エルダー2019年4月号
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エルダー27FOOD日本史にみる長寿食食文化史研究家● 永山久夫若竹煮の春タケノコは伸びるのが速い昔の日本人は、季節にあわせ、その季節に伸び盛りのものを選んで食べました。それが旬のもの。生命力が躍動していて、野菜や山菜は栄養が満ち、果物だったらビタミンが増すため、健康によいのです。春になると、生命力がいっせいにはじけます。陽気がよくなって、植物の若芽もぐんぐん伸びますが、そのスピードからいえば、タケノコはトップクラス。速いときには、1日に1m前後も成長するというから驚きます。タケノコは『古事記』のなかに、イザナギノミコトの命を救う特別な力を持った食べ物として出てきます。当時の呼び名は「タカムナ」。その語源は、竹の芽、つまりタケノコの菜から「竹たけ芽め菜な」。あるいは、形が巻き貝に似ていて、貝のように味がよいところから「竹たか蜷みな」などといわれています。古代のタケノコはマダケやハチクが中心ですが、現在ではほとんどがモウソウチクです。味の相性がよい「若竹煮」モウソウチクは、江戸中期に沖縄から薩摩に持ちこまれた株から、日本での栽培が始まったことが知られています。タケノコほど季節の到来を感じさせてくれる食材も少ないでしょう。食物繊維やミネラルなどが豊富なうえ、カロリーが低いため、ダイエット食として女性に人気があります。えぐみのもとはシュウ酸で、その量は1日置いただけで、2倍にも3倍にも増えます。したがって、買い求めたら、できるだけ早く下ゆでし、アク抜きをします。米ぬかと赤トウガラシ2本ほどを入れた熱湯で、竹串が通るくらいやわらかくゆでて、ゆで汁につけたまま冷まします。姫皮と呼ばれる先端は、うま味成分のグルタミン酸やアスパラギン酸、チロシンなどのアミノ酸が多く、これらは疲労回復や脳の老化防止に役立つそうです。タケノコの皮に梅干しをはさんで、子どものころにしゃぶりましたが、夏バテ予防の知恵だったのです。味の相性がよいのが「若竹煮」。新タケノコと新ワカメの煮物です。タケノコを煮て、最後に新ワカメを加え、仕上げに木の芽(サンショウの若葉)を天盛りにしてできあがり。307

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