エルダー2019年6月号
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2019.62慶應義塾大学大学院 システムデザイン・マネジメント研究科 委員長・教授ウェルビーイングリサーチセンター長前野隆司さんですか。前野 幸せには地位、お金、モノといった、他人との比較でしか満足が得られない「地位財」と、自由や自主性、愛情など、長期的な幸せにつながる心的要因がもたらす「非地位財」があります。この心的要因に関する過去の多くの研究成果を集め、1500人の日本人にアンケート調査を実施しました。その結果をコンピューターにかけ、因子分析※2という手法で分析したところ、人が幸せになるためのカギが「四つの因子」に集約されたのです。 第一因子「自己実現と成長」、第二因子「つながりと感謝」、第三因子「前向きと楽観」、第四因子「独立とマイペース」の四つです。それぞれの因子をわかりやすくいいかえると、「やってみよう!」、「ありがとう!」、「なんとかなる!」、「あなたらしく!」となります。 「やってみよう!」では、どんな小さなことでもやりがいや夢のある仕事を持ち、実現するために成長しようとしていることが幸せ―前野先生の研究テーマである「幸福学」とはどのような学問ですか。前野 システムデザイン・マネジメントとは、理系・文系など従来の専門性に特化した学問の壁を取り払い連携することで、物事を俯ふ瞰かん的てきにとらえ、全体最適※1で解いていく分野横断型の学問です。そのためのシステムズエンジニアリング、つまり多様な研究分野の連携・協力する枠組みを提示するのが私たちの仕事です。そこから生まれた一つが「幸福学」です。 正確には「ウェルビーイング&ハッピネス」と呼ばれ、心理学や医学など個々の学問の世界で研究されています。私は心理学や哲学など個別の研究成果を体系化し、人がどういう状態のときに幸せになるのか、幸せになるためのメカニズムを明らかにしたいと考えました。そこで実践を含めた学問として「幸福学」と名づけました。―その成果の一つが、幸せにつながる「四つの因子」ですね。具体的にはどういうものをもたらします。「ありがとう!」では、だれかを喜ばせたり、逆に愛情を受けたり、感謝や親切に触れることで、人は幸せを感じます。この二つでも十分に幸せを満たすように思えますが、第三の「なんとかなる!」も重要です。悲観的ではなく常に楽観的でいること、自己肯定感が高く、いつも楽しく笑顔でいられることが幸せを呼びます。第四の「あなたらしく!」も他人と比較せず、周囲を過度に気にしないで自分らしさを持っていれば、そうでない人よりも幸福なのです。―四つの因子は、企業組織のなかで働く労働者の幸せにも共通するように思います。労働者の幸福度を高めるために企業は何をすればよいでしょうか。前野 活き活きワクワクしながら仕事をすること、職場の人間関係が良好であることは、働く幸せにつながります。逆にやりたい仕事ではなく、上から命じられるままに仕事をしていると、やらされ感が募り幸福度は下がります。したがって、責任のある仕事を任され、自分の裁量の範囲が広くなると幸福度は高まります。もう一つは仕事に対する視点の広さを持たせることです。例えばネジをつくる仕事でも、ただやらされているだけではつまら多様な研究分野を横断的に分析し幸せのメカニズムを明らかにする「幸福学」※1 全体最適……組織やシステムなどの全体が最適化された状態※2 因子分析……さまざまな結果(変数)にひそんでいる要因を探る解析手法

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