスと心理的安全性の関係に言及しており、「心の健康」に投資する施策や事例のなかでも心理的安全性の確保に関する記載がいくつも出てきます。先ほどあげた上司が意見を逐一否定する例を思い起こせば、心理的安全性の低い環境は心の健康に悪い影響を与えるというのは容易に想像ができるかと思います。 心理的安全性と高齢者雇用  心理的安全性は高齢者雇用とも関係があります。パーソル総合研究所の『シニア就業者の意識・行動の変化と活躍促進のヒント』2023年調査※7のうち「シニア就業者の『はたらくWell-being』を高める上司マネジメント」の結果をみると60代にとって効果的な上位3項目が「自分の存在を認めてもらえている」、「他のメンバーと平等に接してもらえている」、「自分の意見を仕事に取り入れてくれている」との回答結果になっています。これらは心理的安全性の定義が満たされているといえる状態です。ここから、職場における心理的安全性の確保がシニアの活躍推進にもつながることがわかります。  次回は、「住宅補助」について取り上げます。 ※1 連合総研レポートDIO 2026年39巻7号P.7-11 執筆:早稲田大学商学部准教授 村瀬俊朗、東京都立大学非常勤講師 村井健彦 https://www.rengo-soken.or.jp/dio/dio421-1.pdf ※2 Volatility(変動性)・Uncertainty(不確実性)・Complexity(複雑性)・Ambiguity(曖昧性)の頭文字をとった用語 ※3 人的資本経営については本誌2023年8月号(当連載第37回)を参照 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202308/#page=50 ※4 富士通株式会社が「富士通の心理的安全性をデザインするプロジェクト」でまとめた『Fujitsu心理的安全性Playbook』などが公表されている。 https://global.fujitsu/ja-JP/local/blog/article/2024-06-18-01 ※5 https://www.mhlw.go.jp/content/001579077.pdf ※6 https://www.meti.go.jp/policy/mono_info_service/healthcare/kokoronokenkojissenguide.pdf ※7 https://rc.persol-group.co.jp/wp-content/uploads/thinktank/digest/16_HITOResearchDigest_pgs2023.pdf 図表1  職業生活での強いストレス等の状況 ストレス等を感じる労働者の割合 H28年 59.5% H29年 58.3% H30年 58.0% R2年 54.2% R3年 53.3% R4年 82.2% R5年 82.7% 注1:R1は当該項目を調査していない 注2:R4以降は、R3から設問形式を一部変更していることから、R3までの実績と比較することは困難 出典:『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~』厚生労働省、独立行政法人労働者健康安全機構 図表2 職業生活における強いストレス等の原因 強いストレスとなっていると感じる事柄がある労働者を100としたときの割合(%) 仕事の失敗、責任の発生等 39.7 仕事の量 39.4 対人関係(セクハラ・パワハラを含む。) 29.6 仕事の質 27.3 顧客、取引先等からのクレーム 26.6 会社の将来性 22.2 役割・地位の変化等(昇進、昇格、配置転換等) 15.8 出典:『職場における心の健康づくり~労働者の心の健康の保持増進のための指針~』厚生労働省、独立行政法人労働者健康安全機構 【P54-55】 令和8年度 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウムのご案内 令和7年度参加者満足度93% 参加無料  改正高年齢者雇用安定法により、70歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となるなか、高年齢者の戦力化は喫緊の課題です。  本シンポジウムでは、企業の人事担当者など関係者のみなさまに向けて、講演、事例発表、パネルディスカッションを通じて、ミドル・シニア層の戦力化に向けた実践的な取組みや課題、今後の展望についてともに考えます。 企業の経営者人事担当者必見 さまざまな企業の取組みがわかる ワークエンゲージメントとウェルビーイングの向上のための効果的取組 ~生涯現役でいきいきと働いていくために~  少子高齢化の進展や65歳までの雇用確保の義務化を背景に、シニア就業者は増加しています。こうしたなか、シニアが定年後もいきいきと働き続けるためには、ワークエンゲージメントおよびウェルビーイングの向上が重要となります。本テーマでは、シニアが生涯現役で活躍するために、個人と組織の双方の観点から効果的な取組を考えます。 日時 2026(令和8)年10月16日(金)14:00~16:45 ライブ配信 プログラム 14:00~14:05 開会挨拶 14:05~14:35 基調講演 「ワークエンゲージメントとウェルビーイングの向上のための効果的取組~生涯現役でいきいきと働いていくために~」 石山恒貴 氏 法政大学大学院地域創造インスティテュート/キャリアデザイン学部 教授 14:35~15:35 事例発表 株式会社JR東日本テクノハートTESSEI 総務部担当部長 伊澤星史 氏 DHLジャパン株式会社 執行役員人事本部長 大植栄二郎 氏 太陽生命保険株式会社 人事総務部人事課長 竹内俊介 氏 15:35~15:45 休憩 15:45~16:35 パネルディスカッション コーディネーター 石山恒貴 氏 パネリスト 株式会社JR東日本テクノハートTESSEI 太陽生命保険株式会社 DHLジャパン株式会社 16:35~16:45 総括 石山恒貴 氏 お問合せ先 高齢者雇用推進・研究部 普及啓発課 TEL:043-297-9527 生涯現役で活躍するためのキャリア戦略と企業支援  近年、健康寿命の延伸や生成AI 等の技術革新により、働く人と企業を取り巻く環境は大きく変化しています。こうしたなか、生涯現役で働き続けるためには、個人が主体的にキャリアを形成していくことが重要となります。本テーマでは、ミドル・シニアが環境変化に適応しながら活躍し続けるためのキャリア戦略について議論を深めます。 日時 2026(令和8)年10月30日(金)14:00~16:45 ライブ配信 プログラム 14:00~14:05 開会挨拶 14:05~14:35 基調講演 「生涯現役で活躍するためのキャリア戦略と企業支援」 廣川進 氏 法政大学 キャリアデザイン学部 教授 14:35~15:35 事例発表 株式会社IHI 人事部次長 余語一喜 氏 トラスコ中山株式会社 経営管理本部人事部人事課長 兼 ヘルスケア課長 玉井智也 氏 中外製薬株式会社 人事部エンプロイーサポートグループ グループマネジャー 山本秀一 氏 15:35~15:45 休憩 15:45~16:35 パネルディスカッション コーディネーター 廣川進 氏 パネリスト 株式会社IHI 中外製薬株式会社 トラスコ中山株式会社 16:35~16:45 総括 廣川進 氏 申込方法 申込締切 ライブ視聴:各開催日 当日15時 1 参加イベントを選択 下記の「申込案内ページ」から、参加を希望するイベントを選択してください。 2 申込み 「利用者登録せずに申し込む方はこちら」を選択し、利用規約に同意したうえで必須事項を入力し、「確認へ進む」を選択してください。 ※入力後、受信したメールに記載されているURLをクリックすると、申請ページが表示されます。 3 申込み確認 入力内容を確認し、「申込む」を選択してください。 ※お申込み後、完了メールが届きますので、ご確認ください。 4 当日 申込み完了メールに掲載されているURL から動画を視聴してください。 申込案内ページ https://www.elder.jeed.go.jp/moushikomi.html ※専用フォームからのお申込みがむずかしい場合、54ページのお問合せ先にご連絡ください。お電話で対応させていただきます。 ※お申込みの際に取得した個人情報は適切に管理され、JEEDが主催・共催・後援するシンポジウム・セミナー、刊行物の案内等にのみ利用します。利用目的の範囲内で適切に取り扱うものとし、法令で定められた場合を除き、第三者に提供しません。 【P56-57】 BOOKS AI時代の働き方について新しい知識や気づきが得られる、人事担当者におすすめの書 ジョブ型の真実とAIと協働 組織の競争力の源泉を問い直す 山崎(やまざき)憲(けん) 著/日本生産性本部生産性労働情報センター/3080円  著者は明治大学専任教授で、人事労務管理や人的資源管理論などを専門とし、AIやICTの進展が雇用システムに及ぼす影響や、新しい労働組織と社会のあり方などをおもな研究テーマとしている。本誌8月号では、新連載「AIと歩む人生100年時代」の第1回目の執筆者として、AIの実際やAI時代に活かすシニア人材の経験などについてご寄稿いただいた★。  本書は、「ジョブ型」か「メンバーシップ型」かといった表面的な二項対立を説くのではなく、「そもそも『ジョブ型』とは何か。『メンバーシップ型』とは何のために成立し、どのような役割を果たしてきたのか」といった問題から、日本や諸外国の歴史や事例をもとにひも解いていく。すると、アメリカの企業がいま重視しているのは、職務の固定ではなく、ジョブ同士のつなぎ目である「連携と協働の設計」であり、「ジョブ型」の中身はすでに変わっているという。そして、AIの進化によって仕事そのものの中身がつくり替えられると指摘されるなかで、組織の「協働」のあり方がどう変わり、それによってどのような問題が生じるのかを問いかける。  AI時代の働き方などに関する、最新の知識と気づきが得られる価値ある一冊である。 高齢の親が自宅で安全・安心に過ごすために。介護のプロによる90超のヒント集 自宅で暮らしたい 「介護未満」の親の支え方 藤原(ふじわら)清明(きよあき) 著/青春出版社/1210円  元気だと思っていた親にふと老いを感じ、不安を抱いた経験は多くの人にあるのではないか。  本書は、まだ介護認定を受けるほどではないけれど、離れて暮らしている、あるいは一人でいる時間が長いといった親の「日常生活が心配」という人におすすめしたい一冊。これまで1000人以上の高齢者の介護にたずさわってきた介護のプロが、家事、食事、通院に役立つ方法から体力・脳力の低下対策、つまずきやケガ、病気を防ぐコツまで、親が自宅で安全・安心に過ごすためのヒントの数々を紹介している。  例えば、高齢になると目が見えづらくなるが、茶碗の内側の色を変えれば食べ残しを減らせることもあるという。ほかにも、リフォーム工事なしで風呂場での転倒を防ぐひと工夫や、夜間の転倒事故を防ぐセンサーライトの活用、老いた親との「雑談テク」、老化を遅らせる趣味・娯楽のこと、日常の不便を解消するための高齢者向け有料サービスの利点や料金の目安など、90項目を超える知恵や工夫が満載である。  「介護未満」の暮らし方を意識すると、「要介護の予防になる」と著者は最後に説いている。親を思う子世代のみならず、自らの老いを感じ始めた世代にも有益な内容といえるだろう。 旅館・ホテルのスタッフ定着率を高める評価制度や面談とは? 異業種の人もヒントが得られる一冊 人が辞めない旅館・ホテルのつくり方 ―宿泊業の定着力を高める「評価・報酬制度」の教科書 三ツ井(みつい)創太郎(そうたろう) 著/同どう文ぶん舘かん出版/1980円  外国人観光客の増加を背景に日本の宿泊業界の売上高は右肩上がりと報じられる一方で、旅館やホテルでは深刻な人材不足が続いている。  本書は、コンサルティング会社を設立して、日本の旅館・ホテルを対象に人材採用や評価制度構築、組織活性化といった実務支援を行っている著者が、その経験から導き出した「人が辞めない旅館・ホテルのつくり方」を、事例を盛り込みながら解説する。旅館・ホテルの人材不足の根底には、採用しても辞めていく構造的な課題があり、その原因を追究して定着率を高めるために、やる気を引き出す「評価制度」、社員がイキイキと働く「報酬制度」、効果を最大化する「フィードバック面談」などを提案し、それぞれの必要性や構築のノウハウを説く。  旅館・ホテルの人材定着に特化した書籍だが、人が辞めない職場づくりは、どの業界でも共通の課題。本書の内容は働き方の柔軟性や人を大切にすることを重視したもので、例えば、介護などの家庭の事情による離職を未然に防ぐことや、社員が成長を実感できる評価制度は年齢にかかわらずやりがいを持って働くことができる人材の育成につながるなど、ほかの業界にとっても多くのヒントが得られる良書である。 生涯現役で働くためのヒントも満載!50代からの「資産戦略」と「稼ぎ方」を説く 定年後のお金の悩み、解決します 荻原(おぎわら)博子(ひろこ) 著/河出書房新社/1100円  相次ぐ物価上昇に家計が苦しくなるなか、老後資金に不安を募らせている人は多いだろう。長生きはしたいが、医療費や介護費の負担についても気になる。さて、どうしたらよいのか。  本書は、定年後のお金の不安を解決し、自由に健康に生きるために、50代から始めたい有益な資産形成と心を豊かにする稼ぎ方を詳しく解説する指南書である。著者は、経済ジャーナリストとして幅広く活躍する家計経済の第一人者。マネープランの専門家というイメージが強いが、元気なうちは社会とつながり自分の役割を持つことのできる仕事を続けていくことを薦めており、本書においても「50代からやるべきスキルの棚卸し」や「定年後に活きる『稼ぐ力』の鍛え方」といったテーマで定年前後の働き方や仕事の見つけ方、稼ぐ方法などを説いている。中高年世代が生涯現役で働くためのヒントも多く得られるだろう。  さらに、資産の守り方や活かし方に加え、定年後を健康的に生きるための50代からの健康戦略や地方移住のメリット・デメリット、生前贈与の活用、市民農園での自給自足体験など心身の健康づくりに関する情報やアドバイスも豊富で、視界が開けるような一冊となっている。 「老い」を体験した実感を、前向きなメッセージとともに綴ったエッセイ 年とる力 阿川(あがわ)佐和子(さわこ) 著/文藝春秋(ぶんげいしゅんじゅう)/1045円  幅広い世代の読者から親しまれているエッセイストで作家の阿川佐和子さんが、72歳を迎えてから、「老い」をテーマに、「高齢者初心者マークをつけたくなる」と実感した自身の変化や新たに始めたこと、大事にしたいことなどをユーモアたっぷりに綴った新書判のエッセイ。刊行後、話題を集め続けているという。  食べることや、体重計に一日5回乗るという「お気楽ダイエット」、70歳にして始めた趣味・習いごと、老いてゆく体のこと、友だちとのこと、身近な人との別れや死について考えることなど、日常のことも深刻な話題も、軽妙に語っているような文章が続いていく。もちろん、楽しいことばかりではないが、「一つ失うたびに笑ってみる」、「だんだん弱っていく自分の身体について、面白がる気持ちを忘れないでいたい」といった前向きなメッセージが読者の心を動かす。  また、「『こういう高齢者もいるのか』と呆れ、笑い、そして日常の小さな元気の源にしていただければ」と自身を記し、「良き年の取り方」の参考になれば、とも綴っている。企業の人事労務担当者の実務に直結しているわけではないが、シニアが実感する老いやそのときの思いなどに触れることができる内容である。 ★第1回(2026年8月号)は、JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202608/#page=42 ※このコーナーで紹介する書籍の価格は、「税込価格」(消費税を含んだ価格)を表示します 【P58】 ニュース ファイル NEWS FILE 行政・関係団体 厚生労働省 令和7年度「過労死等の労災補償状況」を公表  厚生労働省は、過重な仕事が原因で発症した脳・心臓疾患、仕事による強いストレスなどが原因で発病した精神障害の労災補償状況についてまとめた、2025(令和7)年度「過労死等の労災補償状況」を公表した。  それによると、脳・心臓疾患の労災請求件数は1254件で、前年度と比べ224件増加した。また、支給決定件数は217件(当該年度中に「業務災害」または「複数業務要因災害」と認定した件数で、当該年度以前に請求があったものを含む。以下同じ)で、前年度と比べ24件減少している。請求件数は4年連続の増加、支給決定件数は4年ぶりに減少した。年齢別にみると、請求件数は「50~59歳」508件、「60歳以上」452件、「40~49歳」220件の順で多く、支給決定件数は「50~59歳」79件、「60歳以上」63件、「40~49歳」58件の順に多くなっている。  次に、精神障害の労災請求件数をみると4958件で、前年度と比べ1178件増加した。また、支給決定件数は1082件で、前年度と比べ26件増加している。請求件数は5年連続の増加、支給決定件数は7年連続の増加となった。なお、精神障害にかかわる労災請求事案の場合、精神障害の結果、自殺(未遂を含む)に至った事案があるが、2025年度は4958件中215件(うち支給決定件数76件。この76件のうち60歳以上は10件)となっている。 https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_74476.html 厚生労働省 「令和7(2025)年簡易生命表の概況」を公表  厚生労働省は、「令和7(2025)年簡易生命表の概況」を公表した。この概況は、2025(令和7)年1年間の死亡状況が今後変化しないと仮定したときに、各年齢の者が1年以内に死亡する確率や、平均してあと何年生きられるかという期待値などを、死亡率や平均余命などの指標によって表したもの。0歳の平均余命である「平均寿命」は、すべての年齢の死亡状況を集約したもので、保健福祉水準を総合的に示す指標となっている。  平均寿命は男が81.35年、女が87.33年で、前年と比べて男は0.25年、女は0.20年上回っている。前年との差を死因別にみると、男女ともに悪性新生物(腫瘍)、心疾患(高血圧性を除く)、新型コロナウイルス感染症などの死亡率の変化が平均寿命を延ばす方向に働いている一方で、肺炎、老衰などの死亡率の変化が平均寿命を縮めている。  男女それぞれ10万人の出生に対して65歳の生存数は、男8万9892人、女9万4533人となっている。これは65歳まで生存する者の割合が男は89.9%、女は94.5%であることを示している。同様に、75歳まで生存する者の割合は男76.0%、女88.1%、90歳まで生存する者の割合は男26.7%、女50.8%となっている。  生命表上で、出生者のうちちょうど半数が生存 すると期待される「寿命中位数」は、男84.13年、女90.17年となっており、男は2.78年、女は2.84年平均寿命を上回っている。 https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/life/life25/index.html イベント 産業雇用安定センター 出向による人材育成と企業の成長をテーマにオンラインフォーラムを開催  公益財団法人産業雇用安定センター(愛称:ジョブ産雇)は、来る2026(令和8)年10月30日、第2回ジョブ産雇フォーラム(オンラインフォーラム)を開催する。テーマは「人材育成のための出向~越境学習による人と組織の成長戦略」。  近年、人手不足やAIの急速な進展により産業・社会の構造が大きく変化しているなかで、企業の人的資本経営、とりわけ人材育成のあり方がいっそう重要になっている。今回のフォーラムでは、人材育成型の「出向」に焦点をあて、企業の枠を越えることで得られる新しい価値観やスキルアップ(越境学習)が出向を実施する企業・受け入れる企業双方にもたらす影響について、学術的知見や具体的な事例を交えて考える。 ◆日程:2026年10月30日(金) 13時30分~15時45分 (Zoomウェビナーによるライブ配信) ◆【基調講演】石山(いしやま)恒貴(のぶたか)氏(法政大学大学院地域創造インスティテュート/政策創造研究科教授) 【事例発表・パネルディスカッション】  モデレーター:阿部(あべ)正浩(まさひろ)氏(中央大学教授)  パネリスト:株式会社ANAエアサービス佐賀、株式会社ふじもと美誠堂、株式会社常磐植物化学研究所、石山恒貴氏(前記)、岡村(おかむら)格太郎(かくたろう)氏(ジョブ産雇常務理事) https://www.sangyokoyo.or.jp/topics/jobsankoforum2026.html 【P59】 立川(たてかわ)談慶(だんけい)の人生100年時代の歩き方 第9回 疝気(せんき)の虫 ~もっと病と対話してみよう  落語に「疝気の虫」というのがあります。  医者が夢のなかで、人間(とりわけ男性)の腹を痛めつける「疝気の虫」に出会います。虫は「蕎麦(そば)が好きだが唐辛子は嫌い」、「唐辛子に出会うと別荘(陰嚢(いんのう))に隠れてやりすごす」と自分の弱点を語ったところで医者は目を覚まします。そんな医者の元へ、疝気に苦しむ患者の往診依頼が入ります。医者はこの夢での話を信じて、患者の体から虫を別の場所へ移動させようと治療を試みます。  疝気にかかったのは夫で、医者はその妻に、夫に蕎麦の匂いをかがせながら自ら蕎麦を食うようにいいます。すると疝気の虫は蕎麦が食えると思って夫の消化管を遡(さかのぼ)ったものの、見当違いで蕎麦を食べているのは妻だったと気づきます。  たちまち虫は夫の口から飛び出し、向かいにいる妻の体内に飛び込みます。痛がる妻に医者は「唐辛子水を飲みなさい」といいます。唐辛子水から虫は急いで逃げようと、一目散に腹を下りますが、しかし女性である妻の体内に「別荘」はなく、首をひねり、キョロキョロしながら「別荘がない」とつぶやき、そのまま高座から去ってゆきます。  師匠談志の十八番でしたが疝気とは当時男性を苦しめた「結石」の類の病でしょうか。  さてこのくだらない落語ですが、談志は「病との対話」だと喝破(かっぱ)しました。談志は何より落語家らしく「対話」を重んじていました。生まれたばかりの長男を見せにつれて行ったところ、「子どもは喋り始めがかわいいぞ」とよくいっていたものです。つまり、「対話の可能性」をこよなく愛していた人ともいえましょうか。  「落語は『疝気の虫』のように病とすら対話しちまうんだから、人間はもっとさまざまな対象との対話を信じてもいいのではないか」と、いまならきっとそういっていたのかもしれません。  言葉を発しない病と対話するこの落語のような「想像力」をたずさえてさえいれば、いわんや人間同士、きっと平和はもたらされるのではと、私は信じています。この下ネタに近い一席はじつは平和を希求していたのです(笑)。 【P60】 次号予告 11月号 特集 令和8年度 高年齢者活躍企業コンテスト ~独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構理事長表彰受賞企業事例から~ リーダーズトーク 神谷 渉さん(玉川大学経済学部 教授) 読者アンケートにご協力をお願いします! よりよい誌面づくりのため、みなさまの声をお聞かせください。 回答はこちらから 編集アドバイザー(五十音順) 池田誠一……日本放送協会解説委員室解説委員 猪熊律子……読売新聞編集委員 上野隆幸……松本大学人間健康学部教授 大木栄一……玉川大学経営学部教授 金沢春康……一般社団法人100年ライフデザイン・ラボ代表理事 佐藤弘太……日本商工会議所産業政策第二部労働担当課長 谷圭一郎……日清食品ホールディングス株式会社グローバル人事部次長 丸山美幸……社会保険労務士 森田喜子……TISI株式会社人事本部人事部 山﨑京子……明治大学商学部特任准教授、日本人材マネジメント協会理事長 JEEDメールマガジン好評配信中! 詳しくは JEED メルマガ 検索 ※カメラで読み取ったリンク先がhttps://www.jeed.go.jp/general/merumaga/index.html であることを確認のうえアクセスしてください。 公式X(旧Twitter)はこちら! 最新号発行のお知らせやコーナー紹介などをお届けします。 @JEED_elder 編集後記 ●9月16日、厚生労働省と当機構(JEED)が主催する「令和8年度高年齢者活躍企業コンテスト」の受賞企業が発表されました。本誌では、今号と次号の2回にわたって、受賞企業の取組みをご紹介します。  今号では、厚生労働大臣表彰受賞企業6社を紹介しました。最優秀賞を受賞した株式会社エヴァーブルーをはじめ、優秀賞の株式会社三吉電器、稲村建設株式会社など、定年制の廃止を含め、70歳を超えて働ける雇用制度を整えると同時に、役割や評価に応じた処遇制度、新しい技能・技術の習得支援、個々の事情に合わせて働ける柔軟な勤務制度の整備など、年齢に配慮しつつも、年齢とは関係なく、意欲や貢献をうながし評価する仕組みを整備しています。これらの取組みをぜひ参考にしていただき、高齢者を含め、だれもが意欲をもって働ける制度・環境が整備されていくことを願っています。 ●10月は高年齢者就業支援月間です。JEEDでは、「高年齢者活躍企業フォーラム」をはじめ、「生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム」、「地域ワークショップ」を全国で開催します。みなさまのご参加をお待ちしています。オンライン配信、アーカイブ配信もありますので、参加がむずかしい方は、ぜひご視聴をお願いします。参加・視聴の詳細は、JEEDホームページをご確認ください。 読者の声 募集! 高齢で働く方の体験、企業で人事を担当しており積極的に高齢者を採用・雇用している方の体験、エルダーの活用方法に関するエピソードなどを募集します。文字量は400字~1000字程度。また、本誌についてのご意見もお待ちしています。左記宛てFAX、メールなどでお寄せください。 月刊エルダー10月号 No.563 ●発行日-令和8年10月1日(第48巻 第10号 通巻563号) ●発行-独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 発行人-企画部長 古屋勝史 編集人-企画部次長 石井伸明 〒261‐8558 千葉県千葉市美浜区若葉3-1-2 TEL 043(213)6200 FAX 043(213)6556 (企画部情報公開広報課) ホームページURL https://www.jeed.go.jp メールアドレス elder@jeed.go.jp 発送先の変更などについては、上記のメールアドレスまでご連絡ください。 ●編集委託 株式会社労働調査会 〒170‐0004 東京都豊島区北大塚2-4-5 TEL 03(3915)6401 FAX 03(3918)8618 *本誌に掲載した論文等で意見にわたる部分は、それぞれ筆者の個人的見解であることをお断りします。 (禁無断転載) 【P61-63】 技を支える vol.368 江戸時代生まれの3書体 正統の技をいまに受け継ぐ 勘亭流(かんていりゅう)・寄席(よせ)文字・江戸文字書家 中村(なかむら)泰士(やすひと)さん(74歳) 「江戸の文字を書くことによって、その時代に思いを馳せることができます。自分もその時代に生きているような気持ちになれるんです」 歌舞伎、寄席、千社札(せんしゃふだ)- 三つの書体をきわめる  三つの異なる筆致(ひっち)で書かれた「花」(上写真)。左から勘亭流、寄席文字、江戸文字─いずれも江戸時代の庶民文化のなかで生まれた書体だ。勘亭流は歌舞伎の看板や番付※、寄席文字は寄席の看板や落語家の名を記す「めくり」、江戸文字は千社札や提灯(ちょうちん)に用いられる。この3書体すべてを手がける書家が、東京都荒川区にある有限会社大有(たいゆう)企画の代表取締役、中村泰士さんである。  中村さんによれば、この三つに相撲字(すもうじ)も含め、江戸時代に生まれたグラフィックな文字を総称して「江戸文字」と呼ぶこともある。  「勘亭流も寄席文字も、大入り満員を願って隙間なく書きます。寄席文字はさらに、客足が尻上がりに伸びるよう右肩上がりに書いていきます。勘亭流は歌舞伎の字ですから、『舞うが如く』という感じですね。千社札などの江戸文字はレタリングのようなもので、一筆では書けません。太い部分は周りの輪郭(りんかく)を描いてから中を塗っていきます」  寄席文字と勘亭流は、それぞれの家元に師事し、寄席文字では「橘(たちばな)右橘(うきつ)」、勘亭流では三代目「荒井(あらい)三禮(さんれい)」の名を持つ。学生時代に寄席文字を手がけ始めて以来、半世紀以上にわたり筆を執り続けてきた。2002(平成14)年度に荒川区登録無形文化財保持者となり、2025(令和7)年度には荒川区指定無形文化財保持者に認定されている。 一筆書きの大切さ 師匠の体の動きから学ぶ  看板にも用いられる勘亭流と寄席文字は、遠目にも映える力強い太さが特徴だ。書道のように筆を立てて穂先を使うのではなく、筆を傾かせて側面(腹)を使うことで、この太さが生まれる。それを支えるのが、迷いのない一筆書きの技である。細部のかすれやささくれなどは修正を加えるが、文字の骨格そのものは一気に書き上げるなかでほぼ決まるという。  「最初の一筆で、ある程度の形が成り立っていないと、直しているうちにどんどんおかしくなってしまうんです」  中村さんは、この一筆書きの技を習得するために、師匠が書く筆先だけに注目するのではなく、体の動き、筋肉の使い方を見ることで上達につながったという。  「そうすることで、できあがった書を見ただけで体の動かし方を思い出し、それをまねることで師匠の字に近づけることができます」  また、筆への墨のふくませ具合なども、その時々の状況に応じた判断が求められる。それも「実際に師匠の動きを何度も見ることで覚えることができた」とふり返る。 落語への愛着が導いた道を次の世代へつなぐ  この道に進んだきっかけは、落語への愛着だった。子どものころからテレビの演芸番組で寄席文字に親しみ、大学では落語研究会に所属。1971年に、「寄席文字」の名づけ親でもある家元の橘(たちばな)右近(うこん)氏に師事し、学生時代はアマチュア書家として活躍。大学4年のとき、「橘右橘」の名を許され、この道へと進んだ。  その後、荒川区の伝統工芸展で机を並べたことが縁となり、勘亭流家元、二代目荒井三禮(さんれい)氏に入門。1994年に「荒井(あらい)三鯉(さんり)」の名を許され、三禮勘亭流を継承した。  江戸文字については、江戸以来の千社札交換会「東都(とうと)納札睦(のうさつむつみ)」主宰で摺師(すりし)の二代目・関岡(せきおか)扇令(せんれい)氏から、かつて主流だった名人たちの資料や歴史を通じて薫陶を受けた。  「師匠に育ててもらったんだから、自分も後進を育てないといけない」と考える中村さんは、「荒川の匠(たくみ)育成事業」による後継者育成に取り組むほか、教室を4カ所で開いている。指導の核には、「ただ師匠の真似をするだけでなく、その世界自体を広げる立場にならなければならない」という思いがある。自身も落語会の企画運営にたずさわり、活動の場を広げてきた。これからも、三書体の技とともに江戸の文化を次代へとつないでいくことが、変わらぬ目標だ。 有限会社大有企画 TEL:03(3801)6799 https://www.tie-you.com (撮影・羽渕みどり/取材・増田忠英) ※番付……ポスターやチラシ、プログラムなどの印刷物 写真のキャプション 中村さんの流派である三禮勘亭流は、一般的な書道の筆を使った一筆書きが基本。大きな文字は、一筆書きの土台に肉づけする「塗り文字」という技法で仕上げる 愛用の筆。左側4 本は寄席文字、右の細い3本は江戸文字、右端は勘亭流に用いる(写真提供:有限会社大有企画) 千社札や提灯などに用いられる江戸文字はレタリングと同様、最初に輪郭を下書きし、墨入れの段階でも調整を行う。筆は日本画用の即妙筆(そくみょうふで)や面相筆(めんそうふで)などを用いる 勘亭流は書道の筆を使うが、筆をまっすぐ立てて書く(直筆)書道と違い、筆を少し傾けて側面で太く書く(側筆)のが特徴 国立劇場の初春歌舞伎公演の外題(演目)や場割(場面構成)の看板の筆耕を毎年担当している(写真提供:有限会社大有企画) 1989年に江戸文字で書いた、荒川区伝統技術保存会の一覧。中央の大紋「あらかわ丸」も中村さんが手がけた 「荒川の匠育成事業(伝統工芸技術の後継者育成)」の研修生、手塚(てづか)摩子(まこ)さんに指導する様子。数字を練習することで基本の運筆を身につける 【P64】 イキイキ働くための脳力アップトレーニング!  今回は、重なっているシルエットの絵を見て、そこにない絵を見つける問題です。絵の形の特徴や輪郭を一つひとつ目で追うことで、集中力や空間認識力を鍛えます。焦らずに絵と選択肢をよく見比べながら、じっくり見つけてみましょう。 第112回 シルエットクイズ 目標 3分 重なったシルエットの絵を見て、選択肢に入っていない絵を答えてください。 ① A.ネコ B.飛行機 C.カボチャ D.ムササビ E.扇子 F.人参 ② A.消火器 B.スコップ C.サイ D.ヤカン E.ギター F.アヒル ③ A.ハサミ B.電球 C.カエル D.自転車 E.ブタ F.キノコ ④ A.船 B.チョウ C.キリン D.ジョウロ E.ピアノ F.自動車 ⑤ A.バイク B.イヌ C.ネコ D.カサ E.ワニ F.カタツムリ ⑥ A.ペンギン B.フライパン C.ニワトリ D.バス E.イチゴ F.カンガルー 重なったシルエットの絵で鍛える集中力と空間認識力  今回の問題は、いくつものシルエットが重なった絵をじっくり観察して、「この中に入っていない絵」を見つける脳トレです。たくさんの絵が重なっていると、一つひとつの絵の輪郭が途中で隠れてしまうため、見慣れたものでも意外と見つけにくくなります。  ポイントは、絵全体をなんとなくながめるのではなく、「この線はどこにつながっているのか?」という視点で目で追ってみることです。特徴的な部分、例えば角や丸み、細長い部分などに注目するのもおすすめです。  この問題では、物の形を見分ける力だけでなく、必要な情報に注意を向ける「集中力」や、頭の中で形を補いながらとらえる「空間認識力」も使います。また、「あるもの」を探すのではなく「ないもの」を答えるため、見つけたシルエットをひとつずつ確認し、候補から外していくことも大切です。  すぐに答えがわからなくても、焦らず、絵と選択肢をよく見ると、見つけにくかった形が、ある瞬間ふっと浮かび上がってきます。こうした点も、この脳トレのおもしろさです。 篠原菊紀(しのはら・きくのり) 1960(昭和35)年、長野県生まれ。人システム研究所所長、公立諏訪東京理科大学特任教授。健康教育、脳科学が専門。脳計測器多チャンネルNIRSを使って、脳活動を調べている。『脳活ドリル オール新作! たっぷり1000問』(宝島社)など著書多数。 【問題の答え】 ①カボチャ ②ギター ③自転車 ④船 ⑤イヌ ⑥イチゴ 【P65】 ホームページはこちら (独)高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 各都道府県支部高齢・障害者業務課 所在地等一覧  JEEDでは、各都道府県支部高齢・障害者業務課等において高齢者・障害者の雇用支援のための業務(相談・援助、給付金・助成金の支給、障害者雇用納付金制度に基づく申告・申請の受付、啓発等)を実施しています。 2026年10月1日現在 名称 所在地 電話番号(代表) 北海道支部高齢・障害者業務課 〒063-0804 札幌市西区二十四軒4条1-4-1 北海道職業能力開発促進センター内 011-622-3351 青森支部高齢・障害者業務課 〒030-0822 青森市中央3-20-2 青森職業能力開発促進センター内 017-721-2125 岩手支部高齢・障害者業務課 〒020-0024 盛岡市菜園1-12-18 盛岡菜園センタービル3階 019-654-2081 宮城支部高齢・障害者業務課 〒985-8550 多賀城市明月2-2-1 宮城職業能力開発促進センター内 022-361-6288 秋田支部高齢・障害者業務課 〒010-0101 潟上市天王字上北野4-143 秋田職業能力開発促進センター内 018-872-1801 山形支部高齢・障害者業務課 〒990-2161 山形市漆山1954 山形職業能力開発促進センター内 023-674-9567 福島支部高齢・障害者業務課 〒960-8054 福島市三河北町7-14 福島職業能力開発促進センター内 024-526-1510 茨城支部高齢・障害者業務課 〒310-0803 水戸市城南1-4-7 第5プリンスビル5階 029-300-1215 栃木支部高齢・障害者業務課 〒320-0072 宇都宮市若草1-4-23 栃木職業能力開発促進センター内 028-650-6226 群馬支部高齢・障害者業務課 〒379-2154 前橋市天川大島町130-1 ハローワーク前橋3階 027-287-1511 埼玉支部高齢・障害者業務課 〒336-0931 さいたま市緑区原山2-18-8 埼玉職業能力開発促進センター内 048-813-1112 千葉支部高齢・障害者業務課 〒263-0004 千葉市稲毛区六方町274 千葉職業能力開発促進センター内 043-304-7730 東京支部高齢・障害者業務課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2794 東京支部高齢・障害者窓口サービス課 〒130-0022 墨田区江東橋2-19-12 ハローワーク墨田5階 03-5638-2284 神奈川支部高齢・障害者業務課 〒241-0824 横浜市旭区南希望が丘78 関東職業能力開発促進センター内 045-360-6010 新潟支部高齢・障害者業務課 〒951-8061 新潟市中央区西堀通6-866 NEXT21ビル12階 025-226-6011 富山支部高齢・障害者業務課 〒933-0982 高岡市八ケ55 富山職業能力開発促進センター内 0766-26-1881 石川支部高齢・障害者業務課 〒920-0352 金沢市観音堂町へ1 石川職業能力開発促進センター内 076-267-6001 福井支部高齢・障害者業務課 〒915-0853 越前市行松町25-10 福井職業能力開発促進センター内 0778-23-1021 山梨支部高齢・障害者業務課 〒400-0854 甲府市中小河原町403-1 山梨職業能力開発促進センター内 055-242-3723 長野支部高齢・障害者業務課 〒381-0043 長野市吉田4-25-12 長野職業能力開発促進センター内 026-258-6001 岐阜支部高齢・障害者業務課 〒500-8842 岐阜市金町5-25 G-frontⅡ7階 058-265-5823 静岡支部高齢・障害者業務課 〒422-8033 静岡市駿河区登呂3-1-35 静岡職業能力開発促進センター内 054-280-3622 愛知支部高齢・障害者業務課 〒460-0003 名古屋市中区錦1-10-1 MIテラス名古屋伏見4階 052-218-3385 三重支部高齢・障害者業務課 〒514-0002 津市島崎町327-1 ハローワーク津2階 059-213-9255 滋賀支部高齢・障害者業務課 〒520-0856 大津市光が丘町3-13 滋賀職業能力開発促進センター内 077-537-1214 京都支部高齢・障害者業務課 〒617-0843 長岡京市友岡1-2-1 京都職業能力開発促進センター内 075-951-7481 大阪支部高齢・障害者業務課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0782 大阪支部高齢・障害者窓口サービス課 〒566-0022 摂津市三島1-2-1 関西職業能力開発促進センター内 06-7664-0722 兵庫支部高齢・障害者業務課 〒661-0045 尼崎市武庫豊町3-1-50 兵庫職業能力開発促進センター内 06-6431-8201 奈良支部高齢・障害者業務課 〒634-0033 橿原市城殿町433 奈良職業能力開発促進センター内 0744-22-5232 和歌山支部高齢・障害者業務課 〒640-8483 和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター内 073-462-6900 鳥取支部高齢・障害者業務課 〒689-1112 鳥取市若葉台南7-1-11 鳥取職業能力開発促進センター内 0857-52-8803 島根支部高齢・障害者業務課 〒690-0001 松江市東朝日町267 島根職業能力開発促進センター内 0852-60-1677 岡山支部高齢・障害者業務課 〒700-0951 岡山市北区田中580 岡山職業能力開発促進センター内 086-241-0166 広島支部高齢・障害者業務課 〒730-0825 広島市中区光南5-2-65 広島職業能力開発促進センター内 082-545-7150 山口支部高齢・障害者業務課 〒753-0861 山口市矢原1284-1 山口職業能力開発促進センター内 083-995-2050 徳島支部高齢・障害者業務課 〒770-0823 徳島市出来島本町1-5 ハローワーク徳島5階 088-611-2388 香川支部高齢・障害者業務課 〒761-8063 高松市花ノ宮町2-4-3 香川職業能力開発促進センター内 087-814-3791 愛媛支部高齢・障害者業務課 〒791-8044 松山市西垣生町2184 愛媛職業能力開発促進センター内 089-905-6780 高知支部高齢・障害者業務課 〒781-8010 高知市桟橋通4-15-68 高知職業能力開発促進センター内 088-837-1160 福岡支部高齢・障害者業務課 〒810-0042 福岡市中央区赤坂1-10-17 しんくみ赤坂ビル6階 092-718-1310 佐賀支部高齢・障害者業務課 〒849-0911 佐賀市兵庫町若宮1042-2 佐賀職業能力開発促進センター内 0952-37-9117 長崎支部高齢・障害者業務課 〒854-0062 諫早市小船越町1113 長崎職業能力開発促進センター内 0957-35-4721 熊本支部高齢・障害者業務課 〒861-1102 合志市須屋2505-3 熊本職業能力開発促進センター内 096-249-1888 大分支部高齢・障害者業務課 〒870-0131 大分市皆春1483-1 大分職業能力開発促進センター内 097-522-7255 宮崎支部高齢・障害者業務課 〒880-0916 宮崎市大字恒久4241 宮崎職業能力開発促進センター内 0985-51-1556 鹿児島支部高齢・障害者業務課 〒890-0068 鹿児島市東郡元町14-3 鹿児島職業能力開発促進センター内 099-813-0132 沖縄支部高齢・障害者業務課 〒900-0006 那覇市おもろまち1-3-25 沖縄職業総合庁舎4階 098-941-3301 【裏表紙】 高年齢者雇用に取り組む事業主のみなさまへ 生涯現役社会の実現に向けたシンポジウム  改正高年齢者雇用安定法により、70 歳までの就業機会の確保が企業の努力義務となるなか、高年齢者の戦力化が企業において喫緊の課題となっています。  生涯現役社会の実現に向けたシンポジウムでは、各企業の人事担当者をはじめとする関係者のみなさまの関心が高いテーマごとに、講演や事例発表、パネルディスカッションを通じて、ミドル・シニア層の戦力化に向けた実践的な取組みや課題、今後の展望について、みなさまとともに考えます。 参加方法 ライブ配信(※事前申込制・各回先着500名) 参加費 無料 申込方法 以下のURLへアクセスし、専用フォームからお申し込みください。 https://www.elder.jeed.go.jp/moushikomi.html 2026(令和8)年10月16日(金)14:00~16:45 ワークエンゲージメントとウェルビーイングの向上のための効果的取組 ~生涯現役でいきいきと働いていくために~ 【出演者】 石山恒貴 氏 法政大学大学院地域創造インスティテュート/キャリアデザイン学部 教授 伊澤星史 氏 株式会社JR東日本テクノハートTESSEI総務部担当部長 竹内俊介 氏 太陽生命保険株式会社 人事総務部人事課長 大植栄二郎 氏 DHLジャパン株式会社 執行役員人事本部長 2026(令和8)年10月30日(金)14:00~16:45 生涯現役で活躍するためのキャリア戦略と企業支援 【出演者】 廣川進 氏 法政大学キャリアデザイン学部 教授 余語一喜 氏 株式会社IHI 人事部次長 山本秀一 氏 中外製薬株式会社 人事部エンプロイーサポートグループ グループマネジャー 玉井智也 氏 トラスコ中山株式会社 経営管理本部人事部 人事課長 兼 ヘルスケア課長 主催:独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 後援:厚生労働省、一般社団法人日本経済団体連合会、公益財団法人産業雇用安定センター、一般財団法人ACCN、特定非営利活動法人キャリアコンサルティング協議会 2026 10 令和8年10月1日発行(毎月1回1日発行)第48巻第10号通巻563号 〈発行〉独立行政法人 高齢・障害・求職者雇用支援機構(JEED) 〈編集委託〉株式会社労働調査会