エルダー2019年5月号
49/68

えるべきと考えられていますが、会社の信用を毀損するような表現を放置することは、被害の拡大に寄与することにつながるため、プロバイダが本人に対する意見照会を行ったうえで、特段異論がない場合などには、本人に代わって削除をすることが認められています。プロバイダ責任制限法に基づき、削除を請求するにあたっては、どのような記載によって会社の信用が毀損されたのかを特定したうえで、当該記載が事実と異なるのか否かを含めて説明することが必要となります。任意で削除請求をする場合には、プロバイダ責任制限法に基づく定型書式がインターネット上に公開されており、それに基づき削除請求を行うことで、必要な記載内容などは充足することができます。また、最近のWebサイトでは、削除のための問合せフォームなどを用意しており、当該フォームを通じて削除を請求することで対応を求めることも可能です。ただし、この削除フォームを用意するか否かはサイト運営者の方針次第であるため、プロバイダ責任制限法に基づく請求方法も活用せざるを得ない場合も多いでしょう。5ちゃんねる(かつての2ちゃんねる)など、任意での削除に応じない方針を採用しているプロバイダもあるため、その場合は、裁判所に仮処分を申し立てたうえで、裁判所による決定を取得し、削除させるといった手続きをとる必要があります。さらに、サーバーやプロバイダが海外に所在していることもあるため、海外の運営者に対する請求が必要となる場合もあります。海外の企業に対しては、原則として、日本のプロバイダ責任制限法がおよばないため、任意の削除フォームなどを利用しながら削除を求めていくことになります。プロバイダごとに対応が異なるうえ、サイト上に運営会社を明記していないサイトもあるため、運営しているプロバイダの特定が容易ではない場合もあります。プロバイダを特定しきれない場合には、削除請求に対応している弁護士などの専門家に相談したうえで、対応を検討していくべきでしょう。労働者本人に対する対応について3プロバイダ責任制限法に基づき請求できるのは、削除および、発信者情報の開示です。すなわち、書き込まれた内容のみでは情報を発信した当事者を特定できない場合に、発信者を特定するために必要な情報の開示を受けたうえで、本人に対して、削除や損害賠償請求を行う措置をとることも可能です。ただし、プロバイダは発信者の氏名や住所などの情報を有しているとはかぎらないため、最終的な発信者情報を取得するために複数の経由プロバイダなどへ数段階にわたって、発信者情報の開示請求が必要となる場合もあります。Twitterでの発信は、アカウントから発信者の特定ができているのであれば、プロバイダではなく本人に対して直接削除請求や損害賠償請求を行ったほうが早期の解決が得られる場合もあります。在籍中の労働者による発信であった場合には、就業規則に「会社の信用を毀損した場合」などを懲戒事由としている場合には、懲戒処分の対象とすることが可能と考えられます。まずは、懲戒事由が定められていることを確認したうえで、本人から投稿の意図などのヒアリングを実施し、厳重に注意するとともに、発信内容を削除するよううながすべきでしょう。退職者による発信であった場合には、懲戒処分の対象とすることはできませんが、事実と相違する内容を発信して、会社の信用を毀損したのであれば、削除および損害賠償を請求していくことを検討しましょう。なお、このような場合に備えて、退職時には、会社の信用を毀損するような言動を行わない旨を定めた誓約書を取得しておくなど、あらかじめこのような対応が必要となる事態を予防しておくことも重要です。エルダー47知っておきたい労働法AA&&Q

元のページ  ../index.html#49

このブックを見る