エルダー2019年4月号
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これまでの日本の企業社会では、定年は一つの区切りで、60歳を境に人事管理を大きく変えてきた経緯があります。ところが、高齢化が進む(年金の支給年齢も上がる)なか、人手不足社会となり、60代前半層について、会社としてはより戦力化を図っていきたい、働く側もがんばって働いていきたいというケースが増えています。その場合、現役正社員の人事管理と、60歳以降も引き続き雇用する社員の人事管理の継続性を意識しないと、働く側としては、残念ながらモチベーションが下がってしまいます。その要因の一つが給与の問題です。60代前半層の戦力化を図るためには、定年を機に給与が下がったとしても、その人の努力や働きぶりによって再び上がるような仕組みを工夫し、整えていく必要があると考えています。そうした人事管理の整備は、働く人の納得性を高め、モチベーション向上につながり、そのことが職場の生産性を高めることに貢献するからです。人事管理を設計するうえで重要な点は、どのような仕事に配置して仕事をしてもらうかという配置管理と、どのような就業形態で活用するのかという労働時間管理、つまり「雇用管理」と、働きぶりに対応してどのような報酬を与えるのかという「報酬管理」とのバランスを図ることです。このことは60代前半層にもあてはまります。高齢・障害・求職者雇用支援機構で、「60歳以降の社員に関する人事管理」についてアンケート調査を実施し、その結果を昨年、『継続雇用制度の現状と制度進化』※にまとめました。結果のなかから、60代前半層の「昇給」の実施状況をみると、雇用確保措置企業(定年年齢64歳以下かつ継続雇用制度で雇用上限年齢が65歳以下)では、「全員にない」が最も多く73・6%、次いで「一部にある」が15・0%、「全員にある」が10・8%となっています。一方、定年65歳以上企業では、「全員にある」が44・3%、次いで「全員にない」が36・4%、「一部にある」が17・7%となっています。60歳定年後に給料が下がったとしても、昇給機会があればモチベーションは高まる可能性があります。しかしこの結果をみると、雇用確保措置企業でその機会が「全員にある」企業は約1割です。がんばっても給料が上がらないとなると、働く側としてはやはりつらいところです。また、現役正社員と異なる人事管理を採用する場合には、企業が60代前半層の活用方針を明確にすることと、それを60代前半層と現役正社員に浸透させるための支援策を実施することも求められます。60代前半層の働き方のニーズは人によって違いがありますので、現役正社員と継続性を維持する人事管理を行うことが、必ずしも合理的とはいえない場合もあります。大事なことは、どのような仕事に従事してもらうのか、そしてどの程度働いてもらうのかを重視して、人事管理制度を検討する必要があるということです。60歳代前半層の人事管理の整備と定年延長 ―現役(59歳以下)正社員の人事管理との継続性に注目して―玉川大学経営学部国際経営学科 教授 大木 栄一講 演※ 『継続雇用制度の現状と制度進化』  https://www.jeed.or.jp/elderly/news/2018/q2k4vk000001t5bt-att/q2k4vk000001t5d0.pdf2019.420福岡会場

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