エルダー2019年5月号
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する行為にかぎられることになります。例えば、業務外の行為によって逮捕・起訴された事件に対して、懲戒解雇処分を行った事案で、「従業員の不名誉な行為が会社の体面を著しく汚したというためには、必ずしも具体的な業務阻害の結果や取引上の不利益の発生を必要とするものではないが、当該行為の性質、情状のほか、会社の事業の種類・態様・規模、会社の経済界に占める地位、経営方針及びその従業員の会社における地位・職種等諸般の事情から綜合的に判断して、右行為により会社の社会的評価に及ぼす悪影響が相当重大であると客観的に評価される場合でなければならない。」(日本鋼管事件、最判昭和49年3月15日)と判断されており、犯罪行為であった場合でさえも、私的な行為に対する労働契約上の制限や制裁を行うことは非常に限定的に解釈されています。そのため、SNSの利用のうち、原則として、業務と関連する行為と判断できるか否かを基準として、労働契約または就業規則において、SNSの利用を制限した場合に有効となる範囲が画されることになるといえるでしょう。規制対象を限定するにあたってのポイントとしては、①業務時間中であるか否か、②業務において得た情報を開示または漏ろう洩えいしたものであるか否かを前提としつつ、例外的に、私的行為のうちでも、③会社の社会的評価を著しく毀損するなど、悪影響が重大であると客観的に評価される場合を対象として規制することを検討するべきでしょう。トラブルを予防する方法について3SNSによる情報拡散をきっかけとしたトラブルが生じないようにするためにも、会社としても予防策を行っておく必要があります。まず、就業規則において、SNSの利用を制限する規定を定めておく方法が考えられます。とはいえ、私的行為全般にまで規制をおよぼすことはできないため、禁止する範囲としては、「当社の従業員としての自覚をもって利用すること」などの抽象的な規定にならざるを得ません。より具体的に禁止しておくべき内容としては、私的行為のなかでも信用毀損にともなう会社に対する損害を生じさせる行為です。前述の判例も述べているとおり、私的行為に対して制限をおよぼすためには会社の社会的評価に対する悪影響が重大である場合に限定されているため、就業規則に定める禁止行為もこれに準じた内容を定めておくべきです。就業規則の禁止行為として定め、懲戒事由として整備しておけば、違反があった場合には懲戒処分の対象とすることが可能です。懲戒処分の程度については、ケースバイケースで判断せざるを得ないですが、世論を大きく騒がせたうえで会社に重大な損害が生じたような事例でないかぎりは、懲戒解雇を行うことはむずかしく、おそらく、戒告や減給といった比較的軽微な処分から実施することにならざるを得ないでしょう。懲戒処分を実施する段階に至った場合、会社に生じる悪影響に対する予防が叶わなかったことを意味しますので、就業規則の規定のみで十分とはいえません。予防するためにより重要なのは、会社としてのSNS利用に対するポリシーやガイドラインなどを公表し、会社がSNSの利用に対してどのような意識を持っているのかということを明確にすることです。さらに、SNSの利用に関する教育を実施したうえで、ポリシーやガイドラインを社内に浸透させることが非常に重要です。SNSに関して、その情報の拡散範囲や想像以上のスピードで拡散されることを意識せずに利用されていることが、炎上の原因にもなっていますし、また、古い情報であってもデータは蓄積され、情報としては保存され続けていることから、忘れたころに話題になることがあることも意識づけておかなければならないでしょう。炎上する投稿と損害賠償について4SNSへの投稿内容が、広く拡散されたうエルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

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