エルダー2019年6月号
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2019.630[第81回] 榎本武楊は幕末の幕府で、海軍の大将だった。新政府軍が江戸を総攻撃したときには、江戸湾に幕府艦隊を率いて待機していた。 「陸軍は敗けても海軍は無傷だ」 と突っ張っていた。やがて、そのまま北方に向かって脱走し、北海道箱はこ館だての五ご稜りょう郭かくに籠こもった。最後まで新政府軍と戦おうというのではない。嘆願書を出している。それは、 「敗北した幕臣を集めて、この新天地(北海道)で農業を営みたい。許可を乞う」 という内容だ。しかし新政府軍は、 「逆賊が何をいうか」 と一笑に付し、相手にしなかった。やがて新政府軍は五稜郭を囲んだ。参謀として実質的な指揮を執ったのが薩摩藩士黒くろ田だ清きよ隆たかである。黒田は榎本に使いを出した。 「あくまで戦うか、それとも降伏されるか」 榎本は、 「最後まで戦います」 と答えた。黒田は、 「武器は十分におありか? なければお送りする」 榎本はびっくりした。いまどき、こんな武士らしい人物が居たのかと驚いたのである。そこで、 「武器は十分にあります。私はかつてオランダに留学したので、国際海律(海の国際法)を手に入れたのでこれを差し上げます。お陸で敗けても海で勝つ

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