エルダー2019年4月号
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2019.44コーケン工業株式会社 代表取締役社長飯尾祐次さん多品種少量生産は機械と人の力をうまくマッチングさせることが大切です。工程には部品の組つけや製品の梱包など高齢者にもできる仕事が豊富にあり、実際に活躍してくれています。 そういった意味では、ものづくりの経験がなくても本人に意欲があれば仕事はあるのです。実は一昨年、昨年と72歳の新人が2人続けて入社しました。いままで就職活動をしても年齢を理由に面接さえ受けられなかったそうですが、面接をすると、「働きたい」という純粋で真面目な気持ちが伝わってきました。専門知識はなくても健康で働く意欲があるということで採用し、いまも元気に働いてくれています。―高齢になるほど健康状態に個人差も生じます。また、家庭の事情などでフルタイム勤務がむずかしくなることも想定されます。どのように配慮されていますか。飯尾 当社の所定労働時間は8時間ですが、フルタイムの正社員と2時間短縮のパートタイマーがいます。現在、66歳以上の社員は69人いますが、パートタイマーは数人で、ほとんどがフルタイムの正社員です。高齢になれば体力も低下しますし、個々の家庭の事情もあります。ルールに縛られるのではなく、実情に応じて職場のなかで判断しながら臨機応変に対応しています。 例えば膝の手術後に退院し、1カ月のリハビリを経て、いまもコルセットをつけて働いている社員がいます。本人から「座り仕事であれば支障がないので復帰したい」という申し出があり、対処しました。本人が意欲を持って働きたいのであれば、会社もどうすれば希望を叶えることができるかを考え、できることを探します。 なお、家族の介護などの事情がある場合は、一定期間休む、あるいは短時間勤務に切り替えるなど、本人と話し合って納得する形で決めています。ときには突然の体調不良で出勤できないこともあります。当社は総務や営業スタッフも、男女かかわらず溶接など現場の経験がありますので、急に休む者がいてもサポートが可能な体制です。 また、この地域は公共交通機関がないため自動車で通勤をする高齢者もいますが、家族からすると事故を起こさないかと心配なものです。そこで当社では、ワンボックスカーによる送迎も行っています。なかには免許証を返納して利用している人もいますよ。―定年延長など高齢者雇用に取り組む中小企業へのアドバイスをお願いします。飯尾 もし生産性だけを追求するのであれば、高齢者は若者にはかなわないでしょう。しかし高齢者がいることで、先せん達だつの技能・経験を若い人に教えたり、やさしさや思いやりを持って接することなどによりチームが一つにまとまり、働く喜びやモチベーションの向上につながりました。これは高齢者に教わる体験学習です。前向きに挑戦していけば、必ず新しい企業文化をつくり出すことができると思います。高齢者の「やさしさ」や「思いやり」がチームをまとめ、人材を育む(聞き手・文/溝上憲文 撮影/上木鉄也)

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