エルダー2019年6月号
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エルダー41たずさわっているビジネスの範囲を国内から海外に拡大していきたいという思いがあり、中国語で流りゅう暢ちょうに話せなくても挨拶や日常会話ぐらいは勉強したいということで申請しています。また﹃MSオフィススキル﹄を学んでいる人のなかには、日々使っているワードやエクセルのさらに深い技術を学ぶことによって自分の業務の効率化に役立てたいという人もいれば、他社に再就職する場合にも資格があれば有利になるという目的で受講している人もいます」制度の利用者は累積で100人を超えている。いまの仕事に直結するスキル研修は上司が許可すれば受講できるが「ベテラン社員のなかには、スキルアップ・習得は若い人を優先させようとし、自分のためにお金を使ってくださいとは言いづらい雰囲気があるが、ファンドは50歳以上に限定しているので使いやすい」(大塚統括部長)という魅力もある。重層的で多様な選択肢を整えベテラン社員の「キャリア自律」を後押し前述したように、現在の仕事に直結するスキルアップだけではなく、定年後も見据えた生涯キャリアに役立てることも意識している。プログラムの検討にあたっては、会社にいる間の仕事の充実に役立つものに限定してはどうかという意見もあったという。しかし、せっかくソニーに入社し、今後も長い職業人生を送る可能性があるなかで、「よりよい人生を送るにはどうするか」という観点から制度を設計したという。また、同じようにキャリア支援策全体も60歳からの再雇用後の活躍だけを期待しているわけではない。「あくまでベテラン社員の﹃キャリア自律﹄がキーワードです。60歳以降もソニーに残ってがんばる人がいてもよいし、あるいは身につけたスキルを活かして別の会社で仕事をしてもよい。自分自身でさまざまなキャリアを選択し、それに向けてチャレンジしてほしいという思いがあります。逆に全員が65歳まで残って働きますというのは、ソニーは多様性を強みにしている会社ですので個人的にはあまりおもしろい会社ではないかなと思っています。いろんなキャリアのバリエーションを持った人が出現してほしいと考えています」(大塚統括部長)実は、キャリアについてベテラン社員同士で考えるサークル活動も生まれている。ソニーではもともとオフタイムを使って本業以外のことに自主的に取り組む活動が盛んで、2017年の制度のスタートと同時にベテラン社員同士で自主的に活動する「社内分科会」もスタートさせた。人事部門はホームページでの紹介や場所の提供を行うが、内容や運営には一切タッチしない。現在、異業種交流会や働く女性の会など12の分科会が活動している。前出のメンターを務める岡島氏は、分科会第1号の「愉快になるライフキャリアの会」をつくった。「キャリア面談を通じて50代の社員が職場のなかで多種多様な課題や悩みなどを抱えていることを知り、なんとかしたいなと思ったのがきっかけです。職場の上司や同僚にはなかなか話せない悩みや相談をみんなで語り合う場として、いまでは30数人の登録者がいます」(岡島氏)こうしたボトムアップ活動がキャリア意識の醸成やスキル習得に向けたインキュベータ※2的役割を果たしている。ソニーの「Career Canvas Program」の最大の特徴は「キャリア自律」を基本に、それを後押しする重層的かつ多様な選択肢が用意されている点だ。長い職業生活でつちかった経験や知見は個々に異なり、今後のキャリアに対する考え方も多様である。そのうえでどのようなキャリアを目ざすのか、そのためにどういうスキルアップが必要なのかを自ら考えて行動できる仕組みが整備されている。シニア社員の活性化につながる自発的なスキル習得に向けた取組みとしては参考になる施策といえるだろう。※2 インキュベータ……新規事業や起業を支援するための制度や仕組み高齢社員の磨き方―生涯能力開発時代へ向けて―

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