Leaders Talk No.137 「無定年」時代に立ち向かう“自律心”を持とう 「サバイバルシニア発想」で高齢者の活力を引き出せ! 京都精華大学 メディア表現学部メディアイノベーション専攻 教授 三嶋(原)浩子さん みしま(はら)・ひろ 2004(平成16)〜2026(令和8)年3月まで、株式会社博報堂にてCM プランナー・コピーライターとして勤務し、2026年4月より現職。著書に『就活・受験に効く!自分キャッチコピー』(中央経済社)、『未定年図鑑〜定年までの生き方コレクション』(中央経済社)など。2026年1月に『“引退しない人生”をデザインする 無定年の設計図』(高橋書店)を出版。  生涯現役時代を迎え、就労期間が延伸傾向にある一方、役職定年や定年後再雇用により、職責や役割が変更となるなかで、モチベーション高く働いていくためには、会社による支援はもちろん、本人の意欲やマインドセットが重要です。今回は、「未定年」、「無定年」といった言葉を生み出した京都精華大学教授の三嶋浩子さんにご登場いただき、60代以降をより充実したものとするためのヒントについて、お話をうかがいました。 60歳以降の生き方・働き方について悩む「未定年」年齢に関係なく働き続けるための「無定年」 ―三嶋さんは、2023(令和5)年に刊行された『未定年図鑑』に続き、2026年1月に『無定年の設計図』を出版されました。「未定年」、「無定年」という言葉の意味や、その言葉に込められた思いについてお聞かせください。 三嶋 私は2026年3月まで広告会社の博報堂でコピーライターをしていました。「未定年」という言葉は私が所属しているシニア向けビジネスの開発とネクストキャリアを提案する「博報堂シニアビジネスフォース」というプロジェクトから生まれた言葉です。50歳になると、まだ元気だし、働きたいという気持ちがあるが、60歳定年、あるいは65歳までの雇用延長のゴールテープが見えてくるなかで、「さあどうしようか」と心が揺れ動く思春期の未成年のような世代ということで、「未定年」と名づけました。未定年時代をどう生きるのか、セカンドライフ、セカンドキャリアに備えるためのロールモデルを紹介したのが『未定年図鑑』です。  一方、60歳、65歳で職業生活を終えるのではなく、65歳を過ぎても働き続けている人は多いですし、将来の生活不安も含めて「働けるうちはいつまでも働きたい」という人が増えています。そこで定年なく働き続ける生き方を「無定年」と名づけ、前向きにセカンドライフ、セカンドキャリアを考えたい人に向けて書いたのが『無定年の設計図』です。 ―心が揺れ動く未定年に関して「中年の危機」という言葉もあります。これも関連があるのでしょうか。 三嶋 あります。私もキャリアコンサルタントの資格を持っていますが、キャリア論でも「中年期のクライシス」という言葉があり、揺れ動く気持ちとリンクしています。働きたいのに定年があるという悩み以外にも、自分や家族の健康問題の悩み、また、いまは初婚平均年齢が30歳を超え、52〜55歳の団塊ジュニア世代はお子さんが中学生、高校生、大学生という家庭も少なくなく、教育費もかかります。未定年世代はいろいろと複雑な悩みを抱えている世代でもあります。 ―生涯現役時代といわれ、60歳以降も社会で活躍を続けるために、あるいは社会とのつながりを維持し続けるために、未定年の50代は何を意識し、職場や社会とどう向き合っていけばよいでしょうか。 三嶋 どういう人であれ、共通しておすすめ したいキーワードは職場や取引先などから「嫌われない」ことです。特にセカンドキャリアを考えると、あらゆる場面で人に嫌われないというのが最優先事項だと思います。その理由として、シニア世代がセカンドキャリアを考えて再就職しようにもむずかしいという現実があります。一方で、60歳以降のセカンドキャリアを見つけた人の多くが、知人・友人の紹介だったという調査があるのです。つまり人間関係が良好であることがセカンドキャリアにもつながるのです。  とはいっても嫌われないようにすることは言うは易しで、じつはむずかしいものです。一般論ですが、50歳ぐらいになると、若い人から煙たがられるようになると思ったほうがよいのです。  「後輩を助けてあげたい」という気持ちは大切なことですが、助ける方向性を間違えてしまえば、上から目線のいい方になって嫌われてしまいます。「若者の役に立ちたい」、という気持ち・行動がありがた迷惑になる可能性もあるのです。そのことを十分に意識することが重要です。 ―著書では、「無定年」を考えるうえで「どう生きたいか」というテーマを設定することが重要だと書かれていますね。 三嶋 どう生きていきたいかを別の言葉でいうと、「自分が何者か」を知ること。具体的には自分が得意なものは何か。人より優れていなくてもよいのですが、自分が好きなこと、やりたいジャンルを明確に旗として立てることが大切です。よくキャリアの棚卸しというと、職業人として身につけたスキルや経験の棚卸しにとどまっていることが多いのですが、そうではなく、小・中・高校など子どものころまで遡(さかのぼ)り、興味や関心があったことも含めてふり返り、やりたいことを見つけ出すのが棚卸しです。  やりたいことが見つかったら、心の中で思っているだけではなく、「これをやりたいんだ」と周囲にいいふらす、あるいはSNSを通じて世間に発信することです。自分が得意なこと、好きなことを発信することで、いろいろな人との出会いや、やりたいこととのつながりが生まれます。こうしたプロパガンダを50代のうちにやっておくことは非常に有効です。 自分のキャリアに独自性を出すための「キャリアトッピング」の視点を ―自分のキャリアに独自性を持たせるキャリアトッピングも重要だと指摘されています。 三嶋 いままで積み重ねてきたキャリアをより強くするのが「キャリアトッピング」です。私の場合はコピーライターですが、キャリアコンサルタントの資格をトッピングしました。学生に就職相談をされることもあり、それならしっかりとした知識を身につけたいと思い、資格を取得しました。コピーライターなのでエントリーシートなどの文章のチェックにスキルは活かせますし、相談にも応じることができます。本来、コピーライターとキャリアコンサルタントは何の関連もありませんが、自分自身で「こうつながるな」とストーリーを考えてトッピングしました。  例えば「営業職の経験しかないし、手に職もないから」とセカンドキャリアを諦めてしまう人が、「昔から子どもが好きだった」ということに気づいて、保育士の資格を取って働いている、というケースもあります。営業でつちかったコミュニケーション力に、「子どもが好き」というところから保育士資格をトッピングし、第二の人生に進んだのです。キャリア相談などでおすすめの資格を聞かれることがあるのですが、おすすめはありません。なぜならば、自分の好きなことなど個々人のパーソナリティと紐(ひも)づいたビジョンを持つことが何より重要だからです。 ―これは「キャリア自律」という言葉にも通じます。無定年時代を生きるには独自のビジョンを持つことが重要ということですね。 三嶋 キャリア自律をいい換えると、「自分のキャリアをクリエイティブする」ということ。新たな仕事や資格を探すだけではなく、いままで自分がやってきた経験やスキルを信じ、新しい仕事に変換させるのです。例えば、主婦歴40年の人が持つ料理や炊事、洗濯といった家事、子育てなどの仕事も立派なスキルでありキャリアですが、それだけではだめで、そのスキルをどう活かすかがクリエイティブです。  自律とはキャリアの方向性や選択を自身の信念に基づいて決定し、行動していくこと。つまり自分で考えて自らのキャリアをコントロールするのが自律です。50代から“自律心”を持つことが大事ですが、60代の再雇用の人でも決して手遅れではありません。 シニアが輝ける職域の創出と「がんばりたい」と思える施策の展開を ―会社側の視点では60歳以降も活躍してもらうために、会社としてキャリア自律をいかにサポートしていくかも重要かと思います。会社に求められる支援とは何でしょうか。 三嶋 いまの50・60代は終身雇用制度に守られてきた世代であり、会社から「自律しろ」といわれても、そのロールモデルがいません。経営者の方には若年労働力人口が減っていくなかで若い人の採用や投資に注力するよりも、むしろ50・60代のシニア社員が活躍できるステージをどうつくるかを考えてほしいと思います。役職定年や再雇用となった人が、後進育成の役割をになうケースは多いと思いますが、コミュニケーションが図れず、うまくいかないことも少なくないと耳にすることもあります。そういう意味でも、後進育成のみを活躍のステージと位置づける必要はありません。経営者のみなさんにお願いしたいのは、シニアが輝ける職域をつくること、そしてシニアが「がんばりたい」と思えるような施策を講じることです。具体的には活躍できるポジションをつくる、あるいはシニアの力が活かせる新しい事業を立ち上げることだと思います。  シニアが活躍できるステージを用意できたら、次は継続的に力を発揮してもらうため「サバイバルシニア発想」が重要です。つまり、生き残るためにシニア同士に競わせる仕組みをつくることです。例えば、役職定年後や定年後再雇用であっても、貢献や評価に応じて給与が上がる仕組みをつくることもその一つです。特に現在50 代の団塊ジュニア層は人数も多く、子どものころから競争社会を生き抜いてきた世代です。ポテンシャルは持っていますし、その力を呼び覚ますのが経営者の役割ではないでしょうか。ぜひサバイバルシニア発想でシニアの活躍をうながしてほしいと思います。 (聞き手・文/溝上憲文 撮影/中岡泰博)