エルダー2019年5月号
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特集エルダー21年下管理職のための年上部下マネジメント術長する。現在の最高齢者は、74歳のグラヴィール職人。創業者から直接指導を受けた最後の弟子であり、週3日出勤している。ほかにも、60代前半の再雇用者が3人おり、成形部門で吹き師として活躍する64歳の職人もいる。望月英俊代表取締役社長は、「私どもは職人を大事にしており、吹き師、切子、グラヴィールのどの現場で働く職人※2にも、『気力・体力が続くかぎり働いてほしい』と伝えています。年2回開催しているアウトレットセールなどにご家族がいらしたときには、『お父さんはしばらく辞めさせませんから』と話しています」と笑う。野尻弘康取締役総務部長は、「百円均一のグラスでも用途としては足りるわけで、5000円、1万円といった値段でお買い求めいただくからには、それだけのものをつくる必要があります。今日来て今日できる仕事ではなく、長い経験を積まないと形になりません。そういった意味でも経験を積み重ね高い技術を持つシニア人材は貴重な戦力です」と、技術力の重要性と長期雇用の必要性を強調する。そのため、同社では、望月社長と野尻部長が先頭に立ち、労働条件や職場環境の改善に努めてきた。特に重視しているのが安全面。親会社である日本板いた硝がら子す株式会社の厳しい安全基準を適用し、労働災害が起きないように細心の注意を払っている。また、障害者を雇用していることもあり、ここ数年で工場のバリアフリー化を進め、すべての従業員にとっても働きやすい環境を整えた。ほかにも、食堂を3回にわたって改修して居心地のよい空間にしたり、工場のトイレをすべてシャワートイレにするなど、細やかな配慮も行っている。こうした取組みの効果もあり、従業員の定着率は極めて高いという。人材育成にも力を入れている。65歳超雇用推進プランナーでもある齋藤・船橋労務相談事務所の齋藤敬たか徳のり所長の協力を得て、定期的に学習の機会を設けているほか、製造現場でのОJTも盛んだ。「マニュアルを読めばできる仕事ではなく、手づくりの味を活かすためにも、感覚的な面を大事にしています」(野尻部長)ということであり、職長が若手をマンツーマンで指導し、技能を伝承している。また、望月社長が茨城県経営者協会を通じて県に働きかけたことで、同県では、2017年に伝統工芸士制度が発足した。同社の従業員は、2017年に2人、2018年に1人が伝統工芸士に認定された。望月社長は、「認定されれば本人もうれしいですし、『伝統工芸士に認定されたのだから、あなたの仕事は人を育てることだよ』と話し、後進を育てる意識を持たせています。若手・中堅にとっても、『いつかは伝統工芸士に』ということが励みになります」と語る。働き続ける意識や高齢部下への対応を学ぶ「就業意識向上研修」2018年1月には、中間管理職(現場では組長・職長、事務系は課長代理クラス)を対象に、「就業意識向上研修」(生涯現役職場管理者研修)を実施した。定期的に行っているものではないが、前年には、日本板硝子グループの会社と合同で中間管理職研修を行うなど、組織の要である中間管理職のマネジメント力の向上には、以前からポイントを置いている。就業意識向上研修とは、企業における中高年※2  吹き竿に巻き取ったガラス内に空気を吹き込み成型する「型吹成型・宙吹成型」、ガラス表面をグラインダーで削り幾何学的な模様を彫り込む「切子加工」、ガラス表面に彫刻のように模様を彫り込んでいく「グラヴィール」など、同社では工程ごとに専門の職人が活躍している望月英俊代表取締役社長

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