エルダー2019年6月号
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いいます。民法は、一定の場合には、自動的に単純承認したと認めることにしています。例えば、相続人が相続財産の全部または一部を処分したときや、相続人が、限定承認または相続の放棄をした後であっても、相続財産の全部もしくは一部を隠いん匿とくし、私的にこれを消費し、または悪意でこれを相続財産の目録中に記載しなかったときなどがこれに該当します。つまり、相続放棄や限定承認の制度を利用するためには、相続財産に該当するものを受け取って使用してしまうと、相続放棄ができなくなってしまうことがあるのです。そのため、遺族としては、退職金を受け取って何かに使用してしまった場合に相続放棄ができなくなるのではないかと考えて、受領自体を拒否されるようなことにつながります。死亡退職金制度について2そもそも、労働者の死亡退職金は相続財産となるのでしょうか。原則としては、労働者がこれまで働いてきた賃金の後払いとしての性格と功労報償としての性質を併せ持つ退職金は、労働者に生じる退職金請求権であり、相続財産に含まれるという考え方が採用されます。しかしながら、死亡退職金に関しては、そもそも、支給対象となる労働者自身が死亡により存在しなくなってから支給されることが想定されていることから、就業規則などにおいて、支給対象者が別途定められていることがあります。また、当該支給対象者の順位について、必ずしも相続と同様ではなく、生計を同一にしている者などを優先的に支給することにしている例もあります。判例においては、就業規則や退職金規程などにおいて、相続と異なる順位が定められている場合や、受給者が明確に定められている場合などには、遺族の生活保障を目的としていることなどを理由に、遺族固有の財産であり、相続財産とはならないと判断されています。このような判断は、生命保険金の受給者に対する裁判例の傾向とも合致しています。とはいえ、退職金の受給者として「生計を同一にしている配偶者」などと指定して記載するのではなく、「相続人」などと包ほう括かつして記載している場合には、相続人が確定しないかぎりは支給できないことになるうえ、相続財産とは異なる固有の財産として位置付けているとは評価されないため、相続財産に該当することになります。したがって、就業規則や退職金規程などに「生計を同一にしている配偶者」などの具体的な受給者が明記されている場合には、遺族固有の権利として、退職金を受給することができます。相続人への弁済時の留意点3就業規則や退職金規程などに受給権者が定められていない場合には、労働者の相続財産となるため、相続放棄を希望している遺族には支給することができません。しかし、だれにも支給しなくてもよいわけではなく、その場合、次順位の相続人を調査して支給対象者を探さなければなりません。子が全員相続放棄した場合には、直系尊属(典型的にはご両親)が相続人となり、直系尊属がいない場合または全員相続放棄したときは、兄弟姉妹が相続人となります。また、相続人に退職金を支給する際には、真実の相続人であるか否かを確認したうえで支給しなければ、使用者としては、二重払いを強いられるおそれがあります(虚偽の相続人には返還を求めることはできますが、すでに費消してしまって回収できないこともあります)。そのため、相続人であることを確認するために、支給を求める相続人からは戸籍の提出を受けたうえで、相続関係にあることを明確にしておくべきでしょう。一方で、相続人調査のために必要な戸籍は、ご本人に提出していただかなければ入手できません。相続人との連絡もとれず、支給ができないままにしたくない場合には、弁護士などに依頼し戸籍調査をすることも可能です。エルダー45知っておきたい労働法AA&&Q

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