エルダー2019年6月号
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2019.646疲労研究の歩み筆者は、医学部出身で医師でもありますが、ほとんどの時間を基礎研究と臨床研究、双方の医学研究に費やしてきました。私たち人間の病気を対象に、原因・メカニズム研究、そしてその根本的研究を通じた診断法・治療法の開発などの研究を行っていくと、やはり「病気にならないこと」の重要性がよくわかります。「健康〜未み病びょう〜病気」の間にはくっきりとした区分線はなく、切れ目なくつながっています(図表)。ただ、健康が少し損なわれて未病の範囲に入ってくる過程で、ヒトは心身の変調を感知できるようになっています。それが、「痛み、疲れ・だるさ、熱っぽさ、不安感、抑うつ感、予期せぬ動どう悸き・不整脈、食欲不振・胃腸症状、便通・排尿異常」などに表れます。みなさんもご存じのように、このうち「痛み」に関してはかなり研究も進み、痛みをやわらげる医療技術は進んできました。みなさんが医療機関にかかる主しゅ訴そ(主な訴え)の一位は痛みですが、次は僅きん差さで疲労・倦けん怠たい感です。しかしながら、疲労・倦怠に関する研究は30年ぐらい前まではそれほどきちんと行われていませんでした。「活動すれば疲労するのはあたり前」、「疲労しないのは頑張っていない証拠」などと考え、漠然とした「疲労」というものにあまりメスを入れようとしていませんでした。そこで、いまから約30年前に私たちの疲労科学・医学研究はスタートしました。第1回 高齢者が毎日イキイキと働くためには、「疲労回復」の視点を持つことも重要になります。この連載では、「疲労回復」をキーワードに、“身体と心の疲労回復”のために効果的な手法を科学的な根拠にもとづき紹介します。なぜ「疲労の研究」を始めたか国立研究開発法人理化学研究所健康生き活き羅針盤リサーチコンプレックス推進プログラム プログラムディレクター 渡わた辺なべ恭やす良よし科学の視点で読み解く身体と心の疲労回復※1 バイオマーカー……特定の病状や生命体の状態の指標新連載図表 健康と疾病の連続性 バイオマーカー※1(臨床検査)バイオマーカー(イメージング活用)バイオマーカー(正常値、正常域)生体防御システム(復元力)健康科学生活習慣病(糖尿病等)疾病「病気にならない医学」を進めることが必須の課題未病の人達が集まる仕組みや社会基盤の構築先制医療・健康科学の着手と効果的・科学的な展開病院へあまり行かない or 行きたくない患者数の数倍対象が存在患者さんは病院に!未病「病気にならない医学」を進めることが必須の課題健康健康増進認知症うつがん先制医療慢性疲労・倦怠感慢性不定愁訴※筆者作成

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