エルダー2019年5月号
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エルダー43交換も可能になる。高齢社員にとっては、「若手に教える」立場から、逆に教わる立場になることで、立場や年齢を超えて、コミュニケーションも円滑になった。 ただし、パソコンの習得は奨励しているが講習会への参加は強制ではなく、あくまで希望者に限定して開催している。さらにノートパソコン、スマートフォン、タブレットも希望者に支給している。参加者は毎回6〜7人。とくに決まったプログラムがあるわけではなく、個人の習熟度に合わせて教えている。 「集まる人によってスキルが違います。スマートフォンの操作を覚えたい人もいれば、エクセルを使って図面を作成したい人もいますので、堅苦しい講義形式ではなく、個別の質問に答える形で教えるようにしています。すでに我流でパソコンを使っていても、新しい方法を教えることで飛躍的にスキルが向上する人もいます」(大沼氏) ITスキルは年輩者ほど苦手意識が強い。目標を設定して習得するのではなく、本人の意欲や事情に応じて徐々に覚えてもらうスタイルだ。 「いきなり『パソコンを覚えましょう』といってもむずかしいので、当初はスマートフォンから始めました。それでも入力方法を教えたときは渋い顔をする人もいました。いまでは使えると便利なことがわかっているので、最近はスマートフォンだけではなく、タブレットを持つ高齢社員もいます。画面が大きく字も大きく見えるので好評です。それが手放せなくなったら大成功です。そうなると意欲が湧いて『パソコンをやろうかな』という気になります」(大沼氏) 現在は個々のスキルレベルは異なるが、全社員のスマートフォン利用率は8〜9割、週間工程表の7〜8割はパソコンで入力して送ってくるという。それにともない業務の効率化も進んでいる。一方、フィーチャーフォンを使っている人も数人、パソコンを使っていない人もいる。当面の目標は全員のスマートフォン利用だ。 「まずは全員がスマートフォンを使いこなすことですが、ストレスなく徐々に学んでもらいたいと思っています。スマートフォンを使っている人はストレスなく移行できていますが、フィーチャーフォンを使う人にもいろいろな事情があります。逆にフィーチャーフォンを持つ人でもパソコンを使っている人もいます。全員がスマートフォンを利用すれば、SNSを使って一気に情報が送れるようになります。最終的に全員がパソコンを使えるようになればペーパーレス化も可能になります。 また、高齢社員も事務的な作業の負担が軽減され、時間も短縮されますし、その分、工事に集中できます。そのためにもねばり強く講習を続けていきたいと思います」(大沼氏)高齢者活用のヒントに富んだ忠武建基の取組み 同社の高齢者雇用の取組みには、働く意欲とスキル習得に向けた多くのヒントがある。一つは、働く意欲の基盤となる、処遇を含めた働きやすさをとことん追求していることだ。肉体的負担をともなう建設業界にあって、省力化する取組みに加え、現場引退後の知識と経験を活かすための職場の用意も、長期就労への意欲を向上させる仕組みである。 また一方で、ITスキルの向上は会社の業務の効率化にとどまらず、スキルを学ぶことによって本人の作業負担も軽減する。さらにそのスキルによってほかの現場の情報を共有することで、直面する課題の解決など自らの技能を磨く効果も期待できる。 スキル習得過程においても大沼氏がいうように、強制することなく、あくまで本人の自主性を尊重し、個々の進捗状況をふまえつつ学んでもらうという姿勢が貫かれている。時間はかかっても本人が自覚して進化する成長意欲が、結果的に会社の生産性向上につながっているといえる。高齢社員の磨き方―生涯能力開発時代へ向けて―

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