高齢者の職場探訪 北から、南から 第170回 和歌山県 このコーナーでは、都道府県ごとに、当機構(JEED)の70歳雇用推進プランナー(以下、「プランナー」)の協力を得て、高齢者雇用に理解のある経営者や人事・労務担当者、そして活き活きと働く高齢者本人の声を紹介します。 適切な人員配置とIT化、助けあう社風で、すべての従業員が活き活きと働ける職場 企業プロフィール 株式会社あおぞらケアセンター(和歌山県和歌山市) ▲創業 2001(平成13)年 ▲業種 高齢者福祉・介護事業(有料老人ホーム、グループホーム などを運営) ▲従業員数 160人 (60歳以上男女内訳) 男性(1人)、女性(74人) (年齢内訳) 60〜64歳 18人(11.3%) 65〜69歳 15人(9.4%) 70歳以上 42人(26.3%) ▲定年・継続雇用制度 定年66歳。基準該当者全員を年齢の上限なく継続雇用。最高年齢者は78歳  和歌山県は、紀伊(きい)半島の南西部に位置し、海、山、川の自然環境に恵まれた地域です。世界遺産「紀伊山地の霊場(れいじょう)と参詣道(さんけいみち)」に代表される観光資源も豊富に有し、数々の歴史名所や温泉などに世界各地から多くの人々が訪れています。  産業では、全国有数の果樹の産地として知られ、みかんや梅、柿、桃など多彩な果物が生産されています。また、マグロや太刀魚などの豊富な水産物を活かした食品加工業も盛んです。製造業は、おもに鉄鋼や化学工業が発達しています。さらに、長い歴史のなかで継承されている紀州漆器、紀州箪笥(たんす)、紀州へら竿などの伝統工芸品も息づいています。  JEED和歌山支部高齢・障害者業務課の小谷(こたに)恵介(けいすけ)課長は同支部の取組みについて、「県内の高齢化率は全国平均と比べて非常に高く、高齢社員を戦力としている事業所が多いといえます。比較的小規模の事業所が多いため、運用によって高齢者を雇用している事業所も多く、相談援助業務においては、実際に高齢者を雇用していくうえでの具体的な助言が求められます。そのためプランナーは、事業所訪問活動を通じて、各事業所と信頼関係を構築しながら実情に即した解決方法の提案を心がけています」と話します。  濱田(はまだ)智司(さとし)プランナーは、同支部で活躍するプランナーの一人です。社会保険労務士、中小企業診断士などの資格を持ち、深い知見と経験を活かし、事業所訪問を通じて各企業の高齢者雇用の課題などを聞き、その整理や解決、制度改革などにつながる支援を続けています。  今回は濱田プランナーの案内で「株式会社あおぞらケアセンター」を訪れました。 介護サービスに注力して25年  株式会社あおぞらケアセンターは、和歌山市を中心に有料老人ホームやグループホーム、デイサービスなど、おもに高齢者介護サービスを提供する民間企業です。  2001(平成13)年に現在の藤田(ふじた)元人(もとひと)代表取締役が有限会社あおぞらヘルパーステーションを設立したことが出発点となり、2006年に株式会社あおぞらケアセンターに商号変更。現在では、住宅型有料老人ホーム「あすか苑」、介護付有料老人ホーム「第2あすか苑」、グループホーム「あおぞら」など、多数の施設を展開しています。  従業員数は160人。平均年齢は53歳。全従業員に占める60歳以上の割合が46.9%、70歳以上が26.3%と高齢従業員が多いことが特徴です。また、障害者、外国人材、子育て世代といった多様な人材を採用しており、そのなかで、従業員同士が助けあい、支えあう社風が育まれ、有給休暇の取得率はほぼ100%。働きやすく、休みが取りやすい職場環境を実現しています。  藤田社長は、同社の方針について次のように語ります。「『お一人おひとりを大切に。笑顔と真心でお手伝い』をモットーに掲げています。利用者さまだけでなく、従業員も大切にするという思いをこめたもので、従業員については、年齢や障害の有無などではなく一人ひとりの適性、個性に合わせた配置を行い、それぞれのよさを伸ばして成長をうながすことを大切にしています」と同社の方針を語ります。  日々の現場では、ときにはスタッフが心を痛めるようなことも起こりますが、すぐに相談できる職場づくりに管理者が努めており、「まずは聞いて受けとめることを実践しています」と管理者の久喜(きゅうき)美幸(みゆき)主任は話します。管理者同士の連携も大切にし、よいことも悩みも共有して、必要に応じて藤田(ふじた)眞佐子(まさこ)専務取締役が管理者の相談にのり、スタッフが笑顔で仕事に臨めるように気を配っています。藤田専務は、「この10年ほどで施設を超えて支えあう関係も築かれ、全体で『チームあおぞら』といえるような組織になったと感じています」と明るい表情で語ります。  定年は66歳。基準該当者全員を年齢の上限なく継続雇用をしており、70歳以降は月20時間の勤務を基本に、希望により柔軟に対応しています。  柔軟な働き方や休みが取りやすい職場になった背景には、4年前に進めた勤怠管理や介護記録などのIT化、適切な人員配置といった取組みがあります。IT化は、だれもが無理なく扱えてリーズナブルなシステムを導入し、従業員間でサポートして全員が使えるようになりました。  人員配置について、藤田社長は次のように話します。  「施設の業務は曜日によって多少異なり、必要な人数も変わります。そこで曜日ごとの業務をすべて洗い出し、見直しをしながら必要な人員と時間を割り出し、1日につき1人の余剰人員が出るように配置しました。そうすることで急な休みにも対応できますし、従業員が活き活きと働く職場づくりにつながります。それでも不足したときは、施設間で助けあうようになり、その結果、長く働いている従業員が多い職場になりました」 プランナーの提案を参考にして  濱田プランナーは、2013年度に同社を初訪問し、2017年度と2022(令和4)年度にも訪れています。  「印象的だったのは、社長と専務のご夫婦が、年齢や障害の有無にかかわりなくみなさんに対して真摯に接しており、『できないことがあっても笑って許せる社風にしたい』と、従業員同士の助けあいを醸成する努力をされていたことです。高齢従業員にはずっと働いてもらいたいとのお考えを聞き、2013年度には継続雇用の上限年齢の引上げと助成金の活用、その後は70歳以上の従業員の働き方などについて提案をしました」(濱田プランナー)  これらの提案について、「大いに参考になり、2017年に定年を66歳に引き上げた際には助成金を活用することができました。働き方やモチベーション向上などのアイデアもいただき参考になっています」と藤田専務はふり返ります。  今回は、50代、60代で入社し、介護施設の大事な役割をになって70代のいまも元気に働いている 三人の方にお話をうかがいました。 働きやすい職場で楽しく元気に活躍  玉置(たまき)美代子(みよこ)さん(72歳)は、54歳のときに入社して18年。介護は未経験でしたが、職業訓練機関で「介護職員初任者研修」を受講して介護職に就きました。現在は1日3〜4時間、週4日勤務で、住宅型有料老人ホーム「あすか苑」(入居定員30人)で入浴介助、配膳、トイレ介助などの業務を担当しています。働き方や担当業務は、1年ごとに主任と相談しながら決めているそうです。  「あすか苑」で暮らす利用者の方には、90歳を超えて元気な方も多く、100歳を超えた方もいらっしゃるそうで、「利用者さまとお話しすることが楽しいですし、職場は主任やトップの方々がいろいろと気をつかってくださる、働きやすい環境です。これからもがんばっていきたいと思います」と玉置さん。大きな炊飯器を台車で運ぶなど、昼食の準備がはじまって少し忙しそうに見えましたが、利用者の方が立ち上がって移動する様子に気を配り、さりげなく声をかけて寄り添い、歩行を見守っている姿が印象的でした。  中前(なかまえ)きみよさん(73歳)は、58歳のときに入社して勤続15年。玉置さんと同じように、職業訓練機関で「介護職員初任者研修」を受講して、介護職に就きました。現在は「あすか苑」で入浴介助、食事介助、シーツ交換や衣類の整理などをする環境整備をにない、1日4時間、週4日勤務しています。  「利用者の方々が、けがなどをされないように、安全面にもっとも気をつけています」と中前さん。取材当日は気温が高かったため、熱中症に気をつけて、タイミングをみては利用者の方々の水分補給にも努めていました。  「毎日人生の先輩方に接し、まだ学ぶことが多いなあと感じます。この仕事は奥が深いです。主任がやさしくて何でも相談しやすい環境ですし、有給休暇も取りやすい職場です。これからもここで元気にがんばっていきたいです」とにこやかな表情で話された中前さんです。  「あすか苑」の久喜主任は、玉置さんと中前さんの働きぶりを「利用者さまと信頼関係を築いていて、お一人おひとりのことをよくわかって接しているので、管理者としてとても助かっています。短時間勤務でも毎日の業務に責任を持って取り組まれています。健康に気をつけながら経験を活かし、できるかぎり勤務を続けていただきたいです」と話してくれました。  「あすか苑」に勤めて8年になる佐良家(さらいえ)佳代(かよ)さん(76歳)は、利用者の衣類などの洗濯を担当し、9時から13時まで1日4時間、週4日勤務を続けています。  心がけているのは、「利用者さまのお洗濯物をよりきれいにしてお渡しすることです。臭いなども、試行錯誤の末、取り除いた状態に仕上げられるようになりました」と話す佐良家さん。4時間という短時間でもスムーズに仕事が運べるように細かいところにも気を配り、「きれいに洗いあげられたときは、幸せな気持ちになります。よかったことは、足腰が丈夫になったことです」とはつらつとした表情で話してくれました。  副主任の竹田(たけだ)佐枝(さえ)さんは佐良家さんの働きぶりについて、「暑い日も寒い日も元気に意欲的に業務に取り組まれ、一枚一枚に気を配り洗濯をしています。ほかの職員との関係も良好で、施設運営を支える重要な役割をになって活躍されています。ここでの洗濯物は便や血液が付着していることがあり、洗浄はたいへんですが、洗剤選びや洗い方を工夫され、教えてもらったこともあります。いつも『私に任せて』と笑顔で引き受けてくれるので、助けられています」と話してくれました。  藤田社長は最後に、同社のこれからについて次のように語りました。「ロボットなどの最新のテクノロジーにも目を向けながら、利用者のみなさまとそのご家族、そして従業員にとってよりよい施設や職場となるように励み、そのなかで高齢従業員が引き続き明るく楽しく働き続けて、経験と力を当社の業務に発揮してくださることを期待しています」(取材・増山美智子) 濱田智司 プランナー アドバイザー・プランナー歴:21年 [濱田プランナーから] 「プランナー活動では、訪問先の事業所に役立つ情報などをお渡しすることが重要とつねに考えて活動しています。制度改善提案については、おもに高齢社員のモチベーションアップの方策等について力をかけて提案しています。働き方改革で生産性の向上が叫ばれているなか、高齢者雇用においてはその視点での提案も重要となります」 高齢者雇用の相談・助言活動を行っています ◆和歌山支部高齢・障害者業務課の小谷課長は、濱田プランナーについて「社会保険労務士、中小企業診断士としての経験を活かした人事労務管理・賃金管理や高齢社員のモチベーション管理を得意分野とし、親しみやすい人柄とていねいな相談助言、的確な提案は、事業所から非常に好評です。プランナーを対象とする研修の講師も担当し、当支部のプランナーからも高い信頼を寄せられています」と紹介します。 ◆和歌山支部高齢・障害者業務課は、和歌山市内中心部から車で約 20分、JR阪和線「六十谷(むそた)」駅から徒歩約30分の「ポリテクセンター和歌山」内にあります。 ◆和歌山県では、6人の70歳雇用推進プランナーが活動し、2025年度は110件の相談・助言訪問と50 件の制度改善提案を行いました。 ◆相談・助言を無料で行います。お気軽にお問い合わせください。 ●和歌山支部高齢・障害者業務課 住所:和歌山県和歌山市園部1276 和歌山職業能力開発促進センター(ポリテクセンター和歌山)内 電話:073-462-6900 地図文字 和歌山県和歌山市 写真のキャプション あおぞらケアセンター本社社屋(写真左)と運営している住宅型有料老人ホーム「あすか苑」(写真右奥) 左から、久喜美幸主任(介護福祉士)、藤田元人代表取締役、藤田眞佐子専務取締役 住宅型有料老人ホーム「あすか苑」で、昼食の準備をする玉置美代子さん。利用者の移動などにも目を配り、そっと寄り添っていた 「あすか苑」の利用者のためにお茶を用意する中前きみよさん。熱中症を防ぐために、夏場は利用者の水分補給にも気を配っている 利用者の衣類などの洗濯を担当し、手際よく干す佐良家佳代さん。佐良家さんが干すと「取り込みやすい」と職場では評判だ