エルダー2019年6月号
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高齢者に聞くエルダー33してスタートした人物。その独特の画風は国内外で人気が高く、海外で開催される個展には、社長秘書の鳥羽さんも何度か同行、華やかな時代が続いた。公く文もんの生涯学習との出会い宮田先生のもとで、一介の主婦には経験できないような世界に触れさせてもらいました。よき理解者であった夫は、長期海外出張をした際も応援してくれましたが、私が48歳のとき心臓の病気で急きゅう逝せいしました。今後の人生を考えたとき、何か自分自身がもっと研鑽さんを積める仕事をしてみたいと思うようになりました。いろいろ模索するなかで「株式会社公く文もんエルアイエル」が展開するペン習字教室講師募集の新聞広告を見つけました。「公文式の個人別指導の考えを基本として、生涯学習を支援するために幅広く学びの場を提供し社会に貢献する」という方針に強くひかれ、教室の曜日や時間帯を自分で決められることも魅力で、迷わず採用試験を受けました。人に教える資格が自分にあるのかという葛藤もありましたが、主婦時代に習字を習っていましたし、教えるなかで自分も学んで成長していけばよいと考え、採用されると友人のつてで東京都墨すみ田だ区く曳ひき舟ふねに「公文曳舟書写教室」を開設しました。55歳の出発でした。書写教室を人間形成の場に友人や公文エルアイエルの支援もあり、この曳舟教室には、多くの方が通ってくれるようになりました。お稽古事は同世代で学ぶことが多いですが、公文の書写教室は親子一緒に学ぶことができます。ともに机を並べることで家でも会話が弾むようになったという嬉しい報告もあり、親子三代で通ってくれた人もいました。しかし、高齢になると通勤が辛くなり、25年間続けた教室を80歳のとき思い切って閉めることにしました。ただ、いまもコーラスを習いに月に1回曳舟に出かけていますし、交流はずっと続いています。1997(平成9)年、曳舟と並行して銀座にも教室を開設しました。しかし、昨年再開発の対象になり困っていたところ、公文の社員の方がいまの教室を探してくれました。曳舟教室も銀座教室も開設にあたっては本当に多くの方にお世話になってきたことを、あらためて実感しています。書写教室は、文字を学ぶ場であると同時に人間形成の場にもしたいという思いで懸命に歩いてきましたから、体力の続くかぎりこの仕事を続けていきたいと思います。鳥羽さんの教室がある「アントレサロン」を運営するのは、シニア世代の起業家を支援する銀座セカンドライフ株式会社。同社の片桐実み央お社長は2017年5月号から6回、シニアのための起業入門を本誌に連載している。生涯現役、生涯勉強現在、火曜日と水曜日の夕方から教室を開いています。学習中の方は80名で、銀座という土地柄か、仕事帰りに立ち寄るOLの方が多く、教室は時として異業種交流の場になり、笑顔があふれます。ペン習字を指導しつつ、日々お話しするのは、挨拶をきちんとすることや他者に対する思いやりというきわめて基本的なことです。また、読書の大切さを折りにつけ語っています。私の父が本の虫で、家は本であふれ、私は父の本を片っ端から読むような少女でした。「自分の世界を広げるために本を読みなさい」と教えてくれたのは宮田先生でした。おかげさまで健康ですので、80代になっても自分を必要としてくれる場に元気に通うことができます。公文の教材は奥が深く、指導者の私も一緒に教室で育てられています。働き続けること、学び続けることに軸足を置いて、感謝の心で、早そう逝せいした夫の分まで日々を重ねていきたい。明日からまた新しい自分との出会いが始まります。

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