第120回 高齢者に聞く生涯現役で働くとは  横山達巳(67歳)さんは、上下水道工事の設計をになう技術者として、技術畑一筋に歩んできた。現在も、高齢者雇用を積極的に推進する会社の第一線で働き、後進の指導にも注力する。技術の継承を視野に置く横山さんが、生涯現役で働くためのヒントを語る。 株式会社NJS(エヌジェーエス) プロジェクトエンジニア 横山(よこやま)達巳(たつみ)さん 技術屋のDNAを受け継いで  私は、東京の下町・深川(ふかがわ)の生まれです。中学校までは都内で過ごし、その後、父の転勤で千葉県に移りました。父は日本国有鉄道(略称:国鉄、現在のJR)の職員で、蒸気機関車の機関士でした。子どものころ、父の仕事を見たことがありますが、休む間もなく釜に石炭をくべる重労働に驚かされました。父と同じような機関士になろうとは考えませんでしたが、技術の世界を歩き続けてきた私のなかには、機関士だった父のDNAが受け継がれているようです。  千葉県内の高校を卒業後、私は県内の大学に進学して土木工学を専攻しました。土木工学を選んだのは、建設現場で働きたいという思いがあったからです。大学卒業後、コンサルタント会社に入社し、下水道施設の設計に従事しました。以来、ずっとその道を歩いてきました。会社は変わっても仕事は同じ、この道一筋というと格好いいですが、じつはそれしかできないというのが本当のところです。  設計という仕事の具体的な内容は、下水道施設の計画から現場での測量、図面作成作業までです。測量するときは自ら機材を運びますが、機材が結構重いのが難点です。最近は、若い人と同じ現場に出ることもあり、楽しく働かせてもらっています。  横山さんの名刺には「技術士」という記載がある。上下水道の設計・維持管理の国家資格で、インフラのなかでも責任が重いとされる上下水道の技術士資格は、難関といわれる。「ずいぶん前にとったので苦労は忘れました」と横山さんは屈託のない笑顔を見せる。 新しい出会いに背中を押されて  私の兄は、公務員として上下水道関係の仕事をしてきました。私にも公務員として働くという選択肢もありましたが、事務所内での仕事よりも、現場に出られる仕事のほうが好きなので、この道を選びました。労働条件を考えて、いくつか会社を変わりましたが、最後に勤めた会社で定年まで勤めるつもりでした。  そして、当社には、58歳のときに入社しました。それから、いつのまにか9年が経ちました。創業75年余の業界のパイオニア企業でもある当社に入社できたのも、技術士という国家資格と経験があったことに加えて、何かの縁があったからだと思います。そして、これまで自分が重ねてきた経験を活かしてみたいと思い、入社しました。  いま若い人に伝えたいことは、やはり資格取得は自分の将来設計に大いに役立つということです。上下水道の技術士は公共性や安全性を要求されることから合格率も厳しいですが、ぜひ挑戦してみてください。  株式会社NJSは75年前の創業時から社会発展の基盤として上下水道の整備に努め、現在は災害対応や、インフラの老朽化対策、人口減少への対応にも全社をあげて取り組んでいる。「やりがいがあります」と横山さん。 柔軟な勤務制度のもとで  じつは、当社は『エルダー』2025(令和7)年9月号に登場しています。「多様で柔軟な勤務制度を整備し、生涯現役で働ける職場づくり」という特集の企業事例として、当社の柔軟な働き方が紹介されたのです※。当社では、私が入社した2年後に、それまでの「60歳定年・65歳まで再雇用」という高齢者雇用の制度が、「70歳定年・70歳の定年後は年齢上限なく働くことが可能」となりました。この制度の改定の背景には、上下水道工事の業界全体が抱える、慢性的な人材不足があるようです。  定年制の改定とともに、働く人にとって自由度の高い働き方も注目されました。当社はフレックスタイム制をとっていますが、私は通勤ラッシュを避けるため朝7時半には出社しています。フレックスタイム制は、子どもの保育園の送迎などにも融通がききますので、高齢社員ばかりではなく、多くの社員から歓迎されています。  ただ、お客さまは週5日で仕事されているので、私も週5日のフルタイムで働いています。また、年度末などの繁忙期にはともに働く若い人たちのことを考えながら働き方を調整しています。  定年制の改定により、シニア社員の活躍の場が広がり、それはそのまま技術継承を着実に進める体制が整備されたことになる。横山さんは「若い世代の元気をいただきながら、一緒に仕事をしています」と、再び笑顔になった。 若い人の力になるために  いまは30代の人たちと一緒に仕事をする機会が増え、毎日楽しく働いています。現場の測量や調査が必要なときは、関東以外の地方などにも出かけていきます。みなさんも道路などで見かけたことがあると思いますが、三脚の上に置く測量機器はかなりの重量があり、最近はかなり身体がきつくなってきました。若い人に助けてもらいながら働いているというのが実感です。  それもあって、いまの若い人たちのトレンドが知りたくて、終業後の飲み会にはまめに参加しています。自分の子どもよりも若い世代とつきあっているおかげでしょうか、自分自身の若返りも図られているようです。飲み会の席などでは、仕事への向き合い方などを中心に話をしています。仕事というものはゴールというものがなかなか見えませんから、息切れしないようにペース配分の力を身に着けることが大切だと私は思います。ただひとつ気をつけていることは、「自分の若かったころは……」は禁句だと肝に銘じています。 生涯現役を目ざして  いま、私は67歳です。当社では、80代の先輩も元気に働いています。「私も生涯現役を目ざして働き続けます」というのが優等生的な答えなのでしょうが、私は少し違うことを考えています。  若い人と一緒に働くなかで、つねに彼らのことを優先して考えるようになりました。私の技術は惜しみなく継承していきますが、若い人が懸命に働いて得た成果の妨げになるようなことはしたくないのです。手を動かさずに、口だけ出すようになったら、私は潔くリタイアしようと思っています。もちろん、私自身がきちんと仕事で役に立てればよいだけのことですから、そのためにも健康には気をつけていきたいと思っています。例えば、これからはウォーキングをしようと考えています。設計屋としてのモットーは、お客さまが望んでいることを想像するということ。想像力を鍛えて、若い仲間とともにもう少しがんばってみましょうか。 ※同社の事例記事(本誌2025年9月号)は、JEEDホームページからもご覧になれます。 https://www.jeed.go.jp/elderly/data/elder/book/elder_202509/index.html#page=22